白夜館

 

 

 

幻想館

 

喜劇 新宿広場

若者の街だった新宿を舞台に、自分たちの街を守ろうとする若者達と当時流行っていた任侠キャラクターが交差する風刺ドラマ

成金の息子で何不自由ないが目的もない若者を演じる黒沢年男さんと、無法松のパロディのような無法竹こと竹五郎を演じる藤田まことさんのダブル主演のようになっている。

東映の任侠映画全盛期には、松竹や東宝も、任侠ものを本音では作りたかったはずだが、社風ということもあり、コメディ仕立てなどにアレンジしたものでお茶を濁すしかなかったようだが、本作も、東宝映画にしては珍しい任侠要素が取り入れられている。

60年代後半の作品と言うこともあり、東映出身の三田佳子さんが壺振りを披露するシーンなどがあるが、あくまでもパロディとしてちゃかしている感じ。

当時の東宝としては、これが「ヤクザ表現」の限界だったのだろう。

低予算の中、従来の撮影所映画とは違うものを作ろうとしていた当時の若いスタッフ達の意気込みは分かるが、今、当時を知らない若者がこれを見て、面白いと感じるかどうかは疑問である。

当時の風俗、流行ものを並べてまとめてみた…と言った感じだけで、特に見せ場とか感動がある訳ではなく、娯楽としては中途半端な印象を受ける。

「アフタヌーンショー」で有名になった料理人田村魚菜さんとか、紀伊国屋社長の田辺茂一さんなど懐かしい顔振りや、ベトナム脱走兵、アポロ11号、フーテン、スパイ大作戦など、時代を感じさせるものが随所に登場している。

西村晃さんの雰囲気が、ザ・タイガース主演の音楽映画「華やかなる招待」(1968)を連想させるな…と思っていたら、同じ監督の作品だと知った。

この作品でも、劇中、唐突に越路吹雪さんの歌う姿が挿入されるが、音楽映画と言った感じではなく、藤田まことさんが出ている割には、喜劇と言った感じでもない。

基本的には当時の若者の生態を描いた風俗ものの一種と考えた方が良いかも知れない。

作品として特に面白いと言った感じでもないのだが、この作品は、可愛さ全開の柏木由紀子さんが見られる貴重な作品のような気がする。

後に坂本九さんの奥様になられる柏木由紀子さんの愛らしさ、瑞々しさはずば抜けており、ショートカット姿は、ちょっと岡崎由紀さんなどを連想させるキュートさである。

藤田まことさんも、何故か女にモテまくる昔気質の男として描かれているのも珍しいかも知れない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1969年、柳沢類寿+佐藤一郎脚本、山本邦彦監督作品。

タイトル イラストを背景にキャスト、スタッフロール そこに、当時の新宿の情景やシンナーを吸っている青年などの生態が挿入される。

新宿西口の地下駐車場にクラシックカーに乗ってやって来たのは、タローこと山田孫太郎(黒沢年雄)だった。

車を置いて痴情に出て来ると、ヒッピー青年からカンパをねだられたのであっさり断る。

第一章 山田孫太郎と竹田竹五郎、新宿に来ること…と言うような長いテロップが出る。

竹田竹五郎(藤田まこと)は、同じく新宿西口のロータリーに迷い込み、後ろから来た車に危うく轢かれそうになる。

竹五郎は、車の運転をしていた若い娘大津英子(三田佳子)に詫びると、東はどっちですか?久しぶりに新宿に来たんやけど、西も東も分からんようになってしまったと聞くと、ここは西よと教えた英子は車を走らせる。

礼を言った竹五郎は、後続の車の列にも詫びながらロータリーを出ようとする。

新谷のり子が歌う「フランシーヌの場合」が流れる中、太郎と一緒に飯屋に入って来た刑事の大野木大六(西村晃)は定食と冷や酒を注文する。

呑んで良いのか?とタローが聞くと、今日は明け番だと答えた大野木はカウンターの太郎の隣に座る。

大学出たってどうってことないよ、所詮炭焼きの倅は山が良いなどとタローが言うと、俺の場合は、大学を出ていなかったためにつまらないことが二度あった…と大野木が言う。 1度目は、俺の家の横に高速が走ったこと。

あの時売ってたら…と大野木が言うので、今頃はにわか成金!とタローがちゃかす。

二度目は、花の機動隊に入りたかったんだが、身体検査で撥ねられた…と大野木は悔しそうに言う。 その頃、竹五郎は、駅構内にいた警官に東への道を確認しそちらへ向かっていた。

チラシ用の小型輪転機を回しながら電話を受けたケイこと大下啓太(松山英太郎)は、新宿振興会です!と答える。

電話を受けたヒロこと中村広夫(東山敬司)の母親で、小料理屋の「宿場」野女将中村光代(森光子)は、新宿明朗化運動のチケット?と不思議がる。

そこに、当のヒロが会議を終えて部屋に戻って来たので、ヒロ!おふくろから電話!とケイは教える。

電話を終えたヒロに、どう決めたんだ?青年部理事とは話したのか?フーテンを追い出すなんて…とケイが聞くと、理事会の爺さん達は頭固いからな…、フーテンが新宿に落とした金が1億にもなるって言うのに…とぼやいていると、その爺さん理事達が背後に帰って来ていたことに気づく。

焦ったヒロを、部屋の隅に誘ったケイは、ちょっと一緒に行ってくれ、おふくろに頼まれたんだと言うので、ボインの所か?とヒロは聞く。

新宿駅構内を歩いていた竹五郎は、さっき道を確認した警官とまた会ったので、西口に戻って来てしまったことに気づく。

動物病院を経営している永井美々子(春川ますみ)は、やって来たケイに、ヒロちゃん、競馬で大穴当てたんだって?と聞いて来ると、もっと有利に増やすために私が借りてやっても良いわ、人間の病院より成長株よ、1割5分でどう?などと言い出したので、一緒に聞いていたケイは、止めろよ、そんな安い利子!とヒロに声をかける。

駅構内のエスカレーターを降りて来た竹五郎は、三たび同じ警官に会ったので、焦って下りのエスカレーターを逆走して上って行く。

前が二輪、後ろが一輪という三輪自動車に乗って戻って来たヒロとケイは、チラシを持って待っていた、ケイの妹の大下加代(柏木由紀子)と会う。

ようやく新宿駅の東口に出られた竹五郎は、そこにいた娘から「若人の広場から奪うな!」と書かれたチラシを受け取ると、寝ていたフーテンの横に腰を下ろそうとするが、寝ていたフーテンから、おじさん、50円カンパしなよとねだられる。

所場代って奴やな…と気づいた竹五郎は100円玉を取り出し渡そうとすると、50円で良いんだ、50円じゃなきゃいらねえよとフーテンが言うので。受け取れよ!と無理矢理押し付けようとすると、暴力は止せよと反発される。

これは俺の好意なんだと竹五郎が言うと、好意の押売りはごめんだと言う。

その時、竹五郎さん!僕ですよ、啓太!と声をかけて来たのは大下啓太だった。

「モンパルナス」の!と気づいた竹五郎は、先祖代々の遺言で一旦出したものは引っ込められねえ!となおもフーテンに100円玉を押し付ける。

すると、フーテンが50円のおつりを渡して来たので、無法竹をコケにしやがって!身ぐるみ脱いでやるからみんな持ってけ!と逆上した竹五郎は、その場で洋服を脱いでパンツ一丁になる。

さらしをほどこうとする竹五郎に、そんな臭えのいらないよ!とフーテンが拒否すると、みんな持って行くまでてこでも動かねえぞ!と言うと、回りに若者が溢れている東口であぐらをかいた竹五郎は居座ろうとする。

しかし、そこにパトカーのサイレン音が近づいて来たので、弱っちゃったな!と竹五郎をその場から逃がそうとしていたケイはぼやく。

結局、竹五郎とケイは一緒に捕まり、同じ留置場に入れられることになる。

50円しか受け取らないと言うのは、彼らには彼らの主体性があるんだとケイが教えると、じゃあ、50円の方が100円より値打ちがあるんですかい?と驚いた竹五郎は、ケイ坊まで巻き込んでも申し訳ありませんと詫びる。

小料理屋「宿場」では、息子のヒロが板場で料理の手伝いをしていたが、女将の光代が電話を受けると、驚いた顔になり、ヒロを呼び寄せると、大野木さんから連絡して来たんだけど、ケイちゃんと竹五郎さんがブタ箱に入れられたんだってさ!と声をかける。

部屋に来た光代は、何とかしなけりゃ!頼むよ竹さん…と呟き、亡くなった亭主の仏壇の写真立てを後ろ向きにすると、板場で板さん!出かけるからね!と言い残し警察所へ向かう。

喫茶店「モンパルナス」では、主人の大下啓之進(多々良純)が常連客の永井右馬之介(左卜全)に、客も変わって来たよ、昔は外人と言えばラシャ売りか学校の先生だったが…と、入って来た外国人を見て話しかけて来る。

インターナショナルになったんだよと永井は笑う。 もう我々の時代じゃない…、ムーランルージュやモンパルナスの時代が全盛期だと思うよ。

決してシャンジェルジュじゃない!と大下は言う。 その大下は、先ほど入って来た外国人客に注文を聞きに行くと、何やら紙切れを渡して来たので、カウンターに戻ると、永井の前で広げてみる。

中には「オタスケクダサイ」と書かれていたので、何じゃこりゃ?と永井は面食らう。

例のベトナム脱走兵じゃないですか!と気づいた大下は、急いで店の扉の外に出ると、「本日閉店」の札を出す。 ケイと一緒に釈放されて牢から出て来た竹五郎を見た光代は、タケさん!と呼びかける。

光代に気づいた竹五郎は、姉さん!と驚き、お会いしとうござんしたと言いながら、思わず光代の手を握りしめるが、はっと気づいたように手を離すと、亡くなった兄さんに申し訳ねえと恐縮する。

そして、ごめんなすって!と言いながら、今出て来た留置場の中にむさ苦しい所ですが…と光代を招き入れると、あっけにとられて見守る看守の前で、長いことご無沙汰して申し訳ありません!竹五郎、ただいま帰って参りました!と正座をして挨拶をする。

「宿場」の光代の部屋に連れて来られた竹五郎は、仏壇に手を合わせ経を読み始めるが、竹さん!うちは日蓮宗だよと光代から指摘されたので、慌てて変える。

そして、裏返された写真立ての写真を見て慌てて戻す竹五郎。

ここを出てから11年6ヶ月28日になりますね…、あの日はちょうど雨でした…、大津の親分に言われ、大阪の見知らぬ場所へ逃げました…、申しますまい、古い話でござんす…と竹五郎は一人これまでのいきさつを打ち明ける。

光代も、今じゃ私も寡婦の身…、世間の噂に戸は立てられない。

小料理屋稼業に身を捧げてきました…と打ち明けると、1つ行こうじゃないかと酒を勧める。

それを受けた竹五郎が、旨い!さすが特級酒は違いますねと褒めると、二級酒だよ、私ゃこれが好きでねぇ…と教えると、特急とか新幹線は速いばかりで…と慌てて調子を合わせる。

一方「モンパルナス」に来たタローは、脱走兵だと言うジョージ(E・H・エリック)を前に、こいつの行動は嫌だねと聞こえよがしに嫌みを言っていた。

どうせ日本語は通じないと思っていたからだ。

そうガミガミ言っちゃ可哀想だよと大下がなだめると、逃げたい気持も分からなくはないけどね…とタローが言うので、誰じゃさんとそっくり!とカウンターの中にいた加代がからかう。

確かに俺は学生運動も学業も中途半端!と開き直ってみせると、おい!キャンプへ帰れないのか?こそこそ逃げても戦争が終わる訳ねえだろとタローはジョージに言って聞かすが、通じてないと分かると、勝手にしろ!と言い捨てて店を出て行ってしまう。

大下も、しょうがないな…と気の毒がると、ジョージも諦めたのか店を出て行く。

店の外で待っていたタローは、ヘイ、GI!とジョージに声を掛けると、行く所ないだろ?俺んちへ来いよ、カモン、フォロー、ミー!と言って一緒に帰って行く。

歩道橋の所に追って来て、夜道を帰る2人を目撃した加代は、まあ!と呆れる。

(キスする若者達の映像を背景に)越路吹雪が歌うイメージシーン。

第二章

山田孫作(伴淳三郎)が、高級車に乗って東京に出て来る。 孫作は、新宿の田辺茂一紀伊国屋社長(本人)に会う。

例の方はお盛んですか?と孫作が聞くと、とんでもない!と田辺社長は否定するが、ああ、お盛ん!と孫作は勝手に感心する。

小料理屋「宿場」では、竹五郎の泊まった部屋にやって来た光代が、誰もいない部屋の中に残された置き手紙に気づきそれを読む。

「成人し板前になったものの、その後道を踏み外し愚連隊に入っていた所を大津大五郎親分に拾ってもらって一人前になれたので、親分の忘れ形見英子さんにお礼を言いに行きます。なお、私がいない間に何が起ころうと、当局は一切責任を負いません…」と何やら「スパイ大作戦」のような書き方だった。

大津家を訪れた竹五郎は、英子というのが、以前西新宿で東を教えてくれた車の女性だったことを知り驚いていた。

英子の方も、変な人が新宿にいると思ったのよと竹五郎と出会ったときのことを思い出し笑うと、床に正座をしている竹五郎に椅子に座るように勧める。

恐縮しながら椅子に座ろうとした竹五郎だったが、英子の手前、椅子の上で正座をすると、お嬢さん、別嬪さんにおなりになりましたねとお世辞を言う。

そして、今月末の大親分のご命日には、末席に私も参加させてくださいと頼む。 もちろんよと答えた英子は、わずかな人たちなんだけど、賭場を開こうということになったのと言う。

それを聞いた竹五郎が、活動写真でも大流行だそうで…と返事をすると、あなたに壺を振ってもらいたいのよ…と言いかけた英子だったが、悪かった…、あなた、花園様でこの道を絶ったそうね…と詫びる。

「モンパルナス」では、ヒロが、タローさんがね…と驚き、脱走兵連れて行くなんて…と大下も呆れていた。

ケイは、競馬新聞を持って60万儲かったと言っていると、タローがやって来て、金はちゃんとしているだろうな?と聞いて来る。

62万3000円ちゃんとあるよと答えたケイは、事務所で会議があるからと言い残し、ヒロと一緒に店を出て行く。

しかし、ケイとヒロがやって来たのは競馬場で、ケイが1枚だけ当てたので調子に乗り、今度は5-3だ!全部買え!俺の勘は証明済みだ!などとヒロに命じる。

念のため、ヒロは予想屋の予想も買って見るが、やはり5-3だった。 しかし、その券は外れ、がかりして「モンパルナス」に戻って来たケイを、出迎えたタローは、だから俺が言ったろう?競馬なんて10回に1度当たりゃ良いんだ!と叱りつける。

そんなタローに、金を取り出したヒロが、60万は無事なんだ。実は俺、1枚しか買わなかったから…と打ち明ける。

それを知ったケイは、でも良かった…と胸を撫で下ろすが懲りたようだった。

タローも、俺だって、金を増やすことには反対しないよ…と気まずそうに言い、再考の金儲けはインチキか…などと独り言を言う。

花園神社に詣りに来た竹五郎だったが、すぐ側で前衛劇をやっている青年グループがいたので気が散って集中できなかった。

躯は踊る 躯は歌う おふくろの白い腹の中 ついつい、そんな若者の台詞に釣られ、竹五郎も仁義を切った形のまま前衛劇に加わっていた。

そこにやって来たのがヒロで、頼みがあるんだ。共有の金が60万あるんだ。話を聞いたんだけど、今月末の花代で、60万で金儲けしてくれないか?と言うので、良いことに使うんでしょうね?弱っちゃったな…と竹五郎は、神前で博打を断った手前、悩んでしまう。

ヒロが竹五郎を連れて来たのは、ゴーゴー喫茶の二階席で、そこで待っていたケイは、同席しているタローに、下にいるのはオヤジさんじゃないのか?と聞く。

下のボックス席で田辺社長と呑んでいた孫作は、二階席にタローがいるとは気づかず、倅に会えないとは哀しい…と嘆いていた。

やがて、若い女の子と一緒に踊りだしたので、近づいたタローは、良い年をしてみっともない!こんなことも分かんないの?と呆れる。

それを見ていた竹五郎は、ちょっとごめんなさって!と2人の間に割って入ると、これが断絶ってことですね?どうして解決すれば良いのか?と口を出すが、馬みてえな顔して!と酔った孫作が侮辱して来たので、仲裁してやっているのに…と竹五郎はしょげる。

「宿場」に戻り、1人酒を飲み始めた竹五郎は、俺は帰って来ちゃいけなかったのかも知らねえ…、断った賽を、お嬢さんのために振らなけりゃ行けないとはな…、ヒロ坊のためにも…、いけねえ!と言いつつ片肌脱ぐ…、これが渡世人の辛い所よ…と悩みながら、さいころキャラメルを転がし、中のキャラメルを食うと酒で流し込む。

第三章

自宅アパートに孫作を泊めたタローは、父ちゃん起きなよ!と呼びかけると、もう年なんだから、のこのこ東京に出てくるんじゃないよ。

俺、このアパート、出たいんだと話しかける。

すると金が余っている孫作は、ばりっとしたマンション買ってやっか?銭のありがたさ、知らないのかよと説教しはじめようとするが、その途端、腰が傷みだしたのか、いてててと苦しみだす。

タローは、孫作が寝ていたベッドの掛け布団の中の空気を払いながら、夕べの医者が言ってただろう?看護婦連れて出て行ってくれって、良い経験者がいたから…と注意する。

台所では、ジョージが鰹節を削って、おにぎりを作っていたので、それに気づいた孫作は、これは何だ?と聞く。 おにぎり!とゴローが答えると、こいつは何だって聞いてるんだ!と孫作は苛立つ。

結局、そのジョージを連れ田舎に帰ることになる。

「宿場」では、自分用の部屋でさらし姿の裸で寝ていた竹五郎を、光代が朝、竹さん、大丈夫かい?と言いながら様子を見に来たので、寝ぼけた竹五郎は、何をなさるんで!と裸の身体をかばうように恥じる。

何だってそんなに呑んだんだろうね?と光代は不思議がり、もう少し休んでなさいよ、人参擦って来てやろうか?と労るが、そのままで…と竹五郎は馬のように答える。

「モンパルナス」では、249万44円!と60万が博打で増えた場合の皮算用をしていた。 その金、さいころに賭けたらどうだ?とタローがからかうと、私たちの夢を壊さなくても良いじゃない!と加代が怒る。

俺は西口広場の灯を消したくないとケイが言う。

インチキが良いなんて言いだしたのは誰だ?とタローが皮肉ると、よそ者は黙ってもらおうとケイは反発したので、タローは黙って立ち去ることにする。 ケイは、勝手にさせてもらうぜとつぶやく。

亡き父親の墓参りに来ていた英子は、墓前に「桂馬」を象った飾り物が落ちているのに気づき、竹五郎さん、お参りに来てくれたのね…と喜ぶ。 そこへ、大津のお嬢さんと声をかけて来たのは、刑事の大野木だった。

お父様のご命日のこと聞きました。これは私自身の好意で申し上げているんですが、賭場を開かれるそうですね? しかし同じ日に、関東最大の大親分が賭場を開かれるそうです。 誰も集まりやしない…と大野木は言う。

「モンパルナス」へやって来たタローは加代に、啓太いるかい?と聞くが、知ってるくせに!素直じゃないわよ。私も素直じゃないみたい…と加代は答え、兄貴の計画に乗ってあげてちょうだい。あなたの許可がないとできなって言ってるのよと持ちかける。

諦めりゃ良いだろう、あの金をと答えると、笑い出すケイ。 ドーナツをつまみ食いしたタローが水くれませんか?と頼むと、怒った加代は、売り切れました!と答える。

その頃、孫作は、田舎の自宅前で、車いすをジョージに押させ、悠々自適の生活に戻っていた。

ジョージは、籠の中のニワトリが卵を産んだと孫作に教えられると、その卵を取ろうとして駕篭をひっくり返してしまい、中のニワトリを逃がしてしまう。

「宿場」の自分の部屋に来たヒロから60万入った預金通帳を受け取った竹五郎は、60万…、賽の目1つでころっと儲かりゃ良いですね。

必ず勝って参りますと約束する。

そこに突然、光代が何してるんです?と言いながら入って来たので、慌てた竹五郎は、預金通帳を正座した足の下の隠し、坊ちゃんの遊びの相手をしてたんですよとごまかすと、せっせっせをやり始める。

その夜、デパートの駐車場にやってきたケイとヒロは、ここで集会を開くべく、田辺社長を通して交渉中だと話し合う。

成功するかな?とタローが冷やかすと、するわよ!と加代はむきになる。

(新宿の夜景と越路吹雪の歌うイメージが挿入される)

第四章

賭場を開く日 大津英子の自宅に来た竹五郎は控えていたが、客人は誰も来なかった。

そこに刑事の大野木がやって来て、忠告を聞いて下さったようですねと喜ぶと、通知は出しましたが、お客様は1人もいらっしゃいませんでしたと英子は淡々と答える。

これでは我々も出せませんな…、早朝の花代と言うのに…と皮肉を言った大野木は、関東最大の賭場の方には第八機動隊が向かい一網打尽ですよ。

仁義なんて言っても通らないのが現在だと言ってしまえばそれまでですが、ここの仙台に面倒見てもらったものもいるでしょうが、恩返しの1つもできない弱い奴ばかりなんですよ。

昔で言えば、犬畜生にも劣る奴だ!と吐き捨てた大野木は、お嬢さんがヤクザの道から縁を切るチャンスでしょう。

お嬢さんのためなら力になりましょうなどと調子の良いことを言いながら、英子に取り入ろうとする大野木の姿を側でじっと我慢して聞いていた竹五郎は、かってなこと抜かしやがって…、ヒロ坊、堪忍してくだせい!と廊下に出て呟くと、懐から金の入った封筒を取り出し、また座敷に戻って来ると、今、お香典が届きましたとそれを差し出す。

何だかこの部屋、妙な匂いがしますね? 表に臭い車が停まってましたけど…などと大野木をからかうと、義理堅い親分さんもいなさるようですねと英子に伝え、私はこれで…と帰ろうとし、まだ廊下に立っていた大野木に、色男!と声をかけていく。

その頃、「宿場」では、外にいたヒロに光代が、竹五郎が残して行った長い置き手紙を見せていた。

「おはよう…、女将さん… あっしは禁を破り、博打に手を出したあげくに、60万をすってしまいました。 その60万をお返しするために身を粉にして働く所存でおります。

例によって、御当局は一切関知しておりません」と、又、「スパイ大作戦」風の書き方だった。

ケイは、いくら金があっても色々な法規があって集会に場所を貸してくれないんだって!分かっちゃいねえなとヒロに言いに来る。 その頃、竹五郎は、神宮幼稚園の父母を相手の料理教室の助手をしていた。

料理教室は、日本料理の坂田野菜(田村魚菜)と中華料理の陳美麗(うつみ宮土理)と言う2人の講師を招いて、両方の授業を同時進行していたので、竹五郎は両方の助手として、パネルの反対側を行ったり来たりして2人分働くしかなかった。

そんな竹五郎の様子を窓越しに眺めていたのは、永井美々子と光代だった。

幼稚園からの帰り道、やっぱり本物でしょう?と光代に連絡した美々子は念を押し、ミニバイクで先に帰って行く。

「モンパルナス」では、せめて金だけでもあればな…とケイが、まだ集会を開くことにこだわっていた。 そんなケイに、感謝すべきよ、竹五郎さんに…、さっぱりしたじゃないと加代は慰める。

そんな会話を聞いていたタローは、そんなにやりたきゃ、ここでやりゃ良いじゃないか?器より中身じゃないのかい?と口を出す。

あの頑固オヤジを口説けるでしょうか?でもタローさん、だんだん味方になって来たわねと加代は喜ぶ。 一方「宿場」では、突然やって来た英子が、竹五郎が香典として渡した60万を光代に返そうとしていた。

光代が、英子さん、竹五郎さんの男を立ててやったらいかがでしょう?と言うと、私の女も立たせてください。それに私、胸にこたえています…と英子は頼むので、ではこのお金は私がお預かりして、折りをみて、竹五郎さんにお返ししましょうと光代は答える。

その頃、孫作は、ジョージから電気マッサージをやってもらっていたが、謝礼として小遣いを渡すと、車いすに乗せてもらう。

そして、おめえも国に帰りたいんだろうな?とジョージに同情し、お前、欲しいものはないか?と聞くと、ジョージは、アイ ウォント スウェーデン!マニー!と言い出したので、銭か?と察した孫作はいくらだ?と聞く。

するとジョージは30万というので、その場で小切手に金額を書いて渡すと、おめえみたいな親切な男、見たことないと感謝すると、盛大に放屁する。

英子から預かった金をヒロに返した光代は、二度と博打で増やそうなんてするんじゃないよ!と釘を刺す。

金が無事だったことを知ったヒロは、竹さんって大物だねと感心する。

その後、仏壇に向かった光代は、竹さん、出過ぎた真似をしてごめんと詫びる。

「モンパルナス」では、加代が父親の大下に、土曜日だけ使わせて!と頼み、側にいたタローも、この店もそろそろ啓太や加代に譲って良いんじゃないかな?パリも100年の煤を払って明るくなった層じゃない?と口を出す。

大下は、人間まで変わったとは聞いてないがな…と言いながらも、貸してやるよと答える。 加代は、ヒロが取り戻したお金を使えないわ、この集会にいらないでしょう?と言う。

そんなに言うのなら、この金返して来てやるよと申し出たタローは、幼稚園にいた竹五郎に金を返しに行く。 竹五郎は、あっしがここにいることが良く分かりましたねと驚くので、ヒロのおふくろさんからねとタローは打ち明ける。

何や姉さん知ってたんかいな…と照れた竹五郎は、あっしも主体性で頑張ったんですがねと打ち明けると、机の上に正座をして、姉さんはあっしの金と?と聞くと、姉さんいけませんと頭を下げるので、新宿の方角は反対だよとタローは教えてやる。

「モンパルナス」では、集会を始めようとしたものの誰も集まって来ないのでケイががっかりしていた。 街の宣伝にしようなんて下心があるからこんなことになるのよと加代は指摘する。

幼稚園では、博打で負けたんじゃないの?とタローが、60万のことを聞いていた。

任侠に生きるバカがいると思って下せえと竹五郎が粋がるので、いい気なもんだよ、竹さん…とタローは呆れる。

その後、ちょっと考えたタローは、危ない、危ない、竹さんに騙される所だった…、あんたは60万すったんだよ!弁解するな博打打ち!と怒鳴りつけると、なあ竹さん…、そう云うことなんだよと言い聞かせる。

すると竹五郎も、嬉しいね、ぼんは事情をちゃんとお分かりになって…、お若いのに…と感心し、このあっしがお預かりしましょうと60万を受け取ると、一杯行きましょうか?二級酒の旨い店知ってるんですとタローを誘う。

「モンパルナス」では、加代の友達の東規子(徳永礼子)が、私たちだけでやろう!と言い出すと、僕もセクト、俺はノンポリ♩と加代と一緒に歌いだす。

店の外では、窓から中の様子を覗き込み微笑む大下の姿があった。

その歌が引き金となり、徐々に若者が「モンパルナス」に入って来る。 それを見た加代は、兄さん、やっぱりインチキじゃないからね!と嬉しそうに話しかける。

その頃、竹五郎とタローは泥酔し、夜の路地裏を歩いていた。

第五章

「宿場」に戻り、仏壇に手を合わせている竹五郎に、竹さんに申し訳ない、苦労をかけちゃって…と光代が詫びる。

私は、竹さんがあのシナの人とおかしくなったんじゃないかと思ってさ… もう、どこへも行かしゃしないよと頼んだ光代は、いてくれるのなら、もう1つ渡すものがあるんですよと言うが、あっしにも話が…と言い出した竹五郎と、どっちが先に話すかじゃんけんをする。

しかし、なかなか決着がつかないので、気が合うわ…と喜んだ光代は、竹五郎から話すよう勧める。

実はこのお金、ヒロ坊から借りていただけの金なんです。近頃の若い衆は仁義がある。

坊に返してやってくださいと竹五郎が金を差し出すと、これは大津の英子さんが、お前さんに渡してくれと預かったお金なんですよと光代は打ち明ける。

それを知った竹五郎は、お嬢さん!と憧れのまなざしで呟いたので、その様子を見た光代は、竹さん!と言って落ち込む。

受け取るのかい?と光代が念を押すと、改めて供えさてもらいますと竹五郎が答えたので、竹さん!と光代は感激する。

竹五郎は仏壇で裏返しになっていた写真立てを元通りにする。 その後、英子に会いに行った竹五郎は、一月遅れの奉養でございます。これをご仏前にお供えくださいと、光代から受け取った金を差し出す。

それを見た英子は、竹五郎さん、あなたの気持は嬉しいわ…と答える。 その時、舎弟が、玄関に変な男で!と言いに来たので、竹五郎が出てみると、そこにいたのは仁義を切っていたジョージだった。

ジョージ!久しぶりだな!と竹五郎は驚き、まだガセネタの洋服生地を売っているのかと思ったと話しかける。

するとジョージは、今はベトナム脱走兵の方が儲かる、100万稼いだ。そこの「モンパルナス」で拾ったネタでなとジョージは流暢な日本語で答える。

その「モンパルナス」では、加代が、お金返したのかしら?ヒロ、出て行ったよと会話していた。

英子の家では、金を持ったジョージが英子と差しで勝負をしていた。

その勝負に同席して、情勢は英子の方に不利だと見た竹五郎が、どうだ、ジョージ、俺と差しでやらないか?と提案し、お嬢さん、つぼを振ってくださいと英子に頼む。

ジョージは、アポロ11号!などと言って張り切る。英子は、入ります!と壺を振る。

竹五郎は、半!と叫ぶ。 「モンパルナス」では、ピン六の泣き別れか…、タローのことが気になるなら、新宿の駐車場に行ってみれば良いじゃないか、車があればいるってことだよとケイが加代に言っていた。

英子の座敷では、ジョージが身ぐるみ剥がされていた。 ジョージの方はもう賭ける物がなくなり、さらしをほどこうとしていた。

しかし、最後の勝負も勝った竹五郎は、着物だけ返す。もうベトナム脱走兵なんて騙すんじゃねえぞ。交通費だ。これ持って帰れ!と小銭をジョージに渡す。

着物と小銭を受け取ったジョージは、今度は万博で稼ぐからなと捨て台詞を残し帰って行く。

竹五郎は、ジョージから巻き上げた金を受け取ってくださいと英子に差し出すが、英子は、いいえ、受け取れません。盆茣蓙の上の情けは受け取れません。

どうしてもと言うなら差しでやりましょうと言うので、玉がないでしょうと竹五郎は案ずる。

その時、待ってください!その壺は私に振らせてくださいと言いながらやって来たのは光代だった。

あなたの玉はあなたご自身ですよと光代が言うと、分かっておりますと英子は答える。

竹さん、あんたの方も承知の上だね?と光代が念を押すと、それにしても姉さん…と竹五郎は戸惑う。

よござんすか?と壺に賽を投げ入れた光代だったが、さいころが壺から外れて転がったので、映画のようにはいかないねと照れながらやり直しをする。

竹五郎は、丁にさせて頂きますと答える。 勝負!5.3の丁!竹さん、おめでとう!と光代が言う。

その時、デカだよ!と舎弟が駆け込んで来る。

大津家の前にいたのは、土産持参で英子に会いに来た大野木がいただけだったが、手入れだ!と勘違いした室内では、電気を消し、パニック状態になっていた。

竹五郎さん、早く!女将さんを!と暗闇の中で英子が呼びかける中、軒下から外へ脱出した竹五郎は、雨戸の向こうから聞こえて来る英子と光代の呼び声を聞きながら、あっしのためにこんな騒ぎになって申し訳ありません…、達者でな…、色男は辛いよと呟く。

クラシックカーで新宿から帰る途中だったタローは、とある峠にいた竹五郎に気づき車を停める。

降りて来たタローに気づいた竹五郎は、あっしはわらじを履くことにしまして…、甲州街道を歩いて来たんですが、途中で足を痛めまして…と事情を打ち明ける。

タローの方も、つくづく自分が嫌になって、どっか知らない所へ行こうと思って…と言うので、主体性って奴でござんすか?と竹五郎は聞く。

逃げても顔が立つってものでもないからね…と答えたタローが車に戻り、竹さん、乗るかい?と誘うと、やっぱりあっしは、この二本の足で歩いて行きますと竹五郎は答える。 そんな2人の間に割り込んで来た車から降りたのは英子だった。

竹五郎さん、お迎えに上がりました…、何にも言わずに…と英子が言うので、恐れ入りますと頭を下げた竹五郎は、嬉しそうに英子の車に乗って東京へ戻って行く。

気がつくと、竹五郎の二足のわらじが残っていたので、それを拾い上げたタローもまた、車に乗り込むと新宿の方へと逆戻りして行く。

西新宿の地下駐車場には加代が待っていた。 歌声広場になった「モンパルナス」では、ケイもヒロも若者達と一緒に歌を歌っていた。

そこへ顔を出した大野木は、警察として野暮なことはするまい。消えることにしようと呟くと、その場を立ち去る。

その後、「宿場」にやって来た大野木だったが、そこには「モンパルナス」を追われた大下と永井が来ており、さらに板場の中を覗くと、仲睦まじく働く竹五郎と英子がいたので、又しても!消えましょう…と大野木がしょげると、それに気づいた光代が慰めるように肩を叩く。

歌を歌う若者達 夜の新宿

電飾で「終」の文字が点灯する。
 


 

 

inserted by FC2 system