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喜劇 泥棒学校

喜劇と銘打ってあるが、特に笑うような内容ではなく、ドンキーカルテットや牧伸二、伴淳と言ったお笑い系の人が出ている普通の犯罪ドラマと言った感じである。

若干、ラブコメのような要素が交じっているかなと言った感じで、あえて言えば「快盗ルビー」などの「ユーモア犯罪もの」を狙ったのかも知れないが、「快盗ルビー」ほど洒脱な印象でもない。

探偵趣味で頭が切れる女性と泥棒の主人公との丁々発止の頭脳戦みたいな面白さが全体的に希薄だからではないかと思う。

着想は悪くないのに、それを膨らますだけのアイデアが十分練られていないように見えるのだ。

頭が切れる探偵趣味のヒロインが後半ほとんど活躍しない展開と言うのがもったいない。

キャスティングから考えても、最初からヒロインの活躍を狙っていた訳ではなく、伴淳と田宮二郎の組み合せで客を呼ぶつもりだったのだろう。

途中からは、ベテラン刑事と紳士泥棒、記号的なヤクザグループとの絡みと言う、割とありふれた展開になっている。

全体として、ドリフターズなどが活躍し始めた頃、同じようなコミックバンドとして人気があった「ドンキーカルテット」と若き日の大信田礼子さんが見られると言う懐かしさ以外、特に見所はないような気もする。

小野ヤスシ、祝勝、ジャイアント吉田、猪熊虎五郎などのメンバーの当時の演奏姿などは貴重だが、警察署長役で出演しているウクレレ漫談の牧伸二さん同様、特に面白い事をやっている訳ではない。

祝勝が演奏の途中でドカベンを取り出していきなり食べ始めるなどと言ったコント芸をやる前の作品だったのかも知れない。

伴淳にしてもオカマ言葉を話すシーンがちょっとあるだけで、後は真面目な老刑事役で、笑わすような芝居はない。

そんな中、笑えないまでも、立原博さんのターザン芸と言うのはちょっと珍しいような気がする。

主役の田宮次郎さんが胃薬を大量に飲んだり、ゲップをしたり、転んでみせたり、ストッキングをかぶってみせたりと云った辺りも、いつもの二枚目らしい田宮さんらしからぬ行動としてユーモアのつもりなのかもしれないが、特に笑う程の事ではない。

既に「悪名」シリーズなどで軽妙な演技も披露している田宮さんだけにこの程度では意外性はないからだ。

最後は良くある人情ものみたいなまとめ方で、この手の犯罪ものとしてはひねりもなく意外性も希薄である。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1968年、大映、池田一朗脚本、弓削太郎監督作品。

紳士風のシャレた出で立ちの多門晃(田宮二郎)が喫茶店のカウンター席に来ると、バーテンに向かいちょっと胸を触ったりして合図を送る。

次に「制服」の店の前にやって来た多門はやはりちょっとした合図を店内にいた男に見せる。

その後も鍵屋や修理屋にやって来て、そこの店員にさりげなく合図してみせる多門。

タイトル

一台のパトカーが新宿西口にある南信用金庫の裏の通用口前に停まり、中から多門と警官に化けた仲間達が数名降り立つ。

通用口をノックし、覗き窓から顔を覗かせた守衛(サトウ・サブロー)に、パトカーで見回っていたら3階の窓が開いてましたよと警察手帳を見せながら偽警官役の健 (ジャイアント吉田)が伝えると、そんなはずないんですけどねと戸惑いながらも、確認のため、通用口を開けて外に出て来た守衛を背後から殴りつけて気絶させる。

もう1人の守衛(志保京助)にも、戸が開いてますよと声をかけ、表に出て来た所を同じように殴って倒す。

外に立って見張りをしているのは凡(小野ヤスシ)だった。

警報装置を解除する多門は、戦場で地雷を扱っているようなものだ、警報が鳴ったら近所中の警察に知れ渡る…と呟く。

外で待機していたパトカーの横をランニング姿の伸(祝勝)が走って来て、かるく窓枠を叩いて中の運転手役の偽警官純(青山良彦)に合図を送る。 金庫室に侵入した多門達の前で鍵屋の洋(猪熊虎五郎)がダイヤルを回し始める。

やがて、後はタイムロックだと洋が言うので、馬鹿の一つ覚えのように猫も杓子もタイムロックか…と横にいた多門が愚痴る。

洋は、用意していた無線機で銀行の壁の時計の針を進ませる。

そんな中、外のパトカーに走り寄って来たパジャマ姿の男(三夏伸)が、助けてください!寝ぼけて違う女の名前を言ってしまったんですと運転席の偽警官純に声をかけて来る。

その後を、その男の女房と思しきネグリジェ姿の女(津山由起子)が包丁片手に追いかけて来て男に襲いかかろうとしたので、やむなく外に出た純は女を取り押さえようとするが、逆上した女は男はみんな仲間なのね、こうなったら、あの人をバラバラにする代わりに、パトカーのタイヤに穴を開けてやる!と叫ぶと3本のタイヤに穴を開けてしまう。

それを見た夫が驚き、そんな事したら監獄行きだよ!と諌めると、夫婦揃って逃げ去って行く。

金を奪い通用口に戻って来た多門は、パトカーが使えなくなったと聞き、伸に他の車を探しに行かせろ!6時にお偉方から電話があるんだ、後3分しかない! 洋と凡はそのまま逃げろ。 健と純はパトロールしている振りをして新宿駅まで行け。 伸に連絡してマラソンの姿で家まで突っ張るよう伝えるんだと多門は指示を出す。

仲間達は、先生だけ見つかりますよと案ずるが、仲間達が先に脱出した後もその場に残った多門は腕時計を見て、6時きっかりに守衛室の電話が鳴りだしたのを確認し、ゆっくり外に出ると、近づいて来たパトカー音に気付くと、そろそろおいでなすったな…と呟き、動かなくなったパトカーの横を抜け、さりげなく歩き去る。

新宿駅西口に出た多門は、ちょうど通りかかった青い花屋の軽トラに手を上げ、停まった車の助手席に勝手に乗り込むと、タクシーに乗っていたら運転手が居眠りを始めたので…、車のあるとこまで乗せて行ってもらえませんか?7時の新幹線に乗らないとまずいんですと図々しいことを言いながら、自分の名刺を取り出してみせる。

そこには城南大学講師 多門晃と書いてあった。

運転していたのは若い娘福田牧子(梓英子)で、名古屋の大学と掛け持ちしているんですと言うたもんに、泥棒暁に走るって知ってます?と真紀子は突然聞く。

電車の始発が走り出したりして逃げるのに好都合だからだそうですよなどと説明しだした牧子は、ずいぶんパトカーが走ってますね?あなたが出て来たのは南信用金庫の方角だったわね? パトカーが止まっていたわ、裏門の所で…などと焦る多門に次々と言い聞かせると、講義の席にそんな荷物を持って行くんですか?と多門が持ち込んだ2つのボストンバッグを見ながら聞く。

美術史を教えているものでと笑いながら答えた多門は、どちらの花屋ですか?その内今日のお礼に行きたいので…と聞くと、四谷三丁目の福田花店よとあっさり教えた牧子は、タクシーが近づいた場所で車を停めてやる。

そのタクシーで東京駅に着いた多門は、ロッカールームの一つを開けると、中に入れてあった2つのボストンバッグと今もって来た同じ形のボストンバッグを入れ替えると、ロッカーのキーを閉め、そのキーを封筒に入れる。

走る新幹線の中から凡に電話を入れた多門は、みんな帰ったか?と確認し、こっちは無事だ、ロッカーの鍵はお前宛に郵送で送ったからと伝え、四谷三丁目の福田花店の主人と娘を調べてくれと依頼する。

襲われた南信用金庫の現場で調べていた刑事の福田直道(伴淳三郎)は、幻の怪盗か…と呟いていた。

同僚の花村刑事(立原博)が、ホシは警官に化けていたそうですと回復した守衛の証言を伝えると、本物のパトカーと来たか…、こいつを使われては騙されるよと福田は自分の警察手帳を取り出して犯人の用意周到振りに舌を巻く。

そこに、所長から電話ですと警官が知らせに来たので、小言か…とぼやきながら福田は新宿署に戻る。

署長室に来た福田に、待ち受けていた山崎署長(牧伸二)が手がかりは皆無か…と聞くので、制服を着ていたそうです。

前の四菱のときもその前の丸共銀行のときも別の変装で犯行に及んでいますと報告すると、変装の名人だなと頷く。

犯人は多様な技術を持っているようですと福田が伝えると、グループってことか?と山崎署長は聞くが、目撃されたのは2人だけです、運転していたのとシノビ…と福田は答える。

それを聞いた山崎署長は、オヤジさん、これだけに専念してくれ、まあ、当てにしないで待ってるよと指示を出す。

福田花店に戻って来た父親を見た牧子は、オヤジさん、身の回りのものを撮りに来たんでしょう?今度のヤマは南信用金庫などと聞くので、警報装置も解除しているし、きれいな仕事をしているとつい福田は教えてしまう。

あの「幻の怪盗」って噂になっている奴?と牧子が聞くと、今度は警官に化けていたらしいと福田が言うので、変だな?と牧子は首を傾げる。

表にパトカーを停めていたそうだ。修理に出していた奴が直って来たものらしいが、3本もタイヤを斬られていると福田は教える。

すると牧子は、あれがそうだったんだ…と1人で納得したようなので、何か知ってるのか?と福田が聞くと、テレビのニュースに写ってたのよとごまかした牧子は、犯人は警官の服を着替えたと思う?と聞く。

金庫に押し入ったのが4時44分で、出て行ったのが6時きっかりだったようなので不可能だと思うと福田は答え、又探偵やるつもりか?そんなのはテレビの中だけだ。良いかい、牧子、お前には普通の娘さんでいて欲しいんだと福田は言い聞かせる。

分かったわよオヤジさんと牧子が答えると、オヤジさんって言うな!刑事部屋と同じじゃないか!と怒った福田は、まあ、小さい頃から持ち帰った犯罪者カードをトランプ代わりにさせた俺が悪いんだがな…、早く良い男を見つけて欲しいよと父親らしい言葉をかける。

そんな店内の様子を覗き込んでいたのは様子を探りに来た凡だった。

城南大学で写楽の授業をしていた多門は、今世間を騒がしている幻の怪盗と言うのが私だったら、世界中に散らばった日本の美術品が戻って来るはずですなどと冗談めかして話し、学生の笑いを取っていた。

授業を終え、廊下に出た多門に近づいて来たのは学生に化けた凡だったので、バカ、こんな所に来る奴があるか!と叱りつけるが、大丈夫ですよ、学生証持ってるからと言い訳した凡は、早く知らせなくちゃまずい事が分かったんですよと言い、あの花屋の娘はデカの娘なんだよと調べて来た事を教える。

それを聞いた多門は驚き、デカで福田と言えば大ベテランで、あらゆる犯罪者の顔と名前、犯罪記録などを全て覚えているほど物覚えが良く、あだ名が電子計算機と言うくらいなんだと凡に教える。

講師室に戻って来た多門は、15年前にかみさんに死なれたはずだと言うと、娘は探偵の真似事が飯より好きだそうですと凡は教え、何とかしないと…と言うので、殺しは許さんぞ!と多門は釘を刺す。

すると凡は、先生の特技でグニャグニャにしたら?と意味有りげなことを言う。

そこに突然現れたのが牧子だったので、驚いて立ち上がった凡は、研究論文をアマゾンに決めました!と多門に告げ部屋から出て行く。

僕が大学の先生かどうか確認に来たんですね?と牧子の来訪目的を見破ってみせた多門は、この間のお礼に食事でも…と誘う。

車に乗り込んだ多門に相変わらずボストンバッグを持ってらっしゃるのねと言いながら、わざとバックの口を開いて中を覗き込んだ牧子だったが、中には金目の物は何も入っていなかった。

何が食べたい?と多門が聞くと、朝鮮焼き!と牧子が答えたので、ムードないねと多門が呆れると、私実質的なのよと牧子はすまして答える。

焼き肉を食べながら、掛け持ちなさっている大学と言うのは?と牧子が聞いて来たので、濃尾大学、週一回でね、大変だよと多門が答えると、それでもマンション住まいで車も持ってるのね、ムスタング!と牧子は調べて来た事を明かす。

しかし多門は、よく調べてるねと感心した振りをしながらも、大学へは乗って行ってないんだなどと答えたので、一応隙はないわねと牧子は感心したように言う。

私の事なんてとっくに調べてるでしょうけど、父は新宿署の刑事で、子供の頃から犯罪の事を教えてくれたわと打ち明け、先生にはぷんぷん匂うわ、犯罪の匂い…と多門を睨んだ牧子は、私、そう言う匂いがする方が好きなのなどと言い出す。

そして、先生は泥棒?人殺し?ギャング?などと単刀直入に聞いて来たので、平凡な講師に過ぎませんと多門が答えると、嘘つきは嫌い!と怒りだす。

多門はしかし慌てず、あなたは矛盾している。

嘘つきは泥棒の始まりって言うでしょう? あなたは泥棒は好きと言いながら、嘘つきは嫌いなどと言っているとからかうと、第一、一流の泥棒が付き合ってもいない相手に泥棒と言うと思う?と逆に問いかける。

じゃあ、もっと付き合えば教えてくれる?と聞いて来た牧子は、私にロース1つ!クッパ1つ!と追加注文する。

さらに、焼き肉屋を出た牧子は、私、棚ぼたのお汁粉欲しいわ…などとねだって来る。

マンションに戻って来た多門は胃薬を大量に飲んでいたが、その時チャイムが鳴ったので、どなた?と返事すると、私よと言う女の声が返って来る。

ドアを開けると我家のように無遠慮に入って来たのは、田抜金融の社長大造の妻久里子(春川ますみ)だった。

慣れたように多門にキスをして来た久里子が臭い!と顔を背けたので、焼き肉を食べたんですよ、ここにいる事が旦那にばれたらどうするんです?と多門が聞くと、ここの1階にデザイナーの友達がいるので、服を作っていると言う事にしたのと久里子は得意げに言うが、旦那は絶対に調べますよと良いながら、窓のカーテンを開いて下を覗き込んだ多門は、入り口前で車から降り立った田抜の子分達の姿を見つける。

それを知った久里子は、大変だわ!確かめに来たんだわ!どちらが先にデザイナーの部屋に行くか競争ねと言い残し、慌てて部屋を飛び出て行く。

多門はうんざりしたような顔で、どうも胃の具合が悪いな…、デカの娘のお食らいめ…と牧子の悪態をつくが、そこへ電話をかけて来たのがその牧子で、楽しかったは夕べは、もう打ち明けてくれない?と言って来たので、まだ打ち解けたとは言えないね、今日はどこで会う?フルーツパーラー?又、クリームサンデーか…と愛想良く答え、電話を切ったとたんにゲップをする。

その日、多門がまず牧子にせがまれて向かったのは天ぷら屋だった。

多門は牧子に気付かれぬように、持参した胃薬を大量に飲んでごまかすしかなかった。

クリームサンデーを食べ終えて外に出た多門は、いきなり牧子にキスをすると、ごめん!我慢できなかったんだ…と詫びる。

すると牧子がまた、先生、泥棒?と聞いて来たので、そうだよ、ただし泥棒と言っても接吻泥棒だがねと多門はごまかす。

牧子は突然、私、カトリックなの、これ以上近づくためには結婚するしかないわなどと言い出す。

多門は仲間達を電電公社の公衆電話の集積場に呼び出し、赤電話をかける客の振りをして一カ所に集まり、牧子との事をどうするか相談し合う。

手を引くしかないねと言うものがいたと思うと、いっその事結婚したら?と言う流れになり、慌てた多門だったが、何事も仕事のためですよなどと洋から言われてしまう。

信用金庫盗難事件の捜査本部は解散となり、本部の貼り紙を悔しげに破って刑事部屋に戻って来た福田に、花村刑事はオミヤ入りですか?と聞いて来る。

捜査本部が解散しても俺はこのヤマを追うぞ!と福田が言うと、花村は「週刊野郎」と言う雑誌の1ページを見せて来る。

そこには「アルセーヌ・ルパンか?」などと「幻の怪盗」を美化して面白おかしく書いた記事が載っていたので、こんな風に泥棒をおだてるような記事を書くマスコミも罪だよと憤慨した福田は、今にドブネズミみたいにかっこ悪い奴だと分からせてやる!と決意を口にする。

そこに、オヤジさん!と呼びかけながらやって来たのが牧子で、ここへは来るなと言ってあるだろう!と福田が叱ると、私プロポーズされたの、かっこ良い男性からと言うので、男は格好じゃない!心だ!と福田が言い聞かせると、相手は大学の先生よと牧子が言うので、聞いていた花村刑事は、おめでとう!オヤジさんと声をかける。

すると福田は、まだ許してないよ!と言い返しながらも、牧子には良いようにやれやと優しく声をかける。

自宅で婚約者が来るのを待っていた福田は、もうそろそろ来る頃よと牧子から言われると、まだ心の用意が…と落ち着かない様子で答える。

そこに、そーれ来やがった!と牧子が乱暴な口調で言ったかと思うと、やって来た多門は部屋に入る時つんのめり、倒れた格好のまま多門晃ですと挨拶する。

福田も福田直道ですと挨拶を返すが、その時鼻をひくひくさせ、何の匂いだ?と辺りを見回し、わしの靴下の匂いじゃないな?などと言い出す。

牧子は呆れたように、多門さんが付けているオーデコロンよと教える。

そんな服だけを道から覗き込んでいた凡が、あのデカもおじいさんと言う訳か…と感慨深げに呟くと、どっかで一杯やっか?と伸が言うので、おじいさんの真似すんなよと凡は注意する。

自宅で一緒に酒を飲む事にした福田は、こいつはデカ部屋で育ったようなものですよなどと牧子の事を紹介すると、嫌だわ、お父さんなどと牧子がいつもと違う呼び方をしたので、オヤジさんって言えば良いのに…と福田はいつもとは逆な事を言いながら、ついこれまでの苦労を思い出したのか涙ぐむ。

それに気付いた牧子は、ごめんなさい、泣き上戸なの…と牧子は多門に詫びる。

今夜は生涯最良の日だと喜んだ福田だったが、後は泥棒を捕まえさえすれば…と言うので、多門が興味を示すと、千万単位でいつも盗んで行く奴で、証拠は一切残さない用心深い野郎だよと答えた福田は、でも盗人は盗人、必ずふん捕まえてみせる。

何なら結婚式までに捕まえて引き出物にしましょうかね?と多門に冗談を言う。

多門と2人きりになった時、牧子は、約束して、今後は泥棒しないと。 あなたが利口なのは現金だって手元に置かない事などと牧子が言うので、調べたのか?と多門は驚くが、だから、今までの事は良いのよ、でもこれからは絶対に止めて!恋人の泥棒は我慢できても亭主の泥棒は嫌!と牧子は念を押す。

そんな牧子に多門が、今、ローマから講師の声がかかっているんだと教えると、嫌よ、マカロニなんて盗んじゃと牧子は釘を刺す。

しかし、その直後、サウナ風呂の中で集まった仲間達から新しい仕事の話を多門は聞かされる。

だめだよ、準備してないから…と多門は断ろうとするが、今後も実地教育をしてもらわないと…、結婚って何かと出費が嵩みますからなどと凡達の口車に乗せられる形で、やむなく仕事の内容を聞くはめになる。

今度狙う相手は田抜金融だと言うので、久里子から様子を聞き出せば分かるか?良し、やるか!と多門は牧子との約束も無視して乗り気になる。

多門は、若い愛人浜子(大信田礼子)とデレデレしている田抜大造(藤岡琢也)と、その横で不機嫌そうな顔をしている久里子がいる蔵「田抜」にやって来る。

多門に気付いた久里子は席を立つが、それに気付いたのは浜子だった。 数日後の早朝、開店前の田抜金融の前をうろついていたのは浮浪者に変装した福田刑事だった。

福田は、建物の屋上から地上に垂れていた1本のロープに気付く。 その直後、近くをジョギングをしていた伸を目撃する。

屋上では、仕事を終え、ナイロンストッキングをかぶった仲間と一緒にいた多門は、下には酔っぱらった浮浪者が1人いただけだから大丈夫だと報告に来た凡に、おかしいな?今頃まで酔いつぶれていない浮浪者などいるか?と指摘し、3分おきに1人ずつ降りて純の車まで突っ走るんだ!と仲間に命じる。

最初にストッキングをかぶって地上に降りて来たのは多門で、金融会社から去ろうとする所を浮浪者に化けて身を潜めていた福田に、現行犯で逮捕する!と腕を掴まれてしまう。

しかし多門は得意の空手で福田を気絶させ、屋上へ合図を送ると、ストッキングを脱ぎ、倒れている福田に、お父さん、すみませんと詫びてその場から逃げ出す。

新宿署に戻った福田は、頭に包帯を巻いた姿で、1人でパトロールしたのが間違いだった。凄い空手だった。女子の靴下を覆面にしていて、凄い身体だったと花村刑事に伝えていた。

さらに福田は、良い匂いがしてね…、どっかで嗅いだ事があるんだ。オデコロン…と呟く。

自宅に戻った福田の前に、話を聞いたらしい多門が、大変だったそうですね?と心配顔で見舞いに来る。

いや、ぶっ倒れる瞬間、手錠を引っ掛けたらしい、この包帯は大げさなんだよと苦笑した福田は、さりげなく多門の匂いを嗅ぎ、違うな?前のオデコロンと違うなと呟く。

それを聞いた多門は、同じですよ、服が違うせいじゃないですか?布地の匂いと混じりますからなどと言い、オーデコロンがどうかしたんですか?と聞く。

オデコロンって何種類くらいあるんだ?と福田が聞くと、150種類くらいあると思いますと多門は答える。

新宿署に戻った福田は、試験官にオーデコロンの全種類を集め、目隠しして犯人の匂いを特定しようとするが、種類が多すぎて一向に絞り込めなかった。

そこにやって来た山崎署長は、田貫金融の事だが、金を奪われた田抜は相当怒っているらしく独自に犯人を調べているらしい。

万一あちらが先に見つけたら警察のメンツ丸つぶれだぞと言うので、引っ捕まえてみせますと福田は答える。

その後、田抜組に乗り込んだ福田は、お前の方で犯人を見つけてもこちらに渡すんだと忠告する。

しかし田抜は、こっちで捕まえたら、嬲り殺しにしても金を取り戻すからな!と怒鳴り返して来る。

その頃、久里子を密かに尾行していた浜子は、多門のマンションを突き止めていた。

多門の部屋にやって来た久里子は、どっかの小娘と結婚するんですって?と聞き、本当だと知ると、可愛さからに草に変わったあなたに、大きな穴を開けてやるワと言いながら銃を取り出す。

私、騙されっぱなしじゃないのよ、知ってるわよ、先生の素敵なアルバイト…と意味あり気に多門に迫り、私に洗いざらい田抜の事を話させて、3000万やられたのはその直後じゃない。

警察は証拠がいるけど、田抜には証拠なんていらないのよ。 私忠告しに来ただけよ。

私だけ愛して!と言いながら久里子は多門にしがみついて来るが、その時、持っていた拳銃が暴発してしまう。

この部屋は完全防音だから音は外に漏れないけど、今の弾どこへ飛んだ?と多門が聞くと、窓から外へ飛んで行ったわと久里子は答える。

部屋の外に送り出しながら、久里子とキスした多門だったが、階段の所に隠れていた浜子はその写真を盗撮し、田抜に見せる。

その証拠写真を見せられた田抜は、帰って来た久里子に突きつけ、女を寝取られ、この田抜大造は大恥をかいたんだ!相手の男は西口のマンションに住んでいるんだってな?あそこの1階にはデザイナーが住んでいたな?お前、先月は5回もデザイナーに通ったんだっけな?とステッキで突きながら責める。

久里子は、あなたのためを思って!と弁解するので、俺の負担を減らしてやろうとしたのか?ふざけるな!俺は毎日だって大丈夫なんだ!と田抜が怒ると、その場にいた子分衆が笑ったので、さらに逆上する。

久里子は、そうじゃないのよ、多門はクラブに通っちゃ、根掘り葉掘り、田抜金融の事を探っていたのよ。

それで疑って会いに行ったら、逆に押し倒されたのよと言い訳する。

それを聞いた田抜は、3000万盗んだのは奴と言うのか?と聞くと、間違いないわと久里子は答えるので、調べろ!と田抜は子分衆に命じる。 そんな中、多門と牧子は教会で結婚式の日を迎える。

福田は、列席してくれた山崎署長に廊下で礼を言っていた。 一緒に来ていた花村刑事も、往年の刑事部屋のマスコットですからねと牧子のことを言う。

その時福田は、側を横切って行った参加者の顔を見て、野郎…、どっかで見た事があるな…と考える。

多門は、控え室に祝いに訪れた仲間達の顔を見て、こんな所に来る奴があるか!と叱りつける。

しかし凡は、今、オヤジさんの前を通ったけど何も気付かなかったよとあっけらかんと言う。

すると多門は、変装が下手だね…と、仲間達の変装のまずさを指摘し、変装の極意は自分の特徴を消す事だとその場で講義を始めるが、案内係が式が始まると伝えに来たので、慌てて、今日はありがとう!などと言い、仲間達と握手する。

いよいよ神父を前に式が始まるが、ウエディングドレス姿の牧子の横に立った福田は、何だ?この匂いは?と牧子の身体から匂って来る香りに気付く。

多門のオーデコロンを無断で拝借したのよと牧子が言うので、福田は、ストッキングをかぶった賊を取り押さえかけたときの事を思い出し、まさかそんな事ねえだろうな…と呟く。

その時、神父が、ご列席の中で、この2人の結婚に異議がある方はいらっしゃいませんか?と形式的に言ったので、つい福田は手を上げ、すぐに、失礼しました、間違えましたと詫びたので、列席者達の中に笑いが起きる。

福田は、その場から多門に手錠をかけて連れ去る幻想を見る。 しかし、現実では、神父から指輪を受け取った多門が牧子の指にはめてやる所だった。

宴会が始まり、仲間達が演奏を始める。 そんな中1人沈んでいる福田に気付いた山崎署長が、どうした?オヤジさん、気持は良く分かるよ、15年も男で1つで育てて来たんだからな。

そんな牧ちゃんを、ろくすっぽ知らない男にやるんだからね…、でもあんたの婿なんてへなちょこ男の中ではましな方だよ…などと勝手に同情して話しかけて来る。

しかし何事かを考えていた福田は、今思い出したぞ、あいつら!と演奏している仲間達の事を見る。

多門さんの教え子だそうですよと花村刑事が教えると、大木、川北、下田、山口順平、倉橋真之介!と5人お本名と前科を福田は全部思い出す。

しかしそれを聞いた山崎署長は、前科はともかく、現に今ここでやってるんじゃないからな、場をわきまえろよと注意したので、頭を冷やしてきますと言い残し、福田は宴席から抜け出す。

廊下に出た福田は、あいつの仲間だろう?人を嘗めやがって…、結婚式に呼ぶなんて…、このまま新婚旅行に行かれたら、牧子は傷物だ!野郎!叩き殺してやる!と1人悩むが、その時、ぶっ殺してやる!と怒鳴っていた田抜の事を思い出すと、近くにあったピンク電話を見る。

その頃、田抜は、ステッキで久里子を殴りながら、俺を騙しやがって!多門と言うのは新宿署の刑事の娘と結婚式の真っ最中だ!泥棒が刑事の娘と結婚するはずないだろう!このぶたを裸にして焼入れろ!と子分達に命じていた。

その時、電話がかかって来たので、子分の山下(田武謙三)が出、例の盗難事件の事でたれ込みらしいです、相手はオカマ見てえな奴ですぜと田抜に伝える。

教会の廊下のピンク電話をかけていた福田は、正体を隠すためにわざとらしいオカマ言葉を使い、福田にお嬢さんを盗られてさ!ずっと付けてたの。

警察に訴えても失恋の恨みだって思われるでしょう?ただし、牧子さんには手出ししないでね。早くしてよ!新婚旅行に行くのよ!と訴える。

そんな奇妙な福田の様子を、廊下を通っていたカップルが笑うので、睨みつけて電話を切った福田は、証拠が残らないようにハンカチで受話器の指紋をぬぐい去る。

いよいよ牧子と多門が新婚旅行に出かける事になり、式場の前でオヤジさん、行って来ますと牧子は福田に挨拶する。

福田も、くれぐれも気をつけてな、困った事があったら連絡しろよ、ある訳ないか…と答え、見送りの客達の笑いを誘う。

しかし、一緒に2人を見送っていた純は2人が乗り込んだ車の運転手を見て、変だぞ、あいつは田抜の組のチンピラだ。夕べまでクラブ「田抜」のバーテンやってたと言いだしたので、凡達はただ事ではないと気づく。

出発した車の後部座席で、牧子は、ねえキスして、平気よ、もう夫婦なんだからと甘えて来る。

しかし、そんな車は途中で停まり、路上で待ち受けていた男3人がいきなり車に乗り込んで来る。

銃を突きつけ多門を黙らせると、又車を発信させるが、そんな多門と牧子が乗った車を凡達仲間が乗った車が尾行していた。

警察に知らせないと…と仲間達は焦るが、そんな事したら、先生の素性がばれてしまうよと凡は答える。

そんな中、牧子は乗り込んで来た3人が、62歳の老婆を強姦した青島幸一(谷謙一)、5歳児から飴代を盗んだ赤井三郎(中原健)、大幹部の中田和明(千波丈太郎)!と名前と前科を言い当てていた。

それを聞いた中田は、お嬢さんも生かして帰せないようですねと苦笑したので、牧子は自ら墓穴を掘ってしまった事に気付く。

(葬送曲が流れる中)彼の車がやって来たのは、多門のマンション前だった。 受付は買収してあるから、合図しても無駄だと釘を刺した中田らは、2人を多門の部屋まで連れて行く。

部屋で待っていたのは、田抜や山下ら組の連中達だった。

牧子が気丈にも、父はデカだから恨みがあるのかも知れないけど、この人に何の恨みがあるの?と食って掛かると、お父さんに感謝される事になるぜ、何しろ「幻の怪盗」を捕まえたんだからな…と田抜は笑うと、金は返してもらうぜ!ついでに仲間の名前も言え!と多門に迫る。

それを聞いて驚いた牧子は、証拠もないのに決めつけないでね!と講義するが、こっちには証拠なんていらないんだ。

名前さえ教えたら、こっちで使ってやらないでもないと田抜が言うので、良くも私を騙したわね!と多門につかみ掛かる振りをした牧子は、今よ!と耳元でささやく。

その意味を悟った多門は、側にいた子分の銃を奪い、田抜に銃を突きつけ、動くと、社長に穴が空きますよと子分達を牽制する。

しかし、その場にいた久里子が、同じように自分の銃を牧子に突きつけると、すぐに多門が銃を棄てたので、あんた、本気でこの子に惚れてるのね…、そうだったの…、まさかと思ってた…と久里子は気付く。

形勢逆転したと気づいた田抜は、それじゃあ、仲良く死ぬか?と多門に銃を突きつけて来るが、俺を殺したら、金は金輪際出てきませんぜ、しかも金の在処を教えたらすぐに殺される…と多門が言い当てたので、お前が稼いだ額は10億を超えているはずだ、どこにある!と田抜は迫る。

多門は、ここにはない。ドルに替えてスイスの銀行に預けている。

それにその金は、世界中に散らばった古美術品を買うために使うんだと言うので、殺さずに痛めつける方法はいくらでもある。これで皮を剥いだり、肉を一寸刻みにしても良いんだぜ…と言いながら田抜はナイフを取り出す。

その頃、マンションの多門の部屋の側の階段に身を潜めていた凡達は、純達の荷物が届くまで、何とか時間稼ぎをしないと…と悩んでいた。 そこにラーメン屋の出前持ち(臼井かつみ)が降りて来たので、1000円札1枚欲しくないか?と凡が声をかける。

多門の部屋のチャイムが鳴ったので、私が行くわよ、その方が疑われにくいでしょうと言い、久里子がドアを開けると、出前持ちに化けた伸が、万来軒ですが器を取りに来ましたと言う。

ここにはないわ、廊下に置いてあるんじゃないの?と久里子が言うので、台所じゃないですか?見てきましょうなどと言ってシンは部屋の中に入ろうとするが、久里子に妨害されどうしても中に入る事は出来なかった。

久里子は私が見て見るわと良いながら部屋の外に出て、エレベーターに乗り込むと、1階に降り、そこにあった電話をかける。

一方、凡達は、戻って来た伸と善後策を考えていたが、そこに純と健が大きな荷物を持ってやって来る。

宴会場では、すっかり酔った山崎署長が、オタマをウクレレに見立て、あ〜あやんなっちゃった、あ〜あ、驚いた♩などと歌っていた。

福田も酔っており、浜村刑事に、お前はターザンをやれと命じたので、花村刑事は、チンパンジーのチータの真似とターザンの雄叫びの真似を披露する。

そこにボーイが、福田に電話が入っていると知らせに来る。

セロリを持ったまま廊下の電話に向かった福田は、それが久里子からの密告で、お嬢さんが捕まっています。

多門さんのマンションです。受付は買収されていますからと言うので、そんなバカな!娘に手を出すなって言ってたのに!と慌てる。

田抜の野郎!助けに行く訳にもいかないし…、俺、分かんなくなっちゃった!などと福田は悩み、ヤケになって電話機を振り回す。

その頃、多門の部屋にサブマシンガンにアイマスク姿の賊が侵入して、田抜たちを脅していた。

おめえたち、そんなサブマシン、どこで手に入れたんだ?と山下が聞くと、アメちゃんの倉庫からだと言うので、米軍は損なマシンガンは持っちゃいねえ!イギリスのコマンド部隊のものだ!さては玩具だな!と山下は見抜いてしまう。

玩具だと?と言いながら、1人の賊が山下に向け発砲する。

撃たれたと思った山下だったが何ともないので、やはり玩具と気づき、部屋の中では大乱闘が始まる。

その時、止めろ!警察だ!と良いながら入って来たのは福田だった。

何の容疑だ?と田抜が聞き、逮捕状を持ってるのか?と山下も迫って来る。

すると福田は、この先生とこいつらを押さえに来たんだと言い、多門に逮捕状を突きつける。

それを見た多門は、その逮捕状のようなものがただの請求書だと気付く。

福田が芝居をしていると気づいた多門は、恐れ入りました…と言いながら、おとなしく手を差し出す手錠をかけさせる。

田抜は「幻の怪盗」だぞ、逮捕状を見せろ!と福田に迫るが、お前らに見せる必要はない、大の大人が玩具の拳銃で遊んでいたのか?と福田は毅然として答える。

すると田抜は、この銃は本物だ!と久里子が残していった銃を教えるが、純がそれも玩具だと気付いたので、裏切られたからって、無実の罪に落とす事もないでしょうと多門は言い聞かせる。

マンションの外に出た福田は、付いて来た多門の手錠を外してやる。

ありがとう、お父さんと礼を言う多門に、良いか、多門、お前のお陰で、警察を辞める事になっちゃったんだよと明かした福田は、捕まるのが怖かったらさっさと日本を出て行け。

デカがこんな事言ったらお終いだよと自嘲気味に言い聞かせる。

分かりました、そうしますと多門が素直に答えると、牧子、馬鹿野郎!とんだ婿をもらっちゃったなと娘に話しかける。

そんな父親の愛情を感じた牧子は、ごめんなさい、オヤジさん…と詫びる。

やがて2人は羽田から飛行機で海外へ向け飛び立つ。 席に座っていた牧子は、私親不孝だわ…、あなたが悪いのよと隣の席の多門に甘えてみせる。

気持は分かるよ、良いオヤジさんだったからね…と牧子の気持を汲みながら、でも考え方を変えてみたらどうだろう? オヤジさんも良い年なんだから、長生きするために辞めたって言う風にも考えられると多門が言うと、親孝行したって事?厚かましい!と牧子は膨れてみせ、2人一緒に笑い合うのだった。


 


 

 

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