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警視庁物語 深夜便一三〇列車

東映お馴染みの「警視庁物語シリーズ」第12話

トランクに詰められた女の死体から事件が始まる、何やら鮎川哲也やクロフツのアリバイ崩しものを連想させるような出だしであるが、トランクの複雑な列車移動の趣向はあっても、特にアリバイ崩しではなく、話は意外な方向へと向かう。

相変わらず脚本がしっかりしており面白い。

発送元が大阪と分かり、長田部長刑事らが大阪へ出張すると展開になるが、そこで出迎えた現地の刑事というのが、加藤嘉、今井健二と言った東映常連組だけではなく、山茶花究さんも加わっていると言うのが珍しい。

また、コンタクトレンズが遺体から見つかると言うアイデアも、当時としては珍しかったのではないだろうか。

愛知県の干拓地が颱風で大きな被害を被ったとか、船橋の踊子がお座敷ストリップをやっている設定になっていたり、大阪の橋の上にストリップのサンドイッチマンが歩いていたりする辺り、当時の時代背景や風俗が見えて来る。

刑事達は、シリーズで大体同じレギュラー陣が演じているのだが、本作では、若い高津刑事を演じている佐原広二と言う人と、中山昭二さんが参加しているのが特長。

中山さんも結婚前の若手という設定になっているが、登場シーンも台詞も多い。

逆に、レギュラーなのに出番が少なく印象に残りにくいのが渡辺刑事役の須藤健さんで、ほとんど台詞もない印象。

本作などを見ていると、長田部長刑事を演じている堀雄二さんよりも、 ベテランの林刑事を演じている花澤徳衛さんの方が目立っているような印象さえ受ける。

このシリーズを見るたびに、主任役の神田隆さんの温厚そうなキャラクターが好ましく見え、後年の悪役のイメージとのギャップが面白い。

金子刑事役の山本麟一さんも、ものすごく真面目そうな好青年キャラである。

途中、ベテランや新人女優さんなどが刑事と応対する役で何人も登場しているが、女学校の先生役の女優さんが誰なのか気になった。

佐久間良子さん風の清楚な雰囲気の美人で、アップシーンもあったので、当時としては有望な新人女優さんではないかと思うのだが、キネ旬データのキャスト欄にも名前が出ていなかったのが残念。

逆に、キネ旬データには子役時代の風間杜夫さんの名前も載っているのだが、役名の野球帽の少年というのは確かに話には登場するが、実物は出て来ない。

全編に渡り、列車や駅や公安官室と言った鉄道関係の映像が満載なので、鉄ちゃんには答えられない作品ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、東映、長谷川公之脚本、飯塚増一監督作品。

東京 汐留駅の構外 まだ人々が眠りについているこの時間、貨物専用駅の活動は再開される。

この駅には東京中からおびただしい数の貨物が集まって来る。

東京駅が人間の表玄関だとすると、この駅は貨物の表玄関と言えるかも知れない。

1日に扱う貨物の寮は1万870トン… 4時50分 稲城駅で積み込まれた貨物が962列車で到着する。

貨物は配達と駅留に分かれる。

駅留の方は、倉庫の中に保管した後、荷受人に連絡を入れる。

ここに1個の荷受人が取りに来ないジュラルミンのトランクが事故貨物として残っていた。

荷受人が現れない場合は発送人に問い合わせるが、天王寺駅への注文電報によると、荷主も不明であった。

この場合、第二種事故として鉄道公安官と共に開けることになっている…(と藤倉修一のナレーション)

何だか生臭いな、魚でも一緒に入れたんじゃないのか?などと言いながら、トランクの蓋を開けると、中には下着姿の女の死体が詰め込まれていた。

タイトル

そのトランクの中の遺体のシルエットを象った黒い女体をバックにキャスト、スタッフロール

トランクの中の死体にフラッシュが焚かれ、鑑識作業が進む中、愛宕警察署の捜査第一課長(松村達雄)と捜査主任(神田隆)以下の刑事達も顔を揃えていた。

発想人と受取人が同一人物なんだね?と主任に確認した捜査第一課長は、送り先が天王寺駅だと知り、大阪出張が必要ですねと言う主任の言葉に頷く。

その時、法医技師(片山滉)が、死体の目からコンタクトレンズというものを取り出してみせたので、林刑事(花澤徳衛)が珍しがる。

林は、コンタクトという言葉は聞き慣れないようだったが、目の中に入れる眼鏡との説明を聞き、眼鏡をかけたくない女性などがするものですねと納得する。 初めてですね、死体からこんなものが出たの…と、側にいた金子刑事(山本麟一)も発言する。

ホシの身元を調べるのが先決だ。痴情か物取りか?この犯行手段から見て、犯人は交通関係か旅慣れているものじゃないでしょうか?と主任は第一課長に話しかける。

死後約10日と鑑識が伝える中、主任は、山形刑事(中山昭二)、渡辺刑事(須藤健)、高津刑事(佐原広二)らに、その場で捜査の役割分担をする。

愛宕警察署 会計から渡された出張費をその場で長田部長刑事(堀雄二)に渡し、大阪出張を頼んだ主任だったが、そこへ長田に家の妻から電話が入る。

正雄が荷物を持って来るって?東京駅に?と意外そうに電話を受けた長田は答える。

そのまま東京駅へ向かった長田は、やって来た息子の正雄から荷物を受け取り、お母さんが気をつけてってという伝言を受け取る。

帰りは暗いから気をつけろと長田が言い聞かせると、大丈夫だよと答えた正雄は、今朝言ってたの買って良い?と聞く。

何だっけ?と長田が首をひねると、野球選手のプロマイドだよ。お母さんお金くれないんだと正雄がねだって来たので、勉強に関係ないだろ?正月も近いしな…と言いながらも、結局、金を私、お母さんには言うなよと口止めをして帰らせる。

先に列車に乗り込んでいた林刑事と金子刑事と同じ席に座った主任だったが、そこにやって来た山形刑事がホームできょろきょろしているので、林刑事が窓から声をかける。

山形は、被害者の年齢30前後、死後7日、暴行の痕なし、肋膜炎の痕ありと検視の結果をホームから窓越しに知らせ、走り出した列車に乗った仲間に向かい、いってらっしゃいと見送る。

大坂城 大阪府警にタクシーで到着した長田部長刑事らを出迎えたのは寺田刑事(久保一)だった。

大阪の刑事部屋で待ち構えていた捜査主任(加藤嘉)は長田らに、水木刑事(今井健二)と市川部長刑事(山茶花究)を紹介する。

市川は林の顔を見ると嬉しそうに挨拶して来たので、ああ、東京の刑事講習会で!と林刑事も思い出す。

東京の愛宕署で長田からの電話を受けた渡辺刑事は、主任に電話を回す。

大阪到着の知らせだった。

その電話を終えた主任は、山形刑事が描いていたガイシャの遺留品や下着の絵を見て、実感出とるなと感心する。

大阪では、顔なじみの市川と林刑事がコンビを組み、「エアーの下着屋」と言う店にやって来て、ガイシャのパンティを取り出してみせる。

いやあ!と驚いた女性店員(川崎玲子)だったが、グラマー印のだから、大阪中どこにでもあるはずだと言う。

こういうものを買うのは商売の人?と林が聞くと、は?と聞き返した店員は、商売の人と言う意味を計り兼ねたようだったので、素人の人でもこういうのを買うんですか?と林は聞き返し、今頃の女は月曜から一週間毎日違う色のものを買うんですよと市川部長刑事が口を挟む。

すると店員は、こういうものをお買いになるのは、ちょうど刑事さん達くらいの年配の方ですよと教えたので、刑事2人はあっけにとられる。

一方、長田部長刑事と水木刑事コンビが事情を聞きに行った天王寺駅の貨物係は、問題のジュラルミンケースを持ち込んだのは青白い痩せた男で、野球帽をかぶった子供と一緒にリヤカーで持って来た。

中身はミシンだというので、5割り増しやと言うたけど、構わんと言っていたと証言する。

発送は472列車の小口扱いで、その時、発想人は荷札を売ってないかと利いて来たので、あそこのタバコ屋を教えてやりましたと、駅から見える場所にあるタバコ屋を示しながら言う。

その後、大阪準本部の主任は東京の主任へ電話を入れ、30前後の女の行方不明、家出人と貸しリヤカー屋を手配したことを伝える。

その電話の直後、今度は駅前の「天王軒」と言う食堂にいると言う長田から大阪の主任に電話が入ったので、応援やりましょうか?と主任は聞く。

「天皇軒」に戻って来た水木刑事は、部長はん、買うてきましたと駅員に教えてもらったタバコ屋から購入して来た荷札を差し出す。 死体の入っていたジュラルミンケースに付いていた荷札と同じものだった。

テーブルに置いてあった野球雑誌を手に取った水木刑事は、部長はんは野球はどこのファンだす?と聞くので、別にどことは…と長田がはぐらかすと、僕は南海ファンですわと水木が楽しそうに答える。

クリスマスソングが流れる中、戎橋を「大名ストリップ」の看板を下げたサンドイッチマンが通る。

林刑事と市川部長刑事は、ちょうど女性患者にコンタクトレンズを入れていた眼科の女医(藤里まゆみ)を訪ねる。

林刑事は遺体が付けていたコンタクトを取り出すと、これを作った所が分かりませんかね?と聞く。

コンタクトを観察した女医は、名古屋の日本レンズのものですねと答え、コンタクト脇の「ベベル」と呼ばれる眼球に当たる部分に各社の工夫があり、これは日本レンズのものなのだと説明する。

さらに女医は、コンタクトの「ベースカーブ」と「セカンドカーブ」が個人個人で違っており、このレンズのそのカーブを調べれば買った人も分かるのではないかとも教え、うちの他には病院の眼科でもコンタクトは使用していると言う。

その頃、長田部長刑事と水木刑事は貸しリヤカー屋を探していたが、駅の近場では該当箇所は見つからなかった。

その後、大阪準本部に長田と水木は収穫もなく帰って来る。

そこに東京の主任から長田に電話が入ったので、発想人は27〜8の青白い顔の青年、パンツとブラジャーは関西製だが、コンタクトは名古屋製だが東京でも出回っていると報告していたが、そこにトランクの方を調べていた金子刑事が戻って来て電話を代わる。

金子は、トランクは関東の製品で、関西でもデパートにいくつか置いているらしいので明日回りますと報告する。

東京の主任は、今日はゆっくり休んでくれとねぎらって電話を切ると、明日からコンタクトとトランクをこっちもやるぞと、山形刑事、高津刑事、渡辺刑事らに声をかける。

翌日、大阪の準捜査本部では、行方不明者や家出人で該当しそうな人物が4件ばかりあると言うと、林刑事がコンタクトの線を追うと申し出、長田部長刑事は水木刑事に同行を頼む。

ボーナス景気か…などと朝刊を読んでいた主任が長田に話しかけ、東京の方は大変ですなと、電話で金品を要求したと言う東京運輸局の汚職事件の記事のことを指摘する。

パン工場にやって来た金子刑事は、家出人の1人けい子なる人物の元同僚の女工(谷本小夜子)に話を聞くが、けい子なる人物は失恋して家出をしたのだと言うが、どうも遺体とは別人のようだった。

「桃谷病院」から出て来た林刑事は公衆電話から準捜査本部に電話を入れ、コンタクトをあつらえた女にそれらしい人物がいないことを報告する。

そんな準捜査本部にやって来たのが、梅田駅の貨物の検査役と言う人物で、今日、明け番で自宅に帰って新聞を読んで、トランク詰め事件を知って来たと言う。

新聞に載っていた重量60kgのトランクを梅田駅に受け取りに来た男がいたと言うのだ。

受取人はリヤカーではなく軽貨タクシーで来たと言うので、主任が長田に、ライトバンのタクシーのことですと説明をする。

天王寺駅からトランクを発想した人物は、同じ日に梅田駅でそのトランクを受け取ったようだった。

話を聞き終えた長田は、ちょうど弁当を食い終えた水木刑事とともに、その検査役と一緒に梅田駅に向かうことにする。

通天閣が見える大阪の風景 小笠原悦子なる失踪人の捜査のため、姉(利根はる恵)に会いに来た刑事達は、妹は旅芸人をしており、先月四国から九州の方へ回っており、劇団事務所に聞いてもらえば分かるはずですと答える。

梅田駅の小口貨物取扱所で、該当のトランクを引き渡した係が言うには、引き取り人は「こうげん」と言う書類を持って来たと言う。

荷主の氏名欄には長嶋一郎と書いてあったというので、天王寺駅では宮本一郎だったね?と長田は水木刑事に確認すると、犯人は巨人ファンですわと水木は答える。

発送は?と長田が聞くと東京の隅田川駅だったと言うので驚く。

梅田駅の保管庫に来た永田と水木にライトバンの運転手(清村耕次)は、ライトバンでここまで受け取りに来て、また元の道へ帰って行ったと言う。

ジュラルミンのトランクを客と2人でライトバンに乗せて運んだ、大阪駅発の「第一こだま」が着いた頃だったから2時過ぎだったと言う。

ライトバンの行き先は茶臼山だったと言い、ご案内しましょうか?と運転手が言ってくれたので、水木刑事は笑顔で、頼むわ!と言う。 茶臼山で車を降りた水木刑事は、この辺は昨日僕が調べた所ですが、誰もリヤカーを貸した所はなかったですと長田に教える。

その時、近くから聞こえてくる子供達の歓声に気づいた長田は、リヤカーに野球帽の少年が付いて来たと言っていたな?と水木に確認し、その声の方へ行ってみると、広場で子供達が野球をしていた。

その内の1人の野球帽をかぶった子供(桜井基男)に、若いおっちゃんにリヤカー貸したもんおらんか?と長田が聞くと、付いて来た水木はその着想に感心する。

するとその少年は、シゲちゃんだ!5日ほど前や、天王寺駅まで付いて行って、もうろうた金でバット買うてたと言うではないか。

準捜査本部に戻って来た長田部長刑事は、隅田川駅→梅田駅→天王寺駅→汐留駅と死体の入ったトランクが輸送された経緯を黒板に書いて説明する。

なぜ、問題の少年が黙っていたかと言うと、父さんにリヤカーを貸すことを叱られたらしい。 金は欲しいし、父さんは怖いし…だったらしい…と水木刑事が補足する。

同じく戻って来ていた林刑事は、小笠原悦子なる人物は旅回りの役者で、確認してみた所生きていたと報告すると、先ほど金子君からの電話では、家出人4人のうち、2人までが別人ということだったと大阪の主任が伝える。

パンツとブラジャーからたどるのは難しいか…などと話しているとき、金子刑事が帰って来て、1人は結婚して北海道へ行っており生きていたことが分かったというので、家出人の残りは1人だけになる。

長田は金子に、僕らは東京へ帰るから君だけ残ってくれと頼み、林刑事がトランクは東京から送ったらしいんだと説明する。

みかんを食いながら、事件は振り出しの東京へ戻ったという訳ですな…と大阪の主任がのんきに言う。

東京タワー 東京に戻って来た長田と林は、愛宕署まで車で送ってくれた運転手から、捜査二課の仕事が忙しいらしいと近況を聞く。

本部に帰って来た林刑事は、そこに貼られていたガイシャの遺留品のイラストを見て、君が描いたの?艶かしい辺りは実感があるね、早く結婚しないとね…などと山形刑事をからかう。

2人を出迎えた主任は、コンタクトの方は2つばかりこちらでも返事があった。

梅田駅に名前が残っていた長嶋一郎という人物の住所はインチキだったと教える。

コンタクトの方は私と渡辺君とで…と林刑事が申し出る。

隅田川駅に来た長田と山形は、夕べ本部から電話で伝えておいたこともあり、すぐに、トランクの発送を受けた石川(織本順吉)という係に会うことができる。

持って来たのは?と林が聞くと、軽三輪の運送屋で、40くらいの見かけない男だったと石川は答える。 長田は、この辺の運送屋を当たってみようと山形に声をかける。

林はその足で、コンタクト使用者の1人、吉岡先生なる人物を、校庭で女子たちにバレーボールを指導していた女性教師に尋ねると、その教師が吉岡本人だというので、あなたがコンタクトを…、ご健在なら結構なんですと詫びてすぐに帰る。

長田と山形は、隅田川駅付近の運送屋でジュラルミンのトランクを運んだ人物を捜していた。

店屋物の昼飯を食べようとしていた本部の主任は、大阪の金子から電話が入り、残り1人の失踪人は新宿でパンパンをやっているらしいとの報告を受けると、君も引き上げてくれたまえと指示し、飯を食い終わったら新宿辺りの聞き込みだと高津刑事に命じる。

「引越・小荷物」と看板が出ている運送屋で、深尾(河野秋武)と言う主人に隅田川駅までトランクを運んだことはありませんか?と山形が聞くと、その日は風邪を引いて寝てました。

風邪なので病院などへも行かず、表で薬を三服買って、卵酒で呑んで寝てましたよと言う。

夜、本部で報告を聞いた主任は、ダメか…、荷札もダメと…、いささかお手上げという所だな…と気落ちしていた。

新宿で失踪人の聞き込みをして来た高津刑事も、本人はパチンコで玉を弾いていましたと報告する。

しかし、運送屋を当たって来た永田部長刑事は、誰かが嘘を言っていたら?もしレツ(共犯者)だったりしたら…と疑問を口にする。

石川を連れて行って顔を確認させたら?と言う意見も出るが、さすがにそれはまずいだろうということになり、免許証の写真を石川に見せたらどうかという意見が出る。

すると林が、猫も杓子も免許を持ってる時代だからなと納得し、府中の試験所長には課長から頼んでもらうと主任が提案する。

翌日、主任は電話を受け、29歳?住所は?と応答する。

旅行から帰って来た三河島の眼科の医者から、コンタクトに関する連絡があったのだと主任は部屋にいた刑事達に伝えている所に、大阪から金子刑事が帰って来る。 主任は金子に、あれはガイシャじゃなかったよと新宿の女のことを知らせる。

林刑事と渡辺刑事は、コンタクトの線から浮上して来た草間文子なる女性の下宿を訪ねて来る。 すると庭先で応対した下宿のおかみさん(不忍郷子)が、お二階を貸していますが、今は関西の方へ出張なさっていますと言う。

化粧品のセールスレディをやっていると言うので、遺体の写真を見せると、まあ、草間さん!とおかみさんは驚く。

一方、長田部長刑事と免許証の写真を、隅田川駅の石川に確認しに行った山形刑事は、石川が複数の写真の中から深尾を選んだので、風邪引いた何て言いやがって!と憤慨する。

本部に戻って来た林刑事は主任に、草間文子は過去に肋膜炎をやったそうです。

仕事は真面目でその方は固かったそうですと男関係の噂がなかったことを伝える。

そこに、文子の預金を銀行に調べに行った渡辺刑事から電話が入り、隅田川からトランクを発送した日に52万あった預金から50万が引き出されており、引き出した男は判子を持って来たのだと主任は聞く。

物取りの線でしたね…と林刑事が話しかけている所へ長田が、嘘をついていた運送屋の深尾二郎を連れて帰って来る。

昨日何故嘘をついた?あんた、殺しの共犯だな?と主任が問いつめると、抜け荷の前科があったんで…と深尾は答える。

誰に頼まれた?と責めると、チップで5000円もらっただけで名前は知らないが、家は知っている、「松見荘」と言うアパートですと深尾は答える。

早速、その「松見荘」に向かうと、問題の二階部屋には「貸室」の札が付いていた。

金子刑事がアパートの中に入ると、アパートの前で、リヤカーにスリッパや長靴を積んでいたおかみ(菅井きん)がおり、咳き込んでいるので長田部長刑事が事情を聞くと、内職でこれをやっているが、ノリの中にベンゾールというのが入っていて、医者に行くと1回千円もぼられるのだと女将は嘆く。

二階の貸室のことを聞くと、芳村さんが何か?とおかみは言い、吉村春夫と言う男が一昨日引っ越して行ったことが分かる。

女の人が出入りしてなかったかと聞くと、30くらいの人がいて、吉村はその人の下で働いていたみたいだと言うので、最近来たのは?と聞くと、10日ほど前でしたとおかみは答える。

そのアパートのすぐ側を列車が通り過ぎる。 吉村の郷里は愛知県の干拓地で、今度の颱風の浸水でやられた所らしいことが分かる。

吉村が勤めていた会社は潰れたそうだ、町工場だそうだからと本部で主任は刑事達に教える。

林刑事は、主任さん、いよいよ事件ははっきりしてきましたねと林刑事が言う。

草間さんの貯金目当てで、出かける前に殺したんだな…と主任は推理する。

吉村を知ると言う昔の同僚に話を聞きに行くと、吉村とは半年も会ってないと言い、一番親しかった岡崎という男は、江戸川のそば屋で働いているらしいと言う。

さらに、吉村の郷里は川より低い所だと言っていたとも付け加える。

愛知の浸水被害にあった吉村の郷里の干拓地へやって来た金子刑事は、現地の刑事(石島房太郎)から、干拓を10年がかりでやっていたのだが、愛知県と名古屋と通産省や農林省などが入り乱れて工事をやったので、場所によっては堤防の薄さが30cmしかない所もあったと言いますと干拓事業のずさんさを聞かされる。

長田と山形は、「やぶ春」と言う江戸川の蕎麦屋を突き止めて、そこで働いていた岡崎(大村文武)から話を聞くことができる。

何でも、吉村は胸を患っており、しばらく東京を離れて療養しようかと言っていたらしく、病気のため休みがちだったのが原因で、潰れる前の会社を首になったのだと言う。

家庭の事情もあったらしく、仕送りもしないといけないと言っていたけど、あいつは運の悪い奴で、今年こそ米ができるから安心して療養できるって言ってたのに、颱風であんなことになってしまって…と岡崎は同情する。

最近では化粧品の手伝いをしていると汽車の中で会った時言っていたと言うので、吉村に彼女はいますか?と聞くと、花山あき子と言う船橋の専属ダンサーがおり、京成線沿線に住んでいると岡崎は教える。

「花の木荘」と言うアパートにやって来た長田部長刑事は、花山あき子が留守なので、おかみにいつ頃帰るか見当付きませんか?と聞くが、鍵穴から部屋の中を覗き込んでいた山形刑事が、長田さん、荷造りしてありますよ!と教える。

名古屋の金子刑事から電話をもらった主任は、吉村は、アパートを引き払った痕、郷里に帰り、両親に5万やったそうだとその場にいた刑事達に伝える。

そこへ今度は長田から電話が入り、女が夕べから戻っていないと報告を受ける。

一昨日男がそこに行ったのかね?今、一緒かね?違う?ホシは東京へ戻ったんだと伝えると、電話を切った主任は、高津と林に長田の手伝いへ行くように指示する。

船橋の劇場でレビューガール(浦野みどり)から花山あき子に27〜8の男が訪ねて来なかったかと聞いた長田は、時々会いに来ていたのは中年の男で、どことかの会社の課長さんなんだってと聞き驚く。

長田はすぐさま本部にいた主任に電話を入れ、あき子は時々お座敷ストリップやっとったそうですが、彼氏はどこかの課長だったそうだと報告する。

主任は、あき子を捕まえてみんといけんなと答え、部屋に残っていた渡辺刑事にも応援に向かわせる。

高津刑事と山形刑事が張り込んでいた「花の木荘」に、あき子(小宮光江)が深夜帰って来る。

花山あき子さんですね?と山形刑事が声をかける。 すぐさま本部に連れて来たあき子に、知ってるだろう?吉村…と主任が問いかける。

しかしあき子が黙ったままなので、黙秘権か?と聞いた主任は、彼女が持っていたハンドバッグを取り、これちょっと見せてもらうよと確認を取る。

バックの中の封筒には10万入っていたので、この金どうしたんだ?君はこんな大金を持ってるのか?と聞くと、私のです!銀行から降ろして来たんですとあき子が口を開いたので、どこの銀行だ?と詰め寄ると彼女は口を閉じてしまう。

主任は林刑事に、婦警さんを読んでくれと頼む。

「花の木荘」の前に、石焼き芋屋が通り過ぎると、応援に来た渡辺刑事が高津刑事の側に来る。

高津刑事は、冷えますよ、今晩は…と言いながら、今買った焼芋の1つを渡辺に手渡す。

くれたのは吉村春夫だろ?と本部で主任が聞くと、違います!返してよ!とあき子は抵抗する。

誰がくれたんだ?と山形と林も問いかけると、課長さんよと…と、ふてくされたようにあき子は答える。

正直に言え!と責めると、運輸局の川原課長だと言うではないか。

それを聞いた長田は、二課が動いている奴ですよと主任に言う。 誰にも言わないと約束したんです…と告白したあき子はうなだれる。

すぐさま二課に電話を入れた主任は、汚職の川原は今日の夕方逮捕されたと知らされる。

そこに婦警がやって来たので、あき子の身体検査を頼む。

主任は二課に、現金を10万持っとるんですと電話で伝えていた。

隣の部屋で、婦警は、あき子の服を脱がし、身体検査を始めるが、そのシルエットがドアの磨りガラスに移っており、それを林刑事らが見守っていた。

川原は汚職の件は否定しとるんですか?と主任に長田が聞く。 そこに婦警が出て来て、これだけしかありませんでしたと切符を差し出す。 それは、博多行きの三等車の切符だった。

これは何のためだ?博多は君の郷里の方だろう?この切符は東京駅で買ったのかね?と主任が迫ると、あき子は黙って頷いたので、嘘を言うな!有楽町駅と書いとるじゃないか!と叱りつける。

そこへ二課から電話が入る。 川原が自白し、手切れ金として温泉マークで渡したようだと知らせて来る。 あき子は、ここに業者に取り持たせた女だったからで、汚職も吐いたんですね?と主任は確認し、電話を切る。

そして、切符に記載されていた9時半の急行で発つつもりだったんだね?2人で発つと言ってたのか?吉村春夫だろ?と主任が責めると、誰だって秘密くらい持ってるわ!とあき子は怒ったように答える。 筑紫ですね…と長田が列車を特定する。

吉村は、トランクに死体を詰めた犯人なんだよと主任が教えると、嘘だわ、そんな!とあき子が絶叫するので、嘘じゃない!世話になった草間さんを殺して50万を奪ったんだ!どこで会う約束をしてたんだ!と主任は聞く。

するとあき子は、熱海と呟く。 あの人は1日早く発って、熱海から乗り込むんだって…と言うので、筑紫は熱海を発っています!次は沼津です!と時間を確認しながら刑事が言う。

切符の番号で探せば良い!続き番号を買ったに違いない。これが1845だから、その前後の切符を持っているはずだと主任は指示する。 ただちに鉄道公安官に連絡を取り、沼津から下り41列車に乗り込んでもらいことにする。

富士の下を通過する下り41列車。 沼津駅から公安官が乗り込み車掌に事情を伝える。

1844と1846ですね?7両しかありませんから、前と後ろから調べて行きますと答え、相手に警戒させないように公安官はデッキに残ることにする。

本部には、「花の木荘」の渡辺刑事から電話が入るが、女の証言から、吉村は今列車に乗っていると思われるが、念のため張り込みを続けてくれと主任は頼む。 山形刑事があき子に、吉村の写真を持ってないかと聞く。

車掌は列車の乗客達に乗車券の検札を開始するが、寝ぼけた乗客が、定期券やバスの乗車券を差し出したりする。

やがて、東京鉄道公安室から本部の主任が電話を受け、1846の切符を持っていたのは中年男だったと聞くと、ホシは乗らなかったことに気づく。

それを聞いていたあき子も、あの人、熱海から乗るって言ってたのに…と不思議がる。

吉村は、川原課長との関係のことを知っていたのか?と聞くと、前から結婚しようと言っていたわ。

田舎には妹と弟がいて、父ちゃんは炭坑が潰れて、みんな雑炊食べているんです…とあき子は言い出したので、その不遇さに聞いていた刑事達の表情が曇る。

昨日、あの人が来て金をもらったんです。私もお金を持って帰ったらみんな喜ぶだろうと思って…、刑事さん、あの人に会います!私も駅に連れて行って!とあき子は立ち上がるが、これから裁判もあるんだ!と主任が言い聞かせる。

あの人に聞きたいんです!一言だけ…、どうして…と言うと、あき子は泣き崩れる。

鉄道公安室では、130列車を手配しました。若い男が3人ばかり途中で降りたらしく、その連中が乗り換えたかどうか分からんようでしたと公安官(稲葉義男)が、公安室へ来ていた長田部長刑事に伝える。

時刻は深夜2時20分 本部では、主任が立ち上がり、窓から見える東京タワーを眺める。

小田原3時10分着でしたね?と山形刑事が130列車の運行を確認する。 若者2人が発見されたそうですとの公安官からの電話を本部で受けた林刑事、山形刑事らが、列車の次の到着駅である大船へ向かう。

大船駅に車で到達した林と山形は、到着したばかりの130列車に飛び乗る。 2人から事情を聞いた車掌は、客車へ案内すると申し出る。

1つ目の車両のドアを少し開け、沼津から乗り込んだ1人ですと車掌が白いコート姿の青年(小嶋一郎)を教えたので、山形刑事がその青年の近くの女性客の隣席にさりげなく座る。

別の2人は同じ車両に乗っていると車掌は教え、林刑事がその車両の中に入り、こちらもさりげなく同じような白いコートを着た青年の側の席に座って観察を始める。

公安室から電話を受けた主任は、横浜では2人は降りなかったと知らせる。

品川駅でも2人は降りなかった。 新橋駅に着くが、やはり2人とも降りなかったと主任に報告が入ったので、君たちもホームに行ってくれと長田らに指示を出す。

130列車は有楽町駅を通過する。

長田部長刑事は鉄道公安官数名とともにホームに出て列車の到着を待ち受ける。

東京駅に到着した130列車から白いコートを着た男が降りたので、そばに近づいた林刑事が、吉村春夫だな?と話しかけるが、違うよと言ったその男は身分証明書を取り出す。 それを見た林刑事は、失礼しました!と詫びる。

山形刑事が、もう1人の白いコートの男が降りようとしないので近づくと、その男は脱兎のごとくホームに走り出る。

待て!と後を追った山形は、駆けつけた林と協力し、逃がしてくれ!と叫ぶその男吉村春夫を取り押さえると、その場で手錠をかける。

電話で連絡を受けた主任は、そうか…、良かったな…、ご苦労さんとねぎらって電話を切ると、コンロにかかったやかんを取り上げ、茶を煎れ直すと、あき子が呑まなかった湯のみの茶を捨て、熱い茶を煎れ直してやる。

差し出された湯のみを前に、あき子はまた泣き出す。

吉村を車に乗せ、東京駅を出発した林たちの警察車両が早朝のビル街の中を走り去って行く。
 


 

 

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