フォークグループ「かぐや姫」のヒット曲「神田川」の作詞家の書いた同名小説の映画化 昔のテレビ画面に近いスタンダードサイズの低予算な印象で、「同棲時代」などと並ぶいかにも70年代らしい青春映画になっている。 身分違いの純愛、雪山での死など、何やら「泥だらけの純情」を連想させる要素も感じられる。 当時、モデルとして人気が出始めていた草刈正雄さんと大映出身の高橋(関根)恵子さんが主役カップルを演じているのだが、草刈さんが早稲田の学生と言う設定や、兄役の方と全く顔立ちが違っている点など、同じく日本人離れの美貌だった岡田真澄さん主演の恋愛映画を見ているような、何となく無理を感じないでもない。 若者特有の愛だけで生きて行けると信じ同棲を始めたものの、徐々に生活苦や周囲の人間関係と言う現実を前に、2人の気持が揺れはじめる…と言う悲しい現実を、おとぎ話の「かぐや姫」に重ねている所がこの作品の趣向である。 「かぐや姫」のエピソードが取り上げられているのは、フォークグループの「かぐや姫」と重ねているのかも知れない。 低予算作品としては無難にまとまっており、特に退屈する訳でもないが、話に大きな起伏がある訳でもないので、ものすごく面白い!と言うほどでもない。 劇中に登場するかぐや姫人形が、どう見ても「ひょっこりひょうたん島」のサンデー先生そっくりなので、人形制作は「人形劇団ひとみ座」の関係者ではないかと思われる。 劇中、あまり意味もなく関根恵子さんのオールヌードシーンがあるのも、いかにも時代を感じさせる。 他にも、謄写版印刷など懐かしいアイテムが登場しているが、劇中、下宿に帰る主人公が乗っている電車の側面に小豆色のラインが付いていたので、京王線か?と一瞬感じたが、「鬼子母神前」で降りた所を見ると「荒川線」と言うことだろう。 当時はそんな色だったのかと驚いた。 確か当時の新聞広告には「この作品は成人映画ではありません」と言う断り書きがあったと記憶しているが、確かにその手の過激なシーンは全くない。 そう云う意味では、実に真面目でおとなしい青春映画である。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1974年、東宝+国際放映、喜多条忠原作、中西隆三脚本、出目昌伸監督作品。 早稲田の人形劇団「Wサークル」は地方巡業をしていたが、その日、お寺を借りての出し物では、子供向けなのは人形の造形だけで、内容は全学連口調の社会告発のようなものだったので、子供達は誰も見ていなかったし、お坊さんも居眠りをしていた。 連帯しよう!などと人形劇で叫んでも、誰にも届くはずもなかった。 そんな中、竹林の中に来ていたサークルのビゼン(所雅樹)は、脚本を書いている上条真(草刈正雄)に、子供にあんな人形劇を見せても無意味だろうと意見し、次の台本を急ぐように急かす。 その時、竹林の奥から、水桶を下げた和服の娘が近づいて来たので、2人は驚いたように立ち止まる。 2人に近づいて来た娘の水桶から柄杓が落ちたので、思わず真は拾ってやる。 バスで帰宅する途中、真は、竹林で出会った娘のことを思い出しながら、赤いクレパスで娘のイメージを紙に描いてみる。 林静一風のイラストを背景にタイトル 本の問屋でバイトをしていたビゼンと交代しに来た真は、童心社から来ました!これを出してもらいたいんですけど?と声をかけられたので振り向くと、そこにいたのは、昨年竹林の中で出会ったあの娘だった。 君は!と真は驚く。 その娘池間みち子(高橋惠子)と一緒に童心社まで指定の本を風呂敷に包んで持って来てやった真を見た社長(花澤徳衛)は、うちは配達料は払えないよ!と迷惑気に言うと、一緒に戻って来て、お昼を食べに行きますと申し出たみち子には、午後から地方発送があるよと睨んで来る。 社長が1人だけしかいない狭い部屋の零細出版社を出た真は、中学時代の先生の紹介であそこで働いているの、去年お会いした時、先生のお墓参りだったのと打ち明けたみち子に、1日あんな骨董品と一緒じゃたまらないなと同情すると、だから昼だけ外に出ることにしているのよとみち子は答え、近くの神社にやって来ると、召し上がる?と言い、持って来た菓子パンを真に渡すと、コップにはパック牛乳を注いでやる。 食後、神田川の土手に座り、日曜日は何しているの?と誠が聞くと、選択したり、お掃除したり、本を読んでいるわとみち子が答えたので、明日の日曜、どっか行こうか?一度この川の上流に行こうと思っていたんだと神田川を見ながら真は誘い、明日の10時今の所で!と握手して約束し別れる。 その後、早稲田のWサークルにやって来た真は、仲間達から、真、どうなってるんだよ?巡業に間に合わないよ、人形も作らなければいけないし…と台本の遅れを責められる。 そんな真に、ちょっと!と呼び出したマキシ(黒沢のり子)は、借りていた「青春の墓標」と言う本を返しながら、今あなたの下宿に伺ったらお兄さんがいたわ。 鋭い方ね、私をあなたの恋人と思ってくださったわなどと嬉しそうに言って来る。 急いで下宿に戻ると、兄(勝部演之)が来ており、相変わらずくだらないものばかり読んでいるな…と部屋にあった本の話をすると、出張で来たんだと教える。 そして、オヤジから手紙が来た。まだ1年の単位が残っているそうだな?俺がお前の年には司法試験にパスしていたよと説教を始める。 兄さんとは出来が違うよと真が嫌みを言うと、明日付き合え、紹介したい奴がいると兄が言いだしたので真は困惑した顔になる。 約束でもあるのか?さっきの女か?あの程度なら連れ帰っても文句は出ないが、女との約束なんてすっぽかした方が良いんだ。 明日は俺と来いと兄は一方的に言う。 翌日、約束の神社で待っていたみち子は、なかなか真が来ないので不安な顔になるが、やがて、真が駆けて来たので喜ぶ。 ごめん、兄貴が来ていて…、行こう!と詫びた真は、予定通りみち子と神田川の上流に向かって歩き始める。 そんな真が人形劇の台本を書くことを聞いたみち子は、じゃあ今度の台本はあなたが?と目を輝かす。 あらすじだけは浮かんでいるんだ、「新かぐや姫」! 死を決意した若者が山の竹林の雪の中に倒れていた少女と会う…と、雑踏の中を歩きながら真が語りだす。 若者は少女を助けると、川のほとりに小田を作ってそこで暮らし始める。 もう若者は、死ぬことを考えることはなかった。少女が生きる灯火に灯を点したんだ。 おとぎ話のかぐや姫では少女は月の世界に帰って、2人は離れ離れになるのね?でも、このお話の少女は行きはしないわ!とみち子が言う。 そう、若者は、少女を川の上流の泉に案内するんだ!と真は言う。 上流の泉の所に来たみち子が、源泉に感激し、それを手で汲んで呑もうとすると、いけない!と真は止める。 この泉の水を飲むと二度と月の世界へ戻れない…と真が言うので、それでも少女は呑んだ…とみち子は逆らう。 かぐや姫は、生まれた月の世界より若者を愛したから…とみち子が言うと、付きを離れたら生きられない。 2人は別の世界の住人なんだと真が答えるが、すぐに、違う!2人は生き残るんだ!と言い換える。 2人の合いが運命に打ち勝つのよ!とみち子も賛成する。 2人の間にたくさん子供が生まれる。 あれくらい…と、いつしか動物園に来ていたみち子は、鹿の群れを指して言う。 神社でおみくじを引くと「大吉」だった。 ありがとう、どうやら台本書けそうだ…と真はみち子に礼を言う。 面影橋の所まで戻って来たとき、私はここで…とみち子が言いだしたので、送るよと真は言うが、その場で握手して別れることにする。 みち子が去った後、しばし橋の上で様子を見ていた真は、川沿いの安アパートの一室に灯が灯るのを確認する。 真は電車で鬼子母神前に帰って来る。 竹林のイメージ 粘土で顔を作り始める真 ガリ版用の原稿を切り始める真 そんな真の下宿にやって来たビゼンは、疲れ切って寝ている真の側から出来上がっていた台本原稿を持ち出すと、謄写版で刷る。 「Wサークル」で出来上がった真の台本を読む女子大生 それを聞いていた仲間から、俺は反対だなと意見が出るが、やろう!俺は良いと思う!とビゼンが口を出す。 そんなビゼンに、ありがとう、彼をかばってくれて…とマキシが礼を言う。 その後、校舎の屋上で真が作ったかぐや姫の人形の原型を持っていたビゼンに、私に顔を描かせてとマキシは頼むが、あいつにしか描けないんだとビゼンは拒否する。 その頃、みち子は、料亭に勤めている母親(賀原夏子)に会いに来て金を渡していた。 そこに出て来た女将(鳳八千代)は、みち子の顔を見ると、この前の話、考え直しておくれよ、今じゃ芸者だってタレントだよと頼むと、母親には、ご不浄が客の吐瀉物で汚れているよ!と掃除を命じて奥へ引っ込む。 そんな女将に、昔は私が基本から教えていたのに…と悔しがり、お前なら売れっ子間違いなしだと思うがね…とみち子に言うので、またその話するなら、もうここへは来ないわよとみち子は不機嫌そうに答える。 みち子はその後、また神田川のコンクリートの土手で真に会い、台本が完成した話を聞くと、ハッピーエンドなのねと喜ぶ。 作者の半分は君だよと真が感謝すると、本当の若者とかぐや姫は離ればなれにならないかしら?ごめんなさい…そんな気がするのよ…とみち子は言う。 下宿に帰った真は、まだ女にうつつを抜かしているのか!お前が文学部へ転科を考えているなら俺にも考えがある。 今度の休みには帰って来いと書かれた兄からの手紙を読む。 「Wサークル」での飲み会の席、今度作品、ふやけ過ぎてないか?言ってみればラブレターみたいなもんじゃないか!と批判がでる。 相手は誰だ?お前、マキシに!と指摘された真は、黙って部屋をでて行く。 その後を追ったマキシは、どう?今夜私の部屋に来る気ない?と声を掛けるが、真は何も言わず立ち去る。 雨の中、面影橋にやって来た真は、みち子のアパートの部屋を見るが、明かりが消えていた。 しかしすぐに部屋の灯りが灯り、窓を開けてタオルを干すみち子の姿が見える。 みち子は、ノックの音が聞こえたので、どなた?と不思議がるが、戸を開けると、そこに雨に濡れた真が立っていたので、どうしてここへ?と驚く。 しかし、真は何も言わず部屋に上がり込むと、そのままみち子を抱こうとする。 テーブルのみかんが床に転がり、電灯が揺れるが、みち子は必死に堪え、帰って!お願い!と頼む。 結局、何もせず真は帰ろうとするが、戸を開けると、そこには物音で案じたアパートの住民達が集まっていた。 真が立ち去ると、傘を持ったみち子が後を追い、待って!と声を掛けると、橋のたもとで真に傘を差し出す。 悪かった点と詫びた真は、明日から二週間東北に巡業に行く。 その間、君を胸に刻んでおかないと、不安で耐えられなかったんだ…と言うと逃げ去る。 みち子が差し出した赤い傘は、神田川の水面に落ちる。 (南こうせつの歌が流れる) 「Wサークル」は東北巡業に来る。 ダムを歩き、鳴子温泉に到着する。 みち子の方は、ふと「かぐや姫」の絵本を仕事中に見つけ、真のことを思い出す。 見て!あの山!私、死ぬならあんな山で死にたいわ!と雪山に感動したマキシが叫ぶ。 アパートの部屋のテーブルの下に落ちていたみかんを拾い上げ、真のことを思いだすみち子。 「Wサークル」は新作の「かぐや姫」に人形劇を披露するが、金髪の若者を操る真に、かぐや姫の人形を操るマキシが、あなたのためならあの山で死んでも良いと思っているの!と台本には書いてない台詞を言いだし、真に迫りだしたので、それに気づいたビゼンは、突然部隊に大きな付きのセットを出すと、無理矢理月の住人の人形を登場させ、かぐや姫、帰るんだよ!と勧める。 すると、それを見ていた子供達が、帰っちゃ行けない!帰れ!と騒ぎだし、みかんを投げつけて来る。 その日の反省会兼飲み会では、こんなに受けたの初めてだな…とみんな驚いていた。 やがて、みんな上機嫌になり歌いだし、明日はいよいよ東京ね…とマキシが呟く。 その時、誰かが入り口に来ているのに気づき、みんながざわめく。 真が様子を見に行くと、そこに立っていたのはみち子だった。 私…、来たんです…と言うので、君!と真も絶句する。 やっと探して…とみち子が言うので、それを聞いていた仲間達は、おい、あれがかぐや姫か?と噂し合う。 マキシが立ち上がろうとするが、その腕を握ったビゼンが、止せ!と止める。 その後、仲間達が寝静まった後、窓辺に立って外を見ていたビゼンに、隣に立っていたマキシが、寝たわ、みんな…、寝ない?私と…と誘う。 雪でできた大きなカマクラの中、焚き火にあたって起きていた真とみち子は、いつしか全裸になり向かい合う。 やがて2人は寄り添ってキスをする。 東京に戻った真に手紙を持って来たビゼンは、お前の下宿にこれが来ていた。 下宿の婆さんが色々知らせているらしいと言って渡す。 真は、本の問屋のバイトを続けるが、そんな中、兄から来た手紙を読まずに破り捨てる。 いつもの神社でみち子と落ち合うと、みち子が作って来た真用の弁当を差し出す。 タッパーの蓋を開けると、互いの弁当のご飯の上には、ノリで「マコト」と「ミチコ」と書いてあった。 そのご飯をうまそうに頬張る真に、今夜何食べたい?とみち子が聞くと、ハンバーグ!と真が答えたので、また?とみち子は呆れたように言うので、仕方ないよ、今ん所…と真は懐が寂しいことを言う。 じゃあ、先に帰っててねとみち子は答えるが、そんな仲睦まじく弁当を食べている2人の様子を、石段の下に集まった子供達が不思議そうに見つめていた。 2人はいつしか同棲を始めていたのだった。 その日、みち子のアパートの部屋に戻った真は、そこに見知らぬおばさんがいたので驚く。 みち子の母親だった。 みち子の母親でございますと挨拶して来た母は、ああいう子ですけど、なにぶん宜しくお願いしますと頭を下げて来たので、真も正座して頭を下げる。 そこに、買い物をして来たみち子が帰って来て、母がいるのに気づいて唖然とする。 管理人さんに鍵を開けてもらったんだよと説明した母親は、みち子、頼みがあるんだけどさ…、何とかしてくれないかしら?この頃心臓も悪くて、病院行くと目の玉が飛び出すほど取られるし…、女将さんは鯉の洗いが良いというんだけどさ…、助けると思ってさ!と金の無心をして来る。 みち子は、私だってお給料前だもの…と断ると、真が持っていた金を差し出し、前借りしたので…と言いながら母親に渡す。 その金を受け取った母親は、せいぜい真さんに可愛がってもらうんだよ、さようならと言い残し帰って行く。 アパートを出て、川沿いに帰って行く母の様子を窓から見送っていたみち子は、ごめんなさいと真に詫びる。 良いんだ…、俺にはおふくろいないから…と答えた真も、一緒に窓から、稲荷に手を合わせ帰って行くみち子の母を見送っていた。 みち子が何となくだるくて…と言うので、熱は内容だけど、もう1日休むと良いと言いながら、真は「戸塚一丁目」の停留所からバスに乗り込む。 送って来たみち子は、バスのドアが閉まる時、私、もしかしたら赤ちゃん…と声を掛けるが、もうバスは走り出していた。 真は驚いて、後部の窓から、停留所に立って見送っているみち子の姿を見る。 ある日、マキシと伴いみち子の部屋にやって来た真の兄は、中にみち子の母親が1人で足の爪を切っていたので驚く。 母親の方も驚き、みち子の母親でございますと慌てて挨拶する。 面影橋の所に帰って来たみち子は、アパートから帰るマキシと出会う。 マキシは、みち子さん…じゃなくてかぐや姫さんねとみち子に言うと、月の世界からお迎えが来ているはずよ、ただし、あなたではなくて彼にね…と言い残し去って行く。 部屋に戻ると、真の兄と母親がいたので、母さん、今日は帰って!と言って帰らせる。 兄はみち子に、おかしいと思ったら…こんな所で…。 火遊びの相手をさせられたら迷惑だ!弟と結婚する気になっては困る!それだけは覚悟してもらう!ときつい口調で言い放つ。 その時、みち子は急に気分が悪くなり、立ち上がってシンクで吐く。 兄は、みち子が買って来て床に置いた本が「初めての妊娠・出産」と言うタイトルだと気づくと、そうか…、私が悪かった…、許してくれ。医者には行ったのか?とにかく一度医者に見せた方が良いな…、私の友人に優秀な医者がいるから話してやろうと、急に優しい口調で兄はみち子に話しかける。 その頃、真は、ガソリンスタンドでバイトをしていた。 兄に紹介された産婦人科にみち子は来るが、先に兄と会っていた医者(神山繁)は、まさか、あんたの子じゃあるまいな…と疑わしそうに聞く。 しかし兄は、2人の承諾書も持っていると答えたので、君に頼まれたらしようがない…とぼやいた医者は、看護婦に麻酔の準備を命じる。 手術台に乗ったみち子はおかしいと気づき、必死に止めてくださいと医者に頼むが、その時にはもう麻酔が効いて力が抜けて行く。 竹林に血しぶきが飛ぶイメージ みち子の部屋に戻って来た真は、そこに兄がいたので驚く。 子供は俺が始末させた。真、目を覚ますのに良い機会だ。お前はあの親子に金目当てにされているんだぞ…と兄が言うので、何をされたのか気づいた真は、嫌だ!俺たちは愛し合っているんだ!俺たちの子供を殺す権利が兄さんにあるのか!と怒鳴りながら殴り掛かる。 俺は死んでもみち子を離しはしない!と真が言うと、それほどふぬけになっているとは思わなかった。 分かった…、その代わり、今後は送金を打ち切る!と兄は言い残し帰って行く。 真は、麻酔がまだ効いているので産婦人科の部屋で寝ていたみち子に会いに行く。 真…、許して…、私、麻酔で…、気づいた時にはもう…と、布団に寝かされていたみち子は真に詫び泣き出す。 そんな2人の前にやって来た医者は、もう帰って良いぞ。 見るかね?君らの子だ…と言い。シャーレに乗った小さな肉の固まりを取り出して見せる。 それを目にしたみち子は、嫌!と悲鳴を上げる。 真がアパートへ送って行くと、泣きつかれたのか、みち子はおなか空いた…と無表情に呟く。 翌日、「Wサークル」にやって来た真は、俺、このサークル、辞めに来たんだ。このサークルをやって行くような余裕がない…と仲間達に告げると、ビゼン、来てくれと部屋の外に呼び出す。 屋上に来たビゼンに、なぜ兄にアパートを教えたんだ?あの場所はお前しか知らない!俺とみち子のこと、一番良く分かっていてくれたはずだ…と真が責めていると、いつの間にか付いて来たらしいマキシが、教えたのは、私よ…と打ち明ける。 あなたを奪われたくなかったの…とマキシが言い、殴って気がすむなら俺を殴れ、話したのは俺だとビゼンがマキシをかばう。 私よ!とマキシは言うが、君らのお陰でみち子は兄貴に子供を殺された… 俺は君を愛したことは一度もない!みち子だけだったんだ!とマキシに言い放った真は帰って行く。 その頃、アパートにいたみち子は、出版社からの解雇通告書を読んでいた。 その後、ビゼンとジャズバーでブランデーを飲み始めたマキシは、負けたのかしら、あの女の子に…、君を愛したことは一度もない…と、真の言葉を繰り返す。 もうよせ!とビゼンは注意するが、私たち、真の子を…、あの人達の子供を殺したわ…。 でも傷ついて死んだのは私… ピエロね、私たち…と呟いたマキシは、あの雪山…、きれいだったわ…、もう一度行きたい…と続ける。 それからの真は2人分の生活費を稼ぐために、工事現場で肉体労働に明け暮れるようになる。 休憩時間、中年男達から酒を勧められた真は、一升瓶を一気飲みしようとしてむせてしまう。 ある日、仕事にあぶれた真が部屋で横になっていると、ねえ真、私、やっぱり働く…、1日3000円くれるんだって。 バーよ、お隣のホステスさんが誘ってくれたの…とみち子が話しかける。 本気でそんなこと考えているのか?と真が聞くと、母さんの仕送りまでさせているのは悪いわ。 この頃の真、いつも疲れ切った顔をしているわ。私は1日1日、別の人になってしまうような気がするの…、大学も卒業できなくなるし…とみち子が案じるので、卒業なんてどうでも良いんだと真はなげやりに答える。 ダメよ!私、あなたを犠牲にしたくない!だから私も…とみち子が言うと、そうか…、分かったよ、そんなに水商売が好きならやれば良いと真は吐き捨てるように言う。 それを聞いたみち子は、酷い!どんな言い方!お母さんは確かに水商売よ。 父も誰なのか知らないわ…とみち子がすねると、少し黙ってくれ!あぶれた日くらい、何も考えず寝かせてくれ!と面倒くさそうに真が答えたので、私たち、ダメになりそう…とみち子は嘆く。 すると真は、誰がそんなこと決めたんだ!と癇癪を起こしたので、こうなるような気がしたわ…、やっぱりあなたはあの女の人と結婚した方が良いわ、お兄さんから聞いたわ、あなたには好きなお金持ちの女子大生がいると…とみち子は言う。 それがどうしたんだよ!と真はますます苛立つ。 あなたには迎えが来るわ。そして、私の手の届かない日が来るわ… かぐや姫は私ではなく、あなただったのよ!とみち子が仲仕気に言うと、立ち上がった真は、部屋の柱に飾ってあったかぐや姫と若者の人形をもぎ取り、窓から神田川に投げ捨ててしまう。 もうおとぎ話はたくさんだ!そんな話、俺たちにとって何の関係もない!俺たちの生活!ただそれだけだ!と真は叫ぶ。 神田川を流れて行く人形を窓から見ながらみち子は泣き出す。 下宿に行って来る。荷物を全部ここに運んで来る!と言い残し真は部屋を出て行く。 すると、引越屋らしき男達が自分の荷物を運び出している所だった。 下宿の前にいたのは兄で、今度東京に転勤になった。お前は俺の官舎に住んでもらうと言って来たので、こんなものが運び出したけりゃ、いくらでも運び出すが良い!と真が怒ったので、貴様!と兄の方も逆上し、2人はつかみ合いになる。 一方、部屋にいたみち子の元へ速達が届く。 それは小さなこけし人形で、そこが蓋になっており、中に手紙が入っていた。 駅で見つけたの。あなたに似ているので送りますと書かれていた。 翌日、「Wサークル」の女子大生がみち子のアパートに駆け込んで来て、真君!開けて!と叫びながらあちこちの部屋の戸を叩く。 何事かと真が戸を開けると、今日、警察から連絡が来て、チーフとマキシさんが遭難したそうよと言うので、何だって!と真は驚愕する。 すぐさまみち子と一緒に鳴子駅に到着した真は、マキシ達が泊まっていたホテルの一室に案内される。 その中には「マコト」と書きなぐった何枚もの紙が散乱し、窓ガラスにも「マコト」と書かれていた。 2人は、マキシとビゼンを追って雪山に登って行く。 遅れがちのみち子は、先を急ぐ真の姿から目を背ける。 竹林のイメージ やがて、雪の中に落ちていたビゼンのサングラスを真が発見する。 奥へと向かう2人分の足跡も… やがて2人は、奥から戻って来た捜索隊と遭遇する。 捜索隊が引いて来たオレンジ色の救命袋の中には、ビゼンとマキシの遺体が入っていた。 ビゼン!と叫び、泣き出す真。 そんな真に、これが男の方の遺品ですと捜索隊が渡してくれたのは小さな金属カプセルだった。 その中にメモが入っており、「何となくマキシに付き合うことにした。 彼女は俺の隣で眠っている。 俺の手も動かなくなって来た。 やがて鮮やかな死が訪れるだろう。 君との友情を取り戻せなかったことが残念だ。 みち子を離すな。 ビゼン」と書かれていた。 2人の遺体は、雪山で荼毘に付される。 みち子は持って来たこけし人形を、その火の中に投げ入れる。 並んで燃え上がる火を見つめていた真は、そっとみち子の手を握りしめる。 やり直そう…、俺たち、まだやり直せるんだと真は語りかける。 竹林のイメージ いつかきっと、あなたは私の手の届かない世界へ帰ってしまうのね…とみち子は呟く。 やるんだ!2人で!とそれを打ち消すように言う真。 やってみるんだよ!やらなきゃダメなんだ!と絶叫した真の言葉が山にこだまする。 ビゼンとマキシを焼いていた木組みが燃え落ちる。 涙ながらに首を横に振るみち子。 神田川沿いのみち子の安アパートの一室には、別のカップルが引っ越していた。 神田川を流れていたかぐや姫の人形は、塗装が剥げかけていたが、徐々に下流の方へ流れて行く。 子犬が、神社の石階段を降りて来る。 かぐや姫の人形は、艀船が走る流域を流れて行く。 空撮で、人形が流れている神田川と都会の状況… |