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悲しき瞳

中学生時代の美空ひばりさんの主演映画なので、おそらく客層もティーン層狙いだったのではないかと想像する。

かなり低予算に見え、内容も教訓的と言うか子供向けのやや教育的な要素を含んだ大体想像通りの展開になっている。

ただ、今の目で見ると、色々すっきりしない部分が気になるからか、ものすごく感銘を受けると言う感じでもない。

まず、教え子を助けるために、他の子供の金に手をつけてしまうヒロインの父親の教師というのが浅はかすぎて、終始同情しにくい。

世間知らずで理想主義の教師が自分の金を渡すと言うなら分からなくもないが、他のクラスの子供の金に手をつけるというのは、友人を助けるために会社の金に手をつけてしまったと嘘を言って金を無心に来た教え子と同じ事をやっている訳で、どう考えてもベテラン模範教師らしからぬ行動に見えるからだ。

おそらくこれは、娘であるヒロインも学校で孤立させるためのアイデアだったと思うのだが、多数の教え子が訪ねて来るはずの教師の態度としては不自然すぎるような気がする。

さらに、普通、この手の話のラストは、誤解が解けて全員が笑顔で和解すると言う展開になるはずなのだが、この話では、望月優子さん演じる飲み屋の女将が心を入れ替える描写がないままで終わっているのが気にかかる。

それがないために、その息子で素行が悪い金八の行く末も不透明なままで終わっているからだ。

飲み屋の女将だけではなく、金を無心に来る元教え子役の三井弘次さんや義弟役の多々良純さんなど典型的な嫌な大人が登場しているのも、すっきりしない要因のように感じる。

3人に共通しているのは性格のだらしなさと貧困である。 そんな中、元教え子だけは、最後にその身の不遇さが明かされ、同情すべき点があることが観客には分かるのだが、女将と義弟の方は何の説明もないままなので、最後まで嫌なキャラクターで終わっている。

一種の寓話だから省略したとも解釈できるし、現実はそんなものと言う、やや冷めた描き方なのかも知れない。

若い教師が、過ちを犯したベテラン教師の罪をかぶって退職しようとするなどという辺りも、人情と言うより、支離滅裂な行動のように見えなくもない。

ヒロイン役のひばりさんも、父親思いの健気さを強調するためか、子供らしからぬ出過ぎた行動をし過ぎのようにも見えなくもないが、この辺は子供が活躍するアイドル映画だからと言うことなのだろう。

男性担任に代わってクラスを受け持った女性教師が生徒達から全く相手にされていなかったり、ヒロインの姉と友人が婚期を逸していることを気にしていることなど、まだまだ立場が弱かった当時の女性の描や、益本先生が小説家志望という辺りも興味深い。

そんな売れる見込みもない小説家志望の男の元へ嫁いで行くヒロインの姉のことも案じられるのだが、その辺も、子供にとってはロマンに感じるラストとして描かれているのかも知れない。

作品としては普通くらいの出来ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、松竹、山内久+馬場当脚本、瑞穂春海監督作品。

中学の校庭で歌っているのは学級委員の田辺瞳(美空ひばり)とそのクラスメイト達。

迫って来た修学旅行の時に歌う歌を、瞳が歌唱指導をやり練習していたのだった。

歌いながら瞳が先頭になり、電車ごっこのように全員が数珠つなぎになってうんていの下をくぐり抜ける。

そんな中、1人教室の掃除をやらされていた坂田金八(中村正紀)は、担任の益本先生(川喜多雄二)から、まだ終わってないのか?と聞かれ、まだやりかけだったが、もう人の弁当をかっぱらっちゃいかんぞと注意され、帰らせてもらう。

校庭にやって来た金八は、瞳達が歌うのを止めていたので、もう止めたのか、と話しかけて来る。

明日は開校記念日だから…と瞳が言うと、もう1回やれよ!と無理強いして来たので、君は修学旅行に行かないじゃないか!と男の子が金八に文句を言うと、何!と起こった金八が殴り掛かったので瞳が間に入って止める。

渡り廊下にいた瞳の父親で教師の田辺真一郎(日守新一)に近づき、修学旅行用のお金ですと言いながら封筒を渡しに来た益本先生は、掃除をやらしていた金八が可哀想になったので、今まで自分が教室の掃除をやっていたと打ち明けると、金八は、店の菓子や花火を盗んだことを言いつけた子の弁当をかっぱらったんですよ。

でもあの子も気の毒で、家のおばさんが寝坊して弁当も持たせないことがあるんですよと、金八の家の事情に問題があることを教える。

あんな子を見ていると、自分なんか田舎に帰ってへぼ小説でも書いてた方が向いているんじゃないかと思いますと益本先生が弱音を吐くので、帰りに寄ってみるよと田辺は答える。

坂田の家は金八の母親のつや(望月優子)1人でやっている場末の流行らない飲み屋だった。 今日、店に1人呑んでいたのは、阿久津(三井弘次)と言う、田辺のかつての教え子だった。

阿久津は、惜しい!この辺は良くなる!共同出資して店を広げれば絶対儲かる!僕は業界新報の阿久津だよ!とつや相手に儲け話を吹き込んでいた。

そんな飲み屋の前に瞳と金八を連れ近づいて来た田辺は、お父さん、おばさんに会うの?金ちゃん、約束破ったら私が髪切るからって言ったら、瞳を坊主にさせたくないからと約束したのよと瞳が後ろから声をかけられたので、じゃあ、止めようね、坂田、もうやらないね?と優しく金八に諭す。

すると金八は、多分…と曖昧な返事をするので、益本先生の心配しているから、君は男なんだから、何があってもやけを起こしちゃいかんよと田辺は言い聞かせる。 その話し声で気づいたのか。

また何かやったんですか?本当にその子と来たら…と他人事のように言いながら、つやが店先に姿を現す。

田辺は、最近良い子にしているから褒めてたんだよとごまかすが、つやは、金ちゃん、今日は忙しいから遊んでおいで、夜は中華楼で食べとくんだよと言いながら金を出そうとするので、家に行こう、瞳と遊んでろ、ご飯もずっとおいしいぞと田辺が金八に声をかけ家に連れて帰る。

家には、瞳の姉の光子(藤乃高子)が、亡き母に代わって食事の準備をしており、久々の家庭揃っての夕食に金八は喜んだらしく、嬉しそうにご飯を頬張る。

そんな金八に田辺は、良く噛んで食べるんだと優しく言い聞かせる。 そんな所へひょっこり顔を出したのが阿久津で、お食事中でしたか?と阿久津は恐縮するが、どうした?バカに元気がないじゃないか…、何年振りかな?と珍しがった田辺は、美津子に茶を出させ、二階へ阿久津を招き入れる。

そんな阿久津の様子を見ていた金八は、大変だね、毎日お客さんがあってと言うので、瞳は、教え子だけで1万5千人いるので、その人たちが毎日来たとすると、1日40人以上来ることになるわなどと答える。

阿久津が会社の金を使い込んだと聞いた田辺は、そんなにお金をずるずる使い込んだんじゃね…と呆れる。

友人が金に困っていまして、おふくろが長患いだし、兄弟が3人もありまして、なまじっか自分も貧乏の味を知っているものですから、つい同情して会社の金を使い込み、6万も穴を開けてしまいまして…と阿久津が説明するが、その金額を聞いた田辺は、私には用立てする力がない…、来月になれば定年退職するので退職金が入るのだが…と気の毒がると、帳簿の検査が今週の金曜日にあるので…、先生、今度1度だけ何とかならないでしょうか?と阿久津は困りきったように頼んで来る。

それでも田辺は、どうにもならんのだよ…と困惑すると、こちらこそご無理なお願い致しまして…、嫌なお話でご無理を言いましたと頭を下げ帰ろうとする。 そんなかつての教え子を哀れんだのか、私の自由にならん金だが…と言い出し、6万用立てしよう。

今が一番大切な時、せっかく私が世話した今の会社を辞めたら、君も私も大変なことになるよ…、表で待っていたまえと言うと、一旦、阿久津を外に出す。

外でタバコを吸おうとした阿久津だったが、すぐに戸が開く音がしたので、慌ててタバコとマッチを捨てる。

金の入った封筒を持って来た田辺は、それを阿久津に渡すと、誰にも話さんから…、元気でな…と言って、頭を下げ帰って行く阿久津を見送る。

その後の日曜日、瞳は自宅に集まった同級生達と、修学旅行用のパンフレット、旅のしおりを作る相談をしていた。

担任の益本も参加していたので、美津子は日曜だというのに大変ですのねと同情すると、僕はこんなのが楽しいんですよと益本は笑う。

そこへやって来たのが、PTA会長の娘で美津子の友人の冽子(草間百合子)で、チビ達集まっているんだって?益本先生も来てるんじゃないのなどと光子をからかう。

アイスクリームをごちそうしようと思ってもって来たのと言うと、益本先生を呼んで、アイスクリーム製造機のハンドルを回させる。

冽子も話し合いの中に入ると、光子と益本先生をわざと2人きりにしてやった冽子の作戦に気づかない瞳が、悪いわ、先生に手伝わせて、私も手伝うわと言って立ち上がって台所の方へ行こうとしたので、瞳はその手を握ってウインクする。

その頃、田辺は、阿久津が勤めている業界新報社に来て編集者と会っていたが、阿久津君に金を貸すなんて…、社でも給料止めているんですよと言われ愕然とする。

その帰り道、ばったりであった益本先生が、どうしたんです?顔色悪いですよと言うので、旅行貯金を無断で貸したんだが、1週間の約束が15日立っても音沙汰がないので勤め先に行ってみたら、辞めてどこかに行ってしまったんだよと田辺は打ち明ける。

そんなこととは知らない瞳は、良いお父さんを持ったら心配だわ。お姉さん、賭けしましょうか?お父さんがお酒を飲んで来るか?「箱根の山」を歌って来るかどうか?などと光子と冗談を言い合っていた。

その頃、益本先生は、校長に話せばきっと何とかなりますよと田辺に話していたが、校長は私を許すかも知れないが、その子は一度過ちを犯しているんだ…、今度のことが分かったら、その子は二度と制動には戻れないかも知れないんだ…、せっかくの退職金をこんなことでなくすとは思わなかったが、後一ヶ月後には退職金が入るんだ。

後、開校記念日にはわしが永年勤続者として表彰されるなんて心苦しいんだよと田辺は胸の内を明かす。

その開校記念日の日、田辺は、教育委員会とPTAより表彰状と記念品を校長から渡されることになる。

生徒として校庭に並んで出席していた瞳も嬉しそうに拍手する。

すると校長は、田辺先生の長年の功績に鑑み、今月末の定年を3カ年延長することに青木教育委員長が同意してくださったと言い出したので、田辺は驚く。

当てにしていた退職金が今月末にもらえなくなったのだ。 開校記念日の後、ご一緒に帰ろうとお待ちしていたのに…と、校庭の隅に隠れるように立っていた田辺に益本先生が近づくと、私は自分が恥ずかしいよと田辺が落ち込むので、校長と教育委員長に行った方が…と益本は勧める。

しかし田辺は、私は25年間、子供だけに尽くして来た。明日、私は、校長に全てお打ち明け、自分の不始末として退職届を出す。

今日は瞳の赤いゴム靴を買って帰るよ。

あの子も、黒いゴム靴は嫌だ何て言う年頃になったんだと言うと、益本先生と一緒に帰路につく。 その夜、田辺は、蚊帳の中で無邪気に寝ている瞳の寝顔をじっと見つめていた。

翌朝、瞳は、遅くなるわ!と一緒に登校する父親を急かすが、田辺は出かける前に、亡くなった妻の遺影に目をやる。

瞳、お父さん好きかね?レインシューズ買ってやったからかね?もし買ってやれなくても好きかねと、学校へ向かう船の中、珍しく田辺がそんなことを聞いて来たので、瞳は、当たり前じゃないと不思議がる。

学校へ来ると、修学旅行へ行けなくなったよ、益本先生が旅行のためのお金を人に上げてしまったんだって。益本先生は学校を辞めて田舎へ帰るらしいと男の子が言うので、瞳と田辺は驚く。

職員室へ向かい、益本先生を別室に誘った田辺は、出過ぎたことをしてすみません。

夕べ一晩中考えたんです。

毎年出て行った何万何千と言うこのために、自分と先生とを比べて考えたんです。

自分は田舎へ帰ってへぼ小説でも書いた方が向いていると思いますと益本先生が言うので、益本君、ありがとうと礼を言うしかなかった。

一方、瞳の方は、修学旅行へ行くため、牛乳売りや納豆売りをしてまでお金を貯めた子もいるので許せない。

抗議文を益本先生に持って行くように言われた瞳が、私、嫌だわ、これまでお世話になった担任の先生に抗議文を持って行くなんてと渋っていた。

職員会議には、PTA会長の後藤(北竜二)も出席しており、我が校に田辺先生を始め高潔な先生を持ちえたことを感謝します。

この中にこのような不名誉な人間がいたとは…と発言していたが、それを聞いていた田辺は針のむしろに座らされているような気持だった。

そこに瞳がやって来て、これ、益本先生にクラスからの抗議なんですと言って、校長に手紙を渡す。

それを受け取った校長は、受理しますかな…と出席者達の顔を見回すが、わしが読みましょうと後藤がその抗議文を受け取って読もうとする。

その時、待ってください!後藤さん!と発言したのは田辺だった。

それを聞くべき相手は私ですと名乗り出たので、 28年間、私は生徒達に正道を教えてきました。

ジョージ・ワシントンが、桜の木を切り倒したのを自分がやったと打ち明けた正直さが、やがてアメリカの独立に繋がったのだと言う話を幾千もの生徒に教えてきました。

しかし、私は、純情な益本君の好意に甘えようとしました…と田辺が話しだしたので、後藤は、後輩をかばう気持は分かりますが…と戸惑う。

私は辞表を持っております。ご存分の処置を覚悟しております…と田辺は打ち明ける。

その日の夕食時、ショックのため食が進まない瞳に光子が、いつまでもしょんぼりしていたらうらなりになるわよと言い聞かせるが、いらないの…と言うと瞳は席を立つ。

そこに義兄さん、ご無沙汰しましたとやって来たのが、田辺の妻の弟の池田(多々良純)で、バカに湿っぽいじゃないか?と瞳達の暗い表情を見て不思議がる。 わしが学校を首になったんだ、しばらくはル○ペンだと田辺が教えると、PTA会長がやっている信託会社に勤めるんでしょう?と池田は聞く。

行けないと田辺が答えると、無理なお願いに来たんだが…、ミッちゃんや瞳ちゃんがいるんだから元気を出してくれよと期待はずれのような顔で池田は帰って行く。

翌日、瞳は後藤に、おじさんだけが頼りなんですと父親の就職をさせてくれと頼みに来るが、うちの会社は信用第一だから…、立場上、引き受けられないんだと後藤は断る。

益本先生は光子に会いに来て、やはり田舎に帰って小説を書くので、一緒に田舎に行っていただけないかと気持を伝えた上で誘うが、父や瞳を置いて、私一人で行くことはできないないんです。私だけが頼りなんです…、瞳も寂しがり屋ですし…と光子は哀しげに断る。

それを聞いた益本先生は、僕は何も言わずに行くべきだったかも知れない、あなたを苦しめるような結果になって…、ごきげんよう…と言い残し帰って行く。

1人家に残った光子は泣き出す。

田辺家から帰る途中で、益本先生は瞳と会ったので、塩竈にまた帰るよ、お父さんには孝行するんだよ、金八君にも宜しくと伝える。

家に戻って来た瞳は、益本先生帰るそうよと教えると、明後日お発ちになるそうよと光子も承知していることを明かす。

お母さんが生きていらしたら良いのに…、すぐにお嫁さんに行けたのに…と瞳が言うと、お母さんがいなくて一番寂しいのはお父さんよ。私たち2人一緒なら寂しくないわと光子は気丈なことを言う。

瞳も一生懸命やるわと答え、奥にいた田辺にお食事と呼びに行くが、田辺は新聞の求人広告を切り抜こうとしている所だった。

翌日から田辺は数カ所、求人の場所へ向かってみるが、どこも断られる。

一方、瞳も学生アルバイトをさせてくれと職業安定所や街の食堂を訪れるが、まだ中学生には無理だと断られてしまう。

その頃学校では、学級委員なのに休みがちになって来た瞳を辞めさせようとする生徒と、慰めてやろうと言う金八達に意見が別れ始めていた。

結局、瞳に同情したのは金八と寿司屋の息子池谷だけだったので、みんなおたんこなすばかり揃ってやがる!と金八は憤慨する。

そこに瞳が来たので、君に学級委員辞めてもらうことになったんだと男の子が伝える。

瞳は、残った金八と池谷に、休んでいたのは、働く所を探していたからだと打ち明ける。

私のうち、今貧乏になりかけなの…、どこか働く所ないかしら?と瞳が言うので、池谷、お前んち寿司屋じゃないかと金八は言い出すが、うち、給料安いから…と池谷は考え込む。

光子の元に久々にやって来た冽子は、ホルモン!蒲焼きよ!と言って土産を渡すと、こちらに伺うの、オヤジが嫌な顔するんですもの…と弁解し、光子が内職で仕立ててていた振り袖の注文主が成橋さんと聞くと、いよいよあなたと私だけね、売れ残ったの…と冗談を言う。

すると、部屋にいた田辺が、光子もそろそろ嫁がんとな…と口を出して来たので、光子さんならきっと良い所へ行けますわと冽子はお世辞を言う。

ところが、その言葉で自分のふがいなさに気づいたのか、裏庭の盆栽の所へ田辺が引っ込んでしまったので、あら?木になさったのかしら?と冽子は気遣う。

寂しいもんだから、すぐ考えすぎるんでしょうと光子が言うので、おじさま、いつも子供達と昆虫採集なさっていたじゃない!と冽子は田辺に気晴らしをするように勧める。

しかし田辺は、今年は、子供の方が集まって来ないんだと寂しげに答える。

そこに瞳が帰って来たので、明日、多摩川に友達を誘って来てと冽子は頼む。 その後、池谷が祭りに誘いに訪ねて来て、外に出た瞳に、お茶汲みや出前もやってもらうけど良いかい?田辺先生、承知してるのかい?瞳ちゃんが働くこと…、母さんがそのことを気にしてるんだと言うので、大丈夫よと瞳は嘘を言う。

祭りに来ると、他のクラスメイトもいたが、みんな瞳の姿を見ると逃げ去ってしまったので、気にしちゃダメだよと池谷は瞳に言い聞かせる。 祭りから寂しげに歌を歌いながら一人帰る瞳は、下駄の片方の鼻緒が切れてしまう。

次の日から、瞳は、そろばんを習いに行くと父と姉に嘘をつき、陽気な歌を歌いながら働く池谷の父親(川田晴久)の店で手伝いを始める。

そんな瞳が、寿司桶を持って出前に出ようと店の前に出た時、通りかかった池田に見つかってしまう。

慌てた瞳は、うちの人には内緒にしてね、働いていること…、塾でそろばんを習っているって言ってるの、本当に言わないでね、おじさんと頼む。

その夜、寝床に入ってもなかなか寝付けなかった瞳は、姉さん、さっき昆虫採集に友達を誘うよう冽子さんに言われたんだけど、一度みんなを誘うとしたの、でも誰も来なかったのよ…と光子に打ち明ける。

お父さんが本当に寂しそうだったから、後藤さんの姉さんあんなこと言ったんでしょうけど、嫌な思いして子供を呼ぶことないのよと光子は慰める。

翌日登校した瞳だったが、廊下で出会ったクラスメイト達は瞳を無視する。 教室に入ろうとすると、仲から言い争う声が聞こえて来る。

どうやら、修学旅行用のパンフレット製作から瞳を除外しようと言う話のようだった。

澄川という女子と言い合いをしていた金八を止めながら部屋に入った瞳は、澄川さん、パンフレットはあなたに頼むわ、合唱指導も他の方にやってもらうと言うと、お父さんもみんなが来てくれるのを楽しみにしているの、いつでも良いの、家に来て!1度きりで良いのと頼む。

そこに、益本先生の代わりに担任になった女性教師が朝礼が始まりますよと呼びに来るが、瞳が泣いていることに気づいて、どうしたの?と不思議がる。 瞳の熱意が通じたのか、昆虫採集に子供達が集まり、田辺も嬉しそうに同行する。

瞳も歌いながら楽しそうだった。 そんな中、冽子が自分用の晴れ着を光子に頼みに来る。

受け取った光子も複雑な気持は押し隠し、これを着てあなたはすました顔で三三九度を呑むのね、あいてはヒゲなんか生やしているんじゃないの?などと冗談を言う。

すると冽子は、そんなんじゃないわ、パン屋の若旦那よ、付き合う時間が短いので、今の床と懸命に付き合っているのとのろけて帰って行く。 悔しいから玄関まで送ってあげないわよと嫌みを言った光子だったが、冽子が帰るとまた泣き出す。

そこにやって来たのが池田で、お父さんいないのかい?留守かい…、弱ったな…、みっちゃん、これあるか?と酒を無心して来る。

ないわ、お酒なんか、父さん、ぴたりと呑むのを止めたのよと光子が言うと、姉さんが生きてた頃はきらしたことなどなかったんだがな…と池田が愚痴る。

そんな池田が寝そべって帰りを待っていると、田辺と瞳が昆虫採集から帰って来る。

池田は、義兄さん、良い口があるんですと切り出すと、うちの会社の取引先の倉庫の事務を探しているんですよと勤め先のことを言うので、田辺は大いに喜び、ぜひ頼んでくれと言う。

ところが池田が、先方の人事係と懇意なんで、ちょいと鼻薬を効かせれば…、不明朗な契約みたいだが…と言い出したので、田辺の表情は一挙にくもり、考え直してみたいと答える。

今の世の中、屈辱的にならないと…、瞳ちゃんがあんなことやっているのは外聞悪いんじゃないですか?などと池田が言い出したので、となりの部屋にいた瞳は驚き、光子も田辺も唖然とする。

金寿司って言う店で働いているだけなんだと池田が言うので、毎晩、そろばん塾に行っていたというのは嘘だったのかと田辺は瞳に聞く。

あんまり瞳ちゃんが可哀想で、黙っていてくれと言われたのを破っちゃったんですがね…などとしらっと言う池田に、帰ってくれたまえ!と田辺は言う。 考え直したら来てください。

向こうの人事係にちょっと呑ませるだけの金なんですがね…、惜しいな…などとぼやきながら池田は帰って行く。

瞳が、お父さんごめんなさいと謝ると、お父さんにお前を叱る権利はないかも知れないが、子供には子供らしくして欲しかった。

お前に対してお父さんは恥ずかしいんだ。 これからは、黙ってよそで働くなんてよしなさい。

お父さん、お前に働いてもらいたくないんだと田辺は言い聞かせる。 池田のおじさんの話、本当かしら?と光子が聞くと、子供の約束を破るような男だ、ただの金の無心かも知れんと田辺は答える。

しかし、瞳は翌日、学校の女性先生に、修学旅行用に積み立てた貯金を下ろしてくれと頼みに行く。

お父さんは承知なんですか?と女性教師は瞳に確認するが、そこへ掃除が終わりましたと報告に来たのが金八だった。

金八は、積立金を返してもらう瞳を目撃し、瞳ちゃん、何故修学旅行へ行かない?と外で聞く。

行きたくないわと瞳が答えると、行きたいくせに!子供は素直にならないといけないぜと金八は見破り、おれ、やろうと思ってる事があるんだ!と言い出す。

金八が野郎としていたのは、賽銭箱泥棒だった。

すぐに警察に捕まり、身元引き受け人として、田辺と瞳、母親のつやが警察署に来る。

田辺は情状酌量をお願いしますと署員に頼み、瞳も、署長さん、坂田さんを許してくださいと頼むので、わしは署長じゃないよと署員は苦笑する。

悪いこと絶対しないと約束できるわよね?と瞳が聞くと、金八は又しても、多分…と答える。

今度だけは許してやる。こんな優しいお嬢さんの友達がいるじゃないか、心を入れ替えるんだと署員は金八を釈放してくれる。

警察からの帰り道、瞳のことを心配してくれてありがとう。

坂田、先生が何故辞めたか知ってるだろう? この年になって悪いことをやってしまった…、お互い始めからやり直そう…と田辺が言い聞かせると、金八は泣き出す。

それを見た母親のつやは、嫌ですよ、先生、こんな所で巧いこと言って子供を泣かすなんて!と文句を言って来る。

帰宅した田辺は、待っていた光子に、釈放されたよと金八のことを教えると、瞳が積立金を姉さんに渡したそうでね…、お前を旅行に行かせるくらいの金、何とでもなると瞳に言う。

父さんは行って来て欲しい、今年父さんは行かれないから、向こうの様子をしっかりお前が見て来て上手に話して欲しかった。みんなが寂しがるだろう。明るい気持になるんだと田辺は言い聞かせ、子供の頃の旅行って一生の思い出よと光子も勧める。

その後、光子と2人きりになった田辺は、時計でも売るか…、金八も一緒にやってやらにゃいかんだろうし…と呟く。

行く、行くと言いながら、おまえを歌舞伎座に連れて行ってやれなかった。

その内、歌舞伎座だけではなく、外国へでも連れて行ってくれる立派な人を見つけてやる。

お父さん、きっとお前を幸せにしてやるぞ!と田辺は光子に言葉をかける。

その後、瞳と金八は、無事に修学旅行に参加して、列車と船で松島見物をする。

旅館では、布団を並べた部屋で瞳が得意の歌と踊りを披露し、やがて枕投げが始まる。

女性先生が叱りに来るが、先生の姿が見えなくなるたびに騒ぎは再開するので、いい加減にしなさい!と担任は怒りだす。

そうしているうちに、誰かが投げた枕が窓ガラスを壊してしまったので、女をバカにしているくせに、男のくせに何故名乗り出て来れないの!と女性先生は犯人探しを始める。

池谷が疑われるが、瞳は、池谷さんじゃありません、でも誰だか分かりませんと口出ししたので、池谷と瞳が呼び出しを食らう。

すると、僕がやりましたと男の子が名乗り出たので、3人が別室に呼ばれ、宿の番頭に詫びを入れることになる。

番頭は、ガラスの1枚や2枚、私の方も覚悟していますと寛容さを見せ、坊ちゃん達はそのくらい元気な方が良いなどと言ってくれる。

そして、こちら田辺先生のお嬢さんですな?と瞳に気づくと、先生はお元気ですか?毎年生徒さんと一緒にお泊まりしてくださったのに…、私が残念がっていたと言ってくださいねと言いながら、女中が持って来た貸しを子供達に勧める。

先生もどうぞと言ってくれるが、私は結構です!と女性教師は慌てて立ち上がると、様子を見に来た他の生徒達を部屋に戻す。

翌朝の朝食後、瞳に面会人が来ているというので玄関に行ってみると、そこにいたのは益本先生だった。

先生の許可燃えているからちょっとそこまで出てみようか?と誘われ、田辺先生もずいぶん困ってらっしゃるそうだね?君も心配させたらいけないよなどと益本は同情してくれるが、何故か光子のことには触れようとしないので、お姉さん、ずいぶん痩せたのよ、病気になるんじゃないかと思うくらい。お姉さんに話すわ、先生に会ったこと…と瞳が気を聞かすと、益本先生は嬉しそうだった。

その頃、田辺の元にやって来た冽子は、今度、同窓会を開くので、先生にも出席していただけない頭と頼む。

しかし田辺は、出るに出られないことをしでかしているかなら…と遠慮して来る。

それでも、北海道や九州からも集まるんですよ。益本先生もいらっしゃるって手紙が来てますの。特別な話があるそうですと冽子は粘り、そうそう、阿久津裕さんという方に会いましたわと言い出したので、驚いた田辺は、ちゃんとした格好をしていたかね?と聞く。

その阿久津は、雨の日、またつやの店で酒を飲んでおり、この見せでも何とかしてくれないと困るよとつやに詰め寄っていた。

いきなり返せなんて言われても…、借りて来たなんて行っているあの金の出所なんて信用できるの?とつやが膨れると、学校の先生が貸してくれたんだと阿久津が言うので、金を貸す先生の顔が見てみたいわとつやは呆れる。

この辺で田辺先生を知らないなんてモグリだよと阿久津は大声を出す。

網島栄通りの飲み屋近くで雨に足止めされていた瞳に、一緒にいた金八が、俺んちで下駄と傘を貸してやると言って店に連れて来る。

だましたの?と店の中でつやが聞くと、甘っちょろいからさ、ガキから預かった金をちょろっと出してくれたよなどと阿久津が自慢げに話しているのを、金八と瞳は聞いてしまう。

阿久津の方も瞳に気づくと、あんた、田辺先生の…と口ごもり、つやも、瞳ちゃん、何か用?お客さんをじろじろ見るんじゃないよと迷惑そうに注意する。

瞳は阿久津に、おじさん、そのお金返してくださいと申し出るが、あの金はくれたのと阿久津が答えると、今言ってたじゃない、騙したって!と金八も一緒になって責める。

おじちゃん、お酒飲んでいるんだ、そんなこと言われたらお酒まずくなるよと近づいて来た瞳に言い返す。

おじさん、返してください、みんな苦労してるんですと瞳が頼むと、マダム、2、3日中に撮りに来るからな!できなきゃ、この店は何とかしてもらうとつやに言うと、しんみりして来たんで帰る!と言い出した阿久津は立ち上がって雨の中店を出て行く。

瞳はその後を追うと、おじさん、私たちそのために学校休んで働いているの!坂田さんは人のためにお金を借りたんですもの、でもおじさんは誰のためでもなくお金を使っている。

おじさん、それで寂しくないの?おじさん、困る人がいるんじゃないの?お父さんのために証明して欲しいのと阿久津に迫る。

しかし酔った阿久津は、冗談じゃねえよ!知ったことじゃねえよ!おじさんは1人ぼっちだからな、さばさばしてらあなどと憎まれ口を叩く。

すると瞳は、私だってのけ者にされ寂しかったの…、大人のこと分からずに酷いこと言っちゃった。お父さんにあっても今日のことは言わないでね、ありがとうと礼を言うので、思いもよらないこと言うな…、オヤジさんってそんなに良いのか?と阿久津は聞いて来る。

ええ、お母さんはいないの…と瞳が答えると、俺はオヤジさんの味を知らないんだと阿久津はしょんぼりする。

私たちの方が幸せなのかもね、ごめんなさい、さようなら!と言うと、瞳は雨の中去ろうとしたので、お嬢ちゃん!先生の証したいのなら、どこへでも行ってやらあ!すぐに連れて行ってくれ!と阿久津は改心して声をかけて来る。

その後、益本先生や校長、そして田辺も出席し、無事に同窓会が行われる。

冒頭、校長は、PTA会長の後藤さんからお話があるそうですと口火を切る。

後藤は、私は田辺先生にお許しいただかねばなりませんと言い出したので、田辺はきょとんとする。

今日までの誤解をお許し願いたいのです。阿久津という青年の話を聞き、先生の清廉潔白な気持を知りました。

阿久津裕に田辺先生がお金を貸していたことを私は誤解していたのです。 かねてからに入社のご希望をお受けしたいと思いますと後藤が言うので、全てが明らかになったと知った田辺は明るい顔になる。

帰り道、益本先生と帰路についた田辺は、上機嫌の時に歌う「箱根の山」を歌っていた。

ねえ益本君、今夜のことと君のことは忘れない。

僕をかばって田舎に行ってしまった。小説はできたかい?と田辺が聞くと、できませんと益本先生が言うので、君も一生貧乏なたちだねと田辺は笑う。

君は特別な話があるそうですね?と田辺が聞くと、実は田舎で縁談の話があったんですが破談になりました。

小説を書いているようでは経済力がないと向こうは思われたようですが、僕の方も向こうを熱望していた訳ではなかったからでしょう。

今度上京したら、光子さんを熱望しようと思っていましたと益本先生が言うので、うん、君!と田辺は感激する。

家では、ミシンを踏んでいた光子に、益本さん、父さんを労っているわなどとうわさ話をしていた。

その時、田辺お得意の「箱根の山」の歌が聞こえて来たので、2人は笑って玄関に出迎える。

お帰りなさい、お父さん! どうだったの、お父さん?と聞くと、行って良かったよ。「箱根の山」を歌いながら帰って来たんだ。

後藤さんがお前達のことを心配していた。 阿久津に会ったことも聞いたよ。 良い娘持って幸せだ。

みんなが私をかばってくれた。 校長先生も握手してくれた。 後藤さんも考え直して会社に入れてくださるそうだと話した田辺は、良い話がお前にもあるぞと光子に言う。

お姉さんの縁談!と瞳がちゃかすと、恥ずかしがった光子は部屋の中で追いかけっこを始める。

そんなはしゃいだ2人に目を細めながら、嬉しい話を聞かせてやるんじゃないかと光子を側に呼ぶと、明日、益本先生がまた出直して来るそうだと伝えた田辺は、お前はいくつになった?と聞く。 15よ!24よ!25はお姉さんの年だった!お姉さん、明日、益本先生うちに来るんだって!とおどけて答えた瞳に、又光子が怒って追いかけ回す。

その様子を見ていた田辺は、光子にこれまでかけさせた苦労を思い出したのか、いつしか涙ぐんでいた。

翌朝、益本先生が光子を連れて田舎へ向かうので、田辺や瞳、クラスの同級生達が船着き場に見送りに来ていた。

お前、船に弱いが大丈夫か?と光子を案じる田辺。

瞳達は全員で歌を歌って、旅立つ2人を見送るのだった。
 


 

 

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