全く未知の作品だったが、橋本忍原作、脚本と知り、ちょっと期待して見てみたら期待を裏切らぬ傑作だった。 元々は芸術祭文部大臣賞を受賞したTVドラマの映画化らしく、今見ても出来が良いのは分かるが、全く知られていないと言うのが不思議である。 ある世代の人には有名な作品なのかも知らないが、不勉強ながら今までこの作品の名を聞いた事がなかった。 逆に言えば、まだまだ日本映画には面白い作品が世間に知られないまま眠っている事になる。 法律の裏をかくのを嫌がった本質的に真面目な人物が、法律の穴を見つけ出し、捜査二課も簡単には手を出せない金融会社を起こし大成功をおさめる…と言う話に、その犯罪性を立証しようと何年にも渡って地道な捜査を続ける平凡な刑事が追いつめる話が平行して描かれている。 経済ミステリとでも言うようなジャンルなのかも知れないが、刑事がトリックを見破るようなタイプの話ではない。 ひょんな事から始めた事業が予想以上に大成功し、思わぬ大金を掴んだ男が、金で政治家を始め、世の中のあらゆる物を支配できると信じるようになり、やがては自滅してしまう犯罪話と言った方が近いかも知れない。 やはり、一部の専門知識を知っている人でなくては理解できないようなトリックでは、広く一般庶民には伝わりにくいからだとも思う。 金の魔力に取り憑かれ、世の中を全て牛耳りたいと思うようになった主人公を佐田啓二さんが演じている。 この頃の佐田さんは、単なるイケメンイメージではなく、本作のような悪を演じるケースが増えていたのか、主人公に絡む女性は見事なくらい1人も登場しない。 その穴を埋めるように、その主人公を追う刑事役を演じている伊藤雄之助さんの方には、藤間紫さん演じる色っぽい飲み屋の女将とのよろめきシーンが用意されているのも面白い。 佐田さんも巧いし、対する伊藤雄之助さんも達者で、さらに、宮口精二、殿山泰司、三井弘次、織田政雄と言った達者な脇役がドラマを支え、浦辺粂子さん演じるおばあちゃんも印象的。 「ALWAYS 三丁目の夕日」のように、始めてテレビが家にやって来るエピソードが登場するのも興味深い。 当時は、映画のように部屋の灯りを消して画面を見ると見易いなどと言った描写が面白い。 ブラウン管はスクリーンの映像のように反射光ではなく、直接に発光しているので、この状態で長時間見続けるのは目には悪かったと思う。 事件を追う刑事を籠絡するため、金融会社側が色々仕掛けて来ている罠に気付かず、刑事が何とかそれらを逃れた一因に、かねてより祖母が言い聞かせていた「世の中、いろはガルタ通りにやっていれば間違いない」と言う教えがあると言うのも粋である。 最後の国会議事堂の外観に象徴されるような政治家風刺の側面もあるが、全体としてはその風刺性は弱いように思える。 政治家風刺はいつの時代も庶民が喜びそうな視点ではあるが、当たり前すぎて意外性がないからだと思う。 やはり、金に翻弄される人間の弱さ、庶民の弱さと言う部分が一番胸に突き刺さる部分である。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1960年、松竹、橋本忍原作+脚色、国弘威雄脚色、中村登監督作品。 この物語に登場する人物で実在する人間は1人もいない。全部作り話である。(と言うようなテロップ) 馴染みの飲み屋で1人飲んでいた警視庁捜査二課の松本刑事(伊藤雄之助)は、女将のおよね(藤間紫)目当てで通っていたのだが、いつも「いろはガルタ」の文句を呟くのが口癖だった。 そこに馴染みの新聞記者2人が乗り込んで来た「投資経済会」の理事長天野竜一に2年もかかり切りだそうですが、最近天野は政治家にあって色々やっているらしいですね?などと絡んで来たので、何も掴めないんだとあしらい、逃げるように店を出ると、いろはにほへと~♩と節をつけて歌いながら帰路につく。 タイトル 酔って帰る途中の松本は、壁に貼られていた「投資経済会」のポスターを見つけ、面白くないと言う顔で引きはがす。 「投資経済会」の本社には客が押し寄せ、3ヶ月満期で月3分の利息と言う窓口での従業員の説明を嬉しそうに聞いていた。 今や「投資経済会」は、全国の加入者20万人、出資金総額は70億にもなる投資銀行とも言うべき大きな会社になっていた。 社長室にいた秘書課長の磯辺(三井弘次)は、かかって来た電話に出ると、理事長は本日、ずっとご予定がつまっていますと相手に伝える。 新しい野球場建設計画の会合では、天野の到着を待っていた高森(佐々木孝丸)ら大企業の代表らから、「投資経済会」やその理事長の天野を怪しむ声が上がっていた。 「光クラブ」の巨大なものみたいなもので、資金源として当てにするのは危ないのではないかと言う危惧だった。 しかし、「投資経済会」理事長の天野竜一(佐田啓二)は時間通りに部屋に現れると、その場に集まっていた有名企業の代表者達に、この野球場計画と言うのは営利事業なのか公共事業なのか?と鋭い質問を浴びせ、一口200万と説明を受けると、2億出させていただきましょうと即答し、あっけにとられた代表を残し、そそくさと部屋を出て行く。 次いでやって来たのは新しい電鉄路線計画の会場だったが、太平電鉄社長(北竜二)を前に天野はきっぱり断り、工事の難航が予想させるので、20万の大衆会員から預かっている大事な金を出す訳にはいきませんと即答する。 一方、松本刑事の方は「投資経済会」に金を預けた庶民一人一人から事情を聞いて回っている最中だった。 その後、政民党の大崎(柳永二郎)と会った天野は、僕は最下層を生きて来た男です!と訴えていた。 大崎はそんな天野に、君の目の黒い内は「投資経済会」は潰れんよとお世辞を言う。 それでも法律で保護してもらいたいんですと天野が頼んでいたのは「投資銀行法案」のことだった。 「投資経済会」も銀行と同じように潰さないと言う法案を何とか国会で成立させて欲しいと頼みに来ていた天野は、その場で1000万の小切手を大崎に渡しながら、次の通常国会に間に合うでしょうな?と確認する。 早く立法化しないと捜査二課が動いてします、まるでモグラのようにこそこそとね…と天野は説明し、大崎から領収書を受け取る事も忘れなかった。 松本刑事と一緒に、「投資経済会」に投資した人たちの聞き込みを行っていた芥刑事(諸角啓二郎)が合流し、みんななかなかしゃべらないと報告する。 松本刑事は、側の板塀に張られていた「一口1000円、月3分の配当」と言う謳い文句が書かれた「投資経済会」のポスターをじっと見ていた。 芥刑事は、天野って評判が良いんです。独身で女関係はないですし…、雲を掴むようで…、どんな動機でこんな事業を始めたんでしょう?と言うので、いずれ調べる!と松本刑事は答える。 (回想)昭和23年 「平和マーケット」と言う闇市で、磯辺は3つのタバコの箱を使ったデンスケ賭博をやっていた。 ある日、兄貴!サツだ!とチンピラ(小瀬朗)が知らせに来たので、慌てて路上の店を畳み、近くの射的上に逃げ込んだ磯辺は、そこで射的をしていた天野に、巧えもんだなと声をかける。 ミソの買い出しに行って、サツに引っ張られたんだってな?巧い儲け口があるんだ、一口乗らねえか?と磯辺は誘うが、法律の裏をこそこそ潜るような奴は嫌いなんだと天野は興味なさそうに断る。 ある日、銀行に金を借りに出かけた天野は、お得意でないと…とあっさり断られてしまう。 がっかりして銀行を帰ろうとしていた時、そこにいた旧知の西垣(宮口精二)を見かけ、驚いて声をかける。 西垣も奇遇を喜び、10日程前に、疎開先の新潟でくすぶっていてもしようがないので出て来たのだと言う。 西垣は天野に、今何やっているんだ?ブローカーか?と推測し、借金を申し込みに来て断られたのか?と今の状況を当ててみせると、君が銀行から借りるのはおかしいじゃないか?かつては800人の保険の勧誘員の中で誰一人君に勝てるものはいなかった。 君がやるべき事は金を集める事じゃないのか?と、銀行を出て近くの店でかき氷を食いながら話す。 利息を銀行より高く金を集める?そんな事出来る訳ありませんよと、天野は西垣の提案を聞き答える。 その後、天野は、西垣が間借りしていた代書屋の黒河(殿山泰司)の店の二階へ来て、話の続きをしていた。 金は集まりますよ、利子が高ければ高いだけね…と、2人は寝転んで考えていた。 法律の裏をこそこそ潜るような事をやってもたかが知れてますと天野が否定的なことを言うと、西垣は、カネさん!と黒河を二階に呼び、あんた代書屋なんだから法律は詳しいだろう?万一やり損なっても御用にならんような法律はないかね?と聞くと、そんな都合の良い法律があったら苦労せんよと黒河は呆れたように答える。 諦めて代書屋から出て来た天野は、待ち受けていた磯辺に捕まり、顔を貸せ!とマーケットへ連れて行かれる。 そこにはミソを買う資金を出した商人(中村是好)が3人待っており、磯辺は、このマーケットであこぎな真似をしてもらいたくないと凄んで来る。 素人衆相手にミソを買うと言って、ミソも持って来なければ金もない?サギで訴えようか?と磯辺が言うので、金を借りた覚えはない。 信州味噌を買えば売れるんじゃないかと思い、金を出し合い買いに行った所、手違いで経済警察に買ったミソを差し押さえられてしまっただけだ。 金はみんなで出し合ったのに、損した時、どうして僕1人かぶらなくちゃいけないんだ!万一共同事業だったとしても損害が…と反論していた天野は、共同出資…?と途中で口ごもり、そのまま唖然としている磯部達を無視し、市場に出て行ってしまう。 黒河は、西垣の部屋に戻って来た天野から聞いた話を裏付ける法律がないか、必死に六歩全書をひも解く。 その時、下から黒河の妻が、天野さんにお客さんだよ!と呼ぶ声がしたので降りてみると、そこにいたのは磯辺で、すまねえ、謝りに来たんだと言う。 あれからみんなと話したんだが、あんたの言う事が正しいと思えて来たんだ。丁半博打でも金を組が出す事がある。代表が勝負してすってんころりん大損したからと言って、元手を返せとねじ込む奴はいねえと磯辺は言う。 詫びの印に指を詰めるから…などと磯辺が言い出したので、馬鹿野郎!親からもらった大事な身体だ、大切にしろ!と天野は諌める。 電車が近くを走り過ぎた夜、まだ天野、西垣、黒河の3にんは六法全書とにらみ合っていた。 やがて536条と538条を読み上げた黒河は、匿名組合員から集めた金は営業者の財産になり、損失により減じられる事はないし、組合員は請求する事が出来ないと言う法律の穴を見つける。 天野は窓からじっと夏空を見つめていた。 それから数日後、地方の三坂と言う裕福な農家をスーツ姿で訪れた天野と磯辺は、議員の桜井先生が顧問をしている「投資経済会」と持ちかけ、この地方に支店を作る時には支店長を三坂さんにと推薦されましたとおだてる。 三坂は話に乗って来たのか、2人に吹かし芋を勧める。 一方、西垣は、漁村を回る途中、堤防で握り飯を食いながら、さすが天野だ、地方の農村や漁村を目に付けたり、わずかの顧問料で落選議員を顧問にするなど大したものだと感心し、まだ不安がっている黒河に、君だって「投資経済会」の理事だぜ、カネさん、弱気はいかんよとなだめる。 その後も磯辺は、一口1000円、月1割の利子を謳い文句にした「投資経済会」のビラをチンドン屋と一緒に配っていた。 新聞広告も乗せ、いつしか「投資経済会」は日本橋本店を開設するまでになる。 今や支店は230カ所、従業員2000人を誇る巨大金融業にのし上がっていた。 捜査二課に戻って来た松本は、仙台のは事件にならなかった。 警察の黒星になったよと係長から聞かされる。 最近この部屋から手柄がない。「投資経済会」の内偵を始めて2年半になるからね。元々この事件に目をつけたのは君だ。 そろそろめどをつけてもらいたいねと係長は松本に苦言を呈する。 少年達がキャッチボールをして遊んでいる道の前の松本家の縁側では、県人会の近藤さんからもらった国際劇場のチケットを2枚見せながら、返せって言うのよ、悪いのは兄さんよ、人を見たら泥棒と思えなんて…と、松本の妹美沙(城山順子)が母親の満子(桜むつ子)に愚痴を言っていた。 奥の部屋では、祖母のミネ(浦辺粂子)が松本の娘と一緒にいろはガルタをして遊んでいたが、世の中の事は、いろはガルタ道理にやっていれば間違いないんだよと口癖のように言っていた。 美沙が出かけようとすると、外で遊んでいた松本の長男の正一が戻って来て、おばちゃん、帰りに今川焼だよなどと土産をねだって来たので、ダメよとあっさり断る。 出かけて行った美沙の事を気にかけていたミネは、美沙の結婚式いつになるのかね〜と案じる。 満子は、鹿島さんの問題でしょうと答え、洋一がいろはにほへと〜♩と歌っているので止めなさい!と注意する。 すると正一は、お父さんがいつも歌っているじゃないか!と面白くなさそうに口を尖らせる。 「投資経済会」の社長室では、72億か…と今集まっている出資額の合計額の大きさに、西垣や天野が感心していた。 そこに、モグラが動いてますよと磯辺が報告に来る。 油を流して、モグラを動かせんようにせんと…と西垣が苦りきったような顔で言う。 警視庁も忙しいのにご苦労だな…と天野も苦笑しながらも、全国からの出資金が72億の中から、今手を引いたとしても、有価証券などを全部返しても5億、雑費を見ても4億5000万は残るのと磯辺に話しかける。 それを聞いた西垣は、本当にそんな気があるのか?と西垣は天野に確認し、黒河君と先日から話し合ったんだが、ここで引き下がっても1人1億1200万手に入る。 一山のつもりが二山も三山も儲かったんだ、ここらが引き時かも…と言うと、僕は辞めない!仕事はこれからですよと天野が言うので、これ以上何をやる?と西垣が問いかける。 金の力は恐ろしい。金の前ではどんな有力者も頭を下げる。 今、世の中を動かしているのは金だ! 政治も道徳も金で動かせる。 一番多く金を持った者が勝つ!かき集められるだけの金を!と天野は陶酔したように話す。 その時、電話がかかって来たので磯辺が出ると、顔色が変わって行く。 ニューヨークで株が大暴落だ!と磯辺は天野や西垣に伝える。 日本でも株が大暴落し、兜町の証券会社などは閑古鳥が鳴く事態になる。 そんな中、活発に動き回る松本刑事と芥刑事。 ダウ平均で半分以下になった今、「投資経済会」も30億は損しただろうと言う話を証券会社で芥は聞き込む。 芥刑事は、松本さん、いよいよ尻尾を掴みますよと報告する。 しかし、天野は、新たな資金の当てがあると社長室で西垣達に説明し、黒河に1000万の小切手を用意させる。 「投資銀行法案」の成立を想定していた天野は、政府も銀行を潰す訳にはいかないだろうと呟く。 西垣も、月間目標を6億にしようと対策を打ち出す。 その時、何かを考え込んでいた天野が、もう一つ何かある…、大事な事を忘れていた。 モグラだよと言い出し、渉外課長の三宅(織田政雄)から最近の捜査二課の動きについて詳細な説明を聞くと、モグラの工作を進めた方が良いねと三宅に命じる。 ある日、帰宅した松本は、家族で今までなかったテレビを見ているのに気づき、どうしたんだ?と聞くと、買ったのよと満子が言う。 前島?と松本が満子が言い出した名前を確認する。 前にあなたが助けた自殺未遂の行き倒れの人よ、今はキョクトウテレビの技術員をしているとかで近くに来てたの。 1台安くしてよと頼んだら4万円にしてくれたの。 その根を聞いた松本が、高いじゃないか!と驚くと、頭金は5000円で後は月700円の月賦で3年間だって、そのくらいだったら私のへそくりでどうにかなるわと満子は言う。 松本は一応納得したのか、隣の部屋でテレビを見ていたミネや子供達と一緒に見ようと部屋の電灯をつけるが、電気消した方がはっきり見えるのよと娘が教える。 そこに美沙が帰って来たので、会社は何時までだ?と松本が聞くと、6時よと言うので、今まで何してた?と松本は追求する。 彼と中野まで行ってたのよと美沙はふてくされたように答える。 その日以来、松本はテレビで野球観戦するのが楽しみになり、仕事終わりに芥刑事に、今日の南海と大毎どっちが勝つと思う?家に来ないか?などと誘うようになる。 すると芥刑事は、今日「投資経済会」は相当大きな買い物をしました。 キョクトウテレビ4800万株!と教えたので、キョクトウテレビ?と松本は聞き返す。 松本の家では、急遽テレビを返品する事になり、受け取りに来た前島は、松本さんからじゃんじゃん電話ですからね…と呆れたように持ち帰って行く。 正一は、楽しみにしていたテレビが持って行かれたので、前島に向かって馬鹿野郎!と悪態をつくので、横で、兄さん、横暴よ!と憤慨していた美沙が、それお父さんに言うのと注意する。 ミネはその頃から体調を崩し、寝たきりの状態になっていたが、縁側で泣き出した正一の事を不憫そうに見つめていた。 久々に飲み屋で飲んでいた松本に、女将のおよねが、東都日報の記者が言ってたわよ、最近、松本さんはテレビ買ったから、仕事終わるとまっすぐご帰宅だってね。 やっぱり御常連が見えないと寂しいねとすねてくる。 およねさんの他に相手いないよと松本は世辞を返しながらおよねに酒を勧めるが、私を酔わせる気?1人で帰れなくなったらどうなるの?などとおよねが甘えるので、送ってやるよと、他に客がいない事もあり松本は軽口を叩く。 結局、その後、成り行きで松本はおよねと旅館に来てしまう。 松本は、2人きりになっても煮え切らない態度だったので、お勘定の事心配しているの?私、お店のお勘定を持って来たから心配ないのよと言うおよねの言葉を無視するかのように、やみそうもないな…と松本は外の雨の事を口にしながら、旅館のマッチを見る。 そこには「旅館 さくら荘」と書かれてあったので、「さくらのさ…、触らぬ神に祟りなしか…」と呟く。 およねさんよ、あんた目当てに通っている男は5〜6人じゃないだろう?などと松本が言い出したので、男の人って、いざとなると以外と卑怯ね…、本降りだわと言いながら、隣の布団が敷いてある部屋に向かったおよねは、松本を真似ていろは歌を口ずさみながら帯を解き始める。 触らぬ神に祟りなし…ともう一度呟いた松本は、土砂降りの雨の中、傘もささずに旅館を逃げ出し帰って行く。 松本家では、留守番をしていたミネがいろはガルタをいじりながら、どうなった鹿島さん?と美沙の相手の事を聞くと、住宅公団のクジが当たったって言ってたのに、その後何も言わないわねと満子も不思議そうに答えていた。 宗治、遅いね…とミネは息子の事を気にしていた。 「投資経済会」の社長室では、出資者も馬鹿じゃない、株が減った事くらい良く知ってるよと西垣が顧客の減少を分析していた。 すると、突然、天野がこれからは満期払い戻しを中止すると言い出したので、そんな事で来ませんよ!と黒河が慌てると、明晩まで2000万小切手を用意してくれ、政民党の大崎だ!信用してないが、金で動かせる!と天野が言う。 磯辺は渉外課長の三宅を社長室に呼ぶ。 その時、この際、闇金融でもやったら?と黒河が提案する。 それを聞いた天野は、貸金業違反にならんのか?やるんなら、うちと関係ないようにしてくれ、黒河君、君に任したと一任する。 そこにやって来た三宅は、相手は予想外にしぶとく、モグラの婆さんが最近は病気で寝たきりなので見舞いとして2万送った所送り返して来るんですと松本を懐柔する作戦が巧くいってない事を報告する。 それを聞いていた磯辺は、三種の神器だよ、テレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機、この内一番のテレビを送るんだよと提案すると、テレビは効果がなかったと三宅は力なく言う。 飲み屋の女将さんに気がありそうなので、たっぷり女将に渡したんだが、これもダメでした。 ケチでスケベな男なんですがね…と三宅は打つ手に窮したように言う。 松本と芥の聞き込みは続いており、最近、息子が盲腸になったと言う主婦が金を「投資経済会」に降ろしに行った所、利息の半分くれただけで、元金も返してくれないし、3ヶ月置いてくれって頼まれたのよと証言するのを聞く。 さらに「協栄金融」と言う闇金融の店から出て来る黒河の写真も押さえており、いよいよ「投資経済会」が切羽詰まって来た事を悟る。 「投資経済会」の社長室に来た広島支店長(小笠原章二郎)は、近日中に500万送ってもらいたい。 最近新聞の記事の影響などで解約希望者が続出しまして…と苦境を訴える。 それを聞いた天野は、「投資銀行法案」が間もなく通りますから、もう少し我慢してくださいと言い聞かせ帰らせる。 そんな状況を見ていた黒河は、理事長、これ以上の小切手は無理ですと政治家工作の限界を指摘する。 捜査二課と新聞記者が追い回っており、それが有形無形の影響がある。 何とか押さえつけてくれと西垣も頼むと、そんな事をしたらこちらに後ろ暗い所があると思われる。 政治家に弱みは見せられんと天野が突っぱねると、もう降ろさせてくれと磯辺が弱音を吐く。 バカなことを言うな!と西垣が磯辺を叱りつけると、天野は、上からはどうしようも出来ん。三宅君、黒河君、これだけは早急にやってもらいたいと命じる。 家で晩飯を食べていた松本が、母親のミネの容体を聞くと、おばあちゃんも年だからって…と満子は医者の言葉を伝える。 そこに美沙が帰って来て、正一と松本に土産を渡す。 松本はもらった土産の塩辛は明日にしようと言うと、聞きたい事がある、どうなってるんだ?結婚の話…と美沙に聞く。 すると美沙は、鹿島が会社の金を40万穴を開けちゃったのと言い出したので、40万なんて大金、どうしようもないじゃないか!と松本は驚く。 業務上横領の詐欺で拘束される所まで来たの…、困っているおじさんのために、ほんの2〜3ヶ月と思って…、そしたら2〜3日前、学校の友達から電話があって、良い所を紹介してやるって…、そこは1月1分の利息で気持良く貸すってて、担保もいらないって言うの。 ただ保証人が2人いるのよと美沙は切実そうに訴える。 紹介者の友達って?保証人になっても良いんだけど…と松本が言うと、会社よ、協栄金融って言うのと美沙が言うので、お断りだよ!どうもこうもないよ!捜査二課の刑事がそんな保証人になれるか!と松本は豹変する。 それを聞いた美沙は、刑事の立場って何?何か関係あるのね?協栄金融って… 私の結婚する相手が詐欺や横領の罪で捕まっても良いのね!と美沙が問いつめると、おばあちゃんも死んだオヤジも、そんなお前にしたくなかったはずだ…と松本は答える。 すると美沙は、いろはガルタのようには世の中いかないわ!と叫ぶ。 「投資経済会」の本社受付には解約を申し出る客で溢れていた。 理事長を出せ!と興奮して叫ぶ客達。 社長室では、どうする?もうにっちもさっちもいかんよ、大部分の主張所は持ちこたえられんぞと西垣が天野に聞いていた。 天野は、ビルの向かいでずっと続いている新築工事現場のバーナーの火を見つめていた。 天野や西垣達はそのまままんじりともせず社長室に残っていたが、早朝から電話が鳴ったので、西垣が受話器を外しデスクの上に置いて放っておく。 その時、天野が突然、良し!先手を打って休業とする。 この後は政治家に下駄を預け、奴らが実行しなかったら、立法代で金を渡した奴のリストを暴くんだ。 そうすれば、尻にデカい火がついて、下手すりゃ内閣が倒れると天野が言い出す。 それを聞いた西垣は、皮を切らせて肉を切るか…と感心する。 天野は、待て!入念な手を考えないと、下手に動くとモグラが虎にでもなってしまいかねない。 まだけりがつかないのかね?一刑事でしょう?と責めるように言う。 それに対し、西垣は、容易な相手ではない。 根拠となる証拠を掴んでいるのかも知れないと西垣は慎重になる。 すると天野は、西垣さん、金を欲しくない人間なんている訳がない。渡す方法が悪いのでは?と指摘する。 西垣は、松本工作は俺がやると言う。 その時、三宅課長に電話が入り、松本は昨日から警視庁には出ていない?と聞いて、どこを回ってるんだ?と慌てて聞く。 松本は、入信した母親のミネを見舞うため、警察病院に来ていたが、入り口で、ちょうど帰る所だった美沙と結婚する予定の鹿島とすれ違う。 美沙は松本を無視して去って行く。 病室から出て来た担当医に容体を聞いた松本だったが、何しろお年ですから…、このままそっとしておいて方が良いでしょうと言われ、もう手の施しようがない事を知る。 病室に入ると、ベッドに寝ていたミネが松本に気付き、来たね、さっき、美沙と婿だよ、良い人だね…、見たいね、美沙の結婚姿。ダメかね?宗治、頼むよ、美沙を頼むよ!と言って来たので、松本は返事に窮してしまう。 その時、看護婦がやって来て松本に、専務理事の西垣と言う人から電話が入っていますと伝える。 松本は、雨が降り出した中、西垣が待っていた料亭で会う。 初対面の挨拶をすますと、おばあさんのご容態は?と西垣が聞くので、芳しくありませんと松本は答える。 単刀直入に話しましょう?今おいくつですか?と西垣が切り出したので、42ですと松本が答えると、まだ退職の事などお考えにはなりませんな?と言いながらも、警視庁をお辞めになりませんか?ここに500万用意してありますと西垣は続け、テーブルの上のふろしき包みを開いて札束の山を見せる。 辞める理由はどうにでもなるでしょう。 一身上の都合とでもして、田舎に帰るとか…と西垣は続け、後ろ暗いからじゃないですよ、それはあなたが3年間捜査をしてご存知のはずです。 我々は予想外の発展をしましたが、暗い影が一つあります。 警視庁が我々を疑っている事です。 その風評は悪宣伝になります。悪評から逃れられるのなら、この金は宣伝費として高額ではありません。 金を上層部に渡す事も考えました。 しかし、連中がその金をどう使うかは大体想像できます。 政治家に渡したりするんでしょう。 その点、松本さんなら、もっと金を生きた使い方が出来るでしょう。 お子さん達の奨学金とか、妹さんの結婚のためとか…と、西垣は徹底的に松本の内情を調べ尽くしている事を臭わせる。 それを黙って聞いていた松本は、ハンカチで口を押さえ、一瞬気分でも悪くなったように見えたが、私は昭和12年、巡査を振り出しに20年間警察一本でやってきました…と答えたので、分かります。 先々の事の踏ん切りがつきかねる…と西垣が見透かしたように答える。 辞めてもらう話は一応白紙に戻します。 内偵もお続けください。そして見解を変えて、事件にはならないと言っていただければ?これではいかがでしょう?と西垣は言う。 しかし、私だけが見解を変えてもてんと松本は戸惑うが、それだけで結構です。 松本さんは優秀な刑事ですから良心の呵責を感じるかも知れないが、事件になるかどうかは誰にも分からないんですから、見解を変えても誰もおかしいと思わない… 500万だって、道ばたに落ちている石ころみたいなもので、誰に遠慮も気兼ねもない…と西垣は説得する。 すると、酷い!酷い人だ!と松本は言い出す。 こんな酷い拷問はないですよ! 私は3万そこそこの給料で、女房と子供2人、そして婆さんを養っている男です。 欲しいと言えば、せいぜいテレビを買ってやるか、飲み屋で一杯飲む事くらいの金です。 それなのにあなたは… 私は「投資経済会」が事件になる核心も何も持ってません! ただ、あんたらは金のない人間をバカにしている!人をバカにして金を集めているんだ!と松本は言い返す。 「投資経済会」本店の受付には、休業を知り、金を取り戻そうとする客が詰め寄せていた。 主人は結核で寝ているんです!だから10万預けたんじゃないですか!と若い妻が、取材記者の前で天野に詰め寄るが、天野は、倒産したんじゃないんです。一時的に休業しただけですと必死に言い訳をする。 捜査二課では、係長が、明日は祝杯だなと嬉しそうだった。 芥刑事も松本に、急転直下だったですねと「投資経済会」事件が幕を閉じた事を喜んでいた。 社長室に戻った天野は、窓の外で雪が降り始めた中、金を渡した政治家たち一人一人に電話をかけていた。 しかし、政治家達は一応にとぼけ、まだ「投資銀行法案」は研究中であり、もらった金は我が党への政治献金と言う事になっていますなどと答えて来たので唖然とする。 ビルの下には、傘をさした客達が詰めかけており、黒河はもうダメだよ…と匙を投げていた。 その頃、記者達のインタビューに応じていた政民党の大崎は、天野からの3000万は返したよ。 事務手続きの手違いで今日あたり向こうに着いているはずだがね。あんなインチキ同様の会社からもらったんでは正当の傷になるよ。 何しろ、出来そうもない法案のことを言うとったからねなどと空っ惚けていた。 「投資経済会」の社長室では、天野、西垣、黒河、磯部達が全員が同じテーブルで出前のラーメンを啜っていた。 みんな最初いくら出したっけ?と思い出話になり、西垣が800円、カネさんが3000円、磯辺はオケラで、天野が2500円…と口々に答える。 1万足らずから70億だったのが、今やすっからかんの元のままだ…と天野が言うと、君は所詮保険の外交員で、金の集め方は知っていても使い方を知らなかった…と西垣が指摘する。 今後、何をやるにしても、政治家だけには騙されないからなと天野は反省し、松本ってどんな男です?と西垣に聞く。 いろはにほへと…、気の小さい平凡な男だよ…と西垣は答える。 今回の失敗の原因は、第一に政治家だよ、もう一つはモグラだよ…と天野は呟く。 理事長は裏口から帰ってゆっくり寝ろ、「投資経済会」はもう終わった…と西垣が言うと、一応生産するが、新しくまた一からやり直す。 「投資経済会」は終わらないと天野は答える。 東京も焼け野が原から立ち直ったんだ…と天野が話している間に、西垣達は全員帰宅し、見知らぬ数人の男達が社長室に入って来たので、出資者の方ですね?と言いながら出迎えるが、捜査課の者です、天野竜一さんですね?詐欺容疑で逮捕状が出ていますと答えたのは松本や芥たち捜査二課の面々だった。 天野は慌てず、失礼ですが、あなたが松本さんですか?と聞くと、松本は違いますと否定する。 いらっしゃらないんですか…、有り合わせの物でも取って、一緒に食事でもしたかったのだが…と天野は残念がる。 捜査二課に連行された天野の取り調べが始まるが、天野は毅然とした態度を崩さず、詐欺どうのとおっしゃいますが、私は535条にある匿名組み合いでやっていますと法律を盾に取り一歩も譲らなかった。 のみならず、もう9時半か…、2〜3日寝てないもので…などと天野は取り調べの中断を要求する。 それを見かねた芥が、松本さん、こんな態度を取るのなら!と松本につい話しかけたので、やっぱりあなたが松本さんでしたか…、そうでしたか…と天野は嬉しそうに松本の顔をまじまじと見る。 いや、どうも…と松本が言葉を濁すと、しかし、こんな場所でしか会いないとは残念ですな…と天野は苦笑する。 長い間ご苦労様でした。松本さん、この天野が金で動かせなかったのはあなただけですと天野は褒める。 雑談は後で…と松本が制しようとしても、あなたを射落とせなかったのはこちらに手落ちがあったと天野は反省する。 みんな誰しも金は欲しい。あなた方の中で金を欲しくない人間がいますか!と天野は刑事部屋にいた刑事達全員に問いかける。 炊きたての飯を目の前に置かれ、食いたががらない空腹の人間などいないでしょう。 やり方がまずかったんだ…などと天野がしゃべり続けるので、雑談は終わりだ!と松本が再度封じる。 しかし天野は、松本さんの調べなら、1800人の従業員、20万の投資家を預かっています。不利な事はしゃべりません!と言うので、今日から12年調べる!と松本は言い出す。 芥が、200件の君に対する詐欺の訴えが出ている。 ここと検察庁の取り調べ日数掛ける200件で12年だ!と説明すると、人権蹂躙だ!と天野はいきり立つ。 天野竜一!お前には想像できまい?辛抱できずに炊きたての飯を食った連中の事まではな!と松本は責める。 その日の取り調べを受けた天野が取調室を出ると、待ち構えていた記者達が取り囲む。 その後から、疲れ切った松本が出て来ると、また取り囲んで、おめでとうございます!何かご感想を?などと記者達が言うが、内偵を始めて3年間、苦労なんかないよ…、「投資経済会」はノコノコ勝手に大きくなって、向こうから勝手にぺしゃんと潰れてしまった…と松本は答える。 その後、又馴染みの飲み屋に行った松本に、久しぶりね、雨の日に「さくら荘」で別れたきりね…と出迎えたおよねだったが、ま、一杯行こう!と松本が勧めると、嫌よ!店を拡張する権利金もらえそうだったのに、帰ってよ!とおよねが急に怒りだしたので、やっぱりそうか…と、「投資経済会」がおよねにも手を回していた事に気付いた松本は、先にもらっときゃ良かったじゃないかとおよねをからかい、あの男も可哀想な男だ…と言い残し、そのまま店を出る。 帰宅すると、満子が、美沙ちゃん来たわ、オート三輪で荷物全部持って行っちゃった。鹿島さん、日本橋署に連れて行かれたんですって。冷たい会社よね…と言いながら出迎える。 亡くなったミネの位牌を見ながら、泣いてたか?美沙…と松本が聞くと、しっかりしてた。刑を終えるまで何年でも待つんですってと満子が答えたので、バカな奴だ…と呟きながら、松本は仏壇に手を合わせる。 美沙の「み」…とぶつぶつ松本が言うと、ご飯食べないなら早い所寝ましょうと満子は声をかけて来る。 しかし、居間に座り込んだ松本が一升瓶の酒を酌みだしたので、まだ飲むの!と満子は呆れる。 「身から出た錆」だ!と思い出した松本は、いろはにほへと〜♩といつもの歌を歌い始める。 ちょっと!子供達が目を覚ますじゃないの!と満子が慌てて止めようとするが、松本は聞こえなかったように、親ばかどっこい、ギッチョン、ギッチョン♩と歌い続ける。 後日、路上で服を啖呵売していた磯辺に近づいて来たチンピラが、兄貴じゃねえか!と驚き、今まで何やってたんです?と聞いて来る。 1億1200万儲けたんだ!作り話じゃねえ!本当の話だ!正真正銘、本当の話だ!と怒ったようにカメラ目線で磯辺が言う。 国会議事堂の外観 終 |