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爆笑水戸黄門漫遊記

喜劇の名匠で知られる斎藤寅次郎監督の戦前の大ヒット作「水戸黄門漫遊記」(1938)のセルフリメイクらしい。

偽黄門が登場する喜劇は他にもあるが、二組も登場するのは初めて見た。

1組は「柳家金語楼、柳沢真一、南道郎」トリオで、もう1組は「脱線トリオ(由利徹、南利明、八波むと志)」である。

さらに本物の黄門トリオも登場しており、当時の東宝のホープだった佐藤允さんと夏木陽介さんが助さん角さんを演じているが、セリフは全くない。 セリフが多い本物の黄門役は、弁士出身の徳川夢声さん。

佐原健二さんがセリフありの二枚目役をやっているのも興味深い。

有島一郎、トニー谷、益田喜頓、藤村有弘、若水ヤエ子、堺駿二と言った当時の関東喜劇陣オールスター的な豪華な顔ぶれに、アチャコのような関西芸人もゲスト的に登場している。

堺駿二さんは、今の息子の堺マチャアキさんよりはるかに若い頃の作品であるのも感慨深い。

当時、東宝の脇役の常連だった谷晃さんや大村千吉さんが、はっきりコメディアン風のキャラを演じているのも珍しいような気がする。

ザ・ピーナッツが向かい合う二軒の旅籠の夫々の客引き娘として、ちらり登場しているのも注目したい。

ヤクザの親分役の上田吉二郎さんが、夜道を帰る客に自分の家の提灯を渡し、それを目印に子分たちに襲わせるというアイデアは、後の座頭市シリーズなどでも使われており、ひょっとすると戦前のオリジナル版からある古典的なアイデアだったのかも知れないと思ったりもする。

又、劇中で、金語楼さんたちが乗った索道のもっこが落下し、それが川に流され助かったと思ったら、又滝に差し掛かり新たなピンチを迎える…と言った辺りのアイデアも、「インディー・ジョーンズ」のはるか昔から使われていたものだと分かったりして興味深い。

又さらには、劇中に登場する「松茸を食うとしゃっくりが出る」などと言う話が単なるギャグなのか、昔はそう云うことを言っていたのかなど、気になる部分もある。

小夜姫役の幸田良子さんや途中の茶店に登場する少女役など、あまり馴染みがない女優さんが出ているのも気になる。

冒頭に登場する川の流れるオープンセットは、当時の東宝時代劇に時々登場する場所なのだが、砧撮影所内にあったのだろうか?

12月15日公開だったと言うことは冬休み辺りを狙った娯楽作だったのではないかと思われ、カラーで大作風に作られているだけ、ナンセンスやドタバタ感はやや弱く、めちゃくちゃ笑えるというほどでもないが、映画人口がピークだった時代特有のちょっと豪華な気分が味わえる、楽しい娯楽時代劇になっている。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、東宝、中田竜雄脚本、斎藤寅次郎監督作品。

コミカルなイラストを背景にタイトル

第5代将軍徳川綱吉が制定した「生類憐みの令」がまかり通っていた元禄初年

女性の奴を先頭に、お犬様の乗った駕篭を運ぶ行列が市中を通り、多くの町民たちが土下座して通り過ぎるのを待っていた。

その側で平然と立ったまま豆を食っていた浪人斧大九郎(丘寵児)がいたので、岡っ引きの銭亀の伝八(谷晃)が座れ!と注意しに来るが、大九郎は豆を差し出しごまかそうとする。

その時、籠の中から犬の鳴き声が聞こえて来たので、お供をしていた望月弥兵次(益田喜頓)が跪き、籠の中に何か御用ですか?と尋ねると、また鳴き声が聞こえたので、お手洗いと申されておる!と回りの者たちに命じる。

ただちに「御犬様肥掛けの松」なる木が運ばれて来て、その周囲を幕で囲う。

駕篭を飛び出したお犬様がその松の木に向かって小用を足し、また駕篭に戻ると泣いたので、お酒をご所望じゃ!と弥兵次は周囲の者達に命じ、酒を籠の中に差し出そうとするが、その時、お犬様が突然逃げ出してしまう。

金兵衛(柳家金語楼)の蒲焼き屋で呑んでいた左官の助松(柳沢真一)と角造(南道郎)は、座敷にいた女お登佐(中田康子)から、可愛い坊や!」と呼ばれたので、互いに自分が呼ばれたと主張しながら席を立って近づくと、お登佐が煙草を買って来ておくれ、後はお駄賃だよと金を渡したのは、本物の子供数名だった。

ばつが悪いまま自分たちの席に戻って来た助松と角造は、注文しておいた蒲焼きの皿だけが置いてあり、肝心の蒲焼きがないので文句を言い出す。

それを聞いた女将お米(清川玉枝)は食べちゃったんじゃないですか?と言い、声を聞いた金兵衛も出て来て、25年7ヶ月もウナギを焼いているうな金だ、そんな脅しに乗ると思うか!表に出ろ!と言い合いになるが、その時、お米が、犯人あそこ!と飯台の下を指す。

床でウナギを食っていたのは、先ほど駕篭から逃げ出したお犬様だった。

縄や棒、柄杓を持って、逃げ出したお犬様を店の外に追いかけて来た金兵衛、助松、角造らの目の前で、お犬様が倒れてしまう。 側にいた大九郎が拳銃で撃ったのだった。

しかし、それに気づかず倒れたお犬様に駆け寄ったのが望月弥兵次で、仇は何者でございます!と死んだお犬様を抱き上げ聞く。

その時、目の前に立っていた3人を目にした弥兵次は、この3人が縄でしばって、棒で殴って、柄杓で水をかけた?とかってな解釈を言い出したので、岡っ引きの銭亀の伝八とその子分の安(大村千吉)が金兵衛を捕まえようとする。

慌てた金兵衛は、とっさに腹が痛い!盲腸だと言い出ししゃがんだので、しようがないなと伝八がおんぶしようと背を向ける。

安が、金兵衛を伝八の背に乗せようと立ち上がらせたとき、金兵衛は相手の十手を握って八の頭を殴り気絶させ、伝八の背中に乗せる。

伝八は、背負った相手も十手を持っていることに気づきおかしいと思って振り返ると、既に金兵衛たちは逃げた後だった。

金兵衛は家に戻ると、お米を急かし、大変なことになった!旅に出る!お犬様殺しの嫌疑がかかったので、このままでは獄門になるかも知れないと言いながら旅支度を始める。

後に残ったあたしと金坊はどうなるんだい?とお米は嘆くが、翌朝金兵衛は、お父ちゃん、どこ行くの?と聞いて来た息子の金坊(富松つよし)に、大事なようでいくから、お母ちゃんと留守番してなと言い残し店を出て行く。

一方、鼻の穴に十手を差し込んでぶら下げた伝八と安は、金兵衛を捕えないうちは江戸に帰れないと命じられ、2人揃って旅に出ていた。 そんな中、嵐藤十郎一座の荷車を引っ張っていたのは、荷車の上に乗った藤十郎(藤村有弘)の妻お梶(若水ヤエ子)だった。

そんな荷車の側で休憩していた中村延次(由利徹)、市川扇太(八波むと志)、嵐熊三郎(南利明)の3人は、今夜逃げちゃおうか?などと休憩しながら話し合っていた。

何故か、扇太は延次の胸毛からノミをつまみ出すと、小さなお銚子の中に入れていた。

熊三郎が取り出したお銚子の中味を酒だと思って呑んだ延次は、それが酢だと知り、身体が柔らかくなったなどと言い出す。

お梶は、全然荷車が動かないので、不思議に思って振り返ると、藤十郎が上に乗って命令ばかりしていたのに気づき、あんた、私に結婚申し込む時、あなたは太陽だ!橋より重い者は持たせないなんて言ってたくせに!と文句を言う。

すると藤十郎は、その時お前は、私のような引き売り女を…と言ってたじゃないか!引き売りが車を引くのは当たり前じゃないか!等と言い返す。

藤十郎一座は、次の芝居小屋で「助六」を演じるが、小屋はおんぼろで雨漏りはするし、客もまばらだったので、他の3人が舞台に出ている間、楽屋裏にいた藤十郎とお梶は、売り上げもってドロンしちゃおうか?座長のドロンなんて聞いたことないよなどと話し合っていた。

舞台では、助六に扮した熊三郎が防火用の水桶の中に隠れ、扇太扮する花魁が店から出て来た所だったが、そこに、大変だ!座長とかみさんが木戸銭もって逃げ出した!と芝居小屋の者が舞台に出て来て知らせたので、それを聞いた客たちは怒って舞台上になだれ込んで来る。

一旦舞台から逃げ出した扇太と熊三郎は、馬の人形の足に化け、小屋を逃げ出し、街道の地蔵の前ではぐれた延次を待つ。

そこに遅れて到着した延次は、客席にぐっとめんこい娘がいたのでカックン来たんだわなどと説明する。

このままじゃのたれ死にだぜと熊三郎が言い出したので、扇太が食うもん探して来ると言い残しその場を離れて行く。

残った延次は熊三郎に、お前、手品出来るんだろう?食うもん出せよと無茶振りをする。

熊三郎は布を垂らし、しゃもじを出したので、これは食えねえじゃねえか!と延次が怒ると、へらも食うもんに関係してるだろ!言わば前哨戦!と言う熊三郎が、次に取り出したのは自分の汚いわらじで、「わらじカツだ!」などとごまかす。

その頃、街道筋の茶店に到着した安が伝八に、お休みくださいと書いてありますと疲れ切った顔で教えるが、看板に書くのも自由なら、俺たちがそれに従わないのも自由だなどと言い、そのまま茶店に寄りもせず通り過ぎて行く。

その茶店に、松茸採って来たから買ってくれないかとやって来たのは、やはり江戸を逃げて来た助松と角造だった。

しかし茶店の娘は、そんなもん食べたらしゃっくり出るよと言い、相手にもしなかった。

がっかりした助松と角造は、目の前で休んでいた金兵衛を発見、旅は道連れ一緒に行こうと声を掛けるが、金兵衛の方は飛んだ疫病神との再会に顔をしかめるのだった。

そんな茶店の近く煮立った高札には、「水戸黄門様が近隣に来られているので、見つけたら金一両与う 代官赤木紋太夫」と書かれてあったので、それを読んだ茶店の娘は、黄門様って将軍様のおじさんだろう?と一緒に読んでいた農民たちに聞く。

一方、結局一緒に旅を始めた金兵衛、助松、角造は、木の下で首を吊ろうとしていた農民、権六(織田政雄)を見つけ、急いで助ける。

訳を聞くと、不作続きで年貢米が払えず、やむなく山城屋へ娘を売った30両を、帰りに追いはぎに会い、全部盗られてしまったので、娘に死んで詫びようと思ったと言う。

話を聞いた助松と角造は、どうも山城屋が怪しい…と話し合う。

その後、山城屋の玄関先で、南国土佐を後にして〜と流行歌のような浪花節をうなって掃き掃除をしていた子分の半助(堺駿二)は、娘連れで近づいて来た老婆にうっかり桶の水をかけてしまう。

その老婆は角造の変装で、娘に化けていたのは助松だったが、老婆姿の角造が水をかけられたことを怒っても、半助は詫びるどころか開き直り、暴れ太鼓の半助だ!と言いながら、着物をはだけ、背中の入れ墨を見せる。

そんな後ろ向きの半助の頭の上から角造が水を引っ掛けたので、半助は怒りだすが、娘姿に化けた助松がなだめて、山城屋はどこでしょう?ご主人様にお会いしたいと聞く。

親分の客だと知った半助に案内され、座敷に通された助松と角造が出会ったのが、山城屋藤蔵(上田吉二郎)だった。

娘を年季奉公に出したいと申し出た角造に、年季奉公がどう言うものか知ってなさるんですかい?と確認した山城屋が、いくら欲しいと言われる?10両ならどうだろう?と切り出すと、側で仲間達と博打をやって遊んでいた半助が近づいて来て、あの玉ならあっしなら15両だしまさあなどと口を出して来る。

それに乗った山城屋はどんどん半助に乗せられてせり上げて行き、とうとう50両などと答えてしまう。

老婆に化けた角造が、山城屋が出した証文に名前を書き終えると、裏の山で採れたもので…と言いながら、持参した栗と松茸を差し出す。

それを嬉しそうに受け取った山城屋は、婆さんは小松村だったな?夜になるとちょいちょい追いはぎが出る。

用心のため、うちの提灯を持って行きななどと親切ごかしで言って来たので、お助!帰るからねと娘に化けた助松に声をかけ、半助がうなりだした浪花節に合わせ、別れの芝居を演じた後、山城屋の提灯を持って暗くなった夜道を帰って行く。

山城屋は、半助を呼ぶと、じゃあ、例の手でな?と命じ、又、追いはぎやるんですね?と半助は情けなさそうに答えるが、その会話を、家に残っていた角造はしっかり聞いていた。

村へ戻る松並に差し掛かった角造の前に現れたのは半助ともう1人の子分だった。

それに気づいた角造が、提灯を回して合図すると、側の草陰に農民たちと一緒に隠れて待っていた金兵衛が、提灯を回して返事をする。

提灯を前に差し出し、燃やして相手の顔を照らして確認した角造は、お前たちは山城屋の若いものだな?と言い、かかって来た2人相手に大立ち回りを始める。

金兵衛が手元に引いていた紐を切ると、半助の頭上にしかけていた駕篭が落ちて来て半助を閉じ込めてしまう。

もう1人の子分が角造に殴り掛かって来て、首に側にあった輪っかのついた紐を首にかけようとするが、やはり金兵衛が紐を引くと、子分自身の首に紐の輪っかが引っかかってしまい、そのまま空中へ吊り上げられてしまう。

その後、山城屋は、突然やって来た金兵衛が、表にいる農民たちは、追いはぎに襲われた気の毒な人たちだ。娘を返してやってください。

追いはぎの超本人は親分散と分かったので…と頼み、角造が連れて来た半助たちを差し出すと、十手を取り出し、こう見えても、御上から十手捕り縄を預かっているんだ!と虚勢を張って来る。

すると金兵衛、捕まえたければ捕まえなさい。わしは水戸黄門だ!と名乗り、角造は、私は渥美角之助だ!と名乗る。

すると、奥から出て来た娘姿の助松が佐々木助三郎だ!と名乗りを上げる。

仰天した山城屋は、知らぬこととは言え、お許しを!と平身低頭して詫びて来たので、黄門に化けた金兵衛は娘たちを全員解放させると、証文も出させ、今までただ働きさせて来た罰として、1人5両ずつ渡してやりなさい!と命じる。

山城屋はさすがに驚いて躊躇するが、半助がひょいひょいろ金の入った銭函を抱えてもって来たので、やむなく全部差し出すはめになる。

表で待っていた農民たちと再会した娘たちに、村に帰ったら幸せに暮らせよと言い聞かせながら、1人5両ずつ渡す角造。

それを見ながら、悪の栄えた試しなし〜♩と浪花節をうなる半助たちだったが、1人の農民が犬を抱いているのに気づくと、あ!お犬様!と怯え、その場から逃げ出してしまう。

とある宿場町にやって来た金兵衛、角造、助松らは、向かい合って建っている二軒の宿「駿河屋」と「沼田屋」の瓜二つの客引き娘(ザ・ピーナッツ)の歌う歌に誘われる。

「駿河屋」に泊まったには黄門一行に化けた中村延次、市川扇太、嵐熊三郎の3人だった。

そんな3人を迎えた平佐衛門(谷村昌彦)とお妙(小桜京子)が丁重に挨拶して出て行った後、豪勢な食事を食べていた延次は、他の2人の所作が下品だと注意しながら、自分は扇太の鯛の皿を盗もうとしたり浅ましい所を見せる。

熊三郎が女中にこの旨い魚のお代わりをくれ!と皿を差し出すと、それはしびれ茸と言うキノコで食べ過ぎると身体がしびれるんだ。

今日はキノコ祭りなのだと女中は教える。

一方、二軒の旅籠の歌う客寄せ娘から手を引っ張られていた金兵衛だったが、「駿河屋」の前に犬がいることに気づくと、慌てて向かいの「沼田屋」の方へ逃げ込む。

その「沼田屋」名物「牛乳風呂」に入っていたのがお登佐で、案内された部屋が粗末なので渋っていた角造と助松は、風呂上がりのお登佐が隣の部屋に帰って来ると、姉さんも泊まっていたのか?ほら、江戸で会った…と声を掛けるが、知らないねえ!何かお間違いでは?ととぼけられるが、部屋はそこで良いと番頭に即答する。

先に「牛乳風呂」に入った角造と助松は、あんな薄汚え親爺と旅するより、美人と一緒の方が良いなどと鼻を延ばしていたが、そこに薄汚い親爺で悪かったねと言いながら金兵衛も入って来て、旅先であんな女にうつつを抜かすのは感心しないねえと2人に忠告する。

ところが、その風呂に岡っ引きの伝八と安もやって来たことに気づいた3人は、慌てて湯船の中に頭を沈めて隠れる。

何とか風呂から部屋に逃げて来た金兵衛たちの元にやって来たのが隣の部屋のがお登佐で、実は路銀を盗られたのです、助けてください、採った相手もこの宿に泊まっており、あの部屋ですと窓から見える別棟の方を指差すので、そちらを見ると、そこにいたのは、お犬様を射殺した浪人斧大九郎だった。

お登佐が盗まれたという財布は、紫色でトンボの模様が入っており、中に小判が10両入っていたと言う。 部屋にいた大九郎は、突然部屋の前で言い争う声が聞こえて来てうるさいので、紫色の財布を布団の下に隠し、障子を開けて、そこで口喧嘩をしていた角造と助松に文句を言う。

その間、一緒にいた金兵衛は部屋の中に入ると、大九郎の布団の下から財布を見つけ、それを取り戻して、喧嘩なら他でやっておくれと角造と助松に注意しながら一緒に部屋から遠ざかる。

ところが、自分たちの部屋に戻って来ると、待っているはずのお登佐の姿はなく、自分たちの荷物が荒らされ路銀が全部盗まれていることに気づく。

騙されたと気づいた3人だったが、とりあえず、今取り戻した財布の10両はあると安堵しながら中を調べると、出て来たのはただの石ころだった。

その頃、お登佐は大九郎に、ちょいと巧くやったねと満足げに笑いながら宿を出て、向かいの「駿河屋」へ逃げ込んでいた。

その直後、「沼田屋」にやって来たのは代官の赤木紋太夫(花菱アチャコ)と配下たちで、番頭に宿帳を見せてくれと頼み、そこに書かれていたウナギ屋金兵衛と言う客の風体が50年配の人の良さそうな方と聞くと、それこそ水戸光圀様やないか!と言い出し、配下の者達に宿の前の警戒を命じる。

そんなこととは知らない金兵衛一行は路銀がなくなったので、窓から綱を垂らしそれを伝って外に逃げようとしていた。

ところが、宿周辺は紋太夫配下の警戒が厳しく出るに出れない。

中庭に迷い込んだ所に、番頭が頭を下げて来て、特別上等の部屋をご用意しましたと挨拶して来たので、金兵衛は観念するしかなかった。

新しい部屋に招かれた金兵衛たちは、赤木紋太夫同席のもと、喜兵衛(平凡太郎)の歌に合わせて踊るキノコ踊りを見せられたりする。

一方、「駿河屋」の方では、熊三郎がキノコに当たってしびれたりしていた。

金兵衛から返杯をもらって上機嫌の赤木紋太夫は、隠し芸を披露すると言い出し、全員で「お掃除じゃ!」と囃し始める中踊りだす。

そんな中、尿意を覚えた角造が便所にいくと、そこから出て来たのが岡っ引きの伝八で、慌てた角造は部屋に戻ると金兵衛に耳打ちする。

そこに、伝八と安が御用だ!と十手を持って乱入して来たので、赤木紋太夫は驚き、このお方は水戸黄門はんだっせ!帰んなはれ!と叱責する。

そんな中、店先に「水戸黄門様ご宿泊」と書いた看板を出していた「沼田屋」の者は、同じような看板を迎えの「駿河屋」でも出しているので驚き、それを赤木紋太夫に注進に来る。

どう致しましょう?と紋太夫から聞かれた金兵衛は、震えながらも、良きに計らえと芝居をする。

さっそく「駿河屋」に乗り込んだ紋太夫だったが、無礼者!下がれ!と扇太から叱られ、黄門に化けた延次からも偽者を捕まえなさいと言われると、どちらが本物か分からない紋太夫は、えらいすんまへんでした!と詫びて帰るしかなかった。

紋太夫が部屋から出て行くと、延次たちも急いで逃げ出す。

一方、「沼田屋」を逃げ出した金兵衛たちは、向かいの「駿河屋」に逃げ込むが、そこで延次たちと鉢合わせする。

そんな中、「駿河屋」に泊まっていたお登佐が、あんた寝る前に一風呂浴びておいでよと、同じ部屋にいた大九郎に声を掛けると、清潔第一だからな…と意味有りげに笑いながら大九郎が出て行ったので、お登佐は、亭主にでもなったつもりで…とバカにしながら、大九郎の荷物を物色し始める。

風呂に向かっていた大九郎に出会った金兵衛は、胴巻泥棒!胴巻を返せ!と追いかける途中、同じように天井裏から脱出しようとしていた延次たちとごごちゃになり、黄門役の2人がすり替わっても互いに気づかない状態になる。

挙げ句の果てに、太鼓を叩いていた宗教団体の部屋に落ち、混乱の中、宿から何とか脱出する。

翌日、延次は、馬引の小夜(幸田良子)が歌いながら引く馬に乗り旅を続けていたが、生来の女好きのため、小夜に年はいくつだ?彼氏、あるのか?などとちょっかいを出していた。

年は19と答えていた小夜は、年寄りだと思っていた延次が馬から落ちたので驚いて助けに行くと、助け起こされた延次は、嬉しそうに小夜の肩を借り、一緒に歩き始める。

その頃、河原で休んでいた角造と助松は、腹減ったな…、三日も食ってないからな…などとぼやいていた。

すると、角造が鮨を食う真似を始めたので、助松もその芝居に参加し、架空の食事シーンを再現するが、それに強引に参加させられ、蒲焼きを作る真似をしてみた金兵衛だったが、余計に腹減っちゃった…と渋い顔になる。

一方、船着き場で獲物を物色していたお登佐は、渡し船から降りて来た若侍伊織哲之助(佐原健二)にぶつかり財布を抜き取るが、その場で手を掴まれ、もう少し相手を見て仕事を致せ!と説教される。

一方、仕事を終え、家に帰って来た小夜の前に現れた芋虫の勘五郎(森川信)は、お前は後2〜3日もすれば俺の女房だ。

お前のおふくろに5両貸しているが、返せなければお前を自由にできるんだぞ!などと言いながら小夜に触ろうとして来て、小夜が抵抗すると、この馬を連れて行け!と連れて来た子分のゲシ政(広瀬正一)に命じる。

小夜は驚き、これを持って行かれたら生きていけませんと嘆願するが、知ったことか!と勘五郎は無視する。

そこにやって来たのが金兵衛一行で、頭が高い!このお方をどなたと心得る!水戸黄門様だぞ!と角造から紹介された金兵衛は、芋虫の勘五郎とやら、あこぎな真似をしておると捨て置かんぞ!早々に立ち去りなさいと芝居をすると、勘五郎は恐縮して逃げ去って行く。

危ない所をありがとうございましたと小夜は礼を言うが、金兵衛たち3人は、腹が減って立ってられん…と言いながらその場にへたり込んでしまう。

帰りかけていた勘五郎は、途中で顔見知りの飲み屋のお島(布地由起江)に出会い、今、うちの店に大変な大物が来ていると言うので、清水次郎長か?国定忠次か?などとめちゃめちゃな答えをしてみるが、水戸黄門様よと言うので、天下の吹く将軍という方がお前の飲み屋なんかに来る訳がないじゃないか…とバカにしていたが、やがて、本当か?と真顔になる。

その頃、小夜の家で夕食をよばれていた金兵衛は久々の飯に感激していた。

そんな家の前にやって来たのが延次たちを連れて戻って来た勘五郎で、中の金兵衛たちに呼びかけ顔を出させると、互いに偽者同士の金兵衛と延次たちは顔を合わせた瞬間、両方とも逃げ出して行く。

延次たちは、むしろの束の中に3人一緒にくるまって身を隠すが、あたかもその姿が巨大な化け物のようだったので、勘五郎はお化け怖い!とビビるが、お小夜を忘れていたと思い出し、小夜を連れ出そうとしていた所にやって来たのが伊織哲之助だった。

こういう場面で私のような者が出て来ないと大向こうが承知せんのでな…と言いながら、哲之助は勘五郎の子分たちを次々に投げ飛ばして行く。

勘五郎たちが逃げて行くと、家の中から小夜と母親(一の宮あつ子)が出て来て礼を言うので、この辺りに、元掛川藩に勤めていたお常さんと言う方はおられませんかと哲之助は聞く。

すると小夜の母親が驚き、それは私です、これは娘の小夜ですと答える。

哲之助は、私は掛川藩近習伊織哲之助ですと自己紹介する。

家に上がった哲之助にお常は、18年前、殿様に双子が生まれた時、不吉を嫌い、1人を当時乳母だった私が預かったのですと打ち明け、その証の城主秋宗公お墨付きの短刀と書状ですと取り出す。

それを見た哲之助は、まさしく秋宗公の直筆に相違ありませんと納得すると、掛川藩では今、原田刑部によって菊姫様が暗殺され、お蘭の方と組んだ刑部は、お蘭の子、亀千代君を世継ぎにしようと画策しているのですと打ち明け、貴方様は掛川藩5万石の姫です。

尾家のためにお城にお帰り下さいと小夜に頼む。

小夜は驚き、母親と思い込んでいたお常と分かれたくはないと抵抗するが、あなたはお母さんとは身分が違うのですとお常から言い聞かされ、哲之助の熱心な嘆願もあり、やむなく同行することを承知する。

翌日、小夜を連れ城へ帰る哲之助の姿を、橋のたもとにいたお登佐が気づき、後を付け始める。 その頃、廊下の庭先の薪の陰で休憩していた金兵衛は、いつも持っている笛を吹き、食べるための鳥を呼び寄せようとしていたが、先に小さな鳥かごを作って待っていた角造は、どこからか卵を拾って持っていた。

助松は喜び食べようと茶碗を取り出すが、角造が卵を割ってみると出て来たのはひよこだった。

そんな薪の後ろで昼食を取りだしたのが、哲之助と小夜だった。 2人は仲睦まじくおにぎりを食べるが、後ろ手金兵衛が吹く笛に気づいた2人は、あれは山鳩ですか?あれは鶯ですなどと可愛い言い合いを始める。

その隙に角造と助松は薪の隙間から手を伸ばし、小夜たちが置いていたおにぎりを盗んで食べていた。

哲之助はすぐに気づき、薪の間から出て来た手を打ち据えるが、その時、どこからともなく手裏剣が飛んで来て薪に刺さる。

見ると、斧大九郎率いる黒装束の一団が哲之助と小夜を取り囲んでいた。

大九郎は、掛川藩の御重役、原田刑部殿より頼まれたと言うと、一味が一斉に襲いかかって来る。

哲之助は敢然と立ち向かい、話を聞いていた角造たちも小夜を助け、投げ縄で敵の一人一人を絡めて引き寄せては、薪で頭を殴って加勢し始める。

大九郎の足にも紐を絡め引っ張ると、義足の右足だけが飛んで来たので驚く。

大九郎は足などいくらでも持っていると言うと、すぐにスペアの右足を装着する。

そして、拳銃を取り出して哲之助を狙うが、その手に握り飯を投げて邪魔したのは、密かに哲之助を付けていたお登佐で、誰が加勢なんかするものかと嘲る。

そんなお登佐に向けて大九郎は発砲するが、落ちて来たのは鷲だった。 拳銃の筒先が曲がっていたのだ。 一方、賊と斬り合っていた哲之助は、足を滑らせ崖から落ちてしまう。

その間に小夜を連れ逃げていた金兵衛一行は、木材運搬用の索道用もっこを見つけ、それに全員乗り込む。

小夜は、置いて来た哲之助を案じ呼びかけるが、金兵衛はそんな小夜に、事情は聞きました。

あなたをお城へお連れしましょうと約束するが、行き先はもっこに聞いてくれ!と言うだけだった。

遠ざかって行く小夜たちが乗った索道用もっこを狙って大九郎が地上から拳銃を撃ったので、滑車が外れ、もっこは乗っていた小夜たちもろとも落下してしまう。

一方、崖から落ちて負傷した哲之助は、駆けつけたお登佐が応急手当をしていた。

そこにやって来たのが、本物の水戸黄門(徳川夢声)、佐々木助三郎(佐藤允)、渥美格之助(夏木陽介)一行だった。

金兵衛や小夜たちが乗ったもっこは奇跡的に川に落下したため、そのまま川の流れに乗っていたが、やがて滝が近づいて来たので全員川に飛び込む。

掛川城 哲之助と小夜姫は既に三途の川を渡っていると大九郎から聞いた原田刑部(トニー谷)とお蘭の方(清川虹子)は、これで亀千代が世継ぎになるのは間違いない、後はこの鶯が鳴くだけじゃと、部屋の鳥かごを見ながらほくそ笑んでいた。

高血圧に苦しんでいた城主秋宗(有島一郎)は、刑部の報告を聞くと、小夜は死んでいたか…と落胆する。

しかし、世継ぎ候補の亀千代君(富松孝次)は大のいたずら好きで大人たちを困らせていた。

そんな中、水戸黄門様ご到着!との声が響き、秋宗の前にやって来たのは、小夜と金兵衛たちだった。 小夜が生きていたことに刑部は動転するが、証拠の二品を提出するのじゃと命じる。

そんな刑部の顔に、亀千代が放った吸盤付きの矢が当たり、大九郎の頭の上には生きたカエルを乗せようとする。

その後、刑部に近づいたお蘭は、お宿下がりの者の報告では、今、茜屋に黄門様が泊まっているそうじゃと言うので、それを聞いた刑部は、拙者に一案があると呟く。

やがて、大九郎に連れられ、駕篭で城にやって来たのは延次たちトリオだった。 その延次たちに会った刑部は、黄門様の名を騙るとはもってのほか!3人とも縛り首だ!と脅した後、お前たち3人に頼みがある。

本日ただいまより本物になれ!成功すればこのうぐいすが鳴くと告げる。

その頃、お蘭の方は金兵衛に、中庭で焼きたてのウナギの蒲焼きを出して接待していたが、その蒲焼きの出来を見た金兵衛は本職としての眼力で不満を述べると、自ら庭に降り立って蒲焼きの実演を始める。

刑部は別室で二つの急須の片方に眠り薬を入れ、少し頭の弱い腰元の小浪(中島そのみ)に持って行くように命じる。

しかし、小浪は、どっちに薬を入れたか良く理解しないまま持って行きお蘭に渡したので、お蘭からどっちに薬が入っているのか聞かれても、曖昧にしか答えられなかった。

お蘭は、あの2人を旨くたらし込んだらご褒美を挙げるよと小浪にささやきかける。

小浪は喜び、角造と助松に近づくと、何かして遊ばないと声をかけ、歌い始める。

お蘭は、良く分からないまま、片方の急須に入った酒を金兵衛に呑ます。

ご返杯と金兵衛が盃を差し出すと、私はこちらで…と言い、お蘭は、もう1つの急須に入った酒を自分で注いで飲む。

やがて手酌で呑んでいた金兵衛が眠ってしまったので、お蘭は成功したと喜び廊下に出る。

ところが、ふすまの奥の部屋に隠れていた大九郎が金兵衛と勘違いして槍を突いて来たのでお蘭の足を突いてしまったので、怒ったお蘭は叱りつける。

鬼さんこちら!と角造と助松を大きな葛篭のある部屋に連れて来た小浪は、2人にこの中に隠れてと頼む。

そこにやって来た大九郎は、お前、なかなか頭が良いなと、葛篭の上に座って蓋を閉めていた小波を褒め、川へ捨てて来い!と家来たちに命じる。

小浪は大九郎にお駄賃ちょうだい!とねだる。

家来は大きな葛篭を川まで運んで来て捨てようとするが、良く見ると、底が抜けており、中は空っぽだった。 秋宗公は、本物の黄門様が来られ全て判明しましたと報告に似た刑部の話を聞き、小夜を連れて来た黄門様が偽者だというのか!と驚く。

そこにやって来たのは、延次たちが化けた偽黄門トリオだった。

さらに、黄門様御成〜!と声が響き、今度は金兵衛たちの偽黄門一行が部屋に来たので、二組の偽黄門が対峙することになる。


金兵衛と延次は互いになじり合うが、それを聞いていた秋宗公は、あいや、しばらく!と止めに入り、それでは水掛け論、クイズで決めましょうと言い出す。

ここに取り出したる2本の掛け軸、内1本は先君が水戸の御老公から拝領した墨絵、ご本人なら一目見てお分かりになるはずですと秋宗公が言うので、金兵衛も延次もパニクるが、刑部から先にと指名された金兵衛が1本を選ぶと、その掛け軸の中味はただの白紙だったので、金兵衛たちは慌てて逃げ出す。

しかし勝ったと思ってぬか喜びをした延次が開いたもう1本も白紙だった。

両方とも偽黄門と知った秋宗公は血圧が上がり、胸を押さえながら医者を呼べ!と命じる。

城の中を逃げる助松は、廊下に大量のいがぐりをぶちまけ、投げびし代わりにする。

扇太は懐から調子を取り出すと、哉に入っていたノミを追って来た刑部に振りかける。

角造は、持っていた鳥かごの中のニワトリが生んだ卵を追っ手に投げつけ始める。

駆けつけた医者玄斎(沢村いき雄)に血圧を測ってもらっていた秋宗公の部屋の庭先に姿を現したのは、本物の黄門一行だった。

秋宗!余の顔を忘れたか、5歳の時に会うたななどと声をかけて来たので、その顔を凝視した秋宗公は本物の黄門と気づく。

それを知った刑部は動揺し、おのれ偽者!目にものを見せてくれる!と言いながら斬り掛かろうとするが、その時、どこからともなくうぐいすの鳴き声が聞こえて来る。

それは金兵衛が吹いた笛の音だったが、気を取られて油断した刑部を背後から大九郎が斬る。

その大九郎は渥美格之助はその場で斬り捨てる。 やがて、本物の黄門による裁きが庭先で始まる。

金兵衛たちが我が名を騙りしことは許しがたいが、その目的は悪を倒して正義を助けるためだったので特別に差し許す。

即刻、江戸へ帰れと黄門は命じるが、それが出来ないんです。おいぬ様を殺した嫌疑がかかっておりますので…と金兵衛が事情を明かすと、左様なことは罪にならぬ。

余が綱吉を諌め「生類哀れみの令」は廃止になったと黄門は教える。

続いて、延次たちも、我が名を騙り無銭飲食を繰り返したことは許しがたく、八丈島に遠島を申し付ける所だが、小夜のために助けてくれたので許してつかわすと黄門は裁定する。

黄門は次に、お蘭!女だてらに謀反に加担するとはもってのほか!この場において成敗致す!助さん!と呼びかける。

佐々木助三郎が縛られていたお蘭の背後に回り、刀を振り下ろすと、捕縛が斬れ、お蘭は気絶するが、すぐに助さんが喝を入れたので、助かったことを知り、ありがとうございますと黄門に頭を下げる。

そこに、母上様!と亀千代が駆け寄って来たので抱きしめるお蘭。

かくして、延次たちには旅芝居の道具一色、金兵衛たちにも褒美の品を積んだ荷車が送られ、角之助と小夜が見送りに来る。

このご恩は生涯忘却致しませんと角之助が金兵衛に頭を下げると、自分たちはまた元の役者に戻ります。

ちょうど良い女役者も見つけたんで…と延次が角之助に教える。

その女役者とはお登佐のことだった。

今度の一件で、新作が出来ました…と延次が言うのは、荷車に張られた幕に書かれた「新作 水戸黄門漫遊記」のことだった。

金兵衛と延次たちは、互いに荷車を押し、別々の道を歩き始めるが、すぐに互いの荷車を取り違えていることに気づき、慌てて自分たちの荷車の方に駆け寄ると、照れくさそうに小夜と角之助に頭を下げ、互いに遠ざかって行くのだった。
 


 

 

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