白夜館

 

 

 

幻想館

 

あねといもうと

女家族を描いたホームドラマで、いかにも松竹らしい作品。

父親役が山村聡さんなので、同時期にやっていたTVドラマ「ただいま11人」(1964~1967)などを連想させる。

適齢期の娘たちの結婚を心配しながらも、今の身分や生活を守ることを気にし、結婚を計算づくで考える古い考えで無意識に娘たちを束縛していた父親と、その父親から独立しようとあがく娘たち、そして父親の兄の元妻が同居するようになり…と言う身内の小さな軋轢を描いている。

中村章子さんが、岩下志麻さん、倍賞千恵子さんの妹役を演じており、この当時は松竹のホープ扱いだったのではないかと想像する。

ハキハキした三女を良く演じており、このまま歌手に転向せず女優業に止まっていたら…と思わなくもないが、当時の映画の斜陽振りでは仕方なかったのかも知れない。

岩下志麻さんも倍賞千恵子さんも適齢期の娘を演じているくらいなので、正に年齢的にも美しい盛りで、特に岩下さんの落ち着きぶりは好ましい。

倍賞さんの方は見た目の初々しさと、やや低音気味で落ち着きのある声のギャップが演技の安定感を生んでおり、劇中では一番難しい役柄を演じている。 もっとも意外なのは、途中から登場する大辻伺郎さん。

てっきりコミカルな脇役か、何かトラブルを起こす小悪人では?と思っていたら、小学校の先生役で、あろう事か岩下志麻さんの恋人役になっているではないか! 大辻さんがこんな真面目な役を演じているのは初めて見たような気がする。

日常生活を描いた文芸ドラマなので、特に派手な見せ場などはないが、倍賞さんの恋人の母を演じる北林谷栄さんの芝居は見物。

不遇の中、心が閉じて頑になってしまった母親を巧みに演じている。

ふみ子に熱心に見合いを勧めるおせっかいなおば役の轟夕起子さんも愉快。

悪気はないお節介タイプの女性だが、三姉妹同様、女性原作者と脚色家ならではのリアリティを感じるキャラクターになっている。

男が見ても好感が持てる良い作品だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1965年、松竹、佐多稲子原作、楠田芳子脚色、川頭義郎監督

高岡ちづ子(中村晃子)は踏切を渡り「松本鉄鋼株式会社」と看板が出た町工場にやって来る。

中に入り、洗濯中の女性(千之赫子)に、高岡です、奥さんいますか?お届けものですとちづ子が声を掛けると、今社長を…と言いながら出て行こうとするので、社長じゃなくて奥さんです、お留守なんですか?とちづ子は不思議そうに確認する。

前の奥さんのこと?と急に不機嫌になったその女性は、別れたのはもう半年も前よ、気の強い女で、別れたくせにすぐ近くに住んでいるんですなどと憎々しいと言った感じで答える。

芳枝さんの住所を教えてくださいとちづ子が頼むと、3丁目のアパートで「青雲荘」とか言ったわねと女性は教え、芳枝さんに会ったら言っといてください、抜くものは抜いてくれって、こっちも春には生まれてくるんですから…などと言って来る。

孝ちゃん、遅くなって…とアパートに帰って来た松本芳枝(久我美子)は、ちづ子さん!と息子の孝(景山哲也)と一緒に部屋にいたちづ子を見つけて驚く。

デパートのお勤めしてるんだって?とちづ子が聞くと、パートタイムなの、近いので昼は戻って来て孝と一緒にお昼食べられるし…、夜は内職でこれやってるのと壁に飾ったデザインを芳枝が見るので、レタリングねとちづ子は答える。

先に工場に行ったのよ、変な人がいて、早く抜くものは抜いてくれですって、春には子供が生まれるって…とちづ子が教えると、まあ赤ちゃんが!と驚いた様子の芳枝が昼食を一緒にと勧めるが、私学校に行かなくちゃ…、こう見えても大学生よ。 芳枝さん、今日誕生日だったそうね、これ…とちづ子が持って来た土産を差し出すと、まあ、お父様が?と驚いた芳枝が包みを広げると、中には立派な着物が入っていた。

おばさんの家で作ったのよとちづ子が言うと、私もう30になったのよ…と芳枝が教える。

ふみ子姉さん25よ、節子姉さんも22だし…とちづ子は姉たちのことを教える。

お会いしたいわ…、お父様に…と芳枝は懐かしそうに言う。 その頃、高岡家の長女ふみ子(岩下志麻)は父親の高岡義郎(山村聡)、おばの宮田まさ(轟夕起子)同伴で見合いをしていた。

呉服屋のまさが取り持った相手だったので、この子には和服のファッションショーに出て欲しいくらいよとふみ子を褒めると、相手の母親も、おばさまの家が呉服屋なので利用すれば良いのに…などと冗談を返す。

帰宅してふみ子の帰りを待っていたちづ子は、家にいた次女の節子(倍賞千恵子)に、どっちに賭ける?ふみ子姉さんのお見合い…、私はダメな方に賭けるわなどと無責任なことを言っていた。

もうふみ子姉さん25よ、後に2人もいるのよ、後がつかえているだからとっとと行ってよなどとちづ子が憎まれ口を叩いている所に、義郎とふみ子が帰って来る。

義郎は、節子、風呂の加減見て来ておくれと頼むと、見合いするとどうしてこう疲れるのかねと言いながら着替え始めると、お前、気に入ったかね?とふみ子に聞くが、ふみ子の方も帯が苦しいからと良い、返事を避けて着替えに行く。

父が風呂に向かうと、父さん、具合悪いのかしら?風呂から上がって起きているかしら?いつも忙しいから…とふみ子に話しかけると、子供の話くらい聞くわよとふみ子は笑う。

そこにちづ子が来て、父さんお茶漬け食べるってと伝える。

せっちゃん、父さんに話って何?会社辞めたんじゃないの?いつかちーちゃんが、あなたの会社って外資だから色々うるさいって…とふみ子が聞くと、節子は違うと言う。 風呂から上がって来た義郎は、別れたって?とちづ子に確認して驚く。

松本さんには新しい奥さんが入ってたわとちづ子が教えると、それにはそれだけの理由があるはずだと義郎は厳しい顔になる。

着物のこと何か言ってたか?と義郎が聞くと、自分の誕生日を覚えてもらっていたことを喜んでいたわとちづ子は伝える。

その時、何度か、節子が義郎に話しかけようとするが、飯くらい食わせてくれと言い茶漬けを食べ始めたので、節子は一向に話の本題に入れないままだった。

ふみ子、今日の返事どうする?と聞いた父は、おとなしそうだったわとふみ子が答えると、そうだ、どうも煮え切らん男だ。断るなら早い方が良いだろうと義郎は即断する。

その時また、お父様、私…と節子が話しかけようとするが、電話がかかって来たので、ちづ子に取らせようとした義郎だったが、どうせお父さんへの電話なんだから自分で出たらとちづ子が言うので、茶漬けを食べ終えないまま電話の所へ義郎は向かう。

電話して来たのは、先ほど別れたまさで、今日の見合いの結果を聞かれた義郎は、ふみ子の気持が進まんらしい。

相手は弟3人だろう?両親の世話をして弟らの面倒も見るとなるとあれも大変だからな…などと父は答える。

翌日、節子は会社の同僚の湯沢健一(早川保)と外で会っていた。

節子さんのこと、おふくろに話したよと湯沢が言うので、反対されたでしょうと節子が案ずると、親爺はおふくろの言いなりだし、おふくろは僕の収入を当てにしているし…と答えた湯沢は、お父さんはダメなんだろう?お姉さんが結婚したら、君はますます出られないじゃないか…、相手は誰だっていいのかい?僕みたいな安サラリーマンで弟の学費をひねり出しているようなので良いと言うのか?と自虐的に問いかける。

すぐに湯沢は、ごめん!ひがみっぽいことを言ったりして…と詫びるが、節子は、湯沢さん、一度父に会ってもらいますと答える。

義郎はある日の昼休み、まさの呉服店を訪ねる。

番頭の吉村が、田園調布のご主人がと奥へ声を掛けると、来るだろうと思って、今蕎麦を注文した所なのよとまさが出て来て座敷へ上げる。

この間の返事だが、ふみ子はもう少し1人でいたいそうだと義郎が伝えると、ふみ子ちゃんみたいな家庭的な子は回りが面倒見ないとダメなのよと言うと、どうですこの人?と又新しい見合い写真を見せようとする。

そう次から次では…と義郎は困惑するが、文ちゃんのことだと思ってかき集めているのよ。

縁談があり過ぎて嫌な女なんているもんですかとまさは言う。

そこへ蕎麦が届いたので、ご相伴にあずかった義郎は、この店で食うそばは旨いななどと言いながら、部屋の中に置かれていた絵を見て、それは何だと聞く。

帯の下絵ですよと教えたまさは、昨日芳枝さんが来たのよと言うので、ここへか?と義郎は驚き、聞いたか?亭主と別れた話…とまさに確認する。

家を出て田舎に帰っている3年の間に今の相手が出来てたって…、3年も知らなかったって…とまさが打ち明けると、一郎が死んで大変だな…と義郎は同情する。

昨日も染の下絵させて欲しいって言うので、道具一色差し上げたんですよ…、あなたからもらったと言う着物を広げたり畳んだり、そりゃ嬉しそうでしたよとまさが言うので、そうか…、あの着物を広げたり畳んだりか…と義郎も満足げに微笑む。

その夜、義郎は芳枝のアパートを訪ねる。

部屋をノックしても返事はなく、近くの部屋のおばさんが、芳枝さんは留守ですよ、内職届けに行ったから…と言葉をかけて来る。

義郎はそのおばさんが連れている子供が孝と気づき、孝ちゃんだろ?と呼びかけると、おばさんも、知っている人かい?だったら開けてやんなよと孝に声をかけ、孝は母親から預かっていた鍵で部屋を開けてくれる。

中に入った義郎が、手みやげのケーキの箱を上げて、お上がりと勧めると、孝は手を洗おうと言い、洗面所で手を洗い始める。

部屋に座った義郎は、何だか寒いな…、風邪引いたか?と部屋の冷たさを実感する。

その後、ふみ子、節子、ちづ子を外食に誘った義郎は、何か私たちに話があるんでしょう?とちづ子から聞かれたので、節子も話があると言ってたじゃないかと節子に振る。

すると節子は、うちで話します。何だか落ち着かないから…と言うので、義郎は、芳枝さんと子供を一時的に引き取ろうと思うと娘たちに伝える。

今でもお兄さんのお嫁さんみたいに思っているの?と聞かれた義郎は、まだ向こうには話してないと補足し、賛成してくれたら足でも言ってみると言う。

するとすぐに、私は反対よ!と言い出したのはちづ子だった。

そこまで面倒見ることないと思うわ。家の中に他人が入り込むなんて迷惑だわと言う。

節子は、父さんがそうしたいのなら私は反対しないわと答え、ふみ子も、父さんがわざわざ言うのは特別なことなのよと理解を示す。

するとちづ子も、じゃあ私も賛成するわ、ただし、そのままずるずるになるのは嫌よと釘を刺す。

やがて、芳枝と孝が高岡の家に住むことになる。 義郎の兄の一郎の仏前に手を合わせた芳枝は、お世話になります。

あんまり厚かましくて…と義郎に礼を言うと、孝に何と呼ばせたら良いものか…と思案する。

義郎は、おじいちゃんで良いんじゃないかと自ら言い、庭先で遊んでいた孝が座敷に上がって来て、絵本は?と聞くので、二階にあるよと義郎は教え、あんたも二階へ行ってごらんと芳枝にも勧めると、良く似合うじゃないか、その着物…、まさの見立てだよと語りかける。

すると芳枝は、私もぎりぎりの所でした。孝を松本へ帰し、死のうかと思ったこともあるんです。

でも意地を通して生きて行きます。ありがとうございましたと改めて頭を下げ、自分たち用に用意された二階へ上がって行く。

湯沢と喫茶店で待ち合わせていた節子は、今日、義姉が引っ越して来たので…と遅刻の言い訳をする。

湯沢は、おふくろはやっぱり、君と会わないというんだ…、でも今日、君を連れて行って会わせるよ、連れて来たものに会わないとは言わないだろうから…と言う。

おふくろはいつも、昔小間物屋していたときのことばかり言うんだ。君に嫌なことを言うと思うけど我慢してくれ。 僕だっていつか家を出る!と湯沢が言うので、妹さんや弟さんはどうするの?と節子は案し、私も、父のことを聞かれたら返事も出来ないわ…と落ち込む。

もし、お父さんが反対したら…と湯沢が案じると、あなたは16、私ももう22よと節子は自立できる年であることを強調する。

その後2人上野東照宮の石灯籠の所にやって来る。

湯沢は、この灯籠の中に小石が入ると願いが叶うって言うので、昔良く投げたものだよ。

何を願ったかは何も思い出せないけど…と言う。

確かに灯籠の穴の中にはいくつもの小石が詰まっていた。

その頃、うちは破産寸前だった…、きっと大学へ行かせてくださいって願ったんだと湯沢が言うので、可哀想だわ、湯沢さん…と、節子は相手の不遇さに同情する。

大学中退したけど、君みたいな可愛らしい人が見つかったからと湯沢が冗談を言うと、節子も石を拾い上げ、石投げましょうか?と言うと、止めよう…、入らなかったらやっぱり気になる…と湯沢は真顔で答える。

台所でホイップクリームを泡立てていたふみ子に、手伝いましょうか?と芳枝が声をかけて来たので、雨戸を閉めてくださいとふみ子は頼む。

孝と一緒に雨戸を閉めに行った芳枝は、ここはちづ子姉ちゃんと節子姉ちゃんの部屋だから、黙って入っちゃダメよと孝に言い聞かせる。

そして、孝と自分の部屋に戻って来た芳枝は、ママは孝がいるから、どこへいても寂しくないわと孝をだっこし、ママ、昔、ここにいたのよ。あの頃はママがお夕飯を用意したのよ。

そしてふみ子姉さんが雨戸を閉めていたのと教える。

後日、まさの店にやって来た芳枝に、うちの好みを学んでもらわないと…と下絵の手ほどきをする。

これおいくらくらいですの?と芳枝が人の絵を見て聞くと1枚7000円払うわとまさは教え、月に何枚くらい描くんでしょう?と聞かれると、人によって違うけど、1月に20枚くらいかね?女の人は欲がなくて、7枚くらい描くとのんびりしちゃって…、もちろん絵の出来次第で3000円や1万円のもあるわ。

秋の展示会はもう終わったけど、春は一流店のショーがあるから、しっかりやりなさいとまさは言い、それからあなたの着物一通り作るわ。

うちに出入りする以上、ちゃんとした格好をしてもらわないといけないからねと言い添える。

ある日、ふみ子は、虫歯が悪化し泣き出した孝を連れ、田中歯科と言う歯医者に来るが、ちょうど診察室に入りかけていた男が、急患を先に入れましょうと、他の患者たちにも了承を受け、孝を抱いて診察室に入って行く。

診察を終えた青木豊(大辻伺郎)と言うその男はふみ子とともに孝と手をつなぎ歯医者からの帰る。 遠いのに良く来ますねと男が感心すると、妹が前に来たものですから…とふみ子は教える。

僕は昔、ガン豆を良く食べていたので歯が悪くなったんですよなどと話し、自分は小学校で教えており5年を受け持っています。

義務教育ですから、出来る子だけじゃなく、みんな引っ張りたいと持論を述べながら学校の前に来ると、あの病院の昼休みは12時半までですよ、1時になると込みますからそれまでに来た方が良いなどとふみ子に教え、別れる。

帰宅したふみ子は、ちーちゃん、ガン豆って知ってる?と聞く。

そこに芳枝が雨になったわね…と言いながら戻って来る。 ちづ子は帰りが遅い節子の仕事はモード関係って言うけど、実際は外国の翻訳を届けるだけだってとふみ子に教える。

節子は湯沢と相合い傘で歩いて帰って来ていた。

後ろからクラクションが聞こえ車が追い抜いて行くが、その車の後部座席に乗っていたのが義郎で、相合い傘の2人に気づき振り返る。

二階で下絵を描いていた芳枝に、ふみ子がお手すきだったら下へ来てください、父が呼んでいますと伝え、孝ちゃん寝てますわねと側で寝ていた孝の寝顔を見る。

芳枝は、早く歯医者に連れて行ってもらって良かったみたいと感謝する。

ふみ子!お茶煎れてくれ!と義郎の声が聞こえると、機嫌悪いのよ、ちづ子はさっさと部屋に行ったもの…とふみ子は芳枝にささやきかける。

そんな中、節子が帰って来て自室へ入る。

そんな節子にちづ子は、スチュワーデスの試験、大学出てなくても良いって!と話しかけるが、節子はそんな話は無視し、窓の外を気にかける。

平凡な結婚するくらいなら、大学に行く必要ないんですもん!男だってそうよなどとちづ子がまだおしゃべりしているので、うちの前まで送ってくれた人のことを考えてたの…、遠いのよ、その人…と節子が答えると、そんな人いたの!とちづ子は驚く。

大学にも行けなくて…、私は平凡で十分…と節子は呟く。 義郎から話を聞いた芳枝は、私は慰謝料なんて要求したことはありません!と驚いたように答える。

松本さんは30万は無理だ、工場は兄さんのものだし…と言ってるんだと義郎は言うと、あの人は気の弱い、人に使われるだけの人なんです…と芳枝は言う。

友達に催促させんでくれと義郎は言うので、私がそんなことをするとお思いなんですか?と芳枝は嘆く。

あの男が嘘を言っているとも思えなかったよと義郎は硬い表情のまま答えると、節子!飯は後にしよう、この間から話し合う機会もなかったからな…とやって来た節子に言う。

結婚するつもりなら一度連れて来なさいと義郎が話を向けると、相手の人は大学中退で、今、高3と1年の妹と弟さんがいるの。

定年のお父さんがいて…と節子が話しだすと、先方は許してくれたのかね?と義郎が確認する。

湯沢さんが結婚すると困るって…と節子が答えると、どんな立派な男か、一度連れておいで、雨の中、うろうろ歩いているだけが恋愛じゃないんだぞと義郎はきつい口調で言い聞かせる。

翌日、湯沢が仕上げた原稿を持って届けに行くように節子は、会社の上司に命じられる。

自動車より歩いた方が早いよと英語で商談中の上司は言う。

湯沢から原稿を受け取る時、昨日寒かったでしょう?と節子は案じ、昨日父さんに話したわと伝えると、昼に聞くよとと湯沢は言う。

まさに出来上がった下絵を渡しに行った芳枝は、生活のめどが立ったら、高岡の家を出ようと思うんですと言い出す。

孝がおじいちゃんに懐いちゃって…、このままだと松本のうちから出て来た意味がないんですと言う芳枝の話を聞いたまさは、私も女1人で染めたり売ったりして来たんですよと打ち明ける。

そんな中、田中歯科にやって来た青木は、既に孝の治療が終わってふみ子が帰りかけていたので、一緒に帰りましょうと自分の治療は忘れて言う。

現行を届け会社に戻って来た節子は、同僚の女性社員から、湯沢さん早退したわよ、急ぎの原稿だったから無理したんじゃない?と聞かされ驚く。

心配になり、湯沢の自宅を訪れた節子は、玄関に出て来た女が、高岡さんですね?と話しかけて来たので、湯沢の母親糸子(北林谷栄)と気づき、早退なさったものですから…と来た理由を説明すると、今、薬を飲んで眠ってますからと言う。

仕方がないので、宜しく申し上げてくださいと挨拶すると、さようならと糸子は愛想もなく返事をする。

帰りかけた節子に、名前を呼んで追いかけて来たのは、どてら姿の湯沢だった。 今、玄関で君に似た声がしたんで母に聞いてもはっきり言わないので裏口から出て来たんだよと言う。

お母様、私とのことを知らなかったみたいと節子が言うと、とぼけているんだよと湯沢は言い、節子は、父が一度会ってくれって…、早く寝て、早く直してと労る。 2~3日したら家に行くよと湯沢が言うと、うんと褒めといたわと節子も笑顔で報告する。

その日帰宅したちづ子は、山本さん、芳枝さんの慰謝料の20万出すって!と驚く芳枝に伝えたので、それを聞いた義郎も、お前だったのか!電話してたのは!と唖然とする。

静江さんの一存で20万って決めたんですか?と芳枝も呆気にとられるが、引き換えに離婚届に判子押すようにですってとちづ子が伝えると、そんな大事な話を芳枝さんに相談もしないで!出過ぎたことをして!と叱った義郎はちづ子の頬を叩く。

子供のくせに夫婦のことに口出しする奴があるか!と義郎に怒鳴られたちづ子は自分の部屋に逃げ込み、ベッドに身を投げて泣き出す。

何か異変を感じたのか、孝は芳枝の所へやって来る。 後日、茶店で夫の松本康夫(高橋昌也)と会った芳枝は、離婚届に判子を押す。

これでもう他人だな…、全くあっけないもんだな…と松本が呟くので、春に赤ちゃんが生まれるんですって?と芳枝が聞くと、きよ子の奴…と松本は言う 嬉しいんですと芳枝が言うと、面倒なだけだ、孝の奴どうしてる?兄貴怒ってたよ、孝だけでも置いとけって…と松本は打ち明ける。

あなたにだって権利あるでしょう?お父さんの工場なんだから…と、芳枝が兄の良いなりにばかりなっている松本に問いただすと、途中で首突っ込んだんだから…などと言い、松本は持って来た金の入った封筒を差し出す。

中を確認しようとしない芳枝に、確かめなくて良いのか?と松本が聞くと、確かめなくても良いわと芳枝は言う。

変だな…、こうして他人になったのに、きよ子よりお前の方が女房のような気がするよ…、孝に宜しく…と言い残し、松本は帰って行く。

その後、まさに会った芳枝は、部長が日本橋の八尾吉に来てくれって…お父さんのことよ、ウナギおごりますってとまさから言われる。

八尾吉に行ってみると、先に待っていた義郎が、松本さんに会ったかね?と聞いて来たので、20万と引き換えに判子を押して来ましたと芳枝は報告する。

ちづ子の不始末は私のせいだ…と義郎は謝る。

私の代わりにちづ子さんをぶってくださったんですねと芳枝が言うと、注文したお銚子が届いたので、互いに酒を酌み合う。

考えてみればちづ子さんの言う通りなんですと芳枝が言うと、夫婦には決して他人に踏み込めないものがあるんだよと義郎が応ずる。

松本があんなになったのも、私に責任がない訳ではないんです…と芳枝は自分を責める。

私が一郎さんのことを忘れきれないから、兄がうるさく言うもので…、私、松本が可哀想で… そんなことがあったんですか…と義郎が驚くと、私、20万は受け取るまいかとも思ったんです。

あの人が20万融通してもらうために、どれだけ苦労したか… でも孝のために受け取りました。 何だか遠回りして元に戻ったような気がしますと芳枝が言うと、それで良いんだ、あんたが大人になったんだよと義郎は言い聞かす。

その頃、高岡家を訪れていたまさは、ふみ子に持って来た2枚の見合い写真を見せ、どれかを選ばせようとしていた。

ふみ子は、写真だけでは分かりませんわ…、そんなにたびたびではお父さんも見合いは疲れると言ってますし…と困惑すると、あの人はいつも気難しい顔して…、25と言えば分かれ道に立っているようなものだから…とまさはしつこつ迫る。

お父さんもその内戻りますから…とふみ子が部屋を出ると、縁側の様子を見に立ったまさは、女手が揃っているからさすがに掃除は行き届いているわなどと感心する。 そこに犬を連れた青木と孝がやって来る。

青木はまさに頭を下げ名乗ると、東口のアパートに住んでいますと自己紹介する。

小学校の先生と知ったまさは、先生なら人を見る目があるから聞いてみようと呟くと、見合い写真を2枚取り出し青木に見せる。

これは?と青木が戸惑うと、ふみ子自身ちっともはっきりしないので…とまさが言うので、見合い写真と気づいた青木は、急に写真を返し、失礼します!と挨拶して帰ってしまう。

そこにふみ子が戻って来て、どうしたのかしら?とすれ違った青木を気にしながら呟く。

あの人、一郎の友達なんだろう?とまさがのんきに言うので、驚いたふみ子は、兄さんの友達なんかじゃありません!と訂正し、慌てて青木の後を追う。

坂道を降りていた青木に近づいたふみ子は、青木さん!おばが失礼なことを言ったようで…と詫びると、青木は立ち止まり、何でもありませんと答える。

あなたのことを死んだ兄の友達と間違ったんですとふみ子は説明する。

僕がうかつでした。あなたのような人が独身でいるのが奇蹟なんです。あなたには私よりはるかの良い縁談がたくさんあるのに…、私はあなたを愛してます。考えてください!さようなら!と言い残し立ち去って行く。

そこに、青木の犬を連れて孝が追いかけて来る。

クリスマス 久々に湯沢の自宅を訪れた節子だったが、玄関は閉まっていた。

裏口に回ってみると、丹前姿の湯沢が縁側にいたので入り込み、今日は日曜だから…、心配したのよ、半月になるから…、お医者さんは何と言ってるの?お家の人は?と縁側に座り聞く。

みんな出かけているんだ、上がってと湯沢は勧めるが、ここで良いの、日がさして暖かいわね、会いたかったわと節子は久々に湯沢の顔を見て喜ぶ。

残念だったよ、お父さんに会えなくて…、運が悪いんだな、僕も…、ボーナス前には出ようと思う、みんな当てにしているからさと湯沢は答える。

春には結婚したいわ…と節子は訴える。

大学時代はラグビーをやっていたんだ。その時、胸を悪くしてね…、あれからもう3年だもの…、まさか結核ではないだろう。

接吻も出来やしないなどと湯沢は冗談めかして告白する。

どうしたの?と節子が聞くと、ただの風邪さ…と湯沢は言うので、湯沢さんがどんな病気でも、私があなたの病気を治してみせるわと言い、2人はキスをする。

そこへ帰って来たのが母親の糸子だった。 糸子は節子が来ていることを知るとぎょっとするが、母さん、節子さん、見舞いに来てくれたんだと湯沢が言うと、たびたび来ていらしてくださるようですね、忙しいでしょうに…と糸子は嫌みったらしく言う。

節子が土産のケーキの箱を差し出すと、町ではクリスマスの飾りばかりね…と言う糸子は、この人に丈夫になってもらわなければ…、今この人に結婚されたら私らは見殺しにされるようなものだし…、昔、父さんが株に手を出し、芸者を呼んだりしてたけど、今じゃ、相手してくれる芸者もいないですよね、バカ親爺で…などと愚痴り始めたので、止めなよ母さん!と湯沢は叱りつける。

帰路についた節子を送って家を出て来た湯沢は、何だかこんな惨めな気持じゃ別れられやしない…と言い出し、この先に小さな旅館があるんだ。そこに行くから付いて来てくれる?と節子に聞く。

節子は一瞬黙り込むが、頷いて涙ぐむと、自分から湯沢の手を握り、行きましょう、さあ!と積極的に声をかける。

しかし湯沢は、ダメだ、やっぱり…、こんなむさ苦しい病人みたいな格好じゃ…と言い、明日上野に行こう。

前に言った公使温泉という所があるんだ。 君は良い?うんとおしゃれして行くよ。上野駅9時にしよう、先に着いた方が並ぶんだと言うと、走ってお行き、今までどのくらい君の後ろ姿を見送っただろう…と湯沢は自問する。

節子は、明日またね、さようなら!と言い残し駆けて行く。

翌日の朝9時、上野駅 先に到着していた節子は約束通り列に並び、なかなかやって来ない湯沢の姿を見つけようとしていた。

高岡家では、ふみ子さん、じゃあ行って来ますと出かけようとしていた芳枝に、芳枝さん、相談があるんですとふみ子が呼び止め、節子が上野にいるんです、湯沢さんと…、私にだけ言って行ったのとふみ子は打ち明ける。

上野駅に来た芳枝は節子を見つけると、間に合って良かった!だめよ、軽はずみなことをしちゃ!一時の同情や激情に任せてはダメ!と叱りつける。

その後、やって来ない湯沢の家に芳枝とともにやって来た節子は、玄関に出て来た糸子に、湯沢さんは?御出でにならなかったものですから…と声をかける。

すると、呆然としたような糸子は、健一は…、死にましたわ…と答える。

あんたがお帰りになった後で急に私たちに当たり散らして、私たちが憎いって… 私たちのために結婚も出来ないと1人で当たり散らしておりましたけどね… 喀血して…、良くあることらしいですけど、自分の血で窒息してしまって… さあどうぞお上がりになってくださいと無気力な表情で声をかける。

その間、ショックのあまり玄関の戸に寄りかかっていた節子を、節子さん、しっかりなさい!と芳枝が励ましていたが、そのまま帰ろうとするので、あんた、健一にお線香の1つも挙げてくださらないんですかと糸子が責めるように言う。

すると節子は振り返り、あの人だって一生懸命やったのに…、今さらお線香挙げて何になるんです?あなたはあの人を責めてばかり… あの人の枕元で、安らかに眠ってくださいなんて言えないわ! 私だって逝きたかったのに… その節子の言葉を聞いていた糸子は呻きだす。

自宅を離れた時、私、酷い女かしら?私、あの人に何もしてやれなかったし、かあ弾にもあんなこと言ったし…と節子が言うので、あなたの気持が伝わったのよ、分かったのよ、あのお母さんにも、だから声を上げて泣いたのよと芳枝が慰める。

青木が笛を吹きながら小学校の校庭で体操の指導をしていた時、校庭にふみ子が入って来たので、それに気づいた青木は驚く。

体操を終え、生徒を解散させた青木は、どうしたんです?と言いながらふみ子に近寄る。

電話があって、妹の愛しい人が亡くなったんです。

それを聞いたら急にあなたに会いたくなって…、何故か急に会いたくなっててんとふみ子は切々と訴える。

夕食時、義郎と姉たちが食事をする中、芳枝は二階から下りて来ない節子に付き添って慰めていた。

一郎さんが自己で亡くなった時、自殺しようと思ったの。

ちょうど今のあなたと同じだったわ… でも私、やっぱり死ねなかった… あの時死んでも、一郎さん、喜ぶとは思えなかった。

私、精一杯生きて、あの人の思い出を守って行こうと思ったの… 分かって下さるかしら?

正月 まさの呉服屋では、芳枝の下絵を元にした帯が染め上がりつつあり、それを見たまさが、絵から持ち味が出て来たわと褒めていた。

すると、番頭の吉村が、帯がまだ2~3本間に合っていませんと言うので、電話してよ京都に!とまさは急かすが、私これから行って、機織り上がるまで待ってると言い出す。

そこにやって来たのがふみ子と青木だったので、いつぞやの…とまさは青木を思い出すと、私これから超特急で京都に行くことになったのと言う。

そんなまさに、実はお願いがあるの…とふみ子が言うので、さあお話しなさいよとまさがせかすと、実は仲人をお願いに上がりましたと青木が言い、2人のこと、父さんに話していただきたいんですとふみ子が頼む。

芳枝からの電話でそのことを聞いた義郎は、まさが賛成したとはね…、無責任な奴だと憮然となる。

その夜、義郎はふみ子に、お前、青木さんのことをおばさんに頼んだそうだが、会うまでもない。

お前、いくつ縁談を断ったんだ! 相手の資料がないと幸せにならんぞ!騙されてるんじゃないのかね?と言うので、側で聞いていた芳枝が、ふみ子さんに会ってくださいと頼む。

金沢でお母さんが住んでいますとふみ子が言うと、この家を出て金沢に言っても良いのかね?嫌だね私は… どこへ行っても結婚なんて出来はせん。私は、この家を維持してくれる男を望んでいるんだ。月に2〜3万の給料では、この家のような暮らしは出来んよ!と義郎は叱る。

財産がないから反対なさっているんですか?とふみ子が反論すると、お前、自分がもったいなくないのか?と義郎は聞く。

青木さんみたいな人を待っていたんですとふみ子が言うと、バカ!と義郎は逆上する。

すると、やって来た節子が、バカなのは父さんだわ!湯沢さんに会いもしないで、父さんはどうして、私たちがどんなに真面目に幸せになろうかと考えていることを理解してくださらないのです。

私、どうしてあの人のものにならなかったのかしら?後悔は私1人でたくさん!お父様にはそんなことも分からないんですか? 湯沢さんのことを忘れるためにこれからどれだけ苦しむのか… 湯沢さんがいてくれたら、家も財産も何にもいらなかったんです。

だけどあの人は死んでしまった… お父様、青木さんにお会いにならねば!と芳枝も説得すると、芳枝さんはずいぶん一生懸命ね?他人の口出しすることじゃないわよ!と言いがかりをつけて来たのはちづ子だった。

それを聞いた芳枝は、他人?と驚いたように呟く。

家族のことは家族で考えることなの!とちづ子が芳枝に言うので、ちづ子!そんなことはどうでも良いんです。お前は黙ってらっしゃい!と義郎が叱る。

二階にいたふみ子の所に来た節子は、姉さん、私、父さんに言ってやったわ、姉さんの方が正しいって…と伝える。

今の辛いあなたにそんなことさせてごめんなさいとふみ子が詫びると、みんなに気を使ってもらうとかえって辛いのよ、姉さん、私みたいになったらダメよ、自分の思う通りにして!と節子は励ます。

するとふみ子は、私決心してるのよ、迷ったりしてないわと答えたので、良かったわ、姉さんが幸せになれるならと節子は喜び、ありがとうとふみ子も礼を言う。 翌日、青木の小学校の校庭に、孝を連れて義郎がやって来る。 その後、青木のアパートに1人やって来た義郎は、金沢から上京して来たと言う青木の母親銀子(宝生あやこ)と出会う。

長い手紙が詣りまして、年も忘れて夜汽車に飛び乗りました。主人に死なれて20年になります。息子が東京に出て来て8年になります。

どんなお嬢さんが好きになったのかと…と誠実そうに話す銀子は、少しでも分かっていただけたらと…と言うと、青木の小さな頃からのアルバムを義郎に差し出す。

その銀子の左手の指には、夜なべ仕事でもしているのか絆創膏がいくつも巻いてあった。

その夜は、芳枝が夕食の支度をしているので珍しいなと帰宅した義郎が言うと、お父さんが休みを取られるのも珍しいですわと芳枝は笑い、私、展覧会が終わったら、どっかのアパートへ移ろうと思いますと言い出す。

それを聞いた義郎は、生活のめどがついたら独立した方が良い。無理に引き止めない気持分かってくれるねと理解を示す。

そして義郎は孝に、これふみ子姉さんの所へ持って行っておやりと言ってアルバムを渡す。

いつまでもいたいような甘えた気持があったんです。 苦しいこともあるでしょうが、孝と2人で暮らさなければ意味はありませんわと芳枝は言う。

そこへ、お父さん、これ…とアルバムを持ったふみ子がやって来る。

気に入ったよ、あのお母さん…、夕食に青木さんとお母さんをご招待したから、精一杯ごちそう作るんだよ。 アルバム、一緒に見ようか…と義郎はふみ子に優しく語りかける。

翌日、ふみ子と青木は、上野駅に、金沢へ帰る銀子の見送りに来る。

いよいよ芳枝が高岡家を出る日が来る。

節子が玄関で孝に靴を履かせていると、奥の座敷で仏壇に手を合わせていた芳枝に、あなたが来てくれて、この家にも新しい道が出来た。

ふみ子のこと、節子のこと、世話になった…と義郎が礼を言う。

またついでに寄らせていただきますわと芳枝は挨拶し、孝とともに家を出る。

玄関口ではちづ子もにこやかに見送っていた。

もう大丈夫ね、大丈夫よね父さん…と芳枝を見送りながら節子は言い、坂道を降りる芳枝は、走る孝に、走っちゃダメ!と注意し、ママ〜!と甘えて手をつないで来た孝とともに歩き続けるのだった。
 


 

 

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