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与太郎戦記 女は幾万ありとても

本編にも登場している春風亭柳昇原作の映画化シリーズ第四弾

今回は、国防婦人会の軍隊見学会、ヤクザ男の参加、海軍との喧嘩などと言ったエピソードが綴られている。

当時のテレビなどでお馴染みだった人気落語家たちも多数登場しているのだが、中には名前を思い出せない人も多い。

今回興味を持ったのは、ヤクザと言う特殊な設定のためもあるのだが、古参兵が自分より経歴が浅い上等兵や班長たちよりも威張っている所。

「病院下番」とか「練兵休」などと言う用語も初めて聞いたような気がする。

キャスティング的には、劇中別人設定の二役で登場している長谷川待子と言う女優さん。

二役とも男勝りの女傑キャラなのが面白い。

大映の人気シリーズ「座頭市」「眠狂四郎」「兵隊やくざ」などにも出ており、大映中心で活躍された女優さんらしいが、あまり印象に残ってないのは、ヒロインタイプではなく脇役タイプだったためだろうか?

気軽に楽しめる典型的なプログラムピクチャーである。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1970年、大映、春風亭柳昇原作、舟橋和郎脚本、弓削太郎監督作品。

東部62部隊一期中隊 起床ラッパが鳴り響き、起床!と呼び声が兵舎内に響き渡る。

タイトル

寝ていた兵隊たちは素早く起きて着替え、寝床の整理をして、庭先に出ると整列し、一斉に天突き体操を始める様をバックに、キャスト、スタッフロール。

浅井班長(長門勇)が突然やって来たので、秋本与太郎(フランキー堺)二等兵は、上官!ただいま掃除中であります!と呼びかける。

そんな事は良いから…といなした浅井班長は、今日、婦人が入隊すると告げたので、秋本はまさか!と返事をする。

正真正銘の婦人だと浅いが念を押したので、帝国陸軍も兵隊が不足して婦人を徴兵する事になったのですね!と早飲み込みをする。

しかし浅井班長が言うには、国防婦人会の赤坂支部の皆さんが見学に来るらしい。

そう云う事だから全員粗相のないように…、そうでないと我が中隊の名折れになるからなと浅井班長は全員に言い渡すと、村山二等兵を呼び自室に連れて行く。

村山二等兵は稼業が床屋で、子供の頃のあだ名がカニと言ったくらいですなどと言った自己紹介を聞きながら、浅井班長は、夫人たちを出迎えるその日のために髪を切ってもらう。

村山二等兵は、班長は美男子ですからなどと見え透いたお世辞を言いながら切り始めるが、浅井はそれを真に受けて機嫌が良くなる。

やがて、割烹着に襷姿の国防婦人会の面々が整列して舞台内に入って来る。

朝飯を食いながらも兵隊たちは窓の外が気にかかる。

飯を食い終えた兵隊が窓から婦人会の面々を覗くと、ババアばかりだったのでがっかりするが、中には若い娘も混じっていたので喜ぶ。

浅井班長は彼女らを内務班に案内して来る。

出迎えた秋本たちが素早く浅井班長の隣に立っていた若い奈美子(長谷川待子)を見つけにやつくので、それに気づいた浅井班長は、お前ら!デレンコ、デレンコしないで兵器の手入れでもしろ!と命じる。

すると奈美子が、秋本が磨き始めた銃を見て、これは重機関銃ですね?と質問したので92式です、1分間に360発弾が出ますと秋本は答え、良い所を見せようと答えかけていた浅井班長から、お前は余計なことを言うな!と怒られてしまう。

しかし、奈美子が1秒間に6発ねと素早く計算したので、ダダダダダダ!と秋本が弾が出るリズムを教えると、浅井も負けじとダダダダダダ!と少し違うリズムで答えたので、秋本とそれでは早さが違うと言い合いになる。

続いて庭先に婦人隊を整列させた秋本は銃剣の持ち方を教える事になり、いつものようにケツめどを絞めろ!と奈美子に向かって言うと、ご婦人に向かってそんな下品な言い方は止せ!と浅井が注意するので、失礼しました、お尻の穴を絞めなさいと丁寧に秋本が言い直すと、余計に奈美子は恥ずかしがる。

その後、秋本が前に立っていた奈美子の銃の持ち方を手を取って教え始めると、お前は隣のおばあちゃんをやりなさい!と浅井が割り込んで来て、自分が指導を名目に堂々と奈美子の身体を触り始める。

続いて、秋本が剣道の胴着を着て、婦人たちのタンポ付きの銃剣を身体で受けると言う訓練をするが、奈美子の突く剣は強く、秋本がよろけると、わしが受けてやると、又浅井班長が買って出る。

しかし、奈美子の銃剣を受けた浅井班長は、あまりの怪力で空中にはね飛ばされてしまう。

慌てて駆け寄った秋本に、浅井班長は負け惜しみでわざと負けてやったんだと言うので、秋本は、わざと負けてやったと申されています!と大声で奈美子に教える。

兵隊婦人たち揃っての昼食時、浅井班長が、奈美子さんの銃剣術は大した物だ、どこで習ったんです?と聞くと、女学校でちょっと…などと奈美子は恥ずかしそうに答える。

お茶汲みをやっていた秋本も奈美子にまとわりつくので、うるさがった浅井は、お前、落語でもやったら?と命じる。 奈美子は、まあ、落語家さんだったんですか?と驚くので、なに、座布団をひっくり返しとっただけじゃと浅井はバカにしたように教える。

食後、秋本が落語を始めると、最前列中央で横に奈美子を座らせた浅井班長始め、舞台一同、まだ枕もちゃんと始めてない段階から大笑いし始める。

ある日、秋本は平岩准尉(田武謙三)に呼び出されたので、てっきりビンタを食らうと思い込み、部屋に入るなり顔を傾けていたので、何をしとる!とかえって怒られる。

平岩准尉の用事とは、縫工場勤務を命じると言う物だった。

靴の修理などをやるのだと聞かされた秋本は、自分は生来ぶきっちょなので…と断ろうとするが、縫工場には女がいるんだぞ、嫌なら良い!と聞かされ、ぶきっちょと言っただけです、やらせてくださいと態度を急変させる。

その後、浅井班長に会った秋本は、明日から縫工場勤務になりましたと報告する。

翌日、縫工場の梶軍曹(春風亭柳昇)に挨拶に行った秋本は、縫工場の経験あるのか?と聞き、お前は靴の修理の見習いだと命じられるが、その時、奥の部屋でミシンを踏んでいた女性陣の背中が見えたので、自分はミシンが得意でありますと嘘の申告をする。

それを鵜呑みにした梶軍曹からミシン係へ配属されるが、正面から婦人たちの顔を見ると、全員お化けのような顔の連中(2代目桂伸治、柳家小せん)だったので唖然とし、課寺に、やっぱりミシンは出来ませんでしたと訂正に行く。

その頃、一班にふらりと見慣れぬ兵隊南一等兵(玉川良一)がやって来て、少年兵の寝床を勝手に取り上げてしまったので、部屋にいた荒川上等兵(仲村隆)ら古参兵たちは何者かと睨みつけ、何だい?お前さん?と近づいて問いただす。

すると南は、病院下番…、マラリアですよ、側に寄ると伝染るよなどと横柄に答えるので、荒川たちは嫌な奴が入って来たな…と後ずさる。

晋平たちが演習に出かけた後も、南は寝台で平然と寝ているので、あの野郎…、何年兵かな?と荒川たちは値踏みをする。

そこにやって来たのが浅井班長で、病院下番の兵隊はお前か?起きろ!と命じる。

面倒くさそうに寝台の上に起き上がった南は、マラリアだと言うので、全快したから来たんだろう?と浅井は睨みつける。

さらに南の額を触り、熱なんか全然ないじゃないか!と指摘した浅井は、軍医殿に診断書をもらって来い、そうしたら練兵休にしてやる。仮病なんか使ったらただではおかんからな!と睨みつける。

その後、班長室に南が来たので、診断書持って来たのか?診断書があったら病気と言う事になる、それが軍隊なんだと浅井は言い聞かすが、南はふてくされたように浅井の机の上にどっかと座り込む。

その態度を見た浅井は、言う事を聞かんと高名罪になるぞ!と叱りつけるが、あんた、何年軍隊の飯を食ってる?と南が聞くので5年食っとると答えると、俺は8年だ!しかも俺はシャバでは浅草金竜組の大幹部で殺し屋すけこましなど一通りはやって来たんだ。

この世で怖いもんはないんだ!と凄みだした南は、班長!この腹に剣を突き立てる事も朝飯前なんだぞ!と浅井の腹に指を突きつけて睨みつける。

脅かされた形の浅井班長は、南を連れ、一班に戻って来ると、荒川上等兵!この南は本当のマラリアなので練兵休にする。労ってやれ。

使役などには絶対に使わんように。病人であるから飯は食わせたらいかん!と伝えるが、横の南が睨んで来たので、山盛りにしてやれと仕方なさそうに命じる。

しかし、浅井班長が脅させたらしいと気づいた荒川たちは南を睨みつける。

一方、靴の修理に戻された秋本は、古参の中山上等兵(三夏伸)から靴底の鋲の打ち方を厳しく指導されていたが、生来の不器用さからなかなか巧くいかなかった。

そんな縫工場に女子工員としてやって来たのが、先日会ったばかりの相原奈美子だった。

それに気づいて秋本が声をかけたので、知り合いか?と梶軍曹は聞いて来る。

秋本は、自分も今日こちらに来た所ですと奈美子に伝えると、梶軍曹の事を紹介する。

そして、私、やっぱりミシンの方が得意ですなどと秋本が勝手な事を言いだしたので、さすがに梶軍曹も怒りだす。

一班では、南が寝台の上で大盛り飯を食っていたので、荒川上等兵とその仲間達は、それを横目で睨みながら、あの野郎…、班長にゴマすりやがって…と悔しがっていた。

縫工場でも昼食時間になっていて、秋本は、バケモノみたいな婦人たちから茶をねだられ、お茶汲みをやっていた。

あんた、サービス良いから出世するわよなどとお世辞を言われるが、ババアから言われたのではうれしくも何ともなかった。

そんな中、奈美子にそっと、今度外出した時ゆっくりお話でも…とささやきかけた秋本だったが、それを聞いた婦人たちは、ここでこそこそ話は禁止なのよ!などと嫌みを言って来る。

その後、梶軍曹や中山上等兵から、おいちょかぶやらんか?と誘われた秋本は、喜んで参加する事にする。

そして花札を引いて迷っていると、思い切って行きなさいよと奈美子が声をかけて来たので、もう一枚引くと見事にカブだったので大喜びする。

奈美子もおいちょかぶが出来る事に気づいた梶軍曹が誘うと、奈美子はあっさり乗って来て、驚いた事に次々と勝ち進んで行く。

払う金がなくなった中山や秋本は、軍靴や軍服まで差し出し、とうとう秋本はふんどしだけになってしまう。

強いね、誰に習ったの?と中山が聞くと、私の姉さん、昇り竜のお銀と言うのよと奈美子が答えたので、全員納得する。

しかし、新米の秋本にはもう賭ける物がなくなったので、裸踊りやって負けてもらえと梶軍曹が言いだす。

仕方ないので、秋本は側にあった毛布を腰に巻き、「酋長の娘」の歌に合わせて踊りだす。

そんな縫工場にやって来たのが師団長(柳亭痴楽)で、踊っていた秋本は驚いて敬礼するし、梶軍曹たちも驚いて敬礼して凍り付く。

何をしとるか!と聞かれた秋本は、被服の修理のために脱いでいたのであります。

そしてこれは踊りではなく体操をやっておったのであります!と答えるが、ごまかすな!今のは「酋長の娘」ではないか!博打をやって身ぐるみ脱がされたのか?と師団長が怒鳴りつけたので、秋山や梶たちは窮地に陥る。

そうした中、そこにいた奈美子が、本当にごめんなさい!悪いのは私なんですと師団長に詫びながら泣き始める。

すると急に相好を崩した師団長は、泣かなくても良い、今回は見逃してやろう。わしは鬼将軍と言われているが、女には弱いんじゃと奈美子をなだめ、その場を立ち去ってゆく。

窮地を救われた梶たちは、奈美子に危ない所を助けて頂いて…、敬礼!と全員が敬礼をし、機嫌が直った奈美子も敬礼で返す。

一班では、荒川上等兵と仲間達が寝台の上で餅を食っていた南の前に来て、南一等兵、起きろ!と命じていた。

面倒くさそうに南が寝台の外に立つと、貴様!地方ではヤクザのお兄さんだったかもしれねえが、軍隊じゃ違うぞ!と荒川上等兵が怒鳴りつける。

すると南は、食うもんも六に食わせねえなんて…とぶつぶつ言いながら、側にあった小銃を手に取ると、浪花節をうなりながら軍服のポケットから弾丸を取り出し、それを小銃にこめ、いきなり荒川たちに向ける。

上等兵さん、俺のやる事に文句あるのか!班長から労れって言われただろう?それを焼き入れようってのか?と南が怒鳴りつけると、迫る。

さすがに銃を突きつけられた上等兵らは全員顔が青ざめ、からかっただけだ、冗談だよと言い繕うとするが、からかった?冗談?この中に入っているのは実弾だ!と脅した南は、一発窓に向かって発砲する。

その発砲音に驚いて駆けつけた浅井班長も、南が銃を構えているのを見て仰天する。

この班の上等兵さんたちは物覚え悪いぜ、もう1度言ってやれよ…と南は言う。

そこに、銃声に気づいた山崎隊長(夏木章)と共に平岩准尉もやって来て、南、もう気がすんだだろう、返せ!と声を掛けるが、興奮した南は、近づくんじゃねえ!偉い人は早々に引き上げてもらおうじゃないかなどと平岩にも言う。

やむなく引き上げる途中の山崎、平岩、浅井らの元に駆けつけた歩哨が、今、銃声が聞こえたんですが?と言うので、一班じゃない!と追い返し、どうします?南の奴…、放っとくとまたぶっ放すぞと困惑する。

営巣に入れるしかあるまい…と平井は准尉が答えていると、そこにしょんぼりした秋本が立っているので、浅井がどうした?と訳を聞くと、隊長、申し訳ありません!覚悟はしておりますと言うので、又何かやったのか?と再度聞くと、縫工場で博打をしていた所を師団長閣下殿に見つかってしまったんです…と言うので、そんな事か!と准尉たちは無視する。

それで、今話していた営巣の話は自分の事ではなかったと知った秋本は安堵し、一班へ戻ると、何も知らず自分の寝台に戻って着替えをする。

ふと気がつくと、荒川上等兵らが寝台の端で正座をしているし、隣には銃を構えた見知らぬ兵隊がいるではないか。

あんた、新入りだね?おれ、秋本与太郎って言うんだ、俺は噺家だったんだよ、あんたは?と気軽に挨拶した秋本だったが、俺はヤクザだよ!とぶっきらぼうに南が答えたので、気取っちゃって、下痢してるの?一片ヤクザになってみたかったんだよね…などと笑顔で答える。

ここでようやく、南が構えている小銃に気づき、小銃をこんな所に置いといちゃダメだよと注意すると、実弾が入っているんだ、今、一発ぶっ放した所だ!と南が睨んで来たので、ようやく事の重大さに気づいた秋本は腰が抜けたように寝台から逃げ出したので、イ○リみてえな野郎だな…と南は呆れる。

その頃、平岩准尉と山崎隊長は、小銃さえ取り上げればこっちのものだ、命がけでやってみろと浅井班長に無理強いをしていた。

だって…と渋る浅井は、自分には女房も子供もおります。戦争で死ぬのは覚悟していますが、あんな奴のために死ぬのは…と言い訳をする。

そんな部屋にやって来たのが秋本で、南一等兵の小銃を奪う方法を考えつきました。

夜の点呼前に、私が落語をやりますから、その間に取り上げるのですと言う秋本の提案を聞いた山崎隊長は、お前なかなか頭良いなと褒める。

すると秋本も、私もどう思ってますとしらっと答える。

その夜、浅井班長以下、兵隊たちが並んで椅子に腰掛け、南は寝台の上で銃を持った状態で秋本の落語を聞き始める。

南に一番近い場所に座っていた浅井は、他の兵隊たちに合図をして無理矢理笑うようにしむけ、それにつられて南も笑っている間に隙を見て素早く銃を取り上げようとするがなかなか巧くいかない。

しかし、何度か繰り返すうちに、とうとう南が完全に銃を手放した瞬間があり、すかさず銃を奪い取った浅井班長が、小銃を南に突きつけ、荒川たちが一斉に飛びかかって南を取り押さえる。

翌日、秋本は平岩准尉に呼ばれ、秋本、良くやった!隊長も褒めておられた。お前、見直したぞと褒められると、お前、中隊当番になれと命じられる。

秋本は突然の命令に戸惑い、縫工場の方が…と申し出ようとするが、兵隊には脳みそも心臓もないんだ!上官の言う事が聞けんと言うのか!と言われたので返事に窮するが、胃袋で答えろ!などと無茶な事を言われたので、さらにどうして良いのか対応に困りながらも、当番を受け入れるしかなかった。

当番になった秋本は中隊部屋の廊下で待機し、平岩准尉の部屋から茶!と声がしたので、急いで茶の準備をして持って行こうとするが、手前の山崎隊長が突然戸を開けて、その湯のみの茶を取り上げてしまったので困惑する。

それは平岩准尉殿のであります!と伝えると、汚ねえな!あいつは歯槽膿漏だよと言い、湯のみに触れた唇を拭き、自分の軍靴を秋本に磨かせ始める。

秋本は、山崎隊長が床に吐き出すつばを布に受け、それで隊長の軍靴を磨く。

すると奥の部屋から、茶はまだか!と呼ぶ平岩准尉の声が聞こえたので、慌てて、又茶を入れ直し持って行く。

茶を受け取った平岩准尉は、山崎隊長が秋本を呼ぶ声を聞くと、痔の薬を持って来いと言うんだろうとバカにしたように教える。

廊下に出た秋本は、部屋から出て来た山崎隊長に、軍医とのから痔の薬をもらってきましょうか?と聞くが、軍医の薬は効かねえんだ…と答え、お前、何でその事を知ってるんだ?と不思議がる。

その山崎隊長は、止せば良いのに、馬の跳躍を浅井に披露すると言いだす。

所が、跳躍直後、山崎隊長は落馬してしまう。

それを見ていた浅井班長は、巧いもんだな、飛んだ後上を向いて寝るのかと感心していたが、次の瞬間、本当に落ちたんか!と仰天し、衛生兵!と叫びながら山崎隊長の元へ駆け寄る。

すぐに手術が行われ、手術室の前で待機していた浅井が、出て来た患者に付き添っていた看護婦(望月節子)に容態を聞くと、内臓破裂でもう持ちません、ただちに家族と小隊に連絡してくださいと言うので、すぐさま東部62部隊一期中隊の秋本に電話を入れる。

その浅井の背後で運ばれて行ったのが山崎隊長で、手術室から出て来たのは別人だったのだが、浅井班長は気づかなかった。

隊長殿はダメらしい、すぐに家族の方に連絡を取るようにとの電話を受けた秋本は、ただちに平岩准尉に伝える。

それを効いた平岩准尉は驚き、部隊長(三遊亭円右)にも連絡をし、山崎隊長の夫人(竹里光子)と子供と一緒に病院にやって来る。

寝台で寝ていた山崎隊長は目覚め、部隊長殿!わざわざお見舞いありがとうございます。2〜3日で退院できるそうですと言うので、それを聞いた子供は、お父ちゃんの嘘つき、死んだなんて!と憤慨する。

誰が死んだなんて言ったんだ!ははあ、与太郎だな?貴様のためにわしは大恥をかいたんだ!と中隊に戻って来た平岩准尉は秋本を叱りつける。

浅井も一緒になり、わしは危篤と言っただけだと秋本を叱るので、貴様もおっちょこちょいだ!と平岩准尉は浅井にも怒鳴りつける。

その後、第一班内では、近々動員があるのではないかと言う噂が広まりだす。

被服廠に新しい被服がわんさと入って来たらしく、その服から見て南方らしいと言うのであった。

自分たちがどうなるのか気が気ではなくなった荒川上等兵たちは、中隊当番を呼んで来い!戦地に着く前に船がドカチン食らうってよと噂し合うので、それを寝台の上で聞いていた南は、俺は大丈夫だよ、病院下番だから…と空威張りする。

秋本がやって来ると、中隊事務室に変わった事はないか?と荒川が聞き、そう言えば、朝早くから隊長たちが相談し合っていますと秋本は答える。

それを聞いた荒川らは、どんな話をしているか探って来いと秋本に命じる。

早速、お茶を持って、帳面を見ながら同席していた平岩准尉と山崎隊長の部屋に入って来た秋本は、茶を配る振りをしながら、2人が読んでいる帳面の中身を読もうとする。

さらに、茶碗を間違っておりました!いや、間違っていませんでした!などと、2人の湯のみの取り違いを装い、時間稼ぎをする。

そして、荒川上等兵の元に戻って来た秋本は、今回は年次兵だけのようです…、皆さんの名前は…ちょっと確認する間がありませんでしたと報告するので、もっと調べて来い!と怒られてしまう。

仕方なく、又、茶を運んで来た振りをして平岩准尉建ちの部屋に戻って来た秋本は、同じように帳面を覗く時間稼ぎをし、荒川の元に戻って来ると、初年兵の名前だけが書き抜かれていましたと報告する。

その報告に、側の寝台で聞いていた南も一喜一憂する。

その後、またまた部屋に入って来た秋本に気づいた平岩准尉は、貴様、先ほどから何を探りに来とる!と睨んで来たので、痩せん雪を教えていただければ、もう茶は持って来ません!と秋本は正直に打ち明ける。

結局、その後、一班にやって来た平岩准尉と秋本隊長から発表になったのは、誉105部隊への転属者の発表をする。

秋本も南喜久男の名前も読み上げられたので、待ちなよ、爺さん!と平岩准尉を呼び止めた南一等兵は、俺は外してもらおう。

病人なんだから転属なんて!と文句を言って来る。

挙げ句の果てに、憲兵でも何でも呼んで来い!とまで開き直って暴れるので、貴様は軍の飯を8年食っとるかもしれんが、わしは16年食っとる!と平岩准尉は怒鳴りつけ、浅井班長も、ヤクザなら見苦しい真似をするな!南、貴様もヤクザなら、親分の命令を聞くのが本当だろう。分かってくれ!これから俺立ちは死ぬも生きるも一緒だ…、仲良くやろうじゃないかと切々と言い聞かす。

下田港にやって来た転属部隊は、輸送船が到着するまで1両日かかると言うので、近くの旅館に分宿して待機する事になる。

浅井班長と同室になった秋本が、やっぱり浴衣は気分が良いですな〜と喜ぶと、着納めかもしれんと浅井は寂しげに言う。

すると畳にほおずりをしだした秋本は、これも最後かもしれませんと言う。

その時やって来た仲居に、風呂を勧められた浅井だったが、どうせ混浴じゃないんだろう?と聞くと、混浴だと言うので、じゃあ俺行くわ!と張り切りだす。

しかし仲居は、今は女のお客さんは1人も泊まっていませんよと笑うのでがっかりする。

湯船は荒川上等兵ら野郎たちばかりだったので浅井はがっかりするが、その荒川が、班長殿、夕飯後は外出させてください。

近くに「ダルマ」って言う店が会って、酌婦が5人もおり、二階へ上がるんだそうですと耳打ちして来たので、夕食がすんだら外出だ!と浅井は許す。

荒川が、服を脱ごうとしていた秋本に、お前童貞なんだって?まだ女も知らないのかとからかうと、女なら知っとります、母ちゃんとか妹とか…と秋本が答えるので全員呆れて嘲笑する。

そこに湯加減に見に入って来た三助(梅津栄)は、秋本の顔を見ると、与太さん!とうれしそうに近づいて来る。

田熊六年兵殿!と秋本は仰天するが、浅井たちはその様子を見て、あいつ、男は知っとるのか?気持悪いから上がろうかと言い、全員風呂を出て行ってしまう。

すると、田熊は、やっと2人きりになったわね、私は除隊してここに勤めるようになったのよ。良い身体してるじゃない、私、あなた好みの女になるわなどと言いながら、秋本にむしゃぶりついて来る。

部屋に戻って夕飯を食い始めた浅井たちは、なかなか秋本が戻って来ないのに気づくが放っておく事にする。 風呂場では、まだ田熊が秋本に絡んでいた。

耐えきれなくなった秋本は湯船に飛び込み、田熊も湯船の中に入って来たので、濡れ鼠のまま飛び出し、班長殿〜!と叫びながら風呂場から逃げ出す。

食後、「ダルマ」と言う店にやって来た浅井と秋本は、自分たちの相手をする酌婦が奈美子そっくりだったので驚く。

しかしその酌婦は、私はお吉(長谷川待子-二役)よと言い、奈美子などと言う女は知らないと言うので、良く似てるよ〜と浅井と秋本は感心する。

そんなお吉は、秋本が童貞だと知ると、今夜一等兵さんを可愛がってあげる!と秋本に抱きついて来たので、浅井の方は白ける。

その時、店に入って来たのが海軍の連中で、陸軍がいると気づくと、豚臭いななどと露骨にバカにして来る。

それにかちんと着た荒川上等兵は、海軍の奴らに嘗められてたまるか!と言いだすと、「万朶の桜♩」と「歩兵の本領」を歌い始める。

それを聴いた海軍連中は「守るも攻めるも鉄の〜♩」と歌い返して来たので、南が切れて、海軍にばかりサービスする酌婦を奪い返そうとする。

店内で海軍と陸軍がつかみ合いの喧嘩を始めたので、喧嘩は止めろ〜!と秋本は叫ぶが、全く喧嘩は収まりそうにない。

すると、陸軍と海軍のバカやろう〜!唐人お吉の流れを汲むフーテンのお吉って言うんだ!これ見てごらん!と言いながら、飯台の上に上げた片足の太ももの桜の入れ墨を披露したお吉が、喧嘩とこっちとどっちが良い?と聞いて来たので、兵隊たちは入れ墨の太ももに目が釘付けになり喧嘩をやめてしまう。

翌日、旅館の秋本と浅井の部屋にもんぺ姿でやって来たのはお吉だった。

夕べはあんな事になってサービスできなかったでしょう?戦地雪の船はいつ来るの?とお吉が聞くので、今夜来るかも…と浅井は答えながら、縁側でお吉の手に触れようとするが、ちょうど秋本が置き忘れていた縫い針が尻に刺さってしまう。

浅井は秋本に布団を敷け!と命じ、お吉の手を引いて座敷に上がらせると、布団に横になるが、横に寝ていたのは秋本だった。

お前が何でここに寝とるん?と浅井が聞くと、これは自分の布団でありますと秋本が言うので、それじゃ俺が出なきゃ…と言いかけ、何で俺が出なけりゃいけないんだ!と浅井は怒りだす。

縁側に座っていたお吉は呆れて、じゃんけんで決めたら?と言うので、じゃんけんをしようとした浅井だったが、軍隊では上官が先だ!と基本的な事に気づき、布団にお吉を招き入れる。

すると、その横に秋本がぼーっと立っていたので、お前、何見とるん?廊下に立って立哨しとれ!と命じたので、慌てて隣の部屋に行きかけた秋本は、復誦を忘れておりました!と又部屋に入って来る。

苛ついた浅井から追い出された秋本は、隣の部屋から廊下に出ようとした時、入って来たのは赤ん坊を抱いた浅井の女房おかつ(都家かつ江)だった。

浅井の部屋に入ったおかつは、一緒にいたお吉を見て、この人誰?と聞いて来たので、慌てて飛び起きた浅井は、秋本の奥さん…とごまかす。 それを真に受けたおかつは、浅井の家内です。

お互いこれが最後になるかも…、想いは同じですとお吉に挨拶すると、お前さん。駆けつけって言うじゃない、幸い床も敷いてあるし…、わざわざ東京からやって来たんですから…と浅井に色目を使って来る。

そして、これお願いします。おむつもお願いしますと赤ん坊とおむつの入った風呂敷包みを秋本とお吉に渡すと、隣の部屋に追い出してしまう。

別室にやって来た秋本は、赤ん坊が臭いので、おむつを替えながら、お父ちゃんと一緒で下の栓が緩んでるんじゃないか?などと言いながらぼやく。

さすがに、赤ん坊がいる部屋で一緒に寝る事も出来ないので、気分でないわと言いながら帰ってしまう。

そこに、どうかなさいましたか?とギョロ目の番頭が過麻植を出すので何でもないと追い返す。

「ダルマ」にやって来た海軍の兵隊は、そこにいた秋本を見つけると、貴様、夕べの兵隊だな?陸軍はたるんどる!だから戦況が不利になるんだ!と詰め寄って来る。

その日の昼食時、他の兵隊と共に浅井の隣で一緒に飯を食っていたおかつは、秋本の姿が見えないので、おかみさんと一緒かしら?と言うと、それを聞いた荒川上等兵らは、童貞のあいつにおかみさんなんているはずがない!と嘲笑する。

そのとき駆け込んで来たお吉が、大変よ!与太さんが海軍の人質になったのよ!と伝える。

それを聞いた浅井や荒川たちは海軍本部の前に来ると、用があるなら正式な手続きを取れ!と言う見張り兵を無視し、営門から中に入ろうとする。

そこに、夕べの海軍の連中が来たので、我が兵がかどかわされたんだ!司令に取り次げ!と言いながら殴り合いになる。

南一等兵も参加し大乱闘の末、基地内に侵入した一行は、必死に秋本の姿を探そうとする。

すると、肩に荷物を抱えたセーラー服を着た水兵がどうかしたのですか?と南に聞くので、秋本と言う奴を探しているんだと秋本を探しながら南は答える。

その水兵も、秋本〜!と呼びながら周囲を探し始めたので、ふとその顔を見た浅井は、秋本じゃないか!と驚く。 セーラー服を着た秋本は、自分の事でしたら大丈夫であります。

元気でやっておりますなどと何事もなかったように笑顔で答える。

いよいよ輸送船が到着し、近くの神社の境内に集合した転属班を前に、内地にはもう帰られんかもしれん。

日本の景色を良く見ていけと浅井班長が言い聞かす。

整列した兵士たちが周囲を見回すと、お吉や婦人たちとともに、田熊も、与太さん、お達者で!私、いつまでも待ってるわよ!と名残惜しそうに見つめていた。

その時、浅井の前に立っていたおかつが、あんた、一発やりましょうか?などと言いだしたので、こんな所で何言うとるんじゃ!と浅井は慌てるが。威勢良く一発やりますからね!と言ったおかつは、持っていた三味線を弾きながら、会津磐梯山を歌いだす。

それを聞いていた秋本以下兵隊たちは、全員、泣き出しそうになる。

(勝って来るぞと勇ましく〜♩と軍靴が流れる中) 右向け右!前に進め!と浅井班長は号令をかけ、全員、港に向かって歩き始める。

その後を追って神社内に入って来た見送りの婦人たちが旗を振って見送る。


 


 

 

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