白夜館

 

 

 

幻想館

 

若い傾斜

 

川地民夫さんと浅丘ルリ子さんコンビの青春文芸もの。

そこに、一色英司さんとともに(新人)とキャストロールに書かれた赤木圭一郎さんが川地さんとダブル主演のような形で登場している。

同じ新人扱いの一色さんが台詞もほとんどない端役扱いなのに対し、赤木さんの扱いが違っているのが興味深い。

主役に惚れているもう1人のヒロイン役清水まゆみも加わって、三角関係からダブルカップルの話になって行く。

話は良くある青春の蹉跌もので、貧しいながらも弁護士になる夢に向け真面目に勉強していた青年が、ふとしたことから、自分を取り巻く醜い大人たちの本性を知ることになり、絶望してしまうと言う苦い展開になっている。

この当時の浅丘ルリ子さんは、まだふっくらした少女の面影が残っている時代で、今の深田恭子さんにちょっと印象が重なるような部分もある。

悪役を演じている二本柳寛さんや柳永二郎さんらの大人のふてぶてしさも見応えがあるし、えん罪をかけられる気の弱そうな信欣三さんや、その口やかましい妻を演じている北林谷栄さんなど適材適所と言った感じである。

新人ながら準主役のような役柄を演じ、台詞も多い赤木圭一郎さんは、ちょっとこの後知られている作品での印象とは違って見える。

髪は天然パーマ風の短髪だし、まだ少し丸顔でハーフのような印象もある。

台詞回しや表情の堅さは、新人だけに仕方ない所だろう。

決して巧くはないが、疑うことを知らない純真な主役に対し、やや世の中を斜に構えて見ている現実型の男と言う難しいキャラクターながら、良く健闘していると思う。

低予算の添え物映画風だが、原作があるからかそれなりに良く出来た作品だと思う。

ちなみに、キネ旬データの配役には下條正巳さんの名があるが、見落としでなければこの作品には登場していないと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、日活、船山馨原作、池田一朗+小川英脚色、西河克己監督作品。

ビルを背景にタイトル

夜の9時半、ベルが鳴り、夜学の学生たちが学校からぞろぞろ出て来る。

腹の虫がグーグー鳴っているぞ!と川瀬康夫(川地民夫)に声をかけて来たのは一緒に法律を学ぶ同級生の庄司新吾(赤木圭一郎)だった。

一緒に屋台のラーメンを食いながら、俺たちは胃袋のために夜学に行ってるんじゃない、今の世の中が我慢ならないからだ!と康夫は言うので、お前は19世紀に生まれていれば良かったんだ、まだあの時代は夢があったからなと庄司はからかう。

その後、庄司と別れて帰宅途中だった康夫は、走って来たオープンカーに轢かれそうになり転倒する。

車を運転していたのは緒方美根子(浅丘ルリ子)は無免許だったので、慌てて車を降りて康夫に駆け寄るが、康夫は左手を打ったくらいだったらしく何ともないと言いながら立ち上がる。

美根子は案ずるが、車に同乗していた3人の男たちは、何でもないって言ってるじゃないかと美根子を呼び寄せる。

康夫はその後、アパートへ上る石段で同じアパートに住む櫟千加子(清水まゆみ)と会ったので、危ないぞ、こんな時間に1人で歩いていたらと声をかける。

平気よ、痴漢なんか慣れてるもん!と気が強い知加子は言い返し、お父さんまだなのよ、最近帰りが遅くて、毎晩赤い顔して帰ってくるので、お母さんから甲斐性なし!って言われているの。

私が康夫君のお嫁さんになったら楽しませてあげるわなどと言って来る。

部屋に入ると、母親の川瀬奈津江(山根寿子)が残業だったの…と遅く帰って来た詫びを言うと、おなか空いたでしょう?と聞いて来たので、庄司とラーメン食べたけど、どこに入ったか分かんないよと康夫は笑う。

しかし、康夫が腕が汚れているのに気づいた奈津江が転んだの?と心配すると、車にはねられたんだよ、乗ってたのは俺と同じくらいの年の連中だった。太陽族って言うのかな? 俺も後10年もすれば、あのくらいの車に乗ってみせる。卒業したら弁護士試験受けるからねと康夫は夢を語る。

奈津江は、そうなったら母さんを秘書にしてねと笑顔で話しかける。

その頃、隣の部屋の知加子の父親櫟伊三郎(信欣三)が帰って来る。

翌日、康夫は勤め先の東亜電力の事務所に来て、係長の櫟伊三郎に会う。

そこにやって来た部長が、本社まで行って創立記念日招待の家族券を取って来て欲しいと声をかけて来たので、櫟は康夫に頼む。

緒方法律事務所 緒方亮介(二本柳寛)が仕事を抱えすぎて疲れている風だったので、秘書の川瀬奈津江は、他の方にお任せになったら?と心配して声を掛けるが、そうもいかんよと緒方は言う。

そんな事務所にやって来た康夫は、40周年記念祝賀祭の招待券を本社からもらって来たと緒方に渡す。

それを受け取った緒方は、君の志望は建築かね?と聞くと、弁護士ですと康夫が答えると、私も7つの時に母を亡くして苦学した。しっかり頑張りたまえと励ます。

その事務所には庄司が働いており、今は太陽娘のために働くか…などと康夫に冗談を言って来るが、そこにやって来たのが、緒方の娘の美根子だった。

美根子はそこにいた康夫の顔を見るなり驚いたので、その様子に気づいた庄司が、川瀬さんの息子さんだよと教えるが、昨日ご迷惑をおかけしたのと美根子が初対面ではないことを打ち明けたので、川瀬、お前にしたら上等だよ!と勘違いしたように褒める。

その後、康夫、庄司、美根子の3人は喫茶店に行って、康夫が民法の勉強をしていることを打ち明けたり少し談笑するが、用事があるからと言うと、美根子がそれは私が!と止めようとするのも聞かず自分がビルを持ってレジに向かうと、金を払って出て行く。

それを見送った庄司は、金のない奴ほどプライドが高いと嫌みを言う。

その後、東亜電力の創立40周年記念祝賀祭と言うイベントが行われ、運動会のように屋台が出たり、ダンスを踊ったりする。

しかし康夫は1人離れた所で本などを読んでいた。

知加子が誘いに来るが、康夫は俺こういうの苦手なんだと断るので、こんなのよりも俺がお相手するよ!と庄司が知加子の手を引き連れて行ってしまう。

そんな中、小林社長(津田秀水)と一緒にいた五十嵐専務(柳永二郎)に近づいた使いのものが何事かを耳打ちすると、緊急会議だ!重役だけ集めろ!と専務は命じる ただちに、ダンスを踊っていた重役や屋台にいた重役たちに声がかけられ次々に会場から姿を消して行くので、知加子と踊っていた庄司は、上の連中が帰ってゆくぞと不思議がる。

一方、一人本を読んでいた康夫にいきなり背後から目隠しをして来たのは美根子だった。

踊れないんですよと断る康夫を、スクェアダンスくらい習ったでしょう?と美根子は無理矢理連れて行く。

ダンスの輪に入った康夫と美根子は「オクラホマミキサー」のメロディに合わせ踊り出す。

屋台の所にいた知加子は、それを嫉妬深い目で睨みつけると、映画館に行かない?と庄司を誘う。

康夫と美根子は、祝賀会の後、一緒に歩いて帰るが、あんなに難しいとは思わなかったとダンスのことを言う康夫に、今度はロックンロールを踊らせるわよとからかった美根子は、あなたを縛っている時間の邪魔をしたいの!と笑顔で言う。

アパートに帰って来た康夫は、いきなり知加子から持っていた洗濯物を投げつけられる。

退屈な西部劇と刺激的な恋愛映画見て来たのよ。庄司さんったら、そっと手を握るの!と知加子が打ち明けたので、知加ちゃんのこと好きなんだよと康夫が言うと、そう…、世の中巧く行かないものね…と知加子は哀しそうにつぶやく。

そこに櫟伊三郎が帰ってきたので、知加子は部屋に戻る。

櫟は康夫に君に頼みたい事があるんだと言うと、人気のない場所に誘い、何も聞かないでこれを預かって欲しい。

非常に大事なものなんだ。誰にも言わないでくれと言いながら封筒を渡して来る。

翌日、新聞に大きく「東亜電力汚職」の報道が載る。 会社では、係長も関わっていたらしいなと櫟のことを噂していた。

その日も夜学の授業を受けていた康夫は、櫟から預かった封筒に入っていた手帳の中身を教室で読んでいた。

4月6日から興国…と言う会社から受け取った一等品が二等品だったことに気づいたと書かれていた。 4月7日、五十嵐専務から、二等品を一等品として受け取るように命じられ、11日には、興国からキャバレーで饗応を受けた。

その後、二等品が5000トンも届いたなどと云った経過が事細かに書かれてあった。

櫟の妻民子(北林谷栄)は自宅アパートで伊三郎と知加子と向かい合い、東亜電力の人間が汚職なんかしているなら、家族がこんな暮らししているはずないじゃない!と報道を信じずぼやいていたが、そこに刑事が訪ねて来て、櫟伊三郎さんですね?収賄容疑で逮捕しますと言う。

隣の康夫は、外の騒ぎに気づきドアを開けると、櫟が連行されるのを止めようと、この人にそんな甲斐性があるかどうか見れば分かるでしょう!などと刑事に呼びかけながら必死にすがりついて部屋の前に出て来た民子と、それをなだめようとしている知加子の姿を目撃する。

その後、家宅捜査が始まった部屋に戻った知加子は、時間だからお店に参りますけど宜しい?と刑事に聞き、部屋を後にする。

そんな知加子を追って行って声をかけた康夫だったが、康夫さん、好き!と言いながら、知加子は急に康夫の頬にキスをして去って行く。

翌日も、東亜電気の社内では櫟が逮捕された噂で持ち切りだった。

尾崎営業部長に部下(河上信夫)が、驚きましたなと話しかけ、えてしてああいう堅物がどえらいことをやるものだなどと陰口を叩いていたので、見かねた康夫が、櫟さんはそんな人じゃありません!と反論すると、見習いのくせに口を出すんじゃない!と叱られる。

拘置された櫟に面会に来たのは、東亜電力の顧問弁護士緒方だった。

櫟は相当峻烈な取り調べを受けたようで憔悴していたが、何もしゃべってないと言う。

それを聞いた緒方は、あなたの一言で会社が総崩れになる。今、会社に見放されると家族が困るでしょう?もらった金はいくらくらい?と聞くので、5万を2回…と櫟は正直に答える。

あなたのような気の弱さのある人は用心深さもあるはずだ、日記のようなものは付けてなかったですか?と緒方が聞くと、ええ…と言いかけた櫟だったが、慌てて、そう云うものを付ける習慣がないですから…と否定する。

康夫は、櫟から預かった手帳を夜間学校で庄司に見せ、これは櫟さんに取って最後の砦だから…と言いながら意見を求める。

庄司は、一番高く買うのはうちの所長だろうな…、最大限に確証になると言うので、緒方さんに渡そうと康夫が決断するが、お前、所長のことどう思ってるんだ?と聞く。

一流の民事弁護士さと康夫が答えると、助けてくれるとどうして思う?と庄司が聞き返したので、後は信用するさ、君は弁護士を何だと思ってるんだ?と康夫がむっとして答えたので、じゃあ、勝手にするさ、確かに奴は模範的な弁護士だからな…と庄司は意味有りげな答え方をする。

日曜日、康夫は大田区にある緒方の家にやって来る。

緒方の屋敷では、美根子が女中のしず(加代あけみ)に五十嵐努(一色英司)たちがまだ来てないか聞いていた。 緒方は応接室で猟銃の手入れをしていた。

何の用かね?とソファーに座っていた康夫に聞くと、櫟さんの手帳を預かっているので、弁護に役に立つんじゃないかと思って…と言いながら、持参した手帳を緒方に渡す。

その時、康夫さん!と入って来たのが美根子で、罰として今日は1日付き合うのよ、勉君たちと一緒にゴルフなの!と一方的に言うので、康夫はゴルフなんてしたことありませんよと断るが、みんな下手なんだから…と美根子は言い、無理矢理康夫を連れ出す。

車で現地まで付いて行った康夫だったが、やはりやったことがないゴルフに付き合うのは無理と判断、僕はここで待っている、足手まといになるので…と美根子に断る。

仕方がないので、じゃあ、早く回って来る、ダメよ、帰っちゃ!と言いつけて、美根子は勉たちとコースを出発する。 その頃、緒方は秘書の奈津江と一緒に箱根の別荘に来ていた。

そして緒方は、美根子と康夫君が友達になっているんも知ってるか?と聞くと、いいえ、面白いもんですわね、偶然ってと奈津江も驚いたようなので、君はまさか僕たちのことを…と緒方が聞くと、言ってません…、でも康夫も子供じゃありませんから…と奈津江は答える。

分かってる、時期が来れば、私から話す…と緒方は言う。 コースを回って来た美根子は、康夫の姿がいないことに気づく。

康夫はバスで東京に帰っていた。

そのバスを追って、美根子が車を運転して来る。

とある停留所で美根子はバスに乗り込んで来て、つまんないから私も帰ると言いながら康夫の隣に座るが、康夫が僕は1人で帰りたいんだと言うと、次で停めてちょうだい!と美根子は運転手に声をかけ、次の停留所で降りて浜辺を歩き出す。

康夫が追って来たので、なぜ追いかけて来たの?と美根子がすねると、謝りたかったんだ…、同情されるのが堪らなかったんだ…、自分で恥ずかしいと思うよ…だけど人に笑われるのが嫌だし…だったら今の暮らしから一歩もでない方がましだよと康夫は言う。

アパートに帰って来た知加子は、部屋の中で母の民子が、20年も連れ添っといて、男なんて勝手なもんだよ…などと女友達と櫟の愚痴を言っているのが聞こえて来たので、ドアを開けられなかった。

康夫の部屋の前に来ると、中からラジオの野球中継の音が聞こえて来たので、噛んでいたガムを吐き捨て、中に入ると、そこにいたのは康夫ではなく庄司だった。

庄司は、昼頃来たら2人とも出かけると言うので留守番さ…と言い、どっか行こうか?と誘って来る。

ちょっぴりお酒飲みたいわ…と知加子は甘える。 庄司がバーに連れて行くと、知加子はやけ酒のようにカクテルをがぶ飲みする。

康夫は、最寄り駅で偶然出くわした奈津江に、母さん!田園調布に行ったんでしょう?僕、美根子さんとゴルフに行ったんだ!と声を掛けると、悪い子!お母さんが働いているのに遊んで!と奈津江はちょっと叱る真似をする。

日曜くらい休んだら?と康夫は奈津江のことを案ずると、お母さんのこと心配しなくても良いのよと奈津江は笑う。

櫟の面会に再び訪れた緒方は、まだ黙っているのですか?明日からしゃべってくれ、その代わり1人でそっくり背負ってください。会社は当座金300万出してくれますし、家族の面倒は見てくれるそうです。あなたが普通に退職しても退職金は120万止まりくらいでしょう。 自白してしまえば出られます。

保釈金はご心配いりません…と緒方は言うので、櫟は安堵したような表情になる。

雨の中、仕事を抜け出して来た康夫は、トンネルの下で待っていた美根子の元に駆けつけて来る。

2人は熱い口づけをかわすと、どうして1日に20分しか合えない人を好きになったんだろう…、つまんないわ、まだ2年もあるのねてん、康夫さんが学校を出ないと結婚できない!と美根子がすねる。

それを聞いた康夫は驚き、正直言ってそんなこと考えてもいなかった…、コンプレックスだよと言い訳し、2人は雨の中歩き出す。

その日の民法の授業に珍しく遅刻して来た康夫に気づいた庄司が、女だな?会ってたのか?お知加か?と声を掛けると、美根子さんだよと康夫が答えたので、やるじゃないか!一番手っ取り早い出世法だからなとからかう。 すると康夫は、変なこと言うなよ、本気なんだからな…と答える。

庄司はすぐさま構内から公衆電話をかける。

アパートに帰って来た康夫を知加子が呼び止め、康夫さん、お嬢さんが好きなんでしょう?といきなり聞いて来たので、庄司だな?と康夫は告げ口の相手に気づく。

ダメよ、そんなの!康夫さんだって、私のこと好きでしょう?お金持ちの娘なんかつまんないわ!と知加子が言うので、君は僕にとって妹みたいなものなんだよと康夫は説明するが、後悔するぞ!と睨みつけた知加子は、いきなり康夫の頬を叩いて逃げてゆく。

バーにやって来た知加子は、そこにいた庄司から、どうだった?と聞かれ、嫌な感じよとふくれてみせる。

その後、庄司と一緒に歌声バーにやって来た知加子は、ヤケになったように「カチューシャ」を歌いまくる。

一方、帰宅した康夫から美根子と結婚したいと聞かされた奈津江は驚き、所長さんが何とおっしゃるか…と顔を曇らせる。

その時、何気なくラジオを点けてみた康夫は、東亜電力の収賄事件の容疑者櫟伊三郎が、全責任は自分にあると証言しましたと言うニュースを聞き驚く。

すっかり酩酊した知加子は、後悔するぞ、康夫!などと言いながら、送って帰ろうとする庄司に迷惑をかけていた。

もう電車がなくなっちゃうぞ!と庄司が言い聞かせても、知加子は帰ろうとしなかった。

庄司は目の前にある「楽々荘」と言うホテルに目を留める。

翌日、奈津江の口から、美根子と康夫が結婚したがっていると聞いた緒方は、でたらめだ!美根子が私に隠れてそんなことをする訳がない。私がそんな話に同意すると思うか?私は苦学した男が嫌いなんだ!と言うので、あなたもそうだったのでは?と奈津江が不思議がると、私は自分が嫌いなんだ!と答える。

そんな緒方の事務所にやって来た知加子は、保釈金を出してもらいに来たんですと用件を話す。

応対した庄司は、保釈金は15万はしますよと教え、弁護士がいちいち保釈金を出していたら破産だよ。君のお父さんは汚職行為を自白しているんですよ、会社に迷惑をかけているんです。そんな人に会社が15万を出す訳ないでしょう。私も一切手出しできないんです。

今動けば、検察局の罠にはまるようなものですと呆れたように答える。

それを聞いた知加子は、ずいぶん買ってな理屈だわ!と憤慨し帰ってゆくので、慌ててその後を追った庄司が、この前のこと覚えているかい?とホテルのことを聞くと、気がついたら家に寝ていたわ、知らぬ存ぜぬの手ね!と意味有りげなことを言い残し帰ってゆく。

その後、康夫から屋上に呼び出された庄司は、すまん!確かめたい事があるんだ。

さっき知加から電話があったけど、一流の弁護士が言うことじゃないよと言われたので、偶像破壊か?とからかう。

所長に会ったのか?と庄司が聞くと、電話したけどいないんだと康夫は言い、お知加の言ったことは本当なのか?と聞く。

しかし庄司は、一流弁護士の言うことなんて分かる訳ないだろうとはぐらかす。 その夜、帰宅した緒方は美根子を呼び、お前、あの男どう思っているんだ?と康夫のことを聞く。

パパに似ているわ、純粋で情熱を持ってるし…と美根子がうれしそうに答えると、苦学して弁護士を目指していてもたいがい途中で投げ出す。

意志が弱くて投げ出すんじゃない…、戦いには勝たなくてはならないからだ…と緒方は言い出す。

気の毒なのは戦いの中で破れる人たちだ。私の細君もお父さんを成功させるために犠牲になったんだ。美根子にお母さんの二の舞になって欲しくない!お前はまだ子供なんだよと緒方は美根子に言い聞かそうとする。

しかし美根子は、パパが余計な気を使っているだけなのよ、ママもきっと幸せだったに違いないわと答えている時、女中のしずがお嬢さんに電話ですと伝えに来る。

電話は庄司からだった。

櫟さんのこと、どう思います?と言うので、父の仕事のことは分かんないわと美根子は答える。

会社の顧問弁護士としては正しいと思う…と、茶店から公衆電話をかけていた庄司は言う。

私から父に話してみましょうか?と言うと、所長があなたの言うことなど聞くはずがないと庄司が言うので、保釈金くらい私の持ち株があるわ、それを渡せば?と美根子は提案する。

庄司は、君が出したことは言わない方が良いと答える。

美根子が保釈金を出したおかげで、釈放された櫟は庄司と知加子と民子らとともに警視庁から出て来る。

庄司は、所長が出してくれましたと嘘を言う。

櫟は、一緒に出迎えた康夫を呼ぶと、いつかあんたに渡したものは大丈夫か?と聞いて来たので、あれは緒方さんに渡しましたと答える。

それを聞いて一瞬、表情を曇らせた櫟だったが、その後、緒方の事務酒に1人で向かい、保釈金の礼を言うとともに、川瀬君がお渡しした手帳を返してもらえないかと伝える。

すると緒方は、手帳とは何です?と言うので、櫟は驚いたように、メモを付けた手帳ですと答えると、預かった覚えはありませんと緒方は答える。

いつか証拠になるようなものはないかと聞いた時、あなたはないと言いましたね。そんなものを私が持っていたら、私も証拠隠滅になります。 あなたはさっきからおかしなことばかり言う。出した覚えのない保釈金を出したと言ったり…、一度病院に行ったらどうです?と緒方が言うので、あんた、私がキ○ガイだと言うのか!と櫟は激高し、五十嵐たち重役は、私の証言でどうにでもなるんだ!と言うと、会社に対しそう云うことを言う人の弁護をするわけにはいかないと緒方は言う。

では、お約束の300万の金を頂けませんか?まさかそれも知らないと言うのか!と櫟が言うと、それは言いましたよ、ただ時間がかかるなどと緒方がはぐらかそうとするので、騙されたと気づいた櫟は思わず立ち上がり、緒方の机の上にあった文鎮を手に取ろうとする。

それを見た緒方は、軽率なことをすると保釈も取り消しになりますよ、櫟さん…と冷静に言い聞かす。

茫然自失状態になった櫟は、事務所のビルを出ると、そのままふらふらと車道に飛び出し、走って来たトラックに轢かれてしまう。

新聞に「重要参考人自殺」の文字が踊る。 争議の席で、妻の民子は、自殺なもんですか、れっきとした殺人ですよ!と、部屋にやって来た新聞記者たちに話す。

さらに、知加子にも話を聞こうとするので、私が何か言うと父が生き返るんですか!帰ってください!と怒った知加子は記者たちを追い出そうとした時、その場にいた康夫は、思わず、みんな重役の犠牲になったんだ!と打ち明けてしまう。

翌日、東亜電力に出社した康夫は、どう言う了見であんなことをしゃべったんだ!僕と一緒に謝りに行こうと、新聞を読んだらしい上司から叱られたので、専務に謝る必要はないんです!証拠はあるんです!と反論してしまう。

その件で会社から電話を受けた緒方は、手帳はとっくに焼き捨ててしまいましたと、手帳を読みながら答える。

その時、突然、川瀬君が来ましたと庄司が知らせに部屋に入って来たので、慌てた緒方は手帳を隠そうとして、他の書類と一緒に床に落としてしまう。

緒方は立ち上がって康夫を出迎えながら、庄司に落ちたもの拾ってくれと頼む。

部屋に入って来た康夫は、いつかお預けした手帳を返してくださいと頼むが、その間、床に落ちていた手帳に気づいた庄司は、こっそり自分が隠し、他の書類だけ拾って机の上に置いて部屋を出ると、かくして持ち出した手帳の中身を確認する。

櫟さんのえん罪を晴らしたいんです!と康夫が訴えると、社会正義か?ここは現実を考えないとな…、遺族はどうなるんだ?僕が上層部に掛け合うくらいで遺族を満足させようとしても無駄だよなどと緒方は言い聞かす。

外の廊下で部屋から出て来た康夫を待ち構えていた庄司がどうだった?と聞くと、現実的に考えろって言われたよと康夫が答えたので、俺たちも現実的にやろうじゃないかと庄司は言う。

その後、東亜電力本社にやって来た庄司は、受付で、緒方法律事務所の使いで来たと嘘を言い、五十嵐専務と会う。 緒方君の用と言うのは?と五十嵐が聞くと、これです!櫟係長の汚職メモです。

ざっくばらんに言いましょう、300万頂きますと庄司が言い出したので、強請だね、君は!と五十嵐は睨みつける。

櫟さんに渡すと言ってたのは300万でしたね?と庄司が言うと、手帳を見せてくれたまえと五十嵐が要求して来たので、これは渡せません、その代わりここで読んで差し上げましょう…、4月7日、五十嵐専務に頼まれ、今回より買い入れ金の開きを認む…と手帳の中身を読んで聞かせる。

その頃、手帳がなくなっていることに気づいた緒方は、庄司君!と呼びながら苛立っていた。

そして緒方は、秘書の奈津江に、今日帰りに家に来てくれたまえと声をかけたので、お嬢様がいるでしょう?と奈津江が案ずると、構わん!と緒方は言う。

田園調布の緒方の自宅で美根子がレコードを聴いていたが、帰宅した緒方はそれを止めさせ、お前は川瀬君と結婚したいといったね、そしてパパは反対しているとも言ったね?と確認すると、奈津江を部屋に呼び入れ、この人は私の妾だ、お前のお母さんが生きていたときから付き合っていた。

君が結婚したら家に入れようと思っていた…、それでも君は結婚すると言うのか?と告白する。

それを聞いた美根子は驚き部屋を飛び出してゆく。

その頃、康夫のアパートにやって来た庄司は、300万だ、お知加に渡してくれと封筒を差し出したので、お前が渡せば良いじゃないかと康夫が言うと、俺はちょっと悪いことをしたんだと言う。

中身を確認した康夫は、庄司!お前、どうやってこれを手に入れたんだ!と聞くと、俺たちがやれるとしたら、強盗か強請だ。所長がやろうとしたことだと庄司は教える。

出来たんだ!櫟メモだ。所長は燃やすと思ったのか?お前が手帳を渡したら、受け取ったあいつは心の中で笑っただろう。証拠のない相手の弁護など会社がすると思うのか?保釈金は美根子さんが自分の持ち株を売ってくれたんだよと庄司は打ち明ける。

さらに、お前のママさんと所長の関係を考えなければ、美根子さんとは巧く行かないかもしれんぞと庄司が言うので、初めて康夫は母親と緒方の関係に気づく。

庄司が帰った後、帰宅した奈津江は、康夫から緒方との関係を問いつめられ、必死に詫びるが、もう人を信用できなくなっていた康夫は、嘘だ!何もかも!みんな俺をバカにしてるんだ!と叫ぶと部屋を飛び出してゆく。

緒方の自宅に電話をした康夫だったが、美根子も緒方も、日光の別荘に行ってらっしゃいますと電話に出た老婆が答える。

日光に向かう車の中で緒方は美根子に、若いときのあんなことの1つや2つ忘れてしまうことだと諭していた。

アパートの知加子の部屋にやって来て300万を渡した康夫だったが、すでの部屋の中は片付けられており、水戸のおじさんの所へ行くことにしたの、康夫君みたいな意地悪には二度と会わないわと知加子は言い、いらないわ、こんなもの!と札束を無視する。

庄司が持って来たんだ。あいつ知加ちゃんの事好きなんだよと康夫は教えるが、誰が許すもんですか!と知加子は吐き捨てる。

しかしその後、300万の入った封筒を持って歌声喫茶で庄司と会った知加子は、楽しそうに「走れトロイカ」を歌いながら、はっきりしない男は大嫌いさ!と言う。 それを聞いた庄司はうれしそうに声を上げて歌うのだった。

奈津江は、尋問部屋のような所の机に座っている康夫に向かい、母さんが悪かったんだよ、1人で生きて行く自信がなかったんだよ。誰も助けてくれないと思っていたんだよ。康夫!分かっておくれ!と必死に言い聞かせていたが、机の前に座っていたはずの康夫の姿がいつの間にか消えていた。

それは夢だったのだが、朝目覚めた奈津江は康夫が帰って来ていないことに気づくと、緒方家に電話を入れる。

今度は女中のしずが出て、お2人とも日光に出かけていることを伝え、川瀬さんからは、夕べ遅く電話があったようですと老婆から聞いた話を伝える。 それは何時頃でしたでしょうか?と奈津江は確認する。

日光の別荘の前で猟銃を撃つ緒方。 別荘に戻って来た緒方は、下男の竹蔵を呼び、銃の手入れの道具は?と聞く。

竹蔵は二階にありますから取ってきましょうか?と言うが、緒方は自分で取りに行くと言い二階へ上がる。

すると、美根子が帰り支度をしていたので、美根子、何してる?と声をかけると、私、東京に帰ります。1度康夫さんからは慣れて考えてみたかったの、でもやっぱり康夫さんが好きなことが分かったの。

妾の子だと言ってパパが許さないなら家を出ます!と美根子は言う。

本当にあの男が欲しがっているのはお前ではなく緒方家だ!と緒方が止めようとすると、康夫さんはそんな人じゃないわ!パパは不潔よ!と言い残し部屋を飛び出て行く。

美根子を追って、猟銃を持ったまま1階の部屋に緒方の前に姿を見せたのは康夫だった。

何しに来たのだ?と緒方がなじると、さ、遠慮なくその鉄砲を使いなさい。でも黙って殺されませんよ、だってあなたは暴力に反対する弁護士じゃないですかと言いながら康夫は緒方の前に立ちふさがる。

警察を呼ぼうか!と緒方が脅すと、あなたはメモで櫟さんを殺し、母も殺し、僕の弁護士への夢も殺し、今又、美根子さんも殺したんだ!と康夫は迫る。

その時、緒方の猟銃が発射したので、緒方は慌てて、今のは暴発だ!信じてくれと訴え、銃をその場に捨てて部屋の外に逃げ出す。

康夫は猟銃を取り上げると、緒方を追って外に飛び出す。

必死で草地を逃げ回る緒方だったが、追いついた康夫は猟銃を撃つ。

別荘からまだそう離れていなかった所にいた美根子もその銃声に気づく。 追いつめられた緒方は、待て!話せば分かることだ!と近づく康夫に訴える。

その時、待って!康夫さん!パパだけが悪いんじゃない!と康夫に飛びついて来たのは美根子だった。

しかし、そんな美根子を邪魔そうに、退いてくれよ!と振り払った康夫は、持っていた銃をその場に捨てて立ち去ってゆく。

命拾いしたと悟った緒方は、ありがとう美根子…、あいつはキ○ガイだ!何をするか分からないからな…などと言うので、パパ、まだ自分が正しいと思ってるの?世の中ではパパが正しいかもしれないけど、でも私は、自分の信じる通り生きたいんです。どんなに困っても、もうパパにお会いしないわ!と言い残し、美根子は立ち去ってゆく。

遠ざかってゆく美根子の後ろ姿を見ながら、行ってしまえ!のたれ死にすれば良い!どんなことをしても強い奴が勝つんだ!世の中、力なんだ!と緒方は負け惜しみを言う。

別荘にやって来ていた奈津江は、草原を歩いて行く康夫の姿を見つけ、康夫!と呼びかけるが、康夫には聞こえなかったのか、そのまま通り過ぎて行く。

そんな康夫の後を追って来た美根子は、康夫さん!待って!私も行く!と呼びかけるが、康夫は振り向きもせず歩いて行く。

やがて、2人の姿は林の霧の中に消えてゆくのだった。
 


 

 

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