白夜館

 

 

 

幻想館

 

裏切りの暗黒街

 

鶴田浩二主演の犯罪サスペンス。

仲間たちと完全犯罪を目論んだものの、内部崩壊し始め…と言う、良くある犯罪ものの展開なのだが、異色なのはその犯罪に、ケン・サンダース演じるハーフの青年が絡んでくる所だろう。

このハーフの青年が準主役とも言うべき重要なキャラクターで、自分と同じように不遇な境遇の鶴田浩二に心惹かれて行く過程が描かれて行く。

降旗康男監督らしく、単なる犯罪ものではなく、若干ウェットな人間ドラマが絡んでいるのだ。

ただこの頃の作風は、後年のように叙情部分に比重が置かれている訳でもなく、犯罪サスペンスとのバランスも悪くない。

見所としては、天津敏さんのヤクザ役だろうか?

時代劇での悪役イメージはあっても、現代劇でのヤクザイメージはあまりないだけに、貴重な作品のような気がする。

子分役の八名信夫さんが優しく見えてしまうくらい天津さんの強面は迫力がある。

待田京介さんがヤク中の男を演じていたり、強面の山本麟一さんが、身体的知的ハンデのある弟思いの兄貴を演じていたりするのも珍しいし、香山美子さんと鶴田浩二さんの組み合わせなども貴重なように思える。

一見、温和そうに見える渡辺文雄さんや永井秀明さんが悪役を演じているのも異色。

劇中、戸川昌子さんがシャンソンを歌うシーンがあるのも見所だろう。

ちなみに、キネ旬データのキャスト欄にある長門勇さんは出ていないと思う。

作品としての出来はそう悪くないのではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1968年、東映、石松愛弘脚本、降旗康男監督作品。

停車中の車の運転席で1人何かを待っている矢島伍郎(鶴田浩二)は、目の前にやって来て停まった車に、大きなトランクを2個積み込んで出発する男たちの後を尾行し始める。

尾行されていた車の後部座席の乗っていた高村(永井秀明)が、あの車、さっきから付けて来てるんじゃないか?少しスピードを落としてみろと運転手に声をかける。

スピードを落とすと、矢島の車は追い越して行ったので、一緒に乗っていた子分たちは、高村さん、思い過ごしですよと言うが、一応、ナンバーを控えておけと、今追い抜いて行った車に注意するように命じる。

矢島はとある駐車場に来ると、仲間の小池貞夫(待田京介)が運転席で待っていた車の助手席に乗り込み、前の道を通り過ぎて行った高村たちを再尾行始める。

高原たちの車を、怪しまれないように、また途中の山道で追い抜いた矢島と小池の車は、箱根神社に向かう道に入り込み、そこで待機していた田熊源太郎(山本麟一)、松木常吉(水島道太郎)たちを確認すると親指で広報を指差し、別荘へ向かう細い脇道の方へと車を進ませる。

田熊と松木は、すぐさま作業服に着替え、道を塞いだ車に乗り込んで、後続の高村たちの車を待ち受ける。

そこに高村たちの車がやって来て、別荘へ向かう脇道に入ると、田熊は車を降り、細い脇道の入り口付近に工事中の看板とライトを設置する。

高村たちの車は、脇道の先で停まっていた矢島たちの車が邪魔で立ち往生してしまう。

別荘に来る車か?と高村は不思議がるが、子分たちは、さっき追い抜いて行った奴じゃないか?と警戒する。

高村は戻るんだ!と命じるが、背後からは田熊が運転する車がやって来て、高村たちは細い道に閉じ込められ動きを封じられてしまう。

その間、車を降りて近くの木の陰で待ち受けていた矢島は、防毒マスクを顔に装着し、高村の車に向けて、紫色のガス銃を発射する。

その紫色のガスを二叉路の入り口付近で確認した松木だったが、そこに見知らぬ青年が運転するバイクがやって来て、工事中に看板を無視して脇道に入って行ったので慌てる。

バイクは細い脇道を戻って来た田熊の車と正面衝突しそうになり、バイクは転倒、乗っていた黒人のジロー(ケン・サンダース)は道に放り出され、左足を負傷してしまう。

車から降りて来た田熊は銃を次郎に向け撃とうとするが、一緒に降りて来た矢島が止める。

顔を見られているじゃないか!と田熊は言うが、止めるんだ、田熊!と呼びかけた矢島は車に乗り込むと、足の痛みで呻いているジローをその場に置き去りにして去ってゆく。

田熊が経営している解体業の倉庫にやって来た4人は、倉庫の中で盗んで来たトランクを前にする。

表にいるのは誰だ?と聞かれた田熊は、弟だ、オ○でツ○ボだと答える。 ダイヤルキーを松木が開け、中に詰まっていた5億円の札束を目にする。

矢島さんの言う通りだったなと松木が感謝すると、オヤジさんの情報のおかげさと矢島は謙遜する。

1人1億2500円か…と小池は呆然とした様子だったが、3年後の今月今夜ここで会おうと矢島が言うと、とんだ金色夜叉だなと松木が苦笑する。

その時田熊は、ナンバーもバラバラだし、今分けようぜ!と言い出す。

すると矢島は、相手を甘く考えてはいけない、田熊、こいつは4人の金だぜ、1人がおかしくなりゃ、他の奴までおかしくなる。 金の場所は俺さえ知っていれば、お前らは知らない。知らないものは口を割りようがない。あいつらの目的は命じゃない。3年もすれば、ほとぼりも冷めるはずだと言い聞かす。

しかし田熊は、おめえが口を割らないとか、ずらからねえと言う保証はねえと言うので、面倒くさくなった、おめえらの好きなように決めてくれと矢島は少し投げ出すように言う。

松木は、計画通りでやろう!と言うと、小池は、オヤジさんの言う通りにするぜと答えるので、もし3年の間に誰かがぽっくり逝ったらどうなる?他人に遺産相続はご免だぜ、残ったもので山分けだと念を押した田隈も、矢島、おめえに任せる、計画通りにな…と答える。

そんな3人に矢島は、良いか?3年の間、俺たちは赤の他人だ!と言い聞かす。

タイトル(解体工場の火花をバック)

先生、このたび不始末誠に申し訳ございません!金は必ず取り戻すつもりですと、水墨画を描いていた大和田伸作(柳永二郎)に詫びていたのは、金を奪われた岩崎(渡辺文雄)だった。

「つもり」では困る。下手に動いて足がつかないようにな…、倉田の所に手を貸すように言っておいた。

岩崎、金だぞ!ドブネズミの屍骸などに興味はないと大和田は言う。

岩崎は、ジローを監禁していた事務所に戻ってくるが、高村もいる中、倉田(天津敏)の子分の根元(高宮敬二)は、この黒○ぼ、強情で口を割ろうとしないと教え、君に陰させた相手の顔を教えろ!と迫るが、ソファーに座っていたジローが返事をしないので、苛立った子分が殴りつける。

それを見た岩崎は、大事な生き証人だ、丁重に扱え!あの子の口から警察に漏れる方が厄介だ。

やった奴の心当たりがない訳でもない…と言う。 早朝、矢島は代々木の馴染みのスナックにやってくる。

店の中では若い娘たちはゴーゴーを踊っている。

マスターが、お疲れのようですね?と矢島に声をかけてくる。 そのスナック側、代々木駅前のビルの一階のサテライトスタジオではラジオの公開生放送をやっていた。

パーソナリティ(ミッキー安川)相手に話をしていたのは友子(香山美子)だったが、ガラス窓越しに見物している野次馬の中に弟のジローを発見し驚く。

収録後、すぐに外に出て来てジローに会うと、どうしたの?心配したのよ、全然家に帰って来なくて…と声を掛けるが、ジローは、ただ、金くれよと言うだけだった。

今日は早く変えて来るわね?約束して頂戴!と懸命に友子が言い聞かせようとしていた時、ジローは目の前を近づいて来る矢島の姿に気づき、驚いてその前に立ちふさがろうとする。

しかし、矢島はジローの顔を見ても知らん振りをして通り過ぎて行く。

その後も執拗にジローは追いかけて来て、人気のない一角に追いつめる。

もう逃がさねえよ、あんたたちのために日でえ目にあった。

奴らにはしゃべらなかったぜとジローが迫って来たので、知らんな…と矢島が答えると、俺は捕まってたんだ、察しがつかねえとも思っているのか?俺も一枚噛ませろよ、俺が奴らにしゃべったらどうなる?サツにたれ込んでも良いんだぜ…とジローが言うので、できると思うか?と矢島は答え、ナイフを取り出したジローの手を取って殴りつけ、そのナイフを簡単に奪い取ると、ジローの顔に突きつけ、静かにしろ!と逆に嚇し付ける。

線路脇のアパートへ戻って来たジローは、部屋に入った途端、そこに高村や根本、虎吉(八名信夫)らが入り込んでおり、小僧!何で逃げた?甘く見ていると痛い目に会うぜと根元が言って来たので、俺の部屋だぜ、出てってくれ!と反抗するが、逆に根元から殴られる。

ジローくん、これを見てもらいたい、君をカ○ワにしかけた男だ…と言いながら、高村が複数の写真を見せようとしたので、覚えちゃいねえよ!とジローは拒否しようとする。

しかし、思い出せるさ…と根元から銃を突きつけられ、写真の前にねじ伏せられたジローは、背けようとする頭を押さえつけられ、無理矢理写真を見せられる。

そのジローの顔の表情を注視していた虎吉は、ジローの表情が一枚の写真で変わったのを見逃さなかった。

それは矢島の写真だった。 岩崎にその写真を見せに行くと、やっぱりあいつか…、昔の相棒だ、矢島伍郎…、10年前、競馬の売り上げをやった奴だ。8年の刑を受け、2ヶ月前に出所…と言う。

奴が行きそうな所には全部張り込ませた…と倉田は言うが、そんな甘い手に乗るような奴じゃないと岩崎は言うので、まさか、あんたが10年前の相棒だったってことじゃねえだろうな?と倉田が聞くと、これは俺と先生しか知らないことだ、奴がムショを出て来た時追い払った、奴の女房子供が困った時も見て見ぬ振りをした…、銭は全部組織に入れたと岩崎は答える。

大和田先生に頼まれたんだ、命あっての物種って言うじゃないか?と倉田が迫ると、あいつは命なんか、子供の頃から捨ててるよと岩崎は言う。

しかし倉田は、俺の所の奴が総力を挙げて調べている。奴らをフケさせるほどへまじゃないと答える。 松木は流行らない喫茶店を経営していた。

店に置いてあるピアノを弾いていた女性客が、ピアノのキーが一カ所おかしいのと文句を言うが、松木は知らん振り。 そんな店にやって来たのが、3年間会わない約束になっているはずの小池だった。

コーヒー飲むか?と松木に聞かれた小池は頷きながら、オヤジさん、あの野郎の言った通り、金を分けてフケ値待った方が良かったんじゃないのか?と言い出す。

俺、ペイ中をオヤジさんに直してもらったけど、今は札束の山が目から離れなくなっちまって…、俺はダメな男なんだ…、オヤジさんが買っているような男じゃないんだ!と小池が弱音を吐くので、堅気で暮らすには不足のない金だ。堅気って良いもんだぜと松木は言い聞かす。

ケン!俺はお前の堅気になった姿が見たかった。俺はもう長くない。

おめえに墓の面倒を見てもらいたかった…、そう考えてたんだよ…と打ち明ける。

その頃、ジローは根元に連れられ、スナックにやって来る。

カウンター席には矢島もおり、ジローが来たことに気づくが、ジローは根元が背後にいると目で知らせる。

ジローがカウンターに座ると、隣の席の酔っぱらいが、ユー・ケイム・ベトナム?などとからかって来たので、ジローは癇癪を起こし、持っていたグラスの酒を相手にぶっかけ喧嘩を始める。

その騒動の中、矢島はそっと店を後にするが、それに気づいた根元が後を付けて来る。

矢島は野球場の中に入って行ったので、根元も中に入りかけるが、壁の裏側で待ち伏せていた矢島は、岩崎に言っとけ!ガキなんか使わず、てめえで出て来いって!と言いながら殴りつけて来たので、根元は抵抗する間もなく気絶する。

スナックではまだジローが大暴れしており、警官が駆けつけて来る。

警察に留置されたジローだったが、スナックのマスター(小瀬朗)が告訴を取り下げたこともあり、すぐに釈放される。

刑事はジローに、迎えに来た姉の友子と一緒に警察署に来たマスターに礼を言いなさいと勧めるが、ジローはふてくされているだけ。

ジローを連れ、警察署を出て代々木体育館側までやって来た友子は、良かったわ、事件にならずにすんで…、もう心配させないでちょうだい。

一緒にご飯食べましょう?ジロー、私たち2人きりなのよ…と誘うが、無理しなくて良いんだよ、あばよ!と言い残し、ジローは立ち去って行く。 矢島が自宅マンションに帰って来ると、部屋の前に友子が立っており、志田ジローの姉です。夕べのスナックの弁償をしてくださったそうでありがとうございましたと礼を言って来る。

どうしてここを?と矢島が聞くと、マスターに伺いましたと言う。 部屋に招き入れると、おかげさまで事件にもならず助かりましたと友子は再度礼を言い、お立て替えの分を…と言いながら、持って来た封筒を差し出す。

弟はいつもお世話になっていたのでしょうか?と友子は矢島との関係を聞いて来るが、それで、弟さんを慰めてやってくださいと言い、矢島は封筒の金を押し返す。

私の所にはさっぱり寄り付いてくれないんです。母が亡くなってから、私のことを嫌っているみたいなんです… 肌の色が違うからひねくれてしまったんです。

肌の色なんて、人間に取って何でもないじゃないですか! 何とか、1人前の日本人になってもらいたくって高校に行かせたり、音楽も習わせたんですけど… もう、私の手には負えません…と友子が訴えると、きれいごと言いやがって!クロ○ボと寝たおふくろさんの気持考えたことあるのか!と言いながら、友子を殴りつけた矢島は、そのまま抵抗する友子をベッドに押し倒し抱く。

その頃、スナックにやって来たジローは、矢島さんは?とマスターに聞くが、来ていないと知ると、雨の路上でタバコを吸い始める。

小池は馴染みのバーで酔っていたが、バーテン(室田日出男)は、小池に出す酒にそっと睡眠薬を混入して渡す。

それに気づかず、酒を飲み、あくびをし始めた小池の横にやって来たのは虎吉で、最近お見限りだな?などと話しかけて来る。

小池は、ヤクとはもう手を切ったんだ…と答えるが、瓶ごと頼むぜ!とバーテンに注文した虎吉は、小池にどんどん酒を飲ませる。

睡眠薬と酒の力で眠り込んだ小池に、バーテンは、覚せい剤の注射を打つ。

(小池の顔に回転モアレ模様のスライドが映写され、幻覚イメージ)

翌日、虎吉は小池を尾行していた。 松木の流行ってない喫茶店に来た小池は、洗面所の水を飲むが、その顔にまた幻覚症状の模様が映し出される。

そこへ戻って来た松木は、そんな小池の様子を見て、しょうがねえ野郎だ、又薬を始めやがったな?と気づく。

オヤジさん!もう俺1人じゃ我慢できねえんだ…、もう一度、病院へ連れてってくれ、頼む!と小池は松木にすがる。

以前ヤクを抜くのを頼んだ闇医者の所へ小池を連れて来た松木は、鉄格子のある監禁室に入った小池に、頑張るんだぞ!今度はその苦しみを忘れるんじゃねえぞ!と言い聞かせる。

虎吉は、その闇医者の店を突き止めていた。

その後、喫茶店にいた松木は、戸を叩く音に気づき開けると、そこには闇医者がおり、申し訳ない!倉田組の奴らに連れて行かれたよと詫びる。

スナックでは女性歌手(戸川昌子)がシャンソンを歌っていた。 マスターが、店で飲んでいた矢島に電話ですと教える。

電話に出ると相手は松木で、オヤジさんか…、どうした?と聞くと、小池にことができちまって…と言うので、俺の方はカタをつけるよと矢島が言うと、もしもの事があったら、ピアノの中に岩崎の弱みを掴んだ書類が入れてあるから…と松木は伝える。

そんな2人の会話を、スナックに来ていたジローは、電話線をいじって盗み聞きする。

松木は書類の写しを持って岩崎に会いに行く。 その書類を見た岩崎は、この書類いくらだい?と聞いて来る。

倉田の所の連中が俺の所の奴を連れて行ったんだと用件を話した松木は、つまらねえこと考えるとためにならねえぜ、俺にもしものことがあったらこれがものを言うようになってるんだと、松木は写しがあることを臭わせ、身の安全を図る。

その頃、とある部屋に閉じ込められた小池は、倉田組の連中にポルノ映画を無理矢理見せられていた。

ヤクの禁断症状に苦しんでいた小池は、ヤクくれよ!金さえ払えば良いんだろ?明日払うよ、金はあるんだ、腐る程あるんだ…と言うので、何の金だ?かっぱらったかねだろ?どこにある!と小池に迫った倉田は、もういっぺん、目玉に裸ぶち込んでやれ!と子分に命じる。

また、強引にまぶたを広げられ、ポルノを見せられる小池は、止めろ!止めてくれ!と抵抗していたが、次の瞬間、口から血を噴き出して倒れる。

舌を噛み切りやがった!と子分が驚くと、馬鹿野郎!元も子もねえじゃねえか!と倉田は怒鳴りつける。

そこに連れて来られた松木が、ペイ中を渡してくれと倉田に頼むが、一足遅かったな…と倉田が言うので、倒れている小池に気づく。

小池!と駆け寄った松木の腕の中で小池は絶命する。

この野郎は、俺が手塩にかけて育てた弟分だ。仇を取らせてもらうぜと言いながら立ち上がった松木は、ドスを取り出して振り回し始めるが、すぐに倉田の子分たちに射殺され、小池の死体の上に覆い被さって息絶える。

その後、矢島の自宅マンションに岩崎が1人で訪ねて来る。

俺に何の用だ?と矢島が部屋に入れて聞くと、相棒の顔を見たがるだろうと思ってさ…、おめえには10年前に借りがある。

金を返せば水に流す。大和田先生に詫びいれてやるよと岩崎は言う。

それを聞いた矢島は、大和田が先生で、おめえが社長か?とあざ笑う。 俺はその日暮らしのル○ペンだ。

警備員ばらした罪を俺がかぶったばかりによ…と恨みがましく矢島は続ける。

昔のママじゃ、食って行けねえ時代になったんだと岩崎が言い、面倒見てやる、銭返したら好きにしてやると約束する。

棺桶の世話くらいしてくれるってことか?出て行け!俺が無駄にした8年間…、女房子供を死なせた気持、香典代わりに渡してやるぜと矢島が言うと、親切を無駄にしやがって!後で泣きついて来ても知らねえからな…と言い捨てて、岩崎は帰ってゆく。

その後、田熊に呼ばれて無人の建設現場にやって来た矢島は、やっぱり金を分けるべきだったんだ、俺は今、銭をもらいたいんだと田熊から頼まれ、今金を握ったら、この世からおさらばだぜと言い聞かせる。

しかし、ジジイとペイ中は死んじまったじゃねえかと田熊が言うので、嘗めた口聞くんじゃねえよ!と矢島が叱ると、2人逝かれて儲けが2倍になったんだ。ついてるんだ、てめえの銭と命はてめえで守ると田熊は言う。

矢島は、おめえに5億くれてやるとしても、今はダメだ!3年後だときっぱり言い聞かす。

その頃、友子は、ジローが突然家を出て行くと言い出したので戸惑っていた。 ジローは、俺はもう大人だ!世間の奴らと戦って行けるんだ!100人、200人の組織相手にしても、奴らをこてんぱんにできるんだ!矢島さんのようになるんだ!と言うので、まともな人間の生き方じゃない話、ギャングにしても矢島さんにしても…、まともじゃない…、私たちとは違う人間よ!と友子は説得しようとする。

しかしジローは、俺は俺で勝手に生きるんだ!生まれたときから1人ぽっちだったんだよ!間の子のク○ンボなんかいない方が、あんただって幸せになれるはずだなどとジローが生意気なことを言うので、バカ!と友子は殴りつける。

それでもジローは、金が手に入ったら、キャデラックに金を積んで迎えに来るぜと言い残し、アパートを出てゆく。

その後、矢島のマンションを訪ねて来たジローは、話があるんだ、こいつを持って来たんだ、ピアノから盗んで来たんだと書類袋を見せる。

どうして知ってる?鳥屋島が聞くと、盗み聞きをしちまったんだよ、役に立つだろう?と悪びれる風もなくジローは答える。

俺も仲間にしてくれよ、逝く所ないんだよ、あんたと一緒にいたいんだとジローが言うので、命惜しくないのか?と矢島が聞くと、俺なんか生まれて来なきゃ良かったんだ、死んでも哀しむ奴なんていやしねえ。

俺のこと笑った奴、札束でぶっ叩いてやるんだ!受け取ってくれよとジローは書類袋を矢島に手渡そうとする。 しかし矢島は、いらねえよと断ると、俺は俺のやり方がある。

てめえ1人でやれ!怖かったら、姉さんの所へ帰るんだと言い聞かせる。

それでもジローは、嫌だよ、あんたみてえに強くなりてえんだと言うので、苦しんで育ったのはおめえだけじゃねえ!と叱った矢島だったが、最後は根負けし、勝手にしろ!だが、飼い犬にはなりたかねえんだろ?てめえの面倒はてめえで見ろよと部屋に残ることを許可する。

その頃、田熊の解体屋に虎吉ら倉田組の連中がやって来る。

この俺に何の用だ?と田熊が聞くと、協力が必要なんだと虎吉が言うので、俺はぽんこつ屋だ、おめえたちに手を貸す切りはねえよと抵抗する。

しかし、田熊は、岩崎と倉田が待っていた部屋に連れて来られる。 君が矢島と手を組んでいるのは割れているんだ、君の手で5億戻して欲しい。

矢島はがっちりした男でね…と岩崎が切り出す。

君の分け前だけは保証しようと岩崎は言うが、帰らせてもらいたいんだが…と田熊が頼むと、無事に帰れると思っているのか?と言いながら、虎吉が銃を突きつけて来る。

我々も荒療治はしたくない、だが、我々の組織を見た以上、君は生かしておけないと岩崎は睨みつける。

一旦、解体業の小屋に戻って来た田熊は、その夜、矢島の車の後ろに車を付けとくと言っていた虎吉の言葉を思い出していた。

金さえ手にすれば、俺一人だと何とか逃げられる…と考えていたが、気になるのは、目の前でスイカにかぶりついている弟のことだった。

そうだ!船だ!船を使えば奴らの裏をかくことができる!と思いつく。

岩崎、へまの上塗りをするなと言ったはずだ、ヤク中の死体が浮かび上がったんだ。

麻薬担当と密輸担当が動き出したそうだ。残った連中も眠らせた方が良い…と、縁側で孫が花火をしているのを見ながら、大和田は岩崎に命じる。

金はその内、お前が何とかするだろう…と大和田が嫌みを言うので、もう1日待ってくださいと岩崎が願い出ると、助かるのはお前の懐だけだ、当局より先手打っとけと大和田は命じる。

翌朝、矢島は、ソファで寝ていたジローの前のテーブルに、コンビーフの缶詰とパン、牛乳を置き、朝飯だよ、食わないのか?と声をかける。 一瞬、ためらったジローだったが、すぐに笑顔になると、パンにかぶりつく。

その時、ドアのチャイムが鳴ったので、隠れてろと命じ、ジローをシャワールームに入れる。

やって来たのは田熊だった。

何の用だ?と矢島が聞くと、金を貰いてえ、考え直さなけりゃいけなくなったんだ。

小池の死体が見つかって、サツが動き出したんだ。おめえの言う通りになったんだと田熊は言う。

その話を聞いていた矢島は、奴らに会ったな?脅されているんだろ?と聞く。

すると田熊は、持って来た新聞に載った小池の死体発見記事を見せながら、奴らはおめえが金を持っていると思っていると言うので、田熊、おめえも付けられているんだぞと矢島は忠告し、嫌だと言ったら?と聞く。

矢島、おめえは1人だ。おめえには、岩崎の奴を締め上げる目的があるらしいが、俺は薄のろの弟が生きて行けるだけのカネッを残してえよ、きっと巧く行くよ!と田熊は頼み込む。

後悔しねえな?と念を押した矢島は、テーブルの上に置いてあったキューピッドの陶器人形を割って、中から「39」と書かれた鍵を取り出し田熊に渡す。

じゃあ、待ってるぜと言い残し、田熊は帰ってゆくが、その一部始終をシャワールームの中にいたジローは聞いていた。

部屋に一人残った矢島は、自業自得ぜ…、もっと骨のある連中だと思ってた…、もっと持ちこたえてくれると思ってた…、畜生、なってこった!と心の中でつぶやくと、拳銃に弾を込め出す。

シャワールームから出て来たジローは、兄貴、2人きりになっちまったなとうれしそうに話しかけるが、お前は姉さんの所へ行くんだと矢島が言うので、大した銭だ、兄貴がこのまま黙っていないって分かっているんだ、俺も行くぜ!仲間じゃねえか!俺、兄貴のためなら命だって惜しくないんだ!と迫る。

すると矢島は、ジローを殴って部屋を出てゆく。

岩崎の事務所にやって来た倉田は、大和田先生がもう待てねえって言うんだと伝えて来たので、奴の方は俺の力でやる!と岩崎は答える。 サツに引っかかりそうな奴にはわらじを履かせたよ、後始末は俺の力でやる!と倉田も後を引こうとしない。

倉田の子分たちは矢島のマンションに来るが、部屋の中には誰もいなかった。

その後、車で移動中、代々木体育館近くの歩道を歩いていた矢島を発見、その場で発砲する。

腹を負傷した矢島はその場を逃走するが、途中、サテライトスタジオで収録中の友子を発見する。

友子の方も外で見ている矢島に気づくが、その腹から出血していることに気づくと、そのまま立ち去った矢島の後を追って来る。

路地裏で友子と会った矢島は、ジローはきっとあんたの所へ帰るよと告げると、追って来た倉田の子分たちに気づき、その場を立ち去ってゆく。

後に残された友子は泣き出す。 解体業の小屋に田熊が戻ってくるのを、先に来ていてドラム缶の背後に隠れていたジローが監視していた。

小屋の中に入った田熊は、弟を人質に待っていた虎吉から、どうだった?矢島…と聞かれる。

金を出す気はなかったよと田熊が答えると、嘘をつくとためにならねえぜ!と人質にしている弟を見せる。

撃つな!ハジキを捨てろ!と田熊はいきなり銃を取り出し命じるが、虎吉を撃ち、弟を連れ出そうとしたとき、自分と弟の背中に撃ちかえして来た虎吉の銃弾を受けてしまう。

なお!なお!と呼びかけながら、瀕死の弟を連れ小屋を出た田熊は、近くの海辺につないでいた小舟の方へ向かう。

それを見守っているジロー。

力尽きた弟を背中に担ぎ、小舟に後少しの所までやって来た田熊は、そこで力尽き、弟もろとも倒れる。

なお!お前、死んじゃダメだ!と泣きながら、田熊も静かに息を引き取る。

そこへ近づいて来たジローは、小舟に乗ると、中に隠してあった麻袋を発見する。

開けてみると、ぎっしり札束が詰まっていた。

矢島を見失い岩崎の事務所に戻って来た倉田の子分たちが、申し訳ありませんと詫びるので、矢島の奴、どこへ?と倉田は悔しがる。

奴は必ずここに来る…と岩崎が言うので、あんたをやりにか?と倉田は皮肉る。

その直後、岩崎の事務所のビルのエレベーターに乗り込んで来た矢島は、後から乗り込んで来た2人の子分を背中から撃つ。

エレベーターが、岩崎の事務所のある階で泊まると、素早く降りて、部屋の前を固めていた護衛たちを次々に2丁拳銃で撃ち殺して行く。

銃を乱射しながら岩崎の事務所に飛び込んだ矢島だったが、待ち受けていた岩崎は、これでもう弾はなくなったぜ、やれ!と倉田に命じる。 すると矢島は、懐からドスを取り出し倉田の腹を突き刺す。

その直後、岩崎から撃たれた矢島だったが、倒れずまっすぐ拳銃を撃って来る岩崎に向かうと、そのまま岩崎の腹を突き刺す。 2度、3度! 岩崎が絶命して倒れると、矢島は大きな航空写真が貼ってある壁の前に後ずさる。

その時、近づいて来るパトカーのサイレン音に気づいた矢島は、自分のドスで自分の左手首を斬りつける。

麻袋を担いで解体業の庭先に戻って来たジローは、乗って来た車にその麻袋を助手席に乗せる。

続いて自分も運転席に乗り込みかーラジオを点けてみると、矢島伍郎 が銃器を持って岩崎のビルに乱入し、岩崎社長と倉田勇作会長を殺害後、自決したと言うニュースが流れて来たので、それを聞いたジローは泣き出す。

麻袋を外に持ち出したジローは、近くで薪を燃やしていたドラム缶の中に、麻袋の中の札束を投げ込み始める。

バカ!と叫びながら、全部の札と麻袋も投げ込むと、ジローはその場に泣き崩れ、地面イ突っ伏して泣き続けるのだった。

 


 

 

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