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探偵ミタライの事件簿 星籠の海

 

島田荘司原作の映画化。

ホームズ役の御手洗に対し、ワトソンの役割に当たる石岡が登場せず、代わりに女性編集者が出て来るので、「ガリレオ」の線を狙った企画なのかもしれないと感じた。

「ガリレオ」の場合は女性刑事だったので、まだ事件解決に役立つ印象があるが、オカルト雑誌?の記者ではほとんど存在価値がないように感じる。

もっともこの原作では石岡の存在自体も弱いので、どっちもどっちと言った所かもしれない。

ただ、このシリーズの人気の一つは間違いなく御手洗と石岡の怪しげな同居生活にあり、女性読者にとってはこの2人の関係性をあれこれ妄想する楽しみがあるようなので、そこを削ってしまった判断が、映画として正しかったのかどうかの疑問は残る。

事件は、原作半ば辺りの登場する猟奇事件を冒頭に配し、さらに水竜の出現など、不可思議ネタが次々に登場する冒頭部分はそれなりに快調である。

原作であんまり事件に関係しない冗漫な回想部分などをばっさり切り捨て、やはり原作ではリアリティに乏しい犯人役も微妙に設定を変えている。

その変更が成功しているかと言うと、原作の持つ通俗性やうさんくささはなくなった反面、壮大さも消え失せ、凡庸なミステリドラマのようになってしまった感は拭えない。

俳優陣も映画にふさわしい豪華さと言う感じもなく、かつて人気があった人が中途半端に老けて登場している印象で、その辺も二時間ドラマ特有の華のなさに近いような気がする。

元々島田荘司の原作は「ガリレオ」のような人情話の要素は希薄で、奇想に重きを置く展開なので、簡略にまとめてしまうと、登場人物の誰にも感情移入できない薄っぺらな話に感じないではない。

映画は、この原作が持つ奇想部分や歴史ロマンの部分が映画化しやすいと考えたのかもしれないが、歴史ロマンの部分も掘り下げが浅く、犯人像も魅力に乏しく、動機も台詞で説明しているだけなので感情移入もできず、CG処理の薄っぺらさもあり、全体的にインパクト不足な作品になってしまったような気がする。

原作自体が決して出来が良いとも言えないので、映画はそれなりに巧くまとめているとも言えるし、決して出来が悪い作品と言う訳ではなく、通俗ミステリとしては普通に楽しめる作品だとは思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2016年、「探偵ミタライの事件簿 星籠の海」製作委員会、島田荘司原作、中西健二+長谷川康夫脚本、和泉聖治監督作品。

4月27日

福山市 龍神滝付近

土砂降りの雨の中、やって来たパトカーから雨合羽姿の刑事5人が懐中電灯の灯りを頼りに山を登って行くと、途中で獣の叫びのような異様な声が聞こえる。

滝に到着した彼らが目にしたのは、滝壺の中に立てられた2本の柱に縛られた男女2人の姿だった。

男の方は目を縫われており顔中が血まみれ、女の方は唇を縫われ目を見開いていた。

あまりの残酷さにおののいた刑事たちはただちに応援を要請するが、その時、近くの水の中に浮いていた赤ん坊の死体を発見しさらに驚愕する。

横浜セリトス大学 御手洗潔(玉木宏)は、うっとり憧れるように聞き惚れている女子大生たちが多い学生の前で、天才の脳について講義をしていた。

そんな教室の背後の扉が開く。

御手洗に会いに来たのは、雑誌編集者小川みゆき(広瀬アリス)だった。

御手洗の相棒の石岡から良く話を聞いているとかで、石岡の過去作品に登場する名探偵御手洗に会えたことを感激しているようだった。

前々から石岡に新作を書いてもらうのが夢だったとかで、ようやく担当になったが、石岡は今、東北へ心霊現象の取材のため旅行中なので…と事情を話す。

テラスのテーブルでみゆきと相対した御手洗が、初対面の彼女の外見をヒントにズバズバと言い当てみせると、みゆきはますます御手洗の虜になったようで、ネットから色々御手洗が興味を持ちそうなネタを探してきましたなどと言いながら、怪しげなオカルトネタのコピーを取り出してみせる。

全くそんな話には関心がなさそうだった御手洗だったが、一枚のコピーに目を留めると、それを自ら取り上げる。

そこには「死体島」と書かれてあった。 みゆきが言うには、次々に死体が流れ着く島があるらしかった。 みゆきは、石岡先生が戻るのは1週間後だと教えるが、御手洗は石岡のことなどどうでも良いようだった。

4月28日 御手洗とみゆみは問題の「死体島」こと瀬戸内海の小島「興居島」の鳥居が立つ浜辺に来ていた。

呼び出された島の刑事は、得体の知れない御手洗に付き合わされるのには閉口している様子だったが、流れ着いた死体は全員男で6体、死後3〜4日経っており、この島の住民じゃないなどと教えてくれる。

近くの船から死体を遺棄した可能性もないだろうと言う。

するとそれを聞いた御手洗が犯人は目の前にいると言い出したので、刑事もみゆきも驚くが、犯人はこの特殊な海ですよと御手洗は指差す。

タイトル(カラー墨流しをバックに)

福山沖の海で操業中の漁船に乗っていた漁師が、海の方に目をやり、水竜じゃ!と叫ぶ。 水面を走る水しぶきが見えたからだ。

しかし、作業中だった他の漁師はそんな話を真に受けなかった。

水理実験場 巨大な体育館のような空間に瀬戸内の海底地形を再現した施設で、以前はそこに水を流し込んで海流の実験などに使用されたらしいが、今は全てデータ化されており、パソコン上で海流を見ることが可能だと言う。

瀬戸内海は、紀伊水道、豊後水道、関門海峡の三つの出口から6時間おきに水流が抜ける時計仕掛けの海なんだと御手洗はみゆきに教える。

モニタールームで水流の変化を見ていた御手洗は、係員にスピードを上げてもらい、興居島に設定したブイが3日前に出発した地点を突き止める。

それは福山市だった。

あっという間に午後島に流れ着いた死体の出発点を調べ上げた御手洗の手腕を目の当たりにしたみゆきはますます感激し、私、とことんお付き合いします!と申し出る。

新幹線で福山駅に到着すると、ホームで御手洗さんですか?と声をかけて来たのは、福山署の刑事黒田優作(小倉久寛)だった。

本庁の竹越課長とは仲良くさせてもらっていると自己紹介した黒田に、みゆきは、助手の小川です!とちゃっかり挨拶する。

御手洗は、みゆきと共に黒田のパトカーに乗って福山署へと向かう間、この半年くらいの間に当地で出された行方不明者のデータを見せて欲しいと願い出る。

西京化学工業本社

中国地方を代表する事業者たちを一室に招いた社長槙田邦彦(吉田栄作)は、建設予定のアジア最大の水族館のプレゼンテーションを始める。

十字架型の得意な形態をした建物の構想図を示しながら、槙田社長は、この東洋一の水族館に首長竜を捕獲して収容したら、この地も観光都市になると夢のような話をし始める。

大半の招待客はあっけにとられるが、女性客がこのロマンあふれる計画に賛同したのか拍手をし始める。

福山警察署 署に戻って来た黒田は、この半年、身元不明者の捜索願は出ていないと御手洗に教える。

そこへ入って来た刑事が、部外者の御手洗がいるのに気づいてためらうので、黒田が良いから!と命じると、とものアパートで女の変死体が発見された。

ヘッケン車はアパートの管理人で、犬がうるさいとの苦情で様子を見に行ったら発見したらしく、この部屋には外国人の出入りが多かったと刑事は報告する。

それを聞いた御手洗は、行きましょうと黒田を誘って真っ先に部屋を飛び出す。

アパートのベッドの上でうつぶせに死んでいたのは日本人ではない女性だった。 2階にある彼女の部屋の洗濯機のホースが外れたらしく、水が下の階に流れ出して、他の住民たちが苦情を言ったらしい。

御手洗は、パトカーを貸してください。ここにはもう用がないと言い出すと、いきなり女の死体を調べ始める。

外傷はどこにもないようだったが、最後に足の指の間を広げてみた御手洗は、黒田にこれ見てくださいと言う。

注射痕ですな…と黒田が確認すると、洗剤の匂いがする、彼女の死因は覚醒剤の投与による心臓発作ですと指摘した御手洗は、指紋の検出をしなければと言う刑事たちに、ダメです、痕がつく!待つんですと言うと、死体はそのままに黒田たちとともに部屋の外に出る。

滝沢加奈子(石田ひかり)は福山歴史博物館に来ると、待ち構えていた富永幸平(螢雪次朗)から、阿部家の蔵から出て来たんですと説明され、「御出陣御行列役割写帳」なる古文書の中身を見て、これは大発見です!と興奮する。

ペリー来航の時の江戸詰福山藩士阿部正弘が計画していた出陣用の陣形らしかった。

「御馬」と書かれているのが、どうやら福山藩士阿部正弘の位置のようだったが、黒船の側に不思議な文字が書かれてあった。 それは「星籠」と読めた。

女の死体があるアパートの前で、黒田と共に覆面パトカーに乗り込んで待機していた御手洗は、外国人風の男3人がアパートの二階へ上がるのを見つけ、死体処理班ですと黒田に教える。

黒田は無線で、三橋!怪しいのがそっちに行ったぞ!と連絡する。 外国人3人は、女の部屋に入ると死体に近づき、ロープを取り出して何事かを始めようとするが、その時、隣室に隠れていた三橋刑事らが飛び出し、お前ら何しとる?家宅侵入罪で逮捕する!と飛びかかる。

慌てて外に逃げ出した外国人たちだったが、外にも刑事が張り込んでいたため、あっさり全員逮捕されてしまう。

それを見届けた御手洗は、私はこれで…と黒田に言って帰ろうとするので、尋問に立ち会わなくて良いんですか?と黒田が聞くと、それは私の役目ではありませんからと答える。

その後、福山城が見える座敷の縁側でみゆきと待っていた見たら井本にやって来た黒田は、全員黙りですと悔しそうに報告する。

国の家族が人質になっているのですから…と御手洗は先刻承知していたように言う。

御手洗はさらに、興居島に流れ着いた死体は全員外国人でしょう。放っておいたらあの女性もその内一緒になっていたでしょうと御手洗は言う。

死んだ外国人女性を検死した結果、薬物は危険ドラッグってことですわ…と教えると、ドラッグ、外国人、アジアンマフィア!これは面白くなってきましたね!とみゆきが喜ぶので、君のために事件を解決している訳ではないと御手洗はぴしりと叱りつける。

そして御手洗は黒田に、そろそろ話してもらえませんか?福山署に大きな帳場が立ってたようですが…と聞くと、ご存知でしたか…と黒田は驚き、龍神滝での事件を打ち明ける。

警察署に戻り、赤ん坊は首が折れていましたと黒田が説明し、居比修三(神尾佑)は目を縫われていたと教えると、御手洗はテーブルの上に置いてあったメモ帳を破り、目と書く。

妻の篤子(今野麻美)の方は口を縫われ…と言うと、同じくメモ帳に口と書き、二本の棒に縛り付けてあったと言うと「りっとう」の字を書いた御手洗はテーブル上に並べてみせ、犯人からのメッセージですと言う。

それを見た黒田とみゆきは、「罰」と言う字だと気づく。

「りっとう」は断罪を意味し、犯人は粘着質な異常者だろうと御手洗は指摘する。

福山市病院

目に包帯を巻いて、病室のベッド上に上半身を起こしていた居比修三は、訪問して来た御手洗や黒田たちに、自分は革細工の小さなブランドをやっており、夫婦で新作発表をすることになっていた。

赤ん坊はベビーシッターの辰見洋子に預けていたと証言する。

4月24日

夫婦が帰宅すると、その洋子がテーブルの上にうつぶせに縛り付けられており、腹部からは出血しており、赤ん坊の善樹ちゃんが誘拐されたと知らせる。

部屋には、犯人らしきものからの置き手紙が置いてあったと言うので、辰見さんの怪我の具合は?と御手洗が聞くと、急所は外れており、同じ病院内に入院しているが、まだ話は出来ないと黒田は言う。

修三はさらに、24日の11時36分、犯人から電話があり、手紙を読んだか?と言うので、読んだと答えると、書かれたことを言ってみろと指示して来たと続ける。

25日の午後7時に淀媛神社に2千万持って来い、この手紙は焼き捨てることと修三が電話口で読み上げると、犯人は、その通りと言うので、2千万なんて1日ではとても無理だ!と修三は訴える。

すると犯人は、もう1日待てば用意できるか?と確認して来て、26日の午後10時にしましょうと条件を変えて来たと言う。

26日、親戚や友人から借金をして2千万をこしらえ、夫婦揃って指定の時刻、淀媛神社に行ってみると、突然暗がりから男が2人襲いかかって来てスタンガンで気絶させられたのだと修三は言う。

やっと授かった子なのに…、1日伸ばしたばかりに…と修三が悔やむので、いつもって以降と結果は同じだったと思いますと御手洗は言い、辰見洋子さんの血は拭かれたんですよね?と聞くと、テーブルに茶がこぼれていたので一緒に拭いて、タオルと一緒に捨てたと修三は答える。 そのタオルはおなかの下ではありませんでしたか?と確認すると、修三はそうですと言う。

御手洗は、次は現場のマンションですと黒田に言う。 西京化学工場 文化センター移設のため移設したと言う歴史史料を見にやって来た滝沢加奈子は、出迎えた小坂井准一(要潤)に案内され、資料室へと向かうが、途中、外国人労働者の姿を目にする。

居比夫婦の自宅マンションにやって来た御手洗は、ベランダに出て、蛍光灯を点けてみる。

そして、最近雨降りましたか?と聞くので、同行した黒田が、誘拐事件の日も土砂降りでしたと答える。

次いで御手洗は、棚の上に置いてあった赤ん坊の抱っこ紐を確認し、台所のシンクに置いてあった急須の中の茶殻を覗き込む。

シンクの横にはゴム手袋が脱ぎ捨てられていた。 さらに、ゴミ箱から日本のラップの芯を見つけ出すと、被害者は被害者ではないかもしれないと謎めいたことを言う。

そして御手洗は黒田に、辰見さんに近い人はいませんか?恋人がいるかも…、調べてくださいと頼む。

工場内の資料室で歴史の資料を読んでいた加奈子は、外が土砂降りの雨になって来たので傘をさし帰ることにする。

その時、走って来た外国人男性にぶつかり、男性は持っていたレジ袋を落としてしまう。

中には白いカプセルのようなものが大量に入っており、外国人は、別の外国人が駆け寄って来たので、慌ててそれを拾い上げると工場内に逃げて行く。

夜、居酒屋で御手洗やみゆきとともに夕食をとることにした黒田は、逮捕した外国人を釈放するよう、人権団体の依頼と言う弁護士がやって来た。何でも匿名の通報があったと言うとったと教える。

それを聞いた御手洗は、早めに出してください、相手に警戒させては行けないんですと助言する。

その時、水竜だ!と良いながら、漁師たち3人が入って来て、近くの席に座ったので、黒田は、この辺りの海では水竜を見たと言う都市伝説がある、この辺りじゃ田舎伝説じゃなと御手洗に教える。

その時、御手洗のスマホが鳴り出し、電話に出ると、相手は東北に行っていると言う石岡からだった。

下北半島でイタコに会い、自分が小学生まで尾根賞をしていたことやピーマンが食べられないことまで当てられてしまったなどと陽気に報告して来ただけだったので、さっさと電話を切った御手洗は、漁師たちのテーブルに近づくと、今お話ししていた首長竜のお話を聞かせてくださいと声をかける。

漁師は、身体の半分くらいは海中にいるんではっきり分からないが、全長5〜6mはあり、早さは30ノットくらいは出ていたと言うので、イルカみたいな大きさってことですね?と御手洗は確認する。

その会話を聞いてたみゆきは、パッドで検索し、御手洗先生がUMA(未確認生物)ファンだったとは知らなかったわ…と意外そうに黒田に伝える。

その頃、滝沢加奈子 は、人気のない商店街をちょっと不安そうに帰宅していた。

病院に入院していた辰見洋子(谷村美月)は見回りに来た看護婦に、居比さんのことを何か聞いとらんですか?ベビーシッターやっとったもので…と聞く。

すると、言うちゃいけんことになっとるんじゃけど…とためらいながらも、居比さん夫婦も今、ここに入院しとるんよと看護婦が教えてくれたので、洋子は驚く。

福山警察署では、みゆきがこれまでの事件の整理をしようと言い出していた。

興居島に流れ着いた6体の遺体の出発点は福山だった。

東南アジア系の外国人女性の死 そして赤ん坊誘拐殺害事件…とみゆきが並べてみせると、第3の事件はおかしなことがあると御手洗が言い出す。

1つ目は、辰見洋子は腹を刺された以外の傷がなかったこと。

2つ目は、電話に出た居比さんに犯人が脅迫状を復誦させていること。

3つ目は、金の受け渡し時間を午後7時から10時に変更していること…、何故最初からそうしなかったのか?と御手洗が問うので、犯人は慌てとったんじゃないですか?と黒田が推測を述べる。

その時、三橋刑事から黒田に電話がかかって来て、医者が洋子から話を聞く許可が下りたと報告を受ける。

早速御手洗らと病室に向かった黒田が、洋子に当日の話を聞くと、あの日、善樹ちゃんがむずがっていたのであやしていたら、突然男が入って来て、次の瞬間鋭い焼け付くような痛みを腹部に感じましたと洋子は話す。

赤ちゃんの死体が見つかったと聞いて驚いたことでしょうね?死んでいたら返しようがないから…と御手洗が声をかけ、今日の所はこれで…と黒田に言うので、お大事にと黒田は洋子に声をかけ病室を出る。

しかし、合点が行かない黒田は御手洗に、さっきのはどう言うことですか?と御手洗の言葉の意味を問うが、御手洗は、まだパズルのピースが全部揃っていませんと言うだけだった。

そこに三橋刑事が近づいて来て、御手洗の耳を気にしながらも、洋子には弟が一人おり、事件当日は合格祝いを友人たちとしていたそうです。警察官の採用試験ですと言う。

さらに洋子には付き合っていた相手がおり、それは小坂井准一と言う学芸員で、事件当日は仕事の後まっすぐ帰ったと言うとりますと黒田に報告する。

その直後、黒田の携帯が鳴り出し、電話の内容を聞いた黒田は、また事件ですわ…、車の上から若い男が落ちて来たそうですと言うので、一緒にいたみゆきが状況がつかめず驚くと、歩道橋だよとこともなげに御手洗が説明する。

今度も外国人ですわと黒田が教えると、みゆきは、嘘!と驚く。 福山署に連れて来られ、事件の説明をしていたのは滝沢加奈子だった。

バスを降り、歩道橋を渡ろうとしたら、旧に2人の外国人が襲って来たので、驚いてバッグを夢中で振り回して抵抗していたら、1人の外国人が足を滑らせて歩道橋から落ちたのだと言う。

襲われたことに心当たりは?と御手洗が聞くと、ないですと加奈子は言う。

その時、パッド検索をしていたみゆきが、この方、どこかで見た事があると思ったら…と言いながら、星籠の研究をしていると書かれた滝沢加奈子の紹介ページを御手洗らに見せる。

その時加奈子は、私がこの星籠のことを調べ始めた頃から誰かに狙われているような気がし始めたと打ち明ける。

阿部正弘の功績が明らかになることで、誰かの名誉が下がるのかもしれない…と御手洗がつぶやくと、これ絶対つながってますよね!歴史ロマンとの関連!大ヒット間違いなしですよ!とみゆきが浮かれ出す。

すると御手洗は無表情のまま、小川君、うるさい!と静かに叱る。

その頃、入院中の洋子の携帯が鳴り、相手は小坂井からだった。

洋子、大丈夫か?と小坂井が聞いて来たので、市民病院に入院しとると教えた洋子は、私が預けとるものは?と聞く。

すると、謝らんといかんことがあるんよと小坂井が言うので、どう言うこと?と聞くと、取られた…、洋子さん襲ったヤクザや思う、全部気づかれとったと思うと小坂井が言うので、じゃあ居比さんの事件を…と洋子が聞くと、又何かあったんか?と今度は小坂井の方が驚いたようだった。 翌日、御手洗とみゆきは、滝沢加奈子の案内で鞆の浦に来ていた。

加奈子は、潮の干満に合わせて荷物の上げ下ろしが出来るように作られた港の階段状の船着き場「雁木」や、今はなくなった石敷の斜面状のドック「たで場」の話などを御手洗とみゆきに披露する。

坂本龍馬の「いろは丸」が沈没しかかったときもここへ来たようですねと御手洗は聞くと、神功皇后や足利尊氏らの昔から、この鞆は潮待ちをする所だったのだと加奈子は説明する。

出陣図の中に記された「星籠」と言うのは、江戸幕府が準備した新造船のようなものではないか…、しかし当時の幕府は海軍を持っていなかった… 当時、海で戦える水軍と言えば、瀬戸内海で活躍し、織田信長の鉄甲船に滅ぼされた「村上水軍」がありました…と加奈子が言うと、その前に一度信長は破れている…と御手洗が補足したので、信長は雪辱を果たしたのですと加奈子は言う。

この信長の鉄甲船は、その後、歴史の中からこつ然と消えてしまいます…と加奈子が言うと、沈められたんでしょう…、それが可能なんですと御手洗が答えたので、村上水軍?と加奈子は驚く。

他に有力な水軍は?と御手洗が聞くと、忽那と言う水軍がありますと加奈子は教える。

その後、福山歴史博物館にやって来た加奈子は、博物館から出て来た小坂井と槙田社長とその秘書とばったり出会う。

文化センターのリニューアルのためと来訪の目的を打ち明けた小坂井から紹介された西京化学の槙田社長に滝沢加奈子ですと挨拶した加奈子は、同行した御手洗を脳科学者と紹介する。

槙田社長とともに帰りかけた小坂井に近づいた御手洗は、小坂井さん、そのお怪我はどうされたんです?と聞く。

小坂井が左手首に包帯を巻いていたからだった。 スクーターで転んだんだそうです…と、槙田社長が代わって答え、立ち去ってゆく。

それを見送ったみゆきが、西京化学の社長さんて若いんですねとつぶやくと、アメリカから乗り込んで来たやり手だそうですと加奈子は教える。

最近横島に新工場が完成したそうです、地元の反対もなかったから…と加奈子は言う。

30年くらい前、備後半島の開発計画が立ち上がったんですが、自然破壊につながると言うので反対運動があったんです。

その時は認可も先送りになったんですが、今回は自然保護に留意すると言うことで反対運動も起きませんでしたと加奈子は言う。

忽那水軍を調べるために野忽那島に行くには松山フェリーに乗るしかなくて…、でも今日はもう便がないでしょう…と加奈子は残念そうに御手洗たちに教える。

しかし幸いにも、夏島健二(寺脇康文)と言う男性が高速艇を持っていたので、それに乗せてもらい野忽那島に御手洗たちは向かうことが出来た。

忽那の子孫怱那鷹光(品川徹)を訪ねた一行は、「忽那水戦巻」なる古文書を読ませてもらうことが出来た。

怱那鷹光は、昔、爺さんから聞いたことがある…、村上が信長の鉄甲船をやっつけたことがあると…と言う。

そんな中、加奈子は古文書の中に「岩流星籠」と言う文字を発見し、その意味を問うが、怱那鷹光は、もうない、鞆の忽那が持って行ったとも、江戸の殿様に持って行ったとも聞いたと言うので、鞆の忽那は今どうなってますか?と御手洗が聞く。

小さな造船所をやっていたが、親爺は死んだらしい…、息子がおって…、今は忽那は名乗っておらず、小坂井じゃ!西京化学の何たらセンターに勤めていたで…と鷹光は答える。

それを聞いた御手洗は、全て繋がったな…とつぶやく。

その後、小坂井准一と作業室で会った御手洗は、棚の上に置いてあった首長竜型の置物を手にし、門外不出の忽那水軍の秘密を話していただけませんか?と切り出い、星籠とは潜水艇ですね?とズバリ指摘する。

信長の鉄甲船も、水面に現れている部分は鉄で覆われていましたが、水面下は木造。 吸気管を水面に出した潜水艇で近づき、この水面下の木造部分に爆薬を仕掛け、爆発で大きな穴をあけて沈めたんでしょう… これなら黒船に対しても有効です。

黒船に付いた外輪は大きな弱点になります…と御手洗が推論を述べると、それまで黙って聞いていた小坂井が、棚の中から星籠の模型を取り出してみせる。

3人乗りでシュノーケルが付いていた。 実物が残っているんじゃないですか?と御手洗が聞くと、話が分かりませんと小坂井はとぼける。

それで御手洗は、忽那の潜水艇になぜ「星籠」などとロマンチックな名前をつけたんでしょう?と問いかけるが、それにも小坂井は答えなかった。

帰り際、黒田とみゆきに遅れて作業室を出た御手洗は、小坂井に近づき、辰見洋子さんに赤ちゃん誘拐事件の容疑がかかってますよ。共犯者との連絡は取ったと思います。 あなたにはアリバイがある。

彼女は犯人ではない… 現場に手袋でも残ってれば良いのですが…、今では手袋の内側からでも指紋が採取できるそうですよ…と耳打ちして帰る。

その後黒田は部下からの報告を聞き、居比の過去が分かりました。20年前の横島開発の反対運動で居比は旗手的存在だったようです。

その時、1人死んどるんですわ…、西京化学の渉外部長が計画中止の責任を取って自殺したんです。

地元出身だったと言うこともあり板挟みになっていたらしい… 奥さんは半年後に心労で死んどるんです。

息子が1人おったんですが、中学卒業後、福山を離れて、それ以降は行方不明…と黒田は説明する。

それを聞いた御手洗は、黒田さん、これから時間ありますか?と聞く。

その夜、居比夫婦のマンションに入って来たのは小坂井だった。

キッチンへ入った小坂井だったが、その時、いきなり部屋の電気を点けたのは、先に到着し隠れて待っていた御手洗だった。

黒田とみゆきも同行していた。

残念ながら、その手袋からあなたの指紋は検出できませんでした。手袋の中の指紋は流れてしまい、指紋検出は無理なんですよ、嘘付いて申し訳ないと御手洗は、凍り付いたようにゴム手袋を持って立ち尽くしていた小坂井に話しかける。

事件当夜、あなたはこのマンションにいましたか?小坂井さん…と御手洗が聞くと、もう言い逃れは出来ないと覚悟したように小坂井は頷く。

あの日、突然、洋子から電話がありました…と小坂井は事件当日のことを語り始める。

4月24日

スクーターで居比家のマンションに向かうと、部屋で洋子が腹を刺されて出血しており、私に良くない男が付き合っていて、無理矢理薬を預かっていたのだが、さっき知らない男が入って来て、その薬を取って逃げたのだと言う。

変質者に襲われたことにするから、机に縛り付けてくれと洋子が頼んで来たので、仕方なく従うと、洋子はタオルを敷いたテーブルの上にうつぶせになり、わざとテーブルの上に茶をこぼしたと言う。

すると御手洗は、緑茶のタンニンには殺菌力があります。

辰見洋子は看護学生なのでそれを知っていたのでしょうと言う。

薬は僕が預かることになりました。 洋子は冷蔵庫に入れてくれと言ってました。

しかし、マンションからの帰り道、土砂降りの雨の中をスクーターで帰っていると、後ろから見知らぬ車が尾行して来て、小坂井のスクーターは滑って横転してしまう。

追って来た車から外国人らしき男たちが降りて来て、転んだ小坂井に近づこうとするが、別の車が近づいて来たので慌てて逃げたのだと小坂井は言う。

やって来た車から降り立ったのは槙田社長だった。

小坂井は全部、事情を社長に話したと言う。 槙田社長は昔近所に住んでおり、お互い1人っ子だったこともあり、本当の兄弟みたいだった。

お父さんが亡くなってから槙田さんは引っ越してしまったが…、槙田さんのお父さんも西京化学に勤めていて、反対運動の住民たちと板挟みになり自殺してしまった。

1年も立たんうちにお母さんも死んで、槙田さんは福山を出て行ったんです…と小坂井は続ける。

家の造船所が倒産した時、槙田さんが突然話しに来て…、いつの間にか社長になっとったのは驚きました。

私の父が死んだことを知ると同情してくれ、借金を全部肩代わりしてくれただけではなく、僕を文化センターに雇ってくれましたと小坂井は言う。

その槙田社長のおかげで命拾いしたと…と御手洗が話を締めくくると、赤ん坊のことはどうなっとるんです?と黒田が口を挟んで来る。

小坂井さん、あなたです!あなたがそれに関わっているんです!と突然御手洗が言い出す。

5月3日

御手洗たちは、再び入院中の辰見洋子に会いに来る。 この事件にはたった一つ真実があります。

1人の赤ん坊が死んでいることです…、話してくれませんか?今度は本当のことを…、ベランダの蛍光灯が切れかかっていたことも知っています…と御手洗は洋子に話しかける。

(回想)赤ん坊を抱っこ紐で抱いたまま、ベランダの蛍光灯を外そうと、そこに置いてあった脚立に上る洋子… 次の瞬間、脚立が倒れかけ、バランスを崩した洋子の胸の抱っこ紐から赤ん坊がベランダの外に飛び出してしまう。

(回想明け)あの日、善樹ちゃんはぐずっていて、抱くと泣き止むんですけど、離すとまた泣き出してしまって…と洋子がつぶやくと、あなたと奥さんとは身体の大きさが違うので、ヒモのサイズが会ってなかったのよとみゆきが指摘する。

これであなたは看護士になることも出来ない。弟さんも警察官になれない…、それは全部ダメになってしまう…と御手洗は冷酷なことを言う。

(回想)4月24日 計画を思いつきました。土砂降りの雨が振り出し、赤ん坊がマンションのベランダから墜落死した現場の痕跡を消してしまったのです。

赤ん坊の死体はラップに包み、自分で腹を刺しました。

そして、呼び出した小坂井には、薬を預かったと作り話をしました。

(回想明け)あなたの計画では、誘拐の身代金を取りに誰も現れず、赤ん坊も戻らず迷宮入りするはずだった…と御手洗は言う。

しかし、小坂井さんが包みを奪われてしまった… 追跡していた外国人は槙田の部下でしょう。 彼らは槙田邦彦の思いのままです。

彼らは工場で危険ドラッグの製造をしていました。

そして滝沢先生は命を狙われた…、アパートの女も薬に関わっていました。

薬で死んだ外国人は部下によって海に流され興居島に流れ着いた… 誘拐事件のときだけ槙田本人が出て来たのは、居比さんに強い恨みがあったからです。

槙田は、居比さんらに反対され中止になったため自殺した開発計画の渉外部長の息子だからです。

住民運動に関わった人間を恨む気持は消えることがなかったのでしょう。

それで、居比さんをいつも監視していたので、赤ん坊が転落したのも見ていたのでしょう。

その後、小坂井さんが運び出した小包の中身を調べるため、すぐに転倒現場に行った。

そこで、包みの中身の赤ん坊の死体を発見した… それを見た槙田はすぐにあなたの計画に気づき、復讐の誘惑抗うことが出来なかったのでしょう。

置き手紙は別人が書いたものなので内容が分からず、電話で居比さんに復誦させたのです。

槙田はあなたが立てた計画を全く別の事件に仕立てたのです。

あなたが頼った小坂井さんは槙田に取って弟のような存在だった。

こうした要素が絡み合い、この事件の様相を複雑にしてしまったのです。

あなたと小坂井さんの証言があれば、槙田を逮捕する助けになりますと御手洗がこんこんと説得すると、ベッドで聞いていた洋子は、すみませんと詫びながら泣き出す。

御手洗から話を聞いた小坂井は、会社の槙田に会いに行き、廊下でどうしたあなたがこんなことを!と問いつめていた。

1度失ったら取り戻せないんだ!絶対に帰って来ないことを俺は教わった。 俺はこれまで人の命を奪ったことはない。

あいつらとは違う! 2人とはもう会うことはないだろう…、寂しいが瀬戸内ともお別れだ…と槙田は廊下でつぶやき、准一 !首長竜、本当に捕まえたら楽しかったろうな!と小坂井に告げる。

(回想)小学生だった准一は、中学生の槙田が、両親の死をきっかけに、福山を去ることを埠頭で知り、兄ちゃん、どっか行くん?と聞く。

もう会えないんだ…、泣くな!これやるけん!と言って槙田が少年准一に渡したのは首長竜をかたどった置物だった。

そして中学生の槙田は准一の前から姿を消す…

(回想明け)西京化学横島工場にパトカーがやって来る。

福山警察署内の「龍神滝殺人事件本部」では、槙田の姿がないとの報告を受け、黒田は何か手がかりがないか探せ!と命じる。

パトカーから降り立った刑事たちが工場内で槙田を探していた時、彼らの姿を見て逃げ出した外国人たちを発見したので、その後を追い地下の、違法ドラッグ精製現場を発見する。

捜査本部でその報告を受けた黒田だったが、槙田に国外に出られたらもうどうしようもない!と焦る。

その直後、福山港より貨物船が出たとの知らせが届く。

我々は最後まで見届けるんだ!とみゆきに告げた御手洗は、夏島の高速艇に再び乗せてもらい、貨物船の後を追う。

横手に付けてください!と操縦していた夏島に頼んだ御手洗は、貨物船の横に付くと、拡声器を使い、槙田さん!絶対逃げられないからね!と呼びかける。

逃げられないと分かっていたはずだ! あなたならもっと早く海外へ飛ぶことも出来たはずだ! あなたは待っているんだ!僕と同じように!星籠の謎がその姿を現すのをね!と御手洗は叫ぶ。

それを貨物船の甲板から見下ろす槙田と秘書。

その時、遠方から貨物船に近づいてくる水しぶきが見えて来る。

小川さん、あれこそ水竜の正体、星籠だ!と御手洗がみゆきに教える。

そして御手洗は夏島に、船から離れてくださいと頼む。

貨物船の甲板から背後に近づいて来る星籠を見守るように動かない槙田。

潜水艇に乗って貨物船の背後に接近して来た小坂井は、水面から出ている吸気口のハッチを開け姿を現すと、次の瞬間海に飛び込む。

無人となった潜水艇「星籠」は、そのまままっすぐ貨物船の船尾に突っ込み爆発する。

小坂井はすぐに夏島の高速艇に救助される。 星籠は自分の考えで?と御手洗が聞くと、元々は親爺が作りかくり始めたんですと小坂井は答える。

忽那水軍を蘇らせようと思ったのか…、でも完成させる前に親爺は死んでしまった…。

その後、自分が完成させ、試運転を繰り返すうちに首長竜になったのには驚きました。

ただ、社長は潜水艇のことを知っていたと思います。 社長はきっと止めて欲しかったんだと思います…と離す小坂井は、前に星籠の名前の由来をお聞きになりましたね?と御手洗に言う。

瀬戸内海の海底には星座があるんです。

ずっと深い海底の岩肌には珊瑚礁があり、それが無限の宇宙のように見えるんです。

瀬戸内海は、星の一杯詰まった籠なんです…と小坂井は言う。

5月4日

逮捕され、黒田と刑事たちに連行される槙田を廊下で待ち構えていた御手洗は、槙田さん、小坂井さんからこれを預かってきました…と声をかけ、首長竜の置物を差し出す。

槙田はそれを見ると黙って会釈をし、行こうか?と声をかけた黒田たちに連れて行かれる。

槙田は隠すことなく全て自供しとります…と、その後、瀬戸内が見渡せる丘にいた御手洗とみゆきと滝沢加奈子に会いに来た黒田は教える。

日本を出てアメリカで化学を専攻し、危険ドラッグを作るようになり、莫大な資産を手に帰国したのですと言うと、御手洗さん、今度又事件が起こったら、ご相談しても良いでしょうか?と聞く。

御手洗は、難しい事件ならいつでも…と答える。

滝沢加奈子は、星籠の謎を学会に発表しに東京に行くかも知れません。

その時また会ってくださいますでしょうか?と聞くと、石岡と言ううるさいのがいるんですよ、それでも宜しければ…と御手洗は答える。

先生!次の事件もご一緒して宜しいでしょうか?と図々しくも聞く。

御手洗は黙って、持っていた首長竜の置物を海に向かって放り投げる。

キャストロール(水中の様子を背景に)

水中を走る潜水艇「星籠」

海底に首長竜らしきシルエットが移動して行く。
 


 

 

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