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太平洋のGメン

片岡千恵蔵御大の現代劇「にっぽんGメン」シリーズの流れを汲んだ作品のようで、当時若手だった江原真二郎さんと佐久間良子さんが物語を牽引し、御大はちょっと引いて脇に回ったような描き方になっているニュー東映作品。

江原さんが粋の良いチンピラ風に活躍するのは分かるのだが、清楚なイメージの佐久間良子さんまでが開けっぴろげなじゃじゃ馬風に描かれているのが珍しい。

発端は、同じ石井輝男監督「女体渦巻島」(1960)でお馴染みの対馬で、長崎では観光名所を駆け足で紹介し、その後、神戸、横浜と、テンポ良く舞台が変わってゆく。

話は通俗だが、飽きさせない演出はさすが。

ソフト帽をかぶって、時折ちょっと堅苦しい台詞をしゃべる御大は、金田一耕助や多羅尾伴内をもっと気さくにしたような雰囲気。

銃撃戦では、いつものように敵の弾は一発も御大をかすめる事はない。

丹波哲郎が、いつものように余裕綽々と言ったキャラを演じながらも、最後にはちょっと哀れみを感じさせるような展開になっている。

若い梅宮辰夫や美空ひばりの実弟小野透などが、チンピラ風のキャラで登場しているのも楽しい。

劇中、小野透が見せる、ドラムを叩いている途中にバチを持ったまま席を離れ、次々と周囲の音がするものを叩いて移動し、そのままバチさばきを見せながら元の席に戻ってくると言う趣向は、クレージーキャッツのハナ肇の真似なのだろうか?それとも、他に元ネタがあって、ハナ肇もそれを真似ていたのか?興味がある所である。

ニュー東映の作品は、全体的に若向けと言うか、重厚感はないものの、気軽に見れるプログラムピクチャー独特の楽しさがある。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1962年、東映、石井輝男脚本+監督作品。

対馬

タイトル(巡視艇に追われるモーターボートの映像を背景に)

モーターボートは、浮き輪に結びつけたボックスを海に投げ込んで逃走する。

夜、小舟で釣りをしていた吉岡健次(江原真二郎)は、さっぱり釣れないのでいい加減じりじりしていたが、ようやくかかったと思った竿を引くと糸が切れたのでがっかりする。

しかしその時、近くの海面を漂っていた浮き輪に付いたボックスを見つけ、それを持って海辺に上がる。

そんな健次に近づいて来た松本(沖竜次)、竹林(八名信夫)、梅田(山の内修)から、失礼ですがその荷物は?と声をかけて来たので、釣ったんだよ、一晩中かかって獲物はこれだけだと自嘲する健次に、譲っていただくわけにはいかないでしょうか?ご満足のいくだけの事はしますと松本が持ちかけてくる。

しかし健次が、まだ中を調べてないんだ、見てからにするよ…と答えると、竹林が上着の下から銃を取り出そうとしたので、朝から拳銃ごっこなんて感心しねえぜと健次は動じようとしないので、松本は、ご希望に添えるようにしますので…などと下手に出て、近くの別荘風の建物に案内する。

そこにいたのは松本たちの兄貴分のような水原(丹波哲郎)で、うちの若いものが失礼したようで…と詫びながら、札束を積み上げて、これの事を口外しない事と忘れていただく事を条件に…と言い添えると、後はごゆっくりして行ってくださいと勝手に取引が完了したようなことを言うが、健次がなおもボックスの中身を見てないので…と粘ると、開けない方が良いと思うんですがね〜…開ければ取引に応じないことになりますが?と水原の方も余裕ありげに言ってくる。

健次は考え込むが、とっておきの酒をごちそうしましょうと水原が言い出し、68年もののコニャックを健次に振る舞うが、自分は酒を全く受け付けないたちで…と言うと、自分はレモンスカッシュを飲む。

健次はグラスを傾けるが、その途端、急に眠気が襲って来て、水原の背後の壁に飾ってあったピカソの絵がかすんでくる。

そうか…、身分不相応なものを飲んじまったようだな…とつぶやいた健次だったが、その場に倒れ込む。

どうして始末つけます?と梅田たちは水原に声を掛けるが、ボートを使ったらどうでしょうと言うアイデアに、うん、気が利くな!と賛成する。

その後、松本たちは、寝入ってしまった健次の身体をモーターボートの操縦席に乗せ、沖で転覆するのを見越して、エンジンをかけるとそのまま沖へと押し出す。

健次の乗ったボートは、漁船が何隻も浮かぶ海上を疾走しだすが、必死に眠気と戦う健次は、衝突しそうになると懸命にハンドルを操作して難を逃れようとする。 そうした迷走を続けていた健次のボートに接近して来たのが、広上(片岡千恵蔵)のボートで、馬鹿野郎!左に切れ!と向かって来た健次に叫ぶ。

その指示に従い、何とか正面衝突は回避した健次だったが、ハンドルを切り損ね、広上のボートの背後に衝突してしまう。 健次はそのまま海に放り込まれるが、広上がその身体を自分のボートに引き上げてやる。

気を失っていた健次の頬を叩く広上。 気がついた健次は、飯を茶碗についていた広上から、ここは俺の家だと言われ、何故あんなバカみたいな運転をしたんだ?と聞かれるが、腹減ったな…とだけ言い、広上の茶碗の飯を貰い受ける。

俺の船はボディに穴を開けられちまったぜと広上が文句を言うと、俺のせいか?ととぼけた健次は、あんたには災難ついでに当分厄介になるぜなどと言い出したので、呆れた広上は、俺は慈善事業をやってるんじゃねえぜ、すぐに損害の埋め合わせしてもらいたいんだ、飯くらいは食わしてやるけどな…と答えると、健次は、おかわり!と茶碗を差し出す。

広上はそんな健次の図々しさにあっけにとられながらも、茶碗にてんこもりの飯をよそってやる。 その後、健次は広上を連れ、水原たちに眠り薬を飲まされた別荘へと案内するが、ここか?お前が一人で行ってドロンなんてご免だぜ?と広上は目を光らせる。

別荘から老婆(津路清子)が出て来たので、ご主人に会いたいと健次が話しかけると、主人は10年前に東京に行ったきり戻っていないと言うので、俺はここの応接間で会ったぜと健次が驚くと、今、主人は長崎で公演中で、ここは管理人の私が時々見回るだけだと老婆は言う。

主人は酒がダメでレモンスカッシュばかり飲むんだが?と健次がさらに聞くと、ここのご主人はお酒代好きですと老婆は怪訝そうに答え、新歌舞伎の坂東梅之助って言うんですよ、知りませんか?と教える。

側で話を聞いていた広上の手前、自分が嘘をついていると思われたくない健次は、応接間にはピカソの絵があるだろう?ここに黒い猫が乗った…と、自分の右肩を指しながら健次が問うと、知っているかね?気味が悪い!と老婆が言うので、嘘じゃないだろう?と、その家から歩き出した健次は広上に声をかける。

応接間の絵を知っていたって、君が言う事が正しいとは限らないぜ、君がホテル代わりにこの家を借用したって事もあるし…と広上は疑わしそうに言うと、事情を話して欲しいなと迫るが、健次は話したくないねと無視するので、出る所に出たらしゃべらないって訳にはいかないぜと広上は脅す。

訴えるのか!と気色ばんだ健次は広上を殴り倒すと、被害者面してるが、あんただってただのネズミじゃないだろう?でなきゃ、あのボートにあんな強力エンジン積んでる訳がないと言いながら、悪いがちょいと軍資金を借りるぜと倒れた広上に近づいた健次だったが、その途端、健次は、急に起き上がった広上に手をねじ臥せられる。

この近くの「キャバレー シマ」って言う店に藤村って言う奴がいる、そいつが島の事は色々情報をキャッチしているはずだ。当たってみなと言うと、広上は倒れていた健次の目の前に自分の財布を丸ごと放り投げてやる。

「キャバレー シマ」の藤村だな?と念を押した健次は早速その店に行ってみることにする。

「キャバレー シマ」では、若い娘たちが踊っていた。

ボックス席に座っていた藤村(吉田義夫)は、会長、車を回しましょうと子分から言われると、横に座らせていた朱実(佐久間良子)と言うホステスを今夜こそ付き合ってもらうぜと口説いていたが、朱実からグラスの酒をかけられたので、逃げようとした朱実の左手を掴んで離そうとせず、この島では俺に逆らわない方が良いぞと睨みつけるが、その藤村の手をひねり上げて外したものがいたので、貴様、誰だ!と藤村は気色ばむ。

この子が気に入っちゃったんだよ、ちょっと借りるよと良い、朱実を連れてフロアの方に行ったのは健次だった。

藤村は子分に、逃げられねえように、裏と表に見張りをつけとけと命じ、健次の様子を見る。

へい、チャールストン!とバンドに呼びかけた朱実は、あんた、本当に私を気に入っちゃったの?と聞き、健次がどうかな?と苦笑すると、そう云う事にしちゃいなよ!私も気に入っちゃった!と言い出したので、相思相愛か?と健次が乗ると、クラシックな言い方ねとからかう。

その頃、船で長崎に向かっていた水原たちは、怪しげな船に追尾されている事に気づく。 向こうの船足の方が軽いな…と水原は案じる。

追尾していた海賊船で、この船は17ノット出るな?と確認していた宗方(梅宮辰夫)に、いっその事ばらしちまったらどうだい?と機関銃を構えて粋がっていたのは大野(小野透)だった。

脅しに2、3発ばらしてみるんだ!と宗方がけしかけると、喜んだ大野は機関銃をぶっ放す。

水原たちの船も、松本や竹林たちが拳銃で応戦し始めたので、驚いた船長(松本克平)は、私は藤村さんの口利き背あんたらを乗せただけで、こんなことになるとは聞いてなかった!と文句を言い出したので、藤村からの口利きでまともな客ではないと気づいたはずだ!とりあえず、船の灯りを全部消してもらう!あいつら、相手の武器さえ手に入れば用なしと言う連中でもなさそうだと水原が命じると、そんな事をしたら衝突の危険性がある!と抵抗した船長だったが、銃撃戦が治まりそうもないので、やむなく全船消灯を命じる。

追っていた船が照明を消した事に気づいた宗方たちは、さらに発煙筒まで相手の船が焚き、その煙の中に姿を消したので、とんだ骨折り損だぞ!と悔しがる。

「キャバレー シマ」では、黒人ストリッパーが踊っていたが、あの男が藤村だったのなら話を聞きたかったんだが…と健次が悔やんでいた。

麻薬の事?それともナンキン虫?石?やつらなら、藤村さんの船で就航したわよ。私、話を聞いちゃったのよ、だって大の男がレモンスカッシュ飲んでたんですものと朱実が言うので、水原の事だと気づいた健次はいつ船は出た?と聞くと8時半の対馬ー長崎行きだと言う。

11時に定期船が出るなと健次は追おうとするが、今出て行ったらまずい事になるわと朱実は止める。 試しに窓から外を覗いてみると、表には藤村の子分たちが張っていた。

その時、海賊行為に失敗した宗像と大野が店にやって来て、スコッチを瓶ごともってこい!今日は機嫌が悪いんだと言うと、持って来たジョニ赤を宗像はぐい飲みする。

大野がドラムを叩き始めると、あいつ、クレージッちゃってるんじゃないか?と宗方は愉快そうに言う。

大野は、ドラマだけに飽き足らず、店の柵やボーイが持っている金属盆などを次々とスティックで叩き回るので、それを見ていたホステスたちは大喜びする。

さらに、ドラムの外枠などを叩きながらまた元のドラマー席に戻ると、汗塗れになってドラムを打ち続ける。 そんな中、サイレン音が近づいて来て、朱実は、準備完了よ、行きましょう!と検事を誘う。

そこに担架を持った救急隊員がやって来たので、ご苦労様、この人です!と健次を指した朱実は、おなかの右側が痛いと言ってますから盲腸かも?などと救急隊員に告げる。

意味が分からず、どこも痛くねえよと答えていた健次だったが、その横腹を小突いた会下身は横になって!と言いながら目で合図をする。

何となく意味が分かった健次は、言われるがまま担架に横になると、毛布をかけられ、顔を隠したまま救急車に運ばれる。

店の前では、藤村たちも野次馬に混じって様子を見ていたが、担架で運ばれるのが健次だとは気づかないままだった。

朱実は作戦成功とばかり、笑顔で走り去る救急車を見送る。

長崎の病院に運ばれた健次はすぐに病室を抜け出そうとするが、看護婦(水谷美津子)に見とがめられ、勝手に起き上がっては困ります!と注意される。

ここに来たら調子が良くなったんだよとごまかそうとするが、それでも先生の許可がないと…と看護婦がうるさいことを言うので、面白い所へ連れてってやろうか?と誘うと、どこに!と急に看護婦は興味を示す。

何とかごまかして、長崎の新歌舞伎の芝居小屋に出向く。 既に舞台が始まっていたので、側にいた婦人客にどの人が坂東梅之助ですか?と聞くと、真ん中で踊っている人だと教えてもらったので、すぐに楽屋番(有馬新二)に会い、梅之助に会いたいと申し出る。

しかし、楽屋番は面会は出来ないと断るので、対馬の方から来た人から頼まれたんだよと、金を渡してカマをかけてみると、あっさり、もうすぐ奈落の方に降りてくると楽屋番は教える。

すぐさま奈落の方へ向かった健次だったが、途中、見覚えのある男とすれ違い、奈落へ降りて来た梅之助に近づくと、梅之助は胸にナイフを刺して倒れてかかってくる。

思わずそのナイフを抜いた健次だったが、その時、舞台関係者が梅之助の異常に気づき、騒ぎだす。

自分が容疑者だと勘違いされた事に気づいた健次は、急いでナイフを棄てると劇場を飛び出し、追っ手をまこうと長崎市内を逃げ回る。

平和公園、大浦天主堂、オランダ坂、グラバー邸、文明堂本店前… 何とか長崎駅に逃げ込んだ健次は、物陰で新聞に載った事件の記事を読んでいた。

しかし、駅には明らかに刑事(相馬剛三)と思しき男は見張っていたので、構内に入れなかったのだが、その時いきなり手錠をかけられてしまう。

かけた相手はあの広上で、下手に騒ぐとためにならんぞ!と睨んでくる。

そして、手錠をかけた健次を連れ、堂々と見張りの刑事の前を通ると、○○署の広上です、こいつはちっぽけな詐欺罪の奴で、毎日張り込んでいたらドンピシャリでした!などと笑顔で説明するので、すっかり同業者と思い込んだ見張りの刑事は信用して見過ごしてしまう。 それを見た健次が、あんた、良いタマだなと感心すると、どうせお前も同じ穴の狢だろう?汽車が出るまで我慢するんだ、刑事たちがわんさか張り込んでいるはずだからなと言うと、広上は手錠をつけたままの健次とともに列車に乗り込む。

すると、客席に旅行用に着飾った朱実がちゃっかり座っているではないか。

ここ開いてますか?と声をかけた健次はその横に座る。

朱実は、ちょっと席お願いしますと言うと席を立ってトイレへでも行ったので、すごいグラマーだなと広上が言うと、今はやりのトランジスタグラマーさと健次も応ずる。

健次は、「キャバレー シマ」の藤村が水原らに船を用意して長崎に逃がしたので、それを追って来たら、坂東梅之助の殺人犯に仕立てられてしまったと言うこれまでのいきさつを広上に聞かせるが、俺が手伝ってやろうか?と広上が言い出したので、俺は親切面したおせっかいが大嫌いなんだ!と健次は拒否する。

すると広上は、こいつは大分儲かりそうな話だな?と言いだし、そこに戻って来た朱実も、私、全然興味を感じたわ!などと話に加わって来たので、何だ?君は!と広上は驚く。 汽車は若戸大橋の横を通り過ぎて行く。

私を退屈させないで!と朱実が言うので、君の取り上げた品物は何だと思う?と広上が健次に聞く。

麻薬か石か…、どちらにしてもさばける場所は限られている…、神戸、横浜、東京…と健次が言うと、梅之助は神戸出身で、おそらく運び屋だ、奴らは早いとこゲンナマに変えたいはずだと広上は指摘する。

横浜は私の巣だわと朱実が言うと、神戸は俺の故郷だと健次も答える。

神戸

東洋商会と言う店の前の波止場で張り込んでいた健次の元にやって来た朱実は、その顔じゃ、収穫なさそうね、いつまで待っているつもり?広上ってあの伯父さんの方が、趣味と実益をかねた巧い方法でやってるわよ。今、交華貿易の前の麻雀屋で麻雀しているわ。奴らがここに来たら電話してくれってさ。 あんたも趣味と実益をかねたら?あのホテルの2階の角部屋を借りて、スコッチでも飲みながら待ってれば良いじゃないの?と目の前のホテルを指して勧めるが、健次は乗って来なかったので、朱実は一人でホテルに向かう。

ところが、クロークで2階の角部屋を注文すると、受付係(杉義一)が29号室は既に人がいますと言うので、じゃあ、追い出してよ!と朱実は無茶を言い出す。

その29号室にいたのが宗方と大野で、下に妙な女がいるぜと大野から聞いた宗方は、1人か?必ず相棒がいるはずだと言い、結局、朱実が隣の部屋に入ると、見張ってろと大野に命じる。

その頃、東洋商会で影山(富田仲次郎)と言う神戸の売人と交渉していた水原は、ブツの半分しか現金にはならないと言う相手の返事に不満を漏らしていた。

しかし、私より大きな取引で切る店は他にないですよと影山は牽制するが、水原が交渉を止めて帰ると、影山は愛用のライターをいじりながらすぐに交華貿易の陳に電話をする。

東洋商会を出て来た水原に気づいた健次は後を追い始めるが、途中、引き込み線の貨車に進路を阻まれ、気がつくと、水原は、松本たちが乗る車に乗り込んで走り去っていた。

交華貿易と会おうかと思う、急いで始末したいからな…と水原が仲間たちに伝え、その前に、影山をまかないとなと言う。

尾行ですか?と竹林たちが背後に目をやると、そう考えといた方が良いだろうと水原が言うので、じゃあ、少しドライブですか…と運転手は頷く。

健次は朱実を迎えにホテルのクロークで二階の女客を呼んでくれと言うが、今日はご婦人は一人も来られていませんと受付係は言う。

そんなはずがないと健次は抗議しかけるが、その時、地元の刑事(岡野耕作)が入って来たので、俺の勘違いだったらしいな…と言うと、さりげなくホテルを抜け出す。

刑事は、受付で宿帳のチャックをしながら、今の男、見覚えがある。 3年前、剛田と言う男の指を二本ツメさせた奴に似ているな…と首を傾げながらつぶやく。

一方、交華貿易前の麻雀屋に陣取って麻雀をやっていた広上は、窓の外の交華貿易にやって来た影山の姿を見つける。

陳社長(山形勲)に会いに来た影山は、奴はまだ姿を見せませんか?と聞くと、いずれ来るでしょう、他にさばける所はありませんと陳は答える。

あなたが売らないと言ったら折半しても良いですよと影山が持ちかけると、そんな事より、一銭も出さずに全部頂いたらどうです?と陳は笑う。 その頃、つづら折れの山道にやって来た水原たちの車を尾行していた影山の子分(久保一)は、やっぱり感づいているってことかな?と車の中でぼやいていた。

健次は、先ほどのホテルのクロークに舞い戻ると、警察を呼ぶぞと電話に手を伸ばした受付係を捕まえ、相手の手を自分のコートの胸元に当てながら、下手な真似は寄せ!これが何だか分かるだろう?素直に吐くんだ!と迫る。

湊川警察署前に車を停めた水原は、そのまま車を降りて警察署内に入ると、警官を玄関先に連れて来て、尾行して来た車の方を指差すので、尾行していた影山の子分たちは慌てて逃げ出す。

しかし、水原は尾行者を追い払うために、警官にトラックが電柱にぶつかっていたと言う嘘の通報をしていただけだった。

水原は尾行をまいたと思い車を発車させるが、そこから別の車が水原たちを尾行し始める。

その頃、健次はホテルの受付係をホテルの外へ連れ出し、朱実を連れ去った新開地の「天国」と言う店に案内させていた。

受付係は、奴らに殺される!と覚えるが、おめえは、人に信用させるような男じゃないらしいなと健次はからかう。

一方、交華貿易にやって来た水原の姿を、麻雀をまだ続けていた広上は窓越しに監視していた。

健次は「天国」と言う外国人客相手の売春宿のような店に来ると、剛田さんに会いたいんだと店の女に伝える。

すると、俺が代わりに話を聞いてやると言う子分が出て来たので、健次が来たって伝えてくれと健次が言うと、あんたが吉岡健次だったのか!と驚く。 俺の名を知っているなら、気が短いってことも知ってるはずだ、すぐに取り次ぎな!と健次はドスを利かす。 剛田(伊沢一郎)に会った健次は、しばらくだな、3年ぶりか?と話しかける。

朱実はその剛田のそこに座っていた。 まだ足りねえって言うのか?と怯える剛田の手を取った健次は、2本指がないその手を見ながら、まだ3本残っているぜ!とうそぶく。

残った指もツメろって言うのか!と剛田はビビるが、朱実は、私、助けにくると思ったわと喜ぶ。

何が欲しい?と剛田が聞くので、その女さと健次が答えると、うんと稼がせてもらおうと思ってたんだと言う剛田を殴り、拳銃をこめかみに突きつけた健次は、部屋になだれ込んで来た子分たちに、静かにしてりゃ、痛い目にあわずにすむんだ!おめえたちのボスが酒を振る舞ってくれるとよと牽制しながら、剛田を人質に、朱実とともに店の外に抜け出る。

そして、子分たちが追って来ないのを確認した健次は、なるべく俺に会わないように気をつけな!と言い、剛田を解放する。

朱実は、これを食べると恋人ができるよなどと言いセロリを100円で売りつけて来た外国人の女から買ってかじりながら、また急にあんたに興味持っちゃった!と健次を口説こうとするが、その健次がさっさとどこかに消えてしまったので、嘘つき!とセロリ売りの女に当たり散らす。

交華貿易にお盆を運んでいたウエイトレスに、お嬢さん、それ、レモンスカッシュだろ?注文したの僕だから、早く持って行ってと声をかけると、自分も交華貿易のビルに入り、社長室脇の別室にいた影山をいきなり殴り倒す。

社長室で、では決まりました、今夜10時に!と交渉を終えた陳社長と別れ、部屋を出ようとした水原は、テーブルの上に置き忘れられていた影山愛用のライターに気づく。

しかし素知らぬ振りをして水原が出て行くと、影山の部屋にやって来た陳だったが、そこに見知らぬ広上がいたので、この人は誰だ!と驚く。 この人はあの宝石を追ってずっと来たので、仕事を手伝う権利があると言っているんだと影山は渋々答える。

どのくらい分け前が欲しいんだ?と陳が聞くと、280カラット全部です…と言いたい所だが3分の1で良いやと広上が言うので、あの石は全部で7000万、その3分の1だと2300万、あなたに払えますか?と陳はあざ笑うが、ずいぶん安く値切ったもんだな!あんたが本当にあの男に払う気があるのならねと広上はからかう。

その後、約束の時間にやって来たのは水原本人ではなく代理人の松本と竹林だった。

広上は、私はここで待っていましょうと言い、取引の部屋には陳と影山が向かう。 松本は、宝石の入った袋を差し出し280カラットです、金も並べてもらいましょうか、この辺では偽金が流れていると聞きますからと松本は迫るが、そんな話は聞いたことありませんと陳はとぼけ、子分がテーブルの上の袋を開ける。

中からは宝石がこぼれだすが、金を見せろ!と松本は迫り、突然、子分を射殺する。 陳の子分たちも部屋になだれ込んで来て銃撃戦が始まるが、影山はその場で死んでいた。

松本や竹林は銃を乱射しながら建物の外へ逃げ出すが、無人になった部屋に侵入して来たのは、ずっと水原を尾行していた宗方と大野だった。 2人はテーブルの上にこぼれていた宝石をいただこうと言い、かき集めだす。

一緒に連れて来た宗方の子分(沢田実)、これ一つ3000円くらいですか?などと言うので、おめえは蛍光灯だな〜、スイッチ入れてもなかなか点かないってことだよ!と宗方は叱る。

そんな宗方たちを、戻って来た陳が射殺する。

一方、外に出た広上も銃撃戦に加わっていたが、そんな広上を陰から撃とうとしていた松本を邪魔したのは健次だった。

助けてもらったと気づいた広上は、よお!と健次に笑顔で声をかける。 健次は捕まえた松本に、おめえだな?坂東梅之助をやったのは!奈落でおめえを見たぜ!と言うと、拳銃を足下に撃ち込み、相手を踊らせて履かせようとする。

しかし、次の瞬間、銃を奪い取った松本が、今度はおめえに踊ってもらいましょうかと銃を向けてくるが、健次は地面の土を相手の顔にかけて飛びかかる。 言え!言うんだよ!と松本の首を絞めて迫っていた健次だったが、俺のせいじゃない!ボスからの命令でやらされたんだと松本が言うので、ボスの名は!と聞くと、松…と言いかけた所で、松本は何者かに撃たれて倒れる。

しっかりしろ!言ってくれ!と助け起こした健次に、ちくしょう…、横浜の松野!と告げた松本は息を引き取る。

横浜の松野か…と健次はつぶやく。 東京行きの飛行機の中、神戸の「交華貿易」で銃撃戦、現場には模造ダイヤが散乱、影山即死と言ったニュースを流しているトランジスタラジオを客席で聞いていたのは水原だった。

そんな飛行機には健次も乗っていたが、またしても朱実も乗っている事を発見し驚く。

ずっとつけて来たの!仲良くしようよ、警察はきっと犯人を見つけ出すわよなどと馴れ馴れしく話しかけてくるので、これ以上つきまとうと、女手も承知しねえぜ!と健次は睨みつけるが、食べない?と朱実は気にしない様子でガムを差し出して来る。

羽田空港に着き、水原を尾行していた健次は、奴が車に乗ったら、俺と一緒に車に飛び乗れとついて来た朱実に命じるが、その前に、水原は車に乗り込んで出発してしまう。

やむなく、朱実にタクシーを拾ってくれと頼んだ健次は、当てにしていたふんどしは向こうから外れるってねと言い訳がましく言うと、わあ、下品だな!と朱実は呆れる。

水原を乗せた車には、兵藤(南廣)と中野(沢彰謙)が乗っており、ボスがお待ちかねだぜと話しかけてくる。

水原は、キャッシュに替える事ができなかったんだと教えると、何があったんだ?面倒な事があったらしいな?と聞くが、ボスが話してくださるさと中野は答えるだけだった。

暗い倉庫街で車を降ろされた水原たちが、ボスはどこだ?と聞くと、4号倉庫だと兵藤は答え、中野とともにその場を立ち去ってゆく。

一人その場に取り残された水原の様子を、つけて来た健次と朱実が物陰から監視していた。

タバコに火を点けようとした水原だったが、その時闇の中から狙撃され、右手を負傷する。 畜生!一体何の真似だ!と良いながら、水原は辺りを見回す。 撃って来たのは、先ほど姿を消した兵藤と中野たちだった。

仕事だけやらせやがって、俺は消そうって言うのか!と逃げ回る水原を、車に乗った兵藤たちが執拗に撃ってくる。

鞄を盗まれた!当てにしていたふんどしは向こうから外れる!と朱実が言い出したので、下品だなと健次は呆れる。

このままじゃ、轢かれちゃうよ!あのレモンスカッシュ!と言ったかと思うと、朱実は飛び出し、水原を救おうとするので、畜生!行かれポンチ!と叫びながら健次も飛び出し、水原に肩を貸して暗闇の方へと逃げる。

兵藤や中野の仲間たちも集まって来たのか、銃を撃って来たので、湊に置いてあった貨物の裏に隠れた朱実は、囲まれちゃったみたいね、ちょっと怖いわと言うので、自分で招いた事だぜと健次が言うと、ちょっぴりね、後悔してるわ…と朱実は答える。

世話になったな…と腹も撃たれて出血していた水原は言うが、健次は、その水原のコートを脱がし、自分が来てあの原ペキの方に走るから、その間に向こうに逃げるんだと朱実に命じる。

おー神様!って叫びたいわ!でも、あんたが逃げ切る可能性は20%ねと朱実が言うので、しようがねえ、こういう事になっちまったんだと健次は言うが、その時いきなり、コートを頭からかぶった朱実がその場から岸壁に方へ逃げ出そうとする。

慌てた健次がそれを止めると、ちょっぴり責任感じちゃったのよと言う朱実からそのコートを奪い取った健次は、岸壁の方へ駆け出す。

それを水原を思い込んだ敵が撃ってくる中、朱実は水原をさせて反対方向へと逃げる。

兵藤は、もう片がついたと思い、煙草を口にくわえかけるが、その時、近づいてくるパトカーのサイレンに気づく。

翌朝、屋敷に戻って来た兵藤たちから話を聞いた松野完治(佐々木孝丸)は、水原を逃がしたのはまずかったなと悔やむ。

先方は、取引の場所を南米行きの「ブラジル号」の船上でやるように要求していますと兵藤が伝えると、陸上の取引では危ないと思っているんだろうと答えた松野は、取引時間が明日の午前4時である事を確認する。

出航が5時らしいんで…と兵藤は付け加える。 翌朝、健次と朱実は、夕べの銃撃戦現場を警察が現場検証しているのを、野次馬に混じってみていた。

そんな二人の背後に現れたのが広上で、石は全部やられたのよと朱実が悔しがると、僕はもう少し当たりを付けてみたい事があるので、明日の朝、あの時計塔の針が5時を指した時、ここで会おうじゃないかと約束しその場を去ってゆく。

その後、健次は、朱実が水原を連れ込んだ華僑の老婆(近衛秀子)の家で、近所の老いた医者が容態を診ている所に来る。

老婆は診察代の代わりに、老医者に酒を振る舞ってやる。

外に出た老医者に近づいた健次が水原の容態を聞くと、良く持っている、感心したよ、後は、食わせたいものを食わせ、会いたい奴には会わせるんだねと言い。

老医者は帰ってゆく。 家に入り、松野って言う名を知らないか?と老婆に聞くと、港湾の埋め立て会社をやっていてこの辺じゃ名士だよと老婆は言う。

朱実って奴は?と聞くと、ここで生まれたんだ、生んだ母親は死んだがね…と老婆は教える。 その時、気がついた水原が、立たせてくれ!松野の奴に用事があるんだ!自分の身体は自分で良くわかる。

今じゃなくちゃいけねえ、このまま死ぬのは嫌だ…と、止めようとする健次に苦しげに言う。

そこに、松野の奴、ブラジル号に関係あるらしいのよと、戻って来た朱実が報告しながら、水原を寝かせる。

そんな朱実の優しさをじっと見守る健次。 深夜、松野邸から出発する車。 それを尾行する健次の車には、水原が乗っていた。

兵藤らとともに桟橋付近にやって来た松野は、近づいてくるボートを待つ。

健次は水原に肩を貸し、しっかりしろと励ましながら車から降り立つ。 ボートが接近して来た時、突然背後から松野を捕まえた健次は銃を突きつける。

兵藤たちは驚くが、取引の方が先だ、忠義面したって、水原みたいに消されるんだと言い、松野をその場に残し、自分たちはボートに乗り込む。

一人残された松野に、健次に背後から支えられた水原が銃を突きつける。 俺じゃない!兵藤や中野たちがやった事なんだ!と松野は言い訳するが、豚やろう、さんざん貴様のために命を賭けて汚い事をやって来たのに、貴様は地元では慈善家の名士だ。

さぞ良い気持だったろう?と言うと、助けてくれ!石はみんなお前にやる!と命乞いをして後ずさる松野に、笑いながら一発ぶち込む。

殺さないでくれ!となおも懇願する松野に、もう引き金を引く力すら残っていない水野の指に自分の指を重ね、健次が引き金を引く。

松野が息絶えると、水原も死んでいた。

倒れた水原の顔に、自分のハンカチをかぶせてやる健次。

「ブラジル号」の船上では、ダイヤの取引を終えた陳が、今後はインド産のアヘンを持ってきますと、愉快そうに次の商談を持ちかけていた。

その時、この話巧く言って答えられなかっただろうな…と声がしたので、誰だ!お前は!と誰何すると、物陰から出て来たのは広上で、世の中、相巧くいかねえもんだ。

自分がやった事には税金を払わなくちゃいけないと言いながら、広上は撃って来た相手に拳銃で反撃する。 兵藤たちも撃ちかえすが、そんな中、広上は、カンテラを持ち上げると、海上に向かってまわしてみせる。

すると、待機していた巡視艇が何隻もブラジル号に近づいてくる。

陳は逃げ出そうとするが、抵抗は止めろ!東京湾にボート一隻通り抜ける事はできない!みんな、拳銃を棄てろ!と広上が怒鳴ると、さしもの兵藤たちも観念して拳銃を甲板に置く。

ご苦労さん!ブラジル号の全員逮捕したよ、しんどかったろう?と巡視艇からブラジル号に乗り込んで来た海上保安官(須藤健)が広上に声をかける。

大した事ないよと答えた広上は、そこにやって来た健次に気づくと、よお!見た通りの事情で身分を明かせなかったんだと詫びる。 埋め立て地の横で水原が死んだぜ。松野は俺が殺したのかもしれない…と告白する。

すると広上は、俺はすぐに対馬へ行く、あちらでも捕まえないといけない奴がいるからな。君たちも後から来いよ、朱実と言ったな、あの子と一緒に。あのボートは譲ってやっても良いぜ、じゃあ、時間がないから!朱実君によろしく!と言い残し去ってゆく。 時計台の所へやって来た朱実は、そこで待っていた健次にどうしたの?と声をかける。

おい、朱実、ボート屋の親父なんか興味ないだろうな?俺、対馬に行って、ボート屋の親父になろうかと思うんだ…と健次は言い、その場を立ち去ろうとするので、少し考えた末、ちょっと興味あるわよ!と答えた朱実は、その後を追ってゆき、手をつないで一緒に歩いて行くのだった。
 


 

 

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