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サラリーマン 目白三平

 

人気ラジオ番組の映画化らしく、最初2本が東映で作られ、その後、東宝でシリーズが続行と言う珍しい形になっている。

後年、「てなもんや三度笠」も東映から東宝にシリーズが移っているし、「お父さんはお人好し」のように大映から宝塚映画に移った例、「多羅尾伴内」シリーズのように大映から東映と言った具合に製作会社が途中で変わる事は昔はそう珍しくなかったのかもしれない。

この作品、小林桂樹さんが出ている事もあってか、あまり東映っぽい印象がない。

むしろ東宝風に感じられるのが面白い。

企画の藤本真澄さんと金子正且さんが東宝の人と言うイメージがあるからなのかもしれない。

役者陣も、喫茶店の三人娘として登場している女優の中原ひとみさんや星美智子さんが東映っぽいくらいで、その女優さんたちが活躍すると言う風にも見えないし、男性陣は若すぎて後のイメージに結びつかなかったりするのも東映らしさが希薄な原因かもしれない。

シリーズ最初の作品だけに、演じている笠智衆さんや望月優子さんが若い…と言うか、45歳と35歳と言う劇中の年齢に近いと言うべきかもしれない。

次男の冬木を演じている日吉としやす君が特に愛らしく、まだ小学校に上がるかどうかと言ったくらいの年頃に見える。

主人公家族の年齢だけではなく、最寄り駅が目白らしい事や主人公の血圧がかなり高い事を知ったりもする。

話自体は平凡なサラリーマンの日常生活と言った一見面白みがなさそうな展開なのだが、これが実に面白いから不思議。 今となっては、昭和30年頃の生活ぶり、東京の姿全てが貴重に見える。

まさに「三丁目の夕日」の世界である。 当時の庶民の生活ぶり、物価、エイプリルフールがこの当時から知られていた事など、驚きの連続と言って良い。

デパートの食堂での御子様ランチとテーブルの中央に置かれている土瓶とたくさん積まれた湯のみなども懐かしい。

くず屋、魚屋のご用聞き、紙芝居屋…と言った、今では見かけなくなったものから、名店街のお菓子作りの光景など、基本的にあまり変わってないものまで色々目にする事ができる。

個人的に一番興味深かったのは、 東千代之介さんの踊りの実演シーンがある事。

劇中でも、錦之助、千代之介じゃないのよ!と母親が言っているように、正に当時は新諸国物語に端を発する子供向け時代劇の全盛期だったはずなのに、映画以外の実演もやっていたらしいからだ。

東宝も、当時は、映画上映と実演の二本立てなどと言う興行を都心部でやっていたらしいが、東映もやっていたと言う事なのか?

それとも、このシーンは、この映画だけのサービスシーンなのか?

気の弱い亭主と口うるさい奥さんと言うコンビは、当時の典型的な夫婦像だったのだろうか?

それとも、亭主関白がまだ根強かった時代のファンタジーとして愛されたのだろうか?

貧しいけれど、ちっとも不幸そうじゃない所が、見ていて微笑ましい。 
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1955年、東映、中村武志原作、井手俊郎脚色、千葉泰樹監督作品。

東京駅校舎口にあるこの8階建ての建物こそ、国鉄本社である。

私は、そこの厚生局厚生課の一級課員

20数年勤務し、その間、黄疸で1週間休んだだけ。 毎日ここで校正をやっております。(と、目白三平の独白)

その日は、「国鉄」と言う機関誌に掲載予定の機関車修理工場に勤める社員の詩を校正していたが、その内容に目白三平(笠智衆)は痛く感激していた。

先輩が後輩に技術を教えているのを見た筆者が、15年前に自分の情熱を思い出すと言うような内容だった。 隣の席の同僚中島(堀雄二)に、機関誌に載せる国鉄職員が書いた詩を見せると、一般の人が感銘を受けるかね?と疑問を呈する。

確かにその通りだが、国鉄職員だって他の労務など分からないだろうと三平が意見を言っていると、とうとう降ってきやがった!僕の靴は穴があいているんだと、窓の外を眺めた中島が言う。

うちなんか、いまだにブリキ屋根だから屋根に穴があいているよ。何せ1110円の公定家賃だからね…とぼやいてみせる。

目白三平の家 縁側では玩具で遊んでいた次男の冬木(日吉としやす)が、雨が降り出したので、ぴちぴちちゃぷちゃぷランランランと歌っている。

内職のネクタイ織りをしていた三平の妻文子(望月優子)が、雨漏りして来た箇所に、次々に洗面器を置いてゆき、音がしないように、その中にぼろ切れを詰めて行く。

その様子を見ていた冬木が、はいと言いながら自分の玩具のじょうろを渡したので、まあ!と文子は喜ぶ。

しかし、また冬木が雨雨降れ降れ、母さんが〜♩と歌い始めたので、止めなさい、そんな詠、雨が降っているのに!と文子が叱ると、てるてる坊主、照る坊主〜♩と冬木が歌を変えたので、笑顔になった文子は、冬木、かりんとうあげようと言い出す。

そこに、ケンちゃんの傘に入れてもらったと良い、長男の春木が帰ってきたので、手を洗わせて、一緒にかりんとうを渡そうとするが、春木は、手近の洗面器に入れていたぼろ切れで手を拭くので、ちゃんと洗ったの?と注意しながらも、兄弟にそれぞれ7本ずつかりんとうを分けようとする。 すると、春木の7本の内1本が半分だと文句を言うので、交換し、その半分を取り上げる。

ちぇ!結局7本かと春木が文句を言うので、7と言う字は縁起が良いのよと文子が教えると、ラッキー7だから?と春木が言うので、お七夜とか初七日とか…と、文子は自分でも気づかず縁起の悪い事まで言ってしまう。 雨漏りは、駅弁用の陶器のお茶入れにも落ちてくる。

三平が帰宅後やって来たのが、遠い親戚の村上(小林桂樹)で、もう星が出てますよと教えると、今夜はお願いがあって来たんですと言うので、お金に関する事以外だったら聞くよと三平が最初に釘を刺すと、ちょっと関係あるんですが、うちの近所に佐々木と言う靴屋があるので、そこでぜひ一つ靴を作ってくれないでしょうかと村上は頼む。

そろそろ新しい靴の替え時なんだが、実は靴はいつも決まった新宿のウノキ靴店で作っているんだ。靴のサイズも決まっているんだ。僕は靴のはじめのうちは、足にぴったりしないと気がすまないんだと断ろうとする。

いやね、そこの靴屋の主人、仕事は丁寧なんだけど、いつもへまばかりやってるんですよ、1つボックスで3000円なんですがダメですか?ねえ、おばさん!と文子にも話をする。

すると、横で話を聞いていた文子が、村上さん、あんたいくつ?と聞くので、満で29ですと言うと、じゃあ、数えだと30か31ね、私35よ、同じ30代で、あんたからおばさんなんて言われるの嫌だわと言い出す。

とは言え、遠い親戚関係である事に気づいた村上は、じゃあ何と呼びましょう?お姉さんは変だし…、名前を呼びましょうか?と提案すると、春木が、おふみさん!と混ぜっ返す。

奥さん…でどうでしょう?と村上が言うと、ウノキさん4000円じゃないですか、1000円浮いたお金は私、こうもり傘買いますわ、折りたたみ式の…と文子が言うので、じゃあ、今からちょっと言ってみませんか?と村上は三平を誘う。

道汚いだろう?と三平がおっくうがると、最近道直しましたよと村上は言う。

外に出て歩き出した三平は、会社の景気どうだい?と聞くと、ビール会社の宣伝部なんて、忙しいのは6、7、8、9の四ヶ月だけですよ、その点、国鉄の人は汽車がただだから、たまには旅行にでも出かけたらどうです?熱海なんか良いじゃないですかなどと村上は勧める。

熱海まで無賃パスで行ったって、後はどうするんだ?旅館代は?旅行は汽車賃だけではどうにもならんと言う事だよと三平は答える。

佐々木靴店にやってくると、若い娘の敏子(三笠博子)が愛想を振りまき、上等のボックスをお願いするよと村上が頼むと、父親の佐々木(杉狂児)が、早速三平の足の寸法を測り始める。

足の甲にぴったりで頼むよと三平が注文していると、俊子が茶を煎れて来たので、湯のみを受け取りながら、村上は俊子にウィンクしてみせる。 翌朝、6時50分を指した目覚ましが鳴っても、三平が起きようとしないので、文子は熱い蒸しタオルを顔にかぶせる。

その熱さに驚いた三平は何をするんだ!こんなもの顔に乗せられちゃ、心臓がきゅうっと縮み上がるじゃないか!と憮然としながら起き上がるが、あなた、目覚ましも役に立たないじゃないですか、だから蒸しタオルを思いついたのよと文子が言うと、しかしこれだと、乗せられるたびに一日ずつ寿命が縮むよとぼやきながら三平は洗面所に向かう。

どうして男って理屈っぽいのかしらと文子が言うので、女はいつも文句ばかり言っていると三平もやり返すと、歯磨きやたらとこぼさないでね!と文子は三平を叱りつける。

朝食は、春木と冬木は牛乳ですまし、三平は「ビタ・オール」と言う栄養剤一錠だけだった。

いただきます!と言った三平は、その錠剤を水で飲み込むと、いただきました!と言うと、立ち上がり、玄関先で靴を履くが、その時ふと腕時計を見ながら、目覚ましが鳴ってからぴったり9分か…、我ながら正確なもんだね…と心の中で自己満足する。

7時半、国鉄本社の前にやって来た三平は、俺はこの建物の中で1日中働く訳だな…、最近は白髪が増えて来て、頭の真ん中も薄くなって来た。

しかしそれだけで楽隠居はできない。わしが定年になる頃は、子供たちが大学を出るかでないかだ…、60、70になってもまだまだ働ける。しかし血圧は180でかなり高めだ。年齢+90が適正らしいから、本来なら135でなければならない。わしは45も多いじゃないか!と心の中で考える。

そしてやって来たのは、毎日通っている三姉妹がやっている馴染みの喫茶店だった。

注文を取りに来た三女(中原ひとみ)にブルーマウンテンを注文した三平は、私は20数年ここで朝のコーヒーを飲んで来た。

昔から旨いコーヒーを飲ませてくれるから今でも通い続けているのだが、三姉妹に一度も話しかけた事はない。

一旦話しかけてしまうと、話したくないときにも話さなくてはいけないからだ…と心の中でつぶやいた三平は、一番下のお嬢さん、今日のセーターはすてきですね…、中のお嬢さん、短い髪が流行だと言ってもちょっと短すぎやしませんか?上のお嬢さん、お婿さんが決まったそうで、良かったですね…などと心の中で話しかけ、三女や次女(田代百合子)長女(星美智子)が、それに答えている言葉を妄想する。

その後、本社ビルに向かい、三平が8階の校正課に到着するのが8時半… 12時 三平は中島とともに食堂へ向かい、うどんかけを食べ始める。 中島は、物差しを持ってくれば良かった。

普通の丼の直径は5寸らしいが、ここの丼の直径は5寸3分あると言うんだよなどとくだらない事を言い出すので、三平はこのうどんかけが15円と言うのは安いよと値段のことを言う。

直営だからサービスが多少悪くても、2500人からの食事を用意してるんだから…と言い、うどんを食べ終えると、これから散歩だと三平は立ち上がる。

又名店街ですか?と中島が聞くと、あそこは飽きないよ…と三平は答える。

「Nishiki」の自動ドーナツ製造機や「コロンバン」のデコレーションケーキの飾り付け、「文明堂」のどら焼き製造販売、化粧品売り場でのコールドクリームの実演販売など色々見て回っていた三平は、電気屋では小型扇風機を見ていたが、店員が話しかけて来たので、そそくさと立ち去る。

続いて「マツオカ洋品店」にやって来た三平は「ネクタイコンクール」と表示されl展示されていた何本ものネクタイを見て、96番のネクタイが買いたいもんだ…と考えるが、すぐに妻の文子が、売れ残りで安いのがいくらでもあるじゃないですか!流行遅れでも何でも良いんです、あなたは45歳なんですから!と文句を言うのが目に浮かんで来たので、50円のハンカチだけ購入する。

すると、女店員が、今「ネクタイコンクール」と言うのをやっていて、当店でお買い上げいただいた方に投票していただき、一番票が多かった番号に投票した方の中から抽選で一名10000万円の商品券を差し上げる事になっておりますと言われたので、自分がこの手のものに当たった試しはない。

宝くじも毎度買っているが、30円が5、6回、100円が1回当たっただけだなどと心の中でぼやきながらも、一応受け取った投票用紙に「96番」と名前を書き込む。 翌朝、出社する三平は少しめまいがすると言うと、また黄疸じゃないんですか?休みますかと文子は案ずるが、戦後、無遅刻無欠勤なんだから、それをふいにするのはもったいないからねと三平は答える。

すると文子は、神田の靴屋で春木の運動靴を買って来てください、ローズもので良いので…、どうせ電車賃はただだなんだから…などと頼み、金を渡してくる。

地元の目白駅前に来た三平は、ホームにいた馴染みの駅員(福岡正剛)から、目白さん、元気ないですね!と声をかけられたので、めまいがするんだ、今日は奮発してバスにしますわ!と答える。

東急バスの停留所の列の後ろに並んだ三平は、前に並んでいた客(柳谷寛)が読んでいた新聞にふと目をやると、前の客は睨みつけながら、新聞を隠そうとする。

その時、上空にヘリコプターが飛んで来たので、それを見上げた三平は、めまいを感じふらつくと、前の客に寄りかかり、つい相手の靴を踏んでしまう。

何故足を踏むんだ!と文句を言って来た前の客に、めまいがしたもので…と三平はすぐに詫びるが、相手の客はこの靴を見たまえ!ニューなんだぜ!と踏まれて汚れた自分の靴の文句を言う。

そこに、新橋行きのバスが到着したので、並んでいた客は一斉に乗り込むが、前の客が乗った所で、車掌がもう満員なので、後の車にしてくださいと三平に言う。

すると、乗っていた前の客が三平をからかうようにあかんべえをして来たので、三平はさすがにかちんと来る。

バスが出発した後一人停留所に取り残された三平は、タクシーを止めると、前のバスに追いついてくれと運転手に頼む。

ところが、途中、バックして来た東急運輸のトラックに妨害されたり、信号待ちで待たされたりと、なかなか追いつけない。 何かバスに忘れ物でもなすったんですか?と運転手は聞いてくるが、三平は生返事。 その間にも、タクシーの運賃メーターは、230円から270円、310円と跳ね上がって行く。 その後も、又車に妨害されたりしながらも、何とか先行していた東急バスを追い抜いたので、次に停留所の所で良いからと三平は運転手に頼む。

山王下停留所でタクシーを降り、後からやって来たバスに乗り込んだ三平は、何も気づかず座席で新聞を読みふけっていた先ほどの客を確認してほくそ笑む。

溜池を過ぎ、特許庁前でその客が降りる様子を見せたので、にやりと笑って一緒に降りる事にした三平は、先に降りた相手の肩を叩いて、先ほどはどうもすいませんでした、目白で足を踏んだものです、すみません、ごきげんよう!と声をかける。

相手の客は、何が起こったか一瞬訳が分からないようで、怯えたように逃げ去ってゆく。

溜飲を下げ会社に着いた三平は、その顛末を中島には話すが、文子には話せないな、360円もタクシーに使ってしまったんだから…文句を言われるに違いないと又心の中で考える。

思わぬ散在で手持ちが少なくなった三平は、すぐさま係長(牧野狂介)の所へ行き、200円貸していただけないでしょうか?と頼み込む。

係長は快諾するが、君、風邪気味だったんじゃないのか?と言うので、すっかり直ってしまいました!何しろさっき…とつい余計な事を言いかけたので、口をつぐんで金だけ拝借する。

退社後、神田平和堂と言う靴屋で適当に運動靴を買って帰った三平だったが、それを受け取った春木は、喜ぶどころか、お父さん、大人のくせに選ぶの下手だね、この靴汚れているじゃないかと文句を言ってくる。

どうせすぐ汚れるんでしょう?と文子が横から弁護するが、注意力散漫だよと春木は言う。

すると文子が、この間注文した靴が今日出切るんじゃないの?と言い出したので、三平は夕食後、受け取りに行く事にする。

ところが、佐々木靴店で出来上がった靴を履いてみた所、ぶかぶかだったので文句を言うとした三平だったが、そこに銭湯から俊子が帰って来て、村上さんのご注文でお父さん一生懸命作りましたのよと話しかけて来たので、気の弱い三平は文句を言う事もできず、結構ですと言うと3000円払ってしまう。

三平はすぐさま、何、この靴!注意力散漫にもほどがあります!と叱る文子の顔が浮かんで来たので、帰宅後、まだ出来上がっていなかったかのように装い、そっと靴棚に持って来た靴を隠すと、翌朝、文子には気づかれないように持って出かける。

1500円を節約しようとして失敗したな…と悔やみながら、馴染みの新宿のウノキ靴店の主人(十朱久雄)に靴を見せると、これはいけませんね、どこでこしらえたんです?他の店で作るからこういう事になるんですとさんざん嫌みを言われる。

何とか小さくしてくださいと三平は泣きつくが、できなくはないですが形は悪くなりますよ、いっそ新しいのを作りませんか?女房と畳と靴は新しいものに限るって言うじゃありませんか!などと主人が言っていると、その古女房(沢村貞子)が出て来て、何ですって?今度そんなことを言ったら承知しませんからね!と主人を叱りつけた後、目白さんの言う通り小さくしてあげなさいなと言ってくれる。

費用はいかほど?と聞くと、勉強して1000円と主人が答えたので、いくらかかっても仕方ないか…と三平は心の中で反省する。

ある日曜日、三平は、古びた自宅のトタン屋根の修理をしていた。 隣のベランダから、隣の細川の奥さん(不忍鏡子)が話しかけて来たので、よっちゃん、具合どうです?などと屋根の上から声をかけた三平だったが、その時、下から文子が、あなた!大変よ!降りてらっしゃい!と呼びかけて来たので、何事かと?はしごを下りてみる。

文子ははがきを持っており、1万円当たったのよ!と言うではないか。 先日、マツオカ洋品店で書いた「96」番のネクタイが最高点を取ったので、その番号を選んだ人の中から抽選で三平に商品券が当たったのだと分かる。

今日は4月1日じゃないだろうな?と三平が言うので、もう5月ですよと文子が呆れると、まだ有頂天になるのは早いぞと言うと、あなた、疑り深いのねと文子は答える。

それでも三平は、こういうのはいたずらか間違いの可能性がある、政党の公約と同じだ、実現するまで信じちゃいかん…などと言っていた三平だったが、鼻をうごめかし、ご飯がこげてるんじゃないか!と言い出したので、慌てて台所へ上がり込もうとした文子は足をくじき、台所を見た途端、あなた、しっかりしてくださいよ!うち、ご飯なんて焚いてません!と怒る。 隣の匂いだったか…と三平はとぼける。

翌日、国鉄本社に行くと、実にけしからんな、今日は昼飯くらいおごってくれるんだろうな?などと中島が話しかけて来たので、訳を聞くと、名店街のマツオカ洋品店の店先に、君の名前がコンクールの当選者として書き出されていると言うではないか。

それを聞いた三平は、やっぱり本当だったのか、実は昨日通知をもらったばかりだから、本当かどうか信じかねていたんだよと言い訳し、君には何とかするが、他の人には宣伝しないでくれと中島に頼む。

その頃、着物を着た文子がいそいそと名店街の「マツオカ洋品店」にやって来て、当選者として貼り出されていた三平の名前を確認すると、うれしさを押さえながら、最新の折り畳み傘などを見て回り、女店員が勧めると、どうせ又参りますわと意味有りげなことを言って帰る。

その文子とすれ違うようにやって来たのが三平で、当選通知のはがきを差し出すと、受け取った女店員は、店の奥に座っていた主人(小川虎之助)に伝える。

主人は、女店員たち(北京子、山本緑、富川千恵子)を後ろに並ばせると、授賞式をその場で始める。

三平は畏まって商品券を受け取るが、気がつくと、入り口の所には大勢の見物客が見守っていたので驚く。

この当選の事はたちまち会社中に知れ渡り、みんなにごちそうしないと、家族に病人が出るそうだぞなどと会社に戻って来た三平はさんざん同僚たちからかわれることになる。

さらに、電話がかかって来たので三平が出ると、馴染みのうなぎ屋「福島」の女将(日野明子)からで、何気なく町を通っていたらショーウィンドに張ってある目白産のお名前を見つけたんですと言うので、お祝いをなさるときはぜひ当店でうなぎ上りで運が向くように!などと売り込んでくる。

三平は困った末、課長(宇佐美淳也)に商品券を2割で現金にしてもらえませんかと相談に行く。

課長は、全額で買い取っても良いが、家内に話して何とかするから、2、3日待ってくれと言う。

すっかりうれしくなった三平は、帰宅途中で女の子たちが縄跳びをしている中飛び入り参加したりする。

やがて、紙芝居を見ていた冬木を見つけたので、声をかける。

家に戻ると、待ちかねていた文子が、やっぱり本当だったわね、さっき「マツオカ洋品店」に行って見て来たのよと珍しく化粧をした顔で言うと、それよりもっと重要な問題があります。

今更過去を責める訳ではないけど、結婚以来、何も買ってくれませんわねと恨みがましい目で文子が言って来たので、サラリーマンは楽にならないと三平は気まずそうに言い訳する。

しかし文子は、もうお金の分け方は3:5:2の比率と決めています。私が5000円、子供が2000円…、もう買うものも決めてきましたと言い出す。

こうもり傘は2400円、折りたたみだとこれくらい出さないといくつか自分が買うものを言うと、子供たちの分として開襟シャツや下着類など数点並べるので、三平は当選が部屋の連中に知れ渡ったので交際はちゃんとやらないと、家族に病人が出るって言うんだと口を挟む。

家族を無視して交際も何もないわ!と文子は不機嫌になったので、もうちょっと待ってくれと三平が頼むと、松野は宜しいですが、私の買い物、お忘れにならないでねと文子は怖い目つきで釘を刺す。

しかし、数日後の昼休み、三平は同僚たちを連れて、うなぎ屋「福島」に来ると、いつもの5つと注文すると、並の150円のうな丼ですか?それは聞こえません、せめて上の300円のにしましょうよと女将が言うと、中島たちはそう願いたいねと賛成する。

お飲物は?と聞かれた三平が肝吸いをつけてと言うと、お飲物と言うのはお酒の事ですよと呆れたように女将が言うので、いや、まだ仕事があるから…と断ろうとするが、じゃあ、おビール3本!と買ってに女将は注文を入れる。

その後、塩煎餅を大量に注文し、それを部内の全員に配る事にするが、それでは納得しない連中が三平にたかって来たので、やむなく酒を付き合う事になる。

珍しく酔って目白駅に帰って来た三平を見た駅員は驚きながらも、今日はお祝いですか?宝くじ当たったそうですね、10万ですか?まさか100万じゃないでしょうねなどと聞いてくる。

翌朝、三平はいつものように、三人娘の喫茶店で一人無言でコーヒーを飲んでいた。

いつものように、三平が何も話さないので、三人娘も何も話しかけて来なかった。

その後、名店街の「マツオカ洋品店」に行き、主人に会った三平は、表に貼ってある名前を外していただけないだろうかと頼む。

訳を聞かれた三平は、知り合いが多いので、ごちそうしろ、一杯おごれとたかられ通しなんですよと説明するが、うちもあれは純然たる宣伝でやった事であり、騒がれれば騒がれるほど宣伝になる。

10日間くらいで外すつもりでいたが、そんなに知り合いが多いとなると、少なくとも20日くらいは掲示しておきましょうなどと主人は言い出す。

どうしてもダメでしょうか?と三平が聞いても、どうしても!と主人は聞かなかった。

三平が賞金を使い果たしてしまった事を知った文子は、自宅で無言の抗議を始める。

あなたってずいぶんひどい男ですね、賞金が全然ゼロではありませんか、内職でネクタイ編みしている私が可哀想じゃありませんか…と心で思いながら恨めしげな視線を三平に送ってくるので、怒って来られたら、私だって五割くらいは払うつもりだった事は分かって欲しいんだが、無言の抗議が一番辛いね…と三平も居心地悪そうに心の中でつぶやいていた。

そんな文子には頼みにくいので、ボタンの取れたワイシャツを自分で修繕しようとした三平だったが、それに気づいた文子が、そんな事私がやりますよと言い、さらに、ワイシャツ屋さんに修繕頼んどいたの届いたから着ていったら?と言うので、タンスの中身を確認すると、カラー部分だけ真っ白になったワイシャツが3つ届いていた。

私は、3枚のうち1枚潰して、2枚にしてくれと頼んだはずだが?と三平が怪訝そうに言うと、カラーだけ替えれば3着とも着られると思ってそうしてもらったんですよと文子は言う。

しかし、色あせたシャツと真っ白な襟がどうしても合わないと考えた三平が考え込んでいると、あなた以前、人に迷惑をかける事でなければ自分の考えを通せって言ってたじゃないですかと文子は言う。

困った三平は、白いカラーを染めれば良いんだ、このシャツの部分は紅茶みたいな色だから、紅茶で染めてみようと言い出し、自らエプロン姿になり、台所の鍋の湯で紅茶を煮出し、真っ白なカラー部分だけを染めて、物干し台に干しておく事にする。

翌朝、まだ熟睡していた三平は、大変ですよ、ちょっとごらんなさい!と呼びかける文子の声で起こされる。

物干を見てみると、夕べ干しておいたワイシャツ全部のカラーから肩にかけてが斑に染まっており、とても外に着ていかれるものではなくなっていた。

こんな事なさらなければ、まだ着られましたのに!と文子が残念そうに言うので、もうこうなったら真っ黒に染めるしかないねと三平が言うと、お勤めには止めてくださいね、黒シャツなんて下品だわと文子は反対する。

その日の夜、また鍋で染料を溶き、シャツを全部染めて物干し台にかけた三平だったが、翌朝、また、文雄この大変ですよ!と言う声で叩き起こされてしまう。

木綿だとばかり思っていたワイシャツに動物性の糸が混じっていたらしく、絣のようになっていたのだった。 家で着れば良いよ、絣なんて風流じゃないかと三平は負け惜しみを言う。

そんなある晩、又やって来た村上が、舞踊会のチケットがあるので行かないか?坂東流の日本舞踊で、良かったら奥さんもたまには…などと誘いにくる。

それを聞いた春木と冬木も行きたいと言い出したので、錦之助や千代之介じゃないのよ!と叱ると、その東千代之介も出るんですよ、子供さんたちのチケットの方は何とかしますからと村上は言う。

いよいよ舞踊会観覧の日、天気予報を文子が聞くと、新聞の天気欄を見ていた三平が、山沿いににわか雨とあるねと教えると、山沿いの雨はこちらも降る事もありますからねと言うと、いつものように雨漏り用の洗面器を部屋の各所に置いて行きながら、あなたの修繕は当てになりませんからねと嫌みを言う。

そして、今日は新しい靴を履いて行くんでしょう?3000円にしては良い皮だわと文子が言うので、不承不承、修繕した靴を履いて表に出た三平だったが、何故か歩くたびにギューギュー音が鳴る事に気づく。

それに気づいた文子は、昔は靴が鳴るのは上等だったんですって、父がそう言ってましたわとお世辞を言う。

久々の家族でのお出かけに、兄弟二人は手をつないでお手手〜つないで〜♩と大きな声で歌いながら歩くので、あんまり大きな声で歌うんじゃありません!と文子が注意する。

まだ劇の開始まで時間があったのでデパート見物をする事にした三平だったが、お母さんがいなくなったと子供たちが言うので周囲を見回すと、文子は折り畳み傘を物欲しそうに見ていた。

やがて、今度はお父さんがいないと子供たちが言うので周囲を見回すと、三平は小型扇風機を見ていた。

その後、今度は兄弟二人の姿が見えなくなるが、自転車売り場で展示してある自転車を二人が漕いでいるのを見つける。

春木は共同で良いから1台買ってよとねだると、冬木も、僕だって貯金200円出すよなどと口を揃える。

しかし三平は、これ8000円もするんだぞと教えると、月給いくらなの?と春木は聞いてくる。

答えに窮した三平は、食堂に行って何か食べようか?とごまかす。

食堂で、子供たちに御子様ランチが運ばれて来た時、窓を見やった文子が、ほら、曇って来たでしょうと言い出す。

劇場にやって来た三平だったが、すでに演劇が始まっており、満場が静まり返る中、自分の靴がギューギューうるさく鳴るので、いたたまれなくなり、とうとう途中で脱いで席に向かう。

一幕目が終わったので、目白さん!と村上と敏子が声をかけてくる。

この間はありがとうございましたと敏子が礼を言って来たので、佐々木靴店のと三平は隣の敏子に教える。

村上さんが次々とお客さんを紹介してくださるので助かっていますと敏子は言い、ちょっと廊下に出ませんか?と村上は誘うが、今来た所だからと三平は遠慮する。

廊下に向かった二人を見ながら、しゃくね、一緒に歩いてきゅーきゅー鳴らせば良いのにと文子は靴のことを言う。 一方、そんなことを言われているとはつゆとも思っていない敏子は、お子さんたちに何か買って行きましょうか?いずれあの方達に頼むんでしょう?と言うので、チョコ買おうか?三つで百円くらいのと村上も答える。

次の舞台では、東千代之介が舞い始める。

舞台には透明な糸が雨のように張ってあるので、雨の五郎と言うんだろうと三平が言うと、歴史上の人?と春木が聞き、曽我の五郎でしょう?と文子が訂正する。

敏子は板チョコを割って、村上に渡していた。

一方、村上から板チョコをもらった冬木と春木もそれをかじりながら見ていたが、冬木は舞台上の踊りが退屈らしく、あの人、良い人?悪い人?と聞くが、春木もさあ?と答えるだけだった。 その後も、強いの?弱いの?と冬木が聞くので、強いんだろと春木は適当に答える。 村上も、曽我の五郎が雨の中で踊っているんだよと平凡な事を敏子に教えていた。 じゃあ「雨に唄えば」ね!と敏子はうれしそうに答える。

雨が降ってても大丈夫だね、洗面器置いて来たから!と冬木は春木に話しかける。

土曜日の国鉄本社

急に暑くなって来たねと中島がぼやくと、だれて仕事にならんね、明日家でやろうと三平が言い出したので、日曜に仕事なんて熱心ですねと中島が感心すると、いやそれが、うちだけトタン屋根だろ?両側の家は瓦屋根なので、板塀が両方に立っているような状態なんだよと三平は説明し出す。

僕の部屋は道側の三畳の部屋なんで猛烈に暑くなるんだ。小型扇風機を買おうと思っていて、去年から貯めた金が6500円になったんだと言う。

退社後、三平は早速東芝の直営店に行き、小型扇風機を見ていると、店員(杉義一)が出て来て、東芝製品の優秀さを説明するので、6700円と言うのは高い、東芝の直営店なんだから少し負けて6500円だとうれしいんだがねと三平が値切ると、それをやると他の小売店やデパートさんに叱られますと言う。

東芝製品は他社のより全体的に少し高いようだが?と三平が指摘すると、良くご存知で!うちのが発売するのを見て他社は安く売り始めるので、それを見てもいかに我が社の製品が注目されているかがお分かりでしょうと店員はセールストークをしてくる。

翌日の日曜日、道に面した窓際の三畳の部屋で仕事をしていた三平だが、そこにくず屋が来たので、ミシンを踏んでいた文子に伝えると、」今日華にもないと言うので、そうくず屋に伝える。

そこに、冬木がかりんとうを3本持って来たのでかじってみる。

すると今度は魚屋が来たので、文子はお勝手の方に回ってもらって!と言いかけるが、ちょっと考え、今日はお魚は止めましょうと言うので、そう魚屋に伝える。

三平はそんな文子に、小型扇風機を買おうと思うんだが…と切り出すと、まさか本気じゃないでしょうね?と文子が言うので、お前に金の心配はかけないよと声を掛けると、また何か当たったんじゃないでしょうね?と文子は聞いてくる。

貯金だよと三平が言うと、小遣いを貯められたと言う事は、普段のお小遣いが多すぎると言う事ねと文子は言い出す。

10ヶ月もコツコツ貯めて来たんだよと言うと、いくらになったの?と聞くので6500円と正直に答えると、あらありがたいわ!と喜んだ文子は、扇風機なんて夏だけでしょう?1年中使えるものを買いましょうと言い出し、もう何年となくここで過ごして来たんじゃないですか!と三平の言い分を拒否する。

畳表を替えましょう、もうこんなにぼろぼろですからと言い出した文子は、備後表、備中表、四国表などと銘柄ごとの値段を言い、備中表くらいかしら?でもそれだと9000円かかるわ、じゃあ、御座にしましょう。そして残りはお勝手の流しに使いましょう。

前はブリキのを買ったのですぐダメになりましたから、今度はタイルばりを買いましょう、それでちょうど6500円になるわ!と勝手に決めてしまう。

三平は何も言わず、貯金の6500円を文子に渡さざるを得なかった。

御座を敷くために、その後、村上も手伝い、一家総出で家具の移動を始める。 その後、村上にはキュウリもみのおつまみにビールを1本を振る舞う事にする。

すっかり上機嫌になった村上は、これでさーっと雨でも降ってくれれば涼しくなるんですが…と言うと、嫌な事言うなよ、うちでは家の中に雨が降るんだと三平は言う。

そんな三平に、またお願いがあるんですが…と村上が言い出し、今度はほとんどお金に関係ありません、仲人をお願いしたいんですと言い出す。

それを聞いた文子が、やっぱりそうだったの…と笑顔になると、何?仲人って?と春木が来てくる。 それを無視した文子が、いつなの?結婚式…と聞くと、まだ日は決めてないんです、その時はお願いしますと言う事で…と村上は言う。

我々も仲人をする年になったかと愕然としたんだよ…と三平が言うと、もう13年になりますねと文子も結婚の日々の事を思い出し、式はどこにやるの?と聞く。 まだ決めてないんですが、簡単にすまそうと思ってるんですと村上が答えると、結婚式は簡単じゃない方が良いわよ、貸衣装でも良いから、写真くらい撮っておかないと…、私たち、写真撮らなかったのよと文子は言う。

この人は国民服で私はもんぺ姿、三三九度の最中に空襲警報が鳴り出したので逃げ出したのよ。私たちも貸衣装借りて、結婚写真撮りましょうか?と文子が言うと、仲人の写真で我慢しようと三平もしみじみとした口調で答える。

あなた…と言いながら、三平の肩のふけを払い落とす文子に、おめでたいね、喜んで仲人をやらせてもらうよと三平も答える。

その時、夕立が降り出したので、おじちゃんがあんな事言うからだよと冬木が言う。

もうトタン屋根がすっかり腐っちゃっているからね…と三平もつぶやく。

次の日曜日、また、屋根の修繕をしに屋根の上に登っていた三平に、その黒いシャツ、とっても粋ですこと!と隣の細川の奥さんが声をかけてくる。

あの染めるのに失敗したシャツだった。

家の前の広場では冬木たちが遊んでいる。

私の祈りは、仕事をすることが人の幸福になること、それが自分お幸せにつながるように… 仕事があって、愉快に毎日が過ごせる事 みんなが健康で働き、家族で夕餉を食べる事ができる事… そんな職場であって欲しい…

三平が校正した詩が乗った機関誌「国鉄」を職場で読む国鉄職員たちの姿 鯉のぼりが遠くに見えるトタン屋根の上で、三平は煙草をくわえ、一服するのだった。
 


 

 

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