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落語長屋は花ざかりより 大笑い大福帳

 

「落語シリーズ 第一話 落語長屋は花ざかり」と題され作られた91分の作品を38分にした改題短縮版。

元々は「寝床」「花色木綿」「厩火事」「たらちね」「心眼」「にらみ返し」などの落語ネタを元にした話らしいが、本作では「心眼」と「たらちね」をベースにした話の部分が残っている。

按摩の杢市が噂を聞く、越後屋の息子と娘が火事の晩に家を飛び出したきり帰らないと言うのは、元々の映画の前半部分にあるエピソードのようだ。

森繁が按摩を演じている前半部分は、女房役を演じている笠置シヅ子さんのことを堂々と「まずい面」などと言ってしまっている所が面白い。

やはり鶴瓶師匠に似ていると言われる笠置さんのことは、当時から美人扱いされていた訳ではないと言うことが分かる。

後半のエノケンとロッパが登場する「たらちね」のエピソードの方は、話自体が短すぎることもあり、正直あまり面白くない。

エノケンが歌うシーンがちょっと楽しいくらいだろうか。

さすがに元映画の半分以下の分量では面白くなろうはずもないが、途中に挿入されている落語家としての柳家金語楼の話芸などは今聞いてもそれなりに楽しめる。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1954年、東宝、井手俊郎脚本、青柳信雄監督作品。

第一話 (現代)落語家として舞台に座っている柳家金語楼が話し始める。

今日のお客様は東宝御贔屓の男女ばかりで…などと枕話が始まる。

目にもいろいろな呼び方がございましてな、色目、欲目、ひんがら目…は良くありませんが、女の目は申し分ない…

目は人間の眼なりと申しますからね、最近はおメ○ラさんも学がある。 本来勘もあるのでいろいろなことが出来るようです。

髪のことはあまり言いたくないんですが… 床屋のことは昔、男の方は髪結床と申しまして、女の方は髪結いさんとか呼んでおりましたそうで… 今は、御飯蒸しみたいなものに入ってパーマをなさる方が多いようですが、昔の髪結いさんは姿が良かった。

鬢かきと言うのでしょうか?洋食屋のフォークみたいな形の木で出来たものを髪に挿したりしてね、ご近所を回っていたそうです。

その日も一件の家にやって来た髪結いさんが、戸をがらがらっと…

(過去)姉さん!と玄関口で声をかけたのは、髪結いのお美代(三益愛子)。

家の中では、芸者の小春(浜田百合子)が按摩の杢市(森繁久彌)に肩をもませていた。 おや、お美代 さんですか?と声で杢市が気づくと、勝手知ったる他人の家とばかり、お美代は勝手に上がって来る。 小雪は、やっぱり按摩さんも良い男の方が良いわなどと言うので、杢市さんは良い男っぷりですものねとお美代も調子を合わせる。

それを聞いた杢市は、うれしそうな顔になりながらも、人をおもちゃにしちゃいけませんなどと笑う。

しかし小春は、良い男と言うのは、険があったり嫌みがあるものだけど、もし杢市さんの目が開いていたらうっちゃっておかないよ、一苦労も蓋苦労もしてみたいもんだね…などと言うので、汗を拭きながら按摩を終えた杢市は、座敷の隅に下がり、一服させてもらいますと言い、にこやかにキセルでタバコを吸い始める。

お美代に髪を手直ししてもらい出した小春は、お美代さんのご亭主も良い男らしいわね?と世辞を言う。

正月、杢市は近所の薬師様にお参りに行く。 それに気づいた伊勢屋の大家のおかみさんが声を掛けると、明けましておめでとうございますと杢市は挨拶をし、今日から3、7、21日信心して、御利益でこの目を直してもらえないかと思いまして…と説明すると、お薬師さんも聞いてくれると思うよとおかみも答える。

生きているうちに女房の顔を見てみたいので…と杢市は言う。

杢市は、越後屋の息子宗之助と娘のお花が火事の晩に飛び出していまだに帰らないと言う話をおかみから聞く。

家に帰り着き、女房のお里(笠置シヅ子)から肩をもんでもらいながら、越後屋のお花さんが飛び出して帰って来ないそうだよと、今聞いたばかりの話を話して聞かせる。

気の良いお里は、今日はあったかい正月だったねなどとうれしそうに答える。

いよいよ、杢市の願掛け21日目の満願の日でございます…

薬師様に来た杢市は、私の目、直らないんですね?こうなりゃ一思いに殺しちゃってください!と賽銭箱の前で訴えるが、次の瞬間、今まで閉じていた両のまぶたが開き、目が見えるようになる。

あ、開いた!目が開いた!と喜ぶ杢市に声をかけて来たのは、大通りの越後屋(山田巳之助)だった。

ああ、お花さんの!と杢市が言うと、気になってね…、しかし信心なんてするもんですねと、目が開いた杢市を見て越後屋は感心する。

お薬師様、後でお里がこのお礼に参りますと礼を言った杢市は、改めて越後屋の顔をまじまじと見て、あなたはそう云う顔ですか…、案外大したことない…などと無遠慮に言う。

そのくせ、目が見えるのには慣れないものですから浜町まで連れて行ってくださいと越後屋に頼み、笛を口にくわえ、杖をつこうとするので、それに気づいた越後屋が、目が相手杖つくのはおかしいよと指摘する。

杢市もその通りだと気づくと、笛をその場に投げ捨て、杖も捨てようとするが、この杖は長い間世話になったので、家に帰ってお祭りしましょうと言う。

その直後、杢市は、向こうから来る人はどう言う人です?と聞くので、越後屋がありゃ芸者だよと教えると、うちのお里かと思ったと杢市が言うので、あれは何の某と言う一流の芸者だと越後屋は呆れたように言う。

うちのお里とどっちが良い女でしょうかね?などと杢市が聞くので、よそうよ、そんな話…と越後屋は一旦は話をそらそうとするが、杢市がどうしても聞きたがるので、仕方なく、近所でも評判のまずい女だよと教えてやる。

それを聞いた杢市は、そんなまずい女とは知らず、長い間夫婦してるなんて情けないものですね…と杢市が落ち込んだので、人間心立てが悪かったら何にもならない。

心立てならお里さんは日本でも何人と言う良い女だと越後屋は慰める。 やがて2人はにぎやかな縁日をやっている場所にやって来る。

そんな中、あれ、あんな所から人間が出てきましたよ!と杢市が驚くが、それは商品として並べてあった鏡だと越後屋は教える。

鏡と知った杢市は、鏡に映る自分の顔をまじまじと見て、私ねえ、へえ〜…、良い男だね〜と自画自賛した上に、これがあんただ…と鏡に一緒に映る越後屋の顔を見て、まずい面だねとバカにする。

それに怒ったのか、気がつくと越後屋の姿はなかった。 その時、もし、市さんじゃないの!と声をかけて来たのは春木屋の小春だった。

目で見るだけでは分からなかった杢市は、相手の腕をもんでみて、小春姉さんだ!と気がつく。

目が開いたんだね!と小春が驚くので、さっき、今さっきぱっと!と杢市が教えると、家へおいでよと小春は誘う。

小春の家のこたつに入り酒をごちそうになる杢市だったが、酒に弱いので、お猪口二杯で遠慮し、汁碗を啜る。

汁の中に魚が入っていることを知ると、家なんかいつも菜っ葉か豆腐ばかり、たまに入っていても出汁雑魚ばかり…などと愚痴を言う。

その時、いつかあんたをうっちゃっておかないと言ったの覚えてる?でもお前さんには立派なおかみさんがいるからね…と小春がにじり寄って来たので、家内なんか、あんなまずい顔のおかみと一緒にいられませんよ!などと杢市はつい言ってしまう。

すると小春が、じゃあ、私を女房にしておくれでないかい?と迫って来たので、本当ですか?うちのおかみなんか叩き出してしまいますよと杢市は答える。

その時、ふすまが開き部屋に入って来たのはお里だった! お前さん!と言いながら杢市の首を絞めて来る。

お前さん! 夢から醒めた杢市が、お前、お里じゃないか!と言うと、怖い夢でも見たのかい?初夢なのに良くない夢でも見たのかい?とお里は案じて聞く。

今日も御薬師さんお参りするだろう?とお里が聞くので、もう止めたよ、メ○ラって者は妙なもので、寝ているときは良く見える…と杢市は言う。

(現在)又高座の金語楼が話し始める。

卦痕式にも色々ありまして、仏式結婚はお経のようなものを読むそうで… あちらの結婚式は、バイブルを広げ、汝と汝は今何時?と時間のことばかり気にしているとか…

(過去)伊勢屋宗右衛門(古川緑波)は、呼んだ大工の八五郎(榎本健一)が、遅くなりまして…と詫びながらやって来ると、耳寄りな話がある。見つかっちまったんだよと言うので、何か失せ物でも?と八五郎が聞くと、嫁が見つかったんだよと言うので、誰の?と聞き返すと、お前さんの嫁が見つかったんだよ。

長屋を独身に貸していると、とかく汚しがちだからなと伊勢屋が言うので、でも何でしょう?どうせあっしの所へ来る嫁なんてろくなもんじゃないんでしょうね〜と八五郎は不安そうに聞き返す。

すると伊勢屋は、器量は十人並み、麹町のさるお屋敷に奉公していたんだと言うので、さる?と八五郎は驚く。

そうじゃない、どこそこと教えられないから、さると言っているんだ。 気だては優しくて、お前のような長屋住まいにはもったいないくらいだ…、ただ一つだけ玉に傷があるんだと伊勢屋が言い出したので、そら来た!話が巧すぎると思ったんだ、あれでしょう?夜中こう、首がにゅーっと伸びて…と八五郎が聞く。

ろくろっ首じゃないと伊勢屋が否定すると、じゃあ、あれでしょう?耳がこうピンと立って、あんどんの油ぺろぺろって…と八五郎が言うので、そりゃ化け猫じゃないか!と伊勢屋は呆れ、言葉が丁寧すぎるんだよ。京都のお公家さんのやんごとない血筋を引いているんだと打ち明ける。

そんなの、あっしと暮らしているうちにぞんざいになりますよと八五郎が言うので、では善は急げだ、式はいつにする?と伊勢屋は言い出す。

すっかりうれしくなった八五郎は、長屋の部屋に戻る途中、通りかかった職人に、嫁もらうんだってね?と聞き、誰が?と聞かれると、俺だよ、おめでとう!などと自分で挨拶する。(ウエディングマーチのメロディ)

長屋の井戸端に集まっていたおかみたちは、うれしそうに帰って来た八五郎を見てみんなあっけにとられる。

金次郎(沢村宗之助)や与太郎(大村千吉)が八五郎の部屋の入り口から中を覗き込むと、部屋に座り込んだ八五郎は、俺と嫁が差し向かいで飯を食うようになりゃ、俺の箸は太いし、嫁の箸は細い…などと独り言を言っているではないか。

俺が茶漬けをザクザクっとかき込み、沢庵をバリバリ!さくさくっと食べりゃ、嫁は、お茶漬けをチンチロリンっと食べ、沢庵を前歯でポリポリッと食べるんだろうな…などと人値妄想にふけっていた八五郎は突然歌を歌い出す。

ザッザックのバーリバリ!チンチロリンのサークサク♩と陽気に歌う八五郎。

やがて、式の日が訪れ、長屋に花嫁姿の新妻千代女(久慈あさみ)と羽織袴姿の八五郎がやって来る。(高砂やを現代風にしたメロディ)

ようやく2人きりになった八五郎は、お前さんの名前をまだ聞いちゃいなかった。お名前を伺いたいんだが…と照れくさそうに聞く。

すると千代女は、自らの姓名を問い賜うか?と言うので八五郎はあっけにとられ、もう一度、いやね…、お前さんのお名前を…と聞くと、又、自らの姓名を問い賜うか?と聞き返して来た千代女は、父は元京都の産にして、姓は安藤、名は慶三。あだ名を五光。母は千代女と申せしが、三十三歳の折、ある夜、丹頂の夢をみて孕めるが故に、たらちねの胎内を出し時は鶴女と申せしが、これは幼名…、成長の後これを改め「清女」と申しはべるなり…と答える。

それが全部名前?と驚いた八五郎だったが、我の系図がこれに…、よろしくこれを読まるべし…と千代女は書状を渡す。

それを開いてみた八五郎は仮名が振ってあったので、こりゃ読みやすいやと喜び、父は元京都の産にして、姓は安藤、名は慶三。あだ名を五光。母は千代女と申せしが、三十三歳の折、ある夜、丹頂の夢をみて孕めるが故に、たらちねの胎内を出し時は鶴女と申せしが、これは幼名…、成長の後これを改め「清女」と申しはべるなり…と同じ事を読み上げ、まるでこりゃお経だよ…と驚く。

ある朝、天秤棒を担いだ荷売りが長屋にやって来たので、門前に市なすおのこ!おのこやおのこ!と千代女が声を掛けるが、言われた荷売りはきょとんとする。

その白根草一掴み何文銭なるや?と聞かれた荷売りは、ようやく自分がうっているネギのことを聞いているのだと気づき、32文と答える。

すると千代女は、召すや召さぬや、わが君にうかがう間、門前にひかえておれと言って部屋の中に引っ込んだので、門前?門なんてねえじゃないか?と周囲を見回した荷売りは、長屋の門に気づき、その下に正座をして待つことにする。

部屋の中でまだ寝ていた八五郎の側に来た千代女、あ〜ら我が君!白根草を一つかせ、購い求むるべきや又否や?と聞くので、金なら火鉢の中に入っているからどんどん使ってくれよ!と面倒くさそうに答える。

そんなある晩、近所に火事が起きる。 すると千代女が、あ〜ら我が君、夕餉の支度整えし折、にわかに聞こえるあの鐘の音は?と聞いて来たので、鐘の音?あ!ありゃ、火事の半鐘だ!と気づいて飛び上がった八五郎は。

すぐさま火事を見に行こうと出て行きかけるが、いずこへ向いたる所存なるや?あ〜ら我が君!火事と喧嘩は江戸の華と申せしことは存ぜども、妾を1人残して行かれるのなら別れの水杯を…と千代女が止める。

やむなく、水杯を交わすことにした八五郎だったが、千代女がお流れ頂戴つかまつる…などとのんびり言っているので、火事を早く見に行きたい八五郎は、焦れってえな!と苛つく。

(現在)「たらちね」と言うお笑いでございましたと柳家金語楼が挨拶する。
 


 

 

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