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幻想館

 

男と男の生きる街

 

石原裕次郎主演の事件記者もの

加藤武さんが、その裕次郎さんと過去に因縁がある刑事を演じている。

裕次郎さんが「西武警察」のように大爆発を背景に大ジャンプをして地面に身を伏せるシーンなどがあったり、夕日や朝日のシーンが挿入されているので、後年のTVドラマ「太陽にほえろ!」など石原プロ作品を連想させる展開になっている。

実際、この作品には、高品格さんとか井上昭文さんのような、後年「西武警察」でベテラン刑事を勤める俳優さんもちゃんと出ている。

日活映画としては、長門勇さんが出ているのがちょっと珍しいかもしれない。

ミステリとして出来が良いか?と言われれば、若干首を傾げざるを得ない部分もあるが、通俗ミステリとしては良く出来ていると思う。

「事件記者」の山田吾一さんが裕次郎さんの相棒のような記者役を演じているが、あまり目立ってはいない。

謎めいた女を渡辺美佐子さん、被害者の妹役を芦川いづみさん、裕次郎さんの姉役を南田洋子さんがそれぞれ演じている。

正直な所、この手の映画を演じる裕次郎さんの芝居があまり巧いとは言えない…と言うか、あまりキャラクターに合ってないために、見ていて微妙に居心地の悪さは感じるのだが、話がそれなりにとんとんと進むので、退屈するようなことはない。

この時期の加藤武さんがあまりに刑事役にぴったりなので、裕次郎さんの方のミスマッチ感を補っているようにも思える。

娯楽映画としてはまずまずと言った所ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1962年、日活、熊井啓脚本 、 舛田利雄脚本+監督作品。

大阪城の空撮をバックにタイトル

毎朝新聞社のビルの入り口から編集局へ昇るエレベーターなどを背景にキャスト、スタッフロール

社会部記者岩崎捷夫(石原裕次郎)は、3年振りに取れたまとまった休暇を利用し山登りをする準備をしていたので、沖山(高原駿雄)ら同僚たちが色々冷やかす。

その時、電話に出た下里(山田吾一)は、聞こえないよ!もっと大きな声で!とわざとらしく大声を張り上げ、殺し!西成?と、ちょうど出前のカレーを食い始めた岩崎に聞こえよがしに叫ぶ。 その罠にまんまと引っかかり、記者魂をかき立てられた岩崎は下里と共に現場に向かうことになる。

現場では、主任刑事の北川始(加藤武)が、殺されたガイシャ(英原穣二)が絵描きと言うにしては何も作品がないな?と不思議がっていた。 鑑識はガイシャのものとは別の毛髪を3本採取していた。

現場には既に他社の記者たちも集まっており、ガイシャの名前は朝倉富雄、毎日ただぶらぶらしていただけだったようで、たまに若い男が出入りしていた他は、女が2回訪ねて来ていたらしいと聞き込み情報を岩崎と下里に教える。

そのとき、警察が表に出て来たのか、記者たちがどっとアパートの入り口付近に殺到する。

そんな中、岩崎は、地面に落ちていた黒い女性用手袋に気づき拾い上げると、側にいた黒衣の女性のものだと気づき手渡す。

その直後、アパートの中に真っ先になだれ込んだ岩崎は、現場の部屋から出て来た北川に、動機は怨恨か痴情か?などと聞こうとするが、好きに書くさ、俺は単なる聞き込みや…と言って外に出ると車で去ってしまう。

北川はその直後、現場近くでオートバイに乗っていた所、いきなり左手で殴って来た男にバイクを盗まれ、釜ヶ崎の入り口付近まで追って行ったが見失ったと言う男から事情を聞く。 北川は、犯人は左利きか…とつぶやく。

その会話を、北川の車を尾行して来た岩崎が物陰で聞いており、あっちが機動力ならこっちはぽんこつ屋に絞って行こう!と下里に言う。

その後、釜ヶ崎に聞き込みに来た北川は、さっきもオートバイ探しに来ましたぜ、通天閣みたいに背の高い奴やと住民が言うので、北川はすぐに誰のことか察する。

その後、北川は、住民から、たかが記者やないか!警察呼ぶで!とオートバイ屋の小僧(神戸瓢介)から、逆に因縁をつけられていた岩崎と下里を発見する。

オートバイ屋の小僧は、さすがに北川が来ると素直になり、オートバイに乗って来たのは松丸と言う22、3の男で、この辺にはちょくちょく顔を見せ、小銭を持っているようだった。

近くの小屋で踊っているストリッパーに馴染みがおるらしいとすらすらと教える。

その後、すぐに近くのストリップ小屋にふらりとやって来た松丸(平田大三郎)は、張っていた北川らに気づき、楽屋へ逃げ込むが、大立ち回りの末、逮捕される。

松丸は、違う!俺がやったんじゃない!とわめきながら連行されて行くが、その様子を側で見ていた岩崎は、明日の朝、特ダネだなと話しかけて来た北川に、何か感じが違う、目が…と答えたので、迷ったらあかん!まっすぐ行くんや!と北川は言い残して去って行く。

翌朝、毎朝新聞は「釜ヶ崎で逮捕!」と言う見出しで他社を完全に抜くが、なぜか浮かぬ顔の岩崎に、何で、岩さん、山行き止めたんや?と下里は聞く。

局長賞やと沖山が金一封の包みを岩崎に岩崎に渡した直後、学芸部の連中がやって来て、被害者の朝倉の身元が分かった!フランスに渡り、半年で消息が消えた画家で、実家は西陣や!と言う。

その頃、捕まった松丸は、北側たちの執拗な尋問を受けていた。

眠いよ!寝かせてくれよ!と松丸は訴えていたが、お前が廊下に出たの見たもんがいるんだぞ!あのとき、朝倉に何の話持ち込んだ?金か?女か?女や!と北川は容赦なかった。

違う!と松丸は否定するが、あの部屋を出入りしてたの、お前と女だけや!と北川は攻める。

岩崎は下里の車で西陣に来ていた。 岩崎は道を歩いていた黒服の女に目をつけ、車を降りると、あの女をつけてくれ!後で駅前広場で会おう!と下里に頼む。

一軒の店に入った岩崎は、不景気風が吹いていて、西陣もいつまで続くやら…などと応対に出て来た朝倉和枝(芦川いづみ)に、毎朝新聞の物ですと岩崎が名乗ると、毎日呼んでますと言うので、西成の殺人事件読まれたでしょうが、朝倉富雄はあなたのお兄さんです、今朝、学芸部が調べまして…、御気の毒様でした…と伝えると、急に奥へ駆け込んで泣き崩れる。

事件の背後を突き止め、多くに人に真実を伝えたいのです!と岩崎が訴えると、和枝は少しずつ兄のことを話し出す。

去年の冬、神戸で兄を見かけたと言う人がいますと和枝が言うので、船の名は?と聞くと、日東海運の広洋丸と和枝は答える。

フランスでは何を?と聞くと、手紙もくれず何をしていたのかは分かりませんと和枝は言うので、絵を見せてもらえないでしょうか?と頼むと、スケッチしかあらしまへん…と言いながら、タンスの戸棚を探し出した和枝は、スケッチブックと日記を取り出しかけ、そのスケッチブックの方だけを岩崎に見せる。

ぱらぱらとスケッチブックをめくっていた岩崎は、一枚の写真が落ちたのに気づく。

和枝もそれに気づいて慌てたようだったが、拾い上げて良く見ると、それは朝倉とあの黒衣の女がパリで写したツーショット写真だった。

その頃、その黒衣の女千野冴子(渡辺美佐子)は、コンパクトの鏡で、自分を尾行している下里に気づいていた。

駅前広場にやって来た岩崎を迎えた下里は、神戸行きのホームでまかれてしまった!これは、松丸と被害者と女の三角関係かもなどと伝える。

その頃、取調中の松丸は、西成のストリッパー、芸者、ジャズシンガー、今度はモデルか!どこにいるんだ女は!事件と関係あるのか?と北川から詰め寄られていた。

ありません…と松丸が答えると、お前が言わんでも、警察は女を捜し出し、全部吐かす!と北川が怒鳴りつけると、急に顔を歪めた松丸は机に突っ伏し号泣すると、俺だ!俺がやったんだ!と自供する。

この結果を記者発表で捜査一課長(天草四郎)から聞いた岩崎は、自白の信憑性は?凶器のメスの出所は?などと矛盾点を追求する。

すると、一緒に参加していた北川が、現場に残っていたタバコに付着した唾液と容疑者の血液型が一致したと言うので、3本の毛髪は?女も髪の毛のこともメスのことも、真相が知りたいんですよ!と岩崎はさらに追求するが、他社の記者は、発表の内容だけで十分だと感じたのかそそくさと退散して行く。

そんな中、最後まで部屋に残った岩崎は、北川さん、話があるんだが…と伝えると、捜査一課の部屋に連れて行かれる。 岩崎は、パリで撮った朝倉と謎の女のツーショット写真を北川に見せ、朝倉の家に来ていました。背景に何かあると思うと伝える。

しかし北川は、君たちは大げさに騒ぎすぎる。捜査はもっと一つ一つ確実にするものだ。松丸がやったと言うのは真実や、君らはそれを書けば良いんやと苦言を呈する。

松丸は悪党や!とまで言う北川に対し、あなたは憎しみをかき立てているように思うと岩崎が指摘すると、あんた、まだあん時のことを根に持っているのか?と北川は聞いて来る。

以前、癒えに来ていた頃は違った。兄貴みたいに感じてたんだと岩崎が言うと、確かに俺は、5年前の冬以来変わったかも知れん…、ベテランの岩崎さんと一緒に大規模な密輸組織を追って神戸に岡野を追っていた。

(回想)野球場の観客席に岡野を追いつめた岩崎警部(稲葉義男)と北川だったが、発砲して来た岡野の銃弾を足に受けた北川はその場に倒れ込む。

結果、1人で岡野に迫って行った岩崎警部を援護しようと懸命に発砲した北川だったが、次の瞬間倒れたのは岩崎警部だった。

岩崎警部は背中から弾が貫通しており、北川の銃弾が命中したとしか思えなかった。

(回想明け)久しぶりに、自宅のレストランに帰ってみた岩崎は、手作りの料理を姉の恵美(南田洋子)に振る舞う。

何日振りかしら、一緒にご飯食べるの…と恵美が喜んだので、どう?結婚でもしたら?誰か良い人いないの?などと岩崎はからかう。

昔、今日も一日無事でしたって両親がしていたようにビールで乾杯すると、老けたな…姉さんと岩崎は案ずる。

私ももう30過ぎよと恵美が言うと、姉さんをこんな風にしたのは俺なんだ。普通だったらサラリーマンの奥さんになってたかもしれないのに…、親爺があんな風に死んだからだ!と岩崎は嘆く。

すると恵美は急に、私結婚するわよ!と言い出したので、独身を通すのかと思っていたのに!と岩崎は驚き、良い人?誰?と聞くと、恵美は、北川さんと答える。

それを聞いた岩崎は驚き、どうして教えてくれなかったんだ!北川さんってあの北川さん?と聞くと、北川さんもあなたのこと気にしてるのよと恵美は答える。

岩崎は、「現職警官射殺さる」と言う当時の新聞記事を思い出す。

気分を変えた岩崎は、明日久しぶりに神戸に行くんだ。広洋丸を調べに行くんだと言うと、聞いたことある…、お父さん良く言ってた、あの事件があった頃…と恵美が思い出したので、親爺が?と岩崎は驚く。

神戸 港南警察署 下里と共に署を訪れた岩崎は、担当刑事竹内(河上信夫)から「広洋丸捜査記録」を読ませてもらう。

当時、密輸されていたのはカナダ製の小児まひの薬やフランス製の貴金属、品物は欧米中心でした。 密輸は普通、麻薬から足がつくものですがそれがない。そして3年前からぱったり出なくなった。相手は知能犯ですよと竹内は言う。

そのとき、過去の資料の中に、父「岩崎静男」の「反省記」と表紙に書かれたノートを見つける。

お父さんは熱心な方で、いつも事件の反省を書かれておりましたと竹内が言う中、中に目を通すと、1月12日、ブローカーの岡野に聞いた神戸ホテルに行った…と書かれていた。

(回想)岩崎警部と共にホテルの受け付けに来た北川は617番と告げる。

受付を離れると、すぐに神津(長門勇)が内線電話を取りに受付にやって来たので、北川はその男に注目する。

617号室にいた岡野(井上昭文)は、受付の神津に、ポリや!と内線で警告すると、窓から何かを捨てる。

外に出て待ち受けていた神津がそれを受け取って車道に向かった所を、追いかけて来た北川と岩崎警部が捕まえ、一緒に617号室へ連れて行かれる。

神津が受け取ったものは密輸品だったが、北川がそれを突きつけても、岡野は自分が投げた証拠があるのか?そんな人も知らんと神津のことを言う。

神津の方もとぼけ、岡野は、人権蹂躙や!訴えるぞ!と開き直って来たので、畜生!と北川は岡野の胸ぐらを掴もうとするが、それを泊めた岩崎警部は、我々の負けだ!何の証拠もない!と北川に言い聞かす。

しかし北川は諦めきれず、ここで取引したのは間違いないんだ!こいつは1年間毎日追いつめていたんだ!岩崎さん!御願いします!と岩崎にこのばは目をつぶってくれと頼むが、それを岡野らはあざ笑ってみていた。

それを知った北川は飛びかかろうとするが岩崎警部に羽交い締めにされたので、放せ!畜生!と悔しがる。

2月7日 あれから1月近くなるが、北側君は僕を恨んでいるようだ 刑事の中には、仕事に熱心なあまり、反動で異常心理になるとも言うが、僕は別に気にしなかった。

(回想明け)「反省記」を呼んだ岩崎は。あのとき、北川に、殺意があったのでは?あり得ることだ…と言う疑惑が芽生える。

岡野は今何をしています?と聞くと、指名手配中だが行方知れず、神津は銃砲店をやっていると竹内は教える。

沖仲仕だった宮島(高品格)は今や宮島組を立ち上げているが、奴らには上に首謀者がいるらしいと竹内が言うので、いまだに分かんないんですね?と岩崎は確認する。

広洋船は去年スクラップですよと竹内が説明していると、側で「広洋丸船員名簿」を調べていた下里があった!と叫ぶ。

松丸忠男の名前が名簿にはっきり残っていた。 詳しく知りたいんですが?と岩崎が尋ねると、並木さんが良いわと竹内は紹介してくれる。

並木病院 院長の並木(浜田寅彦)に面会を申し込んだ岩崎は、松丸忠男を知ってますか?と聞くと朝倉事件の容疑者ですね?何か?と並木は答える。

そのとき、タバコに火を点けようとしていた岩崎のライターがなかなか点かないことに気づいた並木は、自分のライターを差し出し火を点けてやる。

密輸のことですが、何かご存知ありません?と岩崎が聞いたとき、院長に!と言いながら、異様な男の患者が部屋に入って来ようとし、看護婦たちになだめられ去ってゆく。

その直後、部屋に入って来たのは北川だった。

岩崎が辞去した後、並木と応接室で対面した北川の様子を、薬棚の奥の部屋から覗いていたのは、先ほど、部屋に入ってきかかった麻薬中毒のような患者だった。

朝倉事件の凶器のメスなんですが、中野医療機器の話では特殊なもので、200本ほどしか関西の病院には売っておらんそうです。お宅にもありますな?と北川は聞く。

のうなったと聞いておりますと並木が答えると、3日前にまた御買いになりましたな?医局のものは、院長以外知らないと言っていますと北川は指摘する。

院長がメスの管理までしてまへんわと並木は笑ってごまかす。

一旦立ち上がり、部屋を出かかった北川は、思い出したように戻って来て、決してご迷惑は御かけしませんから、どうぞ宜しく!と、ソファに座り考え込んでいた並木の様子をうかがうように付け加え、帰ってゆく。

その直後、部屋に入って来た患者が、並木にすがりつき、薬をくれ!と迫る。

しかし並木は、貴様がガンや!貴様だけがいつも俺たちのことを邪魔しやがる!何で俺の所のメスなんか持ち出したのか!お前がドジったばかりに俺は奴に目を付けられちまったじゃないか!と患者を叱りつける。

病院から帰る途中、北川に同行していた刑事が、並木は3年前にここを買ったらしいですが、患者が通っている様子はないそうですと伝える。 そんな北川に、話があるんだ、2人きりでと声をかけて来たのは、病院の前でずっと北川を待ち構えていた岩崎だった。

岩崎を連れ近くの空き地に来た北川は、裏付けする物証はない、メスも他から出た…、俺の負けや、松村は釈放されると教える。

広洋丸に乗ってましたよと岩崎が教えると、並木と松丸が品物を密輸し、宮島がそれを持ち出し、岡野と神津が売りさばいていたんだろう。 今じゃみんな盛大にやっているじゃないか。しかしその上がいる…、見過ごしてるんじゃない、掴めんのや!その内やってみせる!しかし、3年前、奴らは止めてしまい、俺は大阪に転勤させられた…と北川は悔しそうに打ち明ける。

あんたがあんなことさえしなければ追いつめられていたかもしれないんだと岩崎が父親の事件のことを言うと、あれは仕方なかったと北川が言うので、本当に仕方なかったのかな?あんたは親爺を憎んでいた!と岩崎は疑わしそうに言う。

君は俺を!と、北川は岩崎に疑われていることを知って驚くと、確かに俺はあのとき、親爺さんを憎んだ。しかしあの時は、俺は親爺さんを助けなあかん思うて…、だが今更弁解しようがない、そのいらだちが俺をこんなにしたのかもしれん…、信じてくれ!と訴えて来る。

親爺も姉も…、信じられない男に取られるのは辛い!と岩崎は吐き捨てるように言う。

今度のことで俺の潔白をはらしてみせる。何かありそうなんや…、そして改めて大手を振って君の姉さんをもらいに行く!と北川が言うと、俺はこの手で真実を掴む!姉さんのことはそれからだ…と岩崎は答える。

毎朝新聞に戻って来た岩崎は、社会部々長(二本柳寛)に呼ばれる。

親爺さんに関係ある事件だそうだね?敵討ちも良いが休暇が一週間延びたんだ、ゆっくり山に行って来いよと部長が勧めるので、例の松丸は?と聞くと、今日釈放だ。君も大人なんだから、良い所だけ頂戴するんだと部長は言う。

浪速拘置所から出て来る松丸。

その松丸は町で赤電話を誰かにかけるが、その様子を近くのパトカー内の警官が監視しており、本部の北川に連絡する。

北川は、見失うなよと命じる。

さらに、35、6の黒めがねをかけた男が現れたとの報告を聞いた北川は、逃がすな!と命じる。

並木や宮島も同時に出かけました。一カ所に集まるんでしょうと北川は捜査一課長に伝える。

西陣に車でやって来た岩崎は、どこかへ出かけるらしい和枝と出会ったので、車を降りた岩崎は、御墓参りですか?お供して宜しいでしょうか?と承諾を得て一緒に袴で同行する。

実は今度の事件、父で挫折して、今度の兄さんの死で糸口が掴めて来たんですと途中岩崎が事件にかける意気込みを打ち明けるが、和枝は、静かに冥福を願ってくれれば良いと思いますと答えただけだった。

兄は不幸でした。パリへ行っても世間の評判を気にしていたのです。

そして自分の才能に絶望し、挫折したんです。

日記がありました。お帰りにお渡しします。御読みになってくださいと和枝は言いながら墓にやって来るが、兄の墓の前に見知らぬ女性が参っていることに気づき、岩崎とともに様子を見ることにする。

その女性の所へ、姉さん!と呼びかけながら近づいて来たのは松丸だった。

どうしてあんなことをやったの!と冴子が聞くと、朝倉さんは好きだった…、どうして僕がやれるんだと松丸が言うので、忠男さん、良かった!と冴子は喜ぶ。

自白したのは、警察が姉さんのことを知ってたから、姉さんが危なくなりそうだったからだよ。

部屋に行ったら、朝倉さん、死んでいたんだ。その後、バイクを奪ったのが失敗だったんだと松丸は言い、冴子と共に朝倉の墓に手を合わせる。

あの人が冴子さんです…と和枝は岩崎に教える。 パリで絶望した兄の心の支えになってくれました。

でも、ある人があの人を連れて帰ったのと和枝が言うので、誰です?と岩崎は聞くが、日記を御読みになってくださいと和枝は言うだけだった。

その後、冴子と松丸は石庭の縁側に向かったので、和枝と岩崎も石庭を見るカップルを装い、同じ縁側に座って二人の会話を盗み聞く。

姉さん、僕これからどうなるんだろう?と松丸が不安そうに聞くと、あの人は怖い人よ、私から何もかも奪ってしまったわと冴子が答える。

祇園で男の慰み者になっていたのから逃げ出したかったの店、人間らしい暮らしがしたかったの…、どこでも良かったの、ブラジルでも日本の小さな島でも…、どんな人でも良かったの、あそこから連れ出してくれるんだったら… 朝倉さんも同じだった…、あの人にあえてうれしかったわ。

ル・フェーブルだったわね、あんた、広洋丸のタラップから降りてやって来てくれた…と懐かしそうに冴子が言うと、姉さん、僕たちどうしてこんな目に遭うんだろう?と松丸が聞く。

貧しいから…と冴子が答えたので、生活が?と松丸が聞くと、人間としての生き方よと冴子は言う。

姉さんは何とかなるよ、僕のことは気にしなくて良いよ、もう大人なんだから…と松丸は言う。

その側の庵で茶を飲んで二人を監視していたのは、松丸をずっと尾行して来た刑事だった。

その刑事の連絡により、北島が2人が向かった家にやって来る。

あの家です!と見張りの刑事が教えると、別の刑事に連れて来られた八百屋のご用聞きに、あの家の主人は?と北川が聞く。

27、8の別嬪ですわ。旦那がいて、セロリと人参が好きなんですよと八百屋は答える。

表札には「千野冴子」と出ていますと刑事が北川に教える。 男も女も徹底的に洗い出すんや!と北川は発破をかける。

その頃、ある場所に集まっていた宮島、神津、並木らを前に、謎の人物が、麻薬中毒者に成り下がった岡野を叱責していた。

松村は今日釈放された。メスの出所は家だと気づかれた。お前だけが能無しだ!今の所、松丸が口を割った形跡はない。

だが奴は若い、これから十分その可能性はある。今度は岡野は危ない!とその人物は指示を出していた。

毎朝新聞に戻って来た岩崎は、どうしてもダメなんですか?と部長に詰め寄っていた。

部長!日記を見て、どうしてもあって確かめてみたいんです!と岩崎は頼むが、相手が相手だ、名誉毀損になるかもしれない。

記者でいたいんなら話を聞きたまえ!と部長は岩崎を諌める。

岩崎は、考えてみますと言い残し、社会部を飛び出すと、夜の町を歩き回る。

ふとビルの上を流れる電光掲示板を見上げると、松丸忠男が釈放されたと言うニュースが流れていた。

恵美の店に寄った岩崎は、恵美がごちそうを作っていたのでいたので、誰か来るの?と聞く。

北川さん、今日はお誕生日なのと恵美が言うので、来るって?と聞くと、お仕事忙しいらしいけど、あなたがいるとあの人も喜ぶわと恵美は言う。

そのとき、電話がかかって来て、それに出た恵美の表情が曇る。

え?でも少しくくらい…、じゃあまたね!ぜひ御近いうちに…、さようならと言って電話を切った恵美は、夜勤で来られないんですって、今の仕事終わるまで来れないって…、その言い方が変なのよと良いながら食卓に戻って来たので、世の中には色々な姉弟がいるな…、良い親爺だった…、それだけでも僕たちは幸せだったよと岩崎が言うと、2人でじゃんじゃん食べましょう!と気分を変えるように恵美は台所へ戻って行く。

岩崎は、姉さん、行っておいでよ、府警本部にいるんだろ? 1時間でも2時間でも引っ張り出せば良いんだよ。留守番がいるうちに行って来いよ。人間誰しも幸せになる権利があるんだ!と声をかけたので、そうね!行って来るわ!と恵美は答える。 岩崎は硯箱と紙を取り出し、墨をすり始める。

台所からは、うれしそうに「故郷の空」をハミングする恵美の声が聞こえて来た。

翌日、岩崎は、坂口物産の社長坂ロ(大坂志郎)に会いに行く。 朝倉の日記を読むと、パリで1人ぽっちの朝倉は心細かったのでしょう…、そしてあなたの愛人の冴子と会ったことで、あなたの怒りを買った。

あなたは色々な手段で朝倉を脅し、冴子さんを連れ日本に帰って来た…と岩倉が話し出すと、なかなか良く出来てますな〜…と坂口は人ごとのように言う。

事実じゃないとおっしゃるんですか?冴子さんのことは認めるんですか?と岩崎は畳み掛ける。

いや、冴子は知っている。祇園から連れ出してパリに連れて行ったと坂口は認める。

当社は朝鮮戦争不景気だったはずですが、良く余裕がありましたね?と岩崎が皮肉ると、女を1人海外へ連れて行くくらいのことは出来ますよと坂口は苦笑する。

こちらの会社は、そのパリ行きの後、一挙に躍進した…、本当は何しにパリへ行ったんですか?カモフラージュのためですか?朝倉はそれを知っていた…と岩崎が推理を述べると、君はスリラー作家になれば良かったのに…と坂口が皮肉る。

社会部に戻って来た岩崎に、部長は、岩崎君、福岡支局へ行ってもらうよと告げたので、岩崎は用意して来ていた退職届を差し出す。

そのとき、かかって来た電話に出た下里が、殺し?松丸忠男!と叫んだので、それを聞いた岩崎は、これからは岩崎個人です!御心配なく!と言い残し社を後にする。

岩崎は、港で引き上げられた死体が担架で運ばれている所へ到着する。

北川が」たので、とうとうやったか!と口走ると、自殺を装っているが、船で置きへ連れて行って突き落としたとも考えられると北川は言う。

松丸には尾行を付けていたんだが、何故か逃げ出した。俺たちを嫌いなんだな…と北川が言うので、君たちには愛情がないからだと岩崎が指摘すると、そうかも知れんと北川は頷く。

そこへ刑事が近づいて来て、夜中の1次にこの沖をランチが通っていますと北川に報告する。

それを聞いた岩崎は、神戸の宮島なら、ランチの1つや2つ自由になるぜと教える。

夕べ、君の姉さんが来てくれた…とうれしそうに北川が言い出したので、今聞きたいのはそんな話じゃない!と岩崎は文句を言うが、そのとき、千野冴子を尋問してたんだ…、今、あの人はどこにいるのか…、君も安全ではないぞ、もう首を突っ込みすぎているからな…と北川は岩崎に警告し、その場を去ってゆく。

岩崎は、夕日が沈み行く港に一人残る。 そこにやって来たのは千野冴子だった。

寺でお会いしましたわね、あの時は聞いてもらいたくて話したんですと冴子は言うので、あなたには関係なかったんでしょう?と岩崎も聞き返す。

弟が殺され、もう黙っている理由がなくなりました。

今夜10時、クラブ「リラ」で御待ちしていますと冴子が言うので、でも、あなた、自分に見の危険のことを…と岩崎は案ずるが、相手の意志が固いことに気づき、参りましょうと答える。

クラブ「リラ」では、ハープ奏者がハープを奏でていた。

少し遅れて来た冴子が、先に来て待っていた岩崎のテーブルに座り、ブランデーを頼む。 岩崎は水割りを注文する。

「リラ」の門をくぐり、ここがパリ…、大阪で一番近い店ですわと、店を選んだ理由を冴子が明かすと、拝見しましたよ、朝倉さんの日記…、だけど、どうして朝倉さんが殺されたのか、それが分からないんですと岩崎は言う。

冴子は、踊っていただけません?と誘う。 坂口はパリで密輸をやっていたんです…と、踊りながら冴子は言い出す。

日本に帰って来た朝倉は、昔の朝倉ではありませんでした。荒んだ男になっていました。

そして私とよりを戻そうと迫って来たんです。

その内、坂口がそれに気づき、パリの時と同じように朝倉を脅して手を切らせようとしました。

しかし、帰国後の朝倉は違ってました。密輸のことで逆に坂口を脅迫したんです。

朝倉を殺したのは、坂口の手下です。 私が殺したんです…と冴子が言うので、あなたが原因じゃないでしょうと岩崎がかばうと、弟があんな死に方をしたのは私のせいなんです。

もっと早くお話しすれば良かった…、私ってどう言う女なのかしら…、おそらくバチを受けたんでしょう。

貧しい漁師の家に生まれ、早いうちから祇園に売られ、愛した人は次々に殺されて行く… 朝倉も弟も…、私の話はこれだけ…、お酒でも頂きましょうと行った冴子と岩崎がテーブルに戻って来た時、支配人らしき男が何かメモを冴子に渡す。

それに目を通した冴子はちょっと失礼しますと岩崎に断り、テーブルを離れて行く。

そんな店のカウンターには、北川が来ており、じっと2人の様子を監視していた。

心配になり後を付けた岩崎だったが、そこで待ち受けていたのは宮島だった。 岩崎と冴子は、とある倉庫の中に連れて来られる。

そこには坂口が待ち構えており、連れて来られた岩崎に、これのお守りをしてくれたそうで…と冴子の方を見ながら、君も若返った方が良いなどと皮肉を言う。

冴子がそんな坂口を睨みながら、私、芦屋の家を出たのよ!と言うので、止しなさい!痴話げんかを人前でするもんじゃない!と坂口は叱りつける。

あなたは実に巧妙で卑劣な男だ!密輸で莫大な利益を得、秘密を知る者たちを次々に殺して行く…、朝倉、松丸、そして僕の父だ!と岩崎が坂口に言うと、気の毒だが僕がやったんじゃないと坂口はとぼける。

1人の人間として君たちを許せない!と岩崎は睨みつける。

しかし坂口は、第一君はこれからどうやって行きて行くつもりなんだ?新聞社辞めたんだろう?君は有能な人間だ。今回のことを全て忘れてくれたら、坂口物産でそれ相応のポストを約束しようと坂口は誘う。

我々は麻薬で儲けただけじゃない。ワクチンで大勢の子供が助かった。税が付かない貴金属は多くのご夫人たちが喜んだ。

私の社の何百人と言う社員たちも助かったんだ…などと坂口が言うので、詭弁を弄してむなしい自己弁護かい?いくら繰り返してもどうしようもない…、あんたが人を殺したことは間違いないんだ!と岩崎は責める。

海に浮かんだ一枚の板に二人の人間がすがっている。板は1人しか支える浮力がない。

自分が生き残るためにもう1人を突き落としたとしても殺人にはならないんだと坂口は「カルネアデスの舟板」の例え話をする。

そのとき、ヤクをくれ!と坂口にすがりついて来た男がいた。 並木の病院で見かけた患者だった。 止せ、岡野!と坂口が振り放そうとしたので、貴様が岡野だったのか!と岩崎は驚く。

そこに、並木、神津、宮島に捕まった北川もやって来て、岡野!お前がやったのか!と詰め寄る。 話し合いは終わった…、刑事さんまで来るとは…と坂口は嘲る。

お前、こいつにやられるのに付き合うのか?親子二代ちゅう訳やなと岡野が嘲る。

その時、2人だけで良いのか?と坂口に聞いて来たのは並木だった。

何!と坂口は驚くが、あんた、自分の女やからかばうんやろうが、わしらその女と関わり合うのは嫌じゃ。我々は仲良うして来たんや…、お互いの幸せのためにな…と神津も言う。

そう言われた坂口はさすがに考え込む。

結局、岩崎、北川、冴子の三人が始末されることになり、車二台に分乗して、人里離れた火薬庫にやって来る。

火薬箱が詰まった部屋の中に入れられた岩崎は、殺すのは3人で良いのか?と入り口付近にいた坂口に聞く。

捕まってヤク切れた男がペラペラとしゃべったら…と岩崎が言うと、畜生!と言いながら、岡野は岩崎を殴りに行く。

坂口は銃で取っ組み合った岩崎ごと岡野も撃とうとするので、慌てた岡野は、たかがこいつのデタラメや!と言うが、本当のことや…と坂口は冷酷に言い放つ。

岡野は坂口の目が本気だと気づくと焦り、俺は今まであんたの言うこと、何でも聞いて来たやないか!と訴えて来る。 神津は、火薬の粉を火薬庫から外の芝生部分に撒いて行き、導火線代わりにすると、用意万端!と言いながら、坂口らとの所へ戻って来る。

自分も一緒に殺されると悟り、やけになった岡野は、あんたの親爺を殺したのはあいつや!と神津を指差す。

あいつは銃の名手や!野球場で狙撃して、弾は身体を突き抜けさせた。弾が見つからんようにな…、あんたの弾は当たってないと北川に向かって岡野が言うので、何!と飛びかかろうとした北川を羽交い締めにして泊めた岩崎は、分かった!と言う。

さっさとやったらどうや?と北川が言うと、最初からそのつもりだった、冴子来い!と坂口は呼び寄せるが、それを並木、神津、宮島の3人に邪魔される。

冴子!来るんだ、一緒に!冴子!と坂口は呼びかけるが、冴子は、岩崎たちの前から動こうとしない。

その時、どうだ!撃てるか?と岩崎が言いながら、ダイナマイトの導火線にライターを点けようとしてみせる。

俺も北川さんもお前のような気持で行きて来た、やれるならやってみろ!と岩崎は坂口に伝える。

撃てるなら、撃ってみろ!と北川も言い、拳銃を捨てろ!捨てなきゃやるぜ!と岩崎は迫るが、その時、その様子を坂口の後ろから見ていた並木は、以前病院に来た時、岩崎のライターが点かなかったことを思い出す。

その時、岩崎が、撃つのをためらっていた坂口に飛びかかり殴りつける。

岡野も飛びかかって来た中、坂口は持っていた銃を落とすが、それを素早く並木が拾い上げる。

撃つぞ!と並木が銃を向けると、外にいた神津が、撃つのは危ないと言いながら、建物から離れた導火線の側に行き、このライターは点くぞと言いながら自分のライターで火を点けようとする。

生きるには俺1人で良いんじゃと言いながら、火を点けようとしたとき、並木が撃って来たので、神津もライフルで撃ちかえし同士討ちとなる。

宮島は岩崎や北川に、下がらんと撃つぞ!と牽制し、建物から離れようとしながら追って来た北川の左肩を撃ち抜く。

わいも助けてくれ!と言いながら、岡野が建物から出て来ようとするが、宮島は売って牽制する。

その時、遠くから近づいてくるパトカーのサイレン音が聞こえて来る。

宮島が自分のライターを手に導火線の部分に近づくと、建物から出て来た岩崎が、神津が落としていたライフルを拾い上げ撃つ。

宮島は撃たれるが、岩崎が倒れていた北川の所に、大丈夫か?と呼びかけながら駆け寄ると、いつの間にか導火線に引火していた。

それに気づいた北川は、早く中の冴子さんを!と岩崎に頼み、自分は怪我を押して、身体で導火線の火を消そうとするが、コートに引火して火だるまになる。

岩崎は慌てて北川のコートを脱がせ、何とか救い出すと、火薬庫の中で気絶していた冴子も外に連れ出す。

ヤクが切れ、苦しみ出した岡野を前に、坂口は自らダイナマイトの導火線にライターで火を点ける。

北川さん、危ない!早く逃げるんだ!と冴子に肩を貸しながら逃げて来た岩崎が叫ぶ。

そこに大勢の警察隊が近づいて来るが、その連中に向かっても臥せるんだ!と叫んだ岩崎は背後で火薬庫が大爆発を起こす中、大ジャンプして地面に見を伏せた北川と冴子の上に覆い被さる。

火薬庫は連鎖反応を起こし、次々に爆発、建物は全て瓦礫の山となる。

夜が明けて来た中、包帯をした北川の所にやって来た岩崎は、タバコを勧め、ライターで火を点けてやる。

点いたな…と北川が笑うと、直しといたんだよと岩崎も笑い返し、取っといてください、親爺のお古だけど、こんなに役に立つとは思わなかったと言い、今までのこと謝ります!と北川に詫びる。

晴れやかな顔になった北川は、これで俺も大手を振って姉さんをもらいに行けると答える。

そこに下里が駆けつけて来て、今、部長が来ます!岩崎さんも復職になりました。

今度の事件書きまくってもらわなくちゃ困りますと岩崎に伝える。

冴子は、私は1人になりました。これからは自由に道を大切に行きて行こうと思います。

いつかどこかで、又あなたと会えたら、人並みの女になっていたいと思いますと岩崎に感謝を込めて言う。

朝日が昇って来ていた。
 


 

 

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