白夜館

 

 

 

幻想館

 

にっぽん泥棒物語

 

三國連太郎主演のユーモア犯罪ものと言った所だろうか?

喜劇と云うには笑いは少なく、むしろ「松川事件」を元にしたような事件と重なることで社会派風の要素も加わっている。

三國連太郎が水を得たような達者な芝居を披露しており、作品によってはあざとく感じないでもないクセのある芝居が、本作では全く気にならないくらい主人公のキャラにマッチしている。

ずるい警察を代表する形で、伊藤雄之助さんがベテラン警部補役で登場している。

その伊藤さん演じる警部補が主人公に、最近労働党に入ったんだって?と言っているのは共産党のことだろう。

若い市原悦子さん、緑魔子さんの姿も珍しいが、弁護士役の千葉真一さんや新聞記者役の室田日出男さんなども、後年のイメージとはかなり違っている。

脚本も良くできているし、山本薩夫監督の娯楽映画の手腕もなかなか見事で、冒頭からラストまで緊張感が持続している。

同じ山本薩夫監督のドキュメンタリータッチの作品「松川事件」(1961)と見比べてみるのも一興かもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1965年、東映、高岩肇+武田敦脚本、山本薩夫監督作品。

1948年、東北のある町

1948年、昭和23年、戦争が終わって銭の値打ちがなくなって、米と土地の値が天下を取っちまったんだ…(と、東北なまりの義助の独白)

夜中、蔵破りをし、大量の衣類などを盗んだ林田義助(三國連太郎)たち一味は、トラックの荷台一杯の荷物とともに自分たちも乗り込むと、日本酒を飲みながら、村はずれの橋の所で検問中の警官二人(杉狂児、田川恒夫)に呼び止められる。

警官が提灯の灯りを差し出し運転席を見ると、運転している川上(潮健児)の横には、文金高島田の花嫁が座っているように見えたので、結婚式へ向かう一行かと思い込む。

荷台の義助が、俺が仲人だと湯のみ酒を飲みながら陽気に警官たちに話しかけて来たので、大した資産だな…と、荷台の荷物を嫁入りの道具と思い込み、会場には泥棒や闇屋が入っているから気をつけるんだぞ!と老警官は忠告してくる。

そんな警官に酒を勧めようとした義助だったが、若い方の警官が湯のみに手を伸ばそうとした老警官を止めたので、運転手に飲ませちゃいかんぞ!とだけ言い聞かせ、そのままトラックは出発し、橋を渡し始める。

その時、そのトラックの荷台からこぼれた大量の砂糖が地面に残っていたことに気づいた老警官は、さすがに泥棒と気づき、提灯を降りながら、待たねか!と叫ぶが、トラックはそのまま橋を通過して行く。

タイトル

「かめや呉服店」という店先に到着するトラック。 店の奥に山積みにされた盗品の衣類を店の主人(吉田義夫)がそろばん勘定していた。

助手席に座っていた花嫁に化けた男が、ヅラを取ってあぐらをかく。 4年もムダ飯食ってたんじゃねえよ、郡山の「えびす呉服店」から200点!と言う義助の言葉を聞いた主人は6万円と値踏みする。

一瞬、不満そうだった義助だったが、どうせ元はただだからな…と自分に言い聞かす。

ある日、義助はモグリの歯医者姿で、小さな子供たちに囲まれ、農家の老婆(戸田春子)の歯の治療の回診に来た振りをし、近所の家の様子をさりげなく聞き込んでいた。

安い治療代を感謝され、子供たちに見送られ、農家を出た義助は、今話に出た蔵の横に来ると、周囲に誰もいないことを良いことに、石を拾い上げ、屋敷内に投げ込んで様子を見る。

何も聞こえなかったので、念のため、もう一個石を拾って後ろ向きのまま投げると、屋敷内のトタン屋根に当たり思わぬ大きな音を立て、屋敷内の犬が吠え始めたので慌てて逃げ出す。

その後、いつもの仲間を集めた義助は、大庭(北川恵一)や長谷川(杉義一)らに番号を引かせ、組み分けをすると、どんなことがあっても2時になったら仕事は止めろと忠告する。

そこに突然やって来たのは、林田の母(北林谷栄)と妹のふく子(緑魔子)だった。

何でも、ふく子の結婚話が決まりそうだと云う知らせだった。 その夜、義助は川上と組んで土蔵破りを決行する。

川上は寒さで手がかじかんで、のこぎりが巧く切れないとぼやき、その手元を照らしていた懐中電灯が途中できれたので、義助は慌てて豆球を取り替える。

何とか壁を壊して中をのぞき込んだ川上は、蔵の中をの覗き込み仰天する。

何と蔵の中で親子が3人川の字になって寝ていたからだ。 しかし、義助はそっと中に入り込むと、3人が寝ている横のタンスから衣装を盗み始める。

途中、気になって布団の方に目をやると、真ん中で寝ていた幼児が目を開けて自分の方を見つめているではないか。

義助は慌てずポケットの入っていたパンの切れ端をその子に渡すと、子供は黙ってパンを食べ始める。

その内、パンを食べ終えた子供が、ちょうだい!と手を差し出して来たので、土蔵の穴から出かけていた義助は困り果て、もうないと手を挙げてみせると、子供が急に泣き出し、その両側で寝ていた両親が目を覚まし、泥棒!と騒ぎ出したので、義助と川上は慌てて逃げ出す。

犬は吠えるし、村の半鐘が打ち鳴らされ、義助たちは、あぜ道を逃げるが、村の警防団のような連中が提灯片手に追いかけてくる。

川に逃げ込もうとしたさん人だったが、凍り付くような川に入った川上の背中に鳶口(とびぐち)が引っ掛けられる。

何とか、それを振り払い向こう岸まで逃げ延びた義助は、川上、辛抱しろよ!この辺の医者に診せればすぐに捕まるから!と言い聞かせるが、自分のズボンが凍って、妙な音を立てていることに気づく。

それでも、盗んで来た衣類だけは肌身離さず持って来た義助は、これだけは手が離せねえ訳があると言う。

その着物は、福子の嫁入り衣装にと自宅に持って来た義助だったが、出迎えた母は、また、破談だわ!と憮然として教える。

どうやら義助の泥棒稼業が先方の耳に入ったらしく、福子も恨みがましい目つきで、お母ちゃん、もう良いの、兄ちゃん、何遍言っても言うこと聞かないからと言うので、思わずその頬を叩いた義助は、誰のおかげで今まで暮らして来れたと思っているんだ!と怒鳴りつける。

子供の頃、父ちゃんに逃げられ、父ちゃんの真似を見よう見まねでやっているうちに戦争になり、俺が必死にお前たちを食わせなきゃみんな餓死してたんだぞ!と言うと、餓死してた方が良かった!と言い、福子が泣き出したので、義助はそのまま自宅を飛び出す。 母は泣いている福子に、そうガミガミ言うな、兄ちゃんばかり責めてもしようがない…と言い聞かす。

憂さ晴らしで花街で飲んでいた義助に、歌っていた芸者の桃子(市原悦子)がしなだれかかって来て、商売は何?勤め人ではなし、商人でもない…、手先の仕事でしょう?などとしつこく聞いて来たので、一緒に飲んでいた川上が、大当り!と笑い、長谷川(杉義一)も、手先の仕事で大儲けできるものだ!とちゃかしたので桃子は考え始めるが、それを遮るように義助は歯医者だと答える。

院長さんですか!と桃子が目を輝かせたので、回診専門だと言うと、どのくらい儲かるんですか?と食いついて来たので、1回5~6万かなと答えると、大したもんだね、私、ドキドキしちゃうわ!などと言いながら、桃子は義助の手を握り、自分の胸を触らそうとするので、義助は着物の襟元から手を中に入れる。

夜中、部屋について来た桃子と寝ていた義助は、そっと布団から立ち上がると、自分のスーツから財布を取り出し、洗面所の窓を開ける。

すると、庭先に潜んでいた川上が暗闇の中、懐中電灯を回して合図をして来たので、自分の財布を外へ投げ捨てる。

翌朝、宿に泥棒が入ったと云うので、刑事たちが事情を聴取に来るが、義助も被害者を装い、自分の財布には6~7000円入っていたと教える。

それを聞いた刑事は、被害額は3万5000円か…と手帳に書き込む。

宿の女将は義助に損害を与えたことを詫びながら、桃子ちゃんもお客さんを気に入ってますから、また呼んでくださいと頭を下げてくる。

こうして、身請けした桃子と結婚することにした義助だったが、ある日、昼寝をしていると、側に置いてあったバッグを勝手に桃子が開け、中に入っていた懐中電灯などを取り出して、不思議そうに、これが歯医者の道具か?などと聞いてくる。

それに気づいた義助は慌てて起き上がって、勝手に商売道具を触るな!と叱りつける。

桃子は、田舎さ行って来て良いか?今まで田舎に帰ろうなんて思ってなかったが、こうして歯医者の奥さんになるなんて思ってなかったものだからとうれしそうに言うので、義助はキスしてやる。

そこに、仕事仲間の菊池浩一(花澤徳衛)がふらりと訪ねて来たので、慌てた義助は、桃子に酒を買いに行かせる。

菊池は、嫁をもらったとは知らなかったんだ、今、サツに感づかれて…と言い訳しながら、持って来た盗品の衣類を出してみせる。

義助はその着物類を天井裏に隠す。 菊池が持ち込んだ着物の一部を桃子に土産として渡すと、桃子は大喜びする。

後日、その桃子が警察に捕まったと聞き、自分が聞いてない借金でも残っていたのかと義助は引き取りに出向く。

保安課から出て来た桃子に、金を持って来たと声をかけた義助だったが、部屋には見覚えがある着物が置かれており、見覚えあるな?君のものなんですな?と刑事は聞いてくる。

桃子は、こんなものを里にやる義理はない、里には羊羹を送っておいたと言う。

どうやら桃子が勝手に着物を半値で売りさばいており、買った一人が被害者だったことで盗品とバレたのだと言う。

義助は、自分も売りに来たのを買っただけだとしらを切る。 しかし、留守番に家に置いておいた川上の前で、家捜ししていた刑事たちは天井裏の大量に着物類を発見してしまう。

刑事控え室に呼ばれた義助は、竹刀を持った若手の刑事(大木史朗)から、隣の大部屋で行われていた被害者たちの衣類調べの様子を見せられ、白状しろ!と脅されるが、刑が決まるまではあんたと俺とは五分と五分だ!と虚勢を張る。

そこにやって来たのは、かねてより義助を良く知る安東警部補(伊藤雄之助)で、その方は妙見小僧の義助さんよ、おめえにはまだ歯が立たねえと若い刑事を慰める。

隣の大部屋では、一枚の着物を巡って、互いに自分のだと言う二人の被害者が奪い合うと云った有様。 妙見小僧が名も知らないブローカーから買ったなんておかしいだろ?と安東は皮肉る。

そこに連れて来られたのが菊池で、あの男知ってるだろう?と安東から聞かれた義助は、知らないです、ひょっとして刑務所でお知り合いになった方?などととぼける。

安東は、困ったことに母ちゃんが盗品売りさばいたのは明白なので…、まだ送検前だけどな…と脅して来たので、かかにもう一遍会わせてやってくれ!と義助は頼む。

義助は結局、罪を全部かぶることにする。

福島刑務所に入った義助の牢に新人が一人入ってくる。

馬場庫吉(江原真二郎)と言うその青年は自転車を6台盗んだと言う。

義助は、何かの粉を床に少し撒き、その上に小さな板をこすり合わせると、隠し持っていたタバコに粉から出た火を点け、馬場に吸わせてやる。

義助は、自分はノビやタタキではなく破蔵で入れられており、警察だって一段高く扱うんだと自慢すると、ここは犯罪研究所だ、良く勉強するんだぞと言い聞かす。

休憩時間、庭先でランニングしながら、馬場は義助に、国鉄の下山総裁が殺されたり、無人の電車が突っ走った最近の事件のことを教えると、義助の方は、ここに来た奴には二種類おり、金輪際犯罪はやるまいと誓う奴と、今度は絶対パクられないようにしようと誓う奴だと教える。

そんな義助に惚れ込んだのか、馬場は破蔵の弟子にしてくれと頼む。

義助はそんな馬場に、先にここから出て、良いヤマ見つけとけと命じる。

そしていよいよ義助も福島刑務所を仮釈放で出る日が来る。

門を出た義助を待っていたのは母だった。 桃子は?と聞くと、逃げた、お前がここに入るとすぐに…、今は北海道でまた芸者をやっているそうだ。良いことに、悪い仲間たちもどっかに行ってしまったと母は教え、これからは真面目に働くよう言い聞かす。

しかし義助は、朝から晩まで働いても7石しか穫れない百姓なんてなれるか!と反論し、まだ刑が終わった訳ではない、判決が降りたら3年から5年くらい食らう恐れがあるんだと教える。

その後、義助は、何やら署名運動をやっている杉山駅と云う所へやって来て、待っていた馬場と合流する。

列車が走る線路が見渡せる丘の上に来た馬場は、目をつけていた大谷の屋敷を義助に教える。

主人夫婦と爺様夫婦しか住んでおらず、荷物を運ぶ自転車は用意してあると言う。

その夜、早速忍び込み、ドリルで穴を開け始めた義助だったが、懐中電灯を持っていた馬場が急に腹痛を訴えたので、あっち行って休んでろと命じる。

外壁を壊した義助が、内側の竹をのこで引き始めた時、馬場は便意に堪えかね、庭先で大便をし始める。

やがて、中に忍び込んだ義助が、おい!と呼び寄せ、荷物を穴から外へ投げてくると、さっさと運べ、その辺に縄あっべや!と声をかける。

ズボンを上げて慌てて駆けつけた馬場は、側に積んであったリンゴ箱の縄を引き抜こうとするが、その弾みで木箱の山が崩れてしまい大きな音を立ててしまう。

その音で家人が気づき、泥棒!と騒ぎ出したので、義助と馬場は何も持たずその場を逃げ出す。

山の上で用意していた握り飯を食い始めた二人だったが、遠くから人声のようなものが聞こえて来たので、おらたちを探しているのか?と義助は慌てるが、馬場は杉山駅近くの工場のストライキだと教え、後2、3軒下調べをしていると言う。

しかし、向かった先も犬に吠えられて逃げ出してしまう。

もう一軒の屋敷に近づこうとしたとき、警防団が通りかかったのを見つけ、今日は止めるべと義助は言い出す。

夜の線路の上でスーツに着替えていた義助だったが、そこに杉山駅の方から3人の人影が近づいて来たので、警防団かと驚いた義助は線路脇に臥せる。

しかし、相手は、今晩は!と挨拶して来たので、義助も怪しみながらも、おばんですと挨拶を返す。

すると反対側からさらに6人の人影が近づいて来たので、義助は胸元からドスを出し警戒する。

しかし、その内の一人が飯坂温泉はこっちですか?と別の相手に聞きながら一斉に杉山駅の方向へ歩いて行ったので、義助はその連中を睨みつけながらドスをしまい、飯坂温泉を知らないとなると、この辺の連中じゃないな…と考えながら、一目散にその場を逃げ出す。

一方、義助と別れ別行動を穫っていた馬場の方も、山道で9人の人影を目撃する。

義助は、線路近くの畑に積まれた藁の山の中に隠れると、中でタバコを吸い始め、夜が明けるのを待つことにする。

その時、近くを通り過ぎる機関車の音が聞こえてくる。

やがて夜が明けた頃、近くで大勢の人声が聞こえて来たので、山狩りだ!と怯え、そっと藁の山から顔をのぞかせた義助だったが、近所中の村人たちが一斉に線路の方へ走って向かうのが見えた。

女子や子供も混じっているので山狩りではないようだった。

それで、藁から出て来た義助は、その走る人たちに紛れ込み、何があっただ?と女に聞くと、汽車がひっくり返って…と女は答え、列車転覆現場に来て様子を見ていると、野次馬の男たちが、線路を外してただと噂し合っていた。

杉山駅前の食堂で合流し、一緒に朝食代わりのうどんを啜っていた義助は、ラジオから流れて来た谷山発杉山駅行きの列車が転覆し、機関士1名、助手2名が下敷きになって死亡したと云うニュースを聞いていた。

夕べ怪しげな男たちに会った話を義助から聞いた馬場は、おらも山道で会ったと話し始める。

何でも、夕べ、あの辺をもう一度流していたが、巧い獲物に当たらず、山の抜け道に行ってみると、そこで7~8人の人間が来たと云うので、9人だったがや、同じ野郎だ…と義助は言う。

どうすべ?と馬場が言うので、俺たちは保釈中だ、余計なことを言って俺たちがやっていたことがバレたら飛んだことになるどと注意する。

しかし、その後、馬場は安東警部補に捕まり、列車転覆した晩、どこで何してた?他にも男いるだろう?お前の他に専門家いるだろ?などと尋問を受ける。

馬場はやむなく、ドリルで穴をあけ…と破蔵の話をし出す。 義助は鶴岡質店の主人の所に相談に行く。

義助が四つ目の保釈中だと知っている主人は、元検事と云うだけあって、かめやさんの紹介だから教えたやるが、あの相棒は杉山事件のことでパクられただけだから10日もすれば釈放されるよ。

地元の不良を叩いているのは常套手段だ。

又一人上げられていると新聞を見せながら説明する。

そこには「本間ついに自白」と云う記事が載っていた。

芋づる式に他の国鉄の組合員も検挙される。 その後、義助は宮城刑務所に入ることが決定し、馬泥棒でまた福島拘置所に来る。

休憩中、中庭でボール遊びをしていた本間、橋本、真山、伊藤たちが、線路を外した杉山事件の被告人たちだと仲間から聞いた義助は、あのびっ○のちびっこいのか?と確認し、違う!と直感する。 あの夜義助が出会ったのは9人だったし、もっと大柄な男たちだったからだ。

その時、義助たちの横に座って来た国鉄の組合員の男が木村信(鈴木瑞穂)と名乗ったので、何で白状した?と聞くと、本間はまだ若い、警察に拷問されたのででたらめを言って自供させられ、19名の組合員が逮捕されたと言う。

入浴時間、囚人たちは、4分おきに湯船と洗い場を通過して行くやり方だった。

風呂上がりに、木村が顔に何か膏薬のようなものを塗っているので、何かと義助が近づいて行くと、白ナマズができたのだが、女房は赤とんぼが効くと言い、それを効いた子供が毎日赤とんぼを捕ってくれているんだと言うので、義助は自分でその膏薬を塗ってやる。

子供の年を聞くと4つだと言い、子供の気持が皮膚を通って伝わってくると木村は言う。

最近は寒くなって、赤とんぼが見つからねえって泣いてるらしいと木村は言う。

その時、着替えていた囚人の一人(西村晃)が、石けん箱の石けんがないことに気づき、尾らの石けんかすめたドロボーは誰だ!と騒ぎ出したので、おめ、今、何言ったんだ?ここにいるの、皆泥棒じゃねえのけ?と義助が声を掛けると、偉うすんません!と相手も笑いながら答える。

その時、739号!面会人だ!と義助が呼ばれたので、面会室に行ってみると、そこにいたのはふく子で、母さんが死にそうなんだと言う。

金がねえので、働きに出たが、8日目になって戻らないので、山に探しに行ったら倒れていた。

診断の結果、急性肺炎だと言う。

お母ちゃんは、兄ちゃんの顔見たいって、これまでさんざん苦労させたことを一言謝りたいんだって言っているとふく子は言うので、義助は悩む。

安東が仮釈放の嘆願書を書いてやると云う言葉を信じて待っていた義助だったが、牢の中から看守を呼び、そのことを聞くと、ダメだと言われる。

所長さんにあわせてくれ!おふくろに一目会えたら、刑が2~2年伸びても良いと訴えるが、今更親の死に目に会いたいなど、人並みの人間のようなことを言うな!と看守から一喝されてしまう。

その後、木村たちが掛け合ってくれたが、結局、母親の死に目には会えなかった。

出所後、ふく子が建てた母親の墓に詣った義助は、堪忍してくれ、泥棒の親と呼ばれてさぞ辛かったことだろう。

今日限りすっぱり足を洗って、金輪際泥棒はやらない、知らない土地で生まれ変わって働く!と誓いを立てたので、一緒について来たふく子は驚く。

太閤さんだって元は泥棒だって話だと義助は言う。

その後、義助は、とある山奥のダム工事現場で働くことになる。

宿舎に戻って来て、洗濯したふんどしを干していた義助は、歯が痛いと言いながら戻って来た仲間の田島(山本麟一)の口の中を見て、このままにしといたら歯槽膿漏になるぞと言う。

持っていたモグリの治療器具で田島の歯を治療してやると、麓の町からバスで3時間もかかるこの地に歯医者がいたことに労働者たちは大喜びする。

早速宿舎に「林田歯医者」なる看板まで掲げられたので、義助は内心穏やかならざるものがあった。

やがて、噂を聞きつけた駐在の岡田がやって来たので、バレたかと観念した義助だったが、駐在が来たのは、自殺未遂の娘を助けてくれと云う依頼だった。

義助は、自分は歯しかできないと必死に断ろうとするが、無理矢理、その屋敷へ連れて行かれる。

見ると、薬を飲んだらしい若い娘が布団に寝かされていた。

母親(五月藤江)が言うには、会社勤めと思って結婚を約束した相手がヤクザもんで、それを知った娘がこんな了見を起こしてしまったのだと言う。

義助は、大量の塩水を作らせ、岡田に娘の口を開けさせようとするが、全く口が開かないと云うので、義助がやかんから塩水を口に含むと、娘の口を強引にこじ開けようとする。

その時、口の中に突っ込んだ左手の人差し指を思い切り噛まれてしまうが、口移しで塩水を飲ませると、うつぶせにして胃の中のものを吐かせる。

その後、偽造は一晩中、その娘に付き添って看病する。

やがて、工事現場に雪が積もる季節となる。

偽造は、モグリの歯医者で生計を立てるようになっていたが、ある日歯の治療に来ていた駐在の岡田は、命を助けた娘高橋はな(佐久間良子)と結婚したらどうだと勧めていた。

噂をすれば何とやらで、そこに、ワラビの煮物を持ったはながやって来たので、山の女子は雪が降るときれいになるななどと冗談を言いながら岡田は帰ってゆく。

すっかり義助に懐いていたはなは、迷惑でねえか?と遠慮がちに聞いてくるが、義助は助かっていると礼を言う。

その時、ラジオから正午のニュースが聞こえて来て、杉山事件の被告たち17名に有罪が宣告されたので、被告たちは最高裁に上告の手続きを始めたと言うので、義助はちょっと考え込む。

その年明けに義助ははなと結婚するが、前科があることは言えなかった。

次の年、男の子が生まれ、その子が3つになった年、義助は、社会党の黒川大次郎と言う地元の立候補者の応援演説をするまで地元では信用されるようになっていた。

その巧みな演説を見守るはなと息子と駐在の岡田。

義助は、その応援で旧友の菊池と再会していた。

菊池は弟の健二(山本勝)を紹介した後、おめえは大した人気もんだなと密かに声をかけてくるが、お互い昔のことはな…と義助は言い聞かすと、もちろんだと菊池も頷く。

夜、菊池と二人飲んでいた義助は、近頃の泥棒も義理がねえな、スケープゴートにされた奴が10万で保釈されたんだと、杉山事件の木村信と言う男が10万で出てくるそうだと菊池が言うと、そりゃ良かった!と急に泣き出し、本来ならば無罪になる所だったのに…、おら、あの夜、この眼で事件見てただと言うので、菊池はホラ吹くのもいい加減にしろ!5人でやったと言ってたぞとバカにしたように言う。

それでも酔った義助は、本間や多田みたいなちっこいのはいないだ、妙見小僧が見誤るもんか!と言い張る。

後日、自宅で家の普請をしようと、大工が持って来た設計図を検討し、これじゃあ泥棒に簡単に入られそうだから、もっと頑丈に作ってくれなどと無理を言っていた義助の元に菊池がやってくる。

菊池に連れて行かれた蕎麦屋の二階には、菊池の弟の健二と、彼が東京から呼び寄せたと云う弁護団の藤本弁護士(加藤嘉)が待ち受けていた。

一緒にいた健二は、兄貴に何をしゃべったか覚えてないか?杉山事件の犯人見たと言ったそうだが?おら、国鉄から首切られただ、あの連中はこのままだと死刑になるだ!と話しかけてくる。

しかし義助は、酒の上のでたらめだ、何も見てねえどと言うと、さっさと蕎麦屋から帰ってゆく。 帰宅した義助は、蚊帳の中で子供に添い寝していたはなに、どっかへ引っ越すか?と声をかける。

驚いて蚊帳から出て来たはなは、一生ここで暮らそうって、普請まで決めたじゃないの、何かあったんだすっぺ?じゃあ、何故逃げ出すの?何もかも巧く行ってるのに…とはなは聞いてくる。

義助は、昔、面倒起こした相手がおらを追ってるだとごまかすが、人殺しや泥棒やった訳でもあるまいし…とはなは言い返すので、そんなことは良い!と義助は答える。

その後、義助はダムの町から誰も知らない土地へ引っ越したつもりだったが… 街頭テレビの前を通りかかった義助とはなは、杉山事件の被告釈放を求める3万人規模の433kmに及ぶ行進が始まったと報じていたので、思わず見とれていた。

そんな義助に急に話しかけて来たのは安東警部補だったので、義助ははなに子供をおぶって先に帰させる。 おめえ、労働党に入ったんだって?杉山事件を色々語っているらしいな?また、モグリの歯医者やってるんだろ?などとねちねちと安東は話してくる。

家に帰りかけていた子供は、母ちゃん、あの人誰?と聞くが、はなは、しんないよと答えながらも後ろを気にしていた。

義助は安東に誘われるまま、かわだ温泉のかえで荘と云う旅館について行くと、酒を飲みながら、今は、五分と五分じゃと云いながらも、事件当夜のことを話し始める。

馬場君と別れてから、線路で着替えてタバコに火を点けた時、杉山の方から3人の男が来ておらの様子を見て来た。

警防団だと思ったが、おばんでがすと言うと、こんばんはと言って来た。 さらに6人来た…と義助が打ち明けると、そこん所は少しばかり違うんだわと、筆記していた安東が制止する。

後の3人が合わない…、うまくねえなこりゃ…、後の方の6人何とかならねえか?母ちゃんまだ、妙見小僧のこと知らねえんだろ?めんこい子もこしらえて…、よく考えないと…、20年もモグリの歯医者やってることも大変だぞ…と安東は脅してくる。

夜中、おめえ、探偵小説好きだべ?探偵小説とごっちゃになっちまったんだね?10年も前の話だと安東が言うので、相手の人間を間違えるはずねえ!と義助は言い返すが、弁護士だけには言うなよ、前科者の他にも、妙見小僧やあの晩の破蔵の琴も言わねばならねえぞと安東がしつこく口止めするので、どうでも勝手にすればええ!と義助はヤケになる。

その言葉を待っていたかのように、これで万事巧く行く…、その内、被告も関係者も死んじまってずるずるべったりと云うことになるだろうな…と安東は喜ぶ。

その後、今度は義助の自宅に菊池の弟に聞いて来たと言い、毎朝新聞の斎木記者(室田日出男)と石山支局員(岡野耕作)が訪ねてくる。

いつか酔っぱらって、杉山事件の犯人を見たとおっしゃったそうですな?馬場庫吉さん、ご存知ですね?あの人もあの晩人に会ったと言っている。

東京に来てくれませんか?と斎木は頼むが、おら、暇人でねえすらと義助は断る。

しかし斎木は、馬場さんは署名捺印までしたんですよと言うので、義助は斎木らに同行し東京に行く決心をする。

東京の旅館には、馬場の他に藤本弁護士と大木弁護士(千葉真一)も待ち構えていた。

馬場さんは、あの晩9人の怪しい男と会ったと言っていましたね?と藤本弁護士が確認すると、杉山駅前の食堂で、林さんも9人の男とあって、総連中が線路を外したと言っていたそうですね?真相を話してくれませんか?と大木弁護士が義助に頼む。

しかし馬場は3人だったとその場で証言を変えたので、1週間前に署名捺印したじゃないですか!と大木が責めると、誰かに言い含められましたね?と藤本が馬場を見つめる。

その夜、馬場と同じ部屋に泊まることになった義助は、馬場くん、安東に責められたな?と聞く。

馬場は後藤金蔵って知ってるか?事件の後、横浜に行き、その後港に浮かんだ。消されたんだ…と青ざめた顔で言う。

おらたちも消されるぜ、兄貴!と馬場が怯えるので、おらもそのことを考えてただと言うと、義助は馬場と一緒に、その宿から逃げ出そうとする。

その後、部屋のふすまを開けた義助は、周囲の様子をうかがい、廊下に足音を消す細い布地を転がして道を造ると、その上を踏んで逃げ出そうとする。

しかし、後に続こうとした馬場が転び、ちょうど便所から出て来た石山が、階段を降りかけていた馬場の姿を発見してしまう。 2人を部屋に呼び戻した藤本弁護士は、勇気を出してくださいと頼む。

しかし義助は、又ブタ箱に入るなんて!おらのかか、泥棒のかかと言われる!子供も泥棒の子と言われるだ!と抵抗するので、もう時効であることを聞いてますか?と大木が教えると、安東の奴め…と気づきながらも、それでも世間の目は変わらねえんだ!と言い張る。

翌日、上野駅にやって来た義助は、子供を連れた木村信と再会する。

何年入ってました?と義助が感激して聞くと、10年!あれ以来子供が離れたがりませんでね、今日はこぶ付きですと木村は笑う。

そんな子供の頭をなでながら、赤とんぼの薬塗ってるか?と義助は優しく声をかける。

あんたのおふくろさんが死んだのもあの頃だったな…と木村は思い出し、僕も死に目に会えなかったと言う。

父ちゃん、何もしてねと子供に言い聞かした義助は、近くの売店に子供を連れて行きガムを買ってやる。

その後も、安東は、自宅前で義助の東京土産の車の玩具で遊んでいた子供に近づくと、お父ちゃんの土産か?おじさんにも見せてくれなどと声を掛けるが、子供は近所の友達と一緒に逃げて行く。

安東は仕方なさそうに帰ってゆく。

家の中では、あの人、あんたが東京に行った日に来たの、おらと林田くんとは古い付き合いだと言って…と安東のことをはなが義助に伝えていた。

本当のことを言って!これ以上隠されるの嫌なの!あの時の人、刑事さんでないっすか?とはなが聞いて来たので、義助は本当のことを打ち明ける。

しかし、東京さ行ってはっきり決心しただ、日本中にぶちまけてやるんだ。おらは札付きの土蔵破りで前科4犯、ムショとシャバを行ったり来たりで兵隊にも行かなかったんだ…、おら1人の証言に17人の命がかかっているんだと義助が告白すると、死にたい!今までの幸せは何だったの?清はどうなるの?杉山事件と云うものをどうしても言う気ですか?清を泥棒の子なんかにできない!と言うと、はなは表に飛び出し、子供の清を抱いてどっかへ行ってしまう。

仙台高等裁判所

証言台に立った義助は、事件前夜、谷川小学校の裏におりましたと答える。

何をやってたんだ?と検事(加藤武)から聞かれた義助は、破蔵…、大滝呉服店の土蔵をやりましたと答える。

その後、傍聴席にいるはなの方を気にするように何度も振り返る義助。 今まで証言台に立ったことは?と聞かれると30回くらいだったと思います。

私関係と友達関係で…と義助が答えると、前科4犯ですね?と検事が確認したので、立ち上がった大木弁護士は今の言葉は撤回してくださいと申し出る。

かわだ温泉のかえで荘に泊まりませんでしたか?そこで安東警部補と何を話しましたか?と聞かれた義助は、豚を120頭盗んだ話をしましたと答え、ぬかに酒を混ぜて食わせると、みんな寝てしまって…などと面白おかしこ答えるので、傍聴席の客たちは全員笑い出す。

事件の後、安東警部補に3人と言ってるだけじゃないのか?と検事が聞くと、証人に対する愚弄です!と大木が抗議する。

その後、証人席に呼ばれた安東警部補に対し、大木弁護士は、あなたは、証人が9人と行ったにもかかわらず、3人と強く主張しましたね?と聞くと、横に控えていた義助も、日当出すと言ったろ!と安東に詰め寄ったので、裁判長(永井智雄)に注意される。

安東は、言いませんとだけ答える。 モグリの歯医者のこともバラスって言ったからと義助が横から口を出す。

土蔵破りの件はもう時効になっていたこと知りませんか?と大木は安東に聞き、警察として不自然でしょう?と追求すると、知ってたのか!と、またもや義助が安東に詰め寄ったので、裁判長に再び注意を受ける。

2時に馬場と別れましたと義助が証言すると、何故2時で仕事を止めたのかと聞かれたので、2時になってもやっているのは素人ですね、明るくなると大変なことになりますからと義助は答える。

縄は持ち歩かないのかね?と検事から聞かれた義助は、泥棒は普段から縄は持ち歩きません、お縄を頂戴すると云って、泥棒の七つ道具にも入ってねえですと答える。

何故今日まで口をつぐんでいたのですか?と裁判長から聞かれた義助は、人間らしい幸せを掴むことばかり考えておりましたから…、かかと子供のためを思って…、ただそれだけで…と答える。

証言してしまった今、どう言う気持ですか?と聞かれた義助は、良かった…、警察が嘘つくってどう云うことでしょう?噓吐きは泥棒の始まりって言うじゃないですかと義助が答えると、裁判所の中の全員が大笑いを始める。

閉廷します!と裁判長が宣言すると、林田さんありがとう!と木村たちが立ち上がり礼を言ってくる。

義助は傍聴席にいたはなと手を取り合って抱き合う。 そんな二人の周囲に人が集まってくる。
 


 

 

inserted by FC2 system