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こわしや甚六

冴えないサラリーマンが秘密の裏稼業もやっている…と言う二重生活を描いた、フランキー堺主演の典型的なプログラムピクチャー。

8時から5時まで行っていれば給料がもらえるんだ、楽な商売だよ…などと言う台詞を聞いていると、今はなくなったサラリーマンへの夢物語と言うか、応援映画なのかもしれないとも感じる。

伴淳とフランキーと言う東宝の「駅前」コンビに、キューピーこと石川進さんがトリオを組み、色々アイデアは盛り込まれているが、低予算のためか全体的に地味な印象で、やっていることは「駅前」などと大差ないような気がするのに、何故か今ひとつ吹っ切れた笑いに繋がっていないような気がする。

クライマックスなど 、カーチェイスなどの見せ場が作れそうな展開なのに、あっさりシーン代わりしており、映画的な見せ場は希薄である。

東宝で活躍していた北あけみさんが出演しているのも珍しく、60年代後半のこの時期、製作を縮小し始めた東宝の役者だった人が他社へ移っていた状況が分かる一方、当時の松竹には喜劇男優陣を受けて立つ東宝での淡島千景さんや淡路恵子さんのようなタイプのベテラン女優さんが少なかったのか、若手以外の女優さんはなじみがない人ばかりのような気がする。

そう云う点も含め、全体的に役者の層が薄いように見える所が、喜劇として今ひとつ盛り上がらない要因かもしれない。

だが見所がないではなく、若い頃の松岡きっこさんや生田悦子さんと言った女優陣だけではなく、ナンセンストリオや子役時代の穂積ペペさん、ザ・モップスがゲストで出ていたり、菅原文太さんがちらり出ていたりするのが見れるのが貴重。

モップスのボーカル鈴木ヒロミツさんは、まだ頬がコケているように見えるほど痩せている。

文太さんは、キネ旬データのキャスト欄に名前も載ってないほどのちょい役だが、後半、ヤクザ風の男役で出ている。 ほとんど活躍らしい活躍もせず、松竹時代の不遇な感じが痛々しい。

サイケデリックなどと言った台詞や、ヒッピースタイルでドラムを叩くフランキーさんの姿などに時代を感じる作品である。

参議院選挙に出るにはテレビに出ていないと通らないなどと言う台詞は、タレント議員が流行り始めた頃への風刺だろう。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1968年、松竹、花登筐原作、長谷部利朗+ 森崎東+ 宮田達男脚色、市村泰一監督作品。

結婚式会場、進行役が祝辞の言葉を終え、ウエディングケーキへの入刀を促している中、突如、花婿(立原博)と花嫁を前に近づいた婦人は、抱いていた赤ん坊を新郎に私、秀雄さん、まさこさんも秀一郎を宜しくね!と言い残しその場を去って行く。

その直後、式場から慌てて階段を降りていた婦人は転んでしまったので、下にいた男が大丈夫ですか?と助け起こそうとすると、起き上がった婦人はカツラをかぶった男性だと気づく。

こわしやの富山甚六(フランキー堺)だった。

式場では花嫁が母親に泣きつき、赤ん坊を抱いた花婿は唖然としながら、このこの血液検査を!などと言い訳していたが、それを聞いた花嫁の父は、じゃあ、身に覚えがあるのか!と花婿に詰め寄っていた。

女子トイレの戸をノックした女性は、中から出て来たのが、黒のスーツ姿の甚六だったので悲鳴を上げ、トイレの中に逃げ込むが、甚六は、女性用のカツラを戸の内側にかけたままだったことに気づき、ノックをして無理矢理ドアを開けさせると、又悲鳴を上げる女性を無視し、カツラを奪い取って逃げ出す。

表には、赤いスポーツカーに乗った相棒のサブこと三平(石川進)が待っていて、兄貴、巧くいったかい?と聞くので、ああと笑顔で答え、そのまま車に乗り込み出発する。

タイトル

国会議事堂前を走り、高速道路に乗って、「大東亜産業」と言うビルの前で車を降りた甚六は、急にさえない表情になり「総務課」の扉を開ける。

すると、長野係長(穂積隆信)がいきなり、富山君!今、何時だと思ってるんだ!と怒鳴って来たので、1時5扮過ぎですが?と机に付いた甚六が答えると、5分も食い込んでるじゃないか!5分と言う貴重な時間を会社から盗んだんだよ!と嫌みを言うと、同じ課の秋田(柳沢真一)に、厚生課から頼まれた仕事をやってもらって!と伝える。

秋田が甚六に渡したのは山積みにされた大量の書類だった。 5時になると、もう良い!明日やってくれ、残業してまでやってもらうような仕事じゃないと長野係長が言うので、甚六は素直に仕事を止め、秋田とともに帰り支度を始める。

今日一日歳なんだったな、係長の奴、エリートコースを鼻にかけ、部長に会ったときのC調さ加減と言ったら…などと陰口を言って来た秋田が、今日は腹具合はどうなんだ?と心配そうに聞いて来る。

甚六は、5時になったら良くなって来たと答える。 会社の前まで一緒に来た秋田が、これから1時間半も電車に揺られて帰ると、女房の愚痴だ…、全く遣り切れんよ…、どっかで飲んで行かないか?と誘って来るが、人を待たせているんだと断った甚六はその場で別れて去って行く。

電車に乗った甚六は、近くの席に座った男女のカップル(大泉滉、高毬子)が、きざな芸術の話などに夢中なあまり、前に立っている老婆(浦辺粂子)に席を譲らないのを見て苛立つ。

すぐさま男の方に近づいた甚六は、正ちゃんしばらく!先日、療養所の奥さんを見舞ったら、君のこと心配してたよ!などと大声で話しかける。

男の方はきょとんとするが、隣の女はどう言うことなの!と男に気色ばんだので、失礼!正一君1人だと思ったんで…と男に謝った甚六は、次の駅に着いたので、バハハ〜イ!と言い残し降りて行く。

女は怒って席を立ち、男も慌ててその後を追って行ったので、2人分の席が空き、立っていた老婆は礼を言って席に座る。

「菊屋」と言う店にやって来た甚六は、ホステスたちに愛想を振りまき奥へ行くと、サブの姉であるマダムから、情報屋さんと女の人がお待ちかねよ、先々月からの部屋代入れてちょうだいと言われたので、笑顔で二階の部屋に上がって行く。

部屋には、情報屋のチュウさん(伴淳三郎)とサブ、そして今回のこわしの依頼者君子(松岡きっこ)が待っていた。

甚六が名乗って挨拶すると、陽子ちゃん喜ぶわ、捨てられたのよと事情を話す。

男の相手は、関西の地主の娘らしいな、金目当てで汚い奴だと情報屋が言う。

君子は、陽子ちゃんから預かって来たお金を言って、仕事の依頼料を置いて帰る。

そんな君子をドアの所まで甚六が見送っている隙に、情報屋とサブは、置いてあった札束から1枚ずつ抜き取るが、戻って来た甚六は、いつものように分け前だと言って、4万円と言いながら3万だけ情報屋に渡し、日当の2000円をサブに渡し、足りない分は既に本人たちが抜き取っていることを知っていることを明かす。

とりあえず成功報酬が入ったので、ビールで乾杯と言うことになるが、缶ビールのプルトップを開けると、3人共缶から泡が吹き出して泡だらけになる。

情報屋は近所でホットドッグを売っている娘の良子の所へ戻って来るが、お父さん、どこ行ってたのよ!山口土建のオヤジさんが来ているのよと言われたので、土建屋なんて言ったって…とさんざん悪口を言い出す。

すると、すぐ側の車の運転席から顔を出した山口(小沢昭一)が、俺立ちは政府がやらないから建ててやってるんだよと情報屋に文句を言いながら降りて来る。

チュウさん話がある、これのことで頼みがあるんだと小指を立てて山口が小声で言って来たので、女がいるのか?と驚くと、奈良千代って言うんだ、立てば芍薬座れば牡丹、寝てる姿は若乃花って言って、技があるんだなどと言うので、興味を持ったチュウさんは、良子にホットドッグ持って来い!と声をかける。

相手が傷つかないようにこわしてくれと山口が言うので、母ちゃんのためか?と自分もホットドッグを食いながらチュウさんが聞く。

すると山口が、今度の選挙に出るんだと言い出したので、参議院選挙か!とチュウさんが驚くと、参議院はテレビに出ないと通らないので、区会議員だと山口は答える。

チュウさんは良子に金をふんだくってやれ!と言い、山口良介だよなどと山口が選挙運動のようなことを良子に言いながら金を渡したので、投票しなければ良いんだとチュウさんは娘に言い聞かす。

泣いて馬謖を斬る…などときざなことを言いかけた山口だったが、きついなこのカラシ…と言いながら、食べていたホットドッグを吐き出して、よりを戻すときはまた頼むよなどと言い残し帰って行く。

お前みたいな奴のためにこわすのは嫌だけど、俺たちはこわしやだからな…と、その場に残ってつぶやいたチョーさんは、一度ぶっちゃけた水が戻る訳ないじゃないか!とバカにしたように吐き捨てる。

ある日、デパートに買い物に来ていた奈良千代(北あけみ)に、そっと近寄ったサブが、素知らぬ振りで何かをバッグに入れて立ち去る。

その直後、奈良千代は、マネキンの方から、もしもし!と声をかけられたので、聞き間違いかと通り過ぎようとするが、又同じように呼びかけられたのでマネキンの方を良く見ると、マネキン2体の間に立っていた警備係の男が急に動き出して、奈良千代を別室へ呼び入れる。

バッグをちょっと拝見させていただけないでしょうか?と警備員の服を来た甚六から切り出された奈良千代は、自分が万引きの疑いをかけられていると気づき、人権蹂躙よ!警察を呼ぶわ!などと怒りだす。

そんなことをなさるとご自分が不利になるのでは?などとまで言われた奈良千代が、買った商品をバッグの中から取り出し甚六に渡していくが、その時、初めて見知らぬパンティが二枚、底の方に詰めてあることに気づく。

オーソドックスタイプが1枚に三角パンツが1枚、どちらも当店にしかないものですと甚六が指摘すると、誰かがやったに違いないわ!と奈良千代が抵抗したので、奥さん、事を荒立てない方が良いですと甚六は言い聞かす。

しかし、奈良千代は、私はパンティ履かないの!と言い放ち、憮然とする。

その後、奈良千代の自宅にやって来た甚六は、警備課長にあなたのことを知られてしまいまして、あなたが万引きの常習犯に似ていると言うんですよなどと説明したので、怒った奈良千代は警察に電話をかけようとする。

すると、勝手に玄関口に上がり込み、電話のフックを押した甚六は、警察を呼んでも失礼ですが、お妾さんより私たちの方が信用あると思いますよなどと言いながら、部屋に奈良千代を押し込む。

そして、テーブルに向かって悔しがるなら千代の背後で、優しい言葉をかけながら浴衣に素早く着替えた甚六は、振り返って驚くなら千代に向かい、奥さん!僕は会った時から一目で魂を抜かれたも同然だ!などと言いながら強引に抱きついて行く。

驚いたなら千代が、私、旦那持ちなのよ!と抵抗するが、男に恥をかかせないでなどと言いながら甚六は離れようとしない。

そこに入って来たのが山口で、これは誤解なのよ!と奈良千代は言い訳するが、分かった!お前のような女の了見が分かった!と言うと、いきなり甚六につかみ掛かり、持って来た土産の箱で甚六の頭を殴りながら廊下に出る。

そして、そうだ?巧いだろう?などと山口が小声でささやきかけて来たので、巧すぎるよと甚六が痛いので文句を言い返すと、これチップ!と言いながら札束を1枚渡すと1発、又、1枚渡して一発と山口は箱で殴って来る。

座敷に戻った山口は手切れ金だと言って札束をテーブルに放り投げ、一旦帰りかけるが、慌てて喉って来ると、こっちは選挙資金だったと分厚い札束を取り返し、薄い札束の方を置いて帰ってゆく。

泣いていた奈良千代は、そっと帰りかけた甚六に気づくと、どこ行くのよ?返さないわよ!一目見た時から魂を抜かれたも同然だと言ったわね!と睨みつけると、今度は自分から甚六にむしゃぶりついて来る。

女の私に恥をかかせる気なの!などと言って抱きついて来た奈良千代を何とか振りほどいた甚六は、家の外で待っていたサブの車に飛び乗り、急いで逃げ去る。

翌朝、出社した甚六は、廊下で1人の女性社員とすれ違うが、良く似た人間がいやがる…と首を傾げ、会社から帰るときも、その女性のことを思い出しながら、ずっと考え込んでいた。

ホットドッグ屋の所に来た甚六に、チュウさんは、一杯やっか?とコップを渡しながら言うが、甚六はそのコップに側の水道から水を入れるだけだった。

チュウさんは、今日は遠出だ、ダンプだ、三平が待ってると言い出す。

狭い道を何台も通り過ぎるダンプの様子を見に来た甚六に、毎日こんな状態で、町の連中は困っている。おれたちがこわさなくて誰がこわすんだ?とチュウさんは言う。

さっそく、サブも加え、ダンプを止めようと通行止めの標識を出したり色々やってみるが、全く効果はなかった。

しかし、チュウさんがにやつきながら戻って来た直後、ダンプがパンクする音が聞こえる。

「忍法ダンプこわし!」と言いながら、チュウさんが手のひらを開いてみせると、「まきびし」が乗っていた。

翌朝、チュウさんが、ジンロック!いつまで寝ている!と二階の押し入れの上で寝ていた甚六を起こしに来る。

甚六は、もう少し寝させてくれよ、満員電車に乗ると便秘になるんだ…などと布団の中で答える。

お前の会社は大東亜戦争と言ったな?とチュウさんが聞くので、大東亜産業だと甚六が訂正すると、そこの山形総務課長ってのが、長野って言う係長の出世をぶちこわしてくれって言う依頼だ。

まさか、自分の会社の社員がぶっこわしやの甚六とは知らないだろうな〜とチュウさんは苦笑する。

その日、出世した甚六は、屋上に香川部長の秘書青森雪枝(呉恵美子)を呼び出すと、下剤を部長に飲ませてくれと耳打ちする。

雪枝はいたずらだと思い込み、面白がって承知する。

その後、部長室の前にやって来た甚六は、鼻の穴に脱脂綿を詰め、上着を少しはだけ、香川部長(金子信雄)が部屋から出て来ると、奇妙な動作をし始める。

どうしたんだ?と香川が聞くので、薬が効き過ぎて…と甚六が答えると、LS何とかとかをやっとるんじゃないかね?と香川は疑う。

「マムゴンZ」と言う精力剤ですと言いながら、甚六が鼻の脱脂綿を抜いてみせると、その先に血が付いているように見えたので、どこにある?と急に興味を示した香川に、秘書の青森さんのお父さんがもらって来たそうですと甚六は嘘を言う。

部屋に戻った香川は、そこにいた雪枝に、青森訓、君のお父さんがもらって来たと言う薬持ってるか?と聞き、持ってらっしゃいと命じる。

これはまだ試薬品で普通は二錠くらいで良いらしいんですが…と言いながら雪枝が薬を差し出すと、香川はそんな注意も聞かず、いきなり数錠の錠剤を飲み干してしまう。

トイレの方へ向かおうとした甚六は、部長に会いに来た山形課長(十朱久雄)とばったり出会ってしまう。

仕事の依頼人である山形は、目の前にいる甚六がこわしやとも知らず、君がいつもへまばかりやるから課長の私の信用が落ちる!などと叱り、部長室の前に来ると、出て来た香川に決済をお願いします。急いでますのでと書類を差し出す。

しかし、急激な便意に襲われていた香川はそれどころではなく、今はそれどころじゃないんだ!部屋に置いときたまえと叱ってトイレに駆け込む。

トイレの個室に香川が駆け込むのを確認した甚六は、すぐにトイレのドアに「使用中止」の札をかけ、邪魔者が入って来ないようにすると、小便器の前に2人の人物が入って来たようにスリッパの音を立ててみせる。

そして、チューブ入りのジュースを小便器に向かって押し出しながら、2人が会話しているような芝居を始める。 そろそろ人事異動の季節ですな、今度は係長クラスの移動だそうですよ。 総務の長野君は確実らしいね。

あの人は女たらしは有名で、相手は女だけではなく、香川部長までたらし込んでいるらしいですよ。

香川の甘ちゃんを抱き込むのは簡単だなんて言ってました。 何でもBGに部長に惚れた演技をさせたらしいですが、実はそのBG、長野君のお古だったらしいって。

それでも部長、鼻の下延ばしたらしいですよなどとひとしきりしゃべった甚六は、2人が洗面台で手を洗う音も芝居で出し、一緒にトイレを出て行く音を出した後、「使用禁止」の札を取り、その後、さりげなく、今、トイレに入って来た振りをする。

ちょうど、個室から出て来た香川が不機嫌そうな顔で手を洗っている所だった。

君、あの薬の効果は続いとるかね?と香川が聞いて来たので、下痢の副作用があるらしいんですと甚六が答えると、わしはどうも下の方へばかり効いとるようだと香川はその言葉を信じたらしく、今出て行った2人はどこの課だ?と聞いて来る。

甚六は、後ろ姿しか見なかったので、総務課か、営業課か…と適当なことを答えると、君はどこの課だ?と言うので、総務課ですと答えると、長野係長に私の所に来るように言ってくれ、君!すぐ寄越すんだぞ!と香川は命じる。

総務課に戻った甚六は、長野係長に部長がお呼びですと知らせると、ゴルフの打ち合わせかな?などとにやつきながら長野は立ち上がったので、行ってらっしゃいと甚六は笑顔で見送る。

夜、「菊屋」で、チュウさん、サブなどと一緒に甚六は、ボックス席で歌うホステスの歌に手拍子し、ご機嫌だった。

サブは、故わしや稼業の仕事が絶えないってことは、世の中デストロイヤーを求めているんですねと言うが、チュウさんにはデストロイヤーと言う言葉が分からないようだった。

そのとき、ヤクザ風の男4人が店に入って来て、この辺りはグリーンベレーのシマだって知ってるだろうな?とマダムに聞き、怪しい奴を追い払うために、月極の会費を払ってもらおうじゃないかと因縁をつけて来る。

それを聞いていたチュウさんと甚六は立ち上がり、いつもの奴作ってくれ、ジンロック!とバーテンに頼むと、すぐに甚六は姿を消す。

オヤジ!どこ見てるんだ!とヤクザたちから声をかけられたチュウさんは、より目をしながら近づき、どこを見てるんでしょう?などとからかう。

そのとき、店の電話が鳴り、それを取ったバーテンが、グリーンベレーさん、お電話ですと受話器を差し出す。

それを受け取ったヤクザは、何!殴り込み!場所は?桜田門前の停留所の斜め前のビルだな?と言うと、全員店を飛び出して行く。

そこに甚六が戻って来たので、どこ行ってたのよ!今のような時に男がいてくれなくちゃダメじゃない!とマダムは文句を言うが、あいつら今から警察に殴り込むよと甚六が笑いながら答えると、じゃあ、今の電話は!とマダムは気づいて感謝する。

そこに、君子が岡山永子(宗方奈美)と言う女性を連れて来たので、甚六たちは二階で話を聞くことにする。

永子が言うには、自分が好きな男に、同じ課の秘書の子が毎晩のように電話をしているらしいので、その関係をこわして欲しいらしい。

男は大兵建設の社長と聞いた甚六たちは、老人を想像したが、一郎さんは、若さ、ルックス、才能、どれをとっても抜きん出ており、銀座のトップクラスと思っている永子としては他の女に取られるのは悔しいのだと言う。

一郎さんからその女を引き離してよと頼まれた甚六は、良し、引き受けた!すぐにかかりましょうと答えると、中華料理屋の紛争をして、一郎と女が会っていた料亭に出向き、開いたふすまから座敷の中の様子を庭先から覗き見る。

妹は海に身を投げたんだ!良し、この手で行こう!と甚六がプランを練っていると、座敷の男前の一郎らしき男が立ち上がり、ふすまを閉めると、止めて!と言う女の声が聞こえて来たので、ちょっと様子がおかしいと思いながらも、甚六はそのまま庭先から座敷の中に乗り込む。

やい!二枚目!おとしまえを寄越せ!と包丁を取り出して脅した甚六だったが、いきなり乱入して来た甚六に驚いた兵庫一郎(宗方勝巳)は、誰だ、君は?と驚きながらも、そうか、こんな男を使って俺を脅そうと言うのか!などとそこにいた女性に文句を言う。

女性は怒って立ち上がると、部屋を飛び出し、表でタクシーを拾って去ってしまう。

後を追った甚六はその女性に見覚えがあった。 鬼気、巧くいきましたねとサブが近づいて来るが、甚六は去って行ったタクシーの方をじっと見つめているだけだった。

部屋に戻ると、依頼人の永子が来ており、甚六さん、へまやったでしょう? 一郎さん、女に会社を辞めさせてどっかに囲うつもりなのよ、もう良いわよ、頼まないわ!これから行って殺してやる!アパートに乗り込むんだから!などと興奮するので、彼女の住所知っているんですか?じゃあ、直接乗り込んでこわしてきましょう。

報酬をもらえないんじゃ仕方ないと甚六は言い出す。

あの女性のアパートへ乗り込んだ甚六は、何も知らず応対に出て来た宮城成美(生田悦子)を見て、似てる!とつぶやく。

甚六のことを怪しんだ成美は、社長に頼まれたのね!と警戒するが、話があるんだと甚六が話しかけても、誰が何と言おうと彼を狙うわよ!と言い張る。

すると、その表情を見ていた甚六が、似てるな〜と感心するので、おまわりさん、呼ぶわよ!と電話の受話器を回し始めたので、慌てて部屋に上がり込んだ甚六は、岡山永子さんって知ってますか?と用件を言う。

社長の彼女でしょう?と成美は答える。

そのとき、甚六は、テーブルの上に置いてあった写真立ての中の古い白黒写真に目を奪われる。

そこには、成美そっくりの女性と昔の小学生たちが写っていた。

美代子先生!と甚六が写真に呼びかけると、それは母の名ですと成美も驚く。

あの男は母を自殺にまで追い込んだ連中ですと言うので、美代子さんが自殺?と驚愕した甚六は涙を流し始める。

(回想)小学校の校庭で、子供時代の甚六は同級生たちから囲まれ、お前の家はどこなんだ?親類中回ってるんだってよ。おめえ臭いな?毎日赤ん坊の世話ばかりしているからななどとからかわれていた。

それに気づいた美代子先生(生田悦子-二役)が止めに来て、甚六君、お父さんやお母さんがいないのも、お金がないのも、あなたのせいじゃないわと優しく慰めてくれる。

遠足に行った時も、先生が弁当を持って来なかった甚六に自分の分を渡してくれる。

そんなに優しくしてくれた美代子先生が花嫁に行く時が来る。

文金高島田姿で出かけようとしていた美代子先生の所にやって来た甚六(穂積ペペ)は、先生には好きな人がいるじゃないか!お嫁に行っちゃいけないよ!などと喚きだす。

(回想明け)美代子先生の最初の幸福をこわしたんですと打ち明ける甚六。

私は娘の成美よ、あなたの名は?と聞かれた甚六は、富山甚六…と答え、先生は僕のこと、ジンジン甚六、ジンタカタッタタ〜!と呼んでくれた…、懐かしいな〜…と昔を思い出す。

そんな甚六に成美は、私はあなたにお願いがあるの、復讐です。私が生まれて間もなく父は亡くなり、その後、母をいじめ殺したも同然の男があの兵庫一郎です。

会社で秘書や経理をやっていたので、水増し工事や脱税など会社の不正資料を持ってあの男に迫ったけれど、もう少し資料が足りなかったため、あの席で口を封じようと私をものにしようとしていたのよと、料亭での出来事を説明する。

それを聞いた甚六は、じゃあ、私が乗り込んだのは無駄ではなかったと言うことですねと安堵し、やります、出来ます!やらせてください!と成美の復讐計画への協力を申し出る。

自分の部屋に戻って来た甚六は、成美から預かった会社の不正資料を机の引き出しの中にしまい込む。

そして、子供の頃の自分と美代子先生が写った写真が張ってあった古いアルバムを取り出すと、それを見ながら、先生!美代子先生!俺、一言、お詫びを言いたかったんだよ…と独り言を言い出す。

部屋の入り口にやって来たチュウさんとサブは、完全に自分の世界に入り込み、独り言をぶつぶつ言っている甚六の姿を見て唖然とする。

今夜は幸せだな〜…、月がとってもきれい…などと窓辺で言っている甚六を見ながら、月なんて出てないよね?とチュウさんに聞くサブ。

こういうのが、サイケデレッケと言うんだ…と、チュウさんも呆れたように答える。

翌朝、出社した甚六は、いつものように長野から遅刻を叱られるかと思いきや、僕は地方の営業所に転勤だ…と気落ちした長野から聞かされたので安堵する。

しかし、新しい徳島係長(南道郎)も長野に劣らぬ厳しい男だった。

甚六はそんな徳島に、一週間の病欠願いを申し出るが、俺なんか高熱を出しても会社に来たものだ!などと徳島が嫌みを言って来たので、では有給休暇に替えても良いですか?と言い直す。

その後、電気の検針員に化けて大兵建設の社長室に出向いた甚六は、漏電の検査を装い、一郎が仕事をしている机の横にある書類入れの検診を始める。

そんな所が漏電しますか?と一郎は聞くが、金属はみんな電気を通しますとごまかした甚六は、雨の日にはぴりぴりとするかもしれません、気をつけてね…と言い、一旦部屋を後にする。

その後、サブに手伝わせながら学生服に着替えた甚六は、ビルの地下が喫茶店だと聞くと、その喫茶店の支配人(岸野猛)に会いに行き、大学の音楽とモダンダンス部の合同パーティに借りていただきたいと申し込み、あらかじめ用意して来た借用書を差し出す。

その後、地下の喫茶店ではグループサウンズ(ザ・モップス)の演奏をバックに、若い男女のゴーゴー大会が始まる。 そこに参加していたサブと成美は、アンプの音を最大限に上げる。

地下から大音響が響いて来たので、2人の守衛(江口明、前田隣)が注意に向かう。

その隙に、甚六は再び階段をこっそり上がり、既に一郎が帰った後の無人の社長室内に入り込むと、懐中電灯の灯りを頼りに書類入れの引き出しを開けようとする。

色々苦心した結果、最初から鍵はかかっておらず、引き出しは自由に出ることを発見した甚六は、中に入っていた書類の写真を撮り始める。

一方、地下の喫茶店の支配人にエレキの音を小さくしてくれ、エレキの音を聞くと下痢をするんですなどと頼む守衛たちは、たまらずビル全体の電源を落としてしまう。

社長室の甚六は盗聴器を仕掛けようと、ドリルで机の下に穴を開け始めていたが、急に電動ドリルが使えなくなったので、きりで穴を開け始める。

地下では支配人が守衛たちに、ここはジャズ喫茶ですよ、契約書には音楽一切制限なしって書いてあると言いながら、契約書を出してみせたので、守衛たちは電気を元に戻し、すごすごと守衛室に帰るしかなかった。

甚六は電動ドリルがまた動き出したので、作業を急ぐ。

横田さん、大丈夫ですか?仮眠室で休んだらどうです?と、守衛室へ戻って来た1人の守衛が相棒に声を掛けるが、見回りがてら屋上で休んでますよと言い、守衛の横田は階段を上って行く。

社長室での作業を終えた甚六は、現場の確認をしながらドアの方へ戻っていたが、そのとき、足下で何かに蹴躓き大きな音を立ててしまう。

その音に気づいた守衛の横田は、守衛室へ戻ると、夏木さん、2階で変な物音が!と知らせる。

一緒に二階へ向かった夏木と横田は、ちょうど社長室から出て来た甚六を目撃してしまう。 慌てて逃げ出した甚六は、地下のジャズ喫茶に紛れ込む。

遅れてジャズ喫茶に降りて来た守衛たちは、怪しい人影を見失ってしまう。 まさか、演奏中のグループサウンズのドラマーが甚六に変わっていることなど気づくはずもなかった。

その後、一郎に電話をかけた成美は、新しい証拠が手に入りましたの、1千万は頂きませんと…と脅すが、君、ちょっと待ってくれ!2〜3日、考えさせてくれ!と一郎は頼むので、決心がおつきになったら連絡くださいと伝えて成美は電話を切る。

成美のアパートに来た甚六は、新たに手に入れた資料を見ながら、でっかい所と繋がっているとしか考えられないと驚き、向こうもどんな手を使って来るか分からん。

成美さんに何かあったら美代子先生に申し訳ないと言うので、成美は、甚六さんの心には母の面影しか残ってないのね…と悔しがり、私は成美よ!と自己主張する。

それを聞いた甚六は恐縮し、美代子先生のためばかりではない、あなたのためにも…と言い直し、ここにいては危ないから、僕の所へ来ませんか?と誘う。

しかし、さすがにそれは…と成美が躊躇するので、もちろん僕はサブの家に行きますから、あなたは僕の部屋を1人で使ってくださいと甚六は説明する。

その後、大兵建設の前にサブと一緒に車で監視と盗聴を始めた甚六だったが、そこに突然警官がやって来たので、長嶋が二塁打?と野球中継を聞いているように、運転席のサブがごまかし追っ払う。

社長室の一郎は、誰かに電話をしているらしく、僕が脅かされていることをご存知でしたか?と相手に恐縮し、東亜ホテルですね?と落ち合う場所を確認すると、その後、ビルの前から来るまで出発する。

電話を盗聴していた甚六は、東亜ホテルに先回りして待つことにする。

東亜ホテルの一室には、大東亜産業の香川部長も出席しており、滋賀副社長(内田朝雄)が、大曲造成会社や大兵建設は目標に十分に近い収益を上げたとその場に集まった重役たちを前に話をしていた。

一つ遺憾なことがあるやに聞いております…と滋賀副社長が発言した直後、部屋に入って来て灰皿を取り替えたボーイに化けたサブが、素早くテーブルの下に盗聴器を仕掛けて去る。

その直後、到着した兵庫一郎に対し、君が1000万をケチったばかりに、付けねらわれることになった。

このままでは組織のトップまで揺るがしかねないと滋賀副社長が苦言を呈すると、手段は講じていますと一郎は答える。

それを盗聴器で聞いた甚六は何かを察し、急いで成美のいるアパートへ向かうが、既に成美の姿はなかった。

兄貴、どうした?と外で待っていたサブが聞くので、家に行こう!と甚六は命じる。

しかし、「菊屋」では、サブの姉が縛られていた。

急いで二階の部屋の机の引き出しを確認した甚六だったが、恐れた通り、隠していた資料は盗まれていた。 そこに、姉を連れたサブが上がって来て、ヤクザ風の2人だってよと賊の様子を伝える。

サブと大兵建設へ戻ってみると、社長室の前に人だかりが出来ている。

それを見た甚六は、計画倒産だなと感づく。

一郎の家に電話を入れてみると、お手伝いが出て、旦那様は留守ですと言うので、東亜ホテルのことを全部分かっていると伝えてくださいと甚六が伝えると、やおら一郎が電話口に出る。

やっぱりいたか!成美さんをどこへ連れ出した?と聞くと、うちの会社を辞めて大分経ったからね…と一郎はとぼける。

甚六は、電話口で、先ほど録音しておいた東亜ホテルの滋賀副社長の声を聞かせる。

その上で、適当な手段とは何だ?と聞くと、こうするのさ…と一郎は首を絞める真似をしてみせるが、電話なので甚六にはそれが見えない。

しかし、側で一緒に聞いていたサブが、映画で見る「こうする」ってのは、大抵こうするんですよと甚六の首を絞める真似をしてみせる。

一郎は、テープとバーターしないか?と提案して来たので、良し、バーターに応じようと答え、場所はサブに聞かせると、明日の正午だな?と時間を確認し、確かに行くよ、逃げないで待ってろ!と電話の向こうの一郎に伝える。

下に降りると、そこには情報屋のチュウさんが来ており、ママに聞いたが、俺を置いて行くのか?と恨めしそうに聞いて来る。

甚六は、チュウさんにはどうしても残ってもらわないと困るんだ。

ここは二手に別れた方が良い。俺たちが戻らなかったら、テープのコピーを警察や新聞社にばらまいてくれと頼む。

それを聞いたチュウさんは、野球で言えばポイントゲッターって言うんだなと飲み込んだ風に言うので、それはサッカーじゃないか?と甚六は訂正する。

ママは、たった1人の弟サブが一緒に行くと知り泣きながら、何があっても甚六君の後ろから行くのよと言い聞かす。

チュウさんは、甚六の前でマッチを擦ってみせ、火打石の代わりだ、ご健闘を祈る!と挨拶をする。

その頃、とある山奥の小屋の前では、一郎に雇われたヤクザ(菅原文太)が、ダイナマイトを仕掛けていた人夫に、トロ助、導火線の上に目立たないように土を撒いとけと命じていた。

トロ助と呼ばれた人夫は、兄貴、本当にあの小屋をぶっ飛ばすのかい?と半信半疑のように聞く。

あの女を消さなければ、録音テープなどいくらでもコピーできると一郎はヤクザに伝える。

そのとき、トロ助と一緒に仕事を手伝っていた人夫が、腹減ったと言いだしたので、ヤクザは呆れるが、トロ助が、こいつは三食以外にも食わないとダメな男なんでさ…と詫び、飯の支度をするように命じる。

あんな連中で大丈夫か?とその様子を見ていた一郎は案ずるが、下の飯場の連中にばれないためには、あんなバカの方が良いんですよとヤクザは答える。

その頃、借り着の革ジャンを着て、身体の動きがこわばっていた甚六はバイクで現場近くから向かおうとしていた。

そんな甚六に車で同行して来たサブは、悪い予感がすると言うと、俺も今度はこわされそうな気がする…と答えた甚六だったが、失敗したら煙幕を焚くから、それを見たら確認した合図に一発その銃を射って、情報屋に知らせに行ってくれと頼む。

その後、バイクに股がり約束の小屋の前に到着した甚六は、約束通り録音テープは持って来たかと一郎から聞かれたので、持って来たテープをその場で再生してみせる。

すると、ヤクザが一郎に、2人一緒だぞと声をかけたので、卑怯な真似をするとこうだぞ!と睨みつけた甚六はその場で手を大きく振ってみせる。

それを近くの崖の上で確認したサブが、持っていたライフルで一郎の足下を撃って脅かす。

一郎が驚いたのを確認した甚六が、成美さんはどうした?と聞くと、丁重に扱っているよと一郎は答え、近くの崖の上にられた成美を連れた男の姿が見える。

成美の姿に甚六が釘付けになった隙に、ヤクザはその場を離れ、サブのいる崖を昇り始めていた。

近くの飯場小屋では、腹減ったと言っていた人夫が食事の支度を始めていた。

成美の縄が解かれ介抱したのを目撃した甚六は、カセットテープを一郎に投げて渡す。

しかし、見張っていたサブは、飯場から出て来た飯の支度の煙を甚六が失敗した合図の煙幕と勘違いし、銃を撃って合図をする。

こっそりサブに近寄っていたヤクザは、銃声を聞いてばれたと思い込み動きを止める。

銃声に気づいた甚六は、飯場小屋から立ち上っていた煙に気づき、サブの勘違いを知ると、サブさん!違う!と叫ぶが、聞こえるはずもなかった。

次の瞬間、甚六の前にあった小屋が大爆発を起こして木っ端みじんになる。

甚六は、逃げて来た成美の手を引いて一緒にバイクに乗るとその場から逃走する。

サブは、兄貴もこれでお陀仏だと嘆きながら、車に乗り込んで立ち去る。

一郎と子分たちは車で後を追おうとするが、もう間に合わないと気づく。

翌日、新聞には、大兵建設は、大東亜産業のトンネル会社だったことがすっぱ抜かれる。

それを読んだチュウさんとサブは大喜びだったが、甚六の会社が潰れたので案ずるが、当の甚六は、会社は壊れないよ。

美代子先生の復讐がひょんなことになった…。

1000万取り損なったのが惜しいけどなとけろりとしている。

それを聞いたチュウさんは、金なんてない方が良いのさ、乾杯しようと言いながら缶ビールを取り出すが、甚六は、2人でやってくれ。

休みの期限も切れたので会社に行こうと思うと言い残す。

まだあの会社へ行くのか?とチュウさんは呆れるが、8時から5時まで行っとけば、給料がもらえるんだ。

こんな楽な商売はないよと言い残し出かけて行く。

それを見送ったチュウさんは、こわしや甚六って良い奴だなとサブに話しかける。

サブが、缶を振って開ければ泡は吹き出さないよと言って、缶ビールを飲んでみせたので、真似したチュウさんだったが、やっぱり泡が吹き出してしまう。

総務課にやって来た甚六を見た秋田は、富山君、具合どう?一週間で良かったなと慰めて来る。

さらにやって来た徳島係長は、今日は仕事しなくて良い。

警察が調べているんだから!と叱りつけるように甚六に伝える。

部長も参考人として連れて行かれたよと秋田が教えているとき、山形課長がやって来て、トンネル会社を見破った奴がいるらしいね。

大したもんだ、君なんか爪の垢を煎じて飲んだ方が良いよなどと甚六に嫌みを行って来る。

その夜、プールサイドで甚六は成美と再会する。

成美は、甚六さん、私、今日はお別れを言いに来たの。甚六さんの故郷で音楽の先生になるの…と切り出す。 これでも音楽短大を出ているのよ。

私にその決心をさせたのはあなたよ。私、母を憎んでいたの。でもあなたから、易しい母の話を聞かされ、とてもうれしかった… これまで、誰からも母のことを聞かされたことがなかったんですもの。

あのとき、母が生き返ったような気がしたの。

最後に一つ聞かせて、あなた、母のこと愛してる?と成美が言うので、甚六が頷くと、やっぱり…、でも良いわ。勇気を出して言うわ。

私と一緒に行って!私と帰って、故郷へ! 私と結婚して!と成美が告白して来たので、聞いていた甚六は、成美さん、本当ですか?と驚く。

成美が抱きついて来たので、抱き返そうと下甚六だったが、心の中の声が、待て、ジンロック!結婚してもお前はこわす。不幸になる!と言うので動きを止めてしまう。

それに気づいた成美は、どうしたの、甚六さん、私のこと、嫌いなの?と迫って来る。

好きなんだ!でも近づかないでくれ!僕は何でもかんでもこわしたくなるんだ!僕は根っからのこわしやなんですよと言いながら、甚六は成美から遠ざかろうとする。

それでも成美は、私、そんなあなたが好きなの!こわしやのあなたが好きなの!と言いながら甚六に抱きつき、プール際に追い込む。

そんな2人はバランスを崩し、一緒にプールへ落ちてしまう。
 


 

 

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