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幻想館

 

高度7000米 恐怖の四時間

 

高倉健さん主演の航空パニックもの。

前からその存在は知っており、内容からして特撮が使われている作品ではないかと気になっていたが、実際に見て見ると大半が実機を使って撮影されたものばかりで、特撮シーンはほとんどなかった。

一カ所特撮が使われているのは、戦時中、胴体着陸を試みた健さんの戦闘機が、摩擦で火を噴く回想シーンだけ。

ここだけはさすがにミニチュアが使用されていたが、戦闘機が飛んでいるシーンは何かの改造機なのか、これ又実機であった。

内容は、後に「大空港」などでお馴染みになる空港パニックものそのもので、北日本航空と言う会社の協力で撮られている。

乗客たちも、威張る男、老人、子供、新聞記者、わがままな女など、パニックものに良くあるパターン通りのキャラが揃っている。

ただし、伏線かと思われたこれらの乗客の描写も、後半、全部生かされていると言う訳ではない。

何かに使われるのかと思っていた子犬なども特に事件には絡まないし、学生結婚のカップルも事件には全く絡まない。

そんな中、梅宮辰夫さん扮する車のセールスマンが出てくるが、残念ながら、当時は痩せたモデル風のイケメンと言うだけで、恋人役の中原ひとみさんほど目立った芝居はしていない。

副操縦士役の今井健二さんなども、後の悪役のイメージなど全くないさわやかな好青年と言った感じ。

久保菜穂子さんなども若すぎて、注意して見ないと本人と分からないほど。

そう云う意味では、健さんだけはいつの時代に見ても健さんだと分かるのはすごいことだと思う。

体型などをずっと維持しておられると言うことだから。

犯人役を演じている大村文武さんは、東映版「月光仮面」の祝十郎その人だが、目つきが悪いので、すぐに悪役専門のようになった人だ。

トニー谷も、TVの中の司会者と言う形でちらり登場している。

展開としては、若手中心のキャスティングだし、全体的に低予算の雰囲気が漂っているので、派手なパニック描写はないだろうと途中辺りから気づいてくる。 その予想通り、派手な展開や見せ場はなく、サスペンスものとしては地味と言うか、おとなしい印象になっている。

クライマックスの胴体着陸なども特撮を使わず一体どう描写するのだろう?と思っていたら、肩すかしのような展開になっている。

だから、ハリウッド作品のようなものを期待していると拍子抜けするかもしれないが、かつては日本でもこの手の航空サスペンスと言うジャンルの作品も作られていたのだと言うことを知るだけでも価値はある作品だと思う。

劇中で航空運賃の話なども出てくるが、東京-札幌片道1万1700円と言う値段はかなり高いと思う。

当時との物価変動を考えると、今だったら軽く10万以上くらいになるのではないか? 途中、中継地の仙台で30分の休憩を挟み、札幌へ向かうと言うコースがあったことも、この作品で初めて知った。

正直な所、びっくりするほど面白いと言う感じではないが、健さんファンなら一見の価値はあるだろう。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、東映、舟橋和郎脚本、小林恒夫監督作品。

高度メーターが7000mの所を指す。

タイトル

羽田空港の滑走路に近づく旅客機

東京の表玄関、空の終着駅とも言うべき羽田空港は国際Aクラスの空港である。(とナレーション)

毎月約1500機、1日に3万人もの人間がここに集まる。

これはDC−3と言う北日本航空の旅客機で、31人乗り。 (と、機体の映像にナレーション)

羽田発、仙台経由、札幌行き108便大雪号

13時50分出発の1時間前、パイロット山本桂三(高倉健)と副操縦士原(今井健二)がやってくる。

山本は6000時間を越えるベテランで、空港の事務室ででディスパッチャー(岩城力)から今日の天候を聞く。

盛岡付近に積乱雲が出る可能性があると言うことだった。

108便のスチュワーデスも出勤してくる。

ロッカー室で制服に着替えながら並木蓉子(小宮光江)が、今日はキャプテンが山本さんなので化粧も丁寧ねと同僚の大野みどり(久保菜穂子)をからかうと、ライバルが飛行機では敵わないわとみどりが言うので、あの男、奥さんが亡くなったときも平気で空を飛んでいたそうよ、意外とドライな所あるのねと蓉子は教える。

蓉子さん、つまんないこと言わないで!とみどりが言い返すと、みどりさん、あなたも彼のファンだったわねと詫びる。

その山本は、控え室で、札幌で飲むビールが楽しみだなと話しかけて来た原に、もう一度積乱雲のことを調べてくれと頼んでいた。

大丈夫だよと原が言うと、積乱雲がそう言ったのか?と山本は聞き返す。

原は分かりましたと答えながらも、自分にタバコを勧めて来た山本が、シガレットケースだけはいつも後生大事に持っていることを不思議そうに指摘する。

そんな原と付き合っている山本の妹から手紙が届いたと言うので、俺の所には何も言って来ないくせに…と山本は呆れる。

ただのラブレターだよと言う原からその手紙を見せてもらうと、今日は札幌までいらっしゃるそうでうですね。仙台でお目にかかりたいと思いますと言う連絡が書かれているだけだった。

妹さんのことは任せといてくださいと原は言う。

その頃、大雪号の乗客たちもバスで空港に到着していた。 この坊や信一(有坂サチオ)は、祖父(小島洋々)に見送られ、北海道の両親の元へ1人で帰るらしい。(とナレーション)

こちらは関取(岸井明)。

東京見物の帰りの老夫婦(左卜全、岡村文子) おや?もうひと組乗っていたはずですが…(とナレーション)

バスの中をバスガール(伊藤慶子)が確認すると、後部の方の席でいちゃついていた新婚夫婦森 (金子明夫)と森弘子(浦野みどり)が、羽田に着いたとようやく気づいたのか、慌てて降りる。

駆け落ちだろうか?そうではなく彼らは学生結婚した二人だった。 自家用車族も次々に空港へ到着する。

マダム族に社長族に外国人客ウィリアム(ハロルド・コンウェイ)とアリス(マリアンヌ・R・クリスプ)夫婦、さらに国籍不明の女も… 政治家族佐々田鉄平(殿山泰司)は万年落選らしい… この女性石川和子(中原ひとみ)は自動車のセールスウーマン。

乗って来たシボレーは彼女の昨日まで彼女の商品だったらしい。

そのシボレーで彼女を送って来たオヤジが、箱根に行く約束だったのに…と和子との別れを車中から惜しんでいると、札幌で仕事があるので…と言いながら、手を握ろうとしたオヤジに車のパンフレットを渡して空港内へ向かう。

空港内のカウンターに来た和子は、札幌の到着時間が17時30分だと係員から聞いていた着物の夫人の足下に置かれたバッグをつい蹴飛ばしてしまうが、その中に禁止されている子犬が入っていることに気づく。

子犬のことがバレたと感じた夫人は和子の方を睨みつけてくる。

その直後、空港に駆けつけて来た青年藤尾(梅宮辰夫)は、誰かを探している様子で空港内へ入る。

藤尾は、関取の写真を撮っていたウィリアムスの間を無神経に通過し、老人の持っていた杖を蹴飛ばし、信一が飛ばしていたゴム動力の飛行機を掴んでしまう。

そんな空港の喫茶室でお茶を飲んでいた夫婦は大新聞者の社会部デスク小林(加藤嘉)とその妻小林ふじ子(風見章子)だった。

勤続20年の功労を認められ金一封をもらっての夫婦旅行だったが、初めての飛行機旅行に浮き足立つふじ子が菓子を勧めると、飛行機の中で食事や菓子は出るんだよ、札幌までの片道1万1700円の料金の中に食事代も含まれているんだと苦々しそうに小林は言い聞かせながらコーヒーを飲んでいた。

そんな小林にふじ子は、だって私これまで日光から先に行ったことありませんもの。

あの時だって、玉ノ井の事件でダメになって…と愚痴をこぼすと、まだこの間の事件のことが気になるんですの?と夫が不機嫌なことを察して聞く。

しかし小林は、他社に特ダネを抜かれてことを気にするような年じゃないよと否定する。

その時、目の前で放映中だったTVで、豊島署の真珠店竹内次郎一家銃殺事件を流し始めたので、小林の目が釘付けになる。

本暁3時頃、夫婦と女中松本キヨの3人を殺害した犯人はまだ逃走中とのことだった。 発見者の隣家の小島さんも銃声には気づかなかったと証言していると言う。

そのニュースを見た小林は、旅行中止だ!とふじ子に言い、航空内の赤電話をかけに行くが、哀しそうな顔をして自分の方を見ている妻の姿に気づくと、受話器を戻し、ふじ子に近づくと、時間だよ、下へ行こうと優しく声をかける。

良いんですの?とふじ子が気遣うと、我が社にはうデッッ子機がいくらでもいるさと小林は自分に言い聞かすように答える。

老夫婦は、側で学生たちから歓声を送られている学生結婚の2人が、今放映中のTVで結婚式を挙げているので不思議そうに見比べる。

あの人たちは両方とも双子なんですかね?と老婆が言うと、ビデオテープと言うもので録画したものをTVで放送しとるらしいと老人の方も怪しげな知識で答える。

TVの中では、新郎新婦の二人を前に司会者(トニー谷)が軽妙なトークを繰り広げていた。

TV結婚式を選んだ理由は、景品として飛行機代がただになるからですって!と司会者は愉快そうに紹介し、三三九度代わりの酒は何が良いですか?と各種取り揃えた洋酒の敏を前に2人に聞く。

新郎の森は、酒が飲めないので、ブドー酒でと答え、新婦の弘子は、ウィスキーをダブルのストレートで!と豪快に答えるので、お酒も女性の方がお強いようでと笑いながら司会者は、まずブドー酒をグラスに注ぎ、弘子の方に渡す。

すると、弘子が一気に飲み干そうとしたので、飲み干さないで!と司会者は慌て、残りを森に飲ませるが、森は少し口に含んだだけでむせてしまう。

次いで、新婦の注文通りウィスキーのダブルのストレートをシェーカーに入れた司会者はブドー酒も少し混ぜ、氷を入れてシェイクし始める。 出来上がったものを少し自分で味見してみるが顔をしかめる。

空港内では、その森と弘子の新婚旅行を送迎しにやって来た学生たちが弘子と一緒に紙コップで乾杯していた。

ようやく探していた石川和子に会った藤尾は、僕もさっきの客に59年型のポンテを売るつもりだったんだ…と悔しそうに話しかけると、愛情は愛情、仕事は仕事よ!と同業者の藤尾に和子は言い放つ。

その時、石川さま!と呼び出し放送があったので、カウンターに行ってみると、空席が一つございましたなどと係員が言う。

和子は何のことか分からず戸惑っていると、そこに黒めがねをかけた男(大村文武)が近づいて来て、石川違いだったことが分かる。

やがて、13時50分発仙台経由札幌行きの搭乗開始のアナウンスがある。

着物夫人のバッグの中の子犬が鳴き出したので、夫人は周囲に気づかれまいと慌てるが、前の席からうれしそうに覗き込んでいたのは和子だった。 その和子の隣の席に座っていたのは、カウンターで会った男の石川だった。

機内では早速キャンディーとガムと言うおやつの配布が始まる。 老婆は、おやつがただだと知ると、孫の土産にちょうど良いと喜び全部取りあげたので、配っていた蓉子は全部は困りますと困惑する。

キャプテン山本は、原にしばし操縦を任せると、お前も操縦桿握るの、板について来たなと褒める。

藤尾は信一の隣だったが、海が見える!と信一が窓の外を見て言うので、九十九里浜だよと教えると、鹿島灘だよと信一はバカにしたように言うので、むっとした藤尾は蓉子から日本地図を貸してもらう。

佐々田はやって来た蓉子に、ビールをくれと声を掛けるが、国内線にはアルコール類はありませんと言われると、むっとして、わしは運輸大臣とも知り合いなんだぞ!と空威張りをする。

蓉子は一旦背後に戻ってくるが、また佐々田が呼び出しブザーを押したので、今度はみどりが行くことにする。

何か?とみどりが声を掛けると、君の相棒は態度が悪かったぞ、わしはビールが欲しいと言ったのにと佐々田が言うので、ビールでしたら北海道にビール園がございますのでご案内致しますわと答えると、君もいける方か?気に入った!名は何と言う?と聞いて来たので、大野みどりと言いますと答える。

すると佐々田は自分も名乗り、握手しようと手を差し出す。

小林は、窓から見えて来た筑波山の写真を撮っていた。

老人は、前の席の新婚夫婦がいちゃいちゃしているのに見とれていたが、それに気づいた老婆は、老人の頭を叩き、飛行機の中にも蠅がいるんだねととぼける。

和子はトランジスタラジオでニュースを聞いていたが、真珠店の一家を銃殺して逃亡中の犯人は元店員の木田正太郎と言い、顔は面長、神経質で、左足首から先は義足を付けているとまで聞いた所で電波の状態が悪くなる。

その時和子は、隣で寝ている石川なる黒めがねの男を怪しみ出す。

この人、切符リザーブしてなかった…、犯行の後駆けつけたのでは? それとなく、隣の客の左足の先を突いてみるが反応がない! トイレに向かい、個室に入った和子はさらに考え続ける。

でも間違いだったら失礼だわ…、名前も石川だって言ってたし…、でも偽名を使っているかもしれない…、上着を見れば分かるかも… そう考えた所でトイレを出た和子だったが、黒めがねの石川がこちらに向かって来たのでぎょっとする。

しかし、石川もトイレに入ったので、今がチャンスだと気づいた和子は、自分の席に戻ると、荷物入れに置いてあった石川の上着を勝手に取って、内側に縫い込まれているネームを確認する。

すると、そこには「木田」と書かれてあったので、やはりあの男が犯人だと気づく。

どうしよう!そうだ、藤尾さんに言おう!と離れた席に座っている藤尾に目をやろうとした和子だったが、既に木田はトイレを外に出ており、上着を持っている自分の方を見つめていることに気づく。

席に戻って来た木田は、和子の手から上着を奪い取ると、その上着を座った自分の膝にかける振りをし、その上着に隠すように拳銃を突きつけてくる。

おとなしく俺の言う通りにしていれば何もしねえ、ラジオでも聞かせてもらおうかと木田は和子に話しかけてくる。

貴金属商殺人事件捜査本部のある警視庁内では、幸田翼部(神田隆)が新聞記者たちに、逃げた木田の拳銃にはまだ3発弾が残っていることを打ち明けていた。

大雪号の機内では、その木田に玩具の拳銃を突きつけながら、信一が、そのお姉ちゃんと席を替わってくれってと藤尾の伝言を伝えていたが、お姉ちゃんはここの方が良いんだってと木田が答えると、ふ〜ん…と言った信一は銃を撃つ真似をしたので、木田は撃たれた振りをしてやる。

信一はそのままもとの席に戻って行く。

やがて大雪号は、中継地点の仙台矢野目空港に到着する。

乗組員たちが全員降りた中、木田と和子だけが席に残っていたので、降りないか?と藤尾が声をかけにくるが、私はここが良いのと和子は答える。

しかし、ロビーでお休みいただけませんか?機内点検をしますのでと蓉子が言いに来たので、仕方なく二人も降りることにする。

空港内の事務夜にやって来た山本と原を待っていたのは、山本の妹絹代(丘さとみ)だった。

絹代は山本に近づこうともせず、父さんも母さんも怒ってるわよ、先月、姉さんの命日にも顔を出さないで!と睨みつけ、はるおさん、行きましょうと原を誘って外に出る。

君も酷いこと言うなとソフトクリームを嘗めながら原が言うと、飛行機と心中しようと言う人にはあれくらいでちょうど良いのよと絹代は答える。

そして、結婚は来年にしようと言う原に、何故今年ではダメなの?と詰め寄るので、絹代さん、僕は一つ決めていることがあり、飛行時間が3000時間になるまで結婚はすまいと言うことなんだ。飛行機も満足に操縦できない男が奥さんを操縦できるはずないからねと原は答える。

分かったわ。その代わり、飛行機より私の方をかわいがってね?兄さんみたいな嫌よと絹代は甘えてくる。

山本は窓から、大雪号をバックにふじ子の写真を撮っている小林の姿を見ながら、その仲睦まじい夫婦像に微笑んでいた。

信一を連れ、ロビー内のカウンターに座っていた藤尾は、側にあった鏡を取り上げると、それに写った背後のロビーの様子を観察し出す。

すぐ後ろのテーブルに座っていた関取は何やら大量のデザートを食べていたが、その背後のソファに、木田と和子がぴったり寄り添うように座っているのを見つける。

木田は和子に、小さい頃、おふくろが俺を崖から突き落としたのでこうなっちまったんだと、自分の義足のことを打ち明けていた。

そろそろ戻ろうか?と飛行機に戻りかけた木田と和子だったが、途中、タバコの火を貸してくれませんかと頼まれた木田は、上着のポケットからライターを取り出し火を点けてやる。

その隙を狙って和子は横の通路に逃げ込む。

慌てて後を追った木田は和子の姿を見失うが、部屋の中に隠れていた和子は、ドアの隙間から通路の先のロビーを通り過ぎる信一と藤尾の姿を見つけたので、飛び出そうとするが、外で隠れていた木田に捕まり、顔を殴りつけられる。

再び飛び立った大雪号が松島上空に差し掛かった時、スチュワーデスの2人は又キャプテンの山本の話をし出す。

山本さんの奥さんが亡くなった時も、ちょうど松島の上を飛んでたのよと蓉子が言うと、私も知らなかった、千歳には知らせがあったらしいけど…とみどりが答えると、やっぱり本当だったのねあの話…と蓉子は山本が奥さんのことも気にせず仕事を続けていたことを言う。

操縦席では原が、盛岡上空でやはり積乱雲が発達してきましたと報告し、コースを変えるしかないかと山本も答えていた。

客席では、蓉子がリンゴを配り始めていたが、機体が揺れたため床にこぼしてしまう。

ふじ子は足下に転がって来たリンゴを拾ってくれるが、木田の足下に転がったリンゴを取ろうとしゃがみ込んだ蓉子は、木田が上着の下に隠していた拳銃に気づく。

木田は立ち上がって蓉子を連れ操縦席に向かう。

やっと解放された和子も立ち上がるが、その途端緊張の糸が切れて失神してしまう。

それに気づいた藤尾が駆けつけ、和子を介抱する。

操縦席に入って行った木田が銃を持っていたとウィリアムが騒ぎ出したので、それを聞いた林は、アイム、ニュースペーパーマン!と言いながらウィリアムに近づき詳しい話を聞こうとする。 操縦席に入り込んだ木田は、銃を突きつけながら、海の近い飛行場に降りろ!と要求する。

客席では蓉子が、あの方は警察の方ですと林とウィリアムに嘘をつき、みだりに騒がないようになだめていた。

気がついた和子は藤尾に、あの男が犯人よと打ち明けていたが、それに気づいた蓉子は近づいて黙っていてくださいと頼む。

操縦席の山本は、私が責任を持ってあんたを逃がしてやるから席に戻ってくれと答えていたが、俺は人を信用しないんだと木田が言うので、八戸に降りることにする、突然の変更なので、警察の手が回ることもないだろう、信用できないんだったら、僕が空港の外まで付いて行っても良いと山本は説得する。

直ちに山本は、当機は八戸空港に緊急着陸しますと機内アナウンスで客たちに知らせる。

その頃、羽田空港のカウンターにやって来た刑事たちは、108便に犯人らしき男が乗り込んだと聞き、今盛岡上空と知ると、連絡が取れませんかと係員に尋ねる。

一旦客席に戻り、背後のスチュワーデス室付近で機内食のパンと缶ジュースを口にした木田は、飲み残したジュースを近くの席にいた信一に渡す。

ふじ子は、あなた!と小林にすがる。 操縦席では山本が、キ○ガイにピストルじゃ言うことを聞くしかないと言っていたが、積乱雲の中に突っ込んでみたら?と原が提案すると、キ○ガイにハンドルってことになると山本は答える。

木田は、自分の写真を撮っていた小林に気づくと歩み寄り、殴りつけてカメラを取り上げると、中のフィルムを抜き取ってしまう。

すると、和服夫人のバッグの子犬が鳴き出したので、奥さん、人騒がせなものを持ち込んでいるな?と睨みつけると、怯えた夫人は黙ってバッグを差し出してくる。

俺にくれるって言うのか?と言いながら、バッグの中の札束を抜き取ると、俺が盗んだんじゃねえぜと言う。

さらに、和子の横に座っていた藤尾の所へ来ると、お前のスケか?と聞いて来たので、乱暴は止めろ!と藤尾が抗議する。

他の客たちも騒ぎ出したので、天井に向かって一発発砲する木田。 その銃声に気づいた山本は、皆さん、どうか抵抗なさらないでくださいと操縦席から出て来て訴える。

その後、機体は積乱雲の中に突入したので、雷が鳴り始め、客たちは怯え出す。

老婆は南無阿弥陀仏と拝み始める。

やがて接近した八戸空港に近づくと、何故か警官が二人立っていたので、操縦席からそれに気づいた木田は、貴様良くも騙したな!と言いながら山本を殴りつけると、計器盤に向かって一発撃つ。

やむなく山本は八戸への着陸を諦め、そのまままた上昇する。

苛立った佐々田は席を立ち操縦席の方へ近づくと、てめえたち、おとなしくしろ!と脅しながら木田が操縦室から出てきたので、驚いて席に戻る。

操縦席では、ビンタされたのは兵隊の時以来だと山本が原に打ち明けていた。

そこへ又木田が戻って来て、海の方へ出ろ!逆らったら背中をぶち抜くぞ!と命じる。

その頃、羽田の管制センターから501号機に呼びかけていたが応答がないので、札幌千歳に連絡することにする。

海の方へ向かう大雪号に、子やぎと一緒の子供たちが手を振って見送る。

海岸に不時着しろ!と木田は要求するが、この機体を着陸させるには1500mは必要だが、この辺にはない、断る!と山本が言うと、ドアの外のスチュワーデスに子供を連れて来い!と木田が呼びかけたので、山本はさすがに、待て!と木田を制し、君の言う通り不時着する。

裏日本にやると山本は伝える。

その後山本は原に、7000メートルまで上昇させる。その後、急降下させるんだ。その時僕が奴を突き飛ばす!それしかないと伝える。

指示を山本から受けたみどりは、機内アナウンスで気流の関係で上昇しますと連絡する。

空気が薄くなって来て乗客たちは苦しみ出す。

木田も苦しみ出し、おい!海はまだか!と山本に聞くので、山本はもうすぐだと答える。

ベルト着用ランプが点灯し、みどりも、ベルトをしっかりお締めになってくださいとアナウンスする。

みどりは再度、ベルトをしっかりお絞めくださいとアナウンスする。

高度メーターが7000を指した時、呼吸が苦しい木田は、いつまでこんな高い所を飛ぶんだ?と山本に文句を言う。

苦しかったら、客席に酸素吸入があるぞと山本は答え、木田が客席に戻った所で、1分経ったらやれと原に伝え、自分も操縦席を出て木田の背後に続く。

客席ではスチュワーデスが信一に酸素吸入していたので、子供が先だ、少し待て!と山本は木田に言い聞かせる。

やがて、1分が経過したので原は急降下を始める。

山本は、皆さん、ベルトを締めてください!と客たちに呼びかける。

畜生!と言いながら木田がバランスを崩したので、その背中を思い切り山本が押すと、木田の身体は吹き飛んで後部のドアにぶつかる。

床に落ちた木田は山本に向かって最後の弾を発砲、山本は左肩部分を負傷する。

しかし、木田に駆け寄った藤尾が銃を取り上げると、関取が綱で木田を縛る。

金を奪われた着物の夫人がお金を返して頂戴を叫ぶ。

幸い山本は急所を外れていた。

床にしゃがみ込んでいた山本の傷の具合を調べた小林は、山本が落としたシガレットケースを拾い上げる。

木田を縛って席に座らせた後、和子の隣に座った藤尾は、あの男と知り合いだと思ったと言うと、和子は、酷い!あなたの所へ逃げて行こうと思ったわと和子は怒ってみせる。

最初から僕と一緒にいれば良かったんだよと藤尾は言い聞かせる。

その時、窓の外に目をやった信一が、千歳空港が見えたよ!と声を出す。

小林は、負傷した山本の姿を写真に収めていた。

その時、副操縦士の原が、キャプテン!脚が出ません!と呼びかけたので、山本は操縦席に戻り、タワーに連絡しろと命じる。

千歳空港の運抗課長(増田順司)は、3本のパイプをつないで旋回して脚を出すんだ!と指示を出す。

みどりは機内アナウンスで、千歳空港に参りましたが、着陸の順番を待っておりますと嘘を良い時間を稼ぐ。 蓉子が信一を抱いて待機する。 その時、窓から滑走路を見下ろした佐々田が、見ろ!消防車だ!と叫ぶ。

ふじ子も窓から外も見て、消防車や救急車が来てるわ!と言うと、横の席で必死に記事を書いていた小林も、途中でことの重大さに気づき、えっ!と驚いて窓の外に目をやる。

旋回する大雪号の様子を管制塔から見守っていた運抗課長は全然出ていない!と悔しがり、操縦席の原も、何回やってもダメです!と無線で知らせてくる。

山本は、胴着をやろう!戦時中一度しか経験ないが…と言うと、乗客を前の方に集めるんだとみどりに指示し、一回勝負だぞ!と原に言い聞かす。

山本は機内放送で、脚が出なくなったので何とか出そうと試みましたが望みはなくなりました。これより胴体着陸しますと伝える。

それを聞いた佐々田は落下傘あるだろ?俺は外に出る!と騒ぎ出したので、蓉子は旅客機にはありませんと教える。

後部座席に縛ったまま座らせていた木田は、関取が前の方まで抱いて運ぶことにする。

乗客たちは席でめいめい祈り始める。

小林は万一のことを考え、ハンカチにこの記事を毎朝新聞札幌支局へ届けてくれと書き残していた。

乗客として乗り込んでいた僧侶が読経を続けていた。 そんな中、縛られて前の方の席に座らせられていた木田が、殺してくれ!早く殺してくれ!とわめき出す。

それに気づいた老婆が隣の席に座ると、苦しいかい?と声をかける。

すると木田は、婆さん、俺の首を絞めてくれと懇願して来たので、勝手なことを言うな!お前さんだけ死んでも浮かばれまい。今後は心を改めるかい?縄付きじゃ三途の川も渡れないだろうと言いながら、老婆は木田の捕縛を解いてやる。

いよいよ千歳空港の滑走路に接近した山本だったが、ふと戦時中、戦闘機に乗って胴体着陸をしたときのことを思い出す。

(回想)山本が乗った戦闘機は、胴体着陸した瞬間、摩擦で燃え始める。

(回想明け)待て!と山本は原に命じたので、原は操縦桿を引き、胴体着陸を間一髪中止するとまた上昇し出す。

今度は俺がやってみると言い出した山本は、怪我を押して、自ら操縦桿を握りしめる。 もう一度旋回して着陸態勢に取っていた時、管制塔の運抗課長が、脚が出たぞ!と喜ぶ。

みどりは機内アナウンスで、脚が出ました!と伝えたので、老人が、婆さんや、脚が出たそうだよと言うと。私たちはなかなかお迎えがきませんねと老婆は笑う。

108便大雪号は17時50分、無事、千歳空港に着陸する。

こうして27名の命は救われた。

人間が一生に一度出会うかどうかの事件だった。 しかし、人間とは何と言う健忘症の生き物なのだろう。(とナレーション)

無事着陸した大雪号の搭乗口から運び出された山本と木田の二人が、担架に乗せられ運び出されて行く。

それを感慨深げに見送る老夫婦。

信一を迎えに来ていた両親(滝謙太郎、不忍郷子)が、信ちゃん、良かったねとロビーで抱きしめる。

佐々田は、待ち構えていた新聞記者たちを前に、わしは勇猛果敢にギャングに立ち向かったよなどとほらを吹聴していた。

僧侶の一行がロビーを通り過ぎて行く。

学生結婚の新婚カップルのふじ子も、とってもスリリングだったわ!私たちの結婚はスタートからドラマチックなの、将来も乞うご期待って所ね!などと記者たちを前に陽気に話していた。

事件の感想を聞かれた関取は、ただ一言、腹減った…。

藤尾と和子も記者たちから写真を撮られていたが、和子は空港から出るとさっさと車に乗り込み出かけて行く。

もう宣戦布告か?と置いてきぼりを食らった藤尾が呼びかけると、商売よ!と窓から和子が答えてくる。

毎朝新聞に電話を入れていた小林は派手な見出しで頼むぜ!恐怖の4時間?それは良いね!と特ダネをものにできたうれしさにあふれていた。

乗客たちはもう事件の恐怖を忘れ、楽しんでいるようだ。(とナレーション)

パイロットたちも、無事に乗客を目的地に送り届ける仕事を果たしたにすぎないのだから… 医務室で怪我の治療をしていた山本の所にやって来た信一は、おじちゃん、どうもありがとうと礼を言い、一旦帰りかけるが、これあげる、弾も一杯あるよと言いながら、玩具のピストルを山本に渡すと両親の元へ帰ってゆく。

蓉子とみどりもそれぞれ山本の見舞いにやってくるが、山本はただ、君たちも良くやってくれたと声をかけただけで部屋を出てゆく。

その直前、机の上に置かれていた山本のシガレットケースが開いており、その内側に和服姿の女性の写真が張ってあったのを見ていた蓉子が、あの写真どなた?と聞くと、亡くなった奥様よ…とみどりは教えながら、山本に渡そうと持って来ながら渡せななかったプレゼントに目をやる。

その後、蓉子とみどりは医務室の窓から、原と外で合流し、そのまま大雪号へと戻って行く山本の後ろ姿を黙って見送るのだった。
 


 

 

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