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喜劇 男の子守唄

かつて小林信彦さんの著作だったか、松竹が映画のタイトルに「喜劇」と付けるようになって面白くなくなったと書かれていたように記憶しているが、その言葉通り、この作品に喜劇を求めていると笑うような箇所はほとんどない。

フランキーさんが着流し姿でホストをやり始める辺りが見た目的にちょっとおかしい程度で、後、笑わせるようなアイデアはほとんどないと思う。

どちらかと言うと、闇市派、焼け跡世代辺りにスポットを当てた悲劇的な下町人情ものである。

街娼たちの「肉体の門」のような回想シーンや全編に「星の流れに」が重なっている事から、メッセージ映画や歌謡映画の趣も少し感じられるが、喜劇要素は薄く、タイトルの「喜劇」の部分が余計なような気がする。

しかし、この当時の松竹映画は大体こんな感じであって、特に出来が悪い訳ではないのだが、かと言って魅力的とも言えず、あえて例えれば「売れないどさ回りの大衆演劇」のような安っぽさと泥臭さがある。

調べてみると、渥美清さんの「あゝ声なき友」の併映だったようで、この二本立てでは興行的には厳しかったのではないだろうか。

この映画の内容自体が、戦後の高度成長期に付いて行けずくすぶった人生を送っている主人公福田と同じで、時代に取り残されているような哀れさがあるのだ。

当時の松竹は、金をかけなくても脚本が良ければ客が呼べると言う古い考え方が支配していたらしいが、さすがに世の中全体が豊かになり、洋画大作もドンドン入ってくるようになると、そうした考えだけでは通用しなくなっていたはずだ。

ここに登場するキャラクターたちに感情移入できるかと言われると、かろうじて戦争を知っている世代だった親の小言などを思い出すくらいで、戦後生まれとして共感できる部分はないのだが、当時はまだ感情移入できる層がいたに違いないなく、そう云う特定世代向けの企画だったのかもしれない。

当時流行っていたヤクザやお色気要素を、松竹なりに取り入れようとしている所は分かるのだが、この当時の喜劇には何かと言えばすぐストリップが登場する感じで、本作でも倍賞美津子さんがストリップを披露するシーンが登場する。

そう云う通俗シーンも含め、全体的に「場末感」が著しく、これでは最初から女性客など望むべくもなかったのだろう。

古いTVドラマでも見ているつもりで見る分にはそれなりに見れなくもない内容なのだが、映画としての見応え感は希薄と言わざるを得ず、色々な要素が詰まっている割にどれも不完全燃焼気味のような印象を受ける。

ちなみに、劇中でチンピラの健坊を演じている真山譲二さんは、TVドラマの「柔道一直線」で赤月旭を演じていたなかなかのイケメン青年である。

「男はつらいよ」の初代おいちゃんで知られる森川信さんとタコ社長の太宰久男さんも出ており、森川さんは、「バカだね〜」と言うお馴染みのフレーズを披露している。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1972年、松竹、田坂啓+ 満友敬司脚本 、 前田陽一脚本+監督作品。

壁に写る手をつないだ親子のシルエットにタイトル

廃墟の中、1人佇む子供のシルエットを背景にキャスト、スタッフロール。

「ホテルニューオオタニ」が見える高速を通過し、新宿の繁華街にやって来たバスに乗っていたチンドン屋のメイク姿の福田清造(フランキー堺)は、同じくチンドン屋のメイクをさせて一緒に連れていた養子の太郎(小松陽太郎)に、今日は3月10日、28年前の今日、東京に大空襲があったんだ…。

その頃はこの辺は焼け野原だったんだと戦時中の話を聞かせていた。

今では洋服だってぱりっときれいになってきれいだし、あのビルだって誰が立てたんだか知らないが、俺は鉄やセメントの建物は嫌いだ。

あれもその内ぶっ壊れるだろうと福田が言うと、太郎が怪獣たちで東京はぺっちゃんこだねと答える。

2人は目的地の停留所で降りると、そのまま「マルヤマスーパー」の店頭にやって来て演奏を始める。

すると、婦警が近づいて来て、全ての子供には児童憲章と言うものがあるのよ。子供にこんな格好させて…、学校はどうしたの?と福田に聞いて来る。

学校が終わった子に何をさせようと勝手だろう?と福田が言い返すと、もう1人の婦警西本紀子(生田悦子)が近づいて来て、まだ10時過ぎですよね?学校は二時間目くらいでしょう?色々事情があるようですが、お子さんを学校だけは行かせてくださいね、くれぐれもお願いしますと優しく指導して来る。

仕事を終えた福田は、スーパーの経営者で昔なじみでもある丸山(森川信)の事務所でギャラを受け取ると、子供が主婦層に受けるだろうってんで、学校休ませて連れて来てるのにこれだけかい?と文句を言う。 すると丸山は、本当の子じゃないじゃないか。

お竜さんへの義理で育てているだけなんだろう?と嫌みを言うので、そんな気持で養子にしたんじゃないよと福田は反論する。

チンドン屋なんて遅れた宣伝だよとまで丸山が言うので、あんただって戦後は闇市やってたじゃないかと福田が言い返すと、そんな古い考えだからいつまでも今の商売から抜け出せないんだよと丸山は説教する。

下の店舗で待たせていた太郎の元へ戻って来た福田は、太郎が怪獣のソフビ人形を隠し持っていたので、睨みつけてそれを受け取ると、素早く袂の中に入れ万引きしてしまう。

安アパートへ帰って来た2人は顔のメイクを洗って落とすと、福田は太郎に、母ちゃんにただいまの挨拶しなと命じる。

部屋の奥の置いてあった仏壇には、太郎が描いた母親の似顔絵が写真代わりに貼ってあった。

太郎が拝むと、今度は福田が仏壇の前に座り、お竜さん、ただ今帰りましたと挨拶し念仏を唱えだす。

福田から窓を開けなと言われた太郎が窓を開けると、向かいのアパートの部屋で、窓を開けたまま着替えをしていたホステスのはるみ(倍賞美津子)が驚くが、太郎だと知ると、ガムを渡してくれる。

それに気づいた福田は、そんなものもらうんじゃない!コジキじゃないんだからと太郎を叱るので、いつもあんたが太郎ちゃんを継子いじめするからさ。

この欲求不満の中年野郎!いつも覗いているくせに!とはるみも言い返す。

夕食は買って来たコロッケだったので、太郎は、またコロッケかと不満を言う。

何贅沢言ってるんだ、父ちゃんがお前くらいの頃は、芋の蔓や葉っぱ、みかんの皮、歯磨き粉まで食ったもんだ。 お前はその頃の食料事情を知らないから…と福田が説教すると、またその話…、どうせ、父ちゃん、本当の親じゃないもんななどと太郎が言うので、福田は、もういっぺん言ってみろ!と言いながらついビンタしてしまう。

しかし、殴られた太郎は泣きもせず、福田の茶碗に飯を盛ってやる。

そして、コロッケを食べ始めると、このコロッケ割と旨いよと言うので、旨えか?と答えた福田は、殴った時に太郎の顔に付着した飯粒の事を教えてやる。

すると太郎は笑顔になって、頬に付いた飯粒を取る。

福田は、そんな太郎のけなげさについ泣き出しながら飯を食う。

6月18日、あんたの大事な太郎をぶん殴った… あんな事言われて、焦っているんだな… みんなには、又戦争が起こるなんて言ったって、俺だけ取り残されているうちに気が焦ったんだろう。

苛つくな…と、夜、寝床で福田は考えていた。 その時、隣の部屋から灯りが差し込んで来て、はるみが男を連れ込んで来た会話が聞こえて来たので、ますます苛ついた福田は、いつもの癖で、窓からそっと覗き始める。

半開きの窓から見えるはるみは、相手の男に、あんた、ストリップ見た事ある?と言うと、その場でストリップを始め、下着姿になる。

夢中になって覗いていた福田は、いつの間にか隣のベランダとの中間まで身を乗り出していたが、その時、父ちゃん!何してるの?と太郎から呼びかけられたので、夜の体操!とごまかしながら、隣とのベランダの柵に両手をかけ懸垂をする真似をするが力尽きて落ちてしまう。 それをはるみも驚いたように見ていた。

翌朝、福田は太郎のために、長嶋選手と同じ卵焼き入りの弁当を作ってやっていた。

児童憲章ってのがあるからなと福田が言うと、昨日の上玉のマスクに言われたからねと太郎が下品な言い方でからかう。

その後、沖尚人を立てて福田がうがいをしていると、隣のはるみが、夕べ泊まった中年男を送り出す所が見える。

それを皮肉るように、あんな女に誰がした〜♩と歌いながら窓を閉めようとした福田は、隣のはるみと顔が合う。

その日も、福勘(鳳啓助)、染太郎(京唄子)ら仲間達とチンドン屋の仕事をしていると、地回りのチンピラ2人が近づいて来たので、仲間達は、所場代取られるんじゃないかい?と怯えるが、福田はあいつは飲み友達なんで心配いらないんだと笑う。

ところが、健坊ことチンピラの健(真山譲二)は、会長がうるさいんだよと福田に所場代を払うように要求して来る。

子分の方が、会長だよ!と健に耳打ちすると、近くに黒塗りの乗用車が停まっている。

芝居でここで立ち回りを頼むよ、それで会長の顔が立つからと健は福田に小声で依頼し、福田もそれを承知し、仲間達にも知らせて、死んでもらいます!と飛びかかって来た健たちと少しもめた後逃げ去る芝居をする。

その後、福勘、染太郎と共に、ズンズンズンズン♩と「ピンポンパン体操」が流れる近所のラーメン屋で昼食を食う事にした福田だったが、福勘たちは、チンドン屋なんて辞めて華麗な転身をしたいな、今やホストの時代…などと他愛のない話をしていた。

アパートに帰って来た福田は、太郎がケーキを食べているのを発見、又盗んだんじゃないだろうな?と聞くと、大阪弁のおばさんからもらったんだよと言うので、知らねえ奴からモらタラ行けないって言ってるだろう!女からもらうと下心があるから!と言い聞かせながら、残りのケーキを箱ごと窓から捨てる。

すると、隣のはるみがやって来て、太郎にケーキを渡そうとするので、又ケーキだ!でも下心あるんだもんねと太郎が言い、福田はそのケーキも窓から投げ捨ててしまう。

それでもはるみは用事があるらしく立ち去ろうとしないで、私とおじさん、今まで馬が合わなかったでしょう、仲直りしない?と切り出すと、付き合っていた男がどうしても結婚したいって言い出したのよ。

でも相手には奥さんいるし、子供も3人もいるのよ…などと話しだす。

それでつい、自分にも子供がいるって言っちゃったんだ。太郎ちゃん貸してくれない?などと言うので、太郎を別れ話の種に使おうなんて!と福田が拒否したので、どけち!と言いながら、はるみは福田に座布団をぶつけて帰ってゆく。

翌日、福田はホストになっていた。

控え席で、着流し姿になって待っていた福田は、先輩ホストの大津(財津一郎)からヘルプとして呼び出されるが、席にいた有閑マダム(関千恵子)たちは、福田のあまりに場違いな貸し衣装と下品な言葉遣いに引いてしまう。

福田ちゃん、年いくつなの?と聞かれたので、32ですと答えると、子供がいる40くらいに見えるわねとマダムたちは呆れ、大津と別のマダムが踊りだすと、場が持たなくなったマダムが席を立つと、小便ですか?ご案内しましょうか?などと福田が言うので。マダムは結構よ!と怒って去ってしまう。

その後、太郎と屋台でラーメンを食べていると、あんたも子供抱えて苦労してるね…と屋台のオヤジさんが同情し、太郎にチャーシューをおまけしてくれる。

その時、指名だよと店員が福田に声をかけて来る。 席に行ってみた福田は、呼び出した相手が、昔なじみの蝶子(ミヤコ蝶々)だと知り驚く。

あれから丸2年経った万博で近所中うるさくなったから逃げて来たんや。お竜さんの子、太郎ちゃん元気か?と蝶子が聞いて来たので、いつかのケーキ頂いたのお姉さんでしたかと笑顔になった福田だが、最近はチンドン屋の方も不景気で…と、今の仕事に転職した事情を話すと、困った事があったら相談しに来て、お竜さんには借りがあると蝶子は言う。

10年前、大阪で始めたトルコ風呂が大当たりし、今じゃ金貸しやと蝶子が近況を打ち明けると、世の中も変わった物ですね、かつては天王寺のお蝶姉さんですものねと福田は感心する。

その時、ステージで演奏が始まり、蝶子が歌手を見て菊池章子や!と喜ぶ。

菊池章子が「星の流れに」を歌い始めると、その曲に合わせて福田と蝶子が踊りだす。

テーブルに戻った蝶子は、思い出すなあ〜、あんた、お竜さんに拾われたの10くらいの時やったやろ?と蝶子が聞くと、あの人は起床は激しかったけど、俺にとってはマリアか観音様見てえなお人だったよと福田は当時を思い出す。

(回想)進駐軍相手のパンパンをしていたお竜(倍賞美津子-二役)は、ある日、「福田清造」と名札を服に付けた少年を見かけ、チョコレートを渡す。

その後、お竜と行動を共にすることになった福田だったが、お竜は、掟を破った仲間を裸にして吊るし上げ、むち打つような非情な所もあった。

ある日、天王寺のお蝶と出会ったお竜は、互いに仁義を切り合い、互いに濁り酒を酌み交わす仲になる。 「青空マーケット」と言う闇市 少年福田は、売っていた握り飯を万引きする。

店主が怒って追いかけて来た隙に、店においてあった残りの握り飯は、周囲の大人たちに全部強奪されてしまう。

お竜は、この「青空マーケット」でも幅を利かせており、男がちょっかい出して来ても殴り倒す女傑だった。

そこにMPがやって来ると、仲間達が爆竹を投げて追い払う。

米兵たちが、女性を足を持って逆さまにして路地裏に連れ込むと犯し始める。

ある日、トラックで乗り付けて来たどこかの荒くれ者たちが、「青空マーケット」を破壊してしまう。

(回想明け)見てみい、このネオン…、これがあの焼け跡になるはずがない…と蝶子が言うと、お竜さんは、昭和36年安保の明くる年、オリンピック工事のうるさい中、死んで行きましたと福田が思い出すと、あの時死んだお竜さんの方が幸せかもしれん…と蝶子はしみじみと言う。

わいは今、養子でももろうて育てようと思う。

どや?太郎ちゃん、くれへんか?姉妹のようにしてたお竜さんの子が可愛うなって…と蝶子が言い出したので、福田は驚く。

あんたはまだ1人やないか、昼夜働くとなったら…、悪い事は言わんから、うちにやり、ちゃんと家庭教師付けて大学行かすからと蝶子に言われた福田は返事につまり、つい、でも女房がね…、何と言うか…、内妻ですね…、そいつが太郎を可愛がってね…と嘘をついてしまう。

それを真に受けた蝶子は、わいが内妻に会うて話そうと言い出す。 福田は困り、翌日、婦警の西本紀子に、明日だけ1日ママになってもらえまいかと相談に行く。

典子は驚きながらも、明日の日曜夕方は非番ですし…、良いわ、お引き受けしましょうと承知してくれる。

その時、警察署から健坊が出て来たので、あいつ、又何かやらかしたんだと福田が気づくと、パチンコの景品買いをしたのよと紀子が教え、健坊と子分は一緒のバイクに乗って去って行く。

ともかく、紀子に承知してもらえた喜びで、福田がうきうきして帰宅する。

アパートに帰ると、早速雑巾がけをさせる太郎に、母ちゃんと言うんだぞと命じながら、福田は花を生けたりし始める。

太郎の一日ママってことは、俺の一日女房ってことになるんじゃねえか?などと浮ついていた福田だったが、電話ですよと声がかかったので、アパートの共同電話に出てみると、それは紀子からで、明日、一斉取り締まりに駆り出される事になり、お伺いできなくなったと言う内容だった。

この事態に慌てた福田はケーキを持って、隣のはるみの部屋を訪れ、恥を忍んで、1日で良いから太郎の母親になってくれないか?と頭を下げる。

しかしはるみは、私を口説く気なら、もっと気の聞いたことを言いなさいよ!などと言うので、絶対口説かない!と言いながらケーキの箱を差し出す。

それでもはるみは、男がケーキを持ってくるときはおかしな下心がある時よねと良いながら、受け取ったケーキの箱を玄関から外へ投げ捨ててしまう。

ほんの母親の真似事だけです!そうしないと連れて行かれるんで…、男子一生のお願いだ!と福田は平身低頭して頼み込む。

はるみは、じゃあ、私の条件全部飲む?と切り出し、太郎ちゃんが遊びに来ても怒らない事、今後下品なうがいや大きな声を出さない事、着替えを覗かない事!と言うので、美容体操もですか?と福田は不満そうに聞く。

翌日、蝶子がやって来たので、はるみは窓越しに隣の部屋から入って来る。

蝶子は太郎に、怪獣バラゴンのリモコン玩具を土産として渡す。

迎えた福田は、姉さん、これが内妻ですとはるみを紹介する。

おい、茶を出せよと福田がはるみに言うと、私、茶はダメよと蝶子が言うので、そうだった、姉さんは酒だったですね、おい酒!と福田ははるみを指図して台所の方に行かせる。

なかなか若うてきれいな奥さんやな…と蝶子は意外そうに言う。 しかし、台所へ入ったはるみは勝手が分からず、酒瓶が見つけ出せない。

それに気づいた福田は、何年付き添っているんだ、バカ!と苛立ちながら場所を教える。

何とか酒瓶を見つけて持って来たはるみに、湯のみに酌をさせると、飲んだ蝶子は、こら焼酎やな…と蝶子は見抜く。

おつまみ出せよ!と福田が言っても、冷蔵庫の中を見たはるみは、何もないよと言うので、本当に気が利かないんだから…と福田は苛立つ。

すると、福田を目で外に招いたはるみは、バカにして、帰らせてもらうわ!と怒りだす。 そんなはるみに蝶子は、奥さん、太郎ちゃんを外へやってくれまへんか?と頼み、太郎がいなくなると、奥さん、太郎ちゃんを私に預からせてもらえませんか?福やんはあんなけったいな所で働いているし、あんたもバーかキャバレーやろな? 討ちに預けてくれたら、養育費以上の物を出すし、家に来たら一流の学校に行かせますと蝶子は言って来る。

ところが、それを聞いたはるみは、悪いけどお断りします。太郎ちゃんの事は今じゃ、本当の息子のように思っていますと言い返して来たので、それにしちゃ、あの子の着ているの、垢だらけや…、キャバレーで酒ばかり飲んで何できます?世の中銭や、あんたんとこ、貧乏人やと蝶子も負けていない。

するとはるみは、どうして人間、金を持つと慈善事業みたいな事したがるのかしら?このババア!と罵倒しだす。 その時、そこにいた太郎が、母ちゃん、もう1人の母ちゃんが来たよと言って連れて来たのは、西本紀子だった。

仕事が思いがけなく早く終わりましたので…と笑顔を見せた西本だったが、慌てた福田が外に連れ出すと、悪い人ね、担いだのね?奥にいらしたの奥さんでしょう?と紀子は睨む。

あれは三流キャバレーのホステスでね、僕は正真正銘の独身です!今日は珍しい客がドンドン来ちゃっただけですと福田は焦って弁解する。

それを部屋の中で聞いていた蝶子が、一体どないなっとんねん?と福田に迫って来たので、これが本妻で、これが2号などと苦し紛れの嘘をつくと、バカにするんじゃない!と怒ったはるみは部屋に帰ってしまう。

福田は慌てて、あれは離れと蝶子に言い訳したので、離れ過ぎてんじゃないの?と蝶子は突っ込む。

その後、福田は、焼け跡派の仲間達との同窓会に参加する。 田島(田端義夫)は、ギター1本で流しをしていると言う。 昔、ぽん引きをやっていたロッキー(ミッキー安川)は、缶詰の輸入業を営んでいると言う。

特攻隊の生き残りの志賀(立原博)も、場所を提供してくれた焼き鳥屋の大友(太宰久男)も、焼け跡時代の仲間だった。

あの頃は妙な希望があったよなと福田は嬉しそうに話す。

「マルヤマスーパー」の丸山にも、焼け跡同窓会に出席しないかと電話した大友だったが、商売忙しくてそんな暇ないよ!福田が?あのバカが来てるかね…、バカだね〜…。

会費まで出してそんな貝に出る気はないよと断られる。

それを伝え聞いた志賀は、あの店も借金の期限に迫られて手放すらしいよと噂を教える。

あの店も深夜まで営業するとか商売のやり方を変えれば良いのに…、買い取るとなればいくらかね?とロッキーが聞くと、1億!天王寺のお蝶が貸してるそうだと志賀が言うので、その話本当かい?一つ俺たちでその1億の肩代わりをしようじゃないかと福田が提案する。

俺が話付けて来たら社長にするか?と福田が言うと、半信半疑だった仲間達は、社長でも会長でもしてやるよと乗って来る。

そして志賀は田島に「帰り舟」をリクエストする。

田島が歌いだすと、みんな唱和しだすが、1人福田だけは窓から外を眺め、タバコを吸いながら真面目に考え込む。

翌日、訪ねて来た福田から話を聞いた蝶子は、何やて?マルヤマスーパーに貸しているかねの肩代わりをする?1億円の債券やで、あるのか?と驚く。

福田は、全員で集めた金が300万あるんだと言うので、残りの9700万は?と蝶子が聞くと、働いて返すからなどと福田が答えるので、常識を考えててん、お元気で、さようなら…と蝶子は冷たく言い放つ。

すると、蝶子の家にあった仏壇に手を合わせた福田は、お竜さん!俺のこの気持、お蝶姉さんには分かってくれると思ったんだ。 あのマーケットは、元は「青空マーケット」の場所で、俺たちの心の故郷なんだ。お竜さんの心もあそこに埋まっているんだ! 焼け跡派の強力で集めた金が300万、俺が2万出したから、合計302万!などと必死に仏壇に訴える福田の声を聞いていた蝶子は、少し気持が動いたのか、まあここ座りいなと福田を誘い、考えん事もない、おまはん、担保あるか?どや、交渉しようやないか?あんたが一番大事にしているもん、証文代わりに預かろうやないかと言い出す。

一番大事にしてるもん?太鼓?などと考え込んだ福田に、太郎ちゃんやと蝶子が言うので、太郎はダメですよと断るが、子供のないもんの気持ちが分かったんや、あの子、預かれば、金貸すでと蝶子は迫るが、ダメだって…と福田は困惑する。

その後、「マルヤマスーパー」の店頭に来て悩む福田。 レストランに太郎を連れて来た福田は、ステーキを食べさせながら、この間会った大阪弁のおばちゃん、好きか?嫌いか?と聞く。

好きだよと太郎は答え、あの車…と福田が言うと、シボレーだよと太郎が教えるので、乗りたいと思わないか?と聞くと、乗りたいと答える。

そんなステーキを毎日食べたいと思わないか?と聞くと、はっきり言えよ、あのおばちゃんの所へ行けって言いたいんだろ?と太郎の方が先に見抜いてしまう。

父ちゃんが言うんなら、俺、言ってやっても良いんだぜなどとませたことを言うので、つい福田はヤケになってビールを飲む。

後日、太郎は、そのシボレーに乗って、蝶子の元へ去って行く。

それを見送る福田は、哀しげな顔もせず去って行った太郎に、畜生め…、ちょっとは哀しそうな顔をしやがれ!と悪態をつく。

それからの福田は、ホストの仕事に行っても、「浪曲子守唄」をうなり、アイスペールに酒を入れ、がぶ飲みすると言う荒れようで、マドムたちは呆れてしまう。

そこへ、こちらも泥酔したはるみがやって来て、福田っているだろう?呼んでくれと指名してくる。

席に着いてはるみだと分かると、いらっしゃい、こりゃ珍しい、指名してくれてありがとう!と福田は皮肉を言う。

あたいは今日、文句を言いに来たんだよ、あんなごうつくババアに太郎ちゃんを渡しやがって!この人でなし!と言いながらビンタして来たはるみに、何でえ!この!と反撃しようとした福田だったが、つい泣き出してしまう。 アパートに帰って来ても、お竜さん、勘弁してください!と仏壇に福田は詫びる。

俺は一生懸命働いてたろうを取り戻す!見ていてくれよ!俺とお竜さんと3人で暮らすんだ、俺は必ず足ろうを取り戻すよ…と訴える福田の言葉を、隣の部屋にいたはるみがしんみり聞いていた。

そんな事も知らず、いつものようにうがいした水を窓から吐き出した福田だったが、気がつくと、向かいの窓は全開で、そこに立っていたはるみの顔はびしょぬれだった。

後日、丸山一郎から店の権利譲渡の証文を受け取りながら福田は、あんたはスーパー経営の手腕もあるし、昔なじみと言う事もあるんで、新しい店のマネージャーとして残ってもらおうと思っているんだ、協力してくれないかと持ちかけるが、店を失ってひねくれた丸山は、俺はチンドン屋風情に使われる気はない。

あんなごうつくババアのお蝶とグルになって!おめえさんに店の経営ができるかな?この浮浪児!と吐き捨てて去って行く。

その後、スーパーの社長としてお好み焼き屋に紀子を誘った丸山は、いよいよ今度は奥さんの番ですねと言われたので、照れながら、西本さんの方こそ、そろそろご結婚では?私なんか、デパートの7階の食堂の横でやっている中元バーゲンですよと切り返す。

でも福田さんはバイタリティがあるし、中年の渋さがありますわと福田を褒めた紀子は、太郎ちゃんは元気ですの?と聞いて来る。 知り合いの家に預けているんです。

家庭を持ったら取り戻すんですと福田が答えると、私も子供は大好きですと紀子は微笑む。

もう意中の人はいるんでしょう?と思い切って福田が聞くと、私だって結婚しようって人はいますと紀子は答える。

気がつくと、福田が焼いていたお好み焼きはハート形になっており、小手でひっくり返したとき撥ねた油が紀子の片目に入ったので、紀子は片目を閉じ、それがウィンクしているように福田には見える。

アパートへ戻って来ると、何とはるみが部屋の掃除をやっており、花瓶に花など入れてくれていたので、あんた、世話女房方の良い奥さんになるよと福田は褒める。

そして、あんたってバイタリティがあるし、中年の魅力があるか…とにやけながら独り言を言った福田は、俺、決心したんだ。近いうち、こんな所から出て、マンションに移り、結婚するんだ。

経営者としての体面もあるし…、知ってるだろ?西本さん、今日、あの人の気持を打診して来たんだと福田は打ち明ける。

それを聞いたはるみの表情はこわばり、花瓶の花を抜き取ると自分の部屋に帰り、洋酒をがぶ飲みしながら、こんな男に誰がした〜♩と哀しげに歌いだす。

「マルヤマスーパー」改め「青空スーパー」に新装開店を前に、店の前で嬉しそうに店の様子を見ていた福田は、「平和紙業」と書かれた軽トラに乗った健坊と子分が近づいて来た事に気づく。

俺たち下っ端はヤクザじゃ食って行けないので、今はちり紙交換をやってるんだよと健坊が言い、俺はここの社長になったんだと言う福田の言葉を信じようとはしなかった。

その時、社長!準備ができましたと従業員が呼びに来たので、希望を捨てちゃいかんよと言い残し店に入って行く福田を見て、健坊たちは唖然とする。

焼け跡派の仲間達に囲まれ、福田は社員は招待客を前に挨拶を始める。

焼け跡にお別れし、恥ずかしながら帰って参りました! そこに、西本紀子と健坊も招待客としてやって来る。

乾杯行こう!と言う事になり、青空スーパーの繁栄を祝して…と福田が乾杯の音頭を取ろうとする。

すると、健坊が、実は俺たち結婚するんだよと福田に告白する。

しかし婦人警官とチンピラとは…とその場にいた仲間達は驚く。

すっかり、こいつに補導されて…などと、照れながら健坊が言うので、1人茫然自失状態だった福田も、西本紀子さんと健ちゃんを祝してカンパイ!と泣き顔で音頭をとる。

みんながそんな福田の豹変を不思議がるので、嬉しいんだ!お前、良くここまでなったなと健坊に話しかけた福田は、良くここまで補導してくれましたと紀子にも礼を言う。

その時、社長、お電話ですと従業員が知らせに来る。

電話の相手は蝶子で、学校の帰りに太郎が行方不明になってしまったと言うではないか。

今、発砲探していますので見つかると思いますと蝶子は言うが、福田は紀子とともに、健坊たちの軽トラに乗り込み、太郎を探しに出かける。

町内の皆様、福田太郎君と言う小3のお子様が行方不明になりましたと、マイク越しに健坊が呼びかけると、紀子がマイクを変わり、身長は1m20cmくらい、黄色いセーターに崑のブレザーを着ていると思います。

見かけましたら最寄りの交番に知らせて下さいと呼びかける。

そんな中、八百屋さんが、はるみちゃんと手をつないで歩いているのを見たんだって!と近所のおばさんが知らせてくれる。

はるみが勤めている「ハリウッド」へ向かった福田だったが、はるみは昨日から休んでいるとマネージャーは言う。 手がかりが亡くなり、町内をうろついていた福田は、近くの「白馬車」と言う店から流れて来た「星の流れに」の有線放送を聞くと、何かを思いつき、その店に入って有線放送に電話を入れ、今流れている「星の流れに」の曲はどっから注文あったか分かんねかね?と聞く。

その頃、とある店のカウンターで、太郎にスパゲティーを食べさせていたはるみは、あんた、本当にあたいの所に帰って来たのかい?と聞いていた。

担保に取られるもんと太郎が言うので、父ちゃんとあたいはどっちが好き?とはるみが聞くと、母ちゃんの方が好き!と太郎が答えたので、バカ!あたいは母ちゃんなんかじゃないよとはるみは否定する。

母ちゃんになりそこなったんだよ。あたいと暮らすより、その方が父ちゃんは幸せな結婚ができるんだよ、あの女のポリ公とよ!と酔ったはるみはやけ気味に吐き捨てる。

その時、太郎が、あ、父ちゃん!と叫ぶ。

福田が店を見つけてやって来たのだった。

その頃、泥酔した丸山が「青空スーパー」の前に来て、みんなでよってたかって俺を追い出しやがって!覚えてろよ…と言いながら店内に入ると、酔った勢いでそこに置いてあった花輪にライターで火を点ける。

福田は太郎に、みんなで探していたんだよと声を掛けると、何だよ、子供売り飛ばしておいて!とはるみが絡んで来る。

そこに、蝶子もやって来て、太郎ちゃん!と呼びかけ、紀子と健坊もやって来る。

目が覚めた丸山は、目の前の花輪が燃え広がっている事に気づき、自分がやった事に驚く。

はるみはなだめようとして来た紀子に、うるせえよ、メスポリ!そのチンドン屋が惚れているのはおめえだよ。

もうじき結婚するって、この間あたいに告白したじゃないか!と福田に管を巻く。

すると太郎が、父ちゃんと一緒に帰ろうよ、母ちゃん!とはるみに呼びかけたので、これは隣の姉ちゃん!と福田は言い聞かすが、それを聞いた蝶子は、あんたら夫婦言うて嘘付いたんやな!天王寺のお蝶を知らんのかい!そのどってっ腹に穴開けて、新幹線と押すぞ!と蝶子がはるみ相手に凄んで来る。

そこへ、大変だ!青空スーパーが火事だぜ!と健坊の相棒が駆け込んで来る。

驚いて現場にやって来た福田は、同じく駆けつけて来た焼け跡派の仲間達と、消火活動もむなしく炎を吹き上げ、燃え盛っている青空スーパーを見て愕然とする。

思わずスーパーに飛び込もうとする福田を仲間達が必死に止める。

思い出すな~、あの時の事…とロッキーが呟くと、空にB-29が飛んでないだけだと志賀が答える。 でも、日の色っていつ見ても哀しいもんだな…と福田がため息をつく。

数日後、27年前を忍んで焼け跡パーティに集まり、円陣を組んで座った仲間達は皆、昔の闇市の頃の服装だった。

志賀は特攻服を着ていたし、蝶子はパンパンだった頃の派手な衣装を着ていた。

国民服を着た丸山も参加しており、みんな…、申し訳ねえ!先日の火事はこの俺が…と告白しかけるが、その言葉を途中で封じた福田が、誰かのタバコの不始末かスーブの不始末さ、みんなの責任だよな?と全員に語りかける。

その福田の気持を知った丸山は、すまねえ!と感謝する。

また27年前に戻っただけだと志賀が言う。 スタートラインに戻ったんだとロッキーも同意する。

私が貸した事になっている9700万、土地をうちに返すか、太郎ちゃんを渡すか、どっちにする?と蝶子が福田に迫る。

そこに近づいて来たのは、パンパンの格好を下はるみと汚い浮浪児の格好をした太郎だった。

お竜と昔の自分だと錯覚した福田は、化けて出たのかと思った!と2人に驚く。

私も仲間に入れてくれる?昔の事は分からないけど…とはるみが言うので、おい、座れよ!と進めた福田は、わんぱくでも良い、たくましく育って欲しい…とCMのようなことを言う。

それを見ていた蝶子は、もうええ、みんな手締めしよう。土地は私に返してもらう。

この子は…と言うと、手、出さんかい!とうなだれている丸山に声をかける。

良いのかい?と丸山も手締めに加わり、全員が「星の流れに」を歌い始める。

丸山は、しんみりしてその歌を噛みしめるように聴いていた。

カメラが引いて…終
 


 

 

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