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喜劇 団体列車

 

「喜劇 急行列車」に次ぐ東映鉄道路線第二弾で、映画の最後では、第三弾「喜劇 初詣列車」の予告を渥美さん本人が告知しているおまけ映像付き。

勉強嫌いでとぼけた所もあるが、根は真面目な国鉄マンを渥美さんが演じている。

国鉄の赤字解消のアイデアがないかなどと云った話題が出ており、当時の国鉄の窮状も何となく伝わってくる。

そんな地方勤務の国鉄マンがふとしたきっかけで出会った美女に一目惚れをし…と言うのは、寅さんでもお馴染みの展開だが、本作では、渥美さんの人柄に惚れて自らアタックするもう一人の美女がいるのが見所。

渥美さんが恋するマドンナ役は佐久間良子さんで、渥美さんにアタックするヒロイン役は城野ゆきさん、TVヒーロー「キャプテンウルトラ」のアカネ隊員である。

通常こうしたパターンでは、渥美さんに惚れる女性と言うのは三枚目的な女優さんパターンが多いのだが、珍しく美人女優が演じている。

ただ、画面上、しっとりした美貌の佐久間さんがいるためか、城野さんはやや影が薄いと言うか、印象に残りにくいのが気になる。

登場場面は少なくないし渥美さんとの絡みも多いのに、何となくちょっときれいな脇役女優さんみたいな印象しか受けないのだ。

その後、映画女優として目立った活躍がなかったのも、そう言った辺りのことも関係あるのかもしれない。

話は安定していると言うか、特別面白いと云うほどでもないが、それなりに楽しめる喜劇にはなっていると思う。

劇中で、子供が怪獣ごっこをしようと誘い、渥美さんがゴリラの真似を披露する辺り、「怪獣ブーム」の時代だったことが分かる。

劇中、渥美さんが、熱々のおでんネタを披露しているのも興味深い。

おでんネタと云えば、80年代の「オレたちひょうきん族」辺りで広く知られるネタになった記憶があるが、60年代頃から存在していたことになる。

漫才の「Wけんじ」や落語の「三遊亭歌奴」など、当時のTVの人気者がゲストとして登場しているのも楽しい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1967年、東映、舟橋和郎脚本、瀬川昌治監督作品。

山川彦一(渥美清)は、朝、自転車にまたがると、自宅である「山川雑貨店」の前から走り出す。

タイトル キャスト、スタッフロール(通学途中の女子高生に見とれてふらつく彦一) 勤め先である国鉄「伊予和田」駅にやって来た彦一は、倉持駅長(市村俊幸)が朝礼で、国鉄の赤字解消のための努力を訓示し、国鉄職員の心構えを言ってみたまえと名指しさせるが、爪楊枝を加えのんきに聞いていたので、しどろもどろの答えしかできず、みんなの前で恥をかく。

列車が到着したので、ホームに出て「伊予和田~!」と駅名を叫んだ後、改札業務に入った彦一は、一気に通り抜ける学生たちの最後の一人が、定期の日付を指で隠すような怪しいそぶりだったので呼び止め、不正乗車ではないかと定期を再確認するが、問題なく、単にその中学生(南幸伸)にからかわれただけだったと知る。

その直後、列車の車掌が一人の子供を連れて来て、どこからか一人で乗り込んで来たらしいと言うと、その子を彦一に預け、自分は列車に戻って行く。 彦一が年を聞くと5つだと言い、名前を聞くと志村敬一(原直人)だと言うので、どこから乗って来た?駅か?と聞くと、当たり前じゃないかと敬一はバカにしたように答える。

さらに、お城のある所と言うので、松山か…と当たりをつけた彦一は、さっそく敬一を連れて松山駅まで行ってみることにする。

しかし、松山では敬一の家を探し出せず、途方に暮れて駅に戻ってくると、ホームで会った駅員太宰淳一(大辻伺郎)が、山さん、又助役試験受けるんだろ?これで何回目だ?と聞いて来たので口ごもると、4回目だろう?合格したらお祝いしましょうなどとからかわれたので、彦一はむっと来る。

その直後、おなかが空いたので、敬一を連れ、近くの食堂でうどんを食うことにした彦一だったが、あまりの早食い、大食いなので、敬一はあっけにとられて見つめる。

さらに、さっきの話を聞いていたのか、そんなに食べるから頭が悪くなるんだよなどと言い出し、自分のママは学校の先生なのだと教える。 お父ちゃんは?と聞くといないと言う。

そのとき、そう言えば、宇和島にもお城あったな…と彦一が思い出すと、僕の家は宇和島!と敬一は言い出したので、早く言わんかい!と彦一は呆れる。 宇和島駅前には、宇和島祭りの宣伝トラックが走っていた。

事務所に敬一を預けた彦一は、伊予和田の駅長に電話を入れ、自分は折り返しの列車で帰りますと連絡を入れて事務所を出ようとする。

そのとき、妙齢の女性が近づいて来て、事務所の場所を聞いて来たので、すぐに敬一の母親と気づいた彦一だったが、あまりにきれいな女性だったので、ついつい見とれてしまい、事務所の中での敬一と母志村小百合(佐久間良子)と涙の対面をじっと見つめる。

帰りそびれていた彦一に気づいた駅員(仲塚康介)が事務所の中に呼び寄せる。

結局、彦一は小百合に勧められ、そのまま自宅まで同行することになる。 小百合の母親すみ江(津路清子)からもうどんを振る舞われたので、遠慮なく啜り込む彦一。

小百合と軽く雑談をし始めた彦一は、鹿島まで行きました。

今、四国一周の団体旅行を企画してますから参加しませんか?とつい仕事の延長で進めてしまう。

さらに、8年もお勤めだと助役さんか何かですか?と聞かれたので、国鉄の方ではそろそろと勧められとるんですが、役付は色々気苦労が多くて…とごまかしていると、縁側にいた敬一が、おじちゃん、試験4回も落ちたんだってさ!と大声で話しかけて来たので、彦一も小百合もばつが悪くなる。

子供の頃から試験が嫌いじゃった…と照れくさそうに彦一は打ち明けるしかなかった。 帰宅した彦一は、母親のお杉(ミヤコ蝶々)と飯を食っていた。

万松寺の和尚さんがきて、嫁をもらわんかと言って来たんだが…とお杉が言うと、わしゃ、助役になるまで嫁は持たん!とあっさり彦一が言うので、孫の顔が見たいから…、それに相手は駅長の娘さんじゃと…とお杉はなおも勧める。

しかし彦一は、嫁の話は良い、ビラを貼ってくると言い、四国一周団体旅行のポスターを持って出かけて行ったので、お杉は、弟の風間八五郎(由利徹)に電話をかけ、彦一は夕べの和尚さんの話を受けんちゅうたと伝える。

八五郎は、和尚さんと巧く行くように何とかすると答える。

その八五郎の理髪店にやって来た彦一は、勝手に店内に持って来たポスターを貼ると、億から顔を出した八五郎に、おじちゃん、良いじゃろ?と自慢する。

しかし、八五郎は、その隣の鏡に映った彦一の顔のことと勘違いし、ちょいと目が小さいが…と言うと、頭刈ってやると言い出し、今から出かける用事があると言う彦一を無理矢理椅子に座らせる。

出来上がった髪型は、ポマードで頭にぴったりくっつけたような奇妙なものだったが、彦一は気に入ったようで、八五郎も、今東京の流行の最先端だなどとおだてるが、彦一が店を出て行くと、写真とえらく違うな…と参考にした雑誌を見ながら自分で驚く。

万松寺に来てみると、和尚の了賢(河野秋武)、その妻絹代(楠トシエ)と共に、日高友造(笠智衆)、日高邦子(城野ゆき)も座敷で待っていた。

絹代が奥に下がると、大勢の子供たちが遊ぶ中庭の横の離れには、彦一のことを案じたお杉と八五郎が来ていた。

駅長さんの娘さんをもらえば、あれも出世やとお杉はうれしそうだったが、それを聞いた八五郎は、姉さん、駅長さん言うてもロープウェイの駅長やと訂正するが、お杉にはロープウェイが何なのか分からないようだった。

その友造は、彦一が4回も助役試験に落ちた話を知ると、自分も国鉄に42年も努めて8回も助役試験に落ちてがっくりしたと座敷で打ち明けていた。

酒を取りに台所の方へ向かおうとした邦子をそっと追って来た了賢が、彦一のことをどう思うかと聞くと、和尚さんに任せるわ!と邦子は笑顔で答える。

ある日、駅の休憩室でどか弁を頬張っていた彦一の元にやって来た駅長が、関口観光会社の250名の大口やぞと話を持ってくる。

その話の驚き、飯を喉に詰まらせながらも、相手がいる旅館に向かった彦一だったが、仲居が言うには、既に国鉄の人は来ていると言う。

不思議に思って座敷の外から様子をうかがってみると、先に来ていたのは太宰だった。

太宰は彦一の四国案内より好条件の北海道ツアーを、観光会社の関口社長(上田吉二郎)に熱心に勧めている。

先を越されたと感じた彦一はがっくりし、行きつけの飲み屋でやけ酒を飲むことにする。

するとそこに、洗面器片手で風呂上がりのような友造が入って来て、飲むなら家でと言うと強引に彦一を自宅に連れて行く。

自宅では邦子がおでんを作っていたが、突然、友造が彦一を連れて来たので驚く。

さらに、今銭湯から帰って来たと思っていた友造は気を利かせて、今から風呂に行ってくるなどと言いだしたので、二人きりにされる邦子は困惑する。

ちゃぶ台を挟み互いに座った二人は会話が巧く進まなかったが、その時、台所から煮詰まったおでんの匂いがして来たので、彦一のおなかがグーグー鳴り出す。

彦一はたまらず、おでんが煮詰まってませんか?と聞いたので、ようやく邦子も食事を出しそびれていたことに気づき台所へ向かう。 座敷で1人になった彦一は、壁に飾られていた友造の多数の表彰状に目を留める。

そこに邦子がおでんを持って来たので、彦一はこんにゃくが好きだと言うと、熱々のこんにゃくを口に入れるが、熱すぎて噛めない。

驚いた邦子が水を入れたコップを持ってくると、思わず吐き出したこんにゃくを、彦一は箸でつまみ直して、コップの水に浸しながら食べ始める。

こんにゃくお好きなんですか?と聞かれた彦一は、男は何とかの砂払いと云って、月に一度は食わないけん…などと答えるが、趣味を聞かれるとないと答え、せいぜい食うことくらいですが、このおでんの味付けは旨いですなどと褒める。

それを聞いた邦子は、私もっと勉強しなくちゃと恥ずかしそうに答えたので、意味が分からない彦一は、料理学校の先生にでもなるんかいの?と聞く。

さらに、子供は何人くらい欲しいですか?と邦子が聞くと、5人でも6人でもおったら良いよ、その内、野球チームができたりして…と彦一が適当に答えると、私のことどう思ってるんですか!私9人も子供生めんわ!犬や猫じゃないんですから、と邦子は突然怒り出す。

そこの至り、ようやく自分たちの結婚の話をしているのだと気づいた彦一は焦りだし、急に気分が悪くなった、急に用事を思い出した…と言うと嘔吐きかけながら帰ろうとしたので、今度は逆に邦子の方が驚きながらも見送るしかなかった。

自宅に戻ると、お杉が、小包が届いていると云うので、二階の部屋に上がってみると、小百合から先日の礼と一度ゆっくりお遊びにお越し下さいと書かれた手紙が同封されたかまぼこが届いていた。

その手紙を読んだ彦一は、僕は幸せだな~…と加山雄三のような台詞を言う。

その後の非番の日、彦一はさっそく宇和島に向かう。 駅の売店で汽車の玩具と200円の土産を買い、自宅に近づくと、敬一が家の前のみかん畑で遊んでいた。

敬一は、おじちゃん、怪獣ごっこしようよ!と言うので、彦一は怪獣カバゴジラ!と言うと、みかん畑に逃げた敬一を追ってゴリラのような真似を始める。

そこに帰宅して来たのが小百合で、石塀に置かれていた彦一の土産に気づき立ち止まって周囲を見回すと、みかん畑の中で一人ゴリラの真似をやっている彦一を発見し微笑む。

しばし、一人芝居を続けていた彦一だったが、ようやく我に帰り、自分を見つめている小百合に気づくと焦る。

わし、今日は非番で…と言いながら小百合に近づいた彦一は、ちいとお願いがあって参りましたと用件を打ち明ける。

助役試験が近づいているので、ちいっと教えてもらいたいんだわと言うと、私に教えられるかしら?と小百合が案じるので、高校の社会科のようなものですけんと説得する。

それから、非番のたびに、彦一は宇和島に出かけるようになるが、母のお杉は邦子の所へ言っていると思い込み、様子をうかがいに来た了賢にそううれしそうに報告する。

そこへ、歌を歌いながら上機嫌の彦一が帰ってきて、二階に上がって行ったので、お杉は階段の下から見上げて様子を見る。

すると、映画でもご一緒していただけませんか?などと小百合の真似をし、一人芝居の妄想にふけっている彦一の姿を見て首をかしげる。

そんなこたぁねえかな!と自分でノリツッコミしながらも、うれしそうな彦一だった。

その後も、小百合の自宅で勉強する彦一だったが、小百合の前に座っているだけでにやけてしまい、私を国鉄の偉い人と思って甘えないで!と小百合が叱っても、どうにも身が入らない。

少し2人で近くを散策することにした彦一は、旦那さんはいつ頃亡くなったんですか?と思い切って聞く。

4年前に亡くなりました。東京でみかんの直売の計画があり、向かった先で交通事故で…と小百合は打ち明ける。

その時、段々畑の上から二人を冷やかす声がするので見上げてみると、先日、彦一を改札でからかった不良中学生たちだった。

手がつけられないんですと小百合は言い、女子の前で良いとこ見せてみい!と中学生たちが挑発して来たので、彦一は中学生たちを追いかけ始めるが、途中足を踏み外し、肥だめに落ちてしまう。

アンモニアが目にしみるねえ~と嘆く彦一。

ある日、奥道後でデートじゃと言い、いそいそと又彦一が自宅を出て行こうとするので、お杉は巾着袋から5000円出し、巧いことやって来いよ、手くらいぎゅっと握って来い!と励ましながら手渡す。

しかし、奥道後遊園地にバスで到着した彦一は、小百合が敬一と一緒なので、こぶ付きか…とがっくりしていた。

鹿に餌をやったり金閣寺を見物後、ロープウエイに乗り込むが、ぎゅうぎゅう詰めの客の中、彦一は小百合の隣に立っていた。 自分の左手に隣の手が触っているのに気づいた彦一はドキドキし出す。

思い切って彦一はその手をギュと握りしめ、ますます興奮して多量の汗をかきだす。

それに気づいた小百合がハンカチで顔の汗を拭いてやるが、その小百合が両手を差し出したのに気づいた彦一は、自分が握っているのは別人のものだと気づく。

いやねえ、じいさん、手なんか握って!と声を上げたのは、彦一のすぐ後ろに立っていた老夫婦の妻(武智豊子)のものだったので慌てて手を離す。

その後、温泉で泳いでいた彦一は、温泉の外にいた裸の敬一が何かを除いているので、坊や、何見とるんじゃ?と言いながら近づき、その視線の先に目をやると、そこは女風呂だったので、覗きは早いぞ!と注意する。

しかし、あそこにお母ちゃんがいる!と言うのでどぎまぎしてしまう。

その直後、敬一は、側にあったワニの檻の鍵を開けてしまい、中にいたワニが温泉の中に侵入してしまう。

それに気づかず、一人温泉につかる彦一は、おじちゃん、ワニがいるよ!と敬一が声を掛けると、ワニの形をした温泉の流入口のことだと勘違いする。

しかし、何か股間を突くものがいるので、敬一のいたずらかと思った彦一だったが、それが本物のワニと気づくと、慌てて後ずさりそのまま温泉から逃げ出す。

やがて、助役昇進の第一次筆記試験が始まる。

太宰は余裕で書き終えていたが、彦一が苦戦していた。

しかし、結果は一時通過! 喜び勇んだ彦一は、小百合の中学に走って向かうと、グランドにいた小百合にパスしたことを告げる。

それを聞いた小百合は驚きながらも、おめでとう!山川さんと、手を握って喜んでくれる。

自宅で、一時通過の祝いをすることになり、お杉は、壁にかかっていた亡き夫の遺影(口ひげを蓄えた渥美清)を感慨深げに見上げる。

これでお前が嫁でももらってくれれば…とお杉は彦一に言うと、その嫁なんじゃがね、子供がおってもええかな?と彦一が答えると、そりゃ大変じゃ!とお杉は急に喜び出す。

まだ決まった話じゃないからと彦一はなだめるが、先方の返事は決まっとるじゃろ!死んだお父っつぁんは摩尼目やったのに、お前は早かったななどとお杉は一人で浮かれ出す。

そこに、客として招いた了賢、友造、邦子らがやって来たので、お杉は邦子の身体をねぎらい、そのおなかを見ながら、あんた目立たん方やね…などと首を傾げる。

みんなが席に付いた所で、祝言の日取りを決めんと…とお杉が言い出したので、彦一も客たちもびっくりする。

案ずるより産むが易しと言いますが、これと邦子さんとの間に子供ができたそうじゃなどとお杉が言うので、隣で聞いていた彦一は焦って、何を言うか!わしが言うとったのは小百合さんのことじゃ!わしは心の中に思う人があったんじゃ。

未亡人で子供が1人いるんじゃ、これから宇和島にいかんといけん、試験勉強の先生をやってもらっているんじゃ、皆さん、どうぞごゆっくり!と説明すると、そそくさと出かけて行ったので、ばつが悪くなった邦子は顔を伏せてしまい、お杉も自分の飛んだ勘違いをしていたことに気づき、粗相なことを言うてしもうたの…と恥じる。

しかし、宇和島の小百合は、校長の代理で出張に出たと母親のすみ江に聞かされた彦一はがっかりする。

明日面接試験だからと言い残し、家を辞去しようとした彦一だったが、みかん畑に座り込んでいる敬一に気づくと、坊や、さよなら!と声をかける。

しかし、敬一が返事もしないばかりかびくとも動かないので、おかしいと思い、側に寄って額を触るとすごい高熱を出していることに気づく。

こらいけん!と慌てた彦一は、敬一を抱いて、すみ江を呼びながら自宅へ戻ると、自分は医者を呼びに向かう。

医者が漕ぐ自転車に一緒に乗って戻って来た彦一だったが、途中で医者が転ぶと、自分がおんぶして家に向かう。

深夜の0時20分 布団に寝かせた敬一は、風邪だったが、付きっきりで看病する彦一に、せっかく一時通ったのに…と気の毒がるすみ江。 しかし彦一は、試験は落ちてもまた来年受ければ良いけど、坊やの命は一つですけんと答えるだけだった。

ママ!ママ!と敬一がうわごとで言うので、おじさんがついとるぞ!と彦一は声をかける。

翌朝、ようやく目を覚ました敬一は、おじさん、どうしたの?と言いながら起き上がろうとしたので、寝てりゃいけん!と布団に寝かせながら、奥さん!と彦一はすみ江を呼ぶ。

すみ江は、本当にありがとうございましたと礼を言い、試験の方は?と案ずる。

6時だ!と時間を確かめた彦一は、急げば間に合う!と言うと、家を飛び出し駅にひた走るが、ホームに着くと遠ざかってゆく列車が見える。

午前9時 昭和42年度助役昇進試験の面接が始まる。

出席していた太宰は、彦一の姿だけが見えないことに気づく。 試験官の代表中村駅長(小沢昭一)が、試験開始の挨拶を始めようとしたその時、ドアが開いて入って来た彦一は、大変長らくお待たせ致しました!帝国より3分遅れて到着致しました!などと言い出したので、良いから早く座りなさいと中村駅長が促すと、慌てて、試験官の木村(三遊亭歌奴)の隣に座ろうとする。

木村は、国鉄の赤字をどう克服すべきかをテーマに自由に討論してもらいたいと言い、伊予和田駅の山のアナアナ…山川くん!とまず彦一を名指しする。

しかし、慌てていた彦一は何も言葉が浮かばずテーマは何?と聞き返す始末で、側にいた太宰たちは失笑を始める。

試験官たちもそんな彦一の態度に呆れ、君!真面目にやらなきゃダメじゃないか!と注意すると、ますます彦一は上がってしまい、国鉄の赤字は黒字の反対でして…としどろもどろ。

山川さん、しっかりして!と呼びかける小百合の声を聞いたような気がした彦一だったが、もうダメじゃ!と叫ぶと、その場に昏倒してしまう。

後日、伊予和田駅の駅長に支社から彦一の不合格の電話があり、それを聞かされた彦一は便所に行って泣き出すが、小便をしに来た客に邪魔され思うように泣けない。 大便所の戸を叩くが全部塞がっており泣く場所がない。

その夜、馴染みの飲み屋で落ち込む彦一を、事情を知った友造が慰めていると、助役試験に合格した太宰がやって来て、やけ酒飲んでいるのか?今日は僕がおごるよ!僕には特級酒と鯛のお刺身!などと傲慢な態度を取ってくる。

その生意気な態度を友造が注意すると、40年も国鉄にいて助役にも慣れないなんてお呼びじゃないよな!などと太宰が言うので、それを聞いた彦一は、俺のことを言われるのは構わんが、こいつのことを侮辱したら許さんぞ!と立ち上がり、太宰の胸ぐらを掴むと店の外に連れ出し、そのまま友造の家にやってくる。

いきなり家の中に入り込んで来た彦一と太宰に驚く邦子。 彦一は太宰に居間に正座させると、壁にかけられた友造がもらった数々の表彰状を見ろと迫る。 その1枚1枚の内容を読んで来せた彦一は、赤シャッポはかぶれなかったかもしれないが、あの人は助役以上の人じゃ!それを侮辱するなど絶対に許せん!お前なんか友造さんの足下にも及ばんのじゃ!分かったら、友造さんに謝るんじゃ!と太宰を責める彦一の姿を、ついて来た友造と邦子は感激したように見つめていた。

さすがに後悔した太宰が、友造に土下座して謝り、山さん、今夜のことは忘れないよと彦一にも詫びると、もう良いんじゃ、もういっぺん飲み直そうや、今夜はお前の合格祝いをしよう!と彦一は笑顔で答える。

彦一と太宰が出て行くと、すっかり彦一を見直した邦子は、父さん、私、山川さんの団体旅行に参加するわ!私、どこまでも付いて行く。絶対結婚してみせる!と闘志を見せる。

いよいよ四国一周の団体旅行出発の日が来る。 駅前に集合する客たちの中には了賢、絹代夫婦、友造と邦子も混じっており、さらに小百合も敬一を連れやってくる。

邦子の胸に参加バッジを付けかけていた彦一は、小百合に気づくと、邦子をそっちのけで小百合にバッジを付けに行ったので、邦子の小百合への対抗心は燃え上がる。 まずは列車は高知へと向かう。

列車の中で、女性歌手(東ひかり)の歌に会わせ用意していた弁当を配っていた彦一だったが、気がつくと、自分たち搭乗員の分がないことに気づき首を傾げる。

「南国土佐を後にして」のメロディーとともに、はりまや橋や龍馬像、闘犬などが映し出される。 邦子は積極的に彦一と手を組んだりして自己アピールをする。

ホテル「高知マリン」に到着した一行は、宴会場で芸者姿の歌手が歌うショーを楽しむ。

そんな中、見慣れぬ二人の客(宮城けんじ、東けんじ)が、気安く彦一に話しかけてくるが、良く聞くと別の東京の団体客だと分かる。

二人の客は離れて行くと「バカだな〜!」などと言うので、彦一もバカだな〜…とぼやく。

夜中、彦一と同じ布団に潜って寝ていた敬一を起こしに小百合がやって来たので、それに気づいた彦一はそのまま寝せておけば良いですよと声をかける。

すると小百合は蒸し暑いですね、海岸へでも出てみません?私、お話があるんですの…と誘って来たので、彦一は何事かと期待に胸を膨らませ、服を着て後に付いて行く。

桟橋の所へ来た小百合は、私、本当に申し訳ないことをしたと思っています。

山川さんが試験に失敗したことを聞きました。あれ以来、私の所へも来てくださらなくなった…。

それで敬一を看病してくださったお礼とお詫びを言いたくて、この団体旅行に参加したのです…と話し出す。

そして、坊やの父親になっていただけないでしょうか?と言い出したので、本気ですかいの?と彦一は驚くが、山川さん!と言いながら小百合は彦一に抱きついてくる。

そして、彦一の頬にキスまでしてくるではないか! 可愛い人!と言うと、恥ずかしそうに桟橋の先の方へ向かった小百合に、小百合さん!わしゃ、あなたを幸せにします!と言いながら近づこうとした彦一だったが、桟橋のつなぎ目がはずれ、海に落下してしまう。

彦一は布団の中で溺れかかっていたが、同僚に起こされ、夢を見ていたことに気づく。

さらに同僚が彦一の浴衣が濡れていることに気づいたので、彦一は粗相をしたと勘違いして恥ずかしがるが、気づくと一緒の布団で寝ていた敬一のおねしょだった。

翌日、「金泉閣」と云うホテルに泊まった彦一は、夜中、又、一緒に寝ていた敬一を起こしに小百合がやって来たので、そのまま寝かせといてくださいと言うと、蒸し暑いですわね、海岸へでも出てみませんか、お話ししたい事がありますから…と、又、小百合が言い出す。

又夢かと気づいた彦一は、夕べと同じように服に着替えて一緒に外の桟橋の所へ付いてくるが、小百合が何かを話そうとすると、言わんでも分かっとります。

助役試験に落ちたのはわしの力不足、気にせんといて下せえと彦一は返事をしながら、桟橋のつなぎ目を用心深く足の先で確認する。

すると小百合は、山川さん、私が旅行に来たのはそれだけではありません、近々結婚して東京へ行くことになっているのです。

相手は主人のお友達で…と言い出したので、やっぱり夢じゃなかったのか!夢の方が良かったの…と彦一はぼやく。

もう少し早く山川さんとお会いしていたら…、私、山川さんのこと好きでしたと小百合が言うので、焦った彦一は足を滑らせ、本当に海に落ちてしまう。

何とか桟橋に這い上がった彦一は、小百合にハンカチで拭いてもらいながら、わしかて、あんたのこと好いとります!何故一緒になれんのですかいの?前から話があると云っても、そげなことどがいでもできることじゃないですか!と訴えるが、私、枠の中でしか生きられない女なんです。

お別れする前に気持をお伝えしたくて…と小百合は申し訳なさそうに答える。

我に帰った彦一は、わしゃ、えらく取り乱して失礼しました。

お優しいお気持ちだけでわしゃ十分ですわい。どうぞお幸せに暮らして下せえ!と彦一は言い、小百合は泣き出す。 町では阿波踊り祭りが盛大に行われていた。

邦子と友造も参加して踊っていた。 そこに、傷心の彦一がスーツ姿のまま参加し踊り出したのを邦子が気づく。

彦一は踊りながらも泣いていた。

そこへやって来たのは小百合で、踊りの列の中から彦一を探し出すと、山川さん、坊やいませんでした?と聞いてくる。

坊やなら旅館で…と彦一は言いかけるが、さっき祭りが見たいと云って起きて来たんですが、はぐれたみたいなんですと小百合が言うので、一緒に敬一を探し始める。

しかし、いくら探しても敬一の姿は見つからないので、おかしいの、そんなに遠くへ行くはずないんじゃけんど?警察に知らせんといけんかのう…と彦一は首を傾げる。

その時、列車の汽笛が聞こえて来たので、ひょっとしてと思いついた彦一と小百合は、鉄橋の所にやってくる。

敬一は、列車の玩具をレールの上に滑らせて遊んでいた。

線路内に入って探していた彦一は、落ちていた列車の玩具を発見する。 先の方を見やると、敬一がレールの上を平均台のように渡っているではないか。

次の瞬間、敬一は足を滑られ転んでしまう。

それを見た彦一は、坊や!そこに座ってろ!と声をかけ、自分は走って近づいて行く。

そこに向こう側から接近してくる列車。 彦一は敬一を抱きながら線路脇にうずくまる。

そこに、小百合と保安員たちが駆けつけてくる。

坊や!良かったの〜!と小百合は敬一を抱きしめ、保安員たちは安堵の声を掛けるが、当の彦一は緊張の糸が切れ気絶してしまう。

翌年、彦一は、5回目の助役試験に無事合格する。

伊予和田駅では、駅長らが乾杯をして祝ってくれる中、大阪での研修のため、彦一は2ヶ月出張に出かけることになる。

友造やお杉と一緒に彦一を駅に見送りに来た邦子は、あなた、寝冷えせんようにと声をかけてくる。

彦一は、その邦子が連れて来た乳母車の赤ん坊にミルクを飲ませる。

邦子との間に生まれたのは、公彦(渥美清)とみち子(渥美清)の双子だった。 船に乗って大阪に向かう彦一は、バッグの中から赤帽を取り出すとうれしそうにかぶってみる。

その時、ベンチの隣にいた女性の写真を撮ろうとカップルの若者がカメラを構えたので、それを自分を写そうとしていると勘違いした彦一はポーズをとってみせる。

その後、別の連絡船が近づいてくるが、その甲板に、夫(南廣)と敬一を連れた小百合が乗っていることに気づく。

おじちゃ〜ん!と敬一の方も気づいて呼びかけて来たので、小百合さ〜ん!坊や〜!と叫び返した彦一は、助役に昇進したことを知らせようと、ベンチにおいていた帽子を取り上げかぶって手を降り始めるが、その帽子は隣の女性がかぶっていた帽子だった。

それに気づかぬ彦一は、女物の帽子をかぶったまま、出発進行!次は伊代和田〜!と号令をかけるポースを披露するのだった。

ベンチには本物の赤帽が置かれていた。 船の航跡に汽笛が重なり「終」の文字。

どうも、渥美清です!と登場した渥美清が、今度のお正月映画として「喜劇 初詣列車」がスクリーンを出発することになりました。乞うご期待!と言いながら、列車の書き割りの前を隅の方へ移動する。

しかし、上手の照明のライトが映り込んだので、映った?どうもすいません!と笑顔で詫びる。
 


 

 

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