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幻想館

 

顔役('65)

 

鶴田浩二と高倉健さんが組んだ東映ギャング映画

劇中では「やくざ」と言っているが、雰囲気的には「ギャング」に近く、この後東映でブームが始まる任侠映画や実録風ではない。

関東、関西の二大勢力がぶつかりそうな雰囲気を背景に、いつも親分に利用されている切れ者の哀れな末路が描かれている。

冒頭の個性豊かなヤクザが集まって来る部分では、鶴田浩二を核とする下っ端軍団が集結し、巨悪と戦うヤクザ版「荒野の七人」のような展開を予想させるが、鶴田浩二と健さんとの義兄弟の絆話と、他の仲間たちとの話が巧くリンクしておらず、メンバーが揃っている割には盛り上がりに欠ける平板な仕上がりになっている。

石井監督にしてはアイデア不足と言った感じで、アクション映画としても凡庸なイメージで、クライマックスも拍子抜けで、全体的には大味な印象だけが残る。 

鶴田浩二が主役の兄貴分で、健さんはそのちょっと口数が多い舎弟役だが、三田佳子さんとの絡みなど、健さんの登場シーンが少ないと云う訳ではない。

この映画で一番気になるのは、健さんが劇中で吹いている口笛と歌ってみせるメロディが完全に「網走番外地」(1965年4月18日公開)の主題歌であること。

どうやら、それ以前から存在していた歌を監督が使ったもので、この直後に「網走番外地」への使用を会社から打診されたらしい。

見所と云えば、まだあどけない少女の面影が残る藤純子(富司純子)さんが出ていること。

劇中でマンガ映画が見たいと言っているのは、ディズニーの「王様の剣(劇中では公開当時の『王さまの剣』となっている)」のこと。

まだこの当時は「アニメ」なる言い方は普及していなかったのかもしれない。

醜い見た目にも関わらず、そんな純真な少女と心を通い合わせる孤独なヤクザを待田京介さんが演じているが、他の仲間たち同様、活躍の場が少なく物足りなさを感じる。

悪役たちもみんなあっけなく死にすぎており、1月3日公開と言う典型的なお正月映画だったのだろうが、全体的に盛り上がりに欠けるのが残念。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1965年、東映、笠原和夫+深作欣二脚本、石井輝男脚本+監督作品。

羽田空港に到着したJAL機から降り立った早見恭一 (高倉健)は、3年ぶりだ…、畜生!東京の匂いがしやがるぜ!とつぶやきタラップを降りる。

タイトル

モノレールに乗って移動する中神正治(鶴田浩二)や島崎(佐々木孝丸)の姿をバックにキャスト・スタッフロール

早見は、赤いスポーツカーで高速を走っていた。

「関東城政会様ご一行」と書かれたバスが走る。

代々木体育館側の会場に「関東城政会」と書かれた立て看板が立っていた。

受付の所を素通りしようとした宮田哲男(江原真二郎)は若い衆から受付でお名前をと呼び止められ、俺の顔を知らねえのか?と憮然としながらも、かったるいからお前が書けと受付の男に命じ名乗る。

そんな堅苦しい字じゃなくて、哲学の哲だなどと文句を言う宮田は、これからにヤクザはここが肝心だぜと自分の頭を指しながら言う。

続いて到着した中神を見た若い衆は、ご苦労さんですと頭を下げ、そのまま通過させる。

今のは誰ですと聞かれた兄貴分は、檜山組の中神だと教えると、兄弟分と敵地に乗り込んだって言う人か!と弟分が驚くので、あのくらいの顔を覚えておかないと渡世は勤まらないぜと兄貴分は言い聞かす。

その後に会場に到着したのが、右頬に醜い火傷の跡がある染谷勇(待田京介)と早見だった。 お互い地方に飛ばされていたからなと早見は苦笑する。 桑原次郎(アイ・ジョージ)と安積徳三郎(曽根晴美)コンビもやってくる。

やがて、総会が始まり、前に座った檜山義一会長(安部徹)の横で、花岡章(天知茂)が、ただいまより「関東城政会」関連84団体の幹部会を行いますと挨拶を始める。

続いて会場全面の壁に参考写真をスライド映写をしながら、花岡の説明が続く。 今、政府が3兆の予算をかけ、埋め立て地の再開発を進めており、100万都市が三つできる。

大企業のコンビナートや団地も入る予定になっている。

この土地30万坪を県が漁業組合から買い取り実権を握っている…と花岡が言っていると、スライドに映った吉川市長(神田隆)の顔を知っていた島崎が、飛んだ所で再会したな…とつぶやく。

この土地を最近、関西同志会が狙っており、関東進出の拠点にしようともくろんでいる…と花岡が続けると、写真に写った甲田(遠藤辰雄)や尾関(宇佐美淳也)の姿に場内が騒然とし出す。

説明を終えた花岡に促され立ち上がった檜山は、この土地を関西勢が狙っている、我々84団体が死に守しねえといけねえ。

整地の入札は甲田建設の名前で落とそうとしている。

この大役、檜山に任せてくれないか?私が全精力をかけて関西勢力を阻止しますと檜山が申し出ると、満場の拍手で承認されたので、花岡が再び前に出て、ダイニングルームにお食事が用意してありますのでそちらで皆様ご歓談をと告げる。

早見は中神に会うと、オヤジの奴出しゃばり過ぎじゃないですかね?俺たち10年も臭え飯食って来たのに、浜松くんだりまで飛ばされて…と愚痴っていると、そこに花岡が近づいて来て、支部長では不満か?と早見に言うと、会長が別室でお呼びだと二人に伝える。

別室では檜山会長が東日開発の山脇(内田朝雄)に、もう半分は成功したものですなどと話している所だった。

染谷も呼ばれていたが、中神の顔を見た檜山は、難しい話になるとお前を頼るしかない、檜山組34人の中でお前くらいしか見当たらんなどと世辞を言ってくる。

幹部会の後、早見の車で帰る中神は、又、オヤジの悪口を言い出した早見に、お前は失言が多すぎる、離れていてもそれだけが心配だったと言い聞かす。

青葉マンションに到着した2人は、中神の内縁の妻玲子(佐久間良子)と赤ん坊が待つ部屋にやってくる。

珍しい客だぜと中神が言うと、早見さんね!と玲子も喜ぶ。

どうしても、赤ん坊の顔が見たいって聞かないでね…と中神は苦笑する。

竹内一家に殴り込んむきっかけになった兄さんが死んで13忌よと玲子は言うと、俺が拾われたのは、殴り込みの1年前だったからな…と早見も思い出す。 スコッチありますよと早見に声をかけた玲子は、編みかけていた毛糸の帽子を中神の頭にかぶせてみせる。

風呂浴びて来いと中神は早見にタオルを投げて渡すが、受け取った早見は、抱いていた赤ん坊がおしっこをしたことに気づき、冗談じゃねえよと嫌な顔になる。

埋め立て地に来た早見は、得意の口笛で「網走番外地」を吹いていた。

そうした早見たちの様子を遠目で監視していた甲田(遠藤辰雄)とその子分たちが、プレハブの事務所にやって来て、責任者は誰やねん?中上さんとやらはいてへんのか?と聞いてくる。

その時、いるぜ!と声がして便所から出て来たのは早見だった。

中神建設から挨拶があったんかいな?と甲田が嫌みったらしく言うので、そのことなら、今、兄貴がそちらにご挨拶に伺ってるはずですぜ、自分が舎弟の早見ですと早見は答えたので、何や、あんたが中神はんやなかったんかいなとぼやきながらも、仲良うやりましょうと甲田は言う。

うちの中神は火薬の匂いが好きなんですよと早見が余計なことを言うと、社長からのお祝いだすと云いながら、甲田組の武藤総長(潮健児)が大きな花束を置いてゆく。

良い啖呵切ってくれたな、俺も火薬の匂いは嫌いじゃないからな…と早見に桑原が声をかけた時、背後の花束の中から爆竹がはじける音がしたので驚く。

それを見た染谷は、粋なプレゼントをしてくれた…と苦笑するが、事務所を後にしていた甲田たちは、外で大笑いをしていた。

埋め立て地一帯を仕切る漁業組合の元締め小杉末造(曽我廼家明蝶)の家を訪ねた甲田組の子分たちは、表札の横におまじないが張ってあるからと応対に出て来た小杉に言われ、何のことかと門の表札の横を見ると「獅子舞、押売りお断り」と書かれてあった。

一方、甲田自身は吉川市長を訪ね、他の業者を入札に参加させないように頼む。

すぐに、他の建設会社に電話を入れ、関西の甲田組に落とさせるから今回は遠慮してくれと市長のお達しが回る。

その結果を知った甲田は、ご無理願うておおきに!と吉川市長に礼を言う。 甲田組は埋め立て地界隈で花札賭博を開催し、負けた地元民たちから博打の方として土地の権利書を次々に奪い取っていた。

その頃、中神は地元でバーを経営している旧友の柏田弘(大木実)を開店前に訪ねていた。

互いに「まあちゃん」「ひろし」と呼び合う二人は、かつて海軍仲間で、共に霞ヶ浦から飛び立ったものの助かった間柄で、闇屋で「ばくだん」を飲んで別れて以来の再会だった。

中神はそんな柏木に、小杉の親分さんに話をつけるようにしてもらいたいと頼む。

二人とも戦後言ったんはヤクザの道に首を突っ込むが、柏木の方は今やすっかり堅気になっていた。 ただ紹介するだけで良いんだな?と柏木は念を押す。

そこにやって来たのが、柏木の妹真弓(三田佳子)と、新聞記者の秋田吾郎(長門裕之)だった。

秋田は大スクープを掴んだと言いながら真弓と一緒にカウンター席に座ると、新浜市の土木課長が自殺した。

参考人に呼ばれたら首を吊ってしまったと言う。

その話を聞いた中神は、弘!さっきの話はなかったことにしてくれと言い残し、そそくさと帰って行く。

甲田組の事務所では、武藤があんぱんを食いながら珍しく英語の雑誌を読んでいたので、仲間が雑誌が逆さまであると教えると、恥をかかしたそいつの顔にあんぱんを押し付けてくる。

そんな中、甲田は、秋田が書いた土木課長の自殺の記事を新聞で読んでいた。 後日中神は、柏木の仲介で、小杉に会うことができる。

中神は単刀直入に、埋め立て地の入札が私たちに落ちますようお願いしますと挨拶するが、どっちに落ちても利害が反すると小杉は答える。

ここが関西に落ちれば血の雨を見ることは間違いありませんと中神は説明するが、どっちがどうなろうと素人には関係ないこと…と小杉は平然と答える。 この辺では生活の糧の土地を博打で取られる奴が出て来た。

ヤクザと言う屑が入り込んで来たからだ!と小杉は厳しいことを言う。

一方、早見は吉川市長に市長室で会うと、土木課長はあんたの罪署って首吊ったそうじゃないか?3ヶ月前3500万土地を買ったそうだな?他人名義にしてあるが、奥さんのニコニコ貯金でも無理だろう? 小杉って言う漁業組合の落札価格を教えてくれれば良いんだよと脅していた。

そこに、次の面会人として取り次がれ、青光園の拡張の件についてと云いながら入って来た真弓の姿を見た早見は驚いた顔になる。

真弓の方も早見に気づくと仰天したようで、用件もそっちのけで、そそくさと市役所から帰ってゆく。

新浜市「青光園」と云う孤児院に戻って来た真弓は、表の水道で喉を潤し息を整えようとするが、そこに口笛の「網走番外地」のメロディが近づいてくる。

止めて!と真弓が抗議すると、ちっとも変わんねえな…、それが3年ぶりに会った言葉か?と言いながら、早見は微笑みかける。

もしあなたが足を洗ってくれてさえいたら…と真弓は悔やむように答える。

俺、又ちょくちょく来るよ…、あんたに会いにじゃないぜ、分かってるだろ?俺、孤児院出身だってことを…と早見が言うと、故郷を懐かしむのねと真弓が答えたので、誤解のないようにな…と言い残し立ち去る早見。

ヌードダンサーが踊るバーで、染谷は、同じテーブルに座ったホステス2人のうち、客の前だと云うのにうれしそうにフルーツを食うまだ幼さが残る民子(富司純子)に呆れていた。

もっと食べても良いと言われた民子は、カウンターにフルーツ盛り合わせをもらいに行く。

そこに柏木が来て、先に来て待っていた中神と合流すると、2人は話をするため二階席へ移動する。

中神は染谷に上にいるぞと声をかけて階段を上って行く。

もう一人のホステスが自分の顔を気味悪そうに見つめているので、そんなに傷を見てえのかよ?と皮肉ると、そのホステスはちょっと失礼するわと云って席を立って行く。

すると席に残った民子が、ねえ、踊らない?と誘って来たので、踊ったことねえんだよと言い、気持悪くないのか?と右頬の火傷を見せた染谷だったが、民子は何でもないじゃないと平気な様子だった。

踊り始めると民子は、民子ね、見たい映画があるの…、マンガ!と甘えて来て、染谷が良いよと答えると、頬にキスしてくる。

そして、今度の日曜が良いわ、約束!と言い、染谷と指切りげんまんするのだった。

埋め立て地の事務所に残っていた桑原と安積はくだらないことで言い争いをしていたので、イライラしてるのも分かるよと同じく留守番役の宮田が同情する。

それを聞いていた早見は、ねえ宮田さん、言い分があるんだったら、兄貴の前で言ってもらいましょうか?と言葉をかけると、おい早見、おれもお前が目障りだった。

愚連隊上がりのひよっこが!といきり立ったので、兄貴たちにもめられちゃ、俺たちの立つ瀬がないよと、宮田と早見の間に立った安積が狼狽する。

その時、染谷と中神が戻って来て、告知日は調べたか?と早見に聞いて来たので、7日で入札は1週間後だそうですと答えると、そんな大切なこと何故もっと早く言わない?と中神が文句を言うので、早く言ったらどうにかなりましたかね?と早見はつい言い返してしまう。

すると、中神は早見の頬を叩き、失言が多すぎるぜ!と注意する。 中神と一緒に戻って来た染谷は、事務所の前にいた犬を抱き上げていた。

ハジキにものを言わせた方が良いんじゃねえか?と宮田が言い出すが、俺の采配に任せてくれ、お先走った真似は許さねえぞ!と中神は言い聞かす。

その後、中神の所へ訪ねて来た柏木は、小杉のオヤジさんが来てくれってと呼びにくる。

中神を前にした小杉は、柏木、不満だが落としてやるんだと同行して来た柏木に義理立てするように言うので、何かご不満でも?と中神が聞くと、なかなかおとぼけが巧いな、近頃の任侠道も落ちたもんだな…と小杉は苦笑いするように答える。

吉川さんを脅したんだろ?と小杉が言うので、市長さんを傷つけたくないから私に仕事をくださったんですか?と中神が驚くと、柏木、良い友達を差し向けてくれたなと小杉は嫌みを言う。

中神は、柏木さんは、市長さんの脅しには関係ありません、必ず契約通りやらせていただきますと中神は頭を下げる。

こうして、何とか、埋め立て地の工事を引き受けた中神たちは、作業現場で仕事を見守ることにする。

一方、「青光園」では真弓がオルガンを弾いて孤児たちと一緒に歌を歌っていた。

それを早見が柵の外から見守っていたが、新聞記者の秋田がやって来たのでそっと立ち去る。

秋田は、「青光園」拡充に関する記事を真弓に見せると、又、全国版の記事スクープできそうなんだ!とうれしそうに伝える。

埋め立て地の土を農業試験場で調べてもらった所、酪農どころか草一本生えない道路の舗装基盤用なんだ。

これが世間に発表されたら本社転勤を夢じゃないかも…、その時は、真弓ちゃんに結婚申し込もうかな?などと秋田は冗談めかしてプロポーズする。

その話を聞いた真弓の表情が曇ったので、変なプロポーズしたことで気に触ったのかと秋田は気遣うが、あの土のことを記事にするのはもう少し待ってくれない?と真弓は頼む。

そんな真弓の態度が気になった秋田は、すぐに、兄の柏木のバーに行って、埋め立て地の土の件のことを相談する。

その後、埋め立て地にいた中神は、柏木から小杉の家に来るように連絡があったのでジープで向かう。

埋め立て地には、真弓が1人でやって来て、「春が来て〜 羅漢のお寺に花が咲く〜♩」と消波ブロックの所にしゃがんで歌を歌っていた早見に近づくと、早水さん、ちょっと聞きたい事があって来たの、この埋め立てに使っている土は、舗装基盤用の土ですってね?と声をかける。

すると、立ち上がった早見は、そんなバカなことがあるか!と否定するが、インチキよ、農業試験場で証明されたんですってと真弓は教える。

中神って人ならいないわよ、知らなかったと思うと真弓の話を聞いた早見は、俺の命を預けている男だぜ?と早見は信じられないような顔をするが、真弓が、じゃあ、さよなら言い残し帰ろうとするので、何故そんなこと、俺に教える気になったんだ?と早見が聞くと、あなたがどれだけの悪に育ったか知りたかったのよ、誤解のないように…と言って真弓は帰ってゆく。

小杉の家に来た中神は、待っていた小杉の前で、それでもヤクザの端くれか!と柏木から罵倒され足蹴にされる。 その場には秋田も同席していており、東日があの土地を手に入れ分譲地に切り替えれば大変な儲けになる。

そうなると僕は新聞記者として徹底的に糾弾しますよ!と責める。 それを聞いた中神は、皆さんのお怒りは分かります…と言ったかと思うと、廊下に出て、自らの小指を切り落とし、それをハンカチにくるんで小杉に差し出すと、工事はお約束通りやります。

くだくだと言い訳は致しません。これは誓いの印ですと頭を下げる。

しかし小杉は、馬鹿野郎!こんなもの、鳥の餌にもならねえ!親からもらった大事な身体を!と怒るが、その場かに免じてもう一度だけ時間をやると中神に言う。

「中神建設」と書かれた工事現場で働いていた東日の下請けの連中に安積がストップをかける。

この土は酪農用の土じゃないと知っていたのか?と問いただすと、東日開発の指示通りにやっていると言い、作業は後3分の1を残すのみだと言う。

それを聞いた中神は、俺が指示するまで作業中止だと命じる。 事務所に戻って来た中神は、東京まで車を用意しろと言い出したので、兄貴、どうするつもりだ?と早見が聞く。

オヤジさんに会ってくると中神が言うと、何故そんな無駄なことをするんです、俺たちは利用されているんだよ!仕事やっても、その結果、お礼戻しだよ。

兄貴も殺しをやって網走10年も食らって来たじゃねえか!と早見は訴える。

今度こそ盃返そうじゃないか!兄貴が旗揚げすればみんなやるぜ!ここで新しい世界を作ろうぜ!と早見は提案するが、俺が帰るまで軽はずみなことは許さんぞとだけ言い残し、中神は出かけてゆく。

その直後、着替え始めた早見は、俺も東京に行ってくらあと桑原に伝える。

ディズニーアニメ「王さまの剣」の看板の前で待っていた民子に近づいて来たチンピラが、映画のチケットがあると言って渡すと、側の自動販売機で買ったガムを、近くにいた子供たちに分け与える。

そんな民子に絡もうとしたチンピラだったが、近づいて来た染谷が睨みつけ追い払う。

ダメじゃないか、あんなのに引っかかっちゃ…、とんでもないことになるぜと染谷が注意すると、この間のお礼と言い、民子は小さな箱を染谷に渡す。

うれしくなりその場で開けてみると、ミッキーマウスのびっくり箱だった。

その夜、事務所に残っていた安積は、勝手に飲みに出かけた宮田のことで文句を言っていたので、染谷が、おい!口が多いぞ!と注意する。

その時、外で家事だ!と言う声が聞こえたので飛び出てみると、トラックの荷台に積んだドラム缶が炎上していた。

周囲を見渡した染谷は、事務所の陰からこちらの様子をうかがっていた甲田組の連中の姿を目撃する。

安積は、燃え盛るドラム缶が大爆発を起こす前にトラックを事務所の前から移動させようと運転席に飛び乗る。

しかし、タイヤがぬかるみに取られなかなか発射できない。

それに気づいた人夫たちが駆けつけ、一斉にトラックを押す。 何とか動き出したので、トッラクを移動させ、荷台のドラム缶が爆発し始めた瞬間、自分は運転席から飛び降りる。

一方、東京の檜山に会いに来た中神は、土を入れ替える必要はないからどんどん進めろと檜山から命じられる。

あそこには大ベッドタウンの構想を立てている所だと、一緒にいた山脇も言う。

しかし中神は、工事をやり直しさせてください!関東のヤクザ全体のメンツに関わります!中神、一生一代のお願いを申し上げますと頭を下げるが、檜山は、返事は花岡にさせると素っ気なく言うので、漁場を失い、蓄膿もできないでは、住民たちは生きて行けません、良いお返事を…と頼み中神は退室する。

一緒に話を聞いていた花岡は、会長、もう使えませんな、あいつは…と中神を見切ったように言う。

中神建設の事務所に帰って来た宮田は、話を聞き、今から全員で殴り込みに行こうと提案し、埠頭の引き込み線の所で自分が車で待っていると言うと、飲んでいたウィスキーのグラスを安積に渡す。

安積は一口飲み、桑原にグラスを渡す。

桑原も一口飲むと、染谷に渡す。

染谷も一口飲んで宮田に戻すと、最後のウィスキーを飲み干した宮田は、その場でグラスを床に叩き付けて割る。

車で出発した一行だったが、途中、港犬猫病院の前で止めさせた染谷は車から降りると、抱いて連れて来た犬を、そっと病院の玄関口の中に入れて車に戻ってくる。

甲田組の事務所にやって来た一行は、甲田やあんぱんを頬張っていた武藤らにいきなり発砲する。

武藤はあんぱんを口にくわえたまま撃ち返してくる。

染谷は、ヌード写真を貼ったロッカーの前で倒れる。

一行は、事務所に火を放って逃げ出す。

床に倒れていた染谷は、近づいて来た武藤に、おい、この間のプレゼントのお返しだよと言いながら小箱を差し出し息絶える。

それは、民子からもらったミッキーマウスのびっくり箱だった。

不当の引き込み線の場所まで逃げて来た安積と桑原だったが、近づいて来た車から2人とも撃たれる。 宮田は東京の花岡に事務所から電話していた。

花岡さん、巧く行きました、2人ともそこであっさり…と電話していた宮田だったが、そこに血まみれの桑原が銃を片手に戻って来たので、待てよ!誤解だよ!と言い訳しながら後ずさるが、貴様!花岡のスパイだったのか!畜生!と呻きながら宮田に銃弾を数発撃ち込むと、自分も模様ガラスの付いたついたてを倒しながら倒れ、息絶える。

銃撃され入院していた甲田の病室に、やって来た刑事たちが相手は誰だ?と聞くが、サツの出る幕じゃない…、ヤクザの話はヤクザが付ける…と答えた甲田だったが、その場で息絶えてしまう。

東京の檜山が泊まっていたホテルの部屋の前に見張りを付けときましたと子分(室田日出男)が報告に来るが、馬鹿野郎!かえって俺がここにいると教えているようなものじゃねえか!と叱りつけ、山脇会長が来たらすぐ通すようにと命じる。

部屋を出ようとした子分だったが、その背中に銃を突きつけた侵入者(大村文武)が檜山の部屋に入ってくる。

誰だ!てめえ!と檜山に聞かれた男は、大阪派遣の者だと言うと、いきなり銃弾を檜山に撃ち込んでくる。

若いの…、一人ばかり殺すには、弾を使い過ぎだぜ…と言いながら倒れた檜山は息絶える。

殺し屋は、部屋の電話を取り上げると110番をダイヤルし、ニューエンプレスの388号室で殺しです。

共生会の檜山が撃たれたんや…と冷静に通報する。

その頃、山脇の部屋に乗り込んでいた早見は、舗装用の土を酪農用の土に変えてくれたな?と仕事机に座っていた山脇に詰め寄っていた。

山脇が、非常ボタンを押そうとするとタバコの火を手の甲に押し付けて止めた早見は、一筆書いてくれと山脇に迫る。

その時、机の上の電話が鳴ったので、自分が受話器を取り上げて、秘書の振りをして内容を聞いた早見は、檜山が撃たれたぜ、自分の耳で確かめてみなと言いながら受話器を山脇に渡すと、俺もあんまり気の長い方じゃねえからよと言いながら、持っていた拳銃を机の上に置いて脅す。

山脇はその場で一筆書き始めたので、お手数かけてすまんねと早見は笑いかける。

花岡は、幹部連中を呼び出すと、同志会の不祥事について皆さんのご意見を伺いたいと申し出る。

その時、今日のけじめは誰がつけるんだ?と声をかけたのは中神で、会長亡き後、まとめるのは、最古参の俺だと思うが?と言い出す。

それを聞いた島崎も、もっともな言い分だと納得し、他の幹部たちも依存ねえぜと中神に一任することがその場で決まる。

その礼を言った中神が、ご相談させていただきますと話し始めた時、花岡の元に近づいて来た子分が何事かと伝えると、山脇先生が恐喝されたって!とわざとらしく皆に聞こえるように叫んだ花岡は、埋め立て地に新しい一家を作るって啖呵切って帰ったそうですと一同に伝え、甲田親分を射殺したのも連中らしいと伝える。

それを聞いた島崎は、一家内のもめ事を解決してやるのが本当じゃないか?と言い出し、他の幹部たちも処分しろ!と言い出す。

子分からハジキを借りた島崎は、それを中神に手渡し、分かってるな?と言い聞かす。

銃を受け取った中神は、色々ご配慮ありがとうございました、失礼します…と島崎に礼を言い、その場から立ち去ってゆく。

自宅に戻って来た中神は、お帰りなさい、今夜、泊まっていかれるんでしょう?ダメなの?と聞いて来た玲子に、仕事の方が…と言って口ごもる。

坊やをちょっと抱いてやるくらいの時間はあるんでしょう?今度はいつ帰れるの?と玲子が聞くと、ちょいと面倒な仕事で長引きそうなんだ…と中神が言うので、あなた又…と玲子の顔が曇る。

苦労ばかりさせて…と中神が謝ると、まだ籍にも入ってないでしょう?と玲子が言うので、お前のためを思ってな…、この坊主のためにもだ…、学校に行くようになったら、ヤクザの子だと言われないように籍を入れられなかった…、足を洗おうにも深入りしすぎたままずるずると来てしまった…と中神は言う。

良いか、玲子、はっきりさせなきゃいけないんだ。今夜限り、俺と他人になってくれ、そして、どんな貧しい人でも良い、まっとうな人と一緒になってくれと中神が頼むと、玲子は、坊や、パパの顔分かるわね?大きくなってお口がきけるようになったら、パパの顔、どんなだったか教えてね、だから…パパの顔、良く覚えていてね…と言いながら泣き出す。

孤児院「青光園」の教室の中で、一人真弓はオルガンを弾いていた。 曲は、いつも早見が口ずさんでいたあのメロディーだった。

建物の外でそれを聞いている早見。 友呼ぶ千鳥と同じ事〜♩ そこに、早見、話があるんだと言いながら近づいて来たのは中神だった。

人気のない事務所の横で話を聞いた早見は、それじゃ何か?兄貴!俺の命取りに来たのか?と気色ばむ早見。

他人の手にはかけさせたくねえと中神が答えると、何であんな奴らのために!と早見が文句を言うので、ヤクザって言うのはな、一旦親と子になったら、親分が黒と言ったら黒と言わなきゃいけねえんだ! 関東城政会はこんな子分しかいねえのかと言われないために…、あんなオヤジだって、俺たちにとっては親分だ。バカとして、俺と一緒に死んでくれ!と中神は頼むが、寄るな!寄ると撃つぞ!と言いながら、早見は自分の銃を突きつけてくる。 しかし無言で近づく中神に早見は発砲する。

その銃声に気づく真弓。

畜生!撃てねえと思ってやがるな!と言いながら、なおも発砲する早見だったが、近づいてくる中神には一発も当たらない。

早見、何故撃たない?どうして撃たなかった?と中神が問うと、俺に兄貴が撃てる訳ねえじゃないか!と答えた早見は、兄貴が言うなら白でも黒って言うぜ、兄貴が言うんだったらな!と付け加え、兄貴、撃ってくれ!と頼む。 そこへ、止めて!と言いながら駆け寄って来たのは真弓だった。

待って!と言いながら早見に抱きついた真弓に、おめえだって、一度は俺の女だったはずだと早見は言い聞かす。

そこに近づいて来たのは、花岡たちだった。 いつまでままごとやっているんだ?さ、早く始末付けろ!と花岡は中神を急かす。

関西同志会が甲田の仇討ちを名目に続々とやってくるぜ。

関東城政会も檜山の弔い合戦の名目で乗り込んで来て戦争になるぜ、万一お前たち2人の死体を渡して話がつかない場合にな…と花岡が言うので、それを聞いた早見は、何!と驚く。 自分たちが生け贄にされると知った早見は銃を撃ちまくる。

花岡の連れて来た子分たちも発砲し、銃撃戦が始まる。

そんな中、花岡!出て来い!と中神が呼びかけると、何?と言いながら、花岡が身を隠していたドラム缶の背後から立ち上がったので、中神は即座に射殺する。

花岡を殺された子分たちは驚いて逃げて行く。

そして、早見!こうなったら、身体を張って止めさせようじゃないか!と呼びかけた中神は、持っていた権利書を真弓に預け、俺の名義になっている、柏木に渡してくれ、小杉さんにもよろしくと頼んで立ち去って行く。

呆然とする真弓だったが、秋田が駆けつけて来たのを見た早見は、幸せにな…と言い残し、自分も中神の後に付いて行く。

その後を追おうとする真弓を止め、首を横に振る秋田。

暗い埋め立て地に横一列になって近づいてくる関西同志会と関東城政会の面々。

両者の列が接近する中、中神と早見がその中間地点に歩み寄る。

関東、関西からおつきあいの皆様に申し上げます、私、中神正治でございますと中神が名乗りを上げると、その舎弟の早見恭一と申します!と早見も自己紹介する。

このたびの間違い、全て私どもの不始末でございます。兄弟とも命を賭けてお詫び申し上げます。

それに免じてお引き取りいただきますよう、中心からお願い致します!と中神は挨拶する。

そして早見には、外すなよと小声で頼むと互いに銃を取り出し、中神と早見は対決姿勢になる。 次の瞬間、中神が撃つと、早見は撃たないまま倒れる。

子分たちが倒れた早見に近寄ろうとするが、触るんじゃねえ!その男に触るんじゃねえ!とそれを制しながら駆け寄った中神は、早見を抱き上げようとするが、早見はその場で息絶える。

最初から死ぬ気だったと悟った中神は、馬鹿野郎!と叫ぶ。 その一部始終を目撃していた島崎が、関西さん、引いてくださるか?と呼びかけると、関西側の代表が、引く!この場からだけじゃない、東となの付く所一切からやと答えたので、早見の死を無駄にさせないでおくんなさいと島崎はその場にいた全員に頼む。

互いに向かい合う関東、関西の列が佇む埋め立て地に、パトカーが近づいてくる。(浮かび上がるヘリからの空撮)

埋め立て地の向こうの水平線に昇る朝日 完
 


 

 

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