白夜館

 

 

 

幻想館

 

地獄の掟に明日はない

 

降旗康男監督と高倉健さんのコンビ作

長崎を舞台に、原爆症に苦しむヤクザがふとしたことで出会った女と恋をしてしまうことで、新しい生き方を探ろうとするが…と言うロマンチックな話になっている。

前年の「網走番外地」(1965)は、元々ヤクザと素人女性とのラブストーリーだった原作を、健さんが恋愛ものは苦手と言う理由で、脱走ものに変更したと言う経緯があったと言うような話を聞いたような気がするが、この作品ではそのヤクザのラブストーリーを健さんが普通に演じているし、見ている方も何の違和感もない。

東映を辞め、フリーになってからも、大人のラブストーリーのような作品を降旗監督と何度も撮っていることから考えても、健さんがラブストーリーに苦手意識があったのかどうかすら怪しく、むしろ好んでおられたのではないかとすら考えたくなる。

この頃の降旗監督の作品は、ラブストーリーだけではなく、アクション部分もきちんと描かいており、後年のようなムード重視でやや退屈な印象はない。

松竹出身の十朱幸代さんと日活出身の南田洋子さんが出ておられるのが珍しく、十朱さんと健さんの恋人役と言うのもちょっと新鮮に感じる。

60年代も半ば頃の作品なので、映画斜陽化の中、他社に移行する俳優さんが多かった時期なのかもしれない。

石橋蓮司さんや小林稔侍さんは、まだひよっこと云った印象。

河津清三郎さんと佐藤慶さんの両組長が、タイプの違いこそあれ、ともに存在感がある見事な演技を見せてくれるのもうれしい。

三國連太郎さんは知能犯の黒幕のような役で登場しているが、登場場面は少なくないにも関わらず、ゲスト的なイメージ以上のインパクトはなく、案外印象は弱い。

今井健二さん演じる三流新聞記者役もなかなか重要な役柄になっている。

健さんの隠れた名品の1本ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1966年、東映、高岩+長田紀生脚本、降旗康男監督作品。

黒バックに赤文字でタイトル ステンドグラスのイラストを背景にキャスト、スタッフロール

長崎の競艇場で、新聞を読んでいた滝田一郎(高倉健)の側に近づいて来た舎弟の健太(小林稔侍)が、客席に権藤が来ていると知らせたので、前列でレースを見物していた親分の山崎武雄(河津清三郎)に耳打ちしに行く。

山崎の隣に座り、双眼鏡で離れた場所にいた権藤勇造 (佐藤慶)の様子を観察した滝田は、奴らレースに夢中でしょうと言う。

そんな会話の合間も後ろで健太が大声でレースに応援しているので、代わってくれと健太に声をかけ、自分の席を譲る。

どうやら健太はそのレースに出ている岩城と言う選手に賭けているらしく、座った後も懸命に応援している。

その時、客席の背後にいたコート姿の政(水城一狼)が山崎の方をする堂目で睨みつけ、懐からドスを取り出すと山崎の席に近づくが、その隣に座っていた健太が興奮して立ち上がったため、政は思わず健太を刺してしまい、慌てて逃げ出す。

異変に気づいた滝田が駆けつけ、健太!と助け起こすが、健太は賭けていたレースの券を握りしめたまま息絶えてしまう。

数日後、「権藤商事」の入居ビルの入り口が見える向かいの高いビルの屋上に上がって来たサブ(高橋英二)は、ゴルフバックの中からライフルを取り出すと「権藤商事」の入り口を狙う。

コート姿の男が入り口から出て来たので、狙撃したサブは、急いで屋上からビルの下に降りると、そこには滝田が運転席で待機した車が待っており、サブは急いでライフルを入れたゴルフバッグを車に投げ込むと、代わりに車に乗せてあった散歩用の白い犬を抱き上げる。

滝田の車が走り去ると、川上は何食わぬ顔をして白い犬と散歩する男を装う。

犯行現場から逃走していた滝田は、急に運転中めまいに襲われる。

そのまま苦しみながら走行していたとき、いきなり女性が前を通り過ぎようとし、迫って来た車に驚いてた折れ込んだので、滝田は急ブレーキを踏み、降りてその女性の元に駆け寄る。

大丈夫ですか?と滝田が声を掛けると、ちょっとびっくりしただけですとその女性由紀(十朱幸代)は答えるが、医者に診てもらいましょうと滝田は勧める。

「西海新報」のデスク北島信吾(今井健二)は、山崎組の権藤を狙った政って奴が殺されたんだ!と言う話を部下から聞いていた。

医者に診てもらった結果、骨には何の異常もないことが分かったと笑顔で診察室から出て来た由紀を待っていた滝田は、私の不注意です!と詫びる。

その後、由紀と一緒に浦上天主堂近くにやって来た滝田は、パトカーが通り過ぎたのに気づくと帰ろうとするが、その時、由紀のハンドバッグが壊れていることに気づき、新しいのを買ってくださいと言うと、困りますわ、こんな…と困惑する由紀に札束を渡して立ち去る。

山崎組では、舎弟の次郎(石橋蓮司)が、なかなか滝田が帰って来ないので苛ついていたが、ようやく滝田が戻って来たので、筧の車戻ってきました!と山崎に報告すると、遅いな…と山崎はつぶやく。

山崎を訪ねていた顧問弁護士の郡司源一郎(三國連太郎)は、冷たい戦争か…と書かれた新聞を読みながら、熱い戦争は止めてもらわないと…刑事部長が交代することになりますし、取り締まり条例に引っかかっても知りませんよと山崎に言う。

その時、電話がかかって来たので、それを取った山崎は、権藤の所に10人の助っ人が来たそうだ…と電話を切って内容を郡司に知らせると、今度のことは、俺が理事に立候補したときからあったんだが、奴は協定組合の橋渡しをしたのは自分だと思ってるんだと打ち明ける。

前の会長が死んだ時、口を聞いたんでしょうと郡司が答えると、俺が2年ばかり食らったとき、後を守るどころか新しい組作りやがって!と山崎は権藤のことを悪し様に言う。

その頃、料亭で、全国から集めた助っ人たちと酒を飲んでいた権藤の方は、古狸め…、何億もの金をぬれ手に粟で掴んだくせに、大きな顔しやがって…と悪態をついていた。

そんな権藤に、大阪から来た助っ人も協力を申し出る。

そこに名古屋から来た北門一家の常次郎(植田灯孝)も挨拶すると、政兄いがやられたんですって?と聞くので、ライフルのサブって奴で、もう長崎から逃げていねえよと権藤の子分の川上(八名信夫)が教える。

権藤の所に全国から300人集まるそうだと滝田は聞く。

その後滝田はキャバレーで健太の恋人だったあけみ(南田洋子)と踊っていた。

あの人、石ころみたいな小さな島で生まれたんですって、沖縄のすぐ近くだって… 海には夜光虫が光り、夜泳ぐとキラキラ光るんですって…、大きな花が一年中咲くって言ってたわ、島にはもう2度と帰らないって…、でも花だけはお前に見せたいって…とあけみが健太の思い出話をするので、俺にはそんな話一度もしたことなかった…、一度行ってみるんだな、その島へ…、健太の奴、きっと喜ぶぜ…、島に行くくらいの金は持ってるぜ。持てるだけ持たせて、海に流してくれ…と滝田は勧める。

考えてみりゃ、あいつもよくよく運のねえ奴だったな…、生まれて初めて有り金全部つぎ込んだレース、買ったとたんに死んじまって、せっかく会えたお前にも結ばれないまま…と滝田が同情すると、泣き出したあけみは、顔を直して来ると言い席を立つ。

テーブルに残っていた滝田の前に現れたのは郡司だった。

案外優しい所があるんですね、見直しましたよと言いながら、向かい側の椅子に腰掛けると、どう思う?今度の権藤との出入りのことなんだけどね…、ジャーナリストが書き立てるよ、この辺が潮時だって思うんだ…と一方的に話しかけて来る。

これまで暴力団が潰れてきた経過を話したいんだ…、君だけは違うんだな…などと滝田を買っている口ぶりなので、先生はうちの顧問弁護士になってどのくらいになります?と滝田が聞くと2年だと答える。

だったら、この稼業を知ってるでしょう?私はあんたが買っているような男でも何でもねえ。例え白でも、親爺が黒田と言ったら金輪際黒なんですと滝田は答える。

長崎原爆病院

病院内に入った滝田は、そこで車いすの少女の千羽鶴を手渡していた由紀を発見する。

由紀の方も滝田に気づき、滝田さんもお見舞いですか?と聞いて来たので、滝田は適当にごまかす。

その後、平和公園に2人でやって来ると、滝田さん、あれ好きですか?と平和の像のことを聞き、私、好き!結城みたいなものをもらえるので…と話しかけて来る。

私を不幸と思っちゃいけませんわ、弟と2人、そんなことを思ったこともあったけど…と由紀が行っていると、滝田!と記者の北島が呼びかけながら近づいて来る。

由紀は、困りますわ、直しましたから…と言いながら、先日滝田から渡された大量の金の大半を返却してきたので、それを受け取った滝田は、その代わり食事でも?今度の土曜の12時半に…とレストランの名前を告げると、由紀は承知して帰ってゆく。

そんな由紀を見送りながら、別嬪じゃないか、どこのお嬢さんだ?と北島が聞いて来たので、余計なお世話だと滝田は無視する。

ブンヤには、山崎組の大貸に女ができたらちょっとしたニュースだからな…とおどけてみせた北島は、権藤は腹を決めたらしいぜ…と情報を教える。

その頃、突然訪ねて来た郡司に、長崎のために出入りを止めろって云う前に、山崎の方から説得するのがあんたの仕事じゃないのか?と権堂は言う。

例の競艇のことだって、誰が診たって俺に分があるはずだ、お断りしますわと権藤が言うので、分かる…、山崎が直にここに来ないとダメ?と郡司が念を押してもダメと言い、大阪から300人来ると言ってる。

有象無象を合わせれば5000になると思うよと権藤が助っ人の数を自慢すると、掛け合ってみようと言って郡司は帰ってゆく。

そこに帰ってきた川上が、山崎の奴、銃を手に入れたらしいですぜ、フィリピンものを…と情報を伝えると、やられる前にやっちまうんだ!と権藤は命じる。

その後、山崎組の事務所前にやって来た乗用車に乗っていた川上がきっかけを出すと、トラックが事務所前に横付けし、乗っていた助っ人たちが一斉に事務所の中に向け発砲し始める。

山崎組の方も、入り口と二階の窓から応戦して来る。

乗用車は炎上し、大阪からの助っ人も撃たれて負傷する。

「西海新報」の北島の元にも、港町の山崎組事務所が襲撃されたと言う電話が入り、早速現場に飛ぶ。

警察も駆けつけ、既に包囲されているから、武器を捨てて逮捕されなさいと呼びかける。

そこに外から滝田が帰ってきて、権藤組の奴らが襲って来たと舎弟に聞くと、ドスを持って斬り掛かって来た敵の助っ人と戦い始める。

左手を負傷した滝田だったが、そこに警官がなだれ込み、喧嘩を止める。 その時、側で、北島が写真を撮っていることに気づいた滝田は、そのカメラを奪い取り、中のフィルムを抜き取ってカメラを返す。

そんな事務所前の騒動を見に来ていたのか、近くに停まっていた車の運転席には郡司が乗っていた。 土曜日、由紀は滝田との約束のレストラン

に来て、予約の席で待ち受ける。

しかし、その頃、滝田は郡司が保証人となり長崎警察署から釈放された所だった。

警察署の前でタバコを勧め火を点けてやった郡司は、行こうか?と滝田に話しかける。

人気のない場所に来た郡司は、私がどうして君を貰い下げたか分かるか?約束したんだよ、警察と…と滝田に話しかける。

抗争を私に食い止めろと?そりゃ無理ですよ…、じゃあ何故先生は手を結ばせようとしてるんです?と滝田が聞くと、私はペシミストなんだと郡司が言うので、滝田はその場を去ろうとする。

待ちたまえ!君は話を聞く義務があるんだ、どこかで飯でも?と郡司は誘って来るが、滝田は、止めときましょう、それに他に野暮用がありますんで…と答え去って行く。

由紀は、なかなか滝田が現れないので不安を感じていたが、そこにスーツを着た滝田がやって来る。

遅くなりましたと詫びる滝田の左で似包帯が巻かれているのに気づいた由紀が、どうなすったの?と案じて聞くと、来る途中、階段で転んだんですと滝田は嘘を言う。

それでも由紀は、夕べ、権藤産業が喧嘩したそうですね、嫌ですね、あんなののさばっていると…と言うので、滝田はちょっと困惑し、一般の人には何もせんでしょう、お嬢さんらしくない話ですねと答える。

その後、滝田に誘われるままオランダ坂に付いて来た由紀は、何ですの、お話って?さっきから黙っているばかり…、男らしくありませんわと問いかけると、実は、初めてお会いしたときから話せば良かったんですが…、私なんかと付き合って面白いですか?もう付き合わない方が良いと思って…と滝田は言い出す。

今日、とても楽しかったわ…と答えた由紀は、滝田さん、このままもう少し歩きましょうと誘うが、その時、坂の上の方で遊んでいた女の子たちの手まりが転がって来たので取って、投げ返してやる。

花売り娘とすれ違った時、由紀さん、私は…と滝田が言いかけたので、奥さんがおありになるのね…、原爆病院に入院なさっている方…と由紀が当て推量を言うので、そうじゃないですよと滝田は否定する。

じゃあ何故?と由紀が聞く。

その頃、権藤と山崎を料亭で同席させた郡司は、政治結社を作るんですよと2人に切り出す。

教えましょうか、法律と言う落とし穴を…、世論に立ち向かう、もっともらしい体裁を作っておかないと… 今後は何をするにしても名目が立つと思う…と郡司が説明すると、待ってくれ!競艇場はどうなるんだ?と権藤が聞く。

郡司は、私がやるのです。その利益が血で血を洗う原因になっていたんでしょう? 今日ただいまより、山崎と権藤、共同体の弁護士になるのですと郡司が言うと、良かろう…、それで怖いものなしって訳だ…と山崎は納得し、その場で権藤と手を握ることにする。

こうして、山崎組と権藤組は「志道会」と言う政治結社と言う名目で合体することになるが、それを偽装と書き立てた北島の新聞社に乗り込んだ滝田は、長崎港が見渡せる屋上で北島と2人きりになると、素人さんに迷惑をかけたかもしれないが、三国人に占領されかけた町を守ったのは誰だ?と自分たちの存在価値を主張する。

すると山崎は、権藤のことは違うぞ、あいつは競艇を狙っているんだ。

あいつがこの町を握ってみろ…、お前、親分が権藤と手を握ったのが気に入らないんじゃないか?と問いただす。

お前、たまには島に帰っているのか?俺は島に残った…、おかげでピカドンから逃れることができたんだ…と北島が聞くと、諏訪神社でセミ穫ってたよ…と滝田は答える。

(回想)原爆によって一瞬にして廃墟と化した長崎の神社で、かろうじて生き残った少年滝田は泣いていた。

そこに近づいて来て声をかけたのが、同じく生き残った山崎だった。

(回想明け)組長は俺を本当の子供のように育ててくれた…と滝田が言うと、だがな…、今の山崎が何を考えているかが問題だ…、それはお前も分かっているはずだと北島は指摘する。

分からない…と滝田が答えると、お前は利用されているだけなんだよ!郡司や山崎に!同じ穴の狢だよ…、滝田、お前、足洗うか?と北島は言い聞かせる。

久しぶりだな、その言葉聞くの…、ヤクザ辞めて何になる?ブンヤにでもなるのか?と滝田が冗談めかして聞いて来たので、ヤクザよりましだろ?と北島が言うと、1つだけ聞くけど、何のためにあんなくだらない記事を書くのか?と滝田は聞いて来る。

ここにいる人たちのためだよと北島が答えると、嘘付け!何のためでもないだろ、てめえに聞いてみろよ!と滝田は言い返す。

お前、病院に行ってるのか?と北島が聞くと、余計な心配するな!と滝田が言い返すので、原爆症は知らないうちに身体を蝕んでいるんだ…と北島は言う。

バーで一緒に飲んでいた山崎は権藤に、結社にするまで、あんたがレースをやってくれ、全国から俺が選手を集めるからと切り出したので、権藤は喜び、本当か?前から一度やってみたかったんだと喜ぶ。

さらに山崎は、今度のことであんたの方は色々物入りだったろう?手入れて良いぜ、凄いレースができそうだぜと意味有りげに笑ってみせる。

山崎からレースで八百長ができないかと相談された次郎は、選手の岩城って言う同級生を知っているんですが、問題は岩城にどうやって承知させるかですと答えると、ちゃんと打つ手は打っとけよと山崎は命じる。

その後、競艇選手の岩城明(串田和美)に会いに行った次郎は、明、お前、うちの組の辰兄貴の女房、寝取ったって知ってたか?と告げ口する。

それを聞いた明は、畜生!よし子の奴!と思い当たる節があるようだった。

今度のレースで目をつぶれば、相手もよし子のことは目をつぶってやるって…と次郎は言い聞かすが、明は八百長なんかできないと拒否するので、おまえやられちゃうんだぜ、本当に死んじまうんだと次郎は脅す。

その頃、滝田も山崎に会い、組長!辰の女房使って八百長やるって本当ですか?汚すぎませんか?と問いただす。

しかし山崎は、全部俺の差し金だ。俺だっていろんなことして金を作ったことがある。俺のガキみてえに育ったおめえにはかえってそれが分からねえんだと答えるが、それを聞いていた滝田がめまいを起こしてうずくまったので、おめえ、病院で調べた方が良いぜと心配した山崎は、舎弟の大庭(秋山敏)を呼んでた北を病院へ連れて行かせる。

しかし、車で原爆病院へ向かう途中、競艇場へ行ってくれと急に言い出した滝田は、めまいくらいでいちいち病院に言ってられるか!と運転していた大庭が困惑するので叱りつける。

競艇場の控え室では、まだ次郎が明に、俺、お前がうんと言ってくれないと帰れないんだと頼み込んでいたが、そこにやって来た滝田は、つまらねえ真似するな!と次郎を叱りつけると、御前か?レーサーの岩城って?やるのか、どうするんだ!と凄んでみせる。

その時、怯えていた明は、やって来た人物に気づき、姉さん!と呼びかける。

その声で振り返った滝田は、目の前にいたのが由紀と知り、由紀さん、あんたこいつの!と驚くと、明も、姉さん、こいつ知ってるのか?と聞き、唖然として滝田を見ていた由紀はその場から逃げて行く。

その後を追って港まで来た滝田は、由紀さん、すまなかった…、俺はヤクザだよ、ガキん時から山崎組に育てられた骨の髄まで渡世人よ…、ムショも何回も行った…、それなのに、勤め人みたいになり切って…と詫びると、由紀も、私も嘘をついていたんです。

私、魚河岸で働いているんです…と打ち明ける。

そんなことどうでも良いんです、弟にだけは変なことしないでください!二度と近づかないでください…、それから…と由紀が言いよどんだので、私にも…か…と察した滝田は、夕日が沈みかける中、その場から立ち去ってゆく。

その夜、バーであけみと会った滝田は、おめえ、どうやってあの野郎とできたんだよ?冗談じゃねえんだ、本当に聞きてえんだよと頼む。

あの野郎が堅気じゃねえって承知で付き合ったのか?と滝田が聞くと、いきなりひっぱたいたのよ、俺がこんなに惚れてるのが分からねえのかって…、一生懸命足洗おうとして…、私ちっとも後悔してないわ…とあけみが言うので、あけみ、ダイスやろうか?と滝田はカウンターのさいころを手に取り、うれしそうに聞く。

いよいよ権藤主催の競艇が開催され、山崎と権藤が仲良く隣り合って見物していた。

レースに出場していた明は、次郎が言っていた、簡単じゃねえかよ、お前がレースで目をつぶれば、よし子のこと目をつぶるって言ってくれてるんだ。

おめえ、やられちゃうんだぜ、本当に死んじゃうんだと言う脅しの言葉を思い返していた。

しかし、最終コーナーに差し掛かった時、そんな自分の迷いを吹っ切るように、畜生!とつぶやくと猛スピードで追撃し、とうとうレースに勝ってしまう。

それを見た山崎は、飛んでもねえ野郎だ!と悪態をつくが、横に座ってみて歌権藤は、なるほどな…、こういう仕組みになっていたのかと冷めた顔でその場を立ち去ってゆく。

それを見ていた滝田は複雑な顔になる。

事務所に戻って来た権藤に川上は、ちくしょう!組の資金、半分以上つぎ込んでいるんだ!と悔しげに言う。

しかし権藤は、ここで軽々しく動いてみろ、山崎の思うつぼじゃねえかと川上をなだめる。

そんな権藤の事務所に来たのは北島で、あんたに良いこと教えてやろうと思ってね…と言うと、滝田と由紀が写っている写真を権藤に見せ、その女は例の競艇レーサーの姉さんだと教える。

滝田はその女に惚れてるんだ。惚れてる女の弟を使い八百長させた…。

あんたがその気になりゃがっぽり稼げるぜと北島が言うので、この写真いくらだ?と権藤が聞くと、金じゃない、気まぐれだ。山崎組は大量にハジキを仕入れたらしい…、あんたん所の金で買ったんじゃないか?と北島は焚き付ける。

医者で診察を受けた滝田は、頭痛やめまいと云った具体的な症状が出ている以上、入院の手続きをとった方が良いと勧めるが、それを聞いた滝田は、いずれ又…と頭を下げ帰ってゆく。

原爆病院を出た滝田は、そこに北島がいることに気づく。

どうだった?診察の結果は?長くないんじゃないか?権藤にお前と由紀さんの写真を見せ焚き付けて来たと北島が言うので、楽しんでんじゃないか?と滝田は北島を睨みつける。

すると北島は、お前さんこそ出入りを望んでいるんじゃないのか?原爆病で死ぬより、撃ち合いの方がかっこいいかもしれない…、しかしお前は何も気づいちゃいないんだよ、猿回しの猿!太鼓に合わせて踊らされている猿と同じなんだよ!と北島が言うと、さすがに切れた滝田は北島を殴り倒す。

その頃、権藤は郡司法律事務所に来て郡司と会っていた。

今度の八百長騒ぎをやって、あんたの腹の中は分かったよ。

あんたは俺たちに仲直りさせようとして政治結社を作らせ、俺たちを陰の存在にしようとした。

こっちだって命賭けてるんだ、俺がかーっとなって殴り込めばこのけじめはつくんだ。

だが、けじめは山崎にやってもらうよ…。骨折り損になった山崎がどうなるか?あんたに命張ってやってもらいますぜと権藤は郡司に迫る。

その夜、山崎組の事務所に来た由紀は、滝田さんに会わせてください、岩城由紀ですとそこにいた舎弟たちに声をかける。

すると、奥の部屋から着流し姿の滝田が出て来て、組長は出かけていますので、代理で話を伺いますなどと他人行儀なヤクザ言葉で話しかけたので、茶番は止めてください!弟に女をあてがって八百長やらせたりして…、弟は立派だったわ。どこへやったんです?あなた方が弟を連れて行ったことは分かっているんです。弟を返してください!あの子はあなたたちと違うんです!と責める。

すると滝田はいきなり由紀を殴りつけ、弟、弟って、17、8のガキじゃねえんだ!岩城さん、弟さんは必ずあなたの所へ御帰ししますと約束する。

その明は、山崎の屋敷の一室で、舎弟の三好(関山耕司)らから痛めつけられていた。

そこに顔を見せた滝田は、なんて真似するんだ!堅気じゃねえか!と叱りつけるが、こいつは組長の命令だよ、手を出さないでくれと三好が言うので、組長には俺が話すと滝田は言う。

ヤキを入れろと言ったのは組長ですよと三好は納得いかないように答える。

その後、山崎に会った滝田は、渡世の道に背くようなことをして欲しくないんですと頭を下げて頼むが、もっともらしいこと言うじゃねえか、だが示しだけは付けないとな…、じゃあおめえがけじめ付けるって言うのかよ?と山崎は憮然とした風に聞き返す。

権藤は銃を集めているらしい。権堂の気勢を制するしかない…、俺も騒がしたくないんだ。

権藤1人カタ付けりゃすむことだ…、分かるだろう?おめえに任せる。おめえのやり方で立派にけじめをつけて来いと山崎は滝田に命じる。

すると側にいた郡司が、小浜温泉に行っているらしい、予科練時代の同期会があってね…と滝田に知らせる。

自宅マンションに戻って来た滝田は、部屋の前で待っていた由紀と出会う。

ありがとうございましたと由紀が言うので、礼なんか良いんだよと滝田が答えると、私、ずっと待ってたのよと言うので、部屋に入った滝田は、洋画あるなら早く言ってくれ…と良いながら、ジョニ黒をコップに注いで口にする。

もう遅いし、帰りな…、こんな所にいてもろくなことないぜと滝田がわざと冷たく言うと、私、お願いが会って来たんです、山崎組を辞めてください。ええ、今すぐ!と玄関口に立ったままの由紀が言うので、俺はおせっかいな女は嫌いだぜと言い返す。

このままではきっと殺されてしまうわと由紀が言うので、いずれ死にます、ここにこうして座っていたって…、遅いか早いかの違いさと滝田は悟ったように答える。

すると由紀は、嫌です!止めてください!と哀しげに頼む。

ダメだよ、あんたと俺とでは住んでる世界が違う、こいつばかりは逃れられない…と滝田が言い聞かそうとすると、私、待ちます!あなたがどんなになっても良いの、私、待ってます…、だって、あなたを待つより、私には何もすることがないんですもの!と由紀はつぶやく。

その後、暗い夜道を途中まで滝田は由紀を送ってやる。

滝田さん、送ってくださってありがとう、もうここで結構ですわと由紀が礼を言うと、由紀さん、永良部の島に行ったことあるかい?島中が花で一杯なんだそうだ…、行ってみねえか?俺と一緒に…と滝田は言い出す。

それを聞いた由紀は思わず滝田の胸に飛び込む。

明後日の朝一番の船で発とう。波止場で待っててくれと言いながら由紀を抱く滝田。

抱かれた由紀はうれし涙を流し続けていた。

翌日、雨の降りしきる中、トレンチコートを着て小浜温泉の豊木屋の浴場の前に身を潜める滝田。

気持良さそうに予科練の鼻歌を歌って湯船に入っていたのは権藤一人だった。

そこに若い舎弟が宿の雨傘を持って来て、外から声をかける。

そこに置いとけと湯船から返事をした権藤は、やがて浴衣を羽織った姿で浴場から本館への通路に姿を現す。

そこに庭木の背後からぬっと姿を現した滝田は、権藤さん!御待ちしてましたよ…、死んでもらいますぜと言うと、逃げようとした権藤に突きかかって行く。

さらに逃げようとする権藤の背中にドスを突く滝田。

権藤が死んだのを確認した滝田はすぐさま旅館内を通って逃げ出そうとするが、何故か刑事たちの姿が見えたので、裏口へ戻り、人目を忍んで旅館横の土手を越えて逃走する。

長崎の町は「おくんち」の祭りの真っ最中だった。 滝田はコートで顔を隠しながら、群衆の中を逃げ回る。

「西海新報」にいた北島は、かかって来た電話の相手方北と知って驚く。

今どこにいるんだ?と聞くと、おめえに聞きたい事があるんだ、誰かが俺を売ったよ、とにかく俺、帰ってきた。

回りにはびっしり札が張ってるよと滝田は言うので、馬鹿野郎!権藤をやらせた罪で、銃器不法所持で組に捜査を入れさせたのは郡司がサシたんだよ。

おめえをサシたのも郡司だ!郡司の思い通りになったんだよ!と北島が教えると、その途端滝田からの電話が切れる。

喫茶店で身を隠していた滝田の所に、祭り用の風車を刺した藁束を持ってやって来たのは次郎だった。

その藁束を受け取った滝田が黙って店を出て行こうとするので、兄貴!俺は?と次郎は聞く。

しかし滝田は何も答えなかった。

深夜、事務所で1人ウィスキーを飲んでいた郡司は、藁束を持ってやって来た滝田に気づくと、にやりと笑い、滝田君じゃないかと言うが、先生、うちの組長売ったんだね?と言いながら、滝田は藁束の中に隠してあった日本刀を取り出す。 分からんかね?山崎や権藤じゃどうにもならんよ。

君は違うよ! 私を斬るのかね?過がれを止めることはできんのか? 自分のやっていることを犠牲や正義と思ってるんだろう? そう云う正義感が人間を道具にさせてしまってるんだよ! 君は自分の身体を自分で噛み切っているお化けだよと言いながら壁際に逃げようとした郡司だったが、その身体にぶつかるように滝田は日本刀で突き刺す。

君にはそれしかできないのか…と壁にへばりついたままつぶやいた郡司だったが、そのままゆっくり横に倒れ落ちる。

滝田はその瞬間、又強いめまいに襲われる。

部屋にあった電気スタンドを倒し床に倒れ込んだ滝田の顔を、スタンドの灯りが原爆の光のように照らす。

それでも滝田は腕時計を見ると無理して立ち上がる。

その後、払暁の町を港へ向かう滝田は、港に浮かぶ連絡船を確認する。

港では、二枚の切符を持った由紀が待ち構えていた。

坂を下って来る滝田だったが、その足下はおぼつかなかった。

港でなかなか来ない滝田を案ずる由紀。 島への連絡船が出航間際になる。

滝田は少し急ぎ足になる。

由紀の方はややあきらめ顔になる。

港へ向かうを懸命に降りていた滝田の背後を通り抜けようと近づいて来た「毎朝新聞」の配達人は、いきなり滝田の背中をドスで刺す。

配達員に化けていたのは、小浜温泉で傘を権藤に持って来てやった舎弟だった。

その舎弟が逃げ去った後、道路に倒れた滝田は懸命に立ち上がろうとするが、その時、港では連絡船出航の汽笛が鳴る。

連絡船が出港する中、港に1人残った由紀。

滝田は最後の力を振り絞って立ち上がろうとするが、その場に倒れる。

港に1人佇む由紀。

長崎港の全景に「終」の文字
 


 

 

inserted by FC2 system