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伊豆の踊子(’60)

お馴染みの川端康成原作の映画化で、松竹作品としては、田中絹代主演「恋の花咲く 伊豆の踊子」(1933)、美空ひばり主演「伊豆の踊子」(1954)に次ぐ3度目の映画化で、初のカラー作品ではないかと思われる。

原作ものだけに大筋は同じだが、日活の吉永小百合版から付け加えられる「病気で死んでいく若い酌婦のエピソード」は、この作品まではない。

それでも、戦前の女性や芸人の身分の低さは良く表現されており、愛らしい薫と若き書生が、そうした厳しい現実を目の当たりにし、少し成長する様が描かれている。

この作品では、学歴を自慢する俗物や、そうした学歴に憧れる俗物予備校生のような子供などの姿も、バンカラ描写とともに描かれている。

さらに、おせんと言う成功した女なども登場しており、旅芸人たちの暮らしの惨めさを強調している。

鰐淵晴子さんは可愛い盛りで、無垢なヒロインを良く演じているし、書生役の津川雅彦さんも、若い娘が憧れる美少年として登場している。

ただ、叔父の家に行きたくないこともあり、勉強のために修善寺にやって来た書生が、三味線の音を嫌い、宿を移るたびに旅芸人たちと鉢合わせになってしまうと言う趣向はやや違和感がないではない。

原作ではどうなっていたか記憶もおぼろげだが、この作品では、最初から旅芸人の薫に一目惚れしたので、わざと付いて行っているように見える。

薫の母親たつ役の桜むつ子さんがなかなか達者で、旅芸人の惨めさと気丈さを共に良く表現していると思う。

この作品では薫が入浴するシーンはあるが、書生に向かって裸で手を振るシーンなどはない。

作品の出来も、可もなく不可もなく…と言った感じで、平均的な作品のように感じる。 
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、松竹、川端康成原作、田中澄江脚色、川頭義郎監督作品。

伊豆の山を背景にタイトル

菜の花畑を歩く旅芸人一座の踊子、薫(鰐淵晴子)

昭和初年 橋の所で一休みしていた旅芸人一座は、横を走り抜けていった車がまき散らして排気ガスに辟易する。

薫は、その後、橋を渡っていく美男子の書生水原(津川雅彦)に目を留める。

修善寺の旅館「さくら屋」にやって来た水原は、仲居に案内され、友人の坂本(戸塚雅哉)の部屋に来る。

伯父さんがうるさいから来ないかと思っていたと言いながらも坂本は歓迎してくれるが、部屋まで連れて来た女中が去ると、反対側の窓の障子を開け、あいつが来ると臭い、臭い!などと悪態をつく。

その窓から下を見下ろした水原は、先ほど橋の所で会った旅芸人の踊子薫が、露天商が連れていた子猫を抱いて喜んでいるのを見つける。

母親らしき女から声をかけられ、慌てて子猫を台の上に戻して立ち去ろうとした薫だったが、慌てて露天の売り物の陶器などを倒してしまったので、ごめんなさいと詫びながら、元へ戻す様がかわいらしく、水原は二階の窓で笑って見ていた。

いつまでいられるんだ?と坂本から聞かれた水原は、15日まで叔父が旅行に行くから、その前までに帰るつもりだと?金は良いよと…と坂本は、水原が本と一緒に鞄から出した懐中時計を珍しそうに見る。

そして、近くに共同浴場があるから一緒に行かないか?と坂本は誘うが、外から見えないかい?と水原が恥ずかしがるので、徴兵検査のときは素っ裸だぞと坂本はからかう。

その共同浴場の側の神社に母親のたつ(桜むつ子)と一緒にお参りにやって来ておみくじを引いた薫は、待ち人来らずなどとあまり良くない卦が出たのでがっかりしていた。

その時、薫が持っていたおみくじが風に飛ばされ、ちょうど神社にやって来た水原の顔にぶつかってしまったので、薫は慌てて詫びる。 水原は、何事もなかったかのように返事もせず、そのまま神社の方へと向かう。

露天の共同浴場にやって来た旅芸人一座の新人百合子(瞳麗子)は、風呂の入っていた小間物屋(中村是好)から、お入りよ、ここは男も女も関係ないからと誘われるが、坂本ら男しか入ってないので、慌てて逃げて一座の仲間の方に戻る。

その小間物屋が風呂上がりに近くにいた一座のたつに久しぶりだねと声を掛けると、たつは、今回は近所の子を一人連れて来たんだよと百合子の事を教える。

小間物屋は、近くの置屋から良い子がいたら世話してくれって言われているんだと、薫を見ながらたつに話しかけるが、薫は今回が最後の旅なんだよとつは迷惑そうに断る。

しかしその話を聞いていた百合子は、おじさん、私、芸者になれない?などと気軽に聞くので、小間物屋は、さあね…とはぐらかす。 露天風呂にいた坂本は、神社から出て来た水原に、お~い!早く入れ~!と声をかける。

たかたち旅芸人一座ただ一人の男栄吉(田浦正巳)が、近くの宿に仕事がないか声をかけにいくが、今日が芸者が総出で来るのでいらん、いらん!とその宿の番頭から追い払われる。

しかし、別の宿の番頭が、お客さんだよと声をかけて来たので、たつたちは喜ぶ。

部屋で勉強をしていた水原は、向野や度から聞こえてくる三味線の音色に耳を塞いでしまう。

三味線の音が苦手な水原は、もっと山の方の宿に行こうよなどと言いだすので、春休み、叔父の所に行かずにすむのならどこでも良いと言ってたくせに…と坂本は呆れる。

翌日、桜が咲く道を旅芸人一座は馬が引く荷車に乗って移動していた。 途中、おいちにの薬売りとすれ違う。 百合子があの山を越えるの?と嫌そうに言うと、こっちもいい加減クサクサしてるんだ!と栄吉も苛立たしそうに答える。

湯ヶ島 川沿いの岩場で読書していた水原に、用事を伝えに宿の番頭が来る。

その時、水原は、近くの川で髪を洗っている薫と、その側で洗濯物をしているたつの姿を目撃する。 そんな水原に、踊子は旅から旅でしょう、儚い人たちですよと番頭は教える。

宿に戻って来た水原に、仲居が、今、一高から事務官になられた人が来ていて、同じ一高の人がいると教えたら、会いたいと言っておられるんですが?と言うので、僕は嫌だよと断り部屋に入る。

事務官(佐竹明夫)とその同僚は、女を呼べと宿の主人に横柄に命じていたが、この町には芸者がいないので、今、旅芸人を呼ばせていますと主人は答える。 たつたちが座敷に来ると、何か得意なものをやれ!と事務官は居丈高に命じるので、会津磐梯山を歌い踊る事にする。

踊り終えた薫に、こっちに来て飲め!と事務官が誘ったので、この子は飲めませんので私が…と栄吉が名乗り出るが、高等事務官の酒が飲めんのか!と事務官たちは威張りちらすので、たつは、とっさに、さのさを歌ってごまかす。

廊下に逃げ出した薫を追って来た事務官は、飲めったら飲め!嗚呼玉杯に花うけての玉杯だ!などとしつこく迫るが、ちょうど水原の部屋の前だったので、障子を明けて顔を出した水原が、静かにしてくれませんか?と注意する。

君か?一高生と言うのか、俺は法科を卒業し…とひとしきり自慢して部屋に戻った事務官だったが、水原のおかげで薫は難を逃れる。

その後、部屋に来た仲居に、あの芸人たちはここに泊まるのかね?と水原が聞くと、とんでもない、どこかに客があればどこにでも泊まるんですよと仲居は馬鹿にしたように言い、あの連中は、天城を越えて湯ヶ野へ行くそうですよと教える。 水原は、電報を打ってくれ、明日、天城を越え湯ヶ野へ行くってと仲居に頼む。

翌日は雨だったが、傘をさして水原は橋を渡る。

少し先の小屋では栄吉と千代子(城山順子)が雨宿りをしていた。

峠に戻りたいくらいだと栄吉が文句を言うと、別れたいのね…と千代子は恨みがましそうに言う。

そこに水原がやって来て一緒に雨宿りをし、峠まで遠いんですか?と聞くと、すぐです、途中に茶店がありますから…、でも湯ヶ野まで五里もありますよと栄吉と千代子が答える。

良かったら、これ、使ってくださいと傘を二人に差し出した水原は、そんな事…と遠慮した栄吉に無理矢理渡すと、自分はマントを頭からかぶって走り出す。

水原は茶店を発見して近づくと、表で何故か薫が泣いていたが、水原の姿を見ると、恥ずかしいのか逃げて行く。

店の中には、小間物屋やたつが休んでおり、店の老婆が、中で乾かしてお行きなさいと水原を誘う。

一足先に行ってるかと小間物屋が声を掛けると、百合子は立ち上がりながら、あの二人駆け落ちしていると思ったわなどと、栄吉と千代子の事をからかう。

薫ちゃん優しいね、家の孫にこれ挙げてくれって…と仏壇のお供え物をもらった事を老婆が水原に教えると、外で姉ちゃんたちが来た!と言う薫たちとたつたちは先に出発する。

老婆は、そんな薫にひなあられを持たせてやる。

良い人たちですねと水原が旅芸人たちのことを言うと、情の深い人たちです、孫に死なれましてね…と飾ってある雛飾りを見ながら言う老婆は、死んだと言ったら、薫ちゃん急に泣き出しちゃって…と説明する。

そこに千代子と栄吉が到着し、水原に礼を言って傘を返すと、自分たちはそのまま休憩もせず出発する。

今の人は薫ちゃんの種違いの姉さんでね、男はその姉さんにああやって付いて歩いているんですと老婆は教える。 水原は、立ち上がり際、お孫さんに何か備えてやってくださいと言い、多めの金を老婆に渡すと、茶店を後にする。

小間物屋と並んで歩いていた百合子は、本当につまんない旅…とぼやくので、百合ちゃんなんて別嬪だから、下田辺りでぱーっと稼いじゃ?などと小間物屋がお節介を焼く。

栄吉と一緒に歩いていたたつが、栄さん、知恵を頼みますね、旅芸人の養子なんて嫌でしょうけど…と話しかけると、小糠三合もらっても容姿になるなって言いますし…と栄吉ははぐらかす。

父無し子二人も持つとね、千代子が不憫で…と、たつは言うと、俺も考えてるんですよ…と栄吉も真面目に答える。

そんな一座の最後の方に付いて行っていた薫は、道ばたに咲いていた椿の花を一つちぎって隠しながら持ってゆく。

そんな薫と後から歩いて来た水原は、トンネルの中で一緒になる。

夕べはすみませんでしたと礼を言った薫は、良く会いますねと言うので、これからもずっとだと思うよと水原は笑顔で答え、水原一郎と名乗る。

すると薫は喜び、この方がね、下田まで一緒に歩こうって!とたつに伝えに行く。

私たちは大島、波浮(はぶ)港の人間ですよとたつが教えると、学生さんが海水浴で良く来るんですよと薫も言うので、夏でしょう?と水原が言うと、冬でもと薫は言うので、冬でも泳げるんですか?と水原は驚く。

薫も、つい嘘をついてしまった事に気づき照れ笑いをするので、みんなも笑い出す。

恥ずかしがった薫が駆け出したので水原も走って追いかけ、トンネルを真っ先に通過する。

途中、近道と言い、薫が山を登りだしたので、水原も後を追う。

薫は、水原が持っていた傘の先を持ってやり、先導する。

途中、上から蛇が落ちて来たので、悲鳴を上げた薫は水原に飛びつく。

その後は用心のため、水原のマントを二人で一緒に頭からかぶって山頂に到達する。

村の入り口の小学校の前に来ると立て札が立っており、「物乞い、旅芸人入るべからず」と書かれてあった。

校門の所に日の丸がクロスして立っていたので、薫は日の丸だ!と喜び、仰げば尊し~♩と歌いだす。

大島では何しているの?と水島が聞くと、牛や馬と遊んでいる、水原さんは?と聞くので、勉強ばかりさと答えていると、そこにやって来た小学生たちが、物乞い旅芸人入るべからず!と声を揃え、石を投げてくる。

慌ててその場を逃げ出すと。高等学校の生徒が旅芸人と歩いている!と水原の事を悪し様に言い、石を背後から投げて来る。

その後、薫が、高等学校の生徒って偉いの?と聞いて来たので、偉くないよと水原は答えるが、その直後、河原で濡れ鼠になっている子犬を発見、拾い上げて薫に渡しながら、犬好き?と聞く。

大好き!大島に3匹いる!と言うので、猫は?と聞くと、5匹いると言うので、東京には猫も犬もいない…と水原が言うと、どうして?と薫が聞いて来たので、寄宿舎にいるんだと答える。

可哀想…、水原さん、自分の家ないの?と薫は同情する。

そんな彼らが歩いていると、先ほどの小学生が近づいて来て、俺の犬だ!と言うので、助けてやったのよと言いながら薫は子供にその子犬を返してやる。 村を出る時、水原は、「物乞い、旅芸人入るべからず」と書いた立て札の向きを変えて立ち去ったので、後からやって来た子供の一人が、また元に戻そうとすると、子犬を助けてもらった子供が、止せよと言って止めると、みんなで手を振って薫と水原にさようなら!と声をかけるのだった。

湯ヶ野村に着いた水原は、洋品店でハンチング帽を買う。

そこに通りかかった百合子が薫に気づき、ずいぶん遅かったのね、私たち風呂に入ったのよ!などと話しかけて来たので、学生さんはモテますねと、踊り子たちをやや蔑んだ目で見た洋品店の主人(小林十九二)が皮肉を言う。

百合子に連れられ、旅芸人たちの宿までついて来た水原は、宿のまでで待っていた栄吉から、宿はお決まりですか?と聞かれ、お持ちしましょうと水原の荷物を持つと、自分の知り合いの宿に案内する。

先に馴染みの寄り合い宿に逗留していた千代子はたつに、腰が攣っちゃった…と言っていた。

小間物屋は百合子に売り物の商品を見せながら、何でも上げるよなどと言っていた。

たつは、馴染みの女客に下田の方は良かったかい?と聞くと、おせんちゃんが飲食店をやってたよと言うので、あの人は運が良かったんだよ、私は運が悪くて…とこぼす。

宿まで送る途中、栄吉は水原に、私も昔は東京で芝居の真似事をしていたんですよと恥ずかしそうに教える。

宿に到着すると、栄吉の顔見知りの主人は、最近、高山関係者の客が多くて…とちょっと迷惑そうにするが、一高の人だよと栄吉が教えると、来年高等学校に入る息子がいるんで勉強を見てもらえばと喜んで、息子を呼ぶ。

すると、出て来た息子は顔中膏薬を貼っていたので、何だそりゃ?と主人が驚くと、ニキビ取りだよと息子は言う。

その後、遠慮もなく水原の部屋にやって来た息子は、女子と子供は養いがたしですな…などと生意気な事を言いながら、勝手に水原のカントの本を見ると、僕も早くこういう深刻な本を習いたいですなどと口先だけ達者なので、水原は呆れてしまう。

それでも仕方なく、一緒に勉強を始めると、また、三味線の音が向かいの棟から聞こえて来たので、水原は顔をしかめる。

息子も、あんな音を聞く旅館の息子の悲劇ですな…などと又生意気なことを言うので、音に負けないようにやろう!と水島は声をかける。

息子は、部屋にあった手拭いではちまきをしはりきる。 旅館の女中たちは、金なんて出るのかね?金に釣られたお客ばかりじゃないかと鉱山関係者が多い事に呆れていた。

座敷を終えた百合子は、水原さんの部屋ここかしら?などと別棟の方に興味を示すが、旅館の主人は迷惑そうに、早く帰った、

帰ったと旅芸人たちを追い返す。

夜、水原は宿の息子と風呂に入るが、息子は、頭を使うと疲れますね~などと相変わらずすっとぼけたことを言う。

その時、女湯の方から、薫ちゃん、太ったわね~などとからかう百合子の声が聞こえて来たので、水原は緊張する。

薫と百合子と一緒に入浴していたたつは、そんな百合子に、湯船の中で踊りの手ほどきをする。

おなか空いたんだもの…、私嫌!などと文句を言っていた百合子は、おばさん、若い頃から旅芸人やってるの?芸者でもやれば良かったのにと聞く。

すると、たつは、芸者ったって芸を売るばかりじゃないんだよ…と、薫がいるのでそれ以上は口を濁し、私たちは身持ちは固いので信用があるんだから、変な言い方しないでちょうだい…と百合子に言い聞かせる。

そんな女たちの話を男湯でじっと聞いていた水原はついくしゃみをしてしまう。 翌朝、咳き込みながら窓から外を眺めた水原は、百合子と薫が帰ってゆく姿を見かけたので、仲居に、踊り子さんたち来たのかい?と訪ねる。

すると、こちらを訪ねて来たので断りましたと言うので、もう風邪は大丈夫だから、その布団良いよと片付けさせると、その後、薫たちが泊まっている相宿に向かう。

やって来た水原を歓待したたつは、鉱山の人たちが当たらないから、やけっぱちになって遊んでいるんですよと、夕べの座敷の事情を話す。 さっき来てくれたんだって?と薫たちに水原が聞くと、旅館の女将さんに叱られたので、もう行きませんと百合子が言う。

相部屋なので、赤ん坊が泣き出した他の女客は男たちに邪険にされる。

水原にお茶を出そうとした薫は、お茶をこぼしてしまう。

そこに、栄吉も戻って来て、碁でも打ちませんか?と水原を誘うが、水原はくしゃみをする。

夕べ、風呂場で、女湯から聞こえて来た会話に夢中になり、つい長居して湯冷めをしてしまったのだった。

体調が優れないので、また宿に戻ることにした水原だったが、容態を案じた薫と百合子が訪れると、また迷惑顔の主人が出て来て、あの学生さんは出世前の人でね…と言い聞かしていたが、水原からの指示を受けた仲居が、お会いになりたいそうですと玄関口に降りてくる。

水原の部屋に向かう薫たちの姿を見た泊まり客がまくら芸者か?と聞くと、主人が旅芸人ですよと答えたので、演技直しに呼んでやるかと客はにやつく。

水原はやって来た薫と百合子を部屋に招き入れると、薫が気を聞かせてお茶を煎れ始めたので、お嫁さんみたい…、ごちそうさま!と百合子はからかうと、猿飛佐助ない?などと本を探そうとする。

そこに宿の息子がやって来て、家の風呂に入って行けなどと誘うので、背中流してやるわなどと言いながら百合子が一緒に着いて行く。

二人きりになった薫に、さっき怒ったの?と水原が聞くと、ねえ、聞いても良い?どうして私たちを誘ってくださるの?と聞く。

そして薫は、おはじきを入れた小袋を取り出して水原に見せる。

おはじきの中に貝殻やボタンなども混じっていたので、これは?と貝殻の事を聞くと、祝ヶ浜で拾ったのと薫は言う。

ボタンは、熱川や伊東、熱海で拾ったのと言うので、誰かからもらったのかと思ったと水原が言うと、又薫はふくれる。 怒り虫だな~…、怒らずにやって欲しいよと水原は苦笑する。

少し、おはじきごっこをやってくると、ご免くださいと栄吉がやって来て、薫ちゃんだけか…と気づくと、お母さんが呼んでいるよ、おの宿でお座敷がかかったんだと伝えたので、薫は帰ることにする。

その後、廊下に置いてあった鳥かごの取りを見ていた水原は、今夜のお客うるさいでしょう?と仲居が詫びに来たので、そこが薫たちが来た座敷だと知る。

三味線を弾いていたたつは、座の乱れを感じ取り、薫に先に帰りなさいと声をかける。

それで、せっかく面白くなる所だったのに!と不満顔の百合子と共に廊下に出た薫は、そこにいた水原に挨拶をして先に宿に戻る事にするが、水原も同行する事にする。

途中、たつの陰口を聞く百合子に薫が反論すると、薫ちゃん、急にえらくなったわねなどと百合子は嫌みを言うが、その時、飲み屋から顔をのぞかせた小間物屋が、おでんおごってやるよと声をかけて来たので、百合子だけ喜んで飲み屋に入っていく。

一方、酔客が騒いでいた座敷では、薫たちがいなくなった事に気づいた客が、若いの早く呼んで来い!などと騒ぎだしていた。

飲み屋でおでんをごちそうになっていた百合子は、おじさん、本当に芸者に世話してくれる?と甘えていた。

河原に来た薫は、私、今まで自分の暮らしを恥ずかしいと思った事なかった。私だって母さんの商売が一番良いとは思わないけど…と哀しげに言うので、良いおふくろさん持ってるじゃないかと水原が慰めると、水原さん、お母さんは?と薫が聞いてくる。

死んだ…と答えると、お父さんは?と聞くので、死んだ…と水原は教え、そんな事、黙っていようと思ったんだと言うと、でもうれしい…、私のお父さんもいないんですもの…、半分だけおんなじと薫は言う。

もう10時だよ、叱られるよと水原が注意すると、あの木の天辺にお突き様が降りてくるまで、それを見ていると言う。

先に宿に戻っていた千代子やたつたちは、薫が戻って来ないので心配し、見て来ようと相談していたが、そこにようやく薫が戻ってくる。

栄吉はいきなり薫をビンタし、だから枕芸者なんて言われるんだ!と怒ると、この人はこの頃気が立っているから!と千代子がかばうので、あっしには何も文句言うなって言うんですか!と栄吉は不機嫌になる。

そんな栄吉にたつは、千代子に文句があるのだったら私に言っておくれと頼む。

他の女客の赤ん坊が又泣き出す。

その時、小間物屋と百合子が戻ってくる。

薫はたまらなくなり外へ飛び出すと、そこには先に飛び出した千代子がいたので、姉ちゃん、可愛そうねと声をかける。

どうして一緒になったの?別れれば良いのに…と薫が栄吉との事を同情すると、好きだの嫌いだのじゃないのよ…、栄さんに言えないのと千代子が煮え切らないので、気に入らないのか?と栄吉が宿から出てくる。

薫はその場を逃げ出すが、栄さん、話があるの…、でもこれを言うと嫌われるかもしれないけど…、私もう3ヶ月なのよ!と言った千代子は近づいて来た栄吉にしがみつく。

大島にいるときから分かってたけど…と言うので、馬鹿野郎!と栄吉は叱る。

ねえ、私を見捨てないでくれる?と千代子が訴えると、当たり前よ、俺も親父になったか…と栄吉は急にうれしそうな顔になり、千代子をきつく抱きしめる。

そんな二人の様子を、物陰から薫は不思議そうに見ていた。

翌朝、小間物屋と百合子は、まだ暗いうちから宿を出て、馬車に乗って出発する。

その後、ヤギの所にいた薫は、百合ちゃんいなくなっちゃったんだ、私、一緒にいて何故分からなかったって叱られちゃったと水原に言う。

宿では仲居が、一足先に下田に行くってことでしたよとたつに伝える。

その後、出発したたつに寄り添って歩く千代子は、おっ母さん、私生まれるのと伝えたので、たつは、まあ!と驚く。

薫は水原に、私、百合ちゃんと喧嘩したから行っちゃったのかしら?私、生意気な女の子かしら?と案じているので、元気出せよと行った水原は、わき水を飲ませてやる。

元気でた?と聞くと、出た!と笑った薫は、もうめそめそしないか?と笑う水原に、今度は自分が水を飲ませてやる。

すると水原も元気になったと笑い出し、こんなに笑うの久しぶりだと言うと、僕ね、下田から大島、行ってみようかな?などと言い出す。

歩いていたたつは千代子に、大島帰ったらすぐ婚礼上げるんだね?薫もここんとこ急に目がキラキラとしてと言うと、2人ともまだ子供ですものと千代子は笑う。

下田

薫は水原に、活動に行ってみたいなどと水原に話す。

栄吉は水原を相模屋と言う宿まで案内すると言う。

千代子は、おなかがしくしくして…と言い出す。

その後、1人で「花菱」と言う店に来たたつは、昔なじみのおせん(浅茅しのぶ)に会い、千代が結婚するんですよと教える。

店に入るよう勧めるおせんに、2~3日稼いだら帰ろうと思ってるんだけど…などと立つが話している所に、おっ母さん!千代子が流産したんだ!お医者さんに行ってくるから!と栄吉が走って知らせにくる。

千代子が泊まった「甲州屋」の老女中(野辺かほる)は、流産なんて病気じゃありませんよ、一週間は立てないけどね…と、横になった千代子に言う。

薫とたつが駆けつけて来て、薫は、姉ちゃん、しっかりして!と励ます。

そこに水原も来て、薫と共に医者に行く事にする。 往診代と薬代が6円60銭と看護婦に言われた薫が足りない事に気づいた水原は自分が金を立て替えてやる。

たつは「花菱」のおせんの所へ行くと、2〜30円で良いので融通してもらえないか?と頼むが、おせんはうちも景気が悪くてね…と話に応じようとしないので、言いたかないけど、大島にいたときはずいぶん前貸ししたつもりだけど…とたつが言うと、私もそれを返す以上の働きをしたつもりですよ、当てにしてたんですか?とおせんも言い返す。

「甲州屋」では、この部屋は予約が入っているし1日3円だから、1円50銭の安い部屋があるのでそっちに移ってもらえないかと老女中が千代子と栄吉に伝えていた。

そこにたつが戻って来て、その事を聞く。

病院から薫と水原が戻ってくると、栄吉とたつが、千代子が寝ている布団を引きずり狭い部屋に移動させている所だった。

水原の姿を見たたつは、水原さんにはとんだ恥をかきましたね…、赤ん坊が出来たのが分かっていれば、千代子を大島に置いて来たのに…と自嘲気味に言うと、あっしと言う男がだらしないばかりに…と栄吉も悔やむ。

薫はたちに、水原さんにお金を立て替えてもらったの…、1円50銭…と伝えると、たつは慌てて水原に金を返す。

水原は、父の形見の懐中時計を質屋に持っていって金に換えようとするが、この手のものは流せないんですよと断られる。

「甲州屋」の外にたつを呼び出したろう女中は、一晩付き合ってくれないかね?船が入って来て女が足りないのよ…、あんたでも良いけど…、あの子の方が…と薫の事を匂わすので、私たちは淫売じゃありませんよ!宿賃はしっかり払いますよ!とたつは憤慨して言い返す。

その夜、たつと薫は町を流して歩くが、酔っぱらいから、姉ちゃん、一杯付き合わないか!と薫がからかわれる程度の反応だった。

ちょうどその時、飲み屋から小間物屋が出て来たので、あんた、百合子をどこにやったんだよ!とたつは迫る。

町の置屋に行ってみると、出て来た女将は、うちは八丈島も大島も関係ないよ、帰ってください!と追い出され、挙げ句の果てに塩まで撒かれる始末。

店の奥には百合子がいたが、百合ちゃん!いるんなら顔くらい見せたらどうだい!と道からたつが呼びかけても返事はしなかった。

ようやく呼ばれた座敷では、勧められた酒をたつが一気にあおってみせる。

薫にも酒を勧めるので、この子はまだ生娘だから私がもらいますよと言い、たつは無理に酒を重ねる。

さらに、座を盛り上げようと歌ったり踊ったりのサービスで、客たちは多いに湧くが、薫は哀しげだった。

「相模屋」に泊まっていた水原は店の番頭を呼んで、父親の懐中時計を買ってくれないか相談するが、相手にしてもらえず、ヤケになって飲み屋に出かける。

すると、小間物屋が飲んでいたので、あんた!ひどいじゃないか!百合ちゃん、黙って連れ出したんでしょう!と近づいて、水原は文句を言う。

すると酔った小間物屋は、あんたいつから太鼓持ちになったんだい?俺は今まで堅い商売で通って来た人間だ、それを女衒みたいに言われて黙ってられるかい!と怒鳴り返し、水原を殴りつけてくる。

飲み屋の主人も迷惑がり、水原を表に追い出す。

薫は泥酔したたつを連れ「甲州屋」に戻ってくると、もうこの仕事、嫌になっちゃった…、つくづく情けなかった…、兄さんが旅が嫌だっての良くわかるわ…と愚痴る。

すると、苦しくて横になっていたたつが起き上がり、薫の頬を殴りつけると、生意気言うんじゃないよ!誰のおかげで大きくなったんだい!と叱りつけると、又横になる。

薫は怒って、大島に一人で帰っちゃう!と言うので、薫ちゃん、待ちなさい!と、寝込んでいた千代子が必死に止める。

たつは、高いびきをかいて寝ていた。

一方、相模屋に戻って来た水原は、やかんの水を飲むとふて寝する。

薫は寝ていた千代子に、姉ちゃんの気持分かるわと話しかけたので、薫ちゃん、また怒ったの?と優しく聞きかえした千代子は、お母さんも老けたわ…、お母さんのあんな姿見たの初めてよ、親子なんですもの、あんたも察してあげないと…と言い聞かしながらも、そのたつの姿が見えないので、さっき三味線持って出て行ったけど、どこ行ったのかしら?と案ずる。

私、行ってくると行って立ち上がった薫は、おっ母さん、老けてなんかいないわ、ほっぺぶたれた時、とても力強かったもの…と千代子に言うと外に出てみる。

すると、川沿いを一人三味線を弾いて流しているたつの姿を見かける。

また、酔っぱらいにからかわれるたつだったが、富士の白雪ゃの〜え!と元気に歌いだしたので、薫は声もかけず、じっとその姿を見つめるだけだった。

水原は、修善寺の「さくら屋」にいる坂本に電話を入れていた。

金?そんな所でぼやぼやしないでこっちへ来い!と坂本は言うだけなので、水原は諦めて電話を切る。

そこへ番頭が、どなたか見えてるんですけど?と言いにくる。

それは薫だった。

二人で下田の町が一望できる丘にやって来ると、お母さんを見ていたら、自分の事を考えられるようになったの…と薫は言い出す。

大島へはまだ帰れないわと言う薫に、ごめんね、何もしてやれなくてと水原が詫びると、色々教えてもらったわと薫が言うので、僕も教えてもらったと水原も答える。

夏は大島で待ってるわと薫が言うので、行くよと水原が答えると、じゃあ、それまでさよならね…と薫は言う。

手を出してごらん?と水原は言い、薫の手のひらに自分の学生服のボタンを一つ置いてやる。

薫は喜び、おはじきの小袋を出してそこにしまいかけるが、思い返して、懐紙に包み、懐に入れる。

そして、自分の簪を、水原のなくなったボタン代わりに、学生服のボタン穴に刺してやる。

別れるときって泣くもんじゃない?と薫が言うので、笑うもんさ、笑ってみせようかと答えた水原はわざと無理して笑ってみせる。

二人は互いに顔を見合わせ、薫は涙ぐむ。

宿に戻って来た薫に、あんたたち若いんだから、これからいつか又会えるさとたつは言い聞かすと、又薫が泣き出したので、その涙をたつが拭いてやる。

そこに戻って来た栄吉が、水原さん、今夜の船で東京に帰るんだってさと教える。

その夜、座敷で栄吉が踊る番になったので、それまで踊っていた薫はたつの横に座って三味線を引き出すが、たつは、お母さん1人で良いから、あんた波止場に行っておいでと声をかける。

しかし、薫は良いと返事をし、ソーラン節の演奏を続ける。

その後、港に見送りに行ったのは栄吉で、妹や母も宜しくと言っておりました、あなたにはずいぶん愚痴ばかりこぼしましたが、私も一本筋が通りましたと船に乗り込む水原に挨拶をする。

水原はそんな栄吉に、自分のハンチングを、お別れにこれを…と差し出すと、これで奥さんに卵でも買ってあげてくださいと、おひねりも渡す。

栄吉は、じゃあ…と遠慮なく受け取る。

その時、薫は必死に港に向かって走っていた。

じゃあ気をつけて!と栄吉は見送り、水原が乗り込んだ船は港を離れていく。

船上の水原は、港にやって来た薫を見つけ、薫ちゃ〜ん!と呼びかけると、一瞬笑顔になった薫だったがすぐに泣き顔になる。

水原が手を振ると、薫も手を振り返しながら泣き出していた。 水原は、薫からもらった簪を振ってみせる。

その後、栄吉と千代子を下田に残し、たつと薫は旅を続ける事にするが、そんな二人の後ろから、お師匠さん!すみません!と呼びかけながら近づいて来たのは百合子だった。

一緒に連れて行ってください、私芸者には向いてないんです。

小間物屋さんが変な事しようとしたのでぶっ叩いたのなどとあっけらかんと言うと、宵闇〜迫れば〜と歌いだすので、たつも笑いながら三味線で伴奏してやる。

百合ちゃん、良い子になったわねとたつは笑って、一緒に「君恋し」の歌を歌い始めるが、薫は哀しげな表情のままだった。

山の風景にカメラがパンする。
 


 

 

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