フランキー堺がフル回転で活躍するライトコメディ。 就職難を風刺した内容だが、とにかく陽気で楽しく若々しく、それでいて若者同士の恋愛模様もイキに処理され、観ていて嫌みがない。 途中から、時子と晋吉がコンビを組んで、二社の利害関係をうまく噛み合わせた出世作戦に展開するが、この辺はサラリーマン喜劇のテイスト。 特段の能力もなく気も弱い晋吉が、勝ち気で頭が良い時子に巧みに操縦されていく辺りが実に微笑ましい。 基本ナンセンスなので、良く考えると、三つの仕事を掛け持ちすることなど不可能で、翌朝8時に日直と交代するはずの警備員が、下宿に戻って早朝の4時に寝ていたりするのはどう考えてもおかしいのだが、その辺は御都合主義と笑ってすます所だろう。 後に大映に移籍する中田康子さんが色っぽい役で出ていたり、「ゴジラ」のヒロインで知られる河内桃子さんが出てくるのが楽しい。 河内さんはフランキーさんと並ぶと見下ろすくらい長身で、調べてみると170cmの長身だと知った。 当時の女優さんとしてはずば抜けたスマートさだったはずで、相手役の男優もバランス的に相当の長身でないとバランスが取れなかったのではないだろうか。 この作品でも長身の天津敏が登場するにも、河内さんとのバランスが理由かもしれない。 他にも、倉庫の班長として「ウルトラセブン」の「明日を捜せ」で、トラックから追い掛けられていた安井役、木田三千雄が登場するのも見所。(キネ旬データでのキャスト表には沢村いき雄と載っているが、この作品に沢村いき雄は登場していない) 香川京子さんの、晋吉を手玉に取る、聡明でちゃっかりした現代風のヒロイン役も魅力だし、途中、そのヒロインの花婿候補として登場する藤木悠のおとぼけ振りも愉快である。 ジョージ・ルイカーと言う日本語の達者な外国人も印象的だが、当時の東宝系の作品で時々見かけた人だと思う。 当時としては平均的なプログラムピクチャーではないだろうか。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1958年、東京映画、井上薫+新井一脚本、瑞穂春海監督作品。 今や東京に人口は881万1731人、ニューヨークに告ぐ世界第二の大都市である。 はたしてこの人物は職を持っているのであろうか?(と東京の町で働く人々の様子を写しながらナレーション) 鶴亀金融の外交員、田貫(田武謙三)は、毎日弁当を今川焼き屋のお徳(吉川満子)の店で使わせてもらっていたが、その2階に下宿している上野晋吉(フランキー堺)が窓の外に「求職」の札を付けた風船を揚げているのに気付く。 大学を出たものの、いまだに就職先が決まらないのだというお徳の説明を聞いた田貫は、どうだろ?わしの会社では?20年も食べてるからそれなりに顔は効く、その代わり1000円の口入ってもらえないか?と自分の営業との引き換えを条件に答える。 二階の窓辺で寝そべっていた晋吉は、下のお徳に呼ばれたので、慌てて立ち上がっておりようとして、足の親指に巻き付けていた風船の糸を慌てて外す。 ハンガーにかけていた学生服の袖に両腕を延ばして一挙に着ると、下に降りていって、お徳から、田貫さんが就職世話してくれるってさと聞き、明日2時頃会社に来てくださいと田貫が言うと、何でも結構です!これお持ちになってくださいと、弁当を食い終わって立ち上がった田貫に今川焼を勝手に手渡す。 その直後、肝心なことを聞き忘れたことに気づいた晋吉が外に飛び出し、僕の商売何ですか?と聞くと、お徳さんに話しといたよと田貫は言う。 店に戻ると、しっかりしてくださいよ、元がかかっているんですからとお徳は嫌みを言うが、底に郵便は遺髪人が来て晋吉に速達を渡す。 中を開けて読んでみると、薬屋の採用試験だと分かり、明朝10時までに来るようにかいてあったので晋吉は有頂天になる。 しかし、お徳は、私のはね、月掛けは一旦だからおろそかにしないでくださいよと釘を刺す。 それでも上機嫌になった晋吉は、今日はごちそうでしょう?時子さんの給料日じゃないですか、大いにやりましょう!などと言いながら二階へ上がっていく。 ところが、その後、帰宅した昼夜倉庫に勤める娘の時子(香川京子)が夕食を1人で食べようと、ちゃぶ台の上の布巾をのけると、ごちそうだったので喜ぶが、今日はあんたの月給日だから奮発してくださいって言われて…とお徳は晋吉からせがまれたことを打ち明ける。 それを聞いた時子は、お母さんも人が良いわね~と呆れながらも、靴買うから、今月はシネマスコープ1枚で我慢してなどと言いながら1000円札を差し出す。 お徳は、二階は2ヶ月ないんだからね…と顔をしかめると、良いことあるのよと言いながら、時子は二階の晋吉の部屋に上がっていく。 晋吉は上機嫌のまま、俺はその内大社長になるもんね!いっぺんに就職2つも決まったんだ!と自慢げに言うので、もう一カ所よ、うちの会社でも採用ですってと時子が教える。 驚いた晋吉が、どれを選んだら良いのかな?と贅沢な悩みを言うと、3つとも行くのよ、今まで仕事があなたを選んでいたんだから、今度はあなたが仕事を選ぶのよ。そうしないとお嫁さんもらえないわよなどと時子は焚き付け、家賃は払ってねと釘を刺す。 さらに、洋服いるんでしょう?などと言いながら、持って来た箱を開け、なくなったお父さんのよと言いながら、ジャケットを晋吉に着させてみる。 いつもすまないね、お世話ばかりかけて…と晋吉が感激すると、月賦でも良いわよなどと時子はすまして言うので、晋吉はそりゃないよ!と泣き顔になる。 翌朝、新々製薬に出向き、廊下を箱を重ねて運んでいた長身の女性サヨ子(河内桃子)に社長室の場所を聞いた晋吉は、そのまま社長室に入り挨拶しようとするが、ちょうど社長の山村新之助(十朱久雄)と城研究所長(増田順二)がジョージ宮田(ジョージ・ルイカー)とノータックスがどうのと商談をしている最中だったので追い出される。 何だね今のは?と山村社長が聞くと、研究所の臨時社員ですと城が答えると、ああ、人間モルモット!とジョージが訳知り顔で笑う。 社長室の外の廊下で煙草を吸っていた晋吉は、近づいて来たサヨ子から、あなた新入社員でしょう?ラグビーじゃ卒業するまでレギュラーになれなかったでしょう?などと指摘して来て、驚く晋吉に、私、城北大のファンなのよと打ち明ける。 それを聞いた晋吉はうれしくなり、僕が出世したら、君の昇給のこととか、さっきのような荷物を持たせたりはさせないようにするよとなどと大ボラを吹く。 そのとき、社長室から出て来たジョージが、大きなモルモットね!などと晋吉のことをからかいながら帰って行くが、晋吉には意味が分からなかった。 タバコの灰をこんな所で捨てちゃダメよ!ハンカチ!とサヨ子から注意された晋吉は、やむなく胸ポケットに入れていたハンカチで吸い殻を包んでポケットに戻す。 そこへやって来た滝が、すぐに地下実験室へ行くように晋吉に声をかけて来る。 地下実験室へ行き、そこにいた看護婦に、僕の上っ張りはどこにあるんです?と聞くと、脱ぐんです!身体検査ですよなどと言われたので、身体検査ならすませましたけど…などと晋吉が戸惑っていると、今日は船酔いの実験です。今日飲んでもらうのは、我が社でも一番強い難破でも酔わない薬ですと看護婦は言う。 そこに、先に実験台になっていたらしき男が半死半生の状態で運び出されて来る。 あの薬はダメだったみたいねと看護婦が言うと、白衣の男が、今度は猿にしか効かない奴を使おうなどと答える。 飲んで!と看護婦から差し出された薬を飲んだ晋吉は、そのまま実験室の中の特殊な椅子に座らせられ、顎を固定するよう看護婦から命じられる。 そんな晋吉の様子を見た白衣の男が、大分弱そうな男じゃないか、大丈夫かね?と聞いて来ると、分かりませんと答えた看護婦はその場で晋吉が座っていた椅子をくるくる回し始める。 実験の後、ふらつきながらビルの外に出た晋吉が、通りかかったそば屋の出前に、二番目の就職先である鶴亀金融はどこですか?と聞くと、今出て来たビルの4階だと言うではないか。 又階段を上がって行く途中で、サヨ子に会ったので、トイレ!とごまかし、サヨ子からトイレの位置を聞いて行く振りをする晋吉は、サヨ子が去るのを確認し、鶴亀金融の前に来る。 部屋の前には既に面接を終えたらしい3人の男女が座っていた。 部屋に入り、田貫さんの紹介で参ったものですが…と声を掛けると、三浦人事課長(坂内英二郎)は、入社おめでとうと言った後、給料のことを聞いた晋吉に、3ヶ月は見習い 、後は成績次第だと言う。 外交員ですか?と聞くと、外務員ですと言い、固定給は?と聞くと4000円で、午後は報告のため必ず会社に来ること、君はハンカチをぞうきんにすることが仕事だ!などと課長は発破をかける。 その後、廊下に出た課長は、晋吉と先に面接を終えていた3人を連れ、社長室の前まで来ると、お辞儀の仕方をその場で練習させ、社長は謹厳無比の方だから粗相のないようにと注意して社長室に入る。 部屋の中では、社長の鶴野亀吉(左卜全)が、膝の上に座らせていた情婦のはるか(中田康子)からダイヤをねだられていた所だった。 はるかは、課長が入って来るとさりげなく立ち上がり窓辺に下がる。 本日の新入社員を連れてきましたと課長が紹介すると、入社おめでとう!と言いながら、机を経って前に出て来た鶴亀社長は、1人ずつ握手をして行く。 最後の晋吉の番になった時、晋吉は鶴亀の片方の耳に、はるかと同じイヤリングがぶら下がっていることに気づく。 タイムイズマネー!1日1日、お金には利子がつく!などと鶴亀社長は訓示を述べ、何か質問は?と聞く。 すると手を挙げた晋吉が、お耳に耳輪が…と鶴亀社長に近づいて耳打ちするので、君は若いがなかなかイカすじゃないか!と、はるかがいたずらに付けた耳飾りのことだと気づき、鶴亀社長は感心する。 そのとき、晋吉のバッグの中から突然、めざましのベルが鳴り出し、タイムイズマネーです!とそれを止めながら晋吉が言うので、君は前途有望だ!などと鶴亀社長は褒める。 続いて3社目の「昼夜倉庫」に来た晋吉は、中から帰ろうとしていた時子と出会う。 そのとき、門の前に停めた車から時子に急ぐよう呼びかけていたのは、先ほど新々製薬で会ったジョージ宮田だった。 時子はジョージの車に乗って行ってしまったので、倉庫の中に入ろうとした晋吉だったが、守衛の西郷平八郎(田中志幸) に呼び止められたので、新入社員ですと晋吉が挨拶すると、新しい警備員だな?そこの詰め所に行け!駆け足、前に進め!などと軍隊長で命令して来る。 詰め所に来ると、倉庫班長の渋谷八太郎(木田三千雄)から、君は夜8時から夜勤に当たり、翌朝8時に次の日直と交代すると仕事の内容を教えられ、またしても軍隊長の命令で前に進め!回れ右!などと命じられ、動作が緩慢である!などと注意される。 何とか3社回ってくたくたになり下宿に戻って来た晋吉だったが、どうせ明日からは1軒しか行かないんだから…などとお徳と話していたが、時子から各社の給料を聞かれたので、4800円、4000円、5000円と答える。 全部足してようやく1万3800円の平均額に届く安さだったので、時子は驚く。 そんな条件でやれるもんか!と晋吉が憤慨すると、やるのよ!3つやるのよ!と時子が言うので、いつ寝るの?僕は…と晋吉が聞くと、あら、寝るの?ナポレオンは夜寝ている時も片目は開けていたそうよなどと時子は真顔で答える。 さっきの誰?と昼夜倉庫の前で待っていたジョージのことを聞くと、会社のお客さん、私のことが好きみたい…と時子はあっけらかんと答え、ロードショー映画を見ない?靴を買わなけりゃいけないのよ、アベック席よ、さっきの外人からお金がありそうな人紹介してもらいたくないの?などとチケットを晋吉に無理矢理買わせる。 翌日、金融のお客になってくれるかも知れないと、時子がジョージから紹介されたと言うマダムに会いに行くが、何とそのマダムとは、鶴亀金融の社長室で出会っていた社長の愛人山路はるか(中田康子)だった。 下宿の二階に上がり、さっそく鶴亀金融の営業を始めようとした晋吉は、上野晋吉君か…とはるかが言ったので驚く。 昨日は待ちぼうけよ、とうとう朝になっちゃった…、一杯行こう!などといつも老人相手で欲求不満気味だったはるかは酒を勧めようとする。 それを何とか押さえつつ、ジョージさんからのご紹介で参りました。毎月貯金のような形で一定額を預けられると、半年先から二倍の融資が受けられます。 掛け金には鶴の口と亀の口がありまして…と晋吉は営業トークを始めるが、まるで日比谷公園みたいねと笑ったはるかは、まだ分からない?と言いながら耳飾りを差し出して見せたので、ようやく晋吉の方も昨日社長室にいた女だと気づく。 失礼しました!と慌てて帰ろうとするが、飲んじゃいましょう。うちのおじいちゃん、すっかりダメなのよなどと遥かは誘いかけて来るので、犬が見ています!と晋吉は部屋の中にいたスピッツを指す。 すると、スケ!おいで!と犬を呼んだはるかは、それを押し入れの中に入れてしまうと、これで大丈夫でしょうなどと言いながら、晋吉をベッドに誘い込もうとする。 すると下から、旦那様ですよ!と声がかかったので、晋吉は鶴亀社長が来たことを知り慌てる。 二階に上がって来た鶴亀を前にしたはるかは、部屋に残っていた晋吉の靴を慌てて後ろ手でベッドの下に隠す。 どうしてこんなに早く?とはるかが聞くと、金を貸そうにも、金は利息が良い所に貸さないと儲からんなどと鶴亀は答えるが、その時、押し入れの中から犬の鳴き声が聞こえたので、何故押し入れなんかに入れているんだ?と不思議がる。 犬に見られるのは嫌!とはるかが恥ずかしがると、そんなもんかの~、女と言うものはデリケートじゃな…と鶴亀は納得する。 実は、押し入れの中には、晋吉も隠れており、何とか一緒に入れられている犬のスケが鳴かないようになだめていたのだが、どうしても相手が言う事を聞かないので、自分の昼食用の弁当を出して食わせようとする。 翌日、新々製薬の実験室で晋吉が飲ませられたのは「スリーマンデラックス」と言う精力剤だった。 遅刻して来たことが幸いし、晋吉は走って出社したので、滝が希望する「疲労困憊状態」になっていたので歓迎される。 薬の効果はてきめんで、力はみなぎり、意欲も食欲も湧いたので、昼、食堂で大量の食事を取っていると、そこにやって来たのがサヨ子で、同席すると、凄い食欲ね!と驚く。 物の見方も積極的になるんだ!と晋吉が説明すると、私、あの薬嫌い!邪道よ、人の弱みを突いているようで…とサヨ子は批判する。 君、いくらくらいもらってるの?と、サヨ子の待遇が悪いのでそんな見方をしていると思った晋吉が慰めようと聞くと、1万3800円と言うので、僕の3つ分じゃないか!と驚く。 そのとき、バッグの中の目覚ましが鳴り出したので、もう一軒行かなくちゃいけない所があるんだとサヨ子に言い残し、晋吉はそそくさと食堂を後にする。 鶴亀金融では、社長の鶴亀が、向こう一ヶ月は突撃月間とし、1人当たり500万勧誘することを切望して止みませんなどと訓示をする。 不景気な顔は敵ですぞ、ノルマの履行こそ生きる道!と鶴巻が訓示を終えると、営業部長(田辺元)が、ちょうどくしゃみをした晋吉を前に呼び出し、集金には金を落とさぬようこの腹巻きを使うようにと言いながら、晋吉の腹の上に腹巻き型バッグを装着し、チャックの開け閉めの仕方を教える。 今川焼の店に時子が帰ってくると、待っていたかのように、お徳が、丹波篠山のおじさんから手紙が来てたろう?お前をお嫁に欲しいって、今日突然出て来たので、今、上野さんの部屋に行ってもらったんだよねと説明する。 すると、その丹波篠山から来たと言う三郎(藤木悠)が丼を持って降りて来て、東京の天丼は旨いでんななどと言う。 その頃、はるかに連れられ、彼女の店にやって来た晋吉は、その場にいた他のホステスたちに、鶴亀金融の商品を説明しようとする。 そこにやって来たのがジョージ宮田で、昼夜倉庫の社長さん来てます?と言うと、ボックス席に向かう。 ジョージからノータックスの条件で商談を持ちかけられた管理課長(盤木吉二郎)は困惑するが、2日で取りに来ますから大丈夫!とジョージは安心させる。 その後、ロードショーの映画館にやって来たジョージは、時子が来るはずの席に晋吉が座っていたので、あなた違います!チケット拾ったんでしょう?ここ、もっときれいな人が来る所です!と文句を言い、互いにふてくされながら隣り合った席に座って映画を見る。 晋吉は、夜警の仕事についてからも、バカにしてやがる、拾ったんだろうなんて!と先ほどのジョージの言葉に憤慨していた。 それでも、映画の切符を僕にくれたってことは、お時ちゃん、あの外人を好きじゃないことの証拠を見せてくれたんだな…と察し、にやけながら担当の倉庫の中に入って行く。 そして倉庫内に積まれた木箱に腰掛けると、すやすやと眠り始める。 翌朝、下宿の二階で目覚めた晋吉は、隣に寝ていた三郎に気づき、家を間違えたかと思い謝りかけるが、三郎が自分の寝間着を着ていることに気づくと、君は誰だ!と詰問する。 わいは、この家の時子はんの花婿になるんやと三郎が威張るので、朝食に降りてくるよう呼びに来た時子に晋吉がそうなの?と聞くと、候補よ、そう云う意味ではあなたも花婿候補よ。どっちも同じなんだから、仲良くしてらっしゃいなどと言うので、俄然晋吉は三郎にライバル心を燃やし始める。 着替えて下に降りようとする時も、互いに相手の着替えを邪魔したりする始末。 下のちゃぶ台の前に来た晋吉に、田舎の親戚なのとお徳が三郎のことを紹介する。 時子さん、もう1人花婿候補があるんじゃありませんか?と晋吉が皮肉ると、ああ、薬のブローカーね、売ろうとしている会社にお金がないんですってと時子はすました顔で答える。 チャンスよね?鶴亀から融通するのよ!そのくらい頭使わなくちゃ、お嫁さんもらえないわよねと時子は言い、社長が出社する前の私邸に出かけるのよ、ハリ、ハリ!と急かすので、晋吉は朝飯も食えないまま出かけることになる。 山村社長の私邸を訪れた晋吉は、応対に出て来たのがサヨ子だったので、秘書がもう来ていると思い込み、社長はどこ?とため口で聞くと、今来るわとサヨ子は答え座敷に案内する。 晋吉はそんなサヨ子に、公私の別ははっきりしなきゃ…、こんな早朝から私邸に来るなんて奴隷根性だぞと嫌みを言う。 そこに山村社長がやって来て、あの薬副作用はあるかい?などと晋吉に尋ね、何だね?と用件を聞いて来る。 晋吉がその場にサヨ子がまだ居座っているのを気にすると、秘書だから良いだろうと山村社長は軽くいなすので、やたらしゃべるなよ!と晋吉はサヨ子を睨んでみせる。 資金でお悩みではないですか?と晋吉が切り出すと、実は3000万くらい必要なんだと山村は答える。 晋吉は、3000万くらいでしたら、融通してくれる所を知っておりますと鶴亀金融のことを伝える。 そこに女中が茶を運んで来たので、君がやらなきゃダメだろ!女中さんにやらせて!と晋吉がサヨ子を叱ると、その女中が、お嬢様もこちらで宜しいですか?とサヨ子に声をかけ、そのサヨ子が山村をお父様と呼びかけたので、茶を飲みかけていた晋吉は凍り付いてしまう。 サヨ子はそんな晋吉を面白そうに見ながら、奴隷根性ですいませんと皮肉る。 山村は、金策に困っていると言ってもあちこちに手を回しているから考えとくよと答え、テーブルに置いた懐中時計が鳴り出したので、出社の時間だと言って立ち上がる。 鶴亀金融では、田貫が集金の金を営業部長に渡しているのを横目に、他の外務員同士がなかなか営業成績が伸びないと愚痴をこぼしていた。 そこに晋吉がやって来ると、社長が捜しておられたぞと田貫が教える。 社長室に行ってみると、君はちっとも成績が上がっとらんじゃないか、固定給だけを当てにしとるようじゃいかんぞと鶴亀社長が説教を始めたので、3000万取ってきました。 借りる口ではなく貸す方ですよ、貸す方もなかなかないと聞いたものですから…と晋吉が言うと、どこで聞いた?と鶴亀は驚く。 いや…、そうじゃないかと思ったのでと晋吉はごまかす。 まさか、はるかの部屋の押し入れで鶴亀の言葉を盗み聞きしていたとは言えなかったからだ。 しかし鶴亀は、集まらんものは貸せんよなどと言うので、社長は最近お元気ではないとはるか様から伺ったんですが…と言いながら「スリーマンデラックス」の瓶を取り出すと、これで3人前の力が出ますと教える。 それでも鶴亀は、この手のものは色々やってみたがダメなもんだよと興味なさそうに言うので、晋吉は瓶をそのまま置いて退出する。 翌朝、下宿で晋吉が熟睡している間、三郎が時子に、銀座でも行きまへんか?と誘っていた。 あんな所行くの田舎者だけよと時子が断ると、なら、浅草で安来節やってますやろ?わて、あれ大好きでんねんと言うと、私は嫌いよと時子はそっけない。 じゃあ、新宿じゃ?と三平がしつこいので、上野さんと約束しているのよ、郊外を散歩して…、それが都会のランデブーじゃないと時子は嘘をつく。 そんな会話をしている所へやって来たのがサヨ子で、上野晋吉さんはいらっしゃいますか?と言うので、時子は憮然として、二階の晋吉を呼ぶ。 三郎もサヨ子の美貌に一目惚れしたのか、おばん!お茶!などとお時に命じ、自分は笑顔で玄関先に立っていたサヨ子を団扇で扇ぎサービスをする。 茶を出したお徳も、寝ましたのが今朝方の4時ですので…と、なかなか起きて来ない晋吉の弁護をするので、サヨ子は意味が分からずあっけにとられる。 そこへ何事かと降りて来た晋吉は、昨日の話、ぜひあなたのお力をお借りしようと思いまして…と言うので、慌てて朝飯を食おうとするが、サヨ子にライバル心を持ったのか、時子には睨まれるし、まだでしょうか?とサヨ子には急かされ、またしても朝飯抜きで外で待っていたサヨ子の車に乗ることになる。 その後、ふてくされた時子は、当てつけのつもりで三郎を誘い、ホテルに昼食を食べに行くが、メニューを見た三郎が、えらいボリよるな!天丼が書いてないな、こう飯を盛った上に大きなエビ天が…などとウエイターに説明し出したので呆れて帰ってしまう。 晋吉はその後、はるかに会い、鶴亀社長を口説いてくれるよう依頼するが、3000万引き出したら付き合ってくれるのね?それとも誰かとデートのお約束でも?とはるかから責められると、必死に否定するしかなかった。 お徳は、つまらなそうな顔をした時子が1人で帰って来たので事情を聞くと、もう嫌よ、あんなの!レストランで天丼頼むんですもの…と時子は愚痴る。 するとお徳は、丹波篠山の田舎から電報が来てるのよ、上の姉さんの縁談があるんだって…と言う。 はるかは、部屋に来ていた晋吉に薬を飲まそうと、外につないだと言う犬を見に晋吉が窓辺に行った隙に、お盆に乗せた2つのグラスの晋吉の方に「スリーマンデラックス」をこっそり投入する。 その直後、下の家主からはるかに今日は8時から10時までの間に来て欲しいんですってと声をかけられている隙に、晋吉は酒のグラスが二つ乗ったお盆をくるりと半分回転させる。 それに気づかず戻って来て自分の方に合ったグラスの酒を飲んだはるかは急に男のように元気になり、どっかきれいな姉ちゃん知らないか!などと仁王立ちになって言う。 後日、とある料亭に鶴亀社長と新々製薬の山村社長を呼んだ晋吉は、一緒に来た時子から、私、一生一代の芝居をしてやるわ、両方を合わせないで、私を秘書に見せかけるのよ。 これは出世の糸口になるかもしれないのよと言いながら、お守り袋を晋吉に渡す。 仲居さんから、新々製薬の山村様がお着きになりましたと声をかけられた晋吉は、まずは単身、鶴亀社長の座敷に向かう。 鶴亀は縁側に寝そべり、両手両足を天に突き上げる体操をしている最中だった。 晋吉の顔を見た鶴亀は、君もなかなかやるの〜…、ここはずいぶんボルンじゃろう?などと料亭の値踏みをする。 いけませんでしたでしょうか?社長!いかがでございましたでしょうか?と晋吉が聞くと、あの薬なら売れるかもしれん。後は条件次第だからの、このうちは女子はおらんのかね?と鶴亀は答える。 脈ありと読んだ晋吉は、芸者を呼びに行く振りをして部屋を出ると、次は新々製薬が待つ「桐の間」へ向かう。 部屋に入ると、山村社長や城研究所長と一緒にちゃっかり座って飲んでいる時子の姿を見る。 時子は晋吉のことを、鶴亀社長の甥っ子ですのなどと嘘をつくので、山村と城はすっかり晋吉のことを見直す。 時子が用意していた契約書を差し出すと、山村はためらうことなく判を押す。 時子と晋吉は共にちょっと…と断り座を外すと、芸者と足相撲で遊び興じていた鶴亀社長の座敷に戻る。 晋吉は時子のことを、社長さんに代わって専務さんが来てくださいましたと紹介したので、お若いのに良くおやりで…と感心する。 全ての条件をのんでお受けしますと時子が挨拶すると、鶴亀社長もその場で書類に判を押してくれる。 その頃、「桐の間」に残っていた山村社長は、上のは課長にしなきゃいかんだろうな…と昇進の話を城にしていたが、城の方は、ジョージは熱海に接待することにしましたと報告する。 自分たちの部屋に戻って来た時子が晋吉に、やっと調印がすんだ、今晩、二人っきりで祝杯上げましょうなどと話していると、そこに城研究所所長がやって来て、これからジョージと会ってくれますかね?と晋吉に頼みに来る。 城について部屋を出る時、これ、霊験灼かだったよと晋吉がお守り袋を時子に返すと、部屋に残った時子はその袋の中から爪切りを取り出し、つまらなそうに爪を切り始める。 その夜、熱海の旅館に招いたジョージは上機嫌で、奴さんを踊り出す。 そんな中、サヨ子が晋吉を部屋の外へ呼び出し、私ね、ラグビーであなた見てたでしょう?一度ゆっくりお話ししたかったの…、私たち愛し合ってますのなどと言い出したので、晋吉は困惑しながらも照れる。 するとサヨ子は、結婚しようと思うの、父はあなたを信用してますし…とまで言い出したので、僕の砲にも好きな人が…と断ろうとすると、山田は良い人って紹介して欲しいのと言うので、晋吉は唖然とする。 そこにやって来たのは、ラグビー部で先輩だった山田(天津敏)で、こいつはラグビーでは役に立たなかったけど、役に立つこともあるんだな〜などとからかって来たので、勘違いに気づいた晋吉は、何だ、そうか…と納得する。 そんな晋吉に、上野さんと廊下で声をかけて来たのは、芸者姿のはるかだった。 その頃、山村社長と城、芸者とジョージは麻雀をしていたが、そこにサヨ子が連れて来た山田は、山村から代わってくれないかと頼まれ、僕、麻雀できないんですけど…と困惑する。 一方、はるかの部屋に連れ込まれた晋吉は、知ってるわよ、はるか情報よ、もう逃げられないわよなどと言いながら、またもや酒を飲まそうとする。 恐れ入りますなどと言いながら、水割りを飲もうとした晋吉だったが、震えているのをはるかに見透かされてしまう。 そこへ仲居がやって来て、あちら様がどちらへ行ったと探しておられますと晋吉を呼ぶので、後できっと来るのよ!などと言いながら、腕をつねって来たはるかの部屋を退散する。 山村部長が麻雀をしていた部屋に戻って来た晋吉は、麻雀を代わってくれと社長から頼まれるが、持っていたバッグの中の目覚ましが鳴り始めたので、入浴の時間でして…、いつも決まった時間には入った方が身体に良いそうで…などとごまかし部屋を後にすると、通りかかった仲居に、これから東京に帰る列車はあるかね?と聞く。 11時のがありますけど…と仲居から聞いた晋吉は、それに間に合うよう、車を頼んでくれと依頼する。 その後、はるかの部屋に、東京の方で急用ができたんだ…と断りに行った晋吉だったが、パパが来たのよ、今お風呂よ。はるか情報より鶴亀情報の方が確かなようね…と笑ったはるかは、あなたとは縁がなかったようねと言いながら手を差し出して来たので、それくらいだったら良いだろうなどと言いながら晋吉が握手に応じようとするので、はるかは憎らしそうに晋吉の肩を叩いて来る。 その頃、今川焼屋の座敷では、時子と向かい合ったお徳が、三郎さん今どの辺走ってるんだろうね?と言うので、時子は熱海辺りじゃない?と適当に答える。 男ってうるさいと思ったりもしたけど、いっぺんに2人もいなくなると寂しいものだわよね…と漏らしたお徳は、熱海と言えば、晋吉さん、帰って来るんだろうね?お前、晋吉さんと喧嘩ばかりしてるけど一体どうなんだい?と時子の気持を確かめて来る。 一方、昼夜倉庫に遅刻して到着した晋吉は、帝国軍人に遅刻はない!上田三等警備員、定位置に着け!と渋谷班長から号令をかけられ、いつものように第8倉庫に来ると、中に入っていつも通り居眠りを始める。 やがて、懐中電灯を持った怪しげな三人組が倉庫内に入って来て荷物を物色し始める。 その話し声で気づいた晋吉は、泥棒と思い込み、いきなり三人に飛びかかって行く。 三人と乱闘になりながら倉庫の外に出た晋吉は、ドラム缶の上に会ったレンガを掴むと三人を威嚇する。 さらに、ドラム缶の中の油を左手の指先に浸し、指で拳銃の真似をする。 そこに、渋谷班長たちが駆けつけたので、泥棒です!捕まえてください!と頼んだ晋吉だったが、渋谷は呆れたように、その人たちは警察の人で、脱税品の押収に来られたのだと言うではないか。 翌日、新々製薬に出社した晋吉は、社長室に呼び出され、城から、あの倉庫は密輸の巣窟だよ!と怒鳴られ、山村社長からも、君が鶴亀の話何か持って来るからだよ!と叱られる。 営業部長からも、我が社が元禄時代から続いている由緒正しい会社で、今回も3〜4000万の損じゃないんだよ!などと文句を言って来る。 すっかり意気消沈し、頭を下げて帰りかけた晋吉だったが、考えてみたら僕はこれっぽっちも怒られることしてないじゃないですか!密輸に加担して儲けようとしてたのはそちらでしょう?何故僕が怒られるんです?失敗したら部下のせいにして!こんな会社、僕の方から辞めさせてもらいます!と山村に告げると、憤慨して部屋を出て行く。 下宿に帰って来た晋吉に、鶴亀の方も断っといたよ、ただし、鶴亀の掛け金の方は上野さんの方で立て替えて下さいねとお徳が言う。 そこに帰って来た時子まで、退職届出しといたわと言うので、どうして辞めちゃったの?と晋吉が驚くと、結婚したら2人きりの時間がないんですもの…などと、急に甘えたような口調で時子は答える。 僕と?!と晋吉が驚きながら二階へ時子と上がると、素敵じゃない?この部屋ももうちょっとこぎれいに飾り付けて…などと時子が言うので、後2つあると思って僕も仕事辞めちゃったんだと晋吉は打ち明ける。 そうだったの…、ごめんなさい…と時子が言うので、明日から又風船上げれば良いさと晋吉は笑顔で答える。 その代わり、私が三人前あげる!愛情の三人前よと時子が言うので、僕は三人前じゃなかったんだ…と晋吉も反省する。 そんな店の前に、又、いつものように田貫がやって来て、二階の窓か「求職」と書かれた紙の着いた風船が上がっているのを見つけると、きびすを返しとぼとぼと帰って行く。 |