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レッドタートル ある島の物語

「異類婚姻譚」や「邯鄲の夢」などを連想する民話のようなストーリーを台詞なしで描いたアートアニメ

無人島にたどり着いた男が、最初の内から夢と現実を行き来していると言う設定なので、途中からの女との暮らしが夢なのか現実なのかの解釈は観客の想像に委ねられているような気がしないでもないが、最後生き残ったのは亀の方なので、亀が孤独な男に見せてやった夢の半生のようにも思える。

亀を女性の象徴と考え、男は1人では生きて行けず、そのサポート役として女性が助けて一緒に生き抜くのが人間の生涯なのだ…と言う事かもしれない。

登場する人物や生物類は「タンタン」などにも似た二次元のセル画調だが、動きは滑らかで、実写をトレースした「ロトスコープ技法」のようにも見える。

一方、海などの表現は3Dのように見え、両者を混合したテクニックなのかもしれない。

夜はモノクロームに近くなる押さえた色調の画面は、ヨーロッパのコミック形式「バンド・デシネ」などの絵を連想させ、「動くバンド・デシネ」「動く絵本」と言った風にも見える。

特に癖がある絵柄ではないので、海外のコミックやアートアニメを多少知っている人なら違和感はないと思うが、従来のジブリアニメやコミック原作アニメなどしかしらないと取っ付きにくいかもしれない。

何せ、台詞がないだけではなく、全体的に淡々とした静的な展開なので、子供向けのアニメのようなものを期待していると肩すかしを食うはずである。

しかもその形式が80分と言う長編アニメの長さあるので、この世界観に馴染めない人には退屈かもしれない。

ものすごくインパクトがあると言う感じではなく、じんわり心に染み入って来る大人の感覚なので、観客を選ぶ作品ではないかと思う。

本来なら、単館などで一部のマニア相手にひっそり公開するようなタイプの作品ではないかと感じるが、それを今回は、ジブリ作品として東宝がメジャー公開に踏み切ったことが異色と言えば異色。

結果、普通ならアートアニメなど見る機会がほとんどないであろう層が初めてスクリーンで体験する希有な経験になるかもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2016年、スタジオジブリ+ワイルドバンチ、パスカル・フェラン脚本、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット原作+脚本+監督作品。

嵐の波間に浮かんだ男 側にあった船底のようなものにしがみつこうとするが、すぐに手を離れてしまう。

タイトル

カニが、砂浜に漂着し気絶していた男のズボンの隙間から中に入って来たので、違和感に気づいた男は目覚める。

無人島に漂着したらしい事に気づいた男は、近くの岩の上に登ってみるが、すぐ側にオットセイがいて鳴いたので驚く。

その後、ジャングルの中に入って行くが、何か音がしたので、棒を拾い上げて身構えると、急にスコールが降って来る。

島の高い岩の天辺まで登り、海に向かって、お〜い!と呼びかけた男だったが、何の反応もなかった。

やがて、ヤシの実を見つけた男は、気によじ上り実を落とすと、下に降りて、その果実を食べる。

その後、海辺の崖の上から海を見渡した男は、波間に浮かんでいる樽を発見、身を乗り出した瞬間、岩から滑り落ちて大きな岩の間に出来た隙間の水面に落下してしまう。

登ろうにも周囲の岩に手がかりはなく、逃れられないと感じた男は恐怖を感じるが、水を潜って下の様子を探ると、狭い抜け道のようなものが見える。

何度かチャレンジをし、何とかその狭い抜け穴から外海へ脱出した男は、島に戻り、漂着した樽を拾い上げようとするが、砂浜に引き上げた樽はその場で壊れてしまう。

森の中に入った男は、倒木を何本か浜辺に移動させる。

砂浜で小休止していた男は、すぐ側の砂浜から亀の子が出現したのに気づく。

さらに、何匹もの子亀が砂浜から姿を現し、一斉に海に向かって進みだす。

夜、浜辺で男は眠る。

ふと目覚めると、海に桟橋が出来ていたので、狂喜しながらその上を走ってゆく。

さらに、男の身体はいつしか空中を飛んでいた。 次の瞬間、男は夢から覚める。

翌日、カニが、波打ち際で死んでいた子亀を1匹見付ける。 男は、倒木を組み合わせ完成させた筏で海に乗り出す。

ところが、少し進んだ所で、何かが水面下から突き上げて来て、あっという間に筏が破壊されてしまう。

男は海に潜り、何者が攻撃して来たか見極めようとするが、周囲には何もいなかった。

又、島に戻り、再び作り直した筏で再び海に乗り出した男だったが、又しても、水面下から何者かがぶつかって来て、二隻目の筏も壊されてしまう。

島にたどり着き、男は嘔吐するが、その吐瀉物にカニが集まって来る。

男は森の中に入り眠る。 森の中には、昆虫やコウモリがいた。

カニが波打ち際にあった魚の屍骸を自分の住んでいる穴に引っ張り込む。

夜中、ふと目覚めた男は、海岸から光が射している事に気づき砂浜に出てみると、4人の演奏家が演奏をしていたので、人間に巡り会えた喜びで歓声を上げながら側に走って行く。

すると、その演奏家たちの姿は掻き消える。 気がつくと、背後の少し離れた波打ち際に別の演奏家たちが演奏をし始めるが、それもすぐに消えたので、男は号泣しだす。

翌日、又、森の中から倒木を拾って浜辺に持ち出した男は、オットセイの屍骸を発見する。

男は、そのオットセイの皮を少し剥ぐ事にする。

三隻目の筏が完成し、三たび海に乗り出す。

4匹のカニも一緒に乗っていたが、すぐに海に戻って行く。

男は、赤いウミガメが筏の背後から浮かび上がったのを見つける。

男は、ウミガメに邪魔されないように棒を握りしめ、筏の下に潜り込んだウミガメを突こうとするが、その甲斐もなく、筏はまた壊される。

海に落下した男は、セッッキンして来るウミガメに襲われるのではないかと恐れ、水中で身を縮めるが、赤いウミガメは何もせずそのまま去って行ってしまう。

又島に戻った男は、悔しさに叫びだす。

気がつくと、先ほどの赤い亀が砂浜に這い上がって来ているではないか。

男は亀に近づくと、憎たらしさのあまり、棒で亀の頭を殴りつけ、カメの甲羅ごとひっくり返してしまう。

男は、ひっくり返って身動きできなくなった亀の横で、又筏を作り始める。

男は、海でカレイを取ると、砂浜に戻り、赤いウミガメのひれに触ってみるが動かない。

ところが次の瞬間、ウミガメはひっくり返ったまま空中に浮かび上がったので男はそれを追いかける。

夢から目覚めた男は、ウミガメを元に戻してやろうとするが重すぎて無理なので、海の水を汲んで来てウミガメの顔のかけてやる。

やがて、亀の頭の所で男も横になって一緒に寝ていると、甲羅の胸の上部の部分が縦に割ける。

目覚めた男が赤いウミガメを見ると、何と、甲羅の中に入っているのは赤毛の若い女だった。

信じられないので目をこすって良く見ても、亀は女に変身していた。

急いで、島の中央部にある湖の真水を汲んで来て、仰向けになったまま気を失っている女に飲ます。

さらに、女の上に日よけの棚を作ってやると雨が降って来る。

男は念のため、女の手に触って動かしてみるが反応はなかった。

仕方がないので、森の中に入って、又倒木を拾って来るが、気がつくと砂浜には甲羅だけが残っており、中の女は姿を消していた。

湖に戻って来ると、女の足跡らしいものが残っているのに気づく。

砂浜でその日も寝て、翌日目覚めてみると、海の中に半分浸かっている女を発見、男が海に入って近づこうとすると潜ろうとするので、男は自分が着ていたシャツを浜辺に脱ぎ捨て、一旦森の中に戻る事にする。

その後、浜場に戻って来ると、シャツがなくなっていた。

岩の上に登って海を見下ろすと、男のシャツを着た女が、自分が着ていた甲羅を海にひっぱって海に向かっている所だった。

男がそちらへ降りて行ってみると、女は甲羅を海に浮かべ押して波間に流してやる。

男は、作りかけていた筏を前にして、ちょっと考え、そのまま海に押し出して流してしまう。

もう筏で脱出する事を諦めた男は、しばし海面に浮かんで星空を眺める。

そして、そのまま水中に潜ると泳ぎ始める。

すると、女も水中から近づいて来る。 女は男とともに浅瀬に上がると、貝を開いて中身を食べる。

そして、同じように開いた貝の中身を男にも食べさせる。

男は、砂浜に上がって来た赤い亀の頭を棒で殴りつけた事を思い出し後悔する。

そんな男の気持に気づいたのか、女は男の顔を優しく触ってやる。

そして、男の手を引いて島に戻る2人。

2人は自然に砂浜で抱き合い、その後、空中に浮遊して抱き合う。

砂浜のカニの穴の側によちよち歩きの赤ん坊が近づいて来て、驚いて穴に逃げ込んだカニを掴んで口の中に入れるが、すぐに吐き出す。

少し成長した子供が、波打ち際からガラスの瓶を拾って来たので、母親の女が、栓を抜いてみせる。

すると父親になった男が、砂浜に、島の絵と、少し離れた所にある大きな陸地に、大勢の人間と馬や象がいる絵を描いてみせる。

母親の女は、その島と大陸の絵の間に、亀の絵を描いてみせる。

母親が、岩場の上にある鳥の巣から卵を穫っているのを父親が見守っていた時、一緒にいた子供は、海に泳ぐ亀を見つけ、身を乗り出した時、岩場から滑り落ち、以前男が落ち込んだ岩場の隙間の水に落ちてしまう。

男は溺れる我が子を助けようと飛び込もうとするが、女が手を引いてそれを止める。

子供は、すぐに水に慣れ、水中に潜ると、岩のカブにある小さな隙間から外界へ抜ける。

そこに一匹の亀が泳いでいることん気づいた子供は、海面に出る。

それに気づいた男が飛び込み、子供を助けて浜に戻って来る。

一旦水面に出て息継ぎをした後、又潜って来て亀と一緒に泳ぎだす。 夜、母親の女は子供を抱いて砂浜で寝る。

やがて、さらに青年に成長した子供は、ヤシの木に登り実を落としていた。

その後、海に泳ぎだした青年は2匹の亀とともに優雅に水中を泳ぐ。

夜、両親が一緒に寝ている場所に戻って来た青年は、その側で一緒に寝る。

ある日、母は貝拾いをするため水辺に出ていたが、上空を飛ぶ取りの群れが妙に騒いでいる事に気づく。

水辺の水が引いていた。 森の中にいた父親は、浜辺に戻って来て、海岸の水が遠くまで引いている事に気づく。

上空で騒いでいた鳥たちも一斉にどこかへ飛び去ってしまう。

母親は、沖の方に何か異変を察する。

青年は湖の所で、瓶に水を汲んでいたが、何かを感じ、瓶をその場に置いたまま浜辺に戻ってみる。

母親は父親の手を引いて島の方へ戻って来ていた。 森から浜辺に出た青年は、海辺に押し寄せて来た洪水を見て、慌てて森へ逃げ込むが、押し寄せた波に流されてしまう。

森の昆虫やカニの屍骸が水面に浮かぶ。

気絶していた青年が目覚めてみると、島の森の大半が失われていた。

オ〜イ!と岩上から呼びかけた青年だったが、両親の姿はどこにもなかった。

浜辺を探しまわっていた青年は倒れていた母親を発見する。

母親は左足を怪我しており出血していたが意識を取り戻す。

その後、海に入った青年は、仲良しの3匹の亀と一緒に泳ぎ回り、いなくなった父親を探しまわる。

やがて、流木にしがみついていた父親を発見するが、父親はもう力尽きかけており、流木から手を離して沈んで行く。

そこに亀と青年が泳いで来て、父親を海面に押し上げる。

父親に肩を貸し戻って来た息子を見て、母親は喜ぶ。

青年は、貝殻をナイフのように使って、魚の内臓を取る技術をいつしか身につけ、両親とともに食事の支度をする。

その後、島中に散乱した木々を一カ所に集め、巨大な松明のように燃やしてしまう。

青年は翌日、湖に戻って来ると、水の中の泥の中に半分埋もれていたガラス瓶を見つけて取り上げると、水を入れて持ち帰る。

そして、浜辺で海の向こうをガラス瓶を空かして見る。

青年が目覚めると、海の波が大きく盛り上がった所で停まっている様を見る。

青年はその波の壁に近づいて行くと、その壁に飛び込み、水中を覗くと、高い水面部分に出て、浜辺にいた父親の方に向かって手を振ってみる。

父親が目覚める。

夜、岩場の所で寝ていた青年は、両親が寝ている側に戻って来ると一緒に寝る。

翌日、青年は両親とともに水際に来ると、そこに3匹の亀が待っている事に気づき、そこに飛び込んで亀と一緒にどこかへ泳いで行く。

それを見送る両親は身を寄せ合っていた。

子供が巣立った男と女は、また2人きりになり、草原の中に作った小さな窪地で一緒に寝る。

男と女は、又一緒に海で泳ぐ。

その後、男が浜辺に腰を降ろし、海の中で髪を洗っている女の姿を眺める。

2人とも白髪になり、すっかり年老いても、手をつないで浜辺に来ると、静かにダンスを踊りだす。

その夜、いつものように一緒に寝ていた女がふと目覚めると、男が死んでいる事に気づき嘆く。

女は海の中に入って身を漬けると、再び浜辺に戻って来て、死んだ男の横に横たわる。

そして、死んだ男の手を触る。

その女の手はいつしかウミガメのひれに変化する。

男の死体の横に出現した赤いウミガメはゆっくり方向転換すると、海の方へ戻って行く。
 


 

 

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