白夜館

 

 

 

幻想館

 

十六歳

 

白黒の文芸作品で昭和35年度芸術祭参加作品。

前半は、戦後間もない頃の基地周辺問題を描く社会派テーマか?と思わせる展開だが、後半は教師と教え子との禁断の愛を描く予想外の展開になっている。

基地が出す廃油で近隣の田畑が全滅する問題、米兵相手のパンパンたちへの地域住民たちの金銭的依存と根深い差別と云った重いテーマと、身近な先生と生徒の間の恋愛感情と言う問題が交差する形で描かれて行く。

廃油問題の方は付随的な描き方で、それがテーマと言う感じでもないのだが、基地近くに住んでいるため、親がパンパンに部屋を貸していると言う特殊な状況の中に置かれた子供たちの早熟振りが後半の悲劇を生むきっかけとなっている。

浅丘ルリ子さんは、快活なスポーツ少女と恋や性に悩む少女の二面性をきちんと演じている。

渡辺美佐子さんのパンパン役も見事。

殿山泰司と山岡久乃の両親役の自然さ、白木マリさんの悪役振りも見応えがある。

悪役と言えば、長門裕之さんが演じている先生役も絶妙。

一見、物わかりの良い優しい先生のように見えて…と言うひねった役を長門さんが巧みに演じている。

もう1人の先生を演じている葉山良二さんは、二枚目役風のキャラクターなのだが、上半身裸になって汗を流すシーンなどでは、中年太りの体型が顕著なので、中学生設定のルリ子さんとの年齢的なバランスが微妙に見える。

意図的に2人の年齢差を見せることで、その関係の禁断性を強調しているのかもしれない。

後半の展開が急すぎて、今ひとつヒロインの悲劇性が伝わって来ない印象もあるし、色々問題提起はしているものの、どれも掘り下げは浅く、中途半端な印象しか残らないことが気にならなくはないが、ルリ子さんがこんな若い時期からシリアスな作品に出ておられたことを知っただけでも見る価値はあったと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、日活、打木村治原作、三木克巳脚色、滝沢英輔監督作品。

アメリカ軍の輸送機が空を飛ぶ。

中学校の体育館では、バトミントン部が練習している。 タイトル 「DOCK」と言う雑貨屋で買い物をした中学三年生玉川せん子(浅丘ルリ子)は、自転車の買い物籠に荷物を積んで帰宅する。

友達とメンコで遊んでいた小学生の玉川団一(謝春国)に声をかけやって来た朝日平作(西村晃)は、ニワトリ小屋の所にいた玉川金造(殿山泰司)と玉川タネ(山岡久乃)に、轡新田の某がニワトリ売りたいと言うとるだと伝えに来るが、籠の中のニワトリが増えているのに気づく。

弁天池の旦那にもらったんやと金造が言う。 そこへ部屋を貸しているパンパンの旗美加代(渡辺美佐子)が出て来て卵5つ頂戴と言うので70円で金蔵は売ってやる。

そこに買い物をして来たせん子が帰って来たので、せんちゃん借りて良いかしら?と美加代は金造に声をかけ、自分の部屋に連れて行く。

それを見ていた平作は、パンさん言うてもあの人は良い人だねと言うので、気前の良い女だよ、旗さん来てから、せん子は裁縫や料理など色々教えてもらっているんだなどと金造も美加代のことを気に入っている様子。

平さんのおかげだよ、パンさん置いたらって勧めてくれたからと金造が礼を言うと、金さんの運が良いんだよ、うちのなんて部屋代2ヶ月も滞納してるんだから…と平作は答える。

団一はいじめられているって、うちにパンさんがいるって…と金造は打ち明ける。

金造は平作に、使っていない納屋を改造しようと思っていると相談し、平作も、確かにこれだけの場所がもったいないと賛成する。

まな板でタマネギを切っていたせん子は、団一、もうすぐ遠足があるって…、でも団一リュック持ってないのよなどと美加代に話しかけ、美加代の鏡台に乗っていたきれいな箱を褒める。

ブローチやイヤリングを入れるものよと美加代は教え、タマネギとんとん切ってね、その後、缶詰のコーンビーフをほぐして頂戴とせん子に頼む。

フィッシャーさんって良い人ね?とせん子は美加代の相手の米兵のことを褒める。

1月7日、中学校でバトミントン部顧問をしている中根有治(葉山良二)は、せん子が体育館で練習中、勝手に彼女の鞄の中を検査していた。 そこには、見慣れぬきれいな箱が入っていたので、中根の表情が曇る。

その日の練習後、せん子と一緒に帰ることにした中根は、途中、君は嘘つきで剛情っ張りだけど、最近明るくなったよ。その訳を知りたくてね…と話しかけると、美加代姉ちゃんのおかげです!とても優しくて、読み終わった雑誌をくれたりするの…とせん子はうれしそうに答える。

ブローチとかイヤリングとかも?と中根が聞くと、そんなもんくれないわ!とせん子は否定する。

上空をまた米軍機が飛んで行く。

玉川君、先生は君に謝らなくちゃ行けない事があるんだ。鞄の中を見たんだよ。君がヘッセの「死と愛」を読んでいたとは意外だった…と中根が打ち明けると、美加代姉ちゃんが、呼んでも分からないからくれるって…とせん子は答える。 他には?と聞くとないわ…と言うので、中根先生は思わず、嘘つき!と言ってせん子の頬を叩く。

そしてすぐにせん子の両手を持って、先生を見てごらん、怒ってないだろう?もらってないものをどうして持ってるんだ!と優しく聞くと、先生、ごめんなさい!と言いながら、せん子は中根先生に胸に抱きついて来て謝る。

君を怒ったのは、君が好きだからだよと中根先生は優しく言い聞かせ、先生と一緒に返しに行こうと勧めると、1人で返すとせん子が言うので、約束だよ?と中根先生は念を押す。

せん子の家では、美加代が団一のために買ってやったリュックをタネに渡している所で、そこに帰って来た団一がそれを見て大喜びする。

タネは、後は運動靴だ、買って来い!と団一に金を渡す。 そんな中、家に戻って来たせん子は、そっと美加代の部屋に入り込み、盗んだ小物入れの箱を鏡台の上に戻す。 団一の遠足の日がやって来て、小学生たちはダム湖にやって来る。

弁当に時間になり、みんなが草むらに座り始める中、団一!そのリュック、パン助からもらったんだろう?お前の所は温泉マークと一緒だって父ちゃんが言っとたぞ!といじめっ子がからかい、団一のリュックを放り投げたので、気づいた先生が、ダメじゃないか!と注意する。

せん子は、自宅前で、まだ赤ん坊の妹ひろ子をおんぶしておもりしていた。

美加代の部屋に入りかけたせん子は、中でフィッシャーと抱き合っている美加代の姿を目撃し、慌ててドアを閉める。

その直後、服を着ながら美加代は、ドアを開けて、ドアを開けるときはノックしろって言ってるでしょう!とせん子に注意する。

そして、愛人の米兵フェィッシャー用に買っていたビフテキ肉を一枚せん子に分けてやりながら、日曜日、何か用ある?フィッシャーがドライブ行かないかって?と美加代は誘う。

母屋に戻って来たせん子から夕食後そのことを聞いた金造は、危ないぞ、気をつけないと…と表情を曇らせる。 その時、奥でラジオを聞いていた団一が、漫才大会始まるよ!と金造を呼んだので、金造は隣の部屋に向かう。

一方、せん子と一緒に編み物をしていたタネは、夕飯の後にこんなことが出来るなんて、まるで勤め人の奥さんになったみてえだ…とせん子にうれしそうに話すので、前の人は勤め人だったんだろ?とせん子は聞く。

共稼ぎさ、おらも包帯工場で働いていた。包帯を石のように圧縮する仕事してたんだ。前の亭主は、空襲で屋根の上まで吹き飛ばされてしまった。

駆けつけたら、母ちゃんが作っていた包帯が、亭主の腹の中に一杯詰め込まれていた…、あの時の苦労考えると、今、アメちゃんに少しばかり恩を受けたってバチ当たらないよとタネはしみじみ語る。

土曜日、体育館のバトミントン部で体操をしていたせん子は中根先生に、明日ドライブに行くの、箱根だって!と美加代とフィッシャーさんとのことを無邪気に報告する。

すると、それを聞いた中根先生は、急に部員全員に体育館の中を、良し!と言うまで走るんだ、足腰を鍛えることでフットワークが良くなるんだ!と命じる。 そんなことは今までなかったので、みんな、昆虫、今日は変ねと、中根のあだ名を噂しながら走る。 練習後、上半身をはだけて、蛇口の所で身体を洗っていた中根に近づいたせん子は、先生がドライブはいけないと言うなら行きませんと声をかける。 そんなことは言ってないよと中根は否定するが、顔にそう書いてあります、黙って怒られるのが嫌なんです!とせん子は切り返す。

行かせたくなかったんだ…、普通と違うドライブだと思ったんだと中根が言うので、団一も一緒に行くんです、それでもダメですか?とせん子が言うので、だったら君の自由だよと中根は答える。

その後、せん子は、1年の時の担任本間節郎(長門裕之)に出会ったので、ドライブの話をすると、何でもないよ、ドライブなんて、行って来な、行って来な!と本間先生は勧めるので、母ちゃんも、後にも先にもこれっきりになるだろうって言ってた!とせん子は陽気に答える。

ただし、パンちゃんとアメリカ人はお行儀が悪いからそれだけは気をつけないと…と本間が言うので、お行儀が悪いって?とせん子が聞くと、昼日中から抱き合ったりキスしたりするかもしれないと言うことさと教えた本間は、箱根に行くと聞くと、決して一緒にお風呂なんかに入るんじゃないぞ!と釘を刺す。

翌日、せん子は、フィッシャーが運転するスポーツカーの後部座席に乗って箱根に出発するが、本間が言っていたように、助手席に座った美加代とフィッシャーがずっといちゃついていたので、目のやりどころに困る。

一方、自転車で走っていた中根は、友達と遊んでいる団一を見つけたので、もう帰って来たのか?姉ちゃんと箱根に行ったんだろ?君と一緒だって言ってたよと声を掛けるが、知らないよ、姉ちゃん、調子ぶったんだよと言うので、せん子にまんまと騙されたことに中根は気づく。

箱根のホテルに着いたせん子は、庭先の芝生に座ってリンゴを食べ始めるが、その目の前でフィッシャーと美加代が抱き合ってたので、またしてもどうして良いか分からなくなる。

翌日、学校で中根先生に会ったせん子は、団一から聞きました、すいませんと詫びると、もうすんだことだからねと言い、中根先生は職員室へ戻って行く。

そんなせん子に、玉川君、昨日は楽しかったか?一緒にお風呂入らなかったか?などと笑いながら聞いて来たのは本間先生だった。

せん子は、先生、嫌らしい!と逃げる。 金造は、使っていなかった納屋を取り壊し、美加代に貸している部屋の隣にもう一部屋増築していた。

それを見物しに来た美加代は、隣との境しっかり作ってね、色々聞こえやまずいでしょうと笑って話しかける。

美加代は改築に使われている木材に羽が付着していたので、鳥小屋だったのねと気づく。

弁天池の旦那にもらったんだ…、本名は樋田宇太郎さんと言うんだけど、以前養鶏をやっていたんだが、廃油の毒で百羽いっぺんにやられて…と金造は教える。

その後、美加代を近くの沼に案内したせん子は、アメリカの基地が出来て、梅雨になるとここの水があふれて周囲の田圃の稲がダメになるし、赤痢も流行って…と教える。

この村の日農支部が調達長と交渉しているの、損害の補償と排水路の完成…。

百姓は保証金もらうのが商売じゃないけど、もらわないより良いからねとせん子は言う。 家に戻ると、旗さん、お客さんよ!とタネが教える。

美加代が自分の部屋に入ると、ベッドに寝ていたのは横須賀でパンパンをしている春山新子(東恵美子)だった。

アンダーソンが国に帰ったの、アンの相手のアッカーマンがアンがいなくなったらやってくるのよ、私、怖くて逃げて来たのと新子は説明し、ここに良い人いない?今夜ここに泊めてくれない?と美加代に聞く。

一緒にその話を聞いていたせん子は、隣もうできてるから泊まれるよ、ベッドないけど…と声をかける。

その夜、せん子は美加代の部屋の前にそっと近づき、興奮しながら窓の隙間から中の様子を覗き見る。

部屋の中では、フィッシャーと美加代がベッドで抱き合っていた。

雪が降る冬のある日 家にいたせん子は、父ちゃん、弁天池の旦那さんが来た!と金造に教える。

弁天池の旦那さんこと樋田宇太郎(浜村純)が納屋の改造終わったのかい?と聞くので、もう借り手が付いて2月になると金造は教える。

本山町裏の借家をアメ公に頼まれているんだけど、あそこは貸しているし… 黒○ぼか?と金造が聞くと、今更出て行ってくれとも言えんし…、映画館裏にも借家はあるんだが、すぐに立ち退いてくれとも言えんしな…と桶田は困っている様子だった。

しかし、その後、米兵を連れたパンパンの町子(白木マリ)が、映画館裏の借家にやって来て、赤ん坊がいる家の中の若い主婦に、おばさん!片付いてないねと文句を言う。

主婦は赤ん坊を抱え、家が見つかるまで待ってください!行く所ないんです!と頼むが、そんな口実、日本人に言うんだねと町子は容赦しない。

これだけの荷物、どうしようもありませんわ!日本人のあなたに御願いするわ!と主婦は訴えるが、日本の女同士だって?笑わせるんじゃないよ!幸せなあんたが不幸な女に頼むつもりかい?この家はうちの命で買ったんだよ、ジョンソン、みんな出しな!と連れて来た米兵に声をかける。

あの立ちんぼ、前の女に駆け落ちされたものだから…と米兵のことを説明する町子と、家財道具をどんどん庭先に持ち出す米兵たちの様子を、団一と近所の子供や朝日平作らが気の毒そうに見守っていた。

せめて主人が帰ってくるまで!と主婦は哀願するが、米兵と町子は聞く耳を持たなかった。

団一が帰るとき、同級生らは、団一、あれでもお前はパン助の味方をするのか!と絡んで来る。

パン助だって良い人だよと団一は美加代のことをかばうが、コ○キ野郎からしたら良いパン助だろうよ!村からすれば、おめえんちの姉ちゃんだって半分パンパンだ!とまで言われたので、さすがに怒った団一は、同級生数名と喧嘩を始め、左足を負傷してしまう。

自宅でせん子が口紅など付けてみていた所に、美加代がやって来たので、慌てて口を拭いて出迎える。

美加代は、足を怪我した団一のことを聞いて来たのだが、直るまで後2週間かかるらしいと聞いて同情し、自分のために怪我をさせたみたいで申し訳ないと謝る。

しかし、団一は明日から学校行くと気丈にも答えるので、接骨院へ行こうか?と誘い、せん子には、赤い箱欲しいんでしょう?バトミントン大会に優勝したらご褒美にあげても良いわと美加代は言う。

その後、松葉杖をついた団一と一緒に表に出たせん子は、ラケット持ってないの、キャプテンなのに…と言うので、買ってもらえば良いじゃない、中根先生に…と団一が助言すると、悔しいじゃない…、美加代姉ちゃんに頼んでみてくれないとせん子が言うので、そんなことをおらに頼んで…、コ○キ!いつかのリュックだってねだって買ってもらったんだろう!コ○キ!コ○キ! 姉ちゃんなんか大嫌いだ!と罵倒して団一はその場を去る。

しかし、やはり姉のことが気になる団一は、ラケットのことを美加代に頼んでみる。

それを聞いた美加代は、団一の姉思いを褒めながらも、ラケット買ってあげたいんだけど…止すわ。

何か買ってあげようと思ったのは怪我のお詫びのつもりだったんで、何かやるのは違うと思う…、人に甘えるとダメな人間になる!と美加代は言い、なぜせんちゃんは、自分でお金を稼ごうと思いつかないんだろう?とヒントを出したので、アルバイトだ!と団一は気づく。

御茶摘みって言う格好のアルバイトがあるらしいじゃない、一昨年までやってたんだって?怠け癖が付いたらダメだって姉ちゃんに言ってらっしゃいと美加代は団一に勧める。

池の畔の休憩所に1人やって来たせん子は歌を歌っていた。 そこへ玉川君!そんな所で何をしてるんや?と声をかけて近づいて来たのは本間先生だった。

哀しくなると来るんですとせん子が答えると、そんな年になったかてん、感傷の年頃…と本間が冷やかすので、そんなんじゃないわ!弟と喧嘩した所!とせん子は言う。

本間はそんなせん子に、1年の時だけで終わりか…と担任を外れたことを寂しそうに言い、いきなりほっぺにキスして来る。

せん子は驚きながらも本間の眼鏡を取ってうれしそうに逃げ去って行く。

翌日、中学の職員室で中根先生は本間先生から、玉川せん子から休暇願が出とるぞと教えられる。

その日、中根先生は自転車で湖の畔の休憩所にいたせん子を見つけ出す。

君が休むなんて思わなかった…。良いんだよ、人間、何より生活が大事だから…と優しく話しかけると、私、早めに終わって学校に行きます!と言うと、ごめんなさい!と言いながら中根先生の胸にすがって泣き始める。

どうした?と中根先生が聞くと、私のためにも学校のためにもラケットが欲しかったんですとせん子が言うので、ラケットは、僕のを貸すつもりだったんだよ。今度東京に行って良いラケットを買って来よう。

君が働いたお金で返してもらえば良いんだから…と中根先生は言い聞かす。

するとせん子は、苦しい!胸が!と言い出し、心配した中根先生に又抱きつくのだった。

夜 自宅で、寝ている団一の横で机に向かっていたせん子は、中根先生への手紙をおずおずと書いていた。

今日は、生涯記念すべき日でした。 私には生まれて初めてのことです… その後、茶摘みを手伝っていたせん子の所に同級生の渡辺がやって来て、本間先生が来てくれって!と伝言するので、そんな暇ないわ!と断ると、出目金、女に甘いからな…、でも行かないと、俺が伝えて忘れたと思われるよとぼやきながら渡辺は帰って行く。

野良着のまま、本間先生の下宿へ行くと、二階の部屋から上がって来いよ!と本間先生が呼びかける。

時間ないんです!とせん子は断るが、見せたいものがあるんだ!と本間が意味有りげに言うので、仕方なくせん子は二階の先生の部屋に向かう。 するとそこには新品のラケットが用意されていた。

夕べちょっと東京に行ったんで買って来たんだと本間は説明するが、せん子はどう対処していいのか分からず固まってしまう。

それを見た本間は、気に入らんのか?僕からもらうのが嫌なのか?と迫るので、せん子は逃げ帰ろうとするが、帰るなら、このラケットのガット切り裂くぞ!と脅す。

しかしせん子は、何も答えず逃げ帰る。 野良着のまま体育館にやって来たせん子だったが、そこにいたか中根が試合用のラケットを持ってなかったので聞くと、買いに行く時間がなかったんだ。

汚水氾濫を話し合う集会に出なくてはいけなかったんだと中根は説明する。

しかし、当てが外れたせん子が急に不機嫌になったので、中学3年にもなってむくれられちゃ敵わんと中根は言う。

するとせん子は、自分で買います!とだだをこねるので、分からず屋!と思わず手を上げかけた中根だったが、先生はもう殴らん、勝手にしたまえ!と突き放す。

学校から帰るせん子を、タバコ屋の前で見かけたのは、どてら姿の本間先生で、後を追い、しょんぼりしてどうした?自殺仕掛けているんじゃないかと思ったよ。

残念ながらあのラケットはガットを引き裂いてしまった。僕が持っていても仕方がないからね…、嘘だよ、君の真似をしたんだよ、嘘つきのね…と言うと、下宿に連れて行き、持ってゆきたまえ、誰にも言ったらいかん。

中根先生にも…、約束して!と言うと、げんまん!と言いながら小指を絡ませたせん子の手にいきなりキスして来る。

第四回埼玉県か中学校バトミントン大会が始まり、新しいラケットを手に臨んだせん子は勝利を収める。

せん子は満足そうに、顧問の中根選手と握手する。

雨の中、傘をさして帰宅したせん子は、そろばんを弾いていたタネから、春山さんとニールソンの仲が悪くなり、ニールソンが出て行ったと憂鬱そうに打ち明けられる。

家賃を出していたのはニールソンの方だったからだ。

父ちゃんも雨で日雇いダメだし…、何のためにパンさんに貸してるんだか…、ラジオやソファーベッド押さえたっていくらにもなりゃしない!とタネは愚痴る。

納屋の人のすること知ってるだろ?お前もカマトトだな…とせん子をからかったタネは、茶摘みで取った金いくらだ?1500円か!と当てにしたように聞くので、選手用のラケット買ったから475円しか残ってないと嘘を言ったせん子は、その後、納屋の竹柱の割れ目に金をそっと差し込み隠す。

春山新子は美加代の部屋で泣きながら、これからどうしたら良いのか…と途方に暮れていた。

美加代は、死んじまえ!それが嫌なら一人前になるんだ!サービス止めたらニールソン逃げるの当たり前だよ。

新子も甲斐性なしだね、一日ぶらぶらしていて、ここの畑を手伝おうって気にならないかね?と助言する。

それを聞いた新子は、私が百姓をやるの?と驚くが、パン助があぶれている間、家主にそのくらいのことをしてもバチ当たらないよと美加代は明るく言う。

田んぼ仕事を手伝うようになった新子にタネは、村中の百姓が集まっている。汚水問題の埒があかんのよ。今夜デモやるんだと教える。

その夜のデモには、中根先生やせん子、団一も参加していた。 道ばたには、デモを見物する野次馬が大勢並んでおり、その中には町子とジョンソンの姿もあった。

せん子は中根先生の姿を見つけるとうれしくなり、側に近寄って一緒に歩き始める。

中根先生は、美加代もデモに参加していることに気づき感心する。

百姓の気持ちが分かるって!とせん子がうれしそうに言うと、パンパンさんにもあんな人がいるのか…、見上げたもんだね…とつぶやく。

その時、団一がニールソンさんだ!とデモ隊を見物していた民衆の中にいた黒人を発見する。 ニールソンは美加代に気づくと、美加代!と呼びかけるが、美加代はそれに気づくと身を隠そうとする。

これからは学校でも話して!とせん子が甘えると、良し!と中根先生は答える。

しかし、その後、せん子はバトミントン部を辞め、野良仕事に精を出すようになる。 そこへ自転車でやって来た中根先生は、せん子から話を聞く。

中根先生、旗さん引っ越したの、春山さんと一緒に。 デモに参加してたのがいけなかったの、フィッシャーさんがお姉ちゃんのことをアカだと言ったの。

(回想)嫌いだって?私がデモに参加したから?と美加代は、部屋を出て行こうとするフェィッシャーに訴えていた。

アカじゃない!寂しかったの!私も日本人よ!世の中の色々なものが離れて行くの…、それが寂しかったの…。

村の人の生活とつながりが持ちたかったのよ!と美加代はすがりつくが、分かりません!ノー!と美加代を突き放すと、フィッシャーは部屋を出て行く。

(回想明け)2人はとうとう、その晩のうちに別れたんです。 旗さん、言ってたの、アメリカ人の一番嫌がることしたんですものって…、レッドパージ食ったって… 家の家賃高くて…それで出て行ったの。

美加代姉さん可哀想…、フィッシャーさん愛してたのよ。別れるとき泣いてたの…とせん子が言うと、愛してたのかどうかは分からないよと中根先生が答えると、何故です?先生には分からないんだわ!とせん子は怒り出す。

玉川君、どうしてそんな顔するんだ?立派な人でも、職業が職業だからな…、淫らな反面もあるさ…と中根先生が言うと、淫らじゃありません!淫らじゃありません!先生!淫らじゃありません!と泣き出したせん子は、藁の束の上に身を投げて泣きじゃくる。

嫌い!先生なんて嫌い!とうつぶせになって叫ぶせん子。 そのとき、又軍用機が上空を飛んで行く。

泣き止んで振り返ったせん子は、自転車で帰ってゆく中根先生の姿を見つける。

その後、卒業間近になった頃、タネはせん子に、就職できそうかい?と聞く。

中根先生が、通勤で楽な所を見つけてくれるって…、母ちゃん、コネって知ってるかい?本間先生がコネある所があるんだってとせん子が答えたので、ツテのことか…とタネが納得する。

就職の世話は頼んでおくもんだとタネから言われたせん子は、その後、土産の卵を持って、本間の下宿を訪れる。

本間は、夫婦座布団だと部屋にあった座布団を指すので、お嫁さんもいないのに!とせん子は笑い出す。

すると本間先生は、プレゼントだ、今日は君の誕生日だろう?先生、良く覚えとるやろ?と言いながら用意していた箱を渡す。

そして、川越の町に遠縁の人が農機具を作っているんだと就職の話を始め、中根先生に悪いかな?などと遠慮するように言うので、御願いします!学校の方の就職がダメだったら…とせん子は頼む。

あの人は玉川君は高校へ行く方が良いと言ってたけど、私は就職した方が良いと思うのとせん子が中根先生のことを引き合いに出すと、僕もそう思うよ、君は誰にも負けない武器を持っていると思うからね、その均整の取れたからだと顔…などと本間先生は褒める。

お金ないから女工になるの…とせん子があっけらかんと答えると、無理して高校行くことないよと言いながら、いきなりせん子の手を取った本間先生は、百姓やっているのにきれいな手してるねなどと言いながら、左手をさすると、急にせん子の身体を抱きしめる。 嫌!先生!と抵抗するせん子は、迫ってくる本間の眼鏡をはたき飛ばすが、やがて静かになってしまう。

翌日、学校の職員室に来たせん子は、本間先生と中根先生に摘んで来た花を渡す。

それを受け取った本間先生の表情は引きつり気味だった。

後日、本間先生に連れられ、片山製作所と言う行員200人くらいの工場に挨拶に行ったせん子は、4月になったら来てもらおうと思うと言う社長に頭を下げ帰る。

住み込み、食事付きなら良いね、今日は就職祝いだ、うちに来たまえ!と本間先生は誘う。

やがて、せん子は卒業式を迎える。

式の後、1人体育館に残っていたせん子の所へやって来た中根先生は、玉川君おめでとう!もうこれで君ともお別れだね。世の中に出ると色々辛いこともあると思うけど元気で暮らせよと声をかける。

するとせん子は、先生、私、来年から就職ですから滅多に帰りませんと言うので、きっと会えるよ、その気持があれば…と中根先生は言い聞かし、その場を去って行く。 せん子はバスケットゴールの下に向かい、1人佇む。 せん子が埼玉の工場に就職することを知ったタネは、就職するんならこの町にすれば良かったのに…と食事の席で文句を言う。

この町にある役場なんかは高卒の行く所よとせん子が反論すると、毎月2500円入れるんだぞとタネは言いつける。

せん子は食欲がないらしく、さっさと茶碗を持って炊事場の方へ向かうと、団一が、姉ちゃん最近怠け者になって来て、飼料の匂い嗅ぐだけで胸くそ悪くなるなんて言っているよとタネに告げ口する。

それを聞いたタネは、炊事場でしゃがみ込んでいるせん子を見て、せん子!どうした!と叱りつける。

金造はそんなタネに、畑休ませたらどうだと声を掛けるが、今は農繁期だよ!とタネが言い返すので、ずっと休ませてないから、2~3日休ませてやれやと金造は勧める。

タネはせん子を表に呼び出すと、おめえ、何か隠していることねえか?月のものあったか?と聞くと、せん子はウンと言うので、嘘付くでねえぞ!女のあれのこと母ちゃんすぐ分かるからな!と睨みつける。

その後、せん子を連れ、産婦人科へ行ったタネは、せん子が妊娠していると知り、病院を出た所で、せん子!相手の男は誰だ!おめえを孕ませたのは誰だって聞いてるだ!と迫る。

しかしせん子が何も答えないので、剛情っ張り!2000円なんて金は家にはないよ!とタネは嘆く。

てめえなんて家に入ってもらいたくねえ!とまでタネは叱りつける。

せん子はその足で本間先生の下宿へ向かうと、私、就職なんてもうしない!先生!私、おなかに赤ちゃんが出来たの!先生のお嫁さんになる!と打ち明ける。

それを聞いた本間はうろたえ、あのね、君は今まで先生のことを良く聞いていたね?お金は先生が出すから、君は元の身体になって働くんだ。

中根先生とどっちが好きなんだ?と言う。 最初は中根先生だったけど、途中から本間先生を好きになったんです!卒業したら野暮なことは言わないって言ってたじゃないですか!と訴えるせん子。

それでも本間先生は、先生の言うことを聞くの!絶対だよ!玉川君、間違っても変なこと考えるんじゃないよ!と言い聞かせようとするが、知らない!と拒絶したせん子は下宿を飛び出すと、神社の方へ逃げ去ってしまう。

基地近くのキャバレー「スパイダー」で米兵と踊っていた美加代は、お客さんよ!可愛い女の子よ!と同僚から声をかけられ、裏口に出てみると、そこにいたのはせん子だった。

良く分かったわね!と驚いた美加代は、とりあえず控え室に入れ事情を聞く。

それ本当なの!と妊娠のことを聞いた美加代は驚くが、もうダメ!家に帰れない…、もう帰らないわとせん子は落ち込んでいる。 赤ちゃんどうするつもり?と聞くと、生みたいのとせん子が言うので、相手の所へ行ったの?お姉ちゃん、もう何も出来ないよ、そんななのに赤ちゃん運でどうするの?と美加代は困惑するが、先のことは考えない!生みたいの!とせん子は言い張るだけだった。 美加代は相手の男だと思い込んだ中根先生を訪ねる。

しかし中根先生は、私は今でも玉川を愛しています。が、見に覚えがありません。しかし信じられないな、玉川が…と絶句するだけ。 相手の男が中根ではないことを知った美加代は困惑するが、先生、お願いがあります!先生の手であの子をすくってやってください!せん子ちゃんが好きなのは先生なんです!あんなことになったのもあの子の成ばかりじゃないでしょう…、私も貧乏な百姓の子だったから分かるんですと美加代は訴える。

あの子は蛍なんです。すぐに光が消えるんですけど、揺するとまた光るんですと美加代が言うと、あの子は嘘をつきますと中根先生が哀しむので、せん子ちゃん、先生に嘘をついてみたかったんですよ。

愛しているのにあんな過ちを犯させるなんて…、せん子ちゃんがすばらしい女になったことは変わりません!先生が救ってやってね!と美加代は頼む。

あの子は待ってるんです、先生の嵐のような愛を!と最後に美加代は付け加える。

美加代が帰った後、中根先生は、せん子から以前もらっていた手紙を読み返す。

「今日は生涯でこの上もない幸せでした。私には生まれて初めてのことでした…」

畑から帰って来て履物を脱ごうとしていたタネは、納屋の所にうずくまっているせん子を発見し、早く始末しないと、腹、膨れて来るぞ!そんな子が生まれて来てもうれしくねえ!返事くらいしたらどうだ!呆れたアマだよ!とせん子の側に寄り叱りつけたタネは自宅に入って行く。

ただ泣いていたせん子は、竹柱の割れ目に隠していた茶摘みのバイト代を取り出す。

家の中から、どうするんだ?出来てしまったことは仕方ない。

そうガミガミ言うな!とタネに言い聞かせている金造の声が聞こえて来る。

相手はお姉ちゃんの知らない人です。堕してしまおうと決心しました。家には帰りません。

その人の所へも中根先生の所へも行きません。1人になっても強く強く行きて行きます…、美加代はせん子からの手紙を読んでいた。

中根先生は、自転車で移動中、団一に会ったので、お姉ちゃんは?と聞くと、家出して20日くらいになる、もう帰って来ない…と団一は言う。

中学校の体育館にいた中根の所ややって来た本間は、教頭から聞いたよ、辞表を出したって?せん子が原因なら、辞めなければ行けないのは俺の方だ。

しかし、女には娼婦性があり、男には野獣性があるなどと本間が言い訳し出したので、思わず殴りつけた中根は、俺が辞めようと思ったのは、こうしてやりたかったからだ!と言い放つ。

そこへ事務員がやって来て本間先生を校長が呼んでいると言う。

校長室へ行ってみると、教師たちが集まっており、君には辞めてもらう!理由は卒業生の玉川せん子のことだ!と校長が指摘したので、本間は言い訳はせず、お世話になりましたとその場で職を辞す。

夜、自転車で帰っていた中根は、道ばたにしゃがみ込んでいる女に気づき、自転車を止め、どうかしたんですか?どこか御悪いんですか?君のうちは近くなの?と声をかけながら近寄ってみる。

触らないで!と言いながら振り返った女は、パンパンのような化粧をしたせん子だった。

せん子ちゃん!僕はね、ずいぶん君を捜していたんだよと言いながら、連れて行こうとするが、その手を振り払ったせん子は道路の真ん中に飛び出す。

そのとき、走って来たトラックに轢かれるせん子。 玉川君!と驚いて呼びかけながら駆け寄った中根だったが、轢いたトラックは何事もなかったかのように去って行く。

せん子!僕が悪かった!と呼びかけるが、倒れたせん子は、先生…、泣かないで…と虫の息でつぶやく。

せん子、僕は君を愛していたんだ!君だけを!せん子!と呼びかけた中根は、何とか車を止めようと道路に出て手を振りながら、けが人だ!停まってくれ〜!と絶叫するが、車は全部通り過ぎて行くだけ。

道ばたに倒れていたせん子のつぶった目から涙がこぼれ出て、先生…、うれしい…とつぶやくと、せん子は息を引き取る。 その上空を軍用機が飛び去ってゆく。
 


 

 

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