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野獣の復活

復讐テーマのハードボイルド風通俗アクションだが、男同士の絆…と言うか、男同士の純愛みたいな関係が背景にあり、興味深い内容になっている。

冒頭に「この物語は全て創作です」等と言うテロップが出るのも時代を感じさせる。

テレビのドラマなどを相手取り、自分をモデルにしている!などと名誉毀損の訴えが起こった時期の作品だったことが分かる。

「裏日本(日本海側)」等と言う表現が使われているのも興味深い。

山本迪夫監督が、この後、良く起用するようになる、日活のイメージが強い大滝秀治や高品格が敵役を演じていたり、東映のイメージが強い三田佳子や今井健二が出ていたりと、撮影所システムが崩壊し始めた時期特有の呉越同舟みたいな雰囲気も楽しい。

声優として有名な森山周一郎さんが、役者として出ているのにも注目したい。

森山さんは、この当時、テレビの「ウルトラQ」などにも出ておられた。

やはり、従来の山の手向きの作品中心だった東宝系の俳優には、この手の作品が似合う強面がほとんどいなかったこともあるのかもしれない。

それでも、主役の三橋達也、黒沢年雄、佐原健二、草川直也、勝部義夫、豊浦美子(「ウルトラセブン」のアンヌ役が予定されていたことで有名)…と言った顔ぶれを見ると、東宝らしい面影はある。

そんな中、注目すべきは、主人公に一途に尽くす相棒役を演じている睦五郎、東宝系の中では、唯一迫力がある強面である。

黒沢年雄は、威勢が良いだけでヘタレな青年を巧く演じている。

三田佳子さんも東映時代の雰囲気とそう変わらず、悪くはないのだが、役柄自体が良くあるパターンのキャラクターなので、やや印象に残り難い所はあるかもしれない。

全体的に、出来はまずまず…と言った所ではないかと思う。

同時期に活躍していた福田純監督辺りよりは巧い気がする。

個人的には好きな作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1969年、東宝。小川英+ 武末勝脚本、山本迪夫監督作品。

「この物語に登場する人物、事件は全て創作です」と言ったテロップ

会社クレジット

橋の下を小船が通過する。

愛隣興行の事務所でチンピラたちに殴られて血だらけになっていた島村正(大前亘)を前に、同じく捕まえられていた妹の島村紀子(鈴木えみ子)が、止めて!と叫ぶ。

その時、机の内線機のブザーが鳴り、佐藤(高品格)が、何だ?と出ると、伊吹が来ましたと子分が伝えて来る。

1人か?と佐藤が聞くと、曽根と一緒ですと答えが帰ってくる。

その直後、曽根敏(睦五郎)を従え部屋に入ってきたのは伊吹一郎(三橋達也)は、何か用かい?伊吹さん?と佐藤に聞かれるが、それは無視し、チンピラに捕まっていた紀子を見ると、何をされた?と聞く。

私は…と口ごもった紀子だったが、兄が!と目の前で血まみれになっている正を見ながら答える。

例え、あんたのビルの店子だったって、貸した金は返してもらわないと…と佐藤が言うと、インチキ!詐欺じゃないか!たった15万だと言うのに…と、血まみれになった正が佐藤を睨みつける。

伊吹が、貸した金額は?と佐藤に聞くと、80万!と言うので、伊吹が右手をスーツの胸ポケットに手を入れると、その場にいたチンピラたちは身構える。

しかし、伊吹が出したのは小切手で、その場で金額を記入し出したので、それを観た佐藤は、金を払うのかい?昔だったら、殺しと言えば伊吹と言われたほどのあんたが…と驚く。

小切手を渡そうとした伊吹は、今、この町で、私の手形に文句を言う奴はいない!と佐藤を睨みつける。

タイトル(冷凍マグロの水揚げなどが行われている港や海辺の岩場を背景に)

その海沿いにある伊吹の家を訪れたのは、煙草をくわえ、レインコートを着た冴えない中年男だった。

家の前の海岸の岩場にいた、見慣れぬサングラスの男を見つける。

玄関口に立った中年男に、デカ長さん!とベランダのテーブルから声をかけたのは、優雅にモーニングコーヒーを飲んでいる伊吹だった。

デカ長と呼ばれた大石部長刑事(浜田寅彦)は、優雅なもんだね、こんな時間に起きたのかい?と皮肉を言いながら、テーブルの向いの椅子に腰を降ろす。

昨夜、遅かったんですよと伊吹は言い訳をし、奥からコーヒーを運んで来たお手伝いのおばさんからトレイごと受け取った曽根が、大石のテーブルにコーヒーを運んでやる。

その時、白い封筒をさりげなく、コーヒーカップの下に差し込んだので、大石は、いつもすまんねと礼を言う。

伊吹はそんな大石に、愛隣興行は、この町を荒しにかかっていると訴えると、サングラスをかけた背の高い男を知らんか?今、下の岩場でこの家を見ていたと大石は教える。

その言葉を聞いた曽根は、岩場の方に目をやる。

その後、車で町に出かけた伊吹だったが、運転している曽根の顔が浮かないので、何を考えてる?と伊吹が聞くと、愛隣興行があのまま手を引くとは思えない…と曽根は答える。

あの時、お前は内ポケットに何を入れていた?と昨夜の愛隣興行の事務所でのことを伊吹が問いただすと、ハジキやライフルは処分したと言ったでしょう?と答えながら、曽根が取り出したのは、愛らしいキャラ模様の付いたケースに収まったナイフだった。

2人がこの町で成功させた「I.S.商会」にやって来た2人は、今まで協力関係にあった市会議員の堤(松下達夫)が来ていたので、土地の買収は全て解決したと伊吹は報告する。

すると突然、私は降りるよと堤が言い出す。

野党が、公害問題などを全面に押し出して来るらしい…、世論には勝てんよなどと、煙草を吸いながら言い訳するので、私の部屋を汚さないで頂きたいと伊吹が嫌味を言うと、堤はそのまま黙って帰ってしまう。

ブルドーザーが整地をしている土地を観に行った伊吹は、何故でしょう?と同行して来た曽根から聞かれ、分からん…、こっちも向うを利用して大きくなったんだからお互い様だしな。俺はやるぞ!石にかじりついてもな!と答えると、曽根と車に乗り込み去って行く。

そんな2人を監視していたのは、朝方、海岸の岩場にいたサングラスの男立石(田中浩)だった。

その後、伊吹と曽根は、馴染みのクラブ「ミキ」で、ママの美樹(三田佳子)と会う。

2人ともダブルにしてくれと伊吹が注文したので、美樹が不思議そうな顔をすると、気にするなよ、ちょっと苛立つことがあったのさ…と伊吹は答え、曽根の方はホステス(豊浦美子)とダンスを踊り出す。

後半月ね、結婚式…と言いながら、伊吹と寄り添う美樹の姿を羨ましそうに見つめるホステスに、見るんじゃない!馬に蹴られるぞと注意した曽根は、それは俺かもしれない。あの二人の邪魔をする奴は俺が許さないと、踊りながらつぶやく。

その時、店の電話が鳴り出したので、バーテン(勝部義夫)が出ると、伊吹にだと言う。

伊吹は不審がり、俺がここにいるのを知っているのは?と曽根に確認すると、さっき会社で、緊急のときはここにいると教えときました…と曽根が答える。

用心深く受話器を受け取ると、相手は咳き込んでおり、塚本だよ。気管支をやられた。東京はもう人間様の住む所じゃなくなった…と言って来る。

相手は、伊吹が以前、その下で働いていた塚本恭吾(大滝秀治)だった。

伊吹が黙っていると、分かっている、お前との縁は昔に切れている。だが、お前の弟とはまだ繋がってるんだと塚本が言うので、次郎が?5年会ってない…と伊吹は驚く。

塚本の部屋では、巽(佐原健二)、椎名(草川直也)、松井(森山周一郎)と言った幹部連中が側で控えていた。

そちらに現れたら知らせてくれと頼み、塚本は電話を切る。

次郎の奴、伊吹の所へは行かないのでは?と松井が言い出すが、塚本は、行く!それしか奴の逃げ場はない!と言い切る。

伊吹の電話の相手を知った曽根は、8年前、ムショに入った時、塚本とは縁を切ったとあんたは言ってたのに…と伊吹に迫る。

塚本は昔と違い、今では200団体もの下部組織を持っている大物だ。そんな塚本が何故、弟に血相変えるのか?と伊吹は考え込む。

車で自宅に戻った伊吹は、玄関先で物音に気づき、柱の影に身を隠して身がまえるが、そんな伊吹の目の前に暗がりから姿を現したのは、弟の次郎(黒沢年雄)だった。

兄ちゃん、元気かい?と次郎は悪びれなく挨拶して来る。

その次郎の背後に隠れるようにしていた女も前に出て来る。

女はエミ(喜多川美佳)と次郎が紹介する。

家の中に招き入れた伊吹は、次郎の様子がおかしいので、酔ってるのか?と聞くと、汽車の中でハイミナールを…と次郎は答える。

そこにやって来た曽根に、伊吹は弟を紹介する。

伊吹は、塚本から電話があったぞ。正直に話せ、何があった?と次郎に聞く。

次郎はそれには答えず、会長は何と言ってた?と逆に聞いて来るので、何も言わん…、俺はただ、次郎が来たとだけ言えば良いんだ…と伊吹が言うと、止めてくれよ!兄弟じゃないか!と次郎は怒り出す。

すると伊吹は、いきなり次郎の顔を殴りつけ、何があった!と聞き直す。

ふて腐れたように、次郎は、ジャンパーの中からテーブルの上に拳銃を取り出し、俺もジュク(新宿)じゃ良い顔になり、チンピラ10人くらい任されていた。

ある日、そいつで、塚本の親父を裏切った奴をやれって言うのさ。

俺はハジキには自信がないし、ボディガードに固められた相手を狙うのは、死にに行くようなもんじゃないか!

それで、こいつと一緒に逃げて来たんだ…と次郎は打ち明ける。

お前も子供じゃないんだ、自分の始末くらい自分で付けろ!と伊吹が叱ると、自分は足を洗ったくせに、俺が洗うのは嫌なのかよ!と次郎は逆上し、話を聞いていたエミも、やっぱり誰も私たちのことなんて助けてくれないのよ!この人だって自分が可愛いだけよ!と罵倒する。

すると伊吹は、その女が言うように、俺は自分が可愛い。この生活が可愛いんだ。これをぶち壊すのは、誰であろうと許さん!一緒にやろうと誘ったのに、5年前、お前は何と言った?同じ人生なら、楽で楽しい人生の方が良いと言った!と次郎に迫る。

あの時はガキだったんだよ…と次郎が言い訳すると、あの時が子供なら、今のお前は何だ?と伊吹は睨みつける。

助けてくれ!兄さん!とすがって来た次郎を、又殴りつけ、出て行け!と罵倒する伊吹。

一緒にエミも追い出そうと腕を掴んだ時、倒れていた次郎が、触るな!そいつに乱暴したらぶっ殺すぞ!そいつの腹の中には子供がいるんだ!俺の子供なんだ!と喚き出す。

驚いた伊吹の腕に捕まれていたエミも、次郎を止めたのは私よ。他にどうすれば良かったの?と問いかけ、泣き出してしまう。

そんなエミに、お前は黙ってろよ…と気遣う次郎。

伊吹は諦め、曽根に、2人に風呂を教えてやってくれと頼む。

その後、書斎に戻った伊吹の所にやって来た曽根は、二人とも疲れ切っていたのか、風呂から上がったらぐったり寝てしまいました。それから、お手伝いのおばさんには変えてもらいましたと報告する。

そんな曽根に、どう思う?と伊吹が問いかけると、塚本の目の届かない所に逃がすんですね。日本じゃ無理でしょうから…、私が心当たりを探してみましょうと曽根が答えると、否、それは俺がやると伊吹は断る。

翌日、伊吹は1人で、海外へ密告させてくれる船を港で探して廻るが、全て断られてしまう。

歩き回る伊吹の様子を物陰から監視していたのは、又しても立石だった。

家に戻って来た伊吹から、東京へ行くと聞かされた曽根は驚く。

塚本と直に話し合う。逃亡経路はどのルートも塞がれてしまっている。塚本の連中にここに踏み込まれるよりはましだろう…と伊吹は言う。

せっかくここまでやって来たのに!と曽根は無念がるが、それを潰されたくないから行くんだと伊吹は説得し、万一…、俺が戻らなかったら、お前と美樹で、あの会社を続けてくれ。怒るなよ、曽根…、お前一人でも立派にできる。

美樹に引き合わせてくれたのもお前だ…と曽根に言い聞かせていた伊吹だったが、曽根の表情を見て、曽根!まさかお前…と気づく。

急に居間の方から大音響で音楽が響いて来る中、曽根は、車を借ります!と申し出、出かけて行く。

ステレオのラジオをかけて踊っていたのは、次郎とエミだった。

伊吹が居間に出て音楽を止めると、音楽くらい良いじゃないか!ハイミナールを取り上げられて上に、こいつを取り上げられたんじゃ…と次郎は文句を言って来るが、泣き言は止せ!と伊吹は叱りつける。

飲屋街にやって来た曽根は、チンピラ2人から因縁をつけられたので、殴りつけ、この町から出て行け!今度見つけたらぶち殺す!と睨みつける。

クラブ「ミキ」に入ると、もう店じまいしている所だったので、看板か?失敬…と言い残し帰ろうとした曽根だったが、美樹に止められ、カウンターでいつもの酒を飲む事にする。

美樹は、曽根が一気に酒を飲み干したので、どうなさったの?あなたの飲みっぷりはあなたらしくないわ…と声をかける。

すると曽根は、俺らしくないか…、いつもおとなしい曽根…、いつも目だたない曽根…か?と自嘲する。

踊りましょうか?と美樹が誘うと。止めてくれ!と曽根が怒鳴ったので、お願い!何があったの?話して!と美樹はせがむ。

その時、クラブに電話がかかって来る。

美樹が出ると、相手は伊吹だったので、入らしてますと答え、受話器を曽根に渡す。

伊吹は、俺はやっぱり東京へ行くと言うので、曽根は分かりましたと答え、電話を切ると、コーヒーのうんと濃いのを飲ませてくれませんか?と美樹に頼む。

翌朝、曽根の運転する車で、浜湊駅まで送ってもらった伊吹は、降り際に、2人を頼む!と曽根に頼む。

気を付けて…と運転席から声を返した曽根だったが、その直後、近づいて来た大石部長刑事が、奴さん、どこへ行くんだ?と聞いて来る。

東京へ、大口の仕事の話があるもので…と曽根はごまかすが、紙袋に入ったアンパンを勧めて遠慮された大石は、自分でアンパンを頬張りながら、町が平穏なときは、これを食いながら町を見ているんだ。

面倒を起こしそうな奴、起こしそうにない奴…、俺みたいな男は、何も起きて欲しくないんでね…と大石は独り言を言う。

東京の馴染みの銃砲店にやって来た伊吹は、懐かしそうに出迎えた主人(石田茂樹)に、頼みがあると申し出る。

地下の練習場で、銃の試し撃ちをする伊吹。

最初は的を外れ気味だったが、すぐに伊吹は昔の勘を取り戻す。

その後、タクシーで伊吹が乗り付けたのは、塚本がいる極東ビルの入口だった。

受付嬢に塚本に会いたいと申し出る伊吹

ただちに巽が塚本に、伊吹が1人で来ました!兄の方です!と伝える。

会長室にやって来た伊吹を出迎えた塚本は、伊吹、良く来たな…、昔の仲間だ!と言いながら、部屋にいた巽、松井、椎名を紹介する。

伊吹が、次郎が持って来た拳銃を取り出してみせると、やっぱりお前の所へ行ったか…、まさか、次郎を渡さないつもりじゃないだろうな?と塚本が言うと、次郎の仕事、俺がやる!と伊吹は答える。

そうか…、お前がな…と塚本はつぶやく。

伊吹が帰った後、浜港市の地図を前にした塚本は、裏日本進出には良い…と言い、巽に、部屋の外で待たせていた立石に会ってみようと巽に伝える。

その後、2人の男を連れた立石が、浜港駅に降り立ち、タクシーに乗り込むのを、いつものように駅で監視していた大石部長刑事が目をつける。

伊吹の家では、次郎が庭に出たいと言うのを曽根が留めたので、息が詰まりそうだ!と次郎は切れる。

ハイミナールを買いに行くつもりなら、この町にはないと曽根は冷静に答える。

そんな曽根の態度にむかついた次郎は、何でそんなにデカい顔してるんだ?兄貴でもないのに!と詰めよるが、あんたの兄さんとはムショで会った。俺もあの人も無口だったのであまりしゃべらなかった…と曽根が話し始める。

俺の楽しみは、鉄格子の嵌った窓に飛んで来る雀だった。

食事の時、飯粒を少し残しておき、それを窓際に置いておき手なずけたら、とうとう雀は毎日飛んで来るようになった。

ある時俺は病気になり、入院した。

戻って来たら、毎日、俺と同じように飯をやっていたらしく、雀は前と同じようにさえずっていた。

それが兄さんだった…と曽根が言うので、ふて腐れて聞いていた次郎は、それがどうした!とからかう。

どうもしないさ…、ただそれだけの話だ。あんた、兄さんは大物だから、足を洗うのも簡単だったと思っているようだが、あんたを出世させるのを条件に、自分が足を洗うのを承知したんだと曽根が教えると、さすがに次郎は驚く。

その頃、東京に来ていた伊吹は、塚本を裏切った男のことを探っていた。

情報屋の斉田(遠藤辰雄)は、最初、塚本が売ろうとしていたのはジュークボックスで、大阪のバーや食べ物屋で売れるだろうと言うのが作戦やったと言う。

その陣頭指揮を執ったのは、大幹部やった菊井やった。

それに目を付けたのが、大阪の香田組の大幹部吉野と言う男で、女と金で菊井を責めて陥落させやんや。

その結果、今じゃ、香田組の有線放送が伸びたんや…と斉田は言う。

そして、いつもボディガードが付いているんで、狙えるような人気のない場所へは行かないと思うと思うと斉田が言うので、むしろ、一番賑やかな所へ奴が行くのは?と伊吹は聞く。

それやったら、今日の4時、サンデーホールで、有線放送の成功を祝うパーティがある。客は素人ばかりで、パーティが終わるのは6時頃…と斉田は教える。

どっかに盲点があるはずだ。奴が気を抜く一瞬がね…と伊吹は考え始める。

パーティに参加していた菊井(太刀川寛)は、ボディーガードを従えトイレに入るが、さすがに、ボディガードは入口を固めるだけだった。

先に入って待ち受けていた伊吹は、無人のトイレに入って来た菊井に銃を突きつける。

菊井は、仕返しと瞬時に悟り、悪かった!俺が悪かった!と土下座して謝るが、突然、立上がって向かって来ようとしたので、その場で射殺した伊吹は、菊井の遺体を大便所の便所に運び込み、水洗の音を立てて、自分は何食わぬ顔でトイレを出て行く。

便座に顔を置かれた菊井の遺体の口から流れ出た血が、水洗の水の中に垂れる。

入口を守っていたボディーガードたちは、異変に気づき、トイレの中に駆け込み、菊井の遺体を発見すると、慌てて、今出て行った伊吹の後を追う。

伊吹は表に出るとサングラスをかけ、ホールの側に停めていた赤いオープンカーに飛び乗ると、追って来た香田組のチンピラたちを振り払い、逃亡する。

追って来た吉野(今井健二)は、逃げ去った車の方を睨みつける。

極東ビルに戻り、仕事をやり遂げたと報告した伊吹に、塚本は、ご苦労とねぎらい、警察の手が回ったら、次郎と一緒に届け出てくれと言い出す。

それを聞いた伊吹は、何!と驚き、塚本を睨みつける。

しかし塚本は淡々と、昔と違い、今は組織も大きくなった。1人でも徴兵拒否する奴が出て来たらがたがたになる。お前がもう1度、俺の手足になって働いてくれたら考えも変えるのだが…などと答える。

ハメたな?!この5年間、あんたは俺が太るのを待ってた。あんたの夢も狂うことがある。俺はあんたの豚にはならん!と伊吹は気色ばむ。

それでも塚本は、遅いよ、伊吹…、もううちの者が次郎を連れ戻しに行っていると教える。

浜湊の伊吹の家を訪れた立石に応対した曽根は、次郎を出せと言う相手に、そんなものはここにはいないと突っぱねていた。

こっちも子供の使いじゃないだ、ここは俺の顔を立てて、家の中を見せてくれないか?と凄んだ立石だったが、あんたの顔を立てる義理もないと曽根も動じなかったので、立石は、連れて来た2人を監視役としてその場に残し、自分は車で行ったん引き上げることにする。

極東ビルを後にした伊吹は、駅から赤電話で自宅に電話を入れてみるが、故障らしく通じなかったので焦る。

電話線が切られたことは、曽根の方でも気づいていた。

次郎は怯え、屋敷に止めようとする曽根に、奴等に殺されるのをここでじっと待ってるのかよ!と焦り、逃げ出そうとする。

曽根はそんな次郎に、表も裏の崖の方も固められている。夜になれば、奴等の目をくらまし逃げる方法はある!と言い聞かせる。

その頃、愛隣興行に来た立石は、猟銃を借り受けていた。

東京に電話をした佐藤が、受話器を立石に渡す。

立石が、話し合いは無理ですねと伝えると、電話に出た松井が、伊吹がそっちに向かった、気を付けろ!と警告する。

伊吹邸では、恐怖のためか、酒を飲み始めた次郎に、曽根が、もう止めなさい!命が惜しけりゃな…と言い聞かす。

次の瞬間、玄関から逃げ出そうとした次郎に、エミが呼びかけると、お前のせいだよ!子供さえ作らなきゃ、俺は殺しでも何でもやって、大幹部になったんだ!と怒鳴りつける。

すると、エミの方も外へ出ようとするので、どこに行く気だ?と次郎が聞くと、病院よ!子供を堕しに行くのよ!そうすれば、こんなこと、全部お終いになるんでしょう!とエミは逆上する。

それを聞いた次郎は急にしょげ、俺が悪かったよと謝る。

俺はダメな男だ…、意気地ないし…、何の取り柄もないんだよ。それでも、子供が出来たって聞いた時は喜んだものさ。あん時は嬉しかったな…、自分がびっくりするくらい…と次郎はしおらしく打ち明ける。

そんな会話を聞いていた曽根は、来るんだと言うと、屋根裏に隠していた猟銃と拳銃を取り出し、2年前、俺は二度とこの銃を手にしないと兄さんと約束した…、だが、あんたらを助けるためだったら、兄さんも許してくれるだろうと言い、次郎に、使えるな?と言いながら、拳銃の方を手渡す。

その時、車が近づいて来る音が聞こえて来たので、奴等は夜を待たない気か?と曽根は緊張する。

応接間で身構えた3人に向かって、いきなり、立石たちは発砲して来る。

次郎!出て来い!俺たちはこれ以上手出しできねえ!連れに来ただけだ!手を焼かせないでくれ!と外からの声が聞こえてくる中、奴等が焦れて来て、うちの中に入ってきたら、裏山に逃げろと、曽根は次郎とエミに命じる。

出て来ねえなら、こっちから行くぜ!と立石が呼びかけると、畜生!と、次郎は自棄になって撃ち返し、玄関の外まで出て行ったので、格好の目標となり、蜂の巣にされてしまう。

それを観たエミは、かばう曽根の手の中で狂ったように泣きわめき始めるが、良いか?俺が奴等の気を惹くから、その隙に二階へ走れ!書斎に隠れるんだ!奴等がドアを開けたら引き金を引け!分かったな…と言い聞かし、猟銃を手渡す。

曽根は、側にあった皿のようなものを空中に放り上げると、外の連中がその皿目がけて撃って来たので、猟銃を持ったエミは、反対側にあった階段を駆け上って行く。

武器を失った曽根は、キャラが付いたナイフのカバーを抜いて身を隠す。

そこに、立石と2人の男が侵入して来る。

次郎はやったと男たちから聞いた立石は、まだ女と、伊吹の相棒が残っている、油断をするな!と命じる。

隠れていた曽根は、立石の猟銃を奪い取ろうと飛びかかるが、気づいた男たちに撃たれてしまう。

二階に上がる立石たち。

書斎の中で猟銃を構えていたエミは、ドアが開いたので、ためらわずに引き金を引くが、ドアの外のシャンデリアを粉々にしただけだった。

ドアの影に隠れていた立石たちは部屋の中に飛び込んで来て、エミの猟銃を奪い取ると、3人掛かりでベッドに押し倒す。

夜、タクシーで帰宅した伊吹だったが、玄関ドア周辺に無数の弾痕が残っていたので身構える。

用心しながら家の中に入った伊吹は、まず、玄関先で倒れていた次郎の死体を発見する。

電気を点け、応接間に倒れていた曽根の死体にも衝撃を受けた伊吹は、二階の書斎に上がってみるが、ベッドで裸にされ、うつぶせのまま死んでいたエミを見つけると、自分が着ていたコートを脱ぎ、そっと死体の上にかけてやる。

そのエミの側に置いてあった猟銃を手に取った伊吹は、曽根!とつぶやく。

曽根が、今まで隠していた銃を持ち出して、二人を助けようとしたことに気づいたからだ。

伊吹は、3人の死体を応接室のソファーに集め、次郎がはめていた時計を外すと、自分の腕時計を外し、その場で文字面のガラスを壊して時計を止めると、次郎の腕にはめさせる。

そして、部屋全体に灯油をかけ始めると、目覚まし時計の針を10時35分に合わせる。

そして、台所のガス栓を開くと、自分の車で屋敷を出発する。

11時、自動発火装置を付けた目覚まし時計のスイッチが入り、ガスが充満していた部屋は爆発、灯油に引火して、屋敷はたちまち炎に包まれる。

クラブ「ミキ」にいた美樹は、電話がかかって来たので受話器を取り、どなた?と聞く。

伊吹は名乗りもせず、すぐにマンションに戻ってくれ、誰にも言わないでな…とだけ命じる。

分かりました…と答えた美樹は、そのままマンションに帰り、部屋で待っていた伊吹に会う。

どうなすったの?と聞くと、預けてあるものをもらいに来た。飲み代に困ったロシア船員が残して行ったものだ…と伊吹は答える。

そして、曽根が殺された…、俺のためにな…と教えたので、噓よ!そんなこと!と美樹は立ち尽くす。

そんな美樹は、抱きついた伊吹に、やっぱりあんたは行ってしまうのね?私が付いて行けない所に…とつぶやく。

曽根はあんたを愛していた。あいつは、あんたと俺しか信じていなかったんだ。俺は行かなければいけない!と伊吹は言い聞かす。

私は、どこに行けば良いの!と、最後の伊吹とのベッドを共にした美樹は嘆く。

翌日、喫茶店に大石部長刑事を呼びだした美樹は、「プロパンガス大爆発!社長と重役焼死!」と見出しに書かれた新聞を読み、事故とは思えない…、誰かがここに来て、あの人たちを!…、違うでしょうか?と美樹が言いながら封筒を差し出す。

すると、サングラスをかけた背の高い男が二人を連れ、一昨日来た…と大石は話しだす。

うる覚えのナンバーを頼りにタクシーを洗うと、愛隣興行の前で降りたと言う…と情報を教えた大石だったが、俺は死人の銭など受け取らん。特に、生きた死人の銭は取らん!仏さんに言っといてくれ、俺の所轄内で騒ぎをお子さんでくれと…と言い残し、封筒には手も付けず帰って行く。

その話を、電話で美樹から聞いた伊吹は、そうか…、やっぱり気づいていたか、あのおっさん…と感心し、電話を切ろうとするので、待って!お願い!一言だけ!死なないって言って!と頼むが、伊吹は、美樹…、幸せにな…とだけ答えて電話を切る。

競馬中継のテレビ放送が鳴り響く、愛隣興行の事務所に乗り込んだ伊吹は、二人の幹部を痛めつけ、テレビのブラウン管を銃で撃ち抜く。

その話を東京で聞いた塚本は、そうか…、やっぱり来るか、伊吹は…とつぶやいていた。

無論、私を狙って来るだろう…。だがここは裏日本のちっぽけな町とは違うぞ!この東京で狂犬一匹に何が出来る?と、窓から外を見ながら塚本は虚勢を張り、笑う。

その東京へ向かう車を山中で一旦停めた伊吹は、後部トランクを開け、中に縛って押し込んで来た佐藤を外に出すと、休憩だ、30分だけな…と言い、紙袋を差し出して、食えと命じる。

翌日、立石とひげ面の男が極東ビルを訪ねて来るが、その様子を向いのビルの屋上の広告塔の陰から、カメラで撮影していたのは伊吹だった。

巽や松井、椎名と言った幹部連中の姿も、窓越しに写して行く。

立石を呼び寄せたのは松井で、やって来た立石に、もう一働きしてもらいたいと頼む。

それを聞いた立石はすぐに伊吹のことと気づき、窓は防弾だし、ビルの中はボディガードに固められているんだ。いくら伊吹でもここを襲うとは思えないと答える。

会長は、自分がここを動かない限り、奴は必ず飛び込んで来るとおっしゃっていると松井は教える。

写真を現像し、佐藤を監禁していた部屋に戻って来たい武器は、この中に、お馴染みの3人が出て来たら頷いてもらうと命じ、一枚一枚、極東ビルで撮った人物写真を見せていく。

佐藤は、立石とヒゲ男沢木(荒木保夫)、2人を乗せて来た車の運転手田島(木村博人)の3人を見て、渋々頷くと、もう良いだろう、逃がしてくれと頼んで来る。

ダメだ!といなした伊吹だったが、写真の中に見覚えがある顔を発見し驚く。

それは、菊井を殺した時、トイレの前で見張っていた香田組のチンピラだった。

その後、「ニューキングダムホテル」に向かった伊吹は、ホテルから出て来た沢木を出会い頭に射殺すると、ホテルの前に停めていた車の運転手田島に銃を突きつけ、助手席に乗り込むと出発させる。

沢木の後からホテルを出ようとしていた立石は、唖然として立ちすくんでいた。

高速に乗って、人気のない工場地帯の一角に車を停めさせた伊吹だったが、突然、田島が抵抗をし出したので、車の外で殴り合いになる。

相手は意外に手強かったが、持っていた銃で、相手の首筋をへし折り、とどめを刺す。

その後、大阪の香田組に、あの男はまだ現れませんと公衆電話で報告していたチンピラを見つけた伊吹は、捕まえて人気のない所へ連れ込むと、あんた等に乗ってもらいたい話があると囁きかける。

一方、沢木と田島が伊吹に殺されたと聞いた塚本の方は、2人は名古屋の黒田の紹介だったな?キャバレーやってる…と松井に確認する。

浜湊の一件もありますし、ここは匿ってやる方が…と、立石のことを進言するが、海が…、良いだろうな…、黒田には私から話する…と塚本は言う。

そして塚本は、巽に逃亡用の飛行機の手配のことを聞く。

3つ取ってありますと、巽が日付と時間が違う3機の予約を知らせると、伊吹はやるとなったら徹底的にやる男だ。やる前にはそれなりに調査するはず。つまり、ここ一両日はまだ安全だ。明日の朝のにしよう…と、一番早い予約機に決める。

伊吹は、馴染みの銃砲店の地下練習場で、拳銃の練習を重ねていた。

そこにやって来た店の主人が、伊吹さん、もう止めてくれと迷惑そうに頼むが、伊吹は構わず、親父さん、この散弾の中にスペーサーを入れてくれと頼む。

そんなにパターンを拡げてどうするんです?と主人は戸惑う。

その後、立石は、心配ない。あんたにもしものことがあったら、困るのはこっちだと言う椎名に促され、極東ビルの駐車場からどこかへ出発する。

その直後、銃砲店の親父が乗った車が極東ビルの前に一旦停止した後、すぐに通り過ぎる。

向いのビルの屋上の広告塔に隠れていた伊吹は、何事かを考えていた。

夜、極東ビルの入口は、3人のボディガードに固められていた。

10時直前、そこにやって来たのは、大阪の香田組の幹部吉野とあのチンピラだった。

ボディガードたちは警戒するが、わしは、塚本さんに呼ばれて来たんですぜ…、お前等じゃ分からんと吉野は言う。

そこに出て来た巽は、香田組の吉野さんですね?会長はそんな話はしていないと嘲笑する。

それを聞いたチンピラは、はめられたんや!と叫び、銃を取り出そうとするが、その場でボディガードたちに撃たれてしまう。

その騒ぎの中、伊吹は、別の入口を見張っていた護衛役を2人殴り倒し、極東ビルの中に入り込む。

次々に現れるボディガードたちを射殺して階段を登る伊吹は、とうとう、塚本がいる会長室にたどり着く。

伊吹!もう来たのか!と1人でいた塚本は驚いて立ちすくむ。

言ったはずだ、あんたの夢は狂うことがあるとね…と伊吹が銃を突きつけると、次郎をやった奴はみんな死んだ。2人はお前がやり、もう1人は横浜港に沈められている…と塚本は教える。

伊吹、お前って奴はお手上げだ。改めて、重役にしようじゃないか!金も何もかも思いのままだ。第一、俺を殺しても組織が消える訳ではない。返事してくれ!と言いながら近づいて来るが、伊吹は何も答えず銃を撃つ。

胸を撃ち抜かれた塚本は、驚いたように倒れ込み、椅子を頼りに立上がろうとした所を、背中に又二発撃たれて絶命する。

パトカーのサイレンが近づいて来て、極東ビルの玄関前に、トラックの荷台に乗った警察部隊が到着する。

警察隊がビル内に突入した時、伊吹は地下の駐車場にエレベーターで下りていた。

自分の車に乗り込もうと近づいたとき、どこからか銃声が響き、伊吹は左腕を負傷して、車の横に倒れ込む。

駐車場に潜み、伊吹を待ち受けていたのは吉野だった。

伊吹は、そっと車のドアを開き、撃ち返しながら、車を発進させる。

殺し損ね、後に残された吉野は、くそっ!と悔しがる。

伊吹は、駐車場の入口を見張っていた警官たちを蹴散らし、表に飛び出すと、吉野の運転する車も後を追って飛び出して来る。

警官たちは逃げ去る車目がけて発砲、後を追っていた吉野の車は路肩に衝突して停止する。

左腕から出血しながら、朦朧状態で運転する伊吹の車は、夜の高速を走って行く。


 

 

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