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鐵の爪 花嫁掠奪篇 完結篇

1934年9月から1935年4月までの半年間だけ活動したと言うエトナ映画の、唯一現存する、連続二本の総集編と思しき作品。

録音状態が悪くセリフが聞き取り難い上に、俳優の顔も馴染みがなく、判別し難いこともあり、下に書いているあらすじの登場人物の名前などは不確かであるし、顔と名前が一致しているかどうかの確信もない。

大雑把に内容を推測するに、かつて大川博士と言う科学者の家で居候をし、研究をしていた苦学生が、科学者の妻からの執拗な誘惑を受けている所を博士に見つかり、浮気をしていたと一方的に疑われた上に、強力な酸のようなものを右手と顔の右半分に浴びせかけられてしまう。

その後、その苦学生は、右手を義手に変え、顔半分がただれた鐵の爪として、悪の総元締となっていた。

大川博士への復讐を誓った鐵の爪は、博士の1人娘ちえ子の結婚式の当日、子分たちを引き連れ、博士が護衛を頼んでいた私立探偵と共に、花嫁を誘拐してしまう…と言う子供向けのヒーローもののような復讐もので、この話に、何やら、宝の在処を示した地図の争奪戦のエピソードも混じっており、どう考えても、戦後の江戸川乱歩の「怪人二十面相と明智小五郎の通俗ミステリ」の原型を思わせる内容である。

ところが、この一見単純そうな怪人対私立探偵の対決劇に、笑い仮面と言うもう1人の謎の怪人が登場している所が、ただでさえ断片的な部分しか残っていないこの話を厄介なものにしている。

黄金仮面と言うのは、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズの中に登場する「黄金仮面」のイラストそっくりで、口元は出ているタイプのマスクなので、登場するときは、暗闇の中、口元をマントの一部で隠しており、目元の黄金(白黒作品なので断定は出来ないが、光沢があるので、銀色か金色なのではないかと推測する)の部分だけが宙に浮いているように登場する設定になっている。

ちえ子とその新郎と思しき二枚目は、物語中盤で、その笑い仮面に窮地を救われており、逃がしてもらう時に顔をさらしているように見える。(画面上、笑い仮面は観客に背中を向けている)

笑い仮面の顔を見たちえ子と新郎と思しき男は、安堵したように顔を輝かせているので、彼らが知っている人物の変装と言うことだと思う。

この手の怪人ものの良くあるパターンから考えると、探偵の武智(この名前も確信はない)ではないかと思われるのだが、彼が鐵の爪のアジトで縛られていた時、笑い仮面が出現しているので、この2人は別人と言うことになる。

となると、この話に笑い仮面になりそうな人物は見当たらなくなる。

まさか、老いた大川博士とか、武智の助手で三枚目風キャラのシン公、あるいは、鐵の爪の情婦と言うことはないだろう。

さらに、この笑い仮面を謎めかしているのは、軽井沢(?)に車で逃亡したちえ子と新郎、その後を追跡した鐵の爪の車が、山間の環状の道で互いに正面衝突をし、ちえ子の車は崖から墜落、ちえ子は瀕死の状態になる…と言った場面の直後に、笑い仮面が口元のマントを外し、愉快そうに笑うカットが挿入されている所である。

こうなると、笑い仮面は敵なのか味方なのかの区別もつかなくなる。

ちえ子を助ける所か、殺すのが本当の目的だったかのようにも見えるからだ。

ラストの告別式の展開も、全く意味不明で、役者の顔の判別がし難いと言うこともあり、最後に新郎新婦役で登場した男女が一体誰なのかすら良く分からないまま。

ハッピーエンドで考えるならば、実はちえ子は死んでおらず、無事、新郎と結婚式を執り行うことになった…と言うことではないかと思うのだが、それまでちえ子はずっと和装で出ており、最後のシーンでは洋装のウェディングドレス姿に変わっていると言うこともあり、同一人物なのかどうかは判断できない。

地図の争奪戦のエピソードも中途半端な所で終わっているし、鐵の爪が死んだのかどうかも定かではなく、ひょっとしたら、連続活劇ものの1エピソードと言う形なのかもしれないとも想像する。

そう考えると、花嫁を誘拐した鉄の爪の子分たちが、武智を、今まで俺たちの仕事をさんざん邪魔しやがって…と暴行するシーンの意味も分かる。

おそらく武智と鐵の爪の戦いは、この作品の前にもあったと言うことなのだろう。

地図の争奪戦は、この作品の前から始まっており、この後も続編が作られた…と言うことではないだろうか?

セリフも棒読み調の稚拙なもので、その内容からしても、決して高尚な映画とは言えないと思うのだが、それでも、昔の大衆向けの通俗活劇として、それなりに人気はあったのではないかと想像するくらいである。

江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズが始まったのが1936年だとすると、この作品が乱歩に与えた影響は小さくなかったのではないかと言う気もする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1935年、エトナ映画社、野村雅延原作、脚本、後藤岱山監督作品。

科学者大川博士の娘ちえ子の結婚式の日

自宅に拳銃を持って現れた黒マントにタキシード姿の鐵の爪は、文金高島田姿の花嫁ちえ子を連れ出そうとする。

その際、大川と一緒にいた母親(?)が鐵の爪の銃弾に倒れる。

賊たちが家の外に出た途端、大川博士は、急いで警察に電話をかけようとするが電話が通じない。

鐵の爪の一味によって、電話線が切断されていたのだった。

鐵の爪の子分たちが、ちえ子を車の中に押し込むと出発する。

一方、探偵武智(?)は、鐵の爪の子分たちから、これまでさんざん仕事の邪魔をしやがって!と暴行され、気絶しているかに見えたが、北獅子ホテルに連れて行け!と話し合う子分たちの会話を聞いた武智は、地面をさっとかきむしり、指先に泥を付ける。

その後、警察署に駆けつけた新郎(?)の通報で、非常ベルが署内に鳴り響き、警官たちに出動命令がおり、非常警戒態勢がしかれる。

警察署を出発するサイドカーに乗った警官たち

しかし、ぐったりしたちえ子と一緒に車の後部席に座っていた鐵の爪は、そうした中、北獅子ホテルへ車を勧めさせる。

彼らのねぐらである無人のホテルにやって来た鐵の爪は、エレベーターを使い、ちえ子を上階の部屋に運び入れる。

そこにはベッドが置いてあり、鐵の爪の情婦が1人寝そべっていた。

鐵の爪が連れ込んで来たちえ子を観た情婦は、お前さん、また、悪い虫が出たんだねなどとからかったので、うるさい!、こいつは大川の娘なんだ!こいつの父親のためにこんなになってしまった!その復讐だ!と言う鐵の爪の顔の右半分は焼けただれ、右手の先は、鐵のフック状のかぎ爪になった義手だった。

しかし情婦は、こんな娘!私のような毒婦にしようと言うんでしょう。ああ、あの時のことを思うと、私ゃ、身震いするよ…と言うので、武智のことを見張ってろ!と鐵の爪は命じる。

ああ、あの私立探偵だね…と苦笑する情婦

俺は思ったことをやり遂げるんだ!と鐵の爪が興奮しながら叫ぶので、だから、あだ名が鐵の爪なんだね…と情婦は承知していると言うように答える。

その頃。ホテルの一室に連れて来られていた探偵武智は、鐵の爪のマークが入った、揃いのワイシャツを来た子分たちから痛めつけられていた。

そこにやって来た情婦は、お前たち、いつから悪党になったんだい?と子分たちを嘲る。

その頃、二枚目の新郎は、武智の助手のシン公に会いに来ると、ちえ子さんがさらわれたんだ!と事態を伝える。

シン公はただちに、大川家に向い、新郎は愛用のバイクに乗ってちえ子を探しに出発する。

一方、花嫁がさらわれた大川家では、既に警察が来て、現場検証をしていたが、あの武智君がやられるくらいだからね…と大川博士は、敵の恐ろしさを伝え、それを聞いていた刑事も、なかなかの奴ですな…と感心していた。

そんな大川家の庭先を懐中電灯で照らしながら何かを探しまわっていたシン公は、植木の奥の壁に書かれた「北ジシホテル…」と言う武智の指文字を発見する。

その頃、捕らえたちえ子に迫っていた鐵の爪は、娘!お前は知るまい、俺の復讐の理由!

俺は、お前がまだ赤ん坊だった頃、博士に師事した一介の苦学生だった…と話していた。

(回想)俺は将来、外科医を目指し、勉強に明け暮れていた。

そんな俺に邪魔だったのは、お前の鳴き声ではなかった。

庭の揺りかごで泣く赤ん坊をあやす女中

その女中を見守っているちえ子の母親で大川博士の妻

動物の解剖をする描写

ある夜のことだった…

おれは、博士の自宅の研究室で卒論のための研究をしていた。

そんな俺に、お前の母が執拗に言いよって来たのだ。

しかし、その現場を、帰宅して来た大川博士に発見されてしまう。

大川博士は激怒し、出て行け!と命じると、妻はすぐに部屋を出て行くが、苦学生の方は、そのノートを返して下さいと、睨みつけている大川博士に懇願する。

大川博士は、そんな苦学生の右手を掴んだまま、机の上にあった2冊の研究ノートを苦学生に叩き付け、さらに、机の上に置いてあったビーカーの中味を、苦学生の右手と、顔の右半分に浴びせかける。

それは、何か強い酸か何かだったのか、苦学生は苦痛に顔を歪める。

(回想明け)それがこの顔だ!この鐵の爪だ!と言いながら、鐵の爪はちえ子にフック状のかぎ爪を差し出して見せる。

そんな北獅子ホテルにやって来たシン公は、玄関口を見張っていた子分たちと格闘、エレベーターに乗り込み、相手の目をくらます。

子分たちは、異常を知らせに鐵の爪の部屋にやって来るが、部屋の前にいた情婦に、姐御!を語りかけると、中の様子をうかがっていた情婦は、しっ!と黙らせる。

部屋の中では、まだ鐵の爪がちえ子に語りかけており、現在の俺は悪の元締めだ!お前の母は俺を誘惑した!と訴えていた。

そこに入って来た情婦は、何してるの?探偵が逃げたじゃないと鐵の爪に知らせる。

鐵の爪が廊下に出て、妙な野郎が来たんで…と伝えた子分たちを叱りつけていると、エレベーターが開き、中に乗っていたシン公が、ここだよ!と子分たちをからかって来たので、子分たちはそちらへ向かう。

その頃、バイクに乗った新郎は、ちえ子の姿を探して走り回っていた。

1人、ちえ子と部屋に残った情婦は、お前さんには何の恨みもない。私は何年も前にあの男に酷いことをされた…。女は最後のものを気のない男に奪われると、えてして焼けになりたいものさ…、早く逃げておくれ…と言いながら、ちえ子の捕縛を解きかけるが、そこに鐵の爪が戻って来てノックしたので、お前さんも強情な女だね!等と言いながら、捕縛を元のように戻し、いきなりちえ子の頬をぶつ芝居をする。

そこにやって来た鐵の爪は、こいつを逃がさないように見張っていろ!と情婦に命じ、又部屋を出て行く。

武智探偵が捕まっていた部屋にやって来た鐵の爪は、子分たちに、武智の靴を脱がして靴の中を調べてみろと子分たちに命じる。

すると、靴の底に、宝の在処を記した地図が折り畳んで入っていた。

それを手にした鐵の爪が、外へ出ようとすると、目の前に立ちはだかったのは、笑い仮面だった。

暗闇の中に立つ笑い仮面は、全身マントに身を包み、口元もマントで隠していたので、笑っているような三日月型の目の部分を持つ黄金マスクだけが不気味に見えていた。

何者か?と立ち尽くす鐵の爪

その時、部屋に残されていた武智探偵は、何とか自力で捕縛を抜けると、外で立ちすくんでいた鐵の爪に飛びかかって行く。

2人は地図を奪い合ううちに、布の地図は二つに避けてしまう。

その片方だけを持ち、再びちえ子の部屋に戻って来た鐵の爪だったが、そこには気を失った芝居をしている情婦がいるだけで、ちえ子の姿は消えていた。

情婦を揺り起こし、ちえ子はどうした!と鐵の爪は聞くが、情婦は、知らないよ…、帰ったんじゃない?などととぼけるので、こいつ!と鐵の爪は情婦を殴りつける。

ちえ子は一人町中を逃げていたが、チャルメラを吹く屋台が通りかかったので、思わず身を隠す。

そこに近づいて来たタクシーが止まり、行きましょうか?と声をかけて来たので、疑わず乗り込んだちえ子だったが、気がつくと、運転手は銃をちえ子に向けていた。

「44.444」と言うナンバーの車の運転手は鐵の爪の子分だったのだ。

子分は、第二の洞窟に行くんだ…とちえ子に告げ走っていたが、やがて道の先に、不気味な笑い仮面が立ちふさがっていたので、思わず車を止めた運転手は、ちえ子を車から降ろし、代わって、助手席に銃を突きつけながら乗り込んで来た笑い仮面の威嚇を受け、運転手はその場から車を発車させる。

そこに駆けつけたのが、バイクに乗った新郎で、ちえ子さん!どうしたんですと声をかけるが、鐵の爪の子分たちが追って来たことに気づくと、手に手をとって、その場を逃げ出す。

近くの会場では、ちょうど、ボクサー資格審査が行われていた。

その会場内に逃げ込んだ新郎は、リングでちょうど戦い終わって休んでいた友人に、悪い奴に追いかけられているんだ!何とかしてくれ!と声をかけたので、友人やボクサー仲間が、乱入して来た鐵の爪の子分たちと乱闘を始める。

その会場を後にした新郎は、疲れ切ったちえ子を励ましながら逃げようとするが、そこに、鐵の爪のマークを胸につけたワイシャツ姿の子分たちが、ナイフ片手に追いついて来る。

懸命に戦う新郎だったが、多勢に無勢、もはやこれまで!と思われた時、突然現れたのが笑い仮面だった。

口元を隠した笑い仮面は、ひるむ子分たちを前に、新郎とちえ子を逃がそうとするが、その時、笑い仮面は、面を外して2人に素顔を見せる。

その顔を見た新郎とちえ子は、はっと顔が輝き、その場を去って行く。

追手を笑い仮面が相手してくれ、人気のない所まで逃げて来た新郎は、もう大丈夫だ、心配することはない…とちえ子を慰め、彼奴らが来る前に、軽井沢の叔父さんの所へ行こうと提案する。

ちょうどそこへタクシーがやって来たので、止めた新郎は、運転手の顔を良く確認し、大丈夫と判断すると、ちえ子と一緒に乗り込み、軽井沢へと運転手に頼む。

しかし、そんな2人を見張っていたひげ面の子分がおり、すぐに鐵の爪に公衆電話で連絡を入れる。

電話を受けた鐵の爪は、直ちに子分たちに、爆弾と車の用意をさせる。

そして鐵の爪は大川博士に電話をすると、もう30分も経てば、娘が乗った車は上州街道で爆発するのだ!と警告する。

そして、鐵の爪は、途中で拾ったひげ面の子分と共に、新郎とちえ子が乗ったタクシーの後を追跡し始める。

武智探偵とシン公も、サイドカーに乗って後を追う。

ちえ子たちが乗ったタクシーと、それを追う鐵の爪の乗った車は、環状になった山道の反対方向から互いに接近する形になる。

やがて、山中で正面衝突する二台の車

一台は、崖から谷に転落し、大破する。

突然出現した笑い仮面は、口元を覆っていた黒マントを外すと、何故か愉快そうに笑い出す。

「完結編」の文字

武智探偵とシン公は、何とか瀕死の状態だったちえ子を救い出し、建物の隅で抱き起こそうとしていた。

あの鐵の爪が…、思い出したくない、私…、この探偵さんを観た時、忘れようと言った…

帯の間に地図がありますとちえ子が言うので、ちえ子の帯の間を探ると、はたして、引き裂かれた半分の地図が入っていた。

シン公と自分が持っていたもう半分の地図を会わせてみる武智探偵

さようなら…、あなたの妹のその子さんは、いちばん仲の良いお友達でした…と武智に告げたちえ子は、その腕の中で息絶えてしまう。

ちえ子さん!と武智とシン公が驚いた時、突然近づいて来た何者かが、シン公が持っていた片方の地図を奪って逃げ去ってしまう。

武智は、その後は追わず、シン公、この女は、俺の妹の友人で、俺の許嫁なんだ…と打ち明ける。

それを聞いたシン公は、野郎!鐵の爪の奴!と吐き捨てる。

やがて、大川家の告別式が寺でしめやかに執り行われる。

参列者は、この告別式は妙な雰囲気ですな…などと噂しあいながら、記帳し、参列する。

葬儀の参列者たちを前にした進行係は、皆さん、ちえ子さんは崖から落ちて亡くなったので、戒名のつけようがない。

戒名が決まりますまで葬儀は延期し、本日はこれから仮装舞踏会を始めようと思いますと言い出したので、参列者は全員、何ごとかと戸惑う。

会場はすぐそこですと参列者たちを寺から外へ出そうとする進行係が、力也君!と呼びかけると、そこに新郎とウェディングドレスを着た新婦が入って来る。


 

 

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