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丹下左膳 飛燕居合斬り

中村錦之助(萬屋錦之介)さんが丹下左膳をやっていたことをこの作品で始めて知った。

左膳が隻眼隻腕になる前のエピソードから描かれているのも珍しいが、話の基本は、お馴染みの「百万両の壺」のエピソードになっている。

冒頭部分だけがかなりシリアスなタッチで描かれている以外、大半は、典型的な大衆向け娯楽映画作りになっている。

五社監督と言うこともあり、「三匹の侍」で一緒だった丹波哲郎が重要な役で登場している。

又、ちょび安を演じているのは、青影こと金子吉延で、隠密の首領役は天津敏!正に「仮面の忍者赤影」(1967)に直結するキャスティングである。

本作での金子吉延君の演技は生き生きとしており、映画での代表作の1本ではないかとさえ思う。

また、横山アウトや平参平と言った関西のお笑い系の人も出ているし、入江若葉や木村功の登場など、キャストの見所も多い。

淡路恵子さんは、この年に、錦之助さんと再婚している間柄

東映左膳役者としてお馴染みの大友柳太朗もちゃんと登場しており、「新諸国物語 笛吹童子」の頃から共演が多い錦之助とのラストシーンはサービス満点と言う趣向になっている。

ただ、劇中でのこけざるの壺を扱いを観ていると、途中から粉々に砕け散っているのではないかと思うほどの乱暴さ。

布切れ一枚に包んでいるだけの茶壺を、ラグビーボールのように投げあったり、床に転がしたりと、まるで鉄ででも出来ているのか?と思ってしまう。

こけざるの壺を廻る謎も全く解き明かされないままだし、元々、争奪戦を描くだけの内容なので、その辺はどうでも良いと言うことなのだろう。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、東映、田坂啓脚本、 五社英雄脚本+監督作品。

地下通路の入口を開き、外の石垣が中から少し見える。

タイトル

行灯を下げた案内係を先導に、闇を歩く丹下左馬之助(萬屋錦之介)

鞭打たれる腰元の拷問風景を背景にキャストロール

拷問部屋に連れて来られた来た丹下左馬之助を見た家老尾関出雲(織本順吉)は、案内係と拷問係を部屋から追い出すと、私に御用とは?と聞く左馬之助に、この女、奥御殿に上がった時から怪しいと睨んでいた。見込み通り、公儀の放った隠密であった。目狐め!と吐き捨てる。

相馬中村藩が隠した石数、異国との貿易高など、こと細かに記した密書を所持しておった…と家老は言う。

それにまだある…、当藩の藩主の中に、今一人隠密が潜んでいると白状しおってな…、左馬之助!御主は加島流免許皆伝、当藩随一の使い手だ。その隠密を斬れ!と出雲は命じる。

ただし、そなたを選んだにはもう一つ理由がある。そなたは馬廻り、神島小十郎の許嫁萩乃と申す娘とは、確か幼なじみの間柄だったな?と出雲は続ける。

はっ、それが何か?と左馬之助が聞くと、好都合なのだ。そなたが斬る相手と言うのが、その神島小十郎なのでな…と出雲は言う。

公儀への手前、小十郎を斬るのは私事の争いと言うことにしなければならぬ。例えば、萩乃と言う娘を挟んでの刃傷沙汰…、良くある話だが…などと出雲が言い出したので、さすがに左馬之助は御家老!役目とあれば私はどのようなそしりを受けようと構いません。しかし、藩中の噂を考えますと、あまりに萩乃殿の立場が…と問いかける。

萩乃を妻にすることで、我々の目をごまかそうとした…、萩乃も遅かれ、小十郎の囮であることを知る!遅かれな…!と出雲は言い切る。

自宅に戻った左馬之助は、出雲の命を心で反復しながら剣を振ってみる。

その時、目についた小鳥の巣箱を、萩乃(入江若葉)に持って行くことにする。

もらって喜ぶ萩乃に、自分はしばらく国を出ることになったと明かす左馬之助

どこへお出でになるのですか?と驚く萩乃に、萩乃殿、どんなことがあっても幸せになってくれ…と言い残し、左馬之助は逃げるように帰って行く。

その後、神島小十郎(江木健二)と馬で郊外にやって来た左馬之助は、何だ?話と言うのは…と馬を下りて聞いて来た小十郎に、わしは御主を斬る!と伝える。

貴様!俺が萩乃殿の父上に気に入られたのを妬んで!と小十郎が憎々し気に言うと、小十郎!御主、公儀隠密でありながら、何も知らぬ萩乃殿を何故妻に向けようとする?と左馬之助は逆に問いただす。

何を言うんだ!と小十郎は驚くが、証拠は挙っている!神妙に立ち会ってくれと左馬之助は頼む。

すると、そうか…、止めたよ、貴様が相手では勝ち目がないと小十郎は苦笑する。

素性が割れたからには俺の仕事はお仕舞だ…と言いながら、左馬之助
偽を向け地面に正座した小十郎は、左馬之助!俺は腹を斬る!友達甲斐に介錯を頼むと言い出す。

その言葉を疑わず、近づいて来た左馬之助だったが、小十郎は手にしていた小刀でいきなり左馬之助の右目を斬りつけて来る。

卑怯だぞ!小十郎!と右目を押さえながら呻く左馬之助に、隠密にそのような言葉はないと言いながら、さらに斬りつけようとして来た小十郎を、とっさに斬り捨てる左馬之助。

そんな2人の前に現れた尾関出雲は、乱心もの、斬り捨てろ!と連れて来た配下のものに命じる。

必死に、右手に持った刀で防ごうとした左馬之助だったが、その右手を根本から切断された直後、崖から転落する。

それから1年…

奥州相馬をさる八十里、江戸千代田城

庭を散策していた徳川吉宗(穂高稔)が、のう愚楽、来年は先例から数えて二十年目、日光大修理の年に当たるが、どの藩に工事を命じたものかの?と付いてきた愚楽老人(河津清三郎)に問いかけると、ご心配には及びませぬ、この愚楽、適当な藩を選び出しておりますと愚楽老人は答える。

いつもながら手回しが早いなと感心した吉宗が、その藩を聞くと、伊賀柳生だと愚楽は答える。

柳生?柳生対馬はわずか1万3000石、東照宮の修理には莫大な費用を要するぞと吉宗は懸念する。

心得ております、柳生家の内情を十分調べた上のこと…と愚楽は言うので、左様か…と答えた吉宗は、措置に任せると言いおき、その場を去る。

伊賀柳生藩江戸屋敷…

ございました!と慌てふためいて柳生対馬守(丹波哲郎)の元に駆けつけて来た家臣田丸主水正(中村錦司)は、読んでみろと言われ、日光東照宮の大修理の先例は正徳元年、作事奉行は伊達藩、伊達岩見守様…、その費用に25万両を出費し、藩の財政窮乏、伊達藩滅亡の危機に瀕し、建て直しに10年を要した…とありますと、持って来た古資料を披露する。

25万両か…と対馬守が繰り返すと、それは20年前の話…、今の金にすれば、まず30万両を見込まねば…と田丸は補足する。

柳生藩の百姓町人共の蔵を空にしてもそのような金は出来ん…、公儀はこの対馬に腹を斬れと仰せじゃと対馬守は嘆き、田丸!何か良い知恵はないか?と聞く。

一風斎殿に何か…と田丸は答える。

上様直々のお申し付け故、これを断っては重いお咎めがあるのは必定…、さりとて、引き受ければ、やはり柳生家は破滅じゃ…と対馬守は、早速呼び寄せた一風斉(春路謙作)に相談する。

一風斎!その方は柳生三代に仕え、生き字引と言われた男じゃ。何か良い知恵はないか?と対馬守は問いかける。

教えてくれ、一風斎、120年の齢、無駄に重ねた訳ではあるまい!と対馬守は、目の前の老人を凝視する。

一風斎は、震える手を差し出したので、田丸が筆を握らせると、「案ずるには及ばず、非常の際に用いるべき百万両の埋蔵金、当、柳生藩にあり、その場所は知らず、家宝のこけざるの壺に聞け!」と紙に書く。

その文言を、床下に潜んだ隠密が聞き取ろうとしていた。

それを声を出して読んだ対馬守は驚愕し、こけざるの壺に100万両の埋蔵場所が秘められていると言うのか?と一風斎に確認する。

こけざるの壺は、国表の宝蔵にある!田丸!すぐに国表に早馬を発て、壺を江戸表へ運べ!くれぐれも内密にの…と対馬守は命じる。

最上の役は、そうじゃ!国元に弟源三郎が戻っておる!と対馬守が声を上げたので、床下の隠密はすぐに動き出す。

伊賀の柳生の庄は京都を控えた要衝の地、よってここを公儀直々の天領とし、しかるべき代官を置いて、諸藩の押さえとする…、それが私の考えでもあった…と、愚楽老人は座敷犬と戯れながらつぶやいていた。

それには、一万三千石では手に余る…、東照宮大修理の作時奉行を柳生に押し付けた…、分かるか?泰軒…、そのこけざるの壺を奪うのだ!と愚楽老人は床下の隠密に話しかける。

柳生は何としても取り潰さなければならぬ…、その上百万両の黄金が手に入れば、正に一石二鳥!と愚楽老人は言う。

泰軒!その時には、そちを柳生の庄の代官に取り立てるぞ…と愚楽老人が言うと、床下の泰軒は、何かの気配を感じ、しっ!と黙らせ、天井裏に何者かが…と小声で知らせる。

それを聞いた愚楽老人は、黙って呼び鈴を鳴らす。

すると、ふすまの陰から入って来た風間一角(佐藤京一)が、小刀と大刀を天井に突き刺し、賊が庭から塀を越えようとした時、床下から出て来た泰軒も小柄を放つが、ただのこそ泥でござった…とつぶやく。

明らかに師匠が目当てで通っている若旦那(平参平)に常磐津を教えていたお藤(淡路恵子)の住まいにやって来た与吉(藤岡琢也)は、襖の隙間からお藤に目で合図をし、体よく若旦那を追い帰すが、やい!与吉、忘れたのかい?昼間っから顔なんか出しやがって!あれほど行けないって言ってただろう!とお藤から叱られると、あい…、つい、その…と低姿勢になる。

座ろうとした与吉が顔をしかめたので、又ドジ踏みやがったね?そもそもお前さん、泥棒にしちゃ太り過ぎだよ、そろそろ足を洗ったらどうだい?と言うお藤の小言に顔をしかめながらも、向島の屋敷に忍び込んだ所、とてつもねえ話を聞いたんだよ。百万両、百万両ですぜ!と与吉は切り出す。

ねえ、姐御、あっしは姐御のためなら火の中、水の中でござんす…と言いながら、おふじに甘えかけた与吉だったが、吸いかけていたキセルの煙草を与吉の手に押し付けたお藤は、百万両か…、悪かないね…ときせるの煙草を火鉢に落としてつぶやく。

柳生家の家紋が付いた大きな荷物を運ぶ小舟を、岸の茶店からひそかに確認する与吉とお藤。

与吉は、こけざるの壺を前にしてウキウキ気分になるが、お藤の方は、何だかおかしくないかい?と周囲に様子に気を配る。

小舟から荷物を降ろそうとしていた柳生源三郎(木村功)は、船着き場に近づいて来た僧侶の一団と、太鼓を叩きながら迫って来た別の宗派一行に目を注ぐ。

何だ?貴様たちは…、伊賀の源三郎、家康公より賜った茶壺を預かっての道中だぞ!と源三郎は威嚇するが、僧侶たちは一斉に笠を放りあげ、いきなり襲撃して来る。

船の中に残っていた腰元に化けた若衆2人が箱を持ち、上陸しようとするが、その場で斬られてしまい、茶壺の箱は空中を飛ぶ。

砂浜に落ちた箱からこぼれ出た茶壺を、白装束の宗派が、ラグビーボールのように拾って渡しあう。

やがて、柳生藩の家臣が壺を奪い返し、川岸を逃亡するのを、お藤と与吉が右往左往しながら確認する。

敵と斬りあううちに、半死半生になった家臣は、川縁に留っていた小舟に乗った子供ちょび安(金子吉延)に気づくと、坊主、この壺を柳生の江戸屋敷に届けてくれ…、褒美の金がもらえるぞ…と頼む。

本当か?おじさん…と半信半疑な様子で聞くちょび安。

家臣が、頼む…とつぶやいて息絶えると、急いでその壺を持ち、小舟の反対側の岸に逃げ出したちょび安だったが、その前に立ち肌肩のは与吉だった。

お藤も。お足はたんまり出すからねなどと言いながら近づいて来るが、ちょび安は壺を渡さない。

そこに、僧侶たちが刀を持って近づいて来たので、与吉とお藤は又身を潜める。

ちょび安は、僧侶に化けた一団に追われる中、壺を持って必死に逃げ出す。

小川を渡り、反対側の土手に建っていた掘建て小屋の中にちょび安が逃げ込んだので、小屋を取り囲んだ僧侶に化けた賊は、構わん、斬り捨てろ!と仲間に命じる。

中に入り込んだ仲間は、次の瞬間、うめき声を上げて出て来る。

中にいた隻眼隻腕の浪人に斬られたのだった。

小屋から姿を現したその浪人は、ちょび安が持ち込んだ壺を片方の草鞋で地面に押さえ、賊たちを次々に血祭りに上げて行く。

そこに駆けつけて来た柳生源三郎は、どなたか知らぬが恩にきる。拙者は柳生源三郎…と浪人に名乗ると、その壺は柳生藩十代の宝、奪われればお家の一大事になる所だった…、失礼だがお名は?と礼を言う。

隻腕の浪人者は、黙ってその壺を拾い上げると、いきなり空中に放り上げ、残っていた賊の2人を斬り捨てると、落ちて来た壺をキャッチする。

そして、姓は丹下、名は左膳…と浪人は答える。

丹下殿とやら、その壺を渡して頂こうと源三郎が頼むと、嫌だと左膳は言う。

これがなけりゃ、お家の一大事とか言ったな?俺はちょっと変わっていてな、そのセリフが気に入らねえんだ…。こんな壺一個のために何人かのバカがおっ死んだのに…、俺は親切な男だからな…、無益な殺生が起こらないようにこの壺を頂いて行ってやろうってんだ…。源三郎さんとやら、ありがたく思いな…と左膳は言い出す。

待て!返せば、百両くれてやるが、不足か?と源三郎が問いかけると、百両か…、嫌だと言ったら?と左膳が答えたので、斬る!と源三郎は即答する。

嫌だよ!と左膳が言うので、源三郎と配下が剣を構えると、柳生新陰流…、出来るな!と左膳は見抜く。

源三郎が斬り掛かると、背後の川に小舟で近づいて来た与吉が、そこの旦那!と声をかけたので、大きくジャンプし、小舟に飛び移った左膳は、源三郎!この勝負預けとくぜ!と言い残し去って行く。

その様子を、背後の木の陰から観ていた深編み笠の浪人がいた。

江戸屋敷で源三郎からことの次第を聞いた対馬守は、いくら悔んでも壺は戻らん!しかし気になるのは襲って来た正体不明の一味!と吐き捨てる。

襲撃の戦法、身のこなしから観て、公儀隠密かと…と源三郎は答える。

考えられる!今度の日光東照宮の大修理にかこつけて柳生藩を取り潰そうとしておる。その資金を絶つためにこけざるの壺を…と対馬守は言う。

隠密より先に左膳を見つけ出しませぬと、当藩は公儀の思いのままになります…と田丸が申し出る。

兄上!この源三郎この上は、草の根をかき分けても、左膳なる浪人もの、見つけ出してみせます!と源三郎は誓う。

柳生家の運命はそなたらにかかっておる。一刻も早く左膳なる浪人者を探し出せ!頼むぞ!と対馬守も命じる。

雨の中、料亭「文字春」にやって来た与吉は、良い気になりやがって、あの化物…と、中から聞こえて来たお藤の歌声を恨めしそうに見上げながら吐き捨てる。

歌い終えたお藤が、側でうたた寝をしていた左膳に、旦那!旦那ったら!と声をかけて起こそうとする。

しかし、一向に目を覚まそうとしないので、バカにしてるよ…とふて腐れながら、酒を口にしかけたお藤だったが、側に転がっているこけざるの壺を観にして近づこうとすると、見えていたかのように左膳は壺を側に寝返りを打つ。

姐御!と与吉から声をかけられ、ご苦労だったね…、もう一息って所なんだけどさ…とお藤が近づいて言葉をかけると、姐御、どうでも良いけど、少し元かけ過ぎじゃねえですか?今日で5日ですぜ。しっかりしてくだせえよ!と与吉はぼやく。

百万両だよ、こんな酒の一升や二升、元の内に入るかよ…と言い、お藤は、与吉が勝って来たとっくりを受け取って部屋の中に戻る。

只酒食らいやがって…と部屋の中を覗き込んだ与吉が悔しがると、良いかい?慌てるコ○キはもらいが少ないってさ…とお藤はからかい、任しとくんだよ、私に、これからが勝負だからね…と言い聞かす。

部屋に戻ったお藤は、無理矢理左膳を揺り起こす。

良う寝た…と言いながら目を覚ました左膳に、さ、迎え酒と行きましょうと湯飲みに注いだ酒を渡すお藤。

このねぐら、なかなか気に入ったぜ。泥棒稼業の表看板が常磐津の師匠文字春とは面白えやと左膳は笑いながら酒を飲む。

気に召したらずっといらしても良いんですよ…などとお藤は答える。

ねえ、生まれはどこさ…などと誘導尋問するお藤に、忘れちまったよ、昔のことは…と気のない返事をする左膳

今まで、どうやって暮らしてたんだね?と聞くと、道場破り、用心棒、一通りやった…、道場の方は荒し尽くしてネタ切れだ…と左膳が答えているのを、隣の部屋に身を潜めた与吉が盗み聞く。

用心棒の方はあまり口がかからねえんだ…、雇う方が俺の面観て怖がりやがってな…と左膳は苦笑する。

じゃあ、私が雇おうかしら?どうだろう?等と言いながらにじり寄るお藤。

高いぞ俺の腕は…、何しろ元がかかっているからな…と左膳は言う。

でしょうね…、だったらさぁ~、私の身体でさ~…とお藤が色目を使い始めたので、隣から覗いていた与吉の目が座る。

あまりぞっとしねえな~…、泥棒の用心棒ってのは…と左膳は乗り気ではないように言う。

ねえ、旦那~、そんな意地の悪いこと言わないでさ~…、ねえ旦那、あたしゃ、あんたみたいな男を待ってたんだよ…、あんたみたいな強い男をさ~…と言いながら、お藤は左膳を引き倒す。

そんな2人の様子を、襖の隙間から気が気ではないように覗く与吉。

そんな中、左膳の足に押され襖の方に転がって来た壺を与吉が取り上げようとすると、すぐに起き上がった左膳が奪い返し、待ちやがれ!と睨みつけ、いわくありげな壺だと思っていたが、手前たちもこれを狙ってたのかい!とお藤に聞く。

よほどの値打ちものらしいが、手前たちはこいつのいわくには詳しそうだな?と与吉に迫り、逃げ出そうとする与吉の顔の前に抜いた刀をさらし、言わねえと、俺みたいなカ○ワになるぜ!と左膳は脅す。

姐御~!と与吉が助けを呼ぶので、お藤は、足下の棚を足で蹴壊し、中から拳銃を取り出すと、お待ちよ!と左膳に向ける。

こんなものは使いたくなかったんだがね…、少々甘く出れば良い気になりやがって!そいつを放して、壺をこっちに寄越しなよ!とお藤は迫る。

嫌だと言ったら?と、与吉を放し、刀を収めた左膳が聞くと、あの世に行ってもらうだけさ…、スッキリ寄越しなよ!とお藤は言う。

しかし、壺を取り上げた左膳は、嫌だよと言いながらあざ笑う。

撃たねえのか?的を良く狙わねえと、このお壺様に当たって元も子もなくなるぜ…と壺を目の前に下げら左膳は、部屋の中をうろつきだす。

畜生!とお藤が悔しがると、姐御、撃たねえのか?撃たねえのかよ!と左膳はからかって来る。

畜生目!と悔し紛れに、お藤が発砲すると、突然、襖が倒れ、撃たれた隠密が倒れ込んで来る。

いつの間にか、隠密たちが取り囲んでいたのだった。

何だ、手前らがは!と怒鳴りつけた左膳だったが、どうやら手前たちもこの壺に御用らしいな?と勘づく。

あいにくな、俺もこの壺が段々可愛くなって来た所だ…と左膳は愉快そうに笑う。

そして、壺を背後にいた与吉に投げて渡した左膳は、命より壺の欲しい奴は出てきやがれ!と叫ぶ。

かかって来た隠密たちを斬りつけながら、窓から瓦屋根に降りて戦う左膳、お藤も、拳銃を撃ちながら与吉と共に逃げ出す。

通りに出て逃げようとしたお藤と与吉の前に姿を現したのは、川で左膳を救い出した時、木の陰から様子を観ていた蒲生泰軒(天津敏)で、女、その飛び道具、まだ役に立つかな?と聞いて来る。

お藤は引き金を引いてみるが、もう弾切れだった。

斬り掛かって来た泰軒は、与吉が落とした壺を取り上げようとするが、そこに駆けつけて来た左膳が、どうやらお前が親玉らしいな…、名前を聞かしてもらおうかい?と睨みつける。

すると泰軒は、死神!と答える。

死神?面白い!この壺を賭けて勝負だ!と左膳は挑む。

2人が斬り合いを始めた時、脇から飛び出して来て壺を拾い上げたのはちょび安だった。

小僧!つまらない所で出やがって!と左膳がちょび安の身体を押さえつけ文句を言うと、こいつはおいらの壺だい!とちょび安は言いながら逃げて行く。

水桶の後に隠れたちょび安と共に、左膳は隠密たちを後に逃げ出し、誰が知らせたのか捕手たちが集まって来たので、泰軒らはその場を引き上げる。

左膳はちょび安を逃がしながら、追って来た隠密を斬り捨てる。

役人たちの御用提灯が蠢く中、逃げ回っていた与吉はお藤に、姐御、もうあんな壺、諦めましょうよ…、いくた百万両かも知らねえけどね、命あっての物種だよ…と声をかけるが、こうなったら意地づくだ、私ゃね、意地でもあの化物見つけ出して、あの壺取り戻してみせるからね…と言い、むだ口を叩く与吉の頬を叩き、新しい家でも見つけたらどうだい?もうあの家には戻らないからね…と言いつける。

姐御、あっしのねぐらに来て下せえよ、任しといてくれなはれ!と与吉が言うと、任したよ!宜しく頼むぜと声をかけて来たのは左膳だった。

あのガキまくのに往生した。俺も当分手前たちの厄介になるぜと言いながら、左膳は壺を放って来ると、それにさっきの話もついてねえしな…、なあ姐御!と、受け取ったお藤に言う。

笑いながら、さらに2人の隠密を斬り捨てた左膳は、案内しなと言うので、壺を受け取った与吉とお藤は新しいねぐらへと向かう。

その後をこっそり付けるちょび安。

その頃、江戸城内で柳生対馬守と会った愚楽老人は、対馬殿、御公儀は柳生家代々の忠勤を愛でられて、このたびの東照宮修理と言う名誉を賜ったのじゃ。それを返上したいなどもってのほかの戯言!心得違いもいい加減になされい!と苦言を呈していた。

な、柳生殿、そう固くならんでも良い。上様はな、柳生家に対しての思し召しはひとからならず…、さよう…、来る13日、寛永寺で開かれる茶会には、対馬殿もご列席あるように仰せられたと愚楽老人が付け加えたので、ありがたき幸せ…と対馬守は礼を言う。

柳生家には確か、こけざるの壺と言う茶壺があったはず…、その折持参して、興を添えるようにと…、これも上様のお望みでござる!と愚楽老人は付け加える。

それを聞いた対馬守が顔色を変えると、いかがなされた?こけざるの壺は家康高より下しおかれしもの、万が一にも間違いはござるまいな?と愚楽老人は念を押す。

何を申されます!愚楽様!こけざるの壺、必ず寛永寺に持参つかまつりますと対馬守は答える。

部屋に戻った愚楽老人は、柳生め、丹下左膳を探し出せぬと見え、焦っておる。一刻も早くあの壺を我が手に収めることだ。左膳の隠れ家はまだ分からぬか?と愚楽老人は独り言を言うように床下に話しかける。

は、しかし、左膳を隠れ家よりおびき出す良い手だてがございます…と、床下に忍んだ蒲生泰軒は答える。

その頃、町の飯屋に集まって来た柳生家の家臣たちは、源三郎様はまだか?親父!命の用意をしておいてくれなどと、暗い表情のまま口々に言う。

江戸は広いな…、全く広いな…、13日の茶会まで後三日だ…などと、丹下左膳を見つけ出せない家臣たちはぼやく。

焦るな!左膳は明日にきっと見つけ出してみせる!と励ましていた田丸は、源三郎が戻って来たので、いかがでした?と問いかけるが、源三郎は力なく首を振るだけだった。

まだ三日ある、明日は本庄品川辺りまで足を伸ばしてみましょうと田丸はみんなを励ます。

その時、それには及ばん。丹下左膳はここにいると、衝立ての背後から声がしたので、全員驚く。

その声がした部屋を開けると、白覆面をした左膳と思しき浪人が、いきなり斬りつけて来て、夜の町に逃げ去る。

追って来た家臣たちを、待ち伏せして全員斬り捨てたのは、左膳に化けた蒲生泰軒だった。

そこに駆けつけて来た源三郎は愕然とする。

そんな一部始終を、塀の後に潜んでいたが目撃していた。

源三郎が抱き起こした大之進は、左…、左…と言いかけて息絶える。

それを聞いた源三郎は、おのれ、左膳め!と憤る。

その頃、与吉のねぐらである荒れ寺の離れにいた左膳は、こけざるの壺の秘密を解き明かさんと、壺を調べていたが、手掛かりは一向に見つからなかった。

縁側にいた与吉も、その壺を受け取って中を覗いてみるが、百万両に繋がりそうな手掛かりは何も見つからなかった。

絵だか字だか分からない暗号のようなものが、壺の内部に記されているだけだったのだ。

その壺百万両だなどと口から出まかせほざきやがったんじゃね絵のか!と左膳も苛立って与吉を怒鳴りつける。

冗談じゃねえよ!私ゃ泥棒だよ?親の遺言で噓だけは付かねえようにしてるんだよ!見損なってもらっちゃ困るよ、本当に!と与吉もやり返す。

そこにやって来たお藤が、与吉を追い払う。

厄介払いされることに起こった与吉に、そうかっかしないで、女でも抱いといでと言いながら巾着を渡すお藤。

ねえ、お前さん…、一体この壺、どうするつもりなのさ?と左膳に問いかけるお藤に、今考えてる所だ…と答える左膳

書いてやる文字が読めないんだったら、いっそのこと、柳生の奴らに売りつけてやったらどうなんだい?と提案するお藤

柳生の奴らに幕府の犬か…、どいつもこいつもお家のためとか言いながら、この壺一つに目の色変えてやがる。こいつをネタに、そう言う奴らを思い切りこけにしてやりたいんだ!この気持ちはお前なんかには分かりゃしねえよ…と左膳は言う。

私ゃね、あんたのこと思ってるからこそ言ってるんだよ…、ね?お互いこの辺で足を洗ってさ…、小料理屋でも出してさ…、ねえ?私の気持ち分かってるんだろ?苦労はさせないよ、ねえ、お前さん…などとお藤が食い下がっている時、縁側に近づいたちょび安は、破れ障子の穴から中の様子を覗き込んでいた。

まだ、お天道様が照ってるんだぜ…とお藤のお色気作戦に呆れる左膳だったが、私たちの商売じゃ、お天道様が照ってる内が夜なのさ…などとお藤はしつこい。

障子を閉めようとしたお藤は、縁側の隅に身を潜めていたちょび安に気づくと、この間のガキじゃないか、ここには壺なんかありはしないよ!と叱りつける。

その時、寝そべっていた左膳が、小僧、そんなにこの壺が欲しいのか?と問いかけると、俺な…、その壺、もうおじちゃんに譲っても良いんだぜ…、その代わり、俺に刀の使い方教えてくれないか?オレ、強くなりてえんだ!侍てのは強いもんだろ?おじさんみてえな強い侍になりてえんだ…などとちょび安は言い出す。

な、頼むよ!と言うちょび安に、うるせえ!あっち行け!行かねえと叩き斬るぞ!と怒鳴りつける左膳。

諦めねえからな…と言いながら立ち去るちょび安だったが、可愛げがないガキだよ、全く…と見送るお藤の目は愛おしそうだった。

その時、近くから騒々しい音が聞こえて来たので、うるせえな、何だいあれは?と迷惑そうに差全が聞くと、気にすることはないよ。今日は月に一度の泥棒市なのさ…とお藤が答える。

荒れ寺の本堂で、加賀百万石の前田家の香炉が500!安いな…、決めた!と競りを仕切っていたガラ熊(横山アウト)が、次はドロ亀、手前だ!と声をかけると、呼ばれたドロ亀(人見きよし)が嬉しそうに、触ってびっくり、観てびっくり!畏れ多くも徳川御三家の水戸様の奥に忍び入り、かっぱらって来た手水鉢だと一同に披露する。

すると、呆れたようなガラ熊がいきなり次!次!と言い出し、今度は将軍様の御丸でもかっぱらってきやがれ!とドロ亀を突き飛ばす。

次に登場した泥棒は、太閤様が馬印に使ったと言うひょうたんとやらを取り出し、腕が違うよ、腕が!などと自慢し始めたので、側で聞いていたドロ亀が怒りだし、2人はつかみ合いの喧嘩を始める。

場内は大混乱になり、止めようとしたガラ熊が、金を入れた箱をこぼしたので、その金を拾おうと大騒ぎになる。

泥棒!と慌てて止めようとしたガラ熊は、いきなり馬のいななきの真似をする。

そこへ、うるせえ!ちっとは静かにしろい!おちおち昼ネモできやしねえや…と怒鳴り込んで来たのが左膳だった。

その左膳の顔を見て凍り付いたのがドロ亀だった。

あの~…、旦那は一体?とドロ亀が聞くと、この姐御の居候だ。姓は丹下、名は左膳…と、一緒に付いて来たお藤を引き合いに出し左膳は自己紹介する。

文句あるのかい?と左膳が睨んだので、ドロ亀は怯えて首を振る。

お藤も、良いか?みんな…、分かったね?と念を押し、左膳の後に付いて離れへと戻る。

2人が去って行くと、兄貴、俺は昨夜、あの化けもんが人を斬るのを観たぜ…とドロ亀がガラ熊に教える。

しかし、ガラ熊は、手前、夢でも観たんだろ。昨夜、左膳の旦那は、俺の隣の部屋で姐御とずっといちゃつき通しよ…とガラ熊は呆れたように教え、大アクビをすると、お陰で俺は寝不足よと愚痴る。

しかし、ドロ亀は、いや~、あれは夢じゃないや…、とするとあれぁ…と1人考え込む。

自分の偽者の話をドロ亀から聞いた左膳は驚く。

二三日もすれば江戸中の大評判になりますぜと言うドロ亀に、そいつはどこのどいつだい!と左膳が問いつめると、そいつの後を付けると、驚くじゃありませんか、将軍様のおとり頭、愚楽様の寮に入ったんですぜ…とドロ亀は教える。

何?愚楽!そうか…、どうやら読めてきたぜ…、奴らは俺を怒らせて、ここからおびき出そうって寸法らしいや…と、ドロ亀の身体を突き放した左膳はつぶやく。

良し!あの愚楽ってジジイを思い切りこけにしてやろう!と、壺を手に言いだした左膳を、お藤は心配そうに見やる。

一体どうしたって言うんだい?とお藤が聞くと、おい!手前たちの腕を見込んで話がある!こいつになるたけそっくりな壺を探して来い!こいつに似た奴をな!とこけざるの壺を手にした左膳は念を押し、命じる。

あっという間に、泥棒たちは似たような壺を盗んで、左膳の前に持って来る。

その中から、似た壺を手に取った左膳は、心配するな、すぐ帰って来るとお藤に言い残し、ドロ亀を案内役に出かけて行く。

ドロ亀から、愚楽の寮の前まで連れて来られた左膳は、塀を乗り越え、中に入り込む。

座敷にいた老人に、愚楽ってのはお前さんかい?と声をかけると、丹下左膳か?なるほど、噂の通り化物だの…と愚楽の方も、左膳が来るのを予期したように答える。

冗談じゃねえよ、日本一の大化物って、お前さんの方じゃねえのかい?と左膳が苦笑すると、良い度胸だ…、左膳、気に入ったぞ…と愚楽は答える。

どうだ?わしと組んでみる気はないか?と愚楽が問いかけると、わしは上様や老中に代わって、1人でこの手を汚して、その代わり、この手で天下を動かした…、分かるかな?左膳…と言う。

素浪人の分際でいくら世をすねてみても、しょせんは野良犬の遠吠え…、わしに飼われてみるのも悪くないぞ…などと愚楽は言う。

お断りだよ…、俺は飼い犬にはなりたかねえ…と、庭先にいた左膳は答える。

それより爺さん、お前さんの欲しいのはこいつだろう?こけざるの壺だ!俺が欲しいのは銭だ!100両で手を打とうじゃないか?と言いながら、持って来た偽壺を、愚楽の膝元に投げて寄越す。

100両?と言いながら、壺を改めた愚楽は、呼び鈴を鳴らすと、髭の風間一角に手箱を持て…と命じる。

一角が、左膳を気にしながら、手箱から100両取り出し、縁側に頬ってやると、それを手にした左膳は、爺さん、百両とは安い、良い買物したよと言いながら、立ち去る。

その後、愚楽は、貴様はわしに飼われているが、あの男は飼い犬になるのは嫌だと言いよる…、一角!貴様にあの男が斬れるか?とその場で左膳を見送っていた一角に話しかける。

無論!と一角が答えると、その手だては?と愚楽が問いかける。

すると、一角、腰の大刀と小刀2本を抜くと庭の木に投げつけ、小柄で2本の刀が刺さった木の幹を斬りつける格好をして見せる。

投げた2本の刀を振り払うべき腕は左腕一つ、一瞬の隙はその折にしか生じぬと見ました…と一角は愚楽に答える。

その後、外の塀の所で左膳を待ち構えていた一角が、野良犬め!と罵倒すると、飼い犬め!と左膳も言い返す。

一角は、作戦通り2本の大小を投げつけるが、左膳はそれを二本とも払いのけると、突っ込んで来た一角の小柄を交わし、斬りつける。

一角の小柄は、左膳の着物を斬り裂き、先ほどもらった小判が地面にこぼれ落ちるが、左膳は慌てず、死んだ一角の側に落ちた小判を拾い集める。

翌朝、与吉が夜鷹と一夜を明かし、帰りかけた時、夜鷹たちは、見知らぬ女が勝手に自分たちのねぐらで夜を明かしていたことに気づき、取り囲んで因縁をつける。

一人旅をして路銀がなくなったと詫びたその女は、変わり果てた萩乃であった。

我、客でも引っ張り込むつもりやったんやろ!と夜鷹がひっぱたくと、無礼な!と萩乃は否定する。

夜鷹たちが萩乃を集団でつかみ掛かったのを見かねた与吉は、中に入って止める。

その頃、左膳は、泥棒たちに酒をふるまい、上機嫌だった。

泥棒たちは、ドロ亀が旦那のことを化物と呼んでいたとか、子供が引きつけるなどと言っていたなどと悪口を披露するが、それを聞いた左膳は愉快がる。

軒下には、ちょび安がまだ潜り込んでいた。

左膳に言われ、ガラ熊が踊り始めた陽気な寺に萩乃を連れて来た与吉は、おや?とんだ道行きじゃないか…とからかって来たお藤に、この人は萩乃さんと言って、遠く奥州は中村藩から人を訪ねて何百里!…と紹しかけるが、その名を聞いた左膳は黙り込み、左膳を観た萩乃は、左馬之助様!と驚いたようにつぶやく。

萩乃でございます。御忘れになりましたか?と声をかけられた左膳は、不思議そうに見つめるお藤の横で目をそらすし、人違いじゃねえのかい…と答えるのがやっとだった。

しかし、萩乃は、いいえ、左馬之助様です!左馬之助様に間違いありません!と言い切る。

もし生きておられるものなら、一目お目におかかって、萩乃の気持ちを…と言いかけた萩乃に、急に笑い出した左膳は、

どうあっても俺が左馬之助とやら言う奴だと言いはるなら、おとなしくこっちへ来て俺に抱かれてみな…と左膳はからかう。

存分に可愛がってから吉原に売り飛ばしてやらあ…、来い!と左膳は悪ぶる。

その言葉におののいた萩乃に、もう分かっただろう?ここはあんた何ぞの来る所じゃないよ…とお藤が言葉をかけたので、あなたは?と萩乃が聞くと、こいつは女房同然の可愛い女だ…と左膳が教える。

さあ、お前さん、一杯飲もうよ…とお藤が酌をしながら左膳に身体をくっつけると、堪り兼ねた萩乃は逃げ去って行く。

寺を出て泣き出した萩乃を追って来た与吉は、左膳の旦那もあそこまで言わなくても良いではないか!姐御も姐御だよと同情し、気の毒にな~…、これからどうするつもりだい?と声をかける。

そんな与吉に石を投げて来たのは柳生源三郎で、与吉が逃げ去ると、失礼だが、どういう知り合いだ?あの男と?頼む!教えてくれ!とその場に取り残されていた萩乃に聞く。

寺で飲んでいたさ膳が刀を手にしたので、出かけるのかい?とお藤が聞くと、ああ。仏様の前じゃ、辛気くさくていけねえや…、外での見直しだ…と左膳は言うので、何言ってるんだい?そんなにあの子のことが心配なら、さっさと追っかけて行ったらどうなんだい?とお藤は嫌味を言う。

左膳が睨むと、そんなツラしたって恐くはねえよ、あんたも性根はお侍なんだ…、あの子に会って、昔の暮らしが懐かしくなったんだろ?とお藤は言う。

妬いてるのか?お藤…と左膳は言うと、冗談じゃないよ!女房同然だなんて、ひとのことをダシに使いやがって!私はね、お前さんが可哀想だから、調子を合わせてやっただけなんじゃないか!などとお藤が絡んで来たので、思わず左膳は頬を叩く。

今まで私に面倒見てもらったのを忘れたのかい?などと恩着せがましくお藤が言うので、いい加減にしろ!お藤!さっきお前を女房だと言ったのは、ありゃ噓じゃねえ…と左膳は言う。

すると、お藤は、私の方はね、最初からこの壺が目当てだったんだ!と悪ぶり、誰がお前さんとなんか!さっさと出て行っておくれ!と言い出す。

左膳が刀を握りしめると、斬るんですかい?さっさと斬っておくれ!と言いながら、お藤は背中を見せる。

左膳は立ち上がり、そんなに欲しけりゃ、形見にこの壺はくれてやらあ、今夜からそいつでも抱いて寝な…とお藤に言うと、こけざるの壺を放り出して部屋を出て行く。

畜生!ひとの気持ちも知らないで…、化物…と、障子に茶碗を投げつけたお藤の様子を、ちょび安が、障子の穴からのぞき見る。

その頃、江戸屋敷に萩乃を連れて来た源三郎は、頼む!左膳の住まいを教えてくれ!源三郎一人だ、約束する!萩乃殿!分かってくれ!左膳のために親交を共にした五人が残らず手にかかって果てたのだ…と頼んでいた。

それを聞いた萩乃は、そんなこと!私には信じられません!と否定する。

聞き分けてくれ、萩乃殿、左膳の持っているこけざるの壺には、家臣の運命がかかっておる!と対馬守も重ねて頼む。

左膳は、飲み屋で1人酒を飲んでいたが、坊主、こっちへ来いと呼びかける。

そして、恐る恐る入口から入って来たちょび安に、おめえ、いつか侍になりたいって言ってたなと話しかける。

良いか?侍なんて、ちっとも強いもんなんかじゃありゃしねえ。ただ、人を斬る刀を持っているだけだ…。あんなもん、強いと思っちゃいけねえよ。おめえ、お父もお母もいねえのに、そうやってちゃんと生きてるじゃねえか…、侍なんかよりおめえの方がよっぽど強いんだぜ!と左膳は言い聞かす。

本当だよ…と言いながら、左膳が肴を食わしてやったので、今夜はいやに優しいんだね…とちょび安は言い、おじさんも寂しいんだな、きっとなどと生意気なことを言う。

やっぱり、おじさん、帰った方が良いんじゃないのかい?おじさんが出て行った後、おばさんもやっぱり寂しそうだったぜ…などとちょび安は教える。

その頃、寝ていた与吉を叩き起こし、愚楽って爺の所へ案内しな…と、こけざるの壺を持ってやって来たのはお藤だった。

こんな胸くその悪い壺、きれいさっぱり叩き売ってやるんだ!などとお藤は言う。

酔ってるじゃないか、姐御、ダメだよ、左膳の旦那にぶっ叩かれちゃうよと与吉がなだめると、何だ、あんな化物!こっちから追い出してやったんだ!ざまあみろ!とお藤は愉快そうに言う。

案内するのか、しないのか?どっちなんだよ!とあまりにお藤が絡むので、分かりましたよ!と与吉は仕方なさそうに答える。

その直後、決まりが悪いのかい?おじちゃん?と、寺に連れて帰って来たちょび六が言うので、戸口付近でためらっていた左膳は、思い切って戸を開け、お藤!と中に入って呼びかけるが返事がない。

すると、姐御なら出かけやしたぜ、あの壺を売りに行くってと、布団の中にいた泥棒の1人が答えたので、どこへ?と聞くと、愚楽の家とか言ってましたぜ…、与吉兄いが案内して…と言うので、左膳は何!と驚く。

表に飛び出した左膳の目の前に来たのは柳生源三郎で、左膳!こけざるの壺を返せ!その上で勝負したい!と声をかけて来る。

俺は今、それどころじゃないんだ!と左膳は答えるが、黙れ!貴様良くも5人まで!柳生家に何の恨みがある!と言いながら、源三郎が近づいて来たので、柳生の連中を叩き斬ったのは俺じゃねえ!偽もんだ!と左膳は答えるが、現三郎が聞くはずもなく刀を抜いて来る。

斬りつけられた左膳は、源三郎!俺は逃げも隠れもしねえや!と言いながら、相手をする。

やがて木を切り倒し、源三郎の前に落として道を封じた左膳はその場を立ち去る。

なるほど…、これが本物のこけざるの壺と言う訳か…と、お藤が持って来た壺を鑑定した愚楽は言い、女、いくら欲しいと言うのか?と聞く。

与吉と共に座敷に着ていたお藤は、ま、200両って所ですね、それ以上はまかりませんよと答える。

愚楽が呼び鈴を鳴らすと、一角たち用心棒が出て来たので、何だい、何だい?こんなからくり知らずに来るほどアホじゃないやと拳銃を取り出したお藤は、爺さん、200両、耳をそろえてそこに出しな!私ゃね、今夜はちいとばかし虫の居所が悪いんだ!ぐずぐずしてるとぶっ放すよ!と息巻くと、金魚鉢に向かって発砲する。

愚楽寮の門の前に駆けつけて来た左膳は、その銃声を聞き、しまった!と慌てる。

屋敷内に入り込み、障子を開けて中の様子を覗き込んだ左膳は、割れた金魚鉢から畳に落ちた金魚を見るが、他に人影はない。

他の部屋を探していると、柱に縛られ刀を突きつけられていたお藤と与吉を発見、お前さん!などと情けない声で呼びかけて来たので、バカやろう!と左膳は叱る。

その時、障子を開けて顔を出した蒲生泰軒が、左膳、待っていたぞ…と笑う。

お前さん、やっぱり着てくれたんだね?とお藤は喜び、てめえって奴は…と睨んだ左膳に、勘弁してくれよと謝る。

泰軒は、左膳、これ以上血を流したくない。貴様かこの者たちの命、どっちか選んでもらおうか?と言って来る。

お前さん!あたしたちは良いんだよ!殺されたって良いんだ!とお藤は言い、嫌だよ!俺は嫌だよ!と取り乱した与吉を叱りつける。

どうする?俺は気が短い…と泰軒が急かすので、待て!と言い出した左膳は、自ら腰のものを抜いて捨てる。

それを観た泰軒は、これで手間が省けたな…と言いながら近づくと、こいつらに死に様を見せたくねえや…と左膳は言い、部屋を後にする。

お前さん!と呼びかけるお藤。

別の部屋に来た左膳に、柳生の連中も大分片がついたし、貴様を消せば、後は源三郎1人と言う訳だ…と言いながら、泰軒と仲間らが近づいて来たので、おめえか?俺に化けて、柳生の奴ら叩き斬ったのは!と気づく左膳

その通り!壺を嗅ぎ回る奴は目障りでな…と明かす泰軒に、汚ねえ真似しやがる…と吐き出す左膳。

さて…、どこから斬るかな?まず、その左腕から料理するか?と言う泰軒

仲間が、左膳の左腕を持ち上げ、切断しようと刀を振りかぶった時、振りかぶった隠密が何者かに斬られたので、とっさに転がって、捨てた小刀を取り上げる左膳。

部屋に飛び込んで来たのは柳生源三郎だった。

泰軒!貴様だったのだな?我ら柳生の仲間を斬ったのは!と源三郎は泰軒と対峙する。

貴様も斬られたいか!と言いながら斬り掛かる泰軒

一方、小刀1本で敵を戦っていた左膳に、捕縛を解かれたお藤が、お前さん!と言いながら大刀を投げて渡す。

左膳は柄を口にくわえ、大刀を抜く。

隠密数名を斬り捨て、庭先で源三郎と戦っていた泰軒に左膳も立ち向かうと、勝負は預けた!だがな、こけざるの壺は確かに頂いたぞ!今頃は貴様らの手の届かぬ所に置いてあるわ!と言い残し、交渉を残して、泰軒は、塀に飛び移ると闇の中に消えて行く。

それを聞いた源三郎は、その場に座り込み、腹を斬ろうとするので、何をするんだよ!お前さんて人は!とお藤と与吉が庭に出て来ると、寛永寺の茶会は明日…、もはや手だてはない…と源三郎は言う。

でもそんな…と与吉も口を出そうとすると、うるせえ!てめえらの出る幕じゃねえ!とっとと失せねえと、叩き斬るぜ!と左膳は叱りつける。

その迫力に怯え、走り去るお藤と与吉。

左膳が源三郎に、おめえさん、どうしても腹斬るのかい?お家の安泰、武士の面目か…と聞く。

俺はな、こんな化物みたいになって始めて知ったんだよ。侍稼業のバカバカしさがな…と左膳は自嘲するように笑い、ま、良いや、おめえのやりたいことを止めやしねえ。

左膳、だが、柳生源三郎、俺の生き方だ…、介錯を頼むと源三郎は声をかける。

すると、左膳は、源三郎が握った小刀を自分の刀で弾き飛ばす。

左膳!と源三郎が驚くと、おい!俺が一はだ脱ごうじゃないか!と左膳は言いだす。

だがな、条件があるんだ…、ま、そいつは後回しで良いや…。おい、明日の寛永寺の茶会の始まる時刻は?と左膳は聞く。

丹下左膳なるもの、如何致した?と愚楽が聞くと、それがいまだに…とひれ伏しながら答えたのは大岡越前守(大友柳太朗)だった。

越前殿、左膳と申すもの、本日寛永寺の茶会に万一参上するかも知れんぞ…と愚楽は言う。

もし、上様の御身に刃を向けるようなことがあったら…、直ちに市中見回りの人数を寛永寺の周囲に集め、犬の子一匹と押してはなりませぬぞと愚楽が言うので、越前守は、承知致しました…と神妙に答える。

しかし愚楽様、その左膳なるもの、何故ことさら寛永寺の茶会を狙って不埒な振る舞いに及ぶのでしょうか?越前、その点いささか腑に落ちぬのでございまするが?と越前守は聞く。

すると、そのようなことはどうでも良い!と睨みながら立上がった愚楽、越前殿、町奉行としての御主は、寛永寺警護に全力を尽くしてくれればそれで良いのだ…と言い残し、部屋を出て行く。

荒れ寺で刀の手入れをする左膳に、おじちゃん、本当に行くのかよ?とちょび安が聞くと、将軍の目の前で、こけざるの壺をかっぱらうと言う趣向も悪くないだろう?と左膳は言う。

悪くないね!と喜ぶちょび安を押さえつけて黙らせた与吉は、旦那、本当に乗り込むんですかい?と心配そうに聞く。

そりゃ無茶だよ、もうあんな壺、諦めましょうと説得する与吉だったが、姐御の身にもなって、無茶は止めて下さい!この通りだ!と頭を下げるが、無茶かどうか、やってみなけりゃ分からねえや…と左膳は言うだけだった。

旦那!あっしには分からねえよ!そんなに何のために壺を?柳生藩のためですかい?それとも、百万両の銭のためですかい?と与吉は食い下がる。

すると左膳は、俺にも良く分からねえ…と言い、とうになくなったはずの右の目とこの腕は、やれ、やれ!って妙にけしかけやがるんだよと言う。

旦那!おじちゃん!と与吉とちょび安が声をかけると、やりてえ事が終わったら、きっと戻って来る…、その時は一生面倒を見てもらうぜ!と左膳はお藤の方に目をやりながら答える。

その時、時を告げる鐘の音が聞えて来る。

柳生藩の上屋敷では、対馬守が出かけようとしていたが、兄上、今少しお待ちを!と源三郎が声をかけていた。

しかし対馬守は、源三郎、無頼の浪人者の言うことなど当てにならん…と言い、かくなる上は、上様の前で腹かっ斬るのが、この柳生を救う唯一の道じゃと言うので、兄上一人は死なせませぬ!と源三郎は言う。

家臣たちも、殿!と対馬守の前にひれ伏す。

寺に残ったお藤と与吉は、なす術もなく時間を費やしていた。

ちょび安は、いきなり燭台を左手1本で掴むと、右目をつむり、左膳の真似をしてみたりするが、すぐにつまらなそうに燭台を放り投げる。

いくら考えてみた所で、あいつは化物さ…、大体あの百万両の壺さえなけゃ、縁もゆかりもない間柄なんだ…と、自分に言い聞かせるようにつぶやくお藤

百万両と添い寝して寝冷えしてもうた…と思うてたけど、えい、つまんねえな!とやけになった与吉が、外に飛び出して行くと、お藤も、陰気くさいね、まったく…、どっかで思い切り飲んで来るかと言いながら出て行く。

その後をちょび安が付いて来ようとするので、何だ、何だ、お前なんかが付いて来る所じゃないよとお藤が止めると、左膳のおじさんの所に行くんだろ?その目にちゃんと書いてあらあ!隠したってダメだい!とちょび安は見透かしたように笑う。

やっぱりこれが好きなのは、おばちゃんと俺だけだ!と言いながら、ちょび安は、自分の右目を斬って左膳の真似をし、力になるよ!連れてってくれよ!等と言いだすので、良いよ、勝手におしよとお藤は答え出かけて行きかけるが、次の瞬間、懐から取り出した手ぬぐいで、ちょび安の身体を縛り付けると、良いかい?すぐに与吉が戻って来るからね、ちっとの間の辛抱だよとお藤は言い聞かし、巾着袋を置いて出かけて行く。

厳重な警護に守られた寛永寺に塀の壊れた箇所から入り込もうとしていた左膳は、へらへらへ…と言いながら近づいて来て、ね、旦那、何にも言わねえで、一はだ脱がして下せよ!これでもなんかの役に…は声をかけた与吉と、立たないね!と、その与吉の言葉を遮り、こう見張りが多くては、このお藤姉さんが必要だろ?と言いながら姿を現したお藤の姿を目にする。

旦那!あの正面が茶会をする本堂、その右の奥が外陣だ、壺はあそこと睨んだね、あっしはと、近寄って来た与吉が教えると、間もなく上様の御成と来る…、旦那、その時が勝負ですよ!とお藤が補足する、

そんな寺の堂内を油断なく見回る愚楽老人と蒲生泰軒は、天井の四隅に貼り付いていた隠密たちに、変わりはないか?と確認する。

彼らが守る外陣の奥の間には、こけざるの壺が置かれていた。

泰軒、手落ちはないだろうな?と念を押す愚楽に、ごらんを!と軒下に潜んだ隠密たちを示す泰軒。

その時、上様の御成〜!と言う声が聞こえて来る。

警護の者たちは、吉宗の顔を見ぬよう、一斉に顔を背ける。

その瞬間を待っていたお藤が、良いかい、旦那、あたしが飛び込んだら、一気にあの外陣に飛び込んでおくれと左膳に言う。

お藤!姐御!と左膳と与吉は止めようとするが、お藤は、塀の割れ目から中に飛び込み、護衛のものたちの追いかけられる。

その途中、帯を解き、下着姿になっていくお藤は、さあさあどうした捕まえてみな!と言ったお藤は、階段の上で腰巻き一つの裸になる。

その隙に、外陣に飛び込んだ左膳は、待ち受けていた隠密たちを斬りながら、壺を見つけると、与吉!壺だ!と場所を教える。

与吉が部屋に飛び込み壺を抱えると、よき血!俺を離れるんじゃねえぞ!と左膳は言い、出て来た泰軒と戦う。

その後、与吉には、俺が奴らを引き受けているうちに、その壺を柳生対馬に届けろ!と言い、合点だ!と走り出そうとした与吉を止めると、源三郎に、俺の条件を忘れるなと言っておけと念を押す。

大混乱の中、曲者はどうした!愚楽!と呼ぶ吉宗

左膳は、五重塔の中に入り込み、梯子を上って行く。

寛永寺に向かっていた柳生家の行列に近づいた与吉は、何者だ!と威嚇する護衛たちに、こけざるの壺だ!左膳の旦那がこの壺を!と言いながら、源三郎に壺を手渡す。

それを受け取った源三郎は、兄上!左膳が!と言いながら対馬守に渡す。

その壺の中を確認した対馬守は、源三郎!これで柳生家は救われたぞ!と駕篭の中から喜ぶ。

源三郎は、与吉!左膳はどうした?と声をかける。

その頃、左膳は五重塔の最上階に登っていた。

欄干に片足を乗せ、身を乗り出した左膳は、やい!愚楽!俺が持ち出したこけざるの壺はな、今頃は柳生対馬の所へ届いているぜ!と啖呵を切る。

愚楽!日光東照宮の後増援に名を借りて、柳生藩の取り潰しを計り、その上に百万両のこけざるの壺をてめえの物にしようとした。こんな経緯知るまいな?将軍さん…、おめえさんも大概たがが緩んだぜ。まるで愚楽に操られた人形じゃねえか!…と左膳は笑う。

愚楽!この始末は何ごとだ!と吉宗が愚楽に詰問する。

余の目通り敵わぬ!下がれ!と言い捨て、吉宗は去って行く。

その時、庭を警護していた大岡越前守が進みでて、上様!諸大名を前にこの不始末、越前にお任せ下さいませ!全てはこの越前に!と申し出る。

吉宗は、頼むぞ、越前!と声をかける。

そんな中、愚楽はがっくり肩を落としていた。

塔の下に歩み出た越前守は、丹下左膳!南町奉行大岡越前!2人きりで話がしたい!と呼びかける。

梯子を降ろしてくれ!2人きりで話がしたい!左膳!と数度申し出ると、左膳は、下の階まで降りて来る。

その下の階まで登って来た越前守は、梯子を下ろしてくれ!と又頼む。

左膳は梯子を下りしてやり、回廊に出ると、何の用だい?と登って来た越前守に聞く。

ありのままを言うとな、左膳…、今日御主が引き起こした騒ぎはなかったことにしたい…。これは上様の御意向だと越前守が言うので、なるほどな…と笑う左膳

人もあろうに将軍家の茶会が、俺みたいな素浪人に荒らされたとあってはご威光に傷が付く。…かの諸大名にも示しがつかないと言う訳かい?と左膳が愉快そうに言うと、だが、これほどの騒ぎを引き起こした御主だ。ただではすまされんぞと越前守は神妙に告げ、江戸払いを申し付ける!と言い出す。

何だ!江戸払いだ!と左膳がいきり立つと、まあそう怒るなよと笑いかけた越前守は、つまり、わしは御主が恐いのだ…と言う。

御主のような化物が江戸にいては、町奉行たるこのわしは、無事に御用が務まるかはなはだ心もとない。どうだ、左膳、柳生家は安泰、愚楽殿にもそれなりのお咎めがあるはず…、どうだ左膳、もう勘弁してくれんか?左膳、考えてくれ!と越前守は穏やかに言い聞かす。

俺がおめえさんの言うことを聞いたらどうなる?と左膳が聞くと、最前捕らえた仲間の女を始め、泥棒寺の連中にお構いなし、これでどうだ?と越前守は笑いかける。

おめえさん、噓じゃねえだろうな?と左膳が念を押すと、越前守は黙って頷く。

すると、にわかに高笑いをし始めた左膳は、分かったよ、旦那…と答える。

その経緯を、萩乃と共に荒れ寺にやって来た源三郎から聞かされた与吉と泥棒たちは感激する。

私…、左膳様の計らいで、柳生のお殿様に御使いすることになりました…と萩乃も報告したので、そうですかい、それは良かったですねと喜ぶ与吉。

それから、これも左膳とのが出された条件だが、この500両の金子、これは柳生藩が左膳殿からこけざるの壺買い上げの金だ。左膳とのは、これをみんなに分けてくれとのことだ…と言いながら、源三郎は持って来た金をよ吉たちに見せる。

この金を俺たちに?さすが、左膳の旦那は福の神だ!とドロ亀が喜ぶと、手前、いつも旦那のことを化物だ、化物だと言ったじゃないか!とガラ熊が怒りだす。

与吉も加わり騒がしくなると、止めておくれ!と先ほどから縁側で背中を見せていたお藤が文句を言う。

それから、お藤殿…、ちょび安とか言う子供の面倒、左膳殿が、くれぐれも頼むと申しておった…と源三郎は伝える。

すると、お藤は、それも条件のうちかい?勝手なことばかり言いやがって!とすねたように吐き捨てる。

そう言やあ、小僧、姿見せねえな?とドロ亀が周囲を見渡すと、思い出したように、走り出したお藤は、縛っていたちょび安を助けに行く。

ああ、腹減った…、左膳のおじちゃん、どうしたんだい?などとちょび安が言うので、御漏れの井戸の所へ連れて行ったお藤は、ちょび安の汚い着物を脱がせ、水を賭けると、良いかい?今日からあたしの言う事聞かないと承知しないよ!分かったね?と言い聞かせる。

チョビ安が黙って頷くと、きれいになるんだ!きれいな身体になるんだ!と言いながら、母親のように身体を拭いてやるお藤。

その頃、深編み笠をかぶった左膳の前に姿を現したのは蒲生泰軒だった。

どこへ行く?と泰軒が聞いて来たので、当てはない…と答えた左膳が、地獄へ行ってもらおうかと言いながら近づいて来た泰軒に、愚楽はどうしたい?と聞くと、毒を飲んだ…と言う。

あんな奴にまだ忠義面してえのかい?と左膳が聞くと、俺も今日から野良犬だ…、その門出にどうしても欲しいんだ、貴様の命がな…と言いながら泰軒は羽織を脱ぎ捨てる。

左膳も笠を脱ぎ、剣を抜く。

斬り掛かって来た泰軒の刀を、左手と頭で受け止めた左膳は、小刀も抜き、二刀流になった泰軒を斬る。

一旦倒れ、すぐに起き上がって斬り掛かって来た泰軒だったが、左膳の刃の前に倒れる。

歩み去る丹下左膳


 

 

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