白夜館

 

 

 

幻想館

 

大江山酒天童子

 

有名な酒天童子や、渡辺綱と茨木童子の逸話などをベースに、新解釈の物語となっている。

単なる妖怪変化だと思われていた酒天童子や茨木童子を、人間臭いキャラクターとして描いているのが見所。

全体の雰囲気は「陰陽師」などにそっくりである。

特撮シーンもふんだんに登場し、僧正に化け頼光に近づいた土蜘蛛が、頼光の振るう妖刀「鬚切り丸」で返り討ちにされた後、征伐に駆け付けた四天王の前で、巨大な岩を突き崩して出現する所など、全長7,8mはあろうかという作り物の蜘蛛が登場し、まるで怪獣映画のよう。

冒頭に登場する巨大な鬼の顔や黒水牛も、実物大の作り物が用意されており、鬼の特殊メイクなども当時としては優秀な技術で再現されている。

配役を見れば一目瞭然、往年の大映の若手看板スター勢ぞろいである。

ただ、四天王寺を演じている勝新や本郷功次郎辺りは顔見せ的に登場しているだけと言った感じで、登場場面はそれなりに用意されているものの、特に深いドラマなどは用意されてはいない。

ベースになっているのは、権力によって生木を裂かれるように分かれさせられた夫婦の愛情物語である。

長谷川一夫は、さすがに老いた姿が痛々しいが、それでも複雑な心理を持つ酒天童子を貫禄でこなしている。

長く二枚目俳優として映画史を彩ってきた長谷川一夫と、若き二枚目市川雷蔵の世代交代劇としてみても興味深い。

茨木を演じる左幸子さんと渚の前を演じている山本富士子さんの、女優演技の部分も見物。

だが、本作で一番美味しい役所をもらっているのは若き中村玉緒さんである。

まだ、勝新と結婚する前であるが、長谷川一夫や山本富士子らと立派に対峙している。

作品としては、見所はあれこれ詰め込んであるものの、大作の宿命か、やや冗漫な感じもあるし、ラストのあっけなさも物足りない。

だが、さすが撮影所全盛時の力技は画面の隅々まで感じられ、その厚みには、どんなにデジタルで対抗しようがかなわないものがある。

あまり有名な作品ではないが、一見の価値はある特撮時代劇ファンタジー大作である。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、大映、川口松太郎原作、八尋不二脚色、田中徳三監督作品。

大まさかりで戸を引き裂き見栄を切る四天王の一人坂田金時(本郷功次郎)

同じく見栄を切る四天王の卜部季武(林成年)と碓井貞光(島田竜三)

さらに四天王の一人渡辺鋼(勝新太郎)も剣を抜いて身構える。

その前に立ちはだかる一人武者平井保昌(根上淳)

さらに、源氏の大将源頼光(市川雷蔵)

その武者たちに、時は今でございます、酒天童子は眠りましたと伝えに来たのは、桂姫(金田一敦子)だった。

その言葉を合図に、源頼光が集まった武者たちに、ものども、いざ!と声をかけ、屋敷の奥へ進んで行く。

眠っている酒天童子の不気味な手が見えたので、酒天童子、覚悟!と声をかけながら斬りつける頼光以下武者たち

金時が大まさかりで酒天童子の首を切断すると、身体から離れた首が宙を舞い、口から火を噴きながら頼朝に襲いかかる。

世に伝えられた大江山鬼退治の伝説はかくのごとくである(と錦絵を背景に白文字)

だが然り

タイトル

めいめい土産物を持参して宮中で待機する地方の国の上たち そこにやって来た藤原道長(小沢栄太郎)は、いや、このたびはつつがなく国の上の大任を終えられ、まずは重畳…と言葉をかける。

これはこれは、結構なお土産をちょうだいいたし、一段と喜ばしい。本年の耳目には、おのおのの任官昇進のこと、道長含み置きますぞ…と告げる。

この唐衣は、主膳守殿か? 陸奥守殿は砂金か…と次々に土産物の吟味を始めた道長は、藤原道長(小沢栄太郎)の前におかれた土産を目にすると、急に不機嫌になる。

太刀が一振りだけとは…、さだめし言われある宝剣であろうな?と道長が嘲笑したので、否、宝剣と申すほどのものではござりませぬが、大和はご存知のように貧乏国、その上、近年の不作続きで、思うように取り立てもならず…と大和守が応えていると、黙らっしゃい!不作は大和だけではない!と道長は叱りつける。

すると大和守、お言葉ではござりまするが、これ以上、百姓を絞りましては、彼らの樹が立ちませんと言い返したので、馬鹿め!百姓と何とやらは、搾れば絞るほど出ると言うのを知らぬのか!と道長は叱る。

あいや、百姓も人間でございます。人の命を奪うことは…と反論したので、その方はこの菅公に言葉を返すのか!大和守、その方には栄達昇進の心がないと見えるな?それならそれで良かろう…と道長は皮肉る。

桜の季節 道長の元にやって来た渚の前 (山本富士子)に、行くか?と道長が問いかけると、渚は肺と応えたので、わしを恨むでないぞ、そなたを頼光につかわすのは、そなたへの愛が薄れたのではない、そなたのためを思えばこそだと道長は言うが、渚は悲しげに顔をうつむかせる。

さ、そのように嘆くな…、頼光も殿上人でのうても、源氏の大将とあおがれる男よ、それほどはかなむには及ばぬ…と道長が言い、名残に一曲舞え!別れの宴に興を添えてくれと命じる。

はいと承知した渚の前は、音曲に合わせ、その場で舞い始める。

すると突然、晴天の一角に雲が発生し、渚が悲鳴を上げて倒れると、一点にわかにかき曇り、稲光と共に、時ならぬ突風が殿中に吹き込んでくる。

身を伏せていた道長は、一瞬、風が収まったので外を見ると、空に牛の姿が見えたので、おのれ!怪物!と叫びながら欲目をこらすと、その空に浮かんだ牛の背中に渚の前が気絶して乗っているのが見えた。

そのとき、源頼光より坂田金時、ただいまお迎えに参上!と名乗り駆けつけた金時は、空に浮かんだ牛を見つけると、おのれ、溶解!と叫びながら、持参していた大まさかりを空に向かって投げつける。

そのまさかりは、牛の額を切り裂く。

すると、また稲光が走り、金時たちが目を伏せているうちに、天空の雲は小さくなって消え去る。

それを見上げていた金時が庭先に目を向けると、そこに倒れていた渚の前を発見する。

扇子をもてあそびながら待っていた源頼光の屋敷では、卜部季武と碓井貞光が武器の手入れをしていたが、そこにやって来た平井保昌が、渚の前がおわせられた、お出迎えをせい!と声をかける。

殿!渚の前をお迎えして参りました!と金時が頼光に報告する。

大義!と頼光がねぎらうと、関白の家でいささか変事これあり、かく遅くなりましてござりますると金時は言い添える。

何?と頼光が驚くと、横に控えていた平井保昌が、関白のお館には最近頻々と異変あり、しかも、御身の身辺に限られていると言うが…と渚を見ながら聞く。 私は呪われているのでございます…と渚は答える。

何!呪われておると!何者に?と保昌が問いただすと、その儀は…と渚が首を振るので、言えぬと?と保昌は聞く。

その呪いを恐れて関白様は…と渚が言いかけたので、なるほど、それで関白がそなたをこの頼光に…と頼光は合点する。

はい、私のおるところに、必ずその呪いがつきまとうのでございますと渚は畏まりながら打ち明ける。

興あることを聞く。源頼光、今日より御身を確かに貰い受けたぞと渚に言い渡したので、渚は感激して、殿!と呼び返す。

そのとき、側に控えていた金時も、殿!と呼びかけ、鬚切り丸が!と、側に置いてあった刀のことを指摘する。

保昌もそれを見て、妖魔周辺に迫るとき、ひとりでに光を発すると言い伝えし源氏の名剣油鬚切り丸!と言い、立ち上がった金時は、またしても妖怪!と周囲を見渡す。

渚がその場に失神しており、部屋の中には不気味な女の笑い声が響き渡る。

その夜、いざ中納言を襲うのは今だ!女以外は皆殺しにしてしまえ!進め!と鬨の声を上げ、部下たちとともに馬を出発させたのは袴垂保輔(田崎潤)だった。

館に矢やたいまつが投げ込まれ、燃え広がる。

父親らしき貴族を切り捨て、その娘桂姫(金田一敦子)に襲いかかっていた部下のところにやって来た保輔は、おお、噂高い桂姫!俺が貰い受けたぞ!と言い放つと、桂姫を小脇に抱えて、引け!と部下たちに命じる。

源氏の家で、夜分まで起きていた渚の前は、別の女性が近づいて来て、まだお休みではございませなんだか?と問いかけて来たので、そなたは?と聞くと、こつま(中村玉緒)と申します、殿には、とし親しくお遣い申し参ったものでございますとその女性は挨拶する。 さようでございましたか…と渚は納得すると、何分にも宜しゅうと挨拶を返す。

栄華の夢に酔いしれた殿上人には、関白殿下の思いもののを名誉をいただくのが名誉かもしれませんが、源氏の侍にはそのような習わしはありませんとこつまは渚に言い聞かせる。

漏れ伺えばあなた様は、うちの殿にくだされるのを哀しんで、関白殿下の前で泣かれたそうな…とこつまが問うと、ここに参るのが悲しゅうて泣いたのではありません。

男の手から男の手へと、魂のない傀儡のように、私はただ、女の哀れさに…、それが哀しゅうて泣いたのです…と渚の前は答える。

では、関白殿下に去られるのを恨み、嘆かれたのでは?とこつまが聞くと、こつま殿、私は関白殿の権勢で生木を引き裂かれた女、私には…、私には夫があったのでございます!と渚は打ち明ける。

それを聞いたこつまは驚き、夫はそれを…、おいたわしや…と、泣き出した渚に同情する。 殿は…、頼光殿は、この私をどう思い遊ばしているのでしょう?と渚が聞くと、分かりませぬと故妻が言うので、では、今宵は、ここには…?と渚が重ねて聞くと、参りませんとこつまは答える。

では私はどうなるのでございましょうか?と渚が戸惑うと、私の兄がお預かり申すことになりましたとこつまは知らせる。

そなたの兄とは?と渚が尋ねると、四天王の随一人、渡辺の源氏鋼でございますとこつまは教える。

三日月のかかる宵、橋を歩いていた渡辺綱は、一人の女性が近づいてくるに気づく。 怪しんで、木の下で待ち受け、件の美貌の女性茨木(左幸子)が近づくと、いずれに参られる?と問いかける。

すると、女性は、はい、妾は一条の大宮より五条の渡りへ参るものでござりますると答える。

夜盗変化横行の穏やかならぬ洛中に、女の身として大胆な…、そなたは共はござらぬのか?と綱は怪しんで聞く。

独り故、夜道が怖く、急ぎ行く途中でござりますと茨木は言うので、怖いと言われても…、五条の渡りへ参ると言うなら、某お送り申そう…と綱は名乗

り出る。

かたじけのう存じます、では、お言葉に甘えまして…と茨木は礼を言い、綱の顔を見たので、はてあでやかな!と綱はその美貌に驚く。

茨木はその言葉に恥ずかしさを覚えたように、目的地の方角を振り向く。

そんな茨木の顔をもう一度確認しようと綱が近づくと、茨木は顔を背ける。 綱は、ふと横に流れていた川に目を転じると、その水面に写った茨木の顔は夜叉に見えたので驚く。

妖怪変化と気づき睨みつけると、また美貌の茨木が顔を見て来たので、綱は知らん振りをする。

そなた、都人とは言いながら、いとも優しき形振り…、かような女性を妻にしたら、さぞ楽しいことであろうと話しかけながら、歩き始める。

でも、あなた様は、定めて、奥様が…と茨木が言うので、いや…、東育ちの田舎者で、誰も妻になり手がござらぬ…と綱が答えると、フフフ、ないことがござりましょうかと笑った茨木は、世にも名高きあなた様は、頼光朝臣の御身内、渡辺綱様…と名を言い当たる。

どうして知ってる!某の名を…と問うと、恋しく思う殿の故…、とうより存じておりましたなどと、恥じらいながら茨木は答える。 恋しく思うと言うは偽り!そなたの術は、まさしく妖魔の術であろう!と綱は怒鳴りつける。

妖魔の術…と茨木がとぼけると、月の光で映ったるお前の姿は怪しき鬼だった!いざ本性を現せ!と綱が刀に手をかけ誘うと、いとうしそうなまなざしで見つめていた茨木は一旦後ろを振り返る。

油断なく、綱が睨みつけていると、笑い声とともに振り返った茨木の顔は鬼に変じていた。

思わず綱が斬り掛かると、巧みにそれを避けながら襲いかかって来た茨木は、綱の背後からしがみつくと、そのまま空中へと飛び上げる。

宙に持ち上げられた綱は、それを逃れんと、小刀を抜いて、相手の左腕に斬りつける。

左手を切断された茨木は、そのまま綱を地上に落とし、自らは空の彼方比飛び去ってゆく。 地上に落ちた綱は、側に落ちていた茨木の左腕を頼光の元に持ち帰る。

この腕、如何致しましょう?と綱が聞くと、屋敷に訪れていた安倍晴明(荒木忍)が、この腕には、まだ妖魔の執着が残っておりまするぞ、鬼めは必ずこの腕を取り戻しに参りましょうと頼光に伝える。

安倍晴明!陰陽の博士としての意見は?と頼光が問うと、腕を守って三日の間、物忌みをして渡さねば、鬼めは通力を失いましょうと晴空は答える。

それを背後で聞いていたこつまが、三日の間、この腕を!と驚くと、そうじゃ!三日の間、固く門を閉じる!何人をも入れてはならん!と晴明は命じる。

この神符を門に貼り、障りを近づけぬように…と、晴明は、懐から取り出した護符を示して頼光に告げる。

渡辺綱が、その神符を受け取る。 腕を持って廊下を歩いていた綱に、兄上!と声をかけて来たのは妹のこつまだった。

兄上の今度のお役目、どなたかに代わっていただく訳に行きませぬか?と言うので、何を言うんだ、鬼の腕を斬ったわしが、その番をするのは当たり前だと綱が答えると、でも、私は恐ろしゅうてならぬのです。兄上にもしものことがあったら…、こつまは誰を便りに…とこつまは不安がる。

そんな妹に、お前らしくもない…、仮にだな、仮に万一わしにもしものことがあっても、お前には殿がいらせられるではないかと綱は言い聞かせる。

でも、渚の前のような美しい方が来られたら、所詮田舎者のことなど…とこつまが嫉妬心から言い出したので、馬鹿者!十何年もお側」にいて、お前はまだ殿が分からぬのか?と綱はなだめる。

でも、あのような美しい都の女が側にいたら、いつか…、いつか心が移って…と、こつまは切ない気持を吐露するが、その言葉を障子の影から渚も聞いてしまう。

これ、殿には時よりお前を心の妻と定めておるのだと綱が言うと、でもそれはあまりに果報すぎて…とこつまが嘆くので、信ずるんだ!ただ一筋に信ずるんだ!と綱は励ます。

その言葉を聞いていた渚の前は、複雑な表情のまま、闇の中にかがみ込む。

屋敷の門には神符が貼られ、武者たちが夜間も警護に勤めた。 綱は、武器倉の中で一人まんじりともせず、腕の入った箱を守っていた。

そして、三日目 朝の光が部屋の中に窓から差し込み、三輪崎で警護をしていた武者たちも、最期の朝が明けたか…と安堵しながら立ち上がる。

そんな中、渡辺の里よりおば上がお見えになりましたとの知らせが綱のもとに届く。

綱でござると屋敷内から呼びかけると、なぜ、この中に入れてくださらぬのじゃ?と門の外でおばが言うので、仔細あって、三日の間、物忌みをしておりますれば…、例え、おば上でも、今日ばかりはご容赦くださりませ!と屋敷内から綱は答える。

どういう訳があってか知らぬが、老いの身、杖を頼りにやって来たのに、中にも入れず追い返すとは、何とつれない心になられたのじゃ…とおばは嘆く。

昔の姿はそうではなかった。そなななち兄妹は、幼いうちに父母に死に別れ、便りのない身をこのおばが親に代わって育てて来たのも、そなたたちが立派な姿を見たいが故…と言ったおばは、嘆かわしそうにその場で泣き始める。

おば御ぜ!と迷った綱は、門を開けようかと手をかけるが、もう良い、いかに出世をなさったとて、情けを知らぬは人ではない…、おば、甥の縁も今日限りじゃ…、もう二度と会わぬぞ…!とおばが声をかけて来たので、いや!おば御ぜ!お待ちください!と呼びかけながら門を開けた綱が外へ出ると、おう、綱!会うてくれるか!とおばは喜ぶ。

例え君命とて、人の道には背かれませぬ、いざ、お通りくださいと綱は応え、おばを門の中に招き入れる。

おばが門を入ると、門に貼ってあった神符が落ちる。 その後、旅姿を解き、武器倉の中に入って来たおばは、今、お家来に聞きました。そなたは、大層な手柄を立てられたそうな…?と聞くので、隠す訳ではありませぬが、忌まわしき鬼の腕など…、女性に見せるものではございませぬと綱は答える。

するとおばは、その腕はどこにあります?と聞いて来たので、仕方なく、綱が目で側に置いてあった箱を見ると、見たい!そなたの手柄の腕!一目だけ見せてくだされ!とおばは箱に近づいて懇願する。

大恩あるおば御ぜのために、密かにお目にかけましょう…と綱は独断で言いだし、箱を開けてみせる。

箱の中を覗き込んだおばは、これが鬼の腕か?と言いながら、綱の方を見るが、その顔は茨木に変化していたので、うぬは!と綱は驚く。

しまった!と気づいた綱は剣を抜き、切り掛かるが、それをかわした茨木は、自分の左腕をつかむと、してやったりと言う顔になる。 そして、そのまま天井を突き破って、こう笑を残したまま天へと昇って行ってしまう。

無念がる綱 その後、今度こそ一網打尽だ、特に袴垂を逃してはならぬぞ!かかれ!と、引き連れた部下に命じた卜部季武は、とある大門に近づいて行く。

すると突然、馬に乗った袴垂保輔とその一党が門の中から外へと走り出す。

鉞を両手に持った袴垂の手下荒熊太郎(上田吉二郎)が、家来たちを蹴散らす。

その前に立ちはだかた卜部季武が荒熊の相手をし、その後、大勢の家来たちが束になって荒熊を捕まえる。

この報告を源頼光から受けた藤原道長は、何たることだ!今度こそ袴垂の一味を召し捕ると公言しながら、わずかに数名を捉えたのみ、袴垂を逃したではないか!それのみならず、渡辺綱は、鬼の腕を斬りながら、みすみす取り返されるとは、何たる不覚!と。

はいや!綱ほどの勇士でも、情を持って攻められると不覚をとるのが…と頼光は抗弁しようとするが、黙れ!と制した道長は、見よ、宮中には変化夜盗の類いが昼夜を分たず横行し、正に百鬼夜行の体たらくじゃ!もしその方の手に余れば、源氏だけが武士ではない!その方の任を解き、誰なりとその任に当たるものを…などと言い出す。

それを聞いた頼光、憚り乍ら、源頼光、必ず賊どもを討ち滅ぼし、再び京を平安の都に服してごらんにいれますと答える。

屋敷に戻った頼光に平井保昌が、殿!内裏の守備は?と問うと、都を脅かす変化賊との類いを直ちに消滅するか、さもなくば、この頼光が腹を斬るか…、二つに一つの必死の場合となったと頼光は答える。

しかし、いかに洛中の賊を退治しても、酒天童子の配下は後を絶ちません…と平井は指摘する。

殿!酒天童子の本拠、大江山を壊滅せぬ限り、軸の根絶はなりませぬぞと、側にいた菊王丸(中村豊)も進言する。

それゆえ、これまでも幾度ともなく、心あるものに大江山の様子を探りにやったが、一人として戻って来たものがおらぬ…と平井は嘆く。 童子の正体を知りたい!大江山の様子を知りたい!と頼光は言い出す。

そのとき、側に控えていたこつまが、殿!そのお役目、私に仰せ付けくださいませ!といきなり申し出る。

それを聞いた頼朝は、こつま!何を申す!と驚く。 兄の不首尾を償いとうございますとこつまが言うので、ならぬ!女を密偵に放つなど、源氏の侍の名に関わると頼朝は言う。

でも大江山の陣の内には男は入れぬと聞きました。女ならではこの役目はならぬものと存じますとこつまは必死に願い出る。

頼光は、そんなこつまの顔をまじまじと見返す。

その後、廊下にいた坂田の金時を呼び止め、耳打ちする菊王丸 何?大江山に!と金時が驚くと、はい、いくらなんでも、こつま殿一人を鬼の住処にやるわけにはいかぬ、そこで、山になら山育ちの金時を付けてやろうとおっしゃって…と菊王丸は伝える。

くれぐれも血気にはやってはならぬぞ!こつまが捉えられたらお前が帰れ、お前が捉えられたらこつまが帰る!必ず一人が生きて帰ってこなければならぬぞ!と頼朝が金時に言い聞かしていたとき、こつまの方は、ひょっとしたら、二度と戻って来れぬかもしれません。そのときは、殿様のこと、何とぞお頼み申します!と渚の前に願い出ていた。

こつまは、胸元から匂い袋を取り出すと、これは、殿様がことに愛でられておるタンジャタイの名香でございます。お気分の優れないときなど、この香を焚いてあげてくださいませと言いながら差し出す。

分かりましたと言いながら、その匂い袋を受け取った渚は、それでえは私もお餞別を差し上げましょうと言うので、こつまは驚く。

これは、父が形見の守り刀でございます。どうかこれを身につけて御出でになってくださいませと言って渚が担当を手渡すので、このような大切なものをこの私に?!とこつまは恐縮する。

どうかご無事で、殿のために、どうか無事で帰って来てください!と渚の前は涙目で伝えるので、こつまも真剣にはい!と答える。

二人が大江山に向かった後、頼光の屋敷内では、捉えた大熊の口を割らそうとしていた。

どうだ、白状いたしたか?とやって来た平井保昌が卜部季武に聞くと、袴垂めは中納言の姫を連れて山塞へ逃げ帰ったようですと卜部は答える。

聞けば、関白館や当家を襲い、渚の前を奪おうとしたのは何者だ?と平井が荒熊に尋問すると、知らんと言うだけ。

綱に腕を奪われたのも、それを取り返しに来たのも、やはり大江山の鬼の仕業か?と問うと、大江山に鬼などおらぬわい!と笑いながら荒熊は答える。

何?偽りを申すな!俺がこの目でしかと鬼の腕を見たぞ!鬼でなくば、あの腕は一体なんだ!と卜部が叱ると、教えてやろうか?我らの王には、大江山の四天王の左右には茨木をはじめ、鬼童丸や土蜘蛛と言う希代の妖術使いがいて、童子を守っているのだと荒熊が言うので、何!茨木だと?と平井は驚く。

やがては都に攻め上る、貴様らを征伐して我らの王が帝になられるのだ!己らはそれまでの命だ!今のうちにせいぜい威張っておけ!と荒熊は言うので、ええい、騙るな!今に見よ!大江山に攻め入り、一人残らず、その首をねじ切ってやるわ!と卜部は荒熊をむち打ちながら怒ると、大江山に一足でも踏み入れたが最後、逆さ吊りにされて、鳥の餌食になるまでじゃ! 論より証拠、大江山に行って一人でも生きて帰って来たものがいるか?と言い放った荒熊は、ふははははっ!と哄笑しだす。

大江山の木の枝に吊るされた3体の死体をついばむカラス。

それを恐ろしそうに見上げていたのは、変装して大江山に登って来たこつまと金時だった。

あっ!源三だ!与一郎!ほうめんの十内だ!と死体の身元を見破る金時。

その後も山を登っていた金時は、酒天童子の本拠地は近いぞとこつまに言い聞かせながら、なおも進もうとするが、その時、大きな黒牛がいるのに気づく。

しかし、次の瞬間、牛は人間の男の姿になり、さらにその男の姿は消えてしまう。

驚いた金時とこつまは先を急ごうとするが、こつまの背後から、今消えた額に傷のある男が姿を現し襲いかかってくる。

それに気づいた金時が近づいてくると、男はほれっ!とこつまを返し、愉快そうに笑いながら、姿を消したり、表したりしてからかってくる。

怒った金時が捕まえようとしても、相手は笑いながら、岩場の上をあちこち場所を瞬間移動してしまう。

置いてきぼりにされたこつまが待って!と声をかけるのも聞かず、男の後を追いかけて行った金時は、とある洞窟のような場所に誘い込まれ、両方の入り口を柵で閉じられてしまう。

完全に罠にはまり、牢に閉じ込められたと悟った金時は、目の前をこつまが山賊たちに連れ去られて行くのを見ているしかなかった。

金時が悔しがっていると、塞ほどの男がやって来て、笑いながら、火さびぶりだな、坂田氏などと呼びかけて来たので、金時は、何!と驚く。

俺の名を…、このやろう!泥棒に知り合いなどないわ!と金時が怒ると、あれ!もう忘れやがったのか…、いずれ関白の所で、寸での所で渚の前をちょうだいする所…と言うので、あのときの妖術使い!と金時は気がつく。

音に聞こえた鬼童丸(千葉敏郎)様だ!おめえのまさかりのこの傷も、例はゆるゆるとさせてもらうからな…、楽しみに待ってろよと笑いながら言う。

牢の中で腕組みした金時だったが、腹が減っては軍は出来ぬわいと言うと、その場に座り込み、腰に下げて来た餅を食べ始めた。

その時、くれぐれも蹶起に逸ってはならぬぞ、もしこつまが捕えられたらお前が、お前が捕えられたらこつまが帰る。必ず一人は帰って来なくてはいかぬぞと念を押していた頼光の言葉を金時は思い出す。

二人とも捕まってしまっては申し訳がない!残念ながら、俺の方が逃げ出す番か…と気づいた金時は、その場で四股を踏むと、一方の柵に何度も体当たりを始める。

そして、柵を壊して外に出た金時は、こつま殿…と助けに行きかけるが、そうだ、女は殺さぬと言うから…と思い出し、許せ、こつま殿!と詫び、山を駆け下りて行く。

その頃、捕まえられたこつまは、へらへら笑う鬼童丸に先導され、敵の本拠地の前にやってくる。

それは巨大な門の豪勢な館だった。 こつまが連れて来られたのを見た袴垂保輔が、鬼童!とうれしそうに呼びかけ、こつまを抱きしめると、この獲物は何だ?と聞く。

坂田金時の女房だと鬼童丸が教えると、金時の女房だと!と急に表情が変わった袴垂は、こつまを解放すると睨みつけてくる。 金時には昔、痛めつけられたんだ!その女房なら存分にかわいがってやる!と言いながら、こつまに迫ってくる袴垂。

こいとこつまの手を握って引き寄せると、お前は死ぬまで攻め抜いてやるぞ!と、また抱きしめるが、待て袴垂!と声をかけた鬼童丸は、まだ童子様にご確認願っておらん、お前の事はそれからの事…と諌めると、仕方ない、行け!と袴垂が手放したこつまを連れてさらに奥へと進む。 袴垂は、それを見送りながら、他の奴には渡さぬぞ!お前は俺が貰い受けるぞ!と言葉をかけてくる。

側でその様子を見ていた山賊たちは一斉に笑い始める。

では、童子様にお目通りを…と、御簾の前で鬼童丸とこつまを出迎えた老女が言う。 他の女人たちが御簾を次々に開け、二人を奥へと誘う。 奥に二人の稚児を背後に侍らせ座っていたのは、酒天童子(長谷川一夫)であった。

そちの名は?と童子が聞いて来たので、こつまと申しますとこつまは平伏して答え、金時めの女房でございますと脇に控えていた鬼童丸が告げる。

すると、急に笑い出した童子は、お前の目はどこに付けておる?この子が人の妻などであるものか…と見抜いたので、こつまは驚く。

では…?と鬼童丸が聞くと、乙女よ…、まだ男を知らぬ、つぼみの花よ…と童子は答える。

恐れ入りましたと感服した鬼童丸は、で、如何致しましょう?袴垂が申し受けたいと申しておりますが?とお伺いを立てると、何?袴垂…、あの色餓鬼め!と童子は舌打ちし、良し、わしが預かろうと言い出す。

童子様が?と鬼童丸が驚くと、珍しい事があればあるものでございますと老女も不思議がる。

しかし、この女は山の様子を探りに来た間者に相違ございません!と鬼童丸は進言する。

それは今に分かる事…、良いではないかと童子は鷹揚に答えると、女、疲れたであろう?湯浴みなどして着替えるが良いとこつまに優しく語りかける。

同時の側女たちが手伝い、こつまはきれいな衣装を着せられる。

その後、湯浴みをした見知らぬ男が着替えているのを目にしたこつまが、あの方は?と聞くと、童子様ですよ、そら、先ほどお会いなされた…と側女が教えてくれたので、こつまは、まあ!あの方が先ほどの!と驚く。

髪型と言い、顔の化粧と言い、全く別人だったからである。

その頃、源頼光は、一人帰って来た金時の報告を聞き、そうか…、こつまが捕えられたか…と沈痛な面持ちになっていた。 申し訳ござりませぬ!と金時は手をついて詫びる。

しかし頼光は、良い良い、ご苦労であった…、下がってゆっくり休むが良いぞ…と金時の労をねぎらう。

ご免!と挨拶して退室しようとした金時に、待て!と制した頼光は、大江山に攻め上るときはそちはなくてはならぬ男じゃ、自重してくれよ…と言い聞かす。

一人になった頼光は、横笛を奏で始める。

そんな頼光の姿を見つめる渚の前。

渚の前か…、何をしておると気づいた頼光が問うと、はい!愛しい人の身の上を思いやる男の姿は、このように美しいものかと…と渚が言うので、何!と頼朝は驚く。

我が身に起き比べて、渚は…、渚は…と良いながら、渚の前は泣き出す。

そなた、泣いておるのか?と頼光は意外に思い聞くと、はい…、身につまされて泣きました…と渚の前は答える。

何?身につまされてとは?と頼朝が解せぬように聞き返すと、関白様に奪われて、好みを怪我されたあのときに…と言いながら、頼朝にすがりつく渚。

これ!心を確かに!渚!と励ます頼光。

私の夫は今のあなたのように、私の事をどのように哀しみ、案じ…、泣いてくれた事でしょう…、でも、今の渚が夫には呪われ、何一つ頼るものを持たぬ、哀れな…、哀れな女でございます…と泣きながら頼光に抱きついてくる渚。

渚!取り乱すでない!気を鎮めるのだ…と叱った頼光は、そなたの夫は何故そなたを呪うのだ?と聞く。

夫は…、女と言う女を信じられなくなったのでございます…と渚は告白しだす。

恥ずかしい目に遭うても死にもせず、関白の寵愛を受けてぬくぬくと生きている女が、憎くて…、憎くてならなくなったのでございますと渚は答える。

夫は私を呪い、関白を敵と狙い、復讐を志すようになりました… 私の夫は昔のように、優しい愛しい人ではなくて、恐ろしい復讐の鬼と成り果てたのでございます…

その夫!そなたの夫は何者なのだ!と頼光が問うと、私の夫は、大江山の酒天童子でございます!と渚の前は告白する。 何と!と頼光が驚くと、部屋に飾られていた鬚切り丸がまた鳴りだす。

夫は大江山にこもり、多勢の味方を募って都を荒らし、関白を狙い、妖術師を使った私を奪い取ろうとしているのでございます…と渚は頼光に訴える。 それで解せた…、童子の心中察するにあまりある…。

洛中を騒がし、帝のご威光をないがしろにするなど、いずれこの頼光が撃たねばならぬ!と頼光は答える。

その時、怪しき影が部屋に忍び寄ってきたので、渚の前は怯えて頼光にしがみつき、廊下を警護をしていた卜部が土蜘蛛!と叫び退散させると、頼朝の部屋に近づくと、殿!別状は?と障子の外から言葉をかける。

大義!今宵の宿直は油断なく致せ!と頼光は答えると、渚の前!そなたと童子との事、詳しく聞こう…と言い出す。

庭向きの縁側に移動した頼光は、一緒についてきた渚に、さあ、聞こうと促す。

私の夫は、備前介橘致忠と申し、近衛府に務る侍でございましたが、輿入れの日から三月と経たず、ある春の日の事でございました…と渚は話しだす。

(回想)森の中を駆けるしらを弓で射止める備前介橘致忠(長谷川一夫)の姿を笑顔で眺める渚の前 その後、満開の桜の木の下を仲睦まじく散策していた二人だったが、そこに通りかかったのが、藤原道長が乗った牛車であった。

道長は、御簾の隙間から二人の様子を覗き見ると、特に渚の美しさに惹かれ、いかなる女子じゃ?馬ノ介(伊沢一郎)、しかと見届けて参れと従者に命じる。

関白は夫を加賀の国へ目代(もくだい)として派遣し、その留守の間に、無法にも…(と渚の独白)

屋敷に乱入してきた馬ノ介ら道長の家臣たちが、止めようとする家人たちを押しのけ、強引に渚を拉致してしまう。

連れて来られた渚に、無理矢理酒を勧める道長 さ、関白様からのお盃でござりまするぞ!お断りしては御無礼にあたりまするぞ!と側女も無理強いする。

やむなく渚が盃を受け取り酒を無理矢理飲むと、固めはすんだ、今日からお前はわしのものだと道長がいきなり言い出す。

備前介のもとへは帰るに及ばぬぞと言うと、道長は渚の前に飛びかかり、強引に抱きしめる。 そのまま寝所に連れ込まれた渚は、道長に殴られ、渚は屈辱に耐えかね泣き出す。

夫はこの日から復讐の鬼になったのでございます…(と渚の独白) そしてそれを、家宅の門前に誓ったのです… 帝の館に馬で乗り込んでくる備前介のことを知った馬ノ介は、備前介め、血迷ったか?良い機会だ、討って来い!と命じ、長刀や弓を構えた警備兵共々門前で待ち受ける。

渚!渚!と馬上から呼びかける備前介に、馬鹿者!そのような女はここにはおらぬ!天下の門前で何たる真似、それ、取り押さえろ!と指揮する馬ノ介。 かかってきた警備兵をかわした備前介、何たる非道!おのれ、関白!備前介、今より天に代わって復讐の鬼となる!これを見よ!と叫ぶと、もんに矢を打ち込んで去っていく。

(回想明け)あれから7年…、それでもあの日の茨木との出会いがなかったならば…と、酒天童子も昔を思い出していた。

(回想)山に逃げ込み、一人岩場で休息していた備前介は、突然大量の矢を射られたので、思わず身をかわす。 矢を射てきたのは、鬼童丸ら山賊の一党だった。

笑いながら、備前介を取り巻いた鬼童丸や袴垂は、こりゃ、すげえ太刀だ!すばらしいもんだぞ!と言うと、まずこの太刀を取れと備前介に命じてくる。

欲しいのか?この太刀が?と備前介が聞くと、何?なんて口の聞きようだ、貴様命は惜しくないのか?とあきれた虎熊次郎(清水元)が聞くと、命?ふん!そんなものは惜しくないと備前介が言う。

何?今何と言った?と虎熊が突っかかると、命ならばいらぬと言っているのだ!と備前介は言い返す。

いらん?と鬼童丸も聞くと、いるもいらぬも、俺の命はとうになくなっているのだと備前介は言う。

ええい、世迷い言を抜かさず、裸になれ!太刀を取れ!と虎熊が命じると、欲しければ腕で取れと言い放ち、備前介は立ち去ろうとする。

何!とつかみ掛かってきた虎熊をあっさり弾き飛ばして去っていく備前介に追いすがる山賊たち。

次々に飛びかかる山賊を難なくさばく備前介に怒った鬼童丸が切り掛かろうとすると、待て!とそれを制した袴垂が前に進み出て、浪人!見かけによらぬ腕前だ、俺が相手になってやる!存分にかかって来い!と挑んでくる。

うん、お前なら少しは手応えがありそうだ、来るか!と言い、対峙する備前介は、何?小僧!と刀を抜いた袴垂に対し、自分も弓を捨て、刀を抜く。 斬り合いを始めた二人だったが、袴垂はあっさり刀を払い落とされると、迫ってきた備前介の剣に突かれそうになる。

その時、待ってくれ!と声をかけたのが鬼童丸で、何だ?今度はお前が相手をするのか?と備前介が振り向いて聞くと、そうじゃない、俺たちの頭、総大将になってくれと鬼童丸は頼む。

何、頭?と備前介は剣を引くと、そうだ、お前のように強い奴がいたら呼んで来いと言われていたんだと袴垂も言い出し、とにかく頭になってくれと鬼童丸は再度頼む。

袴垂も頼む!と言うので、しばし考えた備前介は、良し、会ってみよう…と答える。

山賊に導かれた洞窟内で待っていると、お頭がこれへと、奥に行っていた鬼童丸が戻ってきて告げる。

奥から出てきたのは美しい女人だったので、そなたか?頭と言うのは…と備前介が聞くと、さよう…、私が茨木じゃ…と女人は答える。

何?茨木…、尋常ヶ岳に住む茨木童子は鬼と聞いたが…と備前介がほくそ笑むと、相手によっては鬼ともなれば、蛇ともなります…と茨木は答える。 しかし、名高き茨木童子が女であったとは…と備前介が苦笑すると、その驚きはごもっとも…、女にはすぎたる望みを持つ故、わざと童子と名乗っているのですと茨木は言う。

すぎたる望みとは?と聞くと、藤原一門の千号を懲らしめ、関白道長を除き、この世に神ながらの浄土を具現せんためですと茨木が答えると、何?藤原に恨みを?と備前介は興味を持つ。

備前介殿、なくしたるも同然と言われるそなたの命、この茨木にしばし貸してはくださりませぬか?と茨木は頼む。

命を貸せと…と備前介が戸惑うと、目的を遂げ、この大義をなし遂げるには、女の身では荷が勝ちますと茨木は言う。

我らが同志の総大将として恥ずかしくからぬ人を、この塞に探し求めていたのですと茨木が言うので、私に、そなたたちの頭になれと言われるのか?とつぶやいた備前介は考え込む。

(回想明け)その時の事をお見返していた備前介、今の酒天童子の元に、火祭りが始まりましてございます!いざ、ご出馬を!と家来が知らせにくる。

屋敷の庭先で、火のついた木片をジャグリングする家来たちの芸を身に出てきた童子は、嫌がるこつまを引っ張っていく袴垂の姿を目に留める。

袴垂、待て!と声をかけた童子は、酔うなら後で承ろうと酔って生返事をする袴垂に、待てと言うのに…と繰り返しながら近づくと、その女子はこの童子が預かると申したはずだと言い聞かせる。

頭の仰せだが、この女子ばかりは渡せねえと袴垂が抵抗するので、この女子ばかりと言うが、池田中納言の娘もお前がままにしているではないかと童子は指摘する。

あれとこれとは別もんだ!奪ってきた女は誰でも好きにして良いと言うのは仲間内の掟だ!と袴垂は態度を硬化させるが、ならん!わしは許さん!と童子は叱る。

何!と睨んできた袴垂だったが、さすがに勝てぬと観念したのか、くそっ!と言い捨て、こつまを離して去っていく。

こつまを従えて部屋に戻ってきた童子を呼びかけたのは、待ち受けていた茨木だった。 どの女に何をされようがお構いなされぬ童子殿が、この子だけをおかばいなされたその仔細は?と聞いてくる。

仔細はない、ただ、何とのう、哀れに思えただけじゃ…と童子は答えると、哀れに?この子が恐ろしい敵であっても?と茨木は聞いてくる。

それを聞いた童子が、恐ろしいとは?と聞き返すと、我らにとって憎い壁、渡辺綱の妹…と茨木が言い当てたので、こつまは、どうしてそれを!と驚く。

知らずに何としよう…、そなたの兄に腕を斬られた茨木じゃ!己!命はもろうたぞ!と名乗った茨木は、こつまに迫ってくる。

こつまは、持っていた懐剣で抵抗するが、茨木に叩き落とされたその懐剣を見た童子は、待て、女!と呼びかけると、それを拾い上げたこつまの手を掴み、懐剣をじっと観察する。

この懐剣は、確かに渚!と言い、こつまから奪い取った童子は、女、渚はこの懐剣でわしを刺せと言うて渡したのか?とこつまに聞く。

いいえ!それは貴方様の思い過ごしでございます!と否定するこつま。

今の男に心が移れば、前の男は忘れられるものか?関白に抱かれれば関白のものになり、頼光に遣わされれば頼光のものとなる!女とはそのように浅ましいものか?とこつまに童子が迫ってきたので、いいえ、そうではございません!それでは渚様の立つ瀬がございません!と必死にこつまは反論する。

では渚は何故死なぬ?おめおめと生きているのだ?関白のときと同じように…、今では頼光を憎からず思うておるのだろう?と童子はこつまを睨みながら迫ってくる。

童子様!とこつまは言い返そうとするが、童子は懐剣を睨みつけると、荒ましい形相で柱に投げつける。

その頼光とて、そう長うは生きられぬ…、この土蜘蛛の網に絡まれ生き血を吸われて息絶えるのは、今日か、明日か…と左手を失った茨木は言うと笑い出す。

その頃、頼光は、渚から茶をもらい、いくらか楽になられましたか?と背中をさすられていた。 だいぶ落ち着いたようじゃ…、そなたには何かと世話になると頼光が礼を言うと、なんの…、くれぐれもこつま様から頼まれました…と渚は答える。

私をこつま様とおぼしめして、何なりとお申し付けくださいませと言うので、そなたとは不思議な縁であった…と頼光は答える。

都に平安が戻れば、そなたにも幸せが訪れよう…、早くその日を迎えたいものじゃ…と頼光が言うと、所詮私には…、そのような日は…と渚が口ごもるので、待つのじゃ!望みを失ってはならぬ!辛抱強くじっと待つのじゃ!と頼光は言い聞かせる。

はい!と渚が感激して答えると、夜も更けた…、下がって休むと良いと頼光は勧める。

渚が部屋を出て行くと、こつま…とつぶやいたより密だったが、次の瞬間、灯火が消え、頼光は左腕を押さえ苦しみだす。

その時、部屋の隅の闇の中に目が見開いたかと思うと、いかに頼光殿、御心地は何とある?と言いながら不気味な男が姿を現したので、何者じゃ!と頼光が聞くと、 われはえざんに住むちじゅうと申すもの…と相手が言うので、して、何故我が館に?と聞くと、それは物の怪の祟りに悩ませたもうと聞き、悪鬼退散の法を手せんがため、かく夜陰に参上つかまつってござると土蜘蛛甚内(沢村宗之助)は言う。

出、出、真言の秘密の法を持って、障害を払いもうさん!と念じながら、土蜘蛛甚内は数珠をこすり合わせ始める。

その時、ろうそくを持って戻ってきた渚は、大きな土蜘蛛の姿を見たので、殿!ご油断遊ばすな!と声をかける。

土蜘蛛が渚を睨みつけると、ろうそくも消え、頼朝!思い知れと言うや、クモの糸を撒く土蜘蛛。

おのれ、妖怪!と叫んだ頼光だったが、土蜘蛛の放ったクモの糸に絡めとらそうになる。 頼朝は必死に抵抗し、鬚切り丸を取ると、土蜘蛛に斬り掛かる。

数珠が斬れ、珠が床にこぼれると、頼光はさらに剣を突き、土蜘蛛は後ろ向きに退散しながら消えてゆく。 そこに、殿!ご無事で!と菊王丸が駆け込んで来たので、追え!四天王はいずれにある?と頼光は命じる。 菊王丸は、床に残された血の跡に気づく。

額から血を流しながらも、次に土蜘蛛が襲いかかったのは藤原道長だった。

道長を蜘蛛の巣でがんじがらめに縛り上げた土蜘蛛は、満足そうに笑いながら館を去ってゆく。

土蜘蛛を追っていた平井保昌、卜部季武、碓井貞光らは、闇の中に怪光を見たので警戒して立ち止まると、怪光の下の土の中から巨大な土蜘蛛が出現する。 一斉に家来衆が攻め懸かるが、巨大な土蜘蛛は糸を吐き、家来たちをその足で踏み殺していく。

しかし、勇敢な平井、碓井、卜部に菊王丸も大蜘蛛に飛びかかっていき、一斉にとどめを刺す。

すると、大蜘蛛の姿は血まみれの土蜘蛛甚内の姿に戻り、炎と共に消え去ってゆく。

その知らせを聞いた童子は、何!土蜘蛛が討たれた!と驚き、おのれ頼光!とつぶやく。

して、荒熊太郎は何としたぞ?と聞くと、太郎めは六条川にて晒し首となっております…と使いのものが言うので、死んだか…、頼みあるもの共であったが…、我が大望のなるを待たずに死んでしもうたか…と仲間の死を悔やむ。

そんな中、大江山の館の中では、家来たちが酒池肉林のばか騒ぎをしていたのを目撃する。

一人のまだ少女を抱えてやってきた近江ノ九郎(伊達三郎)は、先に大和守を勤めた殿と言うから、どんな獲物があるかと思ったら、暗に相違して貧乏暮らしだ、癪に障るから、この童をひっさらってきたんだと言う。

その言葉を聞いた童子は、大和守!九郎!貴様、先の大和守を襲ったのか?と詰問する。

へえ、それがどうかしましたんで?と九郎が答えると、して大和守殿を何とした?申せ!と童子が言うので、少人数のくせに嫌に手向かいやがるんで…

(回想)抵抗する大和守の胸に、矢を打ち込む九郎。

幼い娘をさらっていこうとする九郎に、なおも追いすがってきた大和守

(回想明け)ぐっさりと老いぼれめをと、自慢げに刀で突き刺す再現をしてみせた九郎に、馬鹿め!大和守殿は、あの腐りきった都の中にあって、ただ一人清廉潔白な人だぞ!と童子は叱りつける。

そんな事は…と九郎は言い訳しようとするが、誰からも慕われ、あの気高い大和守殿をおのれは殺して…、娘子まで…と迫ってきたので、だって頭、良い人だ、悪い人だって言ったって、そんな事いちいち詮議して押し込みがやれるもんか!こちとら泥棒だ!鬼だ!山賊ですぜ!と九郎が塚かってきたので、童子はその場で剣を抜き、九郎を斬り殺してしまう。

それを見た袴垂は、頭!九郎は仲間ですぜ!と文句を言うが、仲間と言えども、同志の規約に背いたものは斬る!お前たちは当初の目的を忘れたのか?俺たちは藤原一門の横暴に対し、抵抗するために立ったのだ。 それを、正しき人に危害を加えるとは何事だ!と童子はその場にいた仲間たちに怒鳴りつけたので、山賊たちはしゅんとなってしゃがみ込む。

紫辰殿 藤原道長の館に呼び出された頼光以下四天王たちは、摂津守源朝臣頼光!勅命をもって大江山の賊征討の儀、仰せつかる!速やかに源氏の強者共を催して、賊の輩を討ち絶えられよ!と言い渡される。

庭先で座して謹聴していた頼光は、臣頼光、ただちに族党を討ち平らげ、誓って大御心を安んじ奉らんと答える。 その後、加賀源次の郎党600名、ただ今到着つかまつって候!と、平井保昌指揮の下、続々と減じに郎党が集まってくる。

涙を流し、菩薩像を拝んでいた渚の前の所に鎧姿でやってきた頼光は、渚殿、いよいよ酒天童子とこの頼光との決戦のときが来たと話しかける。 この頼光が童子を討つか、童子が頼光を倒すか?勝負のほどは神のみぞ知る…と頼光は語りかける。

もし武運つたなくして、この頼光が倒れたときは、そなたはいずくなり好む所に赴き、自らの幸せを求むるが良い…、さらばじゃ…と、振り返って顔を見た渚に頼光は別れを告げる。

渚の前は、何も言えず、ただ涙にくれ見送るしかなかった。 その直後、渚の前は自害して果てる。

その知らせを聞いた頼光は驚愕する。

急いで渚の前の部屋に駈け戻った頼光は、倒れていた渚を抱き起こすと、渚殿!早まった事を!と悔やむが、首を横に振った渚は、殿のゆかしいお人柄を御慕い申しておりました…、でも、別れた夫の恋しさは、ただのひとときも忘れる事は出来ませなんだ…と苦しげに言うので、そなたはやはり…と頼光が問いかけると、恋しい夫と命のやり取りをなされるのは、お止め申す事も敵わぬ女のみが哀しゅうございます…と渚は答える。

それほどまでに童子の事を!と驚く頼光。 夫に、備前介、渚は死ぬる際まで、貴方様の事を焦がれていたと…と言い、渚は息絶える。

大江山の酒天童子も鎧姿に身をやつし、来たか?と聞き、はっ!頼朝と源氏3000騎、既に陣境を超えてございます!と聞くと、この時の来るのを待っていたのだ、かねての手はずのごとく、要所要所の配備につけ!と家来たちに命じる。

頼光を討てば、もはや天下に恐るるものはない!余勢をかって一気に都に攻めるのだ!と童子は号令をかける。

火の点いた大獅子を転がしてくる山賊たち 果敢に攻め込んでいた菊王丸は敵に斬られる。 やがて雨が降ってくる。

夜、童子の館の中では、狂ったように踊る女たちとそれを見て酒を飲む男たちがいた。

源氏が何だ!頼光が何だ!もはや天下は我々のものだ!と桂姫を横に侍らせた袴垂がわめく。

そのとき、勝ちのおごるはまだ早い!と呼びかけたのは茨木だった。

敵は土地不案内のため不覚をとったが、まだ息の根を止めた訳じゃなのだ…と鎧姿になった茨木は言うが、な〜に、もう山は見えた!明日、頼光の首を下げて都に攻め上り、酒天童子を帝に頂き、俺は関白太政大臣だ!と言いながら、うれしそうに袴垂が立ち上がる。

童子にはそのような不遜な心は毛頭ない!関白を憎み、藤原を倒す道には変わりはないが、己の栄達を望むお心のない事は御身とて良く知っているはずじゃ…と茨木が袴垂に言う。

またしてもそのようなかた苦しい事を…、ふん!せっかく藤原を倒して天下をとっても、したい事できなくて何になるんだ!俺は関白よりもっと栄華をきわめて見たい!ふん!袴垂は袴垂の人間だと言うので、ではそなたは?と茨木が問うと、お前さんだって人間だ、好きな事をやれば良い。いい加減行い澄ましたその面を脱いで、酒呑童子が好きなら好きと言ったらどうなんだい?とからかうように袴垂は茨木に迫る。

何!と茨木が気色ばむと、袴垂は愉快そうに笑い出す。

そんな酒宴に飽きた童子が席を立つと、鬼童丸が内々にてお話があると…と侍女が告げにくる。

鬼童が?どこにおる?と聞くと、人目をはばかるので御寝所でお目にかかりたいと…と言う。

寝所で?と解せぬようにつぶやく童子。

その寝所では、鬼童丸がこつまを追いつめ、今に童子様がお見えになる、じたばたしやがると生かしちゃ置かねえぞ!と凄んでいた。

私を…、私をどうしようとおっしゃるんです?と部屋の隅に追いやられたこつまが聞くと、おめえの身体で敵を取るんだと鬼童丸は答える。

敵とは?とこつまが聞くと、俺はな、頭の心中を察して、何とか渚の前を取り戻そうと付けねらったが、どうしてもダメだ。 それで?とこつまが聞くと、おめえも頼光の恋人だろう?と言いながらこつまを捕まえた鬼童丸は、良いか?渚の前を頼光に取られた代わりに、おめえを頭の思いのままにしてやるんでぃと言う。

こつまが、そんな…と抵抗していると、いつの間にか童子が背後に立っていたので驚く。

鬼童丸がにやけながら下がっていくと、こつまが懐剣を取り出したので、わしを斬るのか?と言いながら童子がこつまに近づくと、いいえ、自害を…、自害をするのですと言いながら、こつまは懐剣の刃を自分の方へ向ける。

何故に?と童子は問い、鬼童丸め…、親の心子知らずとはあいつらの事だ…と、嘆かわしそうに背後に目をやる。

我が女の恨みを人の女で晴らす…、そのような愚かな事をするわしだと思っていたのか?と童子はこつまに聞く。

童子様…と言いながら、気が抜けたようにしゃがみ込んだこつまに、明日の決戦に、この童子と頼光といずれが勝とうと負けようと、それは男の勝負…と童子が話しかけると、はいとこつまは答える。

何のそなたには、誰にも指一本触れさせぬ、心配は無用…と童子は約束したので、ありがとう存じますとこつまは泣いて礼を言う。

そのとき、宴席から騒々しい手下たちの嬌声が聞こえてきたので、舌打ちした童子は、浅ましい男たちだ…と吐き捨てる。

酒と女に心を奪われ、藤原一門への憎しみで立ち上がった我らの最初の志は、次第にああして忘れられていく…と童子はつぶやく。

それを聞いていたこつまは、千春殿に聞きました。童子様の胸の内には、汚れた今の世を覆し、美しい世界を作ろうと言う火のような心が燃えていると…と語りかける。

その望みも夢も心ない仲間のために、ひとつひとつ崩れていく…と童子は悔しそうに言う。

童子様!とこつまが呼びかけると、そなた、わしの心が分かるか?と童子が聞いてきたので、頷くと、うれしく思うぞ…、酒呑童子は望みは捨てん!明日だ、明日の決戦に打ち勝って、必ず都に攻め入るのだ!都に!都に!と童子は決意を固める。

寺の本堂の如来像の前で、金時と渡辺鋼が寝ていると、突然、如来像が緑色の後光を発する。

綱と金時は夢の中で、宇宙の奥にいた救世観音(浜田ゆう子)の姿を見る。

観音は、緑の矢を出現させると、その矢を綱と金時たちの矢筒の中に1本ずつ投げ入れる。

はっと目覚めた綱と金時は、同じ夢を見たと知ると、自分たちの矢筒の方に目をやるが、そこにはユマの中で見た緑の矢が確かに入っていた。

そのとき、寺の外から、くせ者だ!出会え!の呼び声が聞こえてきたので、一緒に外に飛び出していく。

そこには、黒牛に変化した鬼童丸がおり、口から毒煙を吐き出してくる。

本堂に戻った金時は、緑の矢を取ると再び外に出て、おのれ、鬼童丸!と呼びかけながら緑の矢を射る。

その矢が首筋に刺さると黒牛は苦しがりだしたので、あの矢は夢の!と綱は気づく。

黒牛は倒れ、その姿は元の鬼童丸の姿に戻るが、その息は既に絶えていた。

翌日、平井らを前にした頼光は、定見により地の利を生かして戦う相手を、ただひた押しに致すばかりでは所詮勝ち目はない。そこでわしは奇策を立てた…と打ち明けていた。

その奇策と仰せられるは?と平井が聞くと、先行して敵の本拠を突き、隙をうかがって童子を討つのだと言う。

童子さえ討ち果たせば後は烏合の衆…、一斉に蹴散らす事はそんなに難しい事ではないと頼光は言う。

しかし、童子の本拠は、さとりと山賤(やまがつ)ですらその道を知らぬと聞き及びおんでおりますと平井が案ずると、山の案内ならこの私にお任せください、どんな迷路があってもこの鼻で嗅ぎ付けますと金時が申し出る。

山伏に身をやつした金時を先頭とした一行は、やがて山の中で迷ってしまう。

足柄山の金時も勘が鈍ったのか?などと仲間から揶揄される中、金時は、水の音を聞きつけ、近くの川で洗濯をしていた女人を見つける。

お女中!と平井が呼びかけながら近づいてみると、もしや貴方は源頼光様では?とその女人が聞いてくる。 我が名を知るそなたは?では宮は?と頼光が聞くと、はい、池田中納言の娘、桂にござりますと女人は答える。

おお!さてはあなたはと平井が相手の正体に気づくと、桂姫は突然泣き出し、いよいよ、救いの手が…と言う。 いかにも、さあ、童子の館にご案内あれ!と頼光が言い聞かすと、はい!と桂姫は答える。

その頃、館にいたこつまは、突然、袴垂が部屋に入ってきたので、御用は?と怯えながら聞く。 すると袴垂は、お前の身体に用があるのだと言いながらこつまに迫ってくる。

何をなさいます!無法な!とこつまが抵抗すると、一度狙った獲物は離しはしないのだ!などとうそぶきながら袴垂はこつまを抱こうとする。

必死に逃げながら、外道!と叫ぶこつまだったが、あっさり捕まり、着物を脱がせかけられる。

そのとき、何をする!この子は童子様お声掛かりの預かりもの!と千春(阿井美千子)が助けにくる。

すると開き直った袴垂は、童子が何だ!元はと言えば俺が仲間に入れてやった奴だ。それがいつの間にか俺を退かせて首領面しやがって!あいつの鼻を明かしてやるんだ!と言いながら、千春を押しのけた袴垂は、またこつまに襲いかかろうとする。

そんな袴垂を邪魔しようとする千春だったが、逆上した袴垂は千春の首を絞めようとする。 次の瞬間、顔をしかめた袴垂は倒れる。 押し倒されていたこつまが、懐剣で袴垂の背中を突いたのだった。

やったな、女!と睨みながら立ち上がった袴垂は、またしても千春に妨害され、振り放そうとした所を、自分の剣を小春から抜き取られ、その刀で刺されてしまう。

千春を突き放した袴垂だったが、その場に倒れて死んでしまう。

何?袴垂が!とこつまと千春から知らせを聞き驚く童子。

それを一緒に聞いていた家来たちは、戦の前に不吉な事が!う〜ん!袴垂の敵!斬らねば同志が承知しませんぞ!斬れ!と騒ぎ始める。

こつまと千春を前にした童子は剣を握りしめ思案するが、そのとき、申し上げますと伝令が飛び込んでくる。

童子様にお目通りいたしたいと申して、山伏6名、あれへ参っております!と伝令は言う。

何、山伏が?どうして隠し間道を通ってきたのだ?怪しい奴、ここへ引け!皆殺しにしてやると手下たちはざわめきだす。

そんな手下たちに待てと制した童子は、ともかく会おう、これへ通せと命じる。

そこにやってきたのが、山伏に化けた頼光一行 その一向の中に兄綱の姿を見つけたこつまは一瞬喜ぶが、すぐに策に気づいて真顔に戻る。

旅僧は何人にて、何用あって参られた?と童子が聞くと、これは山々を巡りて修行を積む山伏共でござると代表して頼光が答える。

このたび酒天童子殿、源氏の兵と決戦に及ばるると聞き、修験の法を持って敵を報復いたそうと存じ、かくは推参つかまつってござると頼光が言うと、ほう、それはご厚志かたじけないと童子は笑顔で礼を言う。

して、高伏の技法はいかがしてなさるるぞ?と童子が油断なく聞くと、五大明王を本尊とし、東西南北中央と五カ所に御壇を設け、護摩を挙げて手するなりと頼光は答える。

さて、その五大明王とは?と童子が攻めると、一瞬、考え込んだに見えた頼朝だったが、数珠を持って手を合わせると、見事に明王の名を挙げ連ねてみせる。

して、後を三世明王とは?と重ねて童子が問うと、これも滔々と頼朝が答えたので、満足そうに頷いた童子は、善くぞ答えたもうたと言う。

さらば、修法頼み参らせんと童子が言うので、頼光は心得て候と答え立ち上がろうとすると、待たれい!修法の前に所望致しきことありと童子は言い出す。

御所望の一義とは?と頼光が聞くと、我まだ延年の舞を知らず、いざ、一差し御舞いそうらえと童子は言う。

何?延年の舞を舞えと仰せられるか?と答えた頼光だったが、さすがに今度は動けない。

怪しんだ家来たちが刀に手をかけにじり寄ろうとした時、御待ちくだされ!某、代わって舞い候べしと言い出したには、背後に控えていた渡辺綱だった。 いざ!と童子が声をかけ、頼光以下、他の山伏たちが背後に下がると、その場に残った綱が踊り始める。

それを部屋の隅に現れた茨木が薄笑いを浮かべて眺めだす。

懐かしや、渡辺綱!と茨木から呼びかけられた綱は、あ!おのれは!と驚く。

戻橋以来じゃの〜と語りかけた茨木は、頼光殿!良う和せられた!と呼びかける。

もはやこれまでと、頼朝を囲み臨戦態勢になった四天王たちに、所詮命は助からぬぞ、獲物を捨てて降参せよ!と、童子の前に立ちふさがって迫る茨木。

妖婦、我が弓弦を受けてみろ!と碓井と卜部が矢を射かけるが、茨木は難なく矢を手でつかみ取ってしまう。

その時、渡辺綱は、夢でもらった緑の矢を取ると、南無観世音菩薩!と念じながらそれを放って見る。

すると、その矢は見事に茨木の胸を射抜き、茨木は驚いたように倒れる。

そんな茨木に、何としたか!と駆け寄って抱き起こす童子。

この矢には、正法の祈りが込められております…と教える茨木。

茨木!今日が日まで戦ってきたそなたが、わしを残して死んでいくのか!と童子が呼びかけると、童子様!私は…、私は貴方様を…と言いかけ息絶えてしまう。

その茨木を愛おしそうに抱きとめる童子は、頼光!今こそ一騎打ちにて勝負を決せん!いざ!と申し入れる。

一騎打ちとは望む所じゃ、いざ来い!酒呑童子!と答えた頼光も前に進み出る。

参るぞ!と刀を構える童子。 行き詰まる対峙が続いていた時、御待ちくださいませ!と声をかけ、頼光にしがみついてきたのはこつまだった。

こつま、退け!と頼光が払いのけようとするが、童子様を斬ってはなりませぬ!こつまはこの山に来て、童子様の気高い心を知りました。斬ってはなりませぬ!と懸命に頼む。

言うな!こつま、退かぬなら、その方もろとも斬るぞ!と頼光が怒ってみせると、斬ってください、このご立派な童子様が斬られるくらいなら…と言いながら、こつまは後ずさって童子の方へにじり寄ろうとしたので、童子の方も退け!女ごときにこの一騎打ちが止められるか!とこつまを叱り押しのけようとする。

するとこつまは、今度は童子に背後からしがみつき、殿を斬ってはなりませぬ!頼光様を斬ってはなりませぬ!と必死に止め始める。

この期に及んで何の繰り言、離さずばおのれも斬るぞ!と童子が怒ると、御斬りなされませ!頼光様が死ねば都は闇!誰が都を守りましょうとこつまは叫ぶ。 その言葉を聞いた童子は、何と申す!と驚きながら、こつまを振り返る。

頼光様や御家来の方を殺すくらいなら、まず、こつまを御殺しなさいませ!とこつまは訴え、泣きじゃくる。

床に崩れ落ちて泣き出したこつまを見た頼光は、待たれよ、備前介!と童子に呼びかける。

何!と驚く童子に、そなたに渡せねばならぬものがある…と言いだした頼光は、その身は関白に犯されても、その心は何人にも犯される事がなかったある痛ましい女の形見じゃ…と言いながら、渚の遺髪を取り出し、童子に手渡す。

それを受け取りながら、では、渚は?と問いかけた童子に、こうする人の死を見るよりはと、おのれの命を絶ったのじゃ…と頼光は教える。

渚…と遺髪を握りしめた童子は、頼朝、それは真か?と聞く。 備前介、渚の前は、そなたの妻は、死ぬる際までただ一筋に、そなたを慕い、恋いこがれておったのだぞ…と伝える頼光。

遺髪を持って引き下がった童子は、渚…、可哀想な奴…とつぶやく。 その様子を見ていた虎熊次郎は、ええい、我らが大将が何たる事だ!それ!一人残らず討ち取れい!と家来たちに呼びかける。

待てい!おのれらこそ観念して、降参せい!と頼光をかばおうと、手を上げて立ちはだかって前に進み出た平井が言う。

なんじら、一人としてこの山より逃れられぬぞ!我が手配り、あれを見よ!と平井が言い、卜部が持参したホラ貝を吹き鳴らすと、山々に隠れていた源氏の兵が姿を現す。

ホラ貝の音は、何人もの手で次々と吹かれ、兵たちの数も増え続ける。

くそ〜!そんな脅しに乗るものか!かかれ!と手下たちはやけっぱちになるが、待て!と大声で制した童子は、今日限り酒天童子は消滅!大江山の鬼は死ぬぞ!と申し渡す。

酒天童子が大江山に立てこもったのも、藤原一門の党首、天下万民の幸せを願わんためだ。今、目の前に源氏の大将を見て、遠からずして、天下の権は侍の手に写ると見た。

関白ら藤原一門を倒さずとも、既に我が大望はなったも同然…、お前たちは源氏の軍門に下れ!除名の儀は、酒天童子が一命に賭けて願うてみようぞと伝えると、さすがに手下たちは観念してしゃがみ込んでいく。

おぬしは?と頼光が童子に聞くと、童子は何も答えなかったが、その心は頼光にも通じたようだった。

その後、一人馬に乗った童子は、山を駆け下りていくのだった。

 


 

 

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