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本陣殺人事件

有名な横溝正史原作ミステリーの映画化作品である。

作品そのものは、時代を現代(70年代)に置き換えている他は、割と原作に忠実に作られ、出来もまずまず…だとは思うだが、何せ、低予算で作られていたATG作品であるだけに、華のあるスターが一人も出ておらず、基本的に動きのないセリフ中心のドラマである事も相まって「地味」そのものの印象がある。

角川が仕掛けた「横溝ブーム」到来の直前に作られた事もあって、その後作られたテレビ作品などよりも地味かも知れない。

一応、当時から有名だった役者といえば、一柳賢蔵を演じる田村高廣くらいだろうか?

「三本指の男」を演じる常田富士男はともかく、金田一を呼び寄せる久保銀蔵役の加賀邦男、久保克子役の水原ゆう紀、一柳三郎役の新田章…、重要な役所を演じる俳優達は、どれも「顔はどこかで観たような気はするけど、名前は出て来ない」…というような人ばかり。

主役の中尾彬や磯川警部を演じる東野孝彦(後の英心)にしても、当時は無名の新人に近く、ブーム当時、テレビなどでも何度か放映されたにもかかわらず、同時代の他の映画化作品に比べて、本作の印象が薄いのもやむを得ないかも知れない。

ただ、作品として魅力がないかと言うとそうでもなく、これはこれで、ちゃんとした「本陣殺人事件」になっている。

元々、原作自体が、後の大長編とは違い、中編程度のボリュームなので、変に省略したり、アレンジする必要がないだけ、映画として表現するにはちょうど良い内容だったようにも感じる。

キラキラと輝く水しぶきを背景に物悲しい音楽(担当-大林宣彦)がかぶさるタイトルが、物語を暗示する。

少し知的ハンデのある少女、鈴子の純真さが、観ていて何とも物悲しい。

可愛がっていた猫のタマの死から、近親者達の死を経て、何ごとも悩みがなかったかのような無垢な彼女の心にも「死」という概念がぼんやりと形作られて行く。

探偵役の金田一には、事件そのものの真相よりも、そちらの悲劇性の方が痛ましかったはずだ。

彼女の純真さと、兄、賢蔵の潔癖性、その底辺はどこかで繋がっているのである。

その「血」の悲劇性が、観るものにも迫って来る。

良く横溝ミステリーの本質を捕らえているといえよう。

何やら70年代フォークシンガーを連想させるような、カールがかったロン毛にジーンズ姿の中尾金田一は、後年の金田一を見慣れた目には異質に感じるかも知れないが、おかま帽らしきものもちゃんと被っているし、頭をかく癖も再現している。

着物に袴姿の金田一が登場するのは、石坂浩二以降である。

それまでの歴代金田一耕介は、皆、ダンディな背広姿であり、そういう意味では、中尾彬の金田一スタイルは、他に例のない、オリジナリティ溢れる独自のものと言えるかも知れない。

若々しく、まだ可愛かった頃の中尾彬の名探偵振りに、この作品で出会って欲しい。

ミステリファンの見所としては、三郎が書棚にコレクションしているミステリの内容だろう。

当時、復刊されていた懐かしいミステリ作家の本が並んでいるのが楽しいが、江戸川乱歩、大坪砂男、小栗虫太郎、夢野久作…など、本格ミステリとは少し違うタイプ作家の名前などがあるのが興味深い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1975年、ATG、横溝正史原作、高林陽一脚本+監督作品。

暗闇に4時を打つ柱時計の音、琴の音と水しぶきの音と共にオレンジ色の水野飛沫の映像が映り

タイトル

キャスト、スタッフロール(琴に合わせ歌う女性の声を背景に)

琴の糸が切れる音と映像

赤ん坊人形をぶら下げたバッグを持った男が、野辺送りの葬列と遭遇する。

やはり、私の予感は当たった…(と金田一の独白)

あれはきっと、鈴ちゃんが死んだに違いない…

帽子を脱いで、鈴子(高沢順子)の遺影を持った鈴子の母一柳糸子(東龍子)に挨拶する金田一耕助(中尾彬)

あの忌まわしい事件から、もう1年の歳月が流れている…

お琴が上手で、草花が大好きだった鈴ちゃんは、1年前もこんな風に笑っていたのだ…(遺影のアップ)

あ、雪!と、白黒の遺影からカラーになった1年前の鈴子が空を見ながら嬉しそうにつぶやく。

ほんに…、もうすぐ五月やと言うのに…と糸子も空を見上げる。

見えた?と鈴子が聞くと、きれいな人!あれが賢蔵兄さんのお嫁さんね!と、白無垢姿の花嫁を出迎えるため、晴れ着に着替えて家の前で待っていた鈴子が言う。

そんな花嫁をじっと見つめていた参列者の1人が、賢蔵の弟一柳三郎(新田章)だった。

あの人が、鈴子のお姉さんになる人なんだよ…と糸子は言い聞かせる。

屋敷内で待ち受けていたのは、一柳家の長男で、花婿となる一柳賢蔵(田村高廣)だった。

おめでとうございます!花嫁のお着きでございますと挨拶がなされる。

白無垢姿で賢蔵の前に立ったのは、花嫁の久保克子(水原ゆう紀)だった。

式が始まり、三三九度の盃を飲む2人

そんな克子の姿を嬉しそうに見ていた客は、克子の兄の久保銀造(加賀邦男)だった。

おめでとうございます。これによって、一柳賢蔵さんと久保克子さんの盃事は滞りなく終わりました。どうか、幾久しく、共白髪まで添い遂げなさいますよう…と、村長(原聖四郎)が挨拶する。

高砂やが披露され、台所ではお膳の準備していた清(服部絹子)に、ばあさん、何やさっき、ここへおかしな男が来たそうやな?と、タバコを吸いに来た下男が聞いて来る。

そうそう、こんな大きなマスクした汚らしい格好の男やった…と聞かれた清が答える。

そんでな、賢蔵さんに手が見渡してくれ、言うてな…と清は続ける。

手紙は分家のおかみさんにお預けしといたけど…、あんまり見かけん、妙な男やった…と清は言う。

へえ~と感心した下男は、そろそろ式も終わりやな…と、奥の間を見ながら言う。

事を前にした鈴子の横で頭を下げた糸子が、この一柳の家にはな、昔、この家が備前路の本陣として大名方のお宿を努めましていた頃よりの古いしきたりが残っておりましてな…、ここに出ておりますお琴は、家宝の名品「鴛鴦」で、一柳家婚礼の夜には、この「鴛鴦」で、これもやっぱり昔からこの家に伝わっております「鴛鴦の歌」と申します曲を、新たに当家の人となられる花嫁に弾いて頂くことになっておったのじゃが、何せ時代が変わりましたし、又、克子さんにこのようなことをお願いするのも、何とのう、押し付けがましゅう思いましてな、今宵はしきたりに拘ることなく、当家末娘鈴子に、花嫁克子さんの代わりを努めさせて頂くことにしました…と挨拶する。

互いに目を見合う克子と銀造兄妹

やがて始まった鈴子のことはそれは見事な腕前だったので、克子は驚く。

外では雪が待っていた。

曲を弾き終えると、銀造が思わず拍手し、いやあ、大したものですな…と感心する客を前に、自分の頬を押さえた鈴子が、私、間違えなかった…、難しくて一生懸命弾いたけど…、私、間違えなかった…と言うので、いや~、本当に立派なものです。感心しました。鈴ちゃんはお琴の天才だ…と銀造が褒めると、鈴子は嬉しそうに、良かったと笑顔になる。

でも、もう私の琴、タマに聞かせてあげられない…、だって、弾、死んじゃったんですもん…と鈴子は良い出すので、タマ?と銀造が聞き返すと、いいえ、あなた、死んだ猫のことですよと説明した糸子は、秋子さん、あんた、この琴を離れの方に運んでおいて下さいな、床盃の後で克子さんに弾いてもらいますのでな…と一柳秋子(山本織江)に頼む。

その時、タマ!と言いながら急に立上がった鈴子は、ごめんなさい!私がタマの墓を参ってあげないと、タマが寂しがっています!と客たちに言い、琴爪を取ると部屋を飛び出して行く。

気まずくなった座の空気を変えるように、秋子さん、ほな、皆さんにお膳をな…と、糸子は声をかけ、克子さん、どうぞお色直しを…、村の衆も、そろそろ集まっておりましょうでな…と申し出る。

台所でも盛り上がっている中、座敷では、銀造が賢蔵に、克子のこと、よろしくお願い致しますと挨拶しながら、酒を勧めていた。

そんな中、三郎!お前はこの嫁取りに賛成したそうやないか?と親戚の叔父伊兵衛(海老江寛)が三郎に聞く。

みんなが、あんなに反対やったのを見とるのに、お前だけが賛成したのはどういう訳や?と酒に酔っているのか、絡むように聞く。

おじさん、あっち行って飲みましょうと三郎が叔父を抱えて立たせると、アメリカ帰りの成金か何様かは何かは知らんが、元はと言えば、この一柳家の小作人やないか!賢蔵も、賢蔵じゃ、そんな娘に惚れよって!と悪態をつく叔父を、三郎は部屋の外へ連れ出す。

久保さん、お気になさるな、伊兵衛さんはほんまに酒癖の悪い人や…、普段は良い人やが、ちょっとでも酒が入ると…と村長が銀造に詫びる。

損長さん、どうぞお気遣いなく、私は全てを承知の上で、この克子を賢蔵さんにお任せしたんですから…と銀造は答える。

そう…、そう言われてみれば、私たちは確かに昔、この家に厄介になっておりました。小作人でしたからな…と銀造は言う。

そんな騒動を、襖の後からそっと覗き見ていた鈴子が部屋に入ってきて、銀造の横にすがるように座って来たので、鈴ちゃん、どうした?と銀造が声をかけると、おじ様、猫って死ぬと化けて出るの?と聞いて来る。

化ける?噓だよ、んなことは噓ですよと言い聞かし、どうしたの?と聞くと、昨日、恐いことがあったの…と鈴子が耳打ちして来る。

夜中にお琴が鳴ったの…と鈴子は言う。

どこで?と聞くと、それがね…、離れなの…と鈴子が言うので、鈴ちゃん、それは夢だったんだよ…と銀造がなだめると、夢なんかじゃないの!きっと誰かがお琴を弾いたの…と鈴子は頑固に言う。

誰かって、誰だろう?と銀造がつぶやくと、分かんないの…、だって、昨夜離れには誰もいなかったんですもの…と鈴子は言う。

そこへも戻って来た三郎が、申し訳ありませんでした。おじさんったら、あんなことを言って…と、銀造の前で詫びる。

良いんだよ、三郎君、一杯行きましょう。三郎君、あなたも克子と仲良くしてやって下さいねと銀造は答えながら、酒を勧める。

その時、三郎!お前、後で、伊兵衛叔父さんを川村まで送ってやってくれ。大分飲んでいるようだし、間違いのないようにな…と賢蔵が声をかける。

それにお前も遅くなるから、向うで泊まって来ると良いと賢蔵が』言うので、ええ、そうします…と三郎は素直に答える。

すると、お祭りはもう終わりなの…、みんなが帰ると、火が消えて、寂しくなる…と、つまらなそうに鈴子がつぶやく。

パジャマに着替え、寝室でパイプをくゆらせていた銀は、離れで克子が弾く琴の音を聞きながら、電気スタンドの灯を消す。

雪が降る中、夜は深々と更けて行く。

明け方の4時の時報を柱時計が打つ。

猫の鳴き声と共に、克子の顔の映像が揺れながら、おじ様、長い間お世話になりました…と挨拶する。

笑顔の鈴子が、おじ様、タマ知りません?賢蔵兄さんの結婚には、みんな反対なの…と語りかけて来る映像。

猫の顔のアップ

哀し気な克子の表情

タマ!そんな所に上がってはいけないの!と言い聞かせる鈴子

猫のタマが、琴糸の上を歩いている映像

悲鳴を上げる克子の逆さまの顔のアップ。

ハッと目を開けた銀造は、夢と同じような克子の悲鳴を聞いたので、慌てて起き上がると、離れから琴をかき鳴らす音が聞えて来る。

ガウンをはおって母屋を出た銀造は、離れとの境の潜り戸を開けようとするが、閂がかかっていたので、同じく異変を知り、近づいて来た一柳良介(伴勇太郎)が、源七(沖時男)に小野を持って来るように命じる。

糸子と鈴子も様子を見に外へ出て来た時、又、琴の音色と共に、糸が切れる音が聞えて来る。

斧を持って来た源七が、潜り戸の一部を割り、閂を外したので、まずは銀造が潜り戸を通って離れに向かう。

離れは灯もついておらず、静かだった。

鈴子は両手で耳を押さえ、お琴が鳴った…と、糸子の横で怯える。

賢蔵さん!克子!と呼びかけても返事がないので、庭沿いに奥の方へ向かうと、源七が旦那!と叫び、庭の一隅を指差す。

そこには、日本刀が地面に突き刺さっていた。

源七の斧で雨戸を外してもらい、中に入り込んだ銀造らが部屋で発見したのは、血潮にまみれた克子と賢蔵の死体だった。

克子の死体に近寄った銀造が、源七に医者を呼びに行かせると、部屋に残った良介が、金屏風に残されていた三本指の血痕を発見し怯える。

犯人はまだそこいらに潜んでいるに違いない…と銀造は部屋の中や外の廊下を注意深く見渡すが、誰の姿も発見できなかった。

克子、こりゃ夢なんだよ、きっと悪い夢なんだよ克子!…と涙ぐみながら、克子の手を握りしめる銀造

苦し気に曲がった克子の指先と賢蔵の指先の奥には、金屏風に記された三本指の血痕が見える。

パトカーの赤色灯

翌朝、屋敷から担架で運び出される死体と一緒に出て来た刑事が、外にいた磯川警部(東野英心)に、現場の方は終わったと伝える。

季節外れの雪って、溶けるのが早いですね…と、もう1人の刑事が言う。

嫌な事件だ…と磯川警部もつぶやく。

鈴子は、きれいに咲き誇った花々にジョウロで水を撒いていたが、その途中、小さなアマガエルを見つけたので、両手で捕まえる。

屋敷に戻って来た三郎は、銀造と一緒にいた糸子の部屋に来ると、母さん、賢蔵兄さんが殺されたんだって?克子さんもだって…と聞き、克子さんまでが…とつぶやくと、がっくり膝を落とす。

その時、庭先に姿を現した磯川警部が三郎の姿を見つけ、あなたが一柳三郎さんですな?私、県警の磯川です!と声をかけて来る。

あなたは昨夜、川村の叔父さんを送って行って、そのまま向うにお泊まりになったそうですな?と磯川が聞くので、ええ、たった今、帰って来て…と答える。

すると、昨夜の事件に関してハナにもご存じないと言う訳ですな?と磯川は念を押す。

何か心当たりはありませんかな?つまり、兄さんが殺される理由についてなんですがな…と磯川は縁側に腰掛けながら聞く。

兄さんの知り合いに、指が三本しかない人はおられませんかな?と磯川が聞くと、指が三本ですって!その男がどうかしたんですか?と三郎は驚いたように磯川に聞く。

現場の様子から、今の所重要な容疑者と思っていますと磯川が答えると、実は少しばかり耳にしたことがあるんです…と三郎は言い出す。

清町の駅前にお菓子屋さんがあるのをご存知ですか?あれは昨日…、いや、一昨日の昼頃、そのお菓子屋に、岡村の一柳家へはどう行けば良いのかと道を聞きに来た男がいたそうです。その男の右手には指が三本しかなかったと…

そんな中、一柳家の中に入ってきた青年は、困惑したように長い髪の毛をかいていた。

その三本指の男とこの一柳家について、何か思い当たることはありませんか?御隠居さんはどうですか?と磯川は、答えがない三郎に代わり糸子にも聞くが、ありませんがな…と糸子は否定する。

その時、久保の旦那にと言うて、金田一たら言う人が見えてますよ…と清が知らせに来る。

それを聞いた銀造は、もう来てくれたか!ありがたい!と言うと、立上がって玄関へと向かう。

後に残った磯川警部は、金田一?とつぶやく。

耕さん!良く来てくれたな!これで私も千人力だ!と、玄関先で座っていた金田一耕助に声をかけ、手を握る。

電話どうも…と立上がった金田一は、このたびは、克子さんがとんでもないことになって…と頭を下げる。

賢蔵の遺影が飾られた仏壇の前で銀造と対峙した金田一は、なるほど…、おおよそのことは分かりました…と事情を聞き、おじさん、がっかりしないで下さいよと励ます。

その時、久保さん!お呼びでしたか?と声をかけながら、磯川警部が部屋に入って来る。

実は警部さんにもご紹介しておこうと思いまして…と、金田一の前に座ってもらった銀造は、この男は私とは10年近い知り合いで金田一耕助と申しますと紹介する。

すると、正座した膝をポンと叩いた磯川警部は、いわゆる私立探偵と申しますか…と銀造が説明すると、はあ、存じておりますと答える。

いや…、うちの県警の本部長がですな…、まだ大阪府警で捜査課長をしておりました頃、偉い厄介なヤマにぶつかりましてな…、危うくお宮入りになりかけ、どうやらその首も危ないと言う瀬戸際に、見事な推理でそのヤマを解決して、犯人逮捕に御協力いただいた民間人がおられましてな…、その方のお名前が金田一耕助と言いまして、今でもその話は、何ぞと言うと良う聞かされますんでな…、お名前だけは存じておりますと言いながら、磯川が頭を下げて来たので、恐縮した金田一の方も頭を下げて挨拶する。

そうですか…、それなら話は早い…、耕助君、こちらは県警の磯川家部さんと銀造は金田一に紹介する。

しかし、金田一さんと久保さんはどういう?と磯川警部が不思議がると、その昔、若気の過ちで、日本脱出しましてね…、危うくアメリカでのたれ死にする所を久保さんに拾われたんですよ…、僕にとっては命の恩人で…と言いながら金田一は頭をかく。

その後、庭の長椅子に銀造と並んで座った金田一は、昨夜は珍しく雪が降ったそうですね?と聞く。

4月の末の大雪なんて、めったにないことだよ…、やはり異常気象の一つだろう…とパイプを吸いながら銀造は答える。

それから金田一は、磯川警部の考えを聞く。

裏付けは鑑識の結果を見んとはっきりしませんがな…、私が考えますには、昨晩…と磯川は語りだす。

(セピア色の回想シーン)結婚式当夜、あ、雪!と鈴子が空を見、花嫁のお着きでございますと賢蔵に伝えられる。

(回想明け)犯人が離れに忍び込んだのは、この時間以外に考えられませんがな…と磯川警部は言う。

玄関の足跡ですがな…と言いかけた磯川は、茶請けとして食べていた沢庵を差し出した金田一の勧めを遠慮し、雪を踏んで来た足跡ではなかったもので…と付け加える。

沢庵をかじりながら考え込む金田一。

(セピア色の回想シーン)高砂やが披露されている中、離れに忍び込んだ三本指の男は、押し入れに実を潜める。

その後、鈴子が琴を弾き終え、気を付けてな、このことはこの家のお宝ですよ…と秋子が琴を運んで来た時も、三本指の男は、離れの押し入れの中にじっと身を潜めていた。

深夜1時、離れに戻って来た克子が琴を弾き、母屋との境の潜り戸に閂をかけた賢蔵が、ああ、お休み…と、母屋へ帰って行く秋子らに挨拶し、部屋に戻って来て、白い寝間着に着替えた克子の肩をそっと抱く。

深夜4時の時報を打つ柱時計

離れの寝室に忍び込んだ三本指の男が、突然、寝ていた2人に日本刀で斬りかかる。

そして、行灯を灯し、琴をかき鳴らした後、血にまみれた三本指で金屏風に痕を残す…

(回想明け)…と、ここまでは良いんですがな…と磯川警部は、犯行時の想像を金田一と銀造に披露するが、この男が外に出た形跡がないもんでな…と、その想像の弱点を打ち明ける。

私たちが駆けつけた時には、玄関にも雨戸にも全部内側から鍵がかかっていて、結局、斧で破ったんだ…、それにあの雪だ…、足跡なんか一つもなかった…と銀造が補足する。

金田一は茶をすすりながら考え込む。

良く覚えてますよ、そりゃ、君の悪い男でしたからね~…と、その後、話を聞きに来た金田一に答えたのは、駅前の菓子屋の女将(三戸部スエ)だった。

ありゃ、一柳さんの婚礼の前の日の昼頃でしたかしらね…と女将は続ける。

赤ん坊人形が下げてあった菓子屋の店先で聞いていた金田一の横に、大きなマスクをした三本指(常田富士男)の男が近づいて来る。

(回想)あの~、すみません、岡村の一柳さんの所へはどうやって行ったら良いんですか?と三本指の男が聞いて来たので、一柳さん?一柳さんやったら、この前の道をまっすぐだよと女将が教えると、ですか…、どうも…と礼を言った三本指の男は、水を一杯いただけませんか?とがみ、店の前にしゃがみ込む。

女将が水を汲んだコップを持って来ると、マスクを外した男の頬には大きな傷跡があり、コップを握った右手の指は3本しかなかった。

(回想明け)話を聞いた金田一は困ったように頭をかく。

踏切に向かって歩く、コート姿の三本指の男の後ろ姿の映像

「島の約束、近日果たす。闇討ち、不意打ち、どんな手段でも良いと言う約束だったね? 君の生涯の仇敵より」

一柳家に戻って来た金田一は、磯川警部から、婚礼の日に届けられた脅迫状を見せられる。

それは、印刷した活字を切り貼りして作ったものだった。

何ですかこれは?と金だ市が聞くと、昨日着ていた賢蔵氏のシャツのポケットから出たものですがな。ずたずたに破ってあったので、清まり書の本部で復元してみたんですとと磯川警部は言うので、脅迫状ですね…と金田一は断定する。

届いたのはいつですか?と聞くと、婚礼の直前です、昨日の夕方ですな…

(セピア色の回想)どちらさんで?と清が聞くと、旦那はいるかい?とコートに白いマスクの男が帽子で顔を隠すように聞いて来たので、今日は忙しゅうて…と迷惑がると、いたら、これ渡しといてくれんかい?頼んだよと三本指の男は一通の封筒を預けて行く。

(回想明け)この手紙を離れの賢蔵氏に届けたのは?と金田一が聞くと、知り合いの秋子ですがな…と磯川が教える。

(セピア色の回想)賢蔵さん?たった今、玄関口にこんなものが…と秋子から手紙を受け取った賢蔵は、この手紙、どんな男が?と、中身を読みながら秋子に聞く。

妙なルンペンだったそうですよ…と秋子が答えると、その目の前で手紙を破り捨てた賢蔵は、それをまるめて自分のシャツの胸ポケットの中に入れる。

(回想明け)あの時の賢蔵さんの様子、ほんまにおかしいと思ったんですがね…と、磯川と金田一から当日のことを聞かれた秋子は答える。

座敷で糸子の肩を揉んでやっていた三郎は、どう?少し休んだら?昨夜から一睡もしてないんでしょう?しっかりするんですよ、僕たちがついているんだから…と労っていた。

金田一と磯川は、母屋と離れの間を仕切る潜り戸の所を調べていた。

仕方がないので、ここを壊した訳ですな…と磯川が説明する。

その時、おじ様?ここのおじ様は?と声をかけて来たのは鈴子だった。

昼寝だよと磯川が教えると、あなた、探偵さんでしょう?と金田一に近づいた鈴子は、どうして虫眼鏡を使わないの?などと聞いて来たので、金田一は答えに窮して頭をかく。

後でタマの墓に参ってね、裏の庭にあるの…と唐突に鈴子が言うので、タマ?と金田一が戸惑うと、猫のことですよ…と磯川が補足する。

母屋の方へ向かった鈴子は立ち止まり、私、男の人と話すと賢蔵兄さんに叱られます、ごめんなさい!などと言い残し去って行く。

17なんだそうですがな、ここが少し遅れているもんでな…と磯川は、自分の頭を指して金田一に教える。

お琴が巧いそうですね…と金田一はつぶやく。

離れの犯行現場にあった金屏風の三本指の血の痕を調べた金田一は、確かに指紋がありませんね…と指摘すると、琴爪をはめて指紋が残らんようにしたんですな…と磯川が言い、ここに血まみれの琴爪が捨ててありました…と部屋の外の廊下に金田一を誘う。

ところがですな、この柱やあの雨戸に残っている手形には指紋が出とるんですな~と磯川が言うので、妙な話ですな…と金田一はいぶかしがる。

その指紋の前は、今、県警で洗っておりますがな…と磯川は補足する。

なるほど…、これじゃ確かに逃げ場がありませんな…と、雨戸を締切った廊下を見渡した金田一は言う。

この雨戸のこざるはきちんとかかっておったそうです。坊さんや良介の証言ですからな~と磯川警部は言う。

庭先に降りた金田一は、凶器はここに突き刺してあったんですね?と金田一が聞くと、凶器をここに捨てた犯人はどちらかに逃亡した…と推理しながら、金田一は庭の周囲を見渡す。

足跡が一つもないもんですからな~と、磯川は疲れたように自分の肩を叩きながら答える。

側にあった石灯籠を調べていた金田一は、雪…とつぶやくと、見事な枝振りですな~…と、側にあった木の枝を眺めたので、盆栽がお好きですか?と磯川が聞くと、とんでもない!と笑いながら、金田一は、枝を補強していた竹筒の中を覗き込み、竹の中に何か見えますかな?と聞いて来た磯川に、何も見えません、節もありませんね、こいつは誰かがくり抜いたんですな…と答える。

磯川も、同じように竹筒の中を覗き込み、本当だ、これはどうしたもんですかな~?と不思議がる。

その時、近くのん地面の木の葉をかき回していた金田一が、血染めの琴柱を見つけ出したので、それをハンカチで受け取った磯川は、すると、犯人は、やっぱりこっちへ逃げてたんですな…と言う。

その時、側の木の幹に突き刺さっていた鎌を見た金田一がこれは?と聞くと、これは植木屋の忘れて行ったもんでしょうと磯川は答える。

その後、金田一と磯川は近くの水車小屋の前に向かう。

逃げたとすればこの道ですかな?と磯川警部は、水車小屋の前の道を指差す。

水車小屋の横の棒に腰を降ろした金田一は、煙草を取り出すと1本磯川に勧める。

磯川は、どうも妙な事件ですな~と言いながら、自分の上着のポケットからライターを取り出すと、犯人が入った形跡はあるが…と言いながら、金田一にも火をつけてやり、逃げ出した形跡がない…、足跡すらないと続ける。

金田一は恐縮そうに、磯川が使っていた携帯用吸い殻入れを拝借する。

磯川さん、この道はどこへ行く道ですか?と水車小屋から別れた道の先を聞くと、この道は山を越え、久村と言うもう一つの村へ行く近道ですと磯川は教える。

金田一と共に母屋に戻って来た磯川は、そこにいた三郎に、復元した脅迫状を見せる。

「島の約束、近日果たす。闇討ち、不意打ち、どんな手段でも良いと言う約束だったね? 君の生涯の仇敵より」と内容を読み上げた三郎は、生涯の仇敵…と言う部分が気になるようだった。

その三郎が、磯川と金田一に見せたのが、賢蔵のアルバムで、そこには「生涯の仇敵」と書かれた男の写真が貼られてあった。

この手紙には、「島の約束、近日果たす」と書いてありますがな、何か思い当たることありませんかな?と磯川が聞くと、三郎は首を振るだけ。

賢蔵さんは、いつかどこかの島でこの写真の男と出会いなすった。そこでお互いに命を賭けて憎みあうようなことが起こった…。これは賢蔵さんの過去を洗う必要がありますな…と磯川は推理し、この写真を借りますよと三郎に断り、アルバムの男の写真を慎重に剥ぎ始める。

金田一が書斎の本棚を見たので、兄は勉強家でした…と三郎が言うと、お若い頃は、あちこちの大学で講師をなさっていたんだそうですな…と磯川が補足する。

立上がった金田一が本棚の前に向かうと、兄は学究の徒でした…、母何ぞは、勉強なんかはほどほどにして、早くお嫁さんをもらってと心配していたんですが…、兄さんにはきっと学問の方が良かったんですと三郎が言うので、はあ、男には結婚なんかより、他にやりたいことが一杯ありますからな…と金田一は調子を合わせる。

金田一は、昭和29年からきちんと並べられた日記を発見する。

昭和38年の日記を取り出し、中を読んでみた金田一が、きれいな字ですね…、1日も抜けてないと感心すると、賢蔵兄さんは、どんな些細なこともゆるがせにしない完璧主義者でしたと三郎が言う。

ノートの位置が狂ったり、鉛筆の長さがまちまちだったりしたことは一度もありません。

この机の上にしても、誰かが触ったりしようものなら、そりゃ大変でした…と三郎は言う。

そんな話を聞いた金田一は、凄い人だったんですね…と感心する。

別室の本棚の中を見た金田一は、この本、どなたのなんですか?と三郎に聞くと、僕のものですが…と言うので、あなたは相当探偵小説がお好きなんですねと金田一は感心する。

小栗虫太郎、江戸川乱歩、大坪砂男、夢野久作…、正にミステリマニアのコレクションだったからだ。

僕は探偵小説のロマネスクな世界の遊ぶのが好きなものでね…、現実にはあり得ないことが存在する世界ですからね…と三郎が言うので、一番好きな作品は?と金田一が聞くと、ルルーの「黄色い部屋」かな?密室殺人を扱ったもので、あれの右に出るものはありませんよ…と三郎は答える。

金田一は、机の上に置かれていた泣いている表情の子犬の人形を見つめながら、あなた、昨夜の事件をどう思いますか?昨夜の離れも完全な密室だったと思いませんか?と聞いてみる。

すると三郎は、分かりませんね、小説と現実とは全く違いますよ、現実に怒る犯罪は小説のように面白くありません!と言い切る。

笑いながら頭をかいた金田一は、しかし、事実は小説より奇なり…と言いますよ。もちろん現実の犯人は小説ほど頭が良くありませんね…と金田一が指摘すると、その背後にいた三郎は苛立ったような目つきで爪を噛み始め、頭が良くない?と聞き返す。

その後、秋子に伴われ、蔵の中に仕舞われていた琴糸などを調べていた金田一は、古い無惨絵の書かれた巻物を発見する。

草原で無心に遊ぶ鈴子の姿と、血まみれの無惨絵の対比(女性の歌が重なる)

現場に残された三本指の指紋から捜査本部ではこの男を容疑者と断定、その行方を追うと共に、一柳家との関係を洗っている…と新聞記事を読みふけっていた良介は、側に金田一が来たのに気づくと、日本中に恥をさらして…、困ったことですわと嘆いてみせると、何か用ですかい?と聞く。

亡くなった賢蔵さんについて、従兄弟のあなたがどう思っておられるか聞きたいんですと金田一が言うと、あの男は偉い男だったね。学者様だ、大学様だ、御頭首様だ、偏屈で銭勘定一つできねえくせに、自分以外のものはみんなばかで薄汚ねえどん百姓だったのさ…、自分がやっとることは正しゅうて間違ごうとらん、お前らアホとは出来が違うってと良介は答える。

人の恨みを買う事もあったと言う事ですな…?と金田一が問うと、自分の城の中に閉じこもって、勝手気侭にやって来た男や、あの男の本心なんぞ誰にも分かりゃしねえ…と良介が言うので、学者と言うのはそんなものですかね~と金田一が答えると、ま、冷たい男やったな…と良介は言う。

賢蔵の遺影の前に正座し、じっと遺影を見つめる三郎。

良く眠ったお陰で頭がすっきりしたよ…、こうしてると、克子が死んだなんて噓みたいだな…と、その夜、別室で金田一と一緒に夕食を取る銀造は言い、磯川さんは?と聞くので、捜査会議で本部にへ帰りましたと金田一は答える。

そこへ、お邪魔しても宜しいですか?と鈴子が部屋に入って来る。

鈴ちゃんか、お入り…と銀造が許可すると、おじ様、私、恐いの…、一昨日の晩にもお琴の音を聞いたのと鈴子は金田一の方に声をかける。

一昨日の晩?何時頃?と金田一は不思議そうに鈴子に聞くが、分かんない、鈴子恐くなって、布団の中に潜ってしまった…と言うだけ。

鈴ちゃん、今の話、間違いないね?と金田一は念を押すろ、鈴子はこくりと頷く。

耕さん、あんたまさか…と銀造が呆れたように口を挟むと、おじさん、僕は鈴ちゃんの耳を信じますよと金田一は答える。

すると、鈴子は急に、タマの墓、参ってくれました?と銀造に聞くので、すまんね、今日一日はそれどころじゃなかったんだよ…と銀造が詫びると、タマは可哀想なんです!ひとりぼっちで死んでしまった。

おじさん、僕は大変な勘違いしていたようですよ、この事件の底は、僕が考えているより深くて恐ろしいものかも知れません…と金田一は頭をかく。

その夜更けの4時

また、柱時計が鳴り、水しぶきの映像

琴がかき鳴らされ、琴糸が切れる音…

耕さん!耕さん!今、琴がなったように思うんだが…と、隣で寝ていた銀造から揺り起こされた金田一は、上半身を起こし、
おじさん、昨夜、事件のときもあの音聞えましたか?水車の音です!と聞く。

その時、又、琴の音色が聞こえ家ので、急いで跳ね起きた金田一は、ズボンをはきながら、おじさん、いま何時ですか?と聞く。

目覚ましを見た銀造が、4時15分…、昨夜と同じだ!と気づくと、鈴子もお琴が鳴った!と言いながら、離れとの境の板塀を覗き込もうとしていた。

金田一、良介と共に離れへ向かった銀造は、昨夜と同じく、庭先に突き刺さった日本刀を発見する。

良介と協力し、雨戸をこじ開けて中に入った金田一は、大怪我をしている三郎を発見、銀造に医者を呼びに行かせると共に、良介に、部屋の様子が代わってないかを確認する。

瀕死の三郎は、三本指の男が…とつぶやく。

恐い!お琴が又鳴った…、みんな殺される…と怯える鈴子は、起きて来た糸子に抱きついていた。

翌朝、又、一柳家にやって来た磯川警部は、刑事と共に、縁側で銀造と共に座り込んでいた金田一に、深手は深手だったんですがな、急所を外れたのが幸いでした。良かったですわ…と三郎の怪我の状態を話す。

犯人はやはり三本指の男ですか?と銀造が聞くと、現状の状況から言うとそう言うことになりますな…と磯川は答える。

その時、別の刑事が磯川に近づいて来て何やら耳打ちする。

磯川と金田一が対面した、一柳家を訪れた客は、大阪の聖愛女子校の歴史教師で克子とは2ヶ月前まで同僚だった白木静子(村松英子)だった。

克子は国語の先生で、生徒たちにも人気があった良い先生だったと教えた静子は、私、犯人を知ってるんですと言い出す。

静子が磯川に差し出したのは、20日ほど前に、久保克子から静子に送られた手紙だった。

「お懐かしい静子お姉様、思い出多い学校生活から早一月、克子が一柳の元へ嫁ぐ日までわずかでございます。

田谷章造と出会ったのです。その時の克子の驚き、田谷章造は随分と変わっておりました。一見して与太者と分かるような若い人を連れて…、私は真っ青になりました。心臓が氷のように冷たくなって、身体が細かく震えました。」

(回想)街角で偶然出会った田谷照三(石山雄大)に、道路脇に強引に誘われた克子は、しばらくだったな、所でお前さん、お嫁入りするんだってな?と切り出されたので、どうしてそれを!と驚くと、地獄耳さ…、それとも俺はお前のその身体に惚れてるのかも知れねえな…と照三は笑う。

そして、いきなり克子の頭を抱きしめた照三は、せいぜい良いお嫁さんになることだな…と意味ありげな目つきで言って来る。

(回想明け)田谷照三…、この男が犯人です!と白木静子は断定する。

久保銀造さんはご存知だったんですか?と磯川が驚いたように金田一に聞き、金田一が分からないと言う風に首を振ると、この田谷照三と言う男は何者ですか?と磯川は静子に聞く。

神戸のお医者の息子で、最初は医者になるつもりであちこちの医大を受験したそうなのですが、結局どこにも入れずに、次第にぐれ始めたと聞きました。克子さんと知りあったのはその頃のことで、医者志望の将来ある青年と言うことで、克子さんもまじめに結婚を考えていたようでしたと静子は言う。

「克子はお姉様にお詫び致さなければいけません。結婚前の秘密は一切闇の中に葬ってしまわねばならぬ。それを打ち明けることは、決して夫婦生活を幸福にする所以ではないと言うお姉様の忠告…」と手紙の続きを読む金田一

賢蔵の遺影の左目の部分に何かがぶつかり、ガラスが割れる映像

「克子はとうとうそれを裏切って、あの呪わしい田谷照三との経緯を一柳に打ち明けてしまいました。」

(回想)忘れましょう、すんだことなんだから…、私には現在のあなたが必要なんだ…と屋敷の縁側で言う賢蔵

「無論、このことは、克子が処女でなかったと言うことは、一柳の心に暗い影を投げたに違いありません。あの人の心にどういう影を投げかけたにしろ、克子、自分の愛情と努力で、きっとそれを吸い取ってみせようと思っています。」(きっぱり前を向いて歩く克子の生前のイメージと声)

(回想明け)克子さんは田谷と言う男との仲は清算したつもりだったんですね?と金田一は静子に聞く。

はい!と「何処が肯定すると、しかし、男の方はそうではなかった…と続ける磯川にも、はい、田谷は克子さんと別れてからは、恐喝や詐欺などで度々警察の厄介になっているほどの男です。克子さんがお嫁に行くのを黙って見ているはずは有りませんと静子は言う。

田谷は、賢蔵さんや克子さんを強請った?と金田一が仮定を口にすると、静子は、はいと頷く。

しかし、賢蔵さんはそれを受け付けなんだ。それで田谷は2人をやった!と磯川も推論を述べる。

新聞を観ました時、私は直感で、これは田谷のやったことだと思いました。それで今朝一番、大阪を発って…と静香が言うので、そいつはどうもご苦労さんでした…と磯川は礼を言い、ちょっとすみませんが、これを見て頂けませんかと言いながら、封筒から、賢蔵のアルバムに貼ってあった「生涯の仇敵」なる男の顔写真を取り出して静子に見せながら、田谷照三と言うのはこの男に間違いありませんな?と確認してもらう。

しかし静子は、いいえ、田谷照三はこんな男ではございませんと否定する。

帰って行く静子を、屋敷の外の道まで見送った磯川は、田谷と言う男、どう思われますか?と付いてきた金田一に聞く。

克子さんに男がいたことはショックでした。女って分かりませんね…と金田一はつぶやきながら煙草をくわえる。

田谷が本ボシですか?と、その煙草に火を点けてやりながら磯川が聞くが、金田一が何も答えないので、どうも繋がりませんな…とぼやく。

耕さん、まさか…、噓だろ!まさか、あの克子がそんな…、克子に男が…、そんなの噓だ!と、水車小屋の所で金田一から克子の秘密を聞かされた銀造は驚き、取り乱す。

おじさん!と金田一からたしなめられた銀造は、少し冷静になるが、それでも、克子に限って、そんなこと疑いもしなかった…とつぶやきながらも、すると、その男が克子の心変わりを恨んでやったことだと言うんだね?と銀造は聞く。

白木静子はそう主張するんですがね…、でも、田谷は三本指の男じゃないんですと金田一は答える。

それはどういうことかね?と銀造が聞くと、田谷照三は、この事件の真犯人ではないと言うことですと、水車の心棒に巻き付いた綱を調べながら金田一は言い、一柳賢蔵って、一体どういう人だったんでしょうね…とつぶやく。

あなたは本当に克子さんの過去を許しましたか?僕には何故かあなたが少しも克子さんを許してなかったように思えて仕方がないのです…、賢蔵の遺影の前に立った金田一は心の中で問いかけていた。

探偵小説が詰まった書棚のある部屋で目覚める三郎

裏庭のタマの墓の前に来た金田一は、タマはいつ死んだの?と一緒に墓の前にいた鈴子に聞く。

婚礼の前の日…と鈴子は言うと、どうしてみんな死ぬのかしら?タマも、大きい兄さんも…、克子姉さんも…と哀し気な目で金田一を見つめる。

生きているものはいつかは死ぬんだから…、仕方ないんだよ…と金田一が答えると、おじ様も死ぬ?と鈴子は聞いて来る。

ああ…と答えると、鈴子も?…と鈴子はつぶやく。

ああ…と金田一が答えると、死ぬとどうなるの?と鈴子は聞いて来る。

金田一が返事に窮すると、猫は死ぬと三味線の皮になるって言うんだけど、人間の皮では三味線できないの?と鈴子は唐突に言い出す。

金田一が黙っていると、ねえおじ様、お墓を掘り返すと祟りがあるって本当?伊達かがタマの墓、掘り返したの…と鈴子が言い出す。

何だって!と金田一が聞き返すと、今朝お参りしたら、昨日と形が変わってたの…と鈴子は言う。

鈴ちゃん、するとタマの墓が掘り返されたのは昨夜なんだな?と確認すると、掘り返した人にはきっと祟りがあるわ…と鈴子はあらぬ方を睨みつけながら言う。

あの男が言ったんです!あの金田一耕助と言う若い男がです!事実は小説より奇なり…、左から僕は、事実が小説より面白いものかどうか試してみたくなったんです…と、目覚めた三郎は磯川警部に打ち明けていた。

側には糸子と銀造も控えていた。

僕はあの離れに1人で行きました…と、自分が襲われた夜のことを三郎は打ち明け始める。

(回想)4時の時報を打つ柱時計

僕は兄さん夫婦が殺された時と同じ時間に同じ状況を作りました(…と三郎の説明)

床の間に立てかけられている琴

現実はどうってことはない、何も起こらない…、小説の世界のようにはいかない…、僕はあの金田一と言う小生意気な男に、こう言ってやるつもりでした。

懐中電灯を片手に金屏風などを触っていた三郎の耳に、ひそかに笑う男の声が聞こえて来る。

三郎が行灯をつけると、突然、奥の部屋に隠れていた三本指の男が、日本刀を振りかざしながら飛び込んで来ると、三郎に襲いかかって来る。

金屏風の前に置かれた琴の前に正座する三本指の男は、帽子をかぶると立上がる。

(回想明け)あの男はこの家のものを皆殺しにするつもりなんだ…と三郎が話し終えた時、お母さん!と呼びかけながら鈴子が入って来たので、どうかしたの?鈴子…と糸子は聞く。

また、タマの墓掘り返すの?あのおじさんたちにも、きっと祟りがあるに決まってますわ…と鈴子が言うのを、寝ていた三郎は聞かぬように顔を背ける。

タマの墓を金田一の頼みで掘り起こした良三は、開けるんですかい?と聞く。

ええ…と金田一が頷くので、小さな棺のふたを良介が開けると、タマ、ごめんよ…と言いながら、金田一は棺の中に入っていたビニールで包まれた油紙の包みを取り出してそれを開いてみる。

それを観た良介は、驚いて立上がる。

母さん?と、部屋に残っていた糸子に呼びかけた三郎は、何もかも、悪い夢だったんだよ…と言う。

ここですわ…と男が指差す先では、鑑識が写真を撮っていた。

水車小屋の床下から見つかったのは男の遺体だった。

この仏、右の手首がありません…と刑事が、やってきた磯川に教えると、一緒に付いて来た金田一は、持って来た油紙の包みを、タマのお墓から出て来たんですよ、開けてごらんなさいと言いながら磯川に手渡す。

包みの中味を見た磯川は、これは!と驚く。

これが、あの血染めの手形を押すために使われたスタンプだったんです。

指先に血が付いた三本指のアップ

兄さん!と寝床でつぶやく三郎

賢蔵の左目の部分を中心にひび割れる遺影の映像

どうやら全ては終わったようです…、警察はあの男の死体を掘り出しました…(遺影の賢蔵の顔と三郎の顔のオーバーラップ)

この男が清水京吉なんだな?と、水車小屋で遺体を検分していた磯川警部が刑事に聞く。

は、金田一さんの推定通り、久村には叔母がおりました。出身地は岡山市、子供の時に両親に死に別れて、東京に出ております。遠縁を頼って行ったと言うことなんですがね、久村の叔母とはそれっきりで、詳しいことは分かっていません。

ところがですね、最近になって急に便りを寄越しましてね、東京でタクシーの運転手をやっていたんやが、大きな事故を起こして身体があかんようになってしもうた。しばらく静養がてら置いてもらえんやろか?と、まあ、こんなことを言うて来たんやそうなんですわ。叔母の方は、毎日首を長うして待っているんやけど、一向にやって来る気配がない…と刑事は説明する。

この写真で確認できたんだな?と磯川は、賢蔵のアルバムに貼ってあった「生涯の仇敵」の写真を出して刑事に確認させるろ、ええと刑事は答える。

顔の傷も右手の指も、みんな自動車事故のせいだったんですね…と金田一がつぶやく。

東京で働いていた1人の男が、交通事故で働けんようになった。古い縁故を頼って、久村へ行こうとしていた…と磯川が当時の再現を言い出すと、結局、この男は久村の叔母の所へは行かなかった。いや、生きたくても行けなかった…と金田一が続ける。

(回想)清町駅を降りる、大きなマスクで顔を隠した三本指の男は、既に疲れ切った様子をしており、駅前の久村行きのバスの時刻表を確認するが、本数がほとんどないことを知る。

それで、歩くことに決めた三本指の男は駅前の菓子屋で一柳への道を尋ねる。

その後、1人で久村へ向かった三本指の男だったが、既に体力の限界だったのか、途中の橋の所で倒れ込んだりするが、地図を取り出すと、橋を渡って…などと道筋を確認する。

何とか水車小屋の所までたどり着いた三本指の男だったが、ますます体調が悪化したのか、水車小屋の横で倒れ込む。

そんな水車小屋の水車の心棒に、琴糸を結びつけるために近づいた賢蔵は、断末魔の三本指の男の喘ぎ声に気づき、小屋の中を覗き込むと、既に息絶えていた三本指の男の遺体を発見する。

賢蔵は、男の右手が三本しかない事に気づくと、男の服のポケットから、薬袋と免許証で、清水京吉の名前を確認、東京都墨田区に住んでいたことも知ると、何事かを考えだす。

清水京吉と言う男の死因は、病気による自然死と言うことなんですな…と屋敷に戻って来た磯川は、金田一と銀造に話して聞かせる。

自動車事故ですっかりやられていたんですね…、その上、東京からの長い汽車の旅…、一里の田舎道…、きっとここまでたどり着くのがやっとだったんでしょうと金田一は言う。

すると金田一さん、清水京吉とこの家の関わり合いは、この男がただ久村へ行くためのただの道しるべに過ぎなかったんですな…と磯川は嘆息する。

不運な男でしたね、安らぎの場を目の前にして、のたれ死に…、その上、殺人犯に仕立て上げられて!と金田一は憤るように言うと、仕立て上げられた?と銀造が聞き返す。

はい、あの晩、もし雪が降らなかったら、雪が足跡を消しさえしなかったら、我々はあの男をてっきり真犯人と信じて、いつまでも追っかけ回すことになっていたでしょうからね…と金田一は答える。

耕さん、すると真犯人は…と銀造が聞くと、側にいた鈴子が急に振り返る。

(回想)水しぶきの映像

水が流れ落ちて水車が廻るように、陰画の轍が廻り始める…、少しずつ真実をたぐり寄せています…、あの夜、に位dさんが仕掛けた二筋の琴糸が、水車の軸に巻き取られ、全てが始まったように…(と三郎の独白)

婚礼前夜、パジャマ姿で離れの庭先にやって来た三郎は、琴糸が伸びる音を聞き、庭に張られた琴糸を伝い、室内から外に出て来る日本刀の仕掛けを目撃する。

日本刀の重みで、期の幹で琴糸の一方を支えていた琴柱が外れ、伸びた琴糸が、同じく、庭木の幹に刺さっていた鎌で切断され、鍔の部分で結ばれていた日本刀は庭に落下して刺さる。

琴糸はさらに引っ張られ、刀の鍔を外れると、側にあった石灯籠の灯窓の中を通過し、側の木の枝を支えていた竹筒の中に吸い込まれて行く。

その時、雨戸を開けて外を見た賢蔵が三郎に気づき、庭に刺さった日本刀を回収すると同時に、三郎も部屋の中に引きづり込む。

訳が分からず、兄さん!と怯える三郎だったが、ふと部屋の奥を見ると、そこに見知らぬ三本指の男の遺体が転がっていた。

三郎、こんな時間にこんな所へ何をしに来た?と、日本刀を手にしたままの賢蔵は聞く。

なんか、今夜は寝苦しくて、庭へ出たら、こちらに灯りが点いていて、ここには誰もいないはずなのに、そう思いまして…と、しどろもどろに三郎が答えると、自分で決めたことは絶対曲げたりしない私の気性を、お前は良く知っているな?良し、お前にだけは本当のことを話しておこう…と賢蔵は言いだす。

明日の晩、婚礼の後で、私は自殺をする。自殺だよ…と賢蔵が教えたので、何で?と三郎は戸惑う。

いくら説明をしてもお前には理解できない。しかし、私が自殺をしたと言うことは誰にも知られたくない。例え、動機が何であれ、自殺は敗北だ。私は負け犬は嫌いだ。絶対になりたくない。さから、誰かが私を殺したことにする。

三郎!明日の夜、誰かがここへ忍び込み、私を殺して逃げた…、それがこの事件の真相だ…と賢蔵は説明する。

すると、今の仕掛けは…、兄さんが自殺した後で、凶器の刀を自動的に部屋の外へ運び出すためのものだったんですね?と三郎は気づく。

自殺と疑われないためには、凶器は出来るだけ現場から離れた所で発見された方が良い…と言うことですね?でも、花嫁の克子さんはどうするつもりなんです?と三郎が聞くと、ああ、あの人には睡眠薬でもあげて、寝ててもらう…と賢蔵が答える。

(回想明け)噓だ!兄さん!あなたは克子さんまで殺してしまった…、どうしてなんです?と床に横になったと三郎は考える。

この事件の真犯人が本当に殺したかったのは克子さんだったんですね…と、賢蔵の遺影の前に来た金田一は銀造に語りかける。

賢蔵君は、克子の過去を許していなかったんだね…、どうして破談にしてくれなかったんだろう?と銀造は悔し気に言う。

それが出来るくらいなら、こんな事件は起こりゃしませんよ!と金田一も声を荒げる。

その時、賢蔵!と呼びかける糸子の声がしたので、2人は振り返る。

(回想)どうか思い直しておくれ…と賢蔵に頼んでいたのは糸子だった。

こうして、みなが反対するのも、結局はお前のためを思えばこそなんですよ…と、糸子は、鈴子、秋子と良介の夫婦、三郎、伊兵衛らも前にして、賢蔵を説得しようとする。

しかし、賢蔵は全く答えようともしないので、良介さん、お前も何とか言っておくれと頼む糸子

おばさんもああ言うてるんや、ここは一つ譲って、あんたもこの家にふさわしい嫁はんを…と良介も言葉をかけるが、賢蔵は、こう言うことを言うと失礼かも知れんが、私はね、この家の主と言うだけではなくて、この日本で将来を期待されている学者の1人でもあるんだ。従ってあんたたちとは、それこそ、人を観る目が違うし、考え方も違うんだ。克子はね、私が誇りを持って迎えるに足る、私にもっともふさわしい妻なんだ…と賢蔵は言いはなる。

それを聞いていた伊兵衛は、悔し気に、目の前に置かれた湯飲みを叩きつける。

私が望んでいるのは家柄ではなく、彼女が持っているあの高い知性と教養、否、それにも増して、何者にも犯されていない克子のあの清純さ…と賢蔵は言う。

光に満ちた木漏れ日

石仏の映像

賢蔵さんはきっと、克子さんに凄く惚れてたんですね…と、神社の境内に来ていた金田一は銀造に話しかける。

賢蔵さんは克子さんの中に女神を見てしまっていたんでしょう。ただ、賢蔵さんの恋が、あまりに直線的で幼い恋だったために全てに対応しきれず、破滅してしまったんでしょう…と金田一は説明する。

幼い恋か…と銀造もつぶやく。

年は40でも、賢蔵さんは、どっか鈴ちゃんに煮ていますね…と金田一は指摘する。

花飾りを作る鈴子と賢蔵が、暗い室内で2人きりで座っている映像

兄の死が現実のこととなって、今さらながら兄の偉大さを思います(賢蔵の書斎の本棚に三郎の独白が重なる)

物心ついた頃から、兄はいつも私の上に君臨し、私を見下ろしていたのです。

私の胸に住む兄は常に秀才で、偉大な学者でした。

私は幼い頃からことごとくにこの兄と比べられ、二言目には、お前も兄さんのように、お前も兄さんに負けないようにと言い聞かされてきました。

兄の偉大さは、日増しに私の中で大きくなり、私はいつも兄の幻影に怯え、兄の蔑みの声を聞いて生きて来たのです。

所があの夜、兄は突然、私の前に跪いたのです。(賢蔵の遺影)

(回想)三郎、頼む!お前の言うことは何でも聞く。だから、私を助けると思うて協力してくれ、な!と賢蔵は懇願して来る。

(回想明け)寝床で苦悩する三郎のアップ

(セピア色の回想)硬直していた三本指の男の右腕を足で踏んで伸ばした賢蔵は、日本刀を使ってその手首を切断する。

三郎も協力していた。

切断した手首を取り上げて見せる三郎。

遺体を2人で水車小屋に運んだ後、賢蔵は、免許証の京吉の写真を、自分のアルバムに貼り、「生涯の仇敵」と書込む。

三郎もそれを横で見ていた。

さらに雑誌の活字の切り抜きを使って、自分宛ての脅迫状をこしらえると、蔵に仕舞ってあったこと糸を持ち出す。

婚礼当日、脅迫状を清に渡した三本指の男は、急いで離れに走り、そこで着替えて元の賢蔵に戻ると、そこに秋子が、今届いたばかりの脅迫状を持って来る。

水車小屋の水車が廻る。

(回想明け)悪夢にうなされていた三郎は、額の汗を拭いてくれる糸子の手を掴む。

一柳家の前に立って屋敷を見ていた銀造は、人間って言うのは恐ろしいものだね…と金田一に話しかける。

振り返った金田一も、恐ろしいものですよ…と同意する。

(セピア色の回想)注射気を使い、賢蔵の腕から抜いた血を、三本指の指先に塗り付けた三郎は、その手首のスタンプで廊下の雨戸などに血の痕をつけておく。

その後、庭の竹筒の中に琴糸を通す三郎

庭先から縁側に向い、後ろ向きに偽の足跡を付けておく賢蔵

全ての仕掛けを準備し終えた兄弟は固く手を握りあう。

(回想明け)三郎君はなぜ。自分で自分を斬ったんだろう?やおぱり死ぬ気だったんだろうか?と不思議がる銀造

おじさん、三郎君は僕に挑戦して来たんです。僕は昨日、三郎君と密室殺人について色々話したんです。三郎君にしてみれば、全ての犯行が思う通りに運んだ後で、万全の自信があった。ところが,この素晴らしい計画に、僕がケチを付けたと思ったんです。

そんなことを言うんだったら、もう1度自分の手で再現してやるから、僕にこの謎を解いてみろ…と言うつもりだったんですよ…と金田一は説明する。

そんなことであんな大怪我を…と呆れる銀造

ひょっとしたら、本当に死ぬ気だったかもしれません。それは後で三郎君に聞けば分かるでしょう…と金田一は言う。

しかし三郎君は、あの時、僕が言ったことで、探偵小説マニアとして、また、この計画の参謀格としての誇りを大いに傷つけられたと思ったんでしょうろ金田一は言う。

誇り…、プライド…、やはり三郎君は、本陣一柳家の御曹司だったんだな…と納得する銀造。

ええ…と頷いた金田一はしゃがみ込み、傷つき易くて、泥にまみれて生きる事を知らないエリートだったんですよと、金田一は土を掴みながら言う。

そこにやって来たのが鈴子で、おじ様?何なさっているの?と聞いて来る。

鈴ちゃん、どうしたの?と金田一が笑顔で聞くと、鈴子ね、頭が痛いの…と言いながら,両手で頭を支える。

鈴ちゃん、もう大丈夫だよ、もうお琴は鳴らないよ…と、銀造も優しく言い聞かせる。

すると鈴子は、今度はね、鈴子が死ぬ番なの…と言い出す。

鈴子が死んだら、タマのお墓と一緒にしてね、鈴子、タマにお琴弾いてお歌歌ってあげたいの…と言いながら。かぶっていた麦わら帽子を脱いだ鈴子は、あ、雪!と言いながら空を見上げる。

(回想)水しぶきの映像

横に張った2本の琴糸

深夜、水車の廻る音が聞える寝床で眠る賢蔵と克子

ふいに起き上がった賢蔵は、隣で寝ていた克子の額に手を振れようとしながら、顔を顔を近づけてじっと、その寝顔を見る。

賊が入った場所にするため、雨戸を開けに行った賢蔵は、雪が降っていることに気づき愕然とする。

足跡…、足跡…とつぶやく賢蔵

足跡トリックが使えなくなったと知った賢蔵は、やむなく雨戸を閉める。

指紋が残らぬよう、寝間着の袖で手を覆いながら、床の間に飾ってあった日本刀を抜いた賢蔵は、寝ていた克子の頭の上に近づくと、行灯を点け、「白豚!」と声をかける。

その声で目覚めた克子は、日本刀を持った賢蔵が目の上にいることに気づく。

悲鳴をあげながら起き上がろうとした克子を袈裟がけに斬りつける賢蔵

琴爪をつけた賢蔵は、琴を持出しめちゃめちゃにかき回して鳴らすと、克子の血を琴爪につけ、金屏風に三本指の手形を残す。

廊下に出た賢蔵は、血のついた琴爪を外して捨て、座敷の中から琴糸を引っ張りだすと、その先端を、座敷の中で、刀の鍔に巻き付ける。

そして、その日本刀を自分の首に押し付けると、自分で引いて斬る。

さらに、日本刀で自分の身体を挿し貫く賢蔵

どんな犯罪もいつかは発覚する…(と賢蔵の独白が重なる)

誰とも分からぬ他人の裁きを受けているのに、私は自らの手で、自らを裁いて死ぬのだ…

自ら致命傷を与えたと知った賢蔵は、微笑みながら、克子の死体の横に倒れ込む。(賢蔵の笑い声が重なる)

水車に巻かれた琴糸は。結ばれた日本刀を引っ張り、座敷から廊下に出て行く。

苦し気に伸びた克子と賢蔵の手先と金屏風に残された三本指の血の痕

(回想明け)仕掛けを再現し、それを見守る金田一、銀造、磯川、良介

琴柱が外れ、琴糸が切れる大きな音

この音をカモフラージュするため、琴を弾いたんですと説明する金田一(琴と女の歌声が重なる)

水しぶきの映像

事件が解決し、じゃあ、おじさん、又…と門の所で銀造に別れを告げる金田一

私は、四十九日までいてやることにしたよ…、克子は、この家に嫁に行った女だからな…と銀造は言う。

金田一は手を差し出し、銀造と握手をすると門を出て行く。(汽車の音が重なる)

鈴ちゃん!庭で花にジョウロで水をやっていた鈴子に金田一が近づく。

さよなら…、三郎兄さんに宜しくね…と金田一が話しかけると、どうぞ、又いらして下さいねと挨拶する鈴子

ああ、今度来るときは、鈴ちゃんのお琴、聞かせてもらおうかな?と照れくさそうに言う金田一

はにかむように微笑む鈴子のカラー映像が、白黒の遺影に変わる。

糸子が会釈し、野辺の送りの列が金田一の前を通りすぎようとしたので、金田一は、持って来た土産の人形を、鈴子の棺の上に置いてやる。

帽子をかぶった金田一は、そのまま帰って行く。

賢蔵の遺影の右目から、緑色の涙が流れ出る。


 

 

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