宮沢賢治原作のアニメ映画化だが、原作自体が大人が読む幻想譚のような内容なので、ますむらひろしさんの猫キャラクターに置き換えたこの作品も、そのキャラクターの親しみやすさとは裏腹に、小さな子供に分かりやすい内容にはなっていない。 結果、どういう層に向けて作られたのか?大人の宮沢賢治ファンや大人のアニメファンなのか?とも想像するが、ややターゲットが不鮮明な印象がある。 内容も暗く、銀河鉄道とは、おそらく死出の旅の暗喩だと思う。 それに乗って来た客は、みんな死んでいるのである。 ただし、主人公のジョバンニを除いて…なのだが… ジョバンニが見た夢の内容なのだろうが、ジョバンニの心の不安が生み出した夢のような気がする。 絵柄は今風の凝ったものではなく、シンプルな構図の絵になっており、良質の絵本を読んでいるような雰囲気になっている。 今見て気になるのは、登場人物が猫のキャラクターになっている中、「リンゴ」の章の家庭教師と二人の子供だけが人間の姿で描かれている点である。 「タイタニック号」をモデルにしているのであろうこのエピソードは人間の世界の話だから区別したと言う事なのだろうか? 猫のキャラクターの方は、今見てもさほど違和感がないのに対し、さすがに人間のキャラクターの方は絵柄が古びているのが惜しい気がする。 この作品、誰にでも分かりやすい内容ではないが、かと言って、何が何だか理解できないと言う事もなく、大人が何度でも繰り返し見返す価値があるように感じられる。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1985年、朝日新聞社+テレビ朝日+日本ヘラルド映画グループ、宮澤賢治原作、別役実脚本、杉井ギサブロー監督作品。 キャスト タイトル 村の小学校 先生(声-金田龍之介)が星座のお話をしています。 では皆さん、ミルクの川と言うのは何かご存知ですか? ジョバンニさん?と先生は指名し、銀河とは何でしょう?と質問するが、ジョバンニは答えられない。 立ち尽くしているジョバンニの事を、周囲の同級生たちがこそこそ噂話し始めたので、自ら立ち上がったカムパネルラも何も答えないで一緒に立ち尽くす。 先生は、仕方が無いと言う風に、立っていた二人を座らせ、たくさんの星が見えるのですと教える。 カムパネルラは分かっているのに、ジョバンニが可哀想だから答えないんだ…と、ザネリ(声-堀絢子)たち同級生がこそこそ話す。 ジョバンニはカムパネルラの家で一緒に本を読んだ事があるんだ。 ジョバンニのお父さん、帰って来ないんだ… 北の海でラッコを密猟して監獄に入れられたんだ…などと、ザネリたちはこそこそ話を止めないので、それが聞こえていたジョバンニやカムパネルラは居心地が悪かった。 授業が終わり、今日は星祭りの日です!と先生は生徒たちに言う。 その後、みんなが帰った後も教室に残っていたジョバンニが廊下に出ると、職員室から標本箱を持って出て来た先生と会い、君のお父さんが持って来てくれたカニの甲羅とかトナカイの角だと声をかけられ、その標本を見せてもらう。 一緒に学校の外に出た先生は、お父さんは帰って来たかね?と聞くので、ジョバンニが黙っていると、そうか…、わしは町外れに用があるから、明日にでもお母さんに会いに行って挨拶しようと言ってくれる。 みんなは川に流すカラスウリを探しに行ったんだな…、君は働いているんだったね?と先生が聞くので、後でカラスウリを流すのを見に行きますと答え、ジョバンニ(声-田中真弓)は先生と別れる。 「活版所」 遅くなりました、主任さん、こんばんは…と挨拶したジョバンニに、これだけ拾ってくれるかね?と言いながら、主任さんはメモを渡す。 黙々と活字を拾っていたジョバンニだったが、仕事中、急に電話が鳴ったので、驚いて集めていた活字を床にこぼしてしまう。 その後、集めた活字の分だけその日の小遣いをもらい、ジョバンニは家路につく。 途中、食料品屋に入りかけたジョバンニは、見知らぬ紳士が店の中から出て来て、この切符を落としたら大変だ、汽車に乗れなくなってしまうとつぶやきながら立ち去るのを見かける。 店に入り、パンと角砂糖を買ったジョバンニは、家に帰り着くと、お母さん、今帰ったよ、具合どう?と病気で寝ている母親に声をかける。 すると、奥の寝室から、今日は涼しくてとても楽だったよと言う母(声-島村佳江)の声が聞こえてくる。 お母さん、牛乳が来てないよ、僕取ってくるよとジョバンニが言うと、姉さんがトマトで何かこしらえていたよ、そこに置いてあるだろう?それを食べてお行きと母は言葉をかけてくる。 食事をしてからでかける事にしたジョバンニは、ねえお母さん、僕、お父さんは間もなく帰ってくると思う。今朝配達しながら新聞を読んだんだ。 お父さんは監獄に入るような悪い事はしてないと思うよ。 カニの甲羅とかトナカイの角など、まだ学校にあるよ。 お父さんの事、みんなが冷やかして言うよ…とジョバンニが話を続けていると、お前の悪口言うのかい?と母が心配そうに聞いて来たので、カムパネルラは言わないよと慌ててジョバンニは答える。 お父さんとカムパネルラのお父さんは友達なんだよと母が言うので、カムパネルラの家には、アルコールで動く汽車があったんだ…と、ジョバンニは、昔遊びに行ったカムパネルラの家の事を思い出す。 今夜は星祭りだね、牛乳を取りに行った帰りに見てくるよとジョバンニが言うと、川に入っちゃいけないよと母が案じて言うので、じゃあ、1時間半で帰ってくるよ!と答え、食事を終えたジョバンニは家を出て行く。 「ケンタウルス祭の夜」 暗い一本道に、ぽつんと一つ電灯がついた電信柱の下を通って行くジョバンニ。 蛍が一匹飛んでいた。 町に来たジョバンニに、突然家から飛び出して来た子供が、ジョバンニ、お父さんがラッコの上着を持ってくるよ!とからかって来たので、何だ、ザネリか…とジョバンニは驚く。 星祭りに向かう人の群れが見えた。 時計屋の前を通りかかったジョバンニは、ショーウィンドーの中に飾ってあった黒曜石に目を奪われる。 その黒曜石の中には、夜空の星のような模様が浮き出ており、見つめていると宇宙に吸い込まれそうな気分になり、学校の先生の事を思い出した所で、はっと気がつく。 そうだ!僕はお母さんの牛乳を取りに行かねば!と思い出したのだ。 山の上の牛乳屋に着いたジョバンニは、こんばんは!今日、牛乳が僕の所に届かなかったんでもらいに来ました!と声を掛けるが、中から返事はなく、誰もいないのかと思っていると、奥の方から、明日にしてくださいと弱々しいおばあさんのような声が聞こえてくる。 明日では困るんですと言うと、誰か汽車にでも乗るんですか?などとそのおばあさんが奇妙なことを言うので、お母さんが病気なんで今日欲しいんですと言うと、では、もう少し立ってから来てくださいとおばあさんは答える。 町では、仮面をかぶった人々が、円陣を組んで歩いていた。 それを見物していたジョバンニに気づいたザネリが、ラッコのおまじないしろよ!とからかって来たので、ジョバンニは走ってその場を離れる。 川面に蛍が舞う橋を渡ったジョバンニは、そのまま山の頂上付近までやって来ると、遠くに町の灯りが見えた。 草原に寝そべり夜空を見上げたジョバンニは、あの一つ一つがみんな星なのか…とつぶやく。 その時、そんな夜空の中心が急に輝いたかと思うと、光りは大きくなり、ジョバンニの方に近づいてくるように見えた。 それは機関車のライトだった。 機関車はジョバンニのすぐ側で停車する。 「銀河ステーション」 いつの間にか、ジョバンニは機関車の座席に乗り込んでいた。 ジョバンニ他には乗客の姿はなく、天井等をじっと見つめる。 ふと気づくと、目の前の席にカムパネルラが座っているではないか! ずいぶん走ったんだけど遅れてしまった…とカムパネルラ(声-坂本千夏)が言うので、他の子たちは?と聞くと、ザネリはもう帰ったよ、お父さんを迎えに来たんだ…と言う。 カムパネルラは身体に着いた水滴を拭いていた。 もうすぐ白鳥のステーションだとカムパネルラが石の地図を取り出して、それを見ながら言うので、すごい地図だね!黒曜石で出来てるね!とジョバン ニは感激する。 駅でもらったんだよ、君、もらわなかったの?とカムパネルラが言うので、ジョバンニは驚く。 あの河原、月夜だったのか…と窓の外を見ながらジョバンニが言うと、月夜じゃないよ、銀河だから光るんだとカムパネルラが教えてくれる。 僕ね、こうして2人で出かけるとか思ってなかった…と、ジョバンニはうれしそうにカムパネルラに告げる。 でもこの汽車石炭使ってないね…、アルコールか… リンドウが咲いてるね?もう秋だね… 僕飛び降りて、あれを採って、又飛び乗ってみせようか?とうきうきした気持になったジョバンニが言うと、もうダメだ、あんなに遠くになってしまった…とカムパネルラが言う。 「北十字」 お母さんは僕を許してくださるだろうか…、僕はお母さんを幸せにしたい、何が一番幸せなんだろう?と急にカムパネルラが言い出したので、君のお母さん、何も悪くないじゃない…とジョバンニは不思議がる。 窓の外の青い川の中に十字架が見えた。 「プリオシン海岸」 もうすぐ白鳥のステーションだね?とジョバンニが言うと、11時きっかりにね…とカムパネルラも答える。 駅に着いたので、僕たちも降りないか?とジョバンニが提案し、少し歩こうか…と駅構内を歩き始める。 大きな駅だね…、みんなどこへ行ったんだろう?誰もいないね…と、荷物だけが置いてあるベンチを見ながらジョバンニは不思議がる。 一つのベンチの上では、音楽家が置いて行ったのか、メトロノームが動いていた。 まっすぐ歩こう!とカムパネルラが言うので、どうして?とジョバンニが聞くと、小さな扉があるとカムパネルラは言う。 その扉の奥には下に伸びる階段があったので、降りてみようか?と言う事になり、二人は階段を降りだす。 会談は暗い空間の下へと延びており、その周囲に、光る四面体のようなものが飛んで行く。 やがて2人は町のような所へ到着する。 しかし、そこにも誰もいなかった。 建物の壁に何か書いてあるのに気づいたが、その町を抜けてみると、また階段があった。 一体どこまで降りるんだろう?と不安がりながら、2人は階段を降りて行くと、そこには海岸の砂浜が広がっていた。 水に手を入れてみると、砂金のように輝く砂が掬い上げられる。 少し海岸を歩いてみると、誰かがいる事に気づいたので行ってみようと言う事になり、2人は走り出す。 その時、カムパネルラは、砂に埋まっているクルミの実に気づき、掘り出してみる。 大きなクルミの実の化石はそこら中の砂浜に埋もれていた。 あそこに行ってみよう!きっと何か掘っているんだ!と言いながら、人声がする砲兵って見ると、そこでは、学校の先生そっくりの学者(声-金田龍之介)が、学生たちに何かを発掘させていた。 ジョバンニたちに気づいた学者は、君たちは参観かね?と聞き、カムパネルラが持っているクルミの実の化石を見ると、120万年くらい前のクルミだよ、ここは120万年前の海岸ですと教えてくれる。 今掘っているボスと言うのは牛の先祖です。ここは立派な地層でね、厚い地層だ…などと熱心に説明してくれていたが、カムパネルラが、もう時間だよとジョバンニに知らせたので、じゃあ、失礼します!と先生に挨拶し、2人はプリオシン海岸を立ち去る。 階段を上り町に戻って来た2人は、町の様子がさっきとは違っており、みんな石になっている事に気づく。 急ごう!とまた階段を上り始めると、石の町は崩れ始める。 駅では、汽車の汽笛が聞こえて来たので、あわてて二人は列車に飛び乗る。 僕たちは今、120万年を駆け抜けて来たんだ、風のようにね…と座席に座ったカムパネルラが言う。 その言葉を証明するように、ジョバンニが持って帰って来たクルミの実の化石は、見ている間に手のひらの上で風化して消え去ってしまう。 「鳥を捕る人」 ここにかけても良うございますか?とジョバンニの横の席にやって来た男が言い、網棚に大きな袋を押し上げる。 その時、カブトムシのようなものの影が天井に大きく写る。 席に着いたその男は、あなた方はどちらへ行くんですか?と聞いて来たので、どこまでも行くんですと答えたカムパネルラが、あなたはどちらへ?と聞き返す。 すると男は、私はすぐ降ります、鳥を捕まえるんです、食べるんですと言う。 食べるんですか?とジョバンニが驚くと、みんな食べてますと答えた男は、今捕って来たばかりのサギですと言いながら、袋の中から鳥を一羽引っ張りだすと、これを毎日食べるのですと言いながら、足の部分を折って、少し食べてごらんなさいとジョバンニとカムパネルラに勧める。 恐る恐る食べてみたジョバンニは、何だ、これお菓子だ!と驚く。 すると、隣のボックス席に座っていた乗客の燈台守(常田富士男)が、見事なサギですな~、今年のサギは数が多くて、灯台を点滅させるのかって文句言われましたよ…などと声をかけてくる。 やがて、鳥を捕る人は列車を降りて行くが、ジョバンニたちが窓の外を見ると、あれ?あんな所にいる!と男の姿を発見する。 見ていると、男のいる上空にたくさんのサギが飛来してくる。 それを手づかみで捕っては、袋に詰めて行く男 やがて、サギは力つきて来たかのように降って来たので、男はそれを下で受け止めるのだった。 ああ清々した…、身体に見合うだけ捕るのが良いですね。鶴もいますからね…と隣の席の燈台守が言う。 「盲目の無線技師」 ジョバンニたちの車両に、杖をついた目の具自由な男が入ってくる。 席に着こうとして転んだので、カムパネルラが助け起こしてやり、ジョバンニは倒れた杖を拾ってやる。 僕に捕まってくださいと声をかけ、ジョバンニとカムパネルラが男の身体を支えながら、隣の車両へ連れて行く。 ここですね?と確認し、無線機の前に男を座らせる。 何か聞こえるんですか?何が聞こえるんですか?と聞くと、分からん…、さっきからずっと聞こえるんだが…と無線技師が言うので、何を言ってるんですか?と聞くと、書き取ってくれ!と無線技師はジョバンニに頼んでくる。 雑音がひどい…、さっきから繰り返し繰り返し無線に入ってくるんだ…と無線技師は音に耳をそばだてる。 「アルビレオの観測所」 書き取った文字を自分の席に戻って呼んだジョバンニだったが、全く意味が分からない。 360番?誰かが声を上げる。 誰かがどこかで召されようとしておるぞ…と、離れた所の席に座っていた見知らぬ客が声をかけてくる。 アルビレオの観測所がそこに見えてるよとカムパネルラが言う。 無人の黒い町が見えてくる。 そこには、燈台のように回転する光が見えた。 「ジョバンニの切符」 検札ですよ!と先ほどの鳥を捕る男が教えにくる。 切符を拝見しますと言いながら車掌が車両にやって来たので、ジョバンニの隣に座った鳥を捕る男はポケットから切符を出して差し出す。 それを見ていたジョバンニは焦る。 自分は切符を買ってなかったからだ。 ジョバンニがポケットを探る振りをしていると、カムパネルラも同じようにポケットを探っている。 そのうち、ジョバンニは、ポケットの中に何か入っている事に気づき取り出すと、それは切符のようだったので車掌に見せる。 すると車掌は、ほお!と感心したように切符を見て、これは三次元空間の方からお持ちになったものですね、宜しゅうございますと納得する。 サザンクロスに着きますか?と聞くと、次の3時頃になりますと車掌は答えて去ってゆく。 その後、ジョバンニの切符を見た鳥を捕る男は、これは大したものですよ、天井まで行けるものです。どうりでこの辺の連中とは違うと思ったなどと世辞を言ってくる。 もうすぐ鷲のステーションだねとジョバンニが言うと、あの人どこへ行ったんだろう?と窓を開けながらカムパネルラが不思議がる。 今までジョバンニの横に座っていたはずの、鳥を捕る男がいなくなっていたからだ。 僕、もう少しあの人と話しておけば良かった…、あの人が邪魔のような気がしたんで…、だから…とジョバンニが後悔しているように言うと、僕もだよ…とカムパネルラも頷く。 「リンゴ」 何でかリンゴの匂いがする…とカムパネルラが言い出す。 本当だ!リンゴの匂いだ!とジョバンニも気づく。 その時、後ろの入り口から、幼い男の子と少女を連れた青年が入ってくる。 男の子と女の子をジョバンニとカムパネルラの隣に座らせた青年は、氷山にぶつかって、船が沈みましてね…、私は家庭教師ですと自己紹介する。 月の明かりがぼんやりありましたが、霧が深かったのです…と家庭教師は言う。 ジョバンニはその時、客船が氷山にぶつかる光景を見る。 水が船内に押し寄せて来て、たちまち船が傾きだし、乗船客たちは必死に避難しようとしていた。 救命ボートが下ろされ、乗船客たちは我がちにそれに乗り込もうとする。 家庭教師も人込みをかき分け子供たちをボートに乗せようとしていたが、そんなにするより神の力に任せようと思い… お母さんが泣いたり、お父さんが哀しむのを思うと、この子たちと一緒にいてやろうと… 家庭教師と男の子と少女が沈んで行くイメージが見えた。 何が幸せか分からない…、一番の幸せになるための思し召しです… 目の前に落ちて来た小さな片方の靴を、家庭教師は脱げていた男の子に履かせてやる。 その時、燈台守が、いかがです、リンゴは?と言いながら差し出してくる。 立派ですね~と家庭教師がリンゴに感心すると、まあ、お取りなさいと灯台守りは勧める。 あなた方もいかがです?と言った燈台守は、持っていたリンゴを手品のようにもう一つ増やすとジョバンニも手渡す。 ジョバンニはそのリンゴをもう一つ増やし、前に座っていたカムパネルラに渡す。 この辺ではひとりでに出来るようになっていますと燈台守は言うので、ジョバンニはさらに増やしたリンゴを男の子と少女にも手渡す。 それまで寝ていた男の子は、僕今お母さんの夢見てたの…、お母さんがリンゴ挙げるわって言ってた…と、大きなリンゴを持って無邪気に言う。 とっても良い匂い…、さっきからこの匂いに気づいていたわ…と少女がリンゴを見ながら言うが、その時、窓の外を見て、まあ!カラス!と声を上げる。 みんなカササギだよと、少女の隣に座っていたカムパネルラが教える。 あっ!リンゴだ!と男のが窓の外を見て叫ぶ。 外には、たくさんのリンゴが成ったたくさんのリンゴの森が見える。 その森に飛んで来たカササギが、木に留るとリンゴに変身して行く。 その時、306番だ!とカムパネルラが言い出す。 「新世界交響曲」 ジョバンニが窓を開けると、広大なトウモロコシ畑が見えてくる。 駅だよと言うと、その駅の上空には巨大な振り子がゆっくり動いている時計が浮かんでいた。 時刻は二時を指している。 あっ!新世界交響曲!と少女が気づく。 音楽が聞こえる中、家庭教師、男の子、燈台守の3人は眠り込んでいた。 ジョバンニは、小さな一軒家の前に立ってこちらを見ている男の子の姿を見る。 あの子、知ってるわ!と少女が言うと、僕も知ってる…、きっとどっかで会っているんだね…とジョバンニも答える 「さそりの火」 あれ?何の火だろう?と窓の外を見ていたジョバンニがつぶやく。 さそりの火だな…とカムパネルラが答える。 さそりが焼けて死んだのよ…と少女が教える。 尾に毒があって、それに刺されると死ぬって先生言ってたよと男の子も知識を披露する。 イタチに追いかけられたさそりは、ああ私は、いくつの命を取ったんだろう?それが今度はイタチに追いかけられている…、どうして黙ってイタチにやられなかったんだろう?真のみんなのためになろう!私のこの命をお使いください… それからいつからか、さそりは火になって夜を照らすようになったんですって…と少女が伝説を話す。 いつの間にか、燈台守の姿も消えていた。 「南十字」 きれいね… ここはケンタウルスの村だよとカムパネルラが少女に教える。 今日は星祭りの夜だねとジョバンニが言うと、ケンタウルスの祭、やってるわ!と窓の外を見ながら少女が言う。 もうすぐサザンクロスです、降りる支度をしてくださいと車掌が言いにくる。 すると、男の子が、僕、もうちょっと乗ってからにしてくださいと言い出したので、でも私たちはここで降りなくちゃ…と少女が言い聞かす。 ジョバンニの車両の通路を大勢の乗客たちがゾロゾロと降り始める。 今までこの人たちはどこに乗っていたのだろう?と不思議に感じるくらいの人数だった。 さあ降りますよ!と「家庭教師が男の子と少女に声をかける。 じゃあ、さようなら…と少女と男の子はジョバンニたちに挨拶し、いつしか聞こえて来た「ハレルヤ」の歌の中、列車を降りて行く。 ジョバンニが窓から外を見ると、遠くに巨大な光る十字架が立っており、そこに向かって大勢の白い精霊のような人々が列を作って向かっているのが見えた。 僕たち二人きりになったね…とつぶやいたジョバンニが、ねえ、このままどこまでも一緒に行こう!僕はいつも君と一緒だと言うと、前の席に座っているカムパネルラも、僕もだ…と答える。 けれど、僕たちはどこへ行くんだろう…とジョバンニが聞くと、僕、分からないとカムパネルラは言う。 僕たち一緒だね!ともう一度ジョバンニは話しかけるが、何故かカムパネルラは涙ぐんでいた。 「石炭袋」 窓の外の夜空に大きな黒い部分が見えてくる。 石炭袋だよ、空の穴だよ…とカムパネルラは言い、大丈夫だよ、一緒に進んで行こう…と、不安そうなジョバンニを励ますが、ああ、あそこの野原、なんてきれいなんだろう!本当の天井なんだね…、あそこにいるのが僕の母さんだよ…と、窓の外を見ながら感動したようにつぶやく。 しかし、ジョバンニには、窓の外にそうしたものは何も見えなかった。 暗い夜道の中にぽつんと立っている電信柱の灯りが見える。 カムパネルラ…、僕たち一緒に行こうね…とジョバンニはまた確認するが、気がつくと、今まで目の前に座っていたカムパネルラの姿が消えていた。 驚いたジョバンニは席を立ち上がり、周囲の席を探しまわるが、どこにもカムパネルラはいなかった。 他の車両も探しまわって行くと、後部車両の方に歩いて行くカムパネルラを見つけたので、どこに行くの?と声をかける。 ジョバンニ、さようなら…と言いながら、カムパネルラは一番後ろの車両の後部ドアを開けて外に出て行く。 あっ!カムパネルラ!待って!どこまでも一緒だって言ったじゃないか!とジョバンニは呼びかけるが、さようなら…、ジョバンニ…と言いながら、カムパネルラの姿は、走り去る闇の中に消えて行く。 ブラッックホールのような「石炭袋」の中に吸い込まれて行く機関車 元の座席に戻って来たジョバンニは、カムパネルラ〜!と叫んで、1人泣き始める。 その時、また巨大な光に包まれる。 遠くに町の灯りが見え、気がつくとジョバンニは、あの山の頂上で目覚めていた。 「黒い川」 夜空を見上げると、天の河の中に黒い川のような部分が見える。 あっ!そうだ!お母さんはまだ夕ご飯を食べないで待っているんだ!と思い出したジョバンニは、急いで山の上の牛乳屋に再びやってくる。 今度は若い牛乳屋がいたので、今日、牛乳が僕の所に届いてないんです!と伝えると、今、柵を開けていたもんだから…、すいませんでした…と牛乳屋は恐縮するので、頂いて行きます!と、受け取った牛乳瓶を持ってジョバンニは走り出す。 夜道を帰っていたジョバンニは、途中で同級生のワルサが慌てているのに出会ったので、どうした?と聞くと、みんな川の所にいる!カラスウリを川に流そうとザネリが船の中で立ち上がったので、船が揺れ落ちたんだ! その時、カンパネラが川に入ってザネリを助け上げたんだけど、そのカムパネルラは沈んでしまったんだ。 今、カムパネルラのお父さんも来た。まだ見つからないんだ!と言う。 驚いて川の所へやって来たジョバンニだったが、大人たちが川に船を出し、灯りを照らした船の上から棒で川の中を探していた。 が聞こえてくる。 カムパネルラ! あなたはジョバンニさんでしたね?と声をかけて来たのはカムパネルラの父親だった。 今日はありがとうと話しかけて来た父親は、おととい、君のお父さんから元気な便りがあったよ。今日あたり着くはずだ。明日の夕方、うちに遊びに来てくださいと言うと、帰ってゆく。 僕は、カムパネルラが銀河の向こうに行っている事を知っている… 僕はカムパネルラと一緒に歩いて来たんだ… 僕はもうあのさそりのように、みんなの幸せのために、僕の身体を100ぺん焼いても構わない… カムパネルラ! どこまでもどこまでも一緒に行くよ! そう心に思いながら、ジョバンニは牛乳瓶を抱え、母の待つ家に走り出すのだった。 エンドロール 詩集「春と修羅』の「序」の一節が朗読され… 「ここよりはじまる」…のテロップ |