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二人の息子

 

松山善三さんのオリジナル脚本で、老いた両親の扶養を巡り、一流会社に勤める兄と、学歴もなく素行も悪かった弟の対立を軸に、家族の儚さと結びつきを描いた、地味ながらも考えさせる話になっている。

兄役の宝田明さんは、当時お馴染みのさわやかなエリート風の好青年を演じているのだが、弟役の加山雄三さんの方は、ちょっと不良の過去がある貧しいながらも親思いの青年を演じているのが珍しい。

妹役藤山陽子さんは、この当時の東宝を代表する清楚なお嬢様役などがに合う美人女優なのだが、こちらも珍しく、貧乏な家の娘を演じており、途中から裕福さへの欲望に目覚め恋人を裏切ると言う、ちょっと複雑なキャラクターを演じている。

主人公は一見宝田さんのようでもあり、父親役の藤原釜足の方のようにも見える。

周囲から人柄が良いと褒められている宝田さんが、会社を訪ねて来た足の悪い父親を、無言の早足で人気のない場所まで連れて行くシーンはちょっと怖い。

杖をついた足の悪い父親が必死にエリートの息子の後を無言で追う様が、今の二人の関係を象徴しているからだ。

優秀な長男からは今冷たくあしらわれ、子供時代はきつく当たって来た弟から面倒を見られている老いた父親の惨めさ。

教育者でありながら、自分の息子たちの性格を見抜けなかった自分の愚かさ、高利貸しに騙され恩給まで巻き上げられた自分の世間知らずぶり、馬鹿正直ぶり…、この父親は、老いてようやくそんな自分の愚かさに気づいたのだ。

しかし、その息子や娘たちも、少し良い生活を手に入れようとわずかばかりの欲を持ったためか、手痛いしっぺ返しを食らう。

一番賢く、家族から距離を取り、そう言ったしっぺ返しを要領よく切り抜けようとしていた長男も、いつしか自分の心の卑しさに気づき…と言う展開になっている。

白川由美さんが演じている宝田さんの妻役も、小さな幸せを守ろうとする現実味のある現代女性で人柄も悪くない。

登場する人物で嫌なキャラクターは一人もいないのである。

なのに、不幸が起きる理不尽さ…

全体的には加山さん演じる弟の性格のまっすぐさが見ていて気持よく、貧乏話特有の暗さを救っている感じがする。

親兄弟がいる者にとっては人ごとではない真実みがあり、最後はそれなりに感動できる結末になっている。

地味ながら傑作だと思う。

ちなみに、宝田さんと白川さん夫婦の娘役を演じている坂部のり子ちゃんは、「ウルトラQ」「悪魔ッ子」のリリーを演じた子役で、この映画ではかなり幼い。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1961年、東宝、松山善三脚本、千葉泰樹監督作品。

団地の部屋を出て、階段を降り、下に来た赤木健介(宝田明)は、パパ、行ってらっしゃい!と部屋のベランダから見送る娘の由美(坂部のり子)とその由美を抱いている妻の葉子(白川由美)に手を振ると出かけていく。

丸の内にある大手海運会社のビルに出社した健介は、今日は二日酔いで頭がぐらぐらします、その件なら13日に船をて比しておきましたなどと取引相手と話し、電話を切る。

そこに、夕べ夜中の3時まで同じ接待で飲み歩いた同僚の所沢(堺左千夫)が近づいて来て、夕べ飲み歩いた店はみんな会社のつけが聞く所で、それでも自分の給料と同じ2万3000円立て替えておきましたから…と話しかけてくる。

そこにやって来た同僚の品田(藤木悠)が、毎晩飲んだり食ったりで仕事ができるんだから良いよな〜などと嫌みを言って来たので、何ならいつでも交代しますよと健介は答える。

そこに、今、部長に報告して来たと言いながら戻って来た課長は、今回の仕事が決まったのも君の人柄だよ、その誠実そうな顔が相手に信用されるんだ、これからは仕事も人柄だな、またよろしく頼むよなどと健介にお世辞を言ってくる。

もうそろそろ昼か…と立ち上がりかけた課長の所に慌ててやって来た所沢が、夕べ自分が立て替えた請求書を渡す。

その時、社内アナウンスで、購買部で電気冷蔵庫やルームクーラーを仕入れましたと言うので、女ってどうして冷蔵庫好きなんだろう?と品田は首を傾げる。

購買部に出向いた健介は、一ヶ月に三貫目も使う氷がいらなくなるだけじゃなく、氷を作っちゃうとセールスマン(大村千吉)が宣伝していた冷蔵庫を買う事にする。

エレベーターに乗り込んだ健介は、妹でエレベーターガールをしていた紀子(藤山陽子)から、お兄ちゃん、親父が来ているわよと教えられる。

エレベーターを下りると、足の悪い父親の信三郎(藤原釜足)が待っていたので、無言で会社を出ると、杖をついている父親の歩くスピードも無視して人気のない会社の横に来ると、父さん、会社へ来ないでくれって言ったでしょう?と叱る。

話があるんだ、裁判所を辞めたんだと父が言うので、首になったの?と健介が驚くと、辞めたんだよ、意見が合わなかったんでと父は言う。

父さん、臨時雇いでしょう?意見言う必要ないんだから!いくら広い東京だからって、60過ぎた所帯持ちを雇ってくれる所ないぜ…と呆れた健介だったが、今晩行きますと言うと、忙しいからと言ってさっさと分かれる。

エレベーターに乗り込んだ健介は、親父のバカやろう、裁判所を首になったんだよ、今日、正二は?と紀子に聞くと、いると思うわと紀子が言うので、帰りに行くよと伝える。

夜、実家にやって来た健介は、まずいよ、いきなり辞めるなんて!と父親に文句を言うと、父と一緒に暮らしている弟の正二が、だから、どうにかしようって相談してるんじゃないかと答える。

詫びを入れて、もういっぺん勤める事できないの?勤め辞めたらこの家の家賃も払えないだろうと言うので、この家は前の所長の世話で借りたんだから…、今時、月1500円の家なんかないよ、橋の下にすむ敷かないんじゃないのと健介は呆れたように言う。

俺と紀子はどうにでもするよ、親父とお袋を住まわせてやってくれないかと正二が頼むと、俺の所、6畳と3畳で、3畳の方は荷物置き場みたいになっているよと健介が言うと、それでも橋の下よりましだろ?と正二が口を出す。

裁判所の退職金は?と健介が聞くと、20万だってよ、半年で食いつぶしてしまうよと正二は言う。

養老院でも行ってもらうんだなと健介が言うと、健介!と怒鳴りながら、父親は湯のみを硝子戸に投げつけてくる。

団地に帰ってきた健介は、今日、冷蔵庫来たわよ、運び上げる途中、みんなに見せびらかすような形になっちゃって…とうれしそうに言う葉子から、どうしたの?と聞かれたので、家に寄って来たんだ。親父の奴、裁判所辞めやがって…と答える。

すると葉子は、まさか私たちの所にくるんじゃないでしょうね?私嫌よ、子供が生まれても、顔も見に来なかったくせに…、私みたいに、親兄弟がいない方が良いわね…などと言い出す。

その時、寝ていた由美が起きて来たので、私、絶対に嫌よと言いながらも、冷蔵庫で冷やしておいたビールを出してやる。

由美を抱き上げ冷えたビールを飲んだ健介は、電気冷蔵庫も良いな…などと言いながら、由美にはバーで買わされたガムを与える。

実家では、母さん、兄ちゃんがバーの女給と一緒になった時、父ちゃんが何と言ったか覚えている?年取ったら、子供が面倒見てくれるだろうと思っていたんだろうけど…、3〜40年も学校の先生やって校長までやったのに食えないなんて…、人様のために判子を押したばかりに恩給もなくなるなんて…と正二が母(望月優子)に話していた。

退職金のうち、色々引かれて15万くらいにしかならないと母から聞いた正二は、その15万俺にくれないか?俺それに10万足して車か生んだ。白タクやるんだよ。その代わり、父さんには酒も煙草も止めてもらうと言うと、こんなものいつだって止められる!とタバコを消しながら父は言い、わしはどうして良いのか分からないなどと言うので、じゃあ、そうしてくれと正二は頼む。

翌朝、出社した健介は、出社途中の妹の紀子を見かけたので声を掛けると、一緒に歩いていた寺岡(田浦正巳)が先に去って行く。

あんな奴とつきあうのは止めろと健介が注意すると、寺岡さんがボイラーマンだから?ああ見えても優秀なのよ、夜通っている電気工学科で1番なんですって、私が通っているタイプの学校と近いのよ。私、今度は速記を習おうと思うのと紀子は言う。

その時、車から降りて来た阿部部長(小泉博)に健介がおはようございますと挨拶すると、赤木紀子ですと紀子は挨拶し、君も赤木だったね?と阿部は健介に聞くので、妹なんですと健介は紹介する。

美人がいると、エレベーターに乗るのが楽しいよと阿部は冗談めかして言う。

一方、タクシー会社に勤めていた正二は、出前の丼ものを食べていた社長(丘寵児)に会うと、辞めさせてもらって、兄の会社の事務員にでも使ってもらおうと思っていると嘘の申告をする。

それを聞いた社長は、白タクでもやるつもりじゃないのか?サラリーマンなんて、あんなもののどこが良いんだ?この仕事なら一国一城の主じゃないかと呆れたように答える。

社長室を出た正二は、事務員のさち(浜美枝)にも、会社を辞める事になったと報告する。

さっちゃん、元気でな…、本当の事言うとここ辞めたくないんだ…、もう会う事ないから言うけど、好きだったんだ。 親父は好きじゃないんだけど、親父のために2〜3年働いてやろうと思ってさ…と正二が言うと、でも、2〜3年も、私、待てないわよ、良い人いたら結婚するわよ。道であったら挨拶しようねとさちは良い、2人拍手して分かれる。

その後、正二は中古自動車屋に行き、中古車の値段を聞くと、店員(岡豊)は34万2000円と言うので、負けてくれないかと頼むが、無理だと言われてしまう。

翌日、会社で健介に会った紀子は、小さい兄ちゃんが車を買うのに3万円足りないのよと相談するが、もっと易いの買えば良いだろと答えると、遊びじゃなく商売用だから安いのはダメだって…と紀子は伝える。

3万どころか3000円も出せないよ、先月冷蔵庫を買ったんだよと健介は断るが、今朝会った部長、昨年亡くなった阿部専務の息子さんだ。お前の事気に入ったらしくて、タイプを習っていると言ったら、秘書課に欲しいって言ってたぞと紀子に教える。

化粧品のセールスマンが来ていたエレベーターガールの控え室に戻って来た紀子は、今月買えなくなっちゃったのよと断る。

他の同僚は、コルセットないかしら?日本製はすぐ伸びるのよと聞くと、あれ高いのよ、2500円かもっと上よとセールスマンのおばさんは言う。

その後、エレベーター勤務に就いた紀子は、客と乗り込んで来た健介が、800万?そりゃ安い!などとバカ話をしているのを聞き、むっとしながらも、利用階数を聞く。

8階の屋上まで来たとき、そこに寺岡がいて、先に乗り込むと、故障ですから、そっちのに乗ってくださいと後続の客たちに勝手に言うと扉を閉めさせる。

課長や品田たちが降りてくるエレベーターを持っていると、なかなか降りて来ないどころか、途中でまた上がって行ったのでみんな不思議がるが、実はエレベーター内で、寺岡が紀子とキスをしていたのだった。

卒業したら結婚を申し込むつもりだと寺岡が紅潮した顔で言うと、結婚なんてつまらないわ、家のお父さんとお母さん、幸せそうじゃないもの…と、紀子は暗い表情で答える。

父の信三郎は、旧友である日本画家の安藤久満(志村喬)を訪ねていた。

世の中が変わったんだから、人が変わるのは当たり前だと信三郎の話を聞き答える。

理屈は分かるんだよ、でも、60年間何をしてたのかって思うんだ、君は成功者だよ。自分は教育者だったが、自分の子は教育できなかった…と信三郎は嘆く。

教育が有効だったのは明治末期までだろう?と安藤が答えていると、安藤の妻(東郷晴子)が、あなた、ちょっと…と部屋の外に呼び、2000円で宜しいですか?と安藤に聞く。

安藤は良いだろうと答える。

退社後、健介は所沢と品田とおでん屋で飲んでいた。 世の中、結局金だよ、俺たちもあっという間に定年だ…などと品田がぼやく。

課長ももうすぐ定年だろ?課長じゃ横滑りも出来ないし…、大学生の息子が2人いるそうだよなどと雑談していた健介だったが、親の面倒を見るのも大変だよ。所沢はもう両親が亡くなっているので良いよなどと言う。

挙げ句の果てに、おでん屋の主人(織田政雄)まで、大学に行っている長男が跡を継いでくれそうにもなく、この店は自分が最後までやるしかないですね〜、大学でおでん教えるわけないですし…などと愚痴るので、全くだ…と健介も同意する。

その後、別の店のホステス2人(忍和代、田辺和佳子)と所沢とともにタクシーで帰ってくる健介。

健介を下ろした後、赤木さんって人の良さそうな人ねとホステスが褒めると、今に課長になるんじゃないかって言われてるんだと所沢は教える。

自宅に帰って来た健介は、今日、部長に呼ばれて、紀子を秘書課にしないかって言うんだ、部長は俺より1つ上だよと話すと、葉子は、今は、再婚でも相手がしっかりしていれば良いのよ、紀子さん、ボーイフレンドは?と聞く。

会社のボイラーマンとつきあっていると健介が教えると、ダメよ、今度、紀子ちゃん呼んでよ、色々教えるから…と葉子は言い、私、あなたに偉くなってもらいたいわ…。今日、由美が下の方の息子さんに泣かされたのよ、子供の間でもそう云うのがあるのね。わらでもすがらなくっちゃと言うので、そう尻を叩くなよ…と健介はぼやく。

一方、中古車を何とか手に入れ、白タクを始めた正二は、実家の側にやって来て、バケツに水を汲んで、車の掃除を手伝う父親に「しんせい」を1本恵んでやる。

その後、正二は健介に電話をし、相談があると言うと、会社じゃない方が良いと返事した健介は、会社の側に来た正二の車に乗り込む事になる。

親父、どうしてる?と健介が聞くと、毎日仕事探してるよと正二が言うので、ニコヨンでもやるのならともかく…、大体、裁判所辞めたのがいけなかったんだ!と健介は苛立つ。

家の方はどうした?と聞くと、今年一杯は居させてもらえると正二は言う。

車を降り、人気のない場所に降り立った正二に、健介は「ラーク」を勧める。

生活費は俺が何とかするから、兄ちゃん、おふくろに3000円にやってくれないか?親父が車を掃除するふりして、灰皿からシケモク拾ってるの見てるとたまんないんだと正二は頼む。 最近、紀子も反抗的になって…と正二が言うと、もう子供じゃないんだから…と健介は言い聞かそうとするが、やたら、物をもらってくるんだ、ハイヒールとか…と正二が言うのは、部長からのプレゼントの事らしかったので、俺が信頼している部長だよ、親父たちに変に気をまわすなと言っといてくれと健介は言う。

「王子公共職業安定所」から出て来た信三郎は、杖をついて、力なく帰宅の途に付く。 職安の職員たちは信三郎の履歴書を見ながら、元校長か…、こいつは潰しがきかないな…、でも字は巧いねと話し合っていた。

信三郎は、ふと側の代書屋に目をやる。

その店先では老人(夏木順平)が客を待たせて代書をしていたが、筆が遅く、店の主人(佐田豊)から叱られていた。

その時、道にタバコの吸いかけが落ちていたので、立ち止まって物欲しげに見つめた信三郎だったが、自分の浅ましさに苛立ったように、そのタバコを踏みつけて歩く。

その夜、レストランで紀子と食事をしていた阿部部長は、1日に3箱も煙草を吸うと話していた。

そんなに飲まれては毒ですわと紀子が案ずると、あなた、私みたいな年寄りとつきあって楽しいですか?と阿部は聞く。

正直に言うと、私、こういう贅沢が好きになりそうなんです、うちではいつもコロッケとたくあんしか食べてないので、こういう生活を約束すると言うと私の言う事聞いてくれますか?私のような年寄りが言うには、約束手形でも出さないと聞いてもらえないんじゃないかと思って…と阿部はおずおずと言う。

亡くなった妻は、父の遠い親戚で、秋田から出て来たんだが、東京の生活が合わなかったんでしょう…と阿部は打ち明ける。

その日、帰宅した健介から、正二から頼まれた話を聞かされた葉子は、冗談じゃないわ、3000円も出せないわ!とふくれたので、何とかならないかな…と健介は頼む。

どうしてもと言うなら、私、また、勤めに出るわよなどと葉子は言い出す。

冷蔵庫、来年にしたら良かったな…と健介がぼやくと、今より下の生活をするのなら、結婚しなかった方が良かったわ…、私、冷たい女だと思うでしょう?でも、何故私たちの生活が他の人に壊されなきゃいけないの!嫌な奥さんね…、ごめんなさい…と葉子は自虐的に言う。

夜、自宅に戻って来た正二を待っていた母は、卵一つあるよ、おつゆに入れるかい?そのまま飲むかい?栄養取らないとね…と身体を案ずる。

今日、兄ちゃんに会ったよ。毎月3000円入れろって言ったら、青くなってたよと正二が言うと、あんなに大きな会社に行っててそんなに苦しいのかね…と母の顔も曇る。

母さんたち、いつも兄ちゃんばかりかわいがっていたよな…と正二が言うと、そんな事ないよと母は否定するが、前に親父から、兄ちゃんさえ生きてりゃ、俺なんか居なくても良いと言われた…、いつも俺だけ殴られた…、褒められたのは、少年航空兵になるって言ったときだけだ…と正二は続ける。

それは、校長としてみんなの手前、仕方なかったんだよと母はなだめるが、航空兵にはなれなくて、今じゃ白タクの運転手なんかになってりゃ世話ないな…と正二は自虐的に言う。

そんな正二の話を、隣の部屋で寝床についていた父信三郎は、目を開けてしっかり聞いていた。

ある日、エレベーターガールの休憩室に遊びに来ていた寺岡は、他のエレベーターガールから、トランプ占いなどしてもらっていた。

紀子とはどうなってるの?さっさと紀子を取っ捕まえてキスしちゃいなよ。結局、女はそう云うのにぐっと来ちゃうのよなどと同僚たちは無責任に寺岡を焚き付ける。

家で新聞を畳む内職をしていた母は、一緒に手伝っていた信三郎がその新聞記事に目を留め、子供の生み分けが出来るらしいな…、わしたちはどうだったかな?お前は女が2人欲しかったんだよなと話しかける。

あなたは、男が5人とか言ってたわよと母も応じる。 お前は3人のうち誰が一番好きだった?みんな口には出さないが、どこの親だってそう云うのあると思うんだ…などと信三郎が聞くので、この前の話、聞いてたんですか?と母は気づく。

わしは、紀子が一番好きだなどと信三郎が言うので、あなた、女の子は嫌いだって言ってたじゃないですかと母が呆れると、男の子は怖いよ…と信三郎はつぶやく。

その日、帰宅して来た紀子は、車からニワトリをぶら下げて降りて来た正二と出会う。

訳を聞くと、練馬で撥ねたんで、しょうがなく買って来た、今日は鳥鍋にするから、お前、野菜買って来いと正二は言う。

その日の夕食時、兄ちゃん、今度、牛を撥ねたら?と紀子が鳥鍋を食べながら冗談を言う。

久々のごちそうに、卵つけたら旨いだろうな…と信三郎が言い出したので、今まで卵なんてつけた事なかったじゃないと紀子が言うと、昔はいつもそうだったんだよと母が教える。

卵出してあげなよと正二が言うと、母が1つ残っていた卵を出して信三郎に渡す。

しかし、信三郎は良いよ、言ってみただけだよと遠慮する。

食べれば良いじゃないかと正二も勧めるが、良いんだってと信三郎は我を張る。

いらないったらいらないんだ!と信三郎は怒りだし、卵を邪見にテーブルから退けようとして、とうとう落として割ってしまう。

割れた卵を拾い上げながら、もう割れたんだからお父さん食べてとのり子は言うが、それでも信三郎が素直にならないので、だったら最初から言わなきゃ良いんじゃない!と言う紀子の頬を信三郎は思わずぶってしまう。

紀子は、父さんなんて、何よ!私なんかより大きい兄ちゃんを怒ったら良いじゃない!養老院に行けなんて言われた癖に、何も言えなかったじゃない!と頬を押さえて涙ながらに言い返す。

生活力がない親は親じゃないと言うのか!と信三郎が切れると、紀子は泣き出し、その場を逃げ出すように、正二はまた仕事に出かける。

次の日曜日、葉子は家で大量の卵を割り、ホットケーキを作っていたが、そこにひょっこり正二が訪ねてくる。

大磯まで来たので…と言う正二は、兄さんは?と聞くので、由美と一緒に浜に出て行ったわ、ちょうどいいから連れて帰ってきて、ホットケーキ焼くからと葉子は頼む。

浜では健介が釣りをしていた。 この近くまで来たものだからと言いながら正二が近づくと、日曜日も仕事か、大変だな…と同情した健介は、俺の方も、今日は今月初めての休暇なんだと言う。

兄ちゃん、この間の事なんだけど…と正二が切り出すと、会いにくかったんだよ、自分自身が情けなくてな…と言い訳しながら、3000円は無理なんだ、1500円くらいなら…と健介が言うので、兄ちゃん、俺、強請りに来たんじゃないよと正二は呆れる。

何故、その金先月送ってくれなかったんだ?俺、今日まで待ってたのに…と正二が不満げに言うと、世の中のバランスが狂っているんだなどと健介が妙なへりくつを言い出したので、俺、大学出てないから分かんないけど、冷蔵庫にミキサーがあって、ホットケーキ焼いてて金がないの?もう父ちゃんと母ちゃんは俺が見る、兄ちゃんは薄汚い人間だ!もう俺の前をちょろちょろしないでくれ!と正二は言い捨てる。

由美を連れた健介が帰ってきたので、正二さん、帰ったの?と葉子が聞くと、あいつ、与太者のような口聞くようになった…と健介は答える。

その後、食堂で、丼飯に卵を2個かけてハムカツと一緒に食っていた正二は、元タクシー仲間の野木(中山豊)から、お前、さっちゃんに会ったか?辞めたよ、あの子…、嫁に行くんだってさ、てっきり出来ていると思ったんだが、そうじゃなかったのか?と話しかけられる。

その後、車で流していた正二は、熱海まで3000円で言ってくれと言う客を乗せて熱海に向かう。

ある日、新聞に安藤久満の紹介記事が載っていたので、母が、また訪ねて行かれたら?と言うと、信三郎は、あそこにはもう行けないんだ、借金があるんだ…、お前には言えなかったんだが、裁判所を辞めた後…と打ち明ける。

いくら借りたんですか?と聞いた母は、2000円だ、向こうは縁切りでくれたんだと聞くと、そのお金、どうで飲んだんでしょう?と苦笑した母は、師範時代からの同級生なんでしょう?返してらっしゃいよ、2000円くらい…、それで気兼ねなく話せるでしょう?大丈夫ですよ、内職で5000円くらいにはなってるんですからと言いながら金を出してやる。

それを聞いた信三郎は、じゃあ、行ってくるかと言い出す。

出かける信三郎とすれ違いに、銭湯に行っていた紀子が帰ってくる。 どこ行ったの?と紀子が聞くと、安藤久満さんて方の所と母が教えると、偉い人知ってるのねと紀子は驚く。

父さんだって、昔は偉かったんだよと母が言うので、母さん、結婚して幸せだった?と紀子が聞くと、首くくろうと思った事はなかったからね…と母は苦笑する。

私最近色々考えているの…、何が人間幸せなのかって…。自分の好きなように生きたい…、私、部長さんから結婚申し込まれたのよと打ち明ける。

しかし、母は、相手が再婚だと聞くと顔を曇らせる。

でも私、給料1万2〜3000円のサラリーマンなんてまっぴら!と紀子は言う。

その頃、客の相手をしていた安藤は、妻から、赤木さんが見えてるんですがと告げられると、来るなと言っておいたんだがな…、1000円包んで、客が来ているからと言って帰ってもらえ、丁重にだぞと指示する。

妻は、玄関先にいた信三郎に、来客中ですので…と言いながら、金を包んだ神を取り出そうとすると、奥さん、何ですか?それ…、私は今日、この前借りたお金を返しに来たんだ!あいつに言っといてください、45年もつきあっていて、友達の気持も分からんのかって!と言い捨て、金を置いて帰ってゆく。

帰ったみたいだな…と安藤がつぶやくと、先生くらいになると、いろんな方が来られるんでしょうな?と客が聞く。

今の男は、以前、校長をやっておって、この10年ばかりは裁判所の嘱託で書記をやっていたんですが、教え子の殺人について検事とやり合ってしまった辞めたそうで…と苦笑しながら安藤は教える。

子供はなかったんですか?と客が聞くと、タクシーの運転手をしているそうだが、これが出来の悪い奴だそうで…と安藤は嘲るように言う。 熱海からの帰り、正二は、道の真ん中で手を振っている女(原知佐子)を見かけ車を停める。

乗せて〜!と言い、どこまで行くの?と聞いて来たので、東京までだよと言うと、私、お金ないんだけど…などと言いながら、その女は勝手に助手席に乗り込んでくる。

男2人に女3人だったから、1人邪魔だからって、突き落とされたのよ…、品川まで乗っけて行ってねと女は気安そうに頼む。

タバコをねだるので、「しんせい」を渡してやると、2本同時に口にくわえて火を点けると、片方を正二に吸わせてやる。

プロの女だと気づいた正二は、鈴村のり子と女が名乗って、自分の名前も聞いて来たので、権八とふざけて名乗る。

今日の水揚げいくら?などと無遠慮に聞いて来たので、お前の一晩分にもならないよと皮肉る。

途中、屋台のラーメンを一緒にすすり、俺はこのラーメンの匂いが好きなんだと正二が言うと、女は、私、子供の頃からガソリンの匂いが好きなのよなどと言い出す。

その後、2人は「香月」と言う旅館から出て来て、また車で東京を目指す。

あんた優しいのね…と女が言うので、お世辞は止せと正二は照れる。

外は雨が降り出していた。

ねえ、今度いつ会ってくれる?と女が甘えて来たので、縁があったらなと正二はすげなく答えるが、男と女でこんな深い縁はないじゃない…、私、お金取らなかったでしょう?あんただって、ただで乗せてくれてるじゃないと女は言い、自然とハンドルを握っていた正二とキスをする。

その時、対向車線からクラクションが鳴り、慌てて前を見た正二は、前方から来たトラックとぶつかりそうになったので、慌ててハンドルを切るが、トラックの側面と接触、助手席に乗っていた女は外に振り飛ばされ、車はパンク直しの修理屋の店先に突っ込んでしまう。

女は負傷して道路に倒れ込み、正二も振り飛ばされて倒れていたが、その目の前で正二の車は、ガソリンに引火し、爆発炎上してしまう。

正二は、俺の車!俺の車が!と叫ぶが、立ち上がる事も出来ず、救急車が呼んで駆けつけた近所の男たちに助けられる。

その後、信三郎と母の所にやって来たパンク直しの主人(広瀬正一)は、師団にしたいんだが、店先にあったオートバイ2台と自転車1台は、客からの預かりものなのですぐに返さなくちゃいけない。店の修理は3万も出してもらおうか?と言うので、オートバイと自転車の値段を母が聞くと、12〜3万って所じゃないでしょうか?と主人は言う。

頭と腕に包帯を巻き、病院を出た正二は大森駅の方へ帰ってくるが、その時、目の前に停まった車から降りて来たのは、花嫁衣装のさちだと気づく。

さちは、結婚相手らしき男と一緒に駅の方へ入って行く。

それを黙って見送る正二。

一方、信三郎と母は健介のアパートにやって来ていた。 健介が何を言っても、あなた、怒らないでねと釘を刺す母。

427号室のブザーを押すと、出て来た葉子は二人を見て驚きながらも、夕食中だった健介の元に招き入れる。

母は、相手は示談にしてくれると言うんだけど、オートバイは明日までには返さなくちゃいけないと言うんだ…と健介に打ち明けると、葉子さん、こんな嫌な話、持って来てすみません、あなたにはこんな義理ないんですけどね、家には一銭もないのよと詫びる。

話を聞いていた健介は、正二の奴、法律を無視して良い気になってたんだよ、俺たちの生活は、ねじが1本狂うとおかしくなっちゃうんだとぼやき、いくらいるの?と聞く。

バイク代が12万、壊した家が3万円…、会社で借りてもらえないかしら…と母がすまなそうに頼むと、お母さん、勝手ですわ!私たちが結婚する時反対なさったくせに…と葉子は言い出す。

私たち、最初はボストンバッグ1つだったんです。お菓子屋の二階で由美が生まれるまでバーに勤めていました。ここにあるものは、みんな嫌な思いをして、苦労して手に入れたものなんです。私たちの生活を壊さないで!と葉子が言うので、葉子さん…、あなたの言う通りね…と母は素直に答える。

私、隣に行ってますと言い、由美を連れて葉子は部屋を出ていく。

葉子は少し気が立っているんだ、気にしないでね母さん…と健介が詫びると、示談が成立しなかったら大変なんだよと母はすがってくる。

正二は立派な奴だよ、一時期は与太者とか不良と言われた事もあったけど…と信三郎が珍しく口を開く。

サラリーマンは何にも出来ないんだ…と健介が言うと、裁判所を辞めたのは悪かったよと信三郎は言うので、お父さんみたいな人間は正直すぎるんだよ、バカ正直って言うんだよ、世間知らずなんだよ!高利貸しに恩給まで取られて!と健介は叱りつける。

それを聞いた信三郎は、帰ろう!と母に言い、ひょっとしたらと思ったわしがアホだった…と立ち上がりドアへ向かう。

母親は、孫への土産に持って来た菓子袋をドア近くに置いて、信三郎と一緒に帰ってゆく。

しばらくして、帰った?どうだった?と、その菓子袋を持って葉子が戻ってくる。

どうにもなりはしないよと健介が言うと、困ったわね…と葉子も答える。

嵐みたいなものだ。巻き込まれたらお終いだよ、しかし、親父も辛いだろうな…と健介はつぶやく。

どうして、私たちの生活ってもろいのかしら?と葉子が言うと、全く嫌になっちゃうな〜と健介は考え込む。

帰りがけ、タバコ屋の横を通った信三郎は、煙草を買って来てくれと母に頼む。

母は、「しんせい」を40円で買うと、2円のマッチを10円分ちょうだいと頼む。

店の娘(矢野陽子)が、ちょっと待っててくださいと奥へ引っ込む。

その間、線路脇の土手の所に来ていた信三郎は、お父さんは馬鹿正直なんだ!と罵倒した先ほどの健介の言葉を思い出していた。

そこに列車が近づいて来たので、鬼のような形相になった健介は思い切ってその列車に飛び込もうとする。

しかし、そこにやって来た母が、お父さん!と背後から飛びついたので、信三郎は転んで助かる。

あなた1人で卑怯じゃありませんか!卑怯じゃありませんか!と母は信三郎の肩を何度も叩き、二人ともその場で泣き出す。

無事、秘書課に転属し、タイプを打っていた紀子は、電話がかかって来たので出ると、それは寺岡からだった。

私用電話は禁止されております、失礼しますと言うと紀子は電話を一方的に切ってしまうが、公衆電話からかけていた寺岡はまたすぐに電話をかけ直す。

君は変わったね…、君はもう俺の事を忘れてしまったのかい?人生は金じゃない、心だって言ってたのは君じゃないか!と寺岡は訴えるが、紀子は受話器を行方の上に置いただけで無視する。

その後、寺岡が会社でボイラーの仕事を終えエレベーターに乗り込むと、そこに秘書課のタイピストたちが乗り込んでくる。

その中に紀子も居たが、中に居る寺岡に気づくと逃げ出したので、寺岡もエレベーターを飛び降り、階段を追って行く。

ノリちゃん!何故逃げるの?嫌いになったらきれいに別れよう。僕に取って君は初恋の人だからね。 今はハイヒール履いて、きれいな服着て、昼はサンドウィッチにコーヒーかい? お願いだから今晩つきあってくれ。ちょっと飲んで、教会へ行き、君のうちの前で握手して別れようと寺岡は提案するが、はっきりお断りします!今晩、部長さんに誘われているの!と紀子は答える。

その夜、パーティで阿部部長と踊った紀子は、自宅近くまで車で送ってもらう。

車の中でキスをした阿部は、送って行くよと言うが、いや、見られたくないのと紀子は拒否する。

お父さんにお願いしてはきりさせるよ、送って行こうと再度阿部は提案するが、汚い所だから見られたくないのと言って車を降りた紀子は、阿部にもらった真珠のネックレスを手にして、ありがとうと礼を言うと、さようならと言って歩いて帰る。

阿部の車が去っていた後、暗がりから何者かが出てくる。

寺岡だった。

見たよと良いながら近づいて来たので、何を?と怯えながら紀子は聞き返す。

ノリちゃん、僕と一緒に死んでくれ!と言いながら、寺岡がナイフを取り出したので、紀子は誰か!と叫びながらその場を逃げ出す。

踏切にやって来た紀子は、電車が通り過ぎた直後、後ろから追って来た寺岡から逃げるため踏切内に入り込むが、その途端、反対方向からやって来た電車に引かれてしまう。

それを目撃した寺岡は驚き、持っていたナイフを落としてしまう。

紀子の葬儀の準備をしていた葬儀屋の親父(沢村いき雄)は、抹香持って来たか?と弟子(小川安三)に文句を言うと、奥さん、仏さんの茶碗にご飯を…と頼む。

その指示通り、台所でおひつから茶碗に飯を都合とした母親は泣き出す。

そんな母に近づいた信三郎は、泣くなよ、お前がなくとわしまで泣きたくなるじゃないかと慰める。

俺たちはどこまでも不幸なんだな…と信三郎が嘆いていた時、俺の前をちょろちょろするなって言ったろ!と玄関先ででなる正二の声が聞こえる。

玄関口に着ていたのは健介だった。 俺が何をしたって言うんだよ?と健介は立ちふさがる弟に聞く。

兄ちゃんは自分の立身出世のために紀子を利用したんだ!ハイヒールを履いたBGが偉いと思っているだろう?と正二が言うので、お通夜に来たんだぜ…、帰れとは何だ、兄に向かって!と健介が言い返すと、紀子は俺と父さんと母さんで送るよ!と正二は聞かない。

そんな兄弟喧嘩を見ていた母は、だって兄弟じゃないか!と仲を取り持とうとするが、兄ちゃん上げるなら、俺が出て行くよ!兄ちゃん、知らないだろう?父さんが自殺しかけた事…、兄ちゃんに金を借りに行って断られた後だよ!兄さん、指一本でも動かさないじゃない!と正二は続ける。

堪り兼ねた母が、父さん、何か言って!と頼むと、正二と一緒にいたいよ…と信三郎は答える。

あんたたち兄弟じゃないか!みんなバラバラでどうするんだい!家に上げてやっておあげと母が言うと、母さん、ありがとうと笑顔になった健介は、そのまま帰ってゆく。

それを見て泣き崩れる母。

その後、正二と母と一緒に焼き場に行った信三郎は、煙突から立ち上る煙を見上げ、お前たちだけで紀子の骨を拾ってくれ、俺はちょっと用足しをしてすぐ帰るよと言い残し、一人焼き場を後にする。

いつしか雪が舞い落ちて来た中、小学校の横を通りかかかった信三郎は、校庭で子供たちが押し競饅頭をしている様を見て立ち止まる。

押し競饅頭か…とつぶやいた信三郎は、前に見かけた代書屋に来ると、突然ですが、私をこの人の代わりに雇ってくれませんか、昔は校長をやっており、その後は裁判所で書記をしていました。日展に通った事もありますと主人に頼む。

それを聞いた主人は、この爺さんにはとっくに辞めてもらおうと思っていたんだが、後がまが見つからなくてね…。ここに名前を書いてみてくださいと白紙を出してくる。

赤木信三郎と二通り書いてみせると、宜しい、来てもらいましょう!気の毒だが、この爺さんには辞めてもらって…と主人は即断する。

それを聞いていた老人は、恨めしそうに横目でちらちら見ながら、代筆の仕事を続けていた。

翌朝、出社の着替えを終えた健介は、タンスの中に隠してあった葉子の預金通帳と印鑑を取り出しポケットに入れる。 そして葉子の前に立った健介は、夕べ一晩考えた。

君が貯めた20万、正二にやるよ。俺ももっと良い生活作ろうと思う。俺たちだけではどうにも出来ない事があるんだ。今度は俺の思う通りにさせてくれと頼む。 それ貯めるの10年かかったのよ!やりたくないわ、そのお金だけはと言う葉子。

そうだろうな…、でも俺は持って行く。サラリーマンだって何か出来ると思うんだ。定年を待つだけじゃないんだと健介が言うと、女は毎日の生活が大事なのよと葉子も言い返す。

分かってる、行ってくる!と言うと、いつものようにドアを出て階段を降り、団地の下に降りて行く。

すると、パパ、行ってらっしゃい!といつものように手を振る由美と、それを抱く葉子の姿がベランダから見えたので、健介は手を振って出かけて行く。

正二は紀子が轢かれた踏切にやってくると、その真ん中で立ち止まり、轢かれた電車が来た方向に目をやった後、踏切を渡る。

そんな正二の前にやって来たのは健介だった。

健介は通帳を正二に渡すと、洗いざらい持って来た、20万しかないけどな…と言う。 20万じゃどうにもならないけど…と言いながらも通帳を受け取った正二は、義姉さん、ふくれただろう?と聞きながらも、ありがとうと礼を言う。

その時、健介が何か言ってくるが、ちょうど踏切を電車が通り過ぎたので、音がうるさく聞き取れなかったので、えっ?と正二が聞き返すと、苦労かけたな…と健介は大声で言い直し、それを聞いた正二はにこやかな顔になるのだった。
 


 

 

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