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大盗賊('63)

和製シンドバッドとでも言うべき空想特撮冒険活劇

一見時代劇風に始まるが、すぐに異国風の土地での奇想天外な冒険譚に変化する。

海賊、魔法使い、仙人、お姫様、悪宰相、ミゼットに大男、山賊…と、正に千夜一夜の世界のような設定になっているのが、実写の日本映画としては珍しい。

浜美枝、水野久美、若林映子と言った、当時の若手女優が勢揃いしており、中でも、水野久美さんは、同年の「戦国野郎」(1963)に似た山賊の頭領役を演じている。

水野さんが、本作同様、浜美枝さんと共演していた「サラリーマン目白三平 亭主のためいきの巻」(1960)の頃に比べると、この当時の水野さんには、既にバンプっぽいイメージが出来上がっている気がする。

浜美枝さんの方もふっくらしていた顔がほっそりしており、大人顔になっている。

女性陣の中では、若林映子さんがちょっと華がないキャスティングのようにも見えるが、決して出番が少ないと言う訳でもない。

悪役を演じるは、中丸忠雄さんを中心に、佐藤允さん、 田崎潤さんと言ったお馴染みの顔ぶれが揃っている。

田崎さんは、前半目だつ良い役なのだが、後半はちょっと精彩がないような気もする。

佐藤允さんの出番もそう多くないのだが、王様役の志村喬さんの出演シーンは極端に少ない。

草笛光子さんは、一見バンプ風で、魔法で石にまで変身させられるなどちょっと変わった役どころ

特に注目すべきは、妖婆役を演じている天本英世さんだろう。

お婆と言うくらいだから女役である。

声は女性の吹き替えだが、途中、有馬一郎扮する久米地仙が変身した偽物としても登場しており、その時は、有島さん風の三枚目のオーバーアクションまで披露してくれる。

三船はこの当時の定番の三船と言った感じで、豪快なヒーローと言った感じ。

特撮な見所は、特撮プールを使ったミニチュア帆船のシーンや、大入道が石に変化する所や、蠅に化ける仙人、そしてその蠅を小さくなったお婆が追いかけるアニメシーンなど盛りだくさん。

西洋風の城のセットなどもちゃんと作っており、異国風をそれなりに再現してあるのも見所だろう。

海岸などは、明らかに日本なのだが、南国風の木などを現場に持ち込んで、異国風に見せかけている。

娯楽映画としてはまずまずと言った所で、特に大傑作!と言うような感じではないが、三船が出ているファンタジー映画として、寿分楽しめる作品だとは思う。

時代が時代だけに、今のテレビコードに引っかかるような言葉も普通に使われており、古いと言うこともあり、地上波などで放映されるタイプの映画ではないだろう。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、東宝、馬淵薫+ 関沢新一脚本、谷口千吉監督作品。

今は昔 堺の港(南蛮貿易を描いた屏風絵を背景にテロップ)

廻船問屋「呂宗屋」の看板の前に集まった町人たち

「呂宗屋」の旦那、海賊やて?

アホ抜かせ!仮に海賊かて、呂宗屋の旦那はんは貧乏人苛めはせえへん!

うちらには頼りになる旦那はんや!と口々に噂しあう。

「堺町人 呂宗助左衛門 右の者廻船問屋として上を欺き、実は海賊を生業として諸舟を襲う海賊であること罪状明白なり 依てこれを焚刑に処す」と書かれた境町奉行の高札を読む町人たち

処刑場の奥には、「呂宗助左衛門」と名札が付けられた棺桶が、積み重ねられた薪の上に置かれている。

一度蓋を開けて申し致しをしますか?と立ち会っていた役人が上役に聞くと、否、申し致しはすんでおる。それに姿を見せると、町人どもがうるさい!と上役は制する。

損も直後、薪に火がかけられ、棺桶が燃え始める。

やがて、崩れた棺桶から転がり落ちたのは、「ご苦労 呂宗助左衛門」と書かれた紙が貼られた丸い石だった。

海を進む帆船呂宗丸

その甲板に立っていたのは、処刑されたはずの呂宗助左衛門(三船敏郎)と子分たちだった。

おめでとうござんす!と助左衛門に声をかける子分たち。

天竺!いくら嗅がせた鼻薬?と助左衛門が聞くと、千両箱たった一箱で…、木っ端役人め!と天笠徳兵衛(富田仲次郎)ら子分たちは笑う。

人間一匹金で買える世の中だ。何ごとも金だな…と助左衛門は言う。

で、これからどうなさるおつもりで?と天竺が聞くと、天竺!大葛篭はどこだ?と助左衛門が言うので、徳兵衛は金銀財宝が詰まった葛篭を開けてみせる。

その中から、黄金色の大小を取り上げた助左衛門は、俺は海賊になる!どうせ海賊の濡れ衣を着せられたんだ、海賊になるのも面白い!と言い出したので、子分たちは大喜びする。

ちっぽけな日本の島には住み飽きた!俺の夢を満足させてくれるのは南の海だ!

やりましょう!お供します!と子分たちも乗り気になり、「海賊大将軍」と書かれた昇り旗を掲げる。

タイトル

嵐に翻弄される呂宗丸

甲板上で必死に梶を押さえながら、天竺に大葛篭を締まったか!と声をかけた助左衛門だったが、次の瞬間、帆柱が折れ、竜神と天竺を呼びかけても返事はなかった。

大葛篭を積んだ舟の残骸にすがりつき、何とか漂流していた海神の仁兵衛(堤康久)は、助かったのはたったこれだけですか?と生存者の少なさを嘆く。

みんな無事に泳ぎついていると良いのだが…と答える助左衛門

これからどうなるんですかね?と雷神の三造(桐野洋雄)が聞くので、とにかく漕ぐんだ!情けない顔しないで漕ぐんだ!と助左衛門は命じる。

海神は、いきなり海に顔を突っ込んだので、何をするんだ!塩水を飲んでどうする!と助左衛門が叱りつけると、顔を上げた海神が、舟だ!と声を挙げる。

その視線の先には、見慣れぬ帆船が接近していた。

舟!と喜ぶ海神、雷神に、黒海賊だ!南の海一帯を荒し回っている海賊だ!血も涙もない奴らだ!と助左衛門は言う。

そんな助左衛門が掴んでいた大葛篭を望遠鏡に捕らえていたのは、黒海賊の揚藩(佐藤允)だった。

その揚藩が合図をし、黒海賊が放つ矢に、海神、雷神とも射殺されてしまう。

さらに、黒海賊が放った錨のついた綱が葛篭を捕らえ、助左衛門も海に放り投げられてしまう。

海賊船に引き上げた大葛篭の蓋を開けて中の財宝を観た揚藩は、これは、これは…、王がお喜びになるぞ!と子分たちと一緒に笑い出す。

その時、その大葛篭に引っかかっていた綱の先端が海に垂れ下がっており、その先に助左衛門がしがみついていることに気づいた揚藩は、その綱を切断してしまう。

とある海辺、大きな貝殻を椅子代わりにしていた久米地仙(有馬一郎)は、吸っていたキセルの先を、側で気絶していた助左衛門の鼻の先に付けたので、熱さで気がついた助左衛門は、何をする!と怒りだす。

すると、久米地仙は、熱いか?良かった、良かったと嬉しそうに言うので、人に火を付けて、熱いか?良かったとは何よ言う言い草だ!と言いながら、助左衛門が剣を引き寄せると、お前がここへ流れ着いてから、今日で5日…、わしはキセルの火を何度もお前に付けてやったんじゃが、お前はうんともすんとも言いよらん…、これはもう生き返らんのかと思うとったら、今日始めて、あちちっ!と来たな…、良かった、良かった…と久米地仙は説明する。

事情を知った助左衛門が、ここはどこだ?と聞くと、お前、うわごとに、葛篭を返せ、葛篭を返せと言う取ったが、何じゃ?葛篭と言うのは…と、久米地仙が逆に聞いて来る。

貴様に関係ない!と助左衛門が答えると、金持ちになりたいと繰り返しておったが…、案外お前も詰まらん男じゃな…と久米地仙は言う。

一体貴様は何者だ!と助左衛門が聞くと、わしの先祖は久米の仙人じゃ!知らんか?と久米地仙が言うので、知らん!と助左衛門は答える。

ああ…、女の裸を観て、雲から下界へ落ちたと言う男か…と助左衛門が思い出すと、そうなのよ…、先祖代々わしにはそう言う欠点がある…と久米地仙は認める。

授かったものなら大事にしろ…とそんな久米地仙に言いながら、立上がった助左衛門は、大刀を背中に結びつける。

何じゃ?助けてやったのに、礼も言わんで行くのか?と久米地仙が声をかけるが、助左衛門は何も答えず歩いて行ってしまう。

川縁で洗濯する女(若林映子)がいたので、町へ行くにはどう行けば良いのかな?と助左衛門は尋ねる。

これ行くと、すぐですよ…と女は教えてくれたので、ありがとうと礼を言って助左衛門は通りすぎようとするが、その後を付いてきた久米地仙が、細い板の橋を渡る途中、同じ女の胸元を観て、体全体が川の方へ傾いてしまい悲鳴をあげたのに気づき、助けようと戻って来る。

しかし久米地仙は、そのまま、そのままと、手で助左衛門を制すると、何、これしきの試練、自分で克服しなければ…と言い、何とか術で元の状態に戻すと、そう軽蔑した目で見られては困る、ご先祖様の血のなせる技じゃ…と助左衛門に言い訳する。

ご先祖様のために苦労するな…と助左衛門が皮肉を言うと、久米地仙の世界にもクラスがあってな…、ご先祖様は女に迷って雲から落ちたために、天点の位から地点の位に格下げになった…、以後、久米家の久米地仙は元の天点になることに生涯を賭けておる…と久米地仙は言いながら、その場に座り込むと、どうぞお先に…と助左衛門に先をゆくよう勧める。

もうついて来ないのか?と助左衛門が聞くと、今の失態を償うためには、三日の謹慎が必要じゃ…と久米地仙は言い、その場で黙想のポーズになったので、では…と頭を下げ、助左衛門は万里へと向かう。

町では、女が、可愛がってやろうと言う摺武(田崎潤)に追いかけられていた。

女が助けを求めたのは、通りすがりの三人組、大破(砂塚秀夫)、中破(二瓶正也)、小破(大木正司)だった。

3人組は摺武(スリム)に向かって行くが、あっという間に叩きのめされてしまう。

摺武は嫌がる女を捕まえ抱きつくが、その時、自分の懐にカエルを投げ込んだ奴が入ることに気づき、カエルと取り出すと、誰だ!こんなものを投げ込んだのは!と、野次馬たちに怒鳴りながら、カエルの足に食らいつき、引き裂いて捨てる。

瓶の水を飲んでいた助左衛門に目を付けた摺武は、睨みつけながら近づいて行く。

助左衛門は、壺の中からカエルをつまみ出すと、まだあるぜ!と言いながら、摺武に投げて寄越す。

畜生!何しやがる!と怒鳴った摺武は、二本の釵(さい)を取り出して、去りかけた助左衛門に襲いかかる。

助左衛門は素手で相手をする。

そんな2人が戦っている中に、転がったボールを拾いに来た子供が近づいたので、母親が呼び止める。

助左衛門はとっさにその子を抱えてかばいながら、足で摺武を蹴飛ばすが、摺武は釵(さい)を投げて来て、近くにいた鶏に突き刺さる。

子供を逃がし、立上がった助左衛門が背中の剣に手を伸ばすと、やるじゃないか…と摺武は感心する。

やらなけ、こっちが危ないわい!と助左衛門が言うと、摺武は、勝負だ!と言いながら、さらに釵(さい)を出して挑んで来たので、野次馬たちは危険を感じ一斉に逃げ去る。

すると、先に伸ばせんかな?水腹ではこれまでだ。お前だって足下が怪しいぞ、酒腹では…と助左衛門が言うと、良し、気に入った!と摺武も承知する。

飯屋の女給美輪(水野久美)が呆れたように追加の食事を運んで来たテーブルに座っていた摺武が名乗ると、既に大量の飯を平らげていた呂宗助左衛門も名乗る。

助だ?日本人か?と摺武が聞くと、まあ、そんな所だ…と助左衛門は飯をかき込みながら答える。

どうだ、俺と一緒に来んか?良い仕事があるぜと摺武が誘うと、どうせ、夜盗、山賊の類いだろう?と助左衛門はいなす。

しかし、ばか言え、この国の王に仕える近衛兵士だ!と摺武は言う。

近衛兵士?断る!と助左衛門は即答したので、欲のねえ奴だと摺武は言うが、欲はある!人一倍な、だから断る!と助左衛門は言う。

その時、店の外の往来で、馬のいななきと女の騒ぐ声が聞こえて来たので、何ごとかと助左衛門は覗き見る。

見ると、兵士のような男が、先ほどの洗濯女たちを引き連れて行っていたので、どうしたんだ、あの女たちは?と助左衛門が聞くと、税金さ、収められない奴は、娘を差し出させるんだと摺武は答える。

どうなるんだ?女たちは…と聞くと、帰って来た者がねえから分からない…、ハハ…、王様にはか…と言う訳さ…と摺武は笑う。

しかし、外を観ていた助左衛門の表情は厳しかった。

王様に仕えて出世したかったら訪ねて来い、お前の腕なら世話するぜ、勝負はそれまでお預けだ…と言い残し、摺武は帰って行く。

ここの王様は誰だ?と側にいた美輪に聞くと、羅刹王、血も涙もないヒヒ親父さ…と吐き捨てるように美輪が答えたので、ヒヒ親父?と助左衛門は聞き返す。

だって、連れてった女はみんな妾にして、用がなくなりゃ殺してしまうって話さ…と美輪は言う。

それでも黙ってるのか?町の人はと聞くと、そりゃ…と言いかけた美輪、外へ飛び出すと、ヒヒ親父の娘だと助左衛門に教える。

輿に乗って近づいて来たのは、弥々姫(浜美枝)だった。

助左衛門の強い視線を感じた弥々姫は、胸に付けていた宝玉の首飾りを手で隠しながらも、助左衛門が気になるのか、持っていたピンクのハンカチをさりげなく落として行く。

輿が通り過ぎた後、それを拾い上げた助左衛門に、どう?ヒヒ親父には出来過ぎた娘だろ?と話しかけた美輪は、名前は?と助左衛門から聞かれたので、弥々姫と教え、だめよ、大それた考え起こしちゃ、近く、明国からお婿さん迎えることになっているんだから…と教えるが、店のスプーンを渡した助左衛門が輿の後を追って行くと、食い逃げやろう…とつぶやく。

そんな美輪に、先ほど摺武に倒された、大破、中破、小破が近づいて来る。

ジャングルの中を歩いて行き、遠くに見える城を確認していた助左衛門は、おじちゃん!と話しかけて来た子供に、坊や、あの城に行く道を知らんか?と聞く。

すると、子供は、こっちだよ…と言いながらジャングルの中に案内すると、そこには怪し気な男たちが待ち受けており、その中の一人小破に、おっ父!と子供は近づいて行く。

待ってたんだよ、ここに来るの、飯代、置いてってもらおうと思ってね…と言いながら、姿を現したのは、先ほどの女給美輪だった。

読めた!町の飲み屋に網を張ってて、金のありそうな奴をここで待ち伏せるって訳だ…と助左衛門は気づく。

どう?私たちの仲間に入らない?喰いっぱぐれはないよと美輪が誘うので、ばか!と助左衛門は一喝する。

城の領主の苦しめられている町の者から奪って、良く腹が膨れるな?と助左衛門は皮肉る。

何!と大破、中破、小破たちが抜かしたな?と凄くと、うるさい!ふんだくるなら、ヒヒ親父からふんだくれ!俺は権力を振り回す奴を見るとかっかするが、おめえらみたいな盗人にはムカムカするんだ!と助左衛門は言い放つ。

山賊たちが槍で突いて来ると、とっさに身を交わした助左衛門だったが、お待ち!と美輪が子分たちを制する。

じゃあ、お前さん、1人で城の領主の相手をする気かい?と、助左衛門に問いかける美輪

やろうと思ってる…と助左衛門が答えると、1人で?と美輪が呆れるので、そうだ!と助左衛門は断言するので、山賊たちは大笑いし始める。

やかましい!と助左衛門は怒鳴るが、飯を20杯も喰うだけあって、口はデカいと言うだけさと美輪は嘲り、悪いこと言わないから、私と手を組もうよと誘う。

じゃあ、やってみるかな?と助左衛門が言うので、美輪は承知したのかと思い笑顔になるが、1人でやれるどうか…、じゃあ、あばよ!と言い残し、助左衛門は立ち去って行く。

畜生…、覚えておいで!飯代はどうするんだよ!食い逃げやろう!と美輪は、助左衛門の後ろ姿に呼びかける。

城中

宰相(中丸忠雄)と一緒に部屋に入ってきた増尾(草笛光子)は、それに違いありません、近頃、姫が良く城を出て行かれるのは王様の悪い噂を聞いて歩くため…と話していた。

王は姫のお父上、気にかかるのは当然のことと思うが…と宰相が言うと、でも、姫にはその噂が本当だと思える訳がない…と増尾が続けると、それはそうだな…と頷く。

だから、王様の陰に隠れて悪いことをしている男が別にいるに違いないと…と増尾(そうび)

それで?と先を促す宰相と、されが誰だか、姫には検討がついている様子…と増尾は言いながら宰相の横に来る。

本当か?だったらわしにも聞かせてもらいたいな…と言いながら、増尾の肩を抱く宰相

その宰相の肩にかけた左腕の袖をたくし上げ、その下の腕に彫られた刺青を暴く増尾

何をする!と宰相が手を引っ込めると、愉快そうに増尾は笑い出す。

宰相様?私は奴隷の中からお目に留った女だけど、私は宰相様が好きなのではなく…と増尾が言うので、良いではないか、わしがお前を好きなら…と言いながら、又宰相が抱こうとすると、私が好きなのは、あなたの悪い心…、あなたの邪心がどこまで大きくなって行くか…、観てると身体中が震えて来るほど面白くて…と告げる増尾

分かっておる、きっとお前を満足させてやるよ…と宰相はほくそ笑む。

秘密を漏らさないためには、自分の部屋にはオ○でツ○ボの人間しか置かない…と増尾は言い、その口と耳が不自由な老人が宰相の靴を磨き続けていたので、もう良い!と苛立たし気に宰相は追い払う。

その時、扉の外からノックが聞こえたので、誰だ?と宰相が誰何すると、隊長です!と答えがある。

それから、あなたが、姫様の身体に野心を持っていることを…、これからどうなって行くことか私には面白くて…と増尾は続ける。

増尾…、はしたないぞ、妬いておるのか?と言いながら、宰相が増尾の顔をなでている時、うっかり入って来た近衛剣士隊長(長谷川弘)は、思わず目をそらし、閣下!助左と言う男が、姫にお目にかかりたいと来ております!と伝える。

姫に?明国の使者か?と宰相が聞くと、いいえ、日本人らしいですと兵士は答える。

門前で、兵士たちに足止めされていた助左衛門は、そうか…、どうしても弥々姫様に会わさんと言うなら、通行手形を見せるかな…とつぶやくと、弥々姫が輿から落として行ったハンカチを出して見せる。

どうだ?弥々姫様のものだ。良い匂いだ。お前らの汗臭いのとは違う。見ろ!ちゃんと城の紋章もついてると助左衛門はピンクのハンカチを披露し、勝手に広場に入り込む。

部屋では、断れ!と宰相が命じると、それが強情な奴でして、姫はご承知だなどとか申して…と隊長は言うので、どこにおる?と聞くと、広場ですと隊長は答える。

窓から下を覗いた増尾は、おっす!と助左衛門から気安気に声をかけられたので笑って返す。

どこで拾った?と言いながら、階段を降りて来た宰相が助左衛門に聞くと、拾った?冗談言うな!姫手づから頂いた、通行手形としてな…と助左衛門は答えるが、そこに、よお!来たなと声をかけて来たのは摺武だった。

どうだい?似合うだろう?と摺武は、近衛兵士の制服姿を自慢する。

ふん!馬子にも衣装か?と助左衛門はからかう。

知っておるのか?摺武!と宰相が聞いて来たので、口を聞いてやる約束でしてね…、閣下、雇って損のない奴ですぜろ摺武は助左衛門を推薦する。

ではまず、腕のほどを見せてもらおう…と宰相は言うので、これじゃダメだと言うのか?と助左衛門はハンカチを出して見せるが、わしの方も通行手形がいると宰相は要求する。

武器は何だ、剣か、槍か?弓か?と隊長が聞くので、任せると助左衛門が答えると、良し、まず、弓からだと隊長は指定する。

眼帯の弓名人らしき兵士が出て来て、広場に咲いていたミカンの実を弓で落としてみせると、助左衛門は、そのミカンに矢を射抜いてみせる。

弓名人が、三つまとめてミカンを串刺しにしたので、分が悪くなったと焦った助左衛門だったが、その時、塔の上に弥々姫が鳥籠を持って姿を現したので、これはこれは姫君!先日はどうも…と挨拶をしてごまかす。

声をかけられた弥々姫は何ごとかと戸惑うが、え?すぐに部屋に来い?すぐですな?は、ただ今!と耳に手を当て、さも聞えたように大声を出し、復唱した助左衛門は、姫がお呼びだと言うと、弓を兵士に手渡し、あっけにとられる宰相らを後に、そのまま勝手に塔の中に入って行く。

しかし、姫の部屋の前には巨人の大入道(金田栄珠)が立っており、助左衛門がドアを開けようと近づくと、片手を遮断機のように挙げて邪魔をする。

その時、お通ししなさい!と部屋の中から弥々姫の声が聞こえ、無事、部屋の中に入ることが出来た弥々姫に対面することができや助左衛門は、昨日は失礼!と挨拶する。

姫に用と言うのは?と弥々姫が無表情に聞くので、姫!昨日の首飾りは?と助左衛門は逆に尋ねる。

あの首飾りを知っているのですか?と言うので、いささか…と助左衛門が答えると、そういう人が現れるのを待っていたのですと弥々姫は笑顔を見せる。

そのために、わざとあの首飾りを付けて町に出かけたのです。さ、聞かせて下さい、あの品物はどういうものなのです?と、奥の部屋に案内した弥々姫は、他にもまだたくさんありますと言いながら、宝物棚の扉を開けてみせる。

これにも見覚えがあれば…と言いながら、棚の中の引き出しを開けかけた弥々姫は、物音がしたので、取り出しかけた首飾りを元に戻し、警戒して扉の方を振り返る。

何用です、宰相!と部屋に入ってきた宰相に弥々姫が厳しい表情で聞くと、実は、至急、お耳に入れておきたい事態が起こりました…と言う宰相は、その場にいた助左衛門に、下がっておれ!と命じる。

しかし弥々姫は、下がらずとも良い!とそれを止め、申してみよ!と宰相に促す。

ただ今、知らせによりますと、姫様へのご結納を運んで来た明国の舟が、昨夜、シラー海峡にて黒海賊の手で全滅しましたと宰相は言う。

黒海賊?と驚く弥々姫に、ご結納が届かぬとなると、ご結婚の式は延びることになりますな~…と宰相は言う。

それを聞いた弥々姫はショックを受けたようで、奥の部屋に一人向かい想いに沈む。

姫はお疲れの御様子…、来い!と宰相は助左衛門を誘って部屋の外へ出る。

弥々姫は、明国の王子の似顔絵を開き、哀しむ。

姫に会ったから用はあるまい?帰れ!と宰相は言うが、このまま帰って宜しいかな?と助左衛門が聞くと、そうね…、このまま帰ったんじゃ後がうるさそうね…と、廊下にいた増尾が口を挟んで来る。

その通り…と助左衛門もとぼけてみせるので、良し、剣士隊で働いてもらおうと宰相は決める。

私が連れて行くわと名乗り出た増尾が、助左衛門を先導しながら歩き出すと、さっき、私の方に手を振ったわね?と聞く。

しかし、助左衛門は、ああ、あれは間違いだ、姫だと思ったんだ、取り消す!と言うので、増尾は急に詰め楽なりさっさと先を急ぐ。

宰相は見張りに、わしが声をかけるまで、誰も来させてはならんぞと命じ、自分の部屋に戻って行く。

部屋に入った宰相は、暖炉にかかっていた大小二本の剣を組み合わせ立体的な鍵を作ると、それで秘密の地下室に繋がる扉を開け、耳と口が不自由な老人からランプを受け取ると、1人中の階段を降りて行く。

地下室に降りて来た宰相が、お婆…と声をかけると、来たな、ほら出来ておるぞ…と言いながら、妖婆(天本英世)が薬を差し出して見せ、これを二三度飲ませれば、王は死ぬ…、安楽にな…、後はお前が王じゃ…と笑いかける。

ひと思いに殺してしまえば良いものを…、そうせぬ所がお前らしいの…と妖婆は言い、又、大鍋の薬を混ぜ始める。

しかし、王を殺してしまっては、ヒヒ親父の悪名はわしがかぶらねばならなくなる…、つい立てが亡くなっては困る…と宰相は言う。

それもあろうが、もう一つのお前の腹は読めておるぞ…と妖婆は笑う。

王を段々弱らせておいて、その命と引き換えに、姫を自分のものにするつもりじゃろう…と言う妖婆に、はは…、お婆には敵わない…、実は邪魔が入りそうなのだ!知恵を貸してくれ!と宰相は頼む。

それを聞いた妖婆は、鏡を覗き込みながら呪文を唱えると、確かに邪魔がいるぞ…と宰相に教える。

やっぱり助左と言う日本人か?と宰相が鏡を観ながら聞くと、今に分かる…と妖婆は制する。

やがて、鏡の中でぼやけていた画像がはっきりして来る。

それは、座禅を組んで迷走中の久米久米地仙だった。

誰だこいつは?こんな奴が邪魔か?と宰相は驚くが、大したことない…、正しいことに味方しようとする奴じゃから…、わしらの邪悪には勝てん…と妖婆はばかにしたように言う。

しかし邪魔は邪魔だ、心を揺るすな!と妖婆は言い、鏡の中に向かって拳でこずく真似をする。

すると、鏡の中の久米久米地仙は、誰かに突然頭を殴られたかのような顔をする。

剣士隊に配属された助左衛門だったが、部屋の中で腕枕で寝てばかり射たので、様子を観に来た摺武は、また怠けてやがるな?そんなことじゃいつまで経っても平剣士だぞ、俺みたいな伍長にはなれんぞ!と叱る。

誰が伍長にしてくれた?と聞くと、もちろん宰相閣下だと摺武が答えると、王じゃないのか?と助左衛門が聞く。

一体どこにいるんだ、王は?と助左衛門が聞くと、王?そう言えば見たことねえな…、へっ、日夜酒と女に囲まれてしたい放題のことをしてるんだろ!と摺武は吐き捨てる。

巧くやってやがら~、こっちにも女の1人くらい廻って来ないものかな…などと摺武がぼやくので、窓の外を観て、そこであの洗濯女が洗濯をしているのを目撃した助左衛門は、任せておけと言うと、おい!と洗濯女を招き寄せる。

俺が話を付ける、その間、誰も来ないように見張ってろと助左衛門は摺武に頼む。

俺の相手も一人連れて来るように頼むぜ!と言い残し、摺武は剣士部屋を飛び出て行く。

こっちに入れと助左衛門が声をかけると、洗濯女はおずおずと部屋に入って来る。

女に話しかけようとした時、又、摺武が戻って来たので、こんな時に顔を出すな!と助左衛門は文句を言うが、俺の好みは丸顔で、ぽちゃぽちゃとしたのが良いんだよなどと、嬉しそうに摺武が言うので、良し、分かった!任しとけ!向う行ってろ!と言い摺武を追い出した助左衛門は、扉に閂をかけ、ちょっと聞きたいことがある…と洗濯女に話しかける。

女が緊張しているので、安心しろ、ま、座れと椅子を勧めた助左衛門は、一緒に町から連れて来られた女たちはどこにいる?と聞く。

すると女は、城にはいません。私だけが洞窟から連れて来られたんですと言うので、洞窟?どこだ?と聞くと、分かりません!目隠しされて来たんですと女は答える。

姫は?と聞くと、王様の所へ参られておりますと言うので、王の姿を観たことがあるか?と聞くと、いいえと女は首を振る。

どうも変だな…と助左衛門が言うと、はい、弥々姫様には何か大きな心配事があるようです!と女は訴える。

どうして分かる?と聞くと、私は今、弥々姫様の身の回りの世話をしておりますと言うではないか。

どうだ、姫の部屋に忍び込むことが出来ぬか?姫の部屋だ、窓の掛けがねを外しといてくれんか?と助左衛門は頼む。

背後では、まだか?と摺武が戸を叩いていた。

その夜、助左衛門は、闇に紛れ、姫のいる塔の外壁に絡み付くつたをよじ上っていた。

姫の寝室に忍び込んだ助左衛門は、大入道に捕まってしまう。

首を絞められた助左衛門は、当て身を食わせるが、全く利かない様子だったが、やがて、もんどりうって大入道は倒れる。

今頃やっと当て身が利いたか…、大男は効きが遅いとぼやいた助左衛門だったが、その時、助左!と目覚めた姫が声をかけたので、心配いらん、すぐに息を吹き返すと大入道のことを伝える。

助左、待っていました。これに見覚えがありますか?と言いながら、弥々姫は棚からたくさんの首飾り類を取り出して見せる。

そんな2人の様子を、地下室の魔法の鏡で覗いていたのは妖婆と宰相だった。

久米地仙より、こいつの方が邪魔らしいのと妖婆は、鏡に映った助左衛門のことを指す。

こんな奴に何が出来ると言うのだ?と宰相は言うが、それも今に分かる…と妖婆は言う。

姫の宝物棚の前では、見覚えがあるどころか、これは、俺が黒海賊に奪われたものだ…、大葛篭一杯の金銀財宝と一緒にな…と助左衛門は答えていた。

黒海賊…と姫は驚くが、これが城の中にあったとなると、この城に黒海賊がいることになる…、違うか?と助左衛門は言う。

弥々姫はそうです…と哀し気に答えたので、認めるのだな?と助左衛門は念を押す。

すると、税金の代わりに女や家財をかっさらって、したいことをしているヒヒ親父…、つまりこの城の王が黒海賊と言うことになる、これも認めるか?と迫ると、酷いことを、父はいつ死ぬか分からない病人です。この城に海賊やヒヒはいても、それは父ではありませんと姫が言うので、じゃ誰だ?と助左衛門は聞く。

私には分かっています。でも、その証拠を掴みたいと今まで苦労してきました。それで助左に会えたのです…と言いながら、姫は助左衛門の手を握って来る。

姫!もう少し詳しい話を聞こうと助左衛門が身体を離すと、話しますから、ねえ助左、助けて下さいと、又弥々姫はすがりついて来る。

その時、入口の方で音がしたので、助左衛門が様子を見に行くと、いきなり槍が飛んで来て、その背後には、兵士を連れた宰相が来ており、捕まえろ!と兵士たちに命じる。

その時、釵(さい)が飛んで来て壁飾りに突き刺さり、やるか?と摺武が登場したので、出世のためなら何でもやるのか?と助左衛門は睨みつける。

助左衛門は単身、兵士らと戦い始め、助左!と心配して様子を観に来た弥々姫は、宰相に入口の所で止められる。

そんな中、兵士たちが動き回る振動で、壁飾りの一つが落下し、床で気絶していた大入道の頭に辺り気がつく。

起き上がった大入道は、弥々姫を捕まえていた宰相の首を絞め始める。

剣士たちは大入道に全員飛びかかって行くが、全く歯が立たず、はね飛ばされてしまう。

その時、この意気地なし共目らが!と声が聞こえたので、宰相は、みんな下がっておれ!と剣士たちに命じる。

たったこれだけの奴を持て余すとは、だらしのない奴らじゃ…と言いながら、通路の奥から近づいて来たのは妖婆だった。

おお、良い娘じゃと妖婆が弥々姫に目を付けたので、怯えた姫は助左衛門にすがりつく。

そう怖がらずと良い…と言いながら近づいて来た妖婆は、おいで、婆の所へおいで…、来るのじゃ!と姫に手を差し伸べて来る。

大入道が婆の前に立ちふさがると、妖婆はふわりと空中に浮かび上がり、大入道を飛び越えた場所に降り立つ。

大入道が、側にあった椅子を持って振りかざした時、邪魔をする気か!婆の邪魔をする奴はどうなるか?今、見せてやるぞと言いながら、妖婆は、両手を近づいて来る大入道の方へかざす。

すると、妖婆の目が光り、大入道は石に変化してしまう。

助左衛門と弥々姫は、通路の億へ逃げようとするが、助左衛門の前には摺武が立ちふさがり、次の瞬間、助左衛門の下の通路がぱっくり開き、助左衛門は落とし穴に落下してしまう。

それを落とし穴の両脇から観て笑う宰相と摺武

その後、捕まった助左衛門は、地下牢の巨大な巻き上げ機のようなものを押す奴隷として働かされる。

疲れ果て倒れた2人の奴隷が、目の前で即座に兵士たちに連れて行かれるのを助左衛門は目撃する。

そんな助左衛門に、夢の大将、大分横路に逸れたようだな…と話しかけて来たのは、いつの間に現れたのか、同じ棒を押していた久米地仙だった。

お前もか?仙人でも捕まることがあるのか?と助左衛門が聞くと、久米地仙は、わしは自分で来た、お前のことが気になってな…と言う。

兵士に見つかりそうになったので、しっ!と注意した助左衛門だったが、兵士は何も気づかなかったので、安心して横を見ると、そこには誰もいなかったので驚く。

いつの間にか姿を消した久米地仙は、きょろきょろするな、お前の横にいるよ…と声だけが聞えて来る。

ふと声がする棒の部分を見ると、蠅が留っていたので、蠅になったのか?と助左衛門が聞くと、そうだ、今はまだこの術しか出来ん…と久米地仙の声が返ってくる。

ちぇっ!しみったれた爺だな…と助左衛門はばかにする。

助左、お前の夢は金と出世だと言ったな?と久米地仙が聞くので、それっがどうした?と助左衛門がふて腐れると、そのお前が一文の得にもならんことばかりやってるのはどういうことだ?人助けなどしないで、もっと金儲けを考えたらどうだ?と久米地仙は皮肉を言う。

今、金なんか問題じゃない!と助左衛門が答えると、ほお…、言うことが変わって来たな…、実はお前のそう言う所が好きなんじゃよ…、だが、全ては遅過ぎたな、助左…と久米地仙は言う。

何が遅い?と助左衛門が聞くと、お前、知らんのか?生きてここから出たものは1人もおらん。先の2人を観たろう?働けなくなったら、生きながら墓に埋められるのじゃ…と久米地仙は教える。

おい!俺のこの鎖は切れんか?と助左衛門は頼むが、それが弱い…、待ってくれ、研究してみると答えた久米地仙が化身した蠅は、どこへともなく飛んで行き、石にされた大入道の顔に留る。

広場では、夜中でも警備の兵士たちが動き回っていた。

それを、部屋の窓から哀し気に見下ろす弥々姫に、やって来た剣士隊長が、閣下がお呼びですと言うので、行きたくありませんと答えるが、ご命令です!と剣士隊長は繰り返す。

城の大広間では、宰相の前で、奴隷の女たちが、鞭で脅かされながら無理矢理踊らされていた。

そこに弥々姫がやって来たので、宰相は抱きついていた増尾に降りてなさい命じるが、嫌だと言ったら?と増尾がわざと抱きつくと、宰相は、その増尾のつま先を踏みつけて退かす。

そして、さあ姫、どうぞこれへ!と弥々姫に声をかけた宰相は、お越し頂いたのは他でもありません。残念ながら、王の御評判がますます悪く、これからは町のものに情けをかけた政治をなさいませんと反乱になりかねませんと進言する。

それで今日からこの国のことは、一切私が執り行うことになりました。王のご署名はここに…と言いながら、宰相は一枚の命令書を呈示する。

それを悔しそうに聞いていた弥々姫だったが、お父上はあの通りのお身体!署名など無理にさせられたとしか思えません!と抗議する。

姫は認めません!と言い残し、立ち去ろうとした弥々姫だったが、その目の前に槍の穂先を差し出した者がいたので、無礼者!と叱りつけるが、それは、女を抱いて上機嫌だった摺武だった。

愉快そうに笑う摺武を後に帰りかけた弥々姫は、助左、助左は一体どうしました?と振り返って聞くが、助左?そんなに気になりますかな?と宰相はからかうように聞いて来る。

弥々姫が哀し気に帰って行くと、さあどうする?あんたの本当の悪が観たい…、このばで姫を一思いに!さっ!と、宰相の背後に立っていた増尾が囁きかける。

宰相は振り返り様、増尾の頬を叩いたので、音楽は一瞬止り、増尾は起こったように去って行く。

宰相は、さあ、踊れ!と白けた場を取り繕うように命じる。

又踊り始めた奴隷女の胸の上に留っていた蠅は、振り払われて、えらい目に遭った!と助左衛門 が廻していた巻き上げ機の所に戻って来ると、久米地仙の姿に戻る。

どうした?と助左衛門が聞くと、何しろ、目の前に女のこうじゃからな…と久米地仙は、胸のポーズを取ってみせたので、助左衛門は苦笑し、場所が雲の上じゃなくて良かったな…と皮肉る。

ご先祖様の血を恨むよ、わしは…と、げっそり精力を失ったような久米地仙は言う。

この鎖を切る方法は見つかったか?と助左衛門が聞くと、申し訳ない、ここまで来るのがやっとじゃった…と久米地仙は謝る。

じゃあ弥々姫は、みすみす宰相の手に落ちるんだな?もっとも、蠅に頼むのも無理な話だが…と助左衛門が皮肉るので、蠅、蠅と軽蔑するな…、良し、今度は一つ別の術を使うと久米地仙は言い出す。

これはあまり自信はないんじゃが…、ま、大丈夫だろう…などと久米地仙はぼやくが、その時、看守長(向井淳一郎)がやって来たので、又、姿を消すことにする。

看守長は、助左衛門を牢の外へ連れ出す。

そこで待っていたのは増尾で、ありがとうと看守長に言いながら金の入った袋を渡すと、看守長は嬉しそうに増尾に鍵を差し出し、助左衛門の腕についた鎖を外すと、去って行く。

増尾が、さあ来なさいと呼びかけたので、なぜ俺を助ける?と助左衛門が聞くと、あの宰相をもっともっと悪い奴にしたいからさ…と増尾は言う。

お前が助かって敵になれば、宰相だって鼻の下を長くなんてしてられない。色々な手だてを考え、もっと悪くなるだろうさ…、それが観たいんだよ、私は…増尾が言うので、女って奴は分からんな…と助左衛門はつぶやく。

増尾は、鍵で通路の鉄柵を開け、助左衛門を洞窟の抜け穴に出してやる。

助左衛門は松明を持ち、先へと進む。

いやあ、全くお前は運の強い男じゃ…、全く強い男じゃと、蠅に変身してついて来る久米地仙の声が聞こえて来る。

一方、助左衛門を逃がした増す音お前に出現したのは妖婆だった。

裏切り者はどういうことになるか、知ってるだろうね?と闇の中から迫って来た妖婆の目を見ないようにしながら、裏切りじゃない!私は宰相がもっと悪くなるのが観たくて…と増尾は弁解する。

しかし、妖婆は、何と言おうと裏切ったのじゃ、嫉妬に狂って裏切ったのじゃ、お前は!と言いながら妖婆は迫る。

違います!私は…と増尾は言い訳するが、宰相が姫を手に入れれば、どうせお前は用のない身体…、その時は宰相の頼みじゃ…、お前を殺す!と言うので、えっ!と思わず驚いた増尾は、妖婆の目を覗き込んでしまう。

妖婆の光り、洞窟内にも増尾の悲鳴が轟く。

洞窟の抜け穴内では、蠅に化けた久米の地仙が、雲の巣に引っかかってしまい、助左衛門に助けを求める。

何だ、世話の焼ける仙人だな~と言いながら、助左衛門が蜘蛛の巣から蠅を助けてやると、すまん、すまんと言いながら、久米地仙は元の姿に戻り、女の声を聞いただけでこれじゃから、嫌になっちまうよ…とぼやく。

今のはあの女の声だ!ちょっと観て来る、お前、先に行ってろ!と助左衛門は言い洞窟を戻ろうとするが、わしが行く、お前は姫のため似せないかんことがたくさんあるはずじゃと久米地仙が言い聞かす。

大丈夫かい?と助左衛門が案ずると、そこにもここにも蜘蛛の巣がある訳じゃないわい…と言い、久米地仙は元の部屋に戻るが、そこにいた増尾に気づき、あ、ちょっと!あのなあ…と話しかけるが、それは既に石にされた増尾である事に気づき、思わず悲鳴をあげて逃げ帰ってしまう。

しかし、暗い洞窟内にたちはだかっていた妖婆を見ると、又、久米地仙は悲鳴をあげ、目をつぶって、震える手で杖を差し出すだけ。

そんな久米地仙を嘲るように、妖婆は、婆の目を見るのじゃ!目を!と言いながら迫って来る。

久米地仙は、素人扱いするな!わしだって仙人の端くれじゃ…、石にされてたまるかい!と言うが、様子を見るために、薄目を開けると、妖婆が空中を飛び回っていたので、情けない悲鳴をあげながら逃げ回る。

途中、躓いて倒れた久米地仙は、自分の鼻毛を抜き、頼むぞ!頼むぞと念じながらその蹴に息を吹きかけると、自分は姿を消す。

一瞬、相手の姿を見失った妖婆は、ばかの一つ覚えか…と嘲り、自ら身体を小さくし、飛んで行く蠅を追って呼ぶ。

蠅を追って庭中を飛び回った妖婆は、蠅が入り込んだ久米地仙のひょうたんの中に入り込む。

その瞬間、ひょうたんの口に栓をした久米地仙は、残念でした、お前さんが追っかけていたのはわしがいつも化けていた蠅じゃなかった。わしの鼻毛が化けたもう一つの蠅じゃと外から言い聞かす。

ひょうたんがガタガタ動くので、じたばたするな!どうじゃ?これでもばかの一つ覚えか?とひょうたんの中の妖婆に話しかける。

その時、剣士隊が、逃げた助左衛門を探すため、剣士隊が松明を手に近づいて来たので、久米地仙は慌てて姿を消す。

美輪率いる山賊の住処の洞窟内では、逃げて来た助左衛門のために、美輪が食事のお代わりを子分たちに催促していた。

大破、中破、小破たちは、あんまり助左衛門が食べるので、自分たちの分がなくなるのではないかと気が気ではなかった。

ねえ、大丈夫?と美輪が助左衛門に話しかけると、飯を食っている時にしゃべるな!咽の通りが悪くなる!と文句を言いながら、助左衛門は飯をかき込み、大破がお代わりを持って来ると、もう良いぞと言ったので、助かりますと大破は皮肉まじりに言う。

何だか心配だな~と美輪が言うので、心配するな、俺の腹は食いだめが出来るんだなどと助左衛門は請け負うと、何言ってるのさ!本当に私たちと一緒に仕事をする気なの?と美輪は確認する。

みんなであの城に乗り込むんだ!と助左衛門が言うと、皿を持ち帰って来た大破は、あいつ、食い過ぎて、気が狂いやがった。みんなで城に乗り込むんだってよ!と中破や小破に教え嘲笑する。

そこへやって来た助左衛門は、やいお前たち!あの城の王はヒヒ親父だと言ったな?所が大違い!とんでもない狼野郎が他にいたんだと教える。

だけど、お前さん、目的は一体何なんだ?と美輪が聞くと、あいつらをやっつけて、まずは姫を助ける!と助左衛門が言うので、みんなは笑い出し、まさかお前さん、あのお姫様に惚れ乱じゃないだろうね?と美輪も呆れたように聞く。

それを聞いた助左衛門は、バカやろう…と小さく反論し、洞窟を出て行く。

その頃、城中では、弥々姫が、宰相、お前に聞きたいことがあります、これはどこから手に入れたものですか?と胸飾りを示し、呼び寄せた宰相に聞いていた。

しかし宰相は、さあ、一々覚えてはいませんな…ととぼける。

お前が私に贈ってくれたこの品物は、助左と言う日本人が黒海賊に奪われたものだと言っていますと弥々姫が言うと、黒海賊?と宰相は始めて聞いたように問いかける。

明国公子様の御結納を乗せた舟は、その黒海賊とやらに…と弥々姫が続けようとした時、閣下!と剣士隊長がやって来たので話の輿を折られる。

明国公子が向うの港を船出しましたと隊長は報告すると、宰相は驚いたように部屋を飛び出して行く。

その頃、明国公子(船戸順)を乗せた舟は海を進んでいた。

国も姫も一挙に頂こうと牙を研いでるってのは宰相のことかい?と山賊たちは、巣窟の住処で助左衛門に確認していた。

俺はどっちか一つにして負けておくな…と中破が茶化すと、国と姫か?酷いピンハネだな!と大破は笑い出すと、お前らだって、弱い者の上前はねてるるじゃないか、狼野郎の孫みたいねものだと、剣を手入れしていた助左衛門が指摘すると、小破は怒ったように、何を!もういっぺん言ってみろ!と助左衛門の前に立ちはだかる。

狼野郎の孫だ!分かったか!と助左衛門が大声を出すと、急におとなしくなった大破、中破、小破に、どうだ?狼野郎の孫と言わるのが嫌だったら、俺に手を貸すか?それとも貧乏な町人は襲っても、城には歯が立たんと言うのか?腰抜け山賊め!と挑発する。

その時、小破の子供が、呼んでるよと助左衛門を誘いに来たので、助左衛門は苦笑いしながら外へ出てみる。

そこに待っていた美輪が、あれだろう?狼野郎ってのは…と、やって来た助左衛門に言うと、配下と共に馬に乗ってどこかへ向かっている宰相の姿が見えたので、奴らの後を付ける!お前らには頼まん!と言い残し、助左衛門は出かけて行く。

宰相たちを、馬で追跡する助左衛門

宰相たちがやって来たのは海岸だった。

その海岸の岩場には、四角くくり抜かれた穴が開いており、そこに潜んでいた黒海賊たちが、到着した宰相たちに縄梯子を降ろす。

そんな黒海賊のねぐらにひそかに近づこうとしていた助左衛門は、急に手を掴まれたので、驚いて振り向くと、そこにいたのは美輪で、置いてきぼりは酷いねと言う。

早かったな、どこから来た?と助左衛門が聞くと、この辺は庭みたいなものさ…と美輪は真顔で言う。

俺と一緒にやる気になったか?それとも山賊の意地を見せる気か?と助左衛門が聞くと、それもある、もう一つある…と答えた美輪、あんたを監視しに来たのさ…と付け加える。

監視?と助左衛門が聞くと、もう1度聞くけど、あんた弥々姫に惚れたんじゃないだろうね?と美輪は聞いて来る。

ばかな!姫にはちゃんとした婿殿が決まっている!と助左衛門は否定するので、ぱっと顔を明るくした美輪は、じゃあ、色気抜きだね、この仕事は!と確認する。

これに夢に色気は邪魔だ!と助左衛門が言うと、美輪は嬉しそうに微笑み、背後に向かって口笛を吹くと、隠れていた山賊仲間が砂山を転がって来る。

崖の中の黒海賊のねぐらに入って来た宰相は、明国公子の情報、間違いないな?と待ち受けていた揚藩に聞く。

黒海賊の情報で、これまで空手形がございましたかな?と揚藩は逆に聞いて来て、礼の約束は間違いないでしょうな?と確認する。

宰相は、無論だ、その時はわしが仲人をしてやろう…と言うので、揚藩は喜ぶ。

黒海賊のねぐらに山賊たちを引き連れ侵入した助左衛門は、良し分かった、水軍長としての考えを聞こうと揚藩と話している宰相の声を聞く。

今夜は霧が出ます。公子の舟は霧でメ○ラ同然…、襲うにはこれほど易きことはございませぬ…と揚藩が答えると、良し、明国公子は必ず殺せ!と宰相は命じる。

奪って殺す…、これが黒海賊の掟でしてな~…と揚藩は答え、出撃用意!と部下たちに命じる。

それを聞いていた美輪は、畜生!相当の悪だねと呆れ、一丁やってやろうか?と小破が身を乗り出そうとしたので、助左衛門はそれを制し、来たぞ!と声をかけ、全員洞窟の窪みに隠れる。

黒海賊たちが出て行った後、美輪が三人がいないと言いだす。

助左衛門が、窪みの奥へ行ってみると、大きな岩の背後から、大破、中破、小破3人の声が聞えるので、中と外から力を合わせ岩をどけてみると、奥には部屋があり、そこに、かつて奪われた大葛篭が置いてあるのを発見する。

畜生、やっぱり…とその中味を確認した助左衛門がつぶやくと、黒海賊の親玉は宰相だったのね…と美輪も確信する。

大破、中破、小破3人は、宝物で溢れた部屋の中で有頂天になっていたが、大破が持っていた壺を観た助左衛門は、これは、明国公子の紋章だぞ!と気づく。

その夜、海を進む明国の舟の上では、公子!この霧で舟を進めるのは危険ですぞ!と老将(小杉義男)が進言していた。

ハハッ、爺の石橋を叩く癖が又始まったぞと公子が笑うと、石を叩いたお陰で爺はこの年まで生延びておりますと老将は反論する。

安心せい、俺には待っている人があるんだ…、見張りを増やせ、霧笛を鳴らせ!と公子は、部下たちに命じる。

大きな角笛のような霧笛を吹き始めた部下は、いきなり飛んで来た矢に胸を射抜かれる。

その矢に気づき、黒海賊だぞ!とみんなに呼びかけた部下も、背中を射抜かれて倒れる。

海賊船上の摺武が合図をすると、太古の音と共に、舟の側面の盾が開き、弓矢隊が矢を放つ。

やがて老将も矢に倒れ、公子自らも、敵が放った錨付きの綱に身体を引っ張られ、海に落とされる。

それを観た揚藩は、これで姫は俺のものだ…と笑い出す。

その後、城に、紋章がついた公子の服とかぶり物を届けられた弥々姫は、これをどこで?と驚愕する。

昨夜、霧の中で難破した船がありまして…、今朝方、浜に流れ着いた品の中にこれがございました…、まごうことなき明国公子のもの…と、届けた宰相が沈痛そうに説明する。

椅子に崩れ落ちるように泣き出す弥々姫

生存者を調べさせましたが、何しろ荒海…、一命の生存者もございません…と宰相は報告する。

お労しいころで…、姫!この上は姫と私が結婚する、これが一番良いことなのです…、国のためにも姫のためにも…、そしてお父上のためにも…と、宰相は悲哀にくれる弥々姫の背後に近づき言い聞かせる。

姫が私との結婚を承知して下さるなら、お父上のお命も必ずお助けもうします…と宰相は囁きかける。

その頃、明国大子は助左衛門に救助されており、意識は戻ってないものの山賊の住処の洞窟内で寝かされていた。

城の見取り図を外で観ていた助左衛門が、洞窟から出て来た美輪に、大丈夫か、奴は?と聞くと、若いからね…と美輪は答える。

それよりお前さん、夢中で助けてやって後悔してるんじゃないかい?明国公子を…と美輪はからかって来る。

どういう意味だ?そりゃ…と助左衛門が聞くと、ふん!分かんないんだったら、それで良いのさ…と言い、美輪は、姫はどうやって助ける?と話を変えて来る。

それを今、考えているんだ…と、見取り図を観ながら答える助左衛門

お城に乗り込むったって、そう簡単には行かないよと美輪が忠告していると、様子を観に行っていた昔の仲間が戻って来る。

どうだった?と助左衛門が聞くと、舟は岬の陰で避難しています。別命あるまで動くなと言っときましたと天笠徳兵衛が報告し、居残りの兵隊は何人いる?と聞くと、ざっと15人ってとこですかね?と答えたのは竜神の市蔵(中山豊)。

そこに、ダメだ、ダメだ、警戒が厳重なこと…、城の門の100mも前で止められちゃって、近寄れないんだよ…とぼやきながら、女装した小破たち別働隊も戻って来る。

そこに、洞窟内から、弥々姫はどこだ?なぜ連れて行かん?とふらついた足取りの明国公子が出て来る。

連れてく方法を考えてる…と助左衛門が答えると、早くしろ!と公子が言うので、勝手なこと言うなこのやろう!と助左衛門は文句を言う。

坊ちゃん育ちですがね、根は気だてが良い若者なんですよ…と天竺がなだめると、

天竺の兄いと2人、気を失って流れ着いたのを助けてくれやしてね、手当一切気を使ってくれやした…と竜神の市蔵が教えると、お前たちの命の恩人って訳か…と助左衛門は憮然とする。

その時、城に向い、弥々姫~!弥々姫~!と絶叫する明国公子の姿を観た美輪は、私には分かる、あの気持ち…と助左衛門に告げるので、助左衛門は困った顔になるが、その時、空を飛んでいた鳥を観て、あっ!あれだ!と叫ぶ。

鷹がどうかしたの?と美輪が聞くと、タカじゃない、タコだ!と助左衛門は言う。

その頃、城内の王の部屋では、弥々姫の父である羅刹王(志村喬)が懇々とベッドで眠っており、その側で、妖婆が何事か祈っていた。

そんな父親の様子を心配げに見守る弥々姫

姫、このように王は、安らかにお休みです。お婆の祈りのお陰で間もなく全快、もう、お婆…と宰相は言う。

この眠りから覚めるときが毒気が全く抜け去る時じゃ…と妖婆は答える。

本当にお父上の身体はもう良いのですね?と聞く弥々姫は、だったら、なぜこんな汚い所にいつまでも…と、部屋の不満を言う。

何ごとも宰相様のお言い付け通り…と笑いながら妖婆は言う。

姫!私も約束を守りました。この上は姫もどうか…と言う宰相は、姫の返事も待たずに、では、式は今夜夜半、宜しいな?…と一方的に告げる。

それを聞いた弥々姫は、今夜?せめてお目覚めの父上にご挨拶してから…と乞い願うが、宰相はその申し出を無視し、隊長!姫をお連れ申せ、すぐ御仕度だ!と剣士隊長に命じる。

姫は悔し涙にくれながら部屋を出て行き、宰相は妖婆に、結婚式がすんだら王は殺せ!と命じて部屋を後にする。

ヒヒヒ…、ところがそうはいかんのでな…と笑った妖婆は、その場で元の久米地仙の姿に変身する。

久米地仙は、持っていた妖婆の薬瓶を落として割ると、自分の持っていた丸薬を王の口の中に含ませ、危ない所じゃった、これでどうやら持ち直すじゃろうと言う。

その時、ひょうたんが又暴れだしたので、これお婆、いい加減におとなしくしたらどうじゃと、ひょうたんを叩きながら久米地仙は言い聞かす。

美輪に協力してもらい、大きな凧を作り上げた助左衛門は、明国公子に、狼煙が上がったら一挙に攻め込んでくれよと頼む。

公子は、分かった、狼煙は?と聞くので、ああ、ちゃんと持ってると助左衛門は答える。

用意は良いかと背後に呼びかけると、子分たちが一斉に綱を弾きだし、助左衛門が乗ったトンビ凧が揚がりだす。

城では、侍女たちが花嫁衣装の準備をしており、弥々姫 は、亡き母親に祈りを捧げていた。

凧は、夜の闇の中、城の方へ飛んでいたが、途中、引き綱が切れ、凧は落下して行く。

それを観て泣き出す美輪

先に婚礼服に着替えていた宰相の元へやって来た剣士隊長が、閣下、そろそろ式場の方へと声をかけると、姫の方は?と宰相が聞くので、はっ!女は仕度に手間取るもので…、しかし間もなく…と答える。

しかし、結び紐を解いた助左衛門は、絨毯のように水平に滑空して行く凧にしがみついて、何とか城の塔の上にしがみつく。

弥々姫に髪飾りを付けようとしていた洗濯女は、窓の外に助左衛門が窓の外に来たことに気づき、背後にいる見張りを気にし、姫にこっそり耳打ちする。

みなのもの、しばらく外で待つよう!と命じる弥々姫

しかし閣下の御命令で…と剣士隊長は抗議しかけたので、無礼者!亡き母上に最後のお祈りをするのじゃ!下がって待ちなさい!と命じた弥々姫は、窓から入って来た助左衛門に泣きながら抱きつく。

この衣装は?と助左衛門が聞くと、姫様は今夜、宰相様と後結婚遊ばすのですと身の回り役になっていた洗濯女が言う。

何!と助左衛門が驚くと、父上のお命が助かるのなら…、それに、明国公子様もお亡くなりになった今…と弥々姫が言うので、公子は生きてる、今城の外で俺の合図を待ってるんだ…と助左衛門は教える。

それを聞いた弥々姫が本当?と言いながらすがりついて来たので、嬉しいか…、そんなに嬉しいか…と言う助左衛門の表情は曇る。

分かった、宰相に気づかれないように振る舞うんだと姫に伝えた助左衛門は、じゃあ、後で…と送り出す。

弥々姫は、父の剣ですと言い、王の剣を助左衛門に渡す。

その時、姫!まだですか?と戸を叩く剣士隊長の呼ぶ声が聞こえて来る。

弥々姫は、何ごともなかったように、扉を開け、剣士隊長に付いて行く。

大破、中破、小破3人は、剣士隊に化け、城の下まで潜り込んで、上から縄梯子が降ろされるのを待つ。

大広間では、結婚式が始まろうとしていた。

宰相が座って待ち受ける中、剣士医長に先導され、弥々姫が静々と入城して来る。

そんな広間にひそかに近づいていた助左衛門は、通路で妖婆に出会ったので身構えると、間違えるな、わしじゃ…と聞き慣れた久米地仙の声で言うので、何!と驚く。

わしじゃよ、新しい術を覚えると、やたらと使いたくなってな…と、元の姿に戻った久米地仙は言う。

婆は?と助左衛門が聞くと、まだこの中じゃ…と、久米地仙は、持っていた杖に結びつけた水筒用のひょうたんを指すと、これからどうする?と聞く。

城門を開けて、狼煙をたくと助左衛門が言うと、良し!面白そうじゃ、狼煙はわしが引き受けたと久米地仙が言うので、では頼んだぞと助左衛門は言い、手を回して合図をすると言い残すと立ち去って行く。

久米地仙は、鼻の毛を抜いて、また妖婆の姿に変身すると、自慢げに助左衛門の方を見るが、もういないことに気づくとがっかりする。

妖婆に化けた久米血仙は、先ほど降り立った時、塔の天辺に助左衛門が結びつけておいた狼煙を発見していた。

式場では、お婆はどうした?仲人がおくれてどうするんだ、すぐに呼んでまいれと宰相は剣士隊長に命じていた。

広間で剣士を倒して進んでいた助左衛門の前に立ちはだかったのは摺武だった。

助左、今度は逃がさんぞ!と言うので、摺武!今日だけは見逃してくれ!と頼むが、うるさい!宰相閣下の敵となった奴は俺の敵だ!と一喝される。

どうするつもりだ?と聞くと、手柄を立てて出世する!と摺武は言う。

摺武は二本のさいを抜き、助左衛門は王の剣を抜いて相手をする。

門の所で、思わず摺武を斬ってしまった助左衛門が驚いて近寄ると、斬られた摺武は、助左!俺はお前が好きだった…と言いながら倒れる。

その後、助左衛門は王の剣を振り回し、塔の上にいる久米地仙に伝えるが、それを確認した久米地仙が狼煙を焚こうとしたその時、ふと下を見ると、窓の中で寝ていた女の足が見えてしまう。

期が動転した久米地仙は、塔の上から落下して、途中の木の枝に引っかかってしまう。

そこからさっきの窓の中がはっきり見えるが、窓の中の女の足は、彫像のものだったことが分かる。

門の外へ出た助左衛門の姿に気づいた明国大子ら応援隊は、一斉に城の中に乱入する。
声に気づいた宰相は式場を後にする。

敵だ!敵だ~!助左だ!明国公子も来たぞ~!と剣士たちが叫んで廻る中、やって来た宰相は婚礼服を脱ぐと、剣士隊長に、慌てるな、いつもの手で皆殺しにしろ!と命じる。

大破、中破、小破3人は、投石機を使い、城中に石を投げ込み始める。

そんな中、敵の気配に気づいた助左衛門が制止するのも聞かず、何人かの友軍がさらに奥へなだれ込むと、待ち受けていた剣士隊たちが、火矢を連発砲を発射して来る。

助左衛門は、大破、中破、小破3人に、あの火をぶっ潰すんだ!と命じる。

剣士に化けた大破、中破、小破3人は、火矢連発砲に近づくと、いきなりひっくり返したり、反対方向へ向け発射したりし始める。

その火矢の一本が、引っかかっていた久米地仙の上着に着火し、地仙は落下するが、その時、一緒に地面に落ちたひょうたんの蓋が開き、妖婆が逃げ出してしまう。

弓名人が戦っていた助左衛門に矢を向けていたが、美輪が投げた探検が支え意手元が狂う。

弓名人が放った矢は、助左衛門の側にいた剣士に当たったので、助左衛門も気づく。

その頃、久米地仙は、先ほど迷った彫像の足下で、又反省のために座禅を組んでいた。

洗濯女が射たので、姫は?と助左衛門が聞くと、婆が生き返って姫の部屋に!と言う。

わしのものにならぬなら婆に任そう。明国公子も石になった姫では喜ぶまいが…と宰相は笑っていた。

妖婆は、良い子じゃ、婆の目を見るのじゃ!と言いながら弥々姫に迫る。

その時、助左衛門と明国大子が戦いながら近づいて来たので、それに気づいた妖婆は、姫を石にして渡してやるぞ…と嘲笑し、さらに弥々姫に迫って行く。

姫!婆と目を合わすな!と叫びながら戦う助左衛門

婆の目が光を放ち、弥々姫は悲鳴をあげながら、背後にあった布を引っ張りながら崩れ落ちる。

その布の背後にあったのは大鏡で、妖婆は、目から光を放つ自分自身の顔をまともに観てしまう。

次の瞬間、妖婆の身体は石化して行く。

代わって、石にされていた大入道と増尾が元の姿に戻っていた。

気絶した弥々姫 に襲いかかろうとしていた宰相に飛びかかったのは明国大子だった。

そこに助左衛門が援護に駆けつけ、明国大子は気絶していた姫を起こす。

助左衛門は逃げ出した宰相の後を追って部屋を出て行く。

明国大子と弥々姫は、剣士隊に囲まれるが。そこに現れたのは、石になった妖婆の身体を持ち上げた大入道だった。

剣士たちはバルコニーに追いつめられ落下して行く。

大入道は、持ち上げていた妖婆の身体をバルコニーから下へと投げ落とす。

妖婆の身体は地上に叩き付けられ木っ端みじんに砕け散る。

それを目撃した宰相は、こうなったら、敵を城に綴じ込めて、姫も王も焼き殺せ!と剣士隊長に命じる。

蘇った増尾は、宰相を捜していた。

助左衛門と明国大子も、宰相を探し求めていた。

そんな城中に、宰相はどこだ!と呼びかけながら、黒い馬に股がってやって来たのは揚藩だった。

その前に立ちはだかった助左衛門は、何だ?貴様!と言う揚藩に、お前に葛篭を奪われ、海に叩き込まれた日本人だ!覚えてるか?と呼びかける。

ふん!明国公子の片割れか?と嘲笑する揚藩は、馬を飛び降りると槍で挑んで来る。

王の剣で立ち向かった助左衛門は、敵の差し出した槍を足で押さえ、揚藩が剣を抜く前に腹を断ち切る。

一旦倒れた揚藩は、苦し気に起き上がりながら、姫に一目だけお会いしたい、宰相に騙された。城を乗っ取ったら、姫を俺にくれると約束した…、俺はそれだけを楽しみに…と告白する。

そこに駆けつけて来た明国大子は、黒海賊か?と言い、最後の力で立ち向かって来た揚藩を斬ろうとするが、待て!と助左衛門は止める。

姫は、俺のものだ!と言うと、揚藩はその場に倒れる。

それを観ていた宰相に、近づいた剣士隊長が、これで厄介者が一人片付きましたな…と笑いかける。

宰相は、自分について来た¥召使いの老人に、お前がついて来ては目だつではないか!と斬る真似をして追い払おうとするが、老人はなおも後を追って来る。

増尾から助左!と声をかけられた助左衛門は、ちょうど良い所で会った、頼みがあると近づいて来ると、地下牢の奴隷や囚人たちを逃がしてやってくれんか?と頼む。

分かったわ…と答えた増尾は、あんたが探している人…と言い、窓の外を目で促す。

覗き込んでみると、広場を逃げて行く宰相と剣士隊長の姿が見えた。

彫像の足下で座禅を組んでいた久米地仙は、目を開けると、もう大丈夫だ、わしもこれでやっと女を卒業したと言って喜ぶ。

増尾は、地下牢の囚人たちを介抱していた。

宰相は、門を上げる装置を作動させ、城の外へ逃げ出す。

一緒に門の外へ飛び降りた助左衛門は、待て!と言い、警護の剣士たちを斬り捨てた後、宰相も斬る。

囚人たちは、剣士に、締まった門を開けさせ、全員外へ逃げ出す。

降りた門の下には、斬られて倒れていた宰相の首の部分があったので、まだ息があった宰相の顔は、外に飛び出して来る囚人たちが踏む門の重みで潰されてしまう。

かくして、町には賑わいが戻る。

久米地仙は、また、洗濯女の色気に迷い、細い板の橋の所で、川に落ちかけようとしていた。

町民が助けようとすると、そのまま!と地仙は手で制する。

城では明国大子と弥々姫の結婚式が行われようとしていた。

元気になった羅刹王が王座に座っており、助左はどうした?このめでたい席に助左はどうした?と周りを見回していた。

今朝から姿が観えないと言うが…と、弥々姫の隣に座していた明国大子も案じていた。

みなで探しておりますので、今しばらくお待ち下さいませ…と弥々姫も王に声をかける。

海辺の岩場では、食い逃げやろう!と美輪が海に向かって呼びかけていた。

海を遠ざかっていく明国の舟の船上にいたのは、助左衛門と子分の天竺、竜神の市蔵の3人だった。

城に残れば、身分も金もやると言われたのに、どうして残らなかったんですかい?と天竺が聞くと、俺の欲しいものは他にある。

で、これからどこへ行くんで?と竜神が聞くと、さて…、どこへ行くかな…と助左衛門 は前を向き笑う。


 

 

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