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大魔神

 

いまだに「ガメラ」と並んでキャラクターの名が残っている大映京都の特撮時代劇で、大映東京作品「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」と二本立てながら、両方とも優劣付けがたいほど出来が良かった事でも知られている。

改めて見直してみると、子供は登場しているものの、いかにも堂々たる時代劇として丁寧に描かれている事が分かる。

今の子供向けなら、もっとテンポを速め、派手な見せ場を冒頭部分から用意して、子供に飽きさせないようにする所だが、この作品では、大魔神が登場するのは始まって1時間を過ぎてからである。

一応、冒頭の山の地響きから始まり、魔神封じの祭り、時を同じくして起こる城の謀反劇…と見せ場は用意されているのだが、この辺の見せ方は、子供向けと言うより、一般的な時代劇の展開のようにも感じる。

子供向けと言っても、10歳以下くらいだと退屈するかもしれない。

後半、ヒロイン小笹が、自分の身を捧げて神に願をかけるシーンがあり、そのヒロインを死なせぬために竹坊と言う子供が登場しているのだが、その竹坊も冒頭部分から赤ん坊として登場している事に注目すべきだろう。

後半の物語を支える、忠文、小笹、竹坊と言う子供たちが、ちゃんと冒頭から登場して、後の伏線になっているのである。

その竹坊の父親茂助も途中で活躍する場面があり、重要な人物がちゃんと最初から出そろっている所など、昔ながらのしっかりした脚本であるのが分かる。

とは言え、後半、大魔神が岩場で変身した後の時間経過と言うか、岩場と砦の距離関係が良くわからなかったりもする。

魔神は歩いて山を下ってきたのではない。

移動は光の珠の姿で空を飛んできているのであり、大魔神に変身した後、瞬時に砦に到着できるはずである。

しかし、先に砦に到着し、御山の神様が動き出したと村人たちに知らせているのは子供の竹坊であり、娘の小笹も先に到着している。

武人像のある滝の場所と砦とは、すぐ目と鼻の先と言う事なのだろうか?

そうだったとしても、子供と娘が山から下りてくる間、変身した魔神は何故その場を動かなかったのだろう?

何だか、魔神と小笹たちが、作戦でも話し合ったかのような動きに見える。

とは言え、見せ場となる後半の特撮シーンも非常に工夫が凝らされ、見応えがある名シーンが多い。

特に、着ぐるみの魔神像と実物大の魔神像が、編集で巧みに使い分けられているのに感心する。

大魔神と言うと、中に橋本力さんが入った着ぐるみのイメージが強いが、よく見ると、実物大の魔神像も有効に使われており、意外に着ぐるみのシーンは多くない事も分かる。

滝の上の武人像周辺のセットも見事だし、大魔神が掴んで引き倒す磔台に縛られている忠文は動く人形であったり…と、随所に工夫が見える。

さらに、見直す事で、大魔神の設定もだいぶ思い違いしていた事も分かる。

まず、大魔神の本体は「阿羅羯磨(あらかつま)」と言うもので、これが山の中に眠っている。

滝の上に立つ武人像は、その「阿羅羯磨(あらかつま)」を地中に封じている守り神。

「阿羅羯磨(あらかつま)」が怒ると、ご神体がその武人像に憑依して、顔が変化し、魔神像になるだけで、怒った魔神像も所詮は魂が宿る「依り代(よりしろ)」にすぎないのだ。

だから、魔神が怒りを鎮め、光の珠の状態のご神体が空へ飛び立っていくと、後に残った「依り代(よりしろ)」は、魂を失った抜け殻と同じなので崩れ去って自然に戻る訳である。

大魔神の本体が光の珠であり、それがUFOのように自由自在に飛び回ると言う描写は、最初の「大怪獣ガメラ」で、空に同じような光の珠が飛び回り、UFOと間違えられると言う設定そっくりなのも興味深い。

意図的にガメラに似せたのか、偶然なのか、当時流行っていたUFOにあやかったのか?

ヒロインは小笹役の高田美和さんで間違いないのだが、実質的に劇を動かしているのは、小源太役の藤巻潤さんであり、巫女の信夫役の月宮於登女さんであり、悪役を演じている五味龍太郎さんや遠藤辰雄さんだったりする。

ヒーローは大魔神であることと、子供時代を演じている二宮秀樹さんの存在もあり、一般的な時代劇なら主人公の役割になるはずの大人になってからの忠文役の青山良彦さんが、ちょっと存在感が薄いのがやや可哀想にも見える。

砦の増築現場のモブシーンも全くちゃちさがないし、森の中を入り込んでいく竹坊が幻想に怯える所なども、実に丁寧に描かれていて感心させられる。

大映の経営状態が急速に悪化する直前だったためか、細部に至るまで手を抜いた形跡が全く見えない所がすごい。

大映京都の面目躍如と言った作品ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1966年、大映、吉田哲郎脚本、安田公義監督作品。

暗い雲に稲光が走る

タイトル

炎を背景にキャスト、スタッフロール

暗闇に浮かぶ不気味にうごめく眼球のアップ

その目が奥の闇へ溶け込み、森の巨木周辺の様子に切り替わる。

遠くの崖の上で鳴く狼らしきシルエット

そんな山の中の一軒家

歌を歌いながら機を織る女と、その背後には夫、茂助(木村玄)と義父吾作(尾上栄五郎)の家族

女が何か異変に気づき、歌を止めた次の瞬間、不気味なうなり声のようなものが聞こえ、大きな地響きで家が揺れる。

あんた!と機を織っていた妻が背後の夫に言うと、魔神だ!魔神の足音だ!と夫は言う。

魔神だって?と夫に妻がしがみつくと、御山の魔神が出ようと暴れているんだと夫が言うので、それじゃ、狼岳に封じ込められているとこの里に古くから言い伝えられている、あの?と妻が義父に聞くと、うんと吾作は頷く。

何故来るんじゃ?と妻が怯えると、また地響きが起きて寝ていた赤ん坊が起きて泣き出したので、女は、竹坊!竹坊!と名を呼びかけながら赤ん坊を抱いてなだめる。

その時、戸を叩き夫の名を呼ぶ声がしたので、急いで戸を開けてみると、茂助!魔神封じのお祈りやるだ!来てくれ!と言う近所の住民の誘いだったので、すぐ行く!と茂助は答える。

夜の山の中を延々と続く松明の列 みんな、魔神封じの祈りに出向く村人たちだった。

その丹波のある小藩の山中城の天守閣では、父親の城主花房忠清(島田竜三)と悠乃(香山恵子)が窓からその様子を眺めていた。

そこに、猿丸小源太(藤巻潤)に連れられ、妹の小笹とともにやってきた、まだ幼い世継ぎの忠文(二宮秀樹)が、父上、魔神は、御山の魔神は出てくるのですか?と聞いて来たので、笑い出した忠清は、意気地がないぞ、武士の子が…、山には魔神封じの神が祀られてあると教える。

魔神封じの神が!と忠文が驚くと、そうだ、山から出られぬように守っておる。だから、絶対魔神は出て来れん。そればかりではない。その神はこの城下に降り掛かる災いがあれば、必ずこれを防いでくれるとも言い伝えられておるのだ…と忠清は説明する。

他の災いもその神様が!と忠文が感心すると、さよう…、ですから何の心配もございません。さ、御休み致しましょう、姫様も…と小源太が優しく言い聞かす。

まだ心配なの?小笹…と、妹の姫の方をあやしていた悠乃が、では良いものを挙げましょう、これを身につけておれば大丈夫です…と言いながら、お守りを手渡そうとするが、また地響きがしたので、悠乃は小笹を抱きしめてやる。

山の中では、本当におるのかな?魔神なんて…と茂助が仲間に聞いていた。

すると側にいた男が、おるとも!お前だって見た事があるだろう?社の境内にある魔神の足跡…と言う。

山の上では焚き火の周囲で、仮面をかぶった男たちが踊り、巫女の信夫(月宮於登女)が祈りを捧げる、神封じの儀式が始まっていた。

城では、魔神封じの祭りが始まりましたな…と、忠清と並んで外の様子を眺めていた家老大舘左馬之助(五味龍太郎)が話しかけていた。

忠清は、左馬之助、その方、余の名代として出向いてくれ、あの者たちは魔神に怯えておる。

城からの使者を受ければ心強く思うであろうと頼む。

畏まりましたと頭を下げた左馬之助は、背後に控えていた犬上軍十郎(遠藤辰雄)に声をかけ、一緒に出かけていく。

しかし、城の下に降りた軍十郎は、山に行くどころか、そこに待ち受けていた仲間に、手はずは整ったか?と確認する。

はい、全て抜かりなく…と仲間の答えを聞いた軍十郎は、当城は既に御家老の手中にしたも同然…、今宵に魔神騒ぎが起こるとは良くしたもの…と、一緒に降りてきた左馬之助に話しかけると、事を起こすにはもっけの幸いだ…と左馬之助もほくそ笑む。

矢までは信夫の祈祷が続いていた。 城の廊下にいた忠清めがけ矢が打ち込まれ、柱に突き刺さったので、同伴していた中馬逸平(伊達三郎)が、何者だ!と闇の中に向かい誰何する。

おのれは軍十郎!と中馬が気づくと、すぐに前方から左馬之助たちが近づいてきたので、御家老!と仲間は驚く。

さらに、背後にも退路を塞ぐように人が集まってくる。

左馬之助!何事だ?と忠清が聞くと、花房忠清殿…、本日ただいまより、当山中城は、この大舘左馬之助が所有致す!と左馬之助が言い出したので、驚愕した中馬は、何だと!気でも狂ったのか!と問いかける。

その方、流れ者のみにも関わらず、殿のご愛顧を受け家老の要職にまで取り上げていただきながら、何故の謀反だ?殿に何の恨みがあると言うのだ?と中馬が聞くと、恨みもなければ恩義もない!場内は、この左馬之助の手の者によって押さえておる!

今更騒いでも無駄だ…と左馬之助は答える。

裏切り者!と中馬が剣を抜いて左馬之助に突きかかっていくが、左馬之助の脇を固めていた仲間にはねつけられる。 隠れていた軍十郎率いる一派が、城にはしごをかけ乱入してくる。

出会え!大舘左馬之助の謀反だぞ~!と呼びかける中、軍十郎、貴様もか!と怒声が飛び、斬り合いが始まる。

若君!と寝所にやってきた小源太に気づいて目覚めた忠文が、どうしたのだ?と聞くと、早く!姫様も!と小源太は急かす。

そこにやって来たのが軍十郎で、逃げても無駄だ!と花房の血統は今宵限り!と言いながら、小源太に斬り掛かってくる。

小源太に加勢する同志たちも部屋にやってきたので、小源太は若と姫の二人を引き連れ、城を脱出しようとする。

必死に抵抗していた忠清も、敵の剣に倒れる。 殿!と倒れ掛かってきた忠清を支えようとした悠乃は、若は?姫は?と聞くが、そこに駆けつけてきた中馬の呼びかけの中、無念じゃ…とつぶやきながら倒れる。

闇に乗じて、場外へ脱出しようとしていた小源太に、何が起こったのだ?父上の所へ行こうよと忠文が問いかけると、はい!と答えた小源太は、そこに近づいてきた中馬(ちゅうま)に気づき声をかける。

あ、若君!と中馬は驚くが、殿は?と小源太が聞くと、中馬が答えなかったので、その意味を悟った小源太だったが、父上は?父上はどうなされたのだ?と忠文が聞いてきたので、若君…と小源太は打ち明けようとするが、それを中馬が止め、二人を早く!と急がせる。

は!と小源太は答えるが、嫌だ!忠文は逃げぬ!忠文は武士の子じゃ!父上と一緒に!と行きかけたので、いけませぬ!と止めた小源太は、小笹を背負い、気づいて近づいてきた敵を中馬らが相手をしている隙に逃げ厩に隠れる。

その厩の前にやってきた軍十郎は、火をかけい!と命じる。

厩の中では、おんぶされた小笹が、火をつけららたのに気づき、小源太、怖い!と怯えていた。

飛び出してきたら、逃がさず討ち果たせ!と軍十郎は手下たちに命じる。

どうする?と小源太が聞くと、このままでは焼け死ぬのを待つばかりだと中馬が言い、俺たちは奴を引きつけると原田孫十郎(黒木英男)が言うと、良し、小源太!貴様は若と姫を頼むと託す。

命に代えても!と小源太が答えると、では小源太!命があれば、10年後に城下で必ず!と再会を約し、中馬たちは戸を破って外に飛び出すと、敵に斬り込んでいくゆく。

逃げたぞ!と手下が小源太たちが逃げたのに気づいたので、あっちだ!追え!と軍十郎は命じる。

一方、山で魔神封じをしていた村人の中に馬で乗り付けてきた男は、引け!と命じる。

何をなさるのじゃ?と信夫が聞くと、皆の者、良く聞け!当領内は本日より、大舘左馬之助様が御支配なさる事になった!と男が叫んだので、え!大館殿が?と信夫は驚く。

今後許しなくて寄り合う事は一切ならん!早々に立ち返れ!と男は馬上から命じるので、しかし…と信夫が言いかけると、帰るんだ!と男は繰り返す。

いいえ、これは大魔神の荒勝馬を封じるため、いにしえより受け継がれた大切な祭り…、今日まで何の災いもなく過ごせてきたのは、この祈りがあればこそじゃ、それを御止めなさるのか!と信夫は男に伝える。

しかし男は、黙れ!殿の御指図じゃ!逆らえば斬って捨てよとのご命令だぞ!と男は言い放つと、散れ!と村人たちを追い返そうとする。 それを目にした信夫は、恐ろしい事だ…、恐ろしい事だ…とつぶやく。

魔神をかたどった藁人形に火が放たれ、燃え上がった人形は倒れる。

その頃、城の厩の焼け跡を捜査していた軍十郎の元へやって来た左馬之助は、小倅たちは見つかったか?と聞くが、厩が焼け落ちた時、確かに中にいたはずですが…、それが…と軍十郎は、小源太たちの死体が見つからない事に戸惑ったように答える。

逃れたのだ…、相手は子供、遠くへは行くまい。何としても探し出せ!花房家再興の芽は摘み取っておかねばならぬ…と左馬之助は言い渡す。

小笹を背負い山に逃れてきた小源太は、ついて来た忠文が、どこへ行くのだ?と聞いて来たので、はっ!と答えながらも、背後の迫って来た追っ手に築き、さ、若!と呼びかけると、手を引いて先を急ぐ。

その直後、3人を捜しにきた軍十郎の手の者たちが近づいてきたので、木陰に隠れていた小源太は様子をうかがう。

武人像を飾ってある社の住居部分で一人住んでいた信夫は、突然やって来た甥の小源太を見て驚く。

おば上!と挨拶した小源太を見た信夫は、無事だったか…と喜ぶ。

話は知って案じておった、でもお二人を良くここまで…と、忠文と小笹を見る。

夜の明けぬうちに国外へ逃れねばと思っているのですが、詮議が厳しく…と小源太が苦慮していると、国外へお逃がす事が出来ぬとあれば…と信夫が言い出したので、なんぞ思案がございますか?と小源太は聞く。

その時、住居に近づいてくる馬にひずめの音が聞こえたので、小源太は緊張する。 裏へ舞われ!と指示を出し、住居に入り込んできたのは軍十郎とその手下たちだった。

軍十郎が指図すると、手下たちが土足で上がり込もうとするので、何をなさる!と叱りつけた信夫は、仮初めにも神に仕えるものの住まいを、土足で汚す理不尽は許しませぬぞ!と睨みつける。

詮議だ!と軍十郎が言うので、御詮議と申しますと?と信夫は聞く。

ふん!さすがこのような所で一人神に仕えているだけあって不敵な女だ…と嘲った軍十郎は、構わん、調べろ!と手下に命じる。

しかし、家中を家捜しして手下は、見当たりません、いずくにも…と軍十郎に告げる。

落人をかくまえば、打ち首だと覚悟しておけ!と言い捨てて、軍十郎たちは帰ろうとする。

そんな軍十郎の背後に、御神域を騒がせば、必ずお怒りに触れる。

草々に立ち去りなされ!と信夫が言い放ったので、軍十郎は激怒する。

しかし、その時、落人の一団が西の方へ!と叫ぶ手下の声が聞こえたので、良し、急げ!と命じた軍十郎は、信夫を睨みつけながら引き下がっていく。

信夫はすぐに、住まいの戸を固く閉ざす。

翌朝、信夫は隠れていた小源太たちを人も通わぬ山の奥に案内する。

小源太、ここは魔神の山では!と忠文が聞く。 小源太に背負われている小笹も、怖いとしがみついてくる。

おば上、この山は何人も立ち入る事が出来ぬ御神域では?と小源太は、先導していた信夫に問いかける。

ここより他、お二人にとって安易な場所はあるまい…、神のお袖にすがるしか手だてはない…と信夫は答える。 やがて走り出した忠文が、小源太!あれは何だ?と聞く。

それは滝上に立った石像だった。

若様、あれこそ魔神を封じ込めておられる神ですと信夫が変わって答えると、あれが!あの像の下に魔神が封じ込められているのか?と忠文は聞く。

さよう…と信夫が答えると、忠文は思わず手を合わせて祈り始める。

御連れ致すのは、あの像の近くでございますと信夫は言う。

石の武人像の前にやってきた信夫は、神は必ず、若と姫君を御守りくださいましょう…と伝え、近くの洞窟の中に誘う。

洞窟の中に入った小源太は、このような場所にこんな所が…と驚くと、ここは昔、神の住まわれていたと言い伝えられておる…、神のご加護を願って、期する日までここで…、ここなら左馬之助も、よもや気づきますまい…と信夫は言う。

必要なものは私が運びますと信夫は小源太に約束する。

小源太!来てみろ、像がすぐ側に見えるぞ!と岩場の窓から外を覗いた忠文が無邪気に言う。

小源太が窓辺に言ってみると、確かに武人像が間近に見えた。

そして10年 小川の側で髪を梳きながら、歌を歌っていた美少女がいた。

成長した小笹(高田美和)だった。

小笹!と成長した兄の忠文(青山良彦)から声をかけられた小笹はうれしそうに立ち上がって、かりから帰ってきた兄と小源太を見やる。

小笹の腰には、母から昔もらったお守りが下がっていた。

今日はこんなに捕れたぞ!と獲物を掲げてみせた忠文に、すぐに帰りますと答える小笹。 今夜はごちそうじゃぞ!とうれしそうに呼びかける忠文。

その頃、藩の男と言う男は、強制的に左馬之助が命じた砦の増築にみんなかり出されていた。

日々、巨大な礎石運びと言う過酷な重労働が課せられ、力つきて倒れた男は、容赦なく監視役にむち打たれ、迫り来る荷車の下敷きにされようとしていた。

見かねた茂助がその男を助け上げると、たわけ!どうせ長くない命だ、病人小屋へ放り込んでおけ!と監視役は命じる。

そこへ、お父!と呼びかけながらやってきたのが、息子の竹坊(出口静宏)だったので、竹坊、こんな所に来ちゃいかん!帰れ!と茂助は叱るが、だって、おっ母が倒れたんだ!死にそうなんだ、帰ってくれよ!と竹坊は頼む。

よお、お父!と竹坊はせがむので、お願いです!女房が死にかかって…と、監視役に頼み込んだ茂助だったが、ならん!さっさとこの男を片付けるんだ!と監視役は怒鳴りつけるだけだった。

へい…と答えた茂助は、お父、帰ってくれよ!となおも竹坊が頼むので、わっぱは帰れ!と鞭を振り上げた監視係から守るように、竹坊を抱いてかばった茂助は、竹、帰るんだ!帰れ!と言い聞かせる。

竹坊はうんと答え、べそをかきながら帰って行きかけるが、茂助が病人を背負って小屋へ向かうと、お父!と駆け寄ろうとするが、それを制したのは、同じ現場に連れて来られていた竹坊の祖父の吾作だった。

おじいちゃん!と喜んだ竹坊だったが、こっちへ来い!と物陰に竹坊を連れ込んだ吾作は、新しい砦が出来るまで、お父もお爺も帰れないだ…、早く帰っておっ母を診てやんな。いつまでもこんな酷えことが通りゃしない。御山の神様が見てなさる…と泣きながら言い聞かす。

御山の?と竹坊が聞き返した時、表で銃声が響き渡り、花房の残党だ!と言う怒声が聞こえ、現場は騒然となる。

吾作は、早く帰ってやれ!と竹坊を追い返す。

現場に入り込んでいたのは中馬と原田だったが、逃げ込んだのは病院小屋だった。

お前様は花房の?と声をかけた茂助は、小屋の反対側の窓に綱を垂らすと、早くここから!後は私が…と勧める。

かたじけない!と礼を言い、中馬と原田がその綱を伝い窓から崖を降りていった直後、左馬之助配下の監視役たちが小屋になだれ込んできて、小屋の様子を見回すうちに、柱につながれていた綱に気づく。

崖下だ!と窓から下を見下ろしながら監視役たちはわめき、その場にいた茂作を見ると、おのれ、逃がしたな!来い!と言いながら捕まえる。

茂作は、私は何も!血刀を持って飛び込んで来られたんで…と言い訳するが、では何故知らせぬ!と問いつめられたので、知らせたら斬られます!と茂助は答える。

だがあそこを教えたのは貴様だろう!と監視役は言い、茂助を小屋の外に引きずり出そうとする。

その時、茂助じゃねえ!俺だ!俺が教えてやっただ!と言い出したのは、茂助が今運び込んでやった病人だった。

それを聞いた監視係は、この痴れ者め!と言うなりその病人を斬りつけると、殿に逆らう奴は、病人とて容赦せぬ!と言いすて、小屋を出て行く。

斬られた病人に、すまねえ!と茂作が詫びると、良いんだよ…、おめえに助けられたんだ、どうせ長くねえ命だ…と言い、病人は息絶える。

その病人を抱きかかえ、すまねえ!と茂作は泣き出し、他の病人たちもその周りを取り囲み哀しむ。

その頃、山の洞窟内では、里のものたちが人夫に!とやって来た信夫から、村人がかり出され苦役を強いられている事を聞いた忠文が驚いていた。

大舘左馬之助は悪運の強い男でございます。あれから10年…、近隣の豪族を斬り従え、あるいは手を結び、近々京へ上ると申しております…と信夫は下界の様子を教える。

このたびの砦増築も、そのための守り固めでございましょう…、里のものの苦しみは、働き手を取られたばかりではございません。1年の実りのほとんどは年貢に召し上げられ、今日の糧にも事欠く家もあるとか申しております…と信夫が言うので、そんな事まで!と小笹は驚く。

それを聞いた忠文は、小源太!ただちに山を下りよう!と言い出したので、小源太は若君!と驚く。 家再興の期を狙ってここに安納としてはおられない。

一日、否、一刻も左馬之助と言う敵は生かしては置けぬ!…と言う忠文に、小源太も同じ気持でございます。が、一人や二人の力では左馬之助を討つ事は出来ませんと小源太が言うので、何故だ?俺が左馬之助と刺し違えて死んでも、それで領民が救われるなら、父もきっと喜んでくださる…と忠文は反論する。

すると小源太は、確かに!だが万一、若君が、そして小源太が左馬之助を討ち漏らしたらどうなります?と冷静に諌める。

御城下には志を同じくするものが入り込んでいるはずです…と小源太が言うと、そのような噂も聞きましたと信夫も同意する。

真でございますか?と小源太が聞くと、そのため領内警戒はひとしお厳しくなったそうじゃ…と信夫は答える。

それならばなおの事、若君、まずは小源太が先に下り、皆と連絡を取りましょう。若君はその上で…と小源太は提案する。

それが宜しゅうございます、貴方様に万一の事がございましたら、今までの皆の苦労も水の泡と消え去りましょう、大事を取られた方が…と信夫も賛成し、一緒に話を聞いていた小笹も、兄上、そうなさってくださいと声をかけたので、忠文は、分かった!小源太頼む!と言う。

はっ!必ず吉報を持って参ります…と小源太が答えた時、地響きが起こったので、窓の側に行き、武人像を見やった信夫は、神もお怒りじゃ!私には神のお心が良くわかる。左馬之助がこの年月の悪行が尽きるのも、そう遠い事ではございますまい…と言う。 同じ頃、山中城内では、城下見回りの報告によりますれば、ここ数日、得体の知れぬ人間がとみに数を増したとか…と、家老になった軍太夫が左馬之助に報告していた。

昼日中から酒を飲んでいた左馬之助は、ふふ、たかが知れておる…と笑うが、上様、忠清の小倅が今日まで無事だとすれば、既に18歳…と軍太夫が進言すると、う~ん…、まさかとは思うが、警戒は怠るな!と命じる。

軍太夫は、その辺は抜かりなく…と返事をしたので、軍十郎に注いでやれと左馬之助は側女に命じる。 その後、猟師に化けた小源太は山を下りかけていたが、途中で左馬之助の家臣たちに見つかってしまう。

捕まった小源太は、私は何も…と怯えてみせ、武器らしいものも持っていないと見なされたので、貴様はどこに行く?と聞かれると、その雉を御城下の縁者まで届けてやろうかと思いまして…と言い訳すると、相手は、良く肥えておるな…などと言い、これは俺がもらっておくぞと言い、その雉を奪っただけで、小源太をそのまま見逃してしまう。

通り過ぎようとした小源太に、待て!久しぶりじゃのう、小源太!と声をかけてきたのは、馬で登ってきた軍十郎だった。

貴様が姿を現すからには忠文も一緒であろう!どこだ?小倅は!と馬上の軍十郎は問いかけるが、見破られたと悟った小源太は、足下に隠していた山刀を取り出し、暴れながらその場を逃げ出そうとするが、鉄砲隊に撃たれ足を負傷してしまう。

撃つな!引っ捕らえい!と軍十郎が叫んだので、家来たちは、足を引きずりながら逃げる小源太の後を追ってゆく。

砦増築の現場に逃げ込んだ小源太だったが、それを追ってくる家来たちの目の前に、櫓の上に土砂を持ち上げていた茂作たちは驚き、土砂を落下させてしまう。

妨害されたと感じた追っ手たちは、捕えろ!と茂助の方を見上げながら命じる。

さらに、左足を負傷していた小源太も、岩場の所で追っ手に捕まってしまう。

縛られて連れて行かれる茂助に駆け寄ってきたのは竹坊で、お父!どうしたんだ?と抱きついてきたので、来たらいけんと言ったのに!と叱ると、おっ母が死んだんだ!と言うので、茂助は驚く。

竹坊は、茂助を連れて行こうとする家臣に、何するんだ!と飛びかかっていくが、あっさりはねとばされ、お父!おっ母が死んだんだ…、おっ母が…と、その場に立ち尽くし、泣きながら連れ去られていく茂助を見つめるのだった。

山の洞窟では、なかなか戻って来ない小源太のことを、小笹と忠文が案じていた。 遅い…とつぶやく忠文に、何かあったのでは?と言う小笹。

その頃、小源太は、城内で軍十郎から焼いた鏨を顔に押し付けられると言う拷問を受けていた。

言え!忠文と小笹はどこにいるのだ?と軍十郎は聞くが、小源太は一言も口を開かない。

業を煮やした軍十郎は、容赦なく拷問を加える。

そこに、もう良いと良いながらやってきたのが左馬之助で、白状したも同然…、言わぬが何よりの証拠だ…、小源太!必ず探し出してみせるからな!と左馬之助は言い、笑い始める。

それを睨みつけていた小源太だったが、やがて力つき、気絶する。 社の住居にいた信夫は、夜中、外で人の気配がしたので、小源太か?と呼びかけながら外を見ると、何者かが潜んでいたので、誰じゃ!と誰何する。

そこに立っていたのは竹坊で、お前は?と聞きながら信夫が近づくと、おら、山の神様にお願いがあるんだと竹坊は言うので、お願いがあるのなら、ここで祈れば良い、みだりの奥山に入ると罰が当たると言い聞かせると、おら、神様に直に頼むんだ!と言い先へ進もうとするので、腕を掴んで止めようとすると、行かせてくれよ、お父が殺されるんだ!と言う。

父が?誰に?と聞くと、大舘の殿様だよ、昔のお殿様の家来をかばったって…、それで捕まったんだと竹坊は言うので、花房の御家来を?と確認すると、うん、その人も捕まって、今朝、お城の外に宙づりにされたんだと言う。

お父もきっと殺される!と竹坊が泣きそうになったので、その後家来の名前は?名前を知っていますか?と聞くと、こげ…、こげ…、そうだ!小源太とか言ってたよと竹坊は思い出す。

小源太!と信夫は驚くが、仲間が助けにきたら、それを皆殺しにするんだってと竹坊は教える。

その時、信夫は側に人の気配を感じ周囲を見回すが、話を聞いていた忠文の姿を見つける事は出来なかった。

どうしたの?と竹坊が聞いてきたので、坊や、神様はきっとそなたの頼みをかなえてくださる。父は助かる。だから安心して帰るのじゃと信夫は言い聞かせる。

だけど…と竹坊が迷っているので、ならぬ!この御山は魔神の御山…、そなた一人では昇れぬ…、さ、早く帰るのじゃ…と信夫は竹坊を押し返す。

その後、住まいに戻った信夫は、小源太…とつぶやき案ずるが、その背後では、竹坊がこっそり信夫の様子をうかがって残っていた。

翌日、砦増築現場に紛れ込んでいたのは、人夫に化けた忠文だった。

忠文は、宙づりにされていた小源太らしき人影を確認すると、しばらくの辛抱だ、よるまで待て!と密かにつぶやいていた。

一方、竹坊は、信夫の言う事を聞かず、神がいると言う奥山に一人登っていた。

竹坊は、山の中で怪しげな白いものを見たり、鳥の鳴き声に怯えながらも進んでいく。

髪の毛に触った白骨の手を見たと思い、助けてくれ!と叫びながら逃げ出した竹坊だったが、それはただの木の枝だった。

夢中で走っていた竹坊は、魔神をかたどった藁人形が立ちふさがったように感じ立ちすくむが、それも錯覚だった。

そんな竹坊は、いつしか洞窟の前にやってきて、こわごわと中を覗き込む。

すると奥から、鈴の音と共に白い着物を来た娘が出てきたので、夢中で手を合わせひざまずくと、どうか、おっ父を助けてください!御願いします!と竹坊は祈り始める。

すると、何故私を拝むの?と聞いて来たのは小笹だったので、え?お姉ちゃん、人間か?と竹坊も驚く。 そうよと小笹が答えると、じゃあ、何でこんな所にいるんだ?と竹坊は不思議がる。

それは言えないわと答えた小笹は、あなたこそどうしてここに来たの?と問いかける。

そうか…、お姉ちゃんも神様に助けてもらうためにここに来たんだろう?…と竹坊が早合点したので、小笹は笑顔でええ…と答える。

砦の工事現場の日が暮れる。

闇に乗じて、吊るされた男に近づいた忠文は、吊るされていた綱を解き、男の身体を地上に降ろしてやる。

しかし、その忠文の行動は、あらかじめ予期していた軍十郎らが、密かに監視していた。

小源太!と呼びかけ、助け起こした男は、小源太ではなく茂作だったので、あ、違う!と忠文は叫ぶが、その時、突然、龕灯(がんどう)の明かりを当てられさらに驚く。

笑いながら近づいてきた軍十郎は、まんまと網に引っかかりおったのぉ~と言うので、計ったな!と忠文が悔しがると、うん、面影は残っておると軍十郎は忠文の顔を確認しながら喜ぶ。

貴様は?と忠文が聞くと、俺か?当城の家老職犬上軍十郎だ!と名乗る。

おのれが!と良いながら、背中にしょった刀に手をかけた忠文だったが、おのれごとき若造にむざむざしてやられはせぬわ!と吐き捨てた軍十郎は、明日の朝には小源太もろとも片付けてやる!と言い放つ。

竹坊と連れ立ってやってきた小笹から、忠文が出かけたまま帰って来ないと知らされた信夫は驚く。

小源太のことを案じておりましたから、きっと御城下に行ったに違いありませんと小笹は言う。

敵はそれを待っていますと信夫が言うと、では、兄上は!と小笹は案じ、あるいは敵の手に…と信夫は最悪の場合を思い浮かべる。

どうしましょう?と小笹が聞くと、私が左馬之助に会って…と信夫は暗い表情でつぶやく。

城では、やって来た信夫を前に、威嚇するかのように窓から鉄砲を撃ってみせた左馬之助が、このわしにぜひ話したい事とは何だ?と良いながら、信夫の前に座り込む。

あなたは、山に封じ込めの神にまつわる言い伝えをご存知でございましょう…と話し始める信夫。

言い伝えだと?…、それがどうした?と、銃を磨きながら無関心そうに答える左馬之助に、ご自分の欲望のため、民を苦しめておられるが、かような振る舞いを神はいつまでもお見逃しにはなりますまい…と信夫は戒める。

このわしに、祟りでもあると申すのか?と苦笑しながら聞き返す左馬之助に、今直ちに民を解き放ち、無益な殺生をお止めなさらなければ、神の怒りが園美に降り掛かる…と信夫は言い切る。

すると左馬之助は、笑止千万な!その方、誰に頼まれてきた?花房の残党共か?と左馬之助が聞くので、誰にも頼まれはせぬ、神の御心を伝えにきたのじゃと信夫は答える。

左様な事を申して、真は花房の小倅を助けたいのであろう…と、左馬之助は見透かしたように言うので、神を恐れなされ!と信夫は言い聞かせる。

余計なおせっかいだ、馬鹿げた迷信など恐れるわしではない…と答えた左馬之助は、帰れ!と命じる。

聞き入れられぬと申されるのか!と信夫が迫ると、この世に祟りなどあるものかと左馬之助が嘲るので、ある!この私は神を御呼びする術を心得ておると信夫は断定する。

すると、それは面白いな…と言い出した左馬之助は、今考え直さねば、必ず災いが及びますぞ!と言う信夫に、それが真なら、その方を始末すれば後は誰も神を呼び出せるものがいなくなるのだな?と良いながら、持っていた銃を突きつける。

神の守りがあるのなら恐ろしくはあるまい?それとも、今まで申した事は嘘だと申すのか?と左馬之助が聞くので、信夫は真じゃと答える。

すると左馬之助は、よ~し、試してやると言うなり銃の引き金を引く。 弾は飛び出ず、左馬之助は笑いながら、弾は込めておらん!弾が込めてあればそなたでも死ぬ!と嘲ってきたので、神を恐れぬ御仁じゃ!と信夫は睨みつける。

伝えによると、山の魔神を封じるため、その守り神として武人が岩に掘られてあると言うが真か?と左馬之助は聞いてくる。 その神こそ、我らが仕える神じゃと信夫が教えると、その武人像をわしが壊したらどうなる?と左馬之助は聞いてくる。

恐ろしい事を…と信夫はおののく。 花房のものも領民共も、ただその像を頼りに心を結ばれておる…、その像を壊せば、奴らはよりどころを失う…と左馬之助が愉快そうに言うので、信夫は御壊しなさるのか?と問いかける。

それに仕えるお前もだ!と言った左馬之助は、刀を取って立ち上がると、祟れるものなら祟ってみよ!と言いながら、一刀のもとに信夫を斬りつける。

斬られた信夫は、懸命に体勢を保ちながら、この罰当たりめ!と怒鳴りつけたので、左馬之助は再度斬りつける。

それでも倒れまいと踏ん張る信夫は、神をないがしろにできるものならしてみよ!山の守り神を壊せば、恐ろしい大魔神「阿羅羯磨(あらかつま)」が出てくる!と言うので、三たび左馬之助が斬りつけるとようやく倒れる。

息絶えたかと思っていた信夫は、左馬之助!神の怒りは必ずある!その自分の身に惨い死に様をさらすぞ!死に様を…と顔を上げて言うと、ようやくがっくり顔を伏せる。

軍十郎、狼岳にあると言うその像をたたき潰してしまえ!と左馬之助が言うので、しかし、万が一の事がありましては…と別の家臣が案じると、たわけ!脅しだ!この女の脅しだ!と床で死んでいた信夫を睨みながら左馬之助は言い、急げ!と軍十郎を急かす。

社の信夫の住まいで留守番をしていた小笹の元に、野菜を採って戻ってきた竹坊は、お姉ちゃん、城の奴らだと教える。

社の前を通過した言った軍十郎たちの姿を窓からのぞき見る小笹たち。

そんな軍十郎の家来の一人が、御家老、いくらご命令とは言え、ご神像を壊すのは…とためらっていると、ふん!恐れる事はない、急げ!と軍十郎は命じる。

その言葉を聞いた小笹と竹坊は、ご神像を…、壊すって言ってたねと顔を見合わせる。 気になった小笹は軍十郎たちの後を追い始めたので、竹坊もその後についていく。

武神像のある場所へ近づこうとし、途中で道に迷っていた軍十郎たちの様子を、近くの木陰から監視する小笹と竹坊。

一旦やり過ごしたかに見えた軍十郎たちが、隠れていた小笹たちの方へ戻ってきたので、慌ててその場を離れた小笹だったが、その時、腰に付けていたお守りを落とした事に気づかなかった。

その場を通り過ぎていた軍十郎の家来の一人が、そのお守りを踏みつけ、鈴の音で気づいて、お〜い、妙なもんが落ちてるぞ!呼びかける。

どうした?と戻ってきた軍十郎は、そのお守りを拾い上げると、下賤のものの持ち物ではない…、近くにおるはずだ!探せ!と命じたので、小笹はあわてて、竹坊と一緒に逃げ出す。

すぐにその姿を発見され、小笹たちは軍十郎たちに追いかけられる。

やがて難なく捕まった二人に近づいてきた軍十郎は、小笹だな?答えろ!と迫る。

違います!私はそのようなものではございません!と小笹は答えるが、隠しても無駄じゃと言いながら、拾ったお守りを見せながら、巫女の信夫に匿われていたのか?と軍十郎は聞く。

いえ、知りません、そのような方は!と小笹はとぼけ、本当だな?と念を押されると、はい!と答える。

そうか…、人違いなればそなたに関わりない話じゃが…と言い出した軍十郎は、明日の朝には忠文と小源太 と申す男が二人とも磔台に立つ!と言うので、小笹は素直に驚いてしまう。

その顔を見た軍十郎は、どうしてそのように驚く??と聞いてくる。

兄上は…、本当に兄上と小源太は処刑されるのですか?と小笹が聞くので、そればかりではない、巫女の信夫は、殿がお手討ちなされた…と軍十郎は明かす。

信夫様が…と小笹が落胆していると、このわっぱは、高磁場で良く見かける奴ですと言いながら、家来たちが竹坊を捕まえて戻ってくる。

いずれ連絡を取らせていたのであろうと軍十郎が言うので、いいえ、この子は何も…と小笹はかばうが、小笹!我らを石像に案内しろ!と軍十郎は命じる。

黙って動かなかった小笹だったが、従わねばこの子を斬るぞ!と軍十郎から迫られると、待って!します…、案内します…と答えるしかなかった。

かくして、軍十郎たちは、滝の上に立つ武人像を見つける。

武人像の身体に木を倒しかけ、像の上に昇った家来たちが槌で像を壊そうとしまじめたので、思わず、止めて!と叫んだ小笹だったが、それ以上何をする事も出来なかったので、お許しを!お許しを!と武人像に謝るようにつぶやく。

しかし、いくら槌で壊そうとしても石像はびくともしなかった。

鏨を打ち込まないとびくともしないぞ!と家来が言い出し、大きな鏨を武人像の兜の額部分に打ち込み始める。

その内、像の下で作業をしていた家来が、首筋に何か垂れてきたのに気づき、それを触って目の前に手を回し確認してみる。

手のひらには血がついていた。 驚いて像を見上げると、石像の額から血が滴り落ちているではないか!

おい、血が!と下から呼びかけると、像の顔の近くで、血?と不思議そうに答えた家来たちが、次の瞬間、悲鳴を上げ落下する。

一天にわかにかき曇り、風が吹いて、落が石像付近に落ちる。

石像の周りの崖が崩れ始め、家来たちは悲鳴を上げ逃げ回る。 暗くなった中、次々に起こる雷光。

岩場で身を起こした小笹は、木に縛られ、助けてくれ!と暴れ回っていた竹坊の姿を見る。

それを助けようと歩き始めた小笹だったが、次の瞬間、大きく地面が揺れ、立っていられなくなる。

逃げ出した軍十郎たちは、山崩れに巻き込まれ、軍十郎は大きく裂けた地面に落ちてしまう。

その直後、軍十郎たちを飲み込んだ地割れは閉じてしまう。 石像が動き出したのでくる。

山中城の中では、時ならぬ地震が起きたので、家来が窓から外を眺め、殿、もしや石像を壊した、その祟りでは…?と話しかけるが、左馬之助はバカな!と答える。

あの巫女の言葉が真だったのではありませんか?となおも家来が言うと、何を言う、貴様まで毒されたか?いえいえ、左様な訳ではありませんが…と答えた家来を嘲りながら、盃を突き出した左馬之助は、側女が酒を注ごうとしないので、何を震えておるのだ!と癇癪を起こす。

その頃、城内の牢に入れられていた小源太は忠文に、申し訳ございません、この小源太が不覚をとったばかりに…、若君までも!と詫びていた。

しかし、忠文は、私は最後まで諦めぬぞ!私たちがくじけたら、城下のものたちはどうなる?神は決して御見捨てにはならぬ!と答える。

山の中では、お守りの側で気を失っていた小笹が目を覚ましていた。

石像を見やると、額に鏨が突き刺さったままだったので、側に近づいて良く観察してみた小笹だったが、その時、あ、お姉ちゃん!と呼んで近づいてきたのは竹坊だった。

水汲んで来てやったと手のひらに水を持って近づいてきた竹坊は、竹坊どうして?と小笹の聞かれると、縄が切れたんだ、でも怪我しねえよ、もしかしたら神様が助けてくれたのかもしれないと答える。

でも…、あの出来事は本当に?と小笹が不思議がると、神様が怒ったんだと竹坊が言うので、そうよ、きっとそうよと小笹も同意する。

そして、落ちていたお守りを拾い上げた小笹は、それを胸に押し当て、あさには兄上と小源太が…とつぶやく。

少し、世が明け始めた遠い山影を見ながら思い倦ねた小笹は、振り返って、武人像の前にひざまずくと手を合わせ、お願いでございます。貴方様のお力で、どうじゃ兄上と小源太を御助けくださいませと祈り始める。

翌朝、地下牢から忠文と小源太は引き出されようとしていた。

小笹は信夫様のように貴方様の御すがりする術は何も知りません…と小笹は明るくなった中、まだ武人像に手を合わせていた。 いつしか竹坊もその横に座り合掌する。

御願いでございます。先ほど御示しになったあのお力を、もう一度兄上と小源太のために… 兄上と小源太は朝には磔になります。そうなれば、左馬之助を懲らしめるもにはいなくなります。 二人を御助けくださるなら、小笹は命を召されても構いません…と小笹が祈っていると、像から小石が転がり落ちてくる。

何か武人が答えているように思えた。

砦の増築現場では、領民たちが見守る中、2本の磔台が運び込まれてくる。

砦から忠文が姿を現すと、領民たちは跪いて祈ろうとするが、見張りたちがそれを邪魔する。

そんな領民たちに向かい、無念そうに頭を垂れる忠文。

そんばな忠文を敵の家来が押して来たので、後ろ手に縛られながらも、何をする!と立ち向かった小源太はむち打たれる。

どうすれば小笹のお願いを御聞き届けくださるのでしょうか?と石像にすがりついた小笹は、涙を流しながら、小笹がこの身を御捧げしたら…と言うと、立ち上がり、滝上から飛び降りようとする。 お姉ちゃん!とそれを必死に止めようとしがみつく竹坊。

お姉ちゃん、死んじゃ嫌だ!お姉ちゃん!とつかみ掛かってくる竹坊を振りほどき、滝に向かおうと小笹が立ち上がった時、突然地響きが起こったので、体勢を崩した小笹は倒れる。

その小笹にしがみついた竹坊は、お姉ちゃん、神様が!と言う。

はっ!と気づくと、武人像の周囲の崖が崩れだしている。

近づいてみた小笹を、お姉ちゃん、危ない!と竹坊が岩場の影に引っ張り込む。

すると、また地響きが起こり、武人像の足の部分を隠していた岩が崩れ、石像の全身が姿を現す。 次の瞬間、岩に掘られていたはずの武人像が歩き出す。

小笹がその顔を見上げる中、左手で顔の前をなで上げるかのように持ち上げた武人像の顔は、緑色に怒る魔神の顔に変化していた。

砦の前では、磔にされた忠文と小源太の前にやってきた左馬之助が、忠文!小源太一人の共ではあの世で寂しかろうと、家来どもにも共をさせてやろうと待ったが、一人も出て来ん。 滅び行く花房家に今更命を投げ出すバカもおるまい!これが人の世だ!と嘲る。

おのれ!と小源太が暴れようとするが、それを馬鹿め!と叱りつけた左馬之助は、突け!と、槍を構えた家来たちに命じる。

その時、大変だ、大変だ!と飛び込んできたのは竹坊だった。

大変だ!御山の魔神が出てきたぞ!本当なんだ、出てきたんだ!と村人たちに告げると、村人たちはざわめきだす。

左馬之助は、そのわっぱを捕まえろ!と命じるが、村人の中に紛れ込んでいた小笹が、竹坊、逃げるの!と声をかける。

竹坊は、村人たちが見張りたちを邪魔する中逃亡する。

その時、花房の残党が飛び出してくる。

ただちに鉄砲隊が応戦し、残党たちが射殺されていくのを見た忠文は、出るな!出るな!と叫ぶ。

それでも飛び出してきた残党たちは、みな、やや鉄砲の餌食になってしまう。

磔台の下に戻ってきた左馬之助は、磔台を見上げ、忠文!これでどうやら共ぞろいも揃ったようだな…と笑うと、やれ!と再び命じる。

その時、天がにわかに曇りだし、辺りが暗くなる。

上空を見上げていた家来が、殿、あれは!と教えた空の一角から、光の珠が飛んでくる。

村人や城野家来たちの上空を飛び回った光の珠が地面に落ちた次の瞬間、巨大な魔神像が出現し、見張り櫓の方へ向かってくる。

櫓の横で立ち止まった魔神は、ぎろりと櫓の方を振り向くと、鉄槌を加え、やぐらを破壊する。 左馬之助に命じられ、家来たちが魔神像に挑みかかっていくが、矢も鉄砲も通じず、近づいた家来たちは踏みつぶされていく。

磔台に近づいた大魔神は、忠文の磔台を掴むと引き倒す。 城門を閉めて中に逃げ込んだ左馬之助だったが、あっさり城門を魔神に破壊されてしまう。

城の中に入った家来たちは、鎖の端を建物の柱に縛り、もう片方を魔神の右腕に引っ掛けて動きを止めようとするが、魔神はその鎖がつながったまま前進しだしたので、鎖にしばられていた柱がへし折れ、次々に建物が倒壊していく。

さらに魔神はその鎖を引っ張ったので、さらに建物が壊れていく。

投石機の石がはな垂れ、氷魚のついた大岩が転がされ、魔神の動きが止まったかに見えたので、殿、これで!と家来が安堵しようとした瞬間、魔神は無傷で動き出す。

そんな中、逃げようとした左馬之助は、前方に大魔神が立っている事に気づき、慌てて後ろに逃げる。

城の中に逃げ込んだ左馬之助は、絶叫が聞こえたので、窓から外を見ると、家来の一人が魔神に捕まり、壁にその身体をねじ込まれている所だった。

そして、城の中にいた左馬之助を振り向いて見つけた大魔神は、窓を突き破って右手を部屋の中に突き出してくる。

部屋の中を逃げ回っていた左馬之助だったが、いつの間にか、背後に待ち受けていた魔神の手に掴まれてしまう。

城の下では、磔台から逃れた忠文と小源太に、小笹が駆けつけて合流していた。 そんな彼らの目の前を、右手に左馬之助を掴んだ大魔神が通り過ぎていく。

大魔神は、壊れて、ちょうど十字架のようになっていた柱の所へ来ると、そこに左手で左馬之助の身体を押し付け、右手で自分の額に刺さっていた鏨の鉄杭を引き抜くと、振りかぶって左馬之助の胸に突き立てる。

左馬之助の死体は、十字になった柱に、標本のようにぶら下がる。

その後も大魔神は動きを止める様子もなく、村人たちも逃げ出したので、若君、里に出したら大変な事になりますと小源太は言い出し、二人は飛び出していく。

魔神は、逃げていた村人の男を女房の目の前で掴む。

そんな魔神の前に立ちはだかった忠文は、止めろ!止めてくれ!里のものには何の罪もないんだ!止めてくれ!と大声で頼むが、魔神は聞く耳を持たないように、忠文の方を見下ろすと、捕まった彼を引きずったまま歩き出す。

それでも、止めてくれ!と叫びながらしがみついてくる忠文を振り落とした大魔神は、掴んだ男を叩き付ける。

それを見ていた竹坊が、お姉ちゃん、おいらが!と言うなり飛び出していき、魔神像の前に立って手を合わせ、お願いだ、お願いだ!止めてくれ!と頼む。

しかし、魔神は動きを止めようとせず、おもわず竹坊が踏みつぶされそうになったので、竹坊!と叫

びながら、魔神の前に飛び出してきた小笹が転んだ竹坊の身体の上に覆い被さる。

その小笹と竹坊を踏み潰そうと足を振り上げかけた魔神像だったが、その瞬間、その動きが止まる。 下を見下ろしていた魔神は、小笹の赤い着物に気づいたのか足を引っ込める。

そんな魔神を見上げた小笹は、お願いでございます、どうかお怒りを御鎮めくださいまし!と願う。

小笹はなおも、どうか、この小笹を踏み殺すだけで、お怒りを鎮めて、山へ…、山へ戻ってください!御願いします!と訴える。

大魔神の足にすがりついて泣き出す小笹。

その姿が通じたのか、魔神はまた片手で顔の前をなで上げると、怒りの魔神の顔は元の武人の顔に戻っていた。

その様子を見ていた小源太が、若君!と忠文に声を掛けると、光の珠が空を飛んでいくのが見えた。

次の瞬間、暗かった空が次第に明るくなり、その場に残っていた武人像が崩壊し始めたので、それに気づいた忠文が、その下で祈っていた小笹に、危ない!と駆け寄り、身を引いてやる。

逃げ出した二人の目の前で、武人像は崩れ落ちる。

魔神はそなたの清い涙に打たれて、飛び去ったのだと、小笹を抱きながら言う忠文。

そんな忠文をうれしそうに見ながら、兄上!と呼びかけた小笹は、緊張が解けたのか、そのまま気を失ってしまったので、慌てて忠文が抱きとめる。

崩れ去った土隗には、鎖がまぎれていた。
 


 

 

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