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NINJA THE MONSTER

 

松竹が、海外市場を意識した忍者映画を作っているという噂は前々から雑誌で読んでいたので密かに楽しみにしていた。

海外での勘違い「忍者」イメージに乗っかった、ハチャメチャな忍者映画を期待したからである。

この作品がそれだったらしいのだが、実際に見てみると、想像とはかけ離れた凡庸な作品になっていたので拍子抜けした。

凡庸になっている原因は、おそらく低予算にすべて起因するのではないかと思う。

予算がないから、役者を何人も雇えない→数人の役者しか登場しない。

予算がないから、モンスターもきちんと作れない→専門学校生にシンプルなCGIを依頼しごまかす。

予算がないから、モンスターの殺戮シーンもきちんと描けない→むやみに衣装やセットを汚したり壊せない。

予算がないから、忍者アクションも描けない→爆破エフェクトやワイヤーワークなど手間ひまがかけられない。

結果、タイトルとは裏腹に、忍者の活躍もモンスターのスペクタクルも登場しない、きわめておとなしい展開になっている。

あえて言えば、「隠し砦の三悪人」に近い設定のようにも思えるが、ここまで金もアイデアもなければ、見せ場はほぼ皆無と言って良い。

さらに、全くの架空の世界ではなく、中途半端に現実の日本を意識していたような設定になっているため、ハチャメチャにすらなりきれていない。

良く言えば、まじめにまとめているのだが、そのまじめさから面白さは生まれなかったと言わざるを得ない。

どうも昔から松竹は、この手の「荒唐無稽」や「ハチャメチャ」に弱いような気がする。

これでは、海外向けというより、主役の人気頼り、女性ターゲット狙いなのか?とも想像したくなるが、この主役俳優がどれほど海外で客を呼べるのか未知数である。

少なくとも日本では、どの層の客も呼び込めなかったのではないだろうか。


例え低予算でも、ユーモア表現などが入っていれば、もう少しなんとかなったのでは?とも悔やまれる。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2016年、松竹メディア部、土橋章宏脚本、落合賢監督作品。

CG製の富士山に松竹の会社ロゴ

諜報、暗殺の任務を担っていた忍者は、幕府の忍者禁止令によって、全国の忍者は抹殺された。

そんな中、長野藩の密使として、忍者の代わりに彦十郎ら3人の家臣が江戸へ赴くことになる。

彦十郎ら3人が夜間、あんどんの灯りを頼りにとある山の中に入り込むと、足下に流れていた小川から、大量の水滴のようなものが空中に舞い上がったので、面妖な!と見入るが、その水滴が集合して、何か得体のしてない化け物のような姿になって吠えて来たので、物の怪だ!と叫ぶ。

タイトル

半月後、長野藩の幸姫(森川葵)は、雪が舞う中、駕篭に乗って江戸へ向かっていた。

途中、止まれ!という声をとともに、駕篭をいきなり地面に下ろされたので、幸姫は驚き、駕篭はそっと下ろしてください!とお付きの者たちに注意し、ここはどこですか?と問いかける。

間もなく山に入りますと答えたのは、長年幸姫に仕えて来た長右衛門(和田聰宏)であった。 近くの川縁で立ち小便をし出した二人の家臣たちは、先に行った者たちはどうしたのでしょう?と連絡を絶った玄十郎たちのことを案じていた。

しかし、一人の家臣が気にしていたのは、彼らに同行している謎の若者のことだった。

殿直々の指名だと聞くが、ちっとも口をきかぬし、不気味な奴だと家臣は嫌悪感を持っていた。

休止の後、再び駕篭は川沿いの道を進み始めるが、去年通ったときには水があった川の水が何故か枯れ果てているのに家臣たちは気づく。

彼らが向かう先には、煙を噴く浅間山の偉容が見えていた。

途中、荷車を引く農民に出会ったので、山までどのくらいある?と長右衛門が聞くと、農民は驚き、あの山を越えなさるんですか?あの山には物の怪が出ます。嘘だと思うなら、この先の村で聞いてみてくださいというと、関わり合いになりたくないという風に、さっさっと立ち去って行く。

その言葉に従い、次の村の庄屋の家に立ち寄った一行が、山の話を聞くと、誰も山から帰って来た者はないので、物の怪を見た者はねえが、今、村長が、山に祈祷に行っているのだと庄屋は言う。 すると、死体は見たのか?と急に謎の従者伝蔵(ディーン・フジオカ)が口を開いたので、長右衛門はむっとする。

しかし、庄屋の話では、死体はなく、残ったのは衣服だけと言い、何人居なくなったとの問いには、女子供合わせて10人ほど…と言うので、堪り兼ねた長右衛門は、伝蔵、止めんか!と勝手な質問を封ずる。

そして、困ったことになりましたな…と幸姫に話しかけると、庄屋は、むやみに山に入ると村が襲われます!と言ってくる。

しかし、幸姫は、年明けまでには江戸に行かねば…と言う。 そのとき、時ならぬ地響きが起きたので、山の神様の怒りだ!と庄屋はおびえる。

引き返しましょう。姫をそのような危険な場所にお連れする訳には参りませんと長右衛門は提案し、庄屋に、明朝国元へ発つので、一晩貸して欲しいと願い出る。

その後、伝蔵は、卒塔婆の前にたたずんでいた村の子供に、自ら作った竹とんぼをくれてやる。 子供はもらった竹とんぼに夢中になるが、気がつくと、伝蔵の姿は消えていた。

その夜、寝ていた幸姫は、戸を叩く音で目を覚ます。

やがて、足音が寝所に近づいて来たので、姫は警戒するが、姫!一大事でございます、城より飛脚が参りましたと呼びかける長右衛門の声が聞こえたので、起き上がり、かまわぬ入れ!と声をかける。

長右衛門が手紙を差し出したので、父上が亡くなられたのですね…と事情を察した姫は言い、その場で手紙を読んで確認する。

手紙は家老原田利右衛門の手によるものだった。

こんなに早く…、まだ何一つ孝行できていないのに…と幸姫は哀しむ。

そんな幸姫に、文人一緒にこれが…と言い、長右衛門は懐刀を手渡すと、姫、早々に帰り、葬儀の準備を…と勧めるが、江戸へ行きます!父に代わり、私が半を救わねばなりません!と幸姫は言い出す。

そんな2人の会話を、廊下で伝蔵が密かに聞き入っていた。 翌朝、姫たち一行が山へ向かうことを知った庄屋は、山に行かないでくださいとすがりついてくるが、長右衛門は退け!と言い、庄屋の家を後にすると幸姫と供に山に向かう。

山道を登る途中、水たまりの水が、妙に粘り気を帯びていることに気づいた伝蔵が、ここ数日、雨が降ってないのに、この水の量は変だと言い出す。

しかし、それを聞いた長右衛門は、伝蔵が怖じ気づいたと思い込み、尻込みしているな?とからかう。

幸姫も、長野藩は今、存亡の危機なのですと駕篭の中から言い聞かせたので、今の姫のお言葉が聞こえなかったのか?覚悟の足らぬ奴め…と伝蔵をあざける。

その直後、幸姫は、また急に駕篭が地面に落とされたのでむっとするが、長右衛門!誰か!いないのか!と呼びかけても、返事がなく、駕篭が大きく揺れ始めたので、姫は外で何か異変が起きたと察する。

少し落ち着いたので、恐る恐る駕篭の開き戸を開けてみると、護衛のものらしき家臣の服が地面に崩れ落ち、木々の間を飛んで行く水の固まりのようなものが見えた。

次の瞬間、何者かが姫を肩に担ぎ、駕篭から走り出したので、放せ!無礼者!と姫はわめくが、それは伝蔵で、けがは?と聞いて来たので、大丈夫ですと幸姫は答える。

そこに現れたのは長右衛門だったので、無事だったのですね?と姫は喜び、皆は…?と聞くが、私の他は全員やられました…と言う。

用心が足りぬ!と伝蔵が注意すると、立ち上がった姫は、一人で参りますと言い出す。

やむなく、その後を付いて行くことにした長右衛門だったが、衣装を残して消えたお付きの者たちの財布や水筒を物色し始めた伝蔵を怪しみ、何をしておる!と声を掛けると、今後何が起こるか分からん…と伝蔵は答える。

そんな伝蔵の周到さを見ていた長右衛門は、お前、まさか…、忍びか!忍びはいなくなったはずだ、残らず死罪になったと聞いた…と驚く。

そして長右衛門は幸姫に、一度引き上げて、体勢を立て直して出直した方が…と提案するが、姫は、何としてでも江戸へ行きますと言って聞かない。

今まで私はみんなから守られてきました。領民も飢えることなくやってこられた、私は長野藩十万石みんなの命を守っているのです!と姫の決意が固いのを知った伝蔵は、もう駕篭を担ぐものはおらぬ…と言い聞かせる。

幸姫は、残っていた男物の羽織と指貫を身につけ、伝蔵と長右衛門と共に山を登り始める。 途中、長右衛門と幸姫がやたらと瑞枝を飲んでいるので、水を飲み過ぎるな!と伝蔵は叱る。

すると長右衛門は、水など、山にはいくらでもある!とにらみ返してくる。

やがて、彼ら3人は、怪しげな祈祷の声を聞く。 様子を見ると、村長(峰蘭太郎)ら数名の村人が、お堂のようなところで祈祷をしている最中だったので、関わり合いにならない方が良さそうだ…と伝蔵は言い、そっとその場を通り過ぎることにする。

しかし、その途中、姫が物音を立ててしまい、一瞬、祈祷の声が止まったので、伝蔵たちも身を潜め、様子をうかがう。 祈祷を止めて、周囲の気配を伺っていた村長だったが、やがて、また祈祷を始めたので、3人はそのままその場をやり過ごして行く。

その後、長右衛門が、地面に流れていた水を竹筒に汲んで姫に飲まそうとしていたので、待て!この水は飲むな、この水嵩は怪しい…、死にたければ勝手にしろ!と伝蔵が注意すると、伝蔵!お前のを寄越せ!と長右衛門が言い出したので、断る!と言うと、せめてせめて姫だけには頼む!と折れて来たので、やむなく伝蔵は、自分用のひょうたんを手渡す。

それを受け取った長右衛門は、姫にその中の水を飲ませた後、ひょうたんを伝蔵に返す際、一瞬のためらいがあった。 途中、木にかかった女物の着物を目にした幸姫はその場に立ち尽くし合掌する。

夜になったので、たき火を焚いてそれで暖を取る3人、幸姫は、みんな死んでしまいました…と悲しげに言う。

行くなと言ったはずだと伝蔵が言うと、基金が続けば、藩のものはみんな死んでしまいます。 弟が元服するまで私が藩を守らなければ… 私が老中の側室になれば、藩は救われるのです…と幸姫が言うので、本当にその覚悟があるのか?と伝蔵が聞くと、長右衛門が、なぜ生きている?みんな死んだはずだ…と伝蔵に問いかけてくる。

殿に仕えているだけだ…と伝蔵が答えると、馬鹿な!殿が忍びに頼るとは…と長右衛門は信じられないようだった。

叔父が忍びに殺されたと聞いたことがある。そなた心当たりないか?と幸姫が聞くと、心当たりはない…と伝蔵は答える。

それが命ながらば殺しましたか?と姫が聞くと、無論…と伝蔵は答え、立ち上がると、おい、小屋があるぞ!このまま風に吹かれているつもりか、俺はごめんだ!と姫たちに話しかけ、自分だけ小屋に向かう。

私は大丈夫ですと言っていた姫だったが、長右衛門に勧められたのか、小屋の中で休むことにする。

しっかり眠って、明日に備えましょうと長右衛門は姫に話しかける。

その後、寝ていた伝蔵は、人の気配に気づいたのか、刀に手をかけ起き上がる。 小屋の戸を開けて入って来たのは、祈祷をしていた村長たち数名の村人たちだった。

おめえら!何をしている?と村長は怒鳴りつけてくるが、一緒にいた村人は、これはお侍様、おめえ様たちも山にお参りにこられたか?と聞くので、長右衛門が、否…と本当のことを話しかけるが、その言葉をかき消すように、伝蔵が、いかにも…、参拝できている。途中、足をくじいたものが出たので休んでいたのだ…と姫の方に目をやり、嘘の説明をする。

すると、村人たちはその言葉を信じたのか、急に愛想よくなり、長右衛門に酒を振る舞ったりし始める。

お侍様は、酒にさぞお強いんでしょうね?などと村人が世辞を言うと、この辺でわしに勝てるものはいない!などと、酔った勢いもあり、長右衛門はあからさまに自慢と、伝蔵への悪態をつき始める。

それを見かねた幸姫が、長右衛門、仲違いしてはなりませぬ、江戸へ行くまでは…と注意したので、その言葉に敏感に反応した村人は、今、何ちゅうた?お前ら、山にお参りに来たのじゃなかったのか!とわめきだすと、いきなり、長右衛門の腕に噛み付いてくる。

山の神がお怒りじゃ!と他の村人たちも狂ったように長右衛門に飛びかかって来たので、伝蔵は止めに入るが、幸姫が、抜いてはなりませぬ!と抜刀を禁止したので、やむなく、伝蔵と長右衛門は、刀を使わず、村人たちと戦うしかなかった。

一人の農民が、鎌で迫って来たので、伝蔵は背後に回って首を締め付けるが、伝蔵!止めなさい!と幸姫が止めたので、気絶させるにとどめる。

その間も、殺す!殺す!と狂ったようにつぶやきながら迫ってくる村人たちたちだったが、また地響きが起こったので、お山がお怒りじゃ!と叫び逃げ出す。

伝蔵は、何かを感じ、急いでろうそくの火を吹き消すと、小屋の外を水の固まりが飛んで行く。 息をひそめていた伝蔵は、やがて、行ったようだ…とつぶやく。

あれは何なのですか?と姫が聞くと、あれが物の怪だ…と伝蔵は答える。

翌朝、目覚めた幸姫は、伝蔵の姿が見えないことに気づき、長右衛門に聞くと、起きたときには居なくなっていました。奴は何か企んでいるような気がします…、食わせ物め…と長右衛門は言う。

小屋を出て、姫とともに出立した長右衛門は、奴は、我々を足止めしようとしているのではないでしょうか?奴は物の怪を騙り、幕府に我が藩をお取り潰しにさせるつもりでは?などと伝蔵への疑念を口にしていたが、そこに伝蔵が姿を現したので、貴様、何してた!と問いかけると、物の怪がどこから来たのか調べていたと伝蔵は答える。

行くぞ!と伝蔵が声をかけて来たので、どうしますか?と幸姫に確認した長右衛門だったが、幸姫は、まだ裏切り者と決まった訳ではありませぬと言うので、くれぐれも、奴に気を許してはいけませぬぞと長右衛門は言い聞かす。

その後、森は霧に覆われ始めたので、待て!霧が晴れるまで待つのだ!と伝蔵が忠告するが、忍びなどに耳を貸してはなりませぬ。姫、行きましょう!と長右衛門は幸姫を誘い、そのまま霧の中を進もうとする。

しかしその後、幸姫は、一緒に歩いていたはずの長右衛門の姿を見失う。

周囲を必死で見渡すが、伝蔵の姿も見えないので焦り始める。 次の瞬間、何者かに担がれたので幸姫はパニックになりかけるが、窪地に押さえつけられたとき、担いで来たのは伝蔵だったと気づく。

そのとき、姫!こちらに来てはなりません!と叫ぶ長右衛門の声が聞こえて来たので、長右衛門は?と幸姫が聞くと、もう助からん…と伝蔵は言う。

長右衛門を助けて!と姫が懇願すると、ここを動くな!と念を押し、伝蔵は霧の中に入って行く。

しばらくきりの中で待っていた幸姫だったが、霧が晴れて来たので立ち上がり、周囲を見渡すと、見えて来たのは、木の下でうずくまっていた長右衛門の胸を刀で突き刺す伝蔵の姿だった。

止めて!と叫ぶ幸姫 そこに戻って来た伝蔵が、無事か?と姫に聞くと、裏切り者!やはり幕府の雇われものだったのですね!あなたには人の血が流れていないんですか!と幸姫はなじる。

伝蔵は、俺は忍びだ…、奴はお前のために死んだ…と答える。

しかし、殺したのはあなたじゃないですか!と幸姫は責める。

(回想)教えてくれ…、わしは死ぬのか?…、木の下に尻餅をついていた長右衛門は、目の前にやって来た伝蔵に聞く。

長右衛門の左胸は、何者かに食いちぎられたように、骨と内蔵が見えていた。

そうだ…と伝蔵が答えると、姫をお前が助けたとき、悔しくてな…、忍ぶ恋というのは辛いものだな…と長右衛門は打ち明ける。

良いか?と言いながら、伝蔵は、泣いている長右衛門の胸に剣の切っ先を向けると聞く。

これ以上、長右衛門が苦しまぬよう、とどめを刺してやろうとする伝蔵の誠意だった。

(回想開け)とうとう、幸姫と伝蔵の2人きりになり、山を越えることになる。

長右衛門は昔から私を守ってくれました…、あなたにも大事な人はいるでしょう?死なれるより、死ぬ方がどんなに楽なことか…と哀しんでいた幸姫は、つまずいて倒れてしまう。

そんな姫に手を差し伸べ起こしてやる伝蔵は、死ぬのは江戸に着いてからだ…と言う。

武家に生まれたからには、武家の女の役目があると父がおっしゃっていました。

役目とは何でしょう? 布切れを引き裂きながら幸姫が問うと、覚悟だと伝蔵は答える。

その伝蔵の傷ついた右手のひらに、裂いた布切れを包帯代わりに巻いてやる幸姫。 年明けまで後三日!迷っているときではない!と伝蔵は言い聞かし、また歩き始める。

二人は、古寺を見つけたので、中に入り込み、伝蔵は、水たまりに石を投げ込んで様子を見る。

無人のようだったので、ここも物の怪に襲われたのでしょうか?と言いながら、伝蔵の後に付いて中に入る幸姫

そのとき、突然、伝蔵に何者かが飛びかかってくる。

伝蔵に襲いかかって来たものを見た幸姫は、そなた、彦十郎では?無事でしたか!と驚く。

その声で幸姫と気づいた彦十郎は、慌ててひれ伏し、物の怪と思いましたので…と言い訳をする。 では、この先にも物の怪が居るのですね?と姫が聞くと、はい、みんな死にました。寺の周りは物の怪だらけなので、ずっとここに隠れていました…と彦十郎は答える。

幸姫が、この者は伝蔵、用心棒です。父親が雇われた…、この伝蔵がここまで助けてくれたのですと彦十郎に紹介すると、ほお…、それは頼もしい…と彦十郎は皮肉のように言う。

我らは江戸へ行きます、彦十郎も行きましょうと幸姫が誘うと、もったいない!行きますと彦十郎は即答する。 その後、上に周辺の絵地図を描いた彦十郎、寺の裏は湖で、ここを抜ければ江戸まですぐですと幸姫と伝蔵に説明する。

船はあるのか?と伝蔵が聞くと、古いのならあるが、船には2人しか乗れないと彦十郎は答える。 仕方ない…と伝蔵が言うと、その意味を察した幸姫が、彦十郎を置いてゆくのですか?と聞く。

江戸に着いてから、応援を差し向けましょうと伝蔵が言うと、分かりました。私はここにいましょう…と彦十郎は承知する。

幸姫も、必ず助けを寄越しますと約束する。

その後、木片を削り始めた伝蔵に、私は誤解していたかもしれません…、忍びは血も涙もない乱暴者だと思い込んでいましたが…と幸姫が話しかけると、あながち間違っておらんと伝蔵は言う。

幸姫は、そなたは違っておるではないか、何度も私を救ってくれた…と言うので、ただの任務だ…と伝蔵は答える。

忍びにとって、死は恐ろしくないのですか?と姫が聞くと、死を恐れぬものに、命をかける資格などない!と伝蔵はつぶやく。

そして伝蔵は、作った笛を幸姫に渡し、危難が迫ったらこの笛を…と伝える。

その後、伝蔵は、寺の庭先で、彦十郎が何かぶつぶつ言いながら何かを燃やしている姿を見つけたので、側に寄ってみると、許さんぞ!と言いながら彦十郎が持たしていたのは、幸姫が持っていた通行手形だった。

伝蔵は慌てて、火の中にあった手形を取り戻し、必ず戻ってくると申したはずだ!と叱りつけるが、彦十郎は狂ったようなまなざしで、寺の周りは物の怪だらけだ!戻ってくるものか!みんなここで死ぬんだ!と叫び、伝蔵に飛びかかってくる。

その間、寺の中にいた幸姫は、急に戸が閉まり、何者かが近づいてくる気配におびえ始める。 庭では伝蔵とたいまつを手にした彦十郎が争っていた。

物の怪が!と叫びながら、たいまつで突いてくる彦十郎は、もう完全に正気を失っていた。

幸姫は、何かが室内に入り込んで来たので、先ほど伝蔵からもらった笛を吹いてみるが音が鳴らないので焦る。

気がつくと、側の台の上に置いていた竹筒の水筒から水が床に滴り落ちていた。

そこに急に伝蔵が現れたので、この笛、音が鳴りませぬと文句を言うと、犬笛だ、普通の人間には聞こえぬ…と伝蔵はぶっきらぼうに教える。

その伝蔵から、燃え残った手形を渡された姫は、これがなくては…と嘆くが、伝蔵はかまわず、行くぞ!と声をかけてくる。

彦十郎は?と姫が聞くと、気がふれておる、もう助からん…伝蔵は言う。

庭先では、気が狂った彦十郎が、物の怪!みんな死ぬ!と一人わめき散らしていた。

夜、船に乗って湖に漕ぎ出した2人だったが、満天の星を見上げながら、地上でいくら人が死のうが、星は輝くのですね…と幸姫が感傷的なことを言うので、奴らは、あそこから来たのかもしれん…と伝蔵は言う。

だとしたら、何をしに来たのでしょう?と姫が聞くと、渡り鳥のようなものかもしれん…と伝蔵は答える。

そなたは、いつから忍びになったのじゃ?と姫が聞くと、遠い昔だ…と伝蔵は答えるので、そのときから命捨てる覚悟があったのですか?と重ねて聞くと、覚悟とは、暗闇の中に光を見いだすことだ…と伝蔵は答える。

私に、その意味が分かるときがくるのでしょうか?…と幸姫はつぶやく。

そのとき、また、地響きが起きたので、本当に山の神が怒っているのかもしれん…と伝蔵ははぐらかす。

父上は亡くなられました。雇った主がいなければ忍びは必要ないのでは?と姫が問いかけると、俺は、殿にしか仕えたことがない…と伝蔵は言う。

忍びは禁止されているのでしょう?これからどうやって生きて行くのですか?と幸姫は聞く。

そうした会話をしながら山を進んでいた二人は、やがて、城下町を見下ろす場所に出る。

その町中に入った伝蔵は、この城下町をすぎれば江戸はすぐだと姫を励ます。

しかし、幸姫には迷いがあるらしく、私は覚悟がありません…、江戸に着かなければ良いのですが…などと言うので、伝蔵は黙って、姫のわらじを取り替えてやる。

この先、そなたはどうするのですか?と姫が聞くと、次の任務の予定はない…と伝蔵が言うので、違います!この先身を固めるとか…と姫が問いただすと、興味がないと伝蔵は吐き捨てる。

伝蔵、もし無事に江戸へ着けたら、私の側にいませんか?勤めなどしなくて良いのです。ただ側にいるだけでも…と幸姫が言い出したので、断る!と伝蔵は即答する。

それが、命であってもですか?と重ねて聞いた幸姫は、もう良い!ここで護衛の任を解きますと言うと、一人で歩き始める。

姫!と伝蔵が呼びかけたとき、地面にあった水たまりから無数の水滴が空中に浮かび上がる。

伝蔵は急いで、人気のない民家に幸姫を連れ込むが、床の板の隙間から水が湧き出て来て、空中で何かの形に固まりだす。

伝蔵は、ここから先は一人で行け!と姫に命じ、不気味な水でできた怪物に対峙するが、嫌です!ここで死ぬのがお前の使命なのですか?と幸姫は抵抗し、父から授かった懐剣を抜くと、怪物の触手部分に斬りつける。

すると、苦しさからか叫んだように見えた怪物は暴れだし、やがて家の外へ逃げ出して行く。

伝蔵と姫が外に出てみると、山の山頂部分から溶岩が流れ出していた。

どこかへ行ったようだ…と伝蔵が言うので、なぜ分かるのですか?と姫が聞くと、似たもの同士だから。忍びも物の怪もこの国には住めぬ…、手形がなくても、その懐剣があれば関所は通れるはずだと伝蔵は言うので、そなたには、まだ一度もお礼を言っておりません、ありがとう…と姫は言う。

先に歩き出した幸姫が、これからも私を守ってください…と言いながら振り向くと、そこにはもう伝蔵の姿はなかった。

幸姫は、首から下げていた犬笛を握りしめ、一人歩き始める。

幸姫はその後、側室となって長野藩を救った。

浅間山の大噴火による天明の大飢饉の原因は、その後、うやむやにされた…(とテロップ)


 

 

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