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若い仲間たち うちら祇園の舞妓はん

ザ・ピーナッツ主演の音楽映画

当時、同じナベプロ所属だったスパーク3人娘(中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり)や田辺靖雄に木の実ナナ、谷啓、それに、ナベプロではないがスリーファンキーズまで登場して、青春ドラマ風に盛り上げている。

珍しいのは、御相手役が、当時松竹所属だった園井啓介である事。

娘たちが全員憧れるイケメン青年として登場している。

宝塚映画と言うことだからか、宝塚出身の乙羽信子さんが、ピーナッツの母親役、それに、配給の東宝系の上原謙や浜美枝、太刀川寛、清水将夫、加藤春哉と言ったお馴染みの面々が脇を固めている。

見ていた時は気づかなかったが、「ウルトラマンエース」(1972)の北斗星司こと高峰圭二さんまで、学生役で登場していたらしい!

つまり、その学生の写真のモデルをしていた木の実ナナさんと高峰さんは、ほぼ同年代と言うことになる。

高峰さん主演のテレビ時代劇「竜巻小天狗」(1960)が宝塚映画制作所だったので、その付き合い上の仕事だったのかもしれない。

ザ・ピーナッツ主演として珍しいのは、2人がデュエットするシーンが少なく、互いにソロで歌っているシーンの方が多いように見える事もある。

「私と私」でも、それぞれソロで歌うシーンもあるのだが、2人で一緒に歌っている方が多いのに対し、この作品では、2人でお馴染みのヒット曲を歌うようなシーンがあまり登場しない。

さらに、二人の違いを見せるためか、目の両脇にほくろがある姉のトリ子(伊藤エミ)と、ほくろがない妹のヒナ子(伊藤ユミ)がはっきり描かれているのも珍しい気がする。

そのために、ヒナ子が舞妓姿のトリ子に化けて家に帰り、母親も見間違えるが、良く顔を見て気づくと言うようなシーンで、観客も同じように気づき易いようになっている。

話として、特に面白いと言う訳でもないのだが、スタジオでのミュージカル風演出部分は、さすが宝塚映画だけに手慣れた感じがする。

「私と私」同様、劇中にフジテレビが実名でテレビカメラなどを提供している。

当時から、東宝とフジテレビは協力関係にあったと言うことだろう。

ザ・ピーナッツは、女性としても歌手としても一番輝いている時期だったようで、初期の作品に比べ大人っぽくなっている。

スパーク3人娘では、園まりがなかなか愛らしい。

まだ粘っこい歌い方をやってなかった頃らしく、歌って踊って頑張っている新人と言った印象。

伊東ゆかりは、やっぱり今観ると美人とは言いがたく、演出側もそれを知ってか、少しコミカルな演技をさせているようにも見える。

木の実ナナとか田辺靖雄は、ただ顔を出しているだけと言った感じで、歌さえ歌わせてもらってない。

それに対し、梓みちよはちゃんと歌を歌わせてもらっており、この差は何だったろう?と思う。

この年に大ヒットした「こんにちわ赤ちゃん」のせいかもしれないが、そんな時期に梓さんが別の歌を歌っているのも珍しい。

全体的に、出来としては普通くらいではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、宝塚映画、茂木草介原作、井手俊郎脚色、佐伯幸三監督作品。

京都風景をバックにタイトル

恒例の「都をどり」が始まっていた。

若手舞妓の仲良しトリオミエ子(中尾ミエ)、ゆかり(伊東ゆかり)、マリ子(園まり)らは、舞台袖から客席中央前列から5番目の席に座り、外国人夫婦に何やら舞台の解説をしていた小野道春(園井啓介)を観ていた。

ミエ子が、うちの方をじっと見とったんやと言うと、マリ子は、うちの方を見とったんや!と口喧嘩を始めたので、ゆかりがなだめる。

そんな会場に、舞妓の高林トリ子(伊藤エミ)を迎えに来たのは、「綾乃家」の番頭源さん(立原博)だった。

しかし、一足違いでトリ子は帰った。京都駅にヒナちゃん迎えに行く言うてたさかい、すぐに追いつくのやありまへんか?などと係の女性が言うので、後を追って京都駅に行くと、人気歌手高林ヒナ子(伊藤ユミ)を出迎える野次馬の中に、トリ子(伊藤エミ)を発見する。

駅から出て来たヒナ子はトリ子の姿を観ると感激し、二人は抱き合うが、地下図工とした源さんは、野次馬に押されて。「森永チューインガム」と書かれた宣伝カーの横に転んでしまう。

その時、地面に落ちていたチラシを拾い上げると、それは高林ヒナ子のコンサートを知らせるチラシだった。

「綾乃家」にやって来た小野は、高林綾(乙羽信子)に、トリ子はん、いますか?と聞くが、まだ帰ってないと知ると、アメリカの大学の先生が、芸子や舞妓の生活を観たいと言っているので見せてもらえないだろうか?と頼む。

外国人夫婦の背後には、修学旅行生の写真のモデルになってやる「インスタント舞妓」だと言う京子(木の実ナナ)とラン子(沢リリ子)も付いて来ていた。

綾は構わないと、外国人を家に招き入れるが、トリ子だけではなく源さんまで戻って来ないので、どないしたんやろか?と首を傾げる。

若いアイドルグループ(スリーファンキーズ:長沢純、手塚しげお、高倉一志)が歌っていた音楽喫茶にいたミエ子、ゆかり、マリ子らは、歌手が自分を見た見ないで又もめていたが、ステージで昔なじみのヒナ子が歌い出すと手を振り、ヒナコの方も歌いながらウィンクをして返す。

すっかり板についている!と、3人娘たちは、かつて舞妓仲間だったヒナ子が、今では立派な歌手になっているので安心する。

そんな会場に、場にふさわしくない源さんが来たので、ミエ子がどうしたのかと声をかけると、トリ子はん、来てないか?と言う。

先に家に戻っているんじゃない?帰ってみたの?とミエコが言うと、そうやった!と源さんは納得して帰りかけるが、ステージで歌うヒナコの歌を自分も口ずさんでいた。

「綾乃家」では、外国人教授が、棚に飾ってあった家族写真たちを見て双子のようだと驚いていた。

綾は、双子どすとあっさり認める。

そこにトリ子が帰って来たので、蓮昭寺のボンボンが、ガイジンさん連れて来てはるんやと教えると、ヒナちゃん迎えに行ってたんやとトリ子が答えたので、何であんな祇園に背を向けた子を迎えに行くんや?と綾は叱りつける。

教授が小野に事情を聞くと、妹は祇園に見切りをつけたんだ、言うて下さいと横からトリ子が小野に声をかける。

その夜のトリ子の座敷は、料亭「叶家」だった。

(スタジオセット)舞妓姿のミエ子、ゆかり、マリ子らが、ゴーゴー祇園♪などと歌いながら、途中で現代娘に変身し、ダンサーらと踊る。

(現実)その日のお座敷の客は、友田(谷啓)と言う男だった。

お姉さん、おおきに…と礼を言い、友田の相手を始めたトリ子に、何故か友田は生年月日を聞いて来る。

昭和20年生まれどすとトリ子が答えると、18歳だね?と確認した友田は、明日琵琶湖に行かないかね?とトリ子を誘うが、同席していたミエ子、ゆかり、マリ子らまで喜ぶ。

その時、トリ子に電話が入ったと知らせが入ったので、トリ子は座を外す。

その間、友田が残っていた3人娘に、将来の生活設計を聞くと、3人とも、料理屋をやりたいとか、金持ちのおじいちゃんと結婚したいなど、ちゃっかりした夢を語り出す。

電話に出たトリ子は、相手が綾の妹のきよ子(島崎雪子)おばさんである事を知るが、実は、ヒナ子がきよ子に電話させていたらしく、ヒナ子自身が電話口に出る。

お母ちゃんに会いとうないのか?とトリ子が聞くと、会いとうないわとヒナ子は言う。

電話を切り、「叶家」を出たトリ子は、きよ子のやっているクラブに来てヒナ子と会う。

きよ子は、トリ子らの母親である綾が、3姉妹の中で一番気が強いと言い、トリ子が、桃子おばちゃんが一番がっちりしてるわと感想を言うと、あの子が一番チャッカリしており、祇園の中で面白おかしく暮らしているときよ子も同意する。

噂をすれば何とかで、そこに綾の3姉妹の末っ子桃子(浜美枝)がやって来て、ブランデー飲ませて!と美代子にたかり、うちはいつも高林ヒナ子を宣伝してるんやで!と調子の良い事を言う。

ヒナちゃん、故郷に錦飾ったやないの!堂々と家に帰ったらええのや、うちに任しとき!と桃子はヒナ子に太鼓判を押す。

その頃、綾は、酒をよばれていた源さんから、何で再婚しはりまへんのやと言われ、苦労のしどうしでしたわ、夫と別れてから女手一つでトリ子たちを育てて来たんやから…と答えていたが、源さんが、まだ宝石商やった杉本はんの事を諦められへんのでっか?と言われると、あの方の事だけは言わんといて下さい!とぴしりと頼む。

その時、表でクラクションの音が聞こえたので、源さんは桃子の車が来たと察し、表に迎えに出る。

桃子がヒナ子とトリ子を一緒に連れて入って来たので、何で連れて来たんや?トリ子もトリ子や、何であんたやうちを見捨てた人を連れて来たんや?うちの敷居は跨がせませんと綾は気色ばむが、ヒナちゃん、さっきから、敷居跨いでるやないのと桃子はからかう。

そう言われた綾が、舞妓の姿をして部屋に上がっていたトリ子の顔を見ると、目の両側のほくろがないことに気づく。

ヒナ子がトリ子と服を入れ替え化けていたのだ。

このアイデアには源さんも感心するが、あかん!せっかくのあんたらの取りなしやけど、やっぱりあきまへん!とヒナ子を許そうとしなかったので、あまりの母親の頑固さにヒナ子も怒り出し、その場で急いで舞妓の着物を脱ぎ出したので、トリ子も耐えかね、ヒナちゃんは、明日の朝、大阪に行くねん!せめて一晩くらい泊めてあげても…と綾に言葉をかけるが、綾の態度は変わらず、ヒナ子も、もう良いねん!放っといて!と投げやりになる。

翌日、トリ子や3人娘たちは、生け花教室に参加していたが、3人娘たちは、トリ子が元気がない事を気にしていた。

これから友田と琵琶湖に行く予定だったからだ。

その後、3人娘と友田と共に、琵琶湖に出かけ、一緒にボートに乗った友田は、昭和20年の4月生まれだったね?と又、トリ子の生年月日について確認して来る。

そんな友田に、3人娘たちはスパークコーラの缶を思い切り振って栓を開けたので、コーラが友田に噴射する。

友田はバランスを失い、そのまま湖に落ちてしまう。

湖畔のホテルに帰り着いた友田は、濡れた服を丹前に着替え、3人娘とトリ子にサンドイッチを振る舞うと自分は座を外す。

そこへやって来たのが、3人娘の友達の大学生田崎順平(加藤春哉)と、蓮昭寺の次男坊小野道秋(田辺靖雄)だった。

その間、友田は、別室にいたトある男性に、トリ子の生年月日を報告し、あの子に間違いありませんと太鼓判を押していた。

一方、田崎順平にはミエ子が、順ちゃん、大学入ったら、英語を教えてくれるはずだよとねだっていた。

ある日、トリ子が部屋で、ヒナ子が歌うレコードを聴いていると、綾がやって来て、レコード針を外し、祇園には祇園の歌があります!あの子を家出させたのはその曲です!とポップスに当たり散らす。

その時、ミエ子から電話がかかって来たので、源さんが出る。

陶芸家の町田栄介(清水将夫)がやって来て、いつものように、綾に、去年日展に出したものと同じ形だが、あの時は上薬が気に入らなかったので変えてみたんだ…と言いながら、持って来た新作の壺を見せると、綾は素人ながらに褒める。

すると、どんな評論家より、あなたに褒めてもらうのが一番嬉しい!と町田は喜ぶ。

その頃、ミエ子、ゆかり、マリ子の3人娘が順平に英語を習うために蓮昭寺にやって来るが、出迎えた道秋は、トリ子が来てない事を知りがっかりする。

取りあえず、道秋の兄の部屋を借りて勉強する事にするが、3人娘の本当の目的は、本堂でお経を読んでいた兄、道春の方だったので、本堂の近くまで行くと、密かに道春の様子を観察し始める。

(スタジオセット)3人娘はダンサーらたちと、小坊主の扮装になって歌い踊る。

急に、道春が柱の後から顔を出したので、驚いてこける小坊主姿の3人娘。

(現実)3人娘は、寺の住職(左卜全)がやって来たので慌てて挨拶するが、本堂で聞きなさいと住職が勧めたので、嫌々ながら本堂の方へ行こうとするが、ゆかりが廊下で滑ると、住職も同じように滑って転んでしまう。

蓮昭寺に遅れて到着したトリ子は、道路を渡ろうとしていて、自転車にぶつかりそうになり転んでしまう。

それを門前で目撃した道春が助け起こして寺の中に連れて行くのを目撃したのは帰りかけていた3人娘だった。

寺の中で、道春から右手の甲の傷の手当をしてもらったトリ子は、小野さんって優しいおすなと喜ぶ。

すると、道春がどうかな?と答えたので、ほんまは恐い人どすか?と不安そうな顔になったトリ子は、身の上相談に乗ってもらいたいのだと打ち明ける。

戸惑った道春だったが、うかがいましょう、あなたの悩み…と答える。

そうした2人の仲が急接近するのを危ぶんだ3人娘は、様子を見に寺の中を覗きに来るが、もうその時には誰もいなくなっていた。

道春とトリ子は、表に出て桜並木の下を歩いていた。

今の仕事が嫌になったとトリ子は打ち明けていた。

上辺はきれいでも、根は男の機嫌取りですやろ?とトリ子が言うと、それは祇園だけではなく、今の日本にはそう言う矛盾が起こっている。自分で解決するより他ないのではないかと道春は答える。

トリ子は、自分も歌が歌いたく、先手を打たれたかたちのヒナ子に腹が立ったり、羨ましかったりすると言う複雑な気持ちを告白する。

それを聞いた道春は、僕も仏教の研究で海外に行ってみたいよと言う。

そんな2人がとあるホテルの前まで来たとき、作曲家の川中信行(太刀川寛)と車でヒナ子がやって来る。

ヒナ子に会ったトリ子は、お母はん、あれから寂しそうや…と教えると、うちはあれから大阪、神戸廻って、又京都へ戻って来たのだと言う。

今夜来てくれる?とコンサートに誘われたトリ子は、ロビーの一緒のテーブルに座ると、うち、あんたのレコード全部持っていて、全部歌えるんやでとトリ子は答える。

その会話を聞いていた川中は、トリ子さんだって、歌手になりたいんじゃないの?と興味を持ったようで、僕は新しいものにしか興味がないんだなどとヒナ子に言う。

あなた方の事は週刊誌で読みましたわ…とトリ子は、川中とヒナ子が恋人同士だと言うことをほのめかすが、川中は、それをあっさり否定したので、横で聞いていたヒナ子は、だってあなた、私を好きだって…と驚き、急に怒ったのか、バカにしないで!と言い残し席を立つと、さっさと車に乗り込んで行ってしまう。

帰宅したトリ子は綾に、いい加減にヒナちゃん、許してくれても良いと思うわ!お母ちゃんもそろそろ町田先生と結婚したらどうどす?と言い聞かそうとするが、綾の態度が煮え切らないので、お母ちゃん、まさかうちらのお父ちゃんがまだ生きてると思っているの?と聞く。

すると綾は、戦争終わってもう18年、例え生きていたかて赤の他人どす…と答えていたが、そこに電話が入り、綾が出ると、えっ!ヒナ子がケガ?!と驚く。

ヒナ子があの後、交通事故を起こし入院したと言うのだった。

病室の前には、事件を知った新聞記者たちが集まって入り、マネージャーに質問攻めをしていた。

マネージャーは今夜のリサイタルは大丈夫です!と必死に説明していたが記者たちは信用しない。

そんなマネージャーを見かねたのか、先に見舞いに来ていた歌手(長沢純)が、僕が説明しますから、下の食堂に行きましょうと記者たちを全員病室から遠ざけてやる。

病室では診察を終えた医者が、骨折なので全治1ヶ月くらいでしょうか…と、川中とマネージャーに伝えていた。

今夜のリサイタルに出られないとすると違約金を払わなければいけないと、マネージャーは頭を抱える。

取りあえず、東京の社長に連絡してきますとマネージャーが病室を出ようとした時、綾とトリ子が駆けつけて来る。

トリ子を始めて観たマネージャーは、ヒナ子には双子がいたことを再認識すると、あの子、歌えないかな?と遺書に廊下に出て来た川中に話しかける。

川中は病室に戻ると、トリ子に、今夜だけ高林ヒナ子として歌ってくれと頼み、マネージャーも、ステージに穴を開けると大変なことになるんだと頼む。

ベッドに寝ていたヒナ子自身も、うちの代わりに歌ってちょうだいと頼むが、その時、待っておくれやす!こないな事されるのはヒナ子だけで結構です。祇園からヒナ子のようにトリ子を取らんとって下さいと綾が言い出す。

ヒナ子の違約金でしたら、うちが家を売ってでも払います!と綾は頑固に言う。

そこにやって来たのが、きよ子と桃子で、病室内の様子を見て、又喧嘩してる!と呆れる。

その夜、綾の態度は変わらず、トリ子はいつものように舞妓として座敷に出かけるしかなかった。

ところが、座敷で待っていたのは桃子だった。

桃子は、用意していた舞台衣装にその場でトリ子を着替えさせる。

トリ子は、高林ヒナ子になり切り、その日のリサイタルで堂々と歌い始める。

バンドの指揮をしていた川中は、そんなトリ子の様子を熱心に観ていた。

客席に来ていたきよ子は桃子に、お客はん、誰も気いついてないと安心する。

そのリサイタルの様子を病室の白黒テレビで見るヒナ子。

すぐに、この替え玉作戦はマスコミの知る所となり、トリ子はヒナ子に代わり一躍人気者になる。

念願の歌手デビューを果たし、明るい表情で歌うトリ子に対し、長引く入院生活で歌手としては忘れられつつあったヒナ子の方は暗い表情で歌う。

メジャー調の歌を歌うトリ子とマイナー調の歌を歌うヒナ子はいつしか夢の中でデュットしていた。

松葉杖を余儀なくされていたヒナ子は療養のため、綾の自宅に戻って来ていた。

そんなヒナ子をきよ子が見舞いに来る。

足はどうや?あんた、ここに来てから人が変わったみたいやね?ときよ子が落ち込んだヒナ子に言うと、歌手としての人気なくなってしまった…とヒナ子は悲しむ。

あないキ○ガイみたいやったお母ちゃんも、あんたが帰って来てからは落ち着いたときよ子は指摘する。

しかしヒナ子は、何かをすねたように、もう出直す気ないのよ!もうお終いよ!と叫ぶ。

修学旅行の学生学生(頭師孝雄、高峰圭二)相手に大原女の扮装で写真を撮らせていた京子とラン子は、200円!と料金を要求したので、本物の大原女だとばかり思っていた学生は驚く。

綾の家にいよいよ歌手として上京するトリ子を桃子が車で迎えに来ていた。

桃子は、自分がマネージャーとして付いて行くさかい、うちにまかしといて!と嬉しそうに言うので、その場にいたヒナ子は、突然、松葉杖をついて家を出て行く。

どこへ行くの?と綾が聞いても、どこでも良いじゃない!とヒナ子は吐き捨てて行く。

きよ子は、桃ちゃんもヒナちゃんの気持ちを考えんと…と桃子に注意する一方、綾も、こんな騒ぎはこれっきりにして欲しいわ…と疲れたように言う。

そんな騒ぎを他所に、トリ子と桃子は車で東京に出発する。

外を歩いていたヒナ子に声をかけて来たのは小野道春だった。

照れたヒナ子は、病院の帰りですと言う。

道春の方は、近くまで寄ったので、ちょっとお話ししようと思って…と言うと、川中さんと言ってましたね?作曲家…と、先日、ホテルのロビーでトリ子やヒナ子と一緒に会った男の事を聞くと、東京に帰って、何の便りもありません…とヒナ子は自分が捨てられた事を悟り、悔し気に答える。

新しいものにしか興味がないなどと言うてましたな?はっきりして、なかなか面白い人やった…と道春は言う。

ちょうどベンチのある所へ来たので、かけませんか?と道春はヒナ子に勧めるが、腰掛けようとしたヒナ子は、身体を支えていた道春に抱きつくと、うちもトリちゃんと同じように可愛がって下さい!と突然訴える。

道春は、トリちゃんと訳あるんどすか?i今のうちにはあんたより他には何もないんどす!歌も、歌のファンも、みんなトリちゃんのものになったんどす!とヒナ子は訴える。

道春はそんな取り乱したヒナ子に、家出までした勇気がある人が何を言うんです。いつかは再起できる。それまでじっと我慢をするのが本当の勇気と言うものなんです。分かるね?ヒナ子はん!と言い聞かせる。

又、ヒナ子と歩き始めた道春の様子を、たまたま食事をしていた近くの店から見ていたのは、見慣れぬ紳士と、ミエ子、ゆかり、マリ子の3人娘だった。

あの人はどういう人だね?とその紳士杉本(上原謙)が聞くと、お寺のボンボンで、うちらの芸術にも理解がある人なんですとミエ子がうっとりしたように言うので、芸術?と杉本は驚きながらも、ヒナ子はんの恋人じゃないのかね?と聞くと、すぐさま、違います!と3人娘はムキになって否定する。

東京の8チャンネル「JOCX-TV」フジテレビのスタジオでは、ペンペンポポイパイ♪と、歌手の牧ミチル(梓みちよ)が歌っている所だった。

休憩室で待機していたトリ子に、桃子が、道春さんへのプレゼント、私が買っておいたわよと言いながら渡すと、トリ子は感激する。

その時、ADが、本番御願いしますとトリ子を呼びに来る。

自宅のテレビで、スタジオで歌うトリ子の姿を観ていたヒナ子は、もう暗い顔ではなく笑顔になっていた。

いつしかヒナ子も歌を口ずさみ始め、綾と母子3人で暮らしていた頃を思い出しながらヒナ子とトリ子は歌っていたが、途中でふと、ヒナ子の表情が曇る。

その頃、料亭に杉本から呼びだされた道春は、彼が綾の亭主である事を打ち明けられていた。

そうですか…、あなたが綾さんの…と道春は驚く。

終戦と同時に帰りたかったんですが、今の自分がみじめだったので、現地に残る事にしました。それから何とか仕事が巧くいきました。今、綾や娘たちが会ってくれるなら、出来るだけの事をしてやりたいのですと杉本は訴える。

話を聞き終えた道春は、綾さんはともかく、娘さんたちの方は感受性が強い年頃ですからね…と考え込む。

一方、京都へ戻り、蓮昭寺に土産持参でやって来たトリ子は、庭掃除をしていた小坊主(頭師満)に、道春さんは?と尋ねると、今出かけていると言う。

そこに出て来たのは弟の道秋で、トリ子と久々に会えたので喜ぶが、これをお兄さんに渡して下さいと贈り物を渡されただけで、トリ子は帰って行ったので、面白くない道秋は、振られた自分を笑っていた小坊主にそのプレゼントを兄に渡せと手渡す。

寺の門を出たトリ子は、同じように土産を持ってやって来たヒナ子に気づくと、何しに来たん?ヒナちゃん!と睨みつける。

ふん!とトリ子を無視して寺の中に入ってきたヒナ子は、やはり小坊主に声をかけたので、小坊主はトリ子が戻って来たのかと思い込み、又何か?と聞く。

すると、ヒナ子もトリ子と同じように、道春さんは?と聞くので、ついさっき御出かけになりましたと小坊主は答える。

そこに又道秋が出て来て、何か忘れ物?と聞くので、これをお兄さんに渡して下さいとヒナ子は持って来た土産を渡し、帰って行く。

後に残った道秋は、にやにやして自分を見ている小坊主の懐に、今ヒナ子から預かった土産を押し込む。

寺から出て来たヒナ子に、待ち受けていたトリ子は、ヒナちゃん!どういう事?うちがあんたの歌のお株を取ったら、道春さん取るつもり?うち、あんたとは絶好や!と怒り出し、ヒナ子の方も、もう口聞かへんわ!と売り言葉に買い言葉になる。

ミエ子、ゆかり、マリ子の3人娘は、互いにプリプリしながらも、ぴったり身体を寄せ合って並んで自宅へ帰るトリ子とヒナ子に路上で遭遇、うちら絶好中なんや!と言って去って行ったので、何で並んで歩くんやろ?双子って不思議やな?と首を傾げる。

自宅に戻っても、一緒に入るのは嫌なのか、互いに裏と表の入口から別々に入ったので、綾は何ごとかと不思議がる。

その時、電話がかかり、6時に「叶家」に来てくれと言う予約の電話が入る。

綾からその事を聞いた2人は行きたがろうとせず、特にヒナ子は、うち、舞妓やないし…と断ろうとするが、招待して来たのが小野のボンボンだと聞くと、2人とも、うち、行くことにする!とすんなり受ける。

6時にお座敷に行った2人は、そこに、道春と見知らぬ紳士がいる事に気づくが、道春に勧められ、2人は紳士の両側に座らされる。

道春は、紳士の事を、ハワイから来られた宝石商の杉本さんと2人に紹介する。

杉本は2人に、今日は2人とも客さんとして一緒に食事をしましょうと優しく話しかけ、取りあえず、杉本と道春はビール、ヒナ子とトリ子はジュースで乾杯する。

その後杉本は、ヒナ子とトリ子の手を取り、仲良くしましょうねと笑顔で言うと、卵焼き好きだね?等と言いながら、二人にかいがいしく料理を取ってやったりする。

しかし、どうも2人はつんけんした雰囲気なので訳を聞くと、絶好中だと言うので、女手一つで個々まで育ててくれたお母さんを悲しませたくない、2人とも手を出しなさいと杉本は言うと、2人の手を取って、互いに握らせる。

そこにやって来たのが友田で、ヒナ子とトリ子に、持って来たケースを渡す。

それは、指輪だったので2人は驚くが、良いパパだからね、いくら甘えたって良いんだよと友田が言うので、さらに驚く。

2人の表情に気づいた友田は、まだ名乗ってなかったの?こりゃ失敗だったと頭をかく。

お父さん!?杉本を見たヒナ子とトリ子は呆然とする。

帰宅したトリ子は、ヒナちゃん…と話しかけようとするが、まだ絶好中なのでヒナ子は返事をしないと気づき、独り言言うわ、うちら、どないしたら良いのかしら?と呟く。

するとヒナ子も、うちも独り言言うわ、今夜、うちらがお父ちゃんに会うた事、お母ちゃんに言わん方が良いような気がする。今では町田さんと言う方がいるんやし…、お父ちゃん、ハワイで一緒に暮らそう言うけど、実現不可能やな…と言う。

わてらだけで行ったら、お母ちゃん、可哀想やし…などと互いに独り言を言い合っていると、下から、ぶぶ漬けできたえ!と綾が呼びかけて来る。

ヒナちゃん、家、出て行かんし、今が一番幸せや…と言う綾と飯台を挟んで向かい合った2人は、もし、お父ちゃん出て来たら会ってくれる?とそれとなく聞いてみるが、その時、綾は2人が指にはめていた指輪に気づく。

これ、イミテーションやなどとごまかそうとした2人だったが、もうあかんわ、言うてしまおう。うちら、お父ちゃんに会うて来たんや。今、お座敷で、杉本さん言う方に会うて来たんや、宝石商、言うてたけど…と打ち明ける。

杉本はん!?生きていはったんかいな…と、それを聞いた綾は驚く。

そして、木の芽和えあったな?などと、台所にいるお手伝いの千代(真栄田幸子)に話しかけながら、自分も台所に向かう。

そこにやって来たのが桃子で、台所で立ち尽くしていた綾の様子がおかしいので、何かあったんか?と聞く。

綾は桃子に、きよちゃんもうちに来るように言って!あんたらに相談に乗ってもらいたい事あるんや…と頼む。

ヒナ子とトリ子は、その事を道春に相談に行く。

一方、町田に会いに行った桃子は、綾の事どう思ってはるんですか?好きなら、好き、言うておくんなはれと頼む。

翌日、いつものように壺を綾に店に来た町田であったが、いつものように、僕はあなたに褒めてもらうのが一番嬉しいと言うだけで帰って行く。

宿泊先のホテルで、友田と仕事の打ち合わせをしていた杉本のもとにやって来た道春は、お一人で…と言うので、やはり無理でしたか…と杉本は落胆するが、綾さん、御見えになりましたよと道春は言い、彼の背後から綾がやって来る。

綾さん!と杉本は感激する。

夜、噴水前で杉本と2人きりになった綾は、せっかくのお言葉ですけど、うちは祇園の女ですとハワイ行きの誘いを断る。

それは、あなたの身体に染み付いたものでしょうから仕方ないと思います。でも良かった…、町田さんと言う立派な相談相手もおられるようですし。あなたは20年、ちっとも変わりませんねと杉本は答え、あなたこそ、御変わりになりませんわと綾も答える。

そこへ、どうぞ、おかけして!とヒナ子とトリ子の2人が、ベンチを持って来る。

それに座った杉本は、こんな事言う刺客はありませんが、聞いてくれますか?と言うと、トリ子さんとヒナ子さんの事と同じように、あなたが祇園を愛しているのは分かります。でも、それをあの子たちに押し付けるのは無理ではありませんか?と言い聞かせる。

翌日、ホテルにいた杉本を訪ねて来たヒナ子は、自分だけハワイに連れて行ってくれと頼む。

トリちゃんには歌と小野さんと言う人がいます!とヒナ子は言うのだが、そこにトリ子もやって来たと聞き、慌てて隣の部屋に隠れる。

トリコも杉本に、お願いどす、うちをハワイに連れて行っておくれやすと言うので、小野さんをほったらかしにして良いのかな?と杉本が聞くと、あの人は小野さんの恋人ですとトリ子は言う。

それを聞いたヒナ子が隣の部屋から出て来て、小野さん、好きなの、あんたや!と言い出したので、驚いたトリ子も、あんたや!と言い返す。

それを聞いていた杉本は、2人とも勝手に決めているだけで、小野さんに確かめた事あるのかい?まだ子供だね…と苦笑する。

すると2人は、お父ちゃん!うちら、もう子供やおへん!お母ちゃんが断りはった事も聞きました。2人をハワイに連れて行って!お母ちゃんには町田先生がいはりますと頼む。

しかし杉本は、それは無理だよ、お母さんの気持ちも聞かないと…となだめる。

帰宅した2人は綾に、町田先生と結婚すると言って、お父ちゃん断ったじゃない?と聞いていた。

すると綾は笑って、噓も方便やと言う。

一口に18年言うても、長うおした…。好きな人もいたし、世話をしてやろう言う人もいた…、でもお母ちゃんは、あんたら2人育てるのに一生懸命やったんや…と言う綾の言葉を聞いた2人は、ハワイ行きは諦めよ、お母ちゃん、独りぽっちに出来んと話し合う。

すると綾は、誰が行ったらいかん、言うたんや?確かに、あんたらと祇園で暮らしたら幸せや。でもよう考えたら、それはお母ちゃんのわがままや…と言い、きよ子が持って来たと言うイチゴを2人の前に出してやる。

こっちを向いて〜♪もう一度〜♪と口ずさむ綾は微笑んでいた。

(スタジオセット)ミエ子、ゆかり、マリ子の3人が歌い踊り、セットの大きな扉を開くと、中から舞妓姿のヒナ子とトリ子が登場し、3人娘と一緒に歌い踊り出す。

(現実)それは、ハワイに帰る杉本の送別会だった。

廊下に出たヒナ子とトリ子に、ミエ子、ゆかり、マリ子の3人娘は、連判状や!と言い、巻物を差し出す。

そこには、小野道春は、自分たち共通のアイドルなので、個人的に付き合わないと言う文言と共に、ミエ子、ゆかり、マリ子他、舞妓一同の署名と血判が書かれてあった。

あんたらも書き!とミエ子に迫られたヒナ子とトリ子は、仕方なく、自分らも署名し、その場で血判を押させられる。

送別会では、主賓の杉本が立ち上がり、ハワイに帰るにあたり、ヒナ子さんやトリ子さんを連れて帰りたかったのですが諦めました。2人には歌に頑張ってもらいます。それともう1つ、今日はビッグニュースがありますと言って座る。

次に立上がったのは道春で、今まで祇園で面白おかしく暮らしてきましたが、これからは真剣に生きて行こうと思い、ハワイに行く決心をしました。在留邦人と仏教の研究を大いにやろうと思っています。10年、20年経って帰って来た時、皆さん、今のままでいて下さい。これからは、弟の道秋も奮起すると思いますから、どうぞ宜しく!さようなら!と挨拶する。

それを聞いて寂しがる綾、きよ子、桃子の三姉妹。

廊下で道春の挨拶を聞き、がっかりしたのは、ヒナ子、あや子、そして3人娘たちもだった。

トリちゃんたちは、天下晴れて歌えるようになったんやから…、それに控え、うちらは…としょげ返ったミエ子は、今、ヒナ子たちに書かせた連判状を、窓から外の小川に投げ捨てる。

そして、気分を変えたように互いに見合って笑い出すのだった。

川に落ちた連判状が、祇園の石橋の下を流れて行く。


 

 

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