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飛び出した女大名

「元禄女大名」(1960)の姉妹編らしいが、勝新と中田康子さんが似たような役割で出ている以外に、特に内容的に関連性はない。

話は、気の進まない見合いを押し付けられたお姫様が、気まぐれに江戸の下町に夜遊びに出た所、こちらも身分を隠して遊んでいた賄い方と恋に落ちる…と言う他愛のないもので、10代のアイドルなどが演じると似合いそうなコミカルな展開である。

惜しむらくは、これを当時20代後半、昔で言えば「大年増」と呼ばれる年齢で、見た目的にも大人びて見える中田康子さんが演じている事で、結婚前のお姫様…と言う設定にやや無理を感じるし、今ひとつ弾けた感じが弱いような気がする。

今の感覚なら20代後半で独身でも全く不自然ではないが、江戸時代、その年のお姫様で、見合いの経験もないと言うのはいささか不自然に感じないでもないからだ。

今回は渡辺プロが協力しており、ザ・ピーナッツやトリオこいさんず、水原浩なども登場している。

愚連隊を演じている伊達三郎が歌うシーンがあったりするのも楽しい。

前作の「元禄女大名」もそうだったが、せっかく、宝塚や日劇ダンシングチーム出身の中田さんを主役に起用しながら、踊りのシーンなどが少ないのが残念。

お姫様と言う設定上、あまり大胆な踊りはさせられなかったのかもしれないが、その辺はバックダンサーズを大勢使うとか、もっと派手な仕掛けがあっても良かったような気がする。

全体的に予算をかけてないようなので、歌のシーンだけで…と言うことになったのだろう。

前作では、主人公の姫は「女大名」と言う身分だったので、結婚も養子を取ると言う形だったはずなのだが、この作品では、何だか、ラスト、姫が他藩の嫁に行っているように見える。

「女大名」のタイトルを継承しているだけに、この終わり方で大丈夫なのだろうか?姫が嫁いだ後、三日月藩はどうなるのだろう?と言う気もしないでもないが、その辺は適当なのだろう。

音楽映画としてはやや地味な印象だが、低予算の娯楽時代劇としては平均的な出来なのではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、大映、松村正温脚本、安田公義監督作品。

城の窓から、タイトル文字が飛び出して来る。

柳の土手を歌いながら歩く春姫(中田康子)と鯖江半太郎(勝新太郎)の2人を背景にキャスト、スタッフロール

三日月藩江戸屋敷

賄い方は、突然国元からこの江戸屋敷にやって来た春姫のために、食事の準備をいつにもまして丁寧にやっていた。

そして、吟味役が春姫に食事を差し出すが、一口食べた春姫は、まずい!の一言!

まだ、妾の好みが分かりませぬか!と文句を言われて引き下がって来た賄頭権兵衛(寺島雄作)や駒田覚左衛門(見明凡太朗)は、裏で、一体、姫は国元で何を食べておられたんだろう?と首を傾げる。

その後も姫のわがままは繰り返され、何を出してもまずいと言われるので、賄い方はピリピリして来る。

ある日の吟味の儀、あろう事か、蓋を開けると、汁ものの中に大きな蚊が浮かんでいるではないか!

驚いた権兵衛が、これは何ごとだ!と賄い方の鯖江半太郎に椀を突き出すと、半太郎は、その場で蚊ごと汁を飲み干してしまったので事なきを得る。

他の賄い方達は、窮地を救ってくれた半太郎に詫びを言うが、姫の方のわがままは相変わらずだった。

汁ものを一口飲んでちょうど良いと言うのは塩辛いと言うこと、二口、三口啜ってちょうど良いのが汁ものの加減じゃ、そんな事も知らぬのか?と、吟味役に説教する有様。

それを伝え聞いた半太郎らは、田舎暮らしの姫に何が分かる!これでも食らえ!と憤慨し、台所で叩く真似をすると、奥にいた春姫はそれに呼応するかのように、痛い!と言い、腰元の楓(トリオこいさんず:津村愛子)荻江(トリオこいさんず:潮千砂)浪路(トリオこいさんず:山口昇子)たちを不思議がらせる。

半太郎は仲間たちに、姫様ってどんな方です?と聞くが、賄い方風情で姫に直接会えるはずもなく、誰も同じ屋敷内にいる春姫の顔など知らなかった。

その春姫の方は、はるばる国元から出て来たのに、お江戸は退屈、その方らには分からぬ!と楓たちに言うと、姫様こそ!と逆に楓から言い返されたので驚く。

御駕篭の中から観ただけではお江戸の事など分かりません♪と楓たち3人は歌い出す。

夜のお江戸は恋の町〜♪下町〜♪心の憂さも晴れます〜♪と面白おかしく歌われては好奇心が刺激されぬはずもなく、春姫は一度、その下町とやらに行ってみたい!姫がそんな所へ行かぬのは残念でしょう?と言い出す。

腰元たちが驚いていると、耳をお貸し!と春姫は命じる。

その夜、のんびり屋敷内の風呂に入っていた覚左衛門は、爾光院様が来られました!と言う知らせが来たので、狼狽のあまり、慌てて湯船から上がろうとして浴場で転んでしまう。

春姫を江戸に呼び寄せた叔母の爾光院(武智豊子)がやって来たので、屋敷内は皆平伏して出迎えるが、覚左衛門の姿が見えないので、どうした?と爾光院は聞くが、そこに足を引きずった覚左衛門がようやく駆けつけて来る。

つい足を踏み外しまして…と言い訳をした覚左衛門は、夜分に何か?と用向きを尋ねる。

爾光院は、思い出したことがあるのでので姫に会いたいという。

しかし、その頃、春姫の代わりに蒲団に入っていたのは腰元で、春姫は不在だった。

爾光院を連れた覚左衛門が寝所にやって来て、姫に会いたい旨申し付けると、部屋の前で迎えた楓が、姫はもう休まれましたと言う。

本家の御公子様が来られたのだと覚左衛門は言うが、旅のお疲れが出たのか、先ほどから急にお熱を出されて…と楓は説明する。

それを聞いた爾光院は、姫は嫁入り前故、今夜は大事を取って帰る事にしますと言うので、楓はほっとする。

その頃、当の春姫は、江戸の夜の下町に1人で出かけ、初めて観る射的場などに立ち寄っていた。

吹き矢で景品を倒す見せ物に夢中になっていた春姫に気づいたのが、町の愚連隊般若の鬼造の子分丑五郎(伊達三郎)たちだった。

姉ちゃん!どうだ?もっとおもしれえ所へ案内してやろうか?と声をかけると、素直に頷いて付いて来たので、兄貴、ちょっとパーじゃねえのか?と三下は案ずるが、こんな娘をどうしようってっんだ!と声をかけて来たのは、屋敷を抜け出して夜な夜な遊んでいた半太郎だった。

思わぬ邪魔が入った丑御牢は、野郎!思い知らせてやれ!と三下たちをけしかけるが、思いのほか半太郎は強く、あと言う間にやられて逃げ出す始末。

半太郎は春姫に、無茶だよ、あんな奴に付いて行くなんて、早く家に帰んなと説教して、1人馴染みの飲み屋に入る。

ところが、春姫も飲み屋に入って来たので、半太郎は驚いてしまう。

もちろん、互いに相手の正体など知る由もなく、仕方がないので、同じ飯台に座らせた半太郎だったが、案の定、先ほど追い払った丑五郎たちが、親分の般若の鬼造(嵐三右衛門)を連れて店を覗き込んで来たので、半太郎は、表に出ろ!と呼びかける。

半太郎が愚連隊を相手にするため店の外へ出たのを観た春姫は、自らも、店の中にあったつっかい棒を手にすると、素振りの真似をし始める。

女だてらに止めておけと春姫をなだめたのは、女形の雪之丞(嵐冠十郎)と新公(大川修)と一緒に店に来た見知らぬ浪人者梶原源之助(水原弘)だった。

源之助もそのまま表に出ると、半太郎を加勢して愚連隊をやっつける。

あれほど止められていたのに、春姫までつっかい棒を竹刀のように使い、愚連隊を追い払うのを手助けする。

鬼造たちがあっさり退散したので、ちぇっ、他愛がないと半太郎はバカにし、その後、春姫と改めて酒を酌み交わすことになる。

名を聞くと、ちょっと考えた後、お春と春姫が答えたので、お春ちゃんか…などと納得した半太郎は、源之助の歌に合わせ、陽気に店内で踊り出す。

ドドンパの踊りなど観たことがない春姫だったが、半太郎に誘われるまま、自分も一緒に踊りの輪に加わる。

すっかり良い気分になった半太郎と春姫は、店を後にした後も、そのほろ酔い気分のまま、柳の土手を歩きながら2人歌い出す。

やがて、大きな橋の上にやって来た春姫が、眠い〜などと言い始めたので、しっかりしろよ!と呆れた半太郎だったが、春姫は、酔ってると思うのか?このバカもの!と半太郎を叱ると、何を思ったか、その場に下駄を脱ぎ、裸足になると橋の欄干の上に登り、平均台のようにバランスを取りながら歩き始める。

その姿を観た半太郎は、飲ますんじゃなかった…と後悔するが、春姫は、酔ってはおらん!などと威張りながら、ふらふらと前進する。

やがて、とうとうバランスを崩し、橋のぶら下がって、助けて〜!と情けない声を出して来たので、半太郎は両手を引っ張って助け上げてやる。

そして、下駄を履かせると、すまぬ…親切だな…と、春姫は礼を言って来る。

そんな2人の様子を、先ほどから付けて来たのか、源之助が柳の木の下で監視していた。

そこに、懲りずに、丑五郎たちが戻って来たので、源之助は、娘十八番茶も出ばな〜♪と歌いながら斬り合いを始める。

俺は出がらし素浪人〜♪

そんな騒動は知らず、春姫を自宅の近くまで送って来た半太郎は、三日月犯や敷地角で、ここで結構と春姫が言うので、まるっきり近所じゃねえか!と驚き、自分は大工の半田と名乗り、又会おうぜ!と挨拶して別れる。

春姫は、門前で待ち構えていた楓に出迎えられ屋敷に戻る。

半太郎の方は、塀をよじ上り、密かに屋敷内に戻っていた。

姫様、下町はいかがでしたか?と腰元たちが聞くと、たあいないものよと春姫は答える。

翌朝も、春姫の食事への文句は続き、それを伝え聞いた半太郎は、台所内で想像上の相手に柄杓の水をかけるが、奥の間にいた春姫は、本当に水をかけられたように身をすくめるのだった。

その夜も、春姫は下町のあの飲み屋に単身で向くと、雪之丞が、さっきからお待ちかねだよと、先に来ていた半太郎を指差す。

同じ飯台に座った春姫に、おめえの家、三日月藩の江戸屋敷の近くだって言うけど、誰も知らなかったぞ。お父っつぁんは何やってるんだ?と半太郎は聞く。

又ちょっと思案した春姫が、左官屋と答えると、慌てたように、大工の半助知ってるか?なんてお父っつぁんに聞くなよと半太郎は釘を刺す。

そこに、中国琵琶を弾きながら、双子の歌い手おみね(伊藤エミ)とおみよ(伊藤ユミ)が店に入って来て歌い出す。

それを観た春姫が、可愛いわねと目を細めると、半太郎は、あの子たちは奥州二本松から出稼ぎで来ているんだ。16人も妹や弟がいるんだってさ…と教える。

2人の歌を聴いた客たちが、新公が持ったお盆に次々に小銭を入れて行くのを観た春姫は、自分もと言いながら小判をお盆に乗せたので、新公は仰天する。

半太郎も驚き、良いのか?あんなに無理して…と言葉をかけ、おみねとおみよはこんなに頂いちゃ…と困惑しながら挨拶に来る。

半太郎は、そんな2人に、もらっときなよと勧める。

その頃、又、江戸屋敷を訪れた爾光院は駒田覚左衛門に、一日も早く姫を御見合いさせねばなりませぬと言い、そなた、子供は何人います?と聞く。

覚左衛門が7人おりますと答えると、少ない!私には18人の子供がいますと爾光院は言う。

半太郎は、つくづく賄い方の仕事に嫌気がさしており、辞めようと考えていた。

さらに、覚左衛門は、夜な夜な春姫が腰元の楓たちの手引きにより、下町に繰り出しているとの情報を部下から得たので、様子を探るため、自分たちも頭巾で顔を隠し、下町に出てみる事にする。

そんな覚左衛門と部下に近づいて来たのが新公と雪之丞を連れた源之助 で、誰か人探しか?手伝ってつかわそうか?などと言うので、覚左衛門は無視する。

とんだ邪魔が入った…などとぼやきながら、飲み屋を覘こうとした部下は、同じ顔の娘が相次いで店の中から出て来たので面食らう。

その飲み屋に又顔を出したのが丑五郎で、それに気づいた半太郎は、又因縁付けに来やがったと呆れると、又表に出るが、そこにいた覚左衛門らとばったり鉢合わせしてしまう。

賄い方が夜遊びしていると知った覚左衛門たちは、とっとと屋敷に帰らんか!と叱りつける。

そんな覚左衛門たちの姿を、春姫も気づき身を隠すが、半太郎の正体も知ってしまう。

翌日、江戸屋敷で覚左衛門は春姫に、昨夜どこへ参られましたか?と聞くと、春姫は知らぬ!ととぼけるので、あんな場所に何の用があるのです?行くのなら、ちゃんとお供を連れて…、ご縁談を控えた大事な御身体なのですから…と言い聞かす。

しかし、春姫は、おば上が何だ!江戸見物と呼びだしたくせに!と、そもそも国元から爾光院 に騙されて江戸にやって来た不満をぶつける。

朝夕のわがままもご諌めできぬとは…、この覚左衛門、我が力不足を恥じ、しわ腹かっ斬って御詫びしますと覚左衛門は刀を抜きかけるが、春姫はそれを止めるどころか、観てみたいなどと言い、爺とて命は惜しかろうと、最初から切腹などする気がない事を見抜いてからかう。

しかし、もう食事のわがままは言わぬと言い出す。

その頃、賄い方の半太郎は、これまでも屋敷を抜け出し夜遊びを続けていた事を上司に追求され、首を言い渡されていた。

半太郎は覚悟を決め、私は辞めますが、他のものに責任はありませんからと言い残し、屋敷を後にしようとするが、そこへやって来た覚左衛門が、半太郎!その方、本日より50石のご加増じゃと伝えたので、言われた半太郎も、辞めさせた上司もあっけにとられる。

覚左衛門は、姫様が食事の催促じゃ、すぐさま揃えい!と半太郎に命じるが、覚左衛門自身、春姫の半太郎に対する厚遇の理由はさっぱり分からなかった。

それからも、春姫と半太郎の夜な夜なの密会は続く。

橋の上に来た春姫は、こんな夜がいつまでも続くと良いな…と呟くが、私、今、気の進まない御見合いを勧められているの…と打ち明ける。

相手の正体をまだ知らない半太郎は、嫌なら断っちまえば良いじゃないかと簡単に答え、お春ちゃん1人くらいなら俺が引き受けても良いぜとまで言う。

それなったら、今の仕事辞めちゃうよ。うちの親父の娘が嫌な女なんだ…と半太郎は言い出すが、春姫にはそれが自分の事だとピンと来る。

その人、きっと良い人だと思うわ…、当たり散らすのは、私にように嫌な御見合いを押し付けられているとかじゃないの?などと遠回しに言い訳するが、そうした半太郎と春姫の様子を監視している頭巾姿の侍がいる事には気づいていなかった。

その日も、酔って陽気に歌いながら、屋敷の平を乗り越えて帰って来た半太郎だったが、庭先に上司が待ち構えていた事を知り、塀の上で動きを止める。

酔った勢いで、出迎えご苦労!などと言ってみた半太郎だったが、上司は怒り、降りろ!と命じると、朝帰りとは何ごとか!と怒鳴りつける。

半太郎は開き直り、今度こそ首ですか?と聞くと、50石のご加増じゃ!と上司は忌々しそうに言うではないか。

掟を破って、朝まで遊んでいて、何故、首にならん?と半太郎は狐に騙されたような顔になる。

あげくの果てに、半太郎はいきなり吟味係を仰せられたので、辞めるに辞められなくなり、吟味の仕事も投げやりになる。

夜の飲み屋にやって来た半太郎は、春姫を前に、どうにもならないね。こうなりゃどんな事をやっても辞めてやる!とやけっぱちになっていた。

そんな2人の様子を監視している頭巾姿の侍を、さらに監視していたのは源之助だった。

翌日、半太郎は、さらに百石のご加増に役人頭に出世していた。

腰元の楓は、春姫に何やら耳打ちしていた。

爾光院が又江戸屋敷にやって来たのだった。

爾光院は覚左衛門に、姫が夜な夜ないかがわしい場所に出入りしているのを知っているか?当方ではしかと見届けておりますぞ!どこかの職人と大酒を飲み、町中を歌い歩いているとは言語道断じゃ!その方の目は節穴か!と叱りつけていた。

面目を失った覚左衛門は、切腹致します!と申し出るが、その方の切腹は口先ばかりじゃ、姫を呼んで来なさい!と爾光院が命じた時、春姫直々に楓を伴って姿を現す。

爾光院は、姫!三日月藩息女のそなたが町娘になって夜遊びをしているなど、ご先祖様に申し訳が立ちません!婆はこの場で自害します!と言うと、懐刀を抜いて首を斬ろうとするが、覚左衛門が止めようと駆け寄っただけで、肝心の姫が動じないので、婆はその方のように口先だけではないぞ!と覚左衛門に言うが、覚左衛門は小声で、私も先日、その手を使いましたがダメでしたと囁かれたのでがっかりする。

それでも気を撮り直した爾光院は、見合いは明後日、場所は根岸の別邸!大名には大名の道があります!見合いが嫌なら尼寺へ行きなさい!と春姫に命じる。

役人頭の半太郎は、明後日、姫の御見合いがある別邸の下検分を命じられ、馬で出発するが、その途中、老婆が夫らしき老人を抱きかかえ難儀している所に通りかかったので、訳を聞くと、自分たちは奥州の二本松から出て来たのだが、路銀を全部盗まれた上に、爺様の方が持病で苦しみ出したと老婆おすぎ(浦辺粂子)が言うではないか。

江戸に出て来た目的は、うちの娘たちがご奉公しているお屋敷があるのだと言い、3年間娘とは会ってない、おみねもおみよも立派になっているだと言う。

その頃、そのおみねとおみよは、何故か寂し気に柳の土手で歌っていた。

歌い終わったおみねは、でも、私たちが腰元になっていたら、源之助さんに会ってないのね…とおみよに言う。

そこに、その源之助がやって来て、心配事ならいつでも聞いてやるよと、元気のない二人に話しかける。

飲み屋にやって来たおみねとおみよに、聞きてえことがあるんだと話しかけ、2人が奥州の二本松から出て来たおみねとおみよである事を確認すると、親父さんとおふくろさんが江戸に出て来ているぜ。でも、ここに連れて来たら、おめえたちが困るんじゃないかと思って…、どうして、大名屋敷に勤めているなんて言ったんだと聞く。

おみねとおみよは驚きながらも、噓をついていた事を後悔したのか、お父っつぁんとおっ母さんに会って謝りますとしょげる。

それを聞いた半太郎は、良し!ちゃんと腰元に仕立てて、両親に会わせてやる。お前たちも安心して商売に行きなと2人を店から送り出すと、おめえたちにも手伝ってもらわねえとな…と新公や雪之丞にも声をかける。

雪之丞たちは快諾するが、源之助さんにも御願いしますよと声をかけると、俺は嫌だねと言うので、お前さんが一枚噛んでくれると心丈夫なんだがな〜と半太郎は頼む。

すると、源之助はいきなり刀を抜いてみせて半太郎を威嚇するが、半太郎はさっと身を避け、自分は鯖江半太郎と言い、三日月藩二百石取りの侍なんだと正体を明かす。

そう名乗られたんじゃ、力を貸さないわけにはいかないだろうと源之助も折れる。

半太郎は、うちの姫様が根岸で見合いがあるんだ。それを頂くんだと計画を打ち明ける。

つまり、偽物の姫を仕立て上げて、おみねとおみよを腰元にした芝居でごまかそうと言うのであった。

しかし、お姫様になれそうな娘がいるか?と新公たちは案ずる。

雪之丞がやりたがるが、半太郎は、お春ちゃんにやってもらおうと思うんだと言い出す。

やがて、やって来た春姫は、半太郎から話を聞き、私が偽のお姫様になるの?と驚く。

だけど…、私にお姫様なんてやれるかしら?などと春姫は悪のりするが、店を出て、いつも歩く柳の土手に来ると、みんな良い人ね…と呟く。

みんな、人の事に涙が流せる奴ばかりだからな…と半太郎も答え、歌い出した春姫の歌声を聴きながら、畜生!唐変木に聞かせてやりてえや!と言うと、おいらの所のお姫様、城と黒とが分からない〜と歌い出す。

信じられねえくらい出来が悪い姫でね…とまで言うので、それを聞いた春姫は、自分の事だと分かっているだけにさすがにむっとすると、そのまま1人で帰って行ったので、待ってくれよ!明日、おめえが来てくれねえと困るんだよ!と半太郎は慌てて声をかける。

春姫は、約束だから来ます!とだけ言い残し去って行く。

翌日、半太郎は覚左衛門から、200石から元の30俵賄い方へ格下げじゃ!と言われ呆然とする。

春姫は、どう考えても許せん!と夕べの半太郎の悪口を怒っていたので、事情を知らない楓たちは、どうかなさいましたか?と首を傾げる。

そんな中、覚左衛門から呼ばれて、屋敷内のとある廊下に差し掛かった半太郎の頭上から、牢格子が降りて来る。

覚左衛門は、牢に閉じ込められた半太郎に、向う10日間の入牢を申し付ける!と言い渡して去ろうとしたので、今夜こんな所に入れられたんじゃ困るんです!明日からだと何日でも入っていますから、今日だけは勘弁して下さい!と半太郎は訴えるが、覚左衛門はならぬ!と言うだけだった。

下町の飲み屋には、雪之丞が、侍姿に扮装した役者仲間たちを引き連れて来ていた。

そんな様子を物陰から観ていた般若の鬼造たちは、化けの皮をひんむき、奴らの泣きっ面を見せてやれ!と子分たちに命じる。

牢に入れられた半太郎は、見張りに残された番人に持ち金を渡して出してもらおうとするが、一旦、聞いて来ると言って去って行った番人は、戻って来ても、ダメだ、酷く怒られたと言うだけで、渡した金は返そうとはしなかった。

酒場では、肝心の半太郎が来ない事に、新公たちがやきもきしていた。

おみねとおみよも、腰元の扮装をし終えていた。

三日月藩の江戸屋敷では、春姫の姿が見えなくなったので、覚左衛門 が狼狽していたが、墓参りに出かけたと聞き安堵する。

酒場では、お春ちゃんが駕篭に乗って来たと騒ぎになっていた。

楓たち腰元が、駕篭を抱えて、春姫を運んで来たのだった。

源之助 が春姫に、半太郎がまだ来ない事を告げていると、春姫は一足先に行っていましょうと答え、別邸の場所は源之助が知っていると答える。

そこに、歌を歌いながら、般若の鬼造や丑五郎たちがやって来るが、源之助 たちがいるのでうかつに手が出せない。

三日月藩の牢に入れられた半太郎は、代わった見張り番に、事情を打ち明け、気の毒な両親の居場所を知っているのは自分だけなので、自分が行かなければ、両親と娘を会わせることができないのだと泣き落としにかかっていた。

見張りは気の毒がって泣いてくれるが、出してくれるか?と頼んでも、ダメだよと言うだけだった。

先に根岸の別邸にやって来た新公たちは、別邸内に松明が焚かれていたり、芝居にしては準備ができ過ぎているので驚く。

一行が別邸内に入り込むと、門から中を覗き込んだ鬼造たちが、畜生…、騙りものが…と様子をうかがい始める。

役者たちは、きれいに整えられた座敷内に興奮し、我がちに上座に座ろうとするが、そこに入って来た春姫がてきぱきと各人の座る位置の指示を出す。

半太郎が来ないのを案ずる新公に、半太郎が来なくても、今宵一夜だけこの別邸で過ごせば良いだけ、おみねたちの親を呼んで参れと命じる。

ほいきた!と立上がりかけた新公だったが、おみねたちの両親がどこにいるのか知らない事を思い出す。

これには春姫も驚き、半太郎しか知らぬのか!と確認すると、楓に、手紙をしたためます。覚左衛門に渡しておくれ!私は堀尾家に嫁に行きます。最後のわがままと申せば聞いてくれるでしょうと命じる。

芝居だと思って集まっていた役者仲間たちは、場の雰囲気がおかしい事に気づき始める。

その時、源之助が、姫!恐れながら、春姫様でございまするな?と声をかけたので、一同、お春が本物の姫様だと気づき平伏する。

半太郎は、牢の格子にしがみつき、出してくれ!と喚いていたが、いつの間にか、自分が足もかけていた格子全体が浮き上がって行く事に暫く気づかなかった。

ようやく、足を床に降ろすと、格子の下に隙間が出来ている事に気づいた半太郎は、急いで格子を抜け出て逃亡する。

一方、春姫からの手紙を受け取った覚左衛門 は、楓に姫の居場所を聞くと、今宵一夜は許して差し上げて下さいと頼む楓を無視し、馬に股がって、根岸の別邸へと向かう。

半太郎は町中に出ると、群集をかき分け、おみねたちの両親の元へと走る。

覚左衛門が乗った馬はなかなか言うことを聞かず、前に進まないのを尻目に、楓は駕篭を呼び、その横を通り過ぎて行く。

半太郎も、駕篭に両親を乗せ、自分も駕篭の先頭に乗り、別邸へとひた走る。

別邸にやって来た半太郎は、連れて来たぞ〜!と叫びながら、両親を座敷に案内、おみねとおみよは、両親と感激の再会を果たす。

何も事情を知らない半太郎は、芝居にしてはかしこまり過ぎの役者や仲間たちを不思議がりながらも、お春ちゃん、良く似合うよ!などと気安く声をかけながら、姫の前に置かれた茶を勝手に飲み干す。

そんな別邸にお供を連れやって来たのは爾光院だった。

別邸がにぎやかなので、見合いの準備中と思ったのか、手回しの良い事じゃ…と爾光院は感心するが、そこに、槍を持った覚左衛門がようやく馬で到着したので、どうしたのじゃ?物々しい出で立ちで?と問いただす。

御公子様!と驚く覚左衛門に、明日の下検分に来たのじゃと爾光院が答えていると、恐れながら…と言いながら顔を出して来たのが鬼造たちだった。

鬼造から、姫の名を騙るものがこの屋敷にいる事を聞いた爾光院は、捨て置けぬ!と怒り出す。

その様子を、庭先から観ていた楓は、奥の間の春姫に2人が来た事を知らせる。

それを聞いた半太郎は、廊下を近づいて来た覚左衛門と爾光院の前にひれ伏し、しばしお待ち下さい!手前は賄い方の鯖江半太郎と申すもので、今宵の事は全て私の罪でございます!と謝る。

しかし、姫の名を騙るとは許せぬ!と息巻く爾光院は、覚左衛門と共に奥の間に入りかけ、上座に座っているのが、本物の春姫である事に気づき、思わず立ち止まる。

その前で、二人の娘と涙の再会を果たした母親のおすぎが、これは御隠居様!お姫様に偉い世話になって、こうして娘と会うことができました。これで安心して国に帰れます。この場で死んでも本望でございますと頭を下げて感謝して来たので、薄々事情を察した爾光院は、姫!明日は大事な見合いじゃ。今夜一晩、ゆっくり楽しむが良いぞ…と声をかけてやる。

そして、側に控えた覚左衛門に、半太郎と申したもの、扶持はいかほどもらっておる?と聞くと、300俵2人分と言うので、それは少ない、千石やりなさいと言いつけ帰って行く。

庭先で源之助に会った半太郎は、御主、春姫様の事を知っておったのだな?と聞く。

俺を斬るか?俺は姫の行状を探るため、堀尾家から差し向けられたものだ。一点の非の打ち所がない…、これが俺の若君への報告だよと源之助は答える。

それを聞いた半太郎は、源の字…と嬉しそうに見つめる。

桜が咲き乱れる夜の別邸の庭先で、源之助が歌い、春姫も半太郎も歌い出す。

今まで、柳の土手を歩いて歌ったり、酒場で踊った思い出が重なる。

「江戸日記」と書かれた冊子が閉じられ、駕篭の中にいた春姫は思い出に微笑む。

堀尾家に向かう春姫の駕篭の後を、馬に乗って随行しているのは、侍姿に戻った梶原源之助だった。

江戸に残った半太郎を、心配そうに見つめる雪之丞たち。


 

 

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