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霧と影

水上勉の最初のミステリ作品の映画化らしい。

ニュー東映の比較的低予算のプログラムピクチャーで、石井輝男監督っぽい強烈な個性はあまり出ていないように感じられるが、刑事物を作りなれている東映らしく、この作品も手堅い作りになっている。

興味深いのは、この作品、松本清張の社会派推理の特長と、横溝正史に代表される地方の閉鎖的で土俗的な要素がミックスされている所。

劇中、「部落」発言などもあり、今ではソフト化やテレビ放映は難しいのではないかと思われる。

丹波哲郎が主演で、若き相棒と共に事件を追及している所など、後年の「砂の器」を連想させる部分もあり、劇中、丹波哲郎が列車に乗って推理に耽っていたり、お遍路とすれ違うシーンなどは特に強く共通性を感じる。

若き相棒を務めているのは、東映のニューフェース時代の梅宮辰夫で、「砂の器」での森田健作氏に当たる役割だろう。

この当時の辰兄いは、爽やかなイケメンである。

新聞社の社会部デスクを演じているのは「事件記者」などでもお馴染みだった永井智雄と言うこともあり、後半は「ブンヤもの」としても楽しめる仕掛けになっている。

後半、梅宮辰兄い演ずる青年記者が黒幕が潜む蔵に忍び込むシーン、蔵の持ち主が「日本最後の夜を…」と黒幕に挨拶して本家に帰る時にはランプを持った深夜だったのに、何故かその後、記者が逃げ出すシーンでは昼間の滝壺が登場したりと、やや編集ミスもないではないが、地方の祭りなどもきちんと描かれ、日本海の海辺の断崖絶壁でのクライマックスシーンなど、後のTVサスペンスの原点になったと思われるような描写も見られる。

事件の中核にある詐欺事件は、当時、現実に起こった事件をヒントにしたものらしいが、その辺を知らない世代としては、ややピンと来ない部分もないではない。

それでも、全く意味が分からないと言うほどではなく、普通に楽しめるミステリ作品だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、ニュー東映、水上勉原作、高岩肇脚本、 石井輝男脚本+監督作品。

北陸の青蛾地区の海岸にそびえ立つ「観音崖」

その崖下の海に小舟で近づいて来た漁師が、海に浮かんでいる水死体を発見する。

青蛾小学校の女性教員が電話連絡を受け、驚いた様子で職員室にいた他の教諭たちに、観音崖の所で笠原先生らしき死体が上がったと報告する。

それを聞いた同僚の金田先生(織本順吉)は驚く。

観音崖の下の海岸では、引き上げた水死体の検死をしていた医者が、致命傷は頭の傷だと刑事たちに指摘していた。

そこに小舟でやって来たのが、遺体の身元確認するために呼ばれた笠原の妻雪子(鳳八千代)とその妹良子(水上竜子)、そして金田先生たちだった。

遺体確認はまず、男の金田先生がやる事にし、水死体は間違いなく笠原先生で、服装も土曜日に出かけていったそのままだと証言する。

それを少し離れた所で聞いていた雪子は、遺体に駆け寄り、あなた!と叫ぶと泣き出す。

煙を吐いて疾走する蒸気機関車の煙突部分を背景にタイトル

機関車は能登鹿島駅に到着する。

猿の人形を肩に背負い、貧しい漁村の道を歩いていた毎朝新聞社会部記者小宮雄介(丹波哲郎)は、すれ違うお遍路や水辺で戯れる海水パンツ姿の子供たちを見ながら、とあるお寺にたどり着く。

離れの笠原の奥さんに会いに来たのですが…と門前にいた女性に声をかけると、妹さんと今、裏の海岸にいると教えられる。

裏の海岸に行ってみると、そこには雪子とその幼い娘ユリ子、そして雪子の妹の良子がいた。

ユリ子は近づいて来た小宮に気づくと嬉しそうに声を挙げる。

吉べえ!3年振りだな!と小宮も嬉しそうに話しかけ、ユリ子には、おじちゃん覚えているかな?覚えてないか?まだこんなに小さかったからなと笑顔で声をかけ、持って来たお猿の人形を手渡す。

それを娘の代わりに受け取った雪子は礼を言い、ユリ子の手を引いて寺の方へと向かう。

その後ろ姿を見ながら小宮は、かつて結婚前の雪子と二人でテニスをした時の事を思い出す。

そして雪子の後を追う小宮は良子に、吉べえの電報が来なくてもここに来ることになったはずだ。地方版に笠原のことが載ったんだよ。結局、過失死ってことになったの?納得いくまで調べたいと思って来たんだと説明する。

小宮をこの地に呼び寄せたのは良子だったのだ。

まずは2人で地元の警察署に出向いてみることにする。

事件に当たった刑事たちに面会した小宮は、中学から大学まで笠原とは一緒で、性格も良く知っている。奴は高い所を嫌っていたと打ち明ける。

高所恐怖症の笠原が好き好んで観音崖などに登るだろうか?と言う疑問であった。

しかし、現場を調べた大井刑事(十朱三郎)は、笠原の足跡が残っていたなどと、自分たちの捜査に落ち度はなかったことを説明する。

さらに島田部長刑事(滝沢昭)は、遺体発見後、巡査と飯野校長(内藤勝次郎)、崎山教頭(小塚十紀雄)、生前親しかった金田先生たちが揃って観音崖を調べに行ったと補足する。

(回想)現場に向かう途中、校長と教頭は、笠原先生は5年も教員生活を送っており、殉職扱いする方が良い。長期欠席の児童に会いに行った帰りだったんだからと話し合っていた。

(回想明け)その夜、寺の離れの雪子の部屋に来ていた小宮は、解剖の結果も何も出なかったので、夫の笠原は過失死と言うことになったと雪子から聞かされる。

小宮は、目の前にいる雪子や笠原と共に、音楽を学校で聴いていた時の事を思い出す。

一緒にいた良子は、土曜日に学校から青蛾山に出かけた笠原は、画用紙の入ったバッグを持って行ったはずなのだが、そのカバンが未だ見つかってないのよと小宮に打ち明けながら、笠原の残した日記を見せる。

「7月20日土曜日 長期欠席児童宇田清を訪問する」と書かれてあった。

翌日、笠原が勤めていた青蛾小学校に出向いた小宮は、校長室で金田の話を聞くことにする。

宇田清が住む「猿谷郷」と言う集落は、宇田本家と分家、矢田本家と分家の四世帯しかなく、笠原先生は以前から、この「猿谷郷」に関心を持っていたと聞いた小宮は、だったら、土曜日、その「猿谷郷」に寄ってない訳ないですね?と聞くが、調べた結果、四世帯の誰も笠原先生に会ったものがないと言うことで、寄った形跡はなかったと金田は答える。

清は貧しさ故に家で働かされており、清の父親の兄は精神病で座敷牢に入れられているらしい。今は弥平と言う爺さんが清の面倒を見ているのだと金田は言う。

その「猿谷郷」は貧しい地域で、陸稲と芋を作ったり、炭焼きを生業をしているだけなのだと金田は説明するが、その時、始業ベルが聞こえて来たので、失礼ですが…と断って、金田は授業に向かう。

その後に入って来た校長は、今日はいつになく忙しく、先ほども本校出身者で紳士録を作りたいと言う東京の興信所の人がやって来て、「猿谷郷」の宇田甚平と言う人のことを聞きに来たのだと教える。

宇田甚平の名前を聞いた小宮は、1年前、笠原から手紙をもらい、郷土史研究の一環として、15才の時、集落を出奔した宇田甚平の事を調べて欲しいと頼まれたことを思い出す。

(回想)電車の中で、笠原からの以来の手紙を読む小宮。

数日後、甚平の出身校東亜大学から、今の彼が「宇田建設」の社長になっていることを突き止めた小宮は、成功談をうかがいたいと本人に会いに行くが、社員が出て来て、誰も社長のことは知らないと、けんもほろろに追い返されてしまう。

忙しい身体の俺がそこまで熱心に調べたのは、日本海で教鞭をとる友人の行動にユーモアを感じたからだったかもしれない…

(回想明け)取材から帰って来た小宮は、橋の所で日傘をさしていた雪子と出会う。

能登通信局の坂根さんと言う小宮の来客が来ていると雪子は言う。

一緒に寺に帰る小宮は、こう言う場所を一緒に歩いたことがありますよね?覚えていませんか?三津浜だったかな?と雪子に話しかける。

水族館に行ったときです。笠原も一緒でした…と雪子は答える。

寺の離れで待っていた能登通信局の坂根(梅宮辰夫)は、金沢の支社から今朝、あなたが来ていると電話を受けたので、警察に行ってみると、女の子と一緒に来たと聞かされたのでピンと来ましたとここへ来た経緯を説明し、何か手伝わせてもらえませんかと願い出る。

小宮は愉快そうに、ここの名物を喰わせる店に連れて行ってくれと頼む。

海辺の食堂でビールを飲み始めた2人だったが、地方にいると詰まりませんよ、面白い事件もないし…と坂根は愚痴を言い、その宇田甚平の話し面白そうですねと、小宮から聞かされた話に乗って来る。

そして、笠原が富山の薬売りと一緒に歩いているのを観たと言う噂を聞いたことがあるんですと坂根が打ち明けると、小宮は驚き、すぐにその話をしたと言う飲み屋の女に会いに行こうと言い出す。

ところが、その飲み屋のママはそんな話を聞いたことがないと否定したので、坂根は心外そうに、話していたのは民子って娘だよと言って、今いるか聞くが、夕方にならないと出て来ないとママはにべもない。

そうした飲み屋の前の将棋に座り、何気なく中の話を聞いていた中年男が立ち上がり、そっとその場を立ち去るのを小宮たちは気づかなかった。

ママから聞いた民子の家にやって来た小宮と坂根は、中年男と一緒に逃げ出す民子(八代万智子)の姿を見つけたので慌てて追いかける。

港の所で民子を捕まえた坂根が、薬売りのことを聞くと、そんなことを言った覚えはないと民子は否定する。

一方、橋の所で、中年男を捕まえた小宮が、どうして逃げるんだい?と聞くと、あんた刑事じゃないんだね?と男は聞き返す。

そんな恐い顔してるかい?毎朝の記者なんだと小宮が教えると、記者なんかに話すことなどない!と中年男の態度はさらに硬くなる。

そこに民子を連れた坂根が戻って来たので、本当のことを教えてくれないかと小宮も頼む。

しかし民子は、無理強いする権利はないわ、人権蹂躙よと言い返して来る。

帰りかけた男と民子の背中に、じゃあ、警察に言って調べてもらうよと小宮が脅すと、中年男は諦めたように打ち明け始める。

(回想)土曜日の午後、木こりの仕事が一段落した男が一服しようと山の方に目をやると、伐採したために良く見えるようになった向うの山道を、富山の行商人と一緒に何か話しながら「猿谷郷」の方から降りて来る笠原先生の姿を目撃する。

(回想明け)一週間振りに山を下りて来たその中年男は、始めて、笠原先生が死んだ事を知ったのだと言う。

何故、警察に言って薬売りのことを話さなかった?と聞いた小宮は、黙りこくった相手の様子から、誰かに口止めされているんだな?と推理するが、焼酎のせいよと、横から民子が口出しして来る。

それを聞いていた坂根は、密造の焼酎だな?と思い当たる。

木こりの山小屋は誰も来ないので作り易いし、炭焼きより分が良いんですと、坂根は小宮に説明する。

男は、あの格好は富山の薬売りに間違いねえよと断言したので、謝礼金を渡し、焼酎のことは黙っておいてやると約束した小宮と坂根は、民子たちと別れる。

小宮は坂根に、薬売りが泊まりそうな宿を調べて来てくれ。俺は駅で待っている。駅にいなければ家に来てくれと頼んで別れる。

高浜駅で駅長(大野広高)に、土曜日に薬売りが列車に乗らなかったと聞いた小宮は、だったら駅員が見ているはずです。当日は9枚しか切符が売れませんでしたからと駅長から教えられ、マサオと言う駅員を紹介される。

マサオと呼ばれた駅員は、土曜日、40過ぎの帽子をかぶった薬売りは確かに、能登高山行きの列車に乗ったと言うので、その能登高山行きと言うのは?と小宮が聞き返すと、この列車ですよと、今正に出発しようとしていた列車をマサオが指差すので、驚いた小宮は、動き出していたその列車に飛び乗る。

座席に座った小宮は、薬売りの行き先を徹底的に歩くんだ!薬売りは何故「猿谷郷」へ行ったのか?と車窓を眺めながら考えていた。

薬売りが泊まった「加賀屋」と言う宿を発見した小宮は、若い方の薬売りは松木貞次郎と宿帳に名前を残していたが、同行していた年輩の男の方は宿帳も書かなかったので名前は分からないと主人から聞くと、東京本社の社会部に連絡する。

松木の相手をしたと言う仲居によると、松井は、頭が痛いと言っていつも寝てばかりいたので、薬屋なのにと皮肉を言うと笑っていたし、そのくせ、浜には日に二回も散歩に出ていたと言う。

うちは一流の宿でっせ、何も調べられるようなやましいことはありまへんと主人が言うので、分かってるよ、行商宿から探し始めて、お宅で6軒目なんだと小宮は打ち明ける。

その時、東京の社会部の同僚山西から折り返しの電話がかかって来たので、調べて欲しいことがあると小宮は頼む。

その頃、坂根の方は、地元の薬問屋に、行商人の名前を知らないかと聞いていたが、行商人だけでも1万2千人もおり、この業界は信用商売なので、出たり入ったりするものはいないと問屋の主人は困惑しながら答える。

その夜、通信局へ戻って来た小宮と坂根は、調べて来た互いの情報を交換しあう。

小宮は、松本貞次郎と名乗る薬売りと年輩の男は、能登鹿島駅で東京行きの切符を買ったらしいと報告する。

坂根の方は、東京から紳士録を作るために、わざわざ興信所の男が来るだろうか?と怪しむが、そこに良子が事件の進展を聞きにやって来る。

小宮が、土曜日、君の兄さんは薬売りと猿谷郷から降りて来たらしいと教えると、薬売りが今頃歩いているはずがない。薬売りは、春と秋、集金のために2回しか来ないものよと良子が教えると、小宮は、そんな単純なことに今まで気づかなかった自分を恥じる。

そこへ、東京本社の山西から電話が入り、興信所の男の名刺に書かれていた住所は堀留ビルの中の服装文化社と言う関係ない会社だったと言う。

それを聞いた坂根は、興信所の男は怪しいですねと言い出し、行ってみませんか?猿谷郷へと小宮を誘う。

猿谷郷にやって来た坂根は小宮に、はるかに見えて来た四軒の屋敷を指し、宇田の本家と分家、矢田の本家と分家ですと教える。

小宮は、まず猿鹿神社に寄って行こうと誘う。

神社には、村を出て行った宇田甚平が残して行ったと思われる墨書きの木札があった。

そこには、男子たるものこの地を棄て…云々と言った信念めいた言葉が書かれてあったが、それを読んだ坂根は、こう言う出世主義は好かんですと吐き捨てる。

陸稲と芋ばかり作っているんだからね…と、小宮の方はこの地の貧しさに理解を示す。

新聞の拡張員を装い、宇田の本家に乗り込んで声をかけた2人の前に現れたのは、弥平爺さん(富田仲次郎)だった。

この地では字を読めるものなどいねえし、配達しようにも遠過ぎて割が合わないはずだと言って断って来る。

けんもほろろの扱いを受けた二人は、何の情報も得られず引き返そうとするが、その時、小宮は庭先に落ちていた花火の箱を見つけ、そっと拾い上げると弥平に気づかれないようにこっそり持ち帰る。

途中、宇田はな(桧有子)が2人とすれ違って本家に帰って行ったので、清の父親の兄は精神病で座敷牢に入れられているらしいと小宮は坂根に教える。

その後も、畑仕事をしていた男2人に、清君はいませんかと聞くが、2人は何の返事もせず、農作業を続ける。

これでは、宇田分家や矢田本家などに行っても埒はあかないと判断した小宮は、そのまま坂根と共に帰ることにする。

その際、今しがた拾って来た花火の箱に「隅田花火製工」と書かれていると坂根に教えた小宮は、清へのお土産に誰かが買って来たのだろうと推理する。

その後小宮は、坂根の提案で観音崖の方へ行くことにする。

笠原!君は薬売りと今僕が歩いているこの道を歩いたのか?どうして薬売りなどと歩いていたのだ?と道々、小宮は考えていた。

崖に近づいた2人は、崖の上には先客がいることに気づく。

がけの上で双眼鏡を覗いているのは、どうやら、東京から来たと言う興信所の男のようだった。

小宮は、知らん振りして近づいて話しかけてみようと坂根と話し合い、崖を登って行くが、興信所の男はそれに気づいたらしく、その場から逃げ出す。

森の中で互いの姿を見失いかけながら、興信所の男を追跡する小宮と坂根。

先を走っていた小宮は、突然倒れかかって来る大木に気づき思わず身を避ける。

危ないじゃないか!と木こりが姿を現す。

そこに、坂根が追いついて来る。

その夜、寺の離れにやって来た小宮と坂根のために、寺の小坊主がお茶を運んで来る。

2人からそれまでの調査報告を聞いた雪子は、主人は過失ではなく、何かあったのでしょうか?と聞き返す。

良子も、人の恨みを受ける義兄さんじゃないわと疑問を口にするので、僕だって同じ気持ちだよ。笠原は奥さんや娘のいる家庭を叩き潰されたんだからねと小宮も義憤を口にし、暗い影を捕まえてやる!と意気込む。

すると、坂根も良子の側に近づき、僕もやります!と妙に張り切るのだった。

毎朝の東京本社に戻って来た小宮は、戸田キャップ(永井智雄)の指揮の下、この事件の解明に動き出す。

服装文化社だけでなく、その会社が入っている福留ビル全てを探れ!と戸田キャップは命じる。

山西記者(杉義一)や小宮たちが慌ただしく出かけて行く中、戸田キャップは昼食用に冷や麦の注文をする。

小宮が持ち帰った「隅田花火製工」と書かれた花火の箱を見た店員は、その表紙を剥がして見せ、これはストック品と言う、返品などに新しい表紙を付けて売り出したもので、売った先は伝票を見れば分かると記者に教える。

名刺に書かれていた「新星興信所 井関信吉」を求め、堀留ビルの中を調べていた小宮は、「カミング洋行清算事務所」と言う妙な名前の事務所を見つけたので中を覗いてみる。

中には、最近入ったばかりだと言う女事務員(杉山枝美子)だけがいたので、新星興信所の井関信吉を知らないかと聞いてみると、ここは洋服屋で倒産しちゃったのと言う。

堀留ビルを当たってみたと本社に連絡を入れた小宮は、戸田キャップから、線香花火を売った相手は見つかった。杉山怜子と言う女性だったが、2〜3日前に住まいを出て行ったらしい。能登高山出身の松木貞次郎と杉戸とは名前が近くないか?女房か情婦じゃないかと想像したと推理を聞かされる。

しかし、それを聞いた小宮は、東京と北陸ですよ?と関連性の薄さを指摘するが、戸田は、今じゃそんな距離なんかあまり関係ないと反論し、大家を山西が追っていると教える。

小宮の方は、「カミング洋行清算事務所」と言う会社を当たってみたと報告するが、その名を聞いた戸田は、驚いたように、3ヶ月前のヤマだぞ、忘れたのか!と小宮のうかつさを叱る。

「カミング洋行清算事務所」は、大掛かりな手形詐欺に引っかかった会社だった。

戸田や小宮が呼びだした「カミング洋行清算事務所」の社長石田寅造(丸山誠)は、3ヶ月前詐欺にあった「現代商事」とその時書かれていた福留ビルの二階の空き室へ、当時の説明をするため来ていた。

学校の後輩を名乗りやって来た相手を石田に紹介した宇田甚平(安井昌二)も同席し、自分のミスを石田に詫びる。

しかし、騙された石田の方も、ストックが8000着もあったので…と、簡単に詐欺にあった自分の方にも非があったと打ち明ける。

事件の一週間前の夕方、野見山(八名信夫)と名乗る男がやって来たと石田は回想する。

(回想)事件当日、この部屋で野見山と同席した二階堂(菅沼正)と言う男が、石田に6000万の保証手形を渡す。

そこに、女が茶を運んで来たので、二階堂が津野鳥枝(故里やよい)と紹介する。

この時に受け取った背広8000着分の6000万の小切手が不渡りになったのだった。

(回想明け)社会部に戻って来た戸田キャップは、詐欺の紹介者が宇田甚平、興信所の名刺にあった住所の堀留ビルには「カミング洋行清算事務所」があった。杉山怜子は津野鳥枝じゃないのか?と推理を披露する。

山西が、杉山怜子を調べさせてくれと名乗り出たので、深情けで行けよと戸田は指示する。

6000万の詐欺と北陸の殺人事件、他社には抜かれるな!と戸田キャップは、小宮ら記者たちに発破をかける。

後日、宇田甚平にインタビューを名目に会いに行った小宮は、待たされていた社長室に飾られた数々の表彰状を眺めていた。

宇田甚平は隠れ篤志家として知られていた。

そこに当の宇田甚平がやって来たので、宇田さんは防犯協会にも協力なさっていると言うことなので、殺人と言うことで何でも良いからお話下さい。ここにAと言う人物がいると邪魔になるBと言う人物がいるとして、宇田さんだったらどうします。どうぞご意見を!と小宮は攻めて見る。

煙草を吸っていた宇田は何も答えず、急に立ち上がると。約束の時間が来たのでこれで…と対談を打ち切り、記事は適当に書いといてくださいと言い部屋を出て行こうとする。

意に反するものになるかもしれませんが…と小宮が食い下がると、あなたを信用していますからと言い、宇田は去って行く。

一方、杉山怜子が住んでいた家の家主で菓子屋も営んでいる男(中村是好)に話を聞きに行った山西は、怜子はスピッツを飼っていた。旦那は立派な人で、富山の長命堂の東京支店長だったらしいが、自分が家賃を取りに行った時、会ったことはなかった。一度、興信所の若い男が松木さんの話を聞きに来たことがある。一度、怜子の妹がちり紙をたくさん土産に持って来たことがあるなどの情報を得る。

その報告を山西から電話で受けた戸田キャップだったが、ちり紙を何に使ったかなど見当もつかなかった。

しかし、その報告を側で聞いていた記者が、詐欺があった空き部屋の上にあった現代商事は紙の会社ですよと指摘したので戸田は驚く。

その夜、とある小路現場にやって来た野見山は、突然頭上から落ちて来た運搬用エスカレーター装置に押しつぶされる。

解剖を終え、遺体安置室に置かれた野見山の遺体を確認に、小宮に伴われやって来た石田は、野見山と言う男ですと断定する。

社会部では、記者たちが妹の方が割れたと戸田キャップに報告していた。

吉野法律事務所に勤めている矢田すぎと言う名だった。

現代商事に勤めていた時、下の空き室を利用したんですねと記者たちは納得し、名前からして矢田の女だな…と察する。

すぐに能登の通信局へ連絡を取れ!と戸田キャップは命じる。

その後、宇田甚平の行動を尾行していた小宮は公衆電話から戸田キャップに報告を入れる。

その時、宇田の屋敷にスピッツを連れた女が入って行ったので、それを小宮が伝えると、杉山怜子じゃないか?と戸田キャップは指摘する。

屋敷にやって来た怜子に会った宇田は、様子が変なんだ。インタビューが来たんだと今日の出来事を打ち明ける。

すると怜子は、何の用事で野見山を工事現場なんかに呼んだの?あの人死んでしまったわ。何の用事だったの?言えないんでしょう?用事なんかなかったんだから…と責めるように言う。

宇田は、怜子、許してくれ!お前の亭主は、あのことを種に、俺を強請って搾り取ることしか出来ない男なんだ。その金で派手に遊んでいやがった!国での生活を思い出してくれ!あのみじめな生活を!と言い訳するが、泣き言はたくさん!と言い捨て、宇田の頬を叩いた怜子は、さっさと帰って行く。

スピッツを連れ走って帰る怜子は、途中、川縁で立ち止まると泣き始める。

そんな怜子の背中を優しく叩いたのは、後を付けて来た小宮だった。

杉山怜子さんですね?津野鳥枝さんと呼んだ方が良いかもしれない…。話を聞きたいんだ、君の…と小宮は話しかける。

その頃、坂根は、能登島の火祭りの取材写真を撮っていた。

最新報告を聞きたくて通信局に来た良子は、留守番のおばさんしかいなかったので、明日はキリコ祭りだったわね…と呟き落胆する。

その時、電話がかかって来て、受話器を取ったおばさんが本社からですか?坂根さんは能登島の火祭りに行っていますと答えたので、良子が電話を代わると、かけて来た相手は小宮だった。

火祭りの写真を夢中で撮っていた坂根だったが、見物客を押し分けて良子がやって来たことに気づいたので、何ごとかと近づく。

良子が言うには、小宮からの連絡で、宇田甚平が姿を消したこと、宇田の縁故らしい津野鳥枝の妹もいるらしい。

坂根は良子に、村長に僕の名前を出して下さい。便宜を図ってもらえるはずです。僕はその前に色々やってみたいことがあるんです。栄転できるチャンスなんですと伝える。

猿谷郷の弥平爺さんの宇田本家に深夜近づいていた宇田甚平は、雨戸を開け、蚊帳の中で寝ている宇田はなと清の寝姿を無言で見ていた。

その頃、弥平爺さんは、蔵の中で、二階堂と元国務大臣の豪田元吉(柳永二郎)を前に、能登沖まで送る船の手配はすませたと報告していた。

洋服は全部さばけたか?と豪田から聞かれた二階堂は、「カミング洋行」のラベルは全部付け替えましたと答える。

弥平は、豪田先生、日本での最後の夜、ゆっくり御休み下さいと挨拶して蔵を出ると、ランプ片手に母屋に帰る。

弥平が戻って来たことに気づいたはなは起き出して来て、弥平を寝間着に着替えさせると、障子を閉め、灯を消すと、笑いながら抱き合う。

そんな宇田本家の蔵の側に忍び込んでいたのが坂根だった。

蔵の中では、住めば都と言うが、ここもそう悪くないなと豪田が言うので、私は1時間も我慢できませんと二階堂が答える。

さらに豪田が、仁平もなかなか良い暮らししているなと呟くと、倅の嫁さんとね…と二階堂が皮肉る。

そんな2人の様子を坂根はこっそりミノルタSR-1で写すが、シャッター音に気づいた豪田は、虫の音か?と怪しむ。

写真を撮り終えた坂根は、ゆっくり階段を降りて行くが、途中、積んであった木箱を倒してしまい物音を立てたので、慌てて逃げ出す。

滝の所へ逃げて来た坂根だったが、滝壺を渡ろうとして足を滑らせる。

それでも、カメラを持った手だけは絶えず掲げていた。

二階堂と豪田は、母屋の弥平を殴って尋問していた。

弥平は訳も分からず、人に土蔵なんて覗かせるはずがないと弁解していた。

東京ヘ飛び出し、路頭に迷っていた倅を拾い上げ、学にも行かせ、社長にもさせてやった恩を忘れたんではないだろうな?と豪田が睨みつけると、忘れてないからこそ、部落中で嘘をついてかばっているんだ!と弥平は反論する。

すると豪田は、明日までお互い辛抱しようじゃないかと弥平に言い聞かせる。

能登キリコ祭りの日、雪子は坂根と約束した氷屋の前に、ユリ子を連れた雪子と一緒にやって来るが、坂根の姿が見えないので、もう一回探してみると言い、群衆の中に入る。

そんな良子の姿を雪子は微笑ましそうに眺めていた。

その時、見物客の中を縫うようにやって来たのが宇田甚平だった。

森の中で小宮と合流していた坂根は、相手はどんな手で使って来るか、心配ですね…と今後の成り行きを案じていた。

そんな二人は、歩いている先で、何かをやっていた興信所の井関信吉に出くわす。

井関は二人に気づくと、堀って見つけたらしい穴の中の死体を見せ、三平と言う仁平の兄で精神病ですよと打ち明ける。

そこに宇田甚平がやって来たので、君は必ず来るだろうと思って待っていたんだと話しかけた井関は、俺は石田だ。倒産した「カミング洋行」の社長の息子だ。親父を騙した貴様のことを調べたんだ。この兄貴も貴様がやったに違いない!笠原先生もだ!と一気にまくしたてる。

これは笠原先生が持っていた画帳だ…と言いながら、遺体と一緒に発見したらしいスケッチブックを取り出す石田。

笠原先生は子供の清に絵を描かせ、教室にでも貼るつもりだったのだろう。

この中の絵の一枚に土蔵が描かれている。そして、その扉の中に2人の姿も描かれている。

笠原さんは二人の姿を見たのだろう。これが笠原先生が殺された原因だ!と伊関こと石田が責めると、はなは弥平と出来ていたんだ!あそこでは近親相姦も当たり前なんだ!と坂根も甚平を追求する。

そんな石田と坂根に、もう良いじゃないか…と制したのは小宮だった。

宇田君はもう逃げられない。新聞記事にも出るし、警官ももうすぐやって来ると小宮が静かに言い聞かすと、宇田は突如、拳銃を取り出し発砲して逃げる。

右手にかすり傷を負って倒れた石田を坂根が助け起こす。

その間、小宮は逃げた宇田を追って森の中に分け入り、奴を追ってくださいと石田から言われた坂根も後を追う。

山を下りようとした宇田は、下から登って来る警官隊に気づき方向を変える。

やがて追いついて飛びかかってきた小宮を殴りつけ抵抗する宇田。

小宮に捕まった宇田は、離してくれ!俺のせいじゃない!あの呪われた猿谷郷のせいだ!と叫ぶので、弁解は止せ!と小宮は叱る。

やがて、観音崖の所まで追いつめられた宇田は、俺は桑子だ!俺の村では、食べさせられないから、生まれて来た子共は桑地に穴を掘ってその中に棄てるんだ。俺はその桑子だったんだ!行きてはいけなかったのに生きてしまったんだ!と告白する。

薬屋に化けて度々猿谷郷に帰っていたんだな?笠原を殺したのは何故なんだ?と小宮は迫る。

見たんだ!豪田を!俺は生きていたい!許してくれ!と宇田は哀願して来る。

しかし小宮は、許せない!君は何の罪もないものを殺したんだ!何の罪もないのに、もう妻にも娘にも友人にも会えない…と宇田に迫っていたが、その時、後ずさっている宇田の背後が崖っぷちだと気づき注意をする。

それでも宇田は、貴様の口車なんかに乗るものか!等と言いながら、そのまま後ずさりを続け、ついに崖から落下してしまう。

宇田!と小宮は驚いて呼びかけるが、宇田の身体はもう消えていた。

後日、会社を早退けして待っていた良子は、遅れてやって来た坂根が、今度、金沢支局に栄転するかもしれないんで…と口ごもると、行きなさいよ!私も金沢に行きたいな…、誰か栄転させてくれる人いないかしら?などと遠回しに坂根にプロポーズを要求する。

一方、寺の裏の朝霧のたちこめる海岸で雪子と会っていた小宮は、雪子さん、お元気で!さようならと挨拶する。

お気をつけて…、さようなら…と雪子も別れを惜しむ。

バッグを手にした小宮が去って行き、それをいつまでも見送る雪子の姿があった。


 

 

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