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五匹の紳士

仲代達矢、天本英世、田中邦衛などが顔を揃えているので、一見、東宝作品か?と錯覚しそうだが、実は俳優座製作の映画で配給は松竹。

一応、仲代達矢が主役だが、「マーブルちゃん」として一世を風靡した名子役上原ゆかりちゃんとのバディもののような展開になっている。

上原ゆかりちゃんは、当時、TV雑誌広告などでも引っ張りだこだったが、映画にも何本か出演している。

ただし、どれもちらりと顔を出していると言う印象で、この作品ほど全編に渡って登場している作品は観たことがない。

そう言う意味では、上原ゆかりちゃんの映画の代表作とも言えるかも知れない。

話自体もシンプルながら、白黒特有の雰囲気も加わり、久々に見応えがあるクライムものだと感じた。

人生を落ちこぼれたものたちが集まって犯罪に手を染める…と言う着想そのものは、新藤兼人脚本、監督の「狼」(1955)など前例はあるものの、この作品では、その犯罪者たちの口減らしを第三者が請け負うと言う所に新味がある。

頼まれた第三者も人生の落伍者で、半ば焼け気味に計画に手を貸すことにするが…と言う展開が面白い。

ひょんなことから行動を共にすることになった無垢な子供を観ている内に、主人公の心に、人間としてのかすかな光が射すようになる。

それは、自分のためではなく、いたいけな子供を守ると言う父性愛と言うか、無償の行為である。

ここで登場するその子供の重要性が分かるはずだ。

上原ゆかりちゃんは、当時10歳くらいだったはずだが、無垢な子供の愛らしさを良く表現している。

観客もついつい感情移入してしまうくらいの愛らしさである。

この愛らしさがあるので、最後も、少女は新しいおばちゃんに優しく迎えられるだろうと言う予感めいたものも感じられ、ある種の安心感に繋がっている。

主役を演じている仲代達矢は、正に美しい盛りで、自らの不遇を受け入れるが如く生きる無表情なその美貌は、まるで往年のアラン・ドロンのようである。

一見、紳士風の悪役を演じている天本英世の不気味さも楽しいし、その相方のボクサー崩れのような俳優もぴったり。

テレビ局出身の五社英雄監督の演出も確かである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、俳優座、大野靖子脚本、 五社英雄脚本+監督作品。

(ネガ画像で)公衆電話のダイヤルを廻す手元

110番に電話した男は、元町の車庫に人間のマグロが転がってるよと一言だけ告げ、すぐに電話を切ると、勝負は3分だ。パトカーは3分で来る。良いな!と仲間たちに告げる。(声は千石の声らしい)

タイトル

キャスト、スタッフロールの背後の映像は、ネガ画像で、車庫内で奪い取ったトランクを持った男たちが逃げ、それを追って来る男たちの様子。

パトカーのサイレン音が近づいて来る。

2年後だ!と男の声が聞こえ、トランクを奪った連中は車を発車させる。

刑務所の中庭

休憩時間に外に出ていた囚人の1人が、妻の写真を仲間たちに取られ、その場で破かれてしまい逆上する。

囚人は隠し持った尖ったナイフのようなものを取り出すと、写真を奪った連中を襲い始める。

止めんか!と怒鳴りながら看守も駆けつけるが、相手は凶器を持っているのでうかつに近づけない。

写真を破った男は、塀の側で座っていた囚人笈田(仲代達矢)の背後に回り、笈田を盾にしたので、荒れた囚人は笈田の胸に斬りつけ衣服が斬り裂かれる。

笈田はやむなく、相手につかみ掛かり、相手を突き飛ばして看守たちが捕まえるのを手伝う。

その様子を観ていた松葉杖をついた千石(平幹二朗)が、2~3日うちには向こうに出られるんだろ?もうちょっとでやられていた所だ。命は大事にしておくもんだ。待っている女はいないのか?と話しかけて来る。

女と聞いた笈田は、女とドライブしていた頃のことを思い出す。

(回想)その日、助手席に座っていた女は機嫌が悪かった。

専務のお嬢さんと結婚するんでしょう?さんざん人に貢がせといて…と女が言うので、貢いでくれと頼んだ覚えはないと笈田が答えると、そうよね。でも手切れ金はもらうわよなどと女がしつこく話しかけて来たので、ついそちらに気を取られていた笈田は、次の瞬間、ヘッドライドに浮かび上がった自転車の男と後ろに乗せた女の子の驚いた顔が飛び込んで来たのを見て慌ててハンドルを切るが、車は路肩に激突、大破する。

助手席の女は頭を打ったようだったが無事で、何とか運転席を降りた笈田は、地面に倒れた自転車を呆然と見つめる。

自転車に乗っていたのは水道町2丁目で床屋をやっていた父親の浜田茂夫とその7歳の娘で、2人とも間もなく亡くなる。

笈田はひき逃げの現行犯で捕まるが、面会にやって来た会社の同僚は、部長が辞表を一週間前の日付で出せと言っている。

今まで新車のコマーシャルにかけて来た3000万が、君のお陰でパーになりそうだからと言う。

さらに同僚は、君の給料と退職金は君が付き合っていたらしいバーの女全部持って行った。

あんな女がいたことを知った専務はお冠で、のぶ子さんとの仲はなかったことになったとも言う。

その時、死体安置室から、死体を運び出すと言っていた警官が、死体とは何よ!私が何を亡くしたか分かる!と絶叫している声が聞こえて来る。

笈田が轢き殺した夫の妻で娘の母親奈津子(桑野みゆき)の声だった。

落ち着け?あんたら一体何してるの!

交通係なんでしょう?事故を防ぐのがあなたたちの仕事じゃないの!と、警官たちに食って掛かる奈津子。

たまりかねた笈田は、警官が止めるのをも聞かず、奈津子の前で姿を出すと、奥さん、俺だ…、勘弁して下さいと頭を下げる。

(回想明け)あの女の顔を忘れられない…

その夜、同じ房内で隣り合って寝ていた笈田は千石にそう呟く。

退職金ももらえなかったのか…、身寄りはなかったのか?と千石が聞くので、親父は下級官吏だった。

言いたいことも言えずに死んじまったが、安月給の中から俺に学費を出してくれた。

一介のセールスマンが、お偉いさんの娘と付き合うまでに、どれだけ苦労をしたことか…、随分人を踏みつけにして来た…と笈田は答え、人を2人殺したんだ。ひき逃げだ。どこに行けるんだ?とムショを出てからも当てがないことを打ち明ける。

すると、千石が、どうだ、俺の話に乗らんか?レールは用意してある。質問は禁物だ、黙ってレールに乗るか、乗らないか?

明日出所したら、秋葉町の「追分」って言う民謡酒場の歌子って女を訪ねて行け。

人生なんて全て賭けだ。

俺がお前を見つけたのも賭けなら、お前が歌子に会うかどうかも賭けだ。

秋葉町の歌子だ。忘れるな!と千石は寝たまま念を押す。

翌日、秋葉町にある「追分」では、歌子(川口敦子)から客を取られたと言う店の女が、客の前で、この人は私の客だよ!勝手なことして!と文句を吹きかけていた。

すると、歌子は負けじと、人間なんていっぺんきりしか生まれて来ないんだ。誰に遠慮があるのよと言い返したので、相手の女が叩いて来たので、そのままもみ合いになり、便所の中で大喧嘩を始める。

相手を痛めつけた歌子は、洗面所の水道の水で、相手の顔の化粧を流してあざ笑う。

そこへ入って来たのが、店の女将(野村昭子)で、うちは年増で売ってるんだ!顔で売ってるんじゃないよ!と歌子を叱りつける。

ふて腐れた歌子は裏手に出て、乱れた着物を直すと、タバコを吸い始めるが、店の若い女2人が出て来て、客からもらった金を訳あっていたので、あんたら、トイレに行った時用心しなよと忠告する。

店の中からは、歌子!と何度も呼びかける女将の声が聞こえて来るが、歌子はそれを無視していた。

見ると、野良犬がポリバケツを漁りに来たので、わざと倒してやり、腹一杯食べるんだな…と犬に話しかける。

その時、「追分」の歌子さんですね…と呼びかけたのが、今日出所したばかりの笈田だった。

情が深いんだね…、俺にも優しくしてくれるかい?と言って来たので、客なら店に入っておくれと歌子は答えるが、別荘行きの男のことを考えているのかね?俺は千石の友達だと笈田が言うと、歌子の顔色が急変する。

証拠は?と歌子が聞くと、笈田は千石から預かって来た割り符を差し出して見せる。

それを受け取った歌子は、自分の首に下げていたもう半分の割り符と合わせてみて、ようやく信じたようで、あの人元気?と嬉しそうに聞いて来るが、店の中から相変わらず、歌子を呼ぶ女将の声が聞こえて来たので、ここじゃ話できないわと言うと、自分のアパートへ連れて行く。

あんた、刑務所って良いね~、絶対浮気できない所だもんねなどと嬉しそうに話しかけて来た歌子は、あんた、千石がこれ渡した男だから間違いないんだろうけどさ、裏切らないでしょうね?と念を押して来る。

そして、ここに20万ある。今度の足代だよと言って金を渡すと、あんたが尋ねて行く相手の住所と名前は、元木、梅ケ谷、冬島…と歌子は教える。

その3人に会ってどうするんだ?と笈田が聞くと、消すのよ、代金は1500万、1人500万って訳よ…と歌子は言う。

笈田が何者なんだ?そいつら…と聞こうとすると、質問はなし!こいつ等を消せば、千石もあんたも私も、みんな幸せになるのよ。人間なんてみんな死刑囚さ、いつかは死ぬさ…と歌子は淡々と言う。

翌日、笈田は、港の仕事から帰ってくる元木(井川比佐志)に話しかけながら近づく。

千石知ってるだろう?と聞くと、奴とどこで知り合った?と元木は警戒しているように聞いて来る。

ムショの中ですよ…と笈田が答えると、急に納得したのか、千石のダチ公か!脅かすなよと笑顔を見せる。

使いか?俺は又…と元木は何か言いかけるが、それ以上は話すのを止め。で、奴はどんな案配だ?あいつはここが良いからな。ムショの中でも要領良くやっているんだろうけどさなどと、頭を指しながら元木は言う。

シャバを出る日取りが決まったと笈田が教えると、知ってるよ、後7日だろ?その日が来るのを楽しみにしてたんだと破顔した元木は、一杯やりながら話しようじゃないかと言うと、笈田を屋台に誘う。

そうかい、あいつがムショの中で、机や本棚を作ってるのかい、あの悪党がね~…と笈田の話を愉快そうに聞く元木は、屋台の親父に、後7日で、この店買い取って騒いでやるよなどと大きなことを言い始める。

そして、千石の奴、金の話をしなかったか?と聞いて来たので、いいやと答えた笈田は、本木さんよ、とてつもなく良い話らしいじゃないか?意図口乗せないか?と聞くが、元木は急に口が重くなってしまう。

その時、側で寝ていた黒人の酔客が寝言を言う。

その後、屋台を出た元木は、すっかり酔ったようで、人間の運命なんておかしなものだな。ひょんなことで追う立場から、追われる身になる…などと言い出す。

俺が元デカだって言ったら、あんた信じるかい?あんたがムショの匂いさせるもんだから、昔のこと思い出したんだ…、俺が21、新進気鋭のデカだった…と元木は運河の側で話す。

(回想)土砂降りの雨の中、公衆電話にやって来た警官の元木は、電話ボックスの中から署に電話をかけて来たとよ子(岩崎加根子)に、バカ!電話なんてかけるなって言ってただろう!と叱りつける。

だって…、あの人出て来るのよ!出所届けが来たのよととよ子が言うので、亭主が出て来たら別れる約束だ。署が近いんだ、帰ってくれ!と元木は頼む。

あんた…、今さら…と、恨みがましい目で見て来るとよ子に、これで終わりだ。俺の方は決心付いてる…と元木が言うと、とよ子は雨の中、電話ボックスを飛び出して行く。

驚いて元木が後を追うと、とよ子は雨の路上に崩れ落ち、濡れながら泣いていた。

デカとホシの女が出来ちまったって訳さ。廻りが承知しない。手に手をとって道行きだ。それが俺の苦労の始まりだ。アップアップの始まりだ…、良くここまで行きて来れたもんだ…と川の方を見ながら、酔った元木が打ち明けたので、今がチャンスだと感じた笈田は背中を押そうと背後から忍び寄るが、急に振り返った元木が、大切なものを今の屋台に忘れて来た!紙包みと弁当箱だと言い出したので、俺が取って来てやるから、俺が帰ってくるまでここで待ってろと言い、元木が屋台に戻ることにする。

すまねえな!と呼びかけて来る元木を鉄橋側の川の所に残して屋台に戻る笈田。

笈田がいなくなった直後、座り込んでいた元木の所へ近づいて来る2人の姿があった。

早えじゃないか!と嬉しそうに振り向いた元木が見たのは笈田ではなく、コートに傘を持った宗(天本英世)と、ボクサー崩れのような金(辰巳八郎)だった。

あんた、元木さんね?2年前、元町の車庫でお会いした元木さんですね?と。傘の先を突き出しながら聞いた宗の日本語は片言だった。

元木は、俺は元木じゃない!と否定するが、金がパンチを浴びせかける。

やっと会えたな、2年振りだな、俺たちの組織、甘く見るな!どこに逃げようが、きっと見つけ出してみせる…と宗は言う。

その頃、殺しの前に自分の顔を人に覚えられる危険を犯すべきかどうかで、屋台の前で決めかねていた笈田だったが、結局、屋台の暖簾を潜ると、主人は忘れ物でしょう?とちゃんと取っておいてくれたらしく、元木さん、運河に落ちないように木を付けてやって下さいよと言葉をかけて来る。

金の殺人パンチを食らった元木は、血まみれの顔で、俺は手伝っただけだ…と言い訳していたが、ボスの名を言え!と宗から迫られると、梅ケ谷…、「モナコ座」と言うストリップ小屋にいる…と教える。

その直後、笈田が戻って来るが、血まみれで半死半生になった元木を発見、元木!誰にやられた?と聞くが、笈田…、この金を持って、播磨町の朝日屋アパートへ持って行ってくれ…、梅ケ谷にすまないと言ってくれ。それから、千石の奴には、俺はしゃべらなかった…、千石は裏切らなかった…と元木が虫の息で言うので、バカ!千石はお前を殺そうと…と笈田は言いかける。

俺は今、死にたかねえ…、巴~!と叫び、笈田が屋台から持って帰って来た弁当箱と紙袋の方へ手を伸ばし息絶える。

朝日屋アパートへやって来た笈田は、厄介なもの残してくれたね~。他に身寄りはないのかい?などと住民たちが話しかけてくるのに耐えかね、部屋を飛び出した元木のまだ幼い娘、巴(上原ゆかり)と廊下ですれ違う。

10歳くらいの女の子だったが、アパートを飛び出した後、海辺の突堤の所でしゃがみ込んでいたので、お父ちゃんからだ…と言いながら、持って来た弁当箱と紙包みを笈田が差し出す。

紙包みの中から取り出したのは、毛糸の手袋だったが、それを手にした巴は泣き出す。

笈田は、紙包みを捻って海に放り投げる。

その後、帰りかけた笈田だったが、巴がどこまでも付いて来るので、商店街を練り歩いていたチンドン屋を指差し、ここで待っててやるから風船もらってきなと優しく声をかけてやる。

すぐに、チンドン屋に所へ行き、風船をもらって来た巴だったが、振り返ると笈田の姿が消えていたので、不安そうに周囲を見回す。

その様子を、もの陰に隠れて観ていた笈田だったが、さすがに置いてきぼりは出来ず、すぐに姿を出して見せる。

巴は嬉しそうに近寄って来るが、笈田を探している時思わず手放してしまった風船が、電線に引っかかっているのを押しそうに何度も振り返るのだった。

ストリップ小屋「モナコ座」の舞台裏に来た宗は、出番待ちの踊子に、お嬢さん、梅ケ谷どこ?と聞く。

舞台では、舞台衣装姿の踊り子たちがゴーゴーを踊っている。

照明部屋にやって来た宗の気配に気づいた梅ケ谷(田中邦衛)は、開演中は面会謝絶!と舞台を見ながら言って来るが、あんた、梅ケ谷さんね?と片言の日本語で聞かれると、振り返って、あんた、誰だね?と不思議がる。

忘れたかね?2年前、お目にかかりました…と宗が言うと、相手の正体に気づいた梅ケ谷は逃げ出す。

その後を追い始めた宗と金の前に、小屋を仕切っている金龍会のチンピラが立ちふさがるが、金が一撃で叩きのめす。

ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」の曲が流れる中、梅ケ谷はビルの屋上に逃げるが、金と宗も追って来たので、隣のビルとの隙間にぶら下がり、下に降りる。

ちょうど、隙間の前の道では巴が笈田から待たされていたが、それを元木の娘とは知らない梅ケ谷が、そこの楽屋に行って、あけみって姉ちゃんに遊園地で待っているって伝えてくれと頼む。

あけみ(葵千代)はちょうど舞台で踊っていたが、騒ぎを聞きつけた金龍会の連中が助っ人に来たので、もう逃げちゃったよ!と叱りつける。

金と宗は、ヤクザが介入して来たので一旦、小屋の外に逃げ出すことにする。

その宗たちとすれ違うように、小屋に入って来たのが巴だった。

外に出た宗は、ヤクザやサツが出て来ちゃまずい。一旦引き上げようと金に告げ、小屋を立ち去る。

楽屋に戻り着替え始めたあけみに、訪ねて来た笈田が梅ケ谷さんいますか?と声をかけると、今、変な奴が来て、梅ちゃん、逃げちゃったよとあけみは答え、あんたは?と聞く。

大学の友達ですと笈田はとっさに答えるが、側にいた金龍会の連中が、梅の野郎が大学出てるのかよ!海辺の燈台か?などとからかい出す。

そこへ、おじちゃん!あけみってお姉ちゃんいる?とやって来たのが巴で、あたしだけど?とあけみが怪訝そうに振り返ると、おじちゃんが遊園地で待っているってと巴は伝言を伝える。

どんなおじちゃんだったの?とあけみが聞くと、巴は両手で自分のほっぺを挟んで下に引っぱり、たれ目にしてみせたので、あ!それは梅ちゃんだ!あけみは気づく。

それを横で聞いていた笈田が、今、あんたが会いに行っちゃまずいだろ?俺が代わりに会って来ると言い出す。

あけみは、10時にクラブ「メコン」で待っているって伝えてと頼んだので、まかしとけと答えた笈田は巴と一緒に観覧車のある夜の遊園地にやって来る。

そんな笈田と巴に、おあいにくだったな、遊園地は終了したぜとベンチに腰掛けて話しかけて来たのが元木だった。

あんたが梅ケ谷だね?あけみさんから頼まれて来たんだと笈田が声をかけると、何で本人が来ないんだよと梅ケ谷が不審がる。

今、小屋から出たら危ないだろ?10時にクラブ「メコン」で待っているってと笈田は伝え、もう一つ言づてがあるんだ。元木があんたにすまねえってよ…と言うと、奴の死に目に会ったのか?と梅ケ谷は事情を察する。

ああ、あれが元木の娘だ…と近くで遊んでいた巴を教えると、そうか…、可哀想に…、さぞ心が残ったろうな…と梅ケ谷は死んだ元木に同情するが、ちぇっ、人ごとじゃねえや!次は俺の番だと真顔になる。

そんな梅ケ谷に、俺と取引をしないか?互いに知っている情報の取引だと笈田が水を向けると、何と取り替えるんだ?と梅ケ谷は聞いて来る。

2年前、何をやったか教えてくれと笈田は聞くが、言えねえよ、あの子のためにもよ…、オレ、前科もんの子よ…、親父は65円盗んだばっかりに、お袋も俺も往生した…と梅ケ谷は話し始める。

俺は生まれつきおっちょこちょいで、すぐ、人の尻馬に乗っちまうんだ。だが、今度こそ、てめえで前に進みたいんだ。あけみはおれの生きがいなんだ。あの女といる時だけが確かなものになる。

あいつも、俺のような意気地なしを頼りに行きてるんだ。いじらしいじゃないか。俺の幸せを壊さないでくれと梅ケ谷は言う。

もう遅いんじゃないか?と笈田が言うと、大丈夫だ、逃げ延びてみせる。3日経ったらあけみと旅に出る。お座敷ストリップに転向だ!と梅ケ谷は夢を語る。

後3日したら何があるんだ?と笈田が聞くと、何しに来た?てめえの一存か?と急に態度を硬化させた梅ケ谷が立上がって笈田に迫って来るが、その時、梅ケ谷に何かが飛んで来たのでその方を観ると、巴が睨んでいた。

巴は、笈田を守ろうと自分の靴の片方を梅ケ谷に投げつけたらしい。

ちぇっ!とんだ助っ人だと白けた顔になった梅ケ谷は、クラブ「メコン」まで付き合いなと笈田に言う。

笈田は、自分のために靴を投げてくれた巴を見つめ、投げた靴を履かせてやると、微笑むのだった。

一旦「モナコ座」に戻った梅ケ谷だったが、踊り子たちが、あけみが急にいなくなり舞台に穴をあけたと教えてくれる。

支配人も、「クラウン」の方に廻っているんだろう?と梅ケ谷を睨んで来る。

梅ケ谷は連れて来た巴を楽屋に待たせ、笈田と一緒に「モナコ」に出向くことにする。

クラブ「モナコ」の通路で待つことにした笈田は、通路にまで追って来た酔客から絡まれているホステスに目を留める。

自分が轢き殺した男の妻奈津子だった。

その時、梅ケ谷さんに電話だって、東堀川の浄水場まで来てくれって、あけみさんが!とボーイが声をかけて来る。

ここから浄水場までどのくらいかかる?と梅ケ谷が聞くと、7分くらいだとボーイが言うので、畜生!と呟いた梅ケ谷は店を出て行く。

後に残った笈田は、奈津子に話しかけようとするが、話って今さら…、話したけりゃ使命料払って!と奈津子は怒鳴りつけて来る。

それでも笈田は、奥さん…、気の済むようにしてくれ…と言うと、あんたが自転車に乗って、私が轢き殺しても良いの?主人と娘が帰ってくるのなら人殺しだって強盗だって何でもやるわよ!あんたが死刑にならずに出て来るなんて…と奈津子は恨みがましく言う。

すると笈田は、あなたが羨ましい…と言い出す。

奥さんがなくしたものと同じとは言えないかも知れないが、俺だってあの時、ずっと積み上げて来たものが全部なくなったんだ。

奥さんのなくしたものと計りにかけたら、同じ目盛りになるかも知れない。こういうことは、無理にでもピリオドを打たなければならない…、そう考えてもらえないだろうか?と笈田は訴える。

そうかも知れない…、でも私には出来ない!と奈津子は答える。

笈田はボーイに、梅ケ谷が向かった浄水場の場所を聞いて、後を追いかけることにする。

その頃、浄水場に到着していた梅ケ谷は、あけみの姿を探しまわっていた。

そこには、宗と金が身を潜めていた。

梅ケ谷の前に姿を見せた宗は、おい、金はどこにある?と聞いて来る。

背後には、金に捕まったあけみの姿もあった。

あの時の仲間の名前を教えろ。元木、梅ケ谷、それから誰だ?と宗は傘を持って迫って来るが、俺は天の邪鬼でよ、人から聞かれると答えねえ性分なんだととぼけるが、冬島さんと誰?と宗は聞いて来る。

冬島の名前を聞いた梅ケ谷は驚くが、あたしが言ったんだよ!あんた、酔っぱらってさんざん言ってたじゃないか!梅ちゃん、ごめん!と、金に捕まえられたあけみが謝って来る。

冬島さんだね?と宗が念を押して来ると、その通りです。俺の命賭けられるのはお前だけだと梅ケ谷はあけみに答え、女は帰してくれるんだね?俺から引き出せるのはそれだけだと宗に聞く。

宗は頷く。

先に帰ってろ!話つけたら帰るからと梅ケ谷はあけみに告げるが、あけみは、梅ちゃん!と呼びかけて来る。

帰れったら帰れ!と梅ケ谷は焦れたように命じる。

その時、あけみは、自分を捕まえていた金の腕を思い切り噛み付き、金が腕を離した隙に、梅ケ谷はあけみを抱いて一緒に逃げ出す。

途中、もの陰に隠れて、金が通り過ぎるのを待ち受けていた梅ケ谷は、金が横に来ると殴りつける。

そんな浄水場に笈田も到着し、梅ケ谷の姿を探していた。

梅ケ谷とあけみは、高い所から下に飛び降りるが、その時、あけみが足をくじき動けなくなる。

あけみは逃げて!と叫ぶが、あけみを何とか立たせようとしていた梅ケ谷の元に、宗と金が駆けつけて来る。

梅ケ谷は金に殴られ、倒れた所を宗が持っていた傘で何度も突き刺して来る。

さらに、宗は、側にいたあけみの首も傘で締め上げて殺す。

そこにやって来たのが笈田で、梅ケ谷!と呼びかけるが、虫の息の梅ケ谷は、冬島に、狙われてるって伝えてくれ…、元町のボクシングジム…と言うと、あけみと旅に出るって言ったろう?違いねえや…と言うと倒れる。

いつしか雪が降って来ていた。

クラブ「メコン」の前で、寒そうに手に息を吹きかけていた巴に気づいたのは、店が終わって外に出て来た奈津子だった。

おじちゃん帰って来ないわね、しようがない人ね…と話しかけて来た奈津子は、おうちどこ?と聞くが、ないのと巴が答えたので、そこに泊まってるの?と聞くと、旅館!と言う。

あそこのお蕎麦屋さんで待っていようか?と奈津子は誘うが、ここを動いちゃ行けないってと巴が言うので、そう…と答えた奈津子は、自分がかぶっていたマフラーを外し、それを巴にかぶせてやる。

ありがとうと巴は言い、奈津子は自分のコートの前を拡げて、その中に巴を入れてやる。

そこに笈田が帰ってくる。

どうも…と笈田が礼を言いながら近づくと、おじちゃん!と巴が飛びつく。

奈津子は、そんな巴のマフラーを取ろうとするが、巴がそれを押さえて渡そうとしないので、諦めてそのまま帰ることにする。

おばちゃん!ありがとう!奈津子の背中に巴の声が聞こえて来る。

梅ケ谷とあけみが殺害されたニュースは新聞に載る。

カレンダーの18日と19日を消した冬島(中谷一郎)は、後1日だと言うのに…と新聞で知った梅ケ谷に同情する。

その頃、出所を明日に控えた千石を、歌子が面会にしに来ていた。

12時で良いのねと千石に確認した歌子は、お役目楽しいわ、後は冬島だけよ。今日よと教える。

歌子も千石も、予定通り、笈田が2人を殺したと思い込んでいたのだった。

ボクシングジムの控え室にいた冬島に、お客さんだよ、元木って言う…と言う練習生の声が聞こえたので、硝子戸を開けると、入って来たのは、見知らぬ笈田だったので、今度から勝手に客を通すな!と練習生を叱りつける。

元木ってのは噓じゃねえんだと言った笈田は、連れて来た巴に名前を言わせる。

元木巴!と答えたので、元木の子供か…と冬島は察する。

あんたが冬島さんか?梅ケ谷の言づてを持って来た。あんたは狙われている。用心しなと笈田が言うと、おめえさsん、どこまで知ってるんだ?と冬島は聞いて来るので、元木、梅ケ谷、あんたの3人で何をやったんだ?もうあんたの墓は建っているんだ、戒名を刻んでね…と笈田は聞き返す。

その時、ジムの方で、先ほどしかった練習生が、突然やって来た宗と金を追い返す声が聞こえて来る。

冬島さん、どこにいる?と片言の宗が聞くと、大阪の巡業に付いて行ったと練習生はごまかしていた。

それを聞いた冬島、笈田、巴は、裏の窓から外へ逃げ出す。

金はリングの中にいた練習生たちをあっさり殴り倒すと、宗と共に控え室に近づいて来る。

笈田は巴を脇に抱え、冬島と共に、スクラップ置き場の方へと逃げる。

途中、巴の手袋の片方が、策に引っかかり脱げてしまったので、巴は遠ざかって行く父親の形見の手袋をずっと見つめる。

スクラップの中に身を潜めた笈田は、なあ、教えてくれ、危険が目の前に迫っているんだ。何でこの子の父親が殺され…と冬島に聞きかけるが、子供に聞かせる話ではないと気づくと、巴を近くにあった廃車の運転席に座らせに行く。

ちょっとの間ここにいるんだと言い聞かし、冬島の元に戻って来た笈田は、話す気にならないか?さっきの男の殺人パンチ見ただろう?と促す。

俺も元ボクサーでさ、ミドル級じゃうるさかったんだ…と冬島は、ようやく重かった口を開く。

(回想)4年前のチャンピオンが目の前の時、八百長を持ちかけられ、断ったら、右腕をへし折られた。

(回想明け)この腕が折れる音が聞こえた時が、栄光に別れを告げるゴングだったんだ。

栄光は麻薬みてえなもので、切れると堕ちて行くばかりだったが、その時、あの3人と出会ったんだ。

あんたも入れて4人だったのか!と驚く笈田。

肝っ玉が一番太かったのは、今、府中の刑務所に入っている千石と言う男だった。

俺たちは飢えた野良犬見てえなもんだったんだよ…と冬島は言う。

(回想)ゴルフ練習場をネットの外から眺めていたのは、松葉杖をついた千石、冬島、元木、梅ケ谷の4人だった。

俺は空襲で逃げ回っている時、足をやられてな…、それがあってからは、この向うの連中とは違う世界にいるんだ…。あんたら、まだ両足でふんまえられるのにその境遇と言うのは俺より不遇かも知れない…と千石は話し始める。

人生、偶然が半分を持って行くのかも知れないが、後の半分を俺に預けてみねえか?

盗んでも訴えられない金が3000万ある。麻薬の取引金だ。みんな落ちる所まで落ちたんだ。今度は登る番じゃないのか?金の受け渡しは2年後、金は俺が預かる。

この手の犯罪は、使う金でバレるものだ。2年間はみんな地道に働いてくれ。

俺も2年間、金は手に入れられない。俺はムショに入るんだ…と言いながら、千石は新聞に載った自分の写真を3人に見せる。

共栄証券の株券詐欺で俺は自首する。

ムショは府中刑務所だ…と千石は話を終える。

(回想明け)話を聞き終えた笈田が、あんた、千石をどこまで信じているんだ?誰に狙われているのか分かってるのか?と聞くと、香港ルートの売人だろう?と冬島は言うので、もう1人殺し屋を知っているか?おれだ…と打ち明ける。

おめえが!と冬島は驚くが、半金の1500万で、元木、梅ケ谷、あんたは消される。俺は8日前に府中のムショを出たんだよ…と笈田は打ち明けると、あの野郎!と冬島は裏切られたことを知る。

その時、巴を乗せた車のドアが閉まる音が聞こえたので、様子を観に行き、巴、どこ行ってたんだ?と聞くと、手袋取りに行ってたのと言うので、宗たちに見つかった可能性があることに気づいた笈田は、注意深く周囲に目を配りながら冬島の元に戻る。

すると、案の定、近くまで来ていた宗と金に襲撃される。

笈田は宗と戦い、冬島は金と戦うが、右手が動かない冬島は、良いように金に殴られる。

それでもビルの廃墟の中に逃げ込んだ冬島は、迫って来た金の身体をかわすと、金は勢い余って自ら落下してしまう。

一方、鉄パイプを振りかざして襲って来た宗を、何とか叩きのめした笈田が冬島の元に駆けつけてみると、虫の息の冬島は、頼む!俺たちの代わりに千石を…と言いかけ、息絶えてしまう。

その時、おじちゃ〜ん!と叫ぶ巴の声が聞こえたので、表に出てみると、側に停めてあった車が動き出す所だった。

置いてあった巴の手袋を手に、巴〜!と叫びながら、暗くなった中、走り去った車を追いかけた笈田だったが、さすがに追いつくことは出来ず、悔しがりながらも、巴の手袋の中に何か入っていることに気づく。

中には紙が丸められて入っており、拡げると「(205)5161 宗」と電話番号が書かれていた。

くっそー!と悔しがる笈田。

宗が巴をさらって行ったのだった。

翌日、いよいよ府中刑務所を出た千石の前に、笈田が近づいて来る。

笈田は、歌子から預かったメモを千石に手渡す。

千石が笈田を連れて来たのは、高圧電流が流れる変電所だった。

金は中か?と笈田が聞くと、気を付けろ、3万ボルトの電流だ。触ると身体から火を吹くぞと、松葉杖をついた千石は注意する。

お前さんからお先に!と笈田は勧め、千石が金網のドアを開けて中に入って行く。

そして、その一角の地面を杖で叩き、ここだと金を埋めた場所を教える。

笈田がその地面を掘ってみると、すぐにジュラルミンケースが出て来る。

それを掘り起こすと、近づいた千石が、世話を焼かせる女ほど可愛いと言うが、こいつがそうだ!とトランクにほおずりしながら、何を考えているんだ?と笈田に聞く。

多分、あんたと同じことだ…、カバンの中の3000万そっくり頂くと笈田は言い出す。

3人と一緒…、おめえに命賭けたのは、そんなことは言わねえ男だと思ったからだ…と言いながら、千石は立上がる。

可愛い子供のために、バカをやろうと思ったのよ…と笈田が打ち明けると、人様のためにやろうと言うのか?と千石は意外そうに聞く。

世の中万事が金!じゃねえのか?と千石は言うが、死んだ3人はおめえを信じてたよ。奴等は人間のクズだったが、おめえの敷いたレールで走ったんだ。

もう獣の道はやれないけれど、俺はでかい買物をするんだ。一旦売った魂を3000万で買い戻すんだ!と笈田は打ち明ける。

分かったよ、ジェントルマン、美しい魂とやらを買いな…と千石が言い出したので、ここまでレールを敷いた運賃くらいは払う、100万だと笈田が言うと、弾を1発残しておいたんだと言い、千石は隠し持っていた拳銃を取り出す。

良いか、笈田。人間何かに振り回されるものだ。俺は3000万に振り回されたんだ!と言いながら、千石は笈田に向かって銃を撃つ。

笈田は腹を撃たれ倒れ込むが、ケースに近づこうとした千石の足にしがみつく。

千石は松葉杖で笈田を打ちのめそうとする。

笈田が抵抗しなくなったので、千石はジュラルミンケースを取ろうと近づくが、ケースは金網にもたれかかっており、その金網には、切れた電線から高圧電流が流れていたので、持ち上げようと、トランクの取っ手に手を触れた瞬間、千石は感電死する。

その直後、何とか起き上がった笈田は、千石の松葉杖を使って、ケースを引き寄せ、それを持って変電所を後にする。

近くの公衆電話に到着した笈田は、宗の残したメモに書かれていた電話番号にかける。

すぐに宗が出たので、子供を出せ!と言うと、おじちゃん!おじちゃん!と叫ぶ巴の声が聞こえて来る。

巴元気か?何もされてないか?と聞くと、うんと言うので、良し、すぐ行くから待ってろと声をかける。

金どした?と宗が電話を代わったので、金は手に入れて今ここにある、必ず返すから、その子に指一本触れるな!と念押しした笈田は、帝国ホテルの前だと落ち合う場所を指定する。

時間急ぐ、12時までだと宗も承知する。

トランクを持った笈田が帝国ホテル前の路上で待っていると、宗の運転する車が近づいて来るが、宗は笈田の姿に気を取られていたので、前を走って来たトラックにぶつかってしまう。

トラックの運ちゃんが怒って飛び出して来ると、運転席から降りて来た宗を捕まえ文句を言い始める。

宗は、笈田の追っているトランクを目の前にして、後で!と運ちゃんを振り払おうとするが、すぐに近くにいた警官もやって来て免許証の提出を求める。

宗がおとなしく従うと、日本人じゃないね?パスポートは?と警官が追求して来る。

その時、宗の乗っていた車の後部座席から巴が降りて来て、おじちゃ〜ん!と言いながら抱きついて来る。

笈田は巴を連れ、その場所から離れると、良いか、巴、おじちゃんの言うことを良く聞くんだ。いつかキャバレーで会ったお姉ちゃんを覚えてるだろう?マフラーをくれたお姉ちゃんだ。

これ持ってな、そのお姉ちゃんの所へ行くんだとトランクを見せ笈田は言い聞かせる。

おじちゃんは?と巴が不安そうに言うので、おじちゃんはすぐ後から行くよ。用事が一つ残っているんだと答えるが、そんなの嫌だよ!と巴がだだをこね始める。

おじちゃんはいつも一緒だったじゃないかと笈田は言い聞かせるが、嫌だ!嫌だ!そんなの!と巴は何かを感じたのか言うことを聞こうとしない。

巴が笈田にしがみついて来た時、ちょうど空きタクシーが近くに停まったので、運転手さん、楓町のキャバレーに、この子を連れて行ってくれないかと笈田は声をかける。

運転手はすぐに承知したので、おじちゃん!と泣き叫ぶ巴とトランクを後部座席に乗せる笈田。

嫌だ〜!と巴は泣き叫ぶが、行ってくれ!と運転手に声をかけると、タクシーは走り出す。

おじちゃん〜ん!と後部の窓から笈田に呼びかける巴の顔が遠ざかって行く。

それを見送った笈田の左では、腹をずっと押さえていたので血まみれだった。

笈田は、深夜のホテル横の通路をよろめきながら歩き始める。

やがて、大きな柱の所で気が遠くなり、通路がひっくり返る映像になる。


 

 

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