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ドレイ工場

元々、商業ベースに乗り難い社会派映画などの資金集めの方法として始まったらしい「製作委員会」製作の比較的初期の作品である。

とある劣悪な労働環境の工場で、労働組合を起こそうとする従業員たちと、それを阻止しようとする経営側の対立を描いた作品で、労働者側の視点から長期に渡る闘争経過の途中までを描いている。

共産党員だったと言う山本薩夫総監督作品なので、客観的に公平に描いている印象はなく、明らかに、労働者=善、資本家=悪みたいに、最初から両者の価値判断をした上で、労働者側の視点から描いているので、ドキュメンタリー風と言うより、明らかに勧善懲悪風ドラマ仕立ての印象が強い。

特に、課長役などは、後に「西部警察」で嫌味な課長を演じる高城淳一さんなので、まさしく嫌な上司の典型のような演技を見せてくれる。

学がなく、こき使われながらも、深い考えもなく享楽的に生きようとしていた工員を前田吟が演じており、これを見た山田洋次監督が「男はつらいよ」の博役に起用したと言う話もあるらしい。

他にも、有名、無名をとわず、民芸、俳優座、青年座など、多数の劇団員が参加しており、芝居に素人臭さはない。

志村喬、河野秋武、花澤徳衛…と言った渋いベテラン、杉村春子、北林谷栄、日色ともゑ、赤座美代子、中原早苗と言った女性陣も頼もしいが出番は少なく、前田吟さん以上に印象に残ったのは、ベテラン職工役の草薙幸二郎さん。

草薙さんの代表作じゃないのか?と思ったくらい存在感がある。

モデルとなっている鉄工会社の闘争は記憶にないが、東京12チャンネル(現:テレビ東京)でも不当解雇の闘争が行われていたなど知らない事まで出て来て、内容自体は大変興味深かった。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、ドレイ工場製作上映委員会、労働旬報社原作、武田敦+小島義史+ 監督新人協会砧支部脚色、武田敦監督、山本薩夫総監督作品。

この作品は、10万人に及ぶ支援、100団体や専門家たちが資本を出し合って完成しましたと言うようなテロップ

タイトル

「関東鉄工」「その家族」「経営者側」など役割別に分けられたキャスト名と協力劇団、のべ13700人の労働者たちが出演したとの記述にスタッフロール

夜の川縁の土手の草原にやって来たのは、関東鉄工の鋳物工場の職人谷山(前田吟)とその後輩たちだった。

彼らのお目当ては、川っぷちにオープンカーを停めて、キスをしているカップルの様子を盗み見することだった。

こっそり車に近づこうとしている中、1人の工員が小便がしたいと言い出したので、さっさと済ませろ!と小声で叱った谷山だったが、自分が先頭になって車に近づこうとした時、足下を取られ、転んで水辺に倒れ込んでしまう。

その音に気づいたカップルは、慌てて車を走らせるが、先回りして土手の上の道に駆け上がった谷山は、迫って来るオープンカーの前に飛び込み、危うく轢かれそうになる。

急ブレーキをかけた車の運転手に、立上がって近寄った谷山は、何故俺を轢こうとした?と因縁をつける。

運転していたのは気弱そうな青年だったが、谷山の気迫に怯え、金を差し出そうとするが、金が欲しいんじゃねえよ!と睨みつけた谷山は、後輩の石井に、これから錦糸町にドライブと洒落込もうぜ!と誘う。

しかし、疲れた石井たちは、もう勘弁してくれよと尻込みするので、谷山は林(松田光弘)に来い!と命じる。

林も、俺はまだ見習いだから…と行くのを嫌がるが、俺は国の先輩として、お前を男にする責任があるんだなどと言い、谷山は林を無理に後部座席に乗せ、自分も乗り込んで運転手に走るよう命じる。

その後、錦糸町のバーで飲み始めた林は、谷山さんは大した愚連隊だと呆れたように言うので、お前、浜松訓練所に貼ってあった会社の募集覚えているか?更生施設完備などと良い事ばかりかいてあっただろう?

俺もあれに騙されて5年前にここに来たら、更生施設は便所だと言いやがった。

工員が1000人いても、労働組合すらありゃしねえ。これは俺なりに楽しんで元取らねえと…と思うようになったのよと谷山は苦笑し、ホステスと踊り出す。

そこにやって来たのが、谷山が働いている関東鉄工の課長沢野課長(高城淳一)だった。

事務の若手を2人連れて来ていたが、それに気づいた谷山は、笑顔で沢野に頭を下げに来る。

沢野は先日、家の棚を谷山に作ってもらったので、妻が喜んどるよと感謝するが、この林にも手伝わせたんですなどと谷山が言うので、ほどほどにしとけよ!と釘を刺す。

谷山が、自分にへつらって只酒を飲もうとしている魂胆は見え見えだったからだ。

へらへらと笑いながら谷山が離れて行くのを見届けた沢野は、改めてボックス席で連れて来た若手たちに、最近、工場内の空気がおかしいと思わんかね?と問いかけ、横に座って来たホステスも追い払う。

全金…、全国金属労働組合のせいじゃないかと思うんだ、君詳しいんじゃないの?勉強熱心な君が?などと若手の1人を呷るので、若手はメモを取り出し、沢野の話を書き留めようとする。

今現在、全国に22万1000人いると言われており、個人加盟の労働組合と言うのが売りで、1人2人と巧みに加入して行く、言わば労働組合のベトコンさ…と宮林(中田皓二)が事務職の新人に説明する。

経営者たちの悩みの種でね…、危険なものは早いうちに踏みつぶさないといけない。君たち大学出は幹部候補だ、あいつらとは違うからね…と、バーの中で愉快そうに騒いでいる谷山たちの事を揶揄する。

翌日の工場

昨夜の夜遊びが祟り、林などはアクビの連発をしながら作業をしていた。

仕事を見回っていた組長中島が、切り粉がたまっているぞと林に指摘したので、林は辛そうにそれを一輪車で運んで行く。

そんな林に、今夜も武者修行をやろうと谷山は声をかけるが、今日は9時まで残業ですよ、勘弁してくれ!と林は苦しそうに答える。

そんな林に、俺たちは出来高払いなんだし、仕事なんて適当にやろうぜと谷山は焚き付ける。

ベテラン工員の佐賀(草薙幸二郎)は、時折、ウィスキーのポケット瓶など隠れて飲みながら仕事をしていた。

そこに沢野課長と宇野組長(花澤徳衛)が視察にやって来たので、慌ててごまかす。

職場の事で上司に意見した大村(木村幌)は、懲罰用の工作機械を当てがわれていたため、修理ばかりしている始末で仕事にならなかった。

そんな中、林が小便が我慢できないとトイレに行こうとしているので、後20分で休憩じゃないか!我慢しろ!と中島が叱りつけたので、それを哀れんだ大村が林を連れ、一緒にトイレに行く事にする。

工員塚本(高島史旭)は、仕事を離れ、耳にはめたイヤホンから聞こえて来るトランジスタラジオの株式市況に集中していたが、買った株が外れて悔しがっていた。

そこに仲間が近づいて来たので、そっと訳ありの金を渡す。

トイレには「ドレイ工場絶対反対」などと落書きがあちこちに書かれていた。

それを1人で拭き消していたのは二階堂と言う男だったが、そこに小便しにやって来た工員2人は、スパイ辞めて便所掃除しろよ!ロッカー覘いたりしてるだろ?みんな気が立っているからな…などとで嘲って来る。

次の日曜日、長島寮で遅くまで寝ていた谷川に、面会人だと管理人のおばさんが呼びに来たので、毎日残業、残業で死人同然だ!休みの日くらい寝かせてくれよ!野郎なんか追い返せ!とベッドの中で谷川は声を挙げるが、おばさんが、野郎じゃないよ、別嬪さんだよとドアの外から声をかけると、すぐに起き出して来た谷山は、にやにやしながら入口に出て来る。

しかし、そこに立っていたのは見知らぬ女性だったので、谷山はちょっと戸惑うが、相手の女性は谷山を見て、やっぱり真面目な労働者の顔じゃないわね…とバカにしたようなことを言うと、弟を変な所に連れ出さないで!と文句を言って来る。

林の姉の光子(日色ともゑ)だと言う。

同郷ずら!みっちゃん、変な所ってどこかね?などと馴れ馴れしく谷山が笑いかけて来たので、はるおはまだ未成年なんです、土手やバーや女子寮なんかに連れて行かないで!と光子が怒ると、本人は喜んでいたで…、これからちょっと浅草へでも行って、林の今後の事を話し合おうぜなどと谷山がにやけながら言うので、図々しいわね!と呆れた光子は怒ったまま帰ってしまう。

当てが外れて立ちすくんでいた谷山は、寮から出て来た工員仲間の塚本に、勉さん、株で損したってね?どっかに遊びに行かないか?と誘うが、今日は用事があるんだと言い、塚本もさっさと出かけて行く。

その頃、関東鉄工の工場長(河野秋武)、沢野課長、宇野組長ら経営側連中が料亭に集まり、今度、中央製鉄に吸収される事が予定されていることもあり、生産能率を40%上げるために、清算増強新体制を作る相談をしていたいた。

そのためにも、労働組合など作らせないように調査活動を強化しますと沢野課長は言い、新田のロッカーの中から「レーニン」の本を見つけたと部下の宮林に報告させる。

まさか、共産党じゃないだろねと工場長は案ずるが、宮林は「民生新聞」が4つ出てきました。その中には、沢野課長が目をかけられている谷山もいましたなどと言い出したので、わしの目が節穴だとでも言いたいのか!と沢野は興奮し出す。

宮林は、とんでもない!と否定するが、場の空気が悪くなったので、工場長がなだめていたが、そこに女中(岸旗江)がやって来て、宇野様にお客様が見えましたと知らせる。

宇野が別室に呼んでいたのは塚本だった。

親父たちと込み入った話をしてたんだと打ち明け、塚本と向かい合った宇野は、塚本を頼りにしてるって工場長も言ってたぞ。お前を工場に入れたのは俺だから、鼻が高いよなどと褒める。

確か、訓練場では旋盤だったね?と宇野が聞くと、トップで出たのに、今じゃ鋳物屋だからね…と塚本は苦笑する。

君を、千番に廻しちゃどうかって工場長とも話してるんだよ。鋳物じゃ煙で腹の中まで真っ黒になるだけだ、鋳物屋は潰しがきかねえ…などと宇野が言い出したので、狙いは何ですか?会社が無条件で良い話持ちかけるはずがないと塚本は聞く。

今付き合っている連中と手を切ってもらう。全金の連中だ。塚本、全金の連中はみんな首だぞ!と宇野が打ち明けたので、証拠がありますかね?と塚本がとぼけると、鋳造は居心地良い職場かね?大した野郎だな…と言いながら、宇野はテーブルに300万の札束を出して見せる。

株ですって、お袋への送金も困っているんだろう?と言った宇野は、手を叩いて芸者(赤座美代子)を招き入れると、自分は部屋を出て行く。

関東鉄工の工場内には、「生産増強体制」と大きく書かれた垂れ幕が掲げられる。

佐賀は、まだ見習いなのにいきなりクレーン係を命じられた林の仕事ぶりを、下から怒鳴りながら指示を出していた。

会社、何考えてるんだ!あんな新米にクレーンやらせるなんて…とぼやいていると、現場担当のがやって来て、何ではかどってないねん?と工員たちの仕事の遅れを指摘し始める。

反抗的な態度を取ると、社の方針に反対ちゅうことやな?と嫌味を言う始末だったが、その時、クレーンを運転していた林は、クレーンが引っかかって停まったので、操縦室を出て、梁の上に登り出したので、下から気づいた工員たちは、林!止めて、降りて来い!と声をかけるが、林はそのまま梁の上を這ってクレーンの滑車部分に来ると、自分で引っかかっている部分を修理しようとし始める。

何とか、引っかかりが直ったので、林は笑顔になるが、次の瞬間、急に滑車が回転し始め、林は右腕を滑車のギア部分に引込まれ、そのまま梁から落下して床に叩き付けられる。

右手が粉砕していた上に頭蓋骨骨折の即死だった。

佐賀たち工員は驚いて、死んだ林の廻りに集まって来る。

谷山は、林!しっかりしろ!と呼び掛け、もはや無駄だと分かると、バカヤロー!くそったれ!と悪態をつき始める。

やがて、ささやかな林の葬儀が営まれるが、集まったのは、姉の光子と工員仲間数名だけで、会社側は、沢野課長が5万円の香典を出しただけだと悔し気に囁きあっていた。

そこに、一升瓶を下げて酔ってやって来たのが谷山で、みんな、しけたツラしてないで、これでも飲んで景気良くやろうぜ!と呼びかける。

ベテランの佐賀の湯飲みに酒を注いでやった谷山だったが、沢野課長の所で飲んでいてそこからぶんどって来たと谷山が酒の事を明かすと、沢野からじゃ気が進まねえ…と言い、湯飲みを置いてしまう。

仏壇の前で、じっと黙っていた光子に、みっちゃん、林も運が悪かったんだよ、飲もうよ!などと一升瓶を差し出そうとする谷山に、さすがに仲間たちが止せよ!と止めようとする。

それでも、谷山は、この前みてえに叱ってくれ!先輩が付いていながら、どうして弟殺したのかって!林は事故死だ。運が悪かったんだ!としつこく絡もうとする。

するとそれを聞いていた仲間たちが、林は事故死なのか?会社に入ってまだ4ヶ月しか経たないものにクレーンなんてやらせやがって!会社に殺されたようなものだ!会社の腰巾着の癖して!と文句を言って来る。

それを聞いた谷山は、林にクレーンが無理だってことは分かってたよ!でもみんな、誰がそれに反対したよ!おろおろしていた林を呷っていただけじゃないか!俺が腰巾着なら、お前たちは、誰にでも身体を売るパンスケみてえなものじゃないか!課長と掛け合って、保証金代わりに5万だけ上乗せしてもらう事にして来たんだ!今のままじゃ、腹立ててるだけでどうしようもないじゃないか!みんな、出て行け!今夜は林ととっくり飲み明かすんだ~!と谷山もヤケ気味に言い返す。

それを黙って聞いていた佐賀は、谷山の気持ちも分かるような気がする。せっかく谷山が取って来てくれたんだ。俺たちも林と飲むべや…と一升瓶を手に取る。

すると、それまで仏壇の方を見つめていただけだった光子が、私も飲む!と言い出し、はるおは、本当に良い友達に囲まれて幸せだった。もっと長生きさせたかった…と、胸に貯めていたものを吐き出すように言う。

ある日、工場では、関と新田の2人が大阪へ転勤を命じると言う辞令が貼り出されていた。

その日、社長の現場見回りが行われる。

しかし、谷山は工場内で煙草など吹かしていた。

そこに、白石社長(志村喬)が沢野課長ら取り巻きに囲まれやって来たので、関と新田が立ちふさがり、課長に御聞きしたいんですけど、大阪営業所に転勤として選ばれたのが私たちだけと言うのはどういう事でしょうか?と尋ねる。

優秀だからさと沢野が答えると、でも大阪営業所には営業だけしかないはずですが…と2人が疑問を投げかけると、わずかに種を蒔く者は、わずかしか刈り取らず、豊かに撒くものは豊かに刈ると言う言葉がある。不平不満を言わず働くように…とだけ社長は答え、何ごともなかったかのように去って行く。

少し離れた所に来た時、白石社長は、中島君、あの連中かね?と組長に聞き、聞かれた中島は、ハイ!と答える。

その後、現場に戻って来た中島が、速水(笠井一彦)と言う工員の仕事の遅さをねちねち文句を言い、始末書を書けとまで言うので、それが聞こえた佐賀たちは、わざと機械のスイッチを停め、機械の爪の部分をわざと壊す。

近くにいた他の旋盤工たちも、同じように機械を停め、みんな爪の部分を壊し始めたので、それに気づいた中島は、お前たち!といきり立つが、1人では何も出来ないので、慌てて事務所の方へ向かおうとする。

それを観た谷山や佐賀たちは、痛快そうに笑い出し、中島を取り囲むと、組長さんよ、俺のような熟練工が10年振りにバイト(工具)飛ばしちまったよ。始末書書かしてくれよよ佐賀が凄んでみせる。

分が悪いと察した中島組長は、慌てて逃げ出して行く。

このバイト事件をきっかけに、全金の会議では、関(津野哲郎)、新田(小原義雄)、委員長大村(木村幌)、書記長田口(横井徹)と言った執行部の中核メンバーたちが九州に飛ばされることになったらしいと言う事もあり、今労働組合を立ち上げないと腰抜けになってしまうと言う気運が高まる。

塚本は、工場の中で戦って、会社に認めさせるべきだと熱弁を奮う。

書記長の田口は、今、機械工391名のうち、全金組合員20名、組合を支持している者120~130人、会社がに与するもの50~70人、残りは中間分子と分析している事を発表する。

一方、鋳造部の半数以上は、女房子供持ちの所帯持ちの中年層が占めており、以前、組合を作りかけ潰された経験を持っているので、機械工に比べ立上がり難いと田口は予想していた。

それを聞いていた塚本は、鋳造部に関しては俺が立上がらせてみせると請け負う。

しかし、今度の配転で、組合を会社側が根こそぎ潰そうとしているのは明らかだったので、委員長の大村以下、執行部のメンバーたちの表情は緊迫していた。

そこへやって来たのは谷山だった。

その場で他の組員たちに、谷山の紹介が始まる。

23歳、静岡出身で、推薦者は大村委員長だと言う。

組合員たちは、谷山の加盟に意義なし!と唱え、その場で加盟を認められ、拍手で迎えられる。

その後も塚本は、関東鉄工の利益を守るために先頭に立って戦うべきだ!とブツが、大村は、大阪に転勤を命じられた関と新田には、大阪に行ってもらう。工場じゃみんな、君たちの処遇に怒っているんだと説得する。

そんな慎重派の大村に、みんな、組合を公然化する事を求めているんだ!と早急な行動を求める意見が多かった。

林のような犠牲者が出た事を重く受け止めていたからだった。

もっと討議を深めた方が良くはないかと田口などは慎重な意見を言うが、結局、その場の熱気に呷られ、組合公然化賛成の決を取ることにする。

ある朝、谷山はバッグを手に、組合仲間といつも通り工場にやって来るが、入口で、守衛が各人の身体検査をしている事に気づくと、臭え、こんな事、滅多にあるもんじゃねえと、身体検査の異常さに気づき、近くの公衆電話を賭ける振りをして時間稼ぎをする。

谷山は組合仲間に、この中に組合決起用のビラが入っているんだと明かす。

その日が組合公然化決行予定日だったのだ。

谷山は、佐賀がやって来たので、頼みがあるんだ。家に忘れもんして来たので、これを俺のロッカーに入れておいて欲しいんだとバッグを預けると、自分は自宅に戻る振りをする。

佐賀は心安くバッグを受け取り、入口にやって来ると、守衛が中に何が入っているんですか?と聞いて来たので、野球の道具だよと答えるが、確かめさせてもらいますと守衛がバッグを開けようとしたので、てめえ、俺を疑いのか!と佐賀が凄みだしたので、守衛はそう言う訳ではありませんと言うしかなく、そのまま通過を黙認する。

その後で、手に持つがなくなった谷山は、何ごともなかったかのように入口から工場内に入る。

谷山のロッカーに置かれたバッグは、その後、無事、書記長の田口の手に渡る。

工場内で、作業中の大村に近づいて来た田口は、大村さん、変ですね?いやに警戒が厳重だ。4時に工場内に全金が集まります。僕がビラをまきます。土手には他の会社の仲間たちが応援に集まってくれますと、その日の予定を仕事をしている振りをしながら小声で伝える。

ところがその直後、田口は沢野課長に呼ばれ、横田に行ってくれないか?納品にクレームがついてねと普段では考えられない用事を言いつけられる。

田口は絶句するが、どうした?行けない用事でもあるのか?と言われると、別に…と答え、行くしかなかった。

その日も、中島組長の見回りは厳重を究めていた。

午後になるが田口は戻って来なかった。

谷山は大村に、土手に他社の組合員たちが集まるまで13分しかないと焦って伝える。

大村は、ビラが入っている田口のロッカーを開けに行くが、しっかり鍵がかかっていたので開けることができない。

鍵を壊そうとガチャガチャやっていた時、ロッカー室にも見回りが来たので、大村は慌てて身を隠す。

もう時間がない!と言うとき、田口が帰って来て鍵を開ける。

仕事を捨てて来たのだと言う。

何とか、ビラを取り出すことができた大村は、やっぺよ、田口!と呼びかけ、その場で2人はがっちり握手する。

しかし、時間は後5分しかなかった。

工場内で立上がった大村は、何やってるんだ!と近寄って来た中島組長にビラを渡す。

谷山も立上がると、電源板の所に向い、電源を落とし機械を止めると、何事かと仕事を止めた周囲の工員たちに、労働組合結成を呼びかけるビラを配布し始める。

工場前の広間には、決起の旗を持った男が1人待ち受けていたが、工場からは誰も出て来ないので不安になる。

さらに、その男を止めようと、守衛が2名駆けつけて来たので、旗を持った男は緊張する。

しかし、次の瞬間、工場内から多数の従業員が雪崩のように押し寄せて来て、守衛が阻止する前に、旗の廻りに集結したので、感極まった旗を持った男はうれし泣きする。

騒ぎを知り駆けつけて来た沢野課長は、谷山を発見すると、貴様!恩を仇で返すつもりか!と睨みつけるが、谷山は相変わらずへらへらとした顔で、あんた、俺を重役にしてくれるかい?してくれるんなら組合抜けても良いんだが、俺はせいぜい組長止まりだ…と言うと、今後お前がどんなことになろうと、俺は関わらんぞ!と沢野が言うので、それが本音だね?これからは新規な付き合いをしましょうや、労働者と資本家としてね…と谷山は答える。

広場に集まった工員たちは、頑張ろう~突き上げる空に~♪一斉に歌を歌い始める。

しかし、大村たちは、塚本が仕切っているはずの鋳造部が来ない事に焦っていた。

どうやら塚本が統一行動を取ると言って鋳造部内を固めてしまったようで、鋳造部のベテラン専三(宇野重吉)などは、俺たちは「赤旗」は性に合わんと、鼻から組合結成には無関心なようだった。

塚本は明らかに裏切り行為をしていた。

一方、機械工のベテラン佐賀たちも、組合の結成には懐疑的だった。

こいつは、うかつには動けないな…、家に帰って考えよう…と、同じベテランの須本(松山照夫)と工場内で相談しあう。

中年でありながら組合に参加する事にした馬場(陶隆司)の家では、それを聞いた妻の松江(北林谷栄)が、組合側は給料をいくら要求する事にしたのかを気にしていた。

それでも、今よりは給料が上がると思い込んだらしく、勉強していた息子の一夫(長谷川雄二)に、父ちゃんも頑張ってるんだから、お前もしっかり勉強するんだよ。高校やってやるから…と励ます。

一方、専三の家では、息子で機械工の哲夫(植田峻)から、父ちゃん、何故組合に入んないんだ?と聞かれるが、俺は社長とは、チップの町工場時代からの知り合いなんだ。親子二代世話になっているんじゃないか。それを、お前みたいな御先棒担ぎみたいなことができるか!向うは資本金8億の大会社なんだ。アカの真似なんかしやがったら家に入れねえぞ!と相手にしない。

その頃、佐賀の家では、須本と、俺たちが助けてやんねえと…、万一組合が潰れたら若い連中が可哀想だ。奴等、潰しがきかねえからな…、大村がやっている事は間違いねえんだ。朝までじっくり考えましょうや…と話し合っていた。

いっその事、こいつで決取ったら?と須本がサイコロを取り出したので、ばかやろう!会社の事を博打で決められるか!と佐賀は怒鳴りつける。

谷山たちは、陽気に歌いながら、ガリ版でチラシを刷っていた。

翌日、広場から組合員たちのシュプレヒコールが聞こえて来る中、大村たち執行部の人間が、工場長や沢野課長等会社側と対面し、要求を伝えていた。

しかし、工場長は、今日の所はこのくらいで、私だけでは回答出来ないので…と返事を留保する態度を見せたので、要求のうち、28項目に関しては工場長の立場で返答できるはずですと執行部は詰めよるが、今日は土屋個人の資格で話を聞いているだけですと工場長は逃げる。

組合側は、組合を認めろ!社長を呼べ!といきり立つが、その時、電話がかかって来たので、沢野が立ち上がり電話を受ける。

ご苦労さんと電話に伝えた沢野は、工場長の方に頷いてみせると、大村君、工場内に2つも組合が出来たとあってはね…と困惑したような顔をしてみせる。

それを聞いた大村たち執行部は、塚本の奴!と気づく。

その頃、鋳造部を中心に集まった「従業員組合」の集会では、塚本が前に立ち、かつては全金に身を置いていたが、それを今反省していると自己批判してみせていた。

その集会には、会社側の中島組長や宇野組長も参加していたので、それに気づいた佐賀たちベテランは、会社お抱えの匂いがぷんぷんする…とぼやくと、立上がって建物からでて行こうとしたので、それに気づいた宇野組長は、分かってるのか?全金は全員首だぞ!と声をかける。

この知らせを社宅の奥さん連中から聞いたらしい松江は、従業員組合の方が給料上がるってよ、全金はアカだって、全員首だって言ってるわよと、社宅の奥さん連中の名前を挙げ、今、首を切られたらどうなるのよ?帰宅して、息子の机で何ごとか熱心に書類を書いていた馬場に問いかけて来る。

そこにやって来た谷山は、会社は組合員40名ばっさりだとよ、俺もだ。それで緊急会議を開こうってことになった。馬場さんも来てくれるか?と玄関先から声をかけたので、馬場は出かけようとするが、行っちゃダメだよ!首になるよ!と松江は必死に止めようとする。

それを聞いた谷山は、奥さん、大丈夫だよ、俺が付いてるよと笑いかける。

しかし、翌日から会社の門は閉ざされる。

谷山がよじ上って中から鍵を開け門を開くと、大村が、機械工場に立てこもるんだ!と仲間たちに呼びかけるが、会社側が用意した暴力団のような連中が角棒を持って工場内に入ろうとする組合員たち目がけてやって来る。

門の所で乱闘が始まったので、大村は戦術を立て直そう!と呼びかける。

谷山等も、誰か警察を呼べ!と呼びかけるが、そうこうしているうちにパトカーと護送車がやって来る。

誰かが手回し良く呼んでたんだなと谷山は喜ぶが、警察が排除しようとしたのは組合員たちの方だった。

門の前に集まった人たち、すぐに解散しなさい!と警察が呼びかけて来たので、大村はスクラムを組め!と声をかける。

そんな組合員たちを警官たちが引き抜いて連行して行くが、その様子を佐賀たちは悲しそうに見つめていた。

工場は古沢組を雇い、警察とグルになって俺たちを工場から追い出そうとしている。

不当な首切り、不当な弾圧と戦おう!ドレイ工場を許すな!

組合執行部は、三つの基本姿勢を田口が発表する。

1つ、第二組合員を敵視しない事

2つ、地域の人たちと協力しあう事

3つ、全金各支部の仲間に声をかけ、全産業の労働者たちに働きかける事

その後、組合員たちは、地元の人たちにビラを配ったり、地道な活動を始めるが、ある農家から、工場近くの土地を提供されたので、そこに事務所を自分たちで建てる事にする。

そこに、大阪に飛ばされていた新田が戻って来る。

関はどうした?と大村が聞くと、寝返ったと悔しそうに新田は言う。

そんな新田を、集まっていた仲間たちが握手して歓迎する。

そんな建設中の事務所に近づいて来たのは佐賀と須本で、谷山たちの前を通るわけにはいかないな…、でも今日は給料日だ…と悩んだ末、2人は遠回りして、工場の塀を乗り越えて中に入る。

塀の上で佐賀は、俺の男も廃ったな…と自嘲する。

その日も、中島組長は、須本たちの仕事ぶりを叱り飛ばしていた。

佐賀は、新人として入って来た明らかに組の人間と分かる若者に、おい、お前、その辺片付けておけよと声をかける。

すると、相手は、何!と睨みつけて来たので、おい、お前、金糸勲章いくつ持ってるんだ?前科の事だよと佐賀が聞くと、前科一犯だ!と相手が胸を張って来たので、ばかやろう!前科一犯くらいででけえツラするんじゃねえ!と怒鳴りつけると、相手はその迫力に飲まれ、アニキ、どうもお見それ致しやした…と低姿勢になる。

その日、給料を取りに事務所に来た佐賀は、封筒の中に入っていた明細を持って沢野課長の前に来ると、これ、間違ってませんかね?と明細書を差し出す。

別に間違っちゃいないようだが…と、明細を呼んだ沢野が答えるので、この赤い字で書いてある所ですが…と佐賀が聞くと、これは遅刻の事だよと沢野が答えたので、ふざけんな!ヤクザを雇う金はあっても、俺たちに払う金はないのか!と佐賀は切れる。

ポリスやヤクザにやられている奴等を黙って観てなきゃいけねえ俺たちの気持ちが分かっているのか!毎朝、連中の顔を見るのが辛いから、遠回りして工場に来ているのを遅刻だと?

俺は全金に行くからな。俺が行くからには、若いの10~15人は連れて行くからな!社長にそう伝えてくれ!と言い残し、佐賀は事務所を後にする。

その頃、鋳造部の方でも、宇野組長が、集まってタバコを吸って休んでいる専三たちに文句を言っていた。

しかし、ベテランが多い職工たちは、そんな言葉に耳も貸さないので、怒った宇野は塚本に文句を言うが、俺は組合長だが、職場の責任者じゃないですよと塚本は言うだけだった。

全金の事務所の方では、裁判所に提出する、弾圧の証拠写真などをまとめていた。

その事務所の前では、佐賀が若い衆に溶接のやり方を叩き込んでいたが、あまりに乱暴な口調なので、側で観ていた須本なども、佐賀さん、もっと民主的に教えろよとなだめていた。

しかし佐賀は、職人ってのは腕持たないと飯の喰いっぱぐれだ。全金が本州鉄工から取って来てくれたバイトするんだろう?できねえとこの会社の恥さらしだと反論する。

事務所内では、井沢弁護士と書記長とで仮処分申請の準備を行っていたが、そうした中、大村は、新田が元気がない事に気づき、お前もアルバイトに行ったらどうだ?小さな兄弟たちに送金してるんだろ?と声をかける。

それを聞いた新田は、大村さんこそ、親父さんが重病だと言うのに…、昨日国から電報が来てたじゃないですか!と大村に問いつめ、自分は出かけて行く。

後に事務所に残った田口は、大村さんがあんまりどっしり構えているので、自分の柔さに耐えられなくなるんだろうなと新田を弁護し、大村さん、たまには弱音を吐いてよと笑いかけ、長期闘争に備えてバイトを始めたら、本部要員までバイトをしたがる…、俺も働きたくなったな…と本音を漏らす。

そこに佐賀が入って来たので、明日、静岡に行ってくれませんか?行けるの、佐賀さんだけなんですよと頼む。

翌日の静岡では、「中央成功反対決起総会」と言う集会に何百人と言う労働者が集まっていた。

司会役の労組員(吉田義夫)が、関東鉄工から来てくれました同志ですと紹介したので、おろおろしながら壇上に上がった佐賀だったが、あまりの人の多さにすっかり上がってしまい、何度も練習していたスピーチ用のメモも見失い、何も言葉が口から出なくなる。

群衆からは、どうした?しっかりしろ!と言った野次が飛ぶので、ますます立ち尽くすだけの佐賀に、原稿ないのか?と、横に立っていた司会役も心配して声をかける。

頭が真っ白になっていた佐賀だったが、勇気を奮い起こし、俺は漁師の生まれで、こんな所に立つのは生まれて始めてなんだ…。勝つ見通しなんてねえ!勝った時が見通しなんだ!と叫ぶ。

それを聞いた聴衆たちは、おめえの言いてえことはみんな分かったぞ!と声をかけ、全員拍手をしてくれる。

それを聞いた佐賀は、感激のあまり泣き出してしまう。

その頃、関東鉄工では、中島組長が、又、トイレに不満を書いた落書きが増えて来た事を発見する。

従業員組合の塚本が、沢野課長等会社側から吊るし上げられることになる。

今度の争議で会社の信用が落ち、中央製鉄との合併も棚上げになった!と責められる一方の塚本は、もっと会社側も、組合の要求を飲んで下さいと頼む。

しかし沢野課長は、それならバカでも出来る!と一喝する。

工場内の労働条件は、新生産強化を理由に、新規採用者は、8時から5時までと、1時から9時までの二交代制にすると発表されるが、さすがにそれを知った鋳造のベテランたちも、これは無理だと判断、さしもの専三も、社長を呼ばないとテコでも動かんぞ!と言い出す。

渡会(わたがい)君、だだをこねてはいかんよ、社長命令に従えないのなら、辞めてもらっても良いんだよと宇野組長は嫌味を言うが、青二才め…、面白くないから帰る!と、組長が離れて行くと専三は悪態をつき、本当に帰ってしまう。

それを観ていた塚本は愉快そうに笑う。

その後、専三は会社に行かなくなったので、妻のいく子(杉村春子)は、あれから三日も経っているのに…と嘆く。

息子の哲夫は、父ちゃんは社長と特別の間柄だと思っているんだろうけど、口うるさい年寄なんてやめて欲しいのが会社の本音だよ。

署名を集めて歩いていた従業員組合の稲垣(小杉勇二)がちょうど立ち寄り、渡会さん、照夫君の言うとおりだよ、会社側に首の口実を作るだけじゃないか。工場に戻って協力してくれと声をかけるが、おめえ、全金か?俺は直に社長に話す。分かってくれるはずだ。俺は全金のやり方が気に喰わないんだと専三は頑固に言う。

従業員組合の事務所に戻って来た稲垣と土井(杉本孝次)が、3分の2以上の署名を集めて来たよと分厚い署名の束を委員長の塚本に渡すが、それをぱらぱらとめくってみた塚本は、これじゃダメだ。組合規約に基づき、署名捺印とある。拇印で言いとはどこにも書いてないと押し戻す。

それを聞いた土井は愕然とし、全金に手伝ってもらおうと言い出すが、俺は従業員のために戦えって大村さんから言われているんだと稲垣は、従業員組合の元で頑張る事を誓う。

その頃、東京12チャンネルでの首切り反対集会が行われていた。

それに、大村と共に参加していた谷山は、東京だけでも現在230を超える争議が行われていると聞き、感心していた。

観客の様子を眺めていた谷山は、その中に、弟の葬儀以来会っていなかった林光子の姿を発見する。

みっちゃんだ!と思わず谷山は立上がって近寄ろうとするが、隣に座っていた大村にたしなめられる。

その夜、中島寮に戻って来た谷山は、部屋の机を借りて書き物をしていた馬場に、今日、大会で女の子に会ったんだ、君の名は」みてえなすれ違いよ。馬場さんよ、この前その子に会ったのは東京駅さ。それっきりどっか行っちまった。今日も、会場で会ったと思ったら消えちゃったよ…、みっちゃん…、死んだ林の姉さんだよと嬉しそうに話すので、惚れたのかい?と馬場は苦笑する。

馬場さん、恋愛結婚だろう?奥さん、今、ストやってるんだって?と谷山は逆に聞く。

全金辞めないと家に入れないって言うんだよ。もう一ヶ月だよと馬場は答える。

その時、角棒を持った連中が寮に乱入して来て、出て行け!と暴れ始めたので、驚いて廊下に飛び出した谷山は、大村が駆けつけて来て、スクラムを組め!と仲間たちに呼びかけるので、やらせてくれ、大村さん!とみんな興奮状態になる。

そこに警官隊がやって来て、何故か谷山たちの方を逮捕して行く。

牢に入れられ、その夜雑魚寝していた新田は、隣で寝ていた谷山に、この闘争いつまで続くと思う?と聞いて来る。

さあな…と谷山も生返事をするが、本当に勝てるんだろうか?と新田が弱音を吐くので、ノイローゼじゃないか?と谷山は案ずる。

この頃、無性に、田舎の弟や妹に会いたいんだ。この前夢を見たんだけど、泣いている顔が見えたんだ。村には誰もいなくなって…、あばら屋に弟と妹がいるんだ…などとぶつぶつ言うので、新田さん、寝ろよ、明日になれば元気になるさと谷山は慰め、牢の外を歩いている見張り役の警官には、うるさくて眠れねえじゃねえか!と怒鳴りつける。

牢を出た後、新田は姿を消してしまう。

全金の組合会議では、執行部の責任問題が追及されていた。

五ヶ月が経っても、会社側はびくともしていないどころか、生産を取り戻していると聞こえて来ていたからだった。

見通しがないんだったら、戦略を見直して欲しい。執行委員は組合員たちの気持ちが分かっているのか!改選して欲しいなどと言う厳しい意見が飛び交う。

俺たちだって、月1万でやっているんだ!と執行部の鈴木が興奮して反論する。

みんな、新しい仕事を探した方が良いんじゃないかと速水が発言すると、聞いていた佐賀が怒り出す。

そんな中、意見を求められた大村は、確かには瀬部が言った通り、見通しは甘かった。しかし、大きな方針は間違ってはいない。支援大会をやる所まで来ていると説明する。

しかし、その日の組合員たちは収まらなかった。

そんな中、突然、馬場が、聞いてくれ!と発言する。

15年前、同じようなことがあった。

会社と徹底的に戦おうと言う意見、これ以上やっても無理なので会社と妥協しようと言う意見、中間くらいの意見があった中、結局、妥協案が通ったんだ。

それ以来、関東鉄工はドレイ工場になったんだ。

妥協しろと言った中心人物は…、この俺だったんだよ!

それから15年、俺は悟ったんだ。

労働者は戦いを止めたら、待っているものはドレイ工場だけだと…と馬場は、自らを責めるように語り終える。

それを聞いた谷山は、みんな、分かるか?馬場さんの気持ちが?

俺は分からなかった…、なんて甘い奴だ、ノータリンじゃないかと思った。

馬場さんは、縁の下の力になろうとしてたんだ!誰よりも戦っていたんだ!ちくしょー!

俺に馬場さんの10分の1の力があれば、新田を落伍させずにすんだんだ!と自らを責め、谷山は泣き出す。

そして、みんな、頑張ろう!三役を信頼して!馬場さんと一緒になってよ!俺はやるぜ!と言い、谷山は無理に笑う。

そんな谷山の肩を、佐賀が優しく叩いてやる。

みんな、やろう!速水!杉本!

いつしか全員の心が一つになり、拍手が起きていた。

後日、谷山は、他社の労組員たちが集まる「闘争支援大会」に出席する。

壇上に座って参加者たちの発言を聞いていた谷山だったが、関東鉄工の支援に関して意見を求められた聴衆の1人が立ち上がり、関鉄を支援するために、俺たち全員、残業拒否をしなくちゃ行けないのか?俺たち自身の支援が欲しいくらいだ。他所様の支援なんてやってる場合じゃないよと言う切実な意見を言う。

それを聞いた議長(桑山正一)は、では後ほど、執行部が案を立てて用意しますと言って、話を打ち切ろうとするが、その時、議長!私、反対です!と言って手を上げた女性がいた。

立上がった女性を観て、壇上の谷山は喜ぶ。

林光子だったからだ。

もっともっと話し合って、みんなで話し合うべきです。関鉄はやっと労働組合を作ったばかりです。みんな、仲間想いの良い人たちです。私の弟も働いていたんです。合理化の犠牲になり、身体、ボロッキレのように砕けて死んだんです。私にとって、関鉄は兄弟です!警察やヤクザと戦っている兄弟なんです!関鉄は、私たちの先頭に立って戦っているんです!私たちはこの砦を敵の手に奪われてはいけない!と光子は熱弁をふるう。

すると、聴衆の間から、意義なし!意義なし!力を合わせて戦おう!と言う声が上がる。

会場の外に出た谷山は、先に帰りかけていた光子に、うれしかったに!と声をかける。

光子も嬉しかったわ、集会参加が可決した事が!と笑顔で答える。

会いに行って良いかな?と谷山が聞くと、私の方から行くわ、みんなと一緒に!と光子は答えて帰って行く。

その頃、従業員組合の方の稲垣と土井は、雨の中にも関わらず、一軒一軒、署名にハンコをもらうため、家々を訪ね回っていた。

署名に協力してくれた仲間たちは、みんな喜んでハンコを押してくれたが、中には既に引っ越していなくなっているものもいた。

そんな中、藤原と言う仲間は、2人で歩き回っている事を知ると、俺たちが廻ってやると言ってくれる。

喜んだ稲垣だったが、そこにやって来た土井が、俺たち、二ヶ月間、機械の故障修理と言う名目で九州に飛ばされることになったと伝える。

ここまで追い込んだのに…と、稲垣は悔しがる。

渡会家では、こんな父ちゃんと同じ屋根の下で住むのは嫌だ!と哲夫が叫び、いく子が、又、親子喧嘩かい?と呆れていた。

今日も、社長さんに会えなかったんだろう?塚本さんだって一度も顔見せた事ないじゃないの、出勤しなさいよ!土井さんや稲垣さんにも悪いわよといく子は専三に諭すように話しかける。

翌朝、出勤途中だった哲夫は、仲間たちに、お前の親父、どえらい事を始めたぞ!と声をかけられたので、何ごとかと工場の入口に来てみると、「臨時組合大会」と書かれた貼紙を前に、専三と数名のベテラン諸公たちが座り込みをしていたので驚く。

父ちゃん、やったな!と哲夫が呼びかけると、ありがとう!俺の考えでやってるんだ。人に呷られてやっているんじゃねえ!と専三は答える。

座り込みをしている専三たちと、その後ろの宣言文を立ち読みしていたベテランたちの中には、専三さん、俺もやるぜ!と声をかけ、座り込みに参加し始めるものたちが出て来る。

そんな中、哲夫に稲垣から預かったと印刷物を渡して来た仲間があったので、哲夫はそれを大村の元に届ける事にする。

それは、稲垣等が九州で作った「火花」と題された機関紙だった。

それを知った佐賀は、どいつもこいつも腰抜けと思ってたがよ…と笑い出す。

馬場が代表して紙面を読み上げると、聞いていた大村や田口は、感激してつい涙ぐんでしまう。

やがて、10月18日、全国の組合が参加する支援大会が開かれることになる。

屋外コンサート会場で準備をしていた谷山たちは、松代と佐賀の妻春(中原早苗)も客席にやって来たので、大村が、良かったな、松江さんと言いながら、2人にはちまきを渡す。

しかし、馬場を許した松江だったが、委員長さん、大丈夫?とまだガラガラの客席を観ながら不安がる。

大村は、5000人くらい来るよと励ます。

いよいよ大会が始まり、舞台中央に出て来た司会役(鈴木瑞穂)が、長木に渡る闘争を支援する、労働者の支援大会を始めますと宣言する。

最前列で緊張し、舞台を観ていた松江は、隣に座っていた春に、お春さん、どのくらい来ている?と聞き、春さん、観てみなよと頼む。

自分は恐くて、客が集まっていないかも知れない背後の客席を振り返るのが恐かったのだ。

しかし、春も嫌がり、自分で観なよと言うので、観てみっか…と呟いた松江が恐る恐る振り返ってみると、会場は満員の盛況だった。

あちこちに大きな旗も翻っていた。

それを観た松江は感激して泣き出したので、それに気づいた春たちも恐る恐る背後を振り返ってみる。

司会者に促され、舞台中央に進み出た大村が、労働者の敵が誰なのかはっきりしました。団結を崩してはいけない事を身を持って知ることができましたと挨拶していると、司会者が途中で割り込んで来て、今、電報が届きましたので披露しますと言い、電報を読み始める。

「支援大会、最後の勝利の日まで共に戦う事を誓う 従業者労働組合」とあった。

私たちの闘争は、まだまだ長く続くでしょう…と大村が挨拶を続ける。

地域の人たち、金属の仲間たち、皆様と戦う決意があります。

受け身の戦いから、攻めに転ずる時が来たのです!大村がそう告げると、満場の拍手が巻き起こる。

頑張れ!関東鉄工!声援の声が飛び交う。

その声に励まされるように、それまで手に握りしめていたはちまきを額に巻く松江。

いつしか、会場中で、頑張ろう!突き上げる空に〜♪と歌が広がり出す。

会場に来ていた光子も一緒に歌っていた。

その隣にやって来た谷山も、光子と二人で笑顔で歌い出す。

後日、工場側に「ドレイ工場撤廃」と書かれた大看板を立上がらせるために、組合員たちが大勢で綱を引く姿があった。

1967年11月の文字


 

 

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