白夜館

 

 

 

幻想館

 

ア・ホーマンス

松田優作自身が監督したマンガ原作の実写化で、一見ヤクザもの…、実は…と言うシュールな展開になっている。

確かこの作品、途中まで他の監督で撮影が進んでいたが、主演の松田優作がその演出に納得できず、監督を降ろして、自らが監督になった…と何かで読んだ記憶がある。

結果、どうなったのかと言えば、この作品は意外なことに傑作になっていると思う。

松田優作は、演出の才能もあったらしい。

説明台詞を極力配し、情景描写と部分的な音楽だけで構成した画面は緊張感を孕み、観ていて隙がない。

説明が少ない分、見終わった後、その説明不足な部分が若干気にならないでもない部分もある。

山崎がいつの時点から、バイクの男を風さんと呼ぶようになったのか?

風さんと千加の関係は?

デート喫茶の女のアパートを突然山崎が訪問した目的は?

阿木燿子演じる、赤いショールの女の正体は?

そもそも、主人公の風さんの正体は?

「ターミネーター」みたいなものなのか?

それにしては、コーヒー(オイル?)を飲んだり、女を抱いたり、入浴したりしており、単なる機械とも思えない。

分からないことだらけである。

しかし、そう言う曖昧な部分を突っ込みたくなるような雰囲気はなく、その独特な世界観は終始惹き付けるものがある。

SFのようにも思えるし、全く違った幻想譚のようにも解釈できる。

大きな展開などは一切無いが、決して退屈しない世界なのだ。

ポール牧扮する、妙に甲高い声で話す親分と言うのも面白く、強烈に印象に残る。

得体の知れない風さんを演じる松田優作も迫力がある。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1986年、東映+キティ・フィルム、狩撫麻礼+たなか亜希夫原作、丸山昇一 脚本、 松田優作脚本+監督作品。

赤く照らされたスモークの中から出現するバイクに乗った男のシルエット

西新宿の高層ビルの夜景

大ガード下を潜り、歌舞伎町が左に見えて来る靖国通りに入る。

タイトル

群衆の中、舎弟を連れて歩く大島組の山崎道夫(石橋凌)

歌舞伎町の裏町

とある地下の店の中では、カーテンの奥の部屋から女の喘ぎ声が漏れていた。

店内に他の客はいないので、バーテンがカーテンを開けて中を覗くと、赤いライトに照らされた部屋の中で女が男の膝に座って腰を動かしていた。

そんな裏町に松葉杖をついた男がやって来る。

カーテンの奥から出て来た女は、テーブルに座ると、コーヒー!と言い、マッチちょうだいと言うので、いくつ?とバーテンが聞くと、2つと言うので、バーテンは店のマッチ箱に素早くヤクを入れてテーブルに持って行ってやる。

金を払ってそのマッチ箱を受け取った女は、そのまま階段を登って帰って行く。

その時、カーテンの奥から男が出て来たので、アニキ、閉めますか?とバーテンは聞き、おおと兄貴は答える。

その直後、アニキ!巴会だ!とバーテンが叫ぶと、アニキは奥の部屋からバッグを抱えて出て来ると姿を消す。

やがて階段を降りて来たのは松葉杖をついた男だった。

松葉杖の男は、シャブ売って、どういうことだよ!と急に喚くと、松葉杖を振り回し暴れ出す。

杖が照明に当たり、ライトの灯が部屋の中の陰影を変化させる。

その時、階段を降りて来たサングラス姿の山崎

山崎、久しぶりだな~、藤井呼べや!人のシマの掟破りやがって!と松葉杖の男が言うと、破ったのはそちらさんの方が先じゃないですか?と静かに反論する山崎。

山崎…、お前、良い顔になったなとからかうと、池広さん、オレも命張ってますから…と答える。

笑いながら階段を登って返りかけた松葉杖の池広豊(片桐竜次)は、山崎、お前も命張ってるんだったら、撃ちも関西と組んだんだ。おかしな奴が来るから、張った命、油断するなよ…と言い残して行く。

一人店の中に残った山崎は、バーテンを殴りつけると、シャブは商売だ!商売で女とやってんじゃねえぞ!と怒鳴りつける。

店の外に出た山崎は煙草を吸うが、そんな山崎の前を見知らぬバイクの男が通り過ぎて行く。

雨が降る中、高架下ではホームレスたちが集まってたき火をしていた。

そんなホームレスの中の2人が、近くに停まったバイクに気づき、その方へ近づいて行く。

彼らは、バイクの側にいた男(松田優作)に、どっから来た?名前は?と聞いて来るが、男はない…とだけ答える。

バイクには、沖縄ナンバーのプレートが付いていることに気づくが、お前、仲間に入りたいんだろ?ここは俺たちのテリトリーだ!とホームレスが凄んでも、全く男は動じなかった。

男が睨んで来たので、一瞬ビビッたホームレスたちは、ジュクにはいくらでも助っ人がいるんだ!などと脅してみるが、悪いな…、本当に覚えてないんだと男は言うので、記憶喪失か?とホームレスの1人が聞くと、医者はそう言ってた…と男は答える。

翌朝、残飯あさりなどホームレスが始めた中、一台の車がやって来て、運転していた山崎はバイクの男の方を観る。

関西の筋もんか?関西の筋もんも芝居巧いからな…、そろそろ戦争になるな…と呟いた山崎は、助手席に乗っていた井沢がそわそわしているのに気づき、まさかお前、ふける準備してるんじゃねえだろうな?と睨みつける。

その日、銭湯にやって来たホームレス2人は、バイクの男が先に黙って入っていたので、その存在を気にしながら隣の浴槽に入る。

その間、脱衣所の男の衣服を調べる井沢。

他の舎弟も、バイクに男の身元を知る手掛かりがないかと探っていたが、水筒に入っていたのはただのオイルだった。

ホームレスたちは、湯船に浸かったままの男が1時間も動かないのでしびれを切らし、自分たち以外に客がいないこともあり、面白い話があるんだ。金になるんだ…と1人が側に近づいて話しかける。

押し込みなんだが、3人で山分けするんだ。そこは警報装置が付いてないんだ。だが、ガードマンが時々来るんで、お前は外で見張りをして、そいつが来たら騒げば良いと教える。

その夜、ホームレスがとある量販店に忍び込んだ後、警備会社のガードマン2人が車でやって来る。

建物に入りかけたガードマンたちは誰かに頭を押され、扉にぶつかるとそのまま気を失ってしまう。

その直後、店内に警報装置が鳴り響いたので、非常ベル付いてなかったんじゃないのか?などとうろたえながらホームレス2人は入口の扉を開けて逃げようとするが、そこにガードマン2人が倒れていたので、あいつ、やったな!と驚きながらも、外に出ると、警官が駆けつけて来たので、慌てて反対方向に逃げ去る。

その後、1人で歩いていたバイクの男は、大島組のチンピラ2人に前後を挟まれる。

1人が男を殴りつけるが、男は全く動じず、そのまま歩き続けるので、待てよ、聞きてえことがあるんだ!お前の身体に聞いて良いんだな?口がねえのかよ!などと因縁をつけ、もう1人も殴り始めるが、男は表情一つ変えず、そのまま歩き去ってしまう。

追いかけようとしたチンピラ2人に、おい、もう良い、奴はデカでも筋もんでもなさそうだ…、奴には常識なんて関係ないのかもな…と言いながら近づいて来たのは山崎だった。

バイクの男は、花束を持って街娼らしき女と親し気に話していた花屋の娘杉本千加(手塚理美)を見かけ、足を止める。

その後、バイクの所へやって来た山崎は、たき火の横で寝袋に入って横になっていた男に近づく。

寝ていると思い、帰りかけた山崎だったが、まだ何か?と男が声をかけて来たので、又男の方に近づき、寒くないのか?そんな格好で…と聞く。

さっき、うちの若いもんが変なことしてすまなかった…と詫びた山崎は、サングラスを外し、大島組の山崎道夫って言うんだと名乗る。

しかし、バイクの男が何も動じなかったので、相手がヤクザもんでも構わないんだな、あんた…と呆れると、関係ないです…とだけ男は答える。

筋もんでも何でもなさそうだし…、困ったな…と山崎が戸惑うと、人間ですよと男が言うので、いつか一杯やろうなと言い残し、山崎は立ち去ろうとするが、その時、山崎さん!と呼び止めた男は、仕事何かあったら世話してくれませんか?と言って来る。

仕事?と聞き返すと、ハイと男は言うので、どんな?と聞くと、何もしなくていられたら一番良いんですが…と男は言う。

たき火の所にしゃがみ込んだ山崎は、あんたと関わるのは止した方が良さそうだな…と言いながらも、何とかするよと答え立上がる。

バイクの男は、どうも…とだけ言うと、そのまま寝袋の中で横になったので、山崎は呆れてしまう。

後日、山崎の口利きで、風さんと呼ばれるようになったそのバイクの男は、デート喫茶「ヴェルサイユ」の雑用係に雇われる。

ビール瓶の箱を運んでいた風さんは、店の中を通ろうとしてホステスから叱られたので、通用口の方へ向かう。

すると、そこで客(石橋蓮司)が嫌がるホステスのルージュ(平沢智子)に無理矢理抱きついていた。

店員が止めに入ると、今時本番させねえ店があるか!と客は逆上する。

そんな客の前に立ちふさがったのが風さんだった。

客は、どけっ!と怒鳴りながら、持っていたビール瓶で風さんの身体を殴りつけるが、風さんがびくともしないのであっけにとられる。

気勢をそがれたその客は、そのまま店員に追い返されてしまう。

ルージュは風さんに礼を言う。

その夜、バイクの側でカップのお湯か何かを飲む風さん。

先ほど客から襲われていたルージュが帰宅していると、背後からバイクに乗った風さんが近づいて来る。

バイクが止まり、風さんだと分かったルージュは、ごめん、悪気なかったのと謝るが、乗るか?とだけ言うと、風さんは自分がかぶっていたメットを差し出す。

ルージュはそのメットをかぶり、サングラスだけかけた風さんのバイクの後ろに乗って、マンションまで帰ってくる。

ルージュの部屋は畳敷きだったが、風さんがブーツのまま上がって来たので、ルージュは靴!と注意する。

風さんはしゃがみ込みブーツを脱ぐ。

ルージュは、酒を注いで飲むと、私さぁ、大学なんて行ってないのよ。店の子、みんな、現役パリパリでしょう?劣等感と言うか…、成り行きでこうなったの…と勝手にしゃべり出すと、記憶戻ると良いねと言い出したので、どうして?と風さんが聞くと、みんな言ってるよ、だって、記憶が戻らないと辛いでしょう?あれ…、なんて言うの…?などと答えたルージュは、飲んで!と酒を差し出す。

すると、風さんは、ルージュの手を握って引き寄せる。

風さんは、広い部屋の中にストーブ1つしかしかなく、部屋の中でもコートを脱がないルージュの肩を擦ってやる。

ありがとう…とルージュは礼を言い、記憶が戻らないと困るんじゃない?色々…、女の子も抱いたりできないでしょう?方法が分からないから…とからかうと、風さんはルージュを抱きしめキスをする。

しかし、ルージュは、ダメよ!店長にきつく言われているんだから!と、それ以上の行為を拒絶しようとする。

しかし、風さんは、コートの下のルージュの身体をさわり始める。

その頃、山崎は、売上が伸びないデート喫茶の店長たちに、戦争を控えていくらでも金がいる時なんだ。お前たちの指飛ばしてもどうしようもならんな!などと発破をかけていた。

その後、車で移動する山崎は、どうだ、あいつ?と同乗していた店長に聞く。

何か、得体の知れない奴ですね…と、店長は不気味がっていたが、使えるか?と山崎が聞くと、急場しのぎには何とか…、用心棒代わりにもなりますし…と店長は答える。

やがて、車を停めさせた山崎は、この近くに店の女が住んでいたな?と聞くと、ええ、ルージュって奴ですと言うので、待ってろと言い残し、山崎はルージュの部屋に行ってみることにする。

ルージュの部屋をノックしても返事がないし、ドアを開けると、室内の電気は消えており、ストーブの灯だけが見えたので、おい!いないのか?と声をかけながら上がり込むと、壁の所に背中をもたれ座ったフーさんに抱かれたルージュがいたので、何やってんだ?と聞く。

抱いてるんですと無表情に風さんが言うので、やったのか?と聞くと、はいとだけフーさんは答える。

その後、ルージュは1人で寝てしまい、山崎と風さんは黙って向かい合って座っていた。

始めてあんたに会った時、風が吹いた…、臭かったけど…、あんた、記憶を取り戻そうとは思わねえんだろうな?そんな気持ちも良いもんか?と山崎が話しかけると、都合が良いものですから…と風さんは答える。

そこに、車の中で待ちくたびれた店長がやって来て、アニキ、そろそろ代貸しが…と伝えに来るが、そこに風さんがいることに気づくと、お前!何やってるんだ?まさか店の女を大胆じゃないだろうな!と叱りつけるが、山崎は、下へ行ってろと命じる。

不思議なんだよ、あんた…、風さん…

山崎は、何ごとにも動じない風さんにすっかり魅了されていた。

同じでしょう?山崎さん?と風さんが答えると、じゃあな…と言い残し、山崎は部屋を後にする。

大島組の組長大島栄一(工藤栄一)は、代貸しの藤井達巳(ポール牧)や他の幹部らと、とあるビルから出て来て歩いている所を、突如前に立ちはだかった3人の鉄砲玉に撃たれてしまう。

ただちに各パトカーに事件が伝えられる中、3人の鉄砲玉は逃亡してしまう。

そんな中、占いなんて止めちゃったら良いんじゃない?と街角の手相見に忠告していた赤木加奈子(阿木燿子)は、風さんの姿を目にする。

バイクの所でコーヒーを飲んでいた風さんは、いつの間にか目の前に立っていた、赤いショールを肩にかけた加奈子の姿を観て驚く。

いつしか、風さんは、大きな木の下に座った加奈子の膝枕で、赤子のように身体をまるめて眠っていた。

気がつくと、加奈子の姿は消えており、風さんは、赤子のように身をまるめた格好のまま、木の根本で眠り続けていた。

大島が入院した病室から出て来た藤井は、山崎を道夫!と呼びつけると、ハマの方でシャブは全部引き取ってくれるそうだ。

お前行ってくれ。1人連れて行け。お前だけで大丈夫だろう。組長は後2、3日が山だ…と言いながら便所に入ると、小便をしながら、組長を狙ったのは旭会の会長だ。

俺も一緒にいたんだから、撃とうと思えばあの時俺も撃てたはずだ。

これで手打ちが出来ると藤井が言うので、こちは組長取られているんですよ!と山崎は抗議するが、向うの会長は俺と組みたがっているんだ。

営利計算の上さ。お前が出て来たらコンピューターが管理しているよ。そしたらお前は大幹部だ。任しとけと言いながら藤井が便所を出て行ったので、側で話を聞き終えた山崎は振り返って睨みつける。

山崎は花屋の杉本千加と同棲しており、その日も千加の作った朝食を食べていたが、様子が変なので、どうしたの?と千加が聞くと、美味しい…、こんなに美味しいもんだとは思わなかったよ…と言いながら、じっとごはんを噛み締める。

いつも2人で食べていたのにな…、今まで気づかなかったよ…、本当に美味しい…としみじみ言いながら飯を噛み締める。

千加はありがとうと答える。

その日、デート喫茶「ヴェルサイユ」に出勤するホステスたち

ホームレス2人から風さんのことを聞く2人組は刑事だった。

デート喫茶「ヴェルサイユ」で働く風さんの様子を物陰から写真に収めていたのは、刑事の福岡徹(小林稔侍)だった。

しかし、警察に戻って来た刑事は、おかしいな?手袋なんかしてないはずなのに…と言うので、福岡がどうした?と聞くと、指紋が出ないんだと言う。

そこに、丸暴関係の資料を持って来た刑事が福岡に手渡す。

福岡たちは、風さんの正体を探ろうとしていた。

旭会が雇った鉄砲玉ですかね?と部下が聞くので、実際、良い芝居してたよ…、大島組の山崎の店に堂々と入り込むなんて、大したタマだと福岡も感心する。

山崎は、麻薬の取引のため、1人で車に乗り込むが、その時、助手席に風さんが乗っていることに気づく。

何してるんです?と驚いて聞くと、俺も連れてってください、あんたと一緒に…と言うので、今日はダメなんだ、ちょっと野暮用があって…と山崎が断ろうとすると、だから連れてってくださいと、風さんは前を観たまま無表情に頼む。

冗談やってる暇ねえんだ!降りてくれと山崎は苛つくが、本気ですと風さんは言う。

怒るぜ!本当に…と山崎は詰めよるが、行きましょうと風さんは言うだけ。

素人が出る幕じゃないんだよ!と山崎は言うが、あんたの手伝いがしたいんだ。それだけです…と風さんは頑として動こうとしないので、根負けした形の山崎は、運転席に乗り込み車を走らせる。

その直後から、山崎の車を尾行して来る車があった。

福岡刑事たちの車だった。

それに気づいた山崎は、何度も振り切ろうとするが、相手も執拗に追って来る。

苛ついた山崎が一旦車を停めると、尾行者も後ろで停まり、中から、福岡ともう1人の刑事が降りて来て、どこに行くんだ?ちゃんと答えろ!と聞いて来たので、ドライブだよ、ただの…と山崎はふて腐れたように答えるが、こんな夜更けに男二人でか?今日はとことん付き合うぜなどと刑事たちがしつこいので、勝手にしろ!と吐き出した山崎は車を出発させる。

福岡たちも、慌てて車に戻ると尾行を再会するが、その直後、車のスピードが降り始め、ギアが折れると言うハプニングが起こる。

尾行車が停まったことに気づいた山崎は、諦めたか…と安堵するが、助手席のフーさんは無言で前を観ているだけ。

刑事は無線で、パトカー1台を至急寄越してくれ!四課の福岡だ!と連絡していた。

山崎は、風さん、あんた、死のうが何しようが恐くないんだな?未練もしがらみもないんだな?俺も命なんかなくしても構わねえ…と話しかけながらも、花を持っている千加の事を思い出していた。

風さんにそのことを気づかれるのを恥じたのか、山崎はサングラスをする。

取引現場に着いた山崎は、取引相手と軽く挨拶を交わし、風さんのことは舎弟と紹介し、ブツを渡すとトランクに入った金を受け取る。

最近、東京湾の水上バスに乗ってますか?今度気甲斐があったら乗りましょうやと相手は挨拶し、取引は無事終わる。

車に乗り込み帰りかけた山崎だったが、暴走族に囲まれてしまう。

ねえ、おじさんたち、何やってんの?この辺で良く麻薬の取引やってんだよね?などと山崎の車を取り囲み絡んで来たので、兄ちゃんたち、仲良くやろうや、少しならカンパしても良いぜと風さんは相手をする。

俺たちは高校生じゃないんだぜ!と切れた暴走族が、車を叩き始めたので、仕方なく助手席から降りた風さんは、暴走族の連中の中に立つ。

相手は殴って来るが、風さんは何も感じない様子。

族の1人が短刀を出すが、風さんはその刃の部分を握りしめへし折ってしまったので、怯えた暴走族の連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。

大丈夫か?と山崎は風さんに聞き、一部始終を観ていた取引相手も、風さんに感心したようだった。

その後、藤井の元にトランクを持って来た山崎だったが、道夫、タイミングが来るまで、勝手に弾けるんじゃねえぞと藤井は言い聞かす。

ビルの外に出た山崎は、帰りかけていた風さんを呼び止め、一緒に東京湾の遊覧バスに乗る。

風さん、本当にありがとう…、あんたにこんなことさせちまって…と礼を言う山崎。

そんな山崎と風さんを待ち受けていた福岡たちは、2人が船から降りた所を捕まえる。

参考人として警察署の取調室に連れて来られた山崎だったが、どこで取引した?シャブだ!ブツ、どこに隠した?と刑事から突っ込んだ質問をされたので、ただの参考人にしては突っ込みますね?と皮肉を言う。

別室で風さんの相手をしたのは福岡の方で、枯れ葉が取り巻いた窓のカーテンを開けると、悪いようにはしないから、洗いざらい話してくれないか?いくら記憶喪失と言っても、昨日今日のことは覚えているだろう?と優しく話しかける。

あいつがほんまもんの記憶喪失なら素人だろ?だったらすぐ吐いちまうぜ。あいつの本当の正体がバレたら組には戻れねえ…と、山崎を担当していた刑事が言うと、本当の正体って何です?と山崎は聞く。

すると刑事は、若いな、お前も…と意味ありげに笑う。

しかし、風さんは全く何も口を開かなかった。

幸か不幸かあいつはただの記憶喪失だと刑事が言うので、当たり前だと山崎は答えるが、ぽつぽつしゃべり始めているらしいぞ…、お前も吐いちまったらどうだ?逮捕されて証拠が出て来た¥るより、検察に行って全然違うぞ…などと刑事は揺さぶりをかけて来る。

あの女、なかなか良い女じゃないか…、何年も勤めさせてなかったよな…などとまで刑事が言うので、てめえの知ったことじゃないだろ!と山崎は切れる。

すると、刑事も、ふざけるな!この野郎!と逆ギレする。

その間も、別室にいた風さんの態度は全く変わらなかった。

山崎の取調室にやって来た福岡は、もう良い、帰れ!と言いながら、スタンドの電気を消す。

廊下に出た山崎は、そこで待っていた風さんを見つけにこりと笑う。

その後、舎弟の車で。風さんと一緒に代貸しの所へ向かっていた山崎は、途中で、公園に廻れと命じると、でも、代貸しが2人とも連れて来いって…とシブル運転手を叱り、言うことを聞かせる。

風さん、もうこの町にいない方が良い。風さん、条件の良い所、他にありますか?迷惑かけました…と山崎は言い、公園の所で風さんを降ろす。

それじゃあ、元気で…と言い、風さんと握手する山崎。

背後から、良いんですか?アニキ…と運転手が言うので、うるせえ!あの人は俺たちとは別の世界の人なんだと山崎は答える。

代貸し、怒りますよと運転手が困惑するので、うるせえ、もう組に帰るつもりはねえ、タマ取られてるのに、このままタマ取り返さないヤクザがいるか!と山崎は言う。

そのことを、藤井に報告しに行った運転手は、肝心要な時に弾けやがって…と、鏡に向かってヒゲを剃っていた藤井は嘆く。

一緒にいた奴は?と聞いた藤井は、アニキが逃がしまいましたと言う運転手に向き直ると、おめえはそれを黙ってみてたのか?と言いながら、持っていたカミソリで運転手の口の端を斬り裂いてしまう。

その後、松葉杖をついた池広が藤井の部屋にやって来て、いきなり銃をぶっ放したので、周囲にいた子分たちが取り押さえ、銃を奪い取る。

倒れたお陰か、弾に当たらなかった藤井は、子分からその銃を受け取ると、その場で池広を射殺する。

バーで飲んでいた山崎は、苛立ったように洋酒の瓶を叩き割る。

その後、1人町中で佇む山崎。

一方、バイクで走っていた風さんは、とある高架下で佇んでいた赤木加奈子の姿を見かけ、バイクを停める。

思い出したでしょう?サイゴンの北方10キロ…

あなたは傷を負った戦士で、野戦病院であなたの体温が0度になった時、あなたは生まれ変わったの…(と加奈子の声)

あなたは?(と問う風さんの声)

私も同じ…、あなたの心の隅に生きている命のエネルギー

懐かしいでしょう?(と高架下で一人佇む加奈子の声)

今夜から俺のシマだ!と喚いた藤井は、道夫をばらせ!と子分に命じる。

夜、山崎を見つけた2人の子分が、代貸しが呼んでいるんですよと声をかけるが、山崎が言うことを聞かないので、1人がナイフを取り出す。

しかし、山崎があっさり奪い取る、もう1人が銃を取り出すが、意気地がなくて山崎を撃てないので、その銃を奪い取った山崎は空に向かって威嚇射撃をする。

2人の子分はビビって逃げ出す。

花屋を閉めた杉本千加は、店の前の公衆電話から自宅に電話するが、山崎は帰ってないので誰も出なかった。

しかし、千加の部屋には、弾を銃に込めている侵入者がしゃがんでおり、その電話の呼び出し音を黙って聞いていた。

その頃、バーで、口を切られた運転手が何ごとか、他の子分に報告している。

部屋に戻った千加はキッチンの床に押し倒され、その上に藤井が覆いかぶさっていた。

千加は犯されたようで、死んだように動かなかった。

あんたも半端な男を持ったものだ。極道は利口過ぎてもいけないし、バカでもいけない…、でも中途半端が一番いけない…などと立上がりながら藤井が言う。

その時、部屋の電話が鳴り出したので、道夫からだったら、千加に代わると言えと藤井は子分に伝えるが、井沢からですと、電話に出た子分が言う。

あの男が現れましたと言うので、店に連れて来い!と藤井は電話に怒鳴りつける。

藤井はその後、店に来た風さんと中華料理を前にして、何で道夫があんたに入れ込んだか分かるよ。あんたは縛られてない。でも許されることではない。放っとくとシマが崩れる…と藤井は喰いながら話すと、おい、ハジキ持って来いと子分に命じる。

そして、子分から受け取った銃を何も食べない風さんのテーブルの上に置き、あんた、責任取って!良い度胸だってね?黒井組の若いのから聞いたよ。

道夫をバラしたら、気の済むまで家のシマで遊んで良いから…と藤井は言うが、風さんは銃を手に取ると、瞬時に壊してしまう。

そして、あっけにとられて立上がった藤井の頬を片手で掴むと、力を込めながら、田真崎さんに手を出したら、お前の身体を粉々に砕いてやると風さんは言う。

夜のビル群の情景が、クルクル揺りかごに乗ったように回転する。

千加が花屋の入口から出て来ると、階段の下に風さんが立っていた。

道夫さんと最初に会った時、今と同じように外から私を見ていたの…

あの人、仕事を終えたら、私なんか関係なくなるんでしょうね…、風さんみたいになりたいんですものね…と寂し気に千加が言うと、戻って来ますよ、あなたの所に…、あなたと2人で風になれば良いんですから…、必ず戻って来ます!と風さんは答える。

お店にいます…、ずっと…と千加は答える。

その後、旭会の永井会長が銃撃を受け、犯人は、大島組の山崎道夫25才と判明した。警察は、大島組組長を撃たれた報復と観ており、旭会と大島組の各事務所を警戒し、全面抗争を阻止する体制を取った…とのニュースが流れる。(夜の高層ビル群の情景描写を背景に)

花屋の店の前に一台の車が停まる。

運転していたのは山崎だった。

山崎は車内から、店のガラス越しに花屋で働いている千加の姿をじっと見つめていた。

千加は何も知らず、花の鉢を持って入口から外に出て来ると、店の前に置く。

その姿を確認した道夫は車を動かす。

そんな道夫の車は、一台の清掃車とすれ違う。

その時、道夫は、道端に停めたバイクの横で立っていた風さんの姿を確認、車を停めると降りる。

風さん!と呼びかけながら手をあげた山崎だったが、その土手っ腹に銃弾が当たる。

清掃員のユニフォームを来た刺客3人が山崎に走り寄り、さらに銃弾を浴びせる。

山崎はその場に倒れ、刺客3人はその場を逃げ出す。

花屋にいた千加も異変を感じ、倒れている山崎の方を観る。

血まみれになって倒れた山崎に駆け寄って来た風さんは、自分が着ていたジャンパーを脱ぎ、山崎の身体にかけてやる。

そして、自らはサングラスをかけると走り始める。

無人の町の中を走り回る主観

3人の刺客は一緒に逃げていたが、追手に気づくと3手に別れて逃げる。

その後、木の上に引っかかった血まみれの刺客の死体

さらに、もう1人も血まみれになって壁に背中をもたれかかるようにしゃがんで死んでいた。

最後まで逃げていた刺客は、追って来た風さんに気づいたのか、何だ?てめえ!と驚くと、側のトンネルを抜けてさらに逃げようとする。

トンネルの中の映像が回転する。

夜の路地裏を逃げ回っているイメージ

壁に行く手を阻まれた刺客は、振り返って近づいて来る風さんに向かって発砲する。

風さんの腹の一部が弾けるが、その中に見えたのは、内臓ではなく機械だった。

風さんは無言で刺客に向かって手を伸ばす。

山崎が倒れた現場では、駆けつけた警官たちが現場検証を行っていた。

風さんがかけていたジャンパーを握りしめ、それを近くで見守る千加。

やがて千加は、背後に風さんが戻って来ていることに気づく。

風さん!

驚いて駆け寄った千加は、いつの間にか黒いコート姿になっていた風さんにジャンパーを返すが、風さんはそれを受け取って、千加に着せてやる。

その優しさに感激したのか、千加は風さんにしがみつき泣き出す。

そんな中、シーツをかぶせた死体を確認しようとした警官が何かに気づいたように、救急隊員に告げる。

千加さん…、山崎さんはまだ死んでませんよ…と、胸に顔を埋めていた千加に語りかける。

驚いた千加が振り向くと、山崎の身体を救急車内に運び込んでいる所だった。

風さんは千加に頷き、千加は救急車の方に走って行き、一緒に乗り込む。

夜の都会のビル群の情景

赤く照らされたスモークの中に消えて行くバイクに乗った男のシルエット


 

 

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