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美しき別れの歌

上映時間47分の中編で、キャストロールで笹森礼子さんが(新人)と出て来る作品。

母親を早く亡くし、父と二人暮らしで、自分なりに人生プランを立てていた聡明そうな娘が、人の顔を立ててやるつもりで参加した見合いが元で、大きく考え方が揺らぐことになる顛末を描いたホームドラマになっている。

娘を想う父親と、父を想う娘の気持ちの小さなすれ違いなどが巧妙に描かれていて、地味な展開ながら、後味も悪くない爽やかな作品になっている。

作られた時代背景も関係していると思うのだが、女性が自分なりに人生設計を立て、その夢に向かって邁進する…と言う考え方を、結果的に否定するような展開になっているのが興味深い。

これ、男性が主役なら、恋に迷って、仕事や長年の夢を捨てるような展開にはならないような気がするからだ。

女性はあくまでも、家庭の収まるのが一番と言っているように見えなくもなく、今の感覚からすると気にならないではない。

それは、男の目線から見ると都合の良いエンディングなのかも知れないが、現実的に女性から見るとどうなのだろう?と思わなくもない。

劇中で、二谷英明演ずる山路が、アメリカに行く夢を語るヒロインに、自分の家を継いで農業をやっている妹の話を持ち出す所なども、何となく、ヒロインの進歩的な考え方をやんわり諭しているように見えなくもない。

当時としては、そう言う考え方の方が主流だったのかも知れないが、おそらく、今、こういう表現をしてしまうと、色々女性から苦情が出るのではないかと想像する。

でも、あくまでもドラマとして観ている限り、ハッピーエンド風なので問題はない。

揺れ動く、若い女性の微妙な心理状態を、笹森さんが良く演じている。

宇野重吉の父親役も絶品。

その宇野さんが、劇中で胃腸薬「ワカ末」をわざとらしく出して見せるシーンがあるが、他のシーンでも「ワカ末」の看板がはっきり写ったりしており、当時の日活でお馴染みのタイアップ宣伝だったのだろう。

▼▼▼▼▼ストーリーを最後まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、日活、土岐雄三原作、高橋二三脚色、森永健次郎監督作品。

白い木彫レリーフ風会社クレジットに続きタイトルと主題歌

兄弟を覗いてちょっと髪の毛を直した江口敦子(笹森礼子)は、庭にいた父親の江口洋助(宇野重吉)に、遅くなっちゃうわよ!はい!胃の薬とハンカチ!その背広の時は茶色の靴を履いて行ってよね!と口やかましく声をかけながら、一緒に家を出る。

見送る女中が、いつまでもお嬢さんに頼っておられると、お嬢さんがお片付きになった後、お困りですよと洋助に言葉をかける。

出社する父と娘は仲良く一緒のバス停に向う。

タイトル

「ウィルビー・カンパニー東京支社」で英文タイプをしていた敦子は、突然叔母の松尾トキ(広岡三栄子)が、あっちゃん、話があるんだけどねなどと言いながら、突然訪ねて来たので、驚いて応接室に案内しながらも、困るわ、うちの会社は個人的な用事で時間を取るのは禁止されているのよと注意する。

あなたも身の振り方を考えないとね。とても良い話があるんだけど、あんた、お見合いしない?とトキは、気にする風もなく用件を言う。

私がそんな話に乗ると思う?認識不足よと、敦子は呆れてように答える。

同じ頃、父親の洋助は、会計主任(山田禅二)から増永次長が来週退職すると聞き、その退職金の書類にハンコを押しながら、増永君は何年勤めたのかね?と聞いていた。

16の時に給仕として働き始めて39年だそうですと経理課の部下が教えると、39年で退職金が126万円か…と感慨深気に呟いた洋助は、僕も来年定年なんだ、暇な時に僕の退職金も計算しておいてくれよと頼むが、約140万ですと会計主任から即答される。

35年勤めて140万と胃腸病か…と、敦子に持たされた「ワカ末」の瓶を取り出した洋助は、既に計算されていた頃を知った驚きと共にその金額に愕然とする。

こうなると重役が羨ましいね。重役に定年はないから…と洋助が愚痴ると、支店長は大丈夫でしょう。総務部長が近々辞めるので、その後釜は支店長が一番有力だともっぱらの噂ですよと会計主任はお世辞を言う。

だったら、どうして僕の退職金計算してるんだね?と会計主任に嫌味を言いながらも、洋助は悪い気持ちではなかった。

翌日曜日、洋助を訪ねて来たトキは、もう昼近くだと言うのに二日酔いで寝ていた兄を呆れながら起こす。

夕べは増永の送別会だったんだ…と言い訳をしながら起き上がった洋助は、もうアッちゃんから聞いた?と聞かれ、聞く訳ない。夕べ俺が帰って来たのは2時過ぎだもの…と答えたので、見合いの話を聞かせると、あれがそんな話聞くはずがない。認識不足も甚だしい!と洋助も敦子と同じように言う。

それでもトキは、相手は面倒な係累もなく、前途有望なサラリーマンなのよと教えると、サラリーマン?サラリーマンは俺だけでたくさんだ!そんな男にやるくらいなら、一生俺の側にいた方が良いなどと洋助は言う。

それでも、相手との見合いの準備を整えて来ていたトキは、今日行ってくれないと、私の顔が潰れるわと嘆くと、いつの間にか廊下に来ていた敦子が、御見合いしても良いわと言い出す。

トキに連れられ、カフェテラスで待っていた相手の青年山路良一(二谷英明)に会いに行くと、山路は、今度、仙台支店から大阪支店に移動になったため、一週間の休暇をもらったのだと言う。

トキと山路の付き添いの中年女性はすぐに気を利かせて席を立つ。

その頃、洋助の方は、馴染みの碁会所で、馴染みの青年と碁を打っていたが、待った!をかけ、勝負の世界に待ったはありませんと軽くいなされていた。

それでも、相手の青年は、洋助の不調振りに気づいており、訳を聞いて来るが、ちょっとしたことでね…と洋助は言葉を濁すだけだった。

今日は叔母の顔を立てるために来たんですけど、実は私、28になるまでどうしても結婚しないって決めてるんです!と敦子は山路に打ち明けていた。

私、高1の時にプランを立てたんです。

高校生の間に英文タイプや英語を勉強し、高校を卒業したら、アメリカ人がやっている会社に入り、28までにアメリカに行って、向うで働く日本人を見つけ結婚するつもりですと敦子が説明すると、何故向うの日本人なんですか?と山路は聞く。

生活能力があって、女性に対し理解があるでしょう?それに、医学的に言っても、30前に出産した方が安全なんですってと敦子は答える。

それを聞いていた山路は、私は田舎の出身です、とてもあなたの相手ではなさそうですね…と苦笑し、これで、私たち、笑顔でお別れが出来ますわねと敦子は言い、山路も納得したのか、立上がって握手を求めて来る。

その後、近くの公園まで一緒に付いてきた山路は、大事な一日を無駄にしてごめんなさいと詫び、いつまで東京に?と聞く敦子に、僕、明日発ちます。僕にはあなたの他に候補者なんて1人もいませんから…と言うので、お詫びに誰かをご紹介しましょうか?女性に対するお好みは?と、さすがに悪いと思った敦子は答える。

女性のことなんか全く…、魚のことは分かるんですがね…、釣りが大好きでしてね…と山路が言うので、そのまま2人は、近くの「石神井園」と言う釣り堀へ行って、釣りをやることにする。

ところが、釣りを始めてすぐ、素人の敦子の竿には次々と魚が釣れるのに、得意だと言っていた山路の方は全く釣れなかった。

恐いですね、素人は…などと言う山路に対し、御魚釣りってこんなに楽しいなんて思いませんでしたわと敦子は喜ぶ。

店の主人を呼んだ山路が、敦子が釣った魚をビニールに入れてもらうとすると、敦子は、せっかく住み慣れた所から連れ出したら可哀想でしょう?と言いながら、自分で魚を入れたバケツの水を池の中に戻してしまう。

煙草をくわえた山路がマッチを取りに事務所の方へ向かった時、残っていた主人は、あの人は変わっているね。餌をつけずに釣っているんだから…と敦子に教える。

釣り堀を出た時、餌をつけなかったのは、私が釣れなかったら、不愉快になると思ったの?と敦子は聞く。

そうじゃないけど、あなたの考え方を聞いたら、国にいる妹のことを考えたんです。

妹は国で百姓をしています。アメリカに行くなんて考えたこともないでしょう。

妹は高校を出ると、すぐに家を助けて百姓をやり始めたんです。本当は僕がやらなきゃいけなかったんですけど…。妹は将来、同じ農家の青年と結婚するでしょう。

あなたの生き方も素晴らしいけど、妹のような生き方も素晴らしいと思うんですと山路は言う。

碁会所で8連敗もした後、洋助は帰宅するが、待っていたトキに、敦子はまだ帰らんのか?と聞く。

まだ帰って来ない所を見ると、相手と一緒にいるんでしょうけど、女心と秋の空って言うけど、最近の女の子は自分のことしか考えないからね、ドライなのね…とトキはぼやく。

そこに敦子が帰って来たので、どうだった?見合いはと洋助が聞くと、私、約束して来たの?と言うではないか。

決めて来たのか?と洋助が驚くと、お父さん、人を観る目がないわね。私が投げ年の決心を変える訳ないでしょう?明日、東京を発つなんて言うもんだから、誰かを世話してあげるって約束したのよと敦子は答える。

それを聞いていたトキは、見合いに行って、人の橋渡しをするなんて!二度とあなたのお世話なんてご免だわ!と怒り出す。

しかし、洋助の方は、さすが我が娘だと喜ぶのだった。

翌日、音楽堂前の椅子で山路と待ち合わせた敦子は、紹介する相手がなかなか来ないので、御気の毒ね、私なんかと一緒で…と恐縮する。

そこに、敦子が呼んだ今井啓子(堀恭子)がやって来たので、敦子は2人を紹介し、自分は立ち去ろうとするが、いきなり2人きりにされても…と、敬子も山路も戸惑ったので、3人で食事でも一緒にすることにする。

東京に馴染みがないと言う山路を案内し、敦子がやって来たのは、父親が昔なじみが経営しているので良く行くと言う「いま春」と言う小料理屋だったが、中に入ると、洋助が小学校時代の級友お島(田中筆子)と仲睦まじく飲んでいた。

洋助は、啓子は知っていたが、山路は見覚えがなかったので戸惑っていると、アッちゃんがお世話してくれたなどと啓子が言うので、敦子の見合い相手として仰天する。

しかし、取りあえずカウンター席に移動し、4人でビールを乾杯し、女将の揚げる天ぷらを食べることにする。

その途中、山路がビールのコップを自分の背広にこぼしてしまったので、横に座っていた啓子は、アイロン貸してねと女将に頼み、山路と共に奥の座敷へと向かう。

その様子を観ていた洋助は、啓ちゃんは良い世話女房になるよと目を細める。

食後、店から帰る啓子と山路を外まで見送った敦子だったが、ちょっぴり浮かない表情だった。

さらに店の中に戻ると、洋助と女将が、小学生時代の思い出話を楽しそうに話しており、洋助が昔の歌など歌い出すと女将も唱和し始めたので、敦子は中に入りづらくなる。

寂しさに耐えかねて表に出た敦子は鉄橋を渡り、とある街角まで来ると、ちょうど店から出て来て一緒にタクシーで帰る啓子と山路を見かけたので、思わず身を隠すのだった。

その後、すっかり酔って帰って来た洋助は、敦子の様子がおかしいので訳を聞くが、どうもしないわと敦子は答えるだけ。

そんな敦子の気持ちも知らず、今日は愉快だった。あの2人は実に良い組み合わせだ。お前、なかなか粋なことするななどと洋助は話しかけるが、もう止めて!その話は…と敦子は不機嫌そうに言い返す。

そして敦子は、お父さん、どうして結婚しないの?「いま春」の女将なんてどうかしら?と勧めるが、心配いらん。お前と2人なら良いんだと洋助は答える。

翌日、出社した洋助は、11時半本社にですね?と佐々木専務からの電話を受けていた。

側にいた会計主任に、一緒に昼飯を食おうと言うことだと教えると、いよいよ重役コースに乗りましたねと主任は嬉しそうに応ずる。

ところが、会った佐々木専務(伊藤寿章)は、話と言うのは、君んとこの娘のことなんだが…と言い出したので、ちょっと期待していた洋助はがっかりする。

そんな洋助の顔を見た佐々木専務は、わしの仲人では不足なのか?と聞いて来たので、そんなことはありませんと否定しながらも、うちの娘はちょっと変わり者でして…と言い訳する洋助。

それは聞いとるが、娘の考えを真に受けるような奴はいないといなした佐々木専務は、そもそも娘を手放す意志があるのか?と確認し、こんな付録つきの縁談があるもんかとと自慢げに話す。

三ツ川財閥の磯部雅之助がおるだろう?と佐々木専務が言うので、うちの大株主ですな?と洋助も応ずる。

その磯部が息子に、我が社の株を持参金代わりに持たせてやると言うのだ。

つまり、その息子はその株を君に渡し、君が我が社の重役になる訳だ。重役になれるかどうか、君次第なんだと佐々木専務は説明する。

一方、敦子の会社に、山路同伴で突然やって来た啓子は、山路は1週間休暇を取ったのだが、結婚式を和式にするか様式にするかで意見が分かれているのでアドバイスして欲しいなどと言う。

敦子は呆れて、知らないわよそんなこと…と答えると、仲人のくせに冷たいのねと啓子に言われてしまう。

その時、敦子は外国人の上司ギルバート(ポール・ラブアロー)から呼ばれ、来月からニューヨーク本社への転勤を言い渡される。

喜んだ敦子は、応接室に残っていた啓子と山路に転勤の辞令が出たことを伝えると、啓子は望みが叶ったねと山路は喜び、恵子と共に帰って行く。

そんな2人を見送った敦子は、あの人たち、本当に渡しに仲人勤めさせるつもりなのね!と唖然とするのだった。

夜、洋助と差し向かいで洋酒を飲み始めた敦子は、ビッグニュースがあるのと言い、自分にもビッグニュースがあると言う洋助は、レディファーストと言い、先に敦子の話を聞く。

私ね、人生計画通り、来月からアメリカ行きが決まったの!と伝え、お父さん、乾杯しましょう!と言う。

しかし、それを聞いた洋助が浮かない顔をしたので、喜んでくれないの?と敦子は聞く。

しかし、本当にアメリカに行くのかい?と洋助が聞くので、そのための私のプランなんだから…と敦子が答えると、お前が幸せになってくれりゃ、お父さんは言うことないんだと洋助は寂し気に言う。

お父さんの方の話は?と敦子が聞いても、もう良いんだ。今となってはもうどうでも良いことなんだが、良い縁談があったんだよ。気にしなくて良い。アメリカ行きはお前の願いだったんだから…、いよいよアメリカ行きか…、向うで立派な相手を見つけるんだな…と洋助は言う。

すると、敦子は、御見合いしても良いのよ。お父さん、私と側にいたんでしょう?と言い出したので、どうでも良いんだと洋助は答える。

お父さんの側にいて、平凡な結婚をしても良いなって…、そんな気持ちになったの…と敦子が打ち明けると、啓子さんに刺激されたのかな?と洋助は苦笑する。

翌日、敦子と一緒に見合い場所のホテルに来た洋助は、佐々木専務が連れて来た相手が、いつも碁会所で会っている青年だったので、互いに奇遇を驚く。

佐々木専務も、2人の間柄を聞いて驚いたようだったが、その青年を磯部正春(波多野憲)君と紹介する。

磯辺は、自分の職業は囚人心理学と言い、今、東京刑務所の顧問をしており、受刑者の更生施設を作るそうだと佐々木専務が補足する。

金にはなりませんが、受刑者に罰を与えているだけではいけないと思うんです。馬鹿げているようですが、僕はやります!と謙虚に言う磯辺を、すっかり気に入ったらしい洋助は、縁談を抜きにしても宜しく!などと挨拶したので、佐々木専務は、縁談を抜きにしてくれちゃ困るよ…と苦笑する。

男3人が盛り上がっている横で、敦子は浮かない表情のままだった。

後日、碁会所で再会した磯辺に洋助が、どうでしょう、うちの娘、もらって頂けますか?と聞くと、僕は良いんですが、お嬢さんの方はどうなんでしょう?お嬢さんは誰かに恋してるとしか見えないんですが?僕には分かるんです。心理学勉強してますからと磯辺は言う。

それを聞いた洋助は、考えられませんな、相手もいませんし…と首を傾げるが、見落としがあるんじゃないですか?見落としがあると命取りになる…、人間も碁も同じです…と磯辺は言う。

夜布団の中で眠りかけていた洋助だったが、どうしても磯辺の言葉が気になり、電気スタンドをつけると、まだ起きていた敦子を呼び寄せる。

何?お父さん…とやって来た敦子の顔を見ると、何でもないんだ。早くお休み…と声をかけた後、先だった妻の遺影を眺めながら、母さん、俺じゃあ、どうにもならないんだ…、お前にもう少し生きていて欲しかった…と語りかける。

本社で洋助に会った佐々木専務は、次の重役会の議題は新しい重役についてだ。

今のところ、君のライバルは、大阪支社の井上君なんだが、三ツ川財閥の後押しがないとどうしようもないと焦ったように打ち明ける。

しかし、娘の気持ちが…と洋助が迷うと、そんなことより、さっさと結納を交わすんだよ。そのくらいの腹芸が出来んようでは大物になれんぞ…と佐々木専務は言う。

帰宅しようとバス停の列に並んだ洋助は、同じ列の中に敦子の姿を発見し、同じバスで帰ることにする。

降車後、桜並木の下を歩きながら、お前、何か、お父さんに隠していることがあるじゃないか?好きな人がいるのなら、いたって良いんだよ。もしや…と思ったもんだから…と洋助は敦子に話しかける。

しかし敦子は、いないものはいないわ…と言うだけなので、あれほど望みをかけていたアメリカ行きを止めるのは、訳があるのかと思った…と洋助が言うと、又、父さんと暮らせたら、みんなのためになるのよと敦子は答える。

それを聞いた洋助は、お前が本当にその気になってくれたのなら…と、嬉しいような、何とも複雑な表情になる。

帰宅すると、山路と啓子が待っており、今夜の夜行で大阪に行こうと思いまして…と山路が挨拶をする。

で、御相談があるんですの。おじ様、びっくりしちゃいけませんよ。アッちゃんの縁談の話なんです。最高に良いお話なんです!と啓子が言い出したので、実は、別の話が8分通り決まりかけているんだよ…と洋助は打ち明ける。

それを聞いた山路は、そうでしたか…、それをうかがえば何も申し上げることはありません。ごきげんよう!お幸せに…と言い残し、自分だけ旅行バッグを持って帰って行く。

敦子は啓子に、一緒に行かなくて良いの?と語りかけるが、山路さん、私のことなんか振り返りもしないで行ったでしょう?良一さんと2人で、この一週間、何してたと思う?良一さん、あなたのことを聞き出すために、私と会ってたのよ。良一さんの心は、あなたのことで一杯なのよと啓子は言う。

じゃあ、どうしてあなたはあの人の御相手をしたの?と敦子が聞くと、アメリカに行くなんておかしな女の子の世話をするためよ。早く追いかけなさい。ぐずぐずしてると、本当に私がもらっちゃうわよと啓子に後押しされた敦子は、敦子!と呼びかけた洋助に、お父さん、ごめんなさい!と言うと、玄関から表に飛び出して行く。

そんな敦子を、玄関口から見送る洋助に、おじ様、来年の今頃はおじいさまよと啓子が話しかけて来る。

暗くなった道を駅へ向かっていた山路は、追いかけて来る敦子に気づき、立ち止まって振り返る。

そんな山路を見つめる敦子の目は涙に濡れていた。

駆け寄って来た敦子と手を握り合う山路。

そうか…、そうだったのか…と、玄関口で納得する洋助。

その後、椿山荘で執り行われた「山路家、江口家の結婚式」にやって来た佐々木専務は、こうなると、誰が重役になるのかね?と一緒に会場に来た会計主任に話しかける。

結婚写真に収まる山路と敦子。

結婚式の後、自宅に戻って来た洋助は、これでやっと肩の荷が降りたと言うことか…と、妹のトキに話しかけていた。

でも、そのために、兄さんは重役の座を失ったんだもの…、手放しで喜べないわね…と同情するトキに、さあ、一杯やるか!と酒を勧める洋助。

その頃、新婚旅行に出かけた山路と敦子は、食堂車でビールを飲もうとしていた。

今頃、お父さん、どうしてるかな?と聞く山路に、きっとお酒を飲んでいますわと答える敦子。

自宅から買えるときは、見送る女中に、今夜だけは、言いなりに何本でも飲ませてねと頼み、女中も心得ているように、はいはい…と笑顔で答える。

1人、とっくりの酒を飲みながら、これで良いんだ…と呟いた洋助は、忍ぶ鎧の袖のえに〜♪と歌い出すのだった。


 

 

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