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潜水艦ろ号 未だ浮上せず

新東宝の戦記物。

タイトルからして、駄作がないと言われる「潜水艦もの」らしく、さらに「潜水艦イ−57降伏せず」(1959)と言う似たタイトルの名作もあるので、期待して見始めたが、潜水艦の中の描写は、冒頭と後半出て来るだけで、中盤はほとんど内地での話になっている。

さすがに駄作と言うほど出来が悪いとも思わないが、「潜水艦もの」にしては珍しく「凡庸な作品」だと思う。

内地の部分で潜水艦の乗組員たち数組の定番お涙頂戴ドラマが描かれ、後半の悲劇を盛り上げる伏線になっているのか?と思っていたが、中盤のドラマはそれで自己完結している感じで、クライマックスの海戦は内地のドラマをほとんど引きずっていない。

海戦そのものも、新東宝お得意のチャチなミニチュア特撮(お風呂に子供が玩具の船を浮かべて遊んでいるレベル)で迫力もなく、ドラマ的な盛り上がりもほとんどないまま何となく終わって行くと言う印象。

そもそも主人公がはっきりしないのが気になる。

冒頭から登場している佐々木艦長役の藤田進が主役かと思っていると、中盤のドラマ部分での印象は弱く、後半、又、主役に復帰か?と思っていると、チャチなミニチュア爆破で、あれ?今爆発したのは司令塔?じゃあ、佐々木艦長は死んじゃったの?どうなったの?と戸惑ううちに映画は終わってしまい、死の描写が不明確なのが気になる。

中盤、一気に主役のように目だつ永田聴音長役の小笠原弘が主役なのか?と思って観ていると、後半の海戦ではほとんど出番がないので、これ又、死の描写がきちんと描かれていない。

しかも、主役にしては、小笠原弘と言う人物そのものにほとんど馴染みがなく、誰だか分からないので、感情移入もしにくい。

同じく、最初から登場している軍医役の中山昭二が主役かと思えば、これ又、中盤で少し臭いラブシーンを演じた後、意外に早くあっけない最期を迎える。

直接、死ぬ所の描写もないので、印象に残らない。

最後に死ぬ所がきちんと描かれているのは、岩城水雷長役の鈴木信二だけのようにも見えるのだが、この人物は冒頭から登場している割に脇役扱いのように見え、俳優さん自体に馴染みがないこともあり、いきなりの後半の活躍には面食らう。

中盤から登場する有坂大尉役の細川俊夫が、後半、いきなりい号潜水艦艦長として目だってみたり…と、誰にスポットを当てているのか最後まで良く分からないのがつらい。

丹波哲とキャストロールに出て来る丹波哲郎などは、冒頭から出ずっぱりなのだが、特に、彼が演じているキャラクターのドラマはなく、これ又、出ているだけ…と言った印象しか残らない。

このように、複数のドラマが平行して描かれている構成にしては、それぞれの人物描写が全員中途半端で、後半の話を盛り上がる演出になっていないのが残念。

当時の船員たちが、全員下着姿になるシーンが多いのだが、当時の海軍は猿股(パンツ)だったのか?

潜水艦は、ミニチュアだけではなく、実際の潜水艦らしきものの内部描写などが挿入されている。

戦時中の映像なのか、どこかで潜水艦の記録フィルムを借りたと言うことなのかはっきりしない。

甲板上のシーンなどはセットを組んだのかも知れない。

中盤のドラマ部分で一番目だっていた幸子役の美雪節子なども、後半は回想シーンなどでの登場もなく、途中でお役御免と言った感じの終わり方なのが可哀想なくらい。

この当時から、既におばあちゃん臭い浦辺粂子が、意外と美味しい役所を演じているのが記憶に残るくらいだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1954年、新東宝、 高橋一郎原案、新井一脚本、 野村浩将脚本+監督作品。

省みれば幾星霜ー

波静かなる大海原に

平和の鐘鳴響くとき

今も尚海底深く眠る

幾多潜水艦乗員の霊に

此の一篇を捧ぐー(夕日輝く海を背景にテロップ)

潜望鏡から覗く空の映像から浮上する潜水艦

左前方30度!敵機二機発見!との監視兵からの声が飛ぶ。

急速潜航!各部、配置に付け!との佐々木艦長(藤田進)の指令のもと、乗務員が船内を走る。

準備よし!との堀田先任将校(円波哲=丹波哲郎)の報告を受けた船長は、急速潜航!微速!の指示を出す。

潜水艦はゆっくり潜航して行く。

永田聴音(通信)長(小笠原弘)に、その後の報告を聞くが、異常なし!と答えた永田聴音長は、佐々木艦長の元に向かうと、今度基地に帰投したら、ぜひ艦艇本部長に進言して下さい。今のような旧式の対空電感では感度が悪く、うっかり浮上もできませんと頼む。

佐々木艦長は、上申してみようと返事する。

その後、深度18に上げさせた佐々木艦長は、潜望鏡で外の様子を確認した後、浮上させる。

第六艦隊司令官から至急電報を受け取った通信兵は、それを佐々木艦長に伝えに行く。

直ちに、横須賀基地に帰投すべしと言う内容だった。

そこに近づいて来た堀田先任将校が、60日振りで帰れるんだ、うれしいだろう?と通信兵に語りかけると、若い通信兵ははい!と笑顔で答える。

その指令は、すぐに艦内中に伝達され、乗務員は全員大喜びする。

もうじき、青い菜っ葉を一杯食わしてやるぞと、岩城水雷長(鈴木信二)は、鳥籠の中で飼っていたインコに話しかける。

酒井烹炊兵(鮎川浩)らは、缶詰の食料をアルミ皿に盛りつけながら、今度の休みが長いか短いか賭けをしていたが、そこに立花軍医長(中山昭二)がやって来て、スープを作ってくれ、患者に飲ませるから…と頼む。

炊事部屋を後にした立花軍医長は、通路で喫煙していた乗員たちの煙草を一息吸い込むと、救護室に戻ると、帰投したら十分に手当てしてやると、ベッドで苦しんでいた患者に声をかける。

帰投した潜水甲板上で、佐々木艦長は乗務員たちに、今回の作戦は、まことに良くやってくれた!改めて感謝をする。戦局緊迫のおりから、又いつ出撃するか分からん。大いに鋭気を養っておけと挨拶する。

次いで、堀田先任将校が、本日の入場上陸は、明朝8時まで!と指示を出す。

岩城砲術長は、馴染みの鳥屋に行くと、インコの餌を探しに店内に入る。

「横須賀潜水艦基地隊」本部に車で戻って来た佐々木艦長は、テーブルに置かれていた手紙を読み始める。

制服に着替え、次々と本部を後にする乗務員室にやって来た立花軍医長は、今夜は艦隊司令の慰労宴だ、早めに行こうと、1人部屋に残って書類を書いていた友人を誘いに来る。

料亭「松政」

慰労会では、招かれた乗務員たちが「同期の桜」を歌っていた。

上座に座っていた佐々木艦長と荒川基地隊司令(小川虎之助)のもとにやって来た幸子(美雪節子)が、何事かを耳打ちすると、2人は立ち上がり、司令官はお帰りになるが、皆はそのまま飲んでいて宜しい。俺が代表してお送りして来ると佐々木がみんなに伝える。

みんな、無礼講で大いにやろうじゃないか!と堀田先任将校が、制服の上着を脱ぎながら呼びかけると、そうだ、そうだ、久しぶりの上陸だ、大いにやるべし!と賛同の声が上がる。

そこへ戻って来た佐々木艦長も、大いにやってくれ、俺も飲むと言いながら上着を脱いだので、総員喜ぶ。

そんな中、面白くなさそうに参加していた永田聴音長が、吸い物の椀の蓋を開けようとして、うっかり、横にやって来た幸子の膝の上に、椀をひっくり返してしまう。

永田聴音長は、ぶっきらぼうに、すまんです!と詫びて、濡れた幸子の膝元を拭こうとするが、幸子は、良いんですのと笑顔で答える。

そんな幸子の親切にぶっきらぼうに対応していた永田聴音長の様子を観た佐々木艦長は、思わず笑い出してしまう。

そんな佐々木の相手をしていた幸子は、立花と何やら親密に話をしていた芸者お梅前に来ると、そっと皮肉を言いながら、自分で立花にお酌してやったので、芸者は、嫌だ、姉さんと照れくさそうに笑う。

別室にそっと向かった立花に抱きついて来た芸者お梅は、帰ってくれてありがとうと感謝をし、泣き出したので、何だこいつ…、泣いたりして…と、立花はお梅の顎を持ち上げながら笑う。

やがて、佐々木艦長が先に買えるので、後を頼むと堀田に声をかけたので、堀田は、もうお帰りですか?と驚く。

すると佐々木は、子供の顔が観たい。まだ起きているかも知れんと言いながら上着を着ると、送らんでも良いぞと言い残し、部屋を後にする。

そんな佐々木のお供をして帰りますと立上がった に、寄宿舎に帰るんだろ?と佐々木が声をかけ、下宿の良い所があったら探してやってくれと頼むと、ちょうど良い所がありますのと、玄関口まで送りに来た幸子が答える。

私がいつも仕立物を頼んでいるおばさんの所、親切だし、おばさん1人で静かだし…と勧めると、私は基地内で良いんですと永田大尉が言うので、佐々木艦長は、世話してもらえと声をかける。

玄関口にやって来た永田は、君は食べ物では何が好きだ?と、急に幸子に聞き、私、ビフテキが大好きですわ!と幸子が答えると、下宿を世話してもらったら、ビフテキを腹一杯ごちそうしてやると約束する。

それを横で聞いたいた佐々木艦長は、長田がこんなことを言うのは珍しいねと笑う。

見送りに出て来た女将(吉川満子)が、何の話だったの?と幸子に聞くが、幸子はおかしそうに笑うだけだった。

自宅に帰った佐々木艦長は、子供に本を読み聞かせていた妻の姿を観て微笑む。

父親の帰還に気づいた子供が嬉しそうに抱きついて来ると、制帽を取り上げて自分でかぶって敬礼の真似をする。

佐々木は腰に付けていた軍刀をはずし、子供に渡すと、子供はそれを自分の腰に巻き付け、嬉しそうに歩いてみせる。

「艦政本部 会議室」

敵は優秀なる電探を装備しており、我が方の動静を迅速に探知して、攻撃及び防御の両面に既に優位を示しているのであります。電探の感度が敵発見時の雄弱となって、しばしば損害を受けている実状であり、一刻も早く艦の優秀なる電探の装備を要望する次第であります、出席した佐々木艦長は報告する。

話を聞いた坂本参謀(片桐余四郎)は、川崎艦政本部長(高田稔)に、ただ今のろ号潜水艦長の要望は、一応考慮されるべきものとして、現下の緊迫せる情勢にあっては、むしろこの際、規定通り、特攻兵器の量産こそ力を注ぐべき時であると信じますと意見を述べる。

すると、同席していた永田が立ち上がり、潜水艦は特高兵器と何ら変わりません。量産、量産と言われますが、我が方の損害を最小に止めて、大戦果を挙げることこそ望ましく、科学を無視して大きな犠牲を払うことは、死のための量産に過ぎませんと反論すしたので、坂本参謀は、何!と気色ばむ。

私は机の上で論じているのではありません。身を持って体験し、実戦潜水艦の乗組員として上申するものでありますと参謀長に話しかける。

参謀連中から意見を求められた参謀長は、この問題はここで簡単に結論を出すべき問題ではない。本部長が上層部に計って方針を決定する!と答える。

休憩が入ったので、永田と一緒に部屋の外に出た有坂大尉(細川俊夫)は、大分食い下がったと声をかける。

机上作戦をやっている連中にはあのくらいのことを言わんと、俺たちの苦労は分からんぞ。本部長の言葉があったら、もっとやり合うつもりだったんだなどと永田は笑う。

その時、有坂の潜水艦の艦長が近づいて来たので、有坂は離れて行く。

その後、下宿に戻った永田は、出迎えたおちか(浦辺粂子)に、誰か来ませんでしたか?と聞いたので、どなたかいらっしゃるんですか?とおちかから聞かれてしまう。

ここを紹介してくれた「松政」の幸子さんにビフテキをごちそうする約束をしたんですと答えると、おやおや、そうですか…とおちかは笑う。

やがて、その幸子が、永田さん、いらっしゃる?と言ってやって来たので、幸ちゃんにごちそうするって、待ってらっしゃるよと言いながら、おちかが出迎える。

幸子が玄関口でモジモジしているので、何してるのさ?早くお上がりよと落ちかは勧めると、二階に、永田さん、お客さんですよと声をかける。

二階で幸子を出迎えた永田は、来てくれないのかと思いましたよと嬉しそうに話しかけ、座布団を勧める。

幸子が、ここの下宿屋さん、お気に召しまして?と聞くと、ありがとう。下宿して良かったと思うよ。何だか自分の家にいるような気がしますよと永田は感謝する。

本当に良いおばさんなんですのと幸子は喜び、部屋の中に入ると、かいがいしく、永田の脱いだ服を衣紋掛けにかけてやる。

洗濯に出すと永田が言うシャツをたたんでいた幸子は、胸ポケットの中に入っていた守り袋を見つけ、仕舞っておかないと…と出して見せる。

それを受け取った永田は、これ、お母さんの形見なんですと言う。

おばあさんが死ぬ時、お母さんに遺していった古いものなんですけど、僕はこれをいつもポケットに入れているんです。生きていてくれたらと時々思いますよ…と永田が説明すると、幸子は神妙に聞き、私も両親がいてくれたら…と思いますわ…と答える。

あなたもですか…と同情した永田だったが、その時、良い匂いがして来たと鼻を動かす。

もうできたかな?と呟いた永田は、おばさん、何か手伝うことはありませんか!と下に声をかける。

その頃、ろ号潜水艦では、次の出航に向けて、物資の運び入れが行われてた。

いよいよ出航のため、永田も下宿先でおちかに手伝ってもらいながら出かける準備をしていた。

そこに、幸子もやって来る。

良く出られたね?お座敷があったんじゃないのかい?とおちかが下に降りると、大勢さんで飲んでいる所だったから、巧い所抜けて来たのと幸子は答える。

やかましい女将さんだから、後で文句を言われるよとおちかは案ずる。

ええ…、でもしばらくお別れですし…。お守り持って行っていただこうと思って…と幸子は言う。

二階に上がった幸子は、持参したお守りを永田に差し出す。

ありがとうと言って受け取った長良は、そのお守りを腹に結びつける。

幸子は、かいがいしく、永田に上着を着せてやる。

その頃、立花軍医長も、今度帰ったら、両親に会ってくれないか。俺たちのこと話してあるんだと、一緒に歩いていたおなかに話しかけていた。

でも私、こんな商売してるでしょう?とおなかが案ずると、それも話してあるんだと立花は答える。

その時、近くを歩いていた永田に気づいたので、互いに敬礼し合う。

おれも、こっから1人で行く。病気しないように…、元気でな…と立花は女に話しかける。

おなかは、私が目をつむっている間に歩いていらして…、そうでないと、あたし…と頼む。

目をつむったおなかだったが、足音が遠ざかって行くと、つい目を開け、同じように振り向いた立花に、笑顔で手を振る。

ろ号の中では、佐々木艦長が、食料を惜しむ永田に、メレオン島の守備隊を見殺しにする訳にはいかんからねと答えていた。

そんなに重要な島なんですか?と永田が聞くと、サイパン陥落後、敵の動静を探る唯一の基地なんだからな…と佐々木は教える。

そこに合流した立花が、霊の胃腸薬、調合しておきましたと言いながら、佐々木艦長に手渡す。

ついに、ろ号は出航し、酒井烹炊兵たちは、艦内米置き場のネズミ退治など始める。

そこにやって来た機関長は、ネズミ退治か?よせよせ、今度死ぬ時は俺たちと一蓮托生だと諌める。

作戦室では、鈴木航海長(岡龍三)が、目指すメレオン島に向かう海図を引いていた。

メレオン島では、守備隊が食料もなく、衰弱しきっていた。

ある兵隊などは、アリを食べようとして、思わず吐き出していた。

その隣にいた兵隊は、さらに隣にしゃがみ込んでいた兵隊の足下に水瓜が置いてあるのに気づき、それを盗もうと近づいてみるが、水瓜に見えていたものは鉄兜だった。

その鉄兜の兵隊と水瓜と見誤った兵隊2人が、側でコンペイ糖を嘗めているような兵隊を見つけたので、近づいてみると、それも幻覚だった。

やがて、餓えた兵隊が、壕から顔を出すと、近くにパパイヤの実が1個だけ付いている木が見えたので、這い上がって木の方へ向かおうとしたので、仲間たちが危ない!と声をかけ、止めようとする。

その兵隊は、何とかパパイヤの木まで匍匐前進でたどり着き、パパイヤの実を手にするが、次の瞬間、機関銃の音が鳴り響き、兵隊はパパイヤを握ったまま絶命する。

そんな守備隊の壕の中の無線機が鳴り出す。

通信兵がその内容を紙に書き取り、ろ号潜水艦からで、食料と弾薬を補給してくれるそうでありますと上官に伝える。

そんなメレオン島に接近するろ号潜水艦。

食料を防水布に包み、甲板上から海に投げ込むと、はちまきに猿股一丁の乗員たちが次々に海に愛飛び込み、その食料を島に運んで泳ぐ。

島に上陸した立花たちは、負傷して寝ていた守備隊の治療を開始する。

潜水艦上で、島の様子を見守っていた佐々木艦長の元に、メレオン島守備隊から無電が入り、救援物感謝!と通信兵が知らせて来たので、嬉しそうにご苦労!と返事をする。

物資を運び終わった乗員が帰投して行く中、立花軍医長は、治療に手間取っていた。

乗員たちは泳いで、次々とろ号に戻って来ては、待ち構えていた佐々木艦長に敬礼する。

そんな中、電探を覗き込んでいた永田聴音長は異変を察知していた。

最後の立花が泳いで戻って来る中、

高度1500!距離20km!敵戦隊らしき感度あり!と告げる永田。

佐々木艦長は艦首に戻り、まだ1人戻らぬ立花を案じながらも、潜航準備の指令を出す。

見かねた堀田先任将校が、艦長!艦あっての我々です!1人の命に拘ってはおれません!一刻も早く潜航して下さいと艦長に呼びかける。

必死に泳ぐ立花

佐々木艦長は、急速潜航!の指示を出す。

その直後、敵機が数機飛来し、泳いでいた立花に銃撃を浴びせる。

後日、「松政」では、立花の遺影を前に、悲しみに暮れるおなかと線香を手向ける芸者たちの姿があった。

そんな「松政」に、有坂と一緒にやって来た永田は、幸子さんの具合はどうです?と出迎えた女将に聞く。

夕べ、空襲の最中に別れて…、あの解き、怪我をしていたようでしたが…と永田が案ずると、永田さんもご一緒でしたか?ご親切な警防団の方が送ってくれましてね…と、女将は皮肉っぽく答える。

女将のけんもほろろの対応に、又出直してきますと永田は帰るが、布団に横になっていた幸子は、怪我の痛みを耐え、無理に起きると、お母さん、永田さんじゃなかったの?と、戻って来た女将に聞く。

幸っちゃん、あんた夕べ、永田さんと一緒だったんだってね?ねえ、幸ちゃん、私はあんたをこの家の養女にして、ゆくゆくは立派な旦那を持ってもらおうと思ってたんだよ。それを人の気も知らないでさ〜…、あんた永田さんと二人っきりで会ってたんだろ?と女将は恩着せがましく言う。

そりゃまあ、明日をも知れない人だから、お座敷でもって親切にしちゃいけないなんて言いやしないよ。だけどさ〜、あたしの目を盗んで、好いた、惚れたになられたんじゃ、あたしは困っちまうんだよ。ええ?そんな怪我までしてさ〜と女将は嫌味を言う。

立花さんと梅ちゃんのこと、観たって分かるじゃないか。出撃すりゃ、死にに行くのと同じなんだよ。そんな人に惚れてごらん。一生苦労のし通し、泣きを見なきゃならないんだよ。お前さんのこと、あたしが一番良く考えているんだから…、永田さんと内緒で会うようなこと、もうしないでおくれ!と女将は言い聞かすと、寝てなくちゃいけないんじゃないか!と叱りつけ去って行く。

思わず、布団の上に倒れ込んだ幸子は、我が身の不運を嘆く、

昭和20年4月

戦艦大和を旗艦とする

水上特別攻撃隊

沖縄 敵泊地に突入!全滅!

かくて7月ー

制空権無き海軍が

最後に挑む決戦は

残存40数隻の

潜水艦特攻作戦にあったー(とサーチライトを焚き、高射砲を討つ映像にテロップ)

空襲で炎上する町中を写した映像

横須賀の本部に戻った佐々木艦長は、先任将校を呼んでくれと部下に頼む。

その後、部屋にやって来た堀田先任将校に、第六潜水艦は出撃することになった。当直以外、全員、入湯を許せ。帰隊時刻は14時!と指示を出す。

その時、電話がかかって来たので、堀田先任将校が出て、佐々木にお宅からの…と受話器を渡す。

電話を取った佐々木は、何?まさ坊が?具合が悪いのか?と聞き返し、まだ堀田先任将校が部屋にいることに気づくと、良し!分かったと答えてすぐに切る。

何か、御心配なことでも?と堀田先任将校が聞くが、否、別に…と佐々木は言葉を濁し、ソファに座ると、現在、空母を含む敵機動部隊の重要拠点を、レイテ、サイパン、パラオと考え、これを結ぶ交差点、つまり、東経140度30分、北緯20度20分の地点で敵を細く攻撃する作戦計画だ…と、佐々木は地図を観ながら伝える。

その頃、兵舎の外で岩城砲術長は、父からの手紙を読んでいた。

先月七日の空襲で、町が焼け野が原になり、嫁の保子がお前が大事にしていた?を持ち出そうとして家の中に飛び込み…と言哀しい知らせが書いてあったので、途中で読むのを辞め、手紙をポケットの中にしまう。

やがて鳥屋に、鳥籠に入ったオウムを持って行った岩城砲術長は、長いこと、こいつにやもめ暮らしをさせたんで、今度、嫁さんを持たせてやろうと思うんだと持ちかける。

鳥屋が、機関長が選んだメスインコを鳥籠の中に入れてやると、岩城砲術長は嬉しそうに目を細めて、つがいのインコを眺める。

制服を着込んだ永田は、下宿の部屋で、突然ですが…と、おちかと別れの挨拶をしていた。

おちかも、もうそろそろ、出撃されるんじゃないかと思ってました…と覚悟していたように答える。

わずかな間でしたが、本当に自分の家にいるように優しくしていただき、ありがとうございましたと永田は礼を言う。

永田が謝礼を渡そうとすると、永田さん、こんなことなさらないで下さいと、おちかは断る。

でも、今の私のできるお礼と言えば…と永田は戸惑い、それに、もう金はいらないんですと言う。

永田さん、お礼なんてされたくないんです。子供を送り出す親はどこでも、我が子の身の上を思うだけなんです…とおちかは寂し気に答え、仕舞って下さいと頼む。

金を戻したおちかは、帰ったら、きっとここを訪ねて下さいよと頼む。

空襲も酷くなるでしょうけど、おばさんは、いつでも永田さんを待ってます。、それでは、時間もないんでしょう?幸子さんの所へ行ってあげて下さいとおちかは声をかける。

はい!と答えた永田は、おばさん、行って参ります!と両手をつき挨拶をし、トランクは後で従兵が取りに来ますから…と言い残し、部屋を後にする。

涙をこぼすおちか。

幸子がまだ臥せっていた「松政」にやって来た永田だったが、ちょうど出かけようとしていた女将が玄関先で会い、幸子は歩けるようになり、ちょうど出かけちゃったんですよと噓を言う。

急に出撃をすることになりましたから、お大事にとお伝え下さいと頼み、永田は持参したふろしき包みを女将に託す。

まあ、そうでござんすか…、御武運をお祈りしますわと言い、女将は、ご一緒にと誘い、永田と一緒に玄関を出る。

一方、病気で寝ている息子を往診に来た医者の前に出た佐々木は、自分はこれから隊に帰りますが、よろしくお願いしますと挨拶するが、医者は、ご両親は今夜はお側におられた方が良いと思いますが…と勧める。

しかし、どうしても戻らなければなりませんので…と言い、立上がりかけた佐々木だったが、その時、お父さんと無意識に呼びかける息子の声を聞き立ち止まる。

それでも隊へ戻る佐々木の心中を察した看護婦たちが泣き出す。

縁側で靴を履いた佐々木は、医者たちに敬礼をするが、布団の中で苦しむ息子を観ながら立ち去る。

物量を誇る敵は本土上空を進攻し、非道なる無差別爆撃をあえて行い、太平洋の彼岸より踏み入れて、我が行動を狙わんとしている。

我が帝国の総力を挙げての一大決戦である!

この祖国存亡の時、伝統燦然たる大日本帝国海軍の一員として、生命を国家に捧げる光栄を担ったのである!

撃ちてしやまんの闘魂こそは、国を救う神風となり、必ずや敵をはるか洋上において、捕捉殲滅し、その野望を粉砕するものと確信する。各員の奮闘を期して待つものである!と、「横須賀潜水艦基地隊」に集合した乗員たちを前に、荒川基地隊司令が訓辞を垂れていた。

佐々木が、敬礼の号令を出す。

その後、乗員たちは行進をして港に向かう。

その頃、「松政」の布団の上で、永田からのふろしき包みを開けていた幸子は、永田の母親の形見の指輪が入っていたので、きりっとした顔を上げる。

幸子は、梅に手伝って着物を着替えると、ふらつきながらも、幸子、どこに行くんだい?と玄関先で止めようとする女将を避け、そのまま外に飛び出して行く。

港に着いた永田は、背後を気にするが、有坂に、お互いに頑張ろうなと手を差し出されたので、握手をする。

港に走っていた幸子は、途中で下駄の鼻緒が斬れたので、裸足になって走り続ける。

軍艦マーチが鳴り、日章旗が翻る中、ろ号潜水艦の甲板に整列する乗員たち。

出航した甲板上で、帽子を振って乗員たちが見送りに挨拶している中、何とかたどり着いた幸子は、見送り客の前に出ると、永田さ〜ん!と呼びかける。

しかし、その幸子の声は届かず、2隻の潜水艦は進んで行く。

夜、司令塔にいた佐々木は、雨は降る振る〜人馬は濡れる〜♪越すに越されぬ〜田原坂〜…と1人歌い始める。

それを聞いた乗員たちは、皆一様に笑顔になる。

そんな中、無電を聞いた通信兵が立ち上がり、司令塔に向かう。

艦長、敵の暗号解読によりますと、原子爆弾を搭載したインディアナポリス号は、テニアン方面に航行中です…と、通信兵が歌い終えた佐々木に伝える、

少年通信兵が、い号潜水艦から無電が入りましたとそこにやって来て、我、もっかインディアナポリス追跡中と伝える。

佐々木はそれを黙って聞いていた。

い号に艦長として乗っていた有坂は、インディアナポリスを見いだせず落ち込んでいた。

一方、ろ号の中で電探を聞いていた永田は、感度がりました。右30度!と佐々木に伝える。

佐々木は潜望鏡で敵船影を確認、魚雷戦用意!と指示を出す。

岩城砲術長は、発射用意、宜し!と答える。

佐々木は「撃て!」と命じ、魚雷が発射される。

敵繊維命中後、深深度、潜航を佐々木は指示。

エンジンを停め、扇風機も止る。

岩城砲術長は、インコが入った鳥かごを床に置くと、上から毛布をかけてやると、足音を立てないように、魚雷部屋から出る。

やがて、敵の機雷発射が始まる。

ろ号の周囲で、機雷が爆発、船内でじっとしていた乗員たちが振動で投げ出される。

米蔵のネズミもじっとしていた。

少年通信兵は、通信室で怯えていた。

艦内時計が10時10分から7時23分まで進む。

乗員たちは、酸素欠乏の中、じっと我慢をしていた。

敵戦艦は、まだ洋上で旋回していた。

次々とへたばって倒れる乗員たち。

岩城砲術長は、見回りに来た佐々木に、浮上させて下さいと願い出る。

苦しいだろうが、焦ってはいかん。もうしばらくの辛抱だ、我慢しろ!と佐々木は命じるが、でも…、このまま死ぬのは残念ですと岩城水雷長が言うと、水雷長!お前の奥さんが死んだ悲しみを俺にも言わなかった。俺にはお前の心が良く分かる。だが、死を急いじゃならん!と説得する。

岩城水雷長は、はい!と納得するが、その直後、佐々木は床の隅で死んでいたネズミの死骸を目撃し、愕然とする。

新しい軍医長を部屋に呼んだ佐々木は、酸素ボンベは?と聞くが、放出してしまったと軍医は答える。

これだけ呼吸が苦しくなると、後1時間持つか、持たないかです…と軍医は言う。

その答えに黙って頷いた佐々木は、1人部屋を出て行くと、艦内に飾ってあった神棚に深々をお辞儀をして祈る。

司令室に上った佐々木は、伝声管に向い、艦内に告げる!良く聞け!敵の攻撃を感知することすでに十数時間、良くぞ苦しみに耐え、各々の任務を忠実に守ってくれた。艦長は心から感謝する。私たちは既に死を覚悟している。死することはいと優しい。だが艦長は、潜水艦の運命とお前たちの生命をいかに守り、いかに生きて戦うかを考えて、ただいままでお前たちの猛る心を抑え、お前たちの口惜しさに目をつぶって来た!が、その時はもはや過ぎた!

それを聞いていた軍医長たちが、何かを感じ、次々に起立して静聴する。

お前たちの命を艦長にくれ!

祖国を離れて、今遠くこの洋上に散るとは言えども、沈着なる行動により帝国海軍の真価を発揮せん!

そんな中、永田は、仲間から感度がありますとヘッドホンを渡される。

仲間はその場で気を失う。

永田からの連絡を聞いた佐々木は、各員配置に付け!と伝声管に呼びかける。

それを聞いた岩城水雷長たちは、一斉に軍帽を脱ぎ、「轟沈」と書かれた鉢巻きをしめる。

酒井烹炊兵たちも、同じくはちまきを頭に巻く。

各員は、最後の力を振り絞って、部署に付く。

深度18に上げ!と佐々木は命じ、エンジンがかかる。

潜望鏡を覗きかけた佐々木だったが、部下に代わりに覗かせる。

すると、インディアナポリスらしいですと言うので、急いで自分に代わる。

緊張する堀田先任将校たち。

船影を確認した佐々木は魚雷を用意させる。

敵さん27ノット!方位角右35度!距離4500!

最後の魚雷だ。頼むぞ!と岩城水雷長が魚雷発射管を叩きながら呟く。

発射されて、行き詰まる乗員たち

潜望鏡で敵船に命中するのを確認する佐々木

轟沈!インディアナポリス轟沈!の雄叫び

喜ぶ乗員たち。

直ちに海上に浮上したろ号は、生き残っていた敵戦艦と一対一の砲撃戦を始める。

佐々木は、魚雷班にも非常甲板として応戦に向かわせる。

飛来した敵機も攻撃して来る。

少年通信兵は、最後の力を振り絞って救援要請を打電していた。

い号艦長有坂のもとにやって来た通信兵は、我目下戦闘中なり、航空母艦一隻。インディアナポリスに、なお本艦に敵弾命中と言う無電を伝える。

有坂艦長は、ただちにろ号潜水艦の救援に向かうと指示を出す。

ろ号甲板上では、魚雷班の岩城たち数名が主砲を撃っていた。

敵弾が甲板にも命中する中、佐々木は、総員甲板へ上れ!と命じる。

その直後、司令塔が被弾し、破壊する。

甲板上、最後の1人となった岩城が応戦を続ける。

岩城が放った弾が敵艦に命中した直後、喜んだ岩城も被弾して倒れる。

その時、魚雷室に置いてあった鳥籠も倒れ、中のつがいのインコの姿が飛び出し、ろ号の外へと逃げる。

炎上するろ号潜水艦は、その後、沈没して行く。

そこに、有坂のい号潜水艦が接近して来る。

甲板上に出て来た有坂艦長が、双眼鏡で生存者を捜そうとするが、油が浮いた洋上には、ろ号潜水艦の残骸が浮かんでいるだけだった。

ろ号潜水艦に葬送曲…と有坂が命じると、甲板上に居並んだ乗員たちが、軍隊ラッパを吹き、一斉に敬礼をする。

有坂も無念そうに敬礼をするが、洋上に浮かんだ「轟沈」と書かれたはちまきの側で漂う木片に留っているインコの姿があった。

「海行かば」の曲がかかる中、いつまでも海上に向い敬礼を続けるい号潜水艦乗員たち。


 

 

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