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西遊記~はじまりのはじまり~

西遊記の序盤部分の映画化と言った感じで、何でも、本国では中国映画史を塗り替える大ヒットだった作品だそうだが、観た感じ、チャウ・シンチー監督作品としてはややテンションが低いかな?と言った印象を受けた。

特にユーモア部分が弱くなっており、VFXで色々見せ場を作ってはいるが、技術的には日本製のVFXとそう大差ない感じで、ものすごくインパクトを受けると言うほどではない。

冒頭部分の沙悟浄の化身である怪魚との戦いが、一番アイデアに満ちており、アクションとしては面白く出来ているのだが、それ以降のアクションはややVFXに頼り過ぎでアイデア不足、あるいはアイデアの空廻りのような気がする。

ストーリー自体は、玄奘が悟空や沙悟浄、猪八戒に出会い、天竺までの旅を始めるまでの物語であり、基本、日本でも良く知られている「西遊記」の序盤の部分なので、今風のアレンジはあるものの、問題なく理解出来る。

やはり、沙悟浄は日本のようなカッパじゃないな…と言った違いに気づくくらい。

強いヒロインが、妖怪たちを次々と倒していくのは、昔の台湾映画「キョンシー」シリーズを連想させる。

一番興味深かったのは、孫悟空の凶暴さ。

元々、釈迦の怒りに触れるくらいだから、ものすごく凶暴な猿だったことは分かるが、日本ではどうしても子供向けの作品になってしまうため、わがままとか、やんちゃ坊主くらいの表現止まりの物が多いが、実際はこの映画のような凶暴なモンスターに違いないと思う。

巨大ものファンとしては「キング・コング」とか「大魔神」などを彷彿とさせるようなイメージが楽しい。

途中まで、おちゃらけていた段の愛情表現も、最後は泣かせに持って行く所などはなかなか憎い。

チャウ・シンチー作品としては、ややまじめ過ぎる印象がないではないが、悪くはない出来だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2014年、中国映画、デレク・クォック+ローラ・フオ+ワン・ユン+フォン・チーチャン+ルー・ジェンユー+リー・ションチン+アイヴィ・コン+レイモンド・ウォン、チャウ・シンチー監督作品。

空に浮かぶ巨大な指輪のような輪、それは「緊箍児(きんこじ)」であった。

その丸い輪の中にタイトル

カメラは地球に迫り、中国のとある河口の小さ集落に接近する。

川の両端を繋ぐ木の橋の上に腰掛けて、「大エビはピョコピョコ♪」などと愛らしい歌を歌っていたのは集落の長生長生。

そんな長生に近づいた父親は、ほら、水の中に何かがいるよ!などと言って、怖がらせようとする。

何もいないよと長生が言うので、水の中に飛び込んだ父親は、網をかぶって水面に飛び出し脅かしてみる。

すると、それを観て怯えた長生が泣き出したので、父親は慌てて正体を明かそうとするが、その時、突如父親は水中に沈み、足だけが突き出る、

それを観た長生は、笑い出すが、水面から突き出した両足は硬直し、何かに引っ張られるように水中を動き出す。

長生は喜び、父ちゃん!もっとやって!と呼びかける。

やがて、川を移動していた父親の体から血が吹き出し川を赤く染める。

それを面白そうに観ていた長生の元にやって来た母親は、父ちゃんは?と娘に聞く。

やがて、長生の父親の葬儀が行われる。

そんな中、1人の道士の乗った小舟が集落に近づいて来る。

その道士が川に何かを投げ込むと、大爆発が起き、巨大なエイが腹を見せて浮かび上がる。

妖怪を退治してくれた例として、集落の大人が金や干物を渡すと、道士は遠慮しながらも金だけはちゃっかり受け取る。

その時、あれは妖怪じゃない!巨大なエイだ!と、群衆の中から出て来た青年がいた。

自分は玄奘(スー・チー)と言う妖怪ハンターだと言う。

あれは妖怪ではありません!と、道士の目の前で指摘したので、道士はかちんと来て、良くもそんなことが言えるな…と玄奘を睨みつける。

夫を亡くした女房が、家族の気持ちが分かるか!と玄奘を殴って来る。

妖怪は私が退治した!と言い切った道士は、側にいた男に川に飛び込んでみると指示する。

その男が川に飛び込んでも何ごとも起きなかったので、大丈夫だ!何ともない!絶対、安全だ!と住民たちは歓声を上げ、男も女も次々と川に飛び込む。

玄奘は、何故か狼藉者として村人たちに縛られ吊るされていた。

その時、玄奘は、川の上流から近づいて来る何かを目撃、危険だ!川から逃げろ!と川の中で泳いでいた村人たちに声をかけるが、誰も言うことを聞かない。

とうとう、川に浮かんで歌っていた女が、迫って来た妖怪に喰われてしまう。

それに気づいた他の村人たちはパニックになり、一斉に川から逃げ出そうとする。

それを観た道士は、陸にいれば大丈夫!と動揺する周囲の村人に言い聞かそうとするが、話しかけていた相手も、ジャンプして来た川の妖怪が目の前で喰ってしまう。

先ほどの少女長生の母親が、娘を捜していた。

その後も、次々と住民たちは妖怪の餌食になって行く。

逃げるな!伏せろ!と吊るされた玄奘は叫ぶが、誰も聞く耳は持たない。

幼女長生は、桟橋部分に残っていたが、母親が動くんじゃない!と静止したにも関わらず、母親の方に駆け寄って来てしまう。

妖怪の触手が、長生の背後から肩を掴み、川の方に引きずり始めたので、慌てて母親が、長生の足に飛びつき停めようとする。

村人たちも手伝い、怪魚の触手を何とか長生から外そうとするが、触手の吸盤は、長生の頭部にくっついたので、包丁を!と老人が叫ぶ。

村人が包丁を持って来ると、それで長生の髪の毛を切るが、吸盤は長生の背中にくっつき、長生を川の中に引込んでしまう。

村人が長刀用の刃物で駆けつけ、触手を切断するが、触手から外れた長生はバランスを失ったまま桟橋から転落する。

その長生の両手を、桟橋から母親が何とか掴むが、下の川から飛び出して来た怪魚が、その長生をくわえていってしまう。

母親はなぎ多々を持った男から刃物を奪うと、それを持ったまま川に飛び込むと、そのすぐ横に巨大な怪魚が顔を出す。

その間、綱で吊るされていた玄奘は、何とかしようと、歯で手を縛っている綱を噛み切ろうとする。

娘を返しておくれ!と母親は頼むが、その母親も怪魚に喰われてしまう。

川に落ちた怪魚の尾が桟橋の根本を壊したので、桟橋全体が傾き、赤ん坊の入った籠を抱えていた母親が、その籠を桟橋の上に落としてしまう。

籠は、桟橋の上にいた道士と共に滑り台のように傾いた桟橋を滑り落ち、一段下に傾いた桟橋の先端部分の上に落ちる。

その時、何とか縄をほどいてた玄奘が駆けつけ、傾いて、川の中央部分でシーソー状態になっていた桟橋の反対方向に降り立ったので、傾いていた桟橋が持ち上がり、赤ん坊の入った籠は玄奘の方に滑って来る。

しかし、その時又、怪魚が反対側を尻尾で押さえたので、傾きが又変わり、赤ん坊の籠は怪魚の方へと滑って行く。

玄奘は一段上の桟橋にぶら下がっていた道士に飛びついて引きずり降ろすと下のシーソーは、道士分の体重が玄奘側に加わったので又玄奘の方に傾き、籠が近づいて来る。

道士は文句を言い、又上の桟橋に飛び移ろうとしたので、玄奘はそうさせまいと抱きついたので、道士の服は破け、上半身裸の状態になる。

怪魚は尻尾で、シーソー状態になった桟橋の片方を強く弾いたので、桟橋はクルクル回転を始め、赤ん坊の籠は川の上に落下してしまう。

玄奘は、倒れた道士のズボンの結び目に手を掛け、何とか桟橋の上に留まるが、観ると、怪魚の影が、川面に浮かんだ赤ん坊の籠に近づいて来る。

玄奘は、右手を道士の鼻の穴に突っ込んで桟橋の上で自分の体を固定すると、左手を大きく伸ばし、回転していた桟橋の端から赤ん坊の籠を拾い上げる。

玄奘は、回転の勢いに乗り、赤ん坊の籠を上の桟橋に投げ上げるが、籠は桟橋の端から端へと滑ってしまい、綱に絡まって何とか落下を免れる。

一方、玄奘はそのまま、川の中に落下してしまう。

怪魚に襲われるのではないかと恐怖を感じながら、間近にあった桟橋状に何とか這い上がった玄奘だったが、観ると、側の川面が渦を巻き始める。

上を見上げた玄奘は、渦巻きの真上に、あの赤ん坊の籠が引っかかっていることに気づく。

次の瞬間、怪魚が赤ん坊の籠を喰おうと川からジャンプするが、飛び上がった怪魚にぶつかって来た巨大なものがあった。

それは、先ほど吊るされていた巨大エイだった。

1人の漁師が機転を利かし、その綱を切ったのだった。

怪魚は川に落下し、玄奘は、今のうちにと、何層にも重なった桟橋部分をよじ上り、赤ん坊の籠に近づこうとする。

何とか、上の桟橋にたどり着き、端に引っかかっていた籠の中から赤ん坊を抱き上げた玄奘だったが、怪魚が、桟橋の根本に体当たりして来たので、バランスを崩し、先ほどのシーソー所になった下のそうの桟橋に赤ん坊を抱いたまま落下してしまう。

そこに、大きく口を開けた怪魚が飛びかかって来たので、玄奘はシーソー部分の反対側に走り、その上でジャンプする。

すると、シーソーの反対側が跳ね上がり怪魚を下から叩き付ける。

怪魚の重みで、反対側が今度は持ち上がり、玄奘は赤ん坊を抱いたまま最上階の桟橋部分に無事着地する。

赤ん坊の母親が駆け寄って来て、玄奘に礼を言いながら赤ん坊を返してもらう。

怪魚は、シーソーの端に乗っかったままだったので、玄奘は、側の瓶の側で身をすくめていた上半身裸の間抜けな道士に声をかけ、一緒に下に飛び降り、怪魚を陸に挙げましょうと頼む。

道士は手を離せ命じて来るが、玄奘はお構いなしに、そんな道士の手を逆手に取り、そのまま桟橋の端に押して行き、一緒のシーソー桟橋に飛び降りる。

しかし、2人の体重では怪魚を持ち上げることは出来ず、玄奘と道士は、逆に陸の上にはね飛ばされてしまう。

それを観ていた若者三人が、俺が行くと叫び、上の桟橋からシーソー状態になった下の桟橋に飛び降りが、同じく重さが足りず、逆にはね飛ばされてしまう。

続いて7人の若者たちが名乗り出て飛び降りるが、やはり、怪魚の重さを持ち上げることは出来ず、全員陸に弾き飛ばされてしまう。

玄奘は、背後にあった瓶の上の干し魚が振動し始めたのを観る。

次に名乗り出たのは、超デブの女だった。

桟橋に貼り付くように落ちたデブ女の重さは、怪魚を持ち上げ、最上部の桟橋部分にいた道士の真上に落ちる。

怪魚が横になると、道士の体は桟橋を貫き、川に落ちたようだった。

横たわった怪魚の大きな目にカメラが接近し、又引いていくと、怪魚の姿はいつの間にか裸の青年の姿に変心していた。

村人たちは、一斉に、殺せ!と叫びながら、その裸の青年い詰めよるが、その群集をかき分け前に出て来た玄奘が、それを制し、風呂敷を広げると、仏画や楽器を取り出し、その上に座る。

そして「児歌三百首」と書かれた古い書物を取り出すと、ひょうたんに仕込まれた小さなオルゴールのような物を手回しで廻し演奏しながら、童歌を歌い始める。

その歌を聴き始めた裸の青年は、気まずそうに横を向き視線を外すので、玄奘はその視界に入ろうと体を傾け歌い続ける。

青年が下を向くと、青年が拡げた又の間に玄奘は頭を突っ込み、下から青年の顔の下を見上げながら歌う。

すると青年は急に怒りだし、玄奘を殴り始める。

その時、突如、青年の背後から伸びた手が、青年の長い髪の毛を掴み、背後に引き倒すと、そのままボコボコに殴り始める。

それは一見か弱そうな女性だったが、性格はものすごく粗暴で、ありったけ相手を殴りつけると、腰に付けていた文様入りの布を拡げ、それを裸の青年の上からかぶせると、毛布は青年を包み込み丸まる。

その結び目を素早く女が紐で縛ると、布の中央部に開いた穴から飾り玉のような物が出て来て、その中には、小さな紙製の魚のお守りのようなものが入っていた。

どうやら、妖術で、怪魚の妖怪をそんな形に封じ込めたらしい。

その女は玄奘に近づくと、あんた誰?と聞いて来たので、妖怪ハンターと玄奘が答えながら「児歌三百首」の本を見せると、ただのわらべ歌じゃない!と女はバカにする。

妖怪の心から善を生み出す歌だと玄奘は説明するが、女は自分も段(ホアン・ボー)と言う妖怪ハンターよと言いながら小さな金の輪っかを取り出し、それをマジックのように数を増やしたり合体させたりして、玄奘を嘲笑する。

それを観ていた村人たちは、この方は本物だ!と騒ぎだし、跪いて崇めだしたので、女は、寄付は大歓迎!とあっさり受け取る。

玄奘は、その勝負に破れたことを悟り、傷心のまま町の壁に墨絵を描いていた師匠の元に帰ってくる。

師匠、又失敗しました…と力なく玄奘が報告すると、妖怪は元々善良な心を持った人間だったのだ…と師匠は教え聞かす。

子供を誘拐したどでかい魚は半人半魚でしたと玄奘が報告していると、師匠は側の木の枝に留っていた蛇を捕まえ、その毒牙を抜いて、地面に返してやる。

お前はそのよう怪の心の中の悪に勝ったんだ。赤ん坊を救ったんだろ?と師匠が慰めると、もっと救えたんです!幼女は救えなかった!まだ4、5歳だったのに!僕のせいで死んだんです!と嘆きながら、玄奘はその場に踞り泣き出す。

お前には何かが足りない…、ちょっとした何か…、いずれ分かる時が来る…。その時、わらべ歌の力が分かるだろう。修行に行け!と師匠は玄奘に命じる。

とある山の中にやって来た若いカップルは、とある大きな石窟のような建物の門の前に来る。

どうやら面食い女性の方が、何故か連れの不細工男の顔に惚れ込んでいるようでベタベタ甘えながら店の中に入ると、突然、巨大な門が彼らの背後で閉まり、ようこそ当店に!とヒゲの店員が2人を出迎える。

店内は広かったが、何故か無人だった。

店員は二人を、巨大な窯の前に案内し、蓋を開けて、中に吊るされている何本もの焼豚の様子を見せる。

やがて、2人に出された焼豚はこの世の物とも思えない美味しさだった。

柱には、奇妙な形の燭台が付いており、9本もの赤いろうそくが灯っていた。

女はそれをロマンチックだなどと言い、又不細工な男の顔が良いので、ずっと観ていたいなどと褒め始める。

不細工男はいら立ち、好きなだけ見つめていろと女と顔を見合わせる。

そこへヒゲの店員が近づき、この店の店長をご紹介すると言う。

奥の扉が自然に開き、その中に座っていたのは、顔がてらてら光っている美人のような超イケメン男だった。

若い女客はすっかりその店主の顔に魅せられてしまい、もはや、帰ろうと手を引いた連れの不細工男に興味など失ってしまったかのように、手を振り払う

店主は、テーブルに近づいてからはずっと無言で、踊りのような仕草をするだけだったが、若い女客はそんな店主に見とれてしまう。

若い女客は店主に色々話しかけるが、相変わらず何も答えなかった店主は、突然大きな口を開けて吼える。

その口の中には、人間とは思えない汚らしい歯が並んでいた。

それを観た男女の客は怯え、急いで席を立つと逃げ出そうとするが、観ると、柱の9本の蝋燭はすでに半分以上溶けており、その下に鋭い歯を9本持つ鋤が出て来る。

さらに怯えて、炉の前に逃げた2人は、その中に下がっていた焼豚は、実は豚の中に死んだ人間が埋っていたことを知る。

超イケメン店主は、壁から鋤を抜き取ると、それで2人の顔を殴りつけて来る。

月夜の晩、その店に1人やって来たのは修行に出ていた玄奘だった。

入口の門を入ると、中は客でいっぱいだったが、又背後で巨大な門が独りでに閉まる。

玄奘を案内に来たのは女店員だった。

女店員玄奘を席に案内するが、その途中、柱に刺さった鋤は、そのまま鋤にしか玄奘には見えなかったし、先客として挨拶して来た男女客は、良く見ると、斬殺された男女カップルの死体だった。

焼き窯の中に吊るされた焼豚たちも、玄奘には、人間の死体が詰まった肉のかたまりにしか見えなかった。

女店員が去った後、店内を落ち着いて見回した玄奘は、満員の客たちは全員、実は死んでいる死体であると見抜く。

席がございましたと呼びに来た女店員に、僕は妖怪ハンターだと打ち明けた玄奘は、怪訝そうな表情になった女店員の顔を殴ろうとするが、その手を左手で握って止めた女店員は、右手にメリケンサックのようなものをいつの間にか付けていた。

その女店員の顔を玄奘が殴りつけると、女店員の顔は、粘土細工のようにへこむ。

女店員は、今度はさらに刺々しいメリケンサックを取り出すが、さらに玄奘がその顔を殴ると、さらにへこむ。

顔がへこんだ女店員が、叫びながら玄奘に向かって来るが、その時、身構えた玄奘を横から押して、女店員の顔をボコボコに殴りつけたのは、川で会った女妖怪ハンター段であった。

女店員の顔を徹底的に殴りつけると、顔は弾け、粉のように空中に飛び散ってしまう。

玄奘は助けようか?と申し出るが、それを断った段は、次々と、その店にいた客たちの顔を踏みつけたり叩いたりして粉砕していく。

妖怪に操られた死体の客たちは、次々に段に襲いかかって来るが、段は構えると、あの金の輪をどこからともなく出し、それを向かって来る行きた死体たちに投じ、次々にその体を粉砕して行く。

段は、構えた両手の間で金の輪を廻し、それを何十個にも増やして、全員の死人たちを粉砕すると、戻って来た金の輪を1個にし、左手のブレスレッドのようにはめる。

段は、テーブルの下に隠れていた最後の客を発見すると、お手柔らかに!と嘆願して来た相手に飛びかかり、にっこりと微笑んだ直後、その腕を引き抜き、両足を引きちぎり、最後は首をねじ切って、全身を粉砕する。

客たちを全員倒した段が、敵の本体に出て来いと叫ぶと、あの顔がてらてらとしたイケメン主人が踊るように、段の背後から出現する。

2人は拳法で縛り戦うが、段が床に両手をつき、その下から無数の金の輪を引き出すと、イケメンの店主緒八戒も、柱から9本歯の鋤を抜き出す。

段は、二列に積み上がった金の輪を、両手を使って手裏剣のように、迫り来る緒八戒に向かって投げつける。

金の輪は、次々と、にやけたイケメン緒八戒の顔に当たり、その下の豚の素顔が出現する。

緒八戒は、鋤を回転させ、迫り来る金の輪を全部弾き飛ばす。

段は、八戒が殴りつけて来た鋤を、金の輪を繋いだ鎖で防ぐと、八戒の背後に回り込み、相手の両手を掴んで背中を蹴り始める。

すると、八戒の腹もせり出し、とうとう全身豚の緒八戒の姿が現れる。

段は、その八戒の両手を後ろ手に持ったまま、床に寝そべって相手の動きを封じると、柱の陰に隠れて見守っていた玄奘を呼び寄せ、今のうちに、妖怪の腹の中の悪を吸い出して!と頼む。

どうやって?と玄奘が聞くと、自分の口で吸うに決まってるでしょう!と言うではないか。

つまり、玄奘は今、段が後ろ手を引っ張っている醜い豚にキスして、中の悪の要素を吸い出せと言っているのだと気づく。

勇気を奮い起こして、豚に口を近づけた玄奘だったが、やはり豚とのキスは無理だった。

顔を近づけると、豚に顔を嘗められたりしたので、ごめん!無理!と玄奘が断る。

すると、緒八戒が突然、段の手を振りほどいて玄奘の胸ぐらを掴んで来たので、段は羽交い締めにする形で、八戒の脇に両手を入れ、思い切り後に引っ張る。

その結果、八戒に掴まれていた玄奘は八戒と口づけする羽目になり、そのまま口を通じて、八戒の「魔」の要素が玄奘の口の中に吸い込まれる。

金の輪が1つ落ち、苦しむ玄奘の肩をつかみ、自分の方を向けさせた段は、玄奘とキスして自分が「魔」の様子を吸い込み、持っていた文様付きの袋にその「魔」の息を吐き出す。

段はほっとするが、持っていた袋は膨らみ暴れだしたので、段と玄奘はその場を逃げ出す。

床で暴れ回っていた袋は破れて四散し、中からバッファローくらいの巨大な猪が出現する。

レストランの見えた石窟は門ごと崩壊するが、段と玄奘は、近くの川の畔まで何とか逃げ延びる。

追って来ないわ…と、背後の気配を確認した段は、傷ついた身体の手当をするため、その場で上半身裸になり、目を背けようとする玄奘の手を無理矢理自分の胸の傷口を押さえさせる。

あの豚の妖怪は強かった。賞金も最高額なのよね…などと身体を拭きながら段が言うと、目を背けながら、金が目的ではない…と玄奘は呟く。

しかし、玄奘は鼻血を出していたが、助けてくれてありがとうと段に礼を言う。

すると、段は自ら目とつぶり、女が目をつむったら、キスして良いと言う合図でしょう?したいんでしょう?とじれったさそうに言う。

玄奘が戸惑っていると、その胸ぐらを掴んだ段が引き寄せようとしたので、それを振りほどいた玄奘は、森の中に逃げて行く。

翌日、町中の師匠のもとにやって来た玄奘は、夕べの話を打ち明ける。

段との話を聞いた師匠は、鳥ももを取り出し、喰いたい?と玄奘に聞くと、仏門の教えに反しますと言って玄奘は拒否する。

すると師匠は、その鳥ももを美味しそうに食べながら、お前は欲しいのにいらないと言う。それがお前の足りない所だ…と諭すが、師匠はその鳥ももを横で売っていた屋台の女将から、金を出せ!と殴られたので、その場を逃げ出す。

師匠は勝手に、屋台の鳥ももを喰っていただけだったからだ。

師匠はヅラを落としそうになりながら逃げるが、それよりも早く逃げていたのは玄奘だった。

師匠が描いた墨絵がたくさん貼られた壁の所に戻って来た玄奘は、貼ってある絵の中に緒八戒の絵もあったので、この妖怪に付いて知っているのですか?と聞くと、女房がイケメンの男と浮気したので、9本の歯がある鋤で女房を殺した男の成れの果てで、男が一番憎んだイケメンの姿に化けていると師匠は言う。

あの妖怪を倒すにはどうすれば良いのでしょうか?と玄奘が聞くと、あれを倒せるのは会うの中の王だけだ。お前はその王を見つけなければならない。

その孫悟空と言う王は、500年前、仏によって五指山の麓に閉じ込められた。

寺の側には1300丈の高さ、156丈の幅のある仏像があるのが目印だ。さっさと探しに行けと師匠は命じる。

さらに師匠は、孫悟空は悪知恵に長けており、狡猾で嫌な奴なので気をつけろ!これを使えと玄奘に言い渡し、いつもの「児歌三百首」の本を手渡す。

夜、森の中を歩いていた玄奘は、獣罠に足を引っかけ、竹に吊り下げられる。

そこに近づいて来たのは、大きな金属製の鬼面のような物を前面に付けた不思議な乗り物だった。

停まったその車から降りて来たのは、忍者のような女や山賊のような風体の男たちだった。

子供のような小柄な男が手裏剣を投げ、玄奘を吊るしていた綱を切断、玄奘は地面に落下する。

玄奘は、子供のような小男が、首に金の輪を付けているのを観て、段を思い出す。

その時、車の中から、山賊たちに掴まっていた連中が外に出される。

その中には、あの段も含まれており、拷問を受けたらしく、傷だらけの顔で、何も言うなと言う風に玄奘に首を振ってみせる。

忍者のような覆面をした女が、顔を出し、お前は妖怪ハンターか?と捕虜の男に聞いて来る。

そうだと答えると、女はその場でその男を斬り殺す。

次に、あんたは?と聞かれた玄奘は思わず、僕…と言ったきり黙り込むが、その時、待って!私の夫よ!と横から答えたのは段だった。

この人は音楽の教師よと言いながら、玄奘の持っていた「児歌三百首」の本を出させる。

すると、女盗賊は、なら、夫婦と証明しろと命じる。

こんな人前で?と段はためらうが、山賊は、早くやれ!と段の頬を叩く。

見かねた玄奘は、やるよと言い、服を脱ぎかけるが、やはり出来ないと拒否。

女山賊は、側にいた捕虜の頭を斬りつけ、捕虜は脳天から多量の血を噴き出しながら倒れる。

それを観た玄奘は、獣め!と嘲る。

そんな玄奘に、来るのよ!と叫びながら段がつかみ掛かって来るが、段は両手の平を楔で繋がれていたはずなのに、玄奘の両肩を掴めるのはおかしい?と玄奘は気づく。

慌てて、両手を又合わせた段の手の甲から突き出ていた楔を玄奘が引っ張ってみると、単に吸盤でくっついていた小道具だったことが分かる。

ぐるだったのか…と玄奘は気づき、芝居が全部バレたと気づいた山賊や捕虜たちも一斉に立上がる。

今、頭を切られて血を噴き出していた捕虜も立ち上がり、笑顔で段に近づいたので、段はビンタする。

すると、その男の首に仕掛けられていた血のり噴出装置が勝手に作動し、又首元から血のりが噴き出す。

全てが台無しになったことにいら立った段は、その男に血を止めなさいよ!と切れるが、装置が不調らしく、止めようとしてもすぐ血のりが吹き出して来た。

あんたら、使えないわ!と段は怒りだしたので、他のメンバーたちは、すみません、首領!と跪いてかしこまる。

首領?とその言葉を聞いた玄奘は、段に事情を聞く。

実はあんたに惚れちゃってさ~…、ほら、前にキスしたでしょう?などと段は自分で勝手に妄想したことを打ち明ける。

それを聞いた玄奘は、僕の平凡な夢は妖怪退治、私は大いなる愛の為に生きている。男女間の色恋とは別の物です。あなたには絶対理解出来ないでしょう…と冷静に答え、その場を立ち去ろうとする。

すると、段も、私も妖怪ハンターよ。夢は好きな人と結ばれ、幸せな家庭を作ること…と言うので、玄奘は、狂ってる…と呆れる。

そんな玄奘を捕まえた子分の1人が、この男どうしますか?と聞いて来たので、振られて頭に来た段は、捕まえろ!と命じる。

玄奘は、車の中の牢に入れられる。

車の外では、先ほどから、首の血のり装置が壊れた男が色々仲間に話しかけていたが、首から血が噴き出している男の話など、誰も聞いてなかった。

一方、忍者姿だった妹分の山賊と近くを散歩していた段は、私を振ったあの男、失礼だと思わない?と恋の悩みを相談していた。

どこに惚れたの?と妹分が聞くと、あいつは妖怪を殺すのではなく、善に導くなどと言っている。そこがカッコ良いのよなどと段はのろける。

すると、妹分も、それ、分かるわ~!などと女子同士、意気投合する。

もっと姉さんは、女性らしく見せれば良いのよと妹分はアドバイスするが、段は、空手の構えのような勇ましいポーズしか出来ない。

それを観た妹分は、セクシーに見えるポーズと言うのを自ら作ってみせ指導するが、段は、そんなの自分には無理だと言う。

だったらこれ使ってみて!と妹分が取り出したのは、人型の紙人形2対で、これは服従シールと言い、この一方を持っていると、もう一枚を持った方の動きと同じ動きをするのだと言う。

試しに、そのシールの片方を背中に貼付けた段は、妹分と全く同じセクシーポーズが出来るようになる。

牢の中にいた玄奘は、段がセクシーなポーズを取りながらやって来ると、便所に行かせてくれ!と頼む。

その牢の側の鬼面の所で、妹分がセクシーポーズの基本形を取っていたが、そこに、首から血しぶきを飛ばしまくっているあの男が何とかしてくれないか?と助けを求めて来たので、向こうに行ってよ!私にかかっちゃうじゃないの!と妹分は怒りだす。

すると、段の方も、服従シールのせいで、突然、玄奘に、私にかかっちゃうじゃない!と食って掛かる。

妹分が、栓でもしときなさいよ!と血しぶきのことを指摘すると、段も、栓でもしときなさいよ!と文句を言ったので、玄奘は信じられないような顔になる。

妹分は、血しぶき男に、栓がないなら引き裂くわよ!と怒鳴ると、段も同じように言ったので、信じられない言葉だ!と玄奘は驚くが、妹分が、しつこく迫って来る血しぶき男を殴り始めたので、段も玄奘を殴り始める。

その時、段の背中から服従シールが剥がれたので、我に返った段は、ごめんなさい!私なんてことを!と嘆き、恥ずかしさのあまり逃げていってしまう。

剥がれたシールは、何と、倒れた玄奘の背中に貼り付いてしまう。

そこに、男の子分たちが来て、首領に何したんだ?と文句を言うが、その時、妹分が悩殺ポーズを取り始めたので、シールが貼られた玄奘が従い始め、悩殺ポーズを取り始める。

やがて、上半身をはだけ玄奘が踊り始め、子分たちに迫って来たので、この変態野郎!と言いながら、耐えかねた子分2人は殴りつける。

そこに妹分がやって来て、何やってんのよ!と子分を止める。

外に出された玄奘は、僕を罠にかけるなんて!と妹分に文句を言うが、その時、外にいた段が、静かにするように指を口に当てて知らせる。

車の付いていた呼子用の糸車の糸が森の中に引かれていたのだ。

何かが罠に引っかかったに違いなかった。

子分たちは、獲物に繋がった糸を引き戻すように、仕掛けを廻そうとするが、ものすごい力で逆に引っ張られ、子分たちははね飛ばされてしまう。

さらに、糸車は猛スピードで引っ張られていたので、車に乗っていた段は、玄奘を掴んで外に飛び出す。

次の瞬間、糸車は壊れてしまう。

森の中から姿を現したのは、あの巨大な猪、緒八戒だった。

段と子分たちは車に乗り込むと、鉄血システム作動!と叫ぶ。

子分たちが大きな革袋の周囲を囲み、1人が袋に付いたチューブから革袋に空気を吹き込み膨らませると、他の子分たちが大きな木槌で袋を叩き、その袋から出た空気が、車の仕掛けを廻し、動力になると言う、近代的なのか原始的なのか良く分からないシステムだった。

猪が追いかけて来たので、鉄血システムはフル稼働を命じられる。

子分たちは必死に膨らんだ袋を叩き続けるが、やがて間違って、空気を吹き込んでいた男の頭を叩いてしまう。

それで、一挙に車は停まってしまうが、袋の中に頭を突っ込み気絶した男はすぐに目覚め、又、鉄血システムはフル稼働する。

一旦、猪を振り切ったと思われたが、操縦を担当していたチビの子分は、前方に猪が先回りしていたことに気づく。

チビからそのことを聞いた段は、突っ込むのよ!と命じ、一緒に乗っていた玄奘を、背後の窓から外に押し出す。

玄奘は背後に投げ出され、猪と正面衝突をした山賊の車は木っ端みじんに砕け、中に乗っていた子分たちは外に叩き付けられる。

玄奘は、壊れた車の所で倒れていた段を抱き起こし、段!死なないでくれ!と泣き始めるが、段はぱっちりとめを開くと、引っかかったわね!やっぱり私を愛していたのね!と喜びながら抱きついて来る。

玄奘も、何となくすっきりしない気持ちのままそんな段の背中に手を廻し、良いムードになりかけるが、そこに巨大な緒八戒が近づいて来る。

段は、それに気づくと真顔になり立上がると、投げ出されていた子分たちも集結して来る。

その時、巨大猪の横の森の中から、巨大な虎が近づいて来る。

実は、虎かと思ったのは、虎のポーズを作っていた少林寺使いの男だった。

男は、猪の牙を掴み、蹴り倒すと、続いて蟷螂拳のポーズを取る。

すると、男の背後に、巨大なカマキリのイメージが出現する。

蹴り倒された猪は逃げ去るが、男がその後を追おうとすると、別の男が回し蹴りを入れて来る。

新しい男は白髪の老人で、地面に付いた足跡は巨大だったが、老人の左足は何故か血まみれ、右足は異様に小さいため杖をついていた。

足爺と呼ばれる妖怪ハンターだった。

邪魔するのか?と男が聞くと、この辺は俺の縄張りだと足爺は言う。

二人が言い争いながら近づこうとすると、両者の間を引き裂くように巨大なナイフが飛んで来る。

靄の中から接近して来たのは、花を撒く女たちが持った輿に乗った何者かだった。

段たちが目を凝らすと、輿を持っていたのは皆ノーメイクのおばさんたちで、乗っていたのは、病身っぽい妖怪ハンター空虚王子(クリッシー・チョウ)だった。

今夜は満月、豚の妖怪は月の力を受けて最強になっている。私以外の誰が倒せる?私は孤独な妖怪ハンターだなどとキザなことを言いながら空咳をする。

少林寺男も足爺も、同じ妖怪ハンター仲間の空虚王子の事を知っていたらしい。

空虚王子は、周囲で花をまいていたおばさんたちに、もうまかなくて良いと命じたので、雇われて輿を持っていたらしいおばさんたちは、現実的なことを聞き、王子に迷惑がられる。

空虚王子がおばさんとくだらない口論を始めたので、玄奘が前に出て、あなた方は皆凄い技術を持っているのに、何故、互いに協力し合わない?満月で妖怪が強くなっているなら、協力するしかないのではないですか?と言葉をかけると、お前はコ○キか?と空虚王子が聞いて来たので、コ○キではないと玄奘が答えると、食べ物を恵んでやれと、空虚王子はおばさんに命じる。

その玄奘の言葉を背後で聞いていた段は、良いこと言うわ!私もあなたに協力する!と言いながら近づいて来たので、あなたは私の仏門への道の邪魔です。消えて下さいと玄奘は頼む。

私何か悪いことした?と段は落ち込むと、私の「児歌三百首」を返して下さい!と玄奘は頼む。

それを聞いていた空虚王子は「わらべ歌?」と呟き、横に立っていたおばさんが、急に即興のわらべ歌を歌い出す。

玄奘がさらに強く、返せ!と迫ったので、頭に来た段は、その場で「児歌三百首」の本を取り出すと、玄奘の目の前で粉々に破り捨ててしまう。

思わず段を殴ろうとした玄奘に、子分たちが飛びかかってきそうになるが、それを押しとどめた段は、ぶって!と自ら顔を差し出して来たので、手を引っ込めた玄奘だったが、そんな情けない玄奘に段は絶望したのか、殴ったり蹴ったりして来る。

それで妖怪ハンター?と嘲った段は、つばを吐きかけて、空虚王子の方へ立ち去る。

空虚王子の方も、突然、見知らぬ女から言い寄られ、迷惑そうな素振りをするが、あくまでも、玄奘への当てつけでしかなかった段は、そのまま立ち去って行く玄奘の姿を寂し気に見送っていた。

突然立上がった段は、突然、反対方向へ歩き始めたので、手下たちが首領と呼びかけるが、段は振り向きもせず去って行く。

空虚王子は、近くに来た段の妹分の方にも声をかけてみるが、全く相手にされなかった。

玄奘はサトウキビをかじりながら旅を続けていた。

やがて玄奘は、目的地である五指山に近づく。

とうとう、五指山の麓の寺にたどり着いた玄奘だったが、師匠に言われた荒れ果てた寺の側には、高さ1300丈、幅156丈もの仏像など影も形もなかった。

寺の周囲は、荒涼とした谷と山が連なるだけで、人っ子一人いない場所だった。

寺の前の石瓶にたまっていた水で顔を洗った玄奘は、その水に、瓶の縁に刻まれた文字が写り込んでいることに気づく。

「鏡花水月」と書かれてあった。

それを読んだ玄奘は、心を落ち着かせるため、寺の裏手で座禅を組んでみる。

しばし目を閉じ、心を落ち着かせた後、目をそっと開けて前を見渡すと、向うの山が湖に映り、ちょうど合掌した仏様が横になっておられる姿に見えた、

玄奘は、その山を1人黙々と登って行くと、ちょうど横たわった仏様の合掌した手の甲部分に当たる山頂付近に、蓮の花が咲き乱れる一角があった。

ピンクの蓮の花の中、1本だけ、岩の上に真っ白な花を咲かせていた蓮があった。

良くその根本を観てみると、岩の中央部分に穴が開いており、白い蓮は、その穴の中から生えているのが分かる。

穴の下は空洞のようになっており、玄奘は思い切って、その穴の中に入ってみる。

ランプを持ち上げて、周囲の様子を確認しようとした玄奘に、突如、嬉しそうに走り寄って来て、抱きついたハゲ親爺がいた。

放せ!僕はここで孫悟空を見つけなければいけないんだ!と叱りつけると、俺だ!俺が孫悟空だ!とそのハゲ親爺が言うではないか。

あまりにも想像とは違った様子に驚いた玄奘だったが、お目にかかれて光栄です。私は玄奘と申しますと挨拶をする。

悟空は、そんな玄奘の身体に、懐かしそうにまとわりつき、500年振りに人が来た!と喜ぶ。

先生、落ち着いて!と玄奘が迷惑がると、ようやく落ち着いたのか、非礼を詫びた悟空は、玄奘に座るように勧める。

悟空は、あなたはイケメンですねなどと玄奘をおだてたので、先生は少し、ご様子が変わられましたね?と玄奘は答える。

すると悟空は、500年前…、俺は普通の猿だった…と思い出話を始める。

俺はちょっと大日如来ともめて、ここへ落とされた。

だが、俺は悪かったと反省し、俺自身をこの狭い穴の中に閉じ込めた。

そして、大日如来の教えを学んだ。

観てみろ、今の俺の中には「魔」の要素など全くない。真善美を会得したのだ。

そう、大日如来は素晴らしい!と悟空は言う。

それを聞いた玄奘は安堵し、僕がここに来たのは、先生とお話がしたかったのです。どうか、緒八戒を飼いならす方法を教えて下さい。彼はたくさんの人を殺しましたと頼む。

方法は知っていると答えた悟空は、壁に貼ってあるお札を指差す。

この護符にはおまじないの言葉が描いてある。これのために俺は天国からここへ落とされた。それはあらゆる魔物たちを殺すと言うので、でも僕は彼を殺したくありませんと玄奘は困惑する。

私ののぼ身は、彼の内なる真実から、正義と美を目覚めさせたいのですと玄奘は説明する。

そうだ!俺はそう言わなかったか?それは正に真実を掘り起こすんだよ!と悟空は言う。

玄奘は、孫先生、この護符は大日如来が先生を封印しているのでは?と聞くと、悟空は悔しそうに顔をしかめると、急に真顔になり、あなたは私の贈り物を断ることによって、私を怒らせた!と言い、睨みつける。

お前は俺が誰だか知っているのか?お前は花果山の13人の悪党の話は知らないのか?そのナンバー1が俺様だ。

そのことの俺は、水瓜刀を片手に持ち、南天門から蓬莱小路まで三日三晩往復し、人々を切り刻み、その間の道は血の川状態になった。

お前の目を潰してやろうか?その目をドアイアイにしてやろうか?などと、悟空は玄奘を脅して来る。

悟空の態度の豹変に怯えた玄奘は、孫先生、落ち着いて下さい!となだめる。

悟空は、言うことを聞かないとこうなるぞ!と言いながら、三本の竹を手に取ると、それを手刀で一気に割ろうとするが、割れないので、2本にし、それでも割れないので1本にした竹を追ってみせる。

どうだ!観たか!と竹を差し出した悟空だったが、竹を殴った右手からは血が出ていた。

玄奘は、土産に持って来たドリアンを差し出すが、悟空の不機嫌は収まらない。

堪り兼ねた悟空は、自ら護符を引きはがそうとするが、悟空の身体に電流のような物が走り、彼は弾き飛ばされる。

俺をここから出せ〜!と穴の上に叫び、ジャンプして脱出しようとした悟空だったが、穴の内側に生えていた植物の根のような物が彼に絡み付き、電流攻撃の末、落下した悟空に鞭のように殴りつける。

電気鞭のような根に鞭打たれた悟空は泣き叫んで苦しがる。

500年だぞ!一体いつまで俺を閉じ込めておくんだ!俺は変わったんだ!俺は学んだ!大日如来、俺を信じられないのか?と穴の上に向かって叫ぶ。

孫先生!心から善行を行えば…、豚を倒せばチャンスです!と玄奘は悟空に言い聞かせる。

それを聞いた悟空は、500年も閉じ込められていて、ちょっとすねていた。その間、大好きなバナナ1本くれなかったんだ…と言うので、玄奘はさっと持っていたバナナを手渡す。

すると、悟空はそれを手にし、豚の魔物をここにおびき寄せたいんだろう?と急に真顔になって聞いて来る。

奴は、浮気した女房とその愛人で傷ついたが、奴は今でも妻を愛している。奴はいつも、満月の下で踊る妻の踊りが好きだ。彼は愛の歌まで作っていたくらいだ…。

つまり、ことは簡単だ、可愛い女性を一人連れて来て、満月の下で歌って踊らせれば良いんだ。そうすれば緒八戒も、自然に現れる…と言いながら、悟空はバナナの皮を剥き始める。

そこに突然降りて来たのは段だった。

私が必要でしょう?可愛い女が必要だとか?と段が迫って来たので、可愛いじゃん!と悟空は喜ぶ。

それを聞いた段は、先生、分かってるわね〜と喜び、悟空に近づくと、悟空は慣れた様子で段を口説き始める。

持っていたバナナまで、プレゼントだなどと言いながら段に手渡す始末。

そんな段と悟空のいちゃつきを旗で呆れたように観ていた玄奘は、先生、緒八戒を退治に行きましょうと言いながら引っ張っていこうとするが、悟空は軽くはねつける。

悟空が君、踊れる?と聞くと、段はいつものように、男勝りの空手の技を見せる。

それに驚いた悟空は、良いね!と褒めながら、そのまま踊りのステップを段に教しえ始める。

悟空は、良いね!と段をおだて、段はそれを真に受けたかのように喜ぶ。

その夜は満月だった。

地上に出た段は、白い服を身につけ、満月を背に岩場の上に立つ。

蓮畑の中にいた玄奘は、ひょうたん型オルゴールを廻し、音楽を鳴らす。

その調べに乗り、歌い踊り始める段。

穴の中では、悟空がバナナを食いながら、上の様子をうかがっていた。

月下の段の姿をうっとり見上げる玄奘は、いつしか、ひょうたんを落としていた。

その時、獣の鳴き声が遠くから聞こえ、緊張する玄奘と段。

玄奘の背後の蓮畑の中に突然緒八戒の巨大猪が出現し、襲いかかって来たので、岩場から飛び降りた段は、玄奘を抱えて大きくジャンプする。

その時。穴の中から、緒八戒よ!俺だ!久しぶりだな!と悟空の呼び声が聞こえて来たので、怒り猛った猪が頭を穴の中に突っ込んで中を覗き込もうとすると、いきなり猪の身体が穴の中に吸い込まれてしまう。

玄奘たちが穴の中に戻ると、孫悟空が小さな子豚を抱いて笑っていた。

段は、いつもの風呂敷で、その子豚を包むと、中央の部分から金属の飾り玉を抜き取り、その中に入っていた豚のお守りのような物を引き上げる。

これで、2人の妖怪が集まったわ!と段は喜び、沙悟浄人形と緒八戒人形を玄奘に渡すと、顔を上げ目を閉じてみせる。

忘れたの?オンアが目を閉じたときはキスするものよ!と段が言うので、玄奘は戸惑う。

側で聞いていた悟空が、段ちゃん、何か手伝おうか?と聞いて来るが、段はあっさり手を振って断る。

段は、私変わったの。優しく、女性らしくなったのよと言い、腕輪としてはめていた金の輪を取り外し、小さな指輪状にすると、それを玄奘の左手の薬指にはめて来る。

何の真似だ?と玄奘が聞くと、私たち結婚したのよ!それは私からの愛の贈り物!などと言うので、玄奘は側にいる悟空の目を気にしながらも、その指輪を抜こうとする。

取れないわよ、それ!と段が嬉しそうに言うので、玄奘は、近くにあった石を掴み、自らの左手の指を潰そうとする。

何するの!と段が聞くと、僕は愛してない。結婚を望んでもいない…、僕はこの指輪を取りたいので指を取り除くのだと玄奘は答える。

それを聞いた段は哀しそうに、玄奘の右手を止め、左手の指輪を抜き取ってやる。

分かったわ…と言って引き下がった段は、持っていた「児歌三百首」の本を取り出すと、あの後、拾い集めて、三日かけて何とか修繕したけど、私、字が読めないから、元通りになっているかは分からない…と言いながら差し出して来る。

うらない!と受け取るのを拒否した玄奘は、孫悟空から、彼女、行ってしまったぞ。もったいない!良い身体してたのに…と惜しそうに告げられる。

どうして分かるんですか?と玄奘が聞くと、観りゃ分かるよ!お前、観る目がないな…と悟空は当然のように言う。

玄奘は、悟空に礼を言い、お前、大丈夫か?と悟空に言われても、大丈夫です!と気丈に答え、穴を上って蓮畑に戻る。

しかし、玄奘は大丈夫ではなかった。

さっきの月下の岩場に、段が戻って来た幻影を観ていた。

段は自分に向かって微笑みかけて来たが、それはすぐに消え去えい、上空の満月だけが見えた。

傷心のまま、白い蓮が咲いた岩場に腰を降ろした玄奘に、今晩は良い月でしょうね?と穴の下から悟空が話しかけて来る。

満月です!と玄奘が答えると、素晴らしい!ここからいつも満月を観ようとするんだけど、穴を塞いでいる蓮の花がじゃまでずっと見えないんだよと悟空が嘆くので、玄奘は気を利かしたつもりで、穴を覆っている白い蓮の花を全部抜いてやる。

すると、突然、手にした白い蓮の花が燃え始める。

驚いて放り投げると、火はあっという間に蓮畑全体に燃え広がる。

穴の底では、巧く引っかかりやがった!と悟空が満足そうに笑い出す。

やがて、穴の中から火の玉状の物が空中に飛び出して来る。

空中に上った火の玉は、玄奘が立っていた岩場に降りて来て、京劇の衣装を着た小さな猿の姿になる。

猿は玄奘の胸ぐらを掴むと、山の下に放り投げる。

事情に頭から墜落する寸前、玄奘の身体は空中に止る。

目の前には猿の足下が見えていた。

猿が掴んでいた足を話、空中で玄奘の身体を回転して着地させる。

玄奘は、目の前にいる小さな猿こそ、孫悟空の真の姿であることを悟る。

バナナ一本で俺を飼いならしたと思うなよ!これが俺の真の姿だ!俺はとうとう大日如来の封印から逃れたぞ!と悟空は怒りまくるが、仏様は観ていられるよと玄奘が言うと、悟空は天を見上げる。

月が雲に隠れていたので、地獄へ堕ちろ!と悟空が絶叫すると、凄い突風が起き、玄奘は弾き飛ばされ、上空の雲も流れ満月が姿を現す。

地面に叩き付けられたことで、立てなくなった玄奘は、血反吐を吐きながらも、その場に正座し、合掌して念仏を唱え始める。

そんな玄奘に態度に怒った悟空は、玄奘の髪の毛をどんどん引き抜き始める。

その痛みに耐え、なおも合掌する玄奘。

とうとう、悟空にほとんどの髪の毛をむしり取られた玄奘は、坊主頭同然になるが、それでも合掌する。

そんな玄奘の態度を理解出来ない様子の悟空だったが、その時、背後に人影を感じ振り向くと、そこには、少林寺男、足爺、空虚王子の妖怪ハンタートリオが立っていた。

伝説の孫悟空先生ですか?と空虚王子が声をかけ、千載一遇のチャンスだ!京劇の衣装ですか?などと他の妖怪ハンターたちも悟空に話しかけて来る。

そして、誰が最初に悟空と戦うかを決めるじゃんけんを始めたので、悟空は怒りで吼えるが、あっさり少林寺男が最初の対戦相手だと決まる。

虎のポーズを決め、悟空を挑発した男だったが、飛びかかって来た悟空に、あっという間に首筋を喰い破られる。

動物じゃ勝てんよと言いながら、血まみれの口を動かす悟空。

その勝負を観ていた足爺は、狂った猿め…と嘲笑し、俺が踏みつぶしてやると笑うと、大きく背後にジャンプし、崖の中腹に降りる。

大きく深呼吸して、気を右足に集めると、小さな足の下に、巨大な足が出現する。

悟空はそれを観て驚き、足爺は大きな足でジャンプして地面に着地すると、大きな足で回し蹴りを放って来る。

悟空は、その蹴りで少し後退するが、それを観て勝てると思ったのか、足時言いは愉快そうに笑いながら、悟空を踏みつけようと大きくジャンプして来る。

しかし、悟空はびくともせず、地面に着地した足爺の巨大足を大きな釘を踏み抜いたようにパンチで貫く。

痛みに絶叫した足爺の顔を、今度は大きくジャンプした悟空が回し蹴りし、足爺は、空虚王子の足下まで飛ばされる。

足の痛みに泣き出した足爺をなだめながら、空虚王子は、自分用の道具箱を開ける。

その中には、王子の得意技であるナイフが何本も入っていた。

空虚王子は、奈央も目の前で足を投げ出し泣き叫んでいる足爺をどっかへ連れてってくれと、付き添いのおばさんに頼む。

おばさんはまたも、どうすれば良いの?はっきり言ってよ!としつこく聞いて来たので、この男をどけてくれ!と頼むと、おばさんたち全員で足爺を抱え、輿の後に放り投げる。

邪魔者がいなくなった空虚王子は、道具箱の中のナイフを一本、軽く飛ばしてみる。

ナイフは飛んでいくうちに徐々に大きくなり、太刀の大きさになって悟空の顔の横をかすめ飛んだので、悟空は軽く避けながらその刀を掴むが、勢いの付いた刀は止めきれず、そのまま引っ張られて上空まで持って行かれる。

空虚王子はさらに8本ものナイフを放つ。

8本のナイフは剣状になって、空中に持ち上げられた悟空の後を追うように上昇して行く。

空中にいた悟空の周囲に留まった8本の剣は、一斉に悟空を刺そうと襲いかかって来る。

悟空は掴んでいた剣から手を離し、飛んで来た剣からも身を避け、事情に落下するが、9本の剣はその後を追って振って来る。

地面に追突寸前、大きくジャンプした悟空は追って来る剣をかわしながら、如意棒を取り出し、遅い来る剣を次々に弾き飛ばす。

空虚王子は、念力で、空中を飛んでいた剣を全部合体させ、巨大剣に変型させ、そのまま悟空に向かわせる。

悟空は、如意棒の端で、その巨大剣の切っ先を受け止め、空虚王子の念力との力合戦になる。

王子の念力が勝ったのか、悟空は如意棒を弾き飛ばされるが、巨大剣は、悟空の胸に当たった途端、グニャグニャに折れ曲がって、悟空を貫けないどころか、悟空の気合いで砕け散る。

悟空が吼えると、その背後にキングコングのような巨大ザルの幻影が出現する。

力負けした空虚王子の身体は、輿の上まで弾き飛ばされ、お付きのおばさんたちはさっさと逃げ去ってしまう。

輿の上で気を失った空虚王子に迫り来るキングコング…、実は大きくジャンプしながら近づいて来た孫悟空は、今日は楽しませてもらったと優しい声で話しかけて来る。

倒れていた足爺と空虚王子は怯えるが、王子は、実は私先生のファンでして…などとお世辞を言ってごまかそうとする。

しかし、悟空が吼えると、空虚王子も足爺も、共に一瞬に身体が燃えて灰になり、消えてしまう。

悟空は、まだ跪いて合掌していた玄奘の元に飛んで来ると、次はお前だ!と睨みつける。

その時、玄奘の背後に隠れていた段が、大きくジャンプして玄奘を飛び越えると、悟空に足蹴りを食らわす。

彼を苦しめる奴は私が許さない!と言うと、段は、得意の金の輪を出現させ、次々に悟空に飛ばして来る。

しかし、悟空の身体に触れる前に、金の輪は全部砕け散ってしまう。

右手で殴り掛かった段は、あっさり悟空に受け止められ、骨折してしまい、キックした足も骨折したのでその場に倒れ込む。

逃げろ!君の力では敵わない!と玄奘は叫ぶが、気丈にも立上がった段は、片足を引きづりながらも前進し、何よ!彼に何をしたの?と言いながら悟空に詰めよるが、悟空は両手で段の頭を挟むように叩く。

段はその場に崩れ落ちかけるが、悟空がその身体を突き飛ばし、玄奘の側に段の身体は落ちる。

足が利かない玄奘がその側に這いよると、口から血を流した段が何か言おうとしているので耳を近づける。

すると段は、又あんた引っかかったわね!あんたまだ私のこと愛してる?とか細い声で聞いて来る。

玄奘は、君を愛している!愛してるんだ!と答えたので、どのくらい?と段が聞き返すと、とてもだ!始めて会ったときからずっと君のことを考えていたと玄奘は答える。

いつまで愛してる?と段が聞くと、1000年…、10000年!と答えたので、一万年?長過ぎるわね、今私を愛してる?と段は聞き返し、目を閉じる。

玄奘は泣きながら、死んだ段の身体を抱きしめる。

そして、段の死に顔を観た玄奘は、女の子が目をつむったときは、キスするものよといつも言っていた彼女の言葉を思い出し、死んだ段にキスをする。

そして、彼女の左手にハマっていた金の輪を抜き取ると、それは小さな指輪状になって、玄奘の左手の薬指にハマる。

その時、死んだ段の身体を掴んだ悟空は、その身体を空中に放り投げ、段の身体は空中で光になって砕け散る。

どうだ?愛した女は消えてなくなったぞ。大日如来は助けてくれたか?と、嘆き哀しむ玄奘にからかうように聞く悟空。

玄奘は、金の指輪をはめた左手で、落ちて来る光の粉を受け取るが、その時、地面に落ちていた「児歌三百首」の本に気づく。

まだ救いがあると思っているのか?と悟空は嘲笑して来るが、次の瞬間、悟空は異常を察知し身構える。

座禅のポーズを取った玄奘の体全体が光り始め、玄奘の前に置いてある「児歌三百首」を、無学な段が並び替えた文字が「大日経」になっていたのだった。

悟空は怯え、如来!と玄奘に向かって叫ぶ。

地面が剥がれ、大きな岩の破片が玄奘に襲いかかるが、光り輝く玄奘の身体に接触する前に四散する。

大日経の本は自然に開き、玄奘がそれを読んでいた。

悟空の背後の崖が崩れ出し、崖の中に横に埋っていた仏像が起き上がる。

大如来!俺がぶっ壊してやる!と叫んだ孫悟空は、巨大な仏像に向かって飛び上がる。

仏像の巨大な手は動きだし、悟空を捕まえようとする。

悟空は大きくジャンプして、巨大仏像の頭頂部に降り立つと、強力なパンチで仏像の脳天を撃ち砕く。

仏像はヒビが走り、砕け落ちる。

地面に落下した仏像の破片の上に降り立った悟空は、勝ち誇ったように叫ぶが、大日経を読む玄奘の姿はますます光り輝いていた。

観ると、彼の背後の山の向こうに巨大な如来像が出現する。

宇宙規模に巨大な如来像は、地球に向かって右手を掲げる。

その右手のパワーで大気圏の雲がなぎ払われ、五指山の悟空が見えて来る。

地上にいた悟空は、全身のパワーを集中し、衣装は砕け散り、巨大なキングコングの姿になる。

地面と胸を叩いたコングは、空から降りて来た巨大な如来の手に向かって吼える。

如来の手はどんどん接近し、その大きさは無限大だった。

赤く灼熱した如来の手のひらを地上で受け止めようとするコング。

一旦は持ち上げかけたと思われたが、コングの身体は地面に押し込まれてしまう。

気がつくと、悟空はハゲ親爺の姿ではなく、黒髪の青年の姿になっており、周囲は美しい草原に変貌していた。

あまりの状況変化に身をすくめている悟空の元に近づいて来たのは、白い衣装を着た玄奘だった。

すっかり従順になり、無言で玄奘の前でかしこまった悟空に、玄奘は、自分の左手の指から金の輪を外す。

すると、小さな金の輪は少し大きくなり、それを玄奘はおとなしくなった悟空の頭にはめる。

金の輪は形を変え、「緊箍児(きんこじ)」になる。

悟空はすっかり怯えたようになり、玄奘の身体にすがりついて来る。

玄奘、やっと愛を悟ったか?と師匠が聞くと、男女の愛も大いなる愛の一つです。愛に大きいも小さいもない…、今やっと私はそのことに気づきましたと玄奘は答える。

足りなかった何かを悟ったな。天竺への旅へ出ろ。今日からお前は三蔵と名乗れと玄奘に言い渡した師匠は、お供の沙悟浄、緒八戒、孫悟空に、お前たちは夫々の力を使って三蔵を守るのじゃと言い聞かせる。

(「Gメン’75」のメロディが鳴り)旅姿になった三蔵一行は、天竺に向かって旅立って行く。

三蔵は空に目を向け、そこに、失った段の姿を観るのだった。


 

 

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