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お嬢さんの散歩道

昔は良くあった「女中もの」で、上映時間50分の中編作品。

明るい女中さんが、家族みんなの信頼を得て、色々問題がある家庭を改善して行くと言う展開は、何だか「コメットさん」などを連想させるものがある。

「コメットさん」(1967~)の原点は「メリー・ポピンズ」(1964)辺りだと思うので、直接の影響はないと思うが、「ヤエ子の女中」シリーズなどの明朗版と言った方が近いかも知れない。

昔の少女マンガのような内容と言ってしまえばそれまでだが、単純明快で明るい内容は、今見ても楽しい。

この作品のキャストロールでは、松尾嘉代さんが(新人)と書いてあり、同年5月1日公開の作品「美しき別れの歌」では、笹森礼子さんの方が同じく(新人)と書いてあったので、笹森さんの方が1ヶ月ばかり松尾さんより先輩に当たるらしい。

この作品での松尾さんは、まだ幼い顔立ちと言うか、後年の妖艶なイメージとはかなり違う風貌をしている。

有閑マダム風の宮城千賀子さんや、ちょっと気が弱そうな亭主役の清水将夫さんはなかなかの適役だが、靖子の恋人青野役を演じている伊藤孝雄さんはかなりのハンサムでかっこ良い。

普段はくせのある悪役が多い土方弘さんが、同じ悪役風でも、キザなマスコミ関係者を演じているのも珍しい。

当時の日活が、笹森礼子さんを、何とか清純派のお嬢様イメージで売り出そうとしていた雰囲気が伝わって来る作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーを最後まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、日活、関屋清+浦山桐郎脚本、堀池清監督作品。

白い木彫レリーフ風会社クレジットに続きタイトル

高美アリサの歌う主題歌とキャスト、スタッフロール

田園調布駅を降り立ったセーラー服姿のまり子(笹森礼子)は、地図を描いたメモを片手に、高級住宅街の中の坂道を目指す家を探しながら歩いて行く。

里見靖子(松尾嘉代)は、自分の部屋でピアノを弾いていたが、叔母の華子(宮城千賀子)に呼ばれ、今日が何の日か分かってるんでしょう?お風呂ぬるかったわよ。私の着物違うんじゃない?私の発表会と言うだけじゃないのよ。あなたに良い家柄の三男坊を紹介したいの!とあれこれ口うるさく言われるので、むっつりしてしまう。

その時、玄関チャイムが鳴ったので、丹羽さんが迎えに来たんじゃないかしら?と言うと、華子が玄関に向かうが、そこにいたのは、想像通り丹羽(土方弘)だけではなく、見知らぬセーラー服姿のまり子もいたので驚く。

若葉会から派遣されて来た女中のまりは、まり子と呼んで下さいと明るく自己紹介すると、料理講習も6ヶ月やりましたと華子に伝え、契約書にサインして下さいと求める。

その場で雇われたまり子は、応接間のお客に茶を持って行くように華子に言われたので持って行くと、そこには丹羽が待っており、君女中さんだったんだね?女中にしておくにはもったいないくらいなので女優にでもなったら?僕が紹介してあげても良いよなどといきなり馴れ馴れしく迫って来て、手を握ろうとしたので、慌ててまり子は出て行く。

その後、丹羽の車に乗り込んで出かける華子は、見送りに出て来た靖子に、美容院にでも行ったら?と勧めていく。

一緒に見送ったまり子が、誰なんですかあの人?と丹羽のことを聞くと、雑誌社の人、「サロン」と言う雑誌知ってるでしょう?あの人、おば様の召使いみたいになっているのよと靖子は教える。

里見英輔(清水将夫)は、部下と一緒にゴルフの練習などしていたが、そこに女性社員(和田玲子)が、部長、お宅からお電話ですと知らせに来たので、君、いるっていっちゃったのかい?まだ出張から帰ってないとか言えないかね~、全く気が利かないんだから…などとぼやく。

部下が、部長の家はうるさいから…と同情すると、踊りの発表会なんて行ってられんよと英輔は嘆き、亭主はギャンブルで踊るか?と部下の顔を見る。

招待客を集めた踊りの発表会では、高木女史が歌い、それに合わせて華子が踊っていたが、女性客が多い客席の中、パンフレットを顔にかけて寝ている青年がいた。

途中で隣の叔母(堺美紀子)に起こされて、その青年宏平(沢本忠雄)は目覚めるが、相変わらず踊りには興味なく迷惑そうだった。

発表会を舞台袖で見ていた丹羽は、舞台を終えた華子を楽屋に迎えると、マダム、大成功でした!とお世辞を言う。

そこに女事務員(山崎育子)がやって来て、お宅から電話で、靖子さん、ご病気だそうですと華子に伝えたので、華子は不機嫌になる。

夫も姪も、自分の発表会を観に来なかったからだ。

帰宅してまり子から事情を聞いた英輔は、2人とも欠席か、そりゃまずかったな…と反省する。

競馬もダメでしたか?と、アイロンをかける時、上着から見つけた馬券を取り出してまり子が聞くと、くれぐれも奥様には内緒だよと英輔はまり子に頼む。

部屋でお菓子を食べようとしていた靖子は、人が来た気配がしたので慌ててベッドの中に飛び込む。

入って来たのはまり子で、靖子の額を触りながら、お熱はないようですから、何か御飲みになりますか?何でも作りますからと明るく話しかける。

そこに、華子が帰宅して来て、あなたはいつだって私がすることを壊して行くんだから!私、大恥かいたわ!と英輔に文句を言うと、まり子に、靖子はどこが悪いの?と尋ねる。

貧血だと思いますけど…とまり子が伝えると、貧血くらいで!と華子は不機嫌になり、あなたは何一つやったことがないじゃないですか!と、又、英輔に嫌味を言う。

翌朝、遅く起きて来た華子の前に来たまり子は、旦那様は8時35分に出勤なさいました。お嬢様は裁縫に行かれました。お風呂は湧いておりますまどと、華子があれこれ指示しようと言い出すことを、既に全部やり終えていることを報告すると、パイパーの散歩ですね!と自ら言い出し、さっさと愛犬のテリアを連れて散歩に出かける。

とある林の中の道を通っていた時、上からボールが飛んで来てまり子の足に当たってしまう。

それは、連れていたコリー犬タチに取らせようと、宏平が投げたボールだったので、道で倒れているまり子を見つけた宏平は驚いて駆け寄り、血が出ていると教える。

まり子は、失礼ねと宏平を睨みながらも、血止めように、自分が持っていたニキビの薬を付けるが、宏平は自分のハンカチを取り出し、包帯代わりに巻いてやる。

大丈夫よ、このくらいと言いながら立上がったまり子に、お近くなんですか?と宏平が聞くと、馴れ馴れしいわね、うんしんもないくせにとまり子が言うので、「うんしん」?と宏平は戸惑う。

運動神経のことよとまり子が教えると、こう見えても僕は学生時代バスケットをやっていたんだよと宏平は言い訳する。

じゃあ、あそこの新聞に当てられる?とボールを渡しながらまり子が聞くと、宏平は愛犬タチに行くぞ!と声をかけ、少し離れた所に拡げてあった新聞紙にボールを命中させる。

ところが、その新聞紙は、寝ていた男がかぶっていたもので、宏平の投げたボールが顔に当たったので、男は痛がって起き上がる。

驚いたまり子は、パイパーと一緒にその場を逃げ出す。

里見家に戻って来ると、見知らぬ青年が垣根から家の中を覗き込んでいたので、あなたは誰ですか!と叱りつけると、慌てた青年は青野(伊藤孝雄)ですと答え、靖子さんにちょっと…と言い訳する。

お嬢さんならお出かけよとまり子が教えても、家の中からピアノの音が聞こえていたので青野は驚く。

ピアノの音は、華子が踊りの練習用にかけていたテープレコーダーの音だったのだ。

近くまで青田に付いて行き事情を聞くと、彼女の元気がなかったから…、見えなくても、ピアノ聞くだけで良かったんだよなどと青田は純情なことを言い、僕はぐずなんです。家の人には黙っていて下さいねと言うのでまり子は頷く。

その後、出かける華子は、旦那様の好物は?と聞くまり子に、タラとトマト以外だったら何でも食べるわよと教えて行く。

その後、台所仕事をしていたまり子に、クリーニング屋の三公(神戸瓢介)が出来上がったものを届けに来る。

まり子の顔を見た三公は、あれ?又、女中さんが変わったんだ。ここの奥さん、お高いからね?と気安気に話しかけて来て、あんた、なかなかシャンだね?と褒め、自己紹介をすると、今日の洗濯物は?と聞いて来る。

しかし、ないのと答えたまり子が庭を見ると、そこにはまり子が自分で全部洗濯した服が干してあったので、三公は呆れてしまう。

そこにパイパーがやって来たので、まり子がミルクを飲まそうとすると、今度の日曜日、公園でイヌのコンテストがあるからこのイヌを出してみないか?うちもマルってのがいるんだ。ついでに美人コンテストがあると良いのだけどな…などと言って帰って行く。

その直後、靖子が帰って来たので、さっき青野さんに会いましたわ。後でお嬢様の部屋にうかがいますとまり子は話しかける。

台所仕事を終え、靖子の部屋にやって来たまり子は、思い切って青野様のことを話してみたら?と勧めるが、ダメよ、おば様に、あの人のようにバイトしているような人じゃ…と靖子は落ち込む。

まり子はそんな靖子に、結局、お嬢様がご自身で生きるようにすれば良いことでしょう?元気になって下さいと励ます。

その夜、帰宅した英輔は、まり子が用意していた料理を旨い旨いと喜んで食べ、今日の料理は何だね?と聞いたので、タラとトマトですよ!とまり子は得意げに答える。

バー「フラミンゴ」で華子と会っていた丹羽は、又新しいことをやりたいと言い出した華子に、マダムのように何不自由ない家の方は、何をやっても成功しますなどと又歯の浮くようなお世辞を言っていた。

その丹羽は、華子に何か頼み事をしていた。

その後、車で家の前まで華子を送って来た丹羽だったが、いちゃいちゃしていたので、二階の窓からそれを目撃したまり子は顔をしかめる。

「田園調布 愛犬コンテスト大会」が行われた近くの公園にパオパーを連れて出場してみたまり子は、愛犬マルを連れて来た三公の目の前であっさり優勝し、症状と副賞として、富士電機のトランジスタラジオをもらう。

帰りかけたまり子は、遅れてコリーのタチを連れて来た宏平に出会ったので、がっかりしている宏平に、間に合っても、あなたのイヌでは落第よと嫌味を言う。

それでも一緒に帰ることになり、宏平は一度映画でも付き合ってくれませんか?と頼んで来る。

実は僕、今度九州に帰るんです。東京には休暇で来ていたんだよと打ち明けると、じゃあ、お互い名前を知らないその場限りのおつきあいとしてならと言う条件付きで承知したまり子は、今度の日曜日の昼に国会議事堂前で会いましょうと提案する。

宏平はその待ち合わせ場所に驚くが、東京に不慣れだと言う宏平にも分かるでしょう?とまり子は笑う。

次の土曜日、英輔が、戦後最大規模だと言う明日のダービーの予想に迷っていたので、前に競走馬を持っているお宅にいたことがあると言うまり子は、私だったら、トキノアラシをトップに4-5と買いますねとアドバイスすると、それは大穴になると、英輔はその場で算盤を弾き出す。

嬉しそうな英輔に、それが当たったら、明日を最後に競馬を止めて頂きたいんですとまり子は言い出す。

何故だね?と英輔が聞くと、この家の中は皆さんバラバラです。旦那さんが競馬を御止めになった方がもっと和やかになると思ってますと言うまり子は、お嬢様が何か旦那様にお話があるようですとも伝える。

翌日の日曜日、華子をモデルに写真を撮るため、丹羽とカメラマンが訪ねて来ており、なかなか帰ろうとしなかったので、靖子と一緒に食事の支度をしていたまり子は、丹羽の料理にコショウをたくさん入れておいてやる。

そして、靖子には、自分はこれから出かけますと耳打ちして外出する。

華子は、撮影が終わった後、丹羽に一緒に麻雀をやりません?と誘っていたが、一緒にいた英輔に、社長から電話ですと靖子が知らせに来る。

社長から?と不思議がって電話に出た英輔だったが、電話をして来たのは、外の公衆電話からかけて来たまり子で、そろそろ競馬の時間だと思いましたから。御帰りになられましたら、お嬢様のお話を聞いてあげて下さいと伝える。

英輔はまり子の機転に感心すると共に、はい、必ず!と社長に答えるように芝居をする。

国会議事堂前で待っていた宏平は、タクシーで駆けつけて来たまり子の姿を見てほっとする。

すっぽかされたと思ったからだった。

議事堂の前だけに公約は守りますわと答えたまり子は、時間が5時までしかないのと伝える。

静かな所が良いな…と宏平が言うので、2人で植物園に出かけてみることにする。

南洋の植物を見ながら、南洋って良いだろうな…、ずっと裸ん坊って気持ちよいだろうな…とまり子が言うので、今度誘ってもいいけど、お嬢さんの名前も連絡先も分からないし…と宏平はすねる。

新聞の三行広告に出せば良いのよ。私は、家事手伝い、つまり女中さんよ!と答えるが、宏平は信じるはずもない。

突然、泳ぎに行かない?お食事賭けましょう!とまり子が言い出したので、一緒にプールに行くことにする。

その頃、英輔は部下と一緒にダービーに来ており、今日はトキノアラシだよなどと言い切っていた。

プールで、あっさり宏平を負かしたまり子は、ピールサイドのタオルの上に寝そべると、愛犬コンテストでもらったラジオを聞く。

そこに上がって来た宏平が、今度は負けないぞ!と再戦を挑んで来たので、まり子は笑って又プールに飛び込む。

ダービーでは、まり子の予想が適中し、英輔は大穴を適中させていた。

まり子は、安い店で宏平と食事をしており、又会いたいな…と名残を惜しむ宏平に、そろそろお別れの時間が近づいたわ。楽しかった!又、どっかでばったり会うかも知れないわねと立上がる。

そんなまり子に、お嬢さん!と宏平は呼びかけるが、これ差し上げます、この前のハンカチ汚したから…と、新しいハンカチをまり子は渡して店を出て行く。

靖子に会いに来ていた青田は、元気になって良かったねと靖子に話しかけ、おじさんにぶつからないと張り切る。

そんな青田に、しっかりやってねと靖子は応援する。

その頃、本屋に寄っていたまり子は、いつの間にか尾行して来ていた宏平に気づき、油断できないわねと睨みながらも、その後、ダンスを付き合うことにする。

宏平は、本当に今日はすみませんでした。時間をオーバーして…と謝るが、まり子は、でも楽しかったわと喜ぶ。

君みたいな人に始めて会った…、全然ステキなんだ…、お嬢さん、僕は…と宏平が言いかけたので、ごめんなさい!やっぱり約束守りましょう!と言いまり子は変える。

帰宅したまり子は、冷蔵庫からビールを取り出している靖子に会い、巧くいったわと感謝される。

青野は英輔にすっかり気に入られていた。

英輔は、まり子に今日のレースに勝ったことを教え、土産を手渡すと、4人で祝杯をあげることにする。

靖子と付き合うことを許された青野がそろそろ失礼すると言い出したので、上機嫌の英輔は送って行くと言い、今日は不老所得があったので、何でもおごるよと言う。

翌日から、靖子は、率先して家の仕事を手伝うようになったので、自分の仕事を取られたまり子は慌てるが、その時電話がかかって来たので受話器を取ることにする。

電話の相手は丹羽で、7時に「フラミンゴ」で待っていると言う内容だった。

まり子の声で、お手伝いさんだね?と嫌らしい口調になったので、まり子は、失敬な奴と言うと、すぐに電話を切ってしまう。

誰から?と靖子が近づいて来たので、夕方、ちょっと外出させて頂けません?とまり子は願い出る。

「フラミンゴ」にやって来たまり子は、カウンターで待っていた丹羽に近づくと、奥さんが都合でいらっしゃらないので…と言うと、御頼みしたいことがありますのと伝える。

丹羽は興味を示し、和子にはジンフィズ、自分にはオールドの水割りを頼み、テーブル席に移動すると、用って何?と聞いて来る。

奥様には内緒にしておいて下さいね。女中が嫌になったんですと切り出したまり子は、いつかおっしゃってましてね?私でも女優になれるでしょうかと聞く。

なれるとも!と安請け合いした丹羽は、前途を祝して乾杯しよう!とグラスを掲げる。

その後、まり子を車の助手席に乗せた丹羽はどこかへ出発するが、まり子は用意して来たオープンリールのテープレコーダーのスイッチをこっそり入れる。

運転していた丹羽が、馴れ馴れしくまり子の方に手を廻して来たりしたので、いけません、先生!家の奥様がお好きなんでしょう?とまり子は聞く。

すると丹羽は、あれは商売上のことだよ。取引だよ。マダムにはうちの新しい雑誌に資金を出してもらっているからね…などと打ち明ける。

その直後、警官に止められた丹羽が免許証を提示している隙に、助手席を降りたまり子は、先生、又ね!決心付いたらうかがいます!と一方的に言い残しその場を立ち去る。

翌日、川辺にパイパーと散歩に来ていたまり子は、失敗しちゃったわ…、奥様に言ったら首になっちゃうだろうし…と草むらに寝そべり、パイパーに一人話しかけていた。

帰宅してみると、靖子が大変なのよ!と呼びかけて来る。

何でも、華子が靖子に会わせようと、先日の見合い相手を昼過ぎに呼んだのだと言う。

思い切って青野さんのことを打ち明けてみると靖子が言い出したので、だけど大変よ、奥様にそんな事言ったら…とまり子は戸惑う。

しかし、靖子はもう決心しているらしく、私、どんなことでもするわ!と言う。

そこに、玄関ブザーが鳴り、当の華子が帰ってくる。

まり子は、お話があるんですけど…と切り出し、私、辞めさせて頂きたいんです。大変バカなことをしっちゃったんですと告白する。

華子は、まり子から受け取った丹羽の声を録音したテープの内容を自分の部屋で聞く。

さらに、靖子は、私には好きな人があるんですと華子に打ち明ける。

会社で会議中だった英輔は、まり子から緊急の電話を受け、そりゃ大変だ!と驚く。

何ごとです?と部下が聞くと、家庭争議だ!と英輔は答え、慌てて帰宅することにする。

英輔に公衆電話から電話をし終えたまり子は、その足でタクシーを拾うと、城南大学へ向かう。

華子は、靖子が家を出て女中をやると言い出したので、許しません!と怒っていた。

私、どうしようもなかったんです!と靖子は訴えるが、華子は、今日呼んだ石川さんにお詫びに行きます!と興奮し出す。

そこに早退けして来た英輔が、ママ!落ち着きなさい!と華子の腕を取ると、今日のことは、元を正せば、全部、僕の責任なんだと説明する。

城南大学に到着したまり子は、青野に会う。

僕は2〜3日前、偶然、青野君を紹介されたんだと英輔が打ち明けると、靖子は私の姪ですよ!私だけが知らないなんて…と華子は不満そうに言ので、自分だけで内緒にしていたんだ。靖子が黙っていたのも、僕たちに責任があるんだ。僕たちはいつしか自分勝手になってしまい、バラバラになっていたんだ…と英輔は諭す。

私のせいなんですか?と華子がすねるので、靖子の素直な気持ちを分かってやろう。大切なことを教えてくれたのはまりちゃんだよと英輔は打ち明ける。

帰宅して来たまり子は、1階でやきもきしていた靖子に、青野を連れて来たことを打ち明け、しっかりやってね!と励ます。

華子の部屋にいた英輔に、青野さんが御見えになりましたと知らせに来たまり子は、英輔にウィンクして合図する。

華子は落ち着きを取り戻していたが、石川さんをお待ちしているので、御返事しなくては…と案じるので、僕が会うよ。事情を話せば分かってくれるさと英輔は慰める。

あなたから石川さんに電話して下さらない?と華子が甘えて来たので、部屋を出かけた英輔だったが、テープレコーダーを見つけると、良いものがあるね。練習用かい?と聞きながらスイッチを入れてみる。

すると、丹羽の声が聞こえて来たので、間違って入っているんだな…と勝手に納得してしまうが、華子はすっかり反省したような顔になっていた。

呼び寄せた石川家に電話を入れた英輔だったが、相手は既に出かけており、他所に廻って、直接ここに来ると言うことが分かる。

それを聞いたまり子は、私が御迎えしますと言うと玄関を出て門の前で待つことにする。

待ちかねていた青野が華子に会いに行き挨拶すると、既に落ち着きを取り戻していた華子は、叔母でございますと丁寧に応じる。

華子に認められた青野に、おめでとう!と英輔が祝福すると、靖子も嬉しそうに、まり子さんのお陰だわ…と感謝する。

何もかも丸く収まった家族と青野は、ブラボー!とジュースで乾杯する。

門の所で石川を待ち受けていたまり子は、これからが私の大仕事だわ!と緊張していた。

そこにタクシーがやって来て、叔母と降り立ったのは宏平は、驚いて立ちすくむまり子に、いやあ、どうも!あれから又あなたの後を付けたんですよと打ち明ける。

あなただったの!失敗しちゃったわ!と口走ったまり子は、逃げるように家の中に駆け込む。

屋敷の中で、里見英輔から、姪の靖子ですと紹介された相手を見た宏平は唖然とする。

二階の自分の部屋に来ていたまり子は、急いで荷造りをすると、手紙を書き始めていた。

英輔は、華子自身が茶を運んで来たので、まり子ちゃんは?と聞くと、華子も、様子がおかしいのよ二階を見上げながら首を傾げる。

まり子さんと言うのは?と宏平が聞くと、家のお手伝いさんなんですけど…と華子が教える。

すると、出された茶を一息で飲み干した宏平は、里見さん!奥さん!靖子さん!まことに申し訳ありません!と両手をついて頭を下げると、僕はお嬢さんとまり子さんを間違えてしまったみたいなんですと詫びる。

勝手口からこっそり抜け出そうとしていたまり子は、水道の蛇口から少し水が垂れているのに気づくと、きゅっと蛇口を締めて止める。

靖子は、あっけにとられたような顔で、自分の部屋のピアノの前で待っていた青野に会いに戻って来る。

宏平と共にまり子の部屋にやって来た英輔は、机の上に置いてあったまり子の置き手紙を呼んで愕然とする。

その英輔の様子から、まり子が家を出たと悟った宏平は、急いで後を追うため屋敷を飛び出して行く。

走ってまり子の後を追う宏平は、ちょうど自転車で通りかかったクリーニング屋の三公にぶつかりそうになりながら坂道を下って行く。

その先には、まり子が逃げるように駅に向かっていた。

そんな2人の様子を、坂の上からあっけにとられたように見守る三公。

坂道の下でまり子に追いついた宏平が何事かを説得しながら一緒に戻って来るのが見えた。


 

 

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