お馴染み、横溝正史原作の金田一ものの一本である。 その関係での、ゲスト出演だと思われる。 カラー作品の時代になると、やや「濃い顔つき」の印象になるのだが、白黒時代の本作では、清楚で気品のある美貌を見せてくれる。 もう1人のヒロインとも言うべき人気デザイナー役の久慈あさみは、「女王蜂(毒蛇島奇談 女王蜂)」(1952)にも出ている。 ただし、金田一の解明は簡略すぎで、狼男の顔の謎など、良く分からないままな部分が多過ぎる。 長々しい推理部分は映画向きではないので大幅にはしょって、その分、猟奇や怪奇要素、ラストの銃撃戦など、映画的な部分を強調したのだとは思うが、大量殺人の割に金田一の説明は一方的な決めつけをしているだけ。 一番分からないのが、犯人の動機である。 恋愛絡みでもなく、単なる強請りたかりが根幹にあるのだとすると事件が大げさ過ぎる。 お前は血に飢えたキ○ガイだ!などと金田一が指摘しているが、大の大人が、いきなり精神に異常を来すなら、それなりの原因やきっかけがあるはずで、そこを解き明かさないとミステリにならないだろう。 白髪と黒髪の双子トリックも、良く分からないまま。 モデルの猟奇的な殺人方法や犯人の意外性など、通俗さを強調するあまり、本格ミステリとしての醍醐味が置き去りにされた印象がある。 一旦は死んだかに見えた金田一がよみがえる説明も全くなしで、ご都合趣味も極まれりと言った感じ。 クライマックスで金田一が変装して出現するのは、明智小五郎や多羅尾伴内など、昔の探偵映画イメージに準じた演出か? ミステリとしてよりも、あくまでも、中川信夫監督の趣味性溢れる怪奇映画の一種と割り切って観た方が楽しめるかも知れない。 昆虫館のセットや上野公園のセットなどは、怪奇趣味と独特の美意識で凝った作りになっている。 ファッションショーのステージも、せり舞台を含めて、かなり豪華な作りになっている。 ファッション業界の話と言うこともあり、どちらかと言えば女性向きに作られた映画だったのかも知れない。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1956年、東宝、横溝正史原作、小国英雄+西島大脚色、中川信夫監督作品。 白黒の写実的なイラストと不気味な音楽をバックにタイトル 夜の銀座 ファッションコンクールが開かれていた会場では、珍しくご婦人方に混じって見物していた紳士が、途中で退席するのを、その側に座っていた、白髪にメガネ、ヒゲと言う怪し気な老人(東野英治郎)がじろりと睨む。 弟子たちを連れ、コンクールに参加していたデザイナー浅茅文代(久慈あさみ)の部屋に、ご苦労さん!とやって来た紳士は、文代のパトロン長岡秀二(斎藤達雄)だった。 その長岡に、金賞は浅茅さんに決まりですよと声をかけて来たのは、文代のマネージャー村越徹(有島一郎)だった。 待合室の外に出た村越に、徹ちゃん、又あの白髪爺さん来てるわよ。どっかのクラブの回し者じゃないかしら?私たちに何か、ケチつけようとしているのかもよと囁きかけて来たのは、モデルの滝田加代子(塩沢とき)だった。 その時、同じく、コンクールに参加しているメガネをかけた日下田鶴子(中北千枝子)が通り過ぎて行ったので、徹ちゃん、あなたが浅茅先生に付いたので、あの人相当怒ったんじゃない?と聞いて来る。 長岡は苦笑し、確かにフランスから浅茅先生が帰ってくるまではあの人が日本一のデザイナーだったからね…、私が浅茅先生のお世話をするようになったらあのおばあちゃん凄く怒ってたけど…と教える。 ステージでは、司会者が、最後は浅茅文代先生自ら出演の「青い薔薇」!と紹介すると、競り上がり台に乗った文代が、自らデザインしたドレスを着て登場して来る。 それを客席からじっと見つめる白髪の老人。 客席の後の方でステージを見ていた村越は、背後から誰かに呼ばれたので、怪訝そうにそちらへ行ってみると、大きな柱の陰から姿を現したコート姿の男から、これを渡して欲しいと小さな箱を差し出される。 その男は、帽子に黒めがね、顔はスカーフで覆い隠していたので、お名前は?と長岡が聞くと、これを見せれば分かると言うだけ、 それではお預かりできないと村越が戸惑うと、その男は自ら顔のスカーフを引き下ろしてみせる。 その口は大きく裂け、歯は狼のような牙だったので村越は思わず息を飲む。 浅茅文代の待合室には大勢の新聞記者が詰め掛け、優勝候補の文代から話を聞いた後、帰って行く。 そこに戻って来た村越が、先生にって、これを…と受け取って来た箱を見せると、ファンからのプレゼントだと思った文代は喜んで、開けてみてよと頼む。 村越が開けてみると、中にはリンゴが1個入っていたので、笑ってそれを取り上げた浅茅は、リンゴを良く見て何かに気づいたのか、急に顔をしかめ、その場に失神してしまったので、周囲にいた弟子たちが慌てて駆け寄って来る。 何ごとかと、村越もそのリンゴを良く見てみると、動物がかじったような鋭い牙の痕が付いていた。 その後、コンクールの結果は、大方の予想通り、浅茅文代が金賞を受賞するが、トロフィーをステージで受け取ったのは、体調を崩した文代の代理の生田冴子だった。 その一部始終を見ていた白髪の老人は、あのロバのような女のどこにあんなアイデアがあるのだ?と1人呟く。 銀賞は、メガネの日下田鶴子だった。 その後、浅茅文代の店「ブーケ」に戻って来た弟子たちやモデル、それに長岡や馴染みの新聞記者川瀬三吾(千秋実)らは、文代の祝賀パーティを開いていた。 祝杯をあげた直後、長岡は、これから人に会う用があるんでこれで失礼しますと言うと、早々に帰ってしまう。 そんな中、村越の隣に座っていた加代子が、徹ちゃん、恐かったわね~。狼みたいな男、私、楽屋口を出た所で見たのよと話しかけるが、村越は、いやだよ、その話…と顔をしかめる。 一方、弟子たちは、具合がまだ悪そうな文代を気遣い、先生、お休みになって!と声をかけると、1人が付き添って、文代の寝室に連れて行く。 テーブル席では、まだ加代子が村越相手に、ねえ徹ちゃん、狼の歯の男、あの白髪の爺さんに関係あるんじゃないかしら?などとまだ話しかけていたので、小耳に挟んだ川瀬が興味を示すが、僕その話、嫌だと言ったじゃないか!恐くて!と言いながら、村越は席を立って、部屋を出て行ってしまう。 弟子に連れて来られた寝室のベッドの一旦横になっていた文代だったが、弟子が祝賀会に戻って行くと、急に起き上がり、洋服ダンスを開け、黒い洋服に黒いショール、黒めがねと言う変装をして、庭先から外出をする。 その後を追跡し始めたのは村越だった。 祝賀会の席では、加代子から狼男の話を聞いた川瀬が、怖がるモデルたちを他所に、でも加代ちゃん、それ本当なの?と確認していた。 変な話だな~…、でもあの白髪の爺さんは無関係なはずだよ。身元もはっきりしているし…、江藤俊作と言う町の昆虫学社で、住んでいるのは武蔵小金井の…と知っていることを教える。 変装をした文代がやって来たのは、その武蔵小金井にある、江藤の不気味な洋館「昆虫館」だった。 文代がその玄関を入ったのを確認した村越は、思い切って玄関の前に行くとブザーを押す。 すると、玄関の灯が灯り、玄関扉の覗き穴が開き、黒めがねをした男が覗き込んで来る。 次の瞬間、その黒めがねの男がくわっと大きな口を開くと、あの狼のような牙が見えたので、驚いた村越は逃げ出す。 その直後、玄関扉が開き、姿を現した文代が外の様子をうかがった後、誰かに腕を引かれ、中に入ったのを、近くに隠れていた村越ははっきり確認する。 翌朝、「ブーケ」にやって来た客に、先生は御気分が悪くて、夕べからずっとお休みなんですと謝る村越。 弟子たちも、夕べからずっと寝ておられるの?今朝はもっと悪そうなの…などと噂し合っていた。 そうした中、私、前に先生と一緒にお風呂入ったことがあるのよ…と話しだしたのは、おしゃべりな加代子だった。 右の胸のここの所に、あのリンゴそっくりの歯の痕があったのよ!と加代は仲間たちに打ち明ける。 ベッドの上では、確かに右胸の乳房の上辺りにかみ傷のようなものがある文代が、肌も露にうなされていた。 その時、ノックの音がして、寝室に入って来た女中が、速達ですと文代に手渡して行く。 中を読んでみると、「約束を忘れるな、今夜9時、上野公園」と書かれてあった。 「ブーケ」にいた村越は、フランス帰りだと言う人物から電話を受け、先生に贈り物を預かって持って来たと言うのだけど、困ったな~…と悩み始める。 それを聞いていた加代子が、そんなの簡単じゃない。相手が先生に会ったことない人なのなら、誰かが浅茅文代ですって名乗って行って受け取れば良いだけよと提案する。 そうしようか、相手は東海ホテルの303号室の西村さんと言うんだ。誰が行く?と村越も乗り気になる。 言い出しっぺの私が行きましょうか?と加代子が言うので、モデル仲間たちは、大丈夫と案じるが、私、こう見えてもお芝居巧いんだからと加代子は答え出かけて行く。 その頃、文代の寝室に庭先からこっそり入って来たのは長岡秀二だった。 まだ具合悪いんだって?君は少し急がしすぎなんだよと言いながらベッドの横に座ると、パパ、待ってたのよ…と文代は甘える。 東海ホテルの前にやって来た加代子は、外に停まっていた車の外に立っていた男マー坊(大村千吉)から、浅茅文代先生ですか?と声をかけられ、メモ書きを渡される。 それを読んだ加代子は、中で待ってらっしゃるんじゃなかったんですか?と聞くと、先方の事情があって…などと説明しかけたマー坊は、いきなりハンカチに染み込んだエーテルを加代子に嗅がすと、運転手のヒロ(太田芳勝)と一緒に、加代子を車に押し込み出発する。 その頃、長岡は、これから重役連と打ち合わせがあるんだ。10万だったな?と連絡を受けた金額を確認し、金を渡すと、この頃君は金遣いが荒いようだなと注意する。 文代は、色々お金がいるのよと弁解するが、君にデザイナーを辞めろって言うのは死ねと言うのと同じだけど、僕が愛しているのは日本一のデザイナーである君じゃなくて、今しょんぼりと寝ている君の方なんだからねと言い聞かし、明日になったら又気分は良くなるよと言い残し立ち去って行く。 店にいた村越は、9時5分前になった腕時計を見ながら、帰りが遅い加代子のことを案じていた。 その頃、上野公園の人気のない巨木の下に変装してやって来た文代の前に、黒めがねにスカーフで顔の下半分を覆った男が出て来て、おい、約束のもの、持って来ただろうな?と声をかける。 文代がためらっていると、ここに持っているものを世間に発表すると、お前の名声はいっぺんに滅びてしまうのだぞ!と男は脅して来る。 やむなく、持って来た札束を相手に差し出し、代わりに相手が持っていた封筒を受け取った文代は、逃げるようにその場を去って行く。 村越は、さすがに心配になり、東海ホテルの西村に電話をかけてみるが、303号室は長く空き家になっており、誰も泊まってないと聞くと青ざめる。 それを聞いた弟子やモデルたちも驚くが、取りあえずホテルに行ってみると言い、村越は出かけて行く。 上半身裸の状態で、ベッドの上で目覚めた加代子は、見知らぬ部屋に幽閉されいることに気づき、恐怖で身をすくめながら起き上がる。 目の前にはあの狼男が立っており、いきなり加代子の首を絞めて来ると、その首筋に噛み付いて来る。 その頃、「ブーケ」に、浅茅女史、身体悪いんだって?と言いながらやって来たのは川瀬記者だった。 そんな川瀬に、加代子さんが帰って来ないんですと教えたのは、仲良しの杉野弓子(安西郷子)だった。 まだ9時半じゃないかと川瀬が呆れるので、本当は先生が行くはずだったのよと弓子が事情を話すと、じゃあ、僕が先生に会ってみるよ、弓ちゃん、君も一緒に来てくれよと川瀬は言い出し、文代の部屋に様子を見に行く。 ドアを開けて中をのぼいてみると、文代が無心で暖炉に紙を燃やしている所だった。 その紙のようなものは、デザイン画のようだった。 ドアから覗いている川瀬たちにも気づいていない様子の文代は、ああ、恐ろしい…、狼憑き…と呟く。 マヌカンを扱っているMC商会では、「ブーケ」に送るはずのマヌカンの木箱がまだ残っていたので、主人(佐田豊)がこれはどうしたんだ?と聞くと、店員は、「ブーケ」なら送りましたよと言うではないか。 念のため、「ブーケ」に電話を入れ確認してみると、出て来た女の子は、確かに箱は届いていると言うので、主人は首を傾げる。 電話を切った朝子が、バールで箱の蓋を開けようと近づいた瞬間、悲鳴を上げたので、廻りにいた仲間たちが何ごとかと近づいて来る。 血が!血が!と床を指しながら朝子が言うので、箱の下を覗いてみると、確かに、箱から流れ出したと思われる血が流れ出していた。 その場にいた川瀬記者が箱の蓋を開けてみると、おがくずの中に入っていたのは、一見マヌカン人形のようだったが、良く見ると、左胸の乳房の上に我が置いてある人間だった。 恐る恐る、顔のかけられていた布を外すと、その下から出て来たのは、目を開けたまま死んでいる加代子だったので大騒ぎになる。 川瀬も驚き、警察に電話を!と美代子に命じると、マダムにも知らせて!と女の子たちに声をかける。 2人の弟子が、文代の部屋に呼びに行くと、椅子の上に倒れ込んでいた文代に、狼男が覆いかぶさるようにしていたので、弟子たちは悲鳴をあげる。 狼男は庭先から逃亡するが、女の子たちの悲鳴で駆けつけた川瀬が後を追うが、店にやって来た長岡と出会っただけで、今、誰か出てきませんでしたか?と川瀬が聞いても、長岡は知らないと言うだけだった。 やがて、駆けつけた警官たちによって、加代子の死体が入ったマヌカンの木箱は警察に運ばれて行く。 騒然とする「ブーケ」の店内では、見覚えのないプレゼントの箱が置いてあるのをモデルの1人が見つける。 そこには「浅茅会モデルご一同様」と書かれてあり、自分たちへの贈り物らしかったが、いつ誰が持ち込んだか誰にも分からなかった。 店にずっといたはずの村越に聞いても、ずっといた訳ではなく、途中でお手洗いに行ったと言うので、その間に持ち込まれた可能性が高かった。 持ってみると意外に軽かったが、以前のリンゴの件もあるので、女の子たちは怖がって触りたがらないので、川瀬が開けてみることにする。 中には、蛾を象ったチョコと「和子」と文字が書かれたデコレーションケーキが入っていたので、有馬さんへよとみんなは気づく。 しかし、そう言えば、有馬君、どうしてここに来てないの?と川瀬は探し始める。 念のため、村越が、和子の住まいである朝日アパートに電話してみると、夕べから帰ってないと言うではないか。 帰られたら電話をするようにお伝え下さいと頼み、電話を切った村越は呆然となる。 そんな中、川瀬は弓子をそっと誘い、一緒に外へ出ると、喫茶店に入り、暖炉から持って来たんだと説明し、燃え残ったデザイン画の一部を見せ、これ、何だろう?と尋ねる。 それを観た弓子は、コンクールに出した「青い薔薇」のデザイン画よ、でも、ここに書込まれている字は先生のじゃない、男の時ですと判定する。 その頃、警視庁の等々力警部(小堀明男)は、マヌカンのMC商会に事情を聞きに来ていた。 川瀬は、武蔵小金井の江藤俊作に会いに行ってみるつもりなんだ。あの蛾のこともあるし、話を聞けば、何か手掛かりがあるかもと言っていたが、それを聞いた弓子は、私も一緒に行って良いかしら?私、1人でいるのが恐くて仕方ないのと言い出す。 MC商会では、修繕係の男が等々力警部に、マヌカンの腕が壊れたって、昨日修繕に来た男がいたんですと話していた。 修繕している途中に電話がかかって来たので、それに出ている間に、その男は帰って行ってしまったのだと言う。せっかちで妙な男でしたと言うので、その身なりを聞いてみると、黒いバーバリの襟を立てて、黒めがねをかけていたと修繕係は言う。 川瀬と弓子は、武蔵小金井にあるあの「昆虫館」に来ていた。 屋敷の前の小さな橋の前に来た時、何かを抱えて屋敷の中から出て来た2人組の1人マー坊と弓子はちょっと身体が接触してしまう。 気をつけろ!とマー坊が怒鳴って去って行ったので、思わず弓子はごめんなさいと謝るが、その直後、弓子は、川瀬さんと言いながら、自分の右手を差し出して見せる。 そこには血が付着していた。 さらに、弓子の白いオーバーにも血が付いているではないか。 今ぶつかったマー坊の持った荷物で付いたものに違いなかった。 川瀬さん、私、怖いわ!と弓子は怯える。 川瀬は、僕が付いてるよ、せっかくここまで来て、帰る手はないよと言い、屋敷の中に入ると、思い切って玄関ブザーを押してみる。 すると、玄関灯が点き、中から誰何する声が聞こえて来たので、新聞社のものですが…と川瀬が答えると、どう言う用件だ?と聞いて来たので、ドア越しじゃ話せません。ここを開けてくれませんか?ち頼んでみる。 すると、覗き窓が開き、川瀬らの姿を確認した江藤俊作がドアを開けるが、お宅から荷物を持って出て来た男とぶつかったら、この人のオーバーに血が付いていたんです。お宅で変わったことでもありませんか?と川瀬が聞くと、変わったことなどない!帰れ!とステッキを振りかざして江藤が怒鳴って来たので、やむなく一旦退却することにする。 しかし、川瀬は、交番の警官を伴ってすぐに屋敷に舞い戻って来る。 あの老人は変わり者だが、少し頭の足りない婆さんと2人で暮らしていると、同行して来た警官は川瀬に教える。 玄関の戸を川瀬が叩いても全く返事がないので、ちぇっ!逃げたかもしてない…とぼやいていると、女中らしき老婆が、誰だね?と言いながら戻って来る。 旦那さん、留守かね?と警官が聞くと、出かける時はいたがね…と言いながら、屋敷の中に入って行った老婆だったが、旦那さんはおらんようだと玄関を開けて伝えて来る。 女中さんに立ち会ってもらえば大丈夫でしょうと川瀬は警官に言い、無理矢理中を見せてもらうことにする。 屋敷の中には見事な蛾のコレクション棚があったが、老婆に案内され地下の奥へと進むと、次々に迷路のような通路があり、いくつもの部屋があったので、川瀬たちは驚く。 ある部屋を開けると、そこに衣装を着たマヌカンが立っていたので、付いてきた弓子は悲鳴を上げ、有馬和子さんの洋服よ!と教える。 さらに奥へと入ると、浴槽があり、そこに浸かっていたのは、右の乳房の上に蛾が置かれた有馬和子の死体だったので、思わず弓子は失神してしまう。 等々力警部は、小金井署よりの連絡で、ファッションモデルの有馬和子が殺され、足が切り取られているそうですとの報告を受ける。 それを聞いた等々力警部は、思わず、やったか!と口走る。 ただちに「昆虫館」に向かった警官隊は、庭先に掘られていた大きな穴を調べ始める。 女中の老婆が言うには、江藤老人が今朝掘ったもので、落ち葉溜まりにするつもりだったそうですとの報告を等々力警部は聞く。 その時、それはちょっと変ですね~と言う声が背後から聞こえて来たので、等々力警部が振り向くと、そこには、白いコートを着てオールバックの紳士金田一耕助(池部良)が立っていた。 私が呼んだんですと言いながら近づいて来たのは川瀬だった。 素人探偵の出る幕もなく、犯人は明白ですよ。この屋敷の老人です。有馬の死体をこの穴に隠そうとしたのがその証拠ですと等々力警部が指摘すると、でも、滝田加代子の場合は、隠すどころか危険を犯し、浅茅女史の店に死体を送り届けているじゃありませんか?この矛盾が気になるのですと金田一が反論する。 そこに近づいて来た弓子が川瀬に何かを囁きかける。 川瀬は、警部さん、金田一さんちょっと…と呼ぶ。 弓子が屋敷の中で見つけたのは、浅茅の当面のライバル日下田鶴子の描いたデザイン画だった。 それを観た金田一は、これで糸口が1つほぐれてきましたねと呟く。 警察に呼びだされた日下田鶴子は、等々力警部から、江藤俊作と言う人を知りませんか?と聞かれるが、存じませんと即答する。 屋敷で発見されたデザイン画を見せると、私のデザイン画を盗んだものですと田鶴子は言う。 洋裁の世界も複雑でしてね、何も出来ない人がもてはやされたりするんですよ。これは私が秋のコンクールで受賞したものですと田鶴子は説明する。 その頃、新聞社に戻っていた川瀬は、狼男から、浅草のとある劇場へ来いと電話で呼び出されていた。 早速出かけようとすると、やって来た弓子が私も連れて行ってと頼む。 浅草の芝居小屋では、半裸の女が満員の客の前で踊っていた。 そんな中に混ざって見ていた弓子は、こんなに大勢の人が観ているのに何か起きるのかしら?と不思議がるが、横に座っていた川瀬は、とにかく待ってみましょうと言う。 やがて、暗幕が舞台半分くらい降りた中、その下では、6人の網ストッキングをはいた女性の足がラインダンスを披露し始める。 やがて、暗幕が上がると、踊り子らの全身が見えて来るが、左から3番目の足には胴体がなく、ピアノ線で吊られた足だけだったので、客席も舞台上も騒然となる。 その猟奇事件はすぐさま新聞紙上に載り、狼男に翻弄される警察などと揶揄される。 警視庁の等々力警部に会いに来ていた金田一は、浅茅文代は知っているでしょう。脅迫される覚えがあるはずですから…と言うが、病気を理由に会ってくれないんだよと等々力警部は嘆く。 その時、長岡から電話が入り、浅茅文代が会うと言っていると言うので、等々力警部は金田一を伴ってすぐに会いに行くことにする。 やって来た等々力と金田一を前に、浅茅文代は、フランスに狼憑きと言う、日本の狐憑きのようなものがあるのをご存知ですか?と話し始める。 満月の晩に狼に噛まれるとなるそうです。 私は1951年から1953年までパリで勉強していました。 その時、伊吹徹三と言う人と同棲していたのです。 その名前が本名かどうか分からないのですが、日本人には違いないのですのですが、何か悪事を働いて、戸籍上は死亡したことになっているそうです。 その伊吹は、暮らして行くうちに徐々に凶暴になって行きました。 ある冬のこと、私たち2人でアルプスに旅行に行ったことがございます。 吹雪の晩、文代がベッドで眠っていると、うめき声が聞こえて来たのでふと目覚めると、部屋の隅のテーブルに突っ伏した伊吹が呻いているのに気づく。 あなた、どうなさったの?と尋ねると、黒めがねをかけた伊吹が、一旦、文代の方に顔を向け、又、テーブルに顔を伏せると、もう1度顔を上げてみせる。 その口元は大きく裂け、歯は狼のような鋭い牙になっており、いきなり文代に襲いかかってくる。 その翌朝からは、打って変わっておとなしくなったのです…と文代は話す。 私たりは逃げて帰ったんです。 その後、伊吹はスペインで行方不明になりました。 ピレネーのセントラビアルの近くでした。 村人の話では、狼に襲われたとも、狼と一緒に行ってしまったのだろう言ってました。 私はパリに戻り、2ヶ月後に日本に帰ってきました…と文代が話し終えたので、その男の職業は?と金田一が聞いてみる。 訳の分からない絵を描いていましたと文代が答えたので、絵描きさんですか?ではデザインもお描きになれるんですね?と金田一が聞くと、文代は答えなかった。 しかし、今年の5月頃、突然伊吹が現れて、復縁を迫って来たんですと文代が答えたので、髪の毛は真っ白では?と金田一は確認する。 しかし文代は、真っ黒ですと答える。 その後は会ってないんですね?と等々力警部が聞くと、たった一度だけあの人のアパートに行ったことがあります。鳴子坂の成子薬局という店の裏でした…と文代は言う。 その頃、そのアパートに戻って来た黒いコート姿の男に、管理人が、伊吹さん、旅行だったんですか?と声をかけていた。 関西に…とくぐもった声で答えた伊吹は二階の自分の部屋に戻って行く。 部屋の中で、覆面代わりのスカーフを取ろうとしていた伊吹は、突然、人がやってくる気配を感じ、窓から外へ飛び出して行く。 その直後、部屋に入ってきたのは、同じように黒い帽子に黒めがね、スカーフで顔の下半分を隠した男と、マー坊とヒロだった。 ここは旦那の隠れ家ですか?とマー坊が聞くと、俺の弟の隠れ家なんだと言いながら、黒めがねの男はスカーフを取って顔を見せる。 すると、その顔を見たマー坊が、髪の毛が真っ白だ!この前は真っ黒だったのに…、旦那、俺たちをからかっちゃいけませんぜと言う。 この前は何故あんなことをした?と白髪の江藤俊作が聞くと、いやだな、旦那から電話があったんじゃないですかとマー坊が呆れたように答える。 すると江藤は、この間の分の後金だと言って金を渡すと、次の仕事は弟を捜してもらいたいと言い出す。 双子の弟なんだ。その弟が人殺しをやったんだ。外国へ追っ払わなければいけない。昆虫館に戻ると、有馬和子が殺されていた。その死体を埋めようとした時、君たちが帰って来たと江藤が言うと、危ねえ所でした。あの後、警官たちがあの穴を掘り返したって話じゃないですかとマー坊は怯える。 その時、表に人の気配を感じた3人は急いで部屋を出て行く。 そこへやって来たのは、等々力警部と金田一耕助だった。 部屋の中に入ると思っていた江藤の姿がないので、しまった!と叫んだ等々力警部は警官を伴って部屋を飛び出して行く。 後に残っていた金田一は、部屋に残されていたデザイン画を眺めると、それをまるめて持って帰ろうとする。 さらに、天井を見上げて手を触れてみると、隅の一枚の天井板が簡単に落ちて来る。 部屋の外の廊下では、やって来た管理人夫婦が話し合っていた。 伊吹さんは髪を染めてたんだね。髪真っ白だったよと妻が言うと、何を言うんだ。私はさっき会ったけど、真っ黒だったよと管理人は答えていたが、その会話を、伊吹の部屋の入口付近で金田一はしっかり聞いていた。 翌日、又ファッションショーに参加していた弓子に会いに行った金田一は、伊吹の部屋で見つけたデザイン画を見せる。 弓子は、これは「さざ波」と言う日下田鶴子さんのデザインと同じものですと断定する。 その日も、文代の体調が優れないというので、葛野多美子(白鳩真弓)が代理でステージに出ることになる。 マネージャーの村越が、ドレス姿に着替えた多美子を連れて奈落へと向かう。 その頃、同じファッションショーの出席していた日下田鶴子に、等々力警部が例のデザイン画を見せ。これは某所の双子アパートで発見されたものですと教えていた。 それを観た田鶴子は、そんな…、あのアパートにこのデザインがあるはずがない!と口走る。 ステージでは弓子が登場した後、舞台中央に、奈落から巨大なせり舞台が上がって来る。 大きな円柱の上に花が植えられた鉢が乗っているようなセットに、ラストのモデルの多美子が寄りかかっていた。 しかし、せり舞台が上がり終えたも、一向に多美子が動こうとしないので、見上げていた客席がざわめき出す。 次の瞬間、円柱に堅田を持たせかけていたかに見えた多美子の身体は、崩れるように倒れてしまう。 尋問されていた田鶴子は、追いつめられたように、聞かないで下さい!と懇願していたが、そこに瀬川記者がやって来て、又狼男にやられた!と知らせたので、驚いた等々力警部と金田一はステージに向かう。 部屋に残された田鶴子は、ふらりと立上がると、考え込むように部屋の中を歩き始めるが、その背後に、帽子にコート姿の男の影が迫る。 振り返った田鶴子は、男の正体に気づき、あ!あなたは!と叫ぶが、次の瞬間、その部屋から銃声が聞こえて来る。 上がりきっていたせり舞台をステージと同じ高さまで降ろすと、等々力警部たちが多美子の死体に近寄る。 奈落には誰が?と等々力が聞くと、マネージャーが付き添っていたはずだというので、金田一と共に奈落へ降りてみると、村越が倒れていた。 等々力警部が様子を見ると、強い薬を嗅がされ、眠らされているようだった。 そこに警官が駆けつけて来て日下田鶴子が殺されていますと言うではないか。 それを聞いた金田一は、惨敗だ!これほど徹底的にやられるとは思わなかった…と無念がる。 夜、再び上野公園の巨木の下に1人やって来た文代の前に、大木の後から姿を現した黒めがねにスカーフで顔を隠したコート姿の男が、約束のものは持って来たかと迫る。 あなたはどうして!と文代が聞くと、伊吹徹三から全部買い取ったんだ。だからお前が盗んだものの、俺は賠償金を取る権利があるんだと黒めがねの男は言う。 やむなく、金を渡そうとした文代だったが、相手が受け取ろうと左手を差し出した時、あ!これは!左の手を見せて下さい!その夜光時計を見せて下さい!と驚きながらも詰めよる。 その時、文代!と呼びかけながら近づいて来たのは、同じようなコートに帽子、黒めがねにスカーフで顔を隠した男だった。 文代がその場を逃げ出すと、おい!貴様は誰だ!と最初の男が後から出て来た男に声をかけ、その場で発砲して殺す。 倒れた相手の黒めがねとスカーフを取ってみると、それは文代のパトロンの長岡秀二だった。 警視庁の等々力警部のもとにやって来た川瀬記者は、モデルの赤松静江、志賀由紀子、日高ユリの三人もいなくなりました。 僕が3人をみんな赤松のアパートに集めて、出るなと言っといたんですが…と悔しがる。 そこに電話が入り、上野公園で死体が発見され、持っていた名刺から長岡秀二と判明したと等々力警部に報告がある。 その頃、文代は1人で昆虫館に来ていた、 小さな橋の手前にコート姿の金田一耕助が立っており、浅茅さんですね?今頃どうしてこんな所に?誰かに呼びだされたと言う訳ですね?いずれ、呼びだした奴がここに来る訳だ…と金田一は話しかける。 その時、屋敷の庭先に身を潜めていた黒めがねにスカーフで顔を覆った男が姿を現し、気づいて振り向いた金田一に銃を突きつけ発砲する。 撃たれた金田一は、無言で目の前を流れていた小川の中に落ちる。 その黒めがねの男は、文代の腕を取って昆虫館の中に入って行く。 昆虫館の中では、金庫の前で江藤が金勘定をしていたが、背後に人の気配を感じ振り返ると、あっ!お前は!気でも狂ったのか!と叫ぶが、次の瞬間、やはり銃殺される。 倒れ込む江藤の背後の壁には、大きな蛾の標本が飾られていた。 翌日、ドラム缶などが廃棄されているビルの廃墟跡。 その地下に、赤松静江(伊原律子)、志賀由紀子(花房一美)、日高ユリ(立花満枝)の三人のモデルが閉じ込められていた。 私たち、どうなるのかしら?やっぱり殺されるのね、嫌だわ!と泣き出すが、その時、男の足音が近づいて来て、入口の扉が開くと、おい、飯だぞと声をかけ、男が新聞包みを階段の所に置いて、又入口を塞いで行く。 街頭の新聞売りの広告文には「狼男事件迷宮入りか?」などと書かれていた。 警視庁の等々力警部は、新聞記者の質問攻めに会っていたが、帰ってくれと追い返した直後、電話がかかって来る。 昆虫館に集結する警官隊。 その頃、文代の部屋に入ってきたのは、黒いメガネに帽子にコート、スカーフで顔半分を隠したあの狼男だった。 文代が身をすくめると、すぐに庭先から外へ出て行ってしまう。 そこへやって来たのは村越で、今、狼男が!と文代が教えると、そんな!と驚く。 昆虫館の庭先に以前掘ってあり、今は埋め直されていた場所を警官隊が掘り起こすと、その下から死体の足が見えて来る。 警視庁では、等々力警部は非常呼集を発していた。 荷台に警官を乗せたトラックが走る。 黒めがねにスカーフで顔を隠した狼男と文代は、3人のモデルが閉じ込められているビルの廃屋へやって来る。 そこにいた見張りの男に狼男は金を渡し、立ち去らせる。 私をこんな所へ連れて来てどうしようって言うの?と文代が聞くと、あの3人の女を火あぶりにするんだなどと狼男は言う。 その時、そうはいかん!と言う声がし、ドラム缶の背後から姿を現したのは、もう1人の狼男だった。 伊吹徹三か?と、文代を連れて来た狼男が呼びかけると、殺されたと言いたいんだろうと言いながら、スカーフと黒めがねを取ってみせたもう1人の狼男の正体は金田一耕助だった。 金田一!と狼男は驚き、じゃあ、さっき私の部屋に来たのは!と文代が聞くと、僕ですよ…と金田一が答える。 昆虫館の庭に伊吹徹三の死体を埋めると言うのは、盲点を突いた巧い手だった。 伊吹は君を呼び寄せ、逆に文代に殺された。 文代への嫌疑をそらす代わりに、滝田加代子をさらって殺したのはお前だ! 文代はお前の言いなりになるようになった。 狼男に化けたお前は、日下田鶴子も殺すはめになった。 お前は血に飢えたキ○ガイだ! パトロンの長岡を殺したのもお前だ! 江藤俊作も殺した! 全てお前の犯行だ!殺人鬼、村越徹!と金田一が指摘すると、村越は顔のスカーフを外して素顔を見せる。 金田一先生、あなたは立派な名探偵です。兜を脱いだ…と言いたい所だが…と言うと、いきなり文代をその場で撃って逃げ出す。 その廃屋にパトカーが接近して来る。 逃げる村越、それを追う金田一。 パトカーの警官隊が到着し、一斉にビルの廃屋の中になだれ込む。 川瀬記者と弓子も現場に到着する。 警官隊は、文代の死体を発見し、ビルの上に上って行く。 拳銃を撃って逃げ続ける村越。 警官隊も応戦しようとするが、それを手で制して、金田一は追いつめて行く。 やがて屋上部分にやって来た村越は、なおも警官隊に対し、発砲を続けようとして弾切れになる。 その村越の周囲に迫って来る金田一と警官隊。 さらに反転して逃げようとした村越は足を滑らせ、建物の端から落ちかけ、コンクリートからはみ出していた鉄芯にぶら下がる。 しかし、すぐに力尽き、右手が離れ、左手も滑らせて、悲鳴と共に落下した村越は地上に叩き付けられて死亡する。 担架に乗せられた文代の顔に白い布がかけられ運び出されて行く。 それを見送る川瀬と弓子。 警官隊が出発し、夜が明け始めた空をバックにパトカーが走って行く。 |