白夜館

 

 

 

幻想館

 

喜劇 一発大必勝

山田洋次監督でハナ肇主演という「馬鹿シリーズ」を彷彿とさせるようなドタバタ喜劇。

この作品が封切られたのが1969年の3月15日で、この次に山田監督が撮って同年8月27日に封切られたのが「男はつらいよ」の記念すべき第一作である。

山田監督でハナ肇主演で言うと、「なつかしい風来坊」(1966)という名作の後に作られた、「喜劇一発勝負」(1967)「ハナ肇の一発大冒険」(1968)に次ぐ「一発」三部作?の1本に位置するのではないかと思う。

前作「ハナ肇の一発大冒険」は、倍賞姉妹を巧く使ったファンタジックなロードムービーだったのに対し、今作は、名古屋、知多半島辺りを舞台にした、貧しい長屋に住む人々と、「馬鹿シリーズ」の主役に似た、無学で粗野な主人公が繰り広げるドタバタになっている。

今回は、特別ゲストと言うことなのか、松竹作品、山田作品では珍しいクレージーキャッツの谷啓さんが出ているのが最大の見所だろう。

馬鹿シリーズでお馴染みの犬塚弘さんも出ており、クレージーキャッツの中の3人が出ていることになる。

ただ、作品として成功しているかと言うと、イマイチ弾まない内容になっている。

三部作の2作を見ただけの感想に過ぎないが、この三部作、山田監督作品としては「なつかしい風来坊」と「男はつらいよ」と言う二本の成功作の間に作られた、やや低調な作品群だったのではないだろうか?

「喜劇 一発大冒険」も、全くつまらない…と言うほどではないものの、普通だった気がする。

さてこの作品、戦争時代からの知り合いの長屋の住人3人や、アフロヘアの佐藤蛾次郎、芦屋小雁など、一見、面白そうなキャラクターは出てくるのだが、彼らは単に、粗暴なハナ肇に振り回される腰抜けみたいな連中というだけで、個別に笑わせるような芝居をしてないし、谷啓さんも特に面白いことをやっている訳ではなく、笑い所がほとんどないのだ。

馬鹿シリーズからお馴染みの、ハナさんの大暴れシーンが面白いかと言うと、さすがに見慣れたキャラクターとシチュエーションなので、こちらも笑う所はない。

「喜劇〜」とタイトルに入っているのに…である。

棺桶に入った死体を踊らせるなどと言った、落語の「らくだ」の再現なども、ああ「らくだ」だな…と分かるだけで笑いに繋がっている訳ではない。

比較する訳ではないが、同じ「らくだ」を再現した、日活の「猫が変じて虎になる」(1962)のナンセンスな面白さなどを知っているだけに、この作品全体の笑いの不発振りが残念。

貧乏人が一つのセットに集まって繰り広げる喜劇と言えば、同じ松竹の「渡る世間は鬼ばかり ボロ家の春秋」(1958)などがあり、こちらも、大きなワンセットとロケを組み合わせた展開だったが、まだ洒落ていたし、楽しさがあった。

だから、「貧乏人を描いているから笑えない」訳ではないと思う。

50年代後半と60年代後半という時代背景の違いもあるだろうし、予算の掛け方なども違っていたことは分かる。

それにしてもこの作品には「夢も希望もなさ過ぎる」ような気がする。

「渡る世間は鬼ばかり〜」と決定的に違うのは、愛し合っている主役の男女の立場の違いだろう。

「渡る世間は鬼ばかり」の主役2人は、貧しいながらに将来への夢があり、それが観ていて救いになっていたと思う。

本作での主役はハナさんだが、それに準ずる愛し合っている2人が登場しているものの、この2人には夢がない。

もちろん、主役のハナさんも、将来性がある設定とは思えず、主要な登場人物全てに救いがないのだ。

そうした閉塞感を無意識に感じるので、観ていて心から笑えないのだと思う。

貧乏人特有のダメさ加減を描きたかったのかも知れないが、何か最後に一欠片くらいの「夢」は残して欲しかった気がする。

そう言いたくなるくらい、この作品には救いが全くない。

黒澤の「どん底」のようにシリアスな雰囲気もある話ならそれでも良いのだが、「喜劇」と謳っているのに夢も笑いもないのが見ていてつらいのだ。

おそらく、タイトルに「喜劇」と付いていなかったなら、これはこれで、やや重い雰囲気のある貧しい人々の悲喜劇という風に解釈して観ていたような気がする。

脚本を書いている方はシリアスな社会派のドラマを描きたいのに、会社の営業方針で、無理矢理タイトルに「喜劇」とつけさせられたので、本意ではないもののドタバタ要素を入れてみました…と言うような雰囲気が透けて見えるような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1969年、松竹、森崎東脚本、 山田洋次脚本+監督作品。

煙突から立ち上る煙

タイトル

バスを新米車掌の鈴木のぶ子が始発停留所の位置に誘導し、客を乗せ始める。

新米車掌の指導教官として、そのバスの中に乗り込んでいた荒木つる代(倍賞千恵子)が、おばあちゃん!墓場行きよ!と老婆(武智豊子)に声をかける。

老婆が乗り込むと、バスは出発する。

新米車掌が、次は保健所前!と告げる。

保健所前に停まったとき、つる代は、保健所の窓から姿が見えた左門泰照(谷啓)に微笑みかけ、バスを出発させる。

丘の上から、そんなバスが近づいて来たことを見つけ、バスが来よったぞ~!と叫んで、リヤカーに乗せたカラーテレビの段ボール箱を停留所に運んで来たのは、つる代の父、隊長こと親荒木定吉(田武謙三)、兵曹長こと杉野源三郎(桑山正一)、五右衛門こと石川誠(佐山俊二)、ノン太こと野田松吉(佐藤蛾次郎)らだった。

自分の父親が巨大なカラーテレビの箱をバスに乗せようとするので、他の客の迷惑を考え、つる代は止めようとするが、無理矢理乗せようとする4人に押し切られる形で、そのまま箱はバスの中に運び込まれてしまう。

カラーテレビは良いのう…、何インチじゃ?と他の乗客が聞いて来たので、60インチじゃなどと適当に答えていた4人は、焼き場前の停留所に到着すると、その大きなカラーテレビの箱を降ろそうとする。

その時、段ボール箱の底から、人間の足が突き出して来たので、車掌ののぶ子は悲鳴をあげる。

それに慌てて、4人の男たちは、段ボール箱を停留所から遠くへ運ぼうとするが、とうとう箱の底が抜け、人間の死体らしきものが地面に落ちてしまう。

焼き場で、無事、死体を焼くことができた4人は、6尺男の焼き代が浮いた!と喜んでいた。

その後、長屋の死んだ馬さん(いかりや長介)の部屋で酒盛りをしていた4人の所に、噂を聞いてやって来た左門は、あんまりだ!だから、ここはナメクジ長屋だなんて言われるんだ!僕が出した金はどうした?あれは棺桶代だったんだぞ!と文句を言う。

つる代は、赤ん坊を抱いてやって来ると、定期バスに死体を乗せるなんて開業以来の大問題だと会社で大騒ぎになったのよ!うち、首になる所だったのよ!と父親たちに怒りをぶつけ、馬さん、化けて出ても知らんよ!と言いながら、左門と一緒に帰って行く。

左門の部屋に来たつる代は、あんまり情けなくて…と、死人の棺代を酒代に代えてしまった父親たちの所業を嘆く。

左門も、僕の修行が足りんのです!と反省する。

おつね婆さん、2つ目の災いが来る何て言ってたが、辰巳の方角ってどっちだ?などと杉野が言うので、海の方じゃと答えた松吉は、案内して来ようなどとおどけ、部屋の入口の所で、お化けの真似など始める。

酔っぱらった石川も煙草を鼻の穴に突っ込み、鬼の真似などして松吉と一緒にふざけていたが、その時、彼らの背後に見知らぬ男がやって来て、部屋の中を覗き込んだので、部屋の中から松吉たちを見て笑い転げていた常吉と源三郎は、本当に災いがやって来たのかと怯えた顔になる。

馬のうちはどこだ!と大声で聞いて来たその見知らぬ男は、ここですと聞くと、手みやげとして持って来た生きた鶏を部屋の中に投げ入れる。

左門の部屋に、心臓弁膜症どうですか?と聞いて来たのは、近くでたむろしている遊び人のチンピラ(芦屋小雁)だった。

左門は心臓の病気持ちだった。

その時、松吉もやって来て、馬さんの友人と言う男が、ボルネオからやって来た!と左門たちに教えに来る。

馬さんの部屋に上がり込んだ訪問客団寅造(ハナ肇)は、何で馬は死んだんだ?と、すっかり萎縮してしまった定吉や源三郎、石川たちを睨みつけながら聞いていた。

フグ?

フグの毒には敵いませんよ。わしらで熱う葬って、野辺の送りをしました…と、正座しておどおどしながら定吉が説明する。

そこに、にやにやしながらチンピラが様子を観に来たので、こいつら何かしたのか?と寅造が聞くと、棺桶代を祝い酒に代えるため、死体をボール箱に入れ、バスで運んだとチンピラが教えると、なるほど…と合点がいった様子の寅造は、一生酒を一気飲みし始める。

形勢不利と感じた定吉たちが部屋を出て行こうとすると、こら待て!と制した寅造は、お前ら、馬、殺しやがったな!と睨みつける。

その頃、左門はつる代に、赤ちゃんのお父さん、今どうしてるの?と聞いていた。

つる代は結婚していたが、その亭主はずっと不在だったからだ。

馬、さぞ、悔しかっただろう。こんな姿になったって、お前たちに仕返しする方法はあるんだ!と言いながら、寅造は、骨壺の中の馬さんの骨をすり鉢の中に入れると、それを叩き潰しながら、あいつはフグくらいで死ぬような奴じゃない。お前らが放っておいたに違いない!仕返ししてやる!と言うと、すり鉢にお湯を入れ、粉砕した骨を練り始める。

さらに、味付けと称して、醤油を入れて練り物にした骨をちょっと味見した寅造は、うん、馬の味だ!と言うと、さ、喰いなよ!と定吉らに勧める。

さすがに逃げ出そうとした定吉たちだったが、馬殺しの犯人だって警察に突き出してやるぞ!と寅造に脅されると、おとなしく正座をして待つしかなかった。

そんな定吉らの口に、寅造は、すり鉢から直接、練った馬さんのお骨を流し込み始める。

戻って正座に加わっていた松吉も、西洋コジキも!と寅造に言われ、お骨の寝るものを食べるはめになる。

さすがに身の危険を感じた定吉は、助けてくれ~!殺される~!と叫びながら、部屋を逃げ出す。

そこに、横路巡査(犬塚弘)がやって来るが、酔った寅造は長屋の中で大暴れしていた。

それを観た左門は、正にどん底だ!と嘆く。

小学生が登校する翌朝、長屋では、共同便所の前で苦しむ定吉、源三郎、石川、松吉らの姿があった。

その様子を見た左門は、コレラかも知れん!悪いもん喰いましたね?と聞くと、死人の骨を食べた!ボルネオ帰りのゴリラに!と言うではないか。

共同洗面所で歯を磨いていた左門の手から、いきなり歯ブラシを奪い取ったのが、そのボルネオ帰りのゴリラこと団寅造だった。

奪い取った左門の歯ブラシで、いきなり自分の歯を磨き始めたので、君!不潔じゃないか!と注意すると、不潔?と言った寅像は、左門から奪い取ったコップの水で自分の口の中を濯ぐと、又その汚れた水を元のコップの中に吐き出すと、これが不潔ってんだ!と怒鳴りつける。

それから、共同便所の扉を開け、中に入っていた先客を引きずり出すと、自分が入り、風呂湧かせ!二日酔いなんですっきりしないなどと言い出す。

左門は、コレラの流行を危惧し、独自に検査を始めようと、保健所へ走る。

そんな左門の慌てぶりを見たつる代は、左門さんどうしたの?と不思議がる。

一方、寅造は、松吉に湧かせた朝風呂に入り、水虫を掻いていた。

そうした虎吉を何とか長屋から追い出そうとしていた定吉は源三郎に、イエスかノーか!お前、行って来い!と山下将軍のようなことを言っていた。

結局、くじ引きでと言うことになり、貧乏くじを引いた石川が1人で虎吉の元へ行くことになる。

馬さんの部屋で、風呂上がりに松吉から肩を揉ませていた寅造に、あの~とか、先生…とか、色んな呼び方で声をかけてみた石川だったが、全く返事をしないので、御大!と呼びかけてみたら、ようやく反応がある。

いつまでここに御滞在ですか?とおっかなびっくり聞いてみると、馬の友達の俺に、出て行けと言うのか!と寅造から怒鳴りつけられる。

いいえ!滅相もない!御大のお役に立とうと…などと石川は縮み上がったので、靴を磨いておけ!と命じられてしまう。

その直後、松吉が定吉の所へ来て、隊長!そろそろ帰ろうとしている!と報告したので、喜んで様子を観に行ってみると、もろ肌脱ぎの寅造は、背中に刺青をしていたので、定吉らは又ビビってしまう。

お前たち、金はあるのか?などと寅造が言って来たので、町の互助会の金ならありますと石川が教えると、馬の義兄弟の俺がもらってやる。いくらあるんだ?と言うので、慰安旅行用のバス代も含め5万円ちょっと…と答えると、馬の墓を一つ建ててやりたいんだ。お前たち、長い親戚付き合いしてたんだろ?浄金を出して欲しいなどと寅造は言う。

近くの公園にやって来た定吉、源三郎、石川たちは、寅造の言いなりに互助会の積立金を出すべきかどうか悩み出す。

その頃、医者(左卜全)を連れて戻って来た左門は、馬さんの部屋を出ようとしていた寅造に、医者の診断を受けてくれ。出て行ってもらっては困ります。僕は断固この家屋を封鎖します!と意気込み、入口をつっかい棒で押さえようとする。

しかし、怒った寅造は馬鹿力で入口の横の板壁を突き破り外に出て来ると、長屋用の公衆便所や建物を破壊し始める。

そこに戻って来た石川は、長屋の積立金を全部寅造に渡すことになる。

ところが、金を受け取った寅造は、今見たら、馬の骨はひとかけらもねえから、墓建てられねえな!などと愉快そうに笑う。

そのまま長屋を出て行こうとする寅造に、いくなら俺を殺してから行け!と左門は喚くが、出て行って欲しい定吉たちは、必死に止めようとする左門の身体を押さえつけ、寅造に愛想笑いして出て行ってもらう。

その後、定吉、源三郎、石川の3人は、塹壕の中でガタガタ震えていたのは誰だ!などと、戦時中の互いの弱点を突き合い、けんかを始める。

金をむざむざよそ者に渡して出て行ってもらった責任をなすり合うためだった。

そんな情けない3人を見ながら、長屋のおばさんたちは、うちらの金使いよって、この意気地なしめが!と罵る。

季節は巡り、長屋は1泊2日の秋の温泉旅行の日がやって来る。

温泉旅行のバスガイドを務めるつる代は、赤ん坊の邦夫を左門に託して出発する。

途中、休憩所に到着した所で、公衆トイレに向かった定吉ら3人だったが、何故か入った途端に全員バスに逃げ込んで来る。

バスの客席に身を臥せて、フロントガラスから公衆トイレを怖々見ていると、出て来たのはあの寅造だった。

他の長屋の面々も、寅造に気づかれまいと身を伏せ、定吉は運転手に早く出してくれと頼むが、つるちゃんがまだだ!と松吉が叫ぶ。

周囲を見回すと、なんと、つる代が寅造と親しそうに話しているではないか。

そのつる代がバスに戻って来ると、それを見送っていた寅造が、中に乗っている長屋の連中に気づいたようで、おい!俺だよ!と懐かしそうに乗車口にやって来たので、定吉は、轢き殺せ!と運転手に命じ、何とかドアを開けまいとする。

しかし、閉めようとするドアを無理矢理こじ開け乗り込んで来た寅造は、馬の友達の御大だ!と愉快そうに定吉らに話しかけ、勝手に助手席に座り込み、一行と同行することになる。

宿の夕食時は、酒を飲んで、長屋にいた時のことを1人面白おかしくしゃべり続け、寅造は上機嫌だった。

一方、女風呂の着替え場では、つる代が長屋の他のおばさんたちから、あの寅造は、うちらから金をふんだくって行った奴だと聞かされて驚いていた。

つる代は、全くそうした事情を知らなかったからだ。

うち、悪いことしたな~と、つる代は反省する。

その頃、寅造はと言えば、男湯の前で他の客たち相手に大げんかしていた。

明くる日、バスは宿を出発する。

川下りの船の中でも、虎吉は酔って上機嫌だった。

バス旅行を終え、長屋の連中が帰って来たので、横路巡査が出迎える。

つる代は、家で寝ていた邦夫に添い寝してやる。

そんな中、寅造は、大阪で降ろせって言ったじゃないか!と喚きながら長屋まで付いて来ていた。

定吉の家にやって来た寅造は、親父!お前の家か?と言いながら中を覗き込むと、つる代がいたので、何を思ったのか、ノン太!しばらくここにいるからよ、風呂湧かせ!等と言い出す。

翌朝、馬の部屋から起きて来た寅造は、共同洗面所の所で歯を磨いていた左門のメガネを取り上げると、逆さまに自分でかけ、まだいたのかチビ!気取りやがって!と左門を罵倒する。

そこにつる代が近づいて来るが、左門をいたぶっている寅造のことは無視をしたので、寅造は関心を惹きたいのか、井戸の屋根を揺すってみせたりする。

そこにやって来た定吉が、競艇の開催日ですなどと寅造に愛想を言って来たので、定吉が元金を出し、観に行くことにする。

寅造は、つる代の年が25と聞いたので、2-5で行こう!と松吉に券を買わせるが、勝ちそうにもないので6-3を買ったと源三郎や定吉に報告に来る。

ところが、結果は、寅造の予想通り2-5が来て高配当だったので、寅造は大喜びするが、松吉が別の券を買ってしまっていた事を知ると、怒って、松吉を海に落とそうとする。

そのことを、帰って来て横路巡査に報告し、寅造を捕まえてくれと定吉らは頼むが、聞いていた横路巡査は、あんたらが詐欺だ。ノミ行為に当たるから、あんたらを逮捕せにゃならんなどと言う。

金を出したのは俺たちなんだからと定吉は反論するが、警察は民事不介入だなとと言い、横路巡査は帰ってしまう。

いつも虎吉に頭が上がらない定吉らの話を聞いたつる代は、問題はおじさんたちの勇気じゃないの?おじさんたちが白菊会のお金を渡したのよと説教すると、3万円くらい安いもんだなどと定吉は言い訳する。

そして、源三郎と石川と定吉で話し合い、3万円を寅造に叩き付けて出て行け!とみんなで言いに行くことにする。

しかし、馬の部屋の前に来てみると、寅造が、今うな重を注文したから…と言い、持って来た金を、出前に払わせると、お前らの分も取ったから喰え!などと言うので気勢をそがれ、結局、部屋の隅に上がり込んでうな重を食べるはめになる。

その頃、つる代の雑貨屋にやって来たチンピラは、旦那から預かって来たもんじゃと手紙を渡すが、つる代はその場で破り捨てる。

そこに松吉がやって来て、御大がつるに会いたい、おっしゃるんじゃと言うので、今、左門さんとこにいる!どうしても飲みたいなら父さんに頼みなさいと言って!と断る。

その答えを戻って来た松吉から聞いた寅造は逆上し、身ぐるみ剥いでやるぞ!と言って来い!と松吉に怒鳴りつける。

それを聞いた石川は、強姦すると言うとる!逃げて!とつる代に忠告に来るが、つる代は逃げるどころか、自分から寅造の部屋に向かうと、その場にいた父親と兵長のいる前で、うちはこのバカ男と決着をつけに来たんや。うちはバカにされて引っ込んどる女やないんよ!殺されても構わせん!裸にする言うたね?やりなさいよ!そうなったら父ちゃんも目が覚めるやろ!ぶらぶらしとるの叩き直したいんじゃ!と自ら服の胸元を開いて寅造に迫る。

そして、外に出たつる代は、騒ぎを聞きつけ出て来た左門に抱きつく。

部屋の中では、定吉が、御大、勘弁してやってくれ!ヒスだから!と寅造に詫びていた。

仇を取ってやる!と言い出した左門は、勝負しろ!表に出ろ!などと部屋の中の寅造に呼びかけながら、持って来た生卵をぶつける。

左門さん!止めろ!殺されるぞ!と石川は止めようとするが、左門は、寅造がいる部屋の向いにある物置小屋の中に入ると、そこの入口にスコップを歯の方を前にして縦に並べ始める。

そこに、何も知らない松吉がやって来て左門を止めようとするが、スコップの刃の部分を踏んでしまい、起き上がった柄の部分で顔を強打する。

それが左門の作戦だったのだ。

そこにやって来たチンピラも面白がって、左門を手伝い始める。

一方、挑発されて興奮した寅造は、一升瓶の酒を一気飲みし始める。

そして、ふらつきながら左門の待つ物置小屋に入ると、作戦通り、スコップを踏みつけてしまい、起き上がった柄の部分で顔を強打する。

小屋の外に倒れ込んだので、左門は様子を見に近づくが、その足に寅造はしがみついて来る。

左門を救おうと駆けつけたつる代は、寅造の後頭部を殴りつける。

外に出て来た定吉たちも、弱っている寅造を観ると、今がチャンスとばかり、みんなでよってたかって、寅造を踏んだり蹴ったりの袋叩きにする。

チンピラも石川も、その集団暴行に加わっており、ひとしきり蹴った後、みんな蜘蛛の子を散らすように寅造から離れると、やった~!とうとう勝った~!などと雄叫びをあげる。

一方、左門を部屋に連れて行ったつる代は、傷の手当をしてやりながら、心臓大丈夫?と案じていた。

外からは、寅造を叩きのめした父親たちが大喜びしている声が聞こえて来る。

左門さん、うちのためにありがとう!とつる代は感謝する。

翌日、チンピラは、拘置所に入っていたつる代の亭主に会いに行くと、早く手切れ金を払って別れた方が良いと言い聞かす。

その夜、左門が自分の部屋で音楽を聴いていると、包帯だらけになった寅造がふらりとやって来て、それは何という曲だ?と聞いて来たので、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」と教えてやる。

ああ、今年は酉年だから、メンドリってのが流行ってるんだななどと寅造は訳の分からないことを言うが、酒はないか?それは何だ?と、部屋にあった瓶を指すので、消毒用のアルコールだと教えると、それでも良い寄越せと言い、受け取った寅造は飲み始める。

そして、あの女、色々事情があるのか?ほら、あの…、つるとかカメとか言った…などと、関心があるのに白々しいことを聞いて来たので、あんたには関係ない!と左門がぴしりと言うと、あの勝負、必ずつけてやるからな!覚えてろ!と言って立上がった寅造は、部屋に置いてあったバナナを勝手に盗んで帰って行く。

外では、赤ん坊と一緒にいたつる代が犬と戯れていたので、寅造は立ち止まり、ついついつる代に見入ってしまう。

左門の方は、通帳を前に計算しながら、全然足りんな…と嘆いていた。

そんな左門の部屋に、ステキな音楽が聞こえて来たもんだから…と言いながらやって来たのはつる代だった。

疲れるけん、お酒飲んでしもうた…と色っぽい目をして左門ににじり寄ったつる代は、お金、お金、いっそのこと、妾にでもなってしもうた方が、まだスッキリするかも知れんな…などと自虐的なことを言い出す。

すると、急に、左門が胸を押さえて苦しみ出したので、驚いたつる代は、側にあった心臓の薬を左門に飲ませてやる。

そんな仲睦まじい2人の姿を、窓の隙間から、チンピラが覗き込み、薄笑いを浮かべていた。

チンピラはその足で寅造の部屋にやって来ると、持って来たアンパンを土産として手渡す。

そして、つる代は保健所の左門ともう出来とると思ったけど、あれはまだだ…と思い出し笑いをする。

亭主はどこにいるんだ?と寅造が聞くと、拘置所だとチンピラは答える。

しょうもない仕事で愚連隊とつるんでヘマやりやがったんやとチンピラは亭主のことを教える。

つる代は籍抜きたくても、亭主がハンコを押さん。鉄工所の主人がつる代を世話すると言うてんのに…と下びた笑いを浮かべて話すチンピラが癇に障ったのか、出て行きやがれ!と寅造は怒鳴りつける。

翌日、簡易裁判所に行った寅造は、亭主を出せ!と、受付にいた守衛に談判するが、ここは裁判所だから…といくら守衛が説明しても帰ろうとしなかった。

左門は、いつものように保険所で働いていたが、バスが前の停留所に来たので、つる代に微笑みかけるが、何故かつる代は、いつものように微笑みかけて来ず、左門と目を合わさないままバスは行ってしまう。

その直後、いきなりやって来たのが寅造で、話があるというので、近くの丘に連れて行く。

つる代とのことを聞かれたので、30万あるとつるちゃんは離婚できるので、お金をくれる人がいたら妾になっても良いなどと言って、あの晩、つるちゃんはさめざめと泣きました…と左門は教える。

寅造と左門が話をしている様子を、近くから双眼鏡で観察していたのは定吉たちだった。

労災なら20万もらえるんだ。俺の友達にタコって言うのがいて、銭に困ると、次々に自分の指を切って労災をもらっちゃ、酒を飲んでいた。

最後にゃ自分の球を潰して刑務所行きだ…と寅造が話しだす。

そのバカに俺がなろうって言うのさ。手内と飯喰えねえ、足がないと歩けねえ、金玉ないと子孫を残せねえだろ?

だからこの頭よ。俺の頭は特別製で、どんな高い所から落ちても大丈夫なんだと言うや否や、崖から身を投げてしまう。

驚いた左門が下を見下ろすと、ムクリと地面から起き上がった寅造が、銭を作った方が勝ちよと言うと、近くを通っていたトロッコに勝手に乗むと、近くでビルを作っていた建築現場へ行けと操縦者に命じる。

俺はその道じゃ専門家よ!お前が落ちる時は肥だめにしろ!ウンが付くってな!と去って行く寅造は、丘の上にいた左門に笑いながら声をかけていく。

夜、部屋で夕食を食べていた左門は、お相手をしていたつる代に、今日、ゴリラと会って何を話したと思う?と話していた。

(夢)翌日、1人工事現場の鉄骨の上に上った左門は、あいつならきっとやる。俺は愛するもののために何をしたんだ?飛べ!左門!愛するつるのためだ!と心の中で自分に命じ、目を閉じて飛び降りる。

それに気づいたのが、その現場で働き始め、下を通りかかった寅造だった。

寅造は落ちて来た左門をしっかり受け止めるが、左門の首が取れて転がってしまう。

左門さん!とバスガイド姿のつる代が駆け寄って来て嘆く…

(現実)夜中の12時25分、悪夢にうなされ目覚めた左門は、動機を押さえるために心臓の薬を飲むのだった。

長屋の外では、ヘルメットをかぶった寅造が、電信柱に頭をぶつけて稽古をしていた。

翌日、工事現場で働いていた寅造は、建設中のビルの鉄骨の上を歩いていた。

ちょっと足を滑らせるだけだよな…などと自分に言い聞かせていたが、その時、君!と呼びかけながら、下にやって来たのは左門だった。

そんな左門の姿を見た寅造は、さあ行くぜ!と声をかけたので、危ない!止めろ!と左門は止める。

しかし、寅造は自信があるのか、いけねえ!足が滑った!とおどけて言うと、そのまま飛び降りてしまう。

左門は、その身体を下で受け止めようとするが、下敷きになってしまう。

左門がクッション役になったので、怪我一つせず立上がった寅造は、押しつぶされて意識がない左門を肩に担いで病院へ駆け込む。

しかし、以前、コレラ騒ぎの時、会ったことがある医者は、もう死んどるよ。心臓が壊れて良い頃じゃ…と言う。

その夜、保健所の署長が、左門の遺体を安置して通夜をやっていた長屋のつる代の部屋にやって来る。

そうした中、左門さんは、ただ死んだのとは違う!殺されたんだよ!ノン太!今度こそ、捕まえられるだろう?と寅造のことを横路巡査に聞いていた。

しかし、誤って落ちたことになっている寅造を逮捕することは出来なかった。

定吉はじれったさそうに、つる代はどうなるんだよ!と横路巡査に詰め寄る。

そこへ泥酔してやって来たのが寅造だった。

乱暴者が来たので、その場に来ていた定吉たちは逃げ出そうとするが、動くんじゃねえ!お前ら俺を人殺しって言ったな?と怒鳴りつける。

俺はこいつを殺す気はなかった!と寅造は弁解するが、棺の横で泣いていたつる代は、あんたが殺したも同じよ!と睨みつける。

すると、いきなり棺桶のふたを開けた寅造は、起きろ!と左門の死体に呼びかけると、側に置いてあった左門愛用のトランジスタラジオが鳴らし、「真夏の夜の夢」が部屋に鳴り響く。

お前の好きなメンドリだ!と言いながら、左門の頬を叩く寅造は、心臓が悪くて飲めない?と言いながら、自分で持っていた一升瓶を口にする。

見所のある奴が芯で、こんなクズばかりが生きやがって!と寅造は定吉たちを睨みつける。

ちょっと待って!とつる代が止めるのも聞かず、これから踊りやるから良く見ていろ!と全員に告げると、いきなり棺桶の中の左門を抱き上げ、「真夏の夜の夢」に合わせ、操り人形の要領で踊らせ始める。

死体の踊りに弔問客は全員凍り付くが、そんな中、定吉は、寅造に踊らされているはずの左門の足が、ちゃんと床について動いていることに気づく。

その内、御大、足踏んじゃ痛いよと左門が文句を言い出す。

しかし、酔った寅造はそのことに気づかず、文句言いやがると井戸の中に放り込むぞ!と怒るが、左門は、音楽終わったよと言うではないか。

しかし、そんな左門に、死人のくせにつべこべ言いやがってと悪態をつきながら、寅造は無理矢理、元の棺桶の中に詰め込もうとする。

蓋を閉めると、その上に座った寅造は、中からノックの音がするので、コンコンだってよと笑う。

しかし、次の瞬間、待てよ?俺は今日、悪い酒飲んだかな?と首をひねる。

俺はもうウジ虫のような暮らしは飽きた。次はアラスカの女を抱きに行こうかな?と言うと、そのまま部屋を出て帰ろうとする。

そこに、チンピラがやって来たので、虎吉は無言でチンピラを抱き上げると、井戸の中に突き落として行く。

棺桶の中から起き上がった左門は、つるちゃん!と呼びかける。

つる代は信じられないというように、生きてたのね!生き返ったのね!良かった!と言うと、左門に抱きつく。

弔問に訪れていた長屋のおばちゃんたちももらい泣きする。

そんな長屋を後に、寅造は、発射オーライ♪と歌を歌いながら、夜道を帰って行く。

今日は、我が生涯最良の日になる!今日、つる代に結婚を申し込むんだ!

ある日の昼休み、つる代と丘に来ていた左門は、心の中でそう叫んでいた。

しかし、なかなか切り出せないまま時間は過ぎ、つる代は、そろそろ会社に帰らなくちゃ…、わざわざこんな所に呼びだしたのは、何か話があったんじゃないの?と聞く。

それ、結婚の話じゃないの?とつる代の方が気を廻して言ってしまったので、言われちゃったじゃないか!と左門は心の中で自分を叱る。

そうでしょう?とつる代は期待するように聞くので、うん…、まあ…と左門が曖昧な返事をすると、うち、まだ、籍入ったままだよとつる代は答える。

僕はそんなこと構わない!と左門が言うと、嬉しいけど…とつる代が口ごもったので、他に好きな人でも?と左門は慌てるが、違うの、そんな人いないの。でも巧くいくかな〜…、うちが左門さんと結婚して、本当に左門さん、幸せになれるかどうか…、うちも幸せになれるかどうか…?とつる代は不安を打ち明ける。

そんな2人の様子を、又、双眼鏡で、赤ん坊を背負った定吉たちが近くから覗いて観察していた。

つる代が俺に求めているのは男らしさだ!ゴリラを思い出し、抱きしめるのだ!と心で叫んだ左門は、いきなり立上がると、つるちゃん!と呼びかけながら、側に立っていたつる代に近づこうとするが、肥だめに落ちてしまう。

驚いたつる代が、左門さん!と叫び駆け寄ろうとし、双眼鏡で観察していた定吉たちも走って来るが、肥だめから何とか脱出した左門が、バツが悪くて逃げ出そうとすると、又別の肥だめに落ちてしまったので、もういや!とつる代は絶望したように叫ぶ。

さらばつる代よ…

その夜、面目を失い、もはや長屋に身の置き所がなくなった左門は、こっそり夜逃げをする。

隊長、兵曹長、五右衛門、ノン太…、心貧しきものたちに幸いあれか…と左門は心の中で、長屋の連中に別れを告げる。

長屋に夏が訪れ、雑貨屋のつる代は、店先でかき氷を作っていた。

そんなつる代に、左門さん、どげんしとるかいの〜…と定吉が思い出すように話しかける。

つる代は今でも、机の中に、左門の置き手紙を仕舞っていることを知っているからだった。

造成地に放置されたバスの廃車

その中で、ホームレスのように様変わりした左門が寝ていた。

座席の上で目覚めた左門は、バスの天井に、つる代の幻影を思い浮かべる。

その時、突然、乗っていたバスが横倒しになる。

工事人がブルドーザーで側面を押していたのだった。

横倒しになった廃車の背後から、埃まみれになって出て来た左門を見て、危ねえじゃねえか!このコ○キ!ぶっ殺すぞ!とブルドーザーから怒鳴って来たのは寅造だった。

次の瞬間、てめえ、左門じゃねえか!生きてたのか!しばらくだったな〜と呼びかけながら近づいて来た寅造は、で、あの後家とは巧くいってるのか?と聞いて来る。

左門が無言でいると、振られたのか!お前にゃ、あれは無理だ!とバカにする寅造だったが、左門の様子が変なので、どうした?と聞くと、堪忍袋の緒が切れた左門は、やかましい!やい、ゴリラ!キングコングの弟!風船ゴジラ!てめえなんか死んじまえ!と罵倒してくる。

それを聞いた寅造は、どこか嬉しそうにかかって来い!と言うと、その場で取っ組み合いのけんかを始める。

左門は、白い粉を寅造に振りまいて抵抗すると、廃車の中に逃げ込む。

寅造もその中に入り込むと、中で大暴れ始めたのか、バスのガラスのない窓から次々と白い粉が吹き出してくるのだった。


 

 

inserted by FC2 system