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県警対組織暴力

ヤクザ役で人気を得ていた菅原文太らを逆に刑事に配し、暴力団と一心同体のようになってしまった地方警察の腐敗振りを描いた作品。

山城新伍や梅宮辰夫らまで、まじめな刑事役を演じているのが面白いが、顔つきが穏やかな梅宮辰夫などは、見た目的にはむしろ、こうした刑事役の方が似合っているようにも見える。

温厚そうな佐野浅夫が悪徳刑事を演じているのも興味深いし、ムショ暮らしの果てに、すっかり毒気が失われてしまった親分を演じる遠藤太津朗や、その世話をかいがいしくする世話女房のような田中邦衛など、笑えるキャラクターが豊富。

川谷拓三が取調室の中で素っ裸にされ、暴行を受けるシーンが有名だが、一見、奇をてらっただけに思えるキャスティングも、観ているうちに、これはこれで説得力があるように感じられるし、クセの強いキャラクターたちの面白さ、筋立ての面白さなどが相まって、ぐいぐい内容に惹き付けられる魅力がある。

刑事とヤクザの間柄なのに、互いに惚れ込む男を演じる菅原文太と松方弘樹の鬼気迫る演技合戦が見物。

脂が乗った時期の深作監督の冴え渡った演出力もあるのだろうが、さすがに、この当時の2人の芝居は凄いと言うしかない。

ヤクザものが苦手な人にも、納得できる秀作ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1975年、東映、笠原和夫脚本、深作欣二監督作品。

この物語は、西日本の各地で取材したものを元にしているが、登場する人名、組織名などは全てフィクションである…といった断り書き

昭和38年 倉島市

街角のある屋台の横に車で乗り付けたチンピラが降りて来て、寿司2人前や!と注文すると、駕篭に入っていた卵を持てるだけつかみ取り、ゼニは事務所の方でもろうてくれ!などと言いながら車に戻るので、屋台の主人は、ええ!と困った声を出す。

その横の屋台の前で、昼間からコップ酒を飲んでいた男が立ち上がり、広谷の所に行くんやろ?殴り込みか?等と言いながら、車に乗り込もうとしていた工員姿のチンピラたちを脅し付け、全員降ろして、車の前に整列させる。

チンピラの1人が持っていたライターを取り上げて、煙草に火を点けた久能徳松(菅原文太)刑事は、ダンヒルか?ええもん持っちょるな?と言うと、お前らみたいな雑魚捕まえても税金の無駄じゃ!やって来い!死んで来い!とチンピラたちに呼びかけると、今食うた分だけ払うて行けよ、無銭飲食はあかん!と言い聞かしたので、チンピタが素直に財布から金を出そうとすると、わしも分も言うとるんや!と脅した久能刑事は、早う、殴り込み行って来い!と怒鳴りつける。

チンピラたちはビビって全員車に乗り込むが、ライターを取られたチンピラだけが返してもらうととおずおずと声をかけると、今から死ぬもんがいるか?わしが預かっといてやる!と久能が睨むと、何も言い返せずにそのまま乗り込み、車を出すしかなかった。

タイトル

昭和31年1月 大原組結成

昭和32年 大原組分別し、三宅組結成

昭和32年 三宅組長殺される

昭和33年 大原組長逮捕 抗争終わる

昭和35年 三宅派友安政市(金子信雄)が市長に当選

昭和35年 新興の川手組と大原組の抗争が始まる

ヘルメット姿で、「桜祭り」開催中のキャバレー「オーシャン」前に車で乗り付けたチンピラたち。

ボックス席に来ていた市長の友安が、久保直登(小松方正)らと製油所の整地の事と会談をしている所へやって来たのは、店の支配人川手勝美(成田三樹夫)だった。

川手は、友安市長に、新しい麻理子(池玲子)と言うホステスを紹介する。

麻理子が市長に踊りませんかと誘うと、友安は、自分はハワイの生まれだからフラダンスくらいしか出来んなどと笑う。

そんな「オーシャン」のフロアになだれ込んで来た工員姿の2人が、お前は「珊瑚」にいた麻理子じゃないか?と言いながら、連れて行こうとしたので、川手はボディガードを呼ぼうとするが、そこにヘルメット姿の一団が乱入して来たので、フロアはたちまち乱闘騒ぎとなる。

すぐに、パトカーが駆けつけて来るが、店の外に出ていた友安は、何を思ったか、警官が降りたパトカーの運転席に勝手に乗り込み、そのままパトカーを走らせて逃げ去ってしまう。

翌日、久能刑事らは、キャバレー「オーシャン」の事務所のガサ入れに来る。

襲って来た清田組の名は分かってますと訴える川手と会った久能は、札が出とるんじゃ…と捜査令状を拡げて見せたので、被害者が何でガサ入れ受けなきゃいかんのや!と文句を言う。

ここは神明会の筋を引いとるな?大阪府警からカードが来とるんじゃと久能が言うと、松井卓(川谷拓三)と言うチンピラが、どうせ広谷のガキから袖の下取っとるんやろ?裁判出てもええんやで…と因縁を付けて来る。

その後の刑事部屋

刑事課長の名札が置いてある席の電話が鳴ったので、受話器を取ると、相手は友安市長で、夕べの騒ぎは広谷がやっちょる。パトカーは借りとったんや。その内、芸者を世話するけん、許してつかあさいなどと言って来る。

受話器で聞いていたのは、たまたま席に座っていた広谷賢次(松方弘樹)だったで、わしゃ広谷賢次ちゅうもんで、あんたはんは女子の腐ったような人じゃの?早う、わしをぶち込め言うちょるんよと笑いながら答える。

暴力団もアカに比べりゃ可愛いもんじゃなどと、いつも口癖のようにアカ嫌いの塩田忠二郎(汐路章)など変わり者が揃っている刑事部屋に、久能と吉浦勇作(佐野浅夫)が戻って来る。

そこに、庄司悟(奈辺悟)と言うチンピラを連れた広谷がやって来て、夕べの騒ぎは、このバカが麻理子を取り戻すために勝手にやったそうじゃから、自首させに来たと説明する。

しかし、池田刑事課長(藤岡重慶)は、わいがやらしたんやろが!と広谷を睨みつける。

そんな池田に、昔の飲み屋の事件のことも話さんといかんようになるので…と久能がなだめると、池田は不機嫌そうに、責任は君が取れよと答える。

久能は廊下に広谷を連れ出し2人だけになると、お前は大原の二代目になるんじゃろ?川手の事はわしに任せとけと説得する。

広谷は、川手が引き抜いた麻理子がどこに行ったか知れベてくれんね?一辺、しゃぶらせてみたいんや…と自分の股間を擦りながら久能に頼む。

倉島警察署を出た広谷は自動車に乗り込むが、待ち伏せしていた大原組の連中が乗った車に気づくと、自ら相手の車にぶつかり、愉快そうに笑う。

取調室で吉浦刑事に年を聞かれた悟は22と答えるが、カードには19となっとるぞ!と言いながら、お母さんはどうしとるん?達者で暮らしとるんか?心配させたらいけんと泣き落としにかかる。

思わず立上がった悟は、頭に頼まれて…と口を割りかけたので、そこにやって来た久能が、ヤカンから茶を注いでやり飲まそうとするが、悟は恐怖のあまり失禁してズボンを濡らしている事に気づく。

ちびっとるんか?カッコ付け損ないやがって…、おまえなんか市役所の戸籍係でもなっとった方が良いんじゃ…と久能は呆れる。

悟が使い物にならないので、広谷の元に返しに行った久能は、もっとしゃんとしたのを出さんと…と忠告する。

広谷は、何のために遊んで飯食うとんのじゃ!と怒鳴りながら悟を殴りつけると、この中でしゃんとしたのは誰や?と事務所内の人間を久能に見せる。

久能は、1人の男に目を付け、沖本言うたの?と声をかける。

名指しされた沖本九一(曽根晴美)は緊張するが、広谷は麻理子に、沖本の自首前の世話を命じる。

久能は広谷に、麻理子はここに移っとる…と、居所をかいたメモを渡す。

友安と言うのは何なんだ?川手を可愛がっとる…と久能が聞いていると、そこに当の友安がやって来て、こいつはこんまい頃から知っとるが、今じゃ、大原組の若衆頭なんじゃなどと広谷の事を久能に教え、電話の件は気にせんといてくれとちゃっかり広谷にも言い聞かす。

川手は、可哀想思うて拾ったんやと説明する友安だったが、広谷は、あんたはうちに弓引いた人やから、クズやと思うとるんや…、事故には気をつけて下せえや!と友安に言うと、部屋を出て行く。

友安は久能に、あんたからも、良う言うて聞かせてくれと広谷の事を頼む。

その後、広谷は自分の所で経営しているラブホテルで女を抱いていた。

事が終わり、部屋を出ると、向いの部屋から女と出て来たのは吉浦刑事だった。

広谷は、勘定はええですけえと苦笑して吉浦を送り出し、相手の女は人妻だと子分から聞くと、昔から助平なのは医者と坊主と警察官言うからな…と笑う。

ある日、「オーシャン」の事務所を訪れた久能は、そこに来ていた友安に河本靖男(山城新伍)と言う刑事を紹介する。

そして、松井を恐喝容疑で引っ張って行く。

取調室に連れて来た松井に、こりゃ松井、わりゃこの前、気の利いた事抜かしよったの?わしら誰からかすり貰うとるんや?言うてみいや、もういっぺん…と言うと、何でワイをここへ呼んだんや?調べたい事あるんやろが!と松井が粋がるので、いきなり殴りつけると、一生刑務所にぶち込んだろか!などと脅しながら、殴る蹴るの暴行を働く。鉄柵の嵌った窓に松井がぶつかると、今窓から逃げようとしたな?と因縁を付け、河本と2人で、松井の服を全部はぎ取り、素っ裸にしてさらにボコボコにする。

お前がこないなっとるのに、組は何してくれる?弁当一つ入れてくれんじゃないか?弁護士も金かかるの?などと久能は松井に言い聞かせる。

その後、川手が弁護士を寄越しても、金がないから国選にしたい言うとりますと、応対した久能が勝手に言って引き取らせる。

松井の女房が来ると、松井と女房を便所に連れて行き、大便所の戸を開けて、そこで抱き合わせる。

その時、池田刑事課長が小便をしに来たので、外で付き添っていた久能も小便を振りをしてごまかすが、大便所の中から喘ぎ声が聞こえて来たので、池田は怪訝そうにしながらも黙って出て行く。

久能は戸をノックし、もっと品良うやらんか!と中の2人に注意する。

その後、広谷と山陽工業の跡地にやって来た久能は、松井が全部、歌うてくれた。山陽工業が潰れた跡地に日光石油が目を付けて、石油タンク作ろうとしているそうじゃ。川手の「オーシャン」ダミーにして3000万を担保にするらしい…と教える。

この場所は5万坪はあるから、坪5000円としても2億5000万…、番小屋でも作れば地上権も加わって3億になる…と広谷も計算する。

お前は川手を脅せば良い。その後は仕掛けがある…と久能は教える。

そして、連れて来た警官を呼び寄せると、こいつが付き合っていた「ハレム」の女から手切れ金を寄越せと脅かされているんやと久能は広谷に教える。

いくらや?と広谷が聞くと、50万出せ言われとるが、そんな金はない!と警官が答えると、この女の亭主がケツ叩いてるんやと久能が教えると、何ちゅう船だ?と広谷は聞いて来る。

その後、その船から降りて来た船員夫婦を車で待ち受けていた大原組の舎弟たちは、2人を拉致して組に連れて来ると、美人局やったら承知せんぞ!と脅しながら拷問を加える。

川手に強制されてやっとるんじゃないのか?全部しゃべったら、力になってやると広谷は船員に話しかける。

その夜、芸者遊びをしていた川手は、電話を受け、売春騒ぎで手入れがあったと聞き驚く。

この騒ぎで「オーシャン」に批判が集中する中、山陽工業の跡地は大原組が仮登記をすませてしまう。

ゴルフ場の応接室で、川手は友安市長に、その事を忌々しそうに報告する。

しかし、友安は、その席に県会議員で県警に詳しい菊地東馬(安部徹)を招いていた。

菊地は、田舎警察には県警を導入すれば良いが、きっかけが…と笑いながら言う。

そんなある日、大原組の事務所に卓を返しに来た河本刑事に、驚いたように、やっちゃん!と呼びかけて来たのは、大原組の柄原進吾(室田日出男)だった。

2人は中学時代の友達だったのだ。

今何やっとるんじゃ?と塚原から聞かれた河本は、二課のデカじゃと正直に答える。

その夜、河本、久能、吉浦は、広谷や塚原と一緒に飲むことになる。

ポリも極道も変わらん!と広谷が言う。

何で警察に入ったん?とホステスに聞かれた久能は、ピストル持ちたかったんや…、終戦後、闇米買いに行ったら、全部没収されたんや。それで、どうせなら没収する側になったろう思うてな…と答える。

吉浦も、わいら下っ端は昇進せん。大学出のヒヨッ子に顎でこき使われとる…と愚痴るので、あんたらみんなに1軒ずつ店持たせてやる!と広谷は言い出す。

すっかり上機嫌になりバーを出た河本は、近づいて来たパトカーを停め、塚原らを乗せると、タクシー代わりに送って行く。

一方、広谷は泥酔した久能を、徳さんと呼びかけながらアパートまで送って行く。

部屋に倒れ込むように横になった久能は、6年前、お前が三宅ぶち殺した時、この部屋に自首してきよったな…と呟く。

(回想)雨の晩、久能の部屋を訪ねて来た広谷は、凶器の銃を黙って差し出す。

(回想明け)あの時の茶漬の味は今でも忘れんよ…と、立っていた広谷は答える。

(回想)久能の部屋で出された茶漬をかき込んだ広谷は、喰い終わった茶碗を1人黙々と台所で洗い出す。

その間、署に電話をしようとしていた久能は、手を止める。

(回想明け)お前が茶碗を洗うのを観ていると、こいつに15から20年食らわしても、誰が徳するんやと思うたんや…と久能は答える。

三宅組長射殺事件は、結局、未解決のまま終わった。

男になれ!大原の二代目になって、男になれ!と久能は広谷に言う。

立ってままその言葉を聞いていた広谷は、部屋の中に置いてあった、久能の妻と子の写真が入った写真立てをじっと見つめる。

アパートから出て来た広谷は、一緒に付いて来た麻理子に、われ、今日からあの男の面倒見てやれ!言う事聞かんと、ケツの穴に焼け火ばし突っ込んだるど!と脅して、久能の部屋に行かせる。

一方、塚原がタクシー代わりに乗っていたパトカーは、狭い道でトラックと遭遇、道を譲れ、譲らないと喧嘩になっていた。

ポリのくせに喧嘩売るのか!とトラックの運転手が警官を襲い始めたので、パトカーを降りて来た塚原は、ドスでトラックの運転手の背中を刺してしまう。

トラック運転手は入院するが、それを知った川手は、いてこましたれ!と子分らに命じる。

かくして、川手一派と大原組の抗争が激化する。

チャリで逃走しようとする相手を、同じく、チャリで追ったヤクザが、相手を捕まえ、ドスで首を切断すると言う残虐な仕打ちも行われ、警察の無力さを嘆く論調が新聞に載る。

警察署では、ネズミを捕らん猫はいらん!と池田刑事課長が怒鳴り、誰かを引っ張るだけではあかん!アカ引っ括らんと良うならん!と塩田がいつも通り喚いていた。

そんな「倉島地区暴力犯罪取締本部」の班長として県警からやって来たのが、柔道4段の猛者でエリート警部補海田昭一(梅宮辰夫)だった。

海田は、3つの事を守ってもらいたい。1つ、法に従う事。2つ、組織に忠実である事。3つ、暴力団との私的な交際を絶つ事!と署員たちに言い渡す。

広谷賢次に関して説明してくれと名指しされた久能は、畑は自分で耕せと言います。直接会われて聞かれたらどうです?今日は、大原組の組長も出所して帰ってくる日ですけん…と答える。

組長大原武男(遠藤太津朗)は、ムショで知り合ったと言う小宮金八(田中邦衛)なる渡世人を引き連れて大原組に帰ってくる。

ちゃっかり友安も会いに来ており、大原と抱き合ったりしてみせる。

ところが、組に戻って来た大原はずっと仏壇を拝み始め、組員が呼びに来ても動こうとしない。

その間、ずっと小宮が背後に付き添っており、親分は毎日1時間は勤行するので、その間は口を聞かないでくれと言い、読経している大原の首筋の汗などを手ぬぐいで拭いてやったりしている。

広谷はそんな大原の変化を怪しむが、柄原が言うには、どうやら小宮と言うのは、親分が中で連れていたらしいアンコらしいと言うので、あんな男と!と驚く。

そこに、頭!事務所にポリが!と子分が呼びに来る。

行ってみると、来ていたのは初顔の海田だった。

取締本部の海田だと名乗って来たので、取り締まられる方の広谷じゃ!とふて腐れたように答えたので、洒落た口聞くじゃないか?たっぷり締め上げてやるから、首洗って待ってろ!と海田は告げる。

帰りかけた海田に、やれるもんならやってみいや!と広谷は怒鳴り返す。

しかし、海田の方も、貴様の味方はもうおらんぞと言い返す。

その夜の慰労会に出席した海田は、河本君や一部の連中の事に付いて色んな噂を聞いた…などと、部下の前で説教し始める。

そこに、広谷から酒が届いたので、吉浦たちは只酒が飲めると喜ぶが、ヤクザの酒なんかいらん!と言い出した海田は、届けられた一升瓶を全部、庭石にぶつけて割ってしまう。

そして、バーで付け回ししているものもいるらしいが、今後改めないものは監察官に知らせるとまで言い出したので、さすがにかちんと来た吉浦が反抗的なことを言うと、僕の班から外れてくれ。人妻と密通するのも二課の担当かね?と海田は睨みつける。

吉浦はますます逆上し、上司である海田を殴りつける。

すると、海田は、やるんなら正々堂々と来たまえ!と言い放つと、上着を脱ぎ、隣の座敷に吉浦を呼び寄せる。

周囲から止められた吉浦だったが、もう止めるに止められず、海田と柔道で勝負をすることになるが、みんなの観ているまで完膚なきまでに投げ飛ばされ続ける。

結局、吉浦は退職することになる。

家族の面倒は池田が持つことになる。

浦さん、辛抱できんの?と久能は慰留するが、どう頑張っても部長止まりやけんの…と荷物をまとめていた吉浦は答える。

そんな所にやって来たのが、久能の別居中の妻玲子(中原早苗)で、いきなりハンコ下さいと言いながら、離婚届を久能に渡す。

正夫は?と聞くと、幼稚園行ってます。今のままでは夫婦生活が成り立ってないやないの!ハンコ押してくれないなら、家裁に行きます!とれい子は喚き立てるので、場所柄を考えろ!家裁なりどこなと行け!と久能は怒鳴り返す。

ヤクザもんに良いように利用されとるやない。こんな人、留置場に入れてやって下さい!と玲子は癇癪を起こしていたが、そんな2人の様子を、海田は黙って観ていた。

その日、アパートに帰った久能は、何で別居したの?と世話をしてくれるようになった麻理子から聞かれると、向うが逃げたんや。土建屋の若いのと出来て…、わしが警部補試験を諦めたと言うた辺りから、あいつの態度が変わってしもうた…と久能は答える。

アメリカ行かん?あんたが私立探偵になって…などと麻理子が言い出すと、私立探偵か…良いな…などと久能は呟く。

その時、電話がかかって来たので出ると、相手は広谷だった。

何の用や?と聞くと、何の用やて?ここに来てみい!朝っぱらからガサ入れやがって!と広谷は怒っていた。

知らんど、わしは!と久能も驚くが、大したもんは出んが、親爺が出て来たばかりでこんな事されたんじゃ、わしの顔が立たんよ!と広谷は怒鳴って来る。

大原組では、部屋の中に警察犬としてドーベルマンを連れて来たので文句を言うと、海田は、その場で公務執行妨害で捕まえて行く。

警察署に来た久能は廊下で会った海田に、班長!あんた、わしに教えんかったな!わしがおらん事を確かめてからガサ入れしたんやな!と迫るが、海田は全く動じず、君は広谷の偽装買収の裏を取ってくれと命じる。

その後、バーで出所祝いの花会に参加していた大原組長だったが、その最中に手入れがあり、組長を連行しようとする警察に広谷は、親爺は関係ない!引っ張るならわしを引っ張れ!と抗議する。

その頃、久能は、一旦、しょっぴかれた後、泳がせる事にした大貫と言うチンピラの動静を追っていた。

すると、大貫は「友安商事」と言う会社に入ろうとしたので、階段の途中で捕まえようとするが、その時、事務所からでて来たのは吉浦で、あんたの行為は越権行為じゃないのか?わしは今、ここの顧問でな…と言って来る。

誰がイヌしたか?広谷をチンコロした奴を探しとるんやと久能が打ち明けると、あんたが6年前、広谷を逃がした事バラしても良いのか?わしゃ、売る気はないがな…などと吉浦は逆に脅して来る。

一方、捕まった大原組長は、三浦(鈴木瑞穂)や友安市長、菊地県議から言いくるめられ、謝罪文と共に、大原組を解散、若いものは川手に任せると発表する羽目になる。

これを知った広谷は逆上し、久能に食って掛かるが、誰取りゃ、片がつくんや?賢!辛抱しろ!となだめようとする。

しかし、広谷は納得せず、極道は顔で喰うとるんや!あんた、いつから説教する立場になった!と詰めよるので、6年前の事もバレるんだぞ!と久能は言い聞かす。

それでも広谷は、わしはあんたの番犬じゃないんや!自分は飼い主とでも思っとたんか?ポリはやっぱりポリやな…、あんたにはもう用ない、出て行ってくれ!と久能に言い放つ。

夜、嫌がるユリ(小泉洋子)を連れてアパートにやって来た庄司悟は、ユリが「こんにちわ赤ちゃん」がテレビから流れていた自分の部屋に入ると、その中に大貫が寝転んでいたので、飛び込んで行くと、ドスで大貫を突き刺す。

「こんにちわ赤ちゃん」の明るいメロディが流れる部屋の中で、逃げ出そうとする大貫を悟は何度も突き刺して逃亡する。

倉島署はただちに悟の捜査を開始するが、懐中電灯でとある小屋の中を探していた久能は、大きな駕篭の中に隠れていた悟を発見する。

久能は、悟がライターを差し出して頭を下げている姿を観るとやりきれなくなり、そのまま見逃してしまう。

小屋を出た久能がいないと報告し、他の捜査陣と共に一旦その現場から去りかけた海田だったが、すぐに立ち止まると、もう1度その小屋の方に戻って行く。

署に戻って来た久能の前に、悟を捕まえた海田が戻って来るが、逮捕された悟は、チンコロせんと、手前の手で捕まえてみい!と、その場にいた久能を罵倒して来る。

海田は、何も言わず、用意されていた夜食のカレーの皿を取るが、立上がった久能はいきなり海田のカレー皿を払いのける。

あんたいくつな?と聞いた久能は、31だが?と海田が答えると、戦争が終わった時、上は天皇から下は赤ん坊まで、みんな闇米で生きて来たんや!18年前、自分もどうやって生きて来たか忘れたんか!と問いかける。

しかし海田は動じず、あいつに大貫やらせたんは誰なんじゃ?犯人や広谷を逃がすのが警察か?と逆に問いかけ、君には捜査から外れてもらうと言い渡す。

翌日、友安商事から出て来た吉浦が、大原組の連中に拉致される。

その直後、署に電話がかかって来る。

電話を受けた河本は、班長!広谷からです!と伝える。

すぐに、パトカーが出動、吉浦を人質にして籠城した広谷と子分たちのホテルに駆けつけるが、子分たちは武器を持っており、発砲して来る。

自宅アパートでウィスキーを飲んでいた久能だったが、そこに飛び込んで来た麻理子が、うちの人が籠城したんです。何とかして下さい!と頼みに来る。

その頃、新聞記者たちを呼び寄せた広谷は、わいらが逮捕されるんなら、市長や県会議員も、つるんどる奴全部捕まえんといかんのやないか!と演説をぶっていた。

その記者に化けて潜り込んでいた河本に気づいた塚原は、おとなしゅうせい!と頼む相手を、バカタレ!と言いながらその場で撃つ。

入院した河本の病室にやって来た久能は、駆けつけて来た海田と三浦から、君から何とく説得してくれと頼まれる。

大原組が籠城していたホテルの二階には、催涙弾が撃ち込まれていた。

たまらず下に降りて来た子分たちは、浦のドアが叩かれるのに気づき警戒する。

しかし、それは、久能を連れて来た麻理子だった。

中に入ってきた久能は、広谷がいるのは二階の「紅葉の間」と聞くと、1人上がって行き、縛られて転がされていた吉浦と一緒にいた広谷に飛びかかる。

急襲された広谷は銃を取ろうとしながら、塚原!ひろし!早う来い!と助けを呼ぶ。

しかし、部屋にやって来た子分たちは、行ったらいかんと止めようとする麻理子を押しのけドアを開けると、広谷に銃を突きつけている久能の姿を見つける。

久能は、お前ら、出とれ!こいつが助かるにはそれしかないんじゃ!誰か警察に電話しろや!と呼びかける。

海田が電話に出ると、あんたと取引がしたいんじゃ。広谷は捕まえた。浦さんも無事じゃ。条件を飲んでくれたらそっちに渡すと言い、1つ、川手組みを解散させる事。2つ、広谷の罪は3、4年以内に納めてくれ。3つ、今後一切、わしの事に干渉するな!と伝える。

その電話を横で聞いていた三浦が頷き、海田は、これから上司と相談すると答える。

興奮した広谷は、捕まったら署で全部ぶちまけてやる!と久能との過去の事をちらつかせるが、久能は、往生してくれや…と説得する。

上に吐いた唾が落ちてこんとでも思うとるんか?と広谷は睨んで来る。

そこへ、海田から電話がかかって来て、条件を飲むと言って来る。

それを聞いた久能は、若いもんの事も考えてやれや…と広谷に伝えると、さすがに観念したのか、交換室の電話で塚原を呼びだしてくれと頼む。

電話に出た塚原は、わしも行くけん、聞いてくれやと広谷から言われると、良う、分かりましたけん…と答え、周囲で一緒に聞いていた仲間と共に泣きながら、持っていた銃器をテーブルの上に置いてホテルから出る決意をする。

手錠をかけられ、久能と共にホテルを出ようとした広谷は、徳さん…、花道じゃけん、格好付けさせてくれんかの〜と頼む。

久能が裏切らんと約束出来るな?と問いかけると、わしの目観てくれと真顔で広谷が言うので、黙って広谷の手錠を外してやると、一緒に海田たち捜査陣の側に歩み寄って行く。

賢…、男にさせちゃることも出来んですまんのう…と久能は詫びる。

海田におとなしく身柄を預けられたと思った広谷だったが、次の瞬間、海田が持っていた銃を奪い取ると、捕まえた海田に銃を突きつける。

わしは、わしの旗を振っとるんぞ!と叫ぶ広谷を観た久能は、その場で4発発砲し、広谷を射殺する。

おとなしく先に捕まっていた塚原たち子分は、目の前で広谷が撃たれた事に驚き、暴れだそうとするが、すぐに押さえ込まれる。

広谷の死体に近寄って来た久能に、ありがとうと言いながら、手を差し出して来た海田だったが、それを無視してしゃがみ込んだ久能は、広谷の右手首を握り、脈を確認する。

昭和40年3月

海田は、日光石油に転職、社員たちと一緒に、朝の体操をするようになっていた。

一方、久能は、大橋島の派出所勤務になっていた。

雨の中、雨合羽を着て自転車で出かける久能だったが、その後を付けるように、突然ライトを点けたトラックが動き出した事には気づいていなかった。

車の横転事故の現場にやって来た久能は、付近に誰もいない事を懐中電灯で確認していたが、その時、トンネルの向うから一台のトラックのライトが接近して来たので、停止させようと懐中電灯を振る。

しかし、トラックは一向にスピードを落とそうとしないばかりか、逆に突進して来たので、驚いた久能は身を避けようとするが、次の瞬間、はね飛ばされてしまう。

久能巡査は、事故検分の最中、事故死と報告される。


 

 

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